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特許7053011ゲル添加剤の製造方法およびゲル添加剤の利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ゲル添加剤の製造方法およびゲル添加剤の利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
G01N27/447 315F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018039090
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019152583
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小原 政信
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-248460(JP,A)
【文献】特開2009-168450(JP,A)
【文献】特開2012-237709(JP,A)
【文献】特表平07-508833(JP,A)
【文献】米国特許第05192408(US,A)
【文献】特開昭58-213001(JP,A)
【文献】特表平07-502416(JP,A)
【文献】特開2006-180812(JP,A)
【文献】特開2004-244361(JP,A)
【文献】特開平07-113785(JP,A)
【文献】特開2005-241477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコマンナン水溶液に活性炭を加えて不純物を除去する工程を含む、核酸電気泳動用ゲル添加剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゲル添加剤の製造方法により得られる、核酸電気泳動用ゲル添加剤。
【請求項3】
ゲル基材として少なくともアガロースを含むスラブ型電気泳動用ゲルであって、
グルコマンナンを0.1重量%以上含むことを特徴とする、スラブ型電気泳動用ゲル。
【請求項4】
前記ゲル基材を0.5重量%以上含むことを特徴とする、請求項3に記載のスラブ型電気泳動用ゲル。
【請求項5】
請求項3または4に記載のスラブ型電気泳動用ゲルを用いることを特徴とする、電気泳動方法。
【請求項6】
請求項2に記載の核酸電気泳動用ゲル添加剤を備える核酸電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル添加剤の製造方法およびゲル添加剤の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸またはタンパク質をそれらのサイズ(すなわち分子量)に応じて分離する場合には、ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル等のゲルを用いた電気泳動方法が主に行われる。ゲルの作製の際には、ゲルの分離能に応じて好適なゲル濃度に調整する必要があり、操作が非常に煩雑である。このため、高い分離能を有する電気泳動用ゲルを簡便に得る方法が求められ、種々検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒドロキシエチル化することにより融点を低くしたアガロースを用いて電気泳動用ゲルを作製し、当該電気泳動用ゲルを0.1~3kbp程度の低分子DNAの分離に使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第4319975号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルを簡便に得るという観点からは改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルが得られるゲル添加剤を簡易に製造する方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、特定の工程を含む製造方法によって、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルが得られるゲル添加剤を簡易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
〔1〕グルコマンナン水溶液に活性炭を加えて不純物を除去する工程を含む、ゲル添加剤の製造方法。
〔2〕〔1〕に記載のゲル添加剤の製造方法により得られる、ゲル添加剤。
〔3〕ゲル基材として少なくともアガロースを含む電気泳動用ゲルであって、
グルコマンナンを0.1重量%以上含むことを特徴とする、電気泳動用ゲル。
〔4〕前記ゲル基材を0.5重量%以上含むことを特徴とする、〔3〕に記載の電気泳動用ゲル。
〔5〕〔3〕または〔4〕に記載の電気泳動用ゲルを用いることを特徴とする、電気泳動方法。
〔6〕〔2〕に記載のゲル添加剤を備える電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルが得られるゲル添加剤を簡易に製造できることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1の(A)は、実施例のゲル破断試験において、ゲルを押し曲げる過程を示した図である。図1の(B)は、実施例のゲル破断試験の模式図である。
図2】実施例6、実施例7、比較例7および比較例8の電気泳動の結果を示す図である。
図3】実施例8~11、比較例9および比較例10の電気泳動の結果を示す図である。
図4】スラブ型電気泳動を用いた電気泳動用ゲルの電気泳動の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0011】
