(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】透光性フィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1523 20190101AFI20220404BHJP
【FI】
G02F1/1523
(21)【出願番号】P 2019557574
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 KR2018004672
(87)【国際公開番号】W WO2018199570
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0052047
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0045418
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・チャン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・ファン・キム
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-504344(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0115859(KR,A)
【文献】特開2000-010126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti
およびM
oを含有する酸窒化物(oxynitride)を含み、光透過率が60%以上である透光性フィルムであって、
所定の電圧が印加される場合に透光性が変化する透過度可変フィルムである、透光性フィルム。
【請求項2】
酸窒化物は、下記化学式1で表される、請求項
1に記載の透光性フィルム:
[化学式1]
Mo
aTi
bO
xN
y
(ただし、aは、Moの元素含量比を意味し、bは、Tiの元素含量比を意味し、xは、Oの元素含量比を意味し、yは、Nの元素含量比を意味し、a>0、b>0、x>0、y>0であり、0.5<a/b<4.0であり、0.005<y/x<0.02である。)
【請求項3】
厚さが150nm以下である、請求項1
または2に記載の透光性フィルム。
【請求項4】
可視光屈折率が1.5~3.0範囲である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の透光性フィルム。
【請求項5】
2V以上の着色準位を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の透光性フィルム。
【請求項6】
電極層と、請求項1~
5のいずれか一項に記載の透光性フィルムと、電解質層と、を含むエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
第1電極層、前記電解質層、前記透光性フィルム、および第2電極層を順に含む、請求項
6に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
前記第1電極層と前記電解質層との間に第2エレクトロクロミック層をさらに含む、請求項
7に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
前記第2エレクトロクロミック層は、酸化性変色物質を含む、請求項
8に記載のエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2017年4月24日付けの韓国特許出願第10-2017-0052047号および2018年4月19日付けの韓国特許出願第10-2018-0045418号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
技術分野
本出願は、透光性フィルムおよびこれを含むエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0003】
エレクトロクロミックとは、可逆的な電気化学的酸化または還元反応によりエレクトロクロミック物質の光学的性質が変わる現象を言い、前記現象を利用した素子をエレクトロクロミック素子と言う。一般的に、素子の光学的性質の変化は、エレクトロクロミック物質を含有する層またはフィルムの色の変化を通じて具現され得る。例えば、エレクトロクロミック物質として無色透明に近いWO3を使用する場合、電圧の印加により電解質イオンと電子が移動すると、還元反応が起こり、エレクトロクロミック物質を含む層またはフィルムの色がブルー系に着色される。反対に、前記層またはフィルムで酸化反応が起こる場合には、層またはフィルムが本来の透明状態に脱色される。前記のような変色が素子において十分に具現されるためには、脱色状態のエレクトロクロミック層またはフィルムだけでなく、一緒に積層される他の層またはフィルム構成もやはり十分な透明性(透光性)を有しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願の目的は、エレクトロクロミック素子に使用可能な透光性フィルムを提供することにある。
