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特許7050840ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法
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  • 特許-ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/56 20060101AFI20220401BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20220401BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20220401BHJP
   C02F 5/14 20060101ALI20220401BHJP
   C23F 14/02 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
F22B37/56 Z
B01D61/00 500
B01D61/44 500
C02F1/42 B
C02F1/44 D
C02F1/469
C02F5/00 610F
C02F5/00 620C
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/14 D
C23F14/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020043295
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021143793
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2020-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 瑞之
(72)【発明者】
【氏名】内田 和義
【合議体】
【審判長】松下 聡
【審判官】河内 誠
【審判官】槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-48776(JP,A)
【文献】特開2009-39599(JP,A)
【文献】中国実用新案第208918783(CN,U)
【文献】特開2017-74550(JP,A)
【文献】特開2015-68631(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016435(WO,A1)
【文献】特開2013-237916(JP,A)
【文献】特開2019-65357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの蒸発管の腐食疲労を抑制する方法において、該ボイラの蒸気発生部内の水(以下、「ボイラ水」と称す。)の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を、それぞれ10mg/L以下に管理すると共に、該ボイラ水にスケール分散剤を存在させる方法であって、
該スケール分散剤が、重量平均分子量20,000を超え170,000以下のポリアクリル酸及びその塩、並びに、重量平均分子量1,000を超え100,000以下のポリメタクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリ(メタ)アクリル酸化合物である、ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【請求項2】
前記ボイラへの給水に用いる原水をイオン交換装置、逆浸透膜装置又は電気脱イオン装置で脱塩処理するか、或いは、前記ボイラのボイラ復水の回収率を上げることにより、前記ボイラ水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を管理する、請求項1に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【請求項3】
前記ボイラ水における前記スケール分散剤の濃度が1~1,000mg/Lである、請求項1又は2に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【請求項4】
