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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】非特異反応抑制剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220404BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20220404BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/531 B
G01N33/543 521
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019515748
(86)(22)【出願日】2018-05-02
(86)【国際出願番号】 JP2018017551
(87)【国際公開番号】W WO2018203572
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2017091858
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】岩本 久彦
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/025364(WO,A1)
【文献】特開2016-065795(JP,A)
【文献】国際公開第2010/026758(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0018556(US,A1)
【文献】特表平10-508692(JP,A)
【文献】山本友子 ほか,CRP、FDPにおいて非特異反応を認めた1例,医学検査,日本,1997年05月,V46 N3,P484-(254)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ELISA試験において、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するネコIgMと反応させたときの吸光度A2の比(A2/A1)が0.1以上1.5以下であり、かつ、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するヒトIgMと反応させたときの吸光度A3の比(A3/A1)が0.5以上2.5以下である抗哺乳動物由来IgM抗体を含有することを特徴とする免疫測定法用の非特異反応抑制剤。
【請求項2】
前記抗哺乳動物由来IgM抗体が、抗ヒトIgM抗体、抗イヌIgM抗体又は抗ネコIgM抗体である、請求項1に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項3】
前記抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量が0.5μg以上20μg以下である、請求項1または2に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項4】
前記免疫測定法が、イムノクロマトグラフ法である請求項1~のいずれか1項に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の非特異反応抑制剤を含有する、イムノクロマトグラフ用テストストリップ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の非特異反応抑制剤を含有する、イムノクロマトグラフ用テストキット。
【請求項7】
検体中の被検出物質を特異的に検出するための免疫測定法において、請求項1~のいずれか1項に記載の非特異反応抑制剤の存在下に免疫反応を行わせる、免疫測定法。
【請求項8】
前記免疫測定法が、酵素免疫測定法、凝集法又はイムノクロマトグラフ法である請求項に記載の免疫測定法。
【請求項9】
前記免疫測定法が、イムノクロマトグラフ法である請求項に記載の免疫測定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定法用の非特異反応抑制剤、それを含有するイムノクロマトグラフ用テストストリップ及びイムノクロマトグラフ用テストキット、並びに、非特異反応抑制剤の存在下に免疫反応を行わせる免疫測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応を利用した免疫測定法は、微量成分を特異的かつ高感度に測定できることから、臨床検査に広く利用されている。そのような免疫測定法としては、例えば、酵素免疫測定法(例えば、ELISA法)、凝集法、イムノクロマトグラフ法、放射免疫測定法、比濁法等が知られている。
【0003】
抗原抗体反応は、ある抗原決定基に対して誘導された抗体の抗原結合部位が、その抗原決定基と高い相補性をもつことにより生ずる、特異性の高い結合反応である。ところが、抗原抗体反応を利用した免疫測定においては、本来の目的とする特異的な抗原抗体反応以外の非特異反応が生じ、測定値の信頼性が損なわれてしまうことがしばしば認められている。
【0004】
このような現象が起こる原因の1つとして、被検出物質(抗原)以外の成分であるにもかかわらず、免疫測定に用いる抗体に結合する成分(以下、非特異因子という)が検体中に存在することが挙げられる。検体中に非特異因子が存在すると、被検出物質が存在しないにもかかわらず、被検出物質が存在することを示す測定結果が得られることとなる。
【0005】
このような非特異因子は、被検出物質と特異的に反応する抗体のみならず、被検出物質と反応しない抗体とも結合する物質である。非特異因子としては、異好性抗体やリウマトイド因子が知られている。
【0006】
異好性抗体は、ヒト血液等に存在するヒト以外の動物種由来の抗体に対する抗体であり、マウス抗体に対するヒト抗体(HAMA)をはじめ、ヤギ抗体に対するヒト抗体(HAGA)、ヒツジ抗体に対するヒト抗体(HASA)、及びウサギ抗体に対するヒト抗体(HARA)等がある。
【0007】
リウマトイド因子は、ヒト血液等に存在するヒトの抗体に対する抗体であり、関節リウマチ患者に多く見られる自己抗体である。
【0008】
さらに、上記異好性抗体やリウマトイド因子以外にも、いまだ成分が明らかになっていない非特異因子が多く存在するといわれている。
【0009】
検体中の非特異因子の存在は、微量成分を特異的かつ高感度に測定できるという免疫測定法の利点を損ない、臨床検査分野においては、患者などの疾病の診断を誤らせることにもつながる重大な問題であるため、従来、非特異因子による非特異反応を抑制し正しい測定値を得るための様々な試みが行われてきた。
【0010】
特許文献1には、試料中に存在する非特異因子であるIgM型またはIgG型の自然抗体に対して反応する抗ヒトIgM抗体や抗ヒトIgG抗体を免疫測定系に添加することにより、非特異因子による非特異反応を抑制し、抗原を正確に測定することができる、免疫学的測定法が開示されている。
