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特許7051184リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、それを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、それを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220404BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220404BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220404BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019572655
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 KR2018011984
(87)【国際公開番号】W WO2019074305
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0132681
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0120667
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・テ・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・シク・シン
(72)【発明者】
【氏名】ヨ・ジュン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ホン・キュ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ソン・フン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヨル・ユ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536558(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186321(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0063335(KR,A)
【文献】特開2016-051503(JP,A)
【文献】特開2012-221855(JP,A)
【文献】特開2016-216340(JP,A)
【文献】特開平08-138670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有水酸化物前駆体及びリチウム原料物質を混合した後に1次熱処理し、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を製造する段階と;
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物にB及びC含有原料物質並びにCo含有原料物質を混合して混合物を形成する段階と;、
前記混合物を2次熱処理し、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にB及びCoを含むコーティング物質を形成する段階と;を含む、正極活物質の製造方法であって、
前記正極活物質は前記コーティング物質内に1,000から5,000ppmのCoを含む、正極活物質の製造方法
【請求項2】
前記B及びC含有原料物質は、BC、(CO)B、(CO)B、[CH(CHO]B、及びCB(OH)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むものである、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記B及びC含有原料物質は、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して0.02重量部から0.04重量部で混合されるものである、請求項1又は2に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記Co含有原料物質は、Co(OH)、Co、Co(PO、CoF、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO)・6HO、Co、Co(SO・7HO及びCoCからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むものである、請求項1から3の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記Co含有原料物質は、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して0.5重量部から1.0重量部で混合されるものである、請求項1から4の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記1次熱処理は、700℃から900℃で行われるものである、請求項1から5の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記1次熱処理は、700℃から800℃で4時間から6時間の間行った後、800℃から900℃で8時間から12時間の間行うものである、請求項1から6の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記1次熱処理は、酸化雰囲気で行われるものである、請求項1から7の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記2次熱処理は、500℃から700℃で行われるものである、請求項1から8の何れか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物;及び、
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に分布されたコーティング物質;を含み、
前記コーティング物質はB及びCoを含み、
前記コーティング物質内に1,000から5,000ppmのCoを含むものである、正極活物質。
【請求項11】
前記正極活物質は、コーティング物質内に100から500ppmのBを含むものである、請求項10に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるものである、請求項10又は11に記載の正極活物質:
[化学式1]
Li1+x(NiCoMe1-(a+b)1-x
前記化学式1で、
