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特許7051533光学式測定器およびそれを用いた測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】光学式測定器およびそれを用いた測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/12 20060101AFI20220404BHJP
   G01D 5/347 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G01B5/12
G01D5/347 110D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018062275
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019174265
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】金井 謙次郎
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-014553(JP,A)
【文献】特開2004-125732(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0271541(US,A1)
【文献】特開2017-142203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/12
G01D 5/347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径および外径の少なくともいずれかを測定可能な光学式測定器において、
被測定部に当接可能な少なくとも2個の接触子と、該接触子を保持する測定アームと、該測定アームを回動可能に押圧する押圧手段と、前記測定アームを回動可能に保持し前記測定アームの回動を制限するストッパが形成された保持部材と、前記測定アームの移動量を検出するセンサ部および該センサ部の出力を処理し記憶する制御部と、を備え、
前記センサ部は、
前記測定アームと前記保持部材とのうち一方に取り付けられ、
反射部と透過部とが交互に規則的に形成されたスケールと、
前記測定アームと前記保持部材とのうち他方に取り付けられた発光手段および受光手段を有するリーディングヘッドと、を備えてインクレメンタル方式のセンサ部を形成し、
前記制御部は、前記測定アームが前記ストッパで動きを制限された状態と、マスタを計測した状態と、における出力差を記憶可能な記憶手段を有することを特徴とする光学式測定器。
【請求項2】
前記光学式測定器が内径を測定可能な光学式測定器であり、
前記センサ部からの出力が前記ストッパで制限された状態、マスタを計測した状態、前記接触子が前記保持部材内に退避した状態の順で多くなるまたはこの順で小さくなるように前記スケールおよび前記リーディングヘッドを配置したことを特徴とする請求項1に記載の光学式測定器。
【請求項3】
前記センサ部および前記制御部に電力を供給する電池および電池からの電力供給を切断するスイッチ手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の光学式測定器。
【請求項4】
インクレメンタル方式の光学式測定器を用いて被測定物の内径および外径の少なくともいずれかを測定する測定方法において、
前記光学式測定器が備えるストッパで接触子の移動を制限された状態における、リーディングヘッドを用いて得られた前記光学式測定器のリニアスケールの読みのカウント数を初期値として予め記憶しておく工程と、
次に測定基準となるマスタを測定して前記リニアスケールの読みのカウント数を記憶する工程と、
その後実際に被測定物の内径と外径の少なくともいずれかを測定する工程と、を含み、
前記被測定物の測定工程においては、
記憶された前記ストッパで移動を制限された状態の読みのカウント数と、前記マスタを測定した状態の読みのカウント数と、を用いて前記被測定物を測定して得られた読みのカウント数を補正し、
補正されたカウント数から内径または外径を得ることを特徴とする光学式測定器を用いる測定方法。
【請求項5】
前記マスタを測定してカウント数を記憶する工程後に、前記光学式測定器の電源切断の有無にかかわらず、前記マスタを測定してカウント数を記憶する工程を実行すること無く前記被測定物の測定工程を複数回連続して実行することを特徴とする請求項4に記載の光学式測定器を用いる測定方法。
【請求項6】
