(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】カルボン酸チオエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 327/22 20060101AFI20220405BHJP
C07C 327/26 20060101ALI20220405BHJP
C07C 327/36 20060101ALI20220405BHJP
C07C 327/24 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C07C327/22
C07C327/26
C07C327/36
C07C327/24
(21)【出願番号】P 2016573621
(86)(22)【出願日】2016-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2016084533
(87)【国際公開番号】W WO2017090581
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2015230365
(32)【優先日】2015-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【復代理人】
【識別番号】100195246
【氏名又は名称】泉 佐和
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃宏
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532641(JP,A)
【文献】特開平05-286894(JP,A)
【文献】特開2000-191590(JP,A)
【文献】特開平07-133252(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098699(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/186787(WO,A1)
【文献】特許第6627653(JP,B2)
【文献】Synthesis,2007年,No.22,pp3489-3496
【文献】Tetrahedron Letters,2010年,Vol.51,pp.5368-5371
【文献】Advanced Synthesis & Catalysis,2003年,Vol.345,pp.943-947
【文献】Synlett,2004年,No.2,pp.263-266
【文献】Synthesis,2002年,No.8,pp.1121-1123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00-409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物とカルボン酸とチオールとを、1種以上の第2族金属化合物を含む触媒の存在下で反応させる、カルボン酸チオエステルの製造方法であって、前記触媒が、さらに1種以上の第1族金属化合物を含み、前記第2族金属化合物中に含まれる金属は、マグネシウムおよびカルシウムから選択され、前記第1族金属化合物中に含まれる金属は、リチウムおよびナトリウムから選択され、前記チオール1モル当たり、前記式(I)で表される化合物0.1~10モル、および前記カルボン酸0.1~10モルを反応させ
、前記チオール1モルに対する前記第2族金属化合物の使用量が、0.005~500モル%であり、前記第1族金属化合物の使用量が、前記第2族金属化合物1モルに対して、0.25~2モルであることを特徴とする、カルボン酸チオエステルの製造方法。
【化1】
[式(I)中、R
1
およびR
2
は、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表し、R
1
とR
2
が結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物が二炭酸ジ-t-ブチルである、請求項
1に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸が(メタ)アクリル酸である、請求項1
または2に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸チオエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸チオエステルは、硫黄含有化合物の合成原料として、医薬および樹脂などの分野において幅広く利用されている。カルボン酸チオエステルの製造方法としては、高反応性のカルボン酸誘導体とチオールとを反応させる方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、水酸化ナトリウム水溶液および酢酸イソプロピルの存在下、メタクリロイルクロリドとチオールとを反応させて、カルボン酸チオエステルを製造する方法が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、4-ジメチルアミノピリジンの存在下、N,N’-ジシクロへキシルカルボジイミドとメタクリル酸とエタンチオールとを反応させて、カルボン酸チオエステルを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Am.Chem.Soc.、2009年、第131巻、p.14604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法は、多量の溶媒を使用するため、経済的に不利であり、非効率である。また、メタクリロイルクロリドを基質として用いるため、合成過程において、等モル量の塩酸塩などが副生する。さらには、それらを除去するために洗浄工程が組み込まれる。結果として、廃棄物が多量に副産されることから、経済的に不利であり、環境への影響の観点からも問題がある。加えて、チオールやメタクリロイルクロリドを、別途調製した5℃の反応溶液にそれぞれ添加する必要があるため、操作が複雑になり、反応効率の観点からも不利である。