【0011】
特許文献2には、ヒト免疫グロブリンMと特異的に反応し、溶液状態でヒト免疫グロブリンMとの間で抗原抗体反応に基づく免疫凝集体を形成できる抗ヒト免疫グロブリンMモノクローナル抗体が記載されており、同抗体により非特異反応を抑制することのできる免疫学的測定法が開示されている。
【0012】
特許文献3には、抗ヒトリウマチ因子(IgM型)マウスモノクローナル抗体(IgG型)を含有する非特異反応阻害剤、及びそれを用いた免疫学的測定法が記載されており、異好性阻止試薬HBRと比較して異好性抗体による非特異反応を抑制できたと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】日本国特開平11-287801号公報
【文献】日本国特開2011-27751号公報
【文献】日本国特開2016-65795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の方法では、免疫測定法における非特異反応の抑制にある程度の効果を示すものの、必ずしもその効果は十分とは言えず、いまだ改良の余地があった。また、検体によっては、従来用いられてきた非特異反応抑制剤による効果がほとんど得られず、非特異因子による非特異反応を抑制できないものも少なからず存在し、実用上必ずしも満足できるものではなかった。
【0015】
したがって、本発明では、従来用いられてきた非特異反応抑制剤では異好性抗体等の非特異因子の影響を十分に抑制できなかった検体であっても、非特異因子による非特異反応を十分に抑制することができる非特異反応抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記特許文献では、非特異因子による非特異反応を抑制する方法として、ヒトIgMやヒトIgGといったヒトに由来する免疫グロブリンに対し特異的に反応する抗体を用いている。これは、免疫測定法における非特異反応を抑制しようと試みる場合、ヒト由来の非特異因子を除去するためには、ヒト由来の非特異因子に対して反応する抗体を用いることが必要であると考えられてきたためである。このように、ヒト由来の検体を用いる免疫測定法においては、従来、ヒト由来の非特異因子に特異的に反応する非特異反応抑制剤、すなわち、ヒト由来の非特異因子以外と交叉反応性を有しない非特異反応抑制剤を用いることが通常であった。
【0017】
本発明者らは、ヒトに由来する免疫グロブリンのみならず、ヒト以外の動物種に由来する免疫グロブリンに対しても反応性を示す抗体が、非特異反応の抑制に対してどのような影響を及ぼすかという点に着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに、ヒトに由来するIgMの他、イヌに由来するIgM、及びネコに由来するIgMに対して所定の反応性を示す抗体を用いて免疫測定法を実施した場合、非特異反応を顕著に抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
したがって、本発明は以下の通りである。
1.ELISA試験において、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するネコIgMと反応させたときの吸光度A2の比(A2/A1)が0.1以上1.5以下であり、かつ、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するヒトIgMと反応させたときの吸光度A3の比(A3/A1)が0.5以上である抗哺乳動物由来IgM抗体を含有することを特徴とする免疫測定法用の非特異反応抑制剤。
2.前記A3/A1が、2.5以下である、前記1に記載の非特異反応抑制剤。
3.前記抗哺乳動物由来IgM抗体が、抗ヒトIgM抗体、抗イヌIgM抗体又は抗ネコIgM抗体である、前記1又は2に記載の非特異反応抑制剤。
4.前記抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量が0.5μg以上20μg以下である、前記1~3のいずれか1に記載の非特異反応抑制剤。
5.前記免疫測定法が、イムノクロマトグラフ法である前記1~4のいずれか1に記載の非特異反応抑制剤。
6.前記1~5のいずれか1に記載の非特異反応抑制剤を含有する、イムノクロマトグラフ用テストストリップ。
7.前記1~5のいずれか1に記載の非特異反応抑制剤を含有する、イムノクロマトグラフ用テストキット。
8.検体中の被検出物質を特異的に検出するための免疫測定法において、前記1~5のいずれか1に記載の非特異反応抑制剤の存在下に免疫反応を行わせる、免疫測定法。
9.前記免疫測定法が、酵素免疫測定法、凝集法又はイムノクロマトグラフ法である前記8に記載の免疫測定法。
10.前記免疫測定法が、イムノクロマトグラフ法である前記8に記載の免疫測定法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非特異反応抑制剤を用いることにより、免疫測定法における非特異反応を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の非特異反応抑制剤を含有するイムノクロマトグラフ用テストストリップの一実施形態を示す図である。
図2図2は、試験例2のイムノクロマトグラフ法による測定結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例3のイムノクロマトグラフ法による測定結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例4のイムノクロマトグラフ法による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
本発明の非特異反応抑制剤は、ELISA試験において、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するネコIgMと反応させたときの吸光度A2の比(A2/A1)が0.1以上1.5以下であり、かつ、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するヒトIgMと反応させたときの吸光度A3の比(A3/A1)が0.5以上である抗哺乳動物由来IgM抗体を含有する。
【0023】
ここで、「イヌIgM」とは、イヌに由来するIgM型の免疫グロブリンを意味し、「ネコIgM」とは、ネコに由来するIgM型の免疫グロブリンを意味し、「ヒトIgM」とは、ヒトに由来するIgM型の免疫グロブリンを意味するものとする。また、「抗哺乳動物由来IgM抗体」とは、哺乳動物由来のIgMを免疫原として得られる抗体を意味するものとする。
【0024】
