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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】光変調器、及び光伝送装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/03 20060101AFI20220405BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G02F1/03 505
H01L21/60 301N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018047964
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019159189
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 稔
(72)【発明者】
【氏名】菅又 徹
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197452(JP,A)
【文献】特開2009-043793(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171122(WO,A1)
【文献】特開2016-025107(JP,A)
【文献】特開平10-256300(JP,A)
【文献】特開2009-044115(JP,A)
【文献】特開平10-261664(JP,A)
【文献】特開2017-058607(JP,A)
【文献】特開2016-194537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0132884(US,A1)
【文献】実開平02-011337(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H01L 21/447-21/449
H01L 21/60 -21/607
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に光導波路と当該光導波路を伝搬する光波を制御する複数の電極とが形成された光変調素子を用いる光変調器であって、
前記電極の前記基板の面に対向する上面に、金属ワイヤをワイヤボンディングする際の圧力印加に起因する応力の発生を緩和する少なくとも一つの応力緩和構造が設けられており
前記応力緩和構造は、前記電極の上面に形成された少なくとも一つの金属バンプを含み、
前記応力緩和構造が設けられる前記電極の幅方向の断面形状は、2以上のアスペクト比を有する略矩形であって、
前記金属バンプは、前記電極の幅方向の中心から、当該電極の幅の1/3以内の領域に形成されている、
光変調器。
【請求項2】
前記金属バンプは曲面部分を有する、請求項に記載の光変調器。
【請求項3】
前記金属バンプは平面視が略円形である、請求項に記載の光変調器。
【請求項4】
前記金属バンプ上に、前記金属ワイヤがボールボンディングにより接続されている、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項5】
前記電極の幅方向に測った前記金属バンプの長さは、前記電極の幅の1/3以下である、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記応力緩和構造は、前記電極を構成する材料と異なる材料、前記電極を構成する材料と同じ材料であって硬度の異なる材料、又は前記金属ワイヤと同じ材料で構成されている、
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光変調器を搭載した光伝送装置。
【請求項8】
前記金属バンプは、ボールボンディングを用いて前記電極の上面に形成される、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の光変調器の、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器、及び光変調器を用いた光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、長距離及び中距離用の光通信システムの光変調器として主流となっているDP-QPSK変調器には、主にLiNbO3基板(以下、LN基板)を用いた光変調素子が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような光変調素子は、LN基板上に形成された光導波路と当該光導波路内を伝搬する光波を制御するための複数の電極とを有する。そして、光変調素子上では、上記電極同士の間や、光変調器筐体に設けられた端子との接続を仲介する中継基板上の導体パターンと上記電極との間との接続に、ワイヤボンディングが用いられる。
【0003】