被測定物を測定する測定工程を2回以上の所定回繰り返したらマスタを測定して、前記リニアスケールの読みのカウント数を更新記憶することを特徴とする請求項4または5に記載の光学式測定器を用いる測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内径や外径等を計測する光学式測定器およびそれを用いた測定方法に係り、特にインクレメンタル方式の光学スケールを備えて好適な光学式測定器およびそれを用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシリンダ内径を測定するボアゲージにおいては、高精度の測定が可能なために光学式測定器がしばしば用いられる。そのような光学式測定器では、光を透過する部分と光を透過しない部分が規則的に多数並べられたスケールをセンサ部に設け、そのスケールに光を照射した後の透過光または反射光を検出して、インクレメンタル方式のエンコーダを構成する。インクレメンタル方式のエンコーダの場合には、計測前には絶対位置が不明なので計測時には絶対位置の基準となる原点を何らかの方法で求める必要がある。
【0003】
特許文献1では、簡単な構成で、光学式エンコーダの原点信号を検出するため、エンコーダが、光源と、配列方向に相対移動が可能なインクレメンタル信号生成用パターンを有するメインスケールと、光源で照射されたメインスケールを透過または反射した光束を受光し、インデックススケールを兼ねる複数のフォトダイオードからなる第1のフォトダイオードアレイと、複数の第1のフォトダイオードアレイから構成される第2のフォトダイオードアレイを有するインクレメンタルスケール信号検出部と、第2のフォトダイオードアレイからの出力信号を処理するインクレメンタル信号処理部を有する。そして、メインスケールは複数のインクレメンタル信号生成用パターンと同一ピッチの原点信号生成用パターンを有し、複数の第1のフォトダイオードアレイから構成される原点信号検出部からの出力信号を原点信号処理部が信号処理している。
【0004】
光学式エンコーダの原点を決定する他の方法が、特許文献2に記載されている。この公報では、インクレメンタル方式のエンコーダにおいて、原点検出用の特別なスケールを設けることなく、簡単な構成で原点位置を決定するために、発光部と受光部を有するリーディングヘッドと、リーディングヘッドに対向して配置されスケール・パターンが複数並べて形成されたリニアスケールを、エンコーダが有する。そして、リニアスケールでは交互に形成される反射部と透過部の幅が実質的に同一であり、その全長における少なくとも1カ所で反射部または透過部が欠落しており、欠落部を原点として決定している。
【0005】
また特許文献3では、測定ヘッドにおける接触子の基準点を検出するために、起動時のアームの角度位置と、複数の段差をもつブロックの各段差に接触子を当接させたときのアームの角度位置を異なる2カ所で計測して得られた角度位置から、接触子の基準点を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-36945号公報
【文献】特開2017-142203号公報
【文献】特開2004-125732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクレメンタル方式のスケールを有する測定器、例えばエンコーダでは、携帯するためもしくは商用電源配線が測定に邪魔になる等の理由で、電池を用いることがある。その場合、電池の無駄な消耗を避けて電池交換の期間を延ばすため、測定時以外は電源を切断する。測定器の不使用時に電源を切断すると、電源切断中に測定器のスケールと受光部の相対位置が変化するか、または位置情報がクリアされて測定器には何らの記録も残らない状態が出現し、原点検出の作業が必要になる。そこで一般的には寸法が既知のマスタでの再確認作業を実行している。測定器の電源切断のたびにマスタでの原点検出が必要になると、加工後の検測などでは加工のたびごとにマスタでの原点校正が必要となり、作業工数が増し作業効率が低下する。この不具合を回避するために、常時測定器に通電することは、電池式測定器の場合には上述した頻繁な電池交換作業もしくは充電作業をもたらす。
【0008】
上記特許文献1では、原点検出のために特別に反射/非反射のパターンが形成されたスケールを設けているので、確実に原点を検出することが可能であると思われるが、余分なスケールを付設するために、スケール幅が増えて小型化が難しくなる。また、標準スケールを使用できず高価になる。また特許文献2では、スケールの一部のパターンを省くことにより同様に原点位置を検出しているが、パターンを省いた箇所での精度悪化が懸念される。また、この場合も標準スケールに加工が必要なため高価になる。また、これらはいずれも測定器ごとに原点位置を予め測定範囲に対応した位置に設定する必要があり、事前の調整作業に多大な時間を要する。
