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特許7050711被膜材、これを用いた防食構造及び端子付き電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】被膜材、これを用いた防食構造及び端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/16 20060101AFI20220401BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20220401BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20220401BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220401BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20220401BHJP
   H01R 43/048 20060101ALI20220401BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20220401BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20220401BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220401BHJP
   H01B 13/32 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
C09D175/16
C09D183/10
C09D4/02
C09D5/08
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
H01R4/62 A
H01B7/28 F
H01B13/00 521
H01B13/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019057914
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158589
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100156410
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 輝和
(74)【復代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】生沼 良樹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204476(JP,A)
【文献】特開2018-049814(JP,A)
【文献】特開2012-248527(JP,A)
【文献】特開2015-159070(JP,A)
【文献】特開2018-063762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,H01R,H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆対象部材に塗布される被膜材であって、
前記被膜材は、オリゴマー、希釈剤および紫外線重合開始剤を含み、
前記オリゴマーは、末端にアクリレート基またはメタアクリレート基を持ち、直鎖部分がウレタン、ポリエーテル、ポリエステル又はポリカーボナートと、シロキサンからなるアクリレートであり、
前記希釈剤は、光重合可能な単官能のモノマーを1種または2種以上含むことを特徴とする被膜材。
【請求項2】
前記オリゴマーの重量平均分子量が500~5000の範囲である請求項1に記載の被膜材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被膜材が、被覆対象部材に塗布されて硬化していることを特徴とする防食構造。
【請求項4】
前記被覆対象部材が、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であり、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が前記被膜材で覆われていることを特徴とする請求項に記載の防食構造。
【請求項5】
前記被膜材の硬化物の-40℃における弾性率は2000MPa以下であり、かつ前記被膜材の硬化物の120℃における弾性率は0.7MPa以上であることを特徴とする請求項またはに記載の防食構造。
【請求項6】
請求項1または2に記載の被膜材を用いた被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位に前記被膜材を粘度300~600mPa・sの範囲に調整して塗布して硬化させることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車部品等の防食のために用いられる被膜材、およびこれを用いた端子付き電線の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を樹脂部材で被覆する方法が提案されている。例えば、被覆圧着部と導線圧着部との間に露出する導線等に樹脂部材を塗布して被覆した端子付き電線が提案されている(特許文献1)。
【0007】
図7は、従来の端子付き電線の部分断面図である。通常、被覆導線111の先端近傍は、被覆部115が除去されて内部の導線103が露出する。露出した導線103は導線圧着部107で圧着され、被覆部115は、被覆圧着部109で圧着される。被覆圧着部109と導線圧着部107の間のバレル間部108には、導線103の一部が露出するため、バレル間部108から導線圧着部107は、樹脂部材117で被覆される。
