(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】試料分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20220405BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20220405BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/083
G01N23/203
(21)【出願番号】P 2018160211
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531480(JP,A)
【文献】特開2015-114241(JP,A)
【文献】特開2018-081092(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123196(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104318564(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/046
G01N 23/083
G01N 23/203
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物を含有する試料を分析する方法であって、
前記試料に対する鉱物自動分析装置(MLA)による測定結果に基づいて得られる、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係と、
前記試料に対するX線CT像における輝度の大小関係と、
を関連付け、
前記関連付けにより得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得、前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する、試料分析方法。
【請求項2】
前記試料に対してMLA測定を行うMLA測定工程と、
前記MLA測定工程による測定結果に基づいて、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係を得る密度大小関係取得工程と、
前記試料に対してX線CT測定を行うX線CT測定工程と、
前記X線CT測定工程により得られたX線CT像における輝度の大小関係を得る輝度大小関係取得工程と、
前記密度の大小関係と前記輝度の大小関係を関連付ける関連付け工程と、
前記関連付け工程により得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得るデータ取得工程と、
前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する評価工程と、
を有する、請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項3】
前記粒子データには、体積、球相当径、および形状パラメータの少なくともいずれかが含まれる、請求項1または2に記載の試料分析方法。
【請求項4】
前記評価の内容は、鉱物の粒度分布、重量割合および含有量のうち少なくともいずれかの取得を含む、請求項3に記載の試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉱物自動分析装置(MLA)を用いて鉱物粒子の表面を分析する方法が開示されている。MLAの詳細は特許文献1に記載されており、本明細書においてはその記載を援用し、本明細書中での記載は省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、MLAを使用して鉱物の数または量に関わる態様(例:粒度分布、重量割合(濃度)、含有量)を評価しようと試みた。しかしながらMLA測定では、特許文献1にて記載されているように、測定対象の鉱物を樹脂包埋し、その後測定するための断面を形成し、この断面に表出している鉱物を評価する手法であり、表出しない鉱物は評価されないことから、試料のうち微量しか評価対象とならない。また、着目している鉱物の含有量がそもそも微量の場合、表出する粒子が数個~数十個と少ない状況となり、鉱物の粒度分布や重量割合等を算出しようとしても、算出結果の正確性には限界がある。
【0005】
その一方、MLAは鉱物を含有する試料中における鉱物の同定には非常に有用な装置である。そのため、MLAを使用することを前提としたうえで、試料中の鉱物を速やかに評価する手法が望まれる。
【0006】
本発明の課題は、工程の一部としてMLAを使用しつつも、一度のMLA測定の対象となる場合よりも測定試料重量を多くして測定可能であり、試料中の鉱物を速やかに評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための第1の態様は、 鉱物を含有する試料を分析する方法であって、
前記試料に対する鉱物自動分析装置(MLA)による測定結果に基づいて得られる、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係と、
前記試料に対するX線CT像における輝度の大小関係と、
を関連付け、
前記関連付けにより得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得、前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する、試料分析方法である。
第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記試料に対してMLA測定を行うMLA測定工程と、
前記MLA測定工程による測定結果に基づいて、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係を得る密度大小関係取得工程と、
前記試料に対してX線CT測定を行うX線CT測定工程と、
