(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220331BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H01L27/32
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2018064868
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531309(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181705(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104183763(CN,A)
【文献】特開2016-054027(JP,A)
【文献】特開2014-049697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H01L 27/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陰極と発光層と陽極とがこの順に設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層の間に、下記式(a)で示される環構造を含む基と下記式(b)で示される環構造を含む基とを有する化合物を含む層を有
し、
前記層が、酸解離定数pKaが1以上である塩基性の化合物をさらに含み、
前記層と前記陰極との間に金属酸化物層を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(ただし、式(a)中の-*1は、前記化合物中の式(a)で示される環構造を含む基以外の原子と結合する結合子である。式(b)中の-*2は、前記化合物中の式(b)で示される環構造を含む基以外の原子と結合する結合子である。)
【請求項2】
前記層が、還元剤をさらに含む、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含むことを特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含むことを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」とも記す。)素子、表示装置、照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置およびプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。そのため、有機EL素子を用いた表示装置は、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が期待されている。有機EL素子は、照明装置への利用も期待されている。
【0003】
有機EL素子は、陰極と陽極との間に、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の複数の層が積層された構造を有する。有機EL素子の構造は、基板側から陽極、発光層等の複数の層、陰極がこの順に積層される順構造と、基板側から陽極、発光層等の複数の層、陰極がこの順に積層される逆構造とに分けられる。
【0004】
逆構造の有機EL素子としては、有機EL素子を構成する層の一部が無機物からなる有機無機ハイブリッド型の有機EL素子(Hybrid Organic Inorganic LED:HOILED)が報告されている。このハイブリッド型素子では電子注入層に無機酸化物を用いており、アルカリ金属を用いずに電子注入が可能であるため、通常の有機EL素子に比べて酸素及び水分に対する耐性に優れている。
逆構造の有機EL素子では、基板上に発光層を形成する前に電子注入層を形成する。したがって、例えば、スパッタ法を用いて無機酸化物等で電子注入層を形成しても、発光層が損傷を受けることがなく、ハイブリッド型の素子作製に有利である。
【0005】
逆構造の有機EL素子の無機酸化物層は電子注入層として機能するが(例えば、非特許文献1-5参照。)、無機酸化物層は有機層への電子注入性が不充分である。
そのため、無機酸化物層の上に、さらに電子注入層を成膜することにより、有機EL素子の電子注入性を改善する技術がある。例えば、非特許文献6には、高分子電解質からなる電子注入層を有する有機EL素子が記載されている。非特許文献7には、アミンが電子の注入速度の改善に有効であることが記載されている。非特許文献8~11には、電極と有機層との界面における、アミノ基が電子注入に及ぼす効果について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】ウ シク ジェオン(Woo Sik Jeon)外5名「オーガニック エレクトロニクス(Organic Electronics)」、第10巻、2009年、p240-246
【文献】タエ ジン パク(Tae Jin Park)外7名「アプライド フィジクス レターズ(Applied Physics Letters)」、第92巻、2008年、p113308
【文献】ウ シク ジェオン(Woo Sik Jeon)外6名「アプライド フィジクス レターズ(Applied Physics Letters)」、第92巻、2008年、p113311
【文献】ヘンク J.ボリンク(Henk J.Bolink)外3名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、2010年、第22巻、p2198-2201
【文献】ヘンク J.ボリンク(Henk J.Bolink)外2名「ケミストリー オブ マテリアルズ(Chemistry of Materials)」、2009年、第21巻、p439-441
【文献】ヒョサン チョイ(Hyosung Choi)外8名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第23巻、2011年、p2759