【0008】
しかし、被覆部115の端部と導線103の露出部の境界部において、外径の変化に伴う微小な隙間(図中X)が生じやすい。このような隙間が生じると、被覆圧着部109と被覆部115との間を浸透した水分が、導線103及び導線圧着部107へ浸透する恐れがある。このため、十分な防食性を確保するためには、この隙間Xへも樹脂部材117を浸透させて硬化させる必要がある。
【0009】
この隙間Xを樹脂部材117で埋めるために、例えば、導線103をまず先に圧着し、樹脂部材117を塗布した後に被覆部115を圧着する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0010】
また、バレル間部108の底面に孔を設けて、塗布した樹脂部材117を孔から吸引することで、隙間に樹脂部材117を浸透させる方法が提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-102998号公報
【文献】特開2018-063762号公報
【文献】特開2017-199602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の方法では、製造工程が複雑となるため、加工コストが増加するという問題がある。
【0013】
一方、樹脂部材117を塗布する際の粘度を下げることで、樹脂部材117が導線103の隙間に浸透しやすくなり、隙間Xに樹脂部材117を塗布する方法がある。しかし、粘度の低い樹脂は、一般的にサーマルショック試験(冷熱衝撃試験)後の防食性能を確保することが困難である。例えば、樹脂部材硬化後の低温での弾性率が高すぎると、低温で樹脂部材が硬くなるため、冷熱衝撃試験によって破損が生じやすい。しかし、通常、常温で粘度の低い樹脂部材は、低温での弾性率が高くなる傾向にあるため、冷熱衝撃試験において、樹脂部材の破損等の恐れがある。
【0014】
これに対し、常温での粘性の高い樹脂部材117を、塗布時に加熱することで、粘性を下げる方法がある。しかし、樹脂部材117を加熱すると、配合される希釈剤等の揮発が生じ、特に低温での弾性率が高くなる傾向にある。また、一般的に、同じ成分の樹脂であっても、硬化時の温度によって、硬化後の樹脂の特性が変動し、硬化時の温度が高くなると、低温における弾性率が高くなる傾向にある。
【0015】
このように、塗布時の粘性を低くすることができるとともに、低温における弾性率の低い樹脂が望まれる。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、樹脂の充填性と耐サーマルショック性能を確保することが可能な被膜材、これを用いた防食構造及び端子付き電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆対象部材に塗布される被膜材であって、前記被膜材は、オリゴマー、希釈剤および紫外線重合開始剤を含み、前記オリゴマーは、末端にアクリレート基またはメタアクリレート基を持ち、直鎖部分がポリウレタン、ポリエーテル及び/又はシロキサンからなるアクリレートであり、前記希釈剤は、光重合可能な単官能のモノマーを1種または2種以上含むことを特徴とする被膜材である。
【0018】
第1の発明によれば、希釈剤が単官能のモノマーであるため、複数の反応基を有する希釈剤を用いる場合と比較して、重合後の分子構造が3次元的になりにくく、この結果、硬化後の低温時の弾性率を低くすることができる。また、特定のオリゴマーと組み合わせることで、塗布時の粘度を下げることができ、製造性が向上するのみではなく、硬化後の低温時の弾性率が増加することを抑制することができる。このため、微小な隙間にも被膜材を浸透させることができるとともに、冷熱衝撃試験後の防食性能を確保することができる。
【0019】
第2の発明は、第1の発明にかかる被膜材が、被覆対象部材に塗布されて硬化していることを特徴とする防食構造である。
【0020】
前記被覆対象部材が、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であり、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が前記被膜材で覆われていてもよい。
【0021】
前記被膜材の-40℃における弾性率は2000MPa以下であり、かつ前記被膜材の120℃における弾性率は0.7MPa以上であることが望ましい。
【0022】
第2の発明によれば、被膜材を微小な隙間にも浸透して被覆することができるとともに、高い耐サーマルショック性能を確保することが可能な防食構造を得ることができる。
【0023】
このような防食構造としては、例えば、端子付き電線に好適に適用することができる。
【0024】
また、硬化後の被膜材の-40℃における弾性率が2000MPa以下であり、かつ120℃における弾性率が0.7MPa以上であれば、弾性率の変化の温度依存性が小さく、より確実に耐サーマルショック性能を確保することができる。
【0025】
第3の発明は、第1の発明にかかる被膜材を用いた被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位に前記被膜材を粘度300~600mPa・sの範囲に調整して塗布して硬化させることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0026】
