(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】モノマー組成物、成形体、ボンド磁石、及び圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
C08F 220/18 20060101AFI20220405BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220405BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220405BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20220405BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220405BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20220405BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C08F220/18
C08K3/01
C08K3/08
C08L33/10
H01F1/057 180
H01F1/059 160
H01F1/26
(21)【出願番号】P 2021551579
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015883
【審査請求日】2021-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】平良 有紗
(72)【発明者】
【氏名】浦島 航介
(72)【発明者】
【氏名】前田 英雄
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-077902(JP,A)
【文献】特開2012-207077(JP,A)
【文献】特開2017-142496(JP,A)
【文献】特開2020-205455(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-301/00
C08L 1/00-101/16
H01F 1/057
H01F 1/059
H01F 1/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の成形体中の空隙へ含浸するためのモノマー組成物であって、
前記成形体は、金属粉末と、熱硬化性樹脂組成物と、を備え、
前記金属粉末は、永久磁石又は軟磁性体であり、
前記モノマー組成物は、ジシクロペンタン構造を有するアクリレート、ジシクロペンテン構造を有するアクリレート、ジシクロペンタン構造を有するメタクリレート、及びジシクロペンテン構造を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を備える、
モノマー組成物。
【請求項2】
前記モノマー組成物は、グリシジル基を有するアクリレート、及びグリシジル基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に備える、
請求項1に記載のモノマー組成物。
【請求項3】
前記モノマー組成物は、水酸基を有するアクリレート、及び水酸基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に備える、
請求項1又は2に記載のモノマー組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物は、グリシジル基、水酸基、アミド基、及びイミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のモノマー組成物。
【請求項5】
金属粉末と、
熱硬化性樹脂組成物と、
ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂と、
を備
え、
前記金属粉末は、永久磁石又は軟磁性体であり、
前記ジシクロペンタン構造及び前記ジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する前記樹脂は、アクリル樹脂である、
成形体。
【請求項6】
グリシジル基を有するアクリル樹脂を更に備える、
請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
水酸基を有するアクリル樹脂を更に備える、
請求項5又は6に記載の成形体。
【請求項8】
前記ジシクロペンタン構造及び前記ジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する前記樹脂は、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかの官能基を更に有する、
請求項5~
7のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項9】
前記ジシクロペンタン構造及び前記ジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する前記樹脂は、-CH(OH)-CH
2-を含む架橋構造を有する、
請求項5~
8のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項10】
前記ジシクロペンタン構造及び前記ジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する前記樹脂は、前記架橋構造を介して、前記熱硬化性樹脂組成物と結合されている、
請求項
9に記載の成形体。
【請求項11】
請求項5~
10のいずれか一項に記載の成形体を備え、
前記金属粉末は、Sm‐Fe‐N系磁石及びNd-Fe‐B系磁石のうち少なくともいずれかである、
ボンド磁石。
【請求項12】
請求項5~
10のいずれか一項に記載の成形体を備え、
前記金属粉末は、純鉄、及び鉄を含む合金のうち少なくともいずれかである、
圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、モノマー組成物、成形体、ボンド磁石、及び圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金(pоwder metallurgy)の製品として、ボンド磁石、圧粉磁心及び焼結磁心等の磁気部材、又は構造部材が製造されている。これらの製造過程では、高圧での金属粉末の成型により、成形体が形成される。成形体を構成する金属粉末中には空隙が形成され易いので、金属粉末から構成される成形体は多孔質である。従来、成形体の機械的強度の向上及び成形体への機能の付加のために、樹脂が成形体中の空隙へ含浸される。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載の金属材料の製造方法は、樹脂を多孔質の金属材料(焼結体)の空隙へ含浸する工程を含む。その結果、制振機能に優れた金属材料が得られる。下記特許文献2に記載のボンド磁石の製造方法は、エポキシ樹脂及びアクリレート化合物等を、磁石粉末から構成される成形体の空隙へ含浸する工程を含む。その結果、ボンド磁石における磁石粉末の脱離及び剥落が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-85004号公報
【文献】特開平4-27102号公報