ワイヤボンディングには、ボールボンディングやウェッジボンディング等の手法が存在するが、いずれの手法も、ボンディング接続時には金属ワイヤと電極との接触点において加熱を行いつつ圧着圧力を加えて、金属ワイヤを電極と接合させる。このため電極のボンディングされる部分は、上記圧着圧力に起因して発生する応力により相応の変形が発生する。特に、LN基板を用いる光変調素子では、一般に、組成変化が起きにくく安定ではあるが硬度的には柔らかい金(Au)が用いられることが多く、他の素材の電極に比べてボンディング時に電極変形が発生し易い場合があり得る。対策として、電極変形が抑制されるように、ボンディング条件を緩和して圧着圧力を低減すること等が考えられるが、この場合には、ボンディング剥離等の他の問題が発生し得る。
【0004】
また、上述のDP-QPSK変調器は、近年、その適応領域を短距離のメトロ(都市用)通信システム用途にも広げつつある。メトロ通信システムにおいては、通信システムの設置スペースについての制約が厳しく、光伝送装置の小型化や光伝送装置に搭載する光変調器の小型化についての要請が特に強い。このため、光変調素子の小型化のため、光変調素子上に形成する電極の狭小化、厚膜化、および電極間隔が狭くなる狭間隔化が進んでいる。
【0005】
これに加え、年々増加する通信容量需要から、中長距離光通信システムに用いられる光変調器の光変調素子においても、更なる広帯域化(高速化)を目的として、光変調素子上の電極の狭小化、厚膜化、狭間隔化が進んでいる。
【0006】
このため、電極断面の幅の減少とその厚さの増加により、電極断面のアスペクト比は1を上回って大きく増加することとなり、上述したボンディング時に加わる圧力(ボンディング圧力)に起因した電極変形は、より発生しやすい状態となる。
【0007】
図11は、ボンディング圧力に起因する電極変形の一例を示す図である。図11には、光導波路1100、1102が形成されたLN基板1110上に設けられたグランド電極1120、1122と、高周波信号電位が与えられる、いわゆるホット電極1130の、断面が示されている。グランド電極1120、1122及びホット電極1130は、上述したように、電極の狭小化及び厚膜化のため、アスペクト比が例えば3~5程度の図示縦長の矩形断面を有している。このため、グランド電極1120と1122とを高周波的に同電位に保つために、それらに金属ワイヤ1140のボンディングが施されると、グランド電極1120、1122は、そのボンディング工程の際に加わるボンディング圧力により変形を発生し得る。図示の例では、グランド電極1120の図示上部がホット電極1130側に傾き、グランド電極1122は高さが減少する方向に潰されて、その一部が幅方向に膨らんでいる。
【0008】
このような変形は、グランド電極1120、1122とホット電極1130との間隔を局所的に変動させ、グランド電極1120、1122とホット電極1130とが構成する高周波伝送路の特性インピーダンスを局所的に変化させ、光変調器としての光変調特性に悪影響を与える。また、上記特性インピーダンスの変化は、上記高周波伝送路と外部回路とのインピーダンス不整合をも発生させ、上記光変調特性を更に悪化させ得る。さらに、場合によっては、例えばグランド電極1120とホット電極1130とが直接接触することによる電極間の短絡や、図11において符号1150で示すような金属ワイヤ1140とホット電極1130との意図しない接触による短絡等の製造不具合を生じさせることとなる。
【0009】
上記のような特性変化や製造不具合は、上述した電極の狭間隔化に伴って上記電極変形についての許容量が小さくなっていくことにより、その発生確率が高まることとなり得る。
【0010】
更に、製造時におけるボンディングは、一般に、自動ボンディング装置により、予め設定された幾つかの位置認識パターンを元に多数のボンディング位置を自動で検出することで行われるが、個別位置認識パターンのずれや機械精度の問題から、実際のボンディング位置には若干のずれが発生し得る。そして、このようなボンディング位置のずれは、電極変形の発生確率を更に高めることとなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-173353号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記背景より、狭小化及び又は厚膜化した光変調素子電極へのワイヤボンディングを、当該電極の変形を回避しつつ適切に行う技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の態様は、基板上に光導波路と当該光導波路を伝搬する光波を制御する複数の電極とが形成された光変調素子を用いる光変調器であって、前記電極の前記基板の面に対向する上面に、金属ワイヤをワイヤボンディングする際の圧力印加に起因する応力の発生を緩和する少なくとも一つの応力緩和構造が設けられており前記応力緩和構造は、前記電極の上面に形成された少なくとも一つの金属バンプを含み、前記応力緩和構造が設けられる前記電極の幅方向の断面形状は、2以上のアスペクト比を有する略矩形であって、前記金属バンプは、前記電極の幅方向の中心から、当該電極の幅の1/3以内の領域に形成されている、光変調器である
