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特許7053130リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池 図2A
  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20220405BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220405BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220405BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220405BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220405BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/62 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2014248168
(22)【出願日】2014-12-08
(65)【公開番号】P2016110876
(43)【公開日】2016-06-20
【審査請求日】2017-10-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】矢代 将斉
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/122748(WO,A1)
【文献】特開2007-335283(JP,A)
【文献】特開2014-182971(JP,A)
【文献】特開2009-43514(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/36-4/62
H01M4/13-4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛活物質と、
シリコン系活物質と、
平均直径が10nm以上120nm以下であり、平均長さが2μm以上10μm以下であるカーボンナノチューブと、
バインダと
からなる負極活物質層を備え、
前記シリコン系活物質は、Si、または、Si合金であり、
前記カーボンナノチューブの含有量は、前記負極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下であり、
前記シリコン系活物質の平均粒径は、0.5μm以上5μm以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの含有量は、前記負極活物質層の総質量に対して、0.2質量%以上1質量%以下である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記シリコン系活物質は、前記負極における0Vから1.2Vまでの可逆容量の10%以上が前記シリコン系活物質由来となるような含有量で前記負極活物質層に含有される、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の負極を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の電源として高電圧かつ高容量であるリチウムイオン(lithium ion)二次電池が広く採用されている。また、リチウムイオン二次電池は、このような携帯機器の稼働時間をさらに伸長するために、ますますの高容量化することが求められている。
【0003】
例えば、より多くのリチウムイオンを吸蔵および放出可能なシリコン(Si)系活物質またはスズ(Sn)系活物質を負極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池の放電容量を増加させる技術が提案されている。
【0004】
ただし、このような負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化が大きいため、充放電を繰り返すことによって負極活物質間の導電ネットワーク(network)が切断されてしまう。そのため、Si系活物質またはSn系活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル(cycle)特性が良好ではなかった。
【0005】
そこで、特許文献1には、Si系活物質またはSn系活物質を導電性保護膜で被覆することにより、リチウムイオン二次電池におけるサイクル特性を改善させる技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-117574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された技術では、サイクル特性が十分に改善されてはいなかった。そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を同等以上に改善することが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、シリコン系活物質と、平均直径が10nm以上120nm以下であり、平均長さが0.5μm以上20μm以下であるカーボンナノチューブと、を含む負極活物質層を備え、前記カーボンナノチューブの含有量は、前記負極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下である、リチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【0009】
この観点によれば、上記負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することが可能である。
【0010】
前記シリコン系活物質の平均粒径は、0.5μm以上5μm以下であってもよい。
【0011】
この観点によれば、上記負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性をさらに改善することが可能である。
【0012】
前記カーボンナノチューブの含有量は、前記負極活物質層の総質量に対して、0.2質量%以上1質量%以下であってもよい。
【0013】
この観点によれば、上記負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性をさらに改善することが可能である。
【0014】
前記負極活物質層は、黒鉛活物質をさらに含んでもよい。
【0015】
この観点によれば、上記負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性をさらに改善することが可能である。