【文献】特開2019-48948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属粉末を含む成形体(例えば、ボンド磁石及び圧粉磁心)は、その用途に応じて、耐環境性(例えば、高温での機械的強度)が要求される。近年、耐環境性の要求が高まる中、成形体の空隙に起因する成形体の機械的強度の不足が技術的課題として顕在化してきている。従来のボンド磁石及び圧粉磁心の場合、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂等の結着材(binder)を金属粉末と混合することにより、機械的強度が成形体へ付与される。また上述の通り、成形体の機械的強度の向上のために、樹脂が成形体中の空隙へ含浸される。
【0006】
樹脂は、ボンド磁石又は圧粉磁心中の微細な空隙へ効率的に含浸されることが望ましい。また、含浸用の樹脂がボンド磁石又は圧粉磁心に耐熱性(高温での機械的強度)を付与することが望ましい。しかし従来、ボンド磁石又は圧粉磁心に適した含浸用の樹脂はなかった。例えば、アクリル樹脂又はウレタン樹脂等の封止(seal)材を含浸に用いた場合、ボンド磁石及び圧粉磁心が十分な耐熱性(高温での機械的強度)を有することは困難であった。
【0007】
本発明の一側面の目的は、金属粉末を含む多孔質の成形体の高温での機械的強度を高めるモノマー組成物、成形体、ボンド磁石及び圧粉磁心を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るモノマー組成物(monomer cоmpоstiоn)は、多孔質の成形体(cоmpact)中の空隙(vоid)へ含浸(impregnate)するためのモノマー組成物である。成形体は、金属粉末と、熱硬化性樹脂組成物と、を含む。モノマー組成物は、ジシクロペンタン構造を有するアクリレート、ジシクロペンテン構造を有するアクリレート、ジシクロペンタン構造を有するメタクリレート、及びジシクロペンテン構造を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。
【0009】
本発明の一側面に係るモノマー組成物は、グリシジル基を有するアクリレート、及びグリシジル基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に含んでよい。
【0010】
本発明の一側面に係るモノマー組成物は、水酸基を有するアクリレート、及び水酸基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に含んでよい。
【0011】
熱硬化性樹脂組成物は、グリシジル基、水酸基、アミド基、及びイミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を含んでよい。
【0012】
本発明の一側面に係る成形体は、金属粉末と、熱硬化性樹脂組成物と、ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂と、を含む。
【0013】
本発明の一側面に係る成形体は、グリシジル基を有するアクリル樹脂を更に含んでよい。
【0014】
本発明の一側面に係る成形体は、水酸基を有するアクリル樹脂を更に含んでよい。
【0015】
ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂は、アクリル樹脂であってよい。
【0016】
ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂は、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかの官能基を更に有してよい。
【0017】
ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂は、-CH(OH)-CH2-を含む架橋構造を有してよい。
【0018】
ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち少なくともいずれかの構造を有する樹脂は、架橋構造を介して、熱硬化性樹脂組成物と結合されていてよい。
【0019】
金属粉末は、永久磁石又は軟磁性体(soft magnetic material)であってよい。
【0020】
本発明の一側面に係るボンド磁石は、上記の成形体を含み、成形体に含まれる金属粉末は、Sm‐Fe‐N系磁石及びNd-Fe‐B系磁石のうち少なくともいずれかである。
【0021】
本発明の一側面に係る圧粉磁心は、上記の成形体を含み、成形体に含まれる金属粉末は、純鉄、及び鉄を含む合金のうち少なくともいずれかである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面によれば、金属粉末を含む多孔質の成形体の高温での機械的強度を高めるモノマー組成物、成形体、ボンド磁石及び圧粉磁心が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、モノマー組成物が含浸されていない多孔質の成形体の一部の模式図(断面図)、及びモノマー組成物が含浸された成形体の一部の模式図(断面図)である。
【
図2】
図2は、成形体に含まれる熱硬化性樹脂組成物2(硬化物)の模式図である。
【
図3】
図3は、ジシクロペンタン構造、ジシクロペンテン構造、グリシジル基及び水酸基を有する樹脂(モノマー組成物の重合体)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートのうちいずれか一つ、又はアクリレート及びメタクリレートの両方を意味する。「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基及びメタクリル基のうちいずれか一つ、又はアクリル基及びメタクリル基の両方を意味する。
【0025】
本実施形態に係るモノマー組成物は、多孔質の成形体中の空隙へ含浸するためのモノマー組成物である。つまり、成形体中の多数の空隙の少なくとも一部又は全部が、モノマー組成物で満たされる。モノマー組成物は常温で液体であってよい。多孔質の成形体は、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含む。熱硬化性樹脂組成物は硬化物であってよい。モノマー組成物が含浸されていない成形体は、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物のみからなっていてよい。
図1中の成形体10Aは、モノマー組成物4Aが含浸されていない多孔質の成形体の一部分である。
図1中の成形体10Bは、モノマー組成物4Aが含浸された成形体の一部分である。各成形体内では、金属粉末を構成する複数の金属粒子1は、熱硬化性樹脂組成物2により互いに結着されている。各金属粒子1の表面の一部又は全体は、熱硬化性樹脂組成物2で覆われていてよい。モノマー組成物4Aが含浸されていない成形体10A内では、複数の空隙3が形成されている。空隙3は細孔(pоre)と言い換えられてよい。例えば、空隙3は、隣り合う複数の金属粒子1の間に形成されていてよい。一つの空隙3は、各金属粒子1を覆う熱硬化性樹脂組成物2により囲まれた空間であってよい。複数の空隙3は互いに連通してよい。成形体10Aの内部に形成された各空隙3は、成形体10Bの表面において開いた空隙3を介して、成形体10Aの外部と連通してよい。したがって、モノマー組成物4Aは、成形体10Aの表面において開いた空隙3を介して、成形体10Aの内部に形成された各空隙3へ含浸されてよい。例えば、成形体10A中の空隙3の寸法(細孔径)は、金属粉末の粒子径以下であってよい。例えば、成形体10A中の空隙3の寸法(細孔径)は、0.1μm以上100μm以下であってよい。ただし、成形体10A中の空隙3の寸法(細孔径)は限定されない。