本発明の他の態様によると、前記金属バンプは曲面部分を有する。
本発明の他の態様によると、前記金属バンプは平面視が略円形である。
本発明の他の態様によると、前記金属バンプ上に、前記金属ワイヤがボールボンディングにより接続されている。
本発明の他の態様によると、前記電極の幅方向に測った前記金属バンプの長さは、前記電極の幅の1/3以下である。
本発明の他の態様によると、前記応力緩和構造は、前記電極を構成する材料と異なる材料、前記電極を構成する材料と同じ材料であって硬度の異なる材料、又は前記金属ワイヤと同じ材料で構成されている。
本発明の他の態様は、上記いずれかの光変調器を搭載した光伝送装置である。
本発明の他の態様は、前記金属バンプは、ボールボンディングを用いて前記電極の上面に形成される、光変調器の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
図2図1に示す光変調器のA部の、部分詳細を示す斜視図である。
図3】応力緩和構造の第1の変形例の構成を示す図である。
図4】応力緩和構造の第2の変形例の構成を示す図である。
図5】応力緩和構造の第3の変形例の構成を示す図である。
図6】応力緩和構造の第4の変形例の構成を示す図である。
図7】第4の変形例における、金属バンプの望ましいサイズを示す図である。
図8】第4の変形例においてボールボンディングを用いた例を示す図である。
図9】第4の変形例の構成を用いた場合の、電極間の接続の一例を示す図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る光伝送装置の構成を示す図である。
図11】従来の光変調器における電極変形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光変調器の構成を示す平面図である。本光変調器100は、光変調素子102と、光変調素子102を収容する筐体104と、光変調素子102に光を入射するための光ファイバ108と、光変調素子102から出力される光を筐体104の外部へ導く光ファイバ110と、を備える。
【0016】
光変調素子102は、例えば、LN基板上に設けられた4つのマッハツェンダ型光導波路で構成された光回路106と、当該光回路106上に設けられて光導波路内を伝搬する光波を制御して変調を行う複数の電極と、を備えたDP―QPSK光変調器である。光変調素子102から出力される2つの光は、例えばレンズ光学系(不図示)により偏波合成され、光ファイバ110を介して筐体104の外部へ導かれる。なお、光変調素子102の構成については後述において更に説明する。
【0017】
筐体104は、光変調素子102が固定されるケース114aとカバー114bとで構成されている。図1においては、筐体104内部における構成の理解を容易するため、カバー114bの一部のみを図示左方に示しているが、実際には、カバー114bは、箱状のケース114aの全体を覆うように配されて筐体104の内部を気密封止する。
【0018】
ケース114aには、図示左側に、高周波信号入力用の導体である4つのリードピン140、142、144、146が設けられている。これらのリードピンは、それぞれ、中継基板118を介して、光変調素子102の光回路106を構成する4つのマッハツェンダ型光導波路に設けられた4つのホット電極120、122、124、126の一端と接続されている。ホット電極120、122、124、126は、これらのホット電極を光変調素子102の面方向においてそれぞれ挟むように形成されたグランド電極130、132、134、136、138と共に、4つの進行波型の高周波伝送路を構成する進行波型電極である。これら4つの進行波型電極を構成するホット電極120、122、124、126の他端は、それぞれ、これら進行波型電極の特性インピーダンスに等しいインピーダンス(例えば、50Ω)を持つインピーダンス素子である終端器150により終端されている。
【0019】
図2は、図1に示す光変調器100のA部の図示左側の断面を斜め上方(図1紙面に垂直な方向)から見たA部の、部分詳細を示す斜視図である。光変調素子102を構成するLN基板200には、光回路106を構成する4つのマッハツェンダ型光導波路に含まれる8つの並行導波路のうち、図1における図示上側の4本の並行導波路に対応する光導波路202、204、206、208が形成されている。LN基板200の表面には、光導波路202、204、206、208が形成された部分に沿ってホット電極120、122が形成されている。また、LN基板200の表面には、ホット電極120、122をLN基板200の表面方向から挟むように、グランド電極130、132、134が形成されている。ここで、ホット電極120等及びグランド電極130等は、例えば金(Au)を用いて構成される。
【0020】
