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特許7052495球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子及び球状ケイ素酸化物微粒子並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子及び球状ケイ素酸化物微粒子並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/00 20060101AFI20220405BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20220405BHJP
   C08G 77/12 20060101ALI20220405BHJP
   C08G 77/38 20060101ALI20220405BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220405BHJP
【FI】
C01B33/00
C01B33/18 Z
C08G77/12
C08G77/38
H01M4/48
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2018068683
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178038
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168251
【弁理士】
【氏名又は名称】矢上 礼宣
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩綱
(72)【発明者】
【氏名】木崎 哲朗
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010365(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175812(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104414(WO,A1)
【文献】特開2017-007877(JP,A)
【文献】特開平10-073828(JP,A)
【文献】特開2008-171813(JP,A)
【文献】PARK, E. et al.,ChemSusChem,2016年,Vol.9,pp.2754-2758,<DOI: 10.1002/cssc.201600798>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C08G 77/12
C08G 77/38
H01M 4/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球状の一次粒子から構成され、
レーザー回折/散乱法により取得される体積基準粒度分布において分布累積値が50%となる体積平均粒子径D50が1mm未満であり
下記の一般式(VI)で示されるケイ素化合物が存在する溶液系において、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合をさせると同時に該溶液系の相分離を進行させることにより生成される、水素ポリシルセスキオキサン微粒子
HSi(R) ・・・(VI)
(式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。)
【請求項2】
上記体積平均粒子径D50が80μm以下である、請求項1に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【請求項3】
上記体積平均粒子径D50が100nm~50μmの範囲にある所定の値である、請求項1又は2に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【請求項4】
上記体積平均粒子径D50が500nm~10μmの範囲にある所定の値である、請求項1~3の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【請求項5】
以下の一般式(I)で表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、請求項1~4の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【化1】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~45の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及び置換又は非置換のアリールアルキルからなる群から選択される基であり、炭素数の1~45のアルキルにおいて、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン又は-SiR -で置き換えられてもよく、置換又は非置換のアリールアルキル基中のアルキレンにおいて、任意の水素はハロゲンで置換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン又は-SiR -で置き換えられてもよく、
nは1以上の整数を示す。
【請求項6】
以下の一般式(II)で表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子:
【化2】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~45の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及び置換又は非置換のアリールアルキルからなる群から選択される基であり、炭素数の1~45のアルキルにおいて、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、置換又は非置換のアリールアルキル基中のアルキレンにおいて、任意の水素はハロゲンで置換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、
nは1以上の整数を示す。
【請求項7】
以下の一般式(III)~(V)の何れか1つで表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、請求項1~6の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子:
【化3】
【請求項8】
以下の工程(p)を含む、請求項1~7の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を製造する方法:
(p)以下の一般式(VI)で示されるケイ素化合物が存在する溶液系において、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合をさせると同時に該溶液系の相分離を進行させ、上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させること、
HSi(R) ・・・(VI)
(式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。)。
【請求項9】
一般式(VI)において、Rは、ハロゲン、水素、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシから選択される基である、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシにおいて、任意の水素はハロゲンで置換されていてもよく、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよいものとする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記溶液系が、該溶液系の相分離を促進させる相分離誘発剤を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
上記相分離誘発剤が水素結合性物質である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記相分離誘発剤が水溶性ポリマーである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
上記相分離誘発剤がポリアクリル酸若しくはその塩である、請求項10~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記溶液系が、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質を更に含む、請求項10~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質が極性溶媒である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記極性溶媒が、アルコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記極性溶媒がアルコールである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
工程(p)が、少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液に上記ケイ素化合物を添加することにより行われる、請求項10~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
上記少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液が更に上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を促進する触媒を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程(p)の前に、以下の工程(p’)を更に含む、請求項18又は19に記載の方法:
(p’)上記少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液を調製すること。
【請求項21】
上記ケイ素化合物が、トリハロゲン化シラン、ジハロゲン化シラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、アリールオキシシラン、アリールオキシシラン、及びアリールオキシアルコキシシランからなる選択される化合物である、請求項8~20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
上記ケイ素化合物が、トリハロゲン化シラン又はトリアルコキシシランである、請求項8~21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
更に以下の工程(q)を含む、請求項8~22の何れか1項に記載の方法。
(q)工程(p)において生成した上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を所定の溶媒で洗浄し及び/又は乾燥させること。
【請求項24】
以下の工程(r)を含む、ケイ素酸化物微粒子の製造方法:
(r)請求項1~の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を非酸化性ガス雰囲気下で熱処理することによりケイ素酸化物微粒子を製造すること、ここで、該ケイ素酸化物微粒子は、略球状の一次粒子から構成され、かつ体平均粒子径D50が1mm未満であり、
上記体積平均粒子径D50は、レーザー回折/散乱法により取得される体積基準粒度分布において分布累積値が50%となる体積平均粒子径であるものとする。
【請求項25】
上記ケイ素酸化物微粒子が、一般式SiOxHy(1<x<1.8、0.01<y<0.4)で表される元素組成を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
上記非酸化性ガス雰囲気が不活性ガスである、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