【0016】
前記シリコン系活物質は、前記負極における0Vから1.2Vまでの可逆容量の10%以上が前記シリコン系活物質由来となるような含有量で前記負極活物質層に含有され手もよい。
【0017】
この観点によれば、上記負極を用いたリチウムイオン二次電池の電池特性をさらに向上させることが可能である。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記負極を含むリチウムイオン二次電池が提供される。
【0019】
この観点によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を同等以上に改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を示す模式図である。
図2A】横軸をCNT平均直径とし、縦軸を容量維持率として、表1の結果をプロットした散布図である。
図2B】横軸をCNT平均直径とし、縦軸を初回効率として、表1の結果をプロットした散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の具体的な構成について説明する。図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40とを備える。なお、リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0025】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(stainless steel)、およびニッケルメッキ鋼(nickel‐plated steel)等であってもよい。
【0026】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質および導電剤を含み、バインダ(binder)をさらに含んでもよい。なお、正極活物質、導電剤、およびバインダの含有量は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池において適用される含有量であれば、いずれであってもよい。
【0027】
正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiCoMn等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。なお、正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独または複数種、混合して用いてもよい。
【0028】
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)やアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)、カーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素、または、これら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等である。ただし、導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されずに使用することができる。導電剤の含有量は特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
【0029】
バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluoroelastomer)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、またはニトロセルロース(nitrocellulose)等である。ただし、バインダは、正極活物質および導電剤を集電体21上に結着させることができ、かつ正極の高電位に耐える耐酸化性および電解液安定性を有するものであれば、特に制限されない。また、バインダの含有量も特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
【0030】
正極活物質層22は、例えば、正極活物質、導電剤、およびバインダを適当な有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)など)に分散させて正極スラリー(slurry)を形成し、該正極スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の正極活物質層22の密度は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な密度であればよい。
【0031】
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、ステンレス鋼、およびニッケルメッキ鋼等であってもよい。
【0032】
本実施形態において、負極活物質層32は、シリコン(Si)系活物質を含み、平均直径が10nm以上120nm以下、かつ平均長さが0.5μm以上20μm以下であるカーボンナノチューブをさらに含む。ここで、負極活物質層32におけるカーボンナノチューブの含有量は、負極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下である。なお、負極活物質層32は、バインダをさらに含んでいてもよい。
【0033】
このような負極活物質層32を用いることにより、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、サイクル特性を改善することができる。
【0034】
具体的には、Si系活物質は、リチウムイオンの挿入および脱離により大きく体積変化するため、収縮時(リチウムイオンの脱離時)にSi系活物質間の導電ネットワークが切断され、電気的に孤立することがあった。これにより、負極活物質層32では、充放電を繰り返すたびに電気的に孤立したSi系活物質が増加するため、放電容量が低下し、サイクル特性が低下していた。
【0035】
本実施形態に係る負極30は、負極活物質層32に特定の形状を有するカーボンナノチューブを含むため、Si系活物質が収縮した場合であっても、導電性が高いカーボンナノチューブによりSi系活物質間を架橋し、導電ネットワークを維持することができる。これにより、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、充放電を繰り返した場合でも、電気的に孤立したSi系活物質の発生が抑制されるため、放電容量の低下を抑制し、サイクル特性を向上させることができる。