本明細書において、電気泳動用ゲルを単に「ゲル」と称する場合もある。ゲル中にてサイズの異なる核酸のバンド間の距離が離れているほど、分離能が高いと言える。
【0012】
〔1.ゲル添加剤の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るゲル添加剤の製造方法(本明細書中、「製造方法」とも称する)は、グルコマンナン水溶液に活性炭を加えて不純物を除去する工程を含む。
【0013】
グルコマンナンは、六炭糖のグルコースとマンノースとが約2:3の割合でβ-1,4-グリコシド結合した多糖類である。グルコマンナンは、水との親和性が高い。また、グルコマンナン水溶液は粘性を示す。グルコマンナンは、食用として広く用いられている。例えば、グルコマンナンにデキストリンを加えることにより粘性を下げ、さらに香料を加えた製品として、食品用ゼリーが知られている。しかし、電気泳動用ゲルにグルコマンナンを添加することにより、電気泳動を伴う解析を行う例はこれまでに報告されていない。
【0014】
本発明の一実施形態において、グルコマンナンは、例えば、ビストップ(商標)D-2131(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、プロボール A(清水化学株式会社)等の市販品を用いることができる。また、グルコマンナンは、食品用コンニャクの主成分である。そのため、本発明の一実施形態において、グルコマンナンは、コンニャク芋を乾燥製粉した市販のコンニャク精粉を用いてもよい。市販のコンニャク精粉としては、例えば、コンニャク精粉(製造元:茂木食品工業株式会社、群馬県下仁田町)、コンニャク粉(製造元:株式会社 荻野商店、群馬県下仁田町)等を用いることができる。
【0015】
前記グルコマンナン水溶液を作製する方法は特に限定されないが、例えば、グルコマンナンをエタノールに懸濁し、これを蒸留水に加える方法が挙げられる。
【0016】
グルコマンナン水溶液100重量%におけるグルコマンナンの濃度(すなわち、グルコマンナン水溶液の濃度)は、特に限定されないが、0.05~0.3重量%が好ましく、0.075~0.15重量%がより好ましい。グルコマンナン水溶液の濃度が上記範囲内であれば、グルコマンナン水溶液の粘度を上げ過ぎることなく、グルコマンナンを好適に溶解させることができる。
【0017】
エタノールおよび蒸留水の量はグルコマンナンの量等に応じて適宜決定すればよい。グルコマンナンのような多糖類の多くはエタノールに不溶性であることは周知の事実であるため、グルコマンナンを容易に水に分散させることを目的としている。
【0018】
撹拌しながらグルコマンナン水溶液を作製してもよい。グルコマンナン水溶液を手動で(すなわち、撹拌棒等を用いて)撹拌してもよく、撹拌機構を備えた装置によって撹拌してもよい。撹拌機構を備えた装置としては、マグネチックスターラー等が挙げられる。グルコマンナン水溶液を撹拌する時間は特に限定されず、例えば、30分~2時間である。また、グルコマンナン水溶液を撹拌する温度としては、例えば、5℃~25℃である。
【0019】
活性炭の原料は、特に限定されず、例えば、マツ、竹および椰子殻等の植物、石炭ならびに石油等である。また、活性炭の形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、ハニカム状、円柱状、破砕状、粒状、粉末状等である。不純物を効率よく除去するという観点からは、粉末状が好ましい。活性炭の添加量は、グルコマンナンの量等に応じて適宜決定すればよい。グルコマンナン水溶液に活性炭を加えることにより、グルコマンナンに含まれ得る不純物を除去することができると考えられる。
【0020】
グルコマンナン水溶液として、グルコマンナン水溶液から固液分離された上清を用いてもよい。
【0021】
固液分離は、遠心分離、ろ過、等の公知の固液分離方法を用いて行うことができる。例えば、遠心分離により固液分離を実施する場合、遠心分離の条件(時間、温度、遠心力(×g)等)は、上清の量および上清に含まれるグルコマンナン水溶液の濃度等に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
遠心分離の時間は、例えば10000×gの条件で遠心分離を行う場合、5分間~30分間であることが好ましい。また、遠心分離の温度は、0℃~30℃であることが好ましく、5℃~20℃であることがより好ましい。遠心分離の時間および温度が上記範囲内であれば、可溶物を含む上清と不溶物を含む沈殿物とを分離することができる。
【0023】
また、例えば、グルコマンナン水溶液の濃度が、0.05~0.3重量%の場合は、ナイロンメッシュシート(例えば、製品名;ナイロンメッシュシート230、TAITEC)を用いたろ過により固液分離方法を実施することもできる。
【0024】
活性炭の量は、グルコマンナン水溶液の容量および濃度等に合わせて適宜決定すればよい。
【0025】
グルコマンナン水溶液に活性炭を加えた後、撹拌することが好ましい。撹拌を行うことで、活性炭への不純物の吸着を効率的に行うことができると考えられる。撹拌方法は特に限定されず、手動で撹拌してもよく、撹拌機構を備えた装置によって撹拌してもよい。撹拌機構を備えた装置としては、マグネチックスターラー等が挙げられる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、グルコマンナン水溶液に含まれ得る不純物を除去できる限りにおいて、活性炭以外にその他の成分をグルコマンナン水溶液に加えてもよい。その他の成分として、例えば、EDTA、アジ化ナトリウム等の防腐剤が挙げられる。その他の成分の量は、グルコマンナン水溶液の容量および濃度等に合わせて適宜決定すればよい。
【0027】
本発明の一実施形態の製造方法はさらに、得られた溶液を遠心分離した後、上清を回収する工程を含んでいてもよい。
【0028】