【0008】
非特許文献1に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法は、多量の溶媒を使用するため、経済的に不利であり、非効率である。また、N,N’-ジシクロへキシルカルボジイミドを基質として用いるため、合成過程において、等モル量の1,3-ジシクロへキシル尿素などが副生する。さらには、それらを除去するために洗浄工程が組み込まれる。結果として、廃棄物が多量に副産されることから、経済的に不利であり、環境への影響の観点からも問題がある。加えて、N,N’-ジシクロへキシルカルボジイミドは、咳やかぶれなどのアレルギー症状を引き起こすため、人体への負荷が大きいという問題がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、反応操作が簡便であり、かつ環境・人体への負荷が少なく、常温・常圧(25℃、1atm)下であっても、触媒的にカルボン酸チオエステルを高収率で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の触媒の存在下で反応を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]である。
【0011】
[1]下記式(I)で表される化合物とカルボン酸とチオールとを、1種以上の第2族金属化合物を含む触媒の存在下で反応させる、カルボン酸チオエステルの製造方法であって、前記触媒が、さらに1種以上の第1族金属化合物を含み、前記第2族金属化合物中に含まれる金属は、マグネシウムおよびカルシウムから選択され、前記第1族金属化合物中に含まれる金属は、リチウムおよびナトリウムから選択され、前記チオール1モル当たり、前記式(I)で表される化合物0.1~10モル、および前記カルボン酸0.1~10モルを反応させ、前記チオール1モルに対する前記第2族金属化合物の使用量が、0.005~500モル%であり、前記第1族金属化合物の使用量が、前記第2族金属化合物1モルに対して、0.25~2モルであることを特徴とする、カルボン酸チオエステルの製造方法。なお、式(I)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表し、R1とR2が結合して環状構造を形成していてもよい。
【0012】
【0015】
[2]前記式(I)で表される化合物が二炭酸ジ-t-ブチルである、[1]に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法。
【0016】
[3]前記カルボン酸が(メタ)アクリル酸である、[1]または[2]に記載のカルボン酸チオエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法は、溶媒を用いなくても行うことができる。これにより、従来の方法と比べて、より効率的かつ経済的にカルボン酸チオエステルを得ることができる。本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法では、原料を一括で仕込んでカルボン酸チオエステルを製造することができる。これにより、従来の方法と比べて、より効率的かつ簡便にカルボン酸チオエステルを得ることができる。本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法では、危険有害性の低い原料を用いてカルボン酸チオエステルを製造することができる。これにより、従来の方法と比べて、より人体への負荷が少ない方法でカルボン酸チオエステルを得ることができる。本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法は、特定の触媒を用いることにより、常温・常圧(25℃、1atm)下であっても、触媒的にカルボン酸チオエステルを高収率で得ることができる。これにより、従来の方法と比べて、より環境への負荷が少ない方法で、より効率的かつ経済的にカルボン酸チオエステルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例53および54において製造したカルボン酸チオエステルの
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】実施例53および54において製造したカルボン酸チオエステルの
13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書中では、アクリル酸およびメタクリル酸を併せて(メタ)アクリル酸と記載する。また、アクリル酸チオエステルおよびメタクリル酸チオエステルを併せて(メタ)アクリル酸チオエステルと記載する。
【0020】
〔式(I)で表される化合物〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法においては、原料として、下記式(I)で表される化合物が使用される。なお、式(I)で表される化合物は、反応によって、該化合物由来の成分を含む中間体を生成するが、最終的に得られるカルボン酸チオエステルには、該化合物由来の成分は含まれない。
【0021】
【0022】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表す。R1およびR2は、炭化水素基であれば、その種類および構造は限定されない。該炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、あるいは環構造を有してもよい。また、該炭化水素基中に、不飽和結合またはエーテル結合を含んでいてもよい。R1とR2とが結合して、環状構造を形成していてもよい。
【0023】