本発明の非特異反応抑制剤は、イヌIgM、ネコIgM及びヒトIgMに対し、上記所定の吸光度比で示される反応性を示す抗哺乳動物由来IgM抗体を含有することで、免疫測定法の非特異反応を十分に抑制することができる。本発明の非特異反応抑制剤が免疫測定法の非特異反応を十分に抑制できる理由は明らかではないが、本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、イヌIgM、ネコIgM及びヒトIgMに対し、上記所定の吸光度比で示される反応性を示し、特定のIgMに対して強い反応性を示すものではないことから、ヒト、イヌ、ネコなどの哺乳動物に共通する部分を認識している可能性が高いと考えられる。本発明の非特異反応抑制剤は、そのような抗哺乳動物由来IgM抗体を含有することで、様々な非特異因子に対して作用し、従来技術では抑制できなかった非特異反応を強く抑制していると推測される。
【0025】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、ELISA試験において、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するネコIgMと反応させたときの吸光度A2の比(A2/A1)が0.1以上1.5以下である。吸光度比(A2/A1)が0.1未満の場合、又は1.5を超える場合は、非特異反応を十分に抑制することはできない。吸光度比(A2/A1)の上限として1.0以下であることが好ましい。また、下限として0.5以上であることが好ましい。本発明において吸光度比(A2/A1)は、好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.5以上1.0以下である。
【0026】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、ELISA試験において、イヌIgMと反応させたときの吸光度A1に対するヒトIgMと反応させたときの吸光度A3の比(A3/A1)は、0.5以上である。吸光度比(A3/A1)が0.5未満の場合は、非特異反応を十分に抑制することはできない。吸光度比(A3/A1)の上限として2.5以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。また、下限として1.0以上であることが好ましい。本発明において吸光度比(A3/A1)は、好ましくは0.5以上2.5以下であり、より好ましくは0.5以上1.8以下であり、さらに好ましくは1.0以上1.8以下である。
【0027】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、ELISA試験において、吸光度比(A2/A1)が0.5以上1.5以下、かつ、吸光度比(A3/A1)が0.5以上2.5以下であることが好ましく、吸光度比(A2/A1)が0.5以上1.5以下、かつ、吸光度比(A3/A1)が0.5以上1.8以下であることがより好ましく、吸光度比(A2/A1)が0.5以上1.0以下、かつ、吸光度比(A3/A1)が0.5以上1.8以下であることがさらに好ましく、吸光度比(A2/A1)が0.5以上1.0以下、かつ、吸光度比(A3/A1)が1.0以上1.8以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明において、上記吸光度A1~A3を測定するためのELISA試験の測定条件は、吸光度A1~A3の測定間で統一されていればよく、特に限定されるものではない。吸光度A1~A3は、ELISA試験において、抗哺乳動物由来IgM抗体と、ヒトIgM、イヌIgM、又はネコIgMとを反応させた場合に測定される吸光度から、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体を入れて、発色反応を行ったウェル)で測定される吸光度を引いた値をいうものとする。
【0029】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、ヒトIgM、イヌIgM、及びネコIgMに対して上記所定の反応性を示す抗哺乳動物由来IgM抗体であれば特に限定されない。そのような抗哺乳動物由来IgM抗体としては、例えば、ヒトIgMを免疫原として得られる抗体(抗ヒトIgM抗体と表記できる)であってもよいし、イヌIgMを免疫原として得られる抗体(抗イヌIgM抗体と表記できる)であってもよいし、ネコIgMを免疫原として得られる抗体(抗ネコIgM抗体と表記できる)であってもよいし、あるいは、上記以外の哺乳動物種由来IgMを免疫原として得られる抗体であってもよい。抗哺乳動物由来IgM抗体は、抗ヒトIgM抗体、抗イヌIgM抗体、または抗ネコIgM抗体であることが好ましい。また、本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体のクラス(アイソタイプ)も特に限定されるものではないが、反応の特異性や取扱いの容易さの観点から、IgG型であることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、市販のものであってもよいし、必要に応じて、以下のように作製したものであってもよい。
【0031】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体がモノクローナル抗体の場合は、常法に従って、上記免疫原で免疫したマウスの脾臓細胞と骨髄腫細胞をハイブリッドさせ、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを選択し、このハイブリドーマから産生されてくるモノクローナル抗体を収得することができる(例えば、ケーラーとミルスタインの技法(Nature 256(1975)495-497)を参照)。上記免疫原の入手方法は特に限定されず、例えば市販のものを使用できる。
【0032】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の上記免疫原に対する反応性を、例えばELISA法等の酵素免疫測定法によって測定することにより行うことができる。
【0033】
このハイブリドーマは、培地(例えば、10%ウシ胎児血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、このハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、単離および/または精製されることが好ましい。
【0034】
本出願人は、本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体のうち、後述する実施例に示す方法により得られたハイブリドーマ(Anti-Dog IgM No.12)を独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。以下に寄託を特定する内容を記載する。
【0035】
本出願人は、上記ハイブリドーマ(Anti-Dog IgM No.12)を下記の条件で寄託した。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 電話番号0438-20-5580
