(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】電気再生式脱イオン装置の運転制御方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20060101AFI20220405BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220405BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20220405BHJP
B01D 61/08 20060101ALI20220405BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20220405BHJP
C02F 9/06 20060101ALI20220405BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20220405BHJP
B01D 61/54 20060101ALI20220405BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/44 J
B01D61/04
B01D61/08
C02F1/70 Z
C02F9/06
B01D61/48
B01D61/54
B01D61/58
(21)【出願番号】P 2018054654
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 英邦
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073902(JP,A)
【文献】特開昭63-020033(JP,A)
【文献】特開昭54-022955(JP,A)
【文献】特開平02-222774(JP,A)
【文献】特開2011-226043(JP,A)
【文献】特開2012-206008(JP,A)
【文献】特開2001-191086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
1/44
1/70 - 1/78
9/00 - 9/14
B01D 61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気再生式脱イオン装置の給水のORPを測定し、測定されたORP値に基づいて該電気再生式脱イオン装置の運転を制御する方法において、該
給水のORPおよびpHを測定し、ORPおよびpHの測定値から
下記式に基づいてpH7におけるORP補正値を算出し、前記ORP補正値が200~300mVの範囲内となるように、前記電気再生式脱イオン装置の給水に還元剤の薬注制御を行う電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
ORP補正値(mV)=ORP測定値(mV)-59×(7-pH測定値)
【請求項2】
請求項
1において、前記電気再生式脱イオン装置は、逆浸透膜装置の処理水を給水として処理する装置であることを特徴とする電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
【請求項3】
電気再生式脱イオン装置と、該電気再生式脱イオン装置の給水のORPを測定するORP測定手段とpHを測定するpH測定手段と、該ORP測定手段で測定されたORP測定値と該pH測定手段で測定されたpH測定値とから
下記式に基づいてpH7におけるORP補正値を算出する演算手段と
、前記演算手段で算出されたORP補正値に基づいて、前記ORP補正値が200~300mVとなるように、前記電気再生式脱イオン装置の給水に還元剤を添加する薬注手段とを備える水処理装置。
ORP補正値(mV)=ORP測定値(mV)-59×(7-pH測定値)
【請求項4】
請求項
2において、前記電気再生式脱イオン装置の前段に逆浸透膜装置を有し、該逆浸透膜装置の処理水が該電気再生式脱イオン装置の給水として処理されることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気再生式脱イオン装置の給水のORP値を的確に把握し、その値に基づいて電気再生式脱イオン装置の運転を制御する方法と、そのための水処理装置に関する。
【0002】
なお、本発明において、「ORP」とは「酸化還元電位」であり、また、「電気再生式脱イオン装置の給水」とは、電気再生式脱イオン装置に導入されて脱イオン処理される水をさし、通常電気再生式脱イオン装置の入口水が該当する。
【背景技術】
【0003】
井戸水、工業用水、水道水などを原水とする用水処理においては、原水に凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質等を凝結かつ粗大化させ、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離する前処理を行った後、或いは膜濾過単独で除濁・除菌する前処理を行った後、RO膜処理し、RO膜処理水を更に電気再生式脱イオン装置で処理して純水又は超純水を製造することが行われている。
【0004】
このような用水処理においては、前処理で除去しきれなかった有機物を栄養源として、装置配管内又はRO膜面で生菌が増殖し、膜の透過水量の低下を引き起こすことがあるため、RO膜装置に導入されるRO給水には酸化剤を常時又は間欠添加し、膜閉塞を抑制する対策がとられている。
【0005】