【0005】
本出願の他の目的は、印加される電圧によって可逆的な変色が可能な透光性フィルムを提供することにある。
【0006】
本出願のさらに他の目的は、耐久性に優れたエレクトロクロミック素子用透光性フィルムを提供することにある。
【0007】
本出願のさらに他の目的は、印加される電圧によって可逆的な変色が可能な透光性フィルムを含むエレクトロクロミック素子を提供することにある。
【0008】
本出願の上記目的およびその他の目的は、下記に詳細に説明される本出願によって全部解決され得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願に関する一例において、本出願は、透光性フィルムに関する。本出願において、「透光性」とは、エレクトロクロミック素子で起こる色の変化のような光学特性の変化を明確に視認できるほど透明な場合を意味し、例えば、電位の印加のような何らの外部要因もない状態(すなわち下記に説明される脱色状態)で、フィルム自体が有する光透過率が最小60%以上である場合を意味する。より具体的に、本出願の透光性フィルムの光透過率の下限は、60%以上、70%以上、または75%以上であってもよく、光透過率の上限は、95%以下、90%以下、または85%以下であってもよい。特に言及しない限り、本出願において「光」とは、380nm~780nm波長範囲の可視光、より具体的には、550nm波長の可視光を意味する。また、前記透過率は、公知となったヘーズメーター(haze meter:HM)を利用して測定され得る。
【0010】
前記透光性フィルムは、酸窒化物(oxynitride)を含むことができる。一つの例において、透光性フィルムは、一つの層またはフィルム形態を有する酸窒化物であるか、層またはフィルム形態を有する酸窒化物と他の層またはフィルム構成との積層体であってもよい。本出願において酸窒化物は、酸化物(oxide)や窒化物(nitride)とは区別されて使用される。
【0011】
一つの例において、前記酸窒化物は、Ti、Nb、Mo、TaおよびWの中から選択される2以上の金属を含むことができる。
【0012】
もう一つの例において、前記透光性フィルムの酸窒化物は、MoとTiを同時に含むことができる。これと関連して、Moのみを含む窒化物、酸化物または酸窒化物は、隣接する薄膜との付着性が良くなく、Tiのみを含む窒化物、酸化物または酸窒化物は、電位の印加時に分解されるなど耐久性が良くない。特に、上記に羅列された金属のうちいずれか一つの金属、例えばTiのみを、またはMoのみを含む窒化物や酸窒化物は、例えば電位などが印加されない状態でも、40%以下、35%以下または30%以下の可視光透過率を有するように、低い透光性を有するので、脱色(bleached)時に透明性が要求されるエレクトロクロミックフィルム用部材として使用するのに適さない。また、上記のように脱色時に透過率が低いフィルムを使用する場合には、例えば着色時の透過率と脱色時の透過率の差が30%以上であることなど、エレクトロクロミック素子において要求される着色と脱色の明確な光学特性の変化を示すことが難しい。
【0013】
一つの例において、前記酸窒化物は、下記化学式1で表され得る。
【0014】
[化学式1]
MoaTibOxNy
【0015】
化学式1で、aは、Moの元素含量比を意味し、bは、Tiの元素含量比を意味し、xは、Oの元素含量比を意味し、yは、Nの元素含量比を意味し、a>0、b>0、x>0、y>0であり、0.5<a/b<4.0であり、0.005<y/x<0.02であってもよい。本出願において用語「元素含量比」は、atomic%であってもよく、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により測定され得る。前記元素含量比(a/b)を満たす場合、耐久性だけでなく、他の層の構成との付着性に優れたフィルムが提供され得る。前記元素含量比(y/x)を満たす場合、前記フィルムは、60%以上の光透過率を有することができる。特に、前記元素含量比(y/x)を満たさない場合には、40%以下または35%以下の可視光透過率を有することのように、フィルムが非常に低い透明性(透光性)を有するので、当該フィルムをエレクトロクロミック素子用部材として使用することができない。
【0016】
