(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】新しい種類の電子ビーム誘起表面処理技法を使用したナノファブリケーション
(51)【国際特許分類】
C23C 16/04 20060101AFI20220401BHJP
H01J 37/302 20060101ALI20220401BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20220401BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C23C16/04
H01J37/302
H01J37/305 B
H01L21/314 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016173914
(22)【出願日】2016-09-06
【審査請求日】2019-06-19
(32)【優先日】2015-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・ビショップ
(72)【発明者】
【氏名】トゥアン・トロン・トラン
(72)【発明者】
【氏名】イゴール・アハロノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】シャルレーン・ロボ
(72)【発明者】
【氏名】ミロス・トス
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-119524(JP,A)
【文献】特開平07-022359(JP,A)
【文献】特開昭61-094042(JP,A)
【文献】特開平02-000963(JP,A)
【文献】C.K.Harnett et al,Bioactive templates fabricated by low energy electron beam lithograpy of self assembled monolayers,Langmuir,2001年,vol.17,pp.178-182
【文献】Susan L.Brandow,J.Electrochem.Soc.,1997年,Vol.144,No.10,pp.3425-3434
【文献】C.R.K.Marrian,Appl.Phys.Lett.,64(3),pp.390-392
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/04
H01J 37/302
H01J 37/305
H01L 21/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する方法であって、
加工物表面の限局されていない広い領域で第1の加工物表面修飾を実行することであって、第1の加工物表面修飾は、前記加工物表面の限局されていない広い領域を活性化する、ことであり、アミン、チオール、ブロモまたはクロル終端SAM形成分子によって、特定の反応性を有する表面を画定することである、ことと、
電子ビーム・システムの試料室内に前記加工物を装填することと、
前駆体ガスを前記試料室に導入することと、
前記前駆体ガスの存在下で電子ビームを使用して第2の加工物表面修飾を実行することであって、前記第2の加工物表面修飾は、前記加工物表面の限局された特定の領域を不活性化する、ことと
を含み、
前記方法がさらに、
前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させること
を含む方法。
【請求項2】
第1および第2の加工物表面修飾を実行することと、
前記加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることと
の各動作を循環的に繰り返すこと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加工物表面の活性化動作が、前記第1の加工物表面修飾であるのかまたは前記第2の加工物表面修飾であるのかを、後続の加工物表面処理サイクルに関して変更することをさらに含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の加工物表面修飾を原位置プロセスで実行することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の加工物表面修飾を外位置プロセスで実行することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させることが、前記加工物表面の前記活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記活性化された領域上で堆積物を成長させることが、化学気相堆積によって、前記加工物表面の前記活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記活性化された領域上で堆積物を成長させることが、前記加工物表面上の前記活性化された領域上でのみ堆積核生成が起こる湿式プロセスによって、前記加工物表面の前記活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させることが、前記加工物表面にナノ粒子を付着させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の加工物表面修飾が、前記電子ビームの半値全幅(FWHM)サイズよりも小さな分解能で前記表面を改変することをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の加工物表面修飾と前記第2の加工物表面修飾のうちの一方または両方の加工物表面修飾が、表面終端特性の修飾を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
加工物の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する装置であって、
試料ステージを備える試料室と、
前記加工物に向かって1つまたは複数の荷電粒子ビームを導く1つまたは複数の荷電粒子ビーム・カラムと、
ビーム誘起表面修飾に使用する前駆体ガスを前記試料室に導入する前駆体ガス源と、
前記加工物表面の活性化された領域に材料を固着させるシステムと、
荷電粒子ビーム・システムの動作および前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させる前記システムの動作を制御するコントローラであり、コンピュータ命令を実行する1つまたは複数のプロセッサ、および非一時的コンピュータ・メモリを備えるコントローラと
を備え、前記非一時的コンピュータ・メモリが、
第1の加工物表面修飾が実行された後の加工物を受け取る命令と、
前駆体ガスを前記試料室に導入する命令と、
前記加工物表面の限局された特定の領域に適用する第2の加工物表面修飾を、前記前駆体ガスの存在下で電子ビームを使用して実行する命令と
を記憶し、
前記第1の加工物表面修飾が表面活性化であり、前記第2の加工物表面修飾が表面不活性化であり、
前記第1の加工物表面修飾は、アミン、チオール、ブロモまたはクロル終端SAM形成分子によって、特定の反応性を有する表面を画定し、前記加工物表面の限局されていない広い領域を活性化し、
前記第2の加工物表面修飾は、前記加工物表面の限局された特定の領域を不活性化し、
前記非一時的コンピュータ・メモリがさらに、
前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させる命令
を記憶した
装置。
【請求項13】
前記非一時的コンピュータ・メモリが、第1および第2の加工物表面修飾を実行することであって前記第1の加工物表面修飾と前記第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であること、および、前記加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることの各動作を循環的に繰り返す追加の命令を記憶した、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
後続の加工物表面処理サイクルに関して、前記第1の加工物表面修飾、前記第2の加工物表面修飾、および前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させることのうちの1つまたは複数に対して異なるプロセスを使用する追加の命令を、前記非一時的コンピュータ・メモリが記憶した、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記非一時的コンピュータ・メモリが、前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させることが、
前記加工物表面の前記活性化された領域上で堆積物を成長させること
を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記非一時的コンピュータ・メモリが、前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、前記加工物表面の前記活性化された領域に材料を固着させることが、
前記加工物表面にナノ粒子を付着させること