前記ボイラが小型貫流ボイラである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法に関し、詳しくは、腐食環境やスケールの存在による繰り返しの応力が関連したボイラにおける蒸発管の腐食疲労を効果的に抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低圧ボイラ市場では伝熱面積が10~40mのものが多く、特に管寄せと汽水分離器及び、蒸発管のみで構成されるコンパクトな多管式特殊循環ボイラ(以降、「小型貫流ボイラ」と称す。)が圧倒的なシェアを誇っている。小型貫流ボイラはボイラを複数台設置する多缶設置で運用されることが多く、蒸気の要求量によって起動及び停止を多数回繰り返して運転される。また循環比が2以下で、特に蒸発管下部に給水されるため、下部近傍はpHが低く、溶存酸素も高いことから腐食が発生し易い。この腐食環境と、ボイラの起動及び停止による温度変動で生じる繰り返し応力による腐食疲労で蒸発管に亀裂が発生し、水漏れに至るケースが散見される。
【0003】
このような腐食疲労は、従来のボイラへの給水(以下、ボイラ給水ともいう)の水処理のみでは完全に防止することが困難であり、最短で3年程度で蒸発管に亀裂が発生して水漏れに至ることもあった。
【0004】
また、ボイラ給水の水質管理が十分でない場合に、スケール成分がボイラ給水に混入し、ボイラ内にスケールが付着するケースもよく見られる。特にボイラの伝熱面へのスケールの付着は、伝熱阻害を引き起こし、ボイラの熱効率の低下を生じさせるため、燃料費の増加にもつながる。このため、ボイラでは、腐食疲労の防止に加えて、スケール付着の防止も求められる。
【0005】
従来、腐食を抑制する技術やスケール付着を抑制する技術については、それぞれ報告がなされていた。
例えば腐食の抑制は、ボイラの蒸気発生部内の水(以降、ボイラ水)のpHを管理基準値の上限に保持することや脱酸素剤の濃度を管理基準値の高めに保持すること、缶底ブローは運転終了直後ではなく起動直前に行い高濃度の酸素の混入や低pH化を抑制すること、などが対策として挙げられる。
またスケールの抑制は、ボイラ給水の逆浸透膜処理又は軟化処理を行うこと、スケールの生成を抑制するためにスケール分散剤や清缶剤を添加すること(例えば特許文献1,2)や、スケール成分の排除のためのボイラ水のブロー管理を行うこと、などが対策として挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-74550号公報
【文献】特開2017-12991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ボイラの蒸発管の腐食疲労は、従来の腐食抑制方法では十分に抑制できない場合があった。
本発明者らが腐食疲労の原因を探求した結果、蒸発管のような伝熱負荷が高い部位にスケールが付着すると、蒸発管の管壁温度が上昇し、ボイラの起動及び停止に応じて蒸発管が伸縮する結果、応力が大きくなって腐食疲労によって蒸発管が破裂して、水漏れに到る場合が多いことがわかった。このことから、本発明者らは、ボイラの蒸発管の腐食疲労は、腐食環境だけでなく、スケールの存在も大きく関連していることを見出した。
【0008】
本発明は上記従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、腐食環境やスケールの存在による繰り返しの応力が関連したボイラにおける蒸発管の腐食疲労を効果的に抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ボイラ水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を低く管理することによって、腐食が十分に抑制され、蒸発管の腐食疲労を効果的に抑制できることを見出した。また、本発明者らは、さらにボイラ水にスケール分散剤を存在させてスケール付着を抑制することによって、蒸発管の腐食疲労をより一層抑制できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] ボイラの蒸発管の腐食疲労を抑制する方法において、該ボイラ水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を、それぞれ10mg/L以下に管理する、ボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【0012】
[2] 前記ボイラ給水に用いる原水をイオン交換装置、逆浸透膜装置又は電気脱イオン装置で脱塩処理するか、或いは、前記ボイラのボイラ復水の回収率を上げることにより、前記ボイラ水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を管理する、[1]に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【0013】