【0036】
ここで、負極活物質層32に含まれるカーボンナノチューブの平均直径は、10nm以上120nm以下である。後述する実施例で実証されるように、カーボンナノチューブの平均直径がこれらの範囲内の値となる場合、カーボンナノチューブは、Si系活物質間の導電性を維持し、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性を向上させることができる。
【0037】
具体的には、カーボンナノチューブの平均直径が10nm未満である場合、負極活物質層32に含有されるカーボンナノチューブの本数が増加することにより、リチウムイオンとの副反応が増加し、初回効率が低下するため、好ましくない。なお、初回効率とは、1回目の充放電時の放電容量を1回目の充放電時の充電容量で除算した値を示し、高い方がより好ましい。また、負極活物質層32に含有されるカーボンナノチューブの本数が増加することで、総表面積が増加し、カーボンナノチューブがバインダをより多く取り込むようになり、負極活物質層32の結着性が低下する。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。
【0038】
一方、カーボンナノチューブの平均直径が120nmを超える場合、カーボンナノチューブの剛直性が増加し、Si系活物質の収縮時にカーボンナノチューブが柔軟に変形することができなくなるため、Si系活物質間の導電性を維持できなくなる。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。
【0039】
また、負極活物質層32に含まれるカーボンナノチューブの平均長さは、0.5μm以上10μm以下である。後述する実施例で実証されるように、カーボンナノチューブの平均長さがこれらの範囲内の値となる場合、カーボンナノチューブは、Si系活物質間の導電性を維持し、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性を向上させることができる。
【0040】
具体的には、カーボンナノチューブの平均長さが0.5μm未満である場合、カーボンナノチューブの長さが短いため、Si系活物質の収縮時に、Si系活物質間を架橋することができなくなり、導電性を維持できなくなる。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。また、カーボンナノチューブの平均長さは、長ければ長いほどより好ましく、特に上限値によって制限されるわけではないが、例えば、上限値は、10μmである。
【0041】
なお、カーボンナノチューブの平均直径とは、カーボンナノチューブの繊維径(外径)の算術平均値であり、カーボンナノチューブの平均長さとは、カーボンナノチューブの繊維の長さの算術平均値である。これらは、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察した画像から求めることができる。すなわち、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、カーボンナノチューブのSEM観察画像からいくつかのサンプルを抽出し、これらサンプルの直径および長さを測定し、算術平均することで得ることができる。
【0042】
また、本実施形態における負極活物質層32中のカーボンナノチューブの含有量は、負極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下である。後述する実施例で実証されるように、カーボンナノチューブの含有量がこれらの範囲内の値となる場合、カーボンナノチューブは、Si系活物質間の導電性を維持し、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性を向上させることができる。
【0043】
具体的には、カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%未満である場合、カーボンナノチューブの量が少なすぎるため、Si系活物質の収縮時に、Si系活物質間の導電性を維持できなくなる。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。一方、カーボンナノチューブの含有量が2質量%を超える場合、カーボンナノチューブにおけるバインダの取り込み量が増加するため、負極活物質層32の結着性が低下する。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。
【0044】
なお、本実施形態における負極活物質層32中のカーボンナノチューブの含有量は、より好ましくは、負極活物質層の総質量に対して、0.2質量%以上1質量%以下である。後述する実施例で実証されるように、カーボンナノチューブの含有量がこれらの範囲内の値となる場合、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、さらにサイクル特性が改善する。
【0045】
また、負極活物質層32に含まれるSi系活物質は、具体的には、Si、Si合金、または、Si酸化物である。
【0046】
例えば、Si合金は、Si相、およびSiと他の1種以上の金属元素との金属間化合物の相からなる。Si相は、可逆的にリチウムイオンが挿入および脱離されることで、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な相である。また、Siと他元素との金属間化合物の相(Si含有金属間化合物相)は、活物質であるSi相と密着することにより、充放電によるSi相の体積変化に対してSi相を保持する相である。
【0047】
Siと金属間化合物を形成する元素は、例えば、Siと安定な金属間化合物を形成することができるアルカリ土類金属元素および遷移金属元素から選んだ1種もしくは2種以上であればよい。Siと金属間化合物を形成する元素は、好ましくは、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、FeおよびNiから選んだ1種もしくは2種以上であってもよい。
【0048】
上記のSi合金などのSi系活物質は、例えば、アトマイズ法(atomizing method)、ロール急冷法、または回転電極法などで形成した不定形状のSi化合物をジェットミル(jet mill)またはボールミル(ball mill)等で粉砕することにより、得ることができる。また、Si系活物質は、Si単体粉末と他の化合物粉末とを粉砕の後、混合し、メカニカルアロイング(mechanical alloying)処理することによっても得ることができる。
【0049】