【文献】ウィンファ チョウ(Yinhua Zho)外21名「サイエンス(Science)」、第336巻、2012年、p327
【文献】ヨンフーン キム(Young-Hoon Kim)外5名「アドバンスト ファンクショナル マテリアルズ(Advanced Functional Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adfm.201304163
【文献】ステファン フォーフル、外4名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adma.201304666
【文献】ステファン フォーフル、外5名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第26巻、2014年、DOI:10.1002/adma.201400332
【文献】ペン ウェイ、外3名「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Journal of American Chemical Society)」、第132巻、2010年、p8852
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献6~11のような電子注入層を有する逆構造の有機EL素子では、陽極からの正孔の注入に比べて陰極からの電子の注入が遅いため、陽極から注入される正孔により電子注入層界面で材料が劣化し、素子の駆動安定性が乏しくなる。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、駆動安定性に優れた逆構造の有機EL素子、および前記有機EL素子を用いた表示装置、照明装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、逆構造の有機EL素子の駆動安定性を高めることができる材料について種々検討したところ、特定のドナー性の基と特定のアクセプター性の基とを組み合わせた化合物が、正孔に対して安定であることを見出した。そして、この化合物を逆構造の有機EL素子の材料として用いると、素子の駆動安定性を高められることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]基板上に、陰極と発光層と陽極とがこの順に設けられた有機EL素子であって、前記陰極と前記発光層の間に、下記式(a)で示される環構造を含む基と下記式(b)で示される環構造を含む基とを有する化合物を含む層を有することを特徴とする、有機EL素子。
【0011】
【0012】
(ただし、式(a)中の-*1は、前記化合物中の式(a)で示される環構造を含む基以外の原子と結合する結合子である。式(b)中の-*2は、前記化合物中の式(b)で示される環構造を含む基以外の原子と結合する結合子である。)
[2]前記層が、還元剤をさらに含む、[1]に記載の有機EL素子。
[3]前記層が、酸解離定数pKaが1以上である塩基性の化合物をさらに含む、[1]又は[2]に記載の有機EL素子。
[4]前記層と前記陰極との間に金属酸化物層を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の有機EL素子。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の有機EL素子を含むことを特徴とする表示装置。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の有機EL素子を含むことを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL素子は、逆構造で、駆動安定性が優れている。本発明の表示装置、照明装置は、用いる逆構造の有機EL素子の駆動安定性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の有機EL素子の構造の一例を示した概略断面図である。
【
図2】本発明の有機EL素子の構造の一例を示した概略断面図である。
【
図3】実施例および比較例の有機EL素子を連続駆動した際の輝度の時間変化をプロットしたグラフである。
【
図4】式(1-1)で示される化合物のHOMO-LUMOの分子軌道計算の結果を示した図である。
【
図5】式(21)で示される化合物のHOMO-LUMOの分子軌道計算の結果を示した図である。
【
図6】式(23)で示される化合物のHOMO-LUMOの分子軌道計算の結果を示した図である。
【
図7】式(24)で示される化合物のHOMO-LUMOの分子軌道計算の結果を示した図である。
【
図8】式(25)で示される化合物のHOMO-LUMOの分子軌道計算の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、基板上に陰極と発光層と陽極とがこの順に設けられ、陰極と発光層の間に、後述の式(a)で示される環構造を含む基と、後述の式(b)で示される環構造を含む基とを有する化合物(以下、「化合物(1)」とも記す。)を含む層を有する。陰極と発光層の間に形成される化合物(1)を含む層は、電子注入輸送層となる。
【0016】
本発明の有機EL素子の構造は、基板、陰極、化合物(1)を含む電子注入輸送層、発光層、陽極を有する逆構造であればよい。基板、陰極、化合物(1)を含む電子注入輸送層、発光層、陽極以外の層としては、正孔輸送層、正孔注入層、金属酸化物層等が挙げられ、適宜選択できる。
【0017】
本発明の有機EL素子としては、例えば、
図1に例示した有機EL素子1、
図2に例示した有機EL素子1Aが挙げられる。なお、
図1、
図2の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
有機EL素子1は、基板2上に、陰極3と、金属酸化物層4と、電子注入輸送層5と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に設けられた積層構造を有する。
有機EL素子1Aは、基板2上に、陰極3と、電子注入輸送層5と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に設けられた積層構造を有する。