を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記第2の加工物表面修飾は、不活性化される前記加工物表面の限局された特定の領域において前記前駆体ガスを分解するために電子ビームを使用することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体ガスを分解するために電子ビームを使用することは、前記電子ビームの照射量がしきい値を超える場合に前記前駆体ガスを分解することを含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記加工物表面に入射する前記電子ビームの第1部分は、しきい値を超える第1ビーム照射量を有し、前記加工物表面に入射する前記電子ビームの第2部分は、しきい値を超えない第2ビーム照射量を有し、前記電子ビームの前記第2部分が入射する前記加工物表面は不活性化されない、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された電子ビーム処理技法に関し、特に、ナノスケール(nano-scale)の分解能で製造する改良された技法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム誘起堆積(electron beam induced deposition:EBID)は、基板表面に材料を堆積させる目的に使用される技法である。EBIDは、電子ビームと堆積前駆体との相互作用によって基板表面に材料を堆積させる。多くの場合、前駆体はガス、堆積させる材料は金属である。
【0003】
電子ビーム誘起エッチング(electron beam induced etching:EBIE)は、基板の表面を修飾(modification)する別の技法である。EBIEでは、電子ビームが、照射エリアにおいてエッチングを誘起する。このエッチングはしばしば、エッチング前駆体ガスによって支援される。
【0004】
電子ビーム誘起堆積は興味を引く。これは、電子ビーム誘起堆積が、走査電子顕微鏡(SEM)内での直接書込みナノファブリケーション(direct-write nano-fabrication)および高分解能視覚フィードバックを可能にするためである。しかしながら、EBIDの現在の用途は限られている。
【0005】
EBIDの用途が限られているのは、いくつかの問題があることによる。EBIDによって堆積させた材料は通常、意図した堆積物の純度が低く、それによって、より純粋な堆積物に比べて電気抵抗が高いなどの問題が生じる。EBIDによって堆積させた材料はさらに、好ましくないナノ構造/マイクロ構造を有する傾向があり、例えば、堆積させた材料がしばしば多結晶である。EBIDの限界にはこの他、現時点で堆積させることができる材料または化合物の数が限られていることがある。特定の材料の堆積には適切な堆積前駆体が必要であり、いくつかの材料に関してはそのような堆積前駆体が存在しない。EBID前駆体は、電子ビームの存在下で反応して、堆積させる材料の不揮発性成分および堆積させない前駆体化合物中の材料の揮発性部分を形成しなければならず、しかしビームがない状態で表面と自発的に反応してはならない。前駆体分子は、ビームが相互作用することを可能にするために表面に十分に密着しなければならないが、表面で濃縮して、表面を見えにくくする厚い層を形成してはならない。
【0006】
化学気相堆積(CVD)法、湿式化学技法などの他の技法によって材料を堆積させることもできる。このような方法は、選択的堆積を実行することができる最小特徴部分のサイズによって制限される。
【0007】
EBIDの1つの用途は、直接書込み単一ステップ電子ビーム・リソグラフィである。従来の電子ビーム・リソグラフィ(electron beam lithography:EBL)は、電子照射に対して感応性のレジスト層を使用する。このレジスト層は、照射後の現像ステップによって選択的に除去されて(ポジ型レジスト)または選択的に除去されないで(ネガ型レジスト)、リソグラフィ・パターンを画定する。次いで材料を広域的に堆積させ、レジストを除去して、現像中にレジストが除去されたエリアのみに堆積物を残す。
【0008】
EBLの分解能は、レジスト層内の電子ビーム相互作用体積のサイズによって制限され、達成可能な分解能は、レジスト層の厚さが低下するにつれて向上する。非常に薄いレジスト層の限界においては、良好に画定された高分解能特徴部分を製造ステップ後に残すためにこの層を適切に除去することに関する実際的な重大な問題が生じる。EBLを用いた多ステップ処理は、多数のレジスト・コーティング・ステップおよび除去ステップが含まれるため非常に難しい。レジスト層はさらに、基板上の位置合せマークを見えにくくする傾向があり、このことは多ステップEBLをさらに困難にする。
【0009】
Marbach、「Electron beam induced surface activation:a method for the lithographic fabrication of nanostructures via catalytic processes」、Applied Physics A、第117巻、第3号、987~995ページ(2014年)は、基板上に堆積させる2ステップ法を記載している。Marbachは、前駆体分子の存在なしに表面を活性化し、続いて、別個のステップで、活性化された領域上に材料を堆積させる。この方法の用途は限られている。これは、前駆体ガスを使用しないで活性化させた領域上で成長させることができる材料の数が限られているためである。加えて、複雑な多成分材料およびデバイスを製造するのに必要な反復堆積に対してこのMarbachの方法を適用することはできない。
【0010】
別のツーステップ堆積プロセスが、Mackus他、「Local deposition of high-purity Pt nanostructures by combining electron beam induced deposition and atomic layer deposition」、J.Appl.Physics、第107巻、116102-116102-3、(2010年)に記載されている。Mackusでは、EBIDによって白金シード層を堆積させることにより基板を活性化し、続いてこのシード層上に白金原子層を選択的に堆積させる。このツーステップ・プロセスは、白金の選択的成長を提供するが、金属シード層上で成長させることができる材料は限られている。このプロセスは、複雑な多成分構造体を製造するのに必要なこの技法の反復的適用に関しても制限される。
【0011】
Randolph他、「Local deposition of high-purity Pt nanostructures by combining electron beam induced deposition and atomic layer deposition」、Particle、第30巻、672~677ページ(2013年)は、表面を電子ビーム・フッ素処理し、続いてCVDステップを実施することによって白金を堆積させる方法を記載している。このCVDステップでは、Pt(PF3)4前駆体とXeF2前駆体とを混合して、フッ素処理された表面へのPtの限局された堆積を達成する。多結晶多孔質Pt以外の材料の堆積に対してこのプロセスを使用することができるかどうかについては分かっていない。
【0012】
Djenizian他、「Electron-Beam Induced Nanomasking for Metal Electrodeposition on Semiconductor Surfaces」、J.Electrochem.Soc.、第148巻、第3号、C197~C202ページは、SEMシステム内の残留炭化水素汚染物を使用した基板上への炭素のEBIDによって「ネガ型レジスト」を生み出す方法を記載している。EBIDによって堆積させたこの炭素は、後続のステップでのAuの電着を選択的に阻止する。このDjenizianの方法は、上記のMackusのプロセスと同じ理由で用途が限られている。
【0013】
高品質の機能性材料の選択的ナノ堆積のための改良された技法であって、改良された分解能、製造の容易さ、より少数の処理ステップ、および複数回の処理サイクルを実行する能力を有する技法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Marbach、「Electron beam induced surface activation:a method for the lithographic fabrication of nanostructures via catalytic processes」、Applied Physics A、第117巻、第3号、987~995ページ(2014年)
【文献】Mackus他、「Local deposition of high-purity Pt nanostructures by combining electron beam induced deposition and atomic layer deposition」、J.Appl.Physics、第107巻、116102-116102-3、(2010年)
【文献】Randolph他、「Local deposition of high-purity Pt nanostructures by combining electron beam induced deposition and atomic layer deposition」、Particle、第30巻、672~677ページ(2013年)
【文献】Djenizian他、「Electron-Beam Induced Nanomasking for Metal Electrodeposition on Semiconductor Surfaces」、J.Electrochem.Soc.、第148巻、第3号、C197~C202ページ
【文献】Nicole Herzer、Stephanie HoeppenerおよびUlrich S Schubert、「Fabrication of patterned silane based self-assembled monolayers by photolithography and surface reactions on silicon-oxide substrates」、Chemical Communications、46(31):5634-19、2010年
【文献】Claudia Haensch、Stephanie HoeppenerおよびUlrich S Schubert、「Chemical modification of self-assembled silane based monolayers by surface reactions」、Chemical Society Reviews、39(6):2323-12、2010年
