(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20220405BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220405BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20220405BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20220405BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220405BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20220405BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B60C5/14 A
C08L25/08
C08L15/00
C08K5/103
C08L77/00
C08L29/04 C
C08J3/24 Z CEQ
(21)【出願番号】P 2017238068
(22)【出願日】2017-12-12
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】松井 一高
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕太
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-052904(JP,A)
【文献】特開2013-245318(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00-29/14
C08L 25/00-25/18
C08L 7/00-21/02
C08L 77/00-77/12
C08K 3/00-13/08
C08J 3/24
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、および
ソルビタン、ソルビトールまたはショ糖と脂肪酸のエステル(D)を含む空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物であって、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は繰り返し単位-O-(CH
2)
n-CO-(ただしnは2~9の整数である。)を有する脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、変性ゴム(C)は酸無水物基またはエポキシ基を有するゴムであり、熱可塑性樹脂組成物は変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100重量部を基準として0.2~20重量部のエステル(D)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
さらにポリアミド(E)を含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)が架橋剤により動的架橋されていることを特徴とする請求項1
または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴムが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体およびエチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の合計量が、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(熱可塑性樹脂組成物がポリアミド(E)を含む場合は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)とポリアミド(E)の合計量)100重量部を基準として、20~230重量部であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の重量比(B/C)が20/80~95/5であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド(E)と変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の重量比(E/A)が0/100~80/20であることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる空気入りタイヤインナーライナー。
【請求項9】
請求項
8に記載の空気入りタイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤインナーライナーを作製するのに使用される熱可塑性樹脂組成物において、繰り返し変形(疲労)により通気度が増加するという問題を改善するために、脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体と酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴムとを含む熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の熱可塑性樹脂組成物は、繰り返し変形(疲労)による通気度の増加を抑制することができているが、ゴム相の分散が不完全でゴム相が連続気味であり、製膜性(フィルム成形性)が悪いという問題がある。
本発明は、脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体と酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴムとを含む熱可塑性樹脂組成物において、繰り返し変形による空気透過係数の増加およびタイヤ走行によるタイヤエア漏れの増加を抑制しながら、製膜性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体および酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴムとを含む熱可塑性樹脂組成物において、さらにハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体および1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステルを配合することで、繰り返し変形による空気透過係数の増加およびタイヤ走行によるタイヤエア漏れの増加を抑制しながら、良好な製膜性が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、および1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)を含む空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物であって、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は繰り返し単位-O-(CH2)n-CO-(ただしnは2~9の整数である。)を有する脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、変性ゴム(C)は酸無水物基またはエポキシ基を有するゴムであり、熱可塑性樹脂組成物は変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100重量部を基準として0.2~20重量部のエステル(D)を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明は、次の態様を含む。