0≦x≦0.3、0.65≦a≦0.9、0.05≦b≦0.2、0.7≦a+b<1、MeはMn及びAlからなる群から選択された少なくとも一つ以上である。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極。
【請求項14】
請求項13に記載の正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年10月12日付韓国特許出願第10-2017-0132681号及び2018年10月10日付韓国特許出願第10-2018-0120667号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術の開発と需要の増加に伴い、エネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く使われている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、この中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOなどのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に用いられている。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため熱的特性が非常に劣悪である。また、前記LiCoOは高価であるため、電気自動車などのような分野の動力源として大量で使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoOを代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePOなど)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発されている。この中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量の電池を具現しやすいリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究開発がさらに活発に研究されている。しかし、前記LiNiOはLiCoOと比べて熱安定性が劣化し、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が発生すると、正極活物質自体が分解されて電池の破裂及び発火をもたらすという問題がある。これにより、前記LiCoOの優れた可逆容量は維持しながらも、低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCo及びMnまたはAlで置換したリチウムニッケルコバルト金属酸化物が開発された。
【0006】
しかし、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の場合、構造安定性が低く、容量が低く、特に容量特性を高めるためにニッケルの含量を高める場合、充放電工程が進められることにより前記ニッケルがNi2+からNi3+またはNi4+に酸化し、これにより急激な酸素脱離が進行し、構造安定性がさらに低下するとの問題点があった。
【0007】
したがって、高容量特性を示す高含量のNiを含むリチウムニッケルコバルト金属酸化物を含み、且つ、このとき、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の構造安定性に優れ、高容量及び高寿命の電池を製造することができる正極活物質の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような問題点を解決するために、本発明の第1の技術的課題は、ニッケルを高含量で含むリチウム遷移金属酸化物を含み、且つ、特定原料物質を用いて前記リチウム遷移金属酸化物の表面をコーティングすることで高容量特性を示し、構造的安定性が改善した正極活物質の製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の第2の技術的課題は、特定含量としてCoを含むコーティング物質が形成された正極活物質を提供することである。
【0010】
本発明の第3の技術的課題は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することである。
【0011】
本発明の第4の技術的課題は、前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有水酸化物前駆体及びリチウム原料物質を1次熱処理し、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を製造する段階と;前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物にB及びC含有原料物質並びにCo含有原料物質を混合して混合物を形成する段階と;、前記混合物を2次熱処理し、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にB及びCoを含むコーティング物質を形成する段階と;を含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物;及び、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に分布されたコーティング物質;を含み、前記コーティング物質はB及びCoを含み、前記コーティング物質内に1,000から5,000ppmのCoを含むものである、正極活物質を提供する。
【0014】
また、本発明による正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。
【0015】
また、本発明による正極を含む、リチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ニッケルを高含量で含むリチウム遷移金属酸化物の表面に特定原料物質を用いてB及びCoを含むコーティング物質を形成することで、Niの酸化による酸素脱離を防止することができる。これに伴い、正極活物質と電解液の間の副反応を抑制し、正極活物質の構造安定性を改善することができる。これを用いて電池製造時の出力特性及び寿命特性が向上した二次電池を提供することができる。
【0017】
特に、コーティング原料物質として特定化合物を用いることにより、Coの酸化による抵抗特性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡の写真である。
図2】比較例1で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡の写真である。
図3】比較例2で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡の写真である。
図4】比較例5で製造した正極活物質の走査電子顕微鏡の写真である。