(3)受託番号:NITE BP-02556
(4)識別のための表示:Anti-Dog IgM No.12
(5)原寄託日:2017年10月10日
【0036】
本発明に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体がポリクローナル抗体の場合は、常法に従って、上記免疫原を産生動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ及びヒト等)に免疫して得られた抗血清中から、目的とする抗体を分離することにより得ることができる。上記免疫原の入手方法は特に限定されず、例えば市販のものを使用できる。
【0037】
抗哺乳動物由来IgM抗体を含有する非特異反応抑制剤は、抗哺乳動物由来IgM抗体のみからなるものであってもよく、本発明の効果を妨げない範囲で、抗哺乳動物由来IgM抗体以外の他の成分を含有するものであってもよい。また、本発明の非特異反応抑制剤に用いられる抗哺乳動物由来IgM抗体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用することもできる。他の成分としては、例えば、リン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等の緩衝剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩等が挙げられる。
【0038】
本発明の非特異反応抑制剤の形態は、特に限定されるものではなく、固体であってもよく、液体であってもよい。液体の場合は、溶媒中に非特異反応抑制剤が含有する成分を溶解又は懸濁させることで調製することができる。溶媒としては、例えば、水、グリセロール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0039】
本発明の非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、特に限定されるものではなく、検体の種類、検体の量、免疫測定法の測定条件等に基づいて適宜調整することができる。例えば、1検体あたりに使用する非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、0.5μg以上20μg以下が好ましく、1μg以上15μg以下がより好ましく、2μg以上10μg以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明の非特異反応抑制剤を適用できる免疫測定法としては、免疫反応を利用して、検体中の被検出物質を測定する方法であれば特に限定されず、その効果を発揮することができる。例えば、酵素免疫測定法(例えば、ELISA法)、凝集法、イムノクロマトグラフ法、放射免疫測定法、比濁法等が挙げられ、好ましくは、酵素免疫測定法、凝集法又はイムノクロマトグラフ法である。本発明の非特異反応抑制剤は、検体の採取の容易性から、取り扱いが容易とされているイムノクロマトグラフ法において特に有用である。
【0041】
次に、本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップについて説明する。本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップは、上述の非特異反応抑制剤を含有する。
【0042】
本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップは、イムノクロマトグラフ法を利用して、例えば、被検出物質の有無を判定したり、被検出物質の濃度を測定したりするために使用することができる。
【0043】
本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップは、上述の非特異反応抑制剤を含有すること以外は特に限定されるものではなく、公知のイムノクロマトグラフ用テストストリップと同様の構成とすることができる。本発明においては、非特異反応抑制剤は、イムノクロマトグラフ用テストストリップを構成する部材のうち、検体を含む液相が毛細管現象によって展開する部材の中に免疫反応に関与し得る態様で含まれていればよい。このようにすることで、非特異反応抑制剤の存在下で免疫反応を行うことができ、非特異反応を抑制できる。
【0044】
以下、本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップの一実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップは以下の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
図1に示す本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップの一実施形態は、サンプルパッド1と、コンジュゲートパッド2と、メンブレンパッド3と、吸収パッド5と、バッキングシート6とを備える。
【0046】
サンプルパッド1は、検体を含む試料を添加し、毛細管現象によって試料を下流へ移動させるために設けられている部材である。サンプルパッド1の材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、及びアルミナ等のセラミック微粒子、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ガラス繊維、綿等が挙げられる。また、サンプルパッド1の大きさ、形状は特に限定されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。サンプルパッド1には、後述のコンジュゲートパッドの機能を持たせることもできる。
【0047】
コンジュゲートパッド2は、検体中の被検出物質と特異的に反応する抗体又は抗原を標識物質で標識した標識試薬を含有する部材である。検体を含む試料がコンジュゲートパッド2を通過すると、被検出物質と標識試薬との複合体が形成される。コンジュゲートパッド2の材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、及びアルミナ等のセラミック微粒子、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ガラス繊維、綿等が挙げられる。また、コンジュゲートパッド2の大きさ、形状は特に限定されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0048】