[1]変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、および1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)を含む空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物であって、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は繰り返し単位-O-(CH2)n-CO-(ただしnは2~9の整数である。)を有する脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、変性ゴム(C)は酸無水物基またはエポキシ基を有するゴムであり、熱可塑性樹脂組成物は変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100重量部を基準として0.2~20重量部のエステル(D)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]さらにポリアミド(E)を含む[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物が、ソルビタン、ソルビトールまたはショ糖であることを特徴とする[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)が架橋剤により動的架橋されていることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]前記ゴムが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体およびエチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の合計量が、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(熱可塑性樹脂組成物がポリアミド(E)を含む場合は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)とポリアミド(E)の合計量)100重量部を基準として、20~230重量部であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の重量比(B/C)が20/80~95/5であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8]ポリアミド(E)と変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の重量比(E/A)が0/100~80/20であることを特徴とする[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる空気入りタイヤインナーライナー。
[10][9]に記載の空気入りタイヤインナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、繰り返し変形による空気透過係数の増加が小さくかつタイヤ走行によるタイヤエア漏れの増加が小さい空気入りタイヤインナーライナーを製造することができ、かつ製膜性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、および1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)を含む空気入りタイヤインナーライナー用熱可塑性樹脂組成物であって、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)は繰り返し単位-O-(CH2)n-CO-(ただしnは2~9の整数である。)を有する脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、変性ゴム(C)は酸無水物基またはエポキシ基を有するゴムであり、熱可塑性樹脂組成物は変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100重量部を基準として0.2~20重量部のエステル(D)を含むことを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、さらにポリアミド(E)を含む。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)およびポリアミド(E)がマトリックス相を形成し、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)が分散相を形成している。
【0010】
本発明において、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)とは、繰り返し単位-O-(CH2)n-CO-(ただしnは2~9の整数である。)を有する脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、幹となるエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)の水酸基に脂肪族ポリエステルがグラフトしてなるものである。
【0011】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の幹を形成するEVOH単位の含有量と、この幹にグラフトされた脂肪族ポリエステル単位の含有量の比率(EVOH単位の含有量/脂肪族ポリエステル単位の含有量)は、重量部で、通常99/1~40/60、好ましくは95/5~60/40、特に好ましくは90/10~65/35である。EVOH単位の含有量が低すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、EVOH単位の含有量と脂肪族ポリエステル単位の含有量の比率は、グラフト反応時のEVOHと脂肪族ポリエステルの仕込み比でコントロールすることができる。
【0012】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の製造方法は、幹を形成するEVOHに、脂肪族ポリエステルをグラフトさせる公知の方法を用いることができるが、特に、EVOHの存在下にラクトン類を開環重合させる方法が好ましく用いられる。
【0013】
用いられるラクトン類としては、炭素原子の数が3~10であるラクトン類であれば特に制限されない。このようなラクトン類は、置換基を有しない場合には次の式(1)で表される。ここで、nは2~9の整数であり、好ましくは、nは4~5である。
【0014】
【0015】
具体的には、β-プロピオンラクトン、γ―ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等を挙げることができ、ε-カプロラクトンおよびδ-バレロラクトンが好ましく、安価かつ容易に入手できる点から、ε-カプロラクトンがより好ましい。
これらのラクトン類は、2種以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
また、開環重合反応の際には、従来公知の開環重合触媒を添加することが好ましく、例えば、チタン系化合物、錫系化合物等を挙げることができる。具体的には、テトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどのチタニウムアルコキシド、ジブチルジブトキシスズなどのスズアルコキシド、ジブチルスズジアセテートなどのスズエステル化合物などが挙げられるが、これらの中でも安価かつ容易に入手できる点からテトラ-n-ブトキシチタンが好ましい。
【0017】
EVOHにラクトン類を開環重合させてグラフト化する方法としては、例えば、両者を混練機中で溶融混練する方法が挙げられ、その際の混練機としては、一軸および二軸押し出し機、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等が挙げられる。
【0018】
溶融混練の時間および温度は、特に限定されず、両物質が溶融する温度、およびグラフト化が完了する時間を適宜選べばよいが、通常50~250℃で10秒~24時間、特に150~230℃で5分~10時間の範囲が好ましく用いられる。
【0019】
原料として用いるEVOHは、エチレン単位(-CH2CH2-)とビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。EVOHのエチレン単位比率は、特に限定されないが、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、さらに好ましくは30~45モル%である。エチレン単位比率とは、1分子中のエチレン単位の数とビニルアルコール単位の数の合計(エチレン-ビニルアルコール共重合体が他の反復単位を含む場合は、1分子中のエチレン単位の数とビニルアルコール単位の数と他の反復単位の数の合計)に対するエチレン単位の数を百分率で表示した値である。エチレン単位比率が多すぎるとガスバリア性が低下し、逆に少なすぎるとラクトン類との開環重合の反応性が低下する傾向がある。