通常は、前処理設備においては、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素といった遊離塩素系の酸化力の高い酸化剤で殺菌が行われているが、ポリアミド系のRO膜はこのような酸化力の高い酸化剤の耐性が低いため、RO膜の前段で重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を注入し、遊離塩素を還元除去した後、クロラミンやクロロスフファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤やイソチアゾロン系化合物等の菌増殖を抑制する化合物を含有するスライムコントロール剤を添加してRO膜汚染を抑制することが行われている(特許文献1,2)。
また、この場合において、RO膜における菌増殖を確実に抑制するために、膜劣化に到らない程度の遊離塩素系酸化剤を残留させることも行われている。
【0006】
このようにRO膜装置の前段で酸化剤を添加している場合、RO膜装置での酸化剤の除去率は初期値で99%以上あるため後段の電気再生式脱イオン装置には影響を及ぼさないが、例えば長期運転によりRO膜が劣化した場合やRO膜閉塞時に膜面で濃度分極が発生した場合は、酸化剤の除去率が低下し、後段の電気再生式脱イオン装置へ流入する可能性がある。電気再生式脱イオン装置に酸化剤が流入すると電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂が酸化劣化して破砕され、電気再生式脱イオン装置の脱塩室および濃縮室の差圧が上昇することとなる。
【0007】
従来、バナジウム含有水の電気脱イオン方法として、電気再生式脱イオン装置の濃縮室の差圧上昇を防止して安定運転を行う方法として、電気再生式脱イオン装置の給水に還元剤を添加してORPを300mV以下に調整する方法が提案されている(特許文献3)。
【0008】
しかし、ORPは、pHによって変動するが、特許文献3にはpHについて何ら記載がない。即ち、pHが低下すればORPは上昇する。一般的な用水では電気再生式脱イオン装置前段のRO膜装置の給水のpHが6.0~7.0程度であると電気再生式脱イオン装置の給水となるRO膜処理水のpHは6以下を示すと想定されるため、pHについて何ら考慮していない特許文献3では、pHによってORPが上昇しているのか、RO膜装置から酸化剤がリークしたためにORPが上昇しているのかを判断できない。このため、pHによってORPが上昇している場合は還元剤を余計に使用することとなり経済的ではない。
【0009】
なお、酸化還元反応における酸化剤又は還元剤の添加量の制御方法として、酸化還元反応系のpHを測定し、pHの測定値に基づいてORPの目標値を設定し、この目標ORP値となるように酸化剤又は還元剤を添加制御する方法が提案されている(特許文献4)が、この方法は、対象とする酸化還元反応の種類に応じて、好適pH値が異なるから、反応系のpHを測定し、測定pH値毎に目標とするORP値を設定するというものであり、本発明のようにORP補正値を求めるものとは別異の発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平1-104310号公報
【文献】特開平1-135506号公報
【文献】特開2016-73902号公報
【文献】特開平2-222774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、電気再生式脱イオン装置の給水のORP値を的確に把握し、その結果に基づいて電気再生式脱イオン装置の運転を適正に制御する方法と、そのための水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ね、ORP測定値をpH測定値に基づいて補正することにより、電気再生式脱イオン装置の給水のORPを的確に把握することができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] 電気再生式脱イオン装置の給水のORPを測定し、測定されたORP値に基づいて該電気再生式脱イオン装置の運転を制御する方法において、該水系のORPおよびpHを測定し、ORPおよびpHの測定値から予め設定した補正式に基づいて、ORP測定値を標準状態でのORP値に補正し、該ORP補正値に基づいて、該電気再生式脱イオン装置の運転を制御する電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
【0014】
[2] 1において、ORPおよびpHの測定値から、下記式に基づいてpH7における標準状態でのORP補正値を算出することを特徴とする電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
ORP補正値(mV)=ORP測定値(mV)-59×(7-pH測定値)
【0015】
[3] [1]又は[2]において、前記ORP補正値に基づいて、前記電気再生式脱イオン装置の給水に還元剤の薬注制御を行うことを特徴とする電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
【0016】
[4] [3]において、前記ORP補正値が200~300mVの範囲内となるように前記還元剤の薬注制御を行うことを特徴とする電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
【0017】
[5] [1]ないし[4]のいずれか1項において、前記電気再生式脱イオン装置は、逆浸透膜装置の処理水を給水として処理する装置であることを特徴とする電気再生式脱イオン装置の運転制御方法。
【0018】
