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特許7052072充電式リチウムイオンバッテリー用の正極材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-01
(45)【発行日】2022-04-11
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオンバッテリー用の正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220404BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220404BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220404BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020554373
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2018083406
(87)【国際公開番号】W WO2019120973
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】17209955.8
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤグムア・ジェラスン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】アルム・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュキョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】テヒョン・ヤン
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/095153(WO,A1)
【文献】特開2006-054159(JP,A)
【文献】特表2009-544565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリー用の正極活物質であって、リチウム遷移金属系酸化物粉末を含み、前記粉末が、Ni及びCoを含む単結晶モノリシック粒子を含み、一般式Li1+a((Ni(Ni1/2Mn1/2Co1-k1-a[式中、Aはドーパントであり、Aは、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちのいずれか1つ以上であり、-0.02<a≦0.06、0.10≦x≦0.35、0≦z≦0.90、x+y+z=1及びk≦0.01である]を有し、前記粒子は、前記粒子表面で、前記粒子の中心よりもCo含有量が高くなるコバルト濃度勾配を有し、並びに
Mnが存在する場合、前記粒子表面におけるCo/Mnのモル比と前記表面からの距離dにおけるCo/Mnのモル比との比は、1.1~1.3であり、これにより、d=前記粒子表面から前記粒子の中心までの前記距離の1/4であるか、又は
Mnが存在しない場合、C(4)/C(3)間の比は、1.1~1.3であるかのいずれかであり、ここで、C(4)は、前記粒子表面におけるCoモル濃度と前記粒子の中心におけるCoのモル濃度との比であり、C(3)は、a)前記粒子表面から前記粒子の中心までの3/4の距離におけるCoのモル濃度と、b)前記粒子の中心におけるCoのモル濃度との比である、正極活物質。
【請求項2】
前記粉末が、D50<10μmの粒径分布を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
Mnが存在する場合、前記粒子表面におけるCo/Mnのモル比と前記粒子の中心におけるCo/Mnのモル比との比が、1.4~1.5である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記コバルト濃度勾配が、前記粒子の前記表面から前記中心まで連続的に変化する、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記粒子が、複数の平坦な表面及び少なくとも0.8のアスペクト比による形態を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記粒子が、LiCoOを含む表面層を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記粒子には、LiNaSO及びAlのうちのいずれか一方又は両方を含むコーティングが設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末正極材料を製造するための方法であって、前記粉末正極材料が、Ni及びCoを含み、一般式Li1+a((Ni(Ni1/2Mn1/2Co 1-k 1-a[式中、Aはドーパントであり、Aは、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちのいずれか1つ以上であり、-0.02<a≦0.06、0.10≦x≦0.35、0≦z≦0.90、x+y+z=1及びk≦0.01である]を有し、前記方法は、
A、Ni、Co及び前記粉末正極材料中に存在する場合Mnを含む、D50<10μmの粒径分布を有する粒子からなる、第1の前駆体を準備する工程と、
前記第1の前駆体を、LiOH、LiO、LiCO及びLiOH.HOのうちのいずれか1つと混合し、これにより第1の混合物を得て、これにより、前記第1の混合物におけるLi対遷移金属の比LM1を0.60~<1.00とする工程と、
前記第1の混合物を700℃~900℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結し、これにより第1の中間生成物を得る工程と、
前記第1の中間生成物を、LiOH、LiO、LiCO及びLiOH.HOのうちのいずれか1つと混合して、これにより第2の混合物を得て、これにより、前記第2の混合物におけるLi対遷移金属の比LM2を≧0.90とする工程と、
前記第2の混合物を、(950-(155.56z))℃~(1050-(155.56z))℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結する工程と、
前記焼結された第2の混合物を粉砕し、これにより、前記焼結された第2の混合物粒子を、孤立一次粒子に分離する工程と、
Co系前駆体を準備する工程と、前記前駆体を、前記焼結及び粉砕された第2の混合物と混合し、これにより、第3の混合物を得て、前記第3の混合物におけるLi対遷移金属の比LM3を、-0.107z+1.018≦LM3≦-0.107z+1.098とする工程と、
前記第3の混合物を、700~800℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結する工程と、を含む、方法。
【請求項9】
Co系前駆体を準備する前記工程と、前記前駆体を、前記焼結及び粉砕された第2の混合物と混合する前記工程とにおいて、更にLi系前駆体を添加する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
y>0、z≧0.35及び-0.012≦a≦0.010であり、LM1が、0.60~0.95であり、LM2≧LM1、及びLM3≧LM1であり、前記第2の混合物を焼結する温度が、895℃~995℃である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
LM3=LM2である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
2~10モル%のCoを、前記Co系前駆体に添加し、これにより、前記モル%のCoが、前記第2の混合物における、Liを除く、全金属含有量に対して表される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記粉砕工程を適用して、前記第2の混合物の焼結後に得られた凝集粉末を、ボールミル装置内で分離粒子に破砕する、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
後続の、
無機酸化性化学化合物を準備する工程と、
Li受容体である化学物質を準備する工程と、
前記焼結された第3の混合物、前記酸化性化合物及び前記Li受容体を混合して、これにより第4の混合物を得る工程と、
前記第4の混合物を、300~800℃の温度で、酸素含有雰囲気中で加熱する工程と、