【0020】
また、EVOHはエチレン-酢酸ビニル共重合体の鹸化物であるが、そのの鹸化度は、特に限定されないが、通常80モル%以上であり、好ましくは90~99.99モル%、特に好ましくは99~99.9モル%である。鹸化度が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0021】
また、EVOHにおいて分子量の指標として用いられるメルトフローレート(MFR)は、210℃,荷重2160g条件下で、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは0.5~50g/10分、特に好ましくは1~25g/10分である。MFR値が低すぎるとラクトン類との開環重合の反応性が低下する傾向がある。
【0022】
EVOHとしては、その平均値が、上記要件を充足するEVOHの組合せであれば、エチレン単位比率、鹸化度、MFRが異なる2種以上のEVOHを混合して用いてもよい。
【0023】
本発明の組成物は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に加えて、脂肪族ポリエステルがグラフトされていないエチレン-ビニルアルコール共重合体(A0)を含んでもよい。脂肪族ポリエステルがグラフトされていないエチレン-ビニルアルコール共重合体を、以下、「未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体」ともいう。
未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A0)を含む場合、未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A0)の量は、脂肪族ポリエステルがグラフトされた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A0)との合計量の80重量%以下であり、好ましくは20~70重量%であり、より好ましくは30~60重量%である。未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A0)の量が多すぎると、繰返し変形(疲労)により通気度が増加する。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ハロゲン化イソモノオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)を含む。分散相を構成するゴム成分として、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)とを併用することにより、疲労前のガスバリア性と低温耐久性を両立することができる。
【0025】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)は、イソオレフィンとパラアルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより製造することができ、ハロゲン化イソオレフィンとパラアルキルスチレンの混合比、重合率、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、ハロゲン原子等は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物に要求される物性等に応じて任意に選択することができる。ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体を構成するイソオレフィンとしては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセン等が例示できるが、好ましくはイソブチレンである。ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体を構成するパラアルキルスチレンはパラメチルスチレン、パラエチルスチレン、パラプロピルスチレン、パラブチルスチレン等が例示できるが、好ましくはパラメチルスチレンである。ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体を構成するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できるが、好ましくは臭素である。特に好ましいハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体は臭素化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体(以下「Br-IPMS」ともいう。)である。
臭素化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体は、式(2)
【0026】
【0027】
で表される反復単位を有するイソブチレン-パラメチルスチレン共重合体を臭素化したものであり、典型的には式(3)
【0028】
【0029】
で表される反復単位を有するものである。臭素化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体は、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、EXXPRO(登録商標)の商品名で入手することができる。
【0030】
本発明に用いる変性ゴム(C)は、酸無水物基またはエポキシ基を有するゴムであり、ゴムに酸無水物基またはエポキシ基を導入したものである。ポリアミド樹脂との相溶性という観点から、特に好ましくは、変性ゴム(C)は酸無水物基を有するゴムである。
【0031】
変性ゴム(C)を構成するゴムとしては、特に限定するものではないが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体などが挙げられる。すなわち、変性ゴム(C)は、好ましくは、酸無水物基またはエポキシ基を有するエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体またはエチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体である。エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体などが挙げられる。
【0032】
酸無水物基を有する変性ゴムは、たとえば、酸無水物とペルオキシドをゴムに反応させることにより製造することができる。酸無水物基を有する変性ゴム中の酸無水物基の含有量は、好ましくは0.01~1モル/kg、より好ましくは0.05~0.5モル/kgである。酸無水物基の含有量が少なすぎると変性ゴム分散の悪化を招き、逆に多すぎると加工性の悪化を招く。また、酸無水物基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MH7020)などがある。
【0033】
エポキシ基を有する変性ゴムは、たとえば、グリシジルメタクリレートをゴムに共重合させることにより製造することができる。共重合比率は、限定するものではないが、たとえば、ゴム100重量部に対し、グリシジルメタクリレート10~50重量部である。エポキシ基を有する変性ゴム中のエポキシ基の含有量は、好ましくは0.01~5モル/kg、より好ましくは0.1~1.5モル/kgである。エポキシ基の含有量が少なすぎると変性ゴム分散の悪化を招き、逆に多すぎると加工性の悪化を招く。また、エポキシ基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、住友化学株式会社製エポキシ変性エチレン-アクリル酸メチル共重合体(エスプレン(登録商標)EMA2752)などがある。
【0034】
特に好ましい変性ゴムは、酸無水物基でグラフト変性されたエチレン-α-オレフィン共重合体であり、その例としては、前述の三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MH7020)がある。