前記X線CT測定工程により得られたX線CT像における輝度の大小関係を得る輝度大小関係取得工程と、
前記密度の大小関係と前記輝度の大小関係を関連付ける関連付け工程と、
前記関連付け工程により得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得るデータ取得工程と、
前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する評価工程と、
を有する。
第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
前記粒子データには、体積、球相当径、および形状パラメータの少なくともいずれかが含まれる。
第4の態様は、第3の態様に記載の態様であって、
前記評価の内容は、鉱物の粒度分布、重量割合および含有量のうち少なくともいずれかの取得を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、MLAを使用しつつも、一度のMLA測定の対象となる場合よりも測定試料重量を多くして測定可能であり、試料中の鉱物を速やかに評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について説明を行う。
本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。
【0010】
本実施形態に係る試料分析方法は簡潔に記載すると以下の通りである。
「鉱物を含有する試料を分析する方法であって、 前記試料に対する鉱物自動分析装置(MLA)による測定結果に基づいて得られる、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係と、
前記試料に対するX線CT像における輝度の大小関係と、
を関連付け、
前記関連付けにより得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得、前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する、試料分析方法。」
本実施形態の大きな特徴の一つは、鉱物の頻度に基づき試料中の鉱物を評価するために、MLAの使用は前提としつつ、MLA測定結果とX線CT測定結果とを関連付け(紐づけ)し、最終的に所定の鉱物の数または量に関わる態様(例:粒度分布、重量割合(濃度)、含有量)を評価することにある。
【0011】
前記試料分析方法を各工程ごとに分けて記載すると以下の通りである。
<MLAを使用>
・前記試料に対してMLA測定を行うMLA測定工程
・前記MLA測定工程による測定結果に基づいて、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係を得る密度大小関係取得工程
<X線CTを使用>
・前記試料に対してX線CT測定を行うX線CT測定工程
・前記X線CT測定工程により得られたX線CT像における輝度の大小関係を得る輝度大小関係取得工程
<両測定結果の紐づけ>
・前記密度の大小関係と前記輝度の大小関係を関連付ける関連付け工程
<データ取得>
・前記関連付け工程により得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得るデータ取得工程
<評価>
・前記粒子データに基づいて前記所定の鉱物を評価する評価工程
なお、MLAに係る工程(MLA測定工程および密度大小関係取得工程)は、X線CTに係る工程(X線CT測定工程および輝度大小関係取得工程)よりも前に行ってもよいし、後に行ってもよい。前に行えば、X線CTに係る工程に引き続いて、関連付け工程、データ取得工程、評価工程を行える。
【0012】
「鉱物を含有する試料」には特に限定は無い。例えば複数種類の鉱物が混合した鉱石を粉末にしたものを試料としてもよいし、鉱石粉末を樹脂にて固結したものでもよい(例えば本出願人による特開2017-102081号公報)。また、浮遊選鉱における尾鉱、酸あるいはシアンを用いたリーチングにおける残渣を試料としてもよい。
【0013】
MLA測定工程としては、特許文献1に記載の前準備および本測定を行えばよい。具体例を挙げると、以下の通りである。
鉱物粒子を含む鉱石粉末を熱硬化性樹脂にて固結したものを研磨し、研磨断面に対してBSE像を測定する。そして、当該研磨断面における鉱物粒子の研磨面と、樹脂面とを判別し、研磨断面における当該鉱物粒子の研磨面の位置をMLAに記憶させる。
次に、判別された鉱物粒子の研磨面毎にEDSスペクトルを測定し、得られたEDSスペクトルと、MLAに予め内蔵された鉱物リストのEDSスペクトルとを照合し、当該鉱物粒子の鉱物種を同定する。
【0014】
MLA測定工程により、研磨断面における当該鉱物粒子の研磨面の位置および鉱物種は同定される。鉱物種が同定されれば鉱物に含有される金属元素の種類が同定される。また、鉱物種が同定されれば、各鉱物に応じた密度は、MLAにインストールされた情報なり鉱物に含有される金属元素の種類なり公知文献なりで把握可能となる。密度大小関係取得工程はこの密度把握についての工程であり、密度大小関係取得工程においては、MLA測定工程による測定結果に基づいて、前記試料中の各鉱物の密度の大小関係を得る。
【0015】
X線CT測定工程は、試料が鉱石粉末である場合、樹脂による固結の必要なく実施可能であるため、手間がかからない。また、X線CT測定により測定対象の3次元情報が入手できる。つまり、一度の測定で2次元情報が入手されるMLAに比べ、測定試料重量を多くできる。なお、X線CT測定工程の具体的手法は従来のX線CT測定と同様であるため省略する。
【0016】
X線CT測定工程によりX線CT像が得られる。このX線CT像においては、試料を構成する種々の物質が、密度に応じた輝度を有する。そこで本実施形態においては、X線CT像において、例えば鉱物を構成する粒子の輝度の大小関係を得る輝度大小関係取得工程を行う。
【0017】
そして、この輝度の大小関係を、先に述べたMLA測定に係る密度大小関係取得工程により得られた試料中の各鉱物の密度の大小関係と関連付ける関連付け工程を行う。
【0018】