工程(r)において上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子が600℃~900℃の範囲にある所定の温度で熱処理される、請求項24~26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
工程(r)の前に、以下の工程(p)を更に含む、請求項24~27の何れか1項に記載の方法:
(p)以下の一般式(VI)で示されるケイ素化合物を含む溶液系において、上記ケイ素化合物を加水分解及び重縮合させると共に該溶液系の相分離を進行させ上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させること、
HSi(R) ・・・(VI)
(式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。)。
【請求項29】
請求項1~7の何れか1項に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を非酸化性ガス雰囲気下で熱処理することにより製造され、かつ以下の条件(x)、(y)及び(z)を満たすケイ素酸化物微粒子:
(x)レーザー回折/散乱法により取得される体積基準粒度分布において分布累積値が50%となる体積平均粒子径D50がナノメートル又はマイクロメートルの範囲にあること;
(y)略球状の一次粒子から構成されること;並びに
(z)一般式SiOxHy(1<x<1.8、0.01<y<0.4)で表される元素組成を有すること。
【請求項30】
上記体積平均粒子径D50が80μm以下である、請求項29に記載のケイ素酸化物微粒子。
【請求項31】
上記体積平均粒子径D50が100nm~50μmの範囲にある所定の値である、請求項29又は30に記載のケイ素酸化物微粒子。
【請求項32】
上記体積平均粒子径D50が500nm~10μmの範囲にある所定の値である、請求項29~31の何れか1項に記載のケイ素酸化物微粒子。
【請求項33】
請求項29~32の何れか1項に記載のケイ素酸化物微粒子を含む、二次電池用負極活物質。
【請求項34】
請求項33に記載の二次電池用負極活物質を含む、二次電池用負極。
【請求項35】
請求項34に記載の二次電池用負極を備える、二次電池。
【請求項36】
リチウムイオン二次電池である、請求項35に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子及び球状ケイ素酸化物微粒子並びにこれらの製造方法に関する。更には、本発明は、上記球状ケイ素酸化物微粒子を用いた二次電池用負極活物質及び二次電池用負極並びに二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシルセスキオキサン等の各種ケイ素含有ポリマー並びに各種ケイ素酸化物及びケイ素酸化物構造体は、合成条件や製造条件等を適宜調整することにより分子レベルないしナノメートルスケール又はマイクロメートルスケールでの構造等を制御できると共に、様々な機能性を実現できることから、電子機器分野、光学機器分野、電池を含む蓄電技術分野など様々な分野において材料用途で応用がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、赤外分光スペクトルにおいて所定のピーク強度の比を有するケイ素酸化物を含むリチウムイオン二次電池用負極活物質が記載されている。このケイ素酸化物は、水素ポリシルセスキオキサン重合物を所定の条件で熱処理して得られるものであり、二次電池用負極活物質として利用した場合、二次電池において優れた充放電容量と容量維持率を発揮できることが示されている。
【0004】
更に、特許文献2には、X線光電子スペクトルにおいて所定の結合エネルギーや所定のシリコンピーク等を示す非晶質シリコン酸化物が記載されており、これを含む負極活物質並びにその製造方法が開示されている。この非晶質シリコン酸化物は、SiO(0<x<2)で表示されるものであるが、具体的には、シラン化合物を酸触媒下でゾル/ゲル反応させることにより取得した水素ポリシルセスキオキサンの焼成物である。特許文献2には、このような負極活物質を用いることで優れた充放電特性が発揮されることが示唆されている。
【0005】
更に、特許文献3には、フーリエ変換赤外分光装置によって測定したスペクトルにおいて所定の波数範囲にあるシラノール基に由来するピークA1の強度と所定の波数範囲にあるシロキサン結合に由来するピークA2の強度との比の値A1/A2が0.1以下となり、一般式SiO(0<X<2)で表されるリチウムイオン二次電池用負極活物質が開示されている。このリチウムイオン二次電池用負極活物質は、具体的には、以下の通り製造されるものである。まず、Si粉末とSiO粉末とを配合し、混合、造粒及び乾燥することにより混合造粒を取得する。次いで、該混合造粒を原料として用い、所定の装置により析出基板上にSiO(0<X<2)を析出させ、該析出させたSiOを粉砕してその粉末を得る。該粉末を所定の雰囲気下で加熱保持及び減圧処理を施し最終プロダクトとする。なお、特許文献3において、上記ピークA1の強度とピークA2の強度との比A1/A2が0.1以下となるSiO(0<X<2)粉末を採用する理由は、Si-H結合はシラノール基を生成し初期効率の悪化を招くことから、フーリエ変換赤外分光スペクトルにおいてシラノール基由来のピーク強度が比較的小さい物質を採用することにあると言える。
【0006】
更に、特許文献4には、環境に優しいとされる、ポリシルセスキオキサンのマイクロスフィアの調製方法が開示されている。この方法は、RSi(ORで表される3官能性シラン化合物を所定のpH範囲の酸性溶液で加水分解させ、pHをアルカリ側に調整して重縮合させる工程等を含むものと思料される。なお、特許文献4の開示によれば、形式的にはRが水素であるシラン化合物も包含されているものと思料される。すなわち、Rが水素である場合、該シラン化合物を原料として合成されるポリシルセスキオキサンは論理的には水素ポリシルセスキオキサンとなるが、実際にはRが水素であるシラン化合物を用いて水素ポリシルセスキオキサンを合成した例は記載されていないものと思料する。
【0007】
さらに、特許文献5には、トリメトキシシラン等のケイ素化合物の加水分解及び重縮合により水素ポリシルセスキオキサンを合成する際に、ポリエチレンオキシドやポリビニルピロリドン等の相分離誘起剤やケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する材料としてアルコール等を添加することにより、メソ孔及びマクロ孔の階層的な多孔構造を有するマクロ多孔性モノリスなる構造体を製造したことが記載されている。特許文献5の開示によれば、該マクロ多孔性モノリスは、ヒドリドシリカにより構成された骨格により連続性を持って構成されるマクロ孔と、上記骨格の表面に形成されたメソ孔とで構成されていることを要し、具体的には、SEM写真を見るとシリカ骨格がネットワーク状に形成された多孔質体であると考えられる。なお、特許文献5では、マクロ多孔性モノリスの用途として、クロマトグラフィー用分離カラム、酵素担体、触媒担体等を挙げている。
【0008】
更に、非特許文献1には、ベシクル状シルセスキオキサンを介してメソ多孔質シリカ/亜酸化物マトリクスに分散されたナノ結晶質シリコンを合成したこと、並びにその電気化学的応用の可能性について調べたことが記載されている。非特許文献1においては、プルロニック(登録商標)P-123(PEO/PPO/PEOトリブロックコポリマー)の存在下でトリエトキシシランを室温で加水分解することにより、水素シルセスキオキサンゲルの薄い隔壁でできたナノスケールのベシクルを形成し、このベシクルを焼成して上記マトリックス構造体を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/010365号パンフレット
【文献】特開2008-171813号公報
【文献】特開2011-108635号公報
【文献】中国特許出願公開第CN1080440号明細書
【文献】特開2014-148456号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】New Journal of Chemistry(2015),39(1)、p621-630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、これまで特許文献1に開示される水素ポリシルセスキオキサンを含む各種ポリシルセスキオキサン、並びにそれら各種ポリシルセスキオキサンを熱処理することにより得られるケイ素酸化物を二次電池用負極活物質用途に開発してきた。このような各種ポリシルセスキオキサン材料を開発してきた中で、側鎖に有機官能基を有する3官能性オルガノシラン化合物を原料として得られるポリシルセスキオキサンについては、常法の加水分解及び重縮合反応を介して球状のポリシルセスキオキサンを容易に得られるのに対し、側鎖に水素原子を有する3官能性シラン化合物を原料として得られる水素ポリシルセスキオキサンについては、不定形の微粒子が凝集した形態のものしか得られず、常法では球状の水素ポリシルセスキオキサンを取得することが困難であることを見出した。
【0012】
即ち、本発明の課題は、略球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子及び略球状ケイ素酸化物微粒子並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【0013】
なお、上述の先行技術文献の何れにおいても、球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を合成した例は開示されておらず、球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を合成し得るような具体的な方法及び手段は何ら示唆されていない。
【0014】
特に、特許文献4については、ポリシルセスキオキサンのマイクロスフィアの調製方法が開示されている。上述のとおり原料となるRSi(ORで表されるシラン化合物においてRが水素である場合も形式的には包含され、仮に該シラン化合物を原料とすれば水素ポリシルセスキオキサンが得られることにはなるが、実際にはRが水素であるシラン化合物を用いて水素ポリシルセスキオキサンを合成した例は記載されていないものと思料する。特許文献4の実施例では、シラン化合物としてメチルトリメトキシシラン、テメラメトキシシラン(オルトケイ酸テトラメチル)をそれぞれ用いた例しか記載されておらず、その合成方法もごく一般的な加水分解及び重縮合反応に基づくものと考える。特許文献4には、球状の水素ポリシルセスキオキサンを取得できるような具体的な解決手段は記載されておらず、本発明で採用するような溶液系の相分離は何ら示唆されていない。
【0015】
更に、特許文献5では、ポリエチレンオキシドやポリビニルピロリドン等の相分離誘起剤やケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する材料としてアルコール等を添加する構成が採用されているが、製造される構造体はシリカ骨格によるネットワーク構造を有するマクロ多孔性モノリスなる構造体であり、そもそも本発明のような球状水素ポリシルセスキオキサンの合成を目的としていない。
【0016】
更に加えて、非特許文献1では、プルロニック(登録商標)P-123(PEO/PPO/PEOトリブロックコポリマー)の存在下でトリエトキシシランを室温で加水分解し、水素シルセスキオキサンゲルの構造体を合成しているが、該構造体は、ベシクル(小胞状構造体)であり、本発明のような球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子の形態ではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の幾つかの態様によれば以下が提供される。
[1]粒度分布における体積基準累積50%粒子径D50が1mm未満でありかつ略球状である、水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【0018】
[2]上記体積基準累積50%粒子径D50が80μm以下である、[1]に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