R1およびR2で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基が挙げられる。式(I)で表される化合物の入手容易性の観点から、これらの炭化水素基の炭素数は1~20であり、2~10であることが好ましく、3~7であることがより好ましい。
【0024】
R1およびR2で表される炭化水素基としては、より詳細には、アリル基、t-ブチル基、t-アミル基、およびベンジル基などを挙げることができる。また、式(I)で表される化合物としては、具体的には、例えば、二炭酸ジアリル、二炭酸ジ-t-ブチル、二炭酸ジ-t-アミル、および二炭酸ジベンジルなどが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸チオエステルを効率よく合成できることから、R1およびR2がt-ブチル基である二炭酸ジ-t-ブチルが好ましい。
【0025】
式(I)で表される化合物としては、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。また、式(I)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法における式(I)で表される化合物の使用量は、チオール1モル当たり、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。式(I)で表される化合物の使用量を、チオール1モル当たり、0.1モル以上とすることにより、カルボン酸チオエステルの収率を高くすることができる。また、式(I)で表される化合物の使用量を、チオール1モル当たり、10モル以下とすることにより、反応後の後処理工程への負荷を軽減することができ、経済性を良くすることができる。
【0027】
〔カルボン酸〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法において、カルボン酸チオエステルの原料となるカルボン酸の種類および構造は限定されない。例えば、カルボン酸は、「R3-COOH」と表すことができ、R3は、置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基であることが好ましい。該炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、あるいは環構造を有してもよい。また、該炭化水素基中に、不飽和結合またはエーテル結合を含んでいてもよい。なお、置換基を有していてもよいとは、任意の置換基を1つ以上有していてもよいという意味であり、例えば、以下の結合、基および原子などを1つ以上有していてもよいという意味である。エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合、ニトロ基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基、ハロゲン原子、ケイ素原子、リン原子など。
【0028】
R3で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基が挙げられる。カルボン酸の入手容易性の観点から、これらの炭化水素基の炭素数は、1~30であることが好ましく、2~20であることがより好ましい。
【0029】
R3で表される炭化水素基としては、より詳細には、ビニル基、イソプロペニル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロへキシル基、フェニル基、2-クロロエチル基、および4-(メトキシカルボニル)ブチル基などを挙げることができる。これらの中でも、R3は、ビニル基およびイソプロペニル基であることが好ましい。また、カルボン酸としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、ピバル酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、3-クロロプロピオン酸、およびアジピン酸モノメチルなどが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0030】
カルボン酸としては、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。また、カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、カルボン酸として、アジピン酸などの多価カルボン酸を用いてもよい。
【0031】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法におけるカルボン酸の使用量は、チオール1モル当たり、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましい。カルボン酸の使用量を、チオール1モル当たり、0.1モル以上とすることにより、カルボン酸チオエステルの収率を高くすることができる。また、カルボン酸の使用量を、チオール1モル当たり、10モル以下とすることにより、反応後の後処理工程への負荷を軽減することができ、経済性を良くすることができる。
【0032】
〔チオール〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法において、カルボン酸チオエステルの原料となるチオールの種類および構造は限定されない。例えば、チオールは、「R4-SH」と表すことができ、R4は、置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基であることが好ましい。該炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、あるいは環構造を有してもよい。また、該炭化水素基中に不飽和結合を含んでいてもよい。なお、置換基を有していてもよいとは、任意の置換基を1つ以上有していてもよいという意味であり、例えば、以下の結合、基および原子などを1つ以上有していてもよいという意味である。エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合、ニトロ基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基、ハロゲン原子、ケイ素原子、リン原子など。