【0019】
本発明の有機EL素子の積層構造は、有機EL素子1,1Aのような積層構造が好ましい。また、有機EL素子1のように、陰極と、化合物(1)を含む電子注入輸送層の間に、金属酸化物層を有することがより好ましい。金属酸化物層を有する有機EL素子は、金属酸化物層を有しない有機EL素子に比べて、連続駆動寿命や保存安定性に優れる。
【0020】
(電子注入輸送層)
電子注入輸送層は、化合物(1)を含む層である。電子注入輸送層に含まれる化合物(1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
化合物(1)は、下記式(a)で示される環構造(以下、「環構造a」とも記す。)を含む基と、下記式(b)で示される環構造(以下、「環構造b」とも記す。)を含む基とを有する化合物である。すなわち、化合物(1)は、環構造a(カルバゾール環)を含む骨格と環構造b(トリアジン環)を含む骨格とを有する化合物である。化合物(1)は、環構造aを含む基がドナー性を示し、環構造bを含む基がアクセプター性を示す。
【0021】
【0022】
ただし、式(a)中の-*1は、化合物(1)中の環構造aを含む基以外の原子と結合する結合子である。式(b)中の-*2は、化合物(1)中の環構造bを含む基以外の原子と結合する結合子である。
【0023】
環構造aを含む基は、環構造aを独立の環構造として有していてもよく、環構造aを含むより大きな環構造として有していてもよい。環構造aを含むπ共役系のより大きな環構造としては、インドロカルバゾール環、ベンゾフランカルバゾール環等が挙げられる。
【0024】
環構造aを含む基としては、例えば、下式(a1)~(a4)で示される基が挙げられる。
【0025】
【0026】
式(a1)中のX1は、1つまたは2つが下記式(1a-1)~(1a-5)で示される基であり、残りがそれぞれ独立に水素原子、または、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換もしくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、および、置換もしくは未置換の炭素数3~30の芳香族複素環基からなる群から選択される置換基である。
式(a2)中のX2は、それぞれ独立に水素原子、または、下記式(1a-1)~(1a-5)で示される基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換もしくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、および、置換もしくは未置換の炭素数3~30の芳香族複素環基からなる群から選択される置換基である。
Rは、水素原子、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である。
式(a3)中のX3、式(a4)中のX4は、それぞれ式(a2)中のX2と同じである。
【0027】
【0028】
式(1a-1)~(1a-5)中のR1は、それぞれ独立に水素原子、または、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のアシル基、炭素数7~20のアラルキル基、置換もしくは未置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基、および、置換もしくは未置換の炭素数3~30の芳香族複素環基からなる群から選択される置換基であり、隣り合う置換基は一体となって環を形成していてもよい。
-*3は、X1~X4が結合している環の炭素原子と結合する結合子を示す。
【0029】
以下、式(a1)で示される基を「基(a1)」と記し、他の式で示される基も同様に記す。
基(a1)が2つの基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、それら2つの基は、X1が結合している環構造中の別のベンゼン環にそれぞれ結合していることが好ましい。
基(a1)中の基(1a-1)~(1a-5)でないX1としては、化合物(1)の合成の容易性の観点から、水素原子が好ましい。
【0030】
基(a2)が基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、基(1a-1)~(1a-5)の数は、1つまたは2つが好ましい。基(a2)中の2つの基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、それら2つの基は、X2が結合している環構造中の別のベンゼン環にそれぞれ結合していることが好ましい。
基(a2)中のX2としては、化合物(1)の合成の容易性の観点から、水素原子が好ましい。
基(a2)中のRとしては、芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0031】
基(a3)が基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、基(1a-1)~(1a-5)の数は、1つまたは2つが好ましい。基(a3)中の2つの基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、それら2つの基は、X3が結合している環構造中の別のベンゼン環にそれぞれ結合していることが好ましい。
基(a3)中のX3としては、化合物(1)の合成の容易性の観点から、水素原子が好ましい。
【0032】
基(a4)が基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、基(1a-1)~(1a-5)の数は、1つまたは2つが好ましい。基(a4)中の2つの基(1a-1)~(1a-5)を有する場合、それら2つの基は、X4が結合している環構造中の別のベンゼン環にそれぞれ結合していることが好ましい。
基(a4)中のX4としては、化合物(1)の合成の容易性の観点から、水素原子が好ましい。
【0033】