[3] 前記ボイラ水にスケール分散剤を存在させる、[1]又は[2]に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【0014】
[4] 前記スケール分散剤が、重量平均分子量20,000~170,000のポリアクリル酸及びその塩、並びに、重量平均分子量1,000~100,000のポリメタクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリ(メタ)アクリル酸化合物である、[3]に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【0015】
[5] 前記ボイラ水における前記スケール分散剤の濃度が1~1,000mg/Lである、[3]又は[4]に記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【0016】
[6] 前記ボイラが小型貫流ボイラである、[1]ないし[5]のいずれかに記載のボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、腐食環境やスケールの存在による繰り返しの応力によるボイラの蒸発管の腐食疲労を効果的に抑制して、ボイラ寿命の延長を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例Iにおける試験対象ボイラ水系のフローを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係るボイラにおける蒸発管の腐食疲労の抑制方法は、該ボイラ水、即ち、ボイラの蒸気発生部内の水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度をそれぞれ10mg/L以下に管理することを特徴とする。
【0021】
本実施形態によれば、腐食性の塩化物イオン及び硫酸イオン(以下、これらを「腐食性イオン」と称す場合がある。)の濃度をそれぞれ10mg/L以下に管理することにより、腐食疲労の起点となる蒸発管の腐食を抑制して腐食疲労を抑制することができる。
本実施形態において、ボイラ水の腐食性イオン濃度は低い程好ましく、それぞれ1.0mg/L以下となるように管理することが好ましい。
【0022】
ボイラ水の腐食性イオン濃度を上記上限以下とするには、ボイラ給水に用いる原水をイオン交換装置(多床塔方式、混床塔方式等のイオン交換装置)、逆浸透膜装置又は電気脱イオン装置で脱塩処理するか、或いは、ボイラのボイラ復水の回収率を上げるなどの方法を採用することができる。これらの2以上の方法を組み合わせて採用してもよい。
原水水質が変動する場合は、逆浸透膜装置を用いる方法では処理後の補給水も水質変動しやすいため、電気脱イオン装置の併用がより望ましい。
【0023】
ボイラ水の腐食性イオン濃度は、例えば、ボイラ給水の腐食性イオン濃度を、上記方法を用いて上記ボイラ水の腐食性イオン濃度の上限以下に調整することで、管理されてよい。
【0024】
なお、本実施形態においては、ボイラ水の腐食性イオン濃度と共に、シリカ濃度も上記ボイラ水の腐食性イオン濃度の上限以下(例えば、10mg/L以下)に管理することが、スケールの生成を抑制して蒸発管の腐食疲労をより一層確実に抑制する上で好ましい。
シリカ濃度についても、上記腐食性イオン濃度と同様、イオン交換装置、逆浸透膜装置、又は電気脱イオン装置による処理や、復水回収率の制御により低減することができる。
【0025】
また、本実施形態においては、上記のようにボイラ水の腐食性イオン濃度を抑えた上で、ボイラ水にスケール分散剤を存在させて蒸発管におけるスケール付着を抑制することで、より一層効果的に腐食疲労を抑制することができる。
【0026】
スケール分散剤は、水系システムに持ち込まれた硬度成分のスケール化を抑制したり、既に付着したスケールを除去したりするものであり、リン酸三ナトリウムやトリポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、ポリアクリル酸/又はその塩、ポリメタクリル酸及び/又はその塩、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物及び/又はその塩などのポリマーが挙げられるが、より好ましくは重量平均分子量が20,000~170,000のポリアクリル酸及び/又はその塩、重量平均分子量が1,000~100,000のポリメタクリル酸及び/又はその塩などのポリ(メタ)アクリル酸化合物である。ポリアクリル酸及び/又はその塩の重量平均分子量は、20,000を超え170,000以下がより好ましく、50,000万を超え120,000以下がさらに好ましい。ポリメタクリル酸及び/又はその塩の重量平均分子量は、1,000を超え100,000以下がより好ましく、5,000を超え80,000以下がさらに好ましい。これらのスケール分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
