(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】焼成チョコレート菓子及び焼成チョコレート菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/00 20060101AFI20220404BHJP
A23G 1/32 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
A23G1/00
A23G1/32
(21)【出願番号】P 2017116616
(22)【出願日】2017-06-14
【審査請求日】2020-05-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.ウェブサイト:http://www.morinaga.co.jp/public/newsrelease/web/fix/file56944a4d32369.pdfにて平成29年1月6日に公開した。2.平成29年1月10日~同年3月14日に、東京駅グランスタ等にて本願製品を販売した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】小野 隆
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082964(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141915(WO,A1)
【文献】日本油化学会誌, 1999年,第48巻, 第10号,p.1161-1168
【文献】サンレシチンA-1,太陽化学株式会社(出願人が提示した資料2),p.1
【文献】粧技誌, 1995年,第29巻第1号,p.3-11
【文献】色材,1986年,Vol.62, No.8,p.474-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00-9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に成形されていて、少なくとも表面が熱変性している焼成チョコレート菓子において、大豆由来
の粉末状リゾレシチン
素材の該リゾレシチンを0.1~1質量%含有することを特徴とする焼成チョコレート菓子。
【請求項2】
チョコレート生地に大豆由来
の粉末状リゾレシチン
素材の該リゾレシチンを0.1~1質量%含有させ、所定形状に成形し、焼成することを特徴とする焼成チョコレート菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
焼成チョコレート菓子は、少なくとも表面が硬化しているため、手指を汚さずに食べることができ、焼成による独特の風味も付与されているという特徴がある。
【0003】
しかしながら、焼成の際に成形したチョコレート生地がダレやすく、製品形状を一定にすることが難しいという問題があった。
【0004】
このため、例えば、下記特許文献1には、チョコレート生地に気泡を含有させた後、成形し、焼成して固化することを特徴とする焼菓子の製造法が開示されている。そして、その製造法によれば、チョコレート生地に気泡を含有させたことにより、焼成時における保形性が向上することが記載されている。
【0005】
一方、下記特許文献2,3には、チョコレート生地に特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることにより、焼成時のダレを抑制することができるとともに、内部ではチョコレート本来の軟らかく滑らかな食感が維持されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-210934号公報
【文献】特開2008-206457号公報
【文献】特開2008-206458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の製造法のように、チョコレート生地に含気させて焼成すると、内部まで熱変性しやすくなり、サク味のある軽い食感が得られるという特徴はあるものの、チョコレート本来のトロッとした軟らかい食感が乏しくなるという問題点があった。
【0008】
また、上記特許文献2,3のように、チョコレートにポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させると、その配合により風味に影響をきたす場合があった。
【0009】