【0009】
一方、原点検出に段差付ブロックを用いる特許文献3に記載のものでは、原点検出のたびに段差ブロックを用いた校正が必要であり、これはマスタを用いた検出と同じことであるので、作業効率を低下させる。特に、測定器の電池の消耗を減らすために頻繁に測定器の電源を切断する場合には、切断頻度と同程度の頻度でのブロックを用いた原点検出が必要となる。
【0010】
本発明は上記従来の技術に鑑みなされたものであり、その目的は、電源切断後にスケールと検出部の間の相対距離情報が失われても、簡単な構成のインクレメンタル方式の測定器を用意することで、マスタを用いた原点設定のための計測を省略可能な測定方法を提供することにある。本発明の他の目的は、電源切断に容易に対応可能なインクレメンタル方式の測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、内径および外径の少なくともいずれかを測定可能な光学式測定器において、被測定部に当接可能な少なくとも2個の接触子と、該接触子を保持する測定アームと、該測定アームを回動可能に押圧する押圧手段と、前記測定アームを回動可能に保持し前記測定アームの回動を制限するストッパが形成された保持部材と、前記測定アームの移動量を検出するセンサ部および該センサ部の出力を処理し記憶する制御部を備え、前記センサ部は、前記測定アームと前記保持部材の一方に取り付けられ、反射部と透過部が交互に規則的に形成されたスケールと、前記測定アームと前記保持部材の他方に取り付けられた発光手段および受光手段を有するリーディングヘッドを備えてインクレメンタル方式のセンサ部を形成し、前記制御部は、前記測定アームが前記ストッパで動きを制限された状態とマスタを計測した状態における出力差を記憶可能な記憶手段を有することにある。
【0012】
そしてこの特徴において、前記光学式測定器が内径を測定可能な光学式測定器であり、前記センサ部からの出力が前記ストッパで制限された状態、マスタを計測した状態、前記接触子が前記保持部材内に退避した状態の順で多くなるまたはこの順で小さくなるように前記スケールおよび前記受光手段を配置するのが好ましく、前記センサ部および前記制御部に電力を供給する電池および電池からの電力供給を切断するスイッチ手段を備えるのが望ましい。
【0013】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、インクレメンタル方式の光学式測定器を用いて被測定物の内径および外径の少なくともいずれかを測定する測定方法において、前記光学式測定器が備えるストッパで接触子の移動を制限された状態における、リーディングヘッドを用いて得られた前記光学式測定器のリニアスケールの読みのカウント数を初期値として予め記憶しておく工程と、次に測定基準となるマスタを測定して前記リニアスケールの読みのカウント数を記憶する工程と、その後実際に被測定物の内径と外径の少なくともいずれかを測定する工程とを含み、前記被測定物の測定工程においては、記憶された前記ストッパで移動を制限された状態の読みのカウント数と前記マスタを測定した状態の読みのカウント数とを用いて前記被測定物を測定して得られた読みのカウント数を補正し、補正されたカウント数から内径または外径を得ることにある。
【0014】
そしてこの特徴において、前記マスタを測定してカウント数を記憶する工程後に、前記光学式測定器の電源切断の有無にかかわらず、前記マスタを測定してカウント数を記憶する工程を実行すること無く前記被測定物の測定工程を複数回連続して実行するのが望ましく、さらに被測定物を測定する測定工程を2回以上の所定回繰り返したらマスタを測定して、前記リニアスケールの読みのカウント数を更新記憶するのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インクレメンタル方式の光学式測定器において測定限界となるストッパ位置を超えてスケールを配置し、このストッパ位置より測定範囲内に基準となるマスタ位置を設定し、マスタ位置とストッパ位置の関係を記憶する手段を設けることにより、電源切断があっても原点設定に対応する実際のマスタリングを実行せずに、記憶された電源切断前の位置情報に基づいて原点を設定できる。また、記憶されたマスタ位置とストッパ位置を用いて原点設定が可能なので、インクレメンタル方式の光学式測定器は電源切断に容易に対応できるとともに、測定に要する時間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る光学式内径測定器の一実施例の縦断面図である。
図2】本発明に係る光学式外径測定器の一実施例の縦断面図である。
