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特許7050470検査支援システム、学習装置、及び判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】検査支援システム、学習装置、及び判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20220401BHJP
   G01N 23/083 20180101ALI20220401BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/083
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017223312
(22)【出願日】2017-11-21
(65)【公開番号】P2019095247
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-05-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】古市 和也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 暁仁
(72)【発明者】
【氏名】井川 玄
(72)【発明者】
【氏名】味村 健一
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】井上 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/081984(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073373(WO,A1)
【文献】特開2014-070944(JP,A)
【文献】特開2013-192624(JP,A)
【文献】特開平10-148622(JP,A)
【文献】特開2017-190985(JP,A)
【文献】特開2009-250722(JP,A)
【文献】特開平9-89801(JP,A)
【文献】特開2010-169232(JP,A)
【文献】特開2004-340667(JP,A)
【文献】特開2000-180387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/04,G01M99/00,G06N20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の溶接部の非破壊検査を支援するための検査支援システムであって、
前記配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて合否を判定する複数の判定装置と、
前記複数の判定装置から収集される情報に基づいて、前記複数の判定装置において合否の判定に使用される判定アルゴリズムを学習るための学習装置と、
を備え、
前記判定装置は、前記配管が設置されたプラントの気象条件、又は使用された配管の径若しくは材質が異なる複数の前記配管の溶接部の画像を含む非破壊試験の結果を取得する試験結果取得部と、
前記試験結果取得部により取得された前記配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて、前記判定アルゴリズムにより合否を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を、前記配管の溶接部の非破壊検査を実施する検査員に提示する判定結果提示部と、
前記判定部による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を取得し、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果とともに前記学習装置に送信する判定結果送信部と、
を備え、
前記学習装置は、
前記複数の判定装置から、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果を受信する判定結果受信部と、
前記判定結果受信部により受信された情報に基づいて、配管の溶接部において発生しうる傷又は欠陥に特徴的な画像のパターンを学習することにより、配管の溶接部の画像内に存在する前記パターンに基づいて非破壊検査の合否を判定するための判定アルゴリズムを学習る学習部と、
前記学習部により学習された前記判定アルゴリズムを、前記複数の判定装置に提供する提供部と、
を備えることを特徴とする検査支援システム。
【請求項2】
前記判定結果送信部は、前記判定部による判定結果が検査員により修正された場合に、修正された判定結果を取得し、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果とともに前記学習装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の検査支援システム。
【請求項3】
前記判定結果送信部は、前記判定部により合否を判定できなかった前記配管の溶接部の非破壊試験の結果に対する検査員による判定結果を取得し、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果とともに前記学習装置に送信することを特徴とする請求項1又は2に記載の検査支援システム。
【請求項4】
前記判定装置は、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて、前記判定アルゴリズムを学習る学習部を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の検査支援システム。
【請求項5】
象条件、又は使用された配管の径若しくは材質が異なる複数のプラントに設置された配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて合否を判定する複数の判定装置から、前記判定装置による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する配管の溶接部の画像を含む非破壊試験の結果を受信する判定結果受信部と、