遠心分離の時間、遠心分離の遠心力および遠心分離の温度等の遠心分離条件は、上清の量および上清に含まれるグルコマンナンの濃度等に応じて適宜決定すればよい。例えば、遠心分離の時間は、5~20分間であり、遠心分離の遠心力は、1000×g~60000×gであり、遠心分離の温度は、5℃~25℃である。
【0029】
回収した上清に対して、さらに遠心分離を繰り返し行ってもよい。繰り返し回数は特に限定されないが、例えば、1~2回である。また、必要に応じ、ナイロンメッシュ等で上清を濾過してもよい。
【0030】
得られる上清は、そのままゲル添加剤として用いてもよく、当該上清をさらに凍結乾燥または乾燥させてゲル添加剤として用いてもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る製造方法において、得られる上清を凍結乾燥する凍結乾燥工程および得られる上清を乾燥する乾燥工程等を含んでいてもよい。
【0031】
〔2.ゲル添加剤〕
本発明の一実施形態に係るゲル添加剤は、本発明の一実施形態に係る製造方法により製造される。なお、本発明の一実施形態に係るゲル添加剤は、一般的に化学的分析および同定が容易ではないグルコマンナンを原料としているため、構造の特定が困難である。
【0032】
本発明の一実施形態に係るゲル添加剤の形態は、特に限定されず、粉末状等の固相であってもよく、液相であってもよい。
【0033】
本発明の一実施形態に係るゲル添加剤は、特性を損なわない範囲で、任意の量の溶媒に溶解または混合させてもよく、任意の量の他の成分を含んでいてもよい。溶媒としては、後述の緩衝液(トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液およびトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液)、トリスリン酸緩衝液等が挙げられる。また、他の成分としては、エチヂウムブロマイド、GelREDTM、SYBR Green、DMSO(ジメチルスルフォキシド)およびBubble Block(アガロース消泡剤)等が挙げられる。
【0034】
〔3.電気泳動用ゲル〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルは、ゲル基材として少なくともアガロースを含む電気泳動用ゲルであり、グルコマンナンを0.1重量%以上含む。電気泳動用ゲルがグルコマンナンを一定量含むことで、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルを得ることができる。なお、本明細書中、「取扱い性に優れる」とは、ゲルの作製およびゲルを用いた電気泳動等を簡便に行うことができることを意図する。サブマリン型電気泳動用ゲルが取扱い性に優れるかどうかは、実施例に記載のゲル破断試験によって判断される。また、スラブ型電気泳動用ゲルが取扱い性に優れるかどうかは、スラブ型泳動槽を用いて電気泳動を行った後であっても、ゲルが破れないかどうかにより判断される。
【0035】
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルは、グルコマンナンを0.05重量%以上含み、0.1重量%以上含むことが好ましく、0.2重量%以上含むことがより好ましい。グルコマンナンを0.1重量%以上含むことで、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有する電気泳動用ゲルを得ることができる。また、電気泳動用ゲルにおけるグルコマンナンの含有量の上限値は、0.2重量%以下であることが好ましく、0.15重量%以下であることがより好ましい。電気泳動用ゲルにおけるグルコマンナンの含有量が0.2重量%以下であれば、低分子領域(2Kb)でのDNA分離能が向上するため好ましい。
【0036】
グルコマンナンとして、〔1.ゲル添加剤の製造方法〕に記載の市販品のグルコマンナンを用いてもよく、本発明の一実施形態に係るゲル添加剤を用いてもよい。なお、グルコマンナンとして本発明の一実施形態に係るゲル添加剤を用いる場合、グルコマンナンの重量はゲル添加剤に含まれるグルコマンナン成分の重量を意図する。
【0037】
ゲル基材は、少なくともアガロースを用いる。ゲル基材としてさらに、アガー等の電気泳動用ゲルの原料として一般的に知られている原料を用いてもよい。アガロースおよびアガー等は、市販品を用いてもよい。市販のアガロースとしては、Agarose H(ニッポンジーン社製)およびAgarose S(ニッポンジーン社製)等が挙げられる。市販のアガーとしては、精製寒天末(ナカライテスク株式会社製)等が挙げられる。例えば、ゲル基材として、アガロースとアガーとを用いる場合、アガロースの重量とアガーの重量との比は特に限定されないが、例えば、1:1~2.5:1である。なお、本明細書中、「ゲル基材」とは、電気泳動用ゲル中、ゲル化の要因となる組成物のうち主成分である組成物を意図し、ゲル添加剤を含まない。
【0038】
ゲル基材の濃度は、0.5重量%以上であることが好ましい。ゲル基材の濃度が0.5重量%以上であれば、取扱い性に優れるゲルを得ることができる。また、ゲル基材の濃度は1.5重量%以下であることが好ましい。ゲル基材の濃度は1.5重量%以下であれば、均一なゲル化用溶液を容易に得ることができる。
【0039】
ゲル基材とグルコマンナンとの合計の濃度は、0.6~2.0重量%であることが好ましく、0.6~1.5重量%であることがより好ましい。前記濃度が0.6重量%以上であれば、ゲルの分離能および弾性を十分向上させることができる。前記濃度が2.0重量%以下であれば、均一なゲル化用溶液を容易に得ることができる。
【0040】
電気泳動用ゲルにおいて、ゲル基材の重量とグルコマンナンの重量との比は特に限定されないが、例えば、2.5:1~10:1である。
【0041】