【0035】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の合計量は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(熱可塑性樹脂組成物がポリアミド(E)を含む場合は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)とポリアミド(E)の合計量)100重量部を基準として、好ましくは20~230重量部であり、より好ましくは30~210重量部であり、さらに好ましくは40~190重量部である。ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の合計量が少なすぎると、柔軟性および低温での耐久性が不足する虞があり、逆に多すぎると、ゴム相が連続相、樹脂相が分散相となるため、溶融押出成形時の流動性が低下し加工性が悪化する。
【0036】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)と変性ゴム(C)の重量比(B/C)は、好ましくは20/80~95/5であり、より好ましくは25/75~90/10であり、さらに好ましくは30/70~85/15である。重量比(B/C)が小さすぎると、疲労前のガスバリア性が低くなり、逆に大きすぎると、低温での耐久性が不足する虞がある。
【0037】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)は架橋剤により動的架橋されていることが好ましい。動的架橋することにより、熱可塑性樹脂組成物中のマトリックス相と分散相を固定することができる。動的架橋は、ハロゲン化イソモノオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)を架橋剤とともに溶融混練することによって行なうことができる。
【0038】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)の動的架橋に使われる架橋剤としては、亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、m-フェニレンビスマレイミド、アルキルフェノール樹脂およびそのハロゲン化物、第二級アミンなどが挙げられる。架橋剤として使われる第二級アミンとしては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、重合した2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどが挙げられる。なかでも亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミンが動的架橋のための架橋剤として好ましく使用できる。
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)の動的架橋に使われる架橋剤の量は、ハロゲン化イソモノオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体100重量部に対して0.2~15重量部が好ましく、より好ましく0.5~10重量部である。架橋剤の量が少なすぎると、動的架橋が不足し、ハロゲン化イソモノオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体の微分散を維持できず、耐久性が低下する。逆に、架橋剤の量が多すぎると、混練、加工中にスコーチしたり、フィルム中に異物を生じる原因となる。
【0039】
変性ゴム(C)の動的架橋に使われる架橋剤としては、変性ゴム(C)中の酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基およびアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基を有する水素結合性化合物が挙げられる。酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基およびアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基を有する水素結合性化合物としては、酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基として、アミノ基、水酸基、カルボキシル基またはメルカプト基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基として、スルホン基、カルボニル基、エーテル結合、水酸基または含窒素複素環を有する化合物が挙げられるが、なかでも酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基としてアミノ基および/または水酸基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基としてスルホン基、カルボニル基および/または含窒素複素環を有する化合物が好ましい。酸無水物基またはエポキシ基と反応する官能基としてアミノ基および/または水酸基を有し、かつアミド結合または水酸基と水素結合し得る官能基としてスルホン基、カルボニル基および/または含窒素複素環を有する化合物としては、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3′-ジアミノ-4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、(4-(4-アミノべンゾイル)オキシフェニル)4-アミノベンゾエート、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられるが、なかでも3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、3-アミノ-1,2,4-トリアゾールが、コスト、安全性、低温耐久性の向上の観点で好ましい。
【0040】
変性ゴム(C)の動的架橋に使われる架橋剤の量は、変性ゴム(C)100重量部に対して0.2~15重量部が好ましく、より好ましくは0.5~10重量部である。架橋剤の量が少なすぎると、動的架橋が不足し、変性ゴム(C)の微分散を維持できず、耐久性、ガスバリア性が低下する。逆に、架橋剤の量が多すぎても、耐久性が低下するため、好ましくない。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)を含む。
1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物としては、ソルビタン、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、リビトール、グルコース、ガラクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース、ラクトースを挙げることができるが、好ましくは、ソルビタン、ソルビトール、ショ糖である。
脂肪酸は、好ましくは炭素数3~30の飽和または不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数4~20の飽和または不飽和脂肪酸である。脂肪酸の具体例としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸を挙げることができるが、好ましくは、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸である。
エステル(D)のエステル化度は限定されない。すなわち、エステル(D)は、モノエステルであってもよいし、ジエステルであってもよいし、トリエステルであってもよいし、それ以上のポリエステルであってもよい。
エステル(D)の具体例としては、ソルビタンモノステアラート、ソルビタントリステアラート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノカプリレート、ショ糖脂肪酸エステルを挙げることができるが、好ましくは、ソルビタンモノステアラート、ソルビタントリステアラート、ソルビタンモノオレアート、ショ糖脂肪酸エステルである。
