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特許7051504家禽の筋胃増大用飼料、家禽の筋胃増大用混合飼料、及び家禽の筋胃を増大させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】家禽の筋胃増大用飼料、家禽の筋胃増大用混合飼料、及び家禽の筋胃を増大させる方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/26 20160101AFI20220404BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20220404BHJP
【FI】
A23K10/26
A23K50/75
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018046608
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019154336
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】浜本 慎平
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-352912(JP,A)
【文献】特開2016-127823(JP,A)
【文献】特開平11-009198(JP,A)
【文献】特開2009-219482(JP,A)
【文献】特開2006-212014(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021395(WO,A1)
【文献】KIM, Y. D. et al.,Nutritive Value of Sea Squirt Shell Meal for Broiler Chicks,Korean Journal of Animal Science,1976年,Vol. 18, No. 3,pp. 251-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 10/40
A23K 50/70 - 50/75
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用飼料。
【請求項2】
前記ホヤ殻の含有量が、前記飼料の質量に基づいて1~10質量%である請求項1に記載の家禽の筋胃増大用飼料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の家禽の筋胃増大用飼料を調製するための厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用混合飼料。
【請求項4】
厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を家禽に給与することを特徴とする家禽の筋胃を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽の筋胃増大用飼料、家禽の筋胃増大用混合飼料、及び家禽の筋胃を増大させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏等の家禽の筋胃は砂嚢とも称され、いわゆる砂肝として食される部位であるとともに、家禽の重要な消化器官である。家禽は歯を持たないため、摂取した飼料を、砂や小石で満たされた筋胃の収縮運動によりすり潰して消化する。したがって、家禽の筋胃を増大させることで、家禽の飼料消化率が向上し、飼料効率の改善が期待される。
【0003】
従来から、家禽の筋胃増大を目的とした飼料の開発が行なわれている。例えば、特許文献1では、家禽の筋胃の発達を促進し、発育を改善する家禽用飼料を提供することを目的として、アルミナの純度が99%以上であり、硬度が少なくとも70kgのセラミックスを一般家禽用配合飼料に配合してなる、家禽用飼料が開示されている。また、特許文献2では、家禽の筋胃が良好に発達すると共に敷料改善効果も得られるコーンコブミールの配合された家禽用飼料、及びこれを用いた家禽の飼育方法等を提供することを目的とし、コーンコブミールが、発酵等の処理をせず、かつ栄養素添加物を付着させずに、粉砕したそのままの状態で、コーンコブミール配合前の飼料100重量部に対して、0.5~10重量部配合されている、家禽用飼料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-9198号公報
【文献】特開2010-148500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、家禽の種類、飼育環境、及び/又は使用する飼料等に応じて、家禽の筋胃増大の効果に差が生じる場合があり、家禽飼育業者の選択肢を広げるため、依然として、家禽の筋胃増大に有効な材料の開発が求められている。したがって、本発明の目的は、家禽の筋胃の増大に有効な新たな成分を含む家禽の筋胃増大用飼料、家禽の筋胃増大用混合飼料、及び家禽の筋胃を増大させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、家禽に種々の素材を給与して筋胃増大効果を検討した結果、ホヤ殻に家禽の筋胃を増大させる効果を見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、上記目的は厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用飼料によって達成される。