一つの例において、前記透光性フィルムは、所定の電圧が印加される場合、透光性が変化する透過度可変フィルムであってもよい。透過度可変特性は、上記に説明された酸窒化物の還元変色特性に起因する。具体的に、前記フィルムに含まれる酸窒化物は、電気化学反応がない本来そのままの状態では、無色に近い透光性を有するが、所定の電圧が印加されると、電解質イオンと一定水準以上の還元反応をしながら、変色、すなわち着色(coloration)され得る。すなわち前記酸窒化物は、還元性変色物質である。前記透光性フィルムが着色される場合、その光透過率は、60%未満に低下する。つまり、前記フィルムは、脱色時(または消色時に)60%以上の光透過率を有することができ、着色時には、60%未満の光透過率を有するエレクトロクロミック性透過度可変フィルムである。
【0017】
一つの例において、前記透光性フィルムは、-2V以下、例えば、-2.5V以下または-3V以下の電圧印加条件で着色され得る。すなわち、前記透光性フィルムの着色準位は、2V、2.5Vまたは3Vであってもよい。本出願において「着色準位」とは、透光性フィルム、または前記フィルムと導電層を含む積層体(half-cell)に印加される所定の大きさの電圧により電気化学反応が誘発され、その結果、前記透光性フィルムが色彩を有するようになり、フィルムの透過率が低下する場合のように、当該フィルムの着色(coloration)を起こすことができる電圧の「最小の大きさ(絶対値)」を意味する。着色準位、すなわち着色を起こす電圧の最小の大きさ(絶対値)は、着色に関する一種の障壁(barrier)として機能するので、前記大きさ(絶対値)より小さい値の電位を印加する場合には、事実上着色が起こらない(着色が微細に起こるとしても、ユーザに認識され得ないかまたは認識されるほど充分でない)。透光性フィルムの着色準位は、2V以上の範囲で、具体的な構成に応じて多少変化することができる。着色時に前記透光性フィルムは、(ダーク)グレーまたはブラック系の色を有することができる。公知された変色物質、例えば、Ti、Nb、Mo、TaおよびWのうちいずれか一つを含む酸化物の着色準位が1V程度であることを考慮すると、本出願の透光性フィルムは、高電圧に対する耐久性に優れていると言える。
【0018】
着色準位と関連して、フィルムの着色のために印加される電圧の大きさ(絶対値)の上限は、特に制限されないが、例えば、6V以下であってもよい。6Vを超過する場合、透光性フィルム、またはこれに隣接する他の構成が劣化し得る。
【0019】
一つの例において、前記透光性フィルムの厚さは、150nm以下であってもよい。例えば、前記透光性フィルムは、140nm以下、130nm以下、または120nm以下の厚さを有することができる。前記厚さの上限を超過する場合、電解質イオンの挿入や脱離が低下することがあり、変色速度が低下することがある。透光性フィルムの厚さの下限は、特に制限されないが、例えば、10nm以上、20nm以上または30nm以上であってもよい。10nm未満の場合、薄膜安定性が良くない。
【0020】
一つの例において、前記透光性フィルムの光屈折率は、1.5~3.0範囲または1.8~2.8範囲であってもよい。前記範囲の可視光屈折率を有する場合、前記透光性フィルムは、適切な透明性と光学特性の変化に対する視認性を具現することができる。
【0021】
前記透光性フィルムを形成する方法は、特に制限されない。例えば、前記構成を満たすことを前提として、スパッタリング蒸着のような公知された蒸着方式が透光性フィルムの形成時に使用され得る。
【0022】
本出願に関するさらに他の一例において、本出願は、エレクトロクロミック素子に関する。前記素子は、電極層、透光性フィルム、および電解質(層)を含むことができる。前記素子が電極層、透光性フィルム、および電解質(層)を含む形態は、特に制限されない。例えば、前記素子は、電極層、透光性フィルム、および電解質(層)を順に含むことができる。
【0023】
エレクトロクロミック素子に使用される透光性フィルムは、前記言及したものと同じ構成を有することができる。前記構成を有する透光性フィルムは、60%以上の可視光透過率を有することができるので、エレクトロクロミック素子用フィルムとして適している。また、上記に説明したように、所定の電圧の印加時には着色され得るので、いわゆるエレクトロクロミック層としても使用され得る。具体的に、前記透光性フィルムは、脱色時に、すなわち着色されない状態でそれ自体として60%以上の透過率を有することができ、着色時には、透過度が低くなって、60%未満の透過率、例えば、45%以下、30%以下、または20%以下の透過率を有することができる。一つの例において、前記透光性フィルムは、着色と脱色時の光透過率の差が20%以上または30%以上であってもよい。
【0024】
特に制限されないが、透光性フィルムの他に、エレクトロクロミック素子に一緒に使用される他の構成もやはり、60%以上、より具体的には、60%~95%範囲の可視光透過率を有することができる。一つの例において、前記エレクトロクロミック素子は、着色と脱色時の光透過率の差が10%以上、20%以上、または30%以上であってもよい。
【0025】
電極層は、導電性化合物、メタルメッシュ、またはOMO(oxide/metal/oxide)を含むことができる。
【0026】