を含む、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記無機酸化性化学化合物及び前記Li受容体である化学物質の両方が、同じ化合物であり、Li、H、及びNaのうちのいずれか1つであり、前記第4の混合物の加熱温度は、350~450℃である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ナノサイズのAl粉末を、更なるLi受容体である化学物質として準備する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
固体リチウムイオンバッテリー、又は液体電解質によるリチウムイオンバッテリーのいずれかにおける、ある電圧、すなわち少なくとも4.35Vまでサイクルにかける、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末正極材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムイオンバッテリー用の正極材料として適用することができる、モノリシック形態を有するリチウム遷移金属酸化物材料に関する。より具体的には、この材料は、表面からコアまでのコバルト濃度の勾配を有する。正極材料により、容量、サイクル安定性及びレート能力などのバッテリー性能が強化される。更に、材料を、固体リチウムイオンバッテリー又は非水性リチウムイオンバッテリーに、その特定の形態により高電圧で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
充電式リチウムイオンバッテリー(LIB)は、それらの高い体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度並びに長いサイクル寿命により、現在、ラップトップ、携帯電話、カメラ及び様々な他の電子機器に使用されている。更に、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)用の大型バッテリーの必要性を満たすために、より高いエネルギー密度のバッテリーが必要とされている。バッテリーのエネルギー密度を増加させる1つの方法は、より高い動作電圧をかけることによるものである。しかし、従来のリチウムイオンバッテリーに使用されている有機液体電解質は、高電圧でサイクル中に分解し、副生成物を形成する。安定性の問題に加え、電解質は可燃性溶媒を含有し、これにより、高い充電レベルで熱暴走を引き起こす可能性がある。その結果、電解質漏出、過熱及び燃焼の可能性が高いことなど、深刻な安全性の問題が生じる場合がある。今後のEV及びHEV用途を考慮すると、安全性は、最大懸念事項の1つである。
【0003】
固体電解質は、可燃性液体有機電解質に代わるものであり、固体バッテリー(SSB)の分野を広げた。固体電解質は、高い安全性をもたらすが、それだけではなく優れたサイクル安定性をもたらすと予想することもできる。これらの特性はまた、高電圧用途にも魅力的なものになる。以前のSSB技術は、携帯用途の薄膜バッテリー技術によって進められた。全般的に、正極材料としての層状酸化物材料、特にLiCoO(LCO)が、例えば薄膜バッテリーに好ましい。LCOは、十分な高い理論容量を有し、熱安定性が良好である。しかし、コバルト(Co)の高価格を引き起こす資源の希少性及び環境問題により、理論容量の高い、安定した2D層構造を有する新たな正極材料が開発されている。出発点としてLCOを使用し、金属の置換によって、すなわち、Coを他の遷移金属に置き換えることよって、LiNiMnCo(NMC)及びLiNiCoAl(NCA)が、三元層酸化物材料Li1+a1-a[式中、Mは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、又はアルミニウム(Al)の混合であり、aは、典型的にはゼロ付近である]の組成を調節することにより見出された。Niが高い容量を与えるとともに、Mnが良好なサイクル性能をもたらすという事実に基づいて、Ni、Mn、Co及びAlの組み合わせが利点をもたらすことから、これらの材料は評判がよい。更に、CoがNMCの層状結晶構造を支持することにより、Liイオンを迅速に輸送することができる。Alドーピングは、安全性を改善する方法としても知られている。
【0004】
従来のLIBでは、液体電解質が多孔質構造に容易に浸透することができるので、連続する相互連結された多孔性を有する多結晶NMCが好ましい。これは、電解質のリチウム伝導度が非常に高くなり、粒子に出入りする急速なリチウム拡散のための「ハイウエイ」が生じることから、有用である。しかし、固体電解質が孔に入ることができないことから、多孔質構造はSSBに有益ではない。したがって、非多孔質形態が必要である。更に、SSBは、固体電解質と正極粒子との間の良好な界面接触を必要とし、これは、特に粒子が例えば球状又は球状に近い形態を有する場合、得ることができる。そのとき、この接触は、固体電解質を粉末正極材料上に押し付けることによって得られる。その結果、正極粉末には、機械的に堅牢であることが必要とされることになる。多結晶(多孔質)NMCがSSBに使用される場合、固体間の界面接触は、バッテリー製造プロセスの一部として電極を圧縮する際、損なわれることがあり、又は亀裂が形成される。亀裂はまた、より全般的な懸念事項であり、充放電中、粒子には、A.C.Luntz et al in J.Phys.Chem.Lett.,2015,6(22)に記載されているように、ひずみによって誘発される体積変化が起きる。この体積変化により、電極と電解質との間の界面が剥がれ、更なる亀裂をもたらすことがある。剥離及び亀裂は、リチウムイオン経路の切断につながり、その結果、急速な容量減少が生じる。これらの問題は、従来のバッテリーの場合、液体電解質及び何らかのフレキシブル電極を含有するので、あまり深刻ではなく、したがって、粒子は、システムがこの変形に対してより認容性であることから、亀裂後に依然として電気的に活性であることができる。しかし、高電圧サイクルを適用するとき、このフレキシブル性は、繰り返しの体積変化を吸収するのに十分にはなり得ない。同様に、SSBは、緩衝剤がなく、結合剤があってこのような亀裂に耐えるものであることから、このような実際のバッテリーにおいて大きな問題となる。
【0005】
米国特許出願公開第2017/133668(A1)号では、コア部と表面部とを有する多結晶正極材料が開示されており、これは、コア部と表面部とにおけるマンガンの量が25モル%超であり、正極活物質におけるニッケル及びコバルトの量が変化することにより、ニッケル及びコバルトのコア部から表面部までの方向における濃度勾配が正極活物質に存在するというものである。
【0006】
中国特許第107408667号では、コアと、コア周囲に配置されたシェルと、コアとシェルとの間の緩衝層とを含む、正極活物質を作製する方法が提供され、これは、緩衝層が、孔と、コアとシェルとを連結する三次元網状構造とを含み、緩衝層の、コアと、シェルと、三次元網状構造とは、各々独立して、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合金属酸化物を含み、ニッケル、マンガン、及びコバルトのうちの少なくとも1つの金属元素は、コアとシェルとのいずれか一方の領域及び正極活物質全体において徐々に変化する濃度勾配を有するというものである。
【0007】
国際公開第2017/042654号では、一般式Li1-a’((Ni(Ni1/2Mn1/2Co1-k1+a’[式中、x+y+z=1、0.1≦x≦0.4、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1、及び0.01≦a’≦0.10である]を有する正極材料の、複数の焼結工程プロセスによる製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、既知のモノリシックLCO及び多結晶NMC材料の欠点を有することなく、高電圧で機能するSSB又は非水性バッテリーに特に適合され、具体的には機械的に堅牢であり連続的体積変化及び亀裂形成に耐える、新規な正極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様から見ると、本発明は、リチウムイオンバッテリー用の正極活物質であって、リチウム遷移金属系酸化物粉末を含み、この粉末が、Ni及びCoを含む単結晶モノリシック粒子を含み、一般式Li1+a((Ni(Ni1/2Mn1/2Co1-k1-a[式中、Aはドーパントであり、-0.02<a≦0.06、0.10≦x≦0.35、0≦z≦0.90、x+y+z=1及びk≦0.01である]を有し、粒子は、粒子表面で、粒子の中心よりもCo含有量が高くなるコバルト濃度勾配を有し、並びに