【0033】
R4で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基が挙げられる。チオールの入手容易性の観点から、これらの炭化水素基の炭素数は1~30であることが好ましく、2~20であることがより好ましい。
【0034】
R4で表される炭化水素基としては、より詳細には、n-ブチル基、t-ブチル基、シクロへキシル基、メトキシカルボニルメチル基、フェニル基、ピリジル基、およびベンゾチアゾリル基などを挙げることができる。またチオールとしては、具体的には、例えば、1-ブタンチオール、t-ブチルメルカプタン、シクロヘキサンチオール、チオグリコール酸メチル、ベンゼンチオール、2-メルカプトピリジン、および2-メルカプトベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0035】
チオールは、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。また、チオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、チオールとして、1,4-ブタンジチオールなどの多価チオールを用いてもよい。
【0036】
〔触媒〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法において使用される触媒は、カルボン酸チオエステルを効率よく合成できる点から、1種以上の第2族金属化合物を含み、1種以上の第2族金属化合物であることが好ましい。さらに、触媒として、1種以上の第2族金属化合物と1種以上の第1族金属化合物を併用することがより好ましい。すなわち、触媒は、1種以上の第2族金属化合物と1種以上の第1族金属化合物とを含むことが好ましい。触媒を構成する配位子によって、当該触媒の溶解性が変わるため、当該触媒は、均一系触媒として用いることもでき、不均一系触媒として用いることもできる。
【0037】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法においては、式(I)で表される化合物とカルボン酸とチオールとを、前述の触媒の存在下で反応させる。ここで、「触媒の存在下」とは、触媒が、反応過程の少なくとも一部の段階で存在することを意味するものであり、反応過程のすべての段階で常に存在している必要はない。したがって、本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法においては、触媒が反応系内に加えられれば、「触媒の存在下」という要件は満たされる。例えば、触媒を反応系内に加えた後、反応過程で触媒に何らかの変化が生じたとしても、「触媒の存在下」という要件は満たされる。
【0038】
(第2族金属化合物)
第2族金属化合物中に含まれる金属としては、特に限定されないが、周期表の第2族に属する金属のうち、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムが好ましい。これらの中でも、カルボン酸チオエステルの収率をより高めることができる点から、マグネシウムおよびカルシウムがより好ましい。
【0039】
第2族金属化合物としては、酸化物塩、ハロゲン化物塩(塩化物塩など)、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ケイ酸塩、硫酸塩、硫酸アンモニウム塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸アンモニウム塩、ホウ酸塩、ハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩、亜ハロゲン酸塩、および次亜ハロゲン酸塩などの無機酸との塩;カルボン酸塩(乳酸塩、安息香酸塩など)、過カルボン酸塩、およびスルホン酸塩などの有機酸との塩;アセチルアセトン塩、ヘキサフルオロアセチルアセトン塩、ポルフィリン塩、フタロシアニン塩、およびシクロペンタジエン塩などの錯塩が挙げられる。これらの塩は、水和物および無水物のいずれでもよく、特に限定されない。これらの中でも、カルボン酸チオエステルの収率をより高めることができる点から、酸化物塩、塩化物塩、水酸化物塩、硝酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩(乳酸塩、安息香酸塩など)、およびアセチルアセトン塩が好ましく、酸化物塩、塩化物塩、水酸化物塩、カルボン酸塩、およびアセチルアセトン塩がより好ましい。
【0040】
第2族金属化合物としては、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
第2族金属化合物の使用量は、カルボン酸チオエステルを製造できる限り、特に限定されない。触媒として、第2族金属化合物のみを用いる場合、第2族金属化合物の使用量は、チオール1モルに対して、0.01~1000モル%が好ましく、0.05~500モル%がより好ましい。また、触媒として、第2族金属化合物と、後述する第1族金属化合物を併用する場合、第2族金属化合物の使用量は、チオール1モルに対して、0.001~1000モル%が好ましく、0.005~500モル%がより好ましい。第2族金属化合物の使用量を、チオール1モルに対して、0.001モル%以上とすることにより、カルボン酸チオエステルの収率を高くすることができる。第2族金属化合物の使用量を、チオール1モルに対して、1000モル%以下とするのは、1000モル%超としても効果の飛躍的な向上が考えられにくいためである。なお、第2族金属化合物を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0042】