ここで、Si系活物質の平均粒径は、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。後述する実施例で実証されるように、Si系活物質の平均粒径がこれらの範囲内の値となる場合、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性をさらに向上させることができる。
【0050】
具体的には、Si系活物質の平均粒径が0.5μm未満である場合、Si系活物質の個数が増加することで、Si系活物質の総表面積が増加し、バインダをより多く取り込むようになるため、負極活物質層32の結着性が低下する。また、Si系活物質の個数が増加することで、カーボンナノチューブが十分にSi系活物質間の導電ネットワークを形成できなくなる。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。
【0051】
また、Si系活物質の平均粒径が5μmを超える場合、リチウムイオンが挿入および脱離された際のSi系活物質の体積変化が大きくなるため、Si系活物質の収縮時に、カーボンナノチューブがSi系活物質間の導電ネットワークを維持できず、導電性を維持できなくなる。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため、好ましくない。
【0052】
なお、Si系活物質の平均粒径とは、Si系活物質を球体と近似した際の直径の算術平均値を表す。Si系活物質の平均粒径は、例えば、レーザ(laser)回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置により測定することができる。
【0053】
ここで、本実施形態に係る負極30は、負極活物質層32中に黒鉛活物質をさらに含むことが好ましい。黒鉛活物質は、炭素原子を含み、かつ電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であり、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等を例示することができる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、負極活物質層32中に黒鉛活物質をさらに含むことにより、電池特性を向上させることができる。
【0054】
ただし、負極活物質層32が黒鉛活物質を含む場合、負極活物質層32は、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量の10%以上がSi系活物質由来となるような含有量でSi系活物質を含むことが好ましい。後述する実施例で実証されるように、Si系活物質の含有量がこれらの条件を満たす場合、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、放電容量をさらに向上させることができる。
【0055】
なお、Si系活物質由来の可逆容量の割合は、黒鉛活物質のみを活物質として用いた負極30の容量Aと、Si系活物質および黒鉛活物質を活物質として用いた負極30の容量Bとの差分(増加分)を容量Bで除算した割合である。すなわち、上記において、(B-A)/B×100(例えば、A=360mAh/g)にて算出した割合(%)である。
【0056】
Si系活物質由来の可逆容量の割合は、負極活物質層32におけるSi系活物質および黒鉛活物質の含有量を変更することで制御することができる。具体的には、Si系活物質由来の可逆容量の割合は、負極活物質層32におけるSi系活物質の含有量を増加させることにより、増加させることができる。
【0057】
ここで、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量中のSi系活物質由来の割合が10%未満の場合、負極活物質層32にSi系活物質を含有させることによる放電容量の増加量が小さくなるため、好ましくない。また、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量中のSi系活物質由来の割合は、高ければ高いほど好ましく、特に上限値は制限されない。ただし、バインダ等の負極活物質以外の要件によって負極活物質層32中のSi系活物質の含有量が制限される場合、上限値は、例えば50%であってもよい。
【0058】
バインダは、正極活物質層22を構成するバインダと同様のものが使用可能である。なお、負極活物質およびバインダのそれぞれの含有量は特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池で採用される含有量が本発明でも適用可能である。
【0059】
負極活物質層32は、例えば、上述したSi系活物質、カーボンナノチューブ、およびバインダを適当な溶媒(例えば、水など)に分散させて負極スラリーを形成し、該負極スラリーを集電体31上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の負極活物質層32の厚さは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の負極活物質層に適用可能な厚さであればよい。また、負極活物質層32は、黒鉛活物質を選択的に含んで形成されてもよい。
【0060】
上述したような本実施形態に係る負極30によれば、充放電を繰り返した場合でもSi系活物質間の導電性が維持され、電気的に孤立したSi系活物質の発生が抑制されるため、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性を改善することができる。
【0061】
セパレータ層40は、セパレータと、電解液とを含む。セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず、どのようなものも使用可能である。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を単独あるいは併用して使用することが好ましい。また、セパレータは、Al、Mg(OH)、SiO等の無機物によってコーティング(coating)されていてもよく、上述した無機物をフィラー(filler)として含んでいてもよい。
【0062】
このようなセパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluorovinylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0063】
電解液は、電解質塩と、溶媒とを含む。
【0064】