Mnが存在する場合、粒子表面におけるCo/Mnのモル比と表面からの距離dにおけるCo/Mnのモル比との比は、1.1~1.3であり、これにより、d=粒子表面から粒子の中心までの距離の1/4であるか、又はMnが存在しない場合、C(4)/C(3)間の比は、1.1~1.3であるかのいずれかであり、ただし、C(4)は、粒子表面におけるCoと粒子の中心におけるCoのモル濃度との、モル濃度の比であり、C(3)は、a)粒子表面から粒子中の心までの3/4の距離におけるCoモル濃度と、b)粒子の中心におけるCoのモル濃度との比である、正極活物質を提供することができる。一実施形態では、Mnは存在せず、一般式は、Li1+a’((Niz’Cox’1-k’k’1-a’[式中、Aはドーパントであり、-0.02<a’≦0.06、0.10≦x’≦0.35、0.70≦z’≦0.90、x’+z’=1及びk’≦0.01である]である。ある実施形態では、0≦y≦0.67であり、別の実施形態では、y>0及び(z+y/2)>xである。更に別の実施形態では、y>0及びz>y/2である。更なる実施形態では、y>0、z≧0.35及び-0.012≦a≦0.010である。ドーパントAは、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちのいずれか1つ以上である。ドーパントを有することの利点は、構造的及び熱安定性の改善、又はリチウムイオン伝導度の強化のいずれかであり得る。一般式中の酸素は、S、F、又はNによって部分的に置換されることもある。
【0010】
正極活物質は、D50<10μm、好ましくは8μm未満及びより好ましくは2~5μmの粒径分布を有する粉末であり得る。ある実施形態では、Mnが存在する場合、粒子表面におけるCo/Mnのモル比と粒子の中心におけるCo/Mnのモル比との比は、1.4~1.5である。別の実施形態では、コバルト濃度勾配は、粒子の表面から中心まで連続的に変化する。粉末は、複数の平坦な表面及び少なくとも0.8のアスペクト比による形態を有する粒子からなり得る。このような形態は、(準)球形又は楕円形である。電極活物質の表面層はLiCoOを含んでもよく、また、CoがドーパントAによって部分的に置き換えられていることがあってもよい。更に、粉末を構成する粒子には、LiNaSO及びAlのうちのいずれか一方又は両方を含むコーティングが設けられてもよい。
【0011】
第2の態様から見ると、本発明は、上記の粉末正極材料を製造するための方法であって、この粉末正極材料が、Ni及びCoを含み、一般式Li1+a((Ni(Ni1/2Mn1/2Co1-k1-a[式中、Aはドーパントであり、-0.02<a≦0.06、0.10≦x≦0.35、0≦z≦0.90、x+y+z=1及びk≦0.01である]を有し、この方法は、
A、Ni、Co、及び粉末正極材料中に存在する場合Mnを含む、D50<10μmの粒径分布を有する粒子からなる、第1の前駆体を準備する工程と、
第1の前駆体を、LiOH、LiO、LiCO及びLiOH.HOのうちのいずれか1つと混合し、これにより第1の混合物を得て、これにより、第1の混合物におけるLi対遷移金属の比LM1を0.60~<1.00とする工程と、
第1の混合物を700℃~900℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結し、これにより第1の中間生成物を得る工程と、
第1の中間生成物を、LiOH、LiO、LiCO及びLiOH.HOのうちのいずれか1つと混合して、これにより第2の混合物を得て、これにより、第2の混合物におけるLi対遷移金属の比LM2を≧0.90とする工程と、
第2の混合物を、(950-(155.56z))℃~(1050-(155.56z))℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結する工程と、
焼結された第2の混合物を粉砕し、これにより、焼結された第2の混合物粒子を、孤立一次粒子に分離する工程と、
Co系前駆体及び任意選択的にLi系前駆体を準備する工程と、上記前駆体を、焼結及び粉砕された第2の混合物と混合し、これにより、第3の混合物を得て、第3の混合物におけるLi対遷移金属の比LM3を、-0.107z+1.018≦LM3≦-0.107z+1.098とする工程と、
第3の混合物を、700~800℃の温度で、6~36時間にわたって、酸化性雰囲気中で焼結する工程と、
を含む、方法を提供することができる。
【0012】
一実施形態では、y>0、z≧0.35及び-0.012≦a≦0.010であり、LM1は、0.60~0.95であり、LM2≧LM1又は更にLM2>LM1、及びLM3≧LM1であり、第2の焼結温度は895℃~995℃であってもよい。また、この実施形態では、LM3=LM2ということでもよく、これは、Co系前駆体におけるCoモル含有量とLi系前駆体におけるLiモル含有量とが等しいことを意味し、これにより、両方のモル含有量が、第2の混合物における、Liを除く、総金属含有量に対して表される。ここでもまた、2~10モル%のCoを、Co系前駆体に添加してもよい。別の実施形態では、粉砕工程を適用して、第2の焼結からの凝集粉末を、ボールミル装置内で分離粒子に破砕する。
【0013】
更なる実施形態では、上記の方法は、後続の:
無機酸化性化学化合物を準備する工程と、
Li受容体である化学物質を準備する工程と、
焼結された第3の混合物、酸化性化合物及びLi受容体を混合して、これにより第4の混合物を得る工程と、
第4の混合物を、300~800℃の温度で、酸素含有雰囲気中で加熱する工程と、を含む。この実施形態では、無機酸化性化学化合物及びLi受容体化学物質の両方が、同じ化合物であることがあり得、Li、H及びNaのうちのいずれか1つであり、第4の混合物の加熱温度は、350~450℃である。また、ナノサイズのAl粉末を、更なるLi受容体化学物質として準備することがあってもよい。
【0014】
第3の態様から見ると、本発明は、固体リチウムイオンバッテリー、又は液体電解質によるリチウムイオンバッテリーのいずれかにおける、ある電圧、すなわち少なくとも4.35Vまでサイクルさせる、粉末正極材料の使用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】EEX1.1及びEEX1.2の、サイクル数の関数としての放電容量である。
図2】EEX1.1及びEEX1.2の、サイクル前及びサイクル後の断面SEM画像である。
図3】CEX1.1のSEM画像である。
図4】EX1.1のSEM画像である。
図5】EX1.1のXRDパターンである。
図6.1】EX1.1の、Ni、Mn及びCoのEDS線プロファイル(モル%)である。
図6.2】EX1.1の、EDS分析のため選択された位置(D0、D1、D2、D3、及びD4)での断面SEM画像である。
図6.3】EX1.1の選択された位置におけるCo/Mnモル比(モル/モル)のEDSプロファイルである。
図7.1】EX2及びCEX2の、RT及び45℃での3.0~4.2Vの範囲にわたるフルセル試験結果である。
図7.2】EX2及びCEX2の、RT及び45℃での3.0~4.35Vの範囲にわたるフルセル試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、高電圧で動作するSSB及び従来のリチウムイオンバッテリーの両方用の正極材料として使用することができる、特定のモノリシック形態を有する、NMC又はNC(A)粉末(更にN(M)Cと呼ばれる)を提供する。ここで、「モノリシック」は、二次粒子が理想的には1つの一次粒子のみを含有する、形態を指す。語句「モノリシック材料」の他の表現には、単一結晶材料、単結晶材料、及び一体材料がある。一次粒子の好ましい形状は、一次粒子のアスペクト比が概ね1付近である、小石の形状として説明することができる。
【0017】
バッテリー用途における亀裂形成を克服又は改善する1つの方法は、多結晶材料を回避することである。したがって、これらを、単一粒子の形態を有するN(M)C材料によって置き換えることは、興味深いものに見え、これは、より高いエネルギー密度を得ることができるため、並びに、バッテリーを高電圧でサイクルにかける(電気自動車(EV)用途用などのより高い容量を得るため)場合、より顕著な体積変化に関連する劣化機構及び誘発された粒子亀裂がなくなるためである。サイクル前及びサイクル後の正極の断面画像は、高電圧下でのサイクル後に、モノリシックN(M)Cが亀裂しないことを示し、これが優れた機械的強度を有することを示している。このことから、モノリシックN(M)Cは、高電圧及び高温で、多結晶N(M)Cよりもはるかに良好なサイクル安定性を有することが確認される。
【0018】