前記判定結果受信部により受信された情報に基づいて、配管の溶接部において発生しうる傷又は欠陥に特徴的な画像のパターンを学習することにより、配管の溶接部の画像内に存在する前記パターンに基づいて非破壊検査の合否を判定するための判定アルゴリズムを学習る学習部と、
前記学習部により学習された前記判定アルゴリズムを、前記複数の判定装置に提供する提供部と、
を備えることを特徴とする学習装置。
【請求項6】
前記判定結果受信部は、前記判定装置による判定結果が検査員により修正された場合に、修正された判定結果と、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果を受信することを特徴とする請求項5に記載の学習装置。
【請求項7】
前記判定結果受信部は、前記判定装置により合否を判定できなかった前記配管の溶接部の非破壊試験の結果に対する検査員による判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信することを特徴とする請求項5又は6に記載の学習装置。
【請求項8】
象条件、又は使用された配管の径若しくは材質が異なる複数のプラントに設置された配管の溶接部の非破壊試験の結果を取得する試験結果取得部と、
前記試験結果取得部により取得された前記配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて、配管の溶接部において発生しうる傷又は欠陥に特徴的な画像のパターンを学習することにより、配管の溶接部の画像内に存在する前記パターンに基づいて非破壊検査の合否を判定するための判定アルゴリズムを学習るための学習装置から提供された前記判定アルゴリズムにより合否を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を、前記配管の溶接部の非破壊検査を実施する検査員に提示する判定結果提示部と、
前記判定部による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を取得し、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果とともに前記学習装置に送信する判定結果送信部と、
を備えることを特徴とする判定装置。
【請求項9】
検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する配管の溶接部の非破壊試験の結果に基づいて、前記判定アルゴリズムを学習る学習部を更に備えることを特徴とする請求項8に記載の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の非破壊検査を支援するための検査支援システム、及びその検査支援システムに利用可能な学習装置及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学製品や工業製品などを生産するためのプラントを建設する際には、膨大な量の配管などの対象物を検査する必要がある。例えば、配管の溶接部などを検査するために実施される放射線透過検査(Radiographic Testing:RT)においては、資格を有する検査員が数万枚から数十万枚の画像を目視して合否を判定しているが、検査員に多大な負担がかかるとともに、多大な工数を要するため、プラントの建設において律速段階になりうる。
【0003】
このような非破壊検査を支援するための技術として、鋼管の溶接部を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された溶接部検出方法は、鋼管を周方向に回転させながらテレビカメラを用いて管内面の映像信号を抽出し、得られた映像信号から管種固有の値を持つ管内面画像特徴量を抽出し、予め検出すべき管種の内面画像特徴量を学習記憶させたニューラル・ネットにより、溶接部と母材部とを識別して溶接部を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-18904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された溶接部検出方法においては、オペレータが学習すべき信号波形特徴量を選び、さらに溶接部または母材部の印信号をニューラル・ネット学習装置に入力して学習させるので、作業が属人化しやすいという問題がある。また、ニューラル・ネット学習装置の学習効率は、学習させるオペレータの能力や作業量に依存するので、オペレータの負担軽減には限界がある。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、対象物の非破壊検査の効率を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の検査支援システムは、対象物の非破壊検査を支援するための検査支援システムであって、対象物の非破壊試験の結果に基づいて合否を判定する複数の判定装置と、複数の判定装置から収集される情報に基づいて、複数の判定装置において合否の判定に使用される判定アルゴリズムを学習させるための学習装置と、を備える。判定装置は、対象物の非破壊試験の結果を取得する試験結果取得部と、試験結果取得部により取得された対象物の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズムにより合否を判定する判定部と、判定部による判定結果を、対象物の非破壊検査を実施する検査員に提示する判定結果提示部と、判定部による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を取得し、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果とともに学習装置に送信する判定結果送信部と、を備える。学習装置は、複数の判定装置から、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信する判定結果受信部と、判定結果受信部により受信された情報に基づいて、判定アルゴリズムを学習させる学習部と、学習部により学習された判定アルゴリズムを、複数の判定装置に提供する提供部と、を備える。