第3の発明によれば、端子付き電線の導線下の微小な隙間にも被膜材を浸透させて耐食性を確保するとともに、耐サーマルショック性能を有する端子付き電線を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、樹脂の充填性と耐サーマルショック性能を確保することが可能な被膜材、これを用いた防食構造及び端子付き電線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10を示す断面図。
図3】希釈剤とオリゴマーの構造を示す図。
図4】圧着前の端子1と被覆導線11を示す図。
図5】端子付き電線10の正圧試験方法を示す図。
図6】樹脂の種類による弾性率の温度依存性を示す図。
図7】従来の端子付き電線の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は断面図である。なお、図1は、被膜材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0030】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0031】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0032】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0033】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0034】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0035】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0036】
本発明では、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が被膜材17で覆われている。すなわち、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が被膜材17で覆われており、導線13は、被膜材17によって外部に露出しない。被膜材17は防食材として機能し、被覆対象部材である端子付き電線に塗布して硬化させることで、防食構造を構成する。
【0037】
ここで、硬化後の被膜材17は、-40℃における弾性率が2000MPa以下であり、120℃における弾性率が0.7MPa以上であることが望ましい。前述したように、一般的に、隙間の狭い部位に被膜材17を充填するためには、充填時の粘度は低い方が望ましいが、粘度の低い被膜材は、一般的に冷熱衝撃試験後の防食性能を確保することが困難である。例えば、被膜材硬化後の低温での弾性率が高すぎると、低温で被膜材が脆くなるため、冷熱衝撃試験によって破損が生じやすい。しかし、通常、常温で粘度の低い被膜材は、低温での弾性率が高くなる傾向にあるため、冷熱衝撃試験において、被膜材の破損等の恐れがある。
【0038】
一方で、高温時の被膜材の弾性率が低すぎると、十分な強度を保つことができず、破損等の恐れがある。したがって、本実施形態において、被膜材17は、弾性率の温度依存性の小さな(すなわち、低温での弾性率が低く、高温での弾性率が高い)ものが望ましい。
【0039】
このような、被膜材17として、発明者らは、特定のオリゴマーと特定の希釈剤とを組み合わせることで、弾性率に対する温度依存性の小さな樹脂部材を得ることができることを見出した。
【0040】
より詳細には、被膜材17は、オリゴマー、希釈剤及び紫外線重合開始剤からなる。オリゴマーは、末端にアクリレート基またはメタアクリレート基を持ち、直鎖部分がポリウレタン、ポリエーテル及び/又はシロキサンからなるアクリレートである。希釈剤は、光重合可能な単官能のモノマーを1種または2種以上を含むものである。
【0041】
図3(a)は、希釈剤の一例を示し、図3(b)は、オリゴマーの一例を示す。希釈剤は、端部に単一の光重合の反応基A1を有し、オリゴマーの反応基A2と反応して結合する。希釈剤の光重合反応基が複数あると、オリゴマーとの反応時にオリゴマーが3次元的に架橋される傾向にある。このため、架橋点間分子量が大きくなり、低温時での弾性率が高くなる。一方、希釈剤が単官能であれば、反応後の架橋点間分子量が小さくなり、低温時の弾性率を低く抑えることができる。特に、オリゴマーが、上記特定のオリゴマーである場合には、-40℃での弾性率を2000MPa以下とすることができ、かつ、120℃における弾性率を0.7MPa以上とすることができる。このため、冷熱衝撃試験後の止水性を確保することができる。
【0042】
なお、希釈剤としては、光重合可能な単官能のモノマーであり、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、アクリロイルモルホリン、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチルフタルから選ばれる1種または2種以上からなる希釈剤を使用することができる。
【0043】
なお、被膜材17において、例えばオリゴマーの一部を構成するポリオール部分として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボナートポリオールなどの長鎖ポリオールを用い、ジイソシアナートから構成されるソフトセグメントを導入することで、硬化後の-40℃の弾性率を低く調整することができる。特に、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオールを用いると加水分解しにくいため、塩水等に対する耐性が高く好ましい。オリゴマーとしてポリエーテル系ウレタンアクリレートを使用する場合は、ポリオールは、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールを使用することができる。ポリテトラメチレングリコールを中間ブロックとし、骨格成分として、その両末端の水酸基に、芳香族系ジイソシアネートを介して、紫外線に対して反応性を有する不飽和二重結合を有するヒドロキシ化合物を結合させたオリゴマーを使用することが好ましい。