電解質塩は、リチウム塩等の電解質である。電解質塩は、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearylsulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octylsulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzenesulphonate)等の有機イオン塩等を使用することができる。なお、これらの電解質塩は、単独、あるいは2種類以上混合して使用されてもよい。また、電解質塩の濃度は、特に制限はないが、例えば、0.5~2.0mol/L程度の濃度を使用することができる。
【0065】
溶媒は、電解質塩を溶解する非水溶媒である。溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate),エチレンカーボネート(ethylene carbonate),ブチレンカーボネート(buthylene carbonate),クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate),ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone),γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate),ジエチルカーボネート(diethyl carbonate),エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate),酪酸メチル(methyl butyrate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane),1,4-ジオキサン(1,4-dioxane),1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane),1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile),ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide),スルホラン(sulfolane),スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、溶媒を2種以上混合して使用する場合、各溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0066】
なお、電解液は、負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、界面活性剤等の各種添加剤が添加されてもよい。
【0067】
このような添加剤としては、例えば、コハク酸無水物(succinic anhydride)、リチウムビスオキサラートボレート(lithium bis(oxalate)borate)、テトラフルオロホウ酸リチウム(lithium tetrafluoroborate)、ジニトリル(dinitrile)化合物、プロパンスルトン(propane sultone)、ブタンスルトン(butane sultone)、プロペンスルトン(propene sultone)、3-スルフォレン(3-sulfolene)、フッ素化アリルエーテル(fluorinated arylether)、フッ素化アクリレート(fluorinated methacrylate)等を使用することができる。また、このような添加剤の含有濃度としては、一般的なリチウムイオン二次電池における添加剤の含有濃度が使用可能である。
【0068】
<2.リチウムイオン二次電池の製造方法>
続いて、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。ただし、リチウムイオン二次電池10の製造方法は、以下の方法に制限されず、任意の製造方法を適用することが可能である。
【0069】
正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、導電剤、および結着剤を所望の割合で混合したものを、有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に分散させて正極スラリーを形成する。次に、正極スラリーを集電体21上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。
【0070】
なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いてもよい。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。
【0071】
さらに、圧縮機により正極活物質層22を所望の厚みとなるように圧縮する。これにより、正極20が製造される。ここで、正極活物質層22の厚みは特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池の正極活物質層が有する厚みであればよい。
【0072】
負極30も、正極20と同様の方法に製造される。まず、Si系活物質、カーボンナノチューブ、バインダを所望の割合で混合したものを、溶媒(例えば、水)に分散させることで負極スラリーを形成する。なお、負極スラリーには、選択的に黒鉛活物質が混合されてもよい。
【0073】
次に、負極スラリーを集電体31上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させて、負極活物質層32を形成する。さらに、圧縮機により負極活物質層32を所望の厚みとなるように圧縮する。これにより、負極30が製造される。ここで、負極活物質層32の厚みは特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池の負極活物質層が有する厚みであればよい。また、負極活物質層32として金属リチウムを用いる場合、集電体31に金属リチウム箔を重ねれば良い。
【0074】
ここで、上記のSi系活物質は、例えば、Si単体と他の化合物粉末とを混合し、アトマイズ法、ロール急冷法、または回転電極法などで不定形状のSi化合物とした後、ジェットミルまたはボールミル等でSi化合物を粉砕することにより、得ることができる。
【0075】
続いて、セパレータを正極20および負極30にて挟み込むことで、電極構造体を製造する。次に、製造した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、該形態の容器に挿入する。さらに、該容器内に所望の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が製造される。
【実施例
【0076】
<3.実施例>
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池が下記の例に限定されるものではない。