一つの例において、電極層に使用される透明導電性化合物としては、ITO(インジウムスズ酸化物:Indium Tin Oxide)、In2O3(インジウム酸化物:indium oxide)、IGO(インジウムガリウム酸化物:indium galium oxide)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ:Fluor doped Tin Oxide)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛:Aluminium doped Zinc Oxide)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛:Galium doped Zinc Oxide)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ:Antimony doped Tin Oxide)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛:Indium doped Zinc Oxide)、NTO(ニオブドープ酸化チタン:Niobium doped Titanium Oxide)、ZnO(酸化亜鉛:zink oxide)、またはCTO(セシウムタングステン酸化物:Cesium Tungsten Oxide)等が挙げられる。しかし、上記に羅列された物質に透明導電性化合物の材料が制限されるものではない。
【0027】
一つの例において、電極層に使用されるメタルメッシュは、Ag、Cu、Al、Mg、Au、Pt、W、Mo、Ti、Niまたはこれらの合金を含み、格子形態を有することができる。しかし、メタルメッシュに使用可能な材料が上記に羅列された金属材料に制限されるものではない。
【0028】
一つの例において、電極層は、OMO(oxide/metal/oxide)を含むことができる。前記OMOは、ITOと代表される透明導電性酸化物に比べてさらに低い面抵抗を有するので、変色速度を短縮するなどエレクトロクロミック素子の電気的特性を改善することができる。
【0029】
前記OMOは、上部層、下部層、および前記2つの層の間に設けられる金属層を含むことができる。本出願において上部層とは、OMOを構成する層のうち透光性フィルムから相対的により遠く位置する層を意味する。
【0030】
一つの例において、OMO電極の上部層および下部層は、Sb、Ba、Ga、Ge、Hf、In、La、Se、Si、Ta、Se、Ti、V、Y、Zn、Zrまたはこれらの合金の酸化物を含むことができる。前記上部層および下部層が含む各金属酸化物の種類は、同一でも異なっていてもよい。
【0031】
一つの例において、前記上部層の厚さは、10nm~120nm範囲または20nm~100nm範囲であってもよい。また、前記上部層の可視光屈折率は、1.0~3.0範囲または1.2~2.8範囲であってもよい。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が電極層と素子に付与され得る。
【0032】
一つの例において、前記下部層の厚さは、10nm~100nm範囲または20nm~80nm範囲であってもよい。また、前記下部層の可視光屈折率は、1.3~2.7範囲または1.5~2.5範囲であってもよい。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が電極層と素子に付与され得る。
【0033】
一つの例において、前記OMO電極に含まれる金属層は、低抵抗の金属材料を含むことができる。特に制限されないが、例えば、Ag、Cu、Zn、Au、Pd、およびこれらの合金のうち一つ以上が金属層に含まれ得る。
【0034】
一つの例において、前記金属層は、3nm~30nm範囲または5nm~20nm範囲の厚さを有することができる。また、前記金属層は、1以下または0.5以下の可視光屈折率を有することができる。前記範囲の屈折率および厚さを有する場合、適切な水準の光学特性が電極層と素子に付与され得る。
【0035】
特に制限されるものではないが、前記構成の電極層は、50nm~400nm以下の厚さを有することができる。前記厚さの範囲内で適宜光透過度を具現することができる。
【0036】
一つの例において、前記素子は、もう一つの電極層を含むことができる。この場合、電極層は、他の構成との相対的な位置によって第1および第2電極層と呼称され得る。例えば、前記素子は、第1電極層、電解質層、前記透光性フィルムおよび第2電極層を順に含むことができる。各電極層の構成は、前記言及したものと同一である。
【0037】
電解質層は、エレクトロクロミック反応に関与する電解質イオンを提供する構成であってもよい。電解質イオンは、前記透光性フィルムに挿入され、変色反応に関与できる1価のカチオン、例えば、H+、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+であってもよい。