標識物質としては、特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、白金等の金属ナノ粒子、ラテックス粒子等の公知のものを使用することができる。金属ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは10nm~150nm、より好ましくは20nm~100nmである。また、ラテックス粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは100nm~500nm、より好ましくは100nm~250nmである。検体中の被検出物質の有無を目視で判定できることから、標識物質は、金ナノ粒子であることが好ましい。
【0049】
標識試薬中の抗体又は抗原は、検体中の被検出物質と特異的に結合することができるものであれば市販されている抗体又は抗原を使用することができ、必要に応じて作製したものを使用することができる。被検出物質が抗原である場合には、それに特異的に結合することができる抗体が好ましい。抗体はモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。このような抗体は、例えば被検出物質である抗原で動物を感作することによる公知の方法で製造することができる。動物種の具体例としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ及びヒト等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0050】
標識試薬中の抗体又は抗原の含有量は、特に限定されるものではないが、1テストストリップあたり、好ましくは0.01μg以上10μg以下、より好ましくは0.02μg以上5μg以下、さらに好ましくは0.02μg以上1μg以下である。
【0051】
メンブレンパッド3は、被検出物質を検出することにより、被検出物質の有無等を判定したり、被検出物質の濃度を測定したりするための検出部4を有する部材である。検出部4には、被検出物質を捕捉するための抗体又は抗原を含む捕捉試薬が固定されている。検出部4では、検体中に被検出物質が含まれると、標識試薬、被検出物質及び捕捉試薬からなる複合体が形成されて発色し、検体中に被検出物質が含まれないと、標識試薬、被検出物質及び捕捉試薬からなる複合体が形成されないため発色しない。
【0052】
メンブレンパッド3の材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、及びアルミナ等のセラミック微粒子、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ガラス繊維、綿等が挙げられる。また、メンブレンパッド3の大きさ、形状は特に限定されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0053】
捕捉試薬に用いられる抗体又は抗原は、上記標識試薬に含有される抗体又は抗原と同一の抗体又は抗原であってもよく、異なる抗体又は抗原であってもよい。
【0054】
捕捉試薬に用いられる抗体又は抗原は、検体中の被検出物質と特異的に結合することができるものであれば市販されている抗体又は抗原を使用することができ、必要に応じて作製したものを使用することができる。被検出物質が抗原である場合には、それに特異的に結合することができる抗体が好ましい。抗体はモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。このような抗体は、被検出物質である抗原で動物を感作することによる公知の方法で製造することができる。動物種の具体例としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ及びヒト等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0055】
捕捉試薬に用いられる抗体又は抗原の含有量は、特に限定されるものではないが、1テストストリップあたり、好ましくは0.1μg以上10μg以下、より好ましくは0.2μg以上5μg以下、さらに好ましくは0.2μg以上4μg以下である。
【0056】
検出部の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、線状、円状等が挙げられる。視認性、検出効率の観点から、線状が好ましい。
【0057】
メンブレンパッド3は、非特異的な吸着により分析の精度が低下することを防止するため、必要に応じて、公知の方法でブロッキング処理を行うことができる。一般にブロッキング処理はウシ血清アルブミン、スキムミルク、カゼイン、及びゼラチン等のタンパク質が好適に用いられる。かかるブロッキング処理後に、必要に応じて、Tween(登録商標)20、Triton X-100(登録商標)、及びSDS等の界面活性剤を1つ又は2つ以上組み合わせて洗浄してもよい。
【0058】
吸収パッド5は、メンブレンパッド3を通過した余剰の試料等を吸収する部材である。吸収パッドの材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア、及びアルミナ等のセラミック微粒子、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ガラス繊維、綿等が挙げられる。また、吸収パッド5の大きさ、形状は特に限定されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0059】
バッキングシート6は、サンプルパッド1、コンジュゲートパッド2、メンブレンパッド3、吸収パッド5等の各部材を固定する支持体として用いられる部材である。バッキングシートの材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、粘着剤によって試料に対して不透過性、非透湿性となるような、従来公知の種々の材料を用いることができる。また、バッキングシート6の大きさ、形状は特に限定されるものではなく、実際の操作の点及び反応結果の観察の点において適切であればよい。
【0060】
本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップの一実施形態においては、非特異反応抑制剤は、サンプルパッド1、コンジュゲートパッド2及びメンブレンパッド3のうち少なくとも1つに含有されている。
【0061】
本発明のイムノクロマトグラフ用テストストリップに含まれる非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、特に限定されるものではないが、1テストストリップあたり、好ましくは0.5μg以上20μg以下、より好ましくは1μg以上15μg以下、さらに好ましくは2μg以上10μg以下である。上記範囲であることによって、非特異反応を強く抑制できる。
【0062】
次に、本発明のイムノクロマトグラフ用テストキットについて説明する。
【0063】
本発明においてテストキットとは、免疫測定に必要な試薬等の2以上の物品を備えるキットをいう。本発明のイムノクロマトグラフ用テストキットは、上述の非特異反応抑制剤を含むこと以外は特に限定されるものではなく、公知のイムノクロマトグラフ用テストキットと同様の構成とすることができる。