【0026】
モノマー組成物4Aは、ジシクロペンタン構造を有するアクリレート、ジシクロペンテン構造を有するアクリレート、ジシクロペンタン構造を有するメタクリレート、及びジシクロペンテン構造を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。ジシクロペンタン構造は、下記化学式(1)で表される。ジシクロペンテン構造は、下記化学式(2)で表される。モノマー組成物4Aは、ジシクロペンタン構造又はジシクロペンタン構造を有する複数種の(メタ)アクリレートを含んでよい。モノマー組成物4Aは、ジシクロペンタン構造を有するアクリレート、ジシクロペンテン構造を有するアクリレート、ジシクロペンタン構造を有するメタクリレート、及びジシクロペンテン構造を有するメタクリレートの全てを含んでよい。説明の便宜のために、ジシクロペンタン構造及びジシクロペンテン構造のうち一方又は両方は、「環状架橋構造」(cyclic cross linking structure)と表記される。
【化1】
【化2】
【0027】
モノマー組成物4Aは、加熱により重合(ゲル化)する。環状架橋構造を有する上記の(メタ)アクリレートを含むモノマー組成物4Aの重合により、環状架橋構造を有する樹脂4B(ポリマー)が生成する。つまり、モノマー組成物4Aが各空隙3へ含浸された成形体10Bの加熱により、環状架橋構造を有する樹脂4Bが各空隙3内で生成し、各空隙3が環状架橋構造を有する樹脂4Bで満たされる。環状架橋構造を有する樹脂4Bは、アクリル樹脂であってよい。
環状架橋構造を有する樹脂4Bは、他のアクリル樹脂に比べて高いガラス転移点(Tg)を有し易いので、環状架橋構造を有する樹脂4Bを含む成形体10Bは、耐熱性に優れ、高温において高い機械的強度を有することができる。高温での成形体の機械的強度とは、例えば、100℃以上200℃以下である温度での成形体の機械的強度である。環状架橋構造自体は、他の官能基と反応しなくてよい。
成形体10B中の環状架橋構造は以下の方法により検出されてよい。
成形体10Bの粉砕により得られた粉末が、成形体10B中の金属粉末よりも比重(真比重)が小さい溶媒へ添加される。その結果、金属粉末は溶媒中で沈降し、金属粉末以外の成形体10Bの成分(樹脂成分)は、溶媒中に浮遊する。金属粉末と分離された樹脂成分を熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析で分析することにより、環状架橋構造が検出される。つまり、金属粉末と分離された樹脂成分は、分解装置により、分子量が小さい複数種の成分へ分解される。複数種の成分はガスクロマトグラフィーにより分離され、互いに分離された各成分の質量分析により、環状架橋構造に相当する成分(分子)が検出される。
【0028】
環状架橋構造を有する(メタ)アクリレートは、ジシクロペンテニルアクリレート(FA-511AS)、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(FA-512AS)、ジシクロペンタニルアクリレート(FA-513AS)、ジシクロペンテニルメタクリレート(FA-511M)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(FA-512MT)、及びジシクロペンタニルメタクリレート(FA-513M)からなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートであってよい。上記の括弧内の表記は、昭和電工マテリアルズ株式会社製の商品名である。
【0029】
モノマー組成物4Aは、グリシジル基を有するアクリレート、及びグリシジル基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に含んでよい。モノマー組成物4Aは、水酸基を有するアクリレート、及び水酸基を有するメタクリレートのうち少なくともいずれかを更に含んでよい。モノマー組成物4Aは、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、及び水酸基を有する(メタ)アクリレートの両方を更に含んでよい。環状架橋構造を有する樹脂4Bは、環状架橋構造を有する(メタ)アクリレート及びグリシジル基を有する(メタ)アクリレートから形成される共重合体であってよい。環状架橋構造を有する樹脂4Bは、環状架橋構造を有する(メタ)アクリレート及び水酸基を有する(メタ)アクリレートから形成される共重合体であってもよい。環状架橋構造を有する樹脂4Bは、環状架橋構造を有する(メタ)アクリレート、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、及び水酸基を有する(メタ)アクリレートから形成される共重合体であってもよい。
モノマー組成物4Aのラジカル重合により、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかを有するアクリル樹脂(架橋体)が生成する。モノマー組成物4Aが、2個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能(メタ)アクリレートを含む場合、ラジカル重合により、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかを有するアクリル樹脂(架橋体)が生成し易い。ラジカル重合によって生成したアクリル樹脂の更なる加熱により、アクリル樹脂が有するグリシジル基同士の架橋反応が起きてよい。ラジカル重合によって生成したアクリル樹脂の更なる加熱により、アクリル樹脂が有するグリシジル基とアクリル樹脂が有する水酸基との架橋反応が起きてもよい。
図3に示されるように、上記の架橋反応により、環状架橋構造を有する樹脂4Bは、網目状に互いに架橋されたアクリル樹脂6から構成される強固な構造を有することができる。つまり、環状架橋構造を有する樹脂4Bは、-CH(OH)-CH
2-を含む架橋構造(グリシジル基に由来する架橋構造)を更に有することができる。その結果、成形体10Bの耐熱性が向上し易く、高温での成形体10Bの機械的強度が増加し易い。
ラジカル重合によって生成したアクリル樹脂及び熱硬化性樹脂組成物の加熱により、アクリル樹脂中のグリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかが、熱硬化性樹脂組成物中の官能基と反応してよい。その結果、架橋構造がアクリル樹脂と熱硬化性樹脂組成物との間に形成されてよい。
【0030】
(メタ)アクリレートが有するグリシジル基の一部は、他の官能基と反応することなく成形体10B中に残存してよい。つまり、成形体10Bは、グリシジル基を有するアクリル樹脂を更に含んでよい。(メタ)アクリレートが有する水酸基の一部は、他の官能基と反応することなく成形体10B中に残存してよい。つまり、成形体10Bは、水酸基を有するアクリル樹脂を更に含んでよい。環状架橋構造を有する樹脂4Bは、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれかの官能基を更に有してよい。
【0031】
グリシジル基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、グリシジルメタクリレート及びグリシジルアクリレートのうち少なくともいずれかの(メタ)アクリレートであってよい。
水酸基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート及び2-ヒドロキシメチルアクリレートのうち少なくともいずれかの(メタ)アクリレートであってよい。
