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特許7050245活性エネルギー線硬化型組成物、硬化膜の製造方法及び硬化物
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  • 特許-活性エネルギー線硬化型組成物、硬化膜の製造方法及び硬化物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型組成物、硬化膜の製造方法及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/08 20060101AFI20220401BHJP
【FI】
C08G77/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019517671
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2018017973
(87)【国際公開番号】W WO2018207836
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2017094069
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
(72)【発明者】
【氏名】寺田 究
(72)【発明者】
【氏名】桑原 博一
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105749(JP,A)
【文献】特開2012-082247(JP,A)
【文献】特開2004-163764(JP,A)
【文献】特開2006-023580(JP,A)
【文献】国際公開第2002/092718(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0066483(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基を有するケイ素系化合物、及び光を吸収してアミンと活性ラジカルを同時に発生することができる、下記式(1)
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子、水酸基、アルコキシ基又は有機基を表す。R及びRチオエーテル結合を含む置換基を有するアリール基を表す。Xは一級アミン又は二級アミンから窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いた残基を表す。)
で表される化合物を含有する光塩基発生剤を含有する、活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項2】
光塩基発生剤が350nm以上の波長領域に吸収を有する、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項3】
更に式(1)で表される化合物以外の光重合開始剤を含有する請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項4】
更に塩基増殖剤として少なくとも1つのウレタン結合を有する化合物を含有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項5】
更にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する化合物を含有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られる硬化膜の製造方法であって、
(a)該活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗布して被膜を形成する工程、
(b)該被膜を第一加熱する工程、
(c)該第一加熱された被膜を露光する工程、及び
(d)該露光された被膜を第二加熱する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の構造を有する化合物を含有する光塩基発生剤と特定構造のケイ素系化合物を含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、該組成物の硬化物及び該組成物を用いて得られる硬化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDAに代表される移動体通信の液晶表示画面やATMやカーナビゲーションなどの画面表示入力デバイスとしてのタッチパネルなどの分野では、表示画面へのキズ付き防止を目的としてハードコートが多用されているが、これらの表示媒体の用途が拡大するのに伴い、表示媒体の表面保護に対する要求はますます厳しくなりつつある。
【0003】
この様なハードコート材には、耐擦傷性を向上させるために硬度の高い材料が望まれており、例えばUV硬化型の有機系ハードコート材では、その架橋密度を高めることで硬度や耐擦傷性を向上させる技術が知られている。しかしながら、この様なUV硬化型のハードコート材においては、アクリル性二重結合の付加重合やエポキシ環の開環重合等により架橋密度を高めているため、重合反応時に起こるコート材自体の収縮が問題となり、有機成分のみで硬度を高めることには限界があった。
【0004】
一方、ポリシロキサンに代表される無機系コート材の特徴は、有機系コート材と比べて、耐熱性、耐候性、硬度及び耐擦傷性等に優れることが挙げられる。このような無機系コート材の薄膜コート層の形成方法として、ゾル-ゲル反応を利用して金属アルコキシドを加水分解・重縮合させ、メタロキサンオリゴマーを経由して比較的低温で熱架橋・硬化を行う方法が実用化されており、得られる薄膜コート層は高い硬度を有する。
【0005】
特許文献1にはトリヒドロキシシラン部分縮合物とコロイダルシリカからなるコーティング組成物が開示されている。しかしながら、熱硬化型のコーティング材は硬化の際に多大な熱エネルギーを要することから経済的ではなく、加えられる熱により基材が変形してしまうことなどの問題もあった。
【0006】
これらの問題を解決するために、UV硬化型有機コーティング材が有する硬化性、透明性、基材適合性、加工性等の優れた特徴と無機系材の有する高硬度、耐擦傷性等の優れた特徴を活かし、かつそれぞれの欠点を補うUV硬化型有機-無機コーティング材が求められている。
【0007】
特許文献2にはシリカ粒子、アクリロキシ官能基シランもしくはその加水分解物、およびアクリレート化合物からなる組成物が開示されている。しかしながら、光重合開始剤により硬化する同文献の組成物はシリカ粒子やシラン部位の光硬化に関して考慮されていないため、硬化物の硬度が不十分であった。
【0008】
特許文献3にはシリカなどの粒子表面に重合性官能基を導入する手法が開示されているが、このような変性シリカは作製が困難なうえに、重合性官能基を導入するために用いられる化合物中に水酸基などの反応基が必要であることから設計の自由度が低く、この手法で得られたシリカなどを用いて組成物の硬化物の硬度を向上させるのには限界があった。
【0009】
しかも、上述の組成物は硬度や耐擦傷性の向上を目的としたものであって、これら以外の特性、例えば耐クラック性、可撓性、加工性及び難燃性等については考慮されていない。
【0010】
すなわちUV硬化型の有機-無機コーティング材においては、保存安定性に優れ、硬化性及び製膜性に問題がなく、耐衝撃性や耐擦傷性に優れ、かつ有機ポリマーの諸物性をも併せ持つUV硬化型の有機-無機コーティング材はいまだ実用化されておらず、これらの課題を同時に解決するために無機成分と有機成分を同時に硬化させ、無機成分と有機成分が共有結合を通して均一に一体化させた有機-無機ハイブリット硬化膜を作製する技術が検討されている。
【0011】
特許文献4にはラジカル系光重合開始剤およびカチオン系光重合開始剤を含有する有機-無機ハイブリットコーティング組成物が開示されている。しかしながら、同文献の組成物は異なる二種類の光重合開始剤を含む必要があり、組成物中の光重合開始剤の配合量が結果的に増えることで組成物が高価になるため好ましくない。
【0012】