図5】実施例1~2及び比較例1、3~4で製造したリチウム二次電池の充放電特性を示したグラフである。
図6】実施例1及び比較例1、3~4で製造したリチウム二次電池の1.0C定電流条件で放電した際の放電容量を示したグラフである。
図7】実施例1及び比較例1、3~4で製造したリチウム二次電池の2.0C定電流条件で放電した際の放電容量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲に用いられた用語や単語は、通常的かつ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるとの原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0021】
本発明による正極活物質は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物;及び、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に形成されたコーティング物質;を含み、前記コーティング物質はB及びCoを含み、前記コーティング物質内に1,000から5,000ppmのCoを含むものである。
【0022】
具体的に、前記正極活物質は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含むものであってもよく、より好ましくは、下記化学式1で表されるニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含んでもよい。
【0023】
[化学式1]
Li1+x(NiCoMe1-(a+b)1-x
前記化学式1で、0≦x≦0.3、0.65≦a≦0.9、0.05≦b≦0.2、0.7≦a+b<1、好ましくは、0≦x≦0.3、0.65≦a≦0.8、0.1≦b≦0.2、0.75≦a+b≦0.95、MeはMn及びAlからなる群から選択された少なくとも一つ以上である。
【0024】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、より好ましくは、LiNiCoAl1-(a+b)またはLiNiCoMn1-(a+b)であってもよく、最も好ましくは、LiNi0.65Co0.2Al0.15、LiNi0.7Co0.15Al0.15、LiNi0.8Co0.1Al0.1、LiNi0.9Co0.05Al0.05、LiNi0.65Co0.2Mn0.15、LiNi0.7Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、及びLiNi0.9Co0.05Mn0.05からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記のように、リチウムを除いた遷移金属の全体モル数に対して、ニッケルの含量が65モル%以上のニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を用いて電池製造時の電池の高容量化を達成することができる。
【0025】
前記正極活物質は、前記正極活物質の表面に形成されたコーティング元素B及びCoを含むコーティング物質を含む。前記コーティング物質によって前記正極活物質とリチウム二次電池に含まれる電解液との接触が遮断され、副反応発生が抑制されるので、電池に適用時、寿命特性を向上させることができ、さらに、正極活物質の充填密度を増加させることができる。特に、コーティング元素としてBを含む場合、優れた電気伝導性の確保により初期抵抗及び抵抗増加率を減少させることができ、正極材の表面に残留するリチウム不純物を低減する効果を達成することができ、コーティング元素Coを含む場合、レート特性を改善することができ、優れた電気伝導性の確保により初期抵抗及び抵抗増加率を減少させることができる。
【0026】
前記コーティング物質は、前記Bを100ppmから500ppm、好ましくは200ppmから300ppmで含んでもよく、前記Coを1,000ppmから5,000ppm、好ましくは2,000ppmから4,500ppmで含んでもよい。前記コーティング物質内に前記B及びCoが前記範囲で含まれる場合、フッ化水素による正極活物質表面の腐食及び副反応抑制効果がさらに効果的に発生し、電池に適用時のレート特性及び寿命特性がさらに向上し得る。
【0027】
前記コーティング物質に含まれるCoの含量は、透過電子顕微鏡及びX線分光分析法を用いて測定することができる。例えば、JEOL社のJEM-2010Fモデル(透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM))の電子分散X線分光(electron dispersive X-ray spectroscopy(EDS))を用いてコーティング物質内に存在するCoの含量を測定することができる。
【0028】
前記コーティング物質に含まれるBの含量は、例えば、ICP質量分析法を用いて測定することができる。例えば、前記ICP質量分析は(Optima 7000dv、Perkin Elmer社製)を用いて、試料をガラス瓶(vial)に0.05gになるように分取して重さを測定し、塩酸2mL及び過酸化水素0.5mLを加えた後、130℃で3時間の間加熱して試料を溶解させる。次いで、溶解された試料に内部標準溶液(internal STD)0.2mLを添加し、超純水溶液で20mLになるように希釈することで測定することができる。
【0029】
前記コーティング物質は、正極活物質の表面全体に亘って均一に分布されてもよく、部分的に固まるアイランド(island)形態に分布されてもよい。具体的に、前記コーティング物質が前記正極活物質の表面全体に亘って均一にコーティング層を形成する場合、例えば、前記コーティング層の厚さは1nmから50nm、好ましくは7nmから25nmであってもよい。前記正極活物質の表面に前記コーティング物質がアイランド形態で分布する場合、前記コーティング物質は正極活物質の全体表面積のうち20%以上から90%以下の面積を占めるように分布されてもよい。前記コーティング物質の面積が正極活物質の全体表面積のうち20%未満の場合、コーティング物質の形成による構造的安定性の改善効果が些細であり得る。前記コーティング物質が正極活物質の表面全体に亘って均一に形成される場合、正極活物質表面の構造安定性をさらに改善させることができる。
【0030】
一方、本発明による正極活物質の製造方法は、遷移金属の総モル数に対して65モル%以上のニッケルを含むニッケル含有水酸化物前駆体及びリチウム原料物質を混合して1次熱処理し、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を製造する段階と;前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物にB及びC含有原料物質並びにCo含有原料物質を混合して混合物を形成する段階と;前記混合物を2次熱処理し、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にB及びCoを含むコーティング物質を形成する段階と;を含む。