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルの製造は、例えば、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, T. Maniatis, EF Fritsch, J. Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参考にして常法により実施されてもよい。前記電気泳動用ゲルの製造は、例えば、以下の工程(α)および(β)を含む方法で実施される。
(α)ゲル基材とグルコマンナンとを緩衝液に混合してゲル化用溶液を得る工程、および、
(β)前記ゲル化用溶液をゲル化させて電気泳動用ゲルを得る工程。
【0042】
工程(α)において、緩衝液は、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液であることが好ましい。
【0043】
トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液はTAE緩衝液とも称される。TAE緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、酢酸およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を水に溶解させることによって調製され得る。トリスヒドロキシメチルアミノメタンは、単にトリス(Tris)とも称される。トリスは塩の形態(例えば、トリス塩酸塩(Tris-HCL))で用いられてよい。また、酢酸は酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)の形態で用いられてもよい。DNA回収および遺伝子工学的手法に提供するという観点からは、TAE緩衝液が好ましい。
【0044】
トリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液は、TBE緩衝液とも称される。TBE緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸およびEDTAを水に溶解させることによって調製され得る。1kbp以下のDNAを分離するという観点からは、TBE緩衝液が好ましい。
【0045】
工程(α)においては、加熱しながら、ゲル基材とグルコマンナンとを緩衝液に溶解させることが好ましい。これにより、ゲル基材とグルコマンナンとを緩衝液に容易に溶解させることができる。溶解工程における加熱温度は80~100℃であることが好ましい。加熱温度が前記範囲であれば、ゲル基材とグルコマンナンとを十分に溶解させることができる。加熱は、電気泳動用ゲルの作製で通常用いられている、マイクロウェーブオーブン等を用いて行うことができる。
【0046】
工程(β)においては、ゲル化用溶液を放置することによってゲル化させることが好ましい。放置する温度は、20~60℃であることが好ましく、室温であることがより好ましい。ここで、ゲル化用溶液を型に流し込んだ後に放置することによって、所望の形状のゲルを得ることができる。また、ゲル化する前のゲル化用溶液にコームを差し込んでおくことによって、サンプルを導入するためのウェルを形成することもできる。
【0047】
なお、本明細書において、「ゲル化」とは、ゲル化用溶液を固化させることによって、流動性を示さないゲルを得ることを意図している。前記ゲルは、グルコマンナンを溶解させた溶液をゲル化させたものである。それゆえ、前記ゲルは、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有している。
【0048】
〔4.電気泳動方法〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動方法は、本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルを用いて行われる。当該電気泳動用ゲルは、本発明の一実施形態に係るゲル添加剤を含むため、当該電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行うことで、核酸(特に、低分子量のDNA)を好適に分離することができる。
【0049】
前記電気泳動方法は、例えば、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, T. Maniatis, EF Fritsch, J. Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参考にして常法により実施してもよい。また、前記電気泳動方法は、泳動用緩衝液にゲルを横置きに浸して用いる「サブマリン(Sub-Marin)型」およびゲルを縦置きにする「スラブ(Slab)型」のいずれであってもよい。電気泳動用試料の添加が容易であるという観点からは、スラブ型が好ましい。
【0050】
従来、アガロースゲルを用いてスラブ型電気泳動を行うことは困難であると考えられていた。例えば、Analytical Biochemistry (1975) 68, 34-36, Be, Sugden, B. Detroy, R. J. Roberts, J. Sambrook:Title; Agarose Slab-Gel Electrophoresis Equipment. には、アガロースゲルの作製において、サンプルを入れるスロットを形成するために用いたコーム(slot formerとも言う)を除去するのが難しいことが問題点であると記載されている。これは、アガロースゲルが壊れやすいために、コームを除去する際にスロットが壊れる可能性が高いことに起因する。
【0051】
電気泳動試料の染色方法は、特に限定されないが、電気泳動用ゲルに核酸染色試薬を添加することにより染色してもよく、電気泳動を行った後の電気泳動用ゲルを核酸染色試薬中で震盪することにより染色してもよい。前記核酸染色試薬としては、一般公知の核酸染色試薬を用いればよく、例えば、エチジウムブロマイド、GelREDTM(Gene One社製)およびGelGreenTM(Gene One社製)等が挙げられる。