しかもカチオン系光重合開始剤は活性が高く不安定であるため組成物の保存安定性に懸念があるだけでなく、硬化物中に残存する光照射により発生した酸が金属腐食を引き起こす懸念がある。さらには末端にSiOR基が残っている場合は、この加水分解が律速段階となり、生成するアルコールがラジカル系、カチオン系光重合開始剤を変質させることによって組成物の硬化不良を引き起こす可能性がある。
【0013】
これらの問題を解決する目的で、アニオン系UV硬化システムの導入が近年検討されている。光塩基発生剤により生成するアニオンはSiOR基に直接求核的に作用し、速やかにSiOHを発生することができる。
【0014】
特許文献5には紫外線照射により塩基(アミン)とラジカルを発生する光開始剤が開示されている。しかしながら、同文献の光重合開始剤から発生する塩基は活性の低い単官能のアミンであり、光塩基発生剤としての硬化能力が不十分である。
【0015】
特許文献6には活性光線の照射により塩基及びラジカルの両方を発生する光塩基発生剤が開示されている。しかしながら、同文献の光塩基発生剤はカルボン酸とアミンからなるイオン化合物であり、活性エネルギー線の照射により発生する三級アミンは活性が非常に高く不安定であるため保存安定性と溶解性に問題があり、しかも該三級アミンはアルコキシシリル基の加水分解により発生するSiOH基の反応の制御が困難であるためアルコキシシランの加水分解縮合物の分子量を制御できないことも問題である。そのため、活性エネルギー線の照射により脂肪族一級あるいは二級アミンと活性ラジカルを同時に発生する中性化合物である光塩基発生剤が望まれている。
【0016】
これらを解決するために、非特許文献1及び2では、脂肪族一級あるいは二級アミンと活性ラジカルを同時に発生する中性化合物である光塩基発生剤とアルコキシシリル基を有するケイ素系化合物からなる樹脂組成物とその硬化物について検討している。しかしながら、これらの文献で開示されている光塩基発生剤は活性エネルギー線の吸収波長が短波長である。したがって、従来の光塩基発生剤の感光領域と比べてより長波長の光(活性エネルギー線)に対しても高い感受性を有し、当該長波長の光の照射によって、効率的に塩基を発生する光塩基発生剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特公昭52-039691号公報
【文献】特開昭62-256874号公報
【文献】特許3474330号公報
【文献】特許5063915号公報
【文献】特開2009-58923号公報
【文献】特開2011-202160号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】J.Photopolym.Sci.Technol.,Vol.27, No.2,223-225 (2014)
【文献】Chem.Lett. 2014, 43, 612-614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は保存安定性、硬化性及び製膜性に優れ、かつその硬化物が高い硬度を有すると共に基材への密着性及び耐擦傷性に優れる活性エネルギー線硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らが検討した結果、長波長の光(活性エネルギー線)に対しても高い感受性を有し、活性エネルギー線の照射により脂肪族一級あるいは二級アミンと活性ラジカルを同時に発生する中性化合物である光塩基発生剤と、アルコキシシリル基を有するケイ素系化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち本発明は
(1)アルコキシシリル基を有するケイ素系化合物、及び光を吸収してアミンと活性ラジカルを同時に発生することができる、下記式(1)
【0022】
【化1】
【0023】
(式(1)中、Rは水素原子、水酸基、アルコキシ基又は有機基を表す。R及びRは置換基を有するアリール基を表す。Xは一級アミン又は二級アミンから窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いた残基を表す。)
で表される化合物を含有する光塩基発生剤を含有する、活性エネルギー線硬化型組成物、
(2)光塩基発生剤が350nm以上の波長領域に吸収を有する、(1)に記載の活性エネルギー線硬化型組成物、
(3)更に式(1)で表される化合物以外の光重合開始剤を含有する前項(1)又は(2)に記載の活性エネルギー線硬化型組成物、
(4)更に塩基増殖剤として少なくとも1つのウレタン結合を有する化合物を含有する前項(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物、
(5)更にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する化合物を含有する前項(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物、
(6)前項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物、及び
(7)前項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られる硬化膜の製造方法であって、
(a)該活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗布して被膜を形成する工程、
(b)該被膜を第一加熱する工程、
(c)該第一加熱された被膜を露光する工程、及び
(d)該露光された被膜を第二加熱する工程
を含む方法、
に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は保存安定性、硬化性及び製膜性に優れ、かつその硬化物は高い硬度を有すると共に基材への密着性及び耐擦傷性に優れるため、携帯電話等の液晶表示画面やタッチパネルなどのハードコート用途等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例及び比較例の材料として用いた光塩基発生剤(光重合開始剤)1乃至7の吸光度曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物について詳細に説明するが、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
[アルコキシシリル基を有するケイ素系化合物]
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物はアルコキシシリル基を有するケイ素系化合物を含有する。
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物が含有するアルコキシシリル基を有するケイ素系化合物(以下、単に「ケイ素系化合物」と記載する。)としては、例えば、1乃至3個のアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤や1乃至4個のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物等が挙げられ、アルコキシシリル基の一部が加水分解または加水分解重縮合されていてもよい。ケイ素系化合物が有するアルコキシシリル基中のアルコキシ基は、反応性や安定性等の観点から、炭素数1乃至8個のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロピルオキシ基又は(イソ)ブチルオキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。尚、本明細書において、例えば「(イソ)プロピル基」との記載は、n-プロピル基及びiso-プロピル基の両者を意味する。前記シランカップリング剤はアルコキシシリル基以外の官能基を有していてもよく、該有していてもよい官能基としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基又は水酸基が好ましく、アミノ基がより好ましい。
【0027】
アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤の具体例としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及び3-(N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等のサルファシラン;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン及び3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、予め部分的に加水分解または加水分解重縮合を施しておいたものを使用しても構わない。
【0028】
アルコキシシラン化合物の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのアルコキシシラン化合物は、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよく、予め部分的に加水分解または加水分解重縮合を施しておいたものを使用しても構わない。
【0029】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物が含有するケイ素系化合物としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシランまたはテトラエトキシシランが好ましく、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランがより好ましい。
【0030】
[光塩基発生剤]
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、350nm以上の波長領域に吸収を有することが好ましい、光塩基発生剤であって、光を吸収してアミンと活性ラジカルを同時に発生する特定の光塩基発生剤(以下、単に「必須成分の光塩基発生剤」とも記載する。)を含有する。
【0031】
[式(1)で表される化合物]
下記式(1)で表される化合物は、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に含まれる光塩基発生剤として用いることができる。
【化2】
【0032】
式(1)中、Rは水素原子、水酸基、アルコキシ基又は有機基を表す。式(1)のRが表すアルコキシ基としては炭素数1乃至18のアルコキシ基であることが好ましく、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、iso-ペントキシ基、neo-ペントキシ基、n-ヘキシルオキシ基及びn-ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
式(1)のRが表す有機基の具体例としては、炭素数1乃至18のアルキル基、炭素数2乃至18のアルケニル基、炭素数2乃至18のアルキニル基、炭素数6乃至12のアリール基、炭素数1乃至18のアシル基、炭素数7乃至18のアロイル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1乃至18のアルキルチオ基及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0034】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数1乃至18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基及びn-ドデシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、並びにシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等の環状のアルキル基が挙げられ、炭素数2乃至6のアルキル基であることが好ましく、炭素数2乃至6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
【0035】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数2乃至18のアルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、1-ブテニル基、iso-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2,2-ジシアノビニル基、2-シアノ-2-メチルカルボキシルビニル基及び2-シアノ-2-メチルスルホンビニル基等が挙げられる。
【0036】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数2乃至18のアルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基及び1-ブチニル基等が挙げられる。
【0037】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数6乃至12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基及びトリル基等が挙げられ、炭素数6乃至10のアリール基であることが好ましい。
【0038】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数1乃至18のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基、iso-プロピルカルボニル基、n-ブチルカルボニル基、n-ペンチルカルボニル基、iso-ペンチルカルボニル基、neo-ペンチルカルボニル基、2-メチルブチルカルボニル基及びニトロベンジルカルボニル基等が挙げられる。
【0039】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数7乃至18のアロイル基としては、ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基及びフタロイル基等が挙げられる。
【0040】
式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数1乃至18のアルキルチオ基としてはメチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、iso-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、iso-ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、iso-ペンチルチオ基、2-メチルブチルチオ基、1-メチルブチルチオ基、neo-ペンチルチオ基、1,2-ジメチルプロピルチオ基及び1,1-ジメチルプロピルチオ基等が挙げられる。
【0041】
式(1)のRが表す有機基の具体例としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
式(1)におけるRとしては、アルコキシ基であることが好ましく、炭素数1乃至18のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1乃至6のアルコキシ基であることが更に好ましく、炭素数1乃至4のアルコキシ基であることが特に好ましく、メトキシ基であることが最も好ましい。
【0042】
式(1)中、R及びRはアリール基を表し、該アリール基はその構造中に有する水素原子が置換基で置換されていてもよい。R及びRは、置換基を有するアリール基であることが好ましい。
式(1)のR及びRが表すアリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子を一つ除いた残基であり、該芳香族炭化水素の具体例としてはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン等が挙げられる。
式(1)におけるR及びRとしては、ベンゼン又はナフタレンから水素原子を一つ除いた残基が好ましく、ベンゼンから水素原子を一つ除いた残基がより好ましい。