[3]上記体積基準累積50%粒子径D50が100nm~50μmの範囲にある所定の値である、[1]又は[2]に記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
[4]上記体積基準累積50%粒子径D50が500nm~10μmの範囲にある所定の値である、[1]~[3]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【0019】
[5]以下の一般式(I)で表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、[1]~[4]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子。
【化1】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~45の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及び置換又は非置換のアリールアルキルからなる群から選択される基であり、炭素数の1~45のアルキルにおいて、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、置換又は非置換のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、任意の水素はハロゲンで置換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、
nは1以上の整数を示す。
【0020】
[6]以下の一般式(II)で表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、[1]~[5]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子:
【化2】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~45の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及び置換又は非置換のアリールアルキルからなる群から選択される基であり、炭素数の1~45のアルキルにおいて、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、置換又は非置換のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、任意の水素はハロゲンで置換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、
nは1以上の整数を示す。
【0021】
[7]以下の一般式(III)~(V)の何れか1つで表される水素ポリシルセスキオキサンを含む、[1]~[6]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子:
【化3】
【0022】
[8]以下の工程(p)を含む、[1]~[7]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を製造する方法:
(p)以下の一般式(VI)で示されるケイ素化合物が存在する溶液系において、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合をさせると同時に該溶液系の相分離を進行させ、上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させること、
HSi(R) ・・・(VI)
(式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。)。
【0023】
[9]一般式(VI)において、Rは、ハロゲン、水素、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシから選択される基である、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシにおいて、任意の水素はハロゲンで置換されていてもよく、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよいものとする、[8]に記載の方法。
【0024】
[10]上記溶液系が、該溶液系の相分離を促進させる相分離誘発剤を含む、[8]又は[9]に記載の方法。
[11]上記相分離誘発剤が水素結合性物質である、[10]に記載の方法。
[12]上記相分離誘発剤が水溶性ポリマーである、[10]又は[11]に記載の方法。
[13]上記相分離誘発剤がポリアクリル酸若しくはその塩である、[10]~[12]の何れか1つに記載の方法。
【0025】
[14]上記溶液系が、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質を更に含む、[10]~[13]の何れか1つに記載の方法。
[15]上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質が極性溶媒である、[14]に記載の方法。
[16]上記極性溶媒が、アルコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1つである、[15]に記載の方法。
[17]上記極性溶媒がアルコールである、[15]に記載の方法。
【0026】
[18]工程(p)が、少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液に上記ケイ素化合物を添加することにより行われる、[10]~[17]の何れか1つに記載の方法。
[19]上記少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液が更に上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を促進する触媒を含む、[18]に記載の方法。
【0027】
[20]工程(p)の前に、以下の工程(p’)を更に含む、[18]又は[19]に記載の方法:
(p’)上記少なくとも相分離誘発剤と水とを予め含有せしめた溶液を調製すること。
[21]上記ケイ素化合物が、トリハロゲン化シラン、ジハロゲン化シラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、アリールオキシシラン、アリールオキシシラン、及びアリールオキシアルコキシシランからなる選択される化合物である、[8]~[20]の何れか1つに記載の方法。
【0028】
[22]上記ケイ素化合物が、トリハロゲン化シラン又はトリアルコキシシランである、[8]~[21]の何れか1つに記載の方法。
[23]更に以下の工程(q)を含む、[8]~[22]の何れか1つに記載の方法。
(q)工程(p)において生成した上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を所定の溶媒で洗浄し及び/又は乾燥させること。
【0029】
[24]以下の工程(r)を含む、ケイ素酸化物微粒子の製造方法:
(r)[1]~[8]の何れか1つに記載の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を非酸化性ガス雰囲気下で熱処理することによりケイ素酸化物微粒子を製造すること、ここで、該ケイ素化合物微粒子は、粒度分布における体積基準累積50%粒子径D50が1mm未満でありかつ略球状であるものとする。
[25]上記ケイ素酸化物微粒子が、一般式SiOxHy(1<x<1.8、0.01<y<0.4)で表される元素組成を有する、[24]に記載の方法。
[26]上記非酸化性ガス雰囲気が不活性ガスである、[24]又は[25]に記載の方法。
【0030】
[27]工程(r)において上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子が600℃~900℃の範囲にある所定の温度で熱処理される、[24]~[26]の何れか1つに記載の方法。
[28]工程(r)の前に、以下の工程(p)を更に含む、[24]~[27]の何れか1つに記載の方法:
(p)以下の一般式(VI)で示されるケイ素化合物を含む溶液系において、上記ケイ素化合物を加水分解及び重縮合させると共に該溶液系の相分離を進行させ上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させること、
HSi(R) ・・・(VI)
(式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。)。
【0031】
[29]以下の条件(x)、(y)及び(z)を満たすケイ素酸化物微粒子:
(x)粒度分布における50%累積質量粒子径分布直径 D50がナノメートル又はマイクロメートルの範囲にあること;
(y)略球状であること;並びに
(z)一般式SiOxHy(1<x<1.8、0.01<y<0.4)で表される元素組成を有すること。
【0032】
[30]上記50%累積質量粒子径分布直径 D50が80μm以下である、[29]に記載のケイ素酸化物微粒子。
[31]上記50%累積質量粒子径分布直径 D50が100nm~50μmの範囲にある所定の値である、[29]又は[30]に記載の水ケイ素酸化物微粒子。
[32]上記50%累積質量粒子径分布直径 D50が500nm~10μmの範囲にある所定の値である、[29]~[31]の何れか1つに記載のケイ素酸化物微粒子。
【0033】
[33][29]~[32]の何れか1つに記載のケイ素酸化物微粒子を含む、二次電池用負極活物質。
[34][33]に記載の二次電池用負極活物質を含む、二次電池用負極。
[35][34]に記載の二次電池用負極を備える、二次電池。
[36]リチウムイオン二次電池である、[35]に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、略球状の水素ポリシルセスキオキサン微粒子並びに略球状のケイ素酸化物微粒子を提供することが可能である。加えて、本発明によれば、より小さい範囲に粒径を制御することができる。更に加えて、本発明によれば、二次電池において高い電極密度を確保することが可能であり、その結果、高容量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1において取得した水素ポリシルセスキオキサン及びケイ素酸化物のSEM写真を示す図である。
図2】実施例2において取得した水素ポリシルセスキオキサンのSEM写真を示す図である。
図3】比較例1において取得した水素ポリシルセスキオキサンのSEM写真を示す図である。
図4】比較例2において取得した水素ポリシルセスキオキサン及びケイ素酸化物の写真、並びにケイ素酸化物のSEM写真を示す図である。
図5】実施例1及び比較例1においてそれぞれ取得したケイ素酸化物について粒度分布を測定した結果を示す図である。
図6】実施例1及び比較例1においてそれぞれ作製したリチウムイオン二次電池に関するサイクル試験の結果を示す図である。
図7】コイン型のリチウムイオン電池の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<水素ポリシルセスキオキサン微粒子>
本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子は、粒度分布における50%累積質量粒子径分布直径D50が1mm未満でありかつ略球状であることを特徴とする。
【0037】
本発明において「粒度分布における50%累積質量粒子径分布直径D50」は、当業者に知られるとおりに解釈すればよく、具体的にはレーザー回折/散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(レーザ回折式粒度分布測定装置)によって取得される体積基準の粒度分布において分布累積値が50%となる体積平均粒子径を言う。
本発明では、この50%累積質量粒子径分布直径D50が1mm未満であることを必要とする。本発明において50%累積質量粒子径分布直径D50は、所望の各種物性や機能が発揮できるように上記1mm未満の範囲で適宜調整すればよいが、より具体的にはナノメートル又はマイクロメートルの範囲が挙げられる。特に、水素ポリシルセスキオキサン微粒子を熱処理することによりケイ素酸化物に変換し、該ケイ素酸化物を二次電池用負極活物質として利用する場合には、50%累積質量粒子径分布直径D50は、好ましくは80μm以下、より好ましくは100nm~80μm、更により好ましくは100nm~50μm程度、場合により500nm~10μm程度である。