SSBでは、その、モノリシック形態により、セル組立て及びサイクル中の固体電解質と正極材料との間の良好な接触が保証され、これは、SSBが平坦な領域による準球形を有し、点対点の接触ではなく面対面の接触となるためである。したがって、粒界にわたる歪み及び微小亀裂の形成は、サイクル中に回避される。更に、電解質と固体正極との間の界面で生じる望ましくない副反応に関して、モノリシック粒子が小さい表面を有するので、これらの望ましくない反応を制限することができる。その結果、サイクル安定性が強化され、不可逆容量の減少は防止される。
【0019】
モノリシック粒子は、好ましくは、10μm未満、好ましくは8μm未満、より好ましくは2~5μmのD50の粒径分布を有する。平均粒径が10μmを超える場合、バッテリー性能は悪化し、容量低下及び不可逆性の増大をもたらすことがある。逆に、粒径が小さすぎる(すなわち、<2μm)場合、N(M)C粉末は、最先端のプロセスを使用して調製することが困難である。例えば、粒子の凝集という理由から、粉末を容易にふるいにかけることができない。また、SSBにおける固体電解質との接触を確立することは困難であり、性能が劣ることとなる。
【0020】
モノリシックN(M)Cの典型的な前駆体は、混合遷移金属(N(M)C水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酸化物などである。水酸化物及びオキシ水酸化物は、一般式NiMnCO(OH)[式中、0≦v≦1及びv+w=2である]、又はNiMnCO(OH[式中、0.5<b<1であり、Aはドーパントである]を有する。これらの前駆体は、既にモノリシック形状を有してもよい。しかし、典型的には、これらは多結晶材料である。概して、粉末の合成条件は、最終NMC粉末の形態に影響を及ぼす。多結晶構造を有する前駆体からモノリシック材料を製造することには、焼結温度、焼結時間、及びLi対M(以下、Li/M)[ここで、Mは、Li1+a1-aにおける、Ni、Co、Mn、及びAlをまとめたものである]のモル比などの合成パラメータの最適化を必要とする。モノリシック形態を得ることは、高い焼結温度及び大幅なLi過剰(高Li/M)によって促進される。しかし、Li/Mが高すぎる場合、電気化学的性能が悪くなり、炭酸リチウム及び水酸化リチウムなどの二次相が形成されることがあり、これがバッテリーの膨張をもたらすことがあるので、望ましくない。1.0に近いLi/M比又は1.0をわずかに上回るLi/M比は、層状正極材料における所望の電気化学的性能を得るために好ましいが、最適化されたLi/Mはまた、Mの組成にも依存する。例えば、Li1+a(Ni0.6Mn0.2Co0.21-aの最適化されたLi/Mは、およそ1.00であり、他方、Li1+a(Ni0.47Mn0.38Co0.151-aの最適化されたLi/Mは、およそ1.07である。Li1+a(Ni0.9Co0.11-aの場合、これは、およそ0.98のLi/M比を有する。N(M)Cの電気化学的特性は、Li/Mがこの最適化されたLi/Mよりも高い又は低い場合、悪くなる。
【0021】
N(M)C粉末は、従来の直接焼結プロセスを使用して製造することができ、これは、リチウム源、通常LiCO、又はLiOH-HOと、上記の前駆体との間の固相反応である。最初に、リチウム源と混合遷移金属源とを均質にブレンドし、次いで焼結する。この工程では、LiMOにおけるLi/Mの比は、最終目標組成である。高スループットにつながるN(M)Cの品質を更に改善するため、二重焼結プロセスを行うことができる。最初に、混合遷移金属源をリチウム源とブレンドし、次いで焼結する。この工程では、混合物は、LiMOにおけるLi/Mの、0.60~<1.00の比を有する。次いで、第2の焼結では、Li/Mの比を最終の目標組成に修正するため、リチウム欠乏前駆体をリチウム源と混合する。
【0022】
多結晶材料を調製する場合、(最後の)焼結後に、焼結ケーキを砕き、分級し、ふるいにかけることにより、非凝集NMC粉末を得る。しかし、純粋にモノリシックな材料を得るためには、正極材料の特化した粉砕プロセスが、最終的な二次粒子又は凝集粒子を孤立一次粒子に分離するので、より適合している。水によるボールミル粉砕プロセスは、モノリシックN(M)C粉末のための好ましい粉砕プロセスであり、また、スケール変更可能なプロセスである。粉砕の程度は、主に、ボールの量、ボールのサイズ、容器のサイズ、回転速度(RPM)、及び粉砕時間によって制御することができる。
【0023】
正極材料の表面上のコーティングなどの表面改質は、電極材料と電解質との間の副反応を抑制する既知の方策であり、サイクル中に電気化学的性能の劣化をもたらす恐れがある。表面コーティングはまた、正極材料の構造安定性を強化し、優れたバッテリー性能をもたらすことができる。例えば、金属酸化物(ZrO、SiO、ZnO、Al、TiO、WOなど)などのコーティング材料により、高電圧であっても、又は高温でのサイクルの場合であっても、バッテリー特性が改善される。粗面コーティングは、正極材料をコーティング前駆体と機械的に混合し、続いて混合物の熱処理を行うことによって形成することができる。しかし、これは、コーティング層の局所的形成により、電極材料粒子の表面上に多くの剥き出しの領域をもたらす恐れがある。これらの未コーティング領域により、電解質によって攻撃される弱い部位が残ることとなり、これは副反応につながることがある。あるいは、コアシェル型アプローチは、正極材料粒子の表面上にコーティング材料を連続的に堆積させることによって採り入れることができる。例えば、コアシェル正極材料は、J.Am.Chem.Soc.,2005,127(38),pp13411-13418に記載のとおり、高い容量を有するLi(Ni0.8Co0.1Mn0.1)Oコアと、優れた熱安定性を有するLi(Ni0.5Mn0.5)Oシェルとから構成することができる。こうして、コアシェル正極材料は、優れたサイクル安定性及び熱安定性を示すことができる。
【0024】
モノリシック正極材料は、特定のCo系コーティングを適用することによって更に改善することができ、これを、「Co-(濃度)勾配」コーティングと呼ぶ。シェル又は粒子全体の濃度勾配を提供することにより、実際に正極材料の電気化学的特性を改善するための良好なアプローチが構成される。概して、表面から中心までの濃度勾配による正極材料は、特化した共沈プロセスによって得られる濃度勾配による金属前駆体を使用することによって、得ることができる。米国特許出願公開第2013/0202966(A1)号では、共沈のためのバッチ反応器を使用した、濃度勾配層を有する正極活物質が記載されている。正極材料は、寿命が長期になり、熱安定性が改善されている。表面コーティングされた正極粉末の加熱プロセスは、コーティング源の分解を促進し、勾配を形成することによって濃度勾配を得るための、別の典型的な方法である。
【0025】
全般的なコーティングプロセスは、以下のように進めることができる:
工程1)Co前駆体のモノリシック正極材料上でのコーティングであって、Co前駆体の種類に限定がない、コーティング。例えば、Co前駆体は、CoSO、Co(NO、CoOx、Co(OH)、CoCO及びLiCoOのうちのいずれか1つであってもよい。Coをコーティングするためのプロセスは、湿式又は乾式プロセスのいずれかであってもよい。最終生成物のLi/M化学量論を制御するために、上述のように、LiCO、LiOH・HO、又はLINOのようなものなど、Li源をコーティングプロセス中に添加してもよい。
工程2)CoをLiと反応させ、表面からコアまで拡散させる熱処理であって、少なくとも表面層をCoリッチにする、熱処理。本発明者らは、放電容量、レート能力及びサイクル安定性などのモノリシック正極材料の電気化学的特性について、電極粒子において特定のCo濃度勾配がある場合、特に勾配が連続的である場合、改善することができることを確認した。熱処理のための温度の選択は、それが粒子におけるCoの勾配の程度を決定するので、本発明における重要なパラメータであり、この勾配の程度は、粒子の断面上でのEDS(又はWDS)分析によって分析することができ、ここで分析点ごとのEDS走査時間として少なくとも1分が採用される。Mnが存在する場合、Co/Mn(モル/モル)比を、勾配の程度を定義する基準と見なす。
【0026】