【0077】
[3.1.カーボンナノチューブの平均直径および平均長さの検討]
(リチウムイオン二次電池の製造)
まず、以下の方法にて実施例1~11および比較例1~9に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0078】
Si系活物質(Si合金:Cr/Si=20atom%/80atom%)20質量%、グラファイト(graphite)74質量%、ポリフッ化ビリニデン5質量%、カーボンナノチューブ1質量%を水に分散させることで負極スラリーを形成した。続いて、形成した負極スラリーを集電体である銅箔上に塗工し、乾燥させて負極活物質層を形成した。さらに、圧縮機により負極活物質層を圧縮することで、負極を製造した。
【0079】
なお、Si系活物質の平均粒径は、2μmであり、各実施例および比較例におけるカーボンナノチューブ(CNT)の平均直径および平均長さは以下の表1に示す値であった。ここで、Si系活物質の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製)によって測定し、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、走査型電子顕微鏡(日本電子製)による画像から計測した。
【0080】
また、正極は、金属リチウムを集電体に貼り付けることで製造した。
【0081】
セパレータとして多孔質ポリエチレンフィルム(polyethylene film)(厚さ25μm)を用意し、セパレータを正極および負極で挟むことで、電極構造体を製造し、コインハーフセル(coin half cell)に収納した。
【0082】
一方、エチレンカーボネート(EC)、およびジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=1:1の体積比で混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/Lの濃度で溶解し、電解液を製造した。
【0083】
さらに、コインハーフセル内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させた。これにより、実施例1~11および比較例1~9に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0084】
(評価結果)
上記にて製造した実施例1~11および比較例1~9に係るリチウムイオン二次電池に対して、サイクル特性および初回効率の評価を実施した。
【0085】
具体的には、まず、それぞれのリチウムイオン二次電池に対して、定電流定電圧(CCCV充電、具体的には、1C、10mV充電)にて、電流値が0.01Cになるまで充電し、定電流(CC放電、具体的には、1C放電)にて1.2Vまで放電した。これを1サイクルとして繰り返し、50サイクル実施した。
【0086】
ここで、サイクル特性は、充放電50サイクル後の放電容量を1サイクル目の放電容量にて除算した容量維持率にて評価した。また、初回効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除算した値である。その結果を以下の表1および図2A、2Bに示す。
【0087】
なお、図2Aは、横軸をCNT平均直径とし、縦軸を容量維持率として表1の結果をプロット(plot)した散布図であり、図2Bは、横軸をCNT平均直径とし、縦軸を初回効率として表1の結果をプロットした散布図である。図2Aおよび図2Bにおいて、実施例1~11は、菱形のプロットで示し、比較例1~9は、丸形のプロットで示した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1および図2A図2Bを参照すると、実施例1~11では、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さが本発明の範囲内に含まれているため、比較例1~9に対してサイクル特性(容量維持率)が向上していることがわかる。
【0090】
一方、比較例1では、カーボンナノチューブの平均長さが0.5μm未満であるため、サイクル特性が低下している。また、比較例2~9では、カーボンナノチューブの平均直径が120nmを超えているため、サイクル特性が低下している。
【0091】
したがって、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さを本発明の範囲とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができることがわかった。
【0092】
[3.2.カーボンナノチューブの含有量の検討]
(リチウムイオン二次電池の製造)
次に、以下の方法にて実施例12~17および比較例10~12に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0093】
Si系活物質(Si合金:Cr/Si=20atom%/80atom%)20質量%、グラファイト72~77質量%、ポリフッ化ビリニデン3質量%、カーボンナノチューブ0~5質量%を水に分散させることで負極スラリーを形成した。続いて、形成した負極スラリーを集電体である銅箔上に塗工し、乾燥させて負極活物質層を形成した。さらに、圧縮機により負極活物質層を圧縮することで、負極を製造した。
【0094】
なお、各実施例および比較例におけるカーボンナノチューブの含有量は、以下の表2に示す値とした。また、Si系活物質の平均粒径は、2μmであり、カーボンナノチューブ(CNT)の平均直径は20nm、平均長さは5μmであった。ここで、Si系活物質の平均粒径、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、実施例1と同様の測定方法で測定した。
【0095】
また、正極、セパレータ、電解液は、実施例1と同様のものを用い、実施例1と同様の方法で、実施例12~17および比較例10~12に係るリチウムイオン二次電池(コインハーフセル)を製造した。
【0096】
(評価結果)
上記にて製造した実施例12~17および比較例10~12に係るリチウムイオン二次電池に対して、実施例1に対して実施した方法と同様の評価方法で、サイクル特性および初回効率の評価を実施した。その結果を以下の表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
表2の結果を参照すると、実施例12~17では、カーボンナノチューブの含有量が本発明の範囲内に含まれているため、比較例10~12に対してサイクル特性が向上していることがわかる。
【0099】