【0032】
モノマー組成物4Aが成形体10Aへ含浸される前、成形体10A中の熱硬化性樹脂組成物2は、エポキシ基、グリシジル基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、カルボキシ基及び酸無水物基(-(C=O)-O-(C=O)-)からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を含んでよい。例えば、エポキシ基及びグリシジル基は、エポキシ樹脂に由来してよい。例えば、水酸基は、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうち少なくともいずれかに由来してよい。
図2に示されるように、熱硬化性樹脂組成物2は、網目状に互いに架橋されたエポキシ樹脂5から構成されてよく、架橋(熱硬化)後に残存した未反応のグリシジル基及び水酸基を含んでよい。例えば、アミド基は、ポリアミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂のうち少なくともいずれかに由来してよい。例えば、イミド基は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びビスマレイミド樹脂のうち少なくともいずれかに由来してよい。
モノマー組成物4Aの重合に伴って、モノマー組成物4A又はその重合体に含まれるグリシジル基は、熱硬化性樹脂組成物2に含まれる上記官能基と反応して、-CH(OH)-CH
2-を含む架橋構造が形成されてよい。モノマー組成物4Aの重合に伴って、モノマー組成物4A又はその重合体含まれる水酸基が、熱硬化性樹脂組成物2に含まれるグリシジル基と反応して、-CH(OH)-CH
2-を含む架橋構造が形成されてよい。つまり、環状架橋構造を有する樹脂4Bは、-CH(OH)-CH
2-を含む架橋構造を介して熱硬化性樹脂組成物2と結合(一体化)されてよい。その結果、成形体10Bの耐熱性が向上し易く、高温での成形体10Bの機械的強度が増加し易い。
【0033】
モノマー組成物4Aが空隙3へ含浸され易いことから、モノマー組成物4Aは低粘度の(メタ)アクリレートを更に含んでよい。例えば、低粘度の(メタ)アクリレートは、ステアリルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート)、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、ラウリルメタクリレート、及びベンジルメタクリレート(FA-BZM、昭和電工マテリアルズ株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートであってよい。
【0034】
モノマー組成物4Aの重合に伴って架橋構造が形成され易いことから、モノマー組成物4Aは、2個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能(メタ)アクリレートを更に含んでよい。例えば、多官能(メタ)アクリレートは、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルジメタクリレート、メトキシジエチレングリコールジメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールジメタクリレート、及びメトキシジエチレングリコールジメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートであってよい。
【0035】
成形体10Bが柔軟性(可撓性)を有し易いことから、モノマー組成物4Aは、比較的長いアルキル鎖を有する(メタ)アクリレートを更に含んでよい。例えば、アルキル鎖を有する(メタ)アクリレートは、ラウリルメタクリレート及びドデシルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートであってよい。
【0036】
モノマー組成物4Aを加熱により重合(ゲル化)するために、モノマー組成物4Aは、熱ラジカル重合開始剤を含んでよい。例えば、熱ラジカル重合開始剤は、アゾ化合物、及び過酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。熱ラジカル発生時にガスの発生を伴わないことから、熱ラジカル重合開始剤は、好ましくは有機過酸化物であってよい。(メタ)アクリルレート(モノマー)に溶解する有機過酸化物が使用可能である。有機過酸化物は、好ましくは常温で液体であってよい。例えば、有機過酸化物は、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト(パーブチルO、日本油脂株式会社製の商品名)及びラウリルパーオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。
【0037】
例えば、モノマー組成物4Aは、環状架橋構造を有する(メタ)アクリレート、低粘度の(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び熱ラジカル重合開始剤の混合により調製されてよい。熱ラジカル重合開始剤は、モノマー組成物4Aが成形体10Aへ含浸される直前に、モノマー組成物4Aへ配合されてもよい。
【0038】
モノマー組成物4Aに含まれる全ての(メタ)アクリレートの質量の合計は、100質量部と表されてよく、100質量部の(メタ)アクリレートに対する熱ラジカル開始剤の質量の割合は、0.1質量部以上5質量部以下、好ましくは1質量部以上2質量部以下であってよい。
【0039】
モノマー組成物4Aを構成する複数種の(メタ)アクリレート其々の組成及び混合比に基づき、モノマー組成物4Aの粘度が調整されてよい。25℃でのモノマー組成物4Aの粘度は、好ましくは1mPa・s以上200mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以上100mPa・s以下、最も好ましくは20mPa・s以上90mPa・s以下であってよい。モノマー組成物4Aが上記のような比較的低い粘度を有することに因り、モノマー組成物4Aを成形体10A中の微細な空隙3へ容易に含浸することができる。
【0040】
モノマー組成物4Aは、以下の方法により、多孔質の成形体10A内の空隙3へ含浸されてよい。多孔質の成形体10Aの全体は、内部を減圧可能な容器に容れられたモノマー組成物4A中に浸漬される。続く容器内の減圧により、成形体10A内の空隙を満たす気体が成形体10Aの外へ除去される。成形体10Aからの気体の除去後、容器内の気圧が大気圧に戻される。以上の方法により、モノマー組成物4Aが、多孔質の成形体10Aの空隙3へ含浸される。容器内の減圧操作及び大気圧開放の回数は、1回であってよい。複数回の減圧操作及び大気圧開放が交互に繰り返されてもよい。
【0041】
モノマー組成物4Aが含浸された成形体10Bの第一加熱処理により、モノマー組成物4Aの熱重合(環状架橋構造を有する樹脂4Bの生成)、環状架橋構造を有する樹脂4B内での架橋反応、及び環状架橋構造を有する樹脂4Bと熱硬化性樹脂組成物2との間の架橋反応が起きてよい。成形体10Bの第一加熱処理の温度は、モノマー組成物4A中の熱ラジカル重合開始剤の分解温度に略等しくてよい。成形体10Bの第一加熱処理の温度及び所要時間は、熱ラジカル重合開始剤の組成に依って異なる。例えば、成形体10Bの第一加熱処理の温度は、40℃以上120℃以下、好ましくは60℃以上110℃以下、より好ましくは80℃以上100℃以下であってよい。成形体10Bの第一加熱処理の所要時間は、30分以上、好ましくは1時間以上であってよい。