基(1a-1)~(1a-5)のようなカルバゾール基はすべてドナー性に寄与し、また結合位置によらず同等のドナー性を示す。
基(1a-1)~(1a-5)中のR1としては、化合物(1)の合成の容易性の観点から、水素原子が好ましい。
【0034】
環構造bを含む基は、環構造bを独立の環構造として有していてもよく、環構造bを含むより大きな環構造として有してもよい。
環構造bを含む基としては、例えば、下記の基(b1)~(b3)が挙げられる。
【0035】
【0036】
ただし、式(b1)、(b2)中のAr1は、それぞれ独立に芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を示す。
【0037】
Ar1としては、フェニル基が好ましい。
環構造bを含む基としては、基(b1)が好ましく、Ar1がフェニル基である基(b1)がより好ましい。
【0038】
化合物(1)としては、環構造aを含む基と環構造bを含む基とが直接的に結合している化合物であってもよく、環構造aを含む基と環構造bを含む基とが間接的に結合している化合物であってもよい。
環構造aを含む基と環構造bを含む基とが間接的に結合している化合物としては、環構造aを含む基と環構造bを含む基がそれぞれベンゼン環に置換されている化合物が好ましく、環構造aを含む基と環構造bを含む基がそれぞれベンゼン環のオルト位に置換されている化合物がより好ましい。
【0039】
化合物(1)の具体例としては、例えば、下記式(1-1)~(1-10)で示される化合物が挙げられる。
以下、式(1-1)で示される化合物を「化合物(1-1)」とも記し、他の式で示される化合物も同様に記す。
【0040】
【0041】
化合物(1)を含む電子注入輸送層は、化合物(1)に加えてさらに他の材料を含んでもよい。
電子注入輸送層は、還元剤をさらに含むことが好ましい。還元剤は、n-ドーパントとして働く。電子注入輸送層が還元剤を含む場合、陰極から発光層への電子の供給が充分に行われやすく、有機EL素子の発光効率がより一層向上する。
【0042】
還元剤としては、電子供与性の化合物であれば特に制限されない。還元剤の具体例としては、例えば、1,3-ジメチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール、1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール、(4-(1,3-ジメチル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)フェニル)ジメチルアミン(N-DMBI)、1,3,5-トリメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール等の2,3-ジヒドロベンゾ[d]イミダゾール化合物;3-メチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール等の2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール化合物;3-メチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロベンゾ[d]オキサゾール等の2,3-ジヒドロベンゾ[d]オキサゾール化合物;ロイコクリスタルバイオレット(=トリス(4-ジメチルアミノフェニル)メタン)、ロイコマラカイトグリーン(=ビス(4-ジメチルアミノフェニル)フェニルメタン)、トリフェニルメタン等のトリフェニルメタン化合物;2,6-ジメチル-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボン酸ジエチル(ハンチュエステル)等のジヒドロピリジン化合物等が挙げられる。電子注入輸送層に含まれる還元剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
還元剤としては、2,3-ジヒドロベンゾ[d]イミダゾール化合物や、ジヒドロピリジン化合物が好ましく、N-DMBIまたは2,6-ジメチル-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボン酸ジエチル(ハンチュエステル)がより好ましい。
【0043】
電子注入輸送層に還元剤が含まれる場合、電子注入輸送層中の還元剤の含有量は、電子注入輸送層中の化合物(1)100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。還元剤の含有量が前記範囲内であれば、有機EL素子の発光効率がより一層高くなる。
【0044】
電子注入輸送層は、酸解離定数pKaが1以上の塩基性の化合物(以下、「塩基性化合物A」とも記す。)をさらに含むことが好ましい。なお、「pKa」は「水中における酸解離定数」を意味する。塩基性化合物Aは、化合物(1)からプロトン(H+)を引き抜く能力を有する。そのため、電子注入輸送層が塩基性化合物Aを含むことで電子注入性がより一層向上する。
【0045】
塩基性化合物AのpKaは、1以上であり、5以上が好ましく、11以上がより好ましい。塩基性化合物Aは、pKaが高い化合物であるほど、化合物(1)からプロトンを引き抜く能力がより高いものとなる。
【0046】
塩基性化合物Aとしては、3級アミン誘導体、メトキシピリジン誘導体、ジアザビシクロノネン誘導体、ジアザビシクロウンデセン誘導体、フォスファゼン塩基誘導体、グアニジン環状誘導体等が挙げられる。電子注入輸送層に含まれる塩基性化合物Aは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0047】
3級アミン誘導体としては、4-ジメチルアミノピリジン(4-DMAP)、2-ジメチルアミノピリジン(2-DMAP)、トリエチルアミン等が挙げられる。3級アミン誘導体としては、より長寿命を得る観点から、4-DMAPが好ましい。
メトキシピリジン誘導体としては、4-メトキシピリジン(4-MeOP)、3-メトキシピリジン(3-MeOP)等が挙げられる。メトキシピリジン誘導体としては、pKaが高いため、4-MeOPが好ましい。
【0048】