図3】本発明に係るセンサ部の一例を示す上面図および側面図である。
図4図3に示すセンサ部の動作を説明する図である。
図5図3に示すセンサ部の出力例を示す図である。
図6】本発明に係る原点設定方法を説明する模式図である。
図7】本発明に係る原点設定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るインクレメンタル方式のセンサを用いた光学式測定器のいくつかの例を、図面を用いて説明する。図1は、インクレメンタル方式の光学センサを用いた光学式測定器100の一例を示す図であり、内径測定用のボアゲージ100の例である。図1(a)は側面断面図であり、図1(b)は正面断面図、図1(c)は底面図である。
【0018】
ボアゲージ100は、下部に配置される測定部60と上部に配置される制御部70を有する。測定部60の外形は円筒形で、底面43が閉じられた保護カバー42により保護されている。保護カバー42の内側では、上下に長く延びた一対の測定アーム28が保護カバー42の近くに配置されている。各測定アーム28の上端部には、開口が形成されており、アーム保持具40に取り付けた軸34がこの開口に嵌合している。アーム保持具40は、図示しないボアゲージ100のベース部材とともに、ボアゲージ100の静止側を構成する。
【0019】
軸34と測定アーム28の間には軸受手段32が配設されており、測定アーム28は軸34を回転中心として低摩擦で回動できるようになっている。ボアゲージ100の大型化を防ぐために軸受手段32には含油軸受等の滑り軸受も用いられるが、大きさの制限がない場合等には軸受精度を期待できる転がり軸受を用いることもできる。
【0020】
各測定アーム28の他端部、すなわち下端部付近には、測定アーム28の長手軸(上下軸)に直角な方向であって外向きに測定子24が取り付けられている。測定子24は、ほぼ円柱の基材と、基材の外側端部に取り付けられた接触子26を有する。接触子26は被測定物であるワークの内面に当接する部分であり、ほぼ半球状をしており、測定対象に応じて柔らかい材料と硬い材料が用いられる。例えば測定対象がアルミ合金等であれば測定対象を傷つけない比較的柔らかい金属または非金属とし、測定対象が比較的硬い鋼等であればステンレス鋼等の金属やルビー等の非金属を使用できる。測定子24に対応する保護カバー42の部分には、測定子24より一回り大きい貫通孔20が形成されており、測定子24の先端部が測定アーム28の長手軸に直角な方向にこの貫通孔20を抵抗なく出入りできるようになっている。
【0021】
測定子24が取り付けられた部分の上方の測定アーム28の部分には、測定子24の取り付け側とは反対側の測定アーム28の内側部分に、押圧バネ22が取り付けられる凹部が形成されている。つまり一対の測定アーム28の長手軸上の同じ位置であって、測定アーム28の対向する面に凹部が形成され、各凹部に押圧バネ22の各端部が保持されている。これにより、一対の測定アーム28は常時互いが外側に向かって遠ざかるように押圧される。なお図1では、1個の押圧バネ22の両端部を一対の測定アーム28にそれぞれ保持させているが、押圧バネ22を2個以上用いて、その一端部を測定アーム28に当接させ、他端部を図示しないベース部材に固定するようにしてもよい。
【0022】
押圧バネ22よりも上方の位置であって保護ケース42の内面側には、各測定アーム28の移動位置に突起状のストッパ50が形成されている。ストッパ50は軸34を中心とする各測定アーム28の外側への回動を制限するためのものである。すなわち、ストッパ50に測定アーム28の側面が当接することで、押圧バネ22による押圧力が測定アーム28に加えられていても、測定アーム28はストッパ50により物理的に回動を止められ、それ以上回動することができない。この測定アーム28の位置が、本ボアゲージ100を使用するときの初期状態である。
【0023】
ストッパ50の上方には、インクレメンタル方式のセンサ部を構成するリニアスケール4が測定アーム28の表面上に取り付けられている。リニアスケール4ではスケール方向が測定子24の移動方向に合わせられている。リニアスケール4に対向して、リーディングヘッド1が配置されている。リーディングヘッド1はリーディングヘッド保持材30に保持されており、リーディングヘッド保持材30は図示しないベース部材に接続している。なおセンサ部については図3を用いて詳細を後述する。
【0024】
リーディングヘッド1の検出信号は、リーディングヘッド保持材30等を介してボアゲージ100の上部の制御部70に送られる。制御部70には記憶手段86を備える制御手段82が設けられており、リーディングヘッド1の検出信号を信号処理した結果が記憶手段86の不揮発性メモリに記憶される。制御手段82には電源として、例えば単三乾電池等の電池84がスイッチ88を介して接続されている。