よって、本発明の目的は、焼成時のダレが抑制され、なお且つ、チョコレート本来の軟らかな食感や風味も良好な、焼成チョコレート菓子及びその焼成チョコレート菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の焼成チョコレート菓子は、所定形状に成形されていて、少なくとも表面が熱変性している焼成チョコレート菓子において、酵素分解レシチンを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の焼成チョコレート菓子においては、前記酵素分解レシチンを0.1~1質量%含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の焼成チョコレート菓子の製造方法は、チョコレート生地に酵素分解レシチンを含有させ、所定形状に成形し、焼成することを特徴とする。
【0013】
本発明の焼成チョコレート菓子の製造方法においては、前記酵素分解レシチンを0.1~1質量%含有させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酵素分解レシチンを含有することにより、焼成時のダレを抑制することができ、焼成後の形状のばらつきが少ない製品を得ることができる。また、気泡を含有させなくても焼成時のダレを抑制することができるので、焼成により熱変性した表層以外は、チョコレート本来の軟らかな食感を維持しやすい。更に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを配合する場合に比べ、チョコレート本来の風味に与える影響が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例1で調製した例1~例7の焼成前のチョコレート生地について、試験例2において、40℃、60℃、80℃における粘度を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において「チョコレート」は、規約や法規上の規定によって限定されるものではなく、カカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂等を使用した油脂加工食品全般を意味するものとする。例えば、純チョコレート、チョコレート、準チョコレート、純ミルクチョコレート、ミルクチョコレート、準ミルクチョコレートなどが挙げられ、カカオマスやココアパウダーを含まないホワイトチョコレートも包含するものである。
【0017】
チョコレートは、通常のチョコレートの製造方法に従って、カカオマス及び/又はココア、糖類、粉乳、乳化剤、ココアバター及び/又は油脂類、香料、着色料等を原料として製造することができる。すなわち、常法に従って原料をミキシングし、リファイニングを行った後、コンチングを行うことで製造することができる。また、必要に応じて、コンチング工程後、加熱、冷却、加圧、又は減圧等しながら激しく撹拌する、いわゆるホイップ処理を施して、気泡を含有させてもよい。撹拌は、ミキサー、含気ミキサー装置等を用いて行うことができる。
【0018】
チョコレートの原料として、例えば糖類としては、砂糖が好ましく用いられる。必要に応じてトレハロース、マルトースなどの他の糖類や糖アルコールなどを配合してもよい。ここで、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得るためには、乳糖などの還元糖を含有しないことが好ましい。複数の糖類を併用してもよい。
【0019】
チョコレートの原料として、例えば粉乳としては、全脂粉乳、脱脂粉乳等を用いることができる。ここで、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得るためには、乳蛋白の含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。複数の粉乳を併用してもよい。
【0020】
チョコレートの原料として、例えばココアバター及び/又はココアバター代用脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油を原料としたハードバター、エライジン酸を構成脂肪酸とするトランス型ハードバター等のノンテンパリング型の油脂、ココアバター等のテンパリング型の油脂を用いることができる。複数の油脂を併用してもよい。
【0021】
ただし、本発明においては、チョコレートに酵素分解レシチンを含有させる必要がある。これにより、後述するように、チョコレートの焼成時のダレを抑制することができる。
【0022】
酵素分解レシチンとは、大豆レシチン等の植物レシチンや卵黄レシチンを、ホスホリパーゼ等の酵素で酵素分解して得られ、フォスファチジン酸やリゾレシチンを主成分とするものである。液状、ペースト状、粉末状等のいずれの形態のものであっても用いることができる。酵素分解レシチンの配合量としては、焼成チョコレート菓子中に0.1~1質量%含有することが好ましく、0.3~0.6質量%含有することがより好ましい。上記範囲未満であるとチョコレートの焼成時のダレを抑制する効果を奏し得ない傾向があり、望ましくない場合がある。また、上記範囲を超えると風味を損ねる傾向があり、望ましくない場合がある。