[6] 電気再生式脱イオン装置と、該電気再生式脱イオン装置の給水のORPを測定するORP測定手段とpHを測定するpH測定手段と、該ORP測定手段で測定されたORP測定値と該pH測定手段で測定されたpH測定値とから予め設定した補正式に基づいて、ORP測定値を標準状態でのORP値に補正する演算手段とを備える水処理装置。
【0019】
[7] [6]において、前記演算手段は、ORPおよびpH測定値から下記式に基づいてpH7における標準状態でのORP補正値を算出する手段であることを特徴とする水処理装置。
ORP補正値(mV)=ORP測定値(mV)-59×(7-pH測定値)
【0020】
[8] [6]又は[7]において、前記演算手段で算出されたORP補正値に基づいて、前記電気再生式脱イオン装置の給水に還元剤を添加する薬注手段を備えることを特徴とする水処理装置。
【0021】
[9] [8]において、前記薬注手段は、前記ORP補正値が200~300mVとなるように前記給水に還元剤を添加することを特徴とする水処理装置。
【0022】
[10] [6]ないし[9]のいずれか1項において、前記電気再生式脱イオン装置の前段に逆浸透膜装置を有し、該逆浸透膜装置の処理水が該電気再生式脱イオン装置の給水として処理されることを特徴とする水処理装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電気再生式脱イオン装置の給水のORPを的確に把握し、この結果に基づいて電気再生式脱イオン装置の給水への還元剤の薬注制御等、電気再生式脱イオン装置の運転を適正に制御することができる。
【0024】
特に本発明は、前段装置からの酸化剤の流入による電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂の劣化を防止するために、電気再生式脱イオン装置の給水のORP値に基づいて還元剤を添加する場合において、電気再生式脱イオン装置の給水のORP測定値をpH測定値に基づいて補正することで、還元剤の薬注制御を的確に行うことができ、還元剤の必要添加量を抑えた上で、電気再生式脱イオン装置のイオン交換樹脂の劣化による差圧上昇を防止して、長期に亘り安定運転を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明の電気再生式脱イオン装置の運転制御方法は、電気再生式脱イオン装置の給水のORPを測定し、測定されたORP値に基づいて該電気再生式脱イオン装置の運転を制御する方法において、該水系のORPおよびpHを測定し、ORPおよびpHの測定値から予め設定した補正式に基づいて、ORP測定値を標準状態でのORP値に補正し、該ORP補正値に基づいて、該電気再生式脱イオン装置の運転を制御することを特徴とする。
【0028】
即ち、前述の通り、水系のORPは、pHによって大きく変動するため、本発明では、ORP測定値をpH測定値を基に補正する。
このORP測定値の補正方法には特に制限はないが、後掲の実験例1に示されるように、水系のORP測定値は、pHが1増加すると-59mV変動するため、ORP測定値は、pH測定値を基に、以下の式で補正して、pH7の標準状態におけるORP値として算出することが好ましい。
ORP補正値(mV)=ORP測定値(mV)-59×(7-pH測定値)
【0029】
本発明の電気再生式脱イオン装置の運転制御方法は、特に電気再生式脱イオン装置の給水のORP測定値に基づいて電気再生式脱イオン装置の給水への還元剤の添加量を制御する場合において、還元剤の薬注制御を的確に行って、還元剤の添加量不足による電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂の劣化、破砕による電気再生式脱イオン装置の差圧上昇、或いは還元剤の過剰添加による薬剤の無駄、コスト上昇を防止して、長期に亘り安定運転を維持することが可能となる。
【0030】
このような電気再生式脱イオン装置の給水への還元剤の薬注制御においては、本発明により求められたORP補正値が所定の範囲、例えばpH7のORP補正値として200~300mVとなるように、還元剤の薬注制御を行うことが好ましい。
このORP補正値が200mV未満では還元剤量が不足し、電気再生式脱イオン装置の差圧上昇を十分に防止し得ず、一方、ORP補正値が300mVを超えて還元剤を添加すると還元剤量が多過ぎることとなり、経済性が損なわれる。
【0031】
以下に本発明を、用水処理システムにおける電気再生式脱イオン装置の給水への還元剤の薬注制御に適用する場合における好適条件および好適態様について説明する。
【0032】
通常、用水処理では、原水に凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質等を凝結かつ粗大化させ、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離する前処理を行った後、或いは膜濾過単独で除濁・除菌する前処理を行った後、RO膜装置で処理し、RO膜処理水(RO膜装置の透過水)が電気再生式脱イオン装置の給水として処理される。前述の通り、RO膜装置の前段では結合塩素系酸化剤が添加され、その後必要に応じて還元剤を添加して残留する遊離塩素系酸化剤の一部又は全部を還元除去すると共に結合塩素系酸化剤又はスライムコントロール剤を添加した水がRO膜装置に供給される。
【0033】
なお、RO膜装置の前段で還元剤の添加により残留遊離塩素系酸化剤を分解する場合、還元剤の添加箇所は遊離塩素系酸化剤薬注箇所の下流側であって、結合塩素系酸化剤又はスライムコントロール剤の薬注箇所の上流側であれば良く、特に制限はない。ただし、RO膜装置より前段に配置された装置は、遊離塩素系酸化剤を含む状態で通水することでスライムを抑制することが好ましい。このため、RO膜装置の近くで還元剤を添加することが好ましく、RO膜装置の前段に保安フィルターを設ける場合には、保安フィルターとRO膜装置との間に還元剤と結合塩素系酸化剤又はスライムコントロール剤とをこの順番で添加することが好ましい。