スケール分散剤を用いる場合、スケール分散剤は、ボイラ水に含まれていればよく、スケール分散剤を添加する場所は特に制限されない。スケール分散剤は、ボイラの給水系(給水ライン)、補給水系(補給水ライン)、ボイラ水、復水系(復水ライン)を含むボイラ水系の少なくとも一箇所に添加されてよい。スケール分散剤は、例えば、ボイラ給水配管、給水タンク、補給水配管、補給水タンク、復水配管、復水タンクのいずれに添加してもよく、これらの2ヶ所以上で添加してもよい。
【0028】
ボイラ水系にスケール分散剤を添加する場合、その添加量には特に制限はなく、ボイラ給水の水質(溶存酸素濃度、腐食性塩類濃度)、ボイラの運転条件によるスケール化傾向等によっても異なるが、薬品コストを抑えた上で、十分なスケール抑制効果を得る観点から、例えばポリマー系のスケール分散剤であれば、ボイラ給水中の濃度で1~1,000mg/L、特に10~500mg/Lとなるような量で添加することが好ましい。
【0029】
ボイラ水にイオン交換水を用いる場合、イオン交換水の水質としては、電気伝導率で1mS/m以下、特に0.5mS/m以下、とりわけ0.1mS/m以下であることが好ましい。電気伝導率が上記上限以下となるように塩類が除去されたものであれば、蒸発管における腐食をより一層確実に抑制して腐食疲労の抑制効果を高めることができる。
【0030】
なお、ボイラ水系では、スケール抑制のために、ボイラ給水に、原水を軟化器で軟化処理した軟水が用いられる場合があるが、軟化処理だけでは、カチオン成分が除去されるのみで、腐食性塩類を除去することはできず、蒸発管の腐食疲労の抑制効果は十分ではない。
【0031】
本発明が適用されるボイラは、特に制限されないが、蒸発管の腐食疲労が生じ易い観点から、蒸気圧が4MPa以下のボイラが好適であり、蒸気圧が2MPa以下である低圧ボイラがより好適である。低圧ボイラの代表的なものとして小型貫流ボイラが挙げられる。小型貫流ボイラの蒸気圧は、例えば1MPa以下であってよい。
小型貫流ボイラの種類には、丸型缶体と角型缶体がある。丸型缶体とは、中央部に燃焼室を備え、上部にバーナーを配置している缶体である。角型缶体とは、燃焼室が無く、水管側面に隣接してガスバーナーを配置している缶体である。
丸型缶体よりも角型缶体の方が蒸発管の腐食疲労がより発生し易いが、本発明によれば、ボイラ水の塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を管理することにより、更にはスケール分散剤を用いることにより、角型の小型貫流ボイラであっても蒸発管の腐食疲労を十分に抑制することができる。
なお、角型缶体で腐食疲労がより発生し易い理由は、角型缶体は、丸型缶体よりも構造上、熱負荷が不均一になるため、蒸発管の伸展が起きやすく、腐食を起点とした、腐食疲労がより発生し易いためと考えられる。
【実施例
【0032】
以下に、実験例、実施例及び比較例を挙げる。
なお、以下において、塩化物イオン、硫酸イオン、シリカ濃度は、「JIS B8224ボイラの給水及びボイラ水試験方法」に則って予め分析した。
【0033】
[実験例1]
腐食疲労試験によって塩類が腐食疲労に及ぼす影響を評価した。試験液は軟水を想定し、塩化物イオン、硫酸イオン、シリカを含む水質とした。
まず用いた試験片での破断条件を求めるため、以下の準備を行った。
材質STB340の試験片を円弧状疲労試験用に加工した。具体的には、平行部とR部(円弧部)とを有する形状に加工し、平行部及びR部を#800研磨した。
この試験片を使用して大気中における引張試験を実施したところ、弾性域最大荷重に対応する応力は220MPaと求められたため、この値を腐食疲労試験の最大応力として設定した。
【0034】
次に、上記試験片を腐食疲労試験装置の軸に設置し、試験片が浸漬されるように固定されたビーカー内に試験液1Lを注ぎ、試験片が完全に浸されるようにした。
試験液はイオン交換水に、特級試薬の塩化物ナトリウム、硫酸ナトリウム及び、48%苛性ソーダ、3号ケイ酸ナトリウムを用いて、下記試験液組成及びpHとなるように調整した。試験液の温度は85℃に調整した。
【0035】
次に、ビーカー内の溶存酸素濃度が表1に示される値となるように、酸素ガスを連続的にビーカー内へ供給し、循環ライン上に設置した溶存酸素計を見ながら溶存酸素濃度が一定になるようにガスの供給量をコントロールした。
溶存酸素濃度が一定になったら、試験時間96時間を目標に最大応力を220MPaに設定し、腐食疲労試験装置にて試験を実施した。