【0052】
電気泳動用の緩衝液(泳動バッファー)は、特に限定されず、TAE緩衝液およびTBE緩衝液等を挙げることができる。
【0053】
〔5.電気泳動用ゲル製造キット〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲル製造キットは、本発明の一実施形態に係るゲル添加剤を備える。それゆえ、上述のように、取扱い性に優れ、かつ高い分離能を有するゲルを簡便に作製することができる。以下では、電気泳動用ゲル製造キットを単に「キット」とも称する。また、〔3.電気泳動用ゲル〕で既に説明した事項については、以下では説明を省略し、適宜、上述の記載を援用する。
【0054】
前記キットは、緩衝液として、TAE緩衝液またはTBE緩衝液をさらに備えていてもよい。本発明の一実施形態に係るゲル添加剤を当該緩衝液に溶解させてゲル化用溶液を得ることができる。当該ゲル化用溶液をゲル化させることにより、ゲルを作製することができる。
【0055】
前記緩衝液は、使用される際の濃度に比べて高い濃度にて調製されたストック溶液であってもよい。例えば、ストック溶液は、使用される際の濃度に比べて5倍、10倍、または50倍の濃度であってもよい。当該ストック溶液を希釈して、ゲルの作製に使用することができる。
【0056】
また、前記キットは、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末を備えていてもよい。これらの粉末を水に溶解させることによって、TAE緩衝液またはTBE緩衝液を得ることができる。
【0057】
前記キットは、本発明の一実施形態に係るゲル添加剤、ゲル基材および緩衝液以外に、ゲルを作製するための部材を備えていてもよい。例えば、前記キットは、ゲル化用溶液が流し込まれるトレーを備えていてもよい。また、前記キットは、形成されたゲルを支持するためのプレートを備えていてもよい。さらに、前記キットは、ゲルにウェルを形成するためのコームを備えていてもよい。
【0058】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔1.電気泳動用ゲルの弾性の比較〕
<実施例1>
(1)ゲル添加剤の精製
(i)三角フラスコに500mL蒸留水および撹拌バーを入れた。三角フラスコとは別の容器に1.5gのコンニャク精粉(製造元:茂木食品工業株式会社)を秤量し、5mLのエタノールに加え、これを懸濁した。得られた溶液を少量ずつスターラー上に設置した三角フラスコ中の蒸留水に撹拌しながら加えた。さらに、室温にて、約1時間、継続的に撹拌した。
(ii)得られた水溶液に1gの活性炭(クロマトグラフィー用、和光純薬製)と、防腐剤としてEDTA(終濃度1mM)とを加え、さらに1時間撹拌した。なお、活性炭はコンニャク精粉中の不純物を吸着除去するために用いた。この工程により、繊維状の不溶物を含む透明な水溶液が得られた。
(iii)繊維状の不溶物と活性炭とを除去するため、室温にて10000×g、10分間遠心分離にかけた後、上清を回収した。
(iv)残存している活性炭を除去するため、回収した上清を再度、工程(iii)と同じ条件で遠心分離した。
(v)遠心上清を回収し、0.3重量%のグルコマンナンを含むゲル添加剤として冷蔵保存した。
【0061】
(2)ゲルの作製
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが0.5重量%、アガーが0.2重量%、グルコマンナンが0.1重量%になるように、それぞれアガロース(Agarose S, ニッポンジーン社製)、アガー(精製寒天末、ナカライテスク株式会社製)、ゲル添加剤をTBE緩衝液50mL中に加えた。その後、マイクロウェーブオーブンで約100℃まで加熱し、これらを完全に溶解させた。これにより、ゲル化用溶液を得た。
【0062】
電気泳動装置(Mupidミニゲル泳動槽、ミューピッド社(旧アドバンス社)製)に付属しているゲルトレイ(幅50mm、長さ60mm、高さ10mm)をゲル作製用プレートにそれぞれセットした。当該ゲル作製用プレートにゲル化用溶液12mLを流し込んだ。ゲル化用溶液を室温で1時間放置し、ゲル化させることにより、厚さ4mm、幅50mm、長さ60mmのゲルを作製した。さらに、外科用ナイフと直角定規とを用いてこのゲルを長軸に沿って3等分し、厚さ4mm、幅16mm、長さ60mmの短冊状ゲルを作製した。なお、厚さ4mmは、分子生物学的実験では、理想的な厚さとして古くから推奨されている厚さに匹敵する(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, T. Maniatis et al., 1982, p163, Cold Springer Laboratory)。また、厚さが5mm以上のゲルを用いると不明瞭なバンドとなるため、ゲルの厚さは3~4mmがよいと考えられている(Agarose gel electrophoresis Tips and Tricks, ThermoFisher Scientific)。
【0063】
(3)ゲル破断試験
短冊状ゲルの1つを120mlの蒸留水で満たした容器(内径:幅100mm、長さ106mm、容器の水深は約10mm)に静かに移した。容器の底にあるゲルを容器の一つの角をなす2辺に接するように配置した後、長軸方向に幅16mmのスポンジ片でゲルを静かに押した。ゲルを押す過程において、ゲルは湾曲しながら容器の壁に近づいていった。
【0064】
図1の(A)に、実施例のゲル破断試験において、ゲルを押し曲げる過程を示す。図1の(B)に、実施例のゲル破断試験の模式図を示す。図1の(A)の(b)~(d)に示すように、ゲルの一方の短辺を透明トレーの縁に押し付けるように、ゲルの他方の短辺をスポンジでゆっくり押し曲げた。図1の(B)の(c)のように、ゲルの一方の短辺がゲルの他方の短辺に接するまで、すなわち、ゲルの一方の短辺からゲルの他方の短辺までの距離Lが8mmとなるまでゲルを押し曲げることができた場合、ゲルは切断されなかったと判断した。さらに、残りの2つの短冊状ゲルを用いて同じ実験を行い、再現性を確認した。