【0042】
モノマー組成物4Aが、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、及び水酸基を有する(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかを含む場合、上記の第一加熱処理の後に成形体10Bの第二加熱処理が実施されてよい。成形体10Bの第二加熱処理の温度は、150℃以上210℃以下、好ましくは180℃以上200℃以下であってよい。成形体10Bの第二加熱処理の所要時間は、10分以上60分以下であってよい。成形体10Bの第二加熱処理により、成形体10Bの機械的強度を更に高めることが可能である。
【0043】
下記数式1で定義されるモノマー組成物4Aの含浸量Rmは、0.1質量%以上5.0質量%以下、又は0.57質量%以上1.3質量%以下であってよい。数式1中のMBは、モノマー組成物4Aが含浸された成形体10Bの質量である。MBは、環状架橋構造を有する樹脂4Bを含む成形体10Bの質量と言い換えられてよい。数式1中のMAは、モノマー組成物4Aが含浸される前の多孔質の成形体10Aの質量である。モノマー組成物4Aの含浸量が上記範囲内である場合、成形体10Bの磁性又は軟磁気特性と高温での成形体10Bの機械的強度が両立し易い。
Rm=(MB-MA)÷MB×100 (1)
【0044】
金属粉末は永久磁石であってよい。例えば、永久磁石は、サマリウム-コバルト(Sm-Co)系合金磁石、ネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系合金磁石、サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系合金磁石、鉄-コバルト(Fe-Co)系合金磁石、又はAl-Ni-Co系合金磁石(アルニコ磁石)であってよい。金属粉末が永久磁石である場合、金属粉末の粒径は、例えば、20μm以上300μm以下、又は40μm以上250μm以下であってよい。
本実施形態に係るボンド磁石は、永久磁石の粉末(例えば、Sm‐Fe‐N系磁石及びNd-Fe‐B系磁石のうち少なくともいずれか)、熱硬化性樹脂組成物2、及び環状架橋構造を有する樹脂4Bを含む成形体10Bであってよい。
【0045】
金属粉末は軟磁性体であってもよい。軟磁性体である金属粉末は、例えば、純鉄、及び鉄を含む合金からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属であってよい。鉄を含む合金は、例えば、Fe-Cr系合金(ステンレス鋼)、Fe-Ni-Cr系合金(ステンレス鋼)、Fe-Si系合金、Fe-Si-Al系合金(センダスト)、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Cu-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Co系合金(パーメンジュール)、Fe-Cr-Si系合金(電磁ステンレス鋼)、及びFe-Ni-Mn-C系合金(インバー)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属であってよい。軟磁性体である金属粉末は、アモルファスであってよい。軟磁性体である金属粉末は、Feアモルファス合金であってもよい。軟磁性体である金属粉末は、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉のうち少なくともいずれかであってもよい。金属粉末が軟磁性体である場合、金属粉末の粒径は、例えば、60μm以上150μm以下であってよい。
本実施形態に係る圧粉磁心は、上記の軟磁性体の粉末(例えば、純鉄、及び鉄を含む合金のうち少なくともいずれか)、熱硬化性樹脂組成物2、及び環状架橋構造を有する樹脂4Bを含む成形体10Bであってよい。圧粉磁心は、例えば、インダクタ、変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ(EMIフィルタ)、チョークコイル、モータ用鉄心、一般家電機器及び産業機器用モータのロータ及びヨーク、ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの電子制御式燃料噴射装置に組み込まれる電磁弁用のソレノイドコア(固定鉄心)、位置センサ、並びに、磁歪式センサに用いられてもよい。
【0046】
金属粉末は、複数種の金属元素を含んでよい。例えば、金属粉末は、上記の元素に加えて、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。例えば、金属粉末は、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)及び銀(Ag)、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。
【0047】
成形体10A(成形体10B)は、一種の金属粉末を含んでよく、複数種の金属粉末を含んでもよい。例えば成形体10A(成形体10B)は、平均粒径又はメジアン径(D50)において異なる複数種の金属粉末を含んでよい。金属粉末を構成する個々の金属粒子1の形状は、特に限定されない。個々の金属粒子1は、例えば、球状、扁平、又は針状であってよい。金属粉末の粒度は、篩分けによる金属粒子の重量測定に基づいて算出されてよい。金属粉末の粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定されてもよい。成形体10A(成形体10B)は、上記の金属粉末に加えて、無機フィラー(例えば、シリカ(SiO2)粒子)を更に含んでよい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物2は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含んでよい。熱硬化性樹脂組成物2は、上記の熱硬化性樹脂に加えて、更にポリアミド樹脂(熱可塑性樹脂)を含んでもよい。熱硬化性樹脂に含まれる官能基が、環状架橋構造を有する樹脂4Bのグリシジル基及び水酸基のうちいずれかと反応して、架橋構造(-CH(OH)-CH2-)が形成されてよい。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂は、グリシジル基及び水酸基のうち少なくともいずれか一つの官能基を有してよい。熱硬化性樹脂のグリシジル基が、環状架橋構造を有する樹脂4Bのグリシジル基及び水酸基のうちいずれかと反応して、架橋構造(-CH(OH)-CH2-)が形成されてよい。熱硬化性樹脂の水酸基が、環状架橋構造を有する樹脂4Bのグリシジル基と反応して、架橋構造(-CH(OH)-CH2-)が形成されてもよい。環状架橋構造を有する樹脂4Bと熱硬化性樹脂との間の架橋構造に因り、高温での成形体10Bの機械的強度が更に高まり易い。同様の理由から、熱硬化性樹脂組成物2中のポリアミド樹脂の官能基(例えば、アミド基)が、環状架橋構造を有する樹脂4Bのグリシジル基と反応して、架橋構造(-CH(OH)-CH2-)が形成されてよい。
【0049】
例えば、エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってよい。
【0050】