試験条件は以下の通りである。
【0036】
<腐食疲労試験の条件>
試験片:STB340より作製した円弧状疲労試験片(ASTM E466-96参考)
試験片の前処理:平行部およびR部を#800仕上げ
制御:荷重制御
波形:正弦波
最大応力:220MPa
周波数:4.0Hz
試験期間:最大96時間
試験液温度:85℃
試験液組成:塩化物イオン、硫酸イオン及びシリカ濃度は表1の通りとした。
No.1では、軟水給水で各物質をそれぞれ10mg/Lとしたとき、蒸気発生器内で10倍濃縮したと想定し、それぞれ100mg/Lとした。
No.2では、軟水給水で復水回収率が90%以上と高い場合に想定される水質とした。
No.3では、イオン交換水の給水で、濃縮50倍以上を想定される水質とした。イオン交換水では、塩類よりもシリカは微量リークしやすいためシリカ濃度のみ10mg/Lとした。
試験液pH:11.0
試験液溶存酸素濃度:8.0mg/L
試験液量:1L
【0037】
<結果>
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
<考察>
表1より次のことが分かる。
腐食性イオン濃度が低くなるに従って、試験片の破断に至るまでの引張回数が上がり、各腐食性イオン濃度が10mg/L以下では、試験片が破断し難いことが確認された。特に各腐食性イオン濃度が1mg/L以下では破断が発生しないことが確認された。
これは腐食性イオン濃度が低くなると、試験片の表面での腐食が発生し難くなり、あるいは微小亀裂内での腐食の進行が抑制されたことによると推定された。
【0040】
[試験例I]
<実施例I-1~5、比較例I-1~3>
図1に示すボイラ水系において、ボイラ給水の腐食性イオン濃度及びスケール分散剤の添加の有無と蒸発管の腐食疲労の状況との相関を調べた。
このボイラ水系では、原水をイオン交換装置又は軟化器1で処理した水が、給水タンク2を経由してボイラ4に給水され、ボイラ4で発生した復水が給水タンク2に戻される。溶存酸素濃度は給水タンク2の出口直後で測定した。スケール分散剤、及び苛性系のpH調整剤をボイラ3の手前の給水ラインに注入した。
このボイラ水系では、腐食性イオン濃度の管理を行わない場合、運転開始から8年以内に腐食疲労で蒸発管に亀裂が発生し、漏えいする事故が起きていた。
【0041】
対象ボイラの仕様は以下の通りである。
対象ボイラ:小型貫流ボイラ
運転圧力:1.0MPa以下
給水種類:軟水、軟水+復水、イオン交換水、イオン交換水+復水のいずれか。
ボイラ水水質:pH=11.0~11.8
電気伝導率=50~400mS/m
溶存酸素濃度=8.0mg/L
塩化物イオン、硫酸イオン、及びシリカ濃度は表2に示す通りである。
スケール分散剤:下記のポリアクリル酸ナトリウム(PANa)、ポリメタクリル酸ナトリウム(PMNa)又は正リン酸塩を使用した。添加量はボイラ水中でポリマーは純分として30mg/L、正リン酸塩はリン酸イオンとして30mg/Lとした。
PANa(4,000):重量平均分子量4,000のポリアクリル酸ナトリウム
PANa(60,000):重量平均分子量60,000のポリアクリル酸ナトリウム
PMNa(10,000):重量平均分子量10,000のポリメタクリル酸ナトリウム
正リン酸塩:正リン酸のナトリウム塩
調査対象のボイラ缶数:559缶
【0042】
<結果>
運転期間は8年間とし、8年間の運転期間内の蒸発管の亀裂発生数と亀裂発生割合とを調べた結果を表2に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
<考察>
表2より次のことが分かる。
腐食疲労の発生は、腐食性イオン濃度が高く、さらにスケール分散剤が使用されない場合(比較例I-1)が最も多かった。
スケール分散剤の添加が無い場合では、各腐食性イオン濃度が1mg/Lと低い実施例I-1は、各腐食性イオン濃度が80~100mg/Lと高い比較例I-1に比べて、腐食が抑制され、引張応力が増加し難く、腐食疲労の発生が抑制されたと推測される。各腐食性イオン濃度が1mg/Lでスケール分散剤を使用した実施例I-2~5では、スケール付着が殆ど無く、亀裂の発生は少なかった。これはスケール付着による引張応力が低く抑えられたことと、塩類濃度が低いことで腐食による疲労の発生、進展が起き難い環境であったためと推測された。
以上より、腐食疲労の発生を抑制するには、蒸発菅の腐食を抑えるだけでなく、スケール付着の発生も抑えることでより一層の効果が見出されることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1 イオン交換装置又は軟化器
2 給水タンク
3 ボイラ
図1