さらに、グランド電極130と132との間は、これらのグランド電極間の電位が当該グランド電極の長さ方向の各部において高周波的にも同電位となるように、等間隔に又は不等間隔で、複数の金属ワイヤ230、232、234により接続されている。同様に、グランド電極132と134との間は、これらのグランド電極間の電位が当該グランド電極の長さ方向の各部において高周波的にも同電位となるように、等間隔に又は不等間隔で、複数の金属ワイヤ240、242、244により接続されている。ここで、金属ワイヤ230、232、234、240、242、244は、それぞれ対応する電極に対しワイヤボンディングにより接続され固定されている。
【0021】
特に、本実施形態に係る光変調器100では、金属ワイヤ230等のワイヤボンディング時の圧力印加に起因するグランド電極130での応力発生を緩和する応力緩和構造として、グランド電極130の上面(LN基板200に対向する面)のうち、金属ワイヤ230、232、234がワイヤボンディングされる部分に、平面視矩形の凸部250、252、254が設けられている。同様に、グランド電極132における応力緩和構造として、グランド電極132の上面のうち金属ワイヤ230と240、232と242、及び234と244がワイヤボンディングされる部分に、当該ワイヤボンディング時の圧力印加に起因する応力の発生を緩和する応力緩和構造として、平面視矩形の凸部260、262、264が設けられている。また、同様に、グランド電極134における応力緩和構造として、グランド電極134の上面のうち、金属ワイヤ240、242、244がワイヤボンディングされる部分に、当該ワイヤボンディング時の圧力印加に起因する応力の発生を緩和する応力緩和構造として、平面視矩形の凸部270、272、274が設けられている。
【0022】
このような構成とすることにより、金属ワイヤ230等のボンディングの際に対応する電極に印加される圧力(ボンディング圧力)は、凸部250とグランド電極130等のうち凸部250等が選択的に変形することにより吸収され、グランド電極130等(以下、電極本体部分ともいう)への応力の発生が緩和される。このため、光変調器100では、図11に示すような従来技術におけるボンディング圧力に起因した電極本体部分の変形の発生が抑制されるので、当該変形に起因する高周波特性の変動や短絡故障等の製造不具合の発生が抑制される。
【0023】
上記のような電極本体部分の変形の抑制効果は、ホット電極及び又はグランド電極のアスペクト比が2以上の場合に効果的であり、特に3以上で大きな効果を得ることができる。
【0024】
さらに、上述した凸部250等における選択的変形は、グランド電極130等と金属ワイヤ230等との間の隙間を埋めて密着性を高める効果も有しており、凸部250等に対する金属ワイヤ230等の付着力が高まる。
【0025】
なお、凸部250等は、通常のウェハプロセスによって容易に形成することができる。また、本実施形態では、凸部250等は、例えば金(Au)のメッキにより形成されている。ただし、凸部250等は金属ワイヤ230等の密着性を高めつつ、電極本体部分の変形がより抑制されるように、電極本体部分と異なる材料(例えば、電極本体部分より硬度が低くなるようメッキされた銀(Ag))や、Au等の同じ材料であっても、より硬度の低いAu層により形成することが好ましい。このような硬度の低いAu層は、例えばAu層をメッキにより形成する際の、メッキ液の組成を調整することにより実現することができる。なお、金属ワイヤ230等の付着力及び電極本体部分の応力緩和の観点から、凸部250等として最も好ましい材料は、ボンディングに用いる金属ワイヤ230等と同じ材料である。
【0026】
上記の実施形態においては、応力緩和構造は、グランド電極130等の上面に設けられた凸部250等であるが、これには限られない。以下、凸部250に代えて用いることのできる応力緩和構造のいくつかの変形例について説明する。
【0027】
<第1変形例>
図3は、図2に示す凸部250等に代えて用いることのできる応力緩和構造の第1の変形例を示す図である。図3において、電極300は、例えば図2におけるグランド電極130であり、応力緩和構造として、電極300の上面に設けられた凹部310、312を有している。そして、電極300と他の電極とを接続する金属ワイヤ320、322は、凹部310、312の底面にボンディングされる。
【0028】
本変形例では、金属ワイヤ320等がボンディングされる部分が、電極300の上面から基板方向に下がった凹部310等の底面となるので、電極本体部分にかかる応力の観点からは、実効的に高さの低い電極と同様の状態となり、電極本体部分の倒れや潰れ等の変形の発生が抑制される。なお、凹部310等の深さは、電極本体部分の変形回避の観点からは、ボンディングの作業性、及び凹部310等を設けたことによる電極300等の導体損失の低下等が許容される範囲において、できるだけ深いことが望ましい。
【0029】
<第2変形例>
図4は、図2に示す凸部250等に代えて用いることのできる応力緩和構造の第2の変形例を示す図である。図4において、電極400は、例えば図2におけるグランド電極130であり、応力緩和構造として、電極400の上面に設けられた溝部410、412、414を有している。そして、電極400と他の電極とを接続する金属ワイヤ420、422は、電極400の上面のうち溝部410、412、414に挟まれた部分にボンディングされている。