Co勾配コーティングを有するN(M)C材料上に他の表面処理を適用すると、更に有益なことがある。例えば、国際公開第2016/116862号では、N(M)C材料の金属元素と、Al、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr及びVからなる群からのいずれか1つ以上の化合物との均質混合物からなる表面層を提供する表面処理が開示されている。特定の実施形態では、表面層は、コアの元素と、LiFと、ナノメートル結晶質Alとの均質混合物からなり、この処理により、性能が悪くなることなく充電電圧を上昇させ、ひいてはより高いエネルギー密度を得ることが可能になる。国際公開第2015/128722号に記載のとおり、可溶性表面塩基化合物の分解は、バッテリー性能に直接影響するものであり、Naによる表面処理を適用することによって更に強化することができる。例として、Na処理は、AlF(又はLiAlF)、AlPO、Al(OH)、又はAlでの処理と組み合わせることができる。両方のフッ化物、リン酸塩、酸化物及び水酸化物は、リチウム受容体であり、可溶性塩基を分解するのに役立てることができ、同時に酸化物Al又はLiAlOの表面フィルムを作り出すことができる。
【0027】
本発明は、正極材料であって、そのモノリシック形態と電極粒子におけるCoの特定の勾配との相乗効果による優れた電気化学的特性を有し、最終的には他の特化した表面コーティング又は処理によって補完された、正極材料を提供する。
【0028】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
A)SEM及びEDS分析
A1)SEM分析
材料の形態、正極の断面、及び正極材料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)技術によって分析する。測定を、JEOL JSM7100F走査電子顕微鏡装置によって、9.6×10-5Paの高真空環境下、25℃で行う。試料の画像を、(少なくとも)5000倍の倍率で記録し、材料のモノリシック構造を示す。
【0029】
A2)断面調製
正極又は正極材料のいずれかの断面を、JEOL(IB-0920VP))であるイオンビームクロスセクションポリシャ(CP)機器によって調製する。この機器では、ビーム源としてアルゴンガスを使用する。
【0030】
正極を、以下のE1)に記載の手順に従って調製する。電極を、方法E2)に記載のように、サイクル前及びサイクル後に切断する。電極を、アルミニウム箔上に取り付ける。その後、箔を、試料ホルダーに取り付け、機器に入れる。標準的な手順では、電圧を、3.5時間の持続時間のうちのある持続時間で6.5kVに設定する。少量の正極材料粉末を樹脂及び硬化剤と混合し、次いで、混合物をホットプレート上で10分間加熱する。加熱後、これを切断のためイオンビーム機器に入れ、標準的な手順にて設定を調整し、電圧を3時間の持続時間にわたり6.5kVとする。正極材料の断面を、方法A1)により分析する。
【0031】
A3)EDS分析
方法A2)において調製された試料を使用して、正極材料粒子の表面から中心までの濃度勾配を、SEM及びエネルギー分散X線分光法(EDS)により分析する。SEM/EDSを、Oxford instruments製の50mmのX-MaxEDSセンサを有するJEOL JSM7100F SEM装置で行う。正極材料粒子のEDS分析では、断面の定量的元素分析を提供する。断面EDSでは、粒子を球状と想定する。粒子の中心点から表面まで直線を設定し、中心点を「D0」とし、表面点を「D4」とする。「D1」、「D2」、及び「D3」である更なる3つの点を、中心(D0)と表面(D4)との間に設定することによって、5つの点について、走査時間1分でのEDS分析によって調べる(図6.2参照)。
【0032】
B)PSD分析
PSDを測定するには、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散アクセサリを有するMalvern Mastersizer3000を用いる。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を施し、適切な界面活性剤を投入する。D10、D50、及びD90は、累積体積分布%の10%、50%、及び90%における粒径として定義される。
【0033】
C)X線回折測定
正極材料のX線回折を測定するには、Rigaku X-RAY Diffracter(Ultima IV)を用いる。5~90°の回折角(2Θ)の範囲におけるCu-Ka放射線源を用いて、測定を行い、X線回折パターンを収集する。走査速度については、1°/分の連続走査に設定し、走査ごとに0.02°の段階-サイズとする。
【0034】
NiMnCO(OH)[式中、0≦v≦1及びv+w=2である]における値v及びwは、得られたXRDパターンからリートベルト解析技術によって得ることができる。TOPASを、リートベルト解析のためのソフトウェアとして使用する。リートベルト解析により、NiMnCo(OH)の格子a及び格子cなどの格子パラメータが得られ、空間群はP-3m1である。NiMnCo(OH)における値vが0から1まで増加するにつれて、格子aは直線的に減少する。例えば、NiMnCo(OH)(v=0及びw=2の場合)は、3.18Aの格子aを有し、他方、NiMnCoOOH(v=1及びw=1の場合)では、a=2.85Åである。したがって、この場合、以下の式を用いて値vを得ることができる。
v=-3.03×格子a+9.64
【0035】
D)ICP分析
電極活物質のLi、Ni、Mn及びCoの含有量を測定するには、Agillent ICP720-ESを使用することにより、誘導結合プラズマ(ICP)法を用いる。2gの生成物粉末試料を、三角フラスコ内で、10mLの高純度塩酸に溶解する。前駆体を完全に溶解するため、フラスコをガラスでカバーし、ホットプレート上で加熱してもよい。室温まで冷却した後、溶液を100mLのメスフラスコに移し、フラスコを蒸留(DI)水で3~4回すすぐ。
その後、メスフラスコの100mLの標線までDI水を満たし、続いて、完全に均一にする。5mLの溶液を5mLのピペットにより取り出し、2回目の希釈のために50mLのメスフラスコに移して、メスフラスコの50mLの標線まで10%塩酸を満たした後、均一にする。最後に、この50mLの溶液をICP測定に使用する。
【0036】
E)コインセル試験
E1)コインセルの調製
正極の調製に関しては、電気化学的活性材料、コンダクタ(スーパーP、Timcal)、結合剤(KF#9305、Kureha)-重量比90:5:5の配合-を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジナイザーにより調製する。均質にしたスラリーを、ギャップが230μmのドクターブレードコータを使用して、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃にて乾燥させて、次いでカレンダー工具を使用して加圧する。次いで、真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に取り除く。コインセルを、アルゴンを充填させたグローブボックス内で組立てる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1MのLiPFを電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏出を防止する。
【0037】
E2)試験方法1
各セルを、Newareコンピュータ制御定電流サイクルステーションにおいて50℃で、高電圧(4.7V)までサイクルにかける。コインセル試験スケジュールでは、160mA/gの1C電流定義を使用する。表1は、コインセル試験スケジュールを示す。
【0038】
【表1】
【0039】
E3)試験方法2
方法2は、従来の「一定のカットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表2に示したスケジュールに従う。各セルについて、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクルステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルにかける。本コインセル試験手順は、160mA/gの1C電流定義を使用し、以下のように2つのパートで構成される。
パートIは、4.3~3.0のV/Li金属ウィンドウ範囲での0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cにおけるレート性能評価である。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)について定電流モード(CC)で測定する第1のサイクルを除いて、すべての後続サイクルは、0.05Cの終止電流基準による充電中、定電流-定電圧の特徴を示す。第1のサイクルに関する30分間の休止時間及びすべての後続サイクルに関する10分間の休止時間が、各充電と放電との間で許容される。
【0040】
不可逆容量QIrr.は、以下のように%単位で表される。
【0041】
【数1】
【0042】