【0038】
上述のとおり、本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子は更に略球状であることを特徴とする。本発明における水素ポリシルセスキオキサン微粒子が略球状であるという意義を以下に述べる。
これまで、側鎖にアルキル基やフェニル基等の有機官能基を有する3官能性オルガノシラン化合物の加水分解及び重合反応により合成されるポリシルセスキオキサンについては、所定条件下で加水分解及び重合反応を制御することにより略球状のポリシルセスキオキサンを合成した例は存在する。しかしながら、従来、側鎖に水素を有する3官能性シラン化合物(例えばトリクロロシラン、トリメトキシシラン)の加水分解及び重合反応により合成される水素ポリシルセスキオキサンについては、不定形の凝集体(図3)や、一定の形状に制御されたものであってもモノリス構造やベシクル構造等の形態で合成された例しか報告されておらず(特許文献5や非特許文献1)、略球状の微粒子として水素ポリシルセスキオキサンを合成した例は存在しない。
即ち、本発明において「略球状」、「略球状である水素ポリシルセスキオキサン微粒子」等という用語は、本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子を従来の水素ポリシルセスキオキサンから形状の面から区別する意図で用いられる。
なお、本発明において略球状である水素ポリシルセスキオキサン微粒子が合成可能となる理由については後述のとおりである。
【0039】
加えて、水素ポリシルセスキオキサンが略球状の微粒子であることは、例えばSEMや透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いた電子顕微鏡観察により確認することができる。操作性や水素ポリシルセスキオキサンの詳細なプロファイルの取得を考慮するとSEMを用いた電子顕微鏡観察が好ましい。以下の実施例で取得した水素ポリシルセスキオキサンのSEM写真(図1及び2)の例にも示されるとおり、水素ポリシルセスキオキサンが略球状の微粒子であることが確認できることに加え、大まかな粒径も計測等可能となるからである。
【0040】
本発明で言う「水素ポリシルセスキオキサン」は、当業者に一般的に理解される通りに解釈されればよく、具体的には[RSiO3/2(Rは所定の化学基、nは任意の1以上の整数。)で表される3官能性シロキサン構造単位(T構造)を有するシルセスキオキサンのうちRがH(水素)であるもの([HSiO3/2;T 、nは任意の1以上の整数。)を言う。
更に、本発明の水素ポリシルセスキオキサンを含むポリシルセスキオキサンには、その構造上、例えばラダー型、カゴ型(完全カゴ型、不完全カゴ型)及びランダム構造型、並びにこれらの組合せが挙げられ、本発明において採用される構造は特に限定されるものでもなく何れのタイプであってもよい。
【0041】
より詳細には、本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子の構成要素となる水素ポリシルセスキオキサンの一例として、例えば以下の化学式(I)で表されるラダー型水素ポリシルセスキオキサンが挙げられる。
【0042】
【化1】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1~45の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアリール、及び置換又は非置換のアリールアルキルからなる群から選択される基であり、炭素数の1~45のアルキル基において、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、置換又は非置換のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、任意の水素はハロゲンで置換えられてもよく、任意の-CH-は、-O-、-CH=CH-、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、又は-SiR -で置き換えられてもよく、
nは1以上の整数を示す。
本発明において、「ハロゲン」は、字義通りに理解され、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを示すが、中でもフッ素または塩素が好ましい。
【0043】
更に、本発明において水素ポリシルセスキオキサンの構成要素として好ましく採用できるラダー型水素ポリシルセスキオキサンとしては、以下の一般式(II)で表されるものが挙げられる。
【化2】
【0044】
式中、R、R、R及びRは、一般式式(I)において定義した通りである。
【0045】
更に、カゴ型水素ポリシルセスキオキサンの具体例として、以下の化学式(III)、(IV)(V)でそれぞれ表される化学構造を有するものが挙げられる。
【化3】
なお、化学式(III)、(IV)及び(V)で表される水素ポリシルセスキオキサン構造はそれぞれ順にT 、T 、T 10である。
通常、以下のシラン化合物の加水分解及び重縮合反応では、各種構造の水素ポリシルセスキオキサンが所定の収率で合成される。本発明の水素ポリシルセスキオキサン微粒子は、このように各種構造の水素ポリシルセスキオキサンの混合物から構成されるものであってもよいし、又は特定の構造の水素ポリシルセスキオキサン一種から構成されるものであってもよい。
【0046】
<水素ポリシルセスキオキサンの製造方法>
本発明の一の態様によれば、上述の水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法が提供され、該方法は、以下の工程(p)を含むものである。
(A)以下の一般式(VI)で示されるケイ素化合物を含む溶液系において、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合させると同時に該溶液系の相分離を進行させ、水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させること、
HSi(R) ・・・(VI)
式中、Rは、加水分解性を有する官能基であり、但し、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよい。
以下、工程(p)について詳述する。
【0047】
(ケイ素化合物)
上述のとおり、本発明の水素ポリシルセスキオキサン微粒子の原料となるケイ素化合物は、一般式(VI)で表されるものであり、中心のSiに側鎖としてH(水素)を有し、更に加水分解性を有する3つの官能基が結合してなるケイ素化合物である。このように、ケイ素化合物が加水分解性を有する官能基を有することから、後述のとおり該化合物を加水分解及び重合させれば水素ポリシルセスキオキサンが生成される。
【0048】
一般式(VI)において、加水分解性を有する官能基であるRとしては、例えば、ハロゲン、水素、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシから選択される基が挙げられる。ここで、炭素数1~10の置換または非置換のアルコキシ、炭素数6~20の置換または非置換のアリールオキシ、および炭素数7~30の置換または非置換のアリールアルコキシにおいて、任意の水素はハロゲンで置換されていてもよく、Rは互いに同一であってもよく又は異なってもよいものとする。
【0049】
更に、一般式(VI)で表されるケイ素化合物の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
トリクロロシラン、トリフルオロシラン、トリブロモシラン、ジクロロシラン等のトリハロゲン化シランやジハロゲン化シラン、トリn-ブトキシシラン、トリt-ブトキシシラン、トリn-プロポキシシラン、トリi-プロポキシシラン、ジn-ブトキシエトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシシラン等のトリアルコキシシランやジアルコキシシラン、更にはトリアリールオキシシラン、ジアリールオキシシラン、ジアリールオキシエトキシシラン等のアリールオキシシランまたはアリールオキシアルコキシシラン。
【0050】
これらのうち、反応および入手の容易性と製造コストの観点から好ましいのはトリハロゲン化シランまたはトリアルコキシシランであり、特に好ましいのはトリハロゲン化シランである。
【0051】
これらの一般式(VI)で表されるケイ素化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0052】
一般式(VI)で表されるケイ素化合物は、加水分解性および縮合反応性が高く、水素シルセスキオキサン重合物(HPSQ)が容易に得られるばかりでなく、不活性ガス雰囲気下で熱処理した際に得られるケイ素酸化物のSi-H結合量を制御し易いことから、本発明においてはそれらケイ素化合物を用いる実施形態を特に好ましく採用し得る。
【0053】
(溶媒)
工程(p)における反応液を構成する溶媒は、上記ケイ素化合物の加水分解/重縮合を進行させるものであれば特に限定されるものでもない。具体的には、上記ケイ素化化合物の加水分解を補助するために水を含み得るが、水に加えてメタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、DMF、トルエンな等の芳香族炭化水素溶剤を含む有機溶媒が挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよいし又は二種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明においては、後述のとおりケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質として、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、DMF等の有機溶媒を含み得る。本発明において、これらの物質が溶液系に含まれる場合には、該物質は、ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質として理解されつつも、本発明で言う「溶媒」としても機能する物質と理解すればよい。つまり、これらの物質も含めて溶媒全体を本発明で言う「溶媒」として理解してよい。
【0054】
(触媒)
工程(p)における反応液は、上記ケイ素化化合物の加水分解及び重縮合を促進する触媒を任意に含んでもよい。このような触媒としては具体的には酸性触媒及び塩基性触媒が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく又は酸性触媒と塩基性触媒とを組み合わせて用いてもよい。
酸性触媒としては、有機酸、無機酸のいずれも使用可能である。
具体的には、有機酸としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸などが例示され、無機酸としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが例示される。これらの中でも、加水分解反応およびその後の重縮合反応の制御が容易にでき、コスト安であり、かつ反応後の処理も容易であることから、塩酸及び酢酸を用いることが好ましい。
【0055】
塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の塩基性化合物、アンモニアテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドおよびベンジルトリエチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0056】
また、上記ケイ素化合物としてトリクロロシラン等のハロゲン化シランを用いた場合には、水の存在下で酸性水溶液が形成され、特に酸性触媒を別途加えずとも加水分解及び重縮合反応は進むため、触媒を別途加える必要もない。
したがって、工程(p)において触媒は任意成分である。
【0057】
(加水分解及び重縮合反応の条件)
次に、工程(p)における加水分解および重縮合の反応条件について説明する。
【0058】