【0030】
本変形例では、ボンディング応力による電極400の変形は、金属ワイヤ420等がボンディングされた部分の近傍に形成されている溝部410等の開口断面が変形するように選択的に発生するので、電極本体部分の外形における変形の発生が抑制される。
【0031】
なお、溝部410等は、必ずしも電極400と基板との接合面まで深く形成されている必要は無く、その途中の深さまで形成されているだけでもよい。また、金属ワイヤ420等のボンディング位置は、ボンディング圧力が溝部410等の変形により緩和されるように、電極400の上面のうちの溝部410等の近傍であればよく、必ずしも溝部410、412、414に挟まれた部分である必要はない。つまりボンディング位置は、溝部410等に応力が効果的に吸収される位置であれば溝部410等と電極400上面の端部との間など様々な位置とすることができる。
【0032】
<第3変形例>
図5は、図2に示す凸部250等に代えて用いることのできる応力緩和構造の第3の変形例を示す図である。図5において、電極500は、例えば図2におけるグランド電極130であり、応力緩和構造として、電極500の上面に、その周囲に溝部510、512が形成された島状構造部520、522を有している。そして、電極500と他の電極とを接続する金属ワイヤ530、532は、島状構造部520、522にボンディングされている。
【0033】
本変形例では、図2に示す凸部250等と同様に、島状構造部520等がボンディング圧力により選択的に変形すると共に、図4に示す第2変形例と同様に、溝部510等が選択的に変形することで、電極本体部分の外形における変形の発生をより抑制することができる。
【0034】
<第4変形例>
図6は、図2に示す凸部250等に代えて用いることのできる応力緩和構造の第4の変形例を示す図である。図6において、電極600は、例えば図2におけるグランド電極130であり、応力緩和構造として、電極600の上面に、金属を用いて形成された突起部である金属バンプ610、612が設けられている。そして、電極600と他の電極とを接続する金属ワイヤ620、622は、金属バンプ610、612にボンディングされている。これにより、ボンディング時のボンディング圧力に起因する応力は、金属バンプ610等の変形により吸収されることとなり、電極600における電極本体部分の変形が抑制される。
【0035】
金属バンプ610等は、例えばボールボンディングを行うワイヤボンダ(ワイヤボンディング装置)のボール形成機能を使って、当該ボール(ボンディングに用いる金属ワイヤにより形成されたボール)を金属バンプとして電極600の上面に形成することができる。
【0036】
金属バンプ610等は、ウェハプロセスでは形成しにくいため図2に示す凸部250等に比べて形成位置精度が若干劣るものの、狭い領域に簡便に形成できる、形成位置を自由に設定又は変更することができる、ボンディング部分を含む電極600全体の高周波特性(例えば、電極600とその近傍のグランド電極(不図示)が構成する高周波伝送路としての高周波特性)を見ながら形成位置を変更又は調整できる、及び又は、ボンディングに用いる金属ワイヤと同一材料で形成することができるため工程が簡略化でき金属ワイヤと金属バンプ610等との十分な付着力を確保できる、などの利点を有している。
【0037】
なお、金属バンプ610等は、電極600の上面の任意の位置に形成することができる。ただし、ワイヤボンダ等により金属バンプ610等を形成する場合には、ウェハプロセスにより作成可能な図2の凸部250等に比べて、その形成位置の精度が劣る。このため、金属バンプ610等のエッジが電極600のエッジに接近しすぎることのないように、金属バンプ610等の、対応する電極の幅方向に沿った長さは、図7に示すように、電極600幅wに対してw/3以下であることが望ましい。
【0038】
図6に示す例では、金属ワイヤ620及び622は、それぞれ、金属バンプ610、612に対してウェッジボンディングにより接続されている。ただし、金属バンプ610等への金属ワイヤのボンディングは、ウェッジボンディングに限られない。
【0039】
図8は、図6に示す電極600上の金属バンプ610、612に、金属ワイヤ720、722がボールボンディングにより接続されている。図8には、金属バンプ610、612へのボンディングに際して金属ワイヤ720、722のそれぞれの先端が熱融解されて金属バンプ610、612上に形成された金属ボール730、732が示されている。
【0040】
ボールボンディングは、金属ワイヤの先端を加熱し熱融解することで当該金属ワイヤの先端に金属ボールを形成し、当該金属ボールを電極等の金属(図8の例では金属バンプ610等)と熱圧着させることで接続を行う。このため、ボールボンディングは、金属ワイヤを電極等の金属に密着させて超音波加熱により接合させるウェッジボンディングに比べてボンディング圧力が小さい。したがって、図8に示す例では、図6の構成に比べ、電極600の電極本体部分における変形が更に抑制される。