【0065】
実施例1のゲルに対してゲル破断試験を行った結果、実施例1のゲルは切断されなかった。
【0066】
<実施例2>
電気泳動用ゲルにおいて、グルコマンナンが0.2重量%となるようにゲル添加剤を加えた以外は実施例1と同様に、実施例2のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、実施例2のゲルは切断されなかった。
【0067】
<実施例3>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが0.5重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガロース、ゲル添加剤を加え、アガーを加えなかった以外は実施例1と同様に、実施例3のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、実施例3のゲルは切断されなかった。
【0068】
<実施例4>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが0.7重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガロース、ゲル添加剤を加えた以外は実施例3と同様に、実施例4のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、実施例4のゲルは切断されなかった。
【0069】
<実施例5>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが1.0重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガロース、ゲル添加剤を加えた以外は実施例3と同様に、実施例5のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、実施例5のゲルは切断されなかった。
【0070】
<比較例1>
ゲル添加剤を加えなかった以外は実施例1と同様に、比較例1のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例1のゲルは切断された。
【0071】
<比較例2>
電気泳動用ゲルにおいて、グルコマンナンが0.05重量%となるようにゲル添加剤を加えた以外は実施例1と同様に、比較例2のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例2のゲルは切断された。
【0072】
<比較例3>
アガーおよびゲル添加剤を加えなかった以外は実施例1と同様に、比較例3のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例3のゲルは切断された。
【0073】
<比較例4>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが1重量%となるように、アガロースを加え、アガーおよびゲル添加剤を加えなかった以外は実施例1と同様に、比較例4のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例4のゲルは切断された。
【0074】
<比較例5>
電気泳動用ゲルにおいて、アガーが0.5重量%となるように、アガーを加え、アガロースおよびゲル添加剤を加えなかった以外は実施例1と同様に、比較例5のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例5のゲルは切断された。
【0075】
<比較例6>
電気泳動用ゲルにおいて、アガーが0.5重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガー、ゲル添加剤を加え、アがロールを加えなかった以外は実施例1と同様に、比較例6のゲルを作製した。その後、当該ゲルを用いて、ゲル破断試験を行った結果、比較例6のゲルは切断された。
【0076】
<結果>
実施例1および実施例2の結果より、グルコマンナンを0.1重量%以上含むアガロース/アガーゲルは、半分に折り曲げても切断されなかったことから、取扱い性に優れることがわかった。比較例1および2の結果より、グルコマンナンの含有量が0.1重量%以下であるアガロース/アガーゲルは、半分に折り曲げると切断されたことから、ゲルの作製時等に破壊される可能性があり、取扱いにくいことがわかった。
【0077】
さらに、実施例1および実施例3の結果より、混合したアガーはアガロースに添加したグルコマンナンの効果を抑制しないことがわかった。実施例3および比較例3の結果からは、グルコマンナンを0.1重量%以上含むアガロースゲルの場合は、半分に折り曲げても切断されなかったことから、取扱い性に優れることがわかった。
【0078】
また、比較例3および比較例4の結果より、0.5重量%~1重量%のアガロースを含む電気泳動用ゲルは切断されることがわかった。一方、実施例3~5の結果より、0.5重量%~1重量%のアガロースを含む電気泳動用ゲルであっても、0.1重量%のグルコマンナンを含む場合は、電気泳動用ゲルは切断されないことがわかった。
【0079】
さらに、比較例5および比較例6の結果から、アガーゲルに0.1重量%のグルコマンナンを加えても切断されることがわかった。よって、アガーゲルではグルコマンナンはゲルの弾性の向上に貢献しないと考えられる。なお、0.5重量%以下のアガーゲルは壊れやすいために作製が困難であり、0.5重量%以上のアガーゲルは、作製がより容易であるが、弾性が低いことが知られている。
【0080】
〔2.サブマリン型電気泳動用ゲルの分離能の比較〕