反応液中、上記ケイ素化合物の割合は、特に限定されるものでもないが、反応液100質量部に対して、例えば約0.1質量部から約50質量部、好ましくは約0.1質量部から約45質量部、より好ましくは約0.5質量部から約40質量部、特に好ましくは約0.5質量部から約35質量部、場合により約0.5質量部から約25質量部、約0.5質量部から約20質量部である。
【0059】
溶媒の割合について、上記加水分解及び重縮合反応が進行する限り特に限定されるものでもないが、上記ケイ素化合物100質量部に対して、例えば約100質量部から約1500質量部、好ましくは約150質量部から約1400質量部、より好ましくは約200質量部から約1300質量部、場合により約230質量部から約1200質量部、約250質量部から約600質量部である。なお、これらの割合範囲を採用した場合において、上述のとおり溶媒として水のみを用いてもよい、又は水とその他溶媒(アルコールや有機溶媒等)との混合溶媒を用いてもよい。
【0060】
触媒を添加する場合、その割合は、所望の加水分解及び重縮合反応が得られるように適宜調整すればよく、特に限定されるものでもないが、上記ケイ素化合物100質量部に対して、例えば約0.02質量部から約15質量部、好ましくは約0.02質量部から約10質量部、より好ましくは約0.02から約8質量部、場合により約0.04質量部から約7質量部、約0.08質量部から約6質量部である。
【0061】
反応液のpHは、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合反応が良好に進行するよう適宜調整すればよく、特に限定されるものでもないが、通常0.8~7程度、好ましくは2~7程度、場合により3~7程度、3.5~6程度が挙げられる。
なお、反応液pHの調整は、上述の酸性触媒及び塩基性触媒を含む酸や塩基を利用できる。
【0062】
各成分の添加順序や添加方法は、特に限定されるものでもないが、例えば、反応容器に溶媒及び任意に触媒溶液を投入し、任意に反応容器内の雰囲気を所定のガス雰囲気(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス)に置換した後に、反応容器内の水に撹拌下で上記ケイ素化合物を添加(滴下)し、反応液を攪拌しながら所定の反応温度及び反応時間で加水分解及び重縮合反応を行うことができる。
【0063】
更に、加水分解及び重縮合の反応温度は、特に限定されるものでもないが、例えば約-20℃から約90℃、好ましくは約0℃から約90℃、より好ましくは約0℃から約86℃、約10℃から約85℃、場合により常温(e.g.室温;20℃~25℃程度)が挙げられる。反応時間についても、特に限定されるものでもないが、例えば約0.5時間から約100時間、場合によっては約0.5時間~約80時間、約0.5時間から約6時間、場合により約0.5時間から約5時間が挙げられる。
更に加えて、工程(p)において、その生産性と製造コストを考慮して、加水分解と重縮合反応とを一つの反応器内で、同一の条件下に並行して行うことが好ましい。
【0064】
(溶液系の相分離の進行)
工程(p)においては、本発明に係る略球状の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成ならしめるために、上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合と同時に、生成される水素ポリシルセスキオキサンを含む溶液系の相分離を進行させることを要する。換言すると、本発明において「溶液系の相分離を進行させる」等の用語は、上述のとおり所定の範囲の50%累積質量粒子径分布直径D50を有し、略球状の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成せしめる程度及び態様において上記溶液系の相分離を進行させるものでなければならない。
【0065】
これまで、本発明者らは、触媒として働く所定の酸と水を含む溶媒との混合溶液に、上述のケイ素化合物を滴下することにより水素ポリシルセスキオキサンを合成してきた。このような合成の態様によると、水素ポリシルセスキオキサンは、不定形な微粒子が集合した凝集物の形態で生成される。その理由としては、水素ポリシルセスキオキサンの原料となる側鎖に水素を有するケイ素化合物の場合、3官能性オルガノシラン化合物とは異なり、上記水及び酸を含む溶液に滴下されるとその直後から急激な加水分解及び重合が開始されるために、凝集物様の水素ポリシルセスキオキサン生成物が生成されるものと推測される。
そこで、本発明では、溶液系において上記ケイ素化合物の加水分解及び重縮合と同時に、本発明所定の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成せしめる程度及び態様において上記溶液系において生成される水素ポリシルセスキオキサンの固相とそれ以外の溶液部分の液相との相分離を進行させることを構成として採用しているのである。
【0066】
溶液系の相分離の進行は、特に限定されるものでもないが、該溶液系の相分離を促進させる相分離誘発剤を使用する構成を採用することができる。
相分離誘発剤としては、具体的には水素結合性物質が挙げられる。このような水素結合性物質は、水溶性ポリマー、水溶性界面活性剤等を含み、より具体的には以下のような物質が挙げられる:
アルギン酸、ペクチン、デキストラン等の天然水溶性ポリマー;カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系ポリマー;ポリアクリル酸又はその塩(例えばポリアクリル酸ナトリウム)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等の合成水溶性ポリマー;アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤。
これらのうち、信頼性よく溶液系の相分離を進行させて本発明所定の球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を形成させることができる点では、ポリアクリル酸又はその塩を用いることが好ましい。
なお、相分離誘発剤は、一種を単独で用いてもよいし、又は二種以上を組合せて用いても良い。
【0067】
本発明において相分離誘発剤及びの量は、本発明所定の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成できる程度に溶液系の相分離を生じせしめるものであれば特に限定されるものでもないが、上記ケイ素化合物100質量部に対して、約1~600質量部、好ましくは約1~500質量部、より好ましくは約10~400質量部、更により好ましくは約50~300質量部、特に好ましくは約80質量部~250質量部、場合により約80~150質量部である。
【0068】
更に、本発明における溶液系は、ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質を任意に含んでも良い。このような物質を溶液系に含めれば、ケイ素化合物の加水分解及び重縮合反応の過度な進行を抑制でき、水素ポリシルセスキオキサンが不定形の凝集体として生成されるのを防止できる。但し、本発明の水素ポリシルセスキオキサンは、個々の粒子が略球状であれば足り、このような略球状の粒子が一定程度凝集した状態で生成される場合も包含する。したがって、本発明の溶液系においてケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質は任意成分である。
【0069】
ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質としては、具体的には極性溶媒を含み、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(1-プロパノール、2-プロパノール)等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
なお、ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質は、一種を単独で用いてもよいし、又は二種以上を組合せて用いても良い。
【0070】
更に、上述の原料となるケイ素化合物が加水分解性の官能基としてアルコキシ基を有する場合、該アルコキシ基と炭素数のアルコールを採用する構成は好ましい実施形態として挙げられる。より具体的に説明すると、例えば原料となるケイ素化合物としてトリメトキシシランを採用する場合は相分離誘発剤としてはメタノールを採用することが好ましく、トリエトキシシランを採用する場合はエタノールを採用することが好ましい。
【0071】
本発明においてケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質の量は、特に限定されるものでもないが、上記ケイ素化合物100質量部に対して、1~600質量部、好ましくは1~500質量部、より好ましくは10~400質量部、更により好ましくは50~300質量部、特に好ましくは80質量部~250質量部、場合により80~150質量部である。
【0072】
更に加えて、本発明においては、より真球度の高い水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成し、しかもそれら微粒子の凝集を抑制したい場合には、相分離誘発剤とケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質とを組合せることが好ましい。特に好ましい実施形態としては、水溶性ポリマーとアルコールとの組合せが好ましい。
【0073】
更に好ましい実施形態として、上記ケイ素化合物として加水分解性の官能基として任意の炭素数のアルコキシ基を有するものを使用し、かつi)当該アルコキシ基の炭素数と同じ炭素数のアルコール(ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質);及び/又はii)水溶性ポリマー(相分離誘発剤)を使用する構成が挙げられる。この場合、アルコール及び水溶性ポリマーの添加量は、相分離誘発剤及びケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質について述べた数値範囲を採用するのが特に好ましい。
【0074】
特に好ましい実施形態としては、以下のような組成となる溶液系が挙げられる。
(i)ケイ素化合物の加水分解及び重縮合反応を適度に進行させる量の触媒(具体的には上述の各種添加量の範囲);
(ii)水を主に含む溶媒(例えば9割以上が水である溶媒、好ましくは水のみの溶媒)をケイ素化合物100質量部に対して100~500質量部、好ましくは200~400質量部、場合により250~350質量部;並びに
(iii)水溶性ポリマー(相分離剤)及びアルコール(ケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質)を、それぞれ上記ケイ素化合物100質量部に対して例えば1~300質量部、好ましくは10~250質量部、より好ましくは60~150質量部、場合により80~150質量部。
【0075】
更に、各成分を添加/混合する順序については、本発明の略球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子が生成され得るかぎり特に限定されるものでもないが、例えば以下の手順を採用すると、より確実に本発明所定の略球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を製造することができる。
即ち、工程(p)において、上記相分離誘発剤及び任意にケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質と水とを含む溶液に上記ケイ素化合物を添加(例えば滴下)することにより、該ケイ素化合物を加水分解及び重縮合させると同時に溶液系において相分離を進行させることができる。この場合、上記相分離誘発剤及び任意にケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質と水とを含む溶液は、任意に上述の触媒を含んでもよいが、触媒を加えずとも加水分解及び重縮合が進行する場合には触媒は必須ではない。例えば、ケイ素化合物としてトリクロロシランを採用すると、酸などの触媒を添加せずとも加水分解及び重縮合は進行する。
なお、均一な反応を生じさせて凝集が低減された略球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を生成させるためには、ケイ素化合物を溶液に添加は撹拌下で行うことが好ましい。