【0008】
この態様によると、対象物の非破壊検査において、検査員の目視による最終的な合否判定に先立ち、自動的に合否判定を行って不合格となる疑いがあるものを選別しておくことができるので、非破壊検査の効率及び精度を向上させることができる。また、検査員の工数を大幅に低減させることができるので、個々の検査員の負担を大幅に軽減させることができるとともに、人件費を削減することができる。また、個々の検査員の能力などによる判定結果のばらつきを抑えることができるので、非破壊検査の精度を向上させることができる。さらに、個々のプラント建設現場において独立して判定アルゴリズムを学習させる場合よりも、遙かに大量で多種多様な情報を収集し、判定アルゴリズムの学習に利用することができるので、判定アルゴリズムの学習効率及び学習速度を大幅に向上させることができ、判定アルゴリズムの精度を飛躍的に向上させることができる。
【0009】
判定結果送信部は、判定部による判定結果が検査員により修正された場合に、修正された判定結果を取得し、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果とともに学習装置に送信してもよい。
【0010】
この態様によると、誤判定が修正されるように判定アルゴリズムを学習させることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0011】
判定結果送信部は、判定部により合否を判定できなかった対象物の非破壊試験の結果に対する検査員による判定結果を取得し、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果とともに学習装置に送信してもよい。
【0012】
この態様によると、判定アルゴリズムにより判定可能なケースを増加させることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0013】
判定装置は、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズムを学習させる学習部を更に備えてもよい。
【0014】
この態様によると、個々の判定装置においても独立して判定アルゴリズムの学習を進めることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0015】
本発明の別の態様は、学習装置である。この装置は、対象物の非破壊試験の結果に基づいて合否を判定する複数の判定装置から、判定装置による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信する判定結果受信部と、判定結果受信部により受信された情報に基づいて、複数の判定装置において合否の判定に使用される判定アルゴリズムを学習させる学習部と、学習部により学習された判定アルゴリズムを、複数の判定装置に提供する提供部と、を備える。
【0016】
この態様によると、個々の判定装置において独立して判定アルゴリズムを学習させる場合よりも、遙かに大量で多種多様な情報を収集し、判定アルゴリズムの学習に利用することができるので、判定アルゴリズムの学習効率及び学習速度を大幅に向上させることができ、判定アルゴリズムの精度を飛躍的に向上させることができる。
【0017】
判定結果受信部は、判定装置による判定結果が検査員により修正された場合に、修正された判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信してもよい。
【0018】
この態様によると、誤判定が修正されるように判定アルゴリズムを学習させることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0019】
判定結果受信部は、判定装置により合否を判定できなかった対象物の非破壊試験の結果に対する検査員による判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信してもよい。
【0020】
この態様によると、判定アルゴリズムにより判定可能なケースを増加させることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、判定装置である。この装置は、対象物の非破壊試験の結果を取得する試験結果取得部と、試験結果取得部により取得された対象物の非破壊試験の結果に基づいて、合否の判定に使用される判定アルゴリズムを学習させるための学習装置から提供された判定アルゴリズムにより合否を判定する判定部と、判定部による判定結果を、対象物の非破壊検査を実施する検査員に提示する判定結果提示部と、判定部による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を取得し、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果とともに学習装置に送信する判定結果送信部と、を備える。
【0022】
この態様によると、対象物の非破壊検査において、検査員の目視による最終的な合否判定に先立ち、自動的に合否判定を行って不合格となる疑いがあるものを選別しておくことができるので、非破壊検査の効率及び精度を向上させることができる。また、検査員の工数を大幅に低減させることができるので、個々の検査員の負担を大幅に軽減させることができるとともに、人件費を削減することができる。また、個々の検査員の能力などによる判定結果のばらつきを抑えることができるので、非破壊検査の精度を向上させることができる。
【0023】
検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズムを学習させる学習部を更に備えてもよい。