【0025】
ここで、図1に示したボアゲージ100は、例えばNC自動機やマシニングセンタにおいてワークを加工した後の製品検査、いわゆる検測に用いることができるので、加工中に制御手段82に通電していると電池84の消耗が激しく頻繁な交換が必要となる。そこで、この不具合を解消するため、一般的にはワークの加工時にはスイッチ88を切断し、検測に必要なときだけスイッチ88を投入して通電するようにしている。その場合ボアゲージ100がインクレメンタル方式であれば、電源再投入のたびに絶対長さのための校正が必要となる。本発明は、後述するようにこの電源再投入後の処理を簡素化している。
【0026】
本発明に係るインクレメンタル方式の測定器の他の実施例を図2に示す。本測定器190は、測定部160と制御部170を備えた光学式の外径測定器190であり、主要構成は図1に示したボアゲージ100とほぼ同じである。この図は、ワークWを測定する状態を示している。一対の対向配置された測定アーム128の長手方向中間部には、この測定アーム128を回動可能に保持する軸134と軸受132が配置されている。各測定アーム128の先端側には接触子126を有する測定子124が、互いに対向するよう内向きに取り付けられている。接触子126は半球形であり、ワークWの外面に当接する。
【0027】
測定アーム128の他端側には、センサ部を構成するリニアスケール104が取り付けられている。ここで、測定アーム128では分解能を向上させるため、リニアスケール104の長手方向取り付け位置を、回動中心である軸134からできるだけ遠ざけている。図示しないがリニアスケールに対向してリーディングヘッドが配置され、その検出信号は破線で示したように制御部170の制御手段182へ入力される。
【0028】
一対の測定アーム128が常時閉じる方向に回動するように、押圧バネ122が回動中心位置である軸134とリニアスケール104が取り付けられた先端部の間に設けられている。すなわち、一端が図示しないベース部材に固定された押圧バネ122の他端は、測定アーム128の側面に当接しており、この位置で各測定アーム128を外側へ押圧している。また、回動中心である軸134とリニアスケール104の取り付け側先端の間であって、測定アーム128の外側面に対応するケース142に、突起状のストッパ150が形成されている。ストッパ150は押圧バネ122の押圧力による測定アーム128の測定位置での狭まる方向への回動を制限するもので、ストッパ150に測定アーム128が当接した状態が、外径測定器190の初期状態である。
【0029】
制御部170では、ケース142内に記憶手段186を備える制御手段182が配置されており、制御手段182には単三乾電池等の電池184がスイッチ188を介して接続されている。図示しないリーディングヘッドが検出した検出信号は、制御手段182内でデジタル変換等の処理がなされて、記憶手段186に記憶される。
【0030】
次にインクレメンタル方式のセンサ部を構成するリニアスケール4とリニアスケール4に対向配置されるリーディングヘッド1の詳細を、図3および図4を用いて説明する。図3は、リニアスケール4とリーディングヘッド1の配置を示す図であり、図3(a)は上面図、図3(b)は正面図である。図4は、センサ部で検出された信号を図1の制御手段82(または図2の制御手段182)で処理する様子を模式的に示した図である。
【0031】
リニアスケール4は、例えばガラス製のスケール4a にAg、Al等の光反射率の高い金属を蒸着等で成膜して形成した反射部5bと、反射部5b間に非成膜部分(または非処理部)として形成された透過部5aを有する。反射部5bと透過部5aは同一幅、例えば20μmであり、これら反射部5bと透過部5aとでスケール・パターン5が形成される。そして、このスケール・パターン5が、測定アーム28(128)の移動方向であるX方向に多数繰り返し形成されている。上述したように、リニアスケール4は測定アーム28に取り付けられ、測定アーム28とともにX方向に移動する。
【0032】
一方リーディングヘッド1は、リニアスケール4から間隔を置いてリニアスケール4に平行に対向配置され、リニアスケール4とともにインクレメンタル方式の光学エンコーダもしくはセンサ部を形成する。リーディングヘッド1は、発光部2と受光部3をスケール基板1a上に有している。発光部2はLEDアレイやレーザアレイからなる光源を有する。受光部3は、フォトダイオードアレイからなる受光素子と格子や光透過部材を有する。
【0033】