【文献】Rachel K Smith、Penelope A LewisおよびPaul S Weiss、「Patterning self-assembled monolayers」、Progress in Surface Science、75(1-2):1~68ページ、2004年6月
【文献】C.K.Harnett、K.M.SatyalakshmiおよびH.G.Craighead、「Bioactive Templates Fabricated by Low-energy Electron Beam Lithography of Self-Assembled Monolayers」、Langmuir、17(1):178~182ページ、2001年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、改良された電子ビーム処理を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、シリコン、酸化物、貴金属基板などの基板の表面化学の電子ビーム誘起改変に基づいてリソグラフィ・パターンを直接に画定する方法およびシステムを提供する。ナノスケールの表面化学ベース直接電子ビーム・リソグラフィ(surface chemistry based direct electron beam lithography:SCDEBL)の方法が提供される。この方法は、指定された表面化学(surface chemistry:SC)を加工物上に広域的に形成する最初の化学処理を含む。次いで、第2の加工物表面修飾ステップにおいて、このSCを、気体前駆体と表面との間の電子ビーム誘起表面反応を使用して局所的に改変する。このようにすると、基板上での指定された安定した表面化学の高分解能パターン形成を、いくつかのステップで達成することができる。次いで、画定されたそれらのパターンを利用して、SCのある種の組合せの特異性(specificity)を利用する方法を介した選択的材料製造または堆積、もしくは、表面エネルギーの差による選択的材料製造または堆積を達成することができる。いくつかの実施形態では、全てのステップが原位置(in-situ)で真空破壊されることなく実行される。さまざまな実施形態が、最終的な分解能の増大、およびEBLベースのナノファブリケーション技法の高い分解能での製造の容易さの増大、ならびに必要な処理ステップ数の減少を可能にする。
【0017】
好ましい変形例は、表面終端を制御することによって(例えばEBIDによってシード金属層を堆積させることによらずに)、最初の広域的表面化学修飾および第2の局所的表面化学修飾を達成する。このプロセスは、不活性化された表面領域と活性化された表面領域との間の表面エネルギーの差を最大にすることによって最適化することができる。
【0018】
一実施形態は、表面の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する方法であって、加工物上で実施され、電子ビーム・システムの試料室内で原位置で実施することができ、または外位置(ex-situ)で実施されるステップを有することができる方法を提供する。この方法は、加工物表面の限局されていない広い領域を活性化または不活性化する第1の加工物表面修飾を実行することを含む。次いで、この方法は、前駆体ガスを試料室に導入することと、加工物表面の限局された特定の領域を活性化または不活性化する第2の加工物表面修飾を、前駆体ガスの存在下で電子ビームを使用して実行することとを含む。第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾は表面活性化であり、一方は表面不活性化である。次に、この方法は、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる。
【0019】
いくつかの変形例では、第1の加工物表面修飾が表面活性化であり、第2の加工物表面修飾が選択的表面不活性化である。他の変形例では、第1の加工物表面修飾が表面不活性化であり、第2の加工物表面修飾が選択的表面活性化である。いくつかの変形例は、このプロセスを反復し、または第1および第2の加工物表面修飾を実行することであって第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であることと、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることとを、循環的に繰り返す。いくつかの反復では、このプロセスが、加工物表面活性化動作が、第1の加工物表面修飾であるのかまたは第2の加工物表面修飾であるのかを、後続の加工物表面処理サイクルに関して変更することがある。
【0020】
いくつかの実施形態は、第1の加工物表面修飾を原位置プロセスで実行し、いくつかの実施形態は外位置プロセスを使用する。いくつかの実施形態では、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。これは、化学気相堆積によって、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させること、または、加工物表面上の活性化された領域上でのみ堆積核生成が起こる湿式プロセスによって、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含むことができる。いくつかの実施形態では、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面にナノ粒子または特定の分子を付着することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が、加工物表面に自己集合単分子層を形成することを含む。いくつかの実施形態では、第2の加工物修飾が、電子ビームの半値全幅(full width half maximum:FWHM)サイズよりも小さな分解能で表面を改変することをさらに含む。いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方または両方の加工物表面修飾が、表面終端特性の修飾を含む。いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が、加工物表面に単分子層を堆積させることを含み、第2の加工物表面修飾が、単分子層の選択的除去を含む。
【0022】
加工物の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する装置であって、試料ステージを備える試料室と、加工物に向かって1つまたは複数の荷電粒子ビームを導く1つまたは複数の荷電粒子ビーム・カラムと、ビーム誘起表面修飾に使用する前駆体ガスを試料室に導入する前駆体ガス源と、加工物の表面の活性化された領域に材料を固着させるシステムと、荷電粒子ビーム・システムの動作および加工物表面の活性化された領域に材料を固着させるシステムの動作を制御するコントローラであり、コンピュータ命令を実行する1つまたは複数のプロセッサ、および非一時的コンピュータ・メモリを備えるコントローラとを備え、第1の加工物表面修飾が実行された後の加工物を受け取ることと、前駆体ガスを試料室に導入することと、加工物表面の限局された特定の領域に適用する第2の加工物表面修飾を、前駆体ガスの存在下で電子ビームをして実行することを含むこととを含み、第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であり、一方が表面不活性化であり、さらに、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることを含む各動作を実行する命令を、この非一時的コンピュータ・メモリが記憶した、装置も提供される。
【0023】
さまざまな実施形態において、上で論じたさまざまな方法ステップを実行する命令を含むように、この装置をさらにプログラムすることができる。いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、第1および第2の加工物表面修飾を実行することであって第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であることと、加工物表面に活性化された領域に材料を固着させることの各動作を循環的に繰り返す追加の命令を記憶している。いくつかの実施形態では、後続の加工物表面処理サイクルに関して、第1の加工物表面修飾、第2の加工物表面修飾、および加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることのうちの1つまたは複数に対して異なるプロセスを使用する追加の命令を、非一時的コンピュータ・メモリが記憶している。いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面にナノ粒子を付着させることを含む。
【0024】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより十分に理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなりおおまかに概説した。以下では、本発明の追加の特徴および追加の利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明の同じ目的を達成するために他の構造体を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造体は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は理解すべきである。
【0025】