【0038】
電解質の種類は、特に制限されない。例えば、液体電解質、ゲルポリマー電解質または無機固体電解質が制限なく使用され得る。
【0039】
エレクトロクロミック可能なフィルムの構成にH+、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+のような1価のカチオンを提供できる化合物を含むことができる場合、電解質層に使用される具体的な化合物の構成は、特に制限されない。例えば、電解質は、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、またはLiPF6のようなリチウム塩化合物や、NaClO4のようなナトリウム塩化合物を含むことができる。
【0040】
別の例において、前記電解質層は、溶媒としてカーボネート系化合物を含むことができる。カーボネート系化合物は、誘電率が高いので、イオン伝導度を高めることができる。非限定的な一例として、PC(プロピレンカーボネート:propylene carbonate)、EC(エチレンカーボネート:ethylene carbonate)、DMC(ジメチルカーボネート:dimethyl carbonate)、DEC(ジエチルカーボネート:diethyl carbonate)またはEMC(エチルメチルカーボネート:ethylmethyl carbonate)のような溶媒がカーボネート系化合物として使用され得る。
【0041】
一つの例において、前記電解質層がゲルポリマー電解質を含む場合、前記電解質層は、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride、PVdF)、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile、PAN)、ポリメチルメタクリレート(Polymethyl methacrylate、PMMA)、ポリビニルクロリド(Polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide、PEO)、ポリプロピレンオキシド(Polypropylene oxide、PPO)、ポリ(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン)(Poly(vinylidene fluoride-hexafluoro propylene)、PVdF-HFP)、ポリビニルアセテート(Polyvinyl acetate、PVAc)、ポリオキシエチレン(Polyoxyethylene、POE)、ポリアミドイミド(Polyamideimide、PAI)等の高分子を含むことができる。
【0042】
特に制限されるものではないが、電解質層の厚さは、10μm~200μm範囲であってもよい。
【0043】
一つの例において、本出願のエレクトロクロミック素子は、第2エレクトロクロミック層をさらに含むことができる。第2エレクトロクロミック層が素子に含まれる場合、前記素子は、第1電極層と電解質との間に第2エレクトロクロミック層をさらに含むことができる。この場合、エレクトロクロミック可能な前記透光性フィルムは、第1エレクトロクロミック層と呼称され得る。
【0044】
前記第2エレクトロクロミック層は、第1エレクトロクロミック層の変色特性とは異なる変色特性を有することができる。すなわち前記第2エレクトロクロミック層は、酸化される場合に着色が行われ得る酸化性変色物質を含むことができる。このように、第1および第2エレクトロクロミック層のそれぞれに使用される変色物質の発色(変色)特性が異なる場合、前記第2エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミックのための酸化および還元反応時に、前記第1エレクトロクロミック層との電荷均衡(charge balance)を取ることができる。
【0045】
一つの例において、前記第2エレクトロクロミック層が含む酸化性変色物質は、LiNiOx、IrO2、NiO、V2O5、LixCoO2、Rh2O3またはCrO3等のように、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Rh、またはIrの酸化物;Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Rh、またはIrの水酸化物;およびプルシアンブルー(prussian blue)の中から選択される一つ以上であってもよい。
【0046】
特に制限されるものではないが、前記第2エレクトロクロミック層の厚さは、50nm~450nm範囲であってもよい。
【0047】
一つの例において、前記エレクトロクロミック素子は、基材をさらに含むことができる。前記基材は、素子の外側面、例えば、第1および/または第2電極層の外側面に位置することができる。