0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cにおけるレート性能は、以下のように、nC=0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cに対してそれぞれn=2、3、4、5、及び6の、保持放電容量DQn間の比として表される。
【0043】
【数2】
【0044】
例えば、
【0045】
【数3】
【0046】
パートIIは、1Cにおけるサイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧を、4.5のV/Li金属に設定する。4.5のV/Li金属における放電容量を、サイクル7及び34において0.1Cで測定し、またサイクル8及び35において1Cで測定する。1Cにおける容量低下は以下のように計算され、%/100サイクルで表される。
【0047】
【数4】
【0048】
【表2】
【0049】
F)フルセル試験
200mAhのパウチ型セルを、以下のように調製する。正極材料、正極導電剤としてSuper-P(Super-P、Timcal)、グラファイト(KS-6、Timcal)及び正極結合剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF1710、クレハ)を、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に添加し、これにより、正極活物質粉末、正極導電剤(super-P及びグラファイト)、並びに正極結合剤の質量比が92/3/1/4となるようにする。その後、混合物を混練して、正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔から作製された正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は26mmであり、また長さは190mmである。正極活物質の典型的な充填重量は約11±1mg/cmである。次いで電極を乾燥させて、100Kgfの圧力を使用して、3.3±0.5g/cmの電極密度までカレンダー掛けする。また、正極集電体タブとして働くアルミニウム板を、正極の端部にアーク溶接する。市販の負極を用いる。要するに、グラファイトと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)と、スチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、銅箔の両面に適用する。負極集電体タブとして機能するニッケル板を、負極の端部にアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は、10±1mg/cmである。エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:2の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)塩を溶解させることにより、非水性電解質を得る。
【0050】
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極シート、負極シート、及びそれらの間に差し込まれた、厚さ20μmの微多孔質ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320、Celgard)から作製されたセパレータシートを、巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻き取る。次いで、アセンブリ及び電解質を、露点-50℃の風乾室内でアルミニウム積層されたパウチに入れ、これにより、平坦なパウチ型リチウム二次電池を調製する。二次電池の設計容量は、4.20Vまで充電する場合、200mAhである。
【0051】
非水性電解質溶液に、室温で8時間含浸させる。バッテリーをその理論容量の15%まで予備充電し、室温で1日充電する。次いで、バッテリーを脱気し、アルミニウムパウチを密封する。使用するためのバッテリーを、以下のように調製する。バッテリーを、CCモード(定電流)にて0.2C(1C=200mA)vの電流を用いて4.2V又は4.35Vまで充電し、次いでC/20のカットオフ電流に達するまでCVモード(定電圧)にし、その後、CCモードにて0.5Cレートで放電して、3.0Vのカットオフ電圧まで下げる。
【0052】
調製したフルセル型バッテリーを、以下の条件下で25℃又は高温(例えば45℃)にて、充電し、数回放電して、それらの充放電サイクル性能を測定する。
CCモードにて1Cのレートで4.2V又は4.5Vまで充電を行い、次いでC/20に達するまで、CVモードにする。
次いで、セルを、10分間休止に設定する。
CCモードにて1Cレートで、3.0Vに下がるまで放電を行う。
次いで、セルを、10分間休止に設定する。
充放電サイクルを、バッテリーがおよそ80%の保持容量に達するまで続けて行なう。100サイクル毎に、CCモードにて0.2のCレートで、3.0Vに下がるまで放電を一度行う。
【0053】
本発明を、以下の実施例において更に例示する。
【0054】
説明的な実施例1
この実施例は、N(M)C生成物が、高電圧及び高温での充放電サイクル中に大きな体積変化を被ることについて示している。
式Li1+a(Ni0.47Mn0.38Co0.151-a[式中、(1+a)/(1-a)は、比Li/Mを表す]を有する、およそ0.28重量%のBaでドープした、付番EEX1.1のモノリシックN(M)Cを、以下の手順に従って調製する。
1)NMCの前駆体の調製:混合遷移金属水酸化物MO0.71(OH)1.29[式中、M=Ni0.47Mn0.38Co0.15である]を、連続式撹拌タンク反応器(CSTR)を使用する、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩(MSO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、及び水酸化アンモニウム(NHOH)との従来の共沈プロセスによって得る。
2)ブレンド:混合遷移金属水酸化物を、リチウム源としてのLiCO(Rockwood製)及び炭酸バリウム(BaCO)(Reagent Duksan、99.9%)と、1.07の目標Li/M比及び0.2モル%のBa/M比で、管状ミキサにての数時間の乾式ブレンド法により、ブレンドする。
3)焼結:工程2)からの混合物を、チャンバ炉内で、乾燥空気雰囲気下にて1020℃で10時間、焼結する。
4)後処理:凝集形成を回避するため、焼結された生成物を摩砕する。
【0055】
多結晶NMC粉末Li1+a(Ni0.47Mn0.38Co0.151-a[式中、Li/Mは1.07である]を、EEX1.1の同じ手順に従いBaCO添加剤なしで、925℃の焼結温度により調製する。得られた生成物を、付番EEX1.2とする。モノリシックNMC粉末(EEX1.1)は、方法B)によって測定されるとき、6.96μmのD50を有する。
【0056】
正極を、a)モノリシックNMC(EEX1.1)及びb)多結晶NMC(EEX1.2)により、方法E1)に記載のように調製する。新たな電極を、それぞれ、付番EEX1.1-FE及びEEX1.2-FEとする。サイクルにかけた電極を、方法E2)における手順に従って調製し、それぞれ、付番EEX1.1-CE及びEEX1.2-CEとする。これら4つの電極又は電極材料の断面を、方法A2)及びA1)に記載のように分析する。
【0057】
図1は、EEX1.1及びEEX1.2の放電容量(y軸-mAh/g)を、サイクル数(x軸-数)の関数として示し、y軸が放電容量である。試験方法E2)は、高い上方カットオフ電圧(4.7V)、高温(50℃)及び高速充放電速度(0.5Cの充電/1.0Cの放電)であるため、非常に厳しいものである。モノリシックNMC(EEX1.1)は、これらの過酷な条件においてであっても良好なサイクル安定性を有し、他方、多結晶NMC(EEX1.2)には、26回目のサイクルから問題があり、著しい容量低下をもたらすことが確かめられる。
【0058】
図2は、EEX1.1-FE、EEX1.1-CE、EEX1.2-FE及びEEX1.2-CEの断面画像を示す。電極における多結晶NMC(EEX1.2-CE)は、4.7Vでのサイクル後に多数の巨視的及び微視的な亀裂を有し、他方、サイクルにかけたモノリシックNMCには微視的な亀裂がないことが、明らかに確認される。したがって、モノリシックNMCは、多結晶NMCよりもはるかに良好に体積変化に耐えることができ、サイクル安定性の改善をもたらすことが実証される。
【0059】
説明的な実施例2