【0064】
本発明においては、非特異反応抑制剤は、免疫反応に関与し得る態様でイムノクロマトグラフ用テストキットに含まれていればよい。例えば、非特異反応抑制剤は、試薬として独立して含有されていてもよく、免疫測定に用いる検体希釈液等の試薬、テストストリップ等に予め含有されていてもよい。
【0065】
本発明の一実施形態においては、イムノクロマトグラフ用テストキットは、テストストリップに加えて、免疫測定に必要な試薬を備える。テストストリップとしては、特に限定されるものではなく、例えば、上述のサンプルパッド、コンジュゲートパッド、メンブレンパッド、吸収パッド、バッキングシート等から構成されるものを使用することができる。免疫測定に必要な試薬としては、特に限定されるものではないが、例えば、検体希釈液、展開液等が挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態においては、テストストリップ、試薬の少なくとも1つに非特異反応抑制剤が含有される。より具体的には、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、メンブレンパッド、試薬の少なくとも1つに非特異反応抑制剤が含有される。このようにすることで、非特異反応抑制剤の存在下で抗原抗体反応を行うことができ、非特異反応を抑制することができる。
【0067】
本発明のイムノクロマトグラフ用テストキットに含まれる非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、特に限定されるものではないが、1テストキットあたり、好ましくは0.5μg以上20μg以下、より好ましくは1μg以上15μg以下、さらに好ましくは2μg以上10μg以下である。上記範囲であることによって、溶液の粘度を増加させることなく非特異反応を効率的に抑制することができる。
【0068】
次に、本発明の免疫測定法について説明する。
【0069】
本発明の免疫測定法は、上述の非特異反応抑制剤の存在下で免疫反応を行うものである。本発明の免疫測定法は、非特異反応抑制剤の存在下で免疫反応を行うことにより、本来の目的とする免疫反応以外の非特異反応を抑制することができる。
【0070】
本発明の免疫測定法としては、免疫反応を利用して、検体中の被検出物質を定量的若しくは定性的に測定する方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、酵素免疫測定法(例えば、ELISA法)、凝集法、イムノクロマトグラフ法、放射免疫測定法、比濁法等が挙げられ、好ましくは、酵素免疫測定法、凝集法又はイムノクロマトグラフ法である。本発明の免疫測定法は、検体の採取の容易性から、取り扱いが容易とされているイムノクロマトグラフ法において特に有用である。
【0071】
本発明の免疫測定法に用いられる検体としては、特に限定されるものではなく、例えば、血清、血漿、全血、尿、唾液、鼻汁等が挙げられる。代表的には、ヒト由来の検体である。
【0072】
本発明の免疫測定法において測定することができる被検出物質としては、例えば、検体中に含まれるウイルス、細菌、寄生虫、代謝物等が挙げられ、より具体的にはそれらが有するタンパク質、ペプチド、多糖類、及び複合糖質等を挙げることができる。特に、検体中に微量に含まれる抗原が好適である。なぜなら、検体中に含まれる抗原の濃度が微量である程、相対的に非特異的反応の影響が大きくなるので、本発明の非特異反応抑制剤が有用となるからである。
【0073】
本発明における免疫反応は、非特異反応抑制剤の存在下で行うものであれば特に限定されるものではなく、常法にしたがって行うことができる。例えば、免疫反応を行う前に予め検体と非特異反応抑制剤とを接触させ、続いて検体中の被検出物質に結合し得る抗体又は抗原と接触させて免疫反応を行うことができる。また、免疫反応を行う前に予め検体中の被検出物質に結合し得る抗体又は抗原と非特異反応抑制剤とを接触させ、続いて検体と接触させて免疫反応を行うことができる。
【0074】
本発明に用いられる非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、特に限定されるものではなく、検体の種類、検体の量、免疫測定法の測定条件等に基づいて適宜調整することができる。例えば、1検体あたりに使用する非特異反応抑制剤中の抗哺乳動物由来IgM抗体の含有量は、0.5μg以上20μg以下が好ましく、1μg以上15μg以下がより好ましく、2μg以上10μg以下がさらに好ましい。
【0075】
本発明の免疫測定法がイムノクロマトグラフ法である場合には、例えば、抗原を含む検体に予め非特異反応抑制剤を添加して得られた試料を固相に添加し、固相中で免疫複合体を形成することで抗原を検出することができる。また、予め非特異反応抑制剤を添加したサンプルパッド、コンジュゲートパッド等の固相に抗原を含む検体を展開し、固相中で免疫複合体を形成することで抗原を検出することができる。
【0076】
本発明の免疫測定法が酵素免疫測定法(例えば、ELISA法)である場合には、例えば、抗原を含む検体に予め非特異抑制剤を添加し、その後、常法にしたがって抗原抗体反応を行うことで抗原の濃度を測定することができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
[抗哺乳動物由来IgM抗体]
抗イヌIgM抗体及び抗ネコIgM抗体を下記の通り作製した。なお、抗ヒトIgM抗体は市販のものを使用した。
【0079】
[抗イヌIgM抗体]
イヌIgM(Rockland社製、製品名DOG IgM Whole molecule)を免疫原として抗イヌIgM抗体のモノクローナル抗体を、次のように常法に従って作製した。100μgの上記イヌIgMと等量のAduvant Complete Freund(Difco)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0-Ag14細胞(Shulmanら、Nature,276,269-270,1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)にL-グルタミン 0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム 100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン 100μg/ml、Gentacin 40μg/mlを添加し(DMEM)、これに牛胎児血清(JRH)を10%となるように加えた培養液を用いた。細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0-Ag14細胞を混合し、そこにPolyethylene glycol solution(Sigma)を添加することにより行った。融合細胞はHAT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantine、0.4μM Aminopterinおよび0.016mM Thymidine(Gibco)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素免疫測定法(ELISA法)により培養上清中の抗体産生を確認した。抗体産生陽性の細胞をHT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantineおよび0.16mM Thymidineを含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。