式(1)のR及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基の具体例としては、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基又は有機基を表し、R及びRが複数存在する場合それぞれのR及びRは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0043】
式(1)のR及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得るハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
式(1)のR及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得るアルコキシ基としては、式(1)のRが表すアルコキシ基と同じものが挙げられる。
【0044】
式(1)のR及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基の具体例としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、ヒドロキシイミノ基等が挙げられる。
式(1)のR及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基の具体例としてのアルキル基、アリール基及びアシル基としては、それぞれ式(1)のRが表す有機基の具体例としての炭素数1乃至18のアルキル基、炭素数6乃至12のアリール基及び炭素数1乃至18のアシル基と同じものが挙げられる。
【0045】
これらの有機基は、当該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでよく、これらは、直鎖状でも分岐状でも良い。R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基は、通常、一価の有機基であるが、後述する環状構造を形成する場合等には、二価以上の有機基となり得る。
【0046】
及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基中の炭化水素基の炭素と水素の結合(CとHの結合)以外の結合としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、アゾ結合等が挙げられる。耐熱性の点から、有機基中の炭化水素基の炭素と水素の結合以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(-N=C(-R)-、-C(=NR)-:ここでRは水素原子又は有機基)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合が好ましい。
【0047】
及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基中の炭化水素基以外の置換基としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基、アミノ基(-NH、-NHR、-NRR’:ここで、R及びR’はそれぞれ独立に炭化水素基) 、アンモニオ基等が挙げられる。上記置換基に含まれる水素は、炭化水素基によって置換されていても良い。また、上記置換基に含まれる炭化水素基は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでも良い。中でも、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る有機基中の炭化水素基以外の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基が好ましい。
【0048】
また、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基のうち2つ以上が結合して環状構造になっていても良い。環状構造は、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素、複素環、及び縮合環、並びに当該脂環式炭化水素、複素環、及び縮合環よりなる群から選ばれる2種以上が組み合されてなる構造であっても良い。
【0049】
本発明の必須成分の光塩基発生剤には、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基を1つ以上導入することが好ましい。すなわち、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基の少なくとも1つが、ハロゲン、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基又は有機基であることが好ましい。置換基R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基に、上記のような置換基を少なくとも1つ導入することにより、光塩基発生剤の吸収する光の波長を調整することが可能であり、置換基を導入することで所望の波長を吸収させるようにすることもできる。芳香族環の共役鎖を伸ばすような置換基を導入することにより、吸収波長を長波長にシフトすることができる。また、溶解性や組み合わせる高分子前駆体との相溶性が向上するようにすることもできる。これにより、組み合わせる高分子前駆体の吸収波長も考慮しながら、感光性樹脂組成物の感度を向上させることが可能である。
【0050】
及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1乃至20のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数4乃至23のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数4乃至23のシクロアルケニル基;フェノキシメチル基、2-フェノキシエチル基、4-フェノキシブチル基等の炭素数7乃至26のアリールオキシアルキル基(-ROAr基);ベンジル基、3-フェニルプロピル基等の炭素数7乃至20のアラルキル基;シアノメチル基、β-シアノエチル基等のシアノ基をもつ炭素数2乃至21のアルキル基;ヒドロキシメチル基等の水酸基をもつ炭素数1乃至20のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1乃至20のアルコキシ基、アセトアミド基、ベンゼンスルホナミド基(CSONH-)等の炭素数2乃至21のアミド基;メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1乃至20のアルキルチオ基(-SR基);アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数1乃至20のアシル基、メトキシカルボニル基、アセトキシ基等の炭素数2乃至21のエステル基(-COOR基及び-OCOR基);フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等の炭素数6乃至20のアリール基;電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素数6乃至20のアリール基;電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、及びメチルチオ基(-SCH)であることが好ましい。また、上記のアルキル部分は直鎖でも分岐状でも環状でも良い。
【0051】
また、必須成分の光塩基発生剤において、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基の少なくとも1つが水酸基である場合、R及びRが表すアリール基が構造中に有する水素原子と置換され得る置換基に水酸基を含まない化合物と比べ、塩基性水溶液等に対する溶解性の向上、および吸収波長の長波長化が可能な点から好ましい。
【0052】
式(1)中、Xは一級アミン又は二級アミンから窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いたアミン残基を表す。
式(1)のXが表すアミン残基の具体例としては、下記式(a)乃至(z)で表されるアミン化合物等から窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いた残基が挙げられる。