【0031】
以下、本発明の正極活物質の製造方法を具体的に説明する。
【0032】
先ず、ニッケル含有遷移金属水酸化物前駆体及びリチウム原料物質を混合して1次熱処理し、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を製造する。
【0033】
前記ニッケル含有遷移金属水酸化物前駆体は、遷移金属の総モル数に対してニッケルの含量が65モル%以上のものであってもよく、Nia1Cob1Me1-(a1+b1)OH(このとき、0.65≦a1≦0.8、0.05≦b1≦0.2、0.85≦a1+b1≦0.95、MeはMn及びAlからなる群から選択された少なくとも一つ以上である)であってもよい。好ましくは、前記ニッケルコバルトマンガン水酸化物前駆体は、Ni0.65Co0.2Al0.15(OH)、Ni0.7Co0.15Al0.15(OH)、Ni0.8Co0.1Al0.1(OH)、Ni0.9Co0.05Al0.05(OH)、Ni0.65Co0.2Mn0.15(OH)、Ni0.7Co0.15Mn0.15(OH)、Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)、及びNi0.9Co0.05Mn0.05(OH)からなる群から選択される少なくとも一つ以上であってもよい。前記のとおり、正極活物質用前駆体の全体モル数に対してニッケルの含量が65モル%以上の場合、これを用いて電池製造時の電池の高容量化を達成することができる。
【0034】
また、前記リチウム原料物質は、リチウムソースを含む化合物であれば特に制限されず、好ましくは、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)、LiNO、CHCOOLi及びLi(COO)からなる群から選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0035】
また、前記ニッケル含有遷移金属水酸化物前駆体及びリチウム原料物質は、Liと金属のモル比(Li/金属比率)が1から1.3、好ましくは1.05から1.1、より好ましくは1.07から1.09となるように混合してもよい。前記ニッケル含有遷移金属水酸化物前駆体及びリチウム原料物質が前記範囲で混合される場合、優れた容量特性を示す正極活物質を製造することができる。
【0036】
前記ニッケル含有遷移金属水酸化物前駆体及びリチウム原料物質の混合物を1次熱処理し、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を製造する。前記1次熱処理は、700℃から900℃の温度で行われてもよい。
【0037】
このとき、前記1次熱処理は酸化雰囲気で行われてもよい。前記1次熱処理を酸化雰囲気で行う場合、コーティング物質を十分に形成することができる程度の残留リチウム不純物を得ることができ、結晶粒の発達に優れた正極ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を得ることができる。例えば、前記1次熱処理を窒素雰囲気などの非活性化雰囲気で行う場合、残留リチウム不純物の量が多くなり金属酸化物が合成されないので、コーティング物質の形成が困難であり得る。
【0038】
前記1次熱処理は、酸化雰囲気で600℃から800℃で4時間から5時間の間1段階で行った後、800℃から900℃で8時間から10時間の間2段階で行うものであってもよい。前記1次熱処理を2段階で行う場合、正極活物質の粒子強度を向上することができる。また、前記1次熱処理温度及び時間が前記範囲を満たす場合、粒子内に原料物質が残留しないので、電池の高温安定性が向上し、これにより体積密度及び結晶性が向上して結果的に正極活物質の構造安定性が向上し得る。
【0039】
次いで、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物にB及びC含有原料物質並びにCo含有原料物質を混合し、混合物を形成する。
【0040】
具体的に、前記B及びC含有原料物質は、BC、(CO)B、(CO)B、[CH(CHO]B、及びCB(OH)からなる群から選択される少なくとも一つ以上であってもよく、好ましくはBCであってもよい。
【0041】
例えば、前記B及びC含有原料物質がBCの場合、前記BCは高い融点を有するので、高温熱処理を行う場合の原料物質として適用するのが有利である。また、前記B及びC含有原料物質に含まれるCは、強力な還元作用により前記Cの酸化が容易であり、同時にコーティング原料物質の酸化を容易に抑制することができる。
【0042】
前記B及びC含有原料物質は、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して0.02重量部から0.04重量部で混合してもよい。前記B及びC含有原料物質を前記範囲で混合することにより、優れた電気伝導性の確保により初期抵抗及び抵抗増加率を減少させることができ、正極材表面に残留するリチウム不純物を低減する効果を達成することができる。
【0043】
前記Co含有原料物質は、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面を被覆処理することができ、電気化学的性能を低下させないものであれば制限なく用いることができ、具体的に、Co(OH)、Co、Co(PO、CoF、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO)・6HO、Co、Co(SO・7HO及びCoCからなる群から選択される少なくとも一つ以上であってもよい。
【0044】
例えば、前記Co含有原料物質としてCo(OH)を用いる場合、これを電池に適用時に構造安定性がさらに改善し得る。しかし、前記Co(OH)を酸化雰囲気で300℃以上で熱処理時、Coに酸化されて電気化学反応時抵抗として作用するか、電極製造過程中または充放電サイクル中、外部の物理的な影響により正極材表面から脱離されるとの問題点があった。しかし、本発明のようにコーティング物質としてCo含有原料物質だけではなく、B及びC含有原料物質をともに含む場合、前記B及びC含有原料物質は高温熱処理時、解離(dissociation)過程で発生する炭素により還元剤の役割を担うことができる。これにより、前記Co(OH)が金属酸化物に酸化されることを防止し、コーティング物質内のCoが好ましくは1,000から5,000ppm程度に残存するものであってもよい。
【0045】
前記Co含有原料物質は、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して0.5重量部から1.0重量部で混合してもよい。前記Co含有原料物質を前記範囲で混合することで、レート特性を改善することができる。
【0046】
次に、前記混合物を500℃から750℃で2次熱処理し、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面にB及びCoを含むコーティング物質を形成する。