【0024】
この態様によると、個々の判定装置においても独立して判定アルゴリズムの学習を進めることができるので、判定の精度を効率良く向上させることができる。
【0025】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、対象物の非破壊検査の効率を向上させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施の形態に係る検査支援システムの全体構成を示す図である。
図2】実施の形態に係る判定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、実施の形態に係る検査支援システムの全体構成を示す。対象物の非破壊検査を支援するための検査支援システム1は、化学製品や工業製品などを生産するためのプラント3と、複数のプラント3から収集される情報に基づいて、複数のプラント3において非破壊検査の合否の判定に使用される判定アルゴリズム8を学習させる学習装置4とを備える。それぞれのプラント3は、プラント3に設置された配管の溶接部などの検査対象物10と、検査対象物10の非破壊試験を実施する試験装置20と、試験装置20による検査対象物10の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズム8により合否を判定し、対象物の非破壊検査を実施する検査員に判定結果を提示する判定装置30とを備える。それぞれのプラント3と学習装置4とは、インターネット2により接続されている。
【0029】
判定装置30は、判定装置30による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果とともに学習装置4に送信する。
【0030】
学習装置4は、判定結果受信部5、学習部6、提供部7、及び判定アルゴリズム8を備える。これらの構成は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0031】
判定結果受信部5は、複数のプラント3から、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果を受信する。学習部6は、判定結果受信部5により受信された情報に基づいて、判定アルゴリズム8を学習させる。提供部7は、学習部6により学習された判定アルゴリズム8を、複数のプラント3の判定装置30に提供する。
【0032】
本図においては、説明の簡略化のため、学習装置4を単独の装置として示しているが、学習装置4は、クラウドコンピューティング技術や分散処理技術などを利用して、複数のサーバにより実現されてもよい。これにより、複数のプラント3から収集した大量の情報を高速に処理して判定アルゴリズム8を学習させることができるので、判定アルゴリズム8の精度を向上させるために要する時間を大幅に短縮することができる。
【0033】
図2は、実施の形態に係る判定装置の構成を示す。判定装置30は、試験結果取得部31、判定部32、判定結果提示部33、最終判定結果取得部34、判定結果送信部35、学習部36、更新部37、及び判定アルゴリズム38を備える。これらの構成も、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できる。
【0034】
ローカルデータサーバ40には、試験結果データベース41、AI判定結果データベース42、及び最終判定結果データベース43が格納される。
【0035】
試験結果取得部31は、検査対象物10の非破壊試験の結果を取得する。試験装置20による検査対象物10の非破壊試験の結果は、試験結果データベース41に格納される。例えば、放射線透過試験の場合、試験装置20により撮影され、現像された放射線透過写真が試験結果データベース41に格納される。試験結果取得部31は、試験結果データベース41から試験結果を読み出す。
【0036】
判定部32は、試験結果取得部31により取得された検査対象物10の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズム38により合否を判定する。例えば、放射線透過試験の場合、判定アルゴリズム38は、溶接部において発生しうる、溶込不良、融合不良、ブローホール、パイプ、スラグ巻込、割れ、タングステン巻込などの様々な傷や欠陥などに特徴的な画像のパターンを学習したものであり、判定部32は、画像内に存在するこれらの特徴的な画像パターンを検出し、検出した傷の種別や寸法などを試験規格に照らして合否を判定する。判定部32は、判定結果をAI判定結果データベース42に格納する。
【0037】
判定結果提示部33は、判定部32による判定結果をAI判定結果データベース42から読み出し、対象物の非破壊検査を実施する検査員が使用する検査員端末39の表示装置に提示する。これにより、溶接部のX線画像を用いて溶接の健全性を判定する放射線透過検査(RT)などの非破壊検査において、検査員の目視による最終的な合否判定に先立ち、自動的に合否判定を行って不合格となる疑いがあるものを選別しておくことができるので、非破壊検査の効率及び精度を向上させることができる。また、判定部32による自動的な予備判定では合否判定が困難なグレーゾーンの画像のみを検査員が判定すればよいので、検査員の工数を大幅に低減させることができる。これにより、個々の検査員の負担を大幅に軽減させることができるとともに、人件費を削減することができる。また、個々の検査員の能力などによる判定結果のばらつきを抑えることができるので、非破壊検査の精度を向上させることができる。
【0038】
最終判定結果取得部34は、判定部32による判定結果を確認した検査員による最終的な判定結果を検査員端末39から取得する。判定結果送信部35は、最終判定結果取得部34により取得された最終的な判定結果を、その判定結果に対応する検査対象物10の非破壊試験の結果とともに学習装置4に送信する。最終判定結果取得部34は、検査員によるコメントを更に検査員端末39から取得してもよく、判定結果送信部35は、検査員によるコメントを更に学習装置4に送信してもよい。この場合、検査員によるコメントは、学習装置4における判定アルゴリズム8の学習のために使用されてもよい。これにより、判定アルゴリズム8の精度を更に向上させることができる。