【0053】
【化3】
【0054】
式(a)や式(b)等で表される一分子中にアミノ基を二つ有するアミン化合物から水素原子を除いて残基とする場合は、一方のアミノ基から水素原子を除いた一価の残基であってもよいし、両方のアミノ基からそれぞれ水素原子を一つずつ除いた二価の残基であってもよい。尚、(a)や式(b)等で表されるアミン化合物は一分子中にアミノ基を二つ有するアミン化合物であるが、一分子中にアミノ基を三つ有するアミン化合物から水素原子を除いて残基とする場合は、一乃至三価の何れの残基であってもよいし、一分子中にアミノ基を四つ有するアミン化合物から水素原子を除いて残基とする場合は、一乃至四価の何れの残基であってもよい。一分子中のアミノ基の数が五つ以上の化合物から水素原子を除いて残基とする場合についても同様である。
式(1)のXが表すアミン残基としては、式(a)乃至(z)で表されるアミン化合物から窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いた残基が好ましく、式(a)乃至(n)で表されるアミン化合物から窒素原子に直接結合する水素原子を一つ除いた残基がより好ましい。
【0055】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物におけるケイ素系化合物と、必須成分の光塩基発生剤との使用割合は、組成物の安定性、得られる硬化膜の透明性、耐摩耗性、耐擦傷性、密着性および耐クラック性の点から設計される。ケイ素系化合物と必須成分の光塩基発生剤の合計量に対して必須成分の光塩基発生剤が通常5乃至80質量%、好ましくは10乃至60質量%、より好ましくは20乃至40質量%である。
【0056】
[併用し得る光重合開始剤]
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、式(1)で表される部分構造を有する化合物以外の光重合開始剤を併用してもよい。併用し得る光重合開始剤としては、従来公知の光ラジカル発生剤、光酸発生剤、光塩基発生剤等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を併用してもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0057】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に併用し得る光ラジカル発生剤は、光励起によってラジカル重合を開始できる機能を有する化合物であり、例えばモノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アシルフォスフィンオキシド化合物及びアミノカルボニル化合物などが挙げられる。
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に併用する光ラジカル発生剤としては、硬化物の透明性の観点からアセトフェノン化合物、アシルフォスフィン化合物等が好ましく、アセトフェノン化合物がより好ましい。
【0058】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に併用し得る光酸発生剤とは、紫外線、遠紫外線、KrFやArFなどのエキシマレーザー、X線および電子線などの放射線の照射を受けてカチオンを発生し、そのカチオンが重合開始剤となり得る化合物であり、例えば芳香族ヨードニウム錯塩や芳香族スルホニウム錯塩を挙げることができる。
芳香族ヨードニウム錯塩の具体例としては、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4-ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ローディア社製、商品名 ロードシルPI2074)、ジ(4-ターシャリブチル)ヨードニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニド(BASF社製、商品名 CGI BBI-C1)等が挙げられる。
【0059】
芳香族スルホニウム錯塩の具体例としては、4-チオフェニルジフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(サンアプロ社製、商品名 CPI-101A)、チオフェニルジフェニルスルフォニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、商品名 CPI-210S)、4-[4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ]フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(ADEKA社製、商品名 SP-172)、4-チオフェニルジフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートを含有する芳香族スルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートの混合物(ACETO Corporate USA製、商品名 CPI-6976)及びトリフェニルスルホニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニド(BASF社製、商品名 CGI TPS-C1)、トリス[4-(4-アセチルフェニル)スルホニルフェニル]スルホニウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(BASF社製、商品名 GSID 26-1)、トリス[4-(4-アセチルフェニル)スルホニルフェニル]スルホニウムテトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレート(BASF社製、商品名 イルガキュアPAG290)等が挙げられる。
【0060】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に併用し得る光塩基発生剤とは、紫外線等の光照射により、ビグアニジウム、イミダゾール、ピリジン、ジアミンおよびこれらの誘導体等を発生する化合物であり、その具体例としては、9-アンスリルメチル-N,N-ジエチルカルバメート、(E)-1-[3-(2-ヒドロキシフェニル)-2-プロペノイル]ピペリジン、1-(アニソラキノン-2-イル)エチルイミダゾールカルボキシレート、2-ニトロフェニルメチル4-メタクリロイルオキシピペリジン-1-カルボキシレート、1,2-ジイソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム-2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオネート、1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニジウム-n-ブチルトリフェニルボレート等が挙げられる。これらの光塩基発生剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に併用する光塩基発生剤としては、イミダゾール又はビグアニジウムを発生する化合物が好ましい。
【0061】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物における光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは10質量%以下である。
【0062】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、塩基の作用で増殖的に塩基を発生する塩基増殖剤を併用してもよい。本発明の活性エネルギー線硬化型組成物に塩基増殖剤を併用することにより、当該活性エネルギー線硬化型組成物の感度をさらに向上させることができる。特に、光が活性エネルギー線硬化型組成物層の深部に到達しない場合(光照射に供される活性エネルギー線硬化型組成物層が厚い場合や活性エネルギー線硬化型組成物が多量の染料や顔料を含む場合等)は、活性エネルギー線硬化型組成物層の表面で光化学的に発生した塩基の作用及び塩基増殖剤による塩基増殖反応が開始されることにより、熱化学的にかつ連鎖的に塩基が生成するので、活性エネルギー線硬化型組成物層の深部でも塩基触媒反応が起こることが期待できる。併用し得る塩基増殖剤に特に制限はないが、例えば、特開2000-330270号公報、特開2002-128750号公報や、K.Arimitsu、M.Miyamoto and K.Ichimura,Angew.Chem.Int.Ed.,39,3425(2000)、等に開示される塩基増殖剤が挙げられるが、塩基増殖剤が少なくとも1つのウレタン結合を有する化合物を含有することが好ましい。