この実施例は、異なるコーティング元素を有するモノリシックNMCの電気化学的特性を示す。モノリシックNMC粉末EEX1.1を、13mLの5モル%のCo(NO・6HO溶液(Mの量との比較)及び2mLの水と、250mLビーカー内で、180℃にて数時間、攪拌する。その後、調製されたブレンドを、チャンバ炉内で、850℃で5時間、乾燥空気雰囲気下にて加熱する。生成物は、Co勾配コーティングされたモノリシックNMCであり、式Li1+a(Ni0.448Mn0.362Co0.1901-a[式中、Li/Mは1.02である]を有し、付番EEX2.1とする。EEX2.2を、EEX2.1におけるものと同じ方法に従い、その例外としてコーティング源をMn0.5Co0.5(NOとして調製する。EEX2.3もまた、EEX2.1におけるものと同じ方法に従い、その例外としてコーティング源としてMn(NO・6HOを用い調製する。
【0060】
リチウムイオンバッテリー用の正極における、得られた生成物を評価するために、コインセルを方法E1)によって調製し、方法E3)により試験する。EEX1.1、EEX2.1、EEX2.2及びEEX2.3の初期放電容量、不可逆性、レート性能及び容量低下を、表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
Co勾配コーティングされた正極材料(EEX2.1)は、EEX1.1、EEX2.2、及びEEX2.3よりも高い初期放電容量、低い不可逆性、良好なレート性能、及び強化されたサイクル安定性を有する。
【0063】
実施例1及び比較例1
目標式Li1+a(Ni0.625Mn0.175Co0.2001-a[式中、Li/Mは1.01である]を有するモノリシックNMC粉末を、二重焼結プロセスによって得、このプロセスは、例えば国際公開第2018/158078号に例がある(ただし、モノリシックではない)。これは、リチウム源、通常LiCO又はLiOH・HOと、Ni0.625Mn0.175Co0.200.43(OH)1.57(E&D Co.製)である混合遷移金属源との間の固相反応である。混合遷移金属源は、2~4μmの範囲の平均粒径を有し、これが、NMC粉末の調製中にモノリシック形態をもたらす。
【0064】
ここで、プロセスは、以下のように、2つの別個の焼結工程を含む。
1)第1のブレンド:リチウムが欠乏した、焼結された前駆体を得るために、LiOH・HOと混合遷移金属源とを、Henschel Mixer(登録商標)にて30分間、0.90のLi/M比で均質にブレンドする。
2)第1の焼結:第1のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で酸素含有環境下、750℃にて10時間、焼結する。第1の焼結後に焼結ケーキを砕き、第2のブレンド工程の準備ができた状態となるように分級し、ふるいにかける。この工程から得られた生成物は、リチウムが欠乏した、焼結された前駆体であり、LiMOにおけるLi/Mの化学量論比が1未満であることを意味する。
3)第2のブレンド:リチウムが欠乏した、焼結された前駆体を、Liの化学量論(Li/M=1.01)を補正するために、LiOH・HOとブレンドする。ブレンドを、Henschel Mixer(登録商標)にて30分間行う。
4)第2の焼結:第2のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で酸素含有環境下、930℃にて12時間、焼結する。
5)湿式ボールミル粉砕:この処理を適用して、第2の焼結からの凝集したNMC粉末を、水及び10mmのZrOボールを用い、50RPMで15時間、ボールミル装置にて、分離粒子に破砕する。粉砕プロセス後、湿潤したNMC粉末を、オーブン内で、80℃で2日間、周囲空気下にて乾燥させる。
【0065】
上記の工程によって得られたモノリシックNMC粉末を、付番CEX1.1とする。CEX1.1を、コーティング源としての5モル%の粉末Co(NO・6HO及びリチウム源としての5モル%のLiOH・HO(CEX1.1におけるMとの比較)と、管状ミキサ内で数時間、ブレンドする。その後、調製されたブレンドを、チャンバ炉内で酸素含有雰囲気下、750~800℃の範囲内で10時間、加熱する。生成物を、付番EX1.1とする。Co勾配コーティングによるモノリシックNMCを付番EX1.2とし、これを、EX1.1と同じ手順に従って、その例外としてCoコーティング源としての硝酸塩粉末の量を2モル%のCo(NO・6HOとし、リチウム源としてのLiOH・HOの量を2モル%とし、調製する。付番EX1.3の試料を、EX1.1と同じ手順に従って、その例外として硝酸塩粉末の量を10モル%のCo(NO・6HOとし、LiOH・HOの量を10モル%とし、調製する。
【0066】
EX1.1の粒径を、方法B)によって測定し、D50の値を表5に示す。EX1.1~EX1.3の電気化学的性能を、方法E3)によって評価する。EX1.1~EX1.3の初期放電容量、不可逆性、レート性能及び容量低下を、表5に示す。
【0067】
その構造を正極材料として確認するために、CEX1.1を方法A1)により分析する。図3に示すように、CEX1.1は、不規則な形状及び平坦な表面から構成される粒子を有する。加えて、各粒子は、単一の一次粒子(凝集形態なし)である。
【0068】
したがって、本発明では、「モノリシックNMC」とは、単一の粒子を含む、正極材料を指す。
【0069】
モノリシックNMC粉末上でのCo勾配コーティングの後、EX1.1を、方法C)によって調べる。図4(x軸:2Θ、y軸:log強度)に示すように、EX1.1は、およそ19.5°にてLiCoOのわずかな(003)ピークを有し、これは、およそ18.7°におけるNMCの(003)ピークと区別される。Co源及びリチウム源を、Co勾配濃度を得るために使用するので、モノリシック粉末を、電極粒子における表面形態を維持しながら、LiCoOによってコーティングする。図5は、EX1.1が、Co勾配コーティング後であっても、平坦な表面を有するモノリシック形態を有することを示す。モノリシックNMC粒子は、0.8以上のアスペクト比を有し、アスペクト比は、粒子の最小直径と最大直径との比である。このようなNMC粒子は、(準)球状又は楕円形と見なすことができる。
【0070】
EX1.1について表4に示すように、方法D)は、CEX1.1の組成がCo勾配コーティング後に変化していることを示す。Coモル濃度が増加する一方で、Ni及びMnのモル濃度は減少するが、全NMC組成のLi/M比は維持されている。EX1.2及び1.3は、式Li1+a(Ni0.613Mn0.172Co0.2161-a及びLi1+a(Ni0.568Mn0.159Co0.2731-a[式中、Li/Mは1.01である]を有する。
【0071】
【表4】
【0072】
CEX1.2を、EX1.1と同じ方法に従って、その例外としてCo勾配を形成するための加熱温度を500℃として調製する。CEX1.3については、Co勾配を形成するための加熱温度を、900℃とする。CEX1.4を、CEX1.1と同じ方法に従って、その例外として第2の焼結度を950℃として調製する。CEX1.4もまた、Co源及びLi源とブレンドし、次いで、EX1.1と同じ方法に従って焼結する。生成物を、付番EX1.4とする。CEX1.2、CEX1.3及びEX1.4は、式Li1+a(Ni0.595Mn0.167Co0.2381-a[式中、Li/Mは1.01である]を有する。方法B)により分析したEX1.4及びCEX1.4の平均粒径を、表5に示す。EX1.4及びCEX1.1~CEX1.4の電気化学的性能を、方法E3)によって評価する。初期放電容量、不可逆性、レート能力及び容量低下を表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
EX1.1、EX1.2及びEX1.3は、CEX1.1、CEX1.2及びCEX1.3よりも高い放電容量、低い不可逆性、及び良好なレート性能を有する。EX1.1、EX1.2及びEX1.3のこれらの優れた電気化学的性能は、Co濃度勾配から生じると推定される。
【0075】