【0076】
上述のとおり、本発明の水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法においては、予め調製された相分離誘発剤及び任意にケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質と水とを含む溶液に上記ケイ素化合物を添加する実施形態が採用され得ることから、当該製造方法は、工程(p)の前に、相分離誘発剤、任意にケイ素化合物の加水分解及び重縮合を抑制する物質、並びに水及び任意に触媒を含む溶液を予め調製すること(工程(p’))を含んでもよい。
【0077】
上述のような反応系並びに反応手順等を採用する実施形態によれば、略球状の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を凝集が比較的抑制された状態で信頼性よく生成させることができる。
【0078】
なお、本発明の水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法は、更に以下のような工程の少なくとも1つを任意に含んでもよい。
(a)加水分解及び重縮合並びに溶液系の相分離を介して所定の球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を合成した後、任意に、濾過分離(例えば加圧濾過)、固液分離、溶媒留去、遠心分離或いは傾斜等の方法により、液体画分を分離及び除去し、固形画分を水素ポリシルセスキオキサン微粒子として取得すること。このような固形分と液体との分離方法は、各種汎用技術が当業者に知られているので、適宜それらを用いることができる。
(b)さらに、上記取得した固形画分を水洗浄あるいは有機溶剤洗浄し、有機溶媒の留去、乾燥(減圧乾燥及び/又は加熱乾燥)等すること。
【0079】
<ケイ素酸化物微粒子及びその製造方法>
本発明は、更に別の態様として、上述の球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を熱処理することにより得られるケイ素酸化物微粒子並びにその製造方法を包含する。
より具体的には、本発明に係るケイ素酸化物微粒子を製造する方法は、以下の工程(r)を含む。
(r)上述の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を非酸化性ガス雰囲気下で熱処理することによりケイ素酸化物微粒子を製造すること、但し、該ケイ素化合物微粒子は、粒度分布における体積基準累積50%粒子径D50が1mm未満でありかつ略球状であるものとする。
【0080】
本発明における「非酸化性ガス雰囲気」には、不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気、これら雰囲気を併用した混合雰囲気が包含される。不活性ガス雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等不活性ガスが挙げられ、これら不活性ガスは一種を単独で用いてもよいし又は二種以上を混合して用いてもよい。加えて、不活性ガスは、一般に使用されているものであれば足りるが、高純度規格のものが好ましい。還元性雰囲気としては、水素などの還元性ガスを含む雰囲気が包含される。例えば、2容積%以上の水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気が挙げられる。加えて、還元性雰囲気として、場合により水素ガス雰囲気そのものを使用してもよい。
【0081】
更に、熱処理温度は、特に限定されるものでもなく、例えば400℃~2500℃、場合により500℃~2000℃が挙げられる。しかしながら、特に製造されるケイ素酸化物を二次電池用負極活物質として利用する場合、高容量と良好なサイクル特性を共に発現させる観点からは、適量のSi-H結合を残存させることが必要となる。このような適量のSi-H結合を残存させる熱処理温度としては、例えば600℃~1500℃以上、好ましくは600℃~900℃、より好ましくは650℃から850℃、より好ましくは759℃~850℃である。
加えて、熱処理炉内に上記ガスを供給する場合、その流量は採用する熱処理炉の仕様に応じて適宜調整すればよく、特に限定されるものでもない。ガスの流量としては、例えば20~800mL/分程度、場合によっては30~700mL/分程度、40~600mL/分程度が挙げられる。
【0082】
更に、熱処理時間については、通常30分~30時間程度、好ましくは1~24時間程度、より好ましくは1~16時間程度、場合により1~12時間程度、1~10時間程度である。
【0083】
なお、本発明において採用され得る熱処理炉は、目的に応じて適宜に選択すればよく特に限定されるものでもない。例えば、真空パージ式チューブ炉、ロータリーキルン型、ローラーハースキルン型、バッチキルン型、プッシャーキルン型、メッシュベルトキルン型、カーボン炉、トンネルキルン型、シャトルキルン型、台車昇降式キルン型等の各種熱処理炉が挙げられる。これら熱処理炉は、一種のみ用いてもよく、又は2種以上を組合せてもよい。なお、2種以上を組み合わせる場合、各熱処理炉は直列若しくは並列に連結されてもよい。
【0084】
更に、本発明に係るケイ素酸化物微粒子の製造方法は、工程(r)に先行して、本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法において含まれ得る上述の工程を適宜に含んでもよく、それらの工程を含むケイ素酸化物微粒子の製造方法の構成も本明細書に明確に開示される実施形態であることに留意されたい。
【0085】
更に、本発明の一態様により提供されるケイ素酸化物微粒子は、以下の条件(x)、(y)及び(z)を満たすものである。
(x)粒度分布における50%累積質量粒子径分布直径 D50がナノメートル又はマイクロメートルの範囲にあること;
(y)略球状であること;並びに
(z)一般式SiOxHy(1<x<1.8、0.01<y<0.4)で表される元素組成を有すること。
【0086】
ここで、条件(x)について、上記50%累積質量粒子径分布直径 D50は、上述の球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子のD50に相応して、好ましくは80μm以下、より好ましくは100nm~80μm、更により好ましくは100nm~50μm程度、場合により500nm~10μm程度である。
なお、条件(y)については、水素ポリシルセスキオキサン微粒子について説明したとおり、顕微鏡観察(例えばSEMやTEM等を利用した電子顕微鏡観察)によりケイ素酸化物微粒子が略球状であることが確認できる。
【0087】
更に、条件(z)のxの範囲については、場合により1.2<x<1.8、更に1.3<x<1.7、例えばx=1.5である。更に、yの範囲については、場合により0.1<y<0.3の範囲であってもよい。
【0088】
更に、本発明に係るケイ素酸化物は、赤外分光法(IR)により測定したスペクトルにおいて、820~920cm-1にあるSi-H結合に由来するピーク1の強度(I1)と1000~1200cm-1にあるSi-O-Si結合に由来するピーク2の強度(I)の比(I1/I)が0.01~0.35の範囲にあるケイ素酸化物であってもよい。
【0089】
上記のピーク1の強度(I1)とピーク2の強度(I)の比(I1/I)は、場合により0.01~0.30、更に0.03~0.20の範囲であってもよい。
【0090】
なお、リチウムイオン二次電池等の二次電池において良好な各種電池特性を負極活物質として発揮し得るケイ素化合物微粒子の製造を目的とする場合、例えば上述の特許文献1の開示を参考に適宜決定することもできる。特許文献1には、二次電池の各種電池特性を考慮した上で、上述の一般式SiOxHyにおけるx及びy、並びにピーク強度比I/I等の好ましい範囲が開示されている。本発明においても、特許文献1に開示されるこれら各パラメータの数値範囲を採用してもよい。より具体的には、前駆体となる本発明所定の球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子の熱処理時において熱処理温度や熱処理時間等の各種熱処理条件を適宜調整することにより、上記各種パラメータで規定される物性を実現することができる。
【0091】
<二次電池用負極活物質及びその製造方法>
本発明によれば、二次電池用負極活物質及びその製造方法も開示される。
本発明の二次電池用負極活物質は、上述のケイ素酸化物微粒子を単独で使用したものであってもよいが、以下の通り本発明の二次電池用負極活物質の方法により製造される組成物であってもよい。
なお、当該方法は、以下に説明する工程の他、任意に上述の水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法並びにケイ素酸化物微粒子の製造方法に含まれ得る工程を更に含んでもよく、それら実施形態も本明細書に明細書に明確に開示されるものである。
【0092】
電池は、高容量化し、大電流で充放電する事が求められていることから、電極の電気抵抗が低い材料が要求されている。
したがって、本発明の負極活物質の製造方法は、上記ケイ素酸化物微粒子に対して炭素系物質を複合化させ又は被覆させる工程を更に含んでもよい。ケイ素酸化物微粒子を炭素系物質で複合化させ又は被覆させるには、メカノフュージョンやボールミルあるいは振動ミル等を用いた機械的混合法等により、上記ケイ素酸化物微粒子と炭素系物質を分散させる方法が挙げられる。
【0093】
炭素系物質としては、黒鉛、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノフォーム、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維および無定形炭素などの炭素系物質が好ましく挙げられる。
【0094】
なお、上記任意の複合化又は被覆工程において、適宜目的に応じて、また所望の電池特性が得られるように上記ケイ素酸化物微粒子と炭素系物質とは任意の割合で混合すればよい。
【0095】
<負極の製造方法>
本発明の更なる別の態様によれば、更に二次電池用負極を製造する方法も開示される。当該方法においては、上記負極活物質を用いて負極を製造する。以下に具体的の製造工程を示す。なお、当該方法は、以下に示す各工程に先行して、上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法、ケイ素酸化物微粒子の製造方法並びに負極活物質の製造方法に含まれ得る各工程を任意に含んでもよく、それら実施形態も本明細書に明細書に明確に開示されるものである。
【0096】
二次電池用負極は、上述のケイ素酸化物微粒子、或は上記炭素系物質を複合化若しくは被覆させたケイ素酸化物微粒子を含む負極活物質を用いて製造されるものである。
例えば、負極は、上記負極活物質及び任意に結着剤を含む負極混合材料を、一定の形状に成形する方法、又は該負極混合材料を銅箔などの集電体に塗布させる方法に基づいて製造してもよい。負極の成形方法は、特に限定なく任意の方法を用いればよく、各種公知の方法を用いてもよい。
【0097】
より詳細には、例えば、まず、上記負極活物質、並びに任意に結着剤及導電材料等の各種添加剤を含む二次電池負極用組成物を調製する。調製した二次電池負極用組成物を、銅、ニッケル、ステンレスなどを主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体などの集電体に直接コーティングしてもよい。あるいは、上記二次電池負極用組成物を別途、支持体上にキャスティングし、その支持体上に形成された負極活物質フィルムを剥離し、剥離した負極活物質フィルムを集電体にラミネートして負極極板を形成してもよい。なお、上記の形態はあくまでも例示であり、負極の形態は、これらに限定されるものではなく、その他の形態として提供され得ることは言うまでもない。
【0098】
結着剤としては、二次電池において使用可能なものであれば足り、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アルギン酸、グルコマンナン、アミロース、サッカロース及びその誘導体や重合物、さらに夫々のアルカリ金属塩の他、ポリイミド樹脂やポリイミドアミド樹脂が挙げられる。これら結着剤は単独で使用してもよいし、二種以上の混合物であってもよい。