【0041】
図9は、応力緩和構造として金属バンプを用いた場合の、電極間の接続の一例を示す図である。図9において、ホット電極910、912は、図2におけるホット電極120、122に相当し、グランド電極920、922、924は、図2におけるグランド電極130、132、134に相当する。
【0042】
グランド電極922及び924には、それぞれ、応力緩和構造として金属バンプ930、932、934と、金属バンプ940、942、944と、が形成されている。そして、グランド電極920と922とを接続する金属ワイヤ950、952、954の一端は、グランド電極920に対しボールボンディングにより接続されており、金属ワイヤ950、952、954の他端は、グランド電極922上に形成された応力緩和構造である金属バンプ930、932、934に対し、それぞれウェッジボンディングにより接続されている。
【0043】
金属ワイヤのボンディングに際してボールボンディングを用いることができるのは、一般に、ワイヤボンダの構造上、ワイヤリールから繰り出された金属ワイヤの先端を電極等にボンディングする場合(いわゆるファーストボンド)に限られる。したがって、図9の例では、金属ワイヤ950、952、954は、グランド電極920に対してボールボンディングにより接続された後、グランド電極922の金属バンプ930、932、934に対してウェッジボンディングにより接続されている。
【0044】
同様に、グランド電極922と924とを接続する金属ワイヤ960、962、964の一端は、それぞれ、グランド電極922上に形成された応力緩和構造である金属バンプ930、932、934に対しボールボンディングにより接続されている。また、金属ワイヤ960、962、964の他端は、グランド電極924上に形成された応力緩和構造である金属バンプ940、942、944に対し、それぞれウェッジボンディングにより接続されている。
【0045】
図9に示す例では、ボールボンディングに比べてボンディング圧力の大きいウェッジボンディングが施されるグランド電極922、924には、それぞれ応力緩和構造である金属バンプ930、932、934及び940、942、944が形成されており、これらの金属バンプに対してウェッジボンディングが行われる。したがって、グランド電極922及び924の電極本体部分の変形の発生が抑制される。
【0046】
なお、金属バンプ930、932、934において、ボールボンディングの際に形成される金属ボール2つ分の面積を確保できる場合には、金属ワイヤ960、962、964と同様に金属ワイヤ950、952、954も、金属バンプ930、932、934に対しボールボンディングしてもよい。この場合には、グランド電極920に接続される金属ワイヤ950、952、954の部分はウェッジボンディングとなるので、グランド電極920上に応力緩和構造である金属バンプを形成しておくことが望ましい。
【0047】
なお、本願の金属バンプ610等はボンディング時の応力緩和/分散させる作用を持たせる応力緩和構造であり、同時にボンディングしたワイヤとの密着性を上げる作用を持つ。他の実施例ではこの応力緩和構造をウェハプロセスで長方形形状に構成する例を挙げている。
【0048】
一方、この金属バンプ610等を略半球体状に形成した場合、ワイヤボンディングにおける変形応力を略半球体に近い構造であるため全ての方向に等価的に分散させ易く、本発明の応力緩和構造として非常に好適な構成となる。
【0049】
更に、この略半球体状の金属バンプ610等の製造方法として、当該金属バンプ610等をボールボンディングで形成し、当該金属バンプに当該ボールボンディングを行えば、金属バンプ610等とボンディングするワイヤが同じ材料となり親和性が高くなるため、ボンディング後の密着性も向上する。
【0050】
尚、ここで言う金属バンプ610等の略半球体状の形状はほぼ半球体である事をだけを意味していない。金属バンプ6110等にボンディングした際、変形応力が等方的に分散する形状であれば良く、例えば、任意の曲面部分を含んだ、球体が変形した形や、平面視が略円形となる形状などであっても良い。
【0051】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る光変調器100、又は光変調器100と同様の構成を有する光変調器であって図3、4、5、6、7、8、9に示す変形例に係る応力緩和構造のいずれかを備える光変調器を搭載した光伝送装置である。
【0052】
図10は、本実施形態に係る光伝送装置の構成を示す図である。本光伝送装置1000は、光変調器1002と、光変調器1002に光を入射する光源1004と、変調信号生成部1006と、変調データ生成部1008と、を有する。
【0053】
光変調器1002は、図1及び図2に示す構成を有する光変調器100、又は光変調器100と同様の構成を有する光変調器であって図3、4、5、6、7、8、9に示す変形例に係る応力緩和構造のいずれかを備える光変調器とすることができる。ただし、以下の説明においては、冗長な記載を避けて理解を容易にするため、光変調器1002として光変調器100が用いられているものとする。