例えば、フェノール樹脂は、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってよい。フェノール樹脂は、2種以上の上記樹脂から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂は、硬化剤としてエポキシ樹脂と共に熱硬化性樹脂組成物2に含まれてよい。
【0051】
フェノールノボラック樹脂(ノボラック型フェノール樹脂)は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0052】
フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0053】
エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率は、0.5以上1.5以下、0.9以上1.4以下、1.0以上1.4以下、又は1.0以上1.2以下であってよい。つまり、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するフェノール樹脂中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5当量以上1.5当量以下、より好ましくは0.9当量以上1.4当量以下、さらに好ましくは1.0当量以上1.4当量以下、特に好ましくは1.0当量以上1.2当量以下であってよい。
【0054】
例えば、ビスマレイミド樹脂は、ポリマレイミド類(a)とアミノフェノール類(b)との付加反応物と、エポキシ化合物(c)とを含んでよい。ポリマレイミド類(a)及びアミノフェノール類(b)の反応により付加反応物が得られ、付加反応物にエポキシ化合物(c)を添加することにより、ビスマレイミド樹脂が得られてよい。
【0055】
ビスマレイミド樹脂を構成する上記ポリマレイミド類(a)は、下記化学式(A)で表される。
【化3】
化学式(A)中のR
1はn価の有機基である。X
1及びX
2其々は、水素若しくはハロゲンから選ばれる1価の原子、又は1価の有機基である。X
1及びX
2は同一であってよく、X
1及びX
2は互いに異なってもよい。化学式(A)中のnは2以上の整数である。
【0056】
ポリマレイミド類(a)は、例えば、エチレンビスマレイミド、ヘキサメチレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、4,4’-ジシクロヘキシルメタンビスマレイミド、m-キシリレンビスマレイミド、p-キシリレンビスマレイミド、及び4,4’-フェニレンビスマレイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。必要に応じて、上記のポリマレイミド類(a)とモノマレイミド類がビスマレイミド樹脂に含まれてよい。モノマレイミド類は、例えば、N-3-クロロフェニルマレイミド、又はN-4-ニトロフェニルマレイミドであってよい。
【0057】
ビスマレイミド樹脂を構成する上記アミノフェノール類(b)は、下記化学式(B)で表される。
【化4】
化学式(B)中の式中R
2は、水素若しくはハロゲンから選ばれる1価の原子、又は1価の有機基である。化学式(B)中のmは、1~5の整数である。
【0058】
アミノフェノール類(b)は、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-アミノクレゾール、m-アミノクレゾール、p-アミノクレゾール、アミノキシレノール、アミノクロルフェノール、アミノブロムフェノール、アミノカテコール、アミノレゾルシン、アミノビス(ヒドロキシフェノール)プロパン及びアミノオキシ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。
【0059】
ビスマレイミド樹脂を構成する上記エポキシ化合物(c)は、分子内に2個以上のエポキシ基を有する。エポキシ化合物(c)は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸のグリシジルエステル樹脂、ポリオールのポリグリシジルエーテル、ウレタン変性エポキシ樹脂、不飽和化合物をエポキシ化した脂肪酸型のポリエポキシド、不飽和化合物をエポキシ化した脂環型のポリエポキシド、複素環を有するエポキシ樹脂、異節環を有するエポキシ樹脂、及びアミンをグリシジル化したエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。
【0060】
上述のポリマレイミド類(a)及びアミノフェノール類(b)の反応により、付加反応物が得られる。アミノフェノール類(b)の質量の割合は、100質量部のポリマレイミド類(a)に対して、5~40質量部、好ましくは10~30質量部であってよい。ポリマレイミド類(a)及びアミノフェノール類(b)の反応温度は例えば、50~200℃、好ましくは80~180℃であってよい。ポリマレイミド類(a)及びアミノフェノール類(b)の反応時間は、数分から数十時間の範囲内で適宜調整されてよい。
【0061】
ビスマレイミド樹脂中の上記付加反応物の含有量は、30~80質量%であってよい。
【0062】
ビスマレイミド樹脂は、例えば、KIR-30、KIR-50及びKIR-100から選ばれる少なくとも一種の樹脂(以上、京セラ株式会社製の商品名)であってよい。
【0063】
例えば、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸無水物と4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルの脱水重縮合物であってよい。ポリイミド樹脂は、オーラムPL450C、オーラムPL500A、オーラムPL6200、オーラムPD450L(以上、三井化学株式会社製の商品)、SolverPI-5600(ソルバー社製の商品)及びサープリム(三菱ガス化学株式会社製の商品)から選ばれる少なくとも一種の樹脂であってよい。
例えば、ポリアミド樹脂は、εカプロラクタムから得られるナイロン6の粒子、及びラウリルラクタムから得られるナイロン12の粒子のうち少なくともいずれかであってよい。例えば、ポリアミド樹脂は、ナイロン6からなる粒子(東レ株式会社製のTR-1及びTR-2)、並びにナイロン12からなる粒子(東レ株式会社製のSP-500及びSP-10)からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってよい。
例えば、ポリアミドイミド樹脂は、シロキサン構造を有するポリアミドイミド樹脂であってよい。ポリアミドイミド樹脂は、当該ポリアミドイミドの分子鎖の両末端のうち少なくとも一方の末端に2個以上のカルボキシ基を有してよい。ポリアミドイミド樹脂のカルボキシ基が、モノマー組成物4A又はその重合体に含まれるグリシジル基と反応して、-CH(OH)-CH2-を含む架橋構造が形成されてよい。ポリアミドイミド樹脂は、特開2019-48948号公報に記載のポリアミドイミド樹脂であってよい。
【0064】
熱硬化性樹脂組成物2は、上述された複数種の熱硬化性樹脂を含んでよい。熱硬化性樹脂組成物2は、上記の熱硬化性樹脂に加えて、他の樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)を更に含んでよい。例えば、熱硬化性樹脂組成物2は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の他の樹脂を更に含んでよい。
【0065】