それらの加熱温度に応じたNMC生成物でのCo濃度勾配の形成を調べるために、EX1.1、EX1.2及びEX1.3を、方法A3)によって分析する。図6.1(x軸:距離、y軸:モル%)に示すように、EX1.1のEDS線走査分析(検出ポイント当たりの走査時間:10秒)が、Mnのモル濃度が一定であることを示すことから、Mn含有量を較正値として設定して、電極粒子におけるCo濃度勾配の程度を測定する。図6.2は、NMC生成物における精度の高い元素分析を得るために、特化したEDS分析のために選択された位置(D0、D1、D2、D3、及びD4)でのEX1.1の断面SEM画像を示す。分析点当たりのEDS走査時間を、1分まで長くし、より信頼性の高いデータを得る。図6.3は、選択された位置(x軸-Dx位置)のEDS分析結果を示し、y軸は、各位置(D1~D4)のCo/Mn比を位置D0におけるCo/Mn比で除算することによって得られた、正規化されたCo/Mnモル比(CM(x))を示す。この正規化されたCo/Mn値を使用して、Co勾配の程度を測定することができる。したがって、D0~D4でのCo/Mnモル比は、それぞれCM(0)~CM(4)として示される。図6.3に示すように、表面部のCo/Mn(モル/モル)比は、電極粒子における中心部のものよりも高い。750℃で調製されたEX1.1は、D4からD0まで定常的に減少するCo濃度勾配を有し、他方、500℃で調製されたCEX1.2は、急激に変化する組成を有する。これは、加熱温度としての500℃が、Coをバルク内に拡散させるのに十分なほどには高くなく、劣った電気化学的特性がもたらされることを示している。900℃で調製されたCEX1.3は、D2からD4までCM(x)/CM(0)について比較的一定した値を有する。これは、900℃が、所望のCo勾配を作り出すには高すぎること、更に、劣った電気化学的特性がもたらされることを示している。
【0076】
連続的なCo濃度勾配によるNMC試料EX1.1は、最良の電気化学的性能を有するので、本発明を説明するため、CM(4)/CM(3)により、所望の濃度勾配の程度を表すことができる。表5に示すように、EX1.1、CEX2.2、及びCEX2.3は、それぞれ1.19、1.42、及び1.01のこのような勾配値を有する。更に、EX1.1、EX1.4、及びCEX1.4は、それぞれ4.83μm、6.39μm、及び6.02μmの平均粒径を有する。EX1.1よりも大きい粒径を有するCEX1.4は、より低い放電容量及びより高い不可逆性を有するが、Co勾配コーティングを適用する場合、EX1.4は、CEX1.4に対して強化された電気化学的性能を示す。Co勾配モノリシック粒子の粒径が大きくなると、CEX1.1に匹敵するDQ1及びQIrr.を有するEX1.4に示されているとおり、利点は、あまり顕著なものではなくなるが、依然としてより良好な3C及びQfad.値を有する。したがって、本発明によれば、10μm未満、好ましくは8μm未満、更により好ましくは2~5μmの平均粒径を有するNMC生成物は、好ましい電気化学的特性をもたらす。
【0077】
実施例2及び比較例2
EX1.1を、1.2重量%の過硫酸ナトリウム(Na)及び0.2重量%の酸化アルミニウム(Al)と、Henschel Mixer(登録商標)にて30分間、ブレンドする。ブレンドを、375℃で5時間、空気下にて加熱する。国際公開第2015/128722号(実施例3)に記載のとおり、最終生成物は、LiNaSO及びAlを含むコーティングを担持しており、これをEX2と呼ぶ。多結晶NMC粉末を、CEX1.1と同じ方法により、その例外として10~12μmの平均粒径を有するNi0.625Mn0.175Co0.200.39(OH)1.61を用い、第1のブレンドのLi/M比を0.8とし、製造する。第1の焼結温度及び第2の焼結温度を、それぞれ885℃及び840℃とする。前駆体粒径及び焼結温度の選択により、多結晶材料を得る。第2の焼結後に、焼結ケーキを砕き、分級し、ふるいにかけることにより、非凝集NMC粉末を得る。この粉末は、1.045のLi/M比を有する。得られた粉末を、1.2重量%の過硫酸ナトリウム(Na)及び0.2重量%の酸化アルミニウム(Al)と、Henschel Mixer(登録商標)にて30分間、ブレンドする。ブレンドを、375℃で5時間、空気雰囲気下にて加熱する。最終生成物を、CEX2と呼ぶ。EX1.1、EX2及びCEX2の電気化学的性能を、方法F)によって評価する。図7.1及び図7.2は、それぞれ4.2V及び4.35Vにおけるフルセルサイクル安定性を示す(x軸:サイクル数#;y軸:相対放電容量(%単位)、すなわち、サイクル#における放電容量を初期放電容量で除算し、100を乗じたもの)。
【0078】
図7.1の左図に示すように、25℃での第1の200サイクル中、多結晶NMCであるCEX2は、EX2よりも良好なサイクル安定性を示す。しかし、およそ1000サイクルの後、濃度勾配を有するモノリシックNMCであるEX1.1の容量低下は、CEX2の場合の低下よりも小さくなる。濃度勾配及びAl/LiNaSOコーティング層を有するモノリシックNMCであるEX2の容量低下もまた、およそ650サイクル後のCEX2の容量低下よりもはるかに小さくなる。バッテリーを45℃で試験すると、EX1.1及びEX2は、CEX2よりも明らかに良好なサイクル安定性を有する。図7.2に示すように、バッテリーを3.0~4.35Vの高電圧動作範囲で試験すと、モノリシックNMC(EX1.1及びEX2)は、25℃での長期サイクル安定性の改善を示す。
重ね合わせたCo濃度及びAl/LiNaSOコーティング層を有するモノリシックNMC(EX2)は、45℃で容量低下が最も小さい。したがって、Co濃度勾配を有し、好ましくは適切なAl/LiNaSOコーティング層を設けたモノリシックNMCは、高電圧で動作するSSB又は非水性バッテリーのための良好な候補である。多結晶材料上の同じAl/LiNaSOコーティング層は、フルセルにおけるサイクル挙動に同じ改善をもたらすことができない。
【0079】
実施例3及び比較例3
EX3.1を、EX1.1におけるものと同じ方法により、その例外として、混合遷移金属源をNi0.6Mn0.2Co0.20.52(OH)1.48とし、最終生成物のLi/M比を、Co勾配コーティング工程におけるLi及びCo前駆体の量を適合させることにより0.995に設定し、調製する。EX3.2及びEX3.3について類推により、Li/Mを、それぞれ1.010及び1.024とする。CEX3.1を、EX3.1と同じ方法により、ただしCo勾配コーティング工程なしで、調製する。CEX3.2では、最終Li/M比を0.960に設定したCo勾配コーティング工程がある。EX3.1~3.3及びCEX3.1~3.2の電気化学的性能を、方法E3)を用いて評価する。初期放電容量、不可逆性、レート能力及び容量低下を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示すように、濃度勾配を有するNMC生成物は、Co勾配コーティングなしで調製するNMC材料よりも良好な電気化学的特性を示す。また、生成物におけるLi/Mを>0.96にすると、及び更にまたLi/Mを少なくとも0.985にすると、NMC材料は、改善された放電容量、不可逆性、及びサイクル安定性を有する。
【0082】
実施例4
式Li1+a(Ni0.9Co0.11-a[式中、Li/Mは0.97である]を有するモノリシックNC粉末を、CEX1.1におけるものと同じ方法により、ただし、3~5μmの平均粒径を有する前駆体Ni0.9Co0.10.15(OH)1.85を使用し、製造する。第1の焼結温度及び第2の焼結温度を、それぞれ700℃及び860℃とする。最終生成物を、付番EX4.1とする。次いで、EX4.1を、Coコーティング源としての5モル%のCo(NO・6HO及びリチウム源としての5.5モル%(EX4.1におにおけるMとの比較)のLiOH・HOと、管状ミキサー内で数時間、ブレンドする。その後、調製されたブレンドを、チャンバ炉内で、約800℃で10時間、酸素含有雰囲気下にて加熱する。生成物を、付番EX4.2とし、これは、式Li1+a(Ni0.857Co0.1431-a[式中、Li/Mは0.97である]を有する。EX4.2のEDS分析は、EX1におけるものと同じ方法であり、これによると、NMC粒子の表面から中心までCo濃度勾配が小さくなっていくことが示される。EX4.2は組成にMnがないことから、正規化されたCoモル比(C(x))を用いて、Co勾配の程度を測定する。これは、各位置(D1~D4)のCoモル%をD0位でのCoモル%で除算することにより、得られる。EX4.2は、1.23の勾配値(C(4)/C(3))を有する。
【0083】
EX4.1~EX4.2の電気化学的性能を、方法E3)によって評価する。EX4.1~EX4.2の初期放電容量、不可逆性、レート性能及び容量低下を、表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
Ex4.2&4.2の初期放電容量は、NC組成におけるNi含有量が多いので、非常に高い。Co濃度勾配を適用すると、EX4.2の放電容量が増加する。したがって、本発明のCo濃度勾配を有するモノリシックNMC及びNCは、改善された電気化学的特性を有することが実証される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6.1】
図6.2】
図6.3】
図7.1】
図7.2】