また、前記家禽の筋胃増大用飼料を調製するための厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用混合飼料によって達成される。さらに厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、長径0.6~10mmであり、弾性を有する3~10mmの剥片を含むホヤ殻を家禽に給与することを特徴とする家禽の筋胃を増大させる方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、家禽の筋胃を増大させることができ、これにより、家禽の飼料消化率が向上し、飼料効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、比較例1及び実施例1の筋胃質量の結果である。
図2図2は、比較例1及び実施例1の筋胃内容物の粒度の結果である。
図3図3は、比較例1及び実施例1の糞の粒度の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[家禽の筋胃増大用飼料]
本発明の家禽の筋胃増大用飼料は、ホヤ殻を有効成分とする。ホヤは、日本列島、朝鮮半島、山東半島等の海底の岩場等に生息する脊索動物の一種で、日本では主に東北地方から北海道で天然物や養殖物が水揚げされている。ホヤは硬い外皮に覆われており、それを除去した身の部分が可食部分として食される。本発明において、ホヤ殻は、ホヤの外皮を含む部分を乾燥、粉砕したものを称する。ホヤの種類としては特に制限はなく、マボヤ、アカボヤ、シロボヤ等の食用ホヤ、及び食用とされない種類のホヤでも良い。本発明において、ホヤ殻は、入手し易い点で、マボヤ、アカボヤ、シロボヤ等の食用ホヤの可食部分を除去した際に生じる外皮を含む不要部分を乾燥、粉砕したものが好ましい。なお、ホヤ殻は、海産物であるため貝殻や海藻が含まれることがある。
【0011】
ホヤ殻は、これまで利用価値のない不要物として廃棄されていたが、近年、ホヤの外皮を添加することにより、鶏卵の色調、食味を向上させる養鶏用飼料が開発され、ホヤの外皮(すなわち、ホヤ殻)の有効利用が図られている(特開2001-352912)。しかしながら、前記特許出願においては、ホヤの外皮に含有される色素に着目し、鶏卵の色調を増強させることは開示されていたが、ホヤ殻が家禽の筋胃増大効果を有することは一切開示されていなかった。本発明においては、後述する実施例で示す通り、ホヤ殻を採卵鶏の飼料に配合して飼育試験を行なった結果、採卵鶏の筋胃質量が驚くべきことに比較例1と比較して、1.5倍以上に増大し、産卵成績も良化することが見出された。この作用機作は、筋胃中で小石と同様な働きをするだけでは説明できない。
【0012】
ホヤ殻は、0.6mm以下の粉末も含まれるが、50%以上は厚さ0.2~1.0mm以下の剥片で、その長径は0.6mm~10mmとなっている。ホヤ殻の剥片は、動物セルロースを骨格とするため消化しにくく、3~10mmの剥片を長径方向につまみ折り曲げると中央部でしなり、離すと戻るという弾力を有している。このようにホヤ殻の剥片は形状が大きいものを含むことから家禽の筋胃に長時間滞留し、適度な弾力が筋胃を鍛えるため、筋胃が増大していくものと考えられる。すなわち、本発明は、動物性セルロースを骨格とする弾性体を有効成分とする筋胃増大剤ということもできる。
【0013】
本発明において、家禽は鳥類に属する家畜のことを称し、筋胃を有するものであれば、特に制限はなく、たとえば、鶏、アヒル、七面鳥、ウズラ、ガチョウ、ホロホロチョウ等の家禽が挙げられる。本発明において、家禽は、筋胃増大により飼料効率を改善させる効果が大きい肉用、採卵用の家禽が好ましく、鶏が特に好ましい。
【0014】
本発明の家禽の筋胃増大用飼料において、前記ホヤ殻の含有量は、前記飼料の質量に基づいて1~10質量%であることが好ましい。これにより、十分な筋胃質量の増大効果が得られ、且つ家禽に悪影響を与えない飼料とすることができる。前記ホヤ殻の含有量は、前記飼料の質量に基づいて、2~7質量%であることがさらに好ましく、3~5質量%であることが特に好ましい。また、給与期間・給与方法は、特に限定されないが、2~4週間給与すれば筋胃増大効果が期待できる。
【0015】
本発明の家禽用飼料において、上記ホヤ殻以外の原料は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、公知の家禽用飼料に用いられる飼料原料を適宜用いることができる。例えばトウモロコシ、マイロ、キビ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類、大豆粕、コーングルテンミール、ごま油粕、コーンジャームミール、なたね粕等の植物性油粕類、フスマ、米ぬか、麦ヌカ、コーングルテンフィード等の糟糠類、魚粉等の動物性飼料、ヤシ油、ラード等の動植物性油脂、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、ペプチド鉄、炭酸亜鉛、ペプチド亜鉛等のミネラル類、その他、無水ケイ酸、コーンスティープリカー、パン酵母、ビタミン類等が挙げられる。ホヤ殻、及びこれらの原料を常法により混合し、本発明の家禽用飼料を調製することができる。
【0016】
[家禽の筋胃増大用混合飼料]