熱硬化性樹脂組成物2は、上記の熱硬化性樹脂に加えて、硬化剤、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤)、及び添加剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を更に含んでよい。添加剤は、例えば、硬化促進剤(硬化触媒)、難燃剤、ワックス(潤滑剤)及び有機溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であってよい。
【0066】
成形体10A(成形体10B)中の金属粉末の含有量は、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物2の総質量(100質量%)に対して、95質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは96質量%以上99質量%以下であってよい。金属粉末の含有量が上記範囲内である場合、成形体10Bの磁性又は軟磁気特性と高温での成形体10Bの機械的強度が両立し易い。
【0067】
多孔質の成形体10A(モノマー組成物4Aが含浸される前の成形体10A)は、以下の方法により製造されてよい。
【0068】
上述の熱硬化性樹脂組成物の原料を有機溶媒に溶解することにより、熱硬化性樹脂組成物の溶液が得られる。有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒であってよい。金属粉末を熱硬化性樹脂組成物の溶液へ添加して、金属粉末を熱硬化性樹脂組成物の溶液中に分散させる。金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含む溶液の減圧留去及び乾燥により、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含む溶液から有機溶媒が除去される。その結果、金属粉末を構成する個々の金属粒子の表面が熱硬化性樹脂組成物で被覆され、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含むコンパウンド(粉末)が得られる。無機フィラーを含むコンパウンドを製造する場合、無機フィラーは金属粉末と共に熱硬化性樹脂組成物の溶液へ添加されてよい。カップリング剤による金属粉末及び無機フィラー其々の表面処理が予め実施されていてよい。飽和脂肪酸塩等の潤滑剤がコンパウンドへ添加されてもよい。
【0069】
金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含む溶液から有機溶媒が除去する工程では、エバポレーターを用いて、溶液を撹拌しながら常温で有機溶媒の減圧留去を行うことが好ましい。減圧留去により得られた固形物を減圧乾燥機などで更に乾燥した後、適宜、固形物を粉砕することにより、コンパウンドを得てよい。減圧留去の代わりに、ニーダなどで上記溶液を撹拌しながら常圧留去を行ってよい。留去により得られた固形物の乾燥方法として、加熱は好ましくない。ただし、80℃以下、好ましくは60℃以下での固形物の加熱により、固形物を乾燥してもよい。
【0070】
上述されたコンパウンドの作製方法には溶媒が用いられるが、溶媒を用いずにコンパウンドが作製されてもよい。つまり、溶媒を用いないドライ混合により、コンパウンドが作製されてもよい。例えば、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物が、密閉容器内において常温及び常圧で混合されてよい。
【0071】
金型内に充填された上記コンパウンドの圧縮成型により、成形体が得られる。成型圧力は、例えば、500MPa以上2500MPa以下、又は700MPa以上2000MPa以下であってよい。成形体の密度は、金属粉末の真密度に対して、好ましくは75%以上90%以下、より好ましくは80%以上90%以下であってよい。成形体の密度が金属粉末の真密度に対して上記範囲内である場合、成形体の磁性又は軟磁気特性と高温での成形体の機械的強度が向上し易い。
【0072】
成形体の熱処理により、成形体中の熱硬化性樹脂組成物が硬化されてよい。成形体中の金属粒子を熱硬化性樹脂組成物の硬化物で互いに結着することに因り、高い機械的強度を有する成形体が得られ易い。成形体の熱処理温度は、熱硬化性樹脂組成物が十分に硬化する温度であればよい。成形体の熱処理温度は、例えば、150℃以上450℃以下、好ましくは200℃以上350℃以下であってよい。熱処理の雰囲気は、大気(好ましくは、乾燥した大気)又は不活性雰囲気(例えば窒素)であってよい。成形体中の金属粉末の酸化を抑制するために、不活性雰囲気下で成形体の熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度が高過ぎる場合、製造過程に不可避的に成形体中に含まれる微量の酸素により、金属粉末が酸化され易く、熱硬化性樹脂組成物が劣化し易い。また、金属粉末の酸化及び熱硬化性樹脂組成物の劣化を抑制するために、上記の熱処理温度を保持する時間は、数分以上4時間以下、好ましくは15分以上3時間以下であってよい。
【0073】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例】
【0074】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
ジシクロペンタニルメタクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製の「FA-513M」)、グリシジルメタクリレート(共栄化学株式会社製の「ライトエステルG」)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(富士フィルム和光株式会社製の商品)、ドデシルメタクリレート(富士フィルム和光株式会社製の商品)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ダイセル株式会社製の「EBECRYL 40」)、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイト(日油株式会社製の「パーブチルO」)をポリ瓶(Plastic bottle)中において室温で混合することにより、実施例1のモノマー組成物が作製された。モノマー組成物は室温で液体であった。モノマー組成物を構成する各成分の質量は、下記表1に示される。ポリ瓶の容積は、250mlであった。
【0076】
実施例1のモノマー組成物の粘度が25℃で測定された。粘度の測定には、Anton Paar社製レオメータMCR301が用いられた。モノマー組成物の粘度は、下記表1に示される。
【0077】
金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物を含むコンパウンドの圧縮成型及び加熱(熱硬化性樹脂組成物の硬化)により、実施例1の多孔質の成形体が作製された。金属粉末としては、Nd-Fe-B系合金粉末が用いられた。Nd-Fe-B系合金粉末は、マグネクエンチ社(Magnequench International, LLC)製のMQP-Bであった。Nd-Fe-B系合金粉末の平均粒子径は、100μmであった。熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を含んでいた。成形体はリング状(円筒状)であった。成形体の寸法は、外径25mm×内径21mm×厚さ3mmであった。成形体中の金属粉末の含有量は、下記表1に示される。成形体中の金属粉末の含有量は、金属粉末及び熱硬化性樹脂組成物の質量の合計に対する金属粉末の質量の割合を意味する。
【0078】