【0034】
このようにして得られたRO膜処理水を、更に電気再生式脱イオン装置で処理して純水又は超純水を製造する場合において、RO膜装置からの還元剤のリークによる電気再生式脱イオン装置の差圧上昇を防止するために、電気再生式脱イオン装置の給水のpHとORPを測定するpH測定手段とORP測定手段とを設け、これらの測定手段から出力されるpHとORPの測定値を演算手段に入力してORP補正値を算出し、このORP補正値が所定の範囲内(前述の通り、この所定範囲はpH7のORP補正値として好ましくは200~300mVである。)となるように還元剤の薬注手段に制御信号を出力することで薬注制御が行われる。
なお、本発明で用いる電気再生式脱イオン装置としては特に制限はなく、脱塩室、或いは脱塩室と濃縮室にカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂が充填された一般的な電気再生式脱イオン装置を用いることができる。イオン交換樹脂の代りにイオン交換体が充填されたものであってもよい。
【0035】
<原水>
上記の水処理に供する被処理水(原水)には特に制限はなく、一般的な用水、即ち、水道水、工業用水などが挙げられる。通常、原水の水温は常温(10~30℃)である。
【0036】
<遊離塩素系酸化剤>
原水に添加する遊離塩素系酸化剤としては特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケルなどの他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなどの塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウムなどの塩素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易なので、好適に用いることができる。
【0037】
これらの遊離塩素系酸化剤は、0.3~2.0mg/LasCl2程度の濃度で原水に対して常時添加される。
【0038】
<前処理装置>
RO膜装置の前処理装置としては、一般的な重力濾過器、圧力濾過器等の濾過器や除濁膜装置が用いられる。
除濁膜装置としてはクロスフロー方式のものであっても全量濾過方式のものであってもよい。
【0039】
<結合塩素系酸化剤又はスライムコントロール剤>
結合塩素系酸化剤としては、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなるものが好ましい。
塩素系酸化剤としては、前述の遊離塩素系酸化剤の1種又は2種以上を用いることができ、取り扱い性の面で次亜塩素酸塩を好適に用いることができる。
一方、スルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0040】
【化1】
(ただし、一般式[1]において、R
1およびR
2は、各々独立に、水素又は炭素数1~8の炭化水素である。)
【0041】
このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、R1とR2がともに水素であるスルファミン酸のほかに、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩などを挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛などを挙げることができる。スルファミン酸およびこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。
【0043】
塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との使用割合には特に制限はないが、塩素系酸化剤の有効塩素1モルあたりスルファミン酸化合物を0.5~5.0モルとすることが好ましく、0.5~2.0モルとすることがより好ましい。
【0044】
結合塩素系酸化剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを添加して、pH12以上に調整することが安定性の面で好ましく、pH13以上に調整することがより好ましい。
【0045】
結合塩素系酸化剤は、例えば次のような配合とすることが好ましい。
(A) 有効塩素濃度1~8重量%、好ましくは3~6重量%の塩素系酸化剤と、1.5~9重量%、好ましくは4.5~8重量%のスルファミン酸化合物を含む、pH≧12水溶液
(B) 上記(A)に、更に0.05~3.0重量%のアゾール類、1.5~3.0重量%のアニオン性ポリマー、0.5~4.0重量%のホスホン酸類の1種又は2種以上を含むpH≧12の水溶液
なお、上記(A),(B)において、pHはアルカリ剤の添加により調整される。
【0046】
これらの結合塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0047】
結合塩素系酸化剤は、0.3~1.0mg/LasCl2程度の濃度となるように常時定量添加することが好ましい。
【0048】