次に、本開示および本開示の利点のより完全な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】いくつかの実施形態に基づく方法を実行する一般化されたプロセスの流れ図である。
【
図1B】
図1Aのブロックに関する選択可能ないくつかの技法を示す流れ図である。
【
図3】本発明に基づく方法を実施するように装備された例示的なデュアル・ビームSEM/FIBシステムの一実施形態の略図である。
【
図4A】一実施形態に基づく例示的なSCDEBLプロセスを示す、順を追った一連の加工物断面図である。
【
図4B】他の実施形態に基づく例示的な他のSCDEBLプロセスを示す、同様の一組の順を追った一連の図である。
【
図5】タングステンの限局されたCVD成長を実行する一実施形態によるプロセス結果を示す、順を追った一連のSEM画像である。
【
図6】金(Au)線の限局されたCVD成長を実行する一実施形態によるプロセス結果を示す一連の画像である。
【
図7】薄いEBID a-C(無定形炭素)層の選択的EBIEを利用するSCDEBL機構を用いてタングステンの限局されたCVDを実行する一実施形態によるプロセス結果を示すSEM画像である。
【
図8】EBIDによって堆積させた表面を、CVD反応を触媒する目的に使用して、低純度EBIDシードの上に高純度材料を堆積させる例を示す図である。
【
図9A】高分解能化学リソグラフィ用の擬似レジストとしてSAMを使用する処理概要を示す断面図である。
【
図9B】高分解能化学リソグラフィ用の擬似レジストとしてSAMを使用する処理概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、電子ビーム誘起化学反応を使用して、酸化物基板または貴金属基板上に、改変された表面化学(SC)のナノスケール領域を画定する、いくつかの技法を説明する。説明するシステムのいくつかは、最終的な分解能の増大、およびEBLベースのナノファブリケーション技法の高い分解能での製造の容易さの増大、ならびに必要な処理ステップ数の減少を可能にする。
【0028】
図1Aは、いくつかの実施形態に基づく方法を実行する一般化されたプロセスの流れ図である。
図1Bは、
図1Aのブロックに関する選択可能な例示的ないくつかの技法を示す流れ図である。これらの両方の図を参照すると、ナノスケールの表面化学ベース直接電子ビーム・リソグラフィ(SCDEBL)のための処理スキームの全体が示されている。このスキームは、主要な3つの処理ステップからなることが好ましく、気体前駆体分子と特定の基板表面との間の電子ビーム誘起表面反応を使用することが好ましい。この機構、ならびに製造プロセス後にレジスト剥離ステップが実施されないこと、および反復多ステップ処理に対する適用可能性が増大することが、従来のEBLからの改良を提供するのに役立つ。このことは、レジスト層内での電子照射誘起反応に依存し、気体前駆体を使用しないレジスト・ベースの従来の多くのEBLプロセスと対照をなす。
【0029】
この実施形態のプロセス100は主要な3つのステップを含み、ブロック102の加工物の表面化学の第1の修飾から始まる。この第1の修飾は、化学処理を使用して基板上に特定の広域SCを画定することが好ましい。これは、清浄な基板表面と化学種との間の溶液相ベースまたは気相ベースの反応とすることができる。この処理は、画定されたSCを与える単一の反応または一連の反応とすることができる。この修飾は、後続の電子ビーム処理を実行する領域のサイズに比べて大きな領域上で、電子ビーム処理を実行する領域全体が修飾されるような態様で実行される。この表面修飾は、活性化修飾または不活性化修飾とすることができる。
【0030】
図1Bを参照すると、ブロック102の技法の選択可能な特定の例が示されている。ブロック102aでは、このプロセスが、H、F、O、OH、NH
xなどの種で表面を終端する原位置プラズマ・プロセスを使用する。または、ブロック102bでは、このプロセスが、外位置湿式化学技法または原位置蒸気相自己集合技法を使用した自己集合単分子層(SAM)の堆積を実行する。ブロック102cに示された別の選択肢では、外位置酸洗浄を使用して、表面を水素またはフッ素で終端する。
【0031】
再び
図1Aを参照する。次に、ブロック104で、集束電子ビームによる照射を使用して、前駆体分子とブロック102で修飾した加工物表面との間の反応を誘起する。この前駆体分子と加工物表面との間の反応は、その前の修飾を改変する役目を果たす。このブロックは一般に、特定の気体前駆体種が存在する真空室内で実行されて、改変されたSCのパターンを基板上に画定する電子ビーム処理ステップを含む。電子照射は、前駆体分子と基板表面との間の表面反応を誘起する。この第2の加工物修飾は、ガウス電子ビーム(Gaussian electron beam)の半値全幅(FWHM)サイズよりも小さな分解能で表面を改変することを含むことができる。
【0032】
ブロック104を実行するのに適した技法の非限定的ないくつかの例が、
図1Bのブロック104aおよび104bに示されている。オプション104aでは、このプロセスが、H
2O、O
2、NH
3、NF
3などの前駆体ガスの存在下で試料に電子ビームを照射することによって、表面終端を局所的に変えることができる。このような表面改変は、しきい照射量を受けた領域だけに限定される。この電子照射誘起表面反応(electron irradiation iduced surface reaction:EIISA)を、基板の表面終端(すなわち単原子層)の改変だけに限定することができる。オプション104bに示されているように、このプロセスが、薄層を堆積させる電子ビーム誘起堆積(EBID)を使用することもできる。または、ブロック104cでは、このプロセスが、ガス支援電子ビーム誘起エッチングを使用してSAMを局所的にエッチングすることもできる。
【0033】
次に、ブロック106で、表面化学によってまたは表面エネルギーの相対的な差によって限局された領域に材料を堆積させまたは付着させる、材料製造ステップを実施する。例えば、ブロック102で表面を活性化し、次いでブロック104で表面の選択された領域を不活性化した場合には、ブロック106で、不活性化されずに残った表面の活性化された領域上に材料を堆積させ、ブロック104で不活性化した領域上には堆積物を実質的に堆積させないことができる。このステップのための技法の非限定的ないくつかの例が、ブロック106a、106b、106c、106dおよび106eに示されている。
【0034】
ブロック106aでは、このプロセスが、薄膜を堆積させる物理気相堆積(PVD)プロセスと、その後に実施する、溶液中での超音波処理などの除去ステップとを含むことができる。異なるSC領域間の密着強さの違いによって、このプロセスは、この膜を選択的に除去することができる。ブロック106bでは、このプロセスが、活性化された表面領域上でのみ材料の成長が起こる温度窓を使用することにより、原位置または外位置化学気相堆積(CVD)によって材料を成長させることができる。このようなCVDプロセスは、吸着した気体前駆体分子の表面触媒反応に依存することができる。ブロック104で異なるSCが形成された結果、さまざまな領域間でCVD成長速度が異なる。その結果、最適化された条件で、限局されたCVD成長を達成することができる。ブロック106cに示されている次のオプションは、SCに依存した溶液相材料堆積プロセスである。このブロックは、ある種のSCに依存した無電解めっきプロセスを使用して、自触媒堆積反応を開始することができる。ブロック106dの別の選択肢では、活性化された表面領域上でのみ核生成が起こるSCに依存した原位置蒸気相材料堆積プロセスを使用して材料を成長させる。このブロックは、指定されたSCに依存した原子層堆積(atomic layer deposition:ALD)を実行して、2つの半反応のサイクルで実行される自触媒反応の最初の半反応を開始する。ブロック106eに示されている別のオプションでは、このプロセスが、湿式化学法を使用して、活性化された表面領域にナノ粒子(例えば量子ドット)を、共有結合を介して付着させることができる。これは、SCに依存した溶液ベースの分子付着プロセスを提供する。このある種のSCの電子ビーム誘起パターンを、生体分子、ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノリボンまたは他のナノ構造体もしくは分子を適切な化学反応によって共有結合させる目的に適用することができる。
【0035】
本明細書を検討すれば、それぞれのブロックの表面修飾のための可能な方法の可能な多くの組合せがあることを当業者は理解するであろう。さらに、以下の説明から理解することができるように、このプロセスを、変更を加えながら反復または繰り返して、多数の層を有する複雑な構造体を生み出すことができる。
【0036】
図2は、他の実施形態に基づくプロセス200の流れ図を示す。示された流れ図は、上で論じた諸ステップを使用した反復プロセスを提供する。示されているように、加工物表面を活性化することまたは不活性化することから、さまざまな反復プロセスを開始することができる。いくつかの変形例は、最初に活性化を実施する左側に示された枝から始め、次いで、繰返しでは、最初に不活性化を使用する右側に示された枝に沿って進む。いくつかのプロセスはこれとは逆の順序で進む。同じ枝を連続して2回以上繰り返すこともできる。示されているように、このプロセスはブロック202から始まり、ブロック202では、ブロック204から始まる選択的表面処理のために加工物の準備をする。
【0037】