ジアザビシクロノネン誘導体としては、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)等が挙げられる。ジアザビシクロノネン誘導体としては、より長寿命を得る観点から、DBNが好ましい。
ジアザビシクロウンデセン誘導体としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
【0049】
フォスファゼン塩基誘導体としては、1-tert-ブチル-2,2,4,4,4-ペンタキス(ジメチルアミノ)-2λ5,4λ5-カテナジ(フォスファゼン)(Phosphazene base P2-t-Bu)等が挙げられる。
グアニジン環状誘導体としては、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)等が挙げられる。
【0050】
還元剤および塩基性化合物A以外の他の材料を用いてもよく、例えば、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられる。
【0051】
電子注入輸送層の平均厚さは、5~100nmが好ましく、10~60nmがより好ましく、10~30nmがさらに好ましい。電子注入輸送層の平均厚さが前記範囲の下限値以上であれば、正孔をブロックする効果が充分に得られやすく、有機EL素子の駆動安定性がより優れる。電子注入輸送層の平均厚さが前記範囲の上限値以下であれば、駆動電圧を充分に低くしやすい。電子注入輸送層の平均厚さが10~30nmの範囲であれば、有機EL素子の連続駆動寿命が特に長くなる。
電子注入輸送層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0052】
(基板)
基板の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。基板の材料は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。基板の材料としては、柔軟性に優れた有機EL素子が得られる観点から、樹脂材料が好ましい。
【0053】
基板に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
基板に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス、パイレックス(登録商標)等が挙げられる。
【0054】
ボトムエミッション型の有機EL素子の場合には、基板として透明基板を用いる。トップエミッション型の有機EL素子の場合は、透明基板を用いてもよく、不透明基板を用いてもよい。
不透明基板としては、アルミナ等のセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0055】
(陽極及び陰極)
陽極及び陰極としては、公知の導電性材料を適宜用いることができる。陽極及び陰極は、光の取り出しのために少なくともいずれか一方は透明であることが好ましい。
透明導電性材料としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化インジウム(ATO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)等が挙げられる。
不透明な導電性材料としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、錫、インジウム、銅、銀、金、白金や、これらの合金等が挙げられる。
【0056】
陰極の材料としては、ITO、IZO、FTOが好ましい。
陽極の材料としては、金、銀、アルミニウムが好ましい。
一般に電極材料として用いられる金属や金属酸化物は陽極にも陰極にも使用でき、上部電極から光を取り出すトップエミッション構造の場合は、例えば、下部電極(陰極)にAl、上部電極(陽極)にITO等を使用できる。
【0057】
陰極の平均厚さは、10~500nmが好ましく、100~200nmがより好ましい。陰極の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
陽極の平均厚さは、10~1000nmが好ましく、30~150nmがより好ましい。なお、不透明な導電性材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型及び透明型の陽極として使用できる。
陽極の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定できる。
【0058】
(金属酸化物層)
金属酸化物層は、陰極の一部または電子注入層として機能する層である。
金属酸化物層としては、1種の金属酸化物膜からなる単層、1種の金属酸化物膜が積層された複層、2種以上の金属酸化物膜が積層された複層、2種以上の金属酸化物が混合された金属酸化物膜を含む単層または複層から選ばれる、半導体膜もしくは絶縁体膜の層である。
【0059】
なお、本発明においては、シート抵抗が100Ω/□より低いものは導電体、シート抵抗が100Ω/□より高いものは半導体または絶縁体として分類する。電極材料として例示したITO、ATO、IZO、AZO、FTO等は、導電性が高く半導体または絶縁体の範疇に含まれず、金属酸化物層を構成する金属酸化物には該当しない。
【0060】
金属酸化物層に用いる金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素等が挙げられる。なかでも、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる群から選ばれる金属元素が好ましい。
2種以上の金属酸化物を用いる場合、少なくとも1つの金属酸化物の金属元素は、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる群から選ばれる金属元素が好ましい。
【0061】
金属酸化物層に用いる金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、および酸化亜鉛から選ばれる金属酸化物が好ましい。