【0044】
また、オリゴマーとしてシリコンアクリレートの場合は、紫外線硬化によるウレタンと金属との水素結合に加えて、湿気硬化部分のシリコン変性アクリレートのアルコキシ基の加水分解物が、端子材金属表面にある水酸基と脱水縮合反応を経て強固な共有結合を形成し、金属との接着力向上を付与する。また、アルコキシ基の数により加水分解後のシリコン結合量により、密着力をコントロールすることができ、弾性率はアクリレート数でコントロールすることができる。
【0045】
なお、使用するオリゴマーは、重量平均分子量が500~5000のものを使用することが好ましく、2000~5000のものを使用することが特に好ましい。これにより、低温での弾性率を低くすることができ、このようにすることで、耐サーマルショック性能を確保することができる。
【0046】
なお、紫外線重合開始剤は、紫外線を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。例えば、アゾ化合物、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、アルキルフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系、アントラキノン系、チオキサントン系などが挙げられる。アルキルフェノン系としては、ベンジルジメチルケタール、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノンなどが挙げられる。
【0047】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、図4に示すように、端子1と、被覆部15の先端部を剥離して導線13を露出させた被覆導線11を準備する。
【0048】
次に、被覆導線11の導線13を導線圧着部7に配置し、被覆部15を被覆圧着部9に配置する。この際、被覆部15の先端部がバレル間部8に位置する。次に、導線13を導線圧着部7で圧着するとともに、被覆部15を被覆圧着部9で圧着し、被覆導線11と端子1とを圧着により接続する。
【0049】
次に、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位に被膜材17を例えばディスペンサ等で塗布して、硬化させる。以上により、端子付き電線10を得ることができる。
【0050】
なお、塗布時の被膜材17の粘度は、300~600mPa・sであることが望ましい。被膜材17の粘度が高すぎると、導線13に浸透させて、導線13の下部に被膜材17を浸透させることが困難となる。一方、被膜材17の粘度が低すぎると、塗布した被膜材17が流れてしまい、所望の厚みを確保することが困難となる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、希釈剤として単官能のモノマーを用い、これを特定のオリゴマーと組み合わせることで、常温での粘性を下げることができるとともに、硬化後の低温での弾性率を低く抑えることができる。このため、塗布時には、例えば粘度300~600mPa・sの範囲に容易に調整して使用することができ、導線下の微小な隙間へも被膜材17を浸透させることができる。このため、水分が被覆部15の先端における微小な隙間に浸入することを抑制することができ、当該部位における被膜材17の劣化や、当該部位から導線13等へ水分が浸入することを抑制し、高い止水性を確保することができる。
【0052】
また、低温での弾性率が低く、また、高温での弾性率が高いため、弾性率の温度依存性を小さくすることができるため、冷熱衝撃試験時において被膜材が損傷することを抑制することができる。特に、被膜材17の-40℃における弾性率が2000MPa以下であるため、低温においても脆くならず、また、120℃における弾性率が0.7MPa以上とすることで、熱伸縮がかかる環境下でも被膜材17の割れや破損を抑制することができる。このため、冷熱衝撃試験後においても高い止水性を維持することができる。
【0053】
このように、本発明は、単官能のモノマーを用い、これを特定のオリゴマーと組み合わせることで、従来困難であった、常温での低粘度と、硬化後の低温での低い弾性率とを両立することができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、被覆対象部材が、被覆導線11と端子1とが接続される端子付き電線10であり、被膜材17が、被覆対象部材である端子付き電線10に塗布されて硬化する例について説明したが、本発明はこれに限られない。防食や保護のために樹脂皮膜を形成し、微小な隙間へも被膜材17を浸透させる必要があるような被覆対象部材であれば、被膜材17は、その他の分野にも利用可能である。例えば、光ファイバの被覆工程、電子部品や光ピックアップの樹脂塗布工程、プリントレジスト硬化工程、各種部材の貼り合せ時における樹脂塗布工程など、被覆対象部材に樹脂を塗布する工程であれば、いずれの分野でも利用可能である。
【実施例
【0055】
次に、複数の被膜材を用いて端子付き電線を試作し、各試料について試験を行ったので以下に説明する。
【0056】