このプロセスは次いでブロック206に進むことができ、ブロック206では、第1の加工物表面修飾を実行して、後のブロックでの材料堆積のために表面を活性化する。この第1の加工物表面修飾は、表面の比較的に大きな領域に適用され、ブロック102に関して上で説明した適切な技法を使用することができる。ブロック208で、ブロック104に関して上で説明した適切な任意の技法を使用して、前駆体ガスを使用した第2の加工物表面修飾を、試料表面に適用する。電子ビームの存在下で前駆体ガスを分解して、ブロック206で適用した表面修飾を、表面を不活性化するように改変する。第2の加工物表面修飾は電子ビームを用いて実行されるため、特徴部分の最小サイズは非常に小さく、表面修飾を、高い正確さおよび精度で特定の領域に限局することができる。さらに、前駆体ガスの分解およびそれに関連したガス支援表面修飾は、ビーム照射量がしきい値よりも高い場所でのみ起こることができ、このことは、修飾を実行する領域のさらなる制御を可能にする。この表面改変は、表面エネルギー、表面の化学官能基性、表面の酸化状態、もしくは表面における自己集合単分子層の存在の改変、または後の材料堆積に関して表面特性を改変する他の技法とすることができる。
【0038】
再びブロック204を参照する。このプロセスは、最初の反復でまたは後続の任意の反復で、ブロック206へ進まずに、ブロック212から始まる右側に示された枝へ進むことができる。ブロック212および214はブロック206および208と似ているが、ブロック212では、大面積の表面修飾が不活性化ステップであり、ブロック214では、限局された表面修飾が活性化ステップである点が異なる。
【0039】
ブロック208または214の後はブロック210へ進む。ブロック210では、ブロック106に関して上で説明した技法などの適切な任意の技法を使用して、加工物表面の活性化された領域において材料を成長させ、活性化された領域に材料を堆積させ、または活性化された領域に材料を付着させる。この材料は、金属、半導体、絶縁体、量子ドット等のナノ構造体、または他の材料とすることができる。さまざまな実施形態では、物理気相堆積(PVD)、化学気相堆積(CVD)、溶液相材料堆積プロセス、自触媒堆積プロセス、原子層堆積(ALD)、分子付着プロセス、または加工物の表面特性に基づいて材料を選択的に堆積させることができる他の材料堆積プロセスによって、材料を堆積させることができる。
【0040】
加工物表面において材料を成長させ、加工物表面に材料を堆積させ、または加工物表面に材料を付着させた後に、このプロセスは判断ブロック216へ進む。選択的表面処理が完了した場合、このプロセスはブロック218で終了となる。選択的表面処理が完了していない場合、このプロセスはブロック204に戻って、加工物表面修飾と材料成長/付着とからなる別のサイクルを開始することができる。後続のサイクルは、ステップごとに異なる技法を使用することができ、および/または異なる材料を堆積させることができ、または以前のサイクルと同じとすることができ、またはそれらの組合せとすることができる。
【0041】
本明細書を検討すれば、本明細書に提供されたSCDEBLプロセスが、レジスト・ベースの従来のEBLに比べて、いくつかの利点を有することを理解することができる。分解能(最小特徴部分の幅)を向上させることができる。従来のEBLを用いて非常に高分解能の材料堆積を達成するためには、非常に薄いレジスト層を使用する必要があり、このことは、いくつかの実際的な問題を導入する。例えば、薄いレジスト層は、リフトオフ(lift-off)ステップ中に壊れやすい。さらに、本明細書のSCDEBL技法は通常、電子ビームと吸着前駆体分子とによって誘起される直接表面反応に依存する。このことは、ビーム直径よりも小さな寸法の表面改変を生み出す手順を可能にする(ガウス・プロファイルを有する集束電子ビームについては、直径が、プロファイルの半値全幅(FWHM)としてとられる)。これが可能になるのは、十分な表面改変を達成するしきい電子照射量が存在し、それよりも低い電子束を受け取った領域は「活性化されていない」状態に留まることがあるためである。したがって、本明細書の技法は、集束電子ビーム・プロファイルのFWHMよりも小さな領域内で表面を改変する方法を提供する。
【0042】
本明細書の技法はさらに、多ステップ処理が必要な場合に有利である。通常は多数のレジスト・コーティング・ステップおよびレジスト除去ステップを含む従来のEBLを用いた多ステップ処理は、極端に難しくなりうる。さらに、レジスト層によってしばしば、基板上の位置合せマークが見えにくくなり、このことにより、従来のEBLを使用した多ステップ処理に、追加のステップまたは追加の困難が加わる。SCDEBLでは、基板表面自体がレジスト層の役割を果たし、表面化学が改変されずに残っている限りは、さらなるパターン形成ステップが可能なはずである。本明細書に記載されたプロセスに関しては通常、レジスト層が不要であり、したがって位置合せマークが見えにくくなることがない。
【0043】
図4Aは、一実施形態に基づく例示的なSCDEBLプロセスを示す、順を追った一連の加工物断面図を示す。ある種の広域表面化学を広域的に画定するために使用される表面処理402によって示されているように、加工物基板401に対して第1の加工物表面化学修飾が実行される。次に、前駆体分子404の存在下での電子ビーム403の照射が、気体前駆体分子404と基板401との間の反応を誘起するときに、第2の加工物表面化学修飾が実行される。ビーム403は、基板表面に沿って導かれて、ビーム誘起反応に起因する改変された表面化学(SC)のナノスケール領域406のパターンを形成する。次いで、改変されたSCのこの高分解能パターンが、SCに依存した後続の材料製造プロセスを限局することができる。次の断面図は、材料製造プロセスを示す。限局された領域408は、化学気相堆積(CVD)前駆体からのCVDのより高い速度を有し、このCVDが、パターン406の上に構造体408を形成する。異なるエネルギーの異なる表面上では堆積速度が異なること、および、いくつかの変形例では、パターンが、上で説明した不活性化によって形成されるのかまたは活性化によって形成されるのかによって、パターン形成されていない領域の上に堆積した構造体が現れることがある(反転パターン)ことに留意されたい。
【0044】
図4Bは、他の実施形態に基づく例示的な他のSCDEBLプロセスを示す、同様の一組の順を追った一連の図を示す。最初の2つのステップは、
図4Aに関して説明したステップと同じである。材料製造ステップである第3のステップは、ある種のSCに対して特異的な後続の反応を使用して、化学種の共有結合性の付着を実行する。示されているように、水溶液中の試薬R(aq)を、パターン形成された加工物基板表面の上に流す。それによって、表面のパターン形成された領域に試薬Rが結合し、それによってパターン406の上に材料410を製造する。この場合もやはり、パターンが結合するのではなしに、パターン形成されていない領域が結合するように、プロセスを設計することができる。示されているように、この加工物基板表面は、不活性化された領域Yと対照をなす活性化された領域Xの表面化学パターンを示す。試薬がRである場合、試薬は、X+R→XRは可能だがY+R→YRは可能でないように選択され、パターン形成された領域のみへの共有結合性の付着を提供する。
【0045】
図3は、本発明に基づく方法を実施するように装備された例示的なデュアル・ビームSEM/FIBシステム302の一実施形態の略図である。いくつかの変形例では、デュアル・ビーム・システムが必要なく、ガス供給源を備える適切な真空室を有するものであれば、SEMだけが必要である。適切なデュアル・ビーム・システムは例えば、本出願の譲受人である、米オレゴン州HillsboroのFEI Companyから市販されている。適切なハードウェアの一例を以下に示すが、本発明は、特定のタイプのデュアル・ビーム装置で実現することだけに限定されない。システム・コントローラ338は、デュアル・ビーム・システム302のさまざまな部分の動作を制御する。従来のユーザ・インタフェース(図示せず)にコマンドを入力することにより、ユーザは、システム・コントローラ338を介して、イオン・ビーム352または電子ビーム316で希望通りに走査することができる。本発明の好ましい実施形態では、本明細書で論じられている技法を、プログラムされた命令に従って自動的にまたは技術者の制御下で実行するように、システム・コントローラ338がデュアル・ビーム・システム302を制御する。
【0046】
デュアル・ビーム・システム302は、垂直に取り付けられた電子ビーム・カラム304と、垂直から約52度の角度に取り付けられた集束イオン・ビーム(FIB)カラム306とを、排気可能な試験体室308上に有する。試験体室は、ポンプ・システム309によって排気することができる。ポンプ・システム309は通常、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、イオン・ゲッタ・ポンプ、スクロール・ポンプおよび公知の他のポンピング手段のうちの1つもしくは複数のポンプ、またはこれらのポンプの組合せを含む。
【0047】
電子ビーム・カラム304は、ショットキ放出器、冷陰極電界放出器などの電子を発生させる電子源310、ならびに微細集束電子ビーム316を形成する電子-光学レンズ312および314を含む。電子源310は通常、通常はグランド電位に維持される加工物318の電位よりも500Vから30kV高い電位に維持される。
【0048】
したがって、電子は、約500eVから30keVの入射エネルギーで加工物318に衝突する。電子と加工物表面との相互作用体積を小さくする電子の入射エネルギーを低減させ、それによって核生成部位のサイズを小さくするために、加工物に負の電位を印加することができる。加工物318は例えば、半導体デバイス、マイクロエレクトロメカニカル・システム(MEMS)またはリソグラフィ・マスクを含むことができる。加工物318の表面に電子ビーム316の衝突点を配置することができ、偏向コイル320によって電子ビームの衝突点で加工物318の表面全体を走査することができる。レンズ312、314および偏向コイル320の動作は、走査電子顕微鏡電源および制御ユニット322によって制御される。レンズおよび偏向ユニットは、電場、磁場またはこれらの組合せを使用することができる。
【0049】
加工物318は、試験体室308内の可動ステージ324上にある。ステージ324は、水平面(X軸およびY軸)内で移動し、垂直に(Z軸)移動し、約60度傾き、Z軸を軸に回転することができることが好ましい。X-Y-Zステージ324上に加工物318を挿入するため、および内部ガス供給リザーバ(図示せず)が使用される場合には内部ガス供給リザーバの整備作業のために、扉327を開くことができる。試験体室308を排気する場合に開かないように、この扉はインタロックされる。