【0039】
このように、複数のプラント3において実施された非破壊試験の試験結果と、有資格者である検査員により判定された最終的な判定結果とを学習装置4に集約し、判定アルゴリズム8を学習させる。これにより、判定アルゴリズム8を学習させるための学習データを、非破壊検査が行われる時間や場所に影響されずに、瞬時に学習装置4に取り込んで判定アルゴリズム8の学習に利用することができるので、判定アルゴリズム8の精度を向上させる速度を加速させることができる。また、個々のプラント3において独立して判定アルゴリズムを学習させる場合よりもはるかに大量で多種多様な情報を収集し、判定アルゴリズムの学習に利用することができるので、判定アルゴリズムの学習効率及び学習速度を大幅に向上させることができ、判定アルゴリズムの精度を加速度的に向上させることができる。
【0040】
プラント3の種類、場所、国、地域、気象条件、使用された配管の径、材質などに応じて、発生しやすい傷の種類やパターンなどが異なりうるが、個々のプラント3において独自に判定アルゴリズムを学習させる場合には、そのプラント3において多く発生した傷を判定するアルゴリズムは高い精度にまで学習が進む一方、そのプラント3においてほとんど発生しなかった傷を判定するアルゴリズムは判定不能のまま学習が進まない可能性がある。本実施の形態の検査支援システム1によれば、複数のプラント3からの情報を集約して判定アルゴリズムを学習させることができるので、多種多様な傷を適切に検出して合否を判定することが可能な高精度な判定アルゴリズムを短期間に生成することができる。
【0041】
判定アルゴリズム8の精度を向上させるためには、判定アルゴリズム8により誤判定されたケースと、判定アルゴリズム8により判定できなかったケースについて学習させることがとくに重要である。したがって、判定結果送信部35は、判定部32による判定結果が検査員により修正された場合に、修正された判定結果を取得し、その判定結果に対応する検査対象物10の非破壊試験の結果とともに学習装置4に送信する。これにより、判定アルゴリズム8の誤ったアルゴリズムを修正し、精度を向上させることができる。また、判定結果送信部35は、判定部32により合否を判定できなかった検査対象物10の非破壊試験の結果に対する検査員による判定結果を取得し、その判定結果に対応する検査対象物10の非破壊試験の結果とともに学習装置4に送信する。これにより、判定アルゴリズム8により判定できないケースを低減させることができ、非破壊検査の効率を向上させることができる。このように、実施の形態に係る検査支援システム1によれば、検査員によっても判定が困難なグレーゾーンの試験結果であっても、優秀な検査員による判定結果を多数集約して精確な知識を蓄積し、判定アルゴリズム8に反映させていくことができるので、運用すればするほど判定アルゴリズム8による予備判定の精度を向上させることができ、単独の検査員による判定よりも格段に精度及び処理速度の高い判定アルゴリズム8を提供することができる。
【0042】
更新部37は、所定のタイミングで、学習装置4により学習された判定アルゴリズム8を学習装置4から取得し、判定アルゴリズム38を更新する。これにより、精度が向上した判定アルゴリズム8を使用して、更に効率良く非破壊検査を実施することができる。例えば、検査支援システム1の運用を開始した直後には、判定装置30は判定が容易であるケースのみしか判定できず、多くのケースについて検査員の判定に頼っていたとしても、十分な量の情報を収集して判定アルゴリズム8の学習が進むと、多くのケースについて判定装置30が精確に判定できるようになり、検査員は簡単な最終確認を行うだけで済むようになる。
【0043】
学習部36は、最終判定結果取得部34により取得された、検査員による最終的な判定結果と、その判定結果に対応する対象物の非破壊試験の結果に基づいて、判定アルゴリズム38を学習させる。これにより、複数のプラント3における検査実績を反映させた高精度な判定アルゴリズム8をベースとして、更に、個々のプラント3において発生しやすいケースについて判定アルゴリズム38を強化学習させ、個々のプラント3に適した高精度な判定アルゴリズム38を生成することができる。
【0044】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0045】
上述の実施形態では、非破壊検査の例として、主に放射線透過試験について説明した。しかしながら、本発明を適用可能な非破壊検査は放射線透過試験に限定されず、例えば、超音波探傷試験(Ultrasonic Testing:UT)、渦電流探傷試験(Eddy Current Testing:ET)、磁粉探傷試験(Magnetic Particle Testing:MT)、浸透探傷試験(Penetrant Testing:PT)、ひずみ測定(Stress Measurement:SM)、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:AE)、サーモグラフィ試験(Infrared Ray Testing:IRT)などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 検査支援システム、3 プラント、4 学習装置、5 判定結果受信部、6 学習部、7 提供部、8 判定アルゴリズム、10 検査対象物、20 試験装置、30 判定装置、31 試験結果取得部、32 判定部、33 判定結果提示部、34 最終判定結果取得部、35 判定結果送信部、36 学習部、37 更新部、38 判定アルゴリズム、39 検査員端末、40 ローカルデータサーバ、41 試験結果データベース、42 AI判定結果データベース、43 最終判定結果データベース。
図1
図2