前述したように、端子の圧着部で被覆導線を圧着し、導線の露出部に被膜材を塗布して硬化させた。この際、塗布する被膜材の種類や粘度を変えて、種々の端子付き電線を得た。各条件および結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表中の、「特定オリゴマー」は、オリゴマーとして、末端にアクリレート基またはメタアクリレート基を持ち、直鎖部分がポリウレタン、ポリエーテル及び/又はシロキサンからなるアクリレートであるものを〇とし、その他のものを×とした。「単官能希釈剤」は、光重合可能な単官能のモノマーであるものを〇とし、多官能基のものを×とした。
【0059】
温度と粘度は、塗布時のものであり、粘度を調整するために温度を変化させた。硬化後の各温度での弾性率の測定は、JIS K7244に準じて行った。短冊状の試験片の両端を冶具で挟み込み、引張モードで周波数1Hz、正弦振動ひずみを与えた時の弾性率を測定した。TA instruments社製 動的粘弾性測定装置 「RSA-3」を用いて測定した。
【0060】
また、それぞれの端子付き電線に対し、120℃×30分~-40℃×30分を1000サイクルとした冷熱衝撃試験を行い、冷熱衝撃試験後の端子付き電線について正圧でのシール性を評価した。
【0061】
図5は、正圧試験方法の概要を示す。水を入れた水槽21中に端子付き電線10の一端を入れ、被覆導線11の端部から端子1に向かってレギュレータ22によって加圧空気を送った。なお、エア圧は49kPaとした。正圧でのシール性は、端子付き電線の被覆導線から端子に向かって空気を送り、端子1から空気が漏れるか否かについて評価した。なお、冷熱衝撃試験に供するサンプルは、樹脂の浸透時間を40秒とした。
【0062】
表中の「冷熱衝撃」は、前述した冷熱衝撃試験後の正圧試験において漏れのなかったものを〇とし、一部にでも漏れがあったものを×とした。
【0063】
それぞれの端子付き電線について、圧着後の導線の被覆状態を確認した。被膜材の浸透時間は5秒とし、被膜材を塗布してから5秒後に紫外線を照射して被膜材を硬化させた。その後、端子付き電線を解体して、導線下部への被膜材の浸透や被膜材による導線の被覆について目視で確認した。なお、評価は、圧着部の圧縮率50%~70%でそれぞれ評価した。圧縮率は、被覆圧着部における圧縮率で、圧着前の断面積(被覆部15の外周面に対する内側の全断面積。以下同様。)をAとし、圧縮された後の被覆圧着部9の内部の断面積をA1とすると、圧縮率=A1/Aである。
【0064】
表中の「導線被覆」は、各圧縮率において、導線が被膜材で覆われており、導線下部まで被膜材が浸透しているものを〇とした。被膜材が流れてしまい、導線上部の被膜材による被覆が十分でないものや、導線下部まで被膜材が浸透しなかったものは×とした。
【0065】
総合評価としては、全ての項目で〇のものを、〇評価とし、導線被覆の項目に×があるが、冷熱衝撃試験が〇のものを△評価とし、冷熱衝撃試験で×のものを×評価とした。
【0066】
結果より、特定オリゴマーと単官能希釈剤とを組み合わせたNo.1~No.7は、冷熱衝撃が〇となり、総合評価でも△~〇となった。これは、樹脂の-40℃における弾性率が2000MPa以下であり、120℃における弾性率が0.7MPa以上であったためである。これに対し、特定のオリゴマーを用いないNo.8~10と、単官能希釈剤を用いないNo.11は、冷熱衝撃評価が×となった。
【0067】
図6は、一部の樹脂についての弾性率の温度依存性を評価したものであり、図中BはNo.8~No.10の樹脂であり、図中Cは、No.2、3の樹脂であり、図中Dは、No.1の樹脂である。より詳細には、図中Bは、アクリレート(直鎖部分がポリウレタンやポリエーテル、シロキサンではない)オリゴマーに、希釈剤としてイソボニルアクリレートを混合したものである。また、図中Cは、オリゴマーとして、直鎖部分がポリウレタン、ポリエーテルであるアクリレートであり、希釈剤として2-ヒドロキシプロピルアクリレートとイソボニルアクリレートを併用したものである。また、図中Dは、オリゴマーとして、直鎖部分がポリウレタン、ポリエーテル及びシロキサンであるアクリレートと、希釈剤としてアクロイルモルフォリンとイソボニルアクリレートを併用したものである。
【0068】
No.8~No.10の樹脂は、冷熱衝撃試験の温度範囲(図中E)における弾性率差(図中H)が大きく、温度依存性が大きい。これに対し、No.1~No.3は、冷熱衝撃試験の温度範囲(図中E)における弾性率差(図中F、G)が小さく、低温での弾性率が高くなりすぎず、高温での弾性率が低くなりすぎない。
【0069】
このように、樹脂の-40℃における弾性率を2000MPa以下とし、120℃における弾性率を0.7MPa以上とすることで、高い浸透性と耐サーマルショック性能を確保することができる。なお、No.5、6は、塗布時の粘度が低いため、一部の圧縮率で樹脂が流出してしまい、導線上部の被覆厚を確保することができなかった。また、No.7は、塗布時の粘度が高いため、一部の圧縮率で樹脂が浸透しなかった。このように、特に、塗布時の粘度が300~600mPa・sの範囲に調整することで、短時間で樹脂を深部まで浸透させるとともに、導線上部を樹脂で覆うことができ、さらに、冷熱衝撃試験後のシール性も確保することができる。
【0070】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0071】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10……端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………被膜材
21………水槽
22………レギュレータ
103………導線
107………導線圧着部
108………バレル間部
109………被覆圧着部
111………被覆導線
115………被覆部
117………樹脂部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7