【0023】
一般に、酵素分解レシチンは、食品への添加剤製剤として入手可能であり、上記の酵素分解レシチンの含有量は、その製剤に表記されている酵素分解レシチンの量から算出してもよい。
【0024】
焼成チョコレート菓子中に酵素分解レシチンを含有せしめる方法に特に制限はないが、製造効率の観点からは、焼成前の生地に含有せしめることが好ましい。その場合、酵素分解レシチンは、チョコレートの原料の一部として用いてもよく、所定のチョコレートを準備した後にこれに添加するようにしてもよい。なお、上記焼成チョコレート菓子中の好ましい含有量を満たすためには、焼成前の生地中に0.1~1質量%含有させることが好ましく、0.3~0.6質量%含有させることがより好ましい。また、チョコレートの焼成時のダレをより効果的に抑制するためには、焼成前のチョコレート生地の、少なくともその焼成が施される最表面から1mm以内の部分における酵素分解レシチンの含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0025】
チョコレートには、本発明が奏する作用効果を損なわない範囲で、例えばナッツ類の粉砕物、果汁パウダー、果物凍結乾燥チップ、コーヒーチップ、キャラメル、抹茶、カカオニブ、膨化型スナック食品、ビスケットチップ、キャンディーチップ、チョコレートチップ、ドライフルーツ、マシュマロなどの具材を含有させてもよい。
【0026】
本発明の焼成チョコレート菓子は、上記チョコレートを生地として用いてそれを所定形状に成形し、焼成することにより得られる。
【0027】
成形の手段に特に制限はなく、例えばモールド(型)に入れて成形するモールド成形、押出機のダイから所定形状に押出して切断する押出成形、スチールベルト上等にチョコレート生地を直接落として固化させるスチールベルト成形等の方法が挙げられる。また、形状も任意でよいが、例えば成形後の生地の最小径あるいは短辺の長さが0.5~5.0cmとなるようにすることが好ましく、1.0~2.5cmとなるようにすることがより好ましい。大きさが上記範囲未満であると成形し難くなる傾向あり、望ましくない場合がある。また、大きさが上記範囲を超えると自重による保形性の低下を免れない傾向があり、望ましくない場合がある。また、焼成後の内部を軟らかく滑らかな食感に維持するためには、成形後の生地の最小径あるいは短辺の長さを0.5cm以上とすることが好ましく、1.0cm以上となるようにすることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の焼成チョコレート菓子は、上記に説明した酵素分解レシチンを使用することにより本発明の構成を満たすようにしたチョコレート素材(以下、「本チョコレート素材」という。)に、それ以外の他の菓子素材(以下、「他の菓子素材」という。)を接合して、複合菓子を成していてもよい。この場合、他の菓子素材としては、本発明の構成を満たさないチョコレート素材や、クッキー素材、ゼリー素材等が挙げられる。例えば、センターにガナッシュ、含気チョコ等の、本発明の構成を満たさないチョコレート素材を配し、それを、本チョコレート素材で覆い、内層と外層を有する複合菓子生地を調製したうえ、これを焼成することにより、本発明の焼成チョコレート菓子を得てもよい。このような複合菓子を成す場合にも、その接合の方法に特に制限はない。例えば、モールド成形により、モールド(型)内に、本チョコレート素材によってシェル、他の菓子素材によってセンター、更に必要に応じて本チョコレート素材によってボトムを、順次作製する方法、押出成形により、押出成形装置のノズルから、その外側ノズルからは本チョコレート素材を、その内側ノズルからは他の菓子素材を、それぞれ押し出し、所定形状になるように切断する方法、被覆成形により、所定形状にした他の菓子素材をエンロバーなどを用いて本チョコレート素材でコーティングする方法、ワンショットデポジターを用いて、外側ノズルから本チョコレート素材の押出しを開始した後、内側ノズルから他の菓子素材の押出しを行い、内側ノズルからの押出しを終了した後、更に必要に応じて外側ノズルからの押出しを終了させる方法などを採用することができる。このうち特に押出成形装置による製造が好ましい。これによれば、効率的に製造することができ、生産コストを抑えることができる。
【0029】
焼成は、オーブン、シュバンクバーナー、ガスバーナー、電子レンジ、電気ヒーター(トースター)等を用いて行うことができる。特にオーブンが好ましく用いられる。焼成条件は、装置の能力、特性等に応じ、適宜調整すればよい。オーブンの場合には、250~400℃、好ましくは250~350℃で10~60秒間などが典型的である。焼成後には、放冷又は送風等によって、強制的な冷却を行なってもよい。このような条件で焼成することにより、例えば、チョコレートからなる表層が手で持ったときにべとつかない程度に焼成により熱変性していて、適度な硬さの食感を有し、一方、内部は軟らかく滑らかな口溶けを有し、チョコレートの風味がより良好に維持された焼成チョコレート菓子を得ることができる。