なお、本発明においては、上記の結合塩素系酸化剤の代りに、微生物の活動を抑制する薬剤として、例えば、MBT(メチレンビスチオシアネート)、DBNPA(2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド)、DBNE(2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール)、BBAB(ビス-1,4-ブロモアセトキシ-2-ブテン)、MIT(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、ジチオール(4,5-ジクロロ-1,2-ジチオラン-3-オン)、CFIPN(5-クロロ-2,4,6-トリフルオロイソフタロニトリル)、HBDS(ヘキサブロモジメチルスルホン)、TCS(3,3,4,4-テトラクロロテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド)、BNP(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール)、BIT(ベンゾイソチアゾリン-3-オン)、GA(グルタールアルデヒド)などのスライムコントロール剤の1種又は2種以上を添加してもよく、上記の結合塩素系酸化剤とスライムコントロール剤とを併用添加してもよい。
【0049】
上記の結合塩素系酸化剤又はスライムコントロール剤の添加に先立ち、還元剤を添加して遊離塩素系酸化剤を還元除去する場合、還元剤としては、後述の電気再生式脱イオン装置の給水に添加する還元剤と同様のものが用いられる。
【0050】
<RO膜装置>
RO膜装置は、RO膜(NF膜を包含する。)を備えたRO膜エレメントをベッセルに装填したRO膜モジュールによって構成される。本発明で使用されるRO膜は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過する液体分離膜である。RO膜の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。本発明に適用されるRO膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材などを挙げることができる。RO膜モジュールの形式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを適用することができる。
【0051】
本発明におけるRO膜装置の好適運転条件は以下の通りである。
(1) RO濃縮水量:3.6m3/h以上、例えば3.6~7.0m3/h
(2) RO膜仕様:
標準圧力=0.735MPaの超低圧膜
RO膜面積=35~41m2
初期純水フラックス=1.0m/d(25℃、0.735MPa)以上
初期脱塩率=98%以上。
(3) 回収率:通常50~80%(濃縮水のランゲリア指数が0以下、濃縮水のシリカ濃度が溶解度以下となるように設定する。)
【0052】
<pH測定手段・ORP測定手段>
電気再生式脱イオン装置の給水のORP、pHを測定するpH測定手段、ORP測定手段としては特に制限はなく、一般的なpH計、ORP計を用いることができる。
pH計およびORP計はRO給水のpHおよびORPを測定するために、電気再生式脱イオン装置の直前(給水入口部)に設けることが好ましい。
【0053】
<還元剤>
電気再生式脱イオン装置の給水に添加する還元剤としては特に制限はなく、重亜硫酸、チオ硫酸、亜硫酸、チオグリコール酸およびアスコルビン酸などのナトリウム塩や他の金属塩等の1種又は2種以上を用いることができる。また、水素ガスを吹き込んでも良い。還元剤は、電気再生式脱イオン装置の給水のORP補正値に基づいて薬注制御される。
【実施例】
【0054】
以下に実験例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0055】
<実験例1>
純水に硫酸又は水酸化ナトリウムを添加することで、pHの異なる試験水を調製し、各々ORPを測定してpHとORPの関係を調べた。水温は25℃とした。結果を
図1に示す。
図1より、pHが1変動するとORPは-59mV変動することが分かる。
【0056】
<実施例1>
工業用水を濾過器(除濁膜)とRO膜装置で処理した水を給水として電気再生式脱イオン装置に連続通水した。RO処理水のpHは5.5で、水温は25℃、ORPの測定値は450mVであったため、還元剤である重亜硫酸ナトリウムを、電気再生式脱イオン装置の給水のORPが測定値で380mV、下記式における補正値で291mVとなるように添加した。
ORP補正値(mV)=給水のORP測定値(mV)-59×(7-給水のpH測定値)
このときの電気再生式脱イオン装置の差圧の変化(通水開始と通水1年後)を調べ、結果を表1に示した。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、電気再生式脱イオン装置の給水のORP値を補正せず、ORP測定値が300mV(ORP補正値は211mV)となるように還元剤の添加を行ったこと以外は同様に運転を行い、差圧の変化を調べ、結果を表1に示した。
【0058】
<参考例1>
実施例1において、還元剤を添加しなかったこと以外は同様に運転を行い、差圧の変化を調べ、結果を表1に示した。
【0059】
【0060】
表1より明らかなように、還元剤を添加しなかった参考例1では、電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂の劣化、破砕で差圧が上昇した。還元剤を添加した実施例1と比較例1では、共に差圧の上昇を抑制できているが、比較例1では、添加した還元剤量が実施例1よりも多く、薬剤コストが高くついた。
この結果から、本発明によれば、還元剤の必要添加量を抑えて電気再生式脱イオン装置の安定運転を行えることが分かる。