(第1族金属化合物)
第1族金属化合物中に含まれる金属としては、特に限定されないが、周期表の第1族に属する金属のうち、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムが好ましい。
【0043】
第1族金属化合物としては、水素化塩、酸化物塩、ハロゲン化物塩(塩化物塩など)、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩、亜ハロゲン酸塩、次亜ハロゲン酸塩、およびチオシアン酸塩などの無機酸との塩;アルコキシド塩、カルボン酸塩(酢酸塩など)、およびスルホン酸塩(トリフルオロメタンスルホン酸塩など)などの有機酸との塩;アミド塩、スルホンアミド塩、およびスルホンイミド塩(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩など)などの有機塩基との塩;アセチルアセトン塩、ヘキサフルオロアセチルアセトン塩、ポルフィリン塩、フタロシアニン塩、およびシクロペンタジエン塩などの錯塩が挙げられる。これらの塩は、水和物および無水物のいずれでもよく、特に限定されない。
【0044】
第1族金属化合物としては、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
第1族金属化合物の使用量は、カルボン酸チオエステルを製造できる限り、特に限定されない。第1族金属化合物の使用量は、チオール1モルに対して、0.001~1000モル%が好ましく、0.005~500モル%がより好ましい。第1族金属化合物の使用量を、チオール1モルに対して、0.001モル%以上とすることにより、カルボン酸チオエステルの収率を高くすることができる。第1族金属化合物の使用量を、チオール1モル当たり、1000モル%以下とするのは、1000モル%超としても効果の飛躍的な向上が考えられにくいためである。さらには、第2族金属化合物と第1族金属化合物を併用する場合、第1族金属化合物の使用量は、第2族金属化合物1モルに対して、0.01~50モルが好ましく、0.05~10モルがより好ましく、0.05~7モルがさらに好ましい。第1族金属化合物の使用量を、第2族金属化合物1モルに対して、0.01モル以上とすることにより、カルボン酸チオエステルの収率を高くすることができる。第1族金属化合物の使用量を、第2族金属化合物1モル当たり、50モル以下とするのは、50モル超としても効果の飛躍的な向上が考えられにくいためである。なお、第1族金属化合物を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0046】
〔反応条件〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法における反応条件は、特に限定されず、反応過程で反応条件を適宜変更することもできる。反応に用いる反応容器の形態は、特に限定されない。
【0047】
反応温度は、特に限定されないが、例えば、-20~180℃とすることができ、0~100℃が好ましい。反応温度を-20℃以上とすることにより、反応を効率よく進行させることができる。また、反応温度を180℃以下とすることにより、副生成物の量や反応液の着色を抑制することができる。
【0048】
反応時間は、特に限定されないが、例えば、0.5~72時間とすることができ、2~48時間とすることが好ましい。反応時間を0.5時間以上とすることにより、反応を十分に進行させることができる。また、反応時間を72時間以下とするのは、72時間超としても効果の飛躍的な向上が考えられにくいためである。
【0049】
反応雰囲気および反応圧力も特に限定されない。
【0050】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造は、無溶媒(溶媒を用いない)で行うことができる。反応液の粘度が高い等の場合には、必要に応じて、溶媒を用いることもできる。溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~25の有機化合物を用いることができ、反応条件に応じて適宜選択することができる。炭素数1~25の有機化合物としては、例えば、1,4-ジオキサンなどのエーテルや、トルエンなどの炭化水素や、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。溶媒の使用量も特に限定されず、適宜選択することができる。
【0051】
反応に用いる原料(式(I)で表される化合物、カルボン酸、チオール)や触媒、溶媒などの反応容器内への導入方法については、特に制限されないが、すべての原料等を一括で導入してもよく、一部またはすべて原料等を段階的に導入してもよく、一部またはすべての原料等を連続的に導入してもよい。また、これらの方法を組み合わせた導入方法でもよい。
【0052】
〔カルボン酸チオエステル〕
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法で得られる生成物は、「R3COSR4」と表すことができる。ここで、R3およびR4は、それぞれカルボン酸の説明の欄とチオールの説明の欄において記載した通りである。
【0053】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法で使用されるカルボン酸が(メタ)アクリル酸である場合、(メタ)アクリル酸チオエステルが生成する。(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸チオエステルは重合しやすい化合物であるため、重合を防止するために、予め重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤を添加するタイミングは特に限定されないが、操作のしやすさの観点から、反応開始時に添加することが好ましい。