【0054】
変調データ生成部1008は、外部から与えられる送信データを受信して、当該送信データを送信するための変調データ(例えば、送信データを所定のデータフォーマットに変換又は加工したデータ)を生成し、当該生成した変調データを変調信号生成部1006へ出力する。
【0055】
変調信号生成部1006は、光変調器1002に変調動作を行わせるための電気信号を出力する電子回路(ドライブ回路)であり、変調データ生成部1008が出力した変調データに基づき、光変調器1002に当該変調データに従った光変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成して、光変調器1002に入力する。当該変調信号は、光変調器1002である光変調器100が備える光変調素子102の4つのホット電極120、122、124、126に対応する4つの高周波信号から成る。
【0056】
これにより、光源1004から出力された光は、光変調器1002により変調され、変調光となって光伝送装置1000から出力される。
【0057】
以上、説明したように、上述した第1の実施形態に係る光変調器100は、グランド電極130等の上面に、金属ワイヤ230等をワイヤボンディングする際に印加されるボンディング圧力に起因する応力の発生を緩和する応力緩和構造である凸部250等が形成されている。このため、光変調器100では、電極の断面形状のアスペクト比が1より大きい場合であっても、その電極(例えば、グランド電極132)の変形を回避しつつ、当該電極へのワイヤボンディングを適切に行うことができる。その結果、光変調器100では、例えば進行波型電極を構成する各電極の変形を効果的に防止して、ワイヤボンディング工程前後における当該電極の高周波特性の変化を抑制し、及び当該工程において発生し得る短絡故障等の製造不具合を防止することができる。
【0058】
なお、応力緩和構造の例として、凸部250のほか、第1~第4の変形例を示したが、応力緩和構造の構成はこれらには限られない。応力緩和構造は、これらの例が示す構成を組み合わせ又は変形したものとすることができる。例えば、電極に凸部250等と溝部410等とを組み合わせて形成してもよい。また、例えば、溝部410等は、図4に示すようにその開口断面が矩形であるもののほか、任意の形状の開口断面を有するものとすることができる。
【0059】
また、上述の実施形態及び変形例においては、すべて、電極間が金属ワイヤにより接続されるものとしたが、これには限られない。これに代えて、又はこれに加えて、電極間を、例えばリボン形状を有する金属リボンを用いたリボンボンディングにより接続するものとしてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態及び変形例においては、一つの電極に対し凸部や凹部等で構成される応力緩和構造が2つまたは3つ設けられているものとしたが、応力緩和構造の数は、これには限られない。ボンディング圧力に対する電極の変形し易さ又は変形し難さに応じて、当該電極には、少なくとも一つの任意の数の応力緩和構造を設けるものとすることができる。
【0061】
また、上述した実施形態では、一例として、光変調素子102はLN基板200上に4つのホット電極を有するDP-QPSK変調器であるものとしたが、これには限られない。4つ以外の数の複数のRF電極を持つ光変調器、及び又はLN以外の材料を基板として用いる光変調器にも、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100、1002…光変調器、102…光変調素子、104…筐体、106…光回路、108、110…光ファイバ、114a…ケース、114b…カバー、118…中継基板、120、122、124、126、910、912、1130…ホット電極、130、132、134、136、138、920、922、924、1120、1122…グランド電極、140、142、144、146…リードピン、150…終端器、200、1110…LN基板、202、204、206、208、1100、1102…光導波路、230、232、234、240、242、244、320、322、420、422、530、532、620、622、720、722、950、952、954、960、962、964、1140…金属ワイヤ、250、252、254、260、262、264、270、272、274…凸部、300、400、500、600…電極、310、312…凹部、410、412、414、510、512…溝部、520、522…島状構造部、610、612、930、932、934、940、942、944…金属バンプ、730、732…金属ボール、1000…光伝送装置、1004…光源、1006…変調信号生成部、1008…変調データ生成部。
図1
図2
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図5
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図11