さらに、結着剤に加えて、例えば、集電体と負極活物質との結着性を向上させ、不許核物質の分散性を改善し、結着剤自体の導電性を向上させる等の別機能を付与し得る添加剤を必要に応じて添加することもできる。このような添加剤の具体例としては、スチレン-ブタジエン・ゴム系ポリマー、スチレン-イソプレン・ゴム系ポリマー等が挙げられる。
【0099】
<二次電池及びその製造方法>
本発明の更なる別の態様によれば、二次電池及びその製造方法も提供される。当該方法は、上記のとおり製造した負極を用いることにより二次電池を製造することを含む。
以下に具体的な製造工程を示す。
なお、当該製造方法は、以下に示す工程に加え、上記水素ポリシルセスキオキサン微粒子の製造方法、ケイ素酸化物微粒子の製造方法、二次電池用負極活物質の製造方法並びに二次電池用負極の製造方法に含まれる各工程を先行して更に含んでもよく、それら実施形態も本明細書に明細書に明確に開示されるものである。
【0100】
まず、本発明に係る二次電池を製造方法により製造される二次電池は、所望の用途や機能等を考慮し、適宜に設計すればよく、その構成は特に限定されるものでもないが、既存の二次電池の構成を参考に、本発明に係る負極を用いて二次電池を構成することができる。加えて、本発明の二次電池のタイプとしては、上記負極が適用できるものであれば特に限定されるものでもないが、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池が挙げられる。これら電池は、以下の実施例において実証されるとおり、本発明の所望の効果が発揮され得ることから、特に好ましい実施形態と言える。
以下、リチウムイオン電池の製造方法及び構成を例示する。
【0101】
まず、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な正極活物質、導電助剤、結着剤及び溶媒を混合して正極活物質組成物を準備する。上記正極活物質組成物を負極と同様、各種手法を用いて金属集電体上に直接コーティング及び乾燥し、正極板を準備する。
上記正極活物質組成物を別途、支持体上にキャスティングし、この支持体上に形成されたフィルムを剥離し、同フィルムを金属集電体上にラミネートして正極を製造することも可能である。正極の成形方法は、特に限定されるものではないが、各種公知の手法を用いて形成することができる。
【0102】
上記正極活物質としては、当該二次電池の分野で一般的に使われるリチウム金属複合酸化物を用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、スピネル構造を持ったマンガン酸リチウム、コバルトマンガン酸リチウム、オリビン構造を持ったリン酸鉄、いわゆる三元系リチウム金属複合酸化物、ニッケル系リチウム金属複合酸化物など挙げられる。また、リチウムイオンの脱-挿入が可能な化合物であるV、TiS及びMoSなども使用することができる。
【0103】
導電助剤を添加してもよく、リチウムイオン電池で一般的に使用されるものを利用することができる。製造された電池において分解又は変質を起こさない電子伝導性材料であることが好ましい。具体例としては、カーボンブラック(アセチレンブラック等)、黒鉛微粒子、気相成長炭素繊維、及びこれらの二種以上の組み合わせなどが挙げられる。また、結着剤としては、例えば、フッ化ビニリデン/六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン及びその混合物、スチレンブタジエン・ゴム系ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものでない。また、溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、アセトン、水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
この時、正極活物質、導電助剤、結着剤及び溶媒の含有量は、特に限定されるものでもないが、リチウムイオン電池で一般的に使用される量を目安に適宜選択することができる。
【0104】
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、リチウムイオン電池で一般的に使われるものを利用すればよいが、特に限定されるものでもなく、所望の用途や機能等を勘案の上、適宜選択すればよい。電解質のイオン移動に対して低抵抗であるか、又は電解液含浸能に優れるものが好ましい。具体的には、ガラスファイバー、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、あるいはその化合物のうちから選択された材質であって、不織布または織布の形態でもよい。
より具体的には、リチウムイオン電池の場合には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような材料からなる巻き取り可能なセパレータを使用し、リチウムイオンポリマー電池の場合には、有機電解液含浸能に優れたセパレータを使用する事が好ましい。
【0105】
電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジブチルカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、スルフォラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼンまたは、ジエチルエーテルなどの溶媒またはそれらの混合溶媒に、六フッ化リンリチウム、四フッ化ホウ素リチウム、六アンチモンリチウム、六フッ化ヒ素リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、Li(CFSON、LiCSO、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ただし、xおよびyは自然数)、LiCl、LiIのようなリチウム塩からなる電解質のうち一種またはそれらを二種以上混合したものを溶解したものを使用できる。
【0106】
また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。例えば、リチウムイオンを添加した各種イオン液体、イオン液体と微粉末を混合した擬似固体電解質、リチウムイオン導電性固体電解質などが使用可能である。
【0107】
更にまた、充放電サイクル特性を向上させる目的で、上記の電解液に、負極活物質表面に安定な被膜形成を促進する化合物を適宜含有させることもできる。例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロベンゼン、環状フッ素化カーボネート〔フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)、など〕、または、鎖状フッ素化カーボネート〔トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、トリフルオロジエチルカーボネート(TFDEC)、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)など〕などのフッ素化カーボネートが効果的である。なお、上記環状フッ素化カーボネートおよび鎖状フッ素化カーボネートは、エチレンカーボネートなどのように、溶媒として用いることもできる。
【0108】
上述のような正極極板と負極極板との間にセパレータを配して電池構造体を形成する。係る電池構造体をワインディングするか、または折りたたんで円筒形電池ケース、または角型電池ケースに入れた後、電解液を注入すればリチウムイオン電池が完成する。
【0109】
また、上記電池構造体をバイセル構造に積層した後、これを有機電解液に含浸させ、得られた物をパウチに入れて密封すれば、リチウムイオンポリマー電池が完成する。
【0110】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0111】
本実施例においては、実施例1及び2、並びに比較例1及び2において調製した水素ポリシルセスキオキサン並びにそれらを熱処理して取得したケイ素酸化物について、各種分析・評価を行った。
各実施例及び比較例における「元素分析測定」の測定装置及び測定方法、並びに「電池特性の評価」は以下のとおりである。
【0112】
(元素分析)
元素組成分析については、試料粉末をペレット状に固めたのち、2.3MeVに加速したHeイオンを試料に照射し、後方散乱粒子のエネルギースペクトル、及び前方散乱された水素原子のエネルギースペクトルを解析することにより水素を含めた確度の高い組成値が得られるRBS(ラザフォード後方散乱分析)/HFS(水素前方散乱分析)法により行った。測定装置はNational Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDHにて、入射イオン:2.3MeV He、RBS/HFS同時測定時入射角:75deg.、散乱角:160deg.、試料電流:4nA、ビーム径:2mmφの条件で測定した。
【0113】
(粒度分布測定)
粒度分布測定は、レーザー回折散乱式粒度分測定装置(マイクロトラック・ベル社製、MT-3300EX II)を用いて、試料粉末を純水中に超音波ホモジナイザーにより分散させレーザー回折法により測定した。
【0114】
(BET比表面積)
BET比表面積は、試料粉末1gを測定セルに投入後、窒素ガスでパージしながらマントルヒーターを用いて、250℃で2時間乾燥後、1時間かけて室温まで冷却したのち、マルバーン社製、Nove4200eにて測定した。
【0115】
(電池特性の評価)
本発明のケイ素酸化物を含有する負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池等の充放電特性は、次のようにして測定した。
株式会社ナガノ製BTS2005Wを用い、ケイ素酸化物1g重量あたり、100mAの電流で、Li電極に対して0.001Vに達するまで定電流充電し、次に0.001Vの電圧を維持しつつ、電流が活物質1g当たり20mA以下の電流値になるまで定電圧充電を実施した。
充電が完了したセルは、約30分間の休止期間を経た後、活物質1g当たり100mAの電流で電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。
また、充電容量は、定電圧充電が終了するまで積算電流値から計算し、放電容量は、電池電圧が1.5Vに到達するまでの積算電流値から計算した。各充放電の切り替え時には、30分間、開回路で休止した。
【0116】
充放電サイクル特性についても同様の条件で行った。
なお、充放電効率は、初回(充放電の第1サイクル目)の充電容量に対する放電容量の比率とし、容量維持率は初回の放電容量に対する、充放電100サイクル目の放電容量の比率とした。
【0117】
[実施例1]
(水素ポリシルセスキオキサン(HPSQ)の調製)
本実施例では、まず、加水分解及び重縮合反応を抑制する物質としてエタノールを用いかつ相分離誘発剤としてポリアクリル酸を用いて水素ポリシルセスキオキサンを合成した。以下にその手順を示す。
【0118】
100mLのビーカーに、酢酸0.02g、純水15g、エタノール5g及びポリアクリル酸(平均分子量25,000;和光純薬工業株式会社製)5gを仕込み、得られた混合物を撹拌してポリアクリル酸を溶解させた。得られた溶液にトリエトキシシラン5gを添加し、1分間撹拌し、ビーカーごとオーブンに入れて80℃で1時間加熱した。
反応終了後、メンブランフィルター(孔径0.45μm、親水性)を用いて反応物をろ過し、固体を取得した。取得した個体を水洗し、80℃にて10時間、減圧乾燥し、水素ポリシルセスキオキサン重合物(1)を得た。
このようにして得られた水素ポリシルセスキオキサン(1)の一部をSEM観察に供試した。
【0119】
(ケイ素酸化物の調製)
SSA-Sグレードのアルミナ製ボートに、上記水素シルセスキオキサン(1)1.5gをのせた後、該ボートを真空パージ式チューブ炉 KTF43N1-VPS(光洋サーモシステム社製)にセットし、熱処理条件として、アルゴンガス雰囲気下(高純度アルゴンガス99.999%)にて、アルゴンガスを250ml/分の流量で供給しつつ、4℃/分の割合で昇温し、800℃で1時間熱処理することで、ケイ素酸化物を得た。
次いで、得られたケイ素酸化物を乳鉢にて5分間解砕粉砕し、目開き32μmのステンレス製篩を用いて分級することにより粉粒状のケイ素酸化物(1)を得た。