【0047】
前記2次熱処理は、500℃から750℃で3時間から8時間、より好ましくは500℃から650℃で4時間から6時間の間行うものであってもよい。前記2次熱処理温度が前記範囲を満たす場合、高温でコーティング物質を形成することにより、正極活物質表面を変化させることなく、コーティング物質の形成による正極活物質の表面改質が容易に発生し、4.3V以上の高電圧でも構造的安定性に優れ、高容量を有する正極活物質を製造することができる。例えば、前記2次熱処理温度及び時間が前記範囲を脱する場合、過度なリチウムボレート化合物の形成により容量及び寿命特性が減少し得る。
【0048】
また、本発明による正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。具体的に、前記二次電池用正極は、正極集電体、前記正極集電体上に形成された正極活物質層を含み、前記正極活物質層は本発明による正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。
【0049】
このとき、前記正極活物質は前述したところと同一なので、具体的な説明を省略する。以下では、残りの構成に対してのみ具体的に説明する。
【0050】
前記正極集電体は電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが用いられてよい。また、前記正極集電体は、通常、3から500μmの厚さを有してよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めてもよい。例えばフィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で用いられてよい。
【0051】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに、導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含んでよい。
【0052】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80から99重量%、より具体的には、85から98.5重量%の含量で含まれてよい。前記の含量範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示し得る。
【0053】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく、且つ電気伝導性を有するものであれば特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1から15重量%で含まれてもよい。
【0054】
前記バインダーは、正極活物質の粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を担う。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの種々の共重合体などが挙げられ、これらのうち1種が単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1から15重量%で含まれてもよい。
【0055】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極の製造方法によって製造することができる。具体的に、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造することができる。
【0056】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に用いられる溶媒であればよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種が単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解または分散させ、以後の正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0057】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0058】
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的に、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池であってもよい。
【0059】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と負極との間に介在される分離膜及び電解質を含み、前記正極は、前述したところと同一なので、具体的な説明を省略し、以下では、残りの構成に対してのみ具体的に説明する。
【0060】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、分離膜の電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含んでよい。
【0061】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
【0062】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μmから500μmの厚さを有し、正極集電体と同様に、前記集電体表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で用いられてもよい。
【0063】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダー及び導電材を含む。
【0064】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が用いられてもよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープできる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうち何れか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素及び高結晶性炭素などの何れが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso-carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0065】
前記負極活物質は、負極活物質層の全体重量を基準で80重量%から99重量%で含まれてもよい。