例えば、MLAによる測定結果に基づいて得られた試料中の各鉱物の密度の大小関係としては以下のものが挙げられる。
例:密度が最も大きい鉱物α(試料中においては密度が最も大きい金属a含有)、密度が大きい鉱物β(試料中においては金属aほどではないが密度が大きい金属b含有)、密度が中くらいの鉱物γ(試料中においては密度が中くらいの金属c含有)・・・という順番
【0019】
例えば、X線CT像における輝度の大小関係としては以下のものが挙げられる。
例:輝度が最も高い(大きい)粒子または粒子中の一部(以降、まとめて粒子という。)A、粒子Aほどではないにせよ輝度が高い粒子B、輝度が中くらいの粒子C・・・という順番
【0020】
そして、関連付け工程において、前記密度の大小関係と、前記輝度の大小関係とを紐づける。上記の例の場合、鉱物α(金属a含有)=粒子A、鉱物β(金属b含有)=粒子B、鉱物γ(金属c含有)=粒子C、と紐づけられる。
【0021】
この紐づけを経たうえで、前記関連付け工程により得られた関係に基づき、前記X線CT像における所定輝度に対応する鉱物の粒子データを得るデータ取得工程を行う。
【0022】
「粒子データ」とは、例えば体積、球相当径、および形状パラメータ(例えば円形度、角張度、等々)の少なくともいずれかが含まれる。球相当径とは、特定の粒子を測定した場合、同じ結果(測定量またはパターン)を示す球体の直径をもって、その被測定粒子の粒子径としたものである。
【0023】
粒子データの具体的な取得手法としては、例えば、X線CT像のデータにおいて、着目する鉱物のグレイレベルに相当するボクセルを抽出することで、着目する粒子のみのデータを抽出し、粒子データを得ることが挙げられる。
【0024】
この粒子データに基づいて以下の評価工程を行うことができる。例えば粒度分布、重量割合(濃度)および含有量のうち少なくともいずれかを解析することができる。
評価対象の一例である粒度分布は、粒径分布(D50等)のみならず個数分布および体積分布のうち少なくともいずれかを含む。
重量割合は、試料中の所定の鉱物の重量の割合でもよいし、別の所定の鉱物に対する重量の割合でもよい。試料中の所定の鉱物の重量の割合の場合、濃度(例:g/トン)として表現してもよい。
評価対象として含有量を選択してもよい。本明細書における含有量は、所定の鉱物の絶対値的な重量を指す。
【0025】
評価工程を含む本実施形態の一具体例を以下に示す。
X線CT像により、輝度と該輝度を有する部分の出現の頻度(%)との関係を表すグレイレベルヒストグラムを得る。そしてこのグレイレベルヒストグラムから、試料中の各鉱物のうち所定輝度に対応する鉱物の頻度に基づき前記試料中の鉱物を評価する評価工程を行う。
【0026】
「グレイレベルヒストグラム」とは、例えば横軸を輝度(0~255すなわちグレイレベル)とし、縦軸を頻度(%)としたときの関係を表すヒストグラムである。
「頻度(%)」とは、X線CT像における輝度0~255の全部分に対する所定輝度部分の面積%のことである。
なお、本実施形態では8ビットグレースケール(256階調)を例示するが、16ビットグレースケール(65536階調)を採用しても構わない。
【0027】
例えば密度が最も大きい鉱物α(試料中では密度が最も大きい金属a含有)が存在する場合、横軸の輝度255のところに比較的高い頻度(ピーク)が出現することになる。仮に輝度255のところにピークが出現しなかった場合、最も255に近いピークを鉱物αに起因するものとみなす。そしてそのピークから左側(グレイレベルが低い側)直近のピークを鉱物βに起因するものとみなす。このようにしてグレイレベルヒストグラムにおけるピーク箇所と各鉱物種とを対応付けする。
【0028】
この対応付けが行われれば、輝度ごとすなわち鉱物種ごとに粒子データ(例:体積、球相当径、形状パラメータ)の把握が可能となる。粒子データが把握可能となれば、鉱物の粒度分布、重量割合および含有量のうち少なくともいずれかが把握可能となる。
本願明細書[0004]にて述べたように、MLAのような2次元の分析だと評価対象となる測定試料の重量が少ない。そのため、MLAで検出される着目鉱物の粒子が数個~数十個と少なくなり、MLAにて着目している鉱物の粒度分布や重量割合等を算出しようとしても、算出結果の正確性には限界がある。しかしながら本実施形態のようにX線CT測定を適用することにより、測定対象の3次元情報が取得でき、測定試料重量を多くできる。
また、従来のX線CTの用途との差異を際立たせるのならば、評価の内容には、鉱物の粒子の形状および結晶構造分析を除外してもよい。
【0029】
また、取得した粒度分布(例:個数分布および体積分布の少なくともいずれか)に基づいて試料中の所定の鉱物(ひいては所定の金属)の含有量を定量してもよい。鉱物の粒子の粒径ごとの粒度分布から各粒径ごとの粒子の体積を求めれば、鉱物種の同定により密度は既知であることから、X線CT測定にかけられた試料中における所定の鉱物(ひいては金属)の粒子データのうち体積のデータから含有量を定量可能となる。
【0030】
また、上記の手法にて得た定量結果と、同じ試料を分量したものに対して通常の化学分析を行って得た定量結果とを比較してもよい。上記の手法にて得た定量結果が化学分析での定量結果と差異がほとんどない場合は、上記の手法は従来の定量手法と遜色ない正確性を有することになる。
【0031】
なお、鉱物の密度の大小関係を取得するべくMLA測定を行っているが、このMLA測定の対象となる2次元(XY平面)部分には、試料中の鉱物(ひいては鉱物を構成する金属元素)が含まれていれば鉱物の同定が可能である。そして、通常、鉱物を含有する試料においては(例え熱硬化性樹脂による固結体であったとしても)、2次元(XY平面)部分には全ての種類の鉱物(ひいては鉱物を構成する金属元素)が存在する。そのため、MLAにて2次元(XY平面)部分しか測定できなくとも、X線CT測定によって測定対象の3次元情報が取得でき、しかもX線CT像における鉱物種の同定が可能であるため、何ら問題は無くなる。
【0032】
以上、本実施形態によれば、MLAを使用しつつも、一度のMLA測定の対象となる場合よりも測定試料重量を多くして測定可能であり、試料中の鉱物を速やかに評価できる。