【0050】
真空室には、複数(示されているのは2つ)のガス注入システム(gas injection system:GIS)330が取り付けられている。GISはそれぞれ、前駆体または活性化材料を保持するリザーバ(図示せず)、および加工物の表面にガスを導くための針332を備える。GISはそれぞれさらに、加工物への前駆体材料の供給を調節する手段334を備える。この例では、この調節手段が調整可能な弁として示されているが、調節手段は例えば、前駆体材料を加熱して前駆体材料の蒸気圧を制御する調節された加熱器を含むこともできる。
【0051】
電子ビーム316中の電子が加工物318に当たると、2次電子、後方散乱電子およびオージェ電子が放出され、これらの電子を検出して、画像を形成し、または加工物についての情報を決定することができる。例えば2次電子は、低エネルギーの電子を検出することができるエバーハート-ソーンリー(Everhard-Thornley)検出器、半導体検出器デバイスなどの2次電子検出器336によって検出される。TEM試料ホルダ318およびステージ324の下に位置するSTEM検出器362は、TEM試料ホルダ318上に取り付けられた試料318を透過した電子を集めることができる。検出器336、362からの信号はシステム・コントローラ338へ送られる。前記コントローラ338はさらに、偏向器信号、レンズ、電子源、GIS、ステージおよびポンプ、ならびにこの機器の他の構成要素を制御する。モニタ340は、ユーザ制御を表示し、前述の信号を使用して加工物の画像を表示するために使用される。
【0052】
室308は、真空コントローラ341の制御の下、ポンプ・システム309によって排気される。この真空システムは、室308に約3×10-6ミリバールの真空を提供する。適切な前駆体ガスまたは活性化剤ガスを試料表面に導入すると、室のバックグラウンド圧力は一般に約5×10-5ミリバールまで上昇することがある。
【0053】
集束イオン・ビーム・カラム306は、イオン源346および集束カラム348がその内部に位置する上ネック部344を備え、集束カラム348は、引出し電極350および静電光学系を含み、静電光学系は対物レンズ351を含む。イオン源346は、液体金属ガリウム・イオン源、プラズマ・イオン源、液体金属合金源または他の任意のタイプのイオン源を含むことができる。集束カラム348の軸は、電子カラムの軸から52度傾いている。イオン・ビーム352は、イオン源346から、集束カラム348を通り、静電偏向器354間を通過して、加工物318に向かって進む。
【0054】
FIB電源および制御ユニット356は、イオン源346の電位を供給する。イオン源346は一般に、一般にグランド電位に維持される加工物の電位よりも1kVから60kV高い電位に維持される。したがって、イオンは、約1keVから60keVの入射エネルギーで加工物に衝突する。FIB電源および制御ユニット356は偏向板354に結合される。偏向板354は、イオン・ビームが、加工物の上面に、対応するパターンをトレースすることを可能にする。当技術分野ではよく知られているとおり、システムによっては、最後のレンズよりも前に偏向板が置かれる。イオン・ビーム集束カラム348内のビーム・ブランキング電極(図示せず)は、FIB電源および制御ユニット356がブランキング電極にブランキング電圧を印加したときに、イオン・ビーム352を、加工物318ではなくブランキング絞り(図示せず)に衝突させる。
【0055】
イオン源346は一般に、一価の正のガリウム・イオンのビームを発生させ、このビームは、イオン・ミリング、強化エッチング、材料堆積によって加工物318を修飾するため、または加工物318を画像化するために、加工物318の位置において幅1/10マイクロメートル以下のビームに集束させることができる。
【0056】
米テキサス州DallasのOmniprobe,Inc.のAutoProbe200(商標)、ドイツReutlingenのKleindiek NanotechnikのModel MM3Aなどのマイクロマニピュレータ(micromanipulator)357は、真空室内の物体を精密に移動させることができる。真空室内に配置された部分359のX、Y、Zおよびθ制御を提供するため、マイクロマニピュレータ357は、真空室の外側に配置された精密電動機358を備えることができる。マイクロマニピュレータ357に、細いプローブ360などの別のエンド・エフェクタを取り付けることができる。
【0057】
図3は略図であり、この図は、単純にするために、典型的なデュアル・ビーム・システムの全ての要素は含んでおらず、それらの全ての要素の実際の外観およびサイズまたはそれらの全ての要素間の関係を反映してはいないことに留意すべきである。
【0058】
H-t Siの電子ビーム誘起酸化
図5は、タングステンの限局されたCVD成長を実行する一実施形態によるプロセス結果を示す、順を追った一連のSEM画像である。この例示的なプロセスは、水素終端Si基板(H-t Si基板)の電子ビーム誘起酸化を用いる本明細書のSCDEBL処理スキームを使用する。第1の表面修飾は、フッ化水素(hydrofluoric:HF)酸を用いたSi基板のエッチングである。このHF処理は、Si表面から自然酸化物(SiO
x)層を除去し、Si表面を、水素原子層で終端された状態にする。H-t Si表面はSiO
x表面よりも反応性が低く、したがって、このHF処理は、広域的表面不活性化処理であると考えることができる。
【0059】
これらの画像は、第2の表面修飾の電子照射後のこのプロセスの材料製造段階の時間を追った一連の画像であり、0分、12.5分、17.5分、20分、22.5分および25分における製造プロセスを示す。これらの図から分かるように、H-t Si(111)表面に、前駆体W(CO)6からのタングステンが局所的にCVD成長している。これらの長方形は、O2ガスの存在下で電子を照射することによって酸化させた領域であり、電子照射量は、左上から時計回りに増大している。Wの成長は、H-t Siに比べ、SiOx表面ではるかに速く起こる。
【0060】
図6は、
図5に関して論じたSCDEBLシステムと同じSCDEBLシステムを利用して前駆体(CH
3)Au(acac)から金(Au)線を成長させる限局されたCVD成長を実行する一実施形態によるプロセス結果を示す一連の画像である。これらの4つの画像は、この実施形態の材料製造段階であるCVDプロセスの前に撮影したSEM画像(a)、およびそのCVDプロセス中に15分間隔で撮影したSEM画像(b~d)である。第2の加工物表面修飾は、所望の線に沿ったH-t Si表面の限局された選択的電子ビーム誘起酸化である。この技法では、酸素ガスを、走査電子顕微鏡(SEM)室に注入し、設定圧力まで充填する。次いで、電子照射によって、吸着したO
2分子とH-t Siとの間の反応を誘起し、表面の電子ビームが走査したところだけを酸化する。この修飾は、前駆体W(CO)
6および(CH
3)Au(acac)からそれぞれタングステン(
図5)および金(
図6)を堆積させる後続の限局されたCVDを可能にする。電子ビームによって酸化させた領域でははるかに速いCVD速度が観察される。H-t Si表面でも多少のCVD成長が起こる。これは、H-t Si表面の酸化された部位におけるCVD核生成によるものと考えられる。この手順では、H-t Si表面が不安定であり、ある割合の酸化された表面部位を有する。したがって、本明細書のシステムおよびプロセスは、全ての処理ステップが原位置で実行され、真空破壊されることなく実施されることが好ましい。
【0061】
a-Cの電子ビーム誘起エッチング
図7は、薄いEBID a-C(無定形炭素)層の選択的EBIEを利用するSCDEBL機構を用いてタングステンの限局されたCVDを実行する一実施形態によるプロセス結果を示すSEM画像である。a-C層の広がりは、黒い破線の長方形によって示されている。左側のはめ込み画像は、EBIE領域に堆積したタングステンの微細構造およびa-C層の外側のSiO
x上のCVD成長の高倍率画像である。非反応性のa-C表面ではCVD成長が起こらない。EBIEによって不十分な時間、エッチングされた線が示されており、それらの線は、その下の基板を露出させなかった。
【0062】
この例示的なSCDEBLシステムは、ほとんど全ての基板に対して適用することができる。これを、真空破壊することなくSEM内で完全に原位置で実行することもできる。しかしながら、ステップごとの処理時間が長い。第1の加工物表面修飾処理は、電子ビーム誘起堆積(EBID)による薄い無定形炭素(a-C)層の堆積からなる。このような高真空システム中には通常、さまざまな量の残留有機分子が存在する。十分な電子照射を与えると、特定の前駆体ガスを使用せずに、任意の表面に、a-Cの表面化学改変層を堆積させることができる。非反応性のダイヤモンド状のa-C層が生じる。残留有機前駆体分子はかなり異なるにもかかわらず、この薄いa-C層の組成はほとんど変化しない。
【0063】
次いで、H
2O、H
2O
2またはNH
3前駆体を使用した電子ビーム誘起エッチング(EBIE)を使用してこのa-C「擬似レジスト」層を選択的に除去し、それによって裸基板を露出させることができる。
図7は、W(CO)
6からのタングステンの限局されたCVDのためのこのプロセスの結果を示す。観察されるとおり、非反応性のa-C層上でCVD成長は起こらない。a-C層の外側では、この温度(340℃)においてCVDによって堆積させた予期された形態のWが見られる。W(CO)
6を用いたこの温度での熱CVDによって、半ば分離されたタングステン結晶子の非連続膜(左上のはめ込み画像1)が形成されている。この温度は、ヒドロキシル化されたSiO
x上で、W(CO)
6の熱分解速度が有意になり始める点を表す。EBIEによって活性化された領域内に堆積した限局されたタングステンは連続しており、形態はかなり異なる。このことは、その下の基板の単純な露出によっては説明することができない活性化効果をEBIEプロセスが有することを示している。