このように構成したセンサ部は、リニアスケール4が測定アーム28とともに図中X方向に動くと、発光部2から発光された入射光11は、リニアスケール4上の複数のスケール・パターン5に入射し、反射部5bでは反射して反射光12として受光部3へ入射し、一方透過部5aでは透過光13としてリニアスケール4を通り抜ける。受光部3に入射した反射光12が、リニアスケール4のX方向への移動量の検出信号として以後処理される。
【0034】
このセンサ部における発光以後の処理を、図4を用いて説明する。リーディングヘッド保持材30上に配置されたリーディングヘッド1は、リニアスケール4の移動により図4の左側上部円内に示したように、受光素子が備えるダイオードアレイ内の各ダイオードから正弦波の検出信号202を得る。これらの検出信号は、ダイオードアレイ内のダイオードを組み合わせて、A相信号204およびA相とは90°位相の異なるB相信号206に集約されて、逓倍回路230に送られ、そこで増幅された後、アナログ/デジタル変換回路を経てデジタル信号に変換される。デジタル信号化されたA相信号214およびB相信号216はカウンタ回路232でカウントされ、リニアスケール4のX方向の移動量に応じたカウント数が得られる。
【0035】
ここで本実施例に用いる光学式測定器100、190は、インクレメンタル方式を採用しているので、リニアスケール4の移動前と移動後の間のカウント数の差は長さとして換算できる。しかし、アブソリュートエンコーダではないので、移動前のカウント数がどの位の絶対長さに対応しているかはカウント数だけからは知ることができず、測定ごとに事前の校正が必要である。特に、測定前に測定器の電源が切断されていると、測定器のゼロ点または基準位置が情報として保持されないので必ず校正が必要になる。その場合、従来は、既知の内径または外径のマスタMに測定器を位置決めして測定を開始し、その時点でのマスタのカウント数を基準点またはゼロ点としている。そして、以後の測定ではマスタMの測定カウント数とワークWを測定したカウント数との差を、ワークWのカウント数に加減して測定値としている。このため、マスタMとワークWを同一測定位置に設定する必要があり、設定に多大な時間を要している。以下にこの不具合を解消する、図1図4を用いて説明した測定器100、190による本発明の計測方法を、説明する。
【0036】
図5図7は、本発明に係る測定器100、190を用いる測定方法の図であり、図5はリーディングヘッド1が検出した検出信号の例を示す図である。デジタル変換回路を経てデジタル化された後の状態を示しており、同図(a)は、最初に測定器100、190を使用する際の出力例であり、同図(b)は2回目以降の計測時の出力例を示している。図6は、図1に示したボアゲージ100の下部のみを模式的に示す図であり、同図(a)は測定器100の初期状態を示し、同図(b)は初期状態での測定((a)の状態)後に電源切断を経ることなくマスタMを測定する場合を示している。また同図(c)は、一旦測定が終了して電源切断した後、電源を再投入したときの測定器100の状態を示す図であり、同図(d)は同図(c)の後に電源を切断することなくワークWを測定する状態を示す図である。図7は、上記一連の測定動作を説明するフローチャートである。
【0037】
例えば、同一形状の部品(ワーク)をマシニングセンタで複数個連続して自動で内径加工する場合を考える。マシニングセンタには内径測定用のボアゲージが備えられており、1個のワークWの加工終了ごとに、ボアゲージ100を用いてワークWの内径を測定する。加工には所定時間を要するので、加工中はボアゲージ100の測定用の電源が切断される。ボアゲージ100はインクレメンタル方式であるから、原点が記憶されていない。そこで、まず第1個目のワークWの測定前に、ボアゲージ100の最大径(最大測定範囲)でのカウント数を計測する。すなわち、ボアゲージ100の測定アーム28がボアゲージのストッパ50に当接したときのカウント数nを計測する。これは図6(a)に対応し、この例ではカウント数は50である。測定アーム28がストッパ50に当接する位置は、以後の計測におけるボアゲージ100上の基準点Pとして用いる。
【0038】
次に、ボアゲージ100をマスタMの位置へ移動する。またはマスタMを測定位置へ移動して、マスタMのボアゲージ100上の内径位置PMに対応するカウント数nを測定する。このときボアゲージ100の接触子26はマスタMの内面に当接するが、測定アーム28はもはやストッパ50には当接せず、ストッパ50から離れている。この状態は図6(b)に対応し、本例ではカウント数は100である。マスタMは内径が既知であるので、図6(a)で測定した基準点位置Pは、マスタMのカウント数nと基準点位置Pのカウント数nとの差Nから、図5(a)を参照して、次式のようになる。
【0039】
φD=φD+kN=φD+k(n-n