【0054】
使用する重合禁止剤の種類としては、特に限定されず、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカルなどの公知の重合禁止剤を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合禁止剤を添加する場合、重合禁止剤の使用量は、(メタ)アクリル酸、または(メタ)アクリル酸チオエステル100質量部に対して0.001~0.5質量部とすることが好ましく、0.01~0.1質量部とすることがより好ましい。また、空気などの、酸素を含有するガスの吹き込みを行ってもよい。当該ガスの吹き込み量は、反応条件などに応じて適宜選択することができる。
【0055】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法において、得られたカルボン酸チオエステルは、そのまま次の反応に使用してもよく、また、必要に応じて精製してもよい。精製条件は、特に限定されず、反応過程および反応終了時において、精製条件を適宜変更することができる。例えば、反応終了後、得られた反応混合液から、ろ過、減圧蒸留、クロマトグラフィー、および再結晶などの方法によってカルボン酸チオエステルを精製することができる。これらの精製方法は、単独でまたは組み合わせて行うことができる。
【0056】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法において、得られたカルボン酸チオエステルの保存容器は、特に限定されず、例えば、ガラス製容器、樹脂製容器、金属製の貯蔵タンク、ドラム缶、ローリーなどを用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。なお、実施例1~13、18、19、21、25~27、32~34、51および52は、それぞれ参考例1~13、18、19、21、25~27、32~34、51および52に読み替えるものとする。
【0058】
以下の実施例および比較例において用いた二炭酸ジ-t-ブチルは、東京化成工業株式会社製の純度98質量%の化合物であり、式(I)におけるR1およびR2がt-ブチル基である化合物である。また、生成物の収率の測定方法は、以下の通りである。
【0059】
反応終了後、得られた反応混合液に標準物質(アニソールまたは1,1,2,2-テトラクロロエタン)を加え、重クロロホルム(CDCl3)にこれらを溶解させ、1H-NMR(270MHz)を測定した。得られたスペクトルの積分値から換算して、生成したカルボン酸チオエステルの物質量(モル)を求めた。次いで、下記式(1)より、カルボン酸チオエステルの収率を算出した(ただし、算出した収率が1%未満の場合は0と表記した)。
【0060】
カルボン酸チオエステルの収率(%)=(P1/S1)×100 (1)
P1:生成したカルボン酸チオエステルの物質量(モル)
S1:使用したチオールの物質量(モル)
【0061】
また、触媒として用いた第2族金属化合物および第1族金属化合物の添加量(モル%)は、下記式(2)よりそれぞれ算出した。
【0062】
触媒の添加量(モル%)=(C1またはC2/S1)×100 (2)
C1:使用した第2族金属化合物の物質量(モル)
C2:使用した第1族金属化合物の物質量(モル)
S1:使用したチオールの物質量(モル)
【0063】
また、原料として用いた式(I)で表される化合物およびカルボン酸のモル当量は、下記式(3)よりそれぞれ算出した。
【0064】
原料のモル当量=(S3またはS2/S1) (3)
S3:使用した式(I)で表される化合物の物質量(モル)
S2:使用したカルボン酸の物質量(モル)
S1:使用したチオールの物質量(モル)
【0065】
[実施例1]
容量200mLのナスフラスコ内に、ヘプタン酸12.430g(95.48ミリモル)、二炭酸ジ-t-ブチル21.263g(95.48ミリモル)、1-ブタンチオール8.200g(90.93ミリモル)、および水酸化マグネシウム0.027g(0.45ミリモル、1-ブタンチオール1モルに対して0.5モル%)を順次加え、撹拌下、25℃で反応を行い、チオヘプタン酸S-ブチルを製造した。反応開始から24時間後における反応結果を表1に示す。
【0066】
[実施例2~67、比較例1~6]
表1~7に記載の原料、金属化合物、および溶媒を用いて、同表に記載の使用量、条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、カルボン酸チオエステルを製造した。反応開始から3~48時間後における反応結果を、それぞれ表1~7に示す。
実施例53および54において製造したカルボン酸チオエステルの
1H-NMRスペクトルを
図1、
13C-NMRスペクトルを
図2に示す。
【0067】
実施例64において製造したカルボン酸チオエステルは、下記式(II)および下記式(III)で表される。
【0068】
【0069】
【0070】
下記式(4)より、カルボン酸チオエステル(II)と(III)の収率をそれぞれ算出した。
カルボン酸チオエステルの収率(%)=(P1/S2)×100 (4)
P1:生成したカルボン酸チオエステル(II)または(III)の物質量(モル)
S2:使用したアジピン酸の物質量(モル)
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法によれば、従来の方法と比べて、より環境への負荷が少なく、効率的かつ経済的にカルボン酸チオエステルを得ることができる。また、本発明のカルボン酸チオエステルの製造方法では、人体への負荷が少ない原料を用いることができ、特定の触媒を用いることにより、常温・常圧(25℃・1atm)下であっても、高収率でカルボン酸チオエステルを得ることができる。