【0064】
EBID表面
SCDEBLプロセスの別の例は、EBIDによって堆積させたシード層の使用を含む。典型的な有機金属CVD前駆体を使用したEBIDによって堆積させた材料は一般に、a-C基質中に分散したターゲット金属のナノ結晶子からなる。これらの材料は、高い材料純度を必要とする用途には適さない。しかしながら、新たに堆積させたEBID表面は、後続の材料堆積プロセスを触媒することができる高エネルギー表面を提供することができる。
【0065】
図8は、EBIDによって堆積させた表面をCVD反応を触媒する目的に使用して、低純度EBIDシードの上に高純度材料を堆積させる例を示す。前駆体の熱分解点よりも低いわずかに高い基板温度でEBIDシードを堆積させることによって、限局された加工物表面修飾を実行する。次いで、後続の材料製造段階において、EBIDに対して使用した前駆体と同じ前駆体に対する適切な温度窓内で、選択的CVD成長を、EBID表面にだけ生じさせる。図示された画像では3つの異なるCVD前駆体を使用した。選択的CVDに対する温度窓が異なるにもかかわらず、それぞれのケースで結果は同様であった。上から下へ、EBIDによって堆積させたシード構造体の上でのAu、CoおよびWの選択的CVD成長が示されている。EBIDステップとCVDステップの両方に対してそれぞれ前駆体(CH
3)
2Au(acac)、Co(CO)
3NOおよびW(CO)
6を使用した。限定された基板温度窓内において、CVD成長は、EBIDシード上だけで起こる。限局されたCVDまたはALDのためのこのプロセスの使用は、事前の広域的基板不活性化ステップなしで適用することができる。しかしながら、限局されたCVDに関しては、事前の不活性化処理なしでは、CVD成長を限局させる基板温度窓が非常に狭くなることがある。第1の加工物表面修飾は、不活性な自己集合単分子層(SAM)の形成など、基板不活性化処理として実行されることが好ましい。いくつかの実施形態では、このようなステップを使用して、活性なEBID表面の表面化学と基板表面の表面化学との間のコントラストを増大させることができる。これによって、限局されたCVDのための温度窓、および適用することができるSC特有の製造プロセスの範囲を増大させることができる。
【0066】
SAM擬似レジスト直接電子ビーム化学リソグラフィ
現在、本明細書の実施形態の中で最も汎用性が高いと理解されているSCDEBLプロセスは、「擬似レジスト」層としての自己集合単分子層(SAM)の使用である。擬似レジストという用語を使用するのは、SAMが、単分子層の厚さだけを有し除去ステップを必要としないレジスト層の働きをすることができるためである。第1の加工物表面修飾ステップとして、基板のある範囲上にSAMを、さまざまな分子を使用して形成することができる。それらのSAMは、基板に対する広域的表面化学の画定を可能にすることができる。それらのSAMは、特定の官能基による広域的不活性化または広域的活性化を達成することができる。次いで、第2の加工物表面修飾ステップにおいて、これらのSAMを、前駆体分子を媒介とした直接の電子ビーム誘起表面反応(EBIE)によって局所的に改変することができる。
【0067】
SAMを使用して基板上に広域的表面化学を生成する第1の加工物表面修飾ステップを実行する幅広い範囲の可能性が存在する。SAMは、シリコン、金、GaAs、Al2O3などの技術的に適切な大部分の基板を含むある範囲の表面に形成することができる。シリコン、シリカおよび他の酸化物基板上に自己集合単分子層を形成することができる適切な分子のうちの一部の分子をまとめた表が、Nicole Herzer、Stephanie HoeppenerおよびUlrich S Schubert、「Fabrication of patterned silane based self-assembled monolayers by photolithography and surface reactions on silicon-oxide substrates」、Chemical Communications、46(31):5634-19、2010年に出ている。広域的不活性化、すなわち非反応性の低エネルギー表面の画定は、メチル終端SAMまたはCF3終端SAMを用いることによって容易に達成可能である。特定の官能基で終端されたSAM形成分子によって、特定の反応性を有する表面を画定することができる。いくつかの例は、アミン、チオール、ブロモまたはクロル終端SAM形成分子を含む。SAMによって画定することができるいくつかの広域的表面化学のレビューについては、Claudia Haensch、Stephanie HoeppenerおよびUlrich S Schubert、「Chemical modification of self-assembled silane based monolayers by surface reactions」、Chemical Society Reviews、39(6):2323-12、2010年を参照されたい。SAMは、気相から送達された分子を使用して形成することもできる。この能力は、本明細書の処理ステップ(SAM形成、EBIEパターン形成、さらなる共有結合性官能基化または限局されたCVD)のうちの大部分または全てを、真空破壊することなく原位置で実行することを可能にする。
【0068】
SAM表面のパターン形成は、ある範囲のリソグラフィ技法を用いて実行されている。とりわけ、SAMのパターン形成にはフォトリソグラフィおよび電子ビーム・リソグラフィが使用されている。(例えば、Herzer他、ならびにRachel K Smith、Penelope A LewisおよびPaul S Weiss、「Patterning self-assembled monolayers」、Progress in Surface Science、75(1-2):1~68ページ、2004年6月を参照されたい)。しかしながら、本発明の発明者が知る限り、これらの技法はいずれも、本明細書に記載された直接EBIEを使用してSAMをパターン形成する分解能に適合することができない。さらに、気相前駆体を使用しない集束イオン・ビーム(FIB)照射などの、非常に高い分解能でSAMをパターン形成することができる他の技法(例えばC.K.Harnett、K.M.SatyalakshmiおよびH.G.Craighead、「Bioactive Templates Fabricated by Low-energy Electron Beam Lithography of Self-Assembled Monolayers」、Langmuir、17(1):178~182ページ、2001年1月に記載されている技法)は、多数のステップを含み、それらのステップはそれぞれ順番に有効分解能を低減させる。Harnett他は、従来のEBLを使用して不活性なSAMを修飾し、多ステップ処理および共有結合性パターン形成、ならびに後続のナノ粒子の付着を例証した。Harnett他は、SAMの電子照射を使用して、照射領域内の分子をa-Cなどに還元した。Harnett他は次いで、残ったSAMよりも速く照射領域をエッチングするオゾン洗浄を使用した。このオゾン処理によってSAMも傷つけられるため、このようなツーステップ・パターン形成には課題がある。上で論じたとおり、本明細書で論じた技法の重要な利点は、SAMパターン形成ステップが、SAMを高分解能で直接にエッチングする前駆体ガスを用いたEBIEによって実行される点である。この処理は、SAM層の限局されない損傷にはつながらず、はるかに高分解能のSCパターン形成を可能にする。好ましくは、この処理はさらに、原位置のままとすることができる単一のステップで実行される。
【0069】
図9Aおよび9Bは、高分解能化学リソグラフィ用の擬似レジストとしてSAMを使用する処理概要を示す断面図である。
図9Aでは、このプロセスが、図形902で、シリコン基板上にSAMを形成し、安定した広域的表面化学を配置する。このケースではSAMがCH
3 SAMであるが、SAMは、適切な任意のSAMとすることができる。次に、このプロセスは、図形904で、EBIEを使用して、SAMを直接にエッチングし、選択的に除去し、高い分解能でパターン形成する。変形例では、このエッチングがH
2OまたはNH
3を用いて実行されるが、これは、限定を意図するものではなく、他の変形例は、用途に応じて他の適切なガスを使用することができる。この変形例のEBIEの副産物は、CH
4、CH
3OHなどである。図形906に示された、EBIEによって露出した表面は主にシラノール(SiOH)部位からなり、それらの部位を、
図9Bに示された3つの例示的な手順によって示されるように、広範囲にわたるトリメトキシシラン終端分子またはトリクロロシラン終端分子を使用したさらなる共有結合性官能基化のために利用することができる。これらの分子は、溶液相または気相の形態で、表面に沿ってこの部位に送達することができる。この方法で達成することができる特異的に官能基化されたパターン形成された表面の組合せの3つの例が示されており、これらの例は、アルコキシ基を使用してSiOH部位と共有結合を形成する。第1の組合せは、図形906から図形908へのシーケンスに示された、SiOH部位に結合する3-アミノプロピルトリメトキシラン(3-aminopropyltrimethoxysilane:APTMS)を使用して、結合部位にNH
2を提供する。図示された選択可能な第2の組合せは、3-メルカプトプロピルトリメトキシラン(3-mercaptopropyltrimethoxysilane:MPTMS)を使用する図形906から図形910へのシーケンスである。その結果生じる共有結合は、結合部位にSH
2を提供する。図示された第3の選択肢は、SiOH部位に結合するように送達された11-ブロモウンデシルトリクロロシラン(11-bromoundecyltrichlorosilane)を使用する図形906から図形912へのシーケンスである。その結果生じる図形912に示された製造は、以前のSiOH部位のところにBrの層を提示する。