ここでDは測定アーム28がストッパ50に当接したときの接触子26の先端間の距離であり、φDはマスタMの内径(既知)である。kは、1カウント当たりの長さであり測定器に固有な値である。なお、ここで得られたマスタMのカウント数と基準点位置Pのカウント数の差Nは、ボアゲージ100の制御手段82が有する不揮発性メモリである記憶手段86に記憶される。測定アーム28がストッパ50に当接した状態である基準点Pでの計測値のカウント数およびその距離換算置が得られたので、次にボアゲージ100の電源を切断することなく1個目のワークWの内径を測定する。
【0040】
ボアゲージ100の接触子26がワークWの内面に当接する。これは図6(d)に対応し、本例ではカウント数は212である。この状態でも、測定アーム28はストッパ50には当接しておらず、ストッパ50から離れている。上式と同様に、測定したワークWの内径φDW1は、次式で得られる。
【0041】
φDW1=φDs+k(nW1-n
ここで、nW1はワークWの測定カウント数である。
【0042】
この後、マシニングセンタは次のワークWの加工に取りかかる。そこで、ボアゲージ100の電池84の消耗を抑えるため、ボアゲージ100の電源を一旦切断する。そしてワークWの加工を終えた後、ワークWの内径の測定を再開する。ボアゲージ100では電源を切断していた間に、インクレメンタル方式のリニアスケール4とリーディングヘッド1の相対位置を示す情報が失われている、もしくは何らかの理由で相対位置が変化していて、基準位置の情報が得られない。
【0043】
そこで、ワークWの計測前に、測定アーム28がストッパ50に当接する状態で再度カウント数mを計測する。ボアゲージ100は常時押圧バネ22で測定アーム28をストッパ50の側に押圧しているので、この測定は電源を再通電するだけで容易に実行できる。測定状態は図6(c)に対応し、本例では測定して得られたカウント数は70である。ボアゲージ100の状態は、1個目のワークWの測定前と同じ条件であるが、電源が切断されていたため、カウント数には違いが出る場合がある。1個目のワークWの測定前において、基準位置とマスタ位置との相対関係が知られており、それはカウント数Nとして記憶手段86に記憶されている。そこで、図5(b)を参照して、ストッパ50に測定アーム28が当接するこの基準位置PS1からNカウント数だけカウント数が多いところをマスタMのボアゲージ100上の位置PM1と見なす。マスタMの位置PM1が得られたので、マスタMを用いた計測が2個目以降のワークWでは不要になる。すなわち、マスタMによる校正値に変えて、ボアゲージ100が備えるストッパ50を用いた計測を用いているので、大幅に作業効率が向上する。
【0044】
ストッパ50を用いて、マスタMを用いた校正に相当する校正を行ったので、ボアゲージ100は校正が完了している。そこで図6(d)と同様に、接触子26をワークWの内面に当接させ、そのときのカウント数nW2を求める。得られたカウント数から、
φDW2=φDs+k(nW2-m
で、ワークWの内径が正確に得られる。3個目以降のワークWでも上記ストッパ50と測定アーム28を当接させた測定と実際のワークWの内径の測定を繰り返す。
【0045】
上記から明らかなように、内径を測定可能な光学式測定器であるボアゲージ100では、ストッパ50に測定アーム28が当接したデフォルト状態以上には測定範囲が広がらないのでこの状態が、リニアスケール4をリーディングヘッド1が読み込むカウント方向によるが、リニアスケール4のカウント数の下限または上限になる。マスタMはこの限界値よりもリニアスケール4の内側に計測され、さらに接触子26が保護カバー42側へ退避した状態ではそれ以上小径のものは測定できないから、測定の上限または下限になる。したがって、ストッパ50と測定アーム28の当接位置、マスタ位置、接触子の引き込み限界位置の順で計測される内径は小さくなり、カウント数はリーディングヘッド1のカウント方向に応じて、この順で小さくなるかまたは大きくなる。なお、本発明においては、測定アーム28を回動可能に保持し、測定アーム28の回動を制限するストッパ50が形成された部材を保持部材と称する。図1に示した実施形態においては、保持部材は、アーム保持具40と保護カバー42の2つを合わせた物となる。
【0046】