【0062】
金属酸化物層に2種以上の金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の組み合わせとしては、以下の組み合わせが挙げられる。以下、酸化チタンと酸化亜鉛の組み合わせを「酸化チタン/酸化亜鉛」と記し、その他の組み合わせも同様に記す。
金属酸化物の組み合わせとしては、例えば、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウム等の2種の組み合わせ、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛等の3種の組み合せが挙げられる。
金属酸化物層には、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZOや、エレクトライドである12CaO7Al2O3を用いてもよい。
【0063】
金属酸化物層の平均厚さは、1nmから数μm程度まで許容できるが、より低電圧で駆動できる有機EL素子とする観点から、1~1000nmが好ましく、2~100nmがより好ましい。
金属酸化物層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0064】
(発光層)
発光層を形成する材料としては、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよく、これらを混合して用いてもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0065】
発光層を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;さらには特開2011-184430号公報、特開2012-151148号公報に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0066】
発光層を形成する低分子材料としては、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物、ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物、コロネンのようなコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、4,4’-ビス[9-ジカルバゾリル]-2,2’-ビフェニル(CBP)、4、4’-ビス(9-エチルー3-カルバゾビニレン)-1,1’-ビフェニル(BCzVBi)のようなカルバゾール系化合物、2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物、2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物、ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、ペリノンのようなペリノン系化合物、オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物、2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物、フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、さらには特開2009-155325号公報および特許第5660371号公報に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
また、量子ドットやペロブスカイト材料も発光層に使用できる。
【0067】
(正孔輸送層)
正孔輸送層の材料としては、正孔輸送層の材料として通常用いられているいずれの化合物も用いることができ、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0068】
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
これらの化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0069】
p型の低分子材料としては、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OxZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フルオレンのようなフルオレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
これらの中でも、α-NPD、TPTEのようなアリールアミン系化合物が好ましい。
【0070】
本発明の有機EL素子が独立した層として正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層の平均厚さは、10~150nmが好ましく、40~100nmがより好ましい。
正孔輸送層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定できる。
【0071】
(正孔注入層)
正孔注入層の材料としては、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0072】
正孔注入層は、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とする層が好ましい。これにより、正孔注入層が陽極から正孔を注入して発光層または正孔輸送層へ輸送する機能がより優れたものとなる。また、酸化バナジウム又は酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極から発光層または正孔輸送層への正孔の注入効率が低下することを防止しやすい。
正孔注入層は、酸化バナジウムおよび酸化モリブテンのいずれか一方または両方からなる層であることがより好ましい。
【0073】