【0070】
これらの例が示されているが、それらは限定を意図するものではないこと、および、SAM層と試薬のこの他の多くの組合せを、本明細書で論じたEBIE技法とともに使用することができることを理解すべきである。
【0071】
本明細書の図面および説明では通常、本明細書および図面の全体を通じて、同様の部分がそれぞれ同じ参照符号で示されている。加えて、本明細書に開示された異なる実施形態において、同様の参照符号が同様の構成要素を指すこともある。図面は必ずしも原寸に比例して描かれていない。本発明の特徴によっては、縮尺が誇張されて、またはいくぶん概略的に示されていることがあり、また、明瞭かつ簡潔にするために、従来の要素の一部の詳細が示されていないことがある。本発明は、さまざまな形態の実施形態を受け入れることができる。特定の実施形態が詳細に説明され、図面に示されているが、本明細書に示され記載された実施形態だけに本発明を限定することは意図されていないことを理解すべきである。本明細書で論じられている実施形態の異なる教示を別々に使用してまたは適切な組合せで使用して、所望の結果を生み出すことができることを十分に認識されたい。本明細書に記載された特徴の組合せは、限定を意図したものであると解釈すべきではなく、本明細書の特徴は、本発明に基づいて機能する任意の組合せまたは代替の組合せで使用することができる。さらに、本明細書のさまざまな新規のワークフロー・プロセスを使用して、本明細書に組み込まれた特許に記載されたプロセスなどの先行技術のワークフローを改良することができる。その記載は、ワークフローにおいて基準マーク位置を確認する必要があり、またはSEMもしくはFIBビーム位置合せを確認する必要がある、このような組込みをサポートするものであると解釈すべきである。したがって、この記載を、本発明の特徴の機能する任意の組合せまたはある代替の組合せに対する、米国特許法および他国の関連特許法に基づく書面によるサポートを提供するものと解釈すべきである。
【0072】
本明細書の説明および特許請求の範囲では、用語「含む(including)」および「備える(comprising)」が、オープン・エンド(open-ended)型の用語として使用されており、したがって、これらの用語は、「...を含むが、それらだけに限定されない(including,but not limited to...)」ことを意味すると解釈すべきである。ある用語が本明細書で特に定義されていない場合、その用語は、その通常の一般的な意味で使用されることが意図されている。さらに、本明細書での用語「および/または」の使用は、「包括的な」「または」として解釈すべきであり、「排他的な」「または」と解釈すべきではない。例えば、本明細書で使用される句「Aおよび/またはB」は、「A、B、またはAおよびB」を意味する。他の例として、明細書で使用される句「A、Bおよび/またはC」は、「A、B、C、またはこれらの任意の組合せ」を意味する。さらに、本明細書において、用語「自動」、「自動化された」または類似の用語が使用されるとき、これらの用語は、自動プロセスもしくは自動ステップまたは自動化されたプロセスもしくは自動化されたステップの手動による開始を含むものと理解される。
【0073】
一実施形態は、表面の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する方法であって、
加工物表面の限局されていない広い領域を活性化または不活性化する第1の加工物表面修飾を実行することと、
電子ビーム・システムの試料室内に加工物を装填することと、
前駆体ガスを試料室に導入することと、
加工物表面の限局された特定の領域を活性化または不活性化する第2の加工物表面修飾を、前駆体ガスの存在下で電子ビームを使用して実行することと
を含み、
第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であり、一方が表面不活性化であり、
この方法がさらに、
加工物表面の活性化された領域に材料を固着させること
を含む方法である。
【0074】
いくつかの実施形態では、第1の加工物修飾が表面活性化であり、第2の加工物表面修飾が選択的表面不活性化である。
【0075】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が表面不活性化であり、第2の加工物表面修飾が選択的表面活性化である。
【0076】
いくつかの実施形態では、第1および第2の加工物表面修飾を実行することであって第1の加工物修飾と第2の加工物修飾のうちの一方の加工物修飾が表面活性化であること、および、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることの各動作が循環的に繰り返される。
【0077】
いくつかの実施形態では、加工物表面活性化動作が、第1の加工物表面修飾であるのかまたは第2の加工物表面修飾であるのかが、後続の加工物表面処理サイクルに関して変更される。
【0078】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が原位置プロセスで実行される。
【0079】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が外位置プロセスで実行される。
【0080】
いくつかの実施形態では、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、活性化された領域上で堆積物を成長させることが、化学気相堆積によって、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、活性化された領域上で堆積物を成長させることが、加工物表面上の活性化された領域上でのみ堆積核生成が起こる湿式プロセスによって、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面にナノ粒子を付着させることを含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が、加工物表面に自己集合単分子層を形成することを含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、第2の加工物修飾が、電子ビームの半値全幅(FWHM)サイズよりも小さな分解能で表面を改変することをさらに含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方または両方の加工物表面修飾が、表面終端特性の修飾を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、第1の加工物表面修飾が、加工物上に単分子層を堆積させることを含み、第2の加工物表面修飾が、単分子層の選択的除去を含む。
【0088】
一実施形態は、加工物の選択的領域を荷電粒子ビーム処理する装置であって、
試料ステージを備える試料室と、
加工物に向かって1つまたは複数の荷電粒子ビームを導く1つまたは複数の荷電粒子ビーム・カラムと、
ビーム誘起表面修飾に使用する前駆体ガスを試料室に導入する前駆体ガス源と、
加工物の表面の活性化された領域に材料を固着させるシステムと、
荷電粒子ビーム・システムの動作および加工物表面の活性化された領域に材料を固着させるシステムの動作を制御するコントローラであり、コンピュータ命令を実行する1つまたは複数のプロセッサ、および非一時的コンピュータ・メモリを備えるコントローラと
を備え、この非一時的コンピュータ・メモリが、
第1の加工物表面修飾が実行された後の加工物を受け取る命令と、
前駆体ガスを試料室に導入する命令と、
加工物試料表面の限局された特定の領域に適用する第2の加工物表面修飾を、前駆体ガスの存在下で電子ビームを使用して実行する命令と
を記憶し、
第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であり、一方が表面不活性化であり、
この非一時的コンピュータ・メモリがさらに、
加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる命令
を記憶した
装置である。
【0089】
いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、第1および第2の加工物表面修飾を実行することであって第1の加工物表面修飾と第2の加工物表面修飾のうちの一方の加工物表面修飾が表面活性化であること、および、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることの各動作を、循環的に繰り返す追加の命令を記憶している。
【0090】
いくつかの実施形態では、後続の加工物表面処理サイクルに関して、第1の加工物表面修飾、第2の加工物表面修飾、および加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることのうちの1つまたは複数に対して異なるプロセスを使用する追加の命令を、非一時的コンピュータ・メモリが記憶している。
【0091】
いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面の活性化された領域上で堆積物を成長させることを含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、非一時的コンピュータ・メモリが、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させる追加の命令を記憶しており、加工物表面の活性化された領域に材料を固着させることが、加工物表面にナノ粒子を付着させることを含む。
【符号の説明】
【0093】
302 デュアル・ビーム・システム
304 電子ビーム・カラム
306 集束イオン・ビーム(FIB)カラム
308 試験体室
318 加工物
318 試料ホルダ
330 ガス注入システム(GIS)
336 2次電子検出器