特に、実施例13~16では、実施例12および17よりもサイクル特性および初回効率がさらに向上しており、カーボンナノチューブの含有量として、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましいことがわかる。また、比較例10~12では、カーボンナノチューブの含有量が本発明の範囲を外れているため、サイクル特性および初回効率が低下していることがわかる。
【0100】
[3.3.Si系活物質の平均粒径の検討]
(リチウムイオン二次電池の製造)
次に、以下の方法にて実施例18~24に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0101】
Si系活物質(Si合金:Cr/Si=20atom%/80atom%)20質量%、グラファイト76質量%、ポリフッ化ビリニデン3質量%、カーボンナノチューブ1質量%を水に分散させることで負極スラリーを形成した。続いて、形成した負極スラリーを集電体である銅箔上に塗工し、乾燥させて負極活物質層を形成した。さらに、圧縮機により負極活物質層を圧縮することで、負極を製造した。
【0102】
なお、各実施例におけるSi系活物質の平均粒径は、以下の表3に示す値であった。また、カーボンナノチューブ(CNT)の平均直径は20nm、平均長さは5μmであった。ここで、Si系活物質の平均粒径、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、実施例1と同様の測定方法で測定した。
【0103】
また、正極、セパレータ、電解液は、実施例1と同様のものを用い、実施例1と同様の方法で、実施例18~24に係るリチウムイオン二次電池(コインハーフセル)を製造した。
【0104】
(評価結果)
上記にて製造した実施例18~24に係るリチウムイオン二次電池に対して、実施例1に対して実施した方法と同様の評価方法で、サイクル特性および初回効率の評価を実施した。その結果を以下の表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
表3の結果を参照すると、実施例19~22は、実施例18、23、24に対して、サイクル特性および初回効率がさらに向上しており、Si系活物質の平均粒径として、0.5μm以上5μm以下がより好ましいことがわかる。
【0107】
[3.4.Si系活物質由来の可逆容量の割合の検討]
(リチウムイオン二次電池の製造)
次に、以下の方法にて実施例25~30、比較例13~18に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0108】
Si系活物質(Si合金:Cr/Si=20atom%/80atom%)0~20質量%、グラファイト76~96質量%、ポリフッ化ビリニデン3質量%、カーボンナノチューブ1質量%を水に分散させることで負極スラリーを形成した。続いて、形成した負極スラリーを集電体である銅箔上に塗工し、乾燥させて負極活物質層を形成した。さらに、圧縮機により負極活物質層を圧縮することで、負極を製造した。ただし、比較例13~18は、カーボンナノチューブを含有させずに、その分グラファイトを1質量%増加させて負極スラリーを形成した。
【0109】
なお、各実施例および比較例におけるSi系活物質の含有量は、以下の表4に示す値とした。また、各実施例および比較例におけるSi系活物質の平均粒径は、2μmであり、カーボンナノチューブ(CNT)の平均直径は20nm、平均長さは5μmであった。ここで、Si系活物質の平均粒径、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、実施例1と同様の測定方法で測定した。
【0110】
また、正極、セパレータ、電解液は、実施例1と同様のものを用い、実施例1と同様の方法で、実施例25~30、比較例13~18に係るリチウムイオン二次電池(コインハーフセル)を製造した。
【0111】
(評価結果)
上記にて製造した実施例25~30、比較例13~18に係るリチウムイオン二次電池に対して、実施例1に対して実施した方法と同様の評価方法で、サイクル特性および初回効率の評価を実施した。その結果を以下の表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4の結果を参照すると、実施例25~30では、比較例13~18に対して、サイクル特性が同等以上に改善していることがわかる。
【0114】
具体的には、Si系活物質由来の可逆容量の割合が10%以上である実施例25~29は、実施例25~29に対してカーボンナノチューブが含有されていない比較例13~17よりも、サイクル特性が向上していることがわかる。また、Si系活物質由来の可逆容量の割合が10%未満である実施例30は、実施例30に対してカーボンナノチューブが含有されていない比較例18と同等のサイクル特性であることがわかる。
【0115】
これは、Si系活物質由来の可逆容量の割合が10%未満である場合、負極活物質中のSi系活物質の割合が過度に少ないため、本発明の効果が効果的に発揮されないためである。すなわち、本発明は、Si系活物質由来の可逆容量の割合が10%以上である場合に、より効果的にサイクル特性を向上させることができる。
【0116】
なお、Si系活物質由来の可逆容量の割合がより高いほど、リチウムイオン二次電池の放電容量が増加しているため、好ましい。すなわち、負極活物質層中のSi系活物質の含有量がより多いほど、リチウムイオン二次電池の放電容量を増加させることができ、かつ、本発明によるサイクル特性向上の効果も高まるため、好ましい。また、負極活物質層中のSi系活物質の含有量の上限は、特に限定されない(すなわち、100質量%であってもよい)。
【0117】
以上の評価結果からわかるように、本実施形態によれば、Si系活物質を含む負極活物質層に、さらに特定の形状を有するカーボンナノチューブを適量含有させることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することが可能である。また、このような特定の形状を有するカーボンナノチューブの平均直径は、10nm以上120nm以下であり、平均長さは、0.5μm以上20μm以下である。さらに、このようなカーボンナノチューブの含有量は、負極活物質層の総質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下である。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0119】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
21 集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ層
図1
図2A
図2B