正孔注入層には、正孔注入の促進が可能なアクセプター材料である1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、アクセプター材料である2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、アクセプター材料であるヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6-TNAP)等を用いてもよい。
【0074】
正孔注入層の平均厚さは、1~1000nmが好ましく、5~50nmがより好ましい。正孔注入層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定できる。
【0075】
(製造方法)
本発明の有機EL素子における各層の形成方法は、特に制限されず、気相成膜法、液相成膜法等から材料に応じて適切な方法を選択できる。層ごとに形成方法が異なっていてもよい。
【0076】
気相成膜法としては、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法等が挙げられる。
液相成膜法としては、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレー熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレード法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法等の印刷技術等が挙げられる。
【0077】
化合物(1)を含む電子注入輸送層の形成方法としては、化合物(1)を含む溶液を塗布して形成する方法が好ましい。なお、電子注入輸送層は、真空蒸着法等でも成膜できる。
【0078】
以上説明したように、本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に、環構造aを含む基と環構造bを含む基を有する化合物(1)を含む層を有する逆構造とすることで、優れた駆動安定性を得ることができる。
本発明の有機EL素子は、材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができ、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることができるため、表示装置や照明装置の材料として好適に使用できる。
【0079】
なお、本発明の有機EL素子は、前記した有機EL素子1,1Aには限定されない。
陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の各層は、1層で形成されていてもよく、2層以上からなる層であってもよい。
有機EL素子における陰極、金属酸化物層、電子注入輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の各層の間に他の層を有する有機EL素子であってもよい。他の層としては、例えば、有機EL素子の特性をさらに向上させる目的で形成される電子阻止層が挙げられる。
【0080】
<表示装置>
本発明の表示装置は、本発明の有機EL素子を含む表示装置である。本発明の表示装置は、本発明の有機EL素子を用いる以外は公知の態様を採用でき、例えば、本発明の有機EL素子を複数配列した素子配列群を用いて画像を表示する装置が挙げられる。
【0081】
<照明装置>
本発明の照明装置は、本発明の有機EL素子を含む照明装置である。本発明の照明装置は、本発明の有機EL素子を用いる以外は公知の態様を採用でき、例えば、本発明の有機EL素子を複数配列した素子配列群を用いて面発光を行う装置が挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0083】
[実施例1]
以下に示す方法により、
図1に例示した有機EL素子1を製造した。
ITOからなる厚み150nmのパターニングされた電極(陰極3)が形成されている平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板(基板2)を用意し、アセトン中、イソプロパノール中で順に超音波洗浄した後、UVオゾン洗浄を20分間行った。
亜鉛金属をターゲットとし、反応ガスとして酸素、キャリアガスとしてアルゴンを用いたスパッタ法により、陰極3上に平均厚さ10nmの酸化亜鉛(ZnO)層を形成した後、イソプロパノール、アセトンで順次洗浄した。さらに、基板をスピンコーターにセットし、1質量%酢酸マグネシウム溶液(水/エタノール=1/3)を毎分1600回転で60秒スピンコートし、大気下においてホットプレートにより400℃で1時間アニールを行った。基板を水で洗浄した後、大気下においてホットプレートにより250℃で30分間乾燥させ、陰極3上に金属酸化物層4を形成した。
【0084】
金属酸化物層4まで形成した基板2をスピンコーターに設置し、シクロペンタノンに化合物(1-1)(1質量%)と化合物(2)(DBN、2質量%)を溶解した溶液を金属酸化物層4上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で120℃、2時間のアニール処理を施し、平均厚さ30nmの電子注入輸送層5を形成した。
【0085】
【0086】
電子注入輸送層5まで形成した基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。下記式(11)で示されるビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)2)と、下記式(12)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)3)と、下記式(13)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、下記式(14)で示されるN4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。
【0087】
【0088】