【0080】
クローニングした細胞は、2,6,10,14-Tetramethylpentadecane(Sigma)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、モノクローナル抗体を精製した。得られた抗体のうち、5種のモノクローナル抗体(No.12、32、70、75、80)を後述する試験に用いた。これらのアイソタイプはIgG型であった。このうち、No.12の抗イヌIgM抗体は、上述した受託番号:NITE BP-02556のハイブリドーマにより産生される、イヌIgMに対するモノクローナル抗体である。
【0081】
[抗ネコIgM抗体]
イヌIgMの代わりに、ネコIgM(Rockland社製、製品名CAT IgM Whole molecule)100μgを免疫原としたことを除いては、上記抗イヌIgM抗体と同様の方法で抗ネコIgM抗体を作製した。得られた抗体のうち、2種のモノクローナル抗体(No.1、7)を後述する試験に用いた。これらのアイソタイプはIgG型であった。
【0082】
[抗ヒトIgM抗体]
抗ヒトIgM抗体としては、市販品(XEMA社製、製品名:X611、X612、X613)を後述する試験に用いた。これらのアイソタイプはIgG型であった。
【0083】
(試験例1)
試験例1では、上記各種抗哺乳動物由来IgM抗体(抗イヌIgM抗体、抗ヒトIgM抗体、及び抗ネコIgM抗体)それぞれについて、イヌIgM、ネコIgM及びヒトIgMそれぞれに対する反応性を、以下のELISA試験により測定した。
【0084】
[実施例1]
抗イヌIgM抗体(No.12)について、イヌIgM、ネコIgM及びヒトIgMそれぞれに対する反応性を以下のELISA試験により測定した。
【0085】
[ELISA試験]
まず、Nunc Immuno modules(Thermo Fisher Scientific社製、コード469949)ELISA用96ウェルプレートに、イヌIgM(Rockland社製、製品名DOG IgM Whole molecule)、ネコIgM(Rockland社製、製品名CAT IgM Whole molecule)またはヒトIgM(オリエンタル酵母社製、製品名ヒトIgM)を4ng/mL in 50mM 炭酸バッファー pH9.5を100μL加え、4℃にて16時間インキュベートした。16時間後、溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。ブロッキング液として、5%BSA in PBST(BSA:オリエンタル酵母社製)を300μL加え、37℃で1時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05%
Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0086】
一次抗体として、上記作製した抗イヌIgM抗体(No.12)5μg/mL in 50%ブロッキング溶液(一次抗体溶液)100μLをウェルに加え37℃で1時間インキュベートした後、一次抗体溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュした。
二次抗体として、Anti Mouse IgG(H+L),Rabbit,IgG Whole,Peroxidase Cojugated(和光純薬社製、コード014-17611)1mg/mLを100μL、ウェルに加え、37℃1.5時間インキュベートした。その後BSA溶液を取り除き、ウェルを300μL PBST(0.05% Tween20 in PBS)にて3回ウォッシュし、ウェルに残った液は、ペーパータオルに叩き付けて取り除いた。
【0087】
ウェルに発色基質としてSure Blue Reserve TMB Microwell Peroxidase Substrate(1-Component)(KPL社製、コード53-00-01)を100μL加え、15分反応させ、2N硫酸を100μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BIORAD社製)で450nmの吸光度を測定した。
また、ブランク(一次抗体を入れずに二次抗体を入れて、発色反応を行ったウェル)で測定された吸光度を測定し、上記測定した吸光度から引いた値を吸光度A1~A3とした。その結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2、3]
一次抗体としての抗イヌIgM抗体No.12を、上記作製した抗イヌIgM抗体No.32、No.75に変更した点を除いては、実施例1と同様にELISA試験を行った。その結果を表1に示す。
【0089】
[実施例4~6]
一次抗体としての抗イヌIgM抗体No.12を、上記市販の抗ヒトIgM抗体X611~X613(XEMA社製)に変更した点を除いては、実施例1と同様にELISA試験を行った。その結果を表1に示す。
【0090】
[比較例1、2]
一次抗体としての抗イヌIgM抗体No.12を、上記作製した抗イヌIgM抗体No.70、No.80に変更した点を除いては、実施例1と同様にELISA試験を行った。その結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3、4]
一次抗体としての抗イヌIgM抗体No.12を、上記作製した抗ネコIgM抗体No.1、No.7に変更した点を除いては、実施例1と同様にELISA試験を行った。その結果を下記表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
(試験例2)
試験例2では、検体として、非特異反応を示すヒト血清を用い、試験例1でイヌIgMネコIgM、及びヒトIgMに対する反応性を調べた実施例および比較例の抗IgM抗体、及び、従来公知の異好性阻止試薬HBRによる免疫測定法の非特異反応抑制効果を評価した。
具体的には、図1に示すように、バッキングシート6上に、検出部4を有するメンブレンパッド3と、サンプルパッド1と、コンジュゲートパッド2と、吸収パッド5とを形成したテストストリップ、及び展開試料を以下のとおり作製し、イムノクロマトグラフ法により測定を行い、非特異反応抑制効果を評価した。