【0066】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体間の結合に助力となる成分であって、通常、負極活物質層の全体重量を基準で0.1重量%から10重量%で添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの種々の共重合体などが挙げられる。
【0067】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全体重量を基準で10重量%以下、好ましくは、5重量%以下で添加されてよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが用いられてもよい。
【0068】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥することで製造されるか、または、前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてよい。
【0069】
前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0070】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池で分離膜に用いられるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗で、且つ電解液含浸能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリルレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミックス成分または高分子物質が含まれたコーティングされた分離膜が用いられてもよく、選択的に、単層または多層構造として用いられてもよい。
【0071】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0072】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでよい。
【0073】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を担うことができるものであれば特に制限されずに用いられてもよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2から20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1、3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合して用いることが、電解液の性能が優れてよい。
【0074】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば特に制限されずに用いられてもよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1から2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0075】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1から5重量%で含まれてもよい。
【0076】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び寿命特性を安定して示すため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0077】
これにより、本発明の他の態様によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール及びそれを含む電池パックが提供される。
【0078】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムの何れか一つ以上の中大型デバイス電源として利用されることができる。
【0079】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限されないが、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形などからなってよい。
【0080】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使われるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好適に用いられてもよい。
【0081】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は幾多の他の形態に変形されてよく、本発明の範囲が下記で詳述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0082】
[実施例]
実施例1
Ni0.65Co0.2Mn0.15(OH)前駆体とLiCOを遷移金属:Liのモル比が1.0:1.07となるように混合し、これをアルミナるつぼに入れて酸素雰囲気下で750℃で5時間の間熱処理を進めた後、870℃で10時間の間熱処理して正極活物質を製造した。
【0083】
前記で製造した正極活物質をすり鉢を用いて粉砕した。粉砕された正極活物質にコーティング元素-含有原料物質としてBC及びCo(OH)を前記正極活物質100重量部に対してそれぞれ0.02重量部及び0.8重量部を添加して混合した。次いで、空気雰囲気で600℃で5時間の間熱処理を行った。熱処理された粉末をすり鉢を用いて粉砕後、325meshを用いてふるい分けることで、表面にB及びCoを含むコーティング物質がアイランド形態に分布された正極活物質を製造した。
【0084】
実施例2
粉砕された正極活物質100重量部に対してコーティング元素-含有原料物質としてBC及びCo(OH)をそれぞれ0.02重量部及び0.4重量部を混合することを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0085】
比較例1
コーティング元素-含有原料物質としてHBOを正極活物質100重量部に対して0.05重量部含み、380℃に8時間の間熱処理を行うことを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0086】
比較例2
コーティング元素-含有原料物質としてCo(OH)を正極活物質100重量部に対して0.5重量部含み、600℃に5時間の間熱処理を行うことを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0087】
比較例3
コーティング元素-含有原料物質としてBCを正極活物質100重量部に対して0.05重量部含み、600℃で5時間の間熱処理を行うことを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0088】
比較例4