次に、図7のフローチャートを用いて上記測定方法を再び説明する。測定プログラムが開始されると、第1個目のワークWを測定する前に、ステップS700でボアゲージ100の電源が投入される。通常この状態では、ボアゲージ100の測定アーム28は押圧バネ22によりストッパ50に押圧されているので、この状態のボアゲージ100の出力を測定する(ステップS710)。次いで、内径が既知のマスタMの内径を、ボアゲージ100を用いて測定する(ステップS720)。そしてステップS730において、ステップS710で測定した測定アーム28がストッパ50に当接したときのカウント数とステップS720で測定したボアゲージ100のカウント数の差を制御手段82が演算し、記憶手段86に記憶する。1個目のワークの場合には差分読み出しは省略し、接触子26をワークWの内面に当接させてワークWの内径を測定し、カウント数の差分を用いて制御手段82がワークWの内径を演算する。演算結果は記憶手段86に記憶する、または加工のフィードバックに使用する(ステップS740)。
【0047】
ステップS740で1個目のワークWについての測定が終了したので、次のワークの内径加工が開始される。ボアゲージ100の電池84の消耗を抑制するため、ステップS750で電源を切断し、次の測定を待つ。ステップS760において、次の測定があるか否かを判断する。測定がなければ終了する。次の測定があれば、ステップS770に進む。ステップS770では、加工を終えた次のワークWを待ち、ワークWが測定位置に到ったらボアゲージ100の電源を再投入する。そして、通常デフォルト状態である測定アーム28をストッパ50に当接させボアゲージ100の測定を実行する(ステップS780)。
【0048】
次に、前回のマスタMの測定時から予め定めた測定回数が実行されたか否かをステップS790で判断する。この判断は、例えば測定対象のワークWの硬度が比較的高く、それに対して接触子26の硬度が低い場合に、ワークWの内面への接触子26の当接が所定回数に達すると接触子26の摩耗量が有意になり、測定誤差を増大させる恐れがあるため実行される。逆にワークWの硬度が低くて、ワークWに損傷を与えるのを防止するために接触子26の硬度を低下させざるを得ない時にも、同様に接触子26がワークWとの当接により摩耗することがあるためである。測定結果に影響を与えるほどの摩耗発生が懸念される回数に達したら、ステップS720に戻り、マスタMを再度測定する。まだ接触子26の摩耗が顕著になるほどの回数に達していなければ、ステップS740に戻り、制御手段82が有する記憶手段86に記憶された初期のマスタMを計測したカウント数と測定アーム28がストッパ50に当接したときのカウント数の差Nを読み出し、ワークWの測定をする。以下ステップS740からS790またはステップS720からS790を、測定対象がある限り繰り返す。
【0049】
以上説明したように、上記実施例によれば内径または外径測定用のインクレメンタル方式の光学式測定器において、測定アームが当接するストッパを設けたので、測定器の電源切断ごとのマスタによる校正をストッパ検出で代行できるので、校正に要する時間を大幅に低減でき、光学測定の時間が低減される。これによりワークの機械加工後の検測時間が減少し、ワーク加工の工数を低減できる。なお上記実施例では、ストッパを保護ケース等の測定器の静止側に設けているが、可動側である測定アーム側に設けても良いことは言うまでも無い。ストッパは可動側の動きを停止できるものであれば、どのような形態でも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…リーディングヘッド、2…光源(発光部)、3…フォトダイオード(受光部)、4…リニアスケール、5…スケール・パターン、5a…透過部、5b…反射部、11…入射光、12…反射光、13…透過光、20…貫通孔、22…押圧バネ、24…測定子、26…接触子、28…測定アーム、30…リーディングヘッド保持材、32…軸受手段、34…軸、40…アーム保持具、42…保護カバー、43…底面、50…ストッパ、60…測定部、70…制御部、82…制御手段、84…電池、86…記憶手段、88…スイッチ、100…内径測定器(ボアゲージ)、104…リニアスケール、122…押圧バネ、124…測定子、126…接触子、128…測定アーム、132…軸受、134…軸、142…ケース、150…ストッパ、160…測定部、170…制御部、182…制御手段、184…電池、186…記憶手段、188…スイッチ、190…外径測定器、202…検出信号、204…出力信号(A相)、206…出力信号(B相)、214~214b…デジタル化信号(A相)、216~216b…デジタル化信号(B相)、230…逓倍回路、232…カウンタ回路、C…表示カウンタ、k…係数、M…マスタ、m…カウント数、N…カウント数差、n…カウント数(ストッパ)、n…カウント数(マスタ)P、Ps1…(リニアスケール上の)ストッパ位置、P、PM1…(リニアスケール上の)マスタ位置、W…ワーク(被測定物)、X…測定子移動方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7