【0030】
以上に説明したとおり、本発明は、チョコレートの焼成時のダレが抑制された焼成チョコレート菓子を提供するものである。また、チョコレートの焼成時のダレが抑制された焼成チョコレート菓子の製造方法を提供するものである。なお、本発明の奏する作用効果を害しない範囲で従来公知の構成を組み合わせてもよいことは勿論である。
【実施例】
【0031】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【0032】
<試験例1>
表1に示すとおり、基本配合として、カカオマスの5質量部と、ココアパウダーの10質量部と、砂糖の30質量部と、全粉乳の10質量部と、脱脂粉乳の10質量部と、植物性油脂の35質量部と、レシチンの0.3質量部とを配合し、これに更に酵素分解レシチン(商品名「サンレシチンA-1」、太陽化学株式会社製)を、その配合量を0質量部、0.05質量部、0.1質量部、0.3質量部、0.6質量部、1.0質量部、又は1.2質量部と変えて添加し、ミキシングした。ミキシング後、更に、常法に従い、リファイニング、コンチングの各工程を経て、チョコレート生地を調製した。
【0033】
このチョコレート生地をモールド(内径20mm四方、深さ10mm)に充填し、冷却、固化させた後、モールドから取り出してオーブンに入れ、200℃で5分間焼成して、焼成チョコレート菓子を製造した。
【0034】
【0035】
得られた焼成チョコレート菓子の形状を、焼成前の成形形状と比較して、14名のパネラーによりダレの程度を評価した。また、焼成チョコレート菓子の風味を14名のパネラーにより評価した。その結果を表2に示す。なお、表2中の「工程適性(焼きダレ)」について、◎はダレが十分に抑制されていることを、○はダレが抑制されていることを、△はダレがやや発生していることを、×はダレが顕著に発生していることを示し、全パネラーの平均で表した。また、表2中の「風味」について、◎は風味が非常に良好であることを、○は風味が良好であることを、△は風味がやや悪いことを示し、全パネラーの平均で表した。
【0036】
【0037】
その結果、表2に示されるように、酵素分解レシチンを配合することにより、焼成時のダレが抑制された。その効果は、チョコレートの基本配合100.3質量部に対して0.05質量部を添加した例2において認められ、0.1質量部を添加した例3ではより顕著なダレの抑制効果がみられ、0.3質量部以上を添加した例4~例7では更により顕著なダレの抑制効果がみられた。ただし、酵素分解レシチンを1.2質量部添加した例7では、風味がやや悪くなる傾向がみられた。
【0038】
<試験例2>
試験例1で調製した例1~例7の焼成前のチョコレート生地について、40℃、60℃、80℃における粘度を測定した。粘度測定は、粘度計(BROOKFIELD VISCOMETER MODEL HAT)を用いて行った。その結果を表3及び
図1に示す。
【0039】
【0040】
表3及び
図1に示されるように、酵素分解レシチンの添加により、チョコレート生地の昇度にともなう粘度上昇が顕著に助長された。よって、酵素分解レシチンの添加により焼成時のダレが抑制される効果は、昇度にともなう粘度上昇がその一因であると考えられた。
【0041】
<試験例3>
試験例1で使用したチョコレートの基本配合に、酵素分解レシチンを0.2質量部添加した以外は、試験例1と同様にして、焼成チョコレート菓子を得、これを実施例1とした。また、酵素分解レシチンに代えてポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名「MM-750」、坂本薬品工業株式会社製)を添加して、同様にして、焼成チョコレート菓子を得、これを比較例1とした。
【0042】
【0043】
得られた焼成チョコレート菓子の形状を、焼成前の成形形状と比較して、試験例1と同様にして、ダレの程度を評価しところ、実施例1、比較例1、ともに「◎」の評価を得た。
【0044】
また、20名のパネラーにより、菓子としてどちらが好ましいかの比較官能評価を行った。
【0045】
その結果を表5に示す。
【0046】
【0047】
その結果、パネラー20名のうち、酵素分解レシチンを使用した焼成チョコレート菓子のほうが、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した焼成チョコレート菓子よりも、好ましいと評価したパネラーの人数が多かった。よって、酵素分解レシチンは、ポリグリセリン脂肪酸エステルに比べ、チョコレート本来の風味に与える影響が少ないことが明らかとなった。