<実施例6>
(1)ゲルの作製
〔1.電気泳動用ゲルの弾性の比較〕における「(1)ゲル添加剤の精製」と同じ手順を用いて、ゲル添加剤を得た。
【0081】
その後、〔1.電気泳動用ゲルの弾性の比較〕における「(2)ゲルの作製」と同じ手順を用いて、ゲル化溶液を得た。
【0082】
電気泳動装置(Mupidミニゲル泳動槽、ミューピッド社(旧アドバンス社)製)に付属しているサンプルコーム(8ウェル用)およびゲルトレイ(幅54mm、長さ60mm、高さ10mm)をゲル作製用プレートにそれぞれセットした。当該ゲル作製用トレーにゲル化用溶液12mLを流し込んだ。ゲル化用溶液を室温で1時間放置し、ゲル化させた。
【0083】
(2)電気泳動
電気泳動装置にゲルをセットし、ゲルに形成されたウェルに、電気泳動試料を10μLずつ加えた。電気泳動試料は、レーン1においてLambda phage/Sty I digest (λ/Sty I)(ニッポンジーン社製)、レーン2において0.1~20kbpのDNA(Gene Ladder wide 2,ニッポンジーン社製)をそれぞれ用いた。また、各電気泳動試料には、あらかじめGelREDTM(Gene One社製)を電気泳動試料中のGelREDTMの濃度が、市販原液の10000倍希釈相当量となるように添加した。
【0084】
100Vで、ローディング液(製品名:6×Loading Buffer Orange G、ニッポンジーン社製)2μLがゲルの先端に到達するまで泳動を行った。泳動バッファーとしては、TBE緩衝液(pH8.0;89mM トリス、89mM ホウ酸、2mM エチレンジアミン四酢酸)を用いた。なお、電気泳動は、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, T. Maniatis, EF Fritsch, J. Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参考にして常法により実施した。
【0085】
(3)ゲルの撮影
アガロースゲル撮影装置(UVイルミネーター;Model BioDoc-It(登録商標) Imaging system, UVP社製)を用いて電気泳動を行った後の電気泳動用ゲルを撮影した。
【0086】
<実施例7>
グルコマンナンが0.2重量%となるようにゲル添加剤を加えた以外は実施例6と同様に、実施例7のゲルを作製した。なお、実施例7のレーン1、2の電気泳動試料は、それぞれ実施例6のレーン1、2の電気泳動試料と同じ電気泳動試料を用いた。また、実施例7のレーン3の電気泳動試料は、0.1~2kbpのDNA(Gene Ladder 100, ニッポンジーン社製)である。
【0087】
<比較例7>
ゲル添加剤を加えなかった以外は実施例6と同様に、比較例7のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。なお、比較例7のレーン1~3の電気泳動試料は、それぞれ実施例7のレーン1~3の電気泳動試料と同じ電気泳動試料を用いた。
【0088】
<比較例8>
電気泳動用ゲルにおいて、グルコマンナンが0.05重量%となるように、ゲル添加剤を加えた以外は実施例6と同様に、比較例8のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。
【0089】
<結果>
図2に、実施例6、実施例7、比較例7および比較例8の電気泳動の結果を示す。なお、図2において「*」は、レーン2に基づく2kbpのDNAバンドを示す。実施例6および実施例7の結果より、泳動バッファーとしてTBEを用いて電気泳動を行い、さらに、電気泳動試料にGelREDをあらかじめ加える方法により染色を行った場合であっても、グルコマンナンを0.1重量%含むアガロース/アガーゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて格段に高い分離能を示すことがわかる。0.1~2kbpの領域は、PCR反応の結果解析に多用される領域である。ゆえに、本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルは、DNAの電気泳動において将来的に汎用され得ることが示唆される。さらに、実施例6と実施例7との比較により、グルコマンナンを多く含む実施例7のアガロース/アガーゲルの方が、0.1~2kbpの領域において分離能が高いことがわかる。一方、比較例7および比較例8の結果より、グルコマンナンの含有量が0.05重量%以上であるアガロース/アガーゲルを用いると、実施例6には及ばないまでも、DNA分離能が向上することがわかる。
【0090】
<実施例8>
実施例7と同様に、実施例8のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。その後、エチジウムブロマイド(0.5μg/mL)を溶かしたTAE緩衝液に、電気泳動後のゲルを15分間浸漬した。さらに、当該ゲルを蒸留水に5分間、静置浸漬した。ゲルの撮影は、上述の「(3)ゲルの撮影」と同様に行った。
【0091】
<実施例9>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが0.8重量%、グルコマンナンが0.15重量%となるように、それぞれアガロース、ゲル添加剤を加え、アガーを加えなかった以外は実施例8と同様に、実施例9のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。
【0092】
<実施例10>
電気泳動用ゲルにおいて、アガーが0.5重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガー、ゲル添加剤を加え、アガロースを加えなかった以外は実施例8と同様に、実施例10のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。