コーティング-元素含有原料物質としてHBO及びWOを正極活物質100重量部に対してそれぞれ0.02重量部及び0.6重量部含み、380℃で8時間の間熱処理を行うことを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0089】
比較例5
コーティング-元素含有原料物質としてB及びLiCOを正極活物質100重量部に対してそれぞれ0.163重量部及び0.161重量部含み、600℃で5時間の間熱処理を行うことを除いては、前記実施例1と同一の方法を用いて正極活物質を製造した。
【0090】
実験例1
前記実施例1及び比較例1、2、5で製造した正極活物質それぞれを走査電子顕微鏡を用いてその表面特性を確認し、これを図1から図4に示した。Coのみを単独にコーティングした比較例2の正極活物質の場合(図3参照)、実施例1の正極活物質(図1参照)に比べて活物質表面に小さな粒(Co粒子)がより多く分布した。比較例2のように表面にCo粒子が粒のように分布される場合、電極製造中の混合工程、例えば、バッチ式反応器での混合工程または超音波を用いた混合工程時、表面に粒のように分布されたCo粒子の脱離が発生し得るが、この場合、充放電特性の向上及び抵抗特性の改善効果を達成することができない。
【0091】
これに比べて、実施例1で製造した正極活物質の場合、比較的低温でコーティング物質を形成した比較例1(図2参照)のように表面が相対的に滑らかに形成されることを確認することができた。また、比較例5で製造した正極活物質の場合、前記実施例1及び比較例1のように表面が相対的に滑らかにみえたが、これは、Coの含量が実施例1及び比較例1~2に比べて少量含まれたからである。
【0092】
実験例2:正極活物質の電気化学的特性の評価
前記実施例1~2及び比較例1、3~5でそれぞれ製造した正極活物質を用いて、リチウム二次電池を製造し、これを用いて容量特性を確認した。
【0093】
先ず、実施例1~2及び比較例1、3~5によるリチウム二次電池を製造するために、実施例1~2及び比較例1、3~5でそれぞれ製造した正極活物質、カーボンブラック導電材、及びポリビニリデンフルオライド(PVDF)バインダーを95:2.5:2.5の重量比で混合し、これをN-メチルピロリドン溶媒中で混合して正極形成用組成物を製造した。前記正極形成用組成物を厚さが20μmのAlホイルに塗布した後乾燥し、ロールプレスを行って正極を製造した。一方、負極活物質として直径16パイのリチウム金属電極を用いた。前記で製造した正極と負極をポリプロピレン分離膜とともに積層して電極組立体を製造した後、これを電池ケースに入れてエチルメチルカーボネート:エチレンカーボネートを7:3で混合した混合溶媒に1MのLiPFを溶解させた電解液を注入し、実施例1~2及び比較例1、3~5のリチウム二次電池を製造した。
【0094】
前記で製造した実施例1~2及び比較例1、3~5のリチウム二次電池それぞれに対して25℃で0.1C定電流で4.3Vまで充電を実施し、0.1C定電流で3Vになるまで放電を実施した後、1サイクル目で充放電特性を観察し、その結果を下記表1及び図5に示した。以後、1.0C及び2.0Cで放電条件を異なるようにし、1.0C及び2.0Cにおける放電容量を測定してそれぞれ図6及び図7に示し、前記放電容量値を初期充電容量で分けて計算した1.0C及び2.0Cでの効率は下記表2に示した。
【0095】
【表1】
【0096】
前記表1及び図5に示したところのように、比較例1、3~5で製造したリチウム二次電池の場合、0.1Cレート(rate)で充電時90%未満の効率を示すことを確認することができた。一方、実施例1及び2で製造したリチウム二次電池の場合、0.1Cレート(rate)で充放電する場合、90%以上の効率を示して本発明によるリチウム二次電池がさらに優れた効率を示すことを確認することができた。
【0097】
【表2】
【0098】
また、前記表2及び図6~7に示したところのように、実施例1~2で製造した二次電池の場合、1.0Cレート(rate)で90%以上の効率を示し、2.0Cレート(rateで89%程度の優れた効率を示し、放電容量も最も改善したことを確認することができた。
【0099】
一方、比較例1、3~5をみると、B及びCoを本願発明の範囲で含む実施例1に比べて1.0C、2.0Cそれぞれでレート特性が劣化したことを確認することができた。
【0100】
実験例3:リチウム二次電池の抵抗特性
前記実験例2で製造した実施例1~2及び比較例1~5のリチウム二次電池に対して抵抗特性の評価を実施した。
【0101】
具体的に、前記実施例1~2及び比較例1~5のリチウム二次電池を25℃で0.5C定電流で4.3Vになるまで充電し、20分間放置した後、1.0C定電流で3Vになるまで放電した。前記充放電挙動を1サイクルとし、このようなサイクルを50回繰り返し実施した後、本実施例及び比較例による抵抗増加率を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
前記表3に示したところのように、実施例1で製造した二次電池の場合、50サイクル後の抵抗を測定した時、初期抵抗に対比して1.5%未満の抵抗増加率を示すことを確認することができた。一方、前記実施例2で製造した二次電池は、コーティング物質内のCo含量の低下により相対的に正極活物質の構造安定性が低下し、これを電池に適用時、実施例1に比べて抵抗特性が劣化したことを確認することができた。
【0104】
また、比較例1、3~4で製造した二次電池の場合、実施例1に比べて抵抗増加率が高いことを確認することができた。これを介して、B及びCoを全て含むコーティング物質が形成される場合、これを含む正極活物質の抵抗増加率を減少させることを確認することができた。一方、比較例2で製造した二次電池の場合、コーティング物質内のCoのみを含むことにより、前記コバルト酸化物が酸化されて正極活物質の表面から脱離されるかまたはサイクルが進行されることにより徐々に抵抗として作用し、抵抗特性が劣化したことを確認することができた。
【0105】
また、比較例5で製造した二次電池の場合、B及びCoを同時に含むことによる容量特性は改善されたが、B原料物質として本願発明の炭素含有B原料物質を用いず、Co原料物質が酸化されても前記B原料物質が還元剤として作用できなかったので、Co原料物質が酸化され抵抗として作用することで50サイクル後の抵抗が増加したものとして確認された。
【0106】
すなわち、本願発明によれば、リチウム遷移金属酸化物の表面にB及びCoを含むコーティング物質をコーティングする場合、前記B及びC含有原料物質並びにCo含有原料物質を特定化合物として用いることで、リチウム遷移金属酸化物の表面にB及びCoを含むコーティング物質を形成した後の熱処理時、B及びC含有原料物質が還元剤の役割を行ってCo含有原料物質の酸化を防止することができる。これにより、高温熱処理を行ってもCoが還元されず、コーティング物質内に残存して本発明による効果を達成するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7