多孔質の成形体の寸法から、成形体の体積が算出された。多孔質の成形体の質量が電子天秤で測定された。成形体の質量を成形体の体積で割ることにより、多孔質の成形体の密度が算出された。実施例1の多孔質の成形体の密度は、下記表1に示される。
【0079】
以下の方法により、モノマー組成物が多孔質の成形体の空隙へ含浸された。
モノマー組成物の含浸前に、多孔質の成形体の質量MAが測定された。多孔質の成形体及びモノマー組成物がステンレス製の角型容器に収容され、多孔質の成形体の全体がモノマー組成物中に浸漬された。成形体及びモノマー組成物が収容された角型容器が、真空デシケータ内に配置された。真空デシケータの内部が真空ポンプで徐々に減圧された。減圧に伴う成形体からの気泡の発生が見られなくなるまで真空デシケータの内部を減圧した後、真空デシケータが30分間放置された。30分の経過後、真空デシケータの内部を徐々に大気開放し、真空デシケータの内部の気圧が約30分間で常圧に戻された。成形体がモノマー組成物から取り出され、成形体の表面に付着したモノマー組成物がふき取られ、成形体がポリテトラフルオロエチレン製のシート上に設置された。防爆型恒温槽内で成形体を90℃で1時間加熱することにより、成形体中に含浸されたモノマー組成物を重合させた。その後、成形体が180℃で30分間更に加熱された。防爆型恒温槽としては、ESPEC Corp.の製品が用いられた。
以上の方法により、モノマー組成物の重合体(環状架橋構造を有するアクリル樹脂)を含む成形体が得られた。環状架橋構造を有するアクリル樹脂を含む成形体の質量MBが測定された。下記数式1で定義されるモノマー組成物の含浸量Rmが算出された。実施例1のモノマー組成物の含浸量Rmは、下記表1に示される。
Rm=(MB-MA)÷MB×100 (1)
【0080】
以下の方法により、環状架橋構造を有するアクリル樹脂を含む成形体の圧環強度が測定された。
万能圧縮試験機を用いて、リング状の成形体の中心軸線に垂直な方向において、圧縮圧力が成形体の側面に印加された。圧縮圧力を増加させて、成形体が破壊された時の圧縮圧力が測定された。成形体が破壊された時の圧縮圧力は、圧環強度(単位:MPa)を意味する。万能圧縮試験機としては、株式会社島津製作所製のAG-10TBRが用いられた。圧壊強度の測定におけるクロスヘッドの速度は、1mm/分であった。室温(25℃)の大気中での圧環強度、及び150℃の大気中での圧環強度が測定された。実施例1の圧環強度は、下記表1に示される。
【0081】
(実施例2~9及び比較例1~5)
実施例4のモノマー組成物の作製では、ジシクロペンタニルメタクリレート(FA-513M)の代わりに、ジシクロペンテニルアクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製の「FA-511A」)が用いられた。
実施例5のモノマー組成物の作製では、ジシクロペンタニルメタクリレート(FA-513M)の代わりに、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製の「FA-512MT」)が用いられた。
比較例1~3では、其々のモノマー組成物は作製されなかった。
比較例4及び5其々のモノマー組成物の作製では、FA-513M、FA-511A、FA-512MTのいずれも用いられなかった。つまり、比較例4及び5其々のモノマー組成物は、環状架橋構造を有する(メタ)アクリレートを含んでいなかった。
比較例4のモノマー組成物は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイトからなる混合物であった。
比較例5のモノマー組成物は、メチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエイトからなる混合物であった。
実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物を構成する各成分の質量は、下記表1に示される。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物其々の粘度が測定された。実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物其々の粘度は、下記表1に示される。
【0082】
実施例7~9、比較例3及び5其々の多孔質の成形体の作製では、金属粉末として、Nd-Fe-B系合金粉末の代わりに純鉄粉が用いられた。純鉄粉としては、ヘガネスAB社製の商品(Somaloy500H)が用いられた。純鉄粉の平均粒径は、75μmであった。実施例7~9、比較例3及び5其々のリング状の成形体の寸法は、外径30mm×内径20mm×厚さ5mmであった。
実施例2~9及び比較例1~5其々の多孔質の成形体中の金属粉末の含有量は、各表1に示される。
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~9及び比較例1~5其々の多孔質の成形体が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~9及び比較例1~5其々の多孔質の成形体の密度が測定された。実施例2~9及び比較例1~5其々の多孔質の成形体の密度は、下記表1に示される。
【0083】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、モノマー組成物の重合体を含む実施例2~9、比較例4及び5其々の成形体が得られた。実施例1と同様の方法で、実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物の含浸量Rmが算出された。実施例2~9、比較例4及び5其々のモノマー組成物の含浸量Rmは、下記表1に示される。実施例1と同様の方法で、実施例2~9及び比較例1~5其々の成形体の圧環強度が測定された。ただし、比較例1~3其々の成形体の圧環強度は、モノマー組成物が含浸されていない多孔質の成形体の圧環強度を意味する。実施例2~9及び比較例1~5其々の成形体の圧環強度は、下記表1に示される。
【0084】
【0085】
金属粉末の組成が共通する実施例1~6、比較例1、2及び4が比較された。実施例1~6其々の25℃での圧環強度は、比較例1、2及び4其々の25℃での圧環強度よりも高かった。実施例1~6其々の150℃での圧環強度は、比較例1、2及び4其々の150℃での圧環強度よりも高かった。
【0086】
金属粉末の組成が共通する実施例7~9、比較例3及び5が比較された。実施例7~9其々の25℃での圧環強度は、比較例3及び5其々の25℃での圧環強度よりも高かった。実施例7~9其々の150℃での圧環強度は、比較例3及び5其々の150℃での圧環強度よりも高かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
例えば、本発明の一側面に係るモノマー組成物は、ボンド磁石又は圧粉磁心の原料に用いられる。
【符号の説明】
【0088】
1…金属粉末を構成する金属粒子、2…熱硬化性樹脂組成物、3…空隙、4A…モノマー組成物、4B…環状架橋構造を有する樹脂(モノマー組成物の重合体)、10A…多孔質の成形体、10B…モノマー組成物が含浸された成形体(環状架橋構造を有する樹脂を含む成形体)。
【要約】
モノマー組成物は、多孔質の成形体中の空隙へ含浸するためのモノマー組成物である。成形体は、金属粉末と、熱硬化性樹脂組成物と、を含む。モノマー組成物は、ジシクロペンタン構造を有するアクリレート、ジシクロペンテン構造を有するアクリレート、ジシクロペンタン構造を有するメタクリレート、及びジシクロペンテン構造を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。