本発明の家禽の筋胃増大用混合飼料は、本発明の家禽の筋胃増大用飼料を調製するためのホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用混合飼料である。本発明の家禽の筋胃増大用混合飼料を用いることで、養鶏業者等の家禽飼育業者が、既に他の複数の飼料原料が一定の割合で混合された市販の家禽用配合飼料をベース飼料として、本発明の家禽の筋胃増大用飼料を混合することで容易に調製することができる。また、飼料メーカーが、家禽の筋胃増大用飼料の製造時に、飼料原料の1種として本発明の家禽の筋胃増大用混合飼料を混合して本発明の家禽の筋胃増大用飼料を製造してもよい。本発明の家禽の筋胃増大用混合飼料におけるホヤ殻の含有量は、特に制限はなく、ベース飼料に対して、本発明の家禽の筋胃増大用混合飼料を混合する割合に応じて、適宜調整することができる。例えば、ベース飼料1kg中に、本発明の家禽の筋胃増大用飼料を100g添加する設定とした場合、ホヤ殻の含有量は、家禽の筋胃増大用混合飼料の質量に基づいて10~100質量%とすることが好ましい。なお、家禽の筋胃増大用混合飼料におけるホヤ殻以外の材料は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、公知の家禽用混合飼料に用いられる賦形物質等を適宜用いることができる。例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、デキストリン、ぶどう糖、麦芽糖、乳糖、イソマルトオリゴ糖、結晶セルロース、小麦粉、大豆粉、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0017】
本発明は、ホヤ殻を家禽に給与することを特徴とする家禽の筋胃を増大させる方法にもある。本発明の方法は、本発明の家禽の筋胃増大用飼料を家禽に給与することによって実施することが好ましい。
【実施例
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.採卵鶏へのホヤ殻の給与試験
家禽として採卵鶏を選択し、飼料は、穀類として玄米、大豆粕を主体に、粗蛋白(CP)、代謝エネルギー(ME)をそろえて設計した。区分別配合割合は表1の通りである。すなわち、動物性飼料をホヤ殻に限定し、ホヤ殻の含有量が飼料中0%の比較例1に対して、4%及び10%の実施例1及び2の飼料を調製し、以下の試験条件で給与試験を行なった。なお、その他の原料には、カルシウム化合物のほか、微量成分としてビタミン類、ミネラル類、アミノ酸組成を揃えるためのメチオニンなどが含まれる。
【0019】
【表1】
【0020】
(給与試験条件)
・試験期間:4週間
・供試鶏:ジュリアライト
・日齢:給与開始時250日齢程度
・羽数:比較例1及び実施例1は10羽/1試験区3反復、実施例2は10羽/1試験区2反復
・給与方法:105g/日/羽の制限給与
(測定・評価項目)
・産卵率:試験期間中の各試験区のヘンデイ産卵率(%)を求めた。
・卵重:試験期間中の各試験区の正常卵の卵重を測定し、平均卵重を算出した。
・日卵量:産卵率(%)×平均卵重(g)で算出した。
・要求率:試験期間中の各試験区の総給与量(kg)/総卵重(kg)を算出した。
・日増体:1週毎に各試験区の全羽の体重を測定し平均値を算出し、前週との体重差を日数で除して、1日1羽当たりの体重の増減を算出した。
なお、統計解析は分散分析にて有意水準5%で行なった。
【0021】
【表2】
【0022】
表2は、比較例1、実施例1及び実施例2の採卵鶏の産卵成績等をまとめたものである。ホヤ殻4%を含有する飼料を給与した実施例1の採卵鶏では、比較例1の採卵鶏と比較して、有意差(有意水準5%)は認められなかったものの、日卵量が良好で、要求率も良化する傾向があり、日増体の低下も抑制される傾向があった。ホヤ殻10%を含有する飼料を給与した実施例2では、産卵成績が良化した。
【0023】
2.筋胃質量の評価
比較例1、実施例1の試験条件で4週間飼育後、生体重を1630g程度にそろえた3羽ずつを抽出し筋胃質量を測定した。さらに、筋胃質量を測定した筋胃の内容物を風乾し、JIS標準篩を用いて、筋胃内容物の粒度分布を測定した。また、筋胃質量を測定した採卵鶏の4週間飼育時の糞を風乾し、JIS標準篩を用いて、糞の粒度分布を測定した。
【0024】
比較例1及び実施例1の筋胃質量(平均値)の結果を図1に、筋胃内容物の粒度の結果を図2、糞の粒度の結果を図3に示した。図1に示す通り、ホヤ殻4%を含有する飼料を給与した実施例1の採卵鶏の筋胃質量は、比較例1の採卵鶏の筋胃質量に対して有意に増大し(有意水準5%)、比較例1の重量に比べて166%となった。また、図2に示す通り、実施例1の採卵鶏では、比較例1の採卵鶏と比較して、粒度が2.38mm超の筋胃内容物の比率が低下していた。さらに、図3に示す通り、実施例1の採卵鶏では、比較例1の採卵鶏と比較して、粒度が0.5mm超の糞の比率が有意に低下していた(有意水準5%)。したがって、ホヤ殻を含有する飼料を給与することによって、採卵鶏の筋胃質量が増大し、それに伴って、筋胃の飼料のすり潰し効果が向上したことから、消化率が向上されることが示唆された。
【0025】
以上により、本発明のホヤ殻を有効成分とする家禽の筋胃増大用飼料を、家禽に給与することによって、家禽の筋胃質量を増大させることができ、これにより、家禽の飼料消化率が向上し、飼料効率を改善することができることが示された。
【0026】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、家禽の筋胃を増大させることができ、これにより、家禽の飼料消化率が向上し、飼料効率を改善することができ、延いては、家禽の生産性を向上することができる。
図1
図2
図3