【0063】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物における塩基増殖剤の含有量は、必須成分の塩基発生剤やケイ素系化合物等の種類や組み合わせにより適宜決定すればよいが、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは40質量%以下、より好ましくは5乃至20質量%である。
【0064】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有する化合物を併用してもよい。
アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル類;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニル類;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;グリセリンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアール酸エチレンオキサイド変性ε-カプロラクトン変性トリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-S-トリアジン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリプロピオネートなどの3官能(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ) アクリレートモノプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、オリゴエステルテトラ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロイルオキシ)ホスフェ-ト、PPZなどの多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0065】
さらにはポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル化マレイン酸変性ポリブタジエン等を挙げることができる。
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物におけるアクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有する化合物の含有量は、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは80質量%以下、より好ましくは5乃至50質量%である。
【0066】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、必須成分の光塩基発生剤や併用される光重合開始剤の吸収波長領域を拡大して感度を高めるために、増感剤を併用してもよい。併用し得る増感剤に特に限定はないが、例えば、ベンゾフェノン、p,p’-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p’-テトラエチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、アントロン、9-エトキシアントラセン、アントラセン、ピレン、ペリレン、フェノチアジン、ベンジル、アクリジンオレンジ、ベンゾフラビン、セトフラビン-T、9,10-ジフェニルアントラセン、9-フルオレノン、アセトフェノン、フェナントレン、2-ニトロフルオレン、5-ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2-クロロ-4-ニトロアニリン、N-アセチル-p-ニトロアニリン、p-ニトロアニリン、N-アセチル-4-ニトロ-1-ナフチルアミン、ピクラミド、アントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、3-メチル-1,3-ジアザ-1,9-ベンズアンスロン、ジベンザルアセトン、1,2-ナフトキノン、3,3’-カルボニル-ビス(5,7-ジメトキシカルボニルクマリン)またはコロネン等が挙げられる。
これらの増感剤は1種類を併用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて併用してもよい。
【0067】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物における増感剤の含有量は、必須成分の塩基発生剤やケイ素系化合物の種類や量、及び活性エネルギー線硬化型組成物に必要とされる感度等により適宜決定すればよいが、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは5乃至20質量%である。
【0068】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、溶媒を併用してもよい。併用し得る溶媒としてはケイ素系化合物を溶解又は分散し得る溶媒であれば特に制限はないが、ケイ素系化合物を溶解し得る溶媒であることが好ましく、アルコール系の溶媒がより好ましい。併用し得る溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-エトキシエタノール及び2-ブトキシエタノールなどが挙げられ、炭素数1乃至4のアルコールが好ましく、溶解性、安定性及び塗工性の点で2-プロパノールがより好ましい。
また、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物を併用する場合は、該化合物の良溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;グリコールエーテル類;グリコールエーテルエステル類;芳香族炭化水素類;が好ましく用いられる。
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物における溶媒の含有量は、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは0乃至50質量%である。
【0069】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、塗工性および得られる硬化膜の平滑性、外観を向上させる目的で公知のレベリング剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。これら添加剤の含有量は、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中に好ましくは2質量%以下である。また、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料、フィラーなどを配合してもかまわない。
【0070】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物の基材(被塗物)への塗布方法は、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ローラーコート法、リバースコートあるいはグラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などといったあらゆる塗布、印刷方法が可能であり、基材の形状に応じて適宜選択することができる。