【0094】
(1)サンプルパッドの作製
サンプルパッドとして、グラスファイバーからなる不織布(ミリポア社製:300mm×30mm)を用いた。
(2)コンジュゲートパッドの作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:LC40nm)0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mlの濃度になるように希釈した抗ジカウイルスNS1抗体(Aaltobioreagent社製、製品名Anti-Zika virusNS1 Antibody)を0.1ml加え、室温で10分間静置した。
次いで、1質量%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、更に室温で10分間静置した。その後、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した後、1質量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加えた。以上の手順で標識試薬を作製した。
上記作製した標識試薬300μLに300μLの10質量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを12mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、コンジュゲートパッドを作製した。
【0095】
(3)検出部の作製
メンブレンとしてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120、300mm×25mm)を用いた。
次に、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように、抗ジカウイルスNS1抗体(Aaltobioreagent社製、製品名Anti-Zika virusNS1 Antibody)を希釈した溶液150μLを、乾燥されたメンブレン上の検出部に1mmの幅でイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIODOT社製)を用いて1μL/mmの量(1シートあたり25μL)でライン状に塗布した。
また、金ナノ粒子標識試薬の展開の有無や展開速度を確認するために検出部の下流に、金ナノ粒子標識物質と広く親和性を有するヤギ由来抗血清をリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した液をコントロール部位(コントロールライン)に塗布した。その後、50℃で30分間乾燥させ、室温で一晩乾燥させた。
(4)テストストリップの作製
検出部を有するメンブレンパッドに、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、及びグラスファイバー製の不織布からなる吸収パッドを順次貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、バッキングシート(倉本産業社製、製品名イムノクロマト用バッキングシート)上に貼り付け、テストストリップとした。なお、コンジュゲートパッドの試料展開方向の長さを12mmとした。
(5)展開試料の調製
非特異反応を示すヒト血清(SCIPAC社製、製品名Normal Female Serum)を検体とし、検体30μL、0.5%Triton X-100を含むPBS溶液60μL、及び試験例1で用いた実施例1~6、比較例1~4の抗IgM抗体各4μg、あるいはHBR(Scantibody社製)4μgを混合し、展開試料を調製した。また、抗IgM抗体の代わりにPBS10μLを使用したものをコントロールとした。
(6)測定
上記作製したテストストリップ及び展開試料を用いて、以下の方法で非特異反応抑制効果を試験した。
展開試料150μLをテストストリップのサンプルパッドに添加し展開させ、15分後にイムノクロマトリーダーを用いて、検出部の発色強度(450nmの吸光度)を測定した。その結果を表2及び図2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
コントロールの結果からもわかるように、検体として使用したヒト血清(SCIPAC社製、製品名Normal Female Serum)は、非特異反応が生じる検体であることがわかる。そして、本発明における抗体を用いた実施例では、従来公知の異好性阻止試薬HBRと比較しても顕著に非特異反応を抑制できた。
【0098】
(試験例3)
本試験では、試験例2と同様に、検体として非特異反応を示すヒト血清(SCIPAC社製、製品名Normal Female Serum)を用い、抗ヒトIgG抗体の各種クローンの非特異反応抑制効果を評価した。
【0099】
試験例2において、各抗IgM抗体の代わりに抗ヒトIgG抗体の各種クローン(XEMA社製、製品名XA6、XG1、XG3、XG4、XG6~9)を使用したことを除いては、試験例2と同様にしてテストストリップ及び展開試料を作成し、測定を行った。その結果を表3及び図3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
以上の結果からわかるように、抗ヒトIgG抗体の各種クローンを用いても、非特異反応を抑制する効果は得られなかった。
【0102】
(試験例4)
本試験では、試験例2と同様に、検体として非特異反応を示すヒト血清(SCIPAC社製、製品名Normal Female Serum)を用い、各動物種(マウス、ウサギ、ヤギ、及びトリ)のIgGまたはIgYの非特異反応抑制効果を評価した。
【0103】
試験例2において、展開試料に使用する各抗IgM抗体の代わりに、下記各動物種(マウス、ウサギ、ヤギ、及びトリ)のIgGまたはIgYを使用したことを除いては、試験例2と同様にしてテストストリップ及び展開試料を作成し、測定を行った。その結果を表4及び図4に示す。・マウスIgG(日本バイオテスト社製、製品名:精製マウスIgG)・ウサギIgG(日本バイオテスト社製、製品名:精製ウサギIgG)・ヤギIgG(日本バイオテスト社製、製品名:精製ヤギIgG)・トリIgY(日本バイオテスト社製、製品名:精製トリIgY)
【0104】
【表4】
【0105】
以上の結果からわかるように、各動物種(マウス、ウサギ、ヤギ、トリ)由来のIgGまたはIgYを用いても、非特異反応を抑制する効果は得られなかった。
【0106】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2017年5月2日付で出願された日本特許出願(特願2017-091858)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0107】
1 サンプルパッド
2 コンジュゲートパッド
3 メンブレンパッド
4 検出部
5 吸収パッド
6 バッキングシート
図1
図2
図3
図4