【0048】
前記基材もやはり、60%~95%の可視光透過率を有することができる。前記範囲の透過率を満たす場合、使用される基材の種類は、特に制限されない。例えばガラスまたは高分子樹脂が使用され得る。より具体的に、PC(ポリカーボネート:Polycarbonate)、PEN(ポリエチレンナフタレート:poly(ethylene naphthalate))またはPET(ポリエチレンテレフタレート:poly(ethylene terephthalate))のようなポリエステルフィルム、PMMA(ポリメチルメタクリレート:poly(methyl methacrylate))のようなアクリルフィルム、またはPE(ポリエチレン:polyethylene)またはPP(ポリプロピレン:polypropylene)のようなポリオレフィンフィルムなどが使用されるが、これに制限されるものではない。
【0049】
もう一つの例において、前記エレクトロクロミック素子は、電源をさらに含むことができる。電源を素子に電気的に連結する方式は、特に制限されず、関連技術分野における通常の知識を有する者により適宜行われ得る。
【発明の効果】
【0050】
本出願の一例によれば、透光性を有するだけでなく、印加される電圧によって可逆的な変色が可能であり、高電圧に対する耐久性に優れたフィルムが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】±5V電圧の印加時に、本出願の実施例1の積層体が耐久性の低下なく駆動する様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、実施例を通じて本出願を詳細に説明する。しかし、本出願の保護範囲が下記に説明される実施例により制限されるものではない。
【0053】
実験例1:酸窒化物層の元素含量とそれによる透過率の比較
実施例1
積層体の製造:光透過率が約98%程度であるガラスの一面に光透過率が約90%程度であるITOを形成した。その後、スパッタリング蒸着を利用して(ガラスの位置と反対である)ITOの一面上にMoとTiを含む酸窒化物(MoaTibOxNy)層を30nmの厚さで形成した(製造例1)。具体的に、MoとTiのターゲットの重量%の比率は、1:1で、蒸着パワーは、100Wで、工程圧は、15mTorrで蒸着を進め、Ar、N2およびO2の各流量は、30sccm、5sccmおよび5sccmとした。
【0054】
物性の測定:酸窒化物層の各元素の含量比と積層体の透過率を測定し、表1に記載した。元素含量(atomic%)は、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)により測定し、透過率は、ヘーズメーター(solidspec 3700)を利用して測定した。
【0055】
比較例1
蒸着時に窒素の流量を10sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、実施例1と同じ方法で酸窒化物層を形成した(製造例2)。
【0056】
比較例2
蒸着時に窒素の流量を15sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、実施例1と同じ方法で酸窒化物層を形成した(製造例3)。
【0057】
比較例3
蒸着時に窒素の流量を0sccmとし、表1のように含量比を変更したことを除いて、実施例1と同じ方法で酸化物層を形成した(製造例4)。
【0058】
【0059】
表1から、比較例1~3の酸窒化物層は、非常に低い透過率を有するが、実施例1の酸窒化物層は、約90%程度の透過率を有すると類推することができる。比較例とは異なって、実施例1に使用された酸窒化物またはこれを含む透光性積層体は、エレクトロクロミック素子用部材として使用することができる。
【0060】
実験例2:変色特性の確認
実施例2
前記実施例1で製造された積層体(ガラス/ITO/酸窒化物(MoaTibOxNy)(half-cell)を、LiClO4(1M)およびプロピレンカーボネート(PC)含有電解液に浸漬し、25℃で、-3Vの着色電圧と+3Vの脱色電圧をそれぞれ50秒間交互に印加した。時間の経過によって測定された着色および脱色時の電流、透過率、および変色時間は、表2に記載された通りである。
【0061】
また、±4Vおよび±5Vに対しても、前記のような測定を行い、その結果を表2に記載した。
【0062】
【0063】
表2のように、本出願の透光性フィルムを含む積層体は、3V以上の大きさを有する電位が印加される場合、変色特性を有することを確認することができる。
【0064】
なお、
図1は、±5Vの駆動電位を印加した場合に、実施例2の積層体(エレクトロクロミック素子)が駆動する様子を記録したグラフである。
図1から、本出願の透光性フィルムを含む積層体は、比較的高い駆動電位が印加される場合にも、均一なサイクル特性を示し、耐久性の低下なく作動することを確認することができる。