【0071】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、塗料、グラビア印刷インキ、フレキソ印刷インキ、インクジェット印刷インキなどのインキバインダー、およびラミネーション接着剤を含む各種接着剤として使用することができる。本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、公知の活性エネルギー線硬化方法により硬化させることができ、特に紫外線もしくは電子線を用いることが好ましい。
【0072】
活性エネルギー線照射装置の光源として、通常200乃至500nmの範囲の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド灯、ガリウム灯、キセノン灯、カーボンアーク灯等を有するものが使用できるが、350nm以上の波長領域の光を含む光源を用いることが好ましい。活性エネルギー線の積算光量は、用途、膜厚、着色剤の有無、光重合開始剤の種類と量により必要最低積算光量が左右されるため制限はない。これら紫外線、電子線と赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱の併用は効果的である。
【0073】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物の厚みは、通常0.1乃至20μm、好ましくは2乃至10μm、最も好ましくは3乃至8μmである。組成物層の厚みがかかる範囲内で塗布された場合には、硬化時に発生する応力の為に組成物層と基材との密着性が低下したりすることなく、本発明の目的とする十分な硬度、耐擦傷性、耐摩耗性を有する硬化物層が得られる。
【0074】
[硬化膜及び硬化膜の製造方法]
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られる硬化膜の製造方法は、
(a)該活性エネルギー線硬化型組成物を基材に塗布して被膜を形成する工程、
(b)該被膜を第一加熱する工程、
(c)該加熱処理された被膜を露光する工程、及び
(d)該露光された被膜を第二加熱する工程
を含む製造方法である。
【0075】
(a)工程における塗布は、上記したバーコート法等の方法により行われる。塗布後であって、(b)の第一加熱前の膜を本明細書では、被膜という。
(b)工程における第一加熱は、ホットプレートまたはオーブン等の装置により行われ、その条件は通常25乃至150℃で5乃至120分間、好ましくは25乃至100℃で5乃至10分間である。
(c)工程における露光処理は、上記した高圧水銀灯等を用いて行われる。照射量はケイ素系化合物の種類や必須成分の光塩基発生剤の種類及び含有量等に合せて適宣選択すればよいが、通常100乃至1500mJ/cm 程度、好ましくは100乃至500mJ/cm 程度である。
(d)工程における第二加熱は、(b)工程の第一加熱と同様の装置を用いて行えばよく、その条件は通常25乃至150℃で5乃至120分間、好ましくは25乃至100℃で5乃至30分間である。第二加熱後に得られる膜を本明細書では、硬化膜ということにする。
【0076】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は保存安定性、硬化性及び製膜性に優れ、かつその硬化物は耐衝撃性や耐擦傷性に優れるため、携帯電話等の液晶表示画面やタッチパネル等に代表されるハードコート用途等に好適に用いられる。
【実施例
【0077】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものでないことは言うまでもない。また、本実施例において使用する「部」は特定しない限り、「質量部」であることを意味する。
【0078】
<合成例1 式(1)で表される部分構造を有する必須成分の光塩基発生剤1の中間体化合物1の合成>
シアン化カリウム 1.9部に水10部、エタノール53部を加えて溶解させた後、窒素雰囲気下で超音波処理することで反応液の脱気処理を行った。この溶液に4-(メチルチオ)ベンズアルデヒド10部を滴下し、80℃で加温して反応を開始した。30分間撹拌後、反応液を3℃まで冷却して出た結晶を吸引濾過して回収した。回収した固体を大量のエタノールを用いて再結晶により精製し、中間体化合物1を7.6部得た。
【0079】
<合成例2 式(1)で表される必須成分の光塩基発生剤1の中間体化合物2の合成>
攪拌機、還流冷却管及び撹拌装置を備えたフラスコに、パラホルムアルデヒド9.0部とジメチルスルホキシド170部を加え撹拌した。水酸化カリウム1.4部をエタノール5部に溶解させた溶液をフラスコに滴下し、パラホルムアルデヒドが完全に溶解するまで撹拌した。合成例1で得られた中間体化合物1をジメチルスルホキシド30部に溶解させた溶液を30分間かけてフラスコに滴下し、室温で2時間撹拌した。その後35%塩酸2.6部を滴下して中和し、反応を終了させた。この反応溶液にトルエンと飽和食塩水を加えて有機層に抽出し、溶媒留去して中間体化合物2を40部得た。
【0080】
<合成例3 式(1)で表される必須成分の光塩基発生剤1の合成>
合成例2で得られた中間体化合物2 1.0部、トルエン15部及びトリエチルアミン0.3部をフラスコに入れて均一になるまで還流撹拌を行った。続いて室温下でジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアナート0.4部を加え、12時間撹拌を続けた後、冷却してエバポレーターで溶媒を留去した。得られた溶液をシクロヘキサン中に滴下し、30分間撹拌して洗浄し、下記式(IV)で表される光塩基発生剤1を1.0部得た。
【0081】
【化4】
【0082】
<合成例4 比較用の光塩基発生剤5の中間体化合物3の合成>
1,1,3,3-テトラメチルグアニジン11.9部にN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド13.1部を加え、100℃で2時間加熱攪拌した。反応終了後、反応液にヘキサンを加え、5℃まで冷却し、得られた結晶をろ過することにより、中間体化合物3(1,2-ジイソプロピル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニド)8.3部を白色固体で得た。
【0083】
<合成例5 比較用の光塩基発生剤5の合成>
ケトプロフェン7.6部と合成例4で得られた中間体化合物3 7.2部を、メタノール30mLに溶解させ、室温で30分間攪拌した。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、得られた残渣をヘキサンで洗浄後、減圧乾燥することにより、下記式(V)で表される光塩基発生剤5 12.2部を白色固体で得た。
【0084】
【化5】
【0085】
<合成例6 比較用の光塩基発生剤6の中間体化合物4の合成>
攪拌機、還流冷却管及び撹拌装置を備えたフラスコに、4, 5-ジメトキシ-2-ニトロベンジルアルデヒド12.5部、テトラヒドロホウ酸ナトリウム1.5部及びメタノール250部を入れ、室温(23℃)で3時間撹拌した後、飽和塩化アンモニウム溶液38部を加えた。その後、析出した黄色固体をろ過回収し、ろ液にクロロホルム120部を加えて抽出操作を行った後、溶媒を留去して灰色固体を得た。得られた固体を酢酸エチルで再結晶することにより、中間体化合物4(4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジルアルコール)8.4部を黄色固体で得た。
【0086】
<合成例7 比較用の光塩基発生剤6の合成>
合成例6で得られた中間体化合物4 8.9部、トルエン150部及びオクチル酸スズ0.02部をフラスコに入れて均一になるまで還流撹拌を行った。続いて還流下でジシクロヘキシルメタン4、4-ジイソシアナート4.6部を加え、3時間還流を続けた後、冷却してエバポレーターで溶媒を留去した。得られた褐色固体をエタノールで再結晶することにより、下記式(VI)で表される光塩基発生剤6を6.8部得た。
【0087】
【化6】
【0088】
<合成例8 比較用の光塩基発生剤7の中間体化合物5の合成>
中間体化合物1をベンゾインに変更した以外は合成例2と同様にして中間体化合物5を8.1部得た。
【0089】
<合成例9 比較用の光塩基発生剤7の合成>