【0093】
<比較例9>
電気泳動用ゲルにおいて、アガーが0.5重量%となるように、アガーを加え、アガロースおよびゲル添加剤を加えなかった以外は実施例8と同様に、比較例9のゲルを作製し、当該ゲルを用いて、電気泳動を行った。
【0094】
<結果>
図3に、実施例8~10、比較例9の電気泳動の結果を示す。なお、図3において「*」は、レーン2に基づく2kbpのDNAバンドを示す。実施例8~10の結果より、泳動バッファーとしてTBEを用いて電気泳動を行い、さらに、電気泳動を行った後の電気泳動用ゲルをエチジウムブロマイドで震盪することにより染色を行った場合であっても、グルコマンナンを0.1重量%含む電気泳動用ゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて格段に高い分離能を示すことがわかる。
【0095】
また、実施例9の結果により、グルコマンナンを0.1重量%含むアガロースゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて格段に高い分離能を示すことがわかる。
【0096】
さらに、実施例10と比較例9との結果の比較により、グルコマンナンを0.1重量%含むアガーゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて分離能が向上することがわかる。
【0097】
<実施例11>
電気泳動用ゲルにおいて、アガロースが0.7重量%、グルコマンナンが0.1重量%となるように、それぞれアガロース、ゲル添加剤を加え、アガーを加えなかった以外は実施例6と同様に、実施例11のゲルを作製した。TAE緩衝液(pH8.0;40mM Tris-HCl、20mM 酢酸ナトリウム、2mM EDTA)を用いた。
【0098】
<比較例10>
電気泳動用ゲルにおいて、アガーが0.7重量%となるように、アガーを加え、アガロースおよびゲル添加剤を加えなかった以外は実施例3と同様に、比較例8のゲルを作製した。TAE緩衝液(pH8.0;40mM Tris-HCl、20mM 酢酸ナトリウム、2mM EDTA)を用いた。なお、比較例10のレーン1およびレーン2の電気泳動試料は、それぞれ実施例6のレーン1およびレーン2の電気泳動試料と同じ電気泳動試料を用いた。
【0099】
<結果>
図3に、実施例11および比較例10の電気泳動の結果を示す。なお、図3において「*」は、レーン2に基づく2kbpのDNAバンドを示す。実施例11の結果より、泳動バッファーとしてTAEを用いて電気泳動を行い、さらに、電気泳動を行った後の電気泳動用ゲルをエチジウムブロマイドで震盪することにより染色を行った場合であっても、グルコマンナンを0.1重量%含むアガロースゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて格段に高い分離能を示すことがわかる。また、実施例11と比較例10との結果の比較により、グルコマンナンを0.1重量%含むアガーゲルを用いることにより、特に0.1~2kbpにおいて分離能が向上することがわかる。
【0100】
〔3.スラブ型電気泳動用ゲルの分離能の観察〕
加熱溶解により後述の組成のゲル化用溶液を調製し、3辺がシールされた2mm厚のガラス製のゲル板に流し込んだ。これに2mm厚の16サンプル用コームをセットし、室温に放置することでゲル化用溶液をゲル化させた。コームをゲル板から静かに外した後、ゲルを泳動槽に装着し、各スロットに5μLの電気泳動試料を静かに添加した。室温にて以下の条件で泳動後、ガラス板の間にスパーテルを挿入し一方側を持ち上げた。他方のガラス板に残っているゲルを静かに染色液に押し出し、所定時間、染色後、写真撮影した。ゲルの染色およびゲルの撮影は、実施例8と同様に行った。図4にスラブ型電気泳動を用いた電気泳動用ゲルの泳動結果を示す。
【0101】
<泳動等の条件>
ゲル化用溶液:アガロースが1重量%、グルコマンナンが0.2重量%になるように、それぞれアガロース(Agarose S, ニッポンジーン社製)、ゲル添加剤をTAE緩衝液に加えた。;
ゲル板のサイズ(内寸):幅100mm、縦長100mm、厚さ1mm;
泳動槽:スラブ型(第一化学薬品株式会社、商品名 カセット電気泳動槽「DAIICH」ミニ二連式);
泳動条件:泳動バッファー;TAE、6V/cm、90min;
電気泳動試料:レーン1;0.1~20KbpのDNA(Gene Ladder wide 2, ニッポンジーン社製); レーン2;0.1~10KbpのDNA(Gene Ladder Fast 2, ニッポンジーン社製); レーン3;50bp DNA Ladder (TAKARA社製); レーン4;0.1~2KbpのDNA(Gene Ladder 100,ニッポンジーン社製)。;一番左のレーン;PCR増幅により調製した550 bp,700bpの二つを加えたLambda phage/HindIII I digest(λ/HindIII)(ニッポンジーン社製)。
【0102】
<結果>
図4は、スラブ型電気泳動を用いた電気泳動用ゲルの電気泳動の結果を示す図である。左右の2セットでは、上記電気泳動試料をそれぞれ泳動している。サブマリン型電気泳動用ゲルと同様に、スラブ型電気泳動用ゲルでも、グルコマンナンの添加によってDNAの分離能の向上することがわかった。図4には、撮影されたゲル全体を示しているが、作製したスラブ型電気泳動用ゲルは、電気泳動後であっても破れることがない十分な弾性を有する、取扱い性に優れたゲルであることがわかる。また、図4より、各スロットに対応したDNAの泳動が観察されたことがわかる。
【0103】
なお、グルコマンナンを含まず1%アガロースを含むスラブ型電気泳動用ゲルは壊れてしまい、作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、電気泳動を伴う解析が行われる様々な分野に利用することができる。
図1
図2
図3
図4