このようにして得られたケイ素酸化物(1)の一部をSEM観察及び粒度分布測定に供試した。
【0120】
(負極体の作成)
カルボキシメチルセルロースの2重量%水溶液5g中に、前記ケイ素酸化物(1)0.8gと0.1gのアセチレンブラックを加え、フラスコ内で攪拌子を用いて15分間混合した後、固形分濃度が15重量%となるよう蒸留水を加え、さらに15分間撹拌してスラリー状組成物を作成した。このスラリー状組成物をプライミックス社製の薄膜旋回型高速ミキサー(フィルミックス40-40型)に移し、回転数20m/sで30秒間、撹拌分散を行った。分散処理後のスラリーを、ドクターブレード法により、銅箔ロール上にスラリーを200μmの厚さにて塗工した。
塗工後、80℃のホットプレートにて90分間乾燥した。乾燥後、負極シートを2t小型精密ロールプレス(サンクメタル社製)にてプレスした。プレス後、φ14.50mmの電極打ち抜きパンチHSNG-EPにて電極を打ち抜き、ガラスチューブオーブンGTO―200(SIBATA)にて、80℃で、16時間減圧乾燥を行い、負極体を作成した。
【0121】
(リチウムイオン二次電池の作製及び評価)
図7に示す構造の2032型コイン電池を作成した。負極1として上記負極体、対極3として金属リチウム、セパレータ2として微多孔性のポリプロピレン製フィルムを使用し、電解液としてLiPF6を1モル/Lの割合で溶解させたエチレンカーボネートとジエチルカーボネート1:1(体積比)混合溶媒にフルオロエチレンカーボネイトを5重量%添加したものを使用した。
次いで、リチウムイオン二次電池の電池特性の評価を既述の方法で実施した。
【0122】
[実施例2]
本実施例では、まず、加水分解及び重縮合反応を抑制する物質(エタノール)は添加せず、相分離誘発剤としてポリアクリル酸のみ用いて水素ポリシルセスキオキサンを合成した。その合成手順は以下の通りである。
【0123】
実施例1における水素ポリシルセスキオキサンの合成において、エタノールを全く添加せず、純水を20gとした以外は同様にして水素ポリシルセスキオキサン(2)を調製した。
次いで、実施例1と同様にして水素ポリシルセスキオキサン(2)を熱処理することによりケイ素酸化物(2)を取得し、その一部をSEM観察に供試した。
【0124】
[比較例1]
比較例1では、加水分解及び重縮合反応を抑制する物質(エタノール)及び相分離誘発剤(ポリアクリル酸)は全く添加せずに従来法に従って水素ポリシルセスキオキサンを合成した。その合成手順は以下の通りである。
【0125】
3Lのセパラブルフラスコに、酢酸7.20g(120.12mmol)及び純水1188.0gを仕込み、撹拌下にトリエトキシシラン(東京化成)225g(1369.66mmol)を25℃にて滴下した。滴下終了後、撹拌しながら25℃にて加水分解反応および縮合反応を2時間行った。
反応時間経過後、反応物をメンブランフィルター(孔径0.45μm、親水性)にてろ過し、固体を回収した。得られた固体を80℃にて10時間、減圧乾燥し、水素ポリシルセスキオキサン(3)を得た。
このようにして得られた水素ポリシルセスキオキサン(3)の一部をSEM観察に供試した。
【0126】
次いで、実施例1と同様にして水素ポリシルセスキオキサン(3)を熱処理することによりケイ素酸化物(3)を取得し、その一部をSEM観察及び粒度分布測定に供試した。
更に、実施例1に準じてケイ素酸化物(3)を用いることにより負極活物質を製造し、該負極活物質を用いて負極並びにリチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池について上述の充放電サイクル試験により電池特性を評価した。
【0127】
[比較例2]
比較例2では、まず、相分離誘発剤(ポリアクリル酸)は全く添加せず、加水分解及び重縮合反応を抑制する物質としてエタノールのみ用いて水素ポリシルセスキオキサンを合成した。その合成手順は以下の通りである。
【0128】
100mLのビーカーに、酢酸0.02g、純水15g、エタノール5gを仕込んだ。得られた溶液にトリエトキシシラン5gを添加し、1分間撹拌し、ビーカーごとオーブンに入れて80℃で1時間加熱した。得られたゼリー状の固まりをさらに10時間過熱し、溶媒を蒸発させることにより水素ポリシルセスキオキサン(4)を取得した。
このようにして得られた水素ポリシルセスキオキサン(4)を乳鉢で粗粉砕した。得られた粉砕物を実施例1に記載の手順に準じて熱処理し、ケイ素酸化物(4)を取得した。このようにして取得したケイ素酸化物(4)を上記SEM観察に供試した。
なお、熱処理前の水素ポリシルセスキオキサン(4)及びこれを熱処理して取得したケイ素酸化物(4)は肉眼で観察し、それぞれの外観写真を取得した。
【0129】
[結果]
(水素ポリシルセスキオキサン及びケイ素酸化物の形状比較)
実施例1で合成した水素ポリシルセスキオキサン(1)及びケイ素酸化物(1)のSEM写真を図1に示す。加えて、実施例2で合成した水素ポリシルセスキオキサン(2)のSEM写真を図2に示す。
更に、比較例1で合成した水素ポリシルセスキオキサン(3)のSEM写真を図3に示し、比較例2で取得した水素ポリシルセスキオキサン(4)及びケイ素酸化物(4)の通常写真、並びにケイ素酸化物(4)のSEM写真を図4に示す。
【0130】
図1において、左側の列が熱処理の水素ポリシルセスキオキサン(1)のSEM写であり、右側の列が熱処理のケイ素酸化物のSEM写真である。なお、各列において上が2,500倍、下が1,000倍の倍率である。
図1左列のSEM写真に示されるとおり、ポリアクリル酸(相分離誘発剤)に加えてエタノール(加水分解及び重縮合反応を抑制する物質)も添加した実施例1においては、取得された水素ポリシルセスキオキサン(1)は高い真球度の球状微粒子の形態を有していた。更に、図1右列のSEM写真に示されるとおり、熱処理によりケイ素酸化物となっても、高い真球度の球状粒子の形態は維持されていた。
【0131】
更に、図2に示されるとおり、エタノール等の加水分解及び重縮合反応を抑制する物質は添加せずに相分離誘発剤としてポリアクリル酸のみ使用した実施例2においても、取得した水素ポリシルセスキオキサン(2)は、若干粒子同士の凝集は見られたものの、個々の粒子は略球状の形態を有していた。
加えて、エタノールを添加した実施例1の水素ポリシルセスキオキサン(1)(図1左列SEM写真)は、エタノールは添加しなかった実施例2(図2)と比較して、粒子同士の凝集がより抑制された傾向が見受けられた。
【0132】
一方、ポリアクリル酸等の相分離誘発剤を何ら添加していない比較例1については、図3に示されるとおり、取得されたケイ素酸化物(3)は、不定形かつ非球形の微粒子が著しく凝集した形態を有していた。
【0133】
更に、図4に示されるとおり、水分解及び重縮合反応を抑制する物質としてエタノールは添加したもののポリアクリル酸等の相分離誘発剤を何ら添加していない比較例2においても、球状の水素ポリシルセスキオキサン微粒子を取得することができなかった。
図4において左列の写真は、熱処理をしていない水素ポリシルセスキオキサン(4)の状態を撮影したものである。水素ポリシルセスキオキサン(4)は、肉眼でも見て取れるように、比較的大きい、不定形かつ塊状の透明ゲルの形態を有していた。更に、図4の右列の写真は、素ポリシルセスキオキサン(4)を熱処理することにより得られたケイ素酸化物(4)の通常写真(上側)及びSEM写真(下側)である。これらの写真を見れば解るとおり、ケイ素酸化物(4)は、熱処理前の水素ポリシルセスキオキサン(4)の形状とほぼ同様の形状を有しており、不定形で大きさも不揃いの粒子形態を呈していた。
【0134】
このように、所定のケイ素化合物の加水分解及び重縮合により水素ポリシルセスキオキサンを合成する際に、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーをはじめとする相分離誘発剤を反応系に含有さしめることにより相分離を誘発させれば、球状の水素ポリシルセスキオキサンを取得できることが実証された。更に、相分離誘発剤に加えてエタノール等の加水分解及び重縮合反応を抑制する物質を加えると、より真球度の高い球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子を取得することができ、さらに粒子同士の凝集も抑制できることが実証された。
【0135】
(粒度分布/粒子径/BET比表面積)
次に、実施例1及び比較例1でそれぞれ取得したケイ素酸化物(1)及び(3)に関する粒度分布測定の結果を図5に示す。
更に、それらケイ素酸化物(1)及び(3)について測定した体積基準累積50%粒子径D50並びにBET比表面積を以下の表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
図5に示されるとおり、相分離誘発剤としてポリアクリル酸並びに加水分解及び重縮合を抑制する物質としてエタノールを添加した実施例1の水素ポリシルセスキオキサン(1)の粒度分布は、相分離誘発剤を含まないこと以外はほぼ同様の条件で水素ポリシルセスキオキサンを合成した比較例1に対して、粒度分布のピークがより小さい方にシフトしていた。
【0138】
体積基準累積50%粒子径D(50)については、表1に示されるとおり、比較例1の値は10.37μmであるのに対し、実施例1の値は3.1μmを示し、より小さい値であった。
更に、ケイ素酸化物のBET比表面積については、表1に示されるとおり、比較例1は3.5m/gであるのに対し、実施例1は3.1m/gと比較的小さい値を示した。即ち、本発明に係るケイ素酸化物微粒子によれば、粒径に対して比表面積をより小さくできる。そして、本発明のケイ素酸化物微粒子によれば、粒径に対して比表面積をより小さくできるのであるから、該ケイ素酸化物微粒子を負極活物質として利用した場合に、SEI形成に起因するクローン効率低下を抑制できる。
【0139】
以上のとおり、相分離誘発剤の添加により製造される本発明に係る水素ポリシルセスキオキサン微粒子は、粒子の粒度分布、体積基準累積50%粒子径及びBET比表面積等においても一定の性状を示した。
【0140】
(負極の性状及び電池特性試験)
次に、実施例1及び比較例1においてそれぞれ作製したリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を図6に示す。
更に、実施例1及び比較例1で作製した負極の性状、並びにサイクル試験の結果を表2に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
表2に示されるとおり、負極の電極密度は、比較例1では0.84g/cm、実施例1では1.08g/cmを示し、比較例1よりも実施例1の方が大きい値を示した。即ち、本発明に係る球状水素ポリシルセスキオキサン微粒子に由来する球状ケイ素酸化物微粒子を用いると電極密度を大きくすることが可能となることが示された。このように本発明の球状ケイ素酸化物微粒子によれば、電極密度を大きくすることが可能であるから、その結果、二次電池の高容量化を実現できる。
更に、作製したリチウムイオン二次電池のサクル試験の結果については、表2及び図6に示されるとおり、比較例1では初回充放電効率が42%であるのに対し、実施例1では初回充放電効率が44%を示した。したがって、本発明に係る球状ケイ素酸化物微粒子を負極活物質として用いると高い初期容量を実現できることが明らかとなった。
なお、実施例1は、比較例1と比べると容量維持率は若干劣るものの実用に耐えられないレベルでもなかった。
【0143】
以上のとおり、本発明によれば、負極活物質等を含む各種材料用途に有用となる水素ポリシルセスキオキサンをこれまでに実現が困難であった球状微粒子の形態で提供できることが示された。更に加えて、本発明によれば、二次電池の各種電池特性を良好に維持しつつ特に高容量化を実現できる負極活物質を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、二次電池の負極活物質、負極並びに二次電池として適用可能である。したがって、本発明は、負極材料を製造する化学分野、二次電池及び各種電子機器等の電気電子の分野、並びにハイブリッド自動車等の乗り物の分野において高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0145】
1:負極材
2:セパレータ
3:リチウム対極
10:コイン型リチウムイオン電池

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7