中間体化合物2を合成例8で得られた中間体化合物5に変更した以外は合成例3と同様にして下記式(VII)で表される光塩基発生剤7を5.3部得た。
【0090】
【化7】
【0091】
(実施例1)
褐色瓶にDPHA(日本化薬社製)0.3部、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名KBM-5103)0.075部、テトラエトキシシラン(関東化学社製)0.3部を加えたのち、合成例3で得られた光塩基発生剤1 0.0175部を添加してMEK0.04部で希釈して本発明の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0092】
(実施例2)
光塩基発生剤1の添加量を0.00125部に変更し、光重合開始剤2(Irg.184)を0.01375部添加した以外は実施例1と同様にして本発明の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0093】
(実施例3)
光塩基発生剤1の添加量を0.0025部に変更し、光重合開始剤2(Irg.184)を0.0125部添加した以外は実施例1と同様にして本発明の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0094】
(実施例4)
光塩基発生剤1の添加量を0.005部に変更し、光重合開始剤2(Irg.184)を0.01部添加した以外は実施例1と同様にして本発明の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0095】
(比較例5)
光塩基発生剤1 0.0175部を光重合開始剤2(Irg.184)0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0096】
(比較例6)
光塩基発生剤1 0.0175部を光重合開始剤3(Irg.369)0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0097】
(比較例7)
光塩基発生剤1 0.0175部を光塩基発生剤4(Irg.OXE-01)0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0098】
(比較例8)
光塩基発生剤1 0.0175部を合成例5で得られた比較用の光塩基発生剤5 0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0099】
(比較例9)
光塩基発生剤5の添加量を0.00125部に変更し、光重合開始剤2(Irg.184)を0.01375部添加した以外は比較例8と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0100】
(比較例10)
光塩基発生剤1 0.0175部を合成例7で得られた比較用の光塩基発生剤6 0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0101】
(比較例11)
光塩基発生剤1 0.0175部を合成例9で得られた比較用の光塩基発生剤7 0.015部に変更した以外は実施例1と同様にして比較用の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0102】
(活性エネルギー線硬化型組成物からなる被膜の作製及び第一加熱)
膜厚100μmの両面易接着PETフィルム(コスモシャインA4300:100 東洋紡績社製)上に、#14のバーコーダーを用いて実施例1乃至4及び比較例5乃至11で得られた各活性エネルギー線硬化型組成物をそれぞれ塗布した後、オーブンを用いて80℃×1分間の加熱処理(第一加熱、露光前ベイク)を行い、溶媒を留去した。
【0103】
(露光処理及び第二加熱)
上記で得られたPETフィルム上の被膜に、ベルトコンベア式高圧水銀灯露光機を用いて1パスの露光量が100mJ/cm(ベルトコンベアから高圧水銀灯までの高さ100mm)の条件で3パスの露光を行った。その後、オーブンを用いて80℃×10分間の加熱処理(第二加熱、露光後ベイク)を行い、各活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物(硬化膜)を得た。
【0104】
実施例1乃至4乃至及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物の組成と、該各組成物又は該各組成物から得られた硬化膜について以下の方法で行った評価の結果を表1に記載した。
【0105】
(評価方法)
(1)溶液の外観:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物の溶液を試験管に満たし、目視で外観を確認した。
(2)硬化膜外観:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られた各組成物の硬化膜の外観について、濁り、艶びけ、ブツ及びクラック等の有無を目視で確認した。
(3)鉛筆硬度:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られた各組成物の硬化膜の鉛筆硬度を、JIS K-5600に準じた方法で750gの加重で測定した。
(4)密着性:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られた各組成物の硬化膜のPETフィルムへの密着性を、JIS K-5600に準じた方法で測定した。
(5)耐擦傷性:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られた各組成物の硬化膜の表面を、#0000スチールウールを用いて1000gの荷重で20回擦った後、表面の傷つき状態を目視で観察して以下の評価基準で評価した。
○;全くキズがついていない
△;わずかにキズがついている
×;明らかなキズがついている
(6)透明性(400nm):
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物を用いて得られた各組成物の硬化膜の透明性を、日本分光社製紫外可視分光光度計V-600を用いて波長400nmの透過率で評価した。
(7)安定性:
実施例1乃至4及び比較例5乃至11の各活性エネルギー線硬化型組成物の溶液を密閉容器に封入し、25℃の恒温室に3ヶ月間放置した後の状態を観察し、以下の評価基準で評価した。
○;全く変化なし
×;顕著な増粘やゲル化
【0106】
【表1】
【0107】
光重合開始剤(光塩基発生剤)の吸光度:
表1記載の光重合開始剤(光塩基発生剤)1乃至7 1.0×10-5molを、THFに10mlに溶解した光重合開始剤(光塩基発生剤)溶液を調整した。ホールピペットを用いて前記の光重合開始剤(光塩基発生剤)溶液1mlを分取し、再びTHFを用いて10mlにメスアップすることにより吸光度評価用の光重合開始剤(光塩基発生剤)希釈液を得た。得られた光重合開始剤(光塩基発生剤)希釈液で満たした光路長10mmの石英セルを用いて光重合開始剤(光塩基発生剤)1乃至7の吸光度を測定し、該吸光度の測定結果に基づいて下記の式によりモル吸光係数εを算出した。吸光度の測定結果を図1に、モル吸光係数εの算出値を表2にそれぞれ示した。
モル吸光係数ε = 吸光度/(光路長 × 光重合開始剤(光塩基発生剤)のモル濃度)
なお、モル吸光係数が500以上ある場合、該化合物は吸収を有すると定義する。
【0108】
【表2】
【0109】
表1の結果より、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物が、比較用の組成物よりも保存安定性に優れ、溶液及び硬化膜の外観に優れ、かつその硬化物が高い硬度を有すると共にPETフィルムへの密着性及び擦傷性に優れ、しかも波長400nmの光の透過率に優れることがわかる。また、表2の結果により、実施例に用いた光重合開始剤は、350nm以上の光吸収帯を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は保存安定性、硬化性及び製膜性に優れ、かつその硬化物は高い硬度を有すると共に基材への密着性及び耐擦傷性に優れるため、携帯電話等の液晶表示画面やタッチパネルなどのハードコート用途等に好適に用いられる。
図1