真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧し、Zn(BTZ)2をホスト、Ir(piq)3をドーパントとして20nm共蒸着し、発光層6を成膜した。このとき、ドープ濃度は、Ir(piq)3が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。
発光層6上にDBTPBを10nm、α-NPDを30nmそれぞれ蒸着し、正孔輸送層7を成膜した。正孔輸送層7上に、三酸化モリブデン(MoO3)を真空一貫で蒸着し、平均厚さ10nmの正孔注入層8を成膜した。正孔注入層8上にAlを蒸着し、平均厚さ100nmの陽極9を成膜し、有機EL素子を得た。
【0089】
[実施例2~5]
表1に示すように、電子注入輸送層の形成において、化合物(1-1)の代わりに化合物(1-2)~(1-5)を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を得た。
【0090】
【0091】
[比較例1~5]
表1に示すように、電子注入輸送層の形成において、化合物(1-1)の代わりに化合物(21)~(25)を用いた以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を得た。
【0092】
【0093】
[発光特性の測定]
各例で得た有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定した。初期輝度を1000cd/m
2として連続駆動し、経過時間に対する輝度の変化を調べ、輝度半減寿命(時間)を算出した。結果を表1に示す。
また、実施例1および比較例1、3~5における経過時間に対する輝度の変化をプロットした結果を
図3に示す。
【0094】
【0095】
表1および
図3に示すように、電子注入輸送層に化合物(1)を用いた実施例1~5の有機EL素子は、電子注入輸送層に化合物(1)以外の化合物を用いた比較例1~5の有機EL素子に比べて、輝度が減衰しにくく、長寿命であり、駆動安定性に優れていた。
環構造aを含む基がビカルバゾール基である実施例4の有機EL素子は、インドロカルバゾール基である実施例1やベンゾフランカルバゾール基である実施例5の有機EL素子と同等の長寿命が確保されていた。この結果は、環構造aを含む基には、環構造aを含むπ共役系のより大きな環は必ずしも必要ではないことを示している。
【0096】
比較例4で電子注入輸送層に用いた化合物(24)は、アクセプター性の基が実施例1で用いた化合物(1-1)と同じトリアジン環(環構造b)を含む基であり、ドナー性の基がトリフェニルアミノ基であり、化合物(1-1)のカルバゾール環(環構造a)を含む基とは異なっている。これらの比較から、有機EL素子の長寿命化には、ドナー性の基として環構造aを含む基が有効であることがわかる。
【0097】
比較例1、3で電子注入輸送層に用いた化合物(21)、(23)は、ドナー性の基が実施例1で用いた化合物(1-1)と同じインドロカルバゾール基であり、アクセプター性の基がそれぞれシアノ基、ジベンゾオキシド基であり、化合物(1-1)のトリアジン環(環構造b)を含む基とは異なっている。これらの比較から、有機EL素子の長寿命化には、アクセプター性の基として環構造bを含む基が有効であることがわかる。
【0098】
アクセプター性の基としてトリアジン環(環構造b)を含む基を有するが、ドナーの基を有しない化合物(25)を用いた比較例5の有機EL素子は、素子寿命は極めて短かった。この結果からも、ドナー性の基である環構造aを含む基と、アクセプター性の基である環構造bを含む基を組み合わせた化合物を電子注入輸送層の材料として用いることが、長寿命化に重要であることがわかる。
このように、逆構造の有機EL素子における電子注入輸送層の材料として化合物(1)が有効であることが確認された。
【0099】
[分子軌道(HOMO軌道/LUMO軌道)の分布]
分子軌道計算ソフトGaussian09を用いて、化合物(1-1)、化合物(21)、化合物(23)、化合物(24)および化合物(25)のHOMO(最高被占軌道)-LUMO(最低空軌道)の分子軌道計算を行った。結果を
図4~8に示す。
【0100】
図8に示すように、アクセプター性の基(トリアジン基)は有するが、ドナー性の基を有しない化合物(25)では、HOMOとLUMOの両方がトリアジン基に偏在していた。これに対して、
図4~7に示すように、ドナー性の基とアクセプター性の基の両方を有する化合物(1-1)、化合物(21)、化合物(23)、化合物(24)では、LUMOはアクセプター性の基付近に偏在し、HOMOはドナー性の基付近に偏在していた。このように、ドナー性の基とアクセプター性の基を組み合わせた化合物では、分子内でHOMO/LUMOの軌道が分離していた。
【0101】
アルカリ金属等を電子注入層に用いない逆構造の有機EL素子においては、電子の注入に比べて正孔の注入が容易になるため、多くの正孔が電子注入輸送層まで到達する。素子寿命が極めて短い比較例5は、化合物(25)がアクセプター性の基のみを有する材料であり、正孔の影響を受けるHOMOがアクセプター性の基に局在しているため、正孔に対する耐性が低く、劣化しやすいと考えられる。実施例1や比較例1、3、4が比較例5に比べて素子の安定性が高いのは、化合物(1-1)、化合物(21)、化合物(23)、化合物(24)においてLUMOとHOMOが分子内で分離し、HOMOがアクセプター性の基に局在しておらず、化合物(25)に比べて正孔に対する耐性が高くなるためであると考えられる。
【0102】
また、化合物(1-1)、化合物(21)、化合物(23)、化合物(24)は同様にLUMOとHOMOが分子内で分離しているが、化合物(1-1)は化合物(21)、化合物(23)、化合物(24)に比べて長寿命化効果が特に優れている。そのため、化合物(1)による有機EL素子の長寿命化には、LUMOとHOMOが分子内で分離するだけでなく、ドナー性の基とアクセプター性の基として、環構造aを含む基と環構造bを含む基という特定の基の組み合わせが重要である。
【符号の説明】
【0103】
1,1A…有機EL素子、2…基板、3…陰極、4…金属酸化物層、5…電子注入輸送層、6…発光層、7…正孔輸送層、8…正孔注入層、9…陽極。