ショ糖脂肪酸エステルは、第一工業製薬株式会社からDKエステル(登録商標)SS、F-160、F-140、F-110、F-90、F-70、F-50、F20W、F-10、FA-10E等の商品名で入手することができる。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、ポリアミド(E)を含む。ポリアミドは、限定するものではないが、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6、ナイロン46、およびナイロン6Tが単独でまたは混合物として使用できる。なかでも、ナイロン6、ナイロン66、およびナイロン6/66共重合体が耐疲労性とガスバリア性の両立という点で好ましい。
【0043】
ポリアミド(E)と変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)との重量比(E/A)は、好ましくは0/100~80/20であり、より好ましくは5/95~70/30であり、さらに好ましくは10/90~60/40である。重量比(E/A)が小さすぎると、インナーライナーとしてグリーンタイヤに配し加硫した際、耐熱性が不足し故障しやすくなり、逆に大きすぎると、ガスバリア性が不足する。
【0044】
熱可塑性樹脂組成物は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、エステル(D)、所望によりポリアミド(E)を、溶融混練することによって製造することができる。
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体と溶融混練する前にあらかじめ動的架橋しておく必要はなく、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、エステル(D)、所望によりポリアミド(E)を溶融混練する際に架橋剤を添加することによって、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、エステル(D)、所望によりポリアミド(E)を溶融混練するのと同時にハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)を動的架橋することができる。すなわち、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、エステル(D)および架橋剤、所望によりポリアミド(E)を溶融ブレンドすることによって、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)および変性ゴム(C)が動的架橋された熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの、樹脂およびゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0046】
本発明のインナーライナーは、前記の熱可塑性樹脂組成物からなる空気入りタイヤのインナーライナーである。前記の熱可塑性樹脂組成物は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができる。そのフィルムは、通気度が低いため、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に使用することができる。
【0047】
本発明の空気入りタイヤは、前記のインナーライナーを含む空気入りタイヤである。空気入りタイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、予め熱可塑性樹脂組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0048】
(1)原材料
実施例および比較例に用いた原材料は次のとおりである。
【0049】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)として、次のものを用いた。
変性EVOH-1: 脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH/ε-カプロラクトン=83重量%/17重量%)。この変性EVOH-1は、エチレン単位比率32モル%、鹸化度99.6モル%、MFR(210℃,荷重2160g)12g/10分のEVOH100重量部、ε-カプロラクトン20重量部、テトラ-n-ブトキシチタン0.2重量部をニーダーに仕込み、220℃で6時間反応させることにより調製した。
変性EVOH-2: 脂肪族ポリエステルがグラフトされたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH/ε-カプロラクトン=83重量%/17重量%)。この変性EVOH-2は、エチレン単位比率44モル%、鹸化度99.6モル%、MFR(210℃,荷重2160g)12g/10分のEVOH100重量部、ε-カプロラクトン20重量部、テトラ-n-ブトキシチタン0.2重量部をニーダーに仕込み、220℃ で6時間反応させることにより調製した。
【0050】
ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)として、次のものを用いた。
Br-IPMS: エクソンモービルケミカル社製臭素化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体EXXPRO(登録商標)3745
【0051】
変性ゴムとして、次のものを用いた。
無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体: 三井化学株式会社製α-オレフィンコポリマー「タフマー」(登録商標)MH7010
【0052】
ポリアミド(E)として、次のものを用いた。
ナイロン6: 宇部興産株式会社製ナイロン6「UBEナイロン」1013B
ナイロン6/66共重合体: 宇部興産株式会社製ナイロン6/66共重合体「UBEナイロン」5023B
【0053】
1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)として、次のものを用いた。
ソルビタンモノステアラート: 理研ビタミン株式会社製ポエムS-60V
ソルビタントリステアラート: 花王株式会社製レオドールSP-S30V
ソルビタンモノオレアート: 花王株式会社製レオドールAO-10V
ショ糖脂肪酸エステル: 第一工業製薬株式会社製DKエステル(登録商標)F-50(エステル組成:モノエステル30%,ジ・トリ・ポリエステル70%)
【0054】
その他のエステルとして、次のものを用いた。
グリセリントリアセタート: 大八化学工業株式会社製トリアセチン
【0055】
架橋剤として、次のものを用いた。
トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート: 四国化成工業株式会社製セイクA
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
6PPD: フレキシス(Flexsys)社製「サントフレックス6PPD」(化合物名:N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-1,4-フェニレンジアミン)
【0056】
(2)熱可塑性樹脂組成物の調製
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ハロゲン化イソオレフィン-パラアルキルスチレン共重合体(B)、変性ゴム(C)、1分子中に4つ以上の水酸基を含む化合物と脂肪酸のエステル(D)、ポリアミド(E)および架橋剤を、表1および表2に示す配合にて、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)の原料供給口からシリンダー内に導入し、温度230℃および滞留時間約3~8分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0057】
(3)熱可塑性樹脂組成物の評価方法
得られた熱可塑性樹脂組成物について、製膜性、空気透過係数の変化率、タイヤエア漏れ変化率を下記の試験法により評価した。
【0058】
[製膜性]
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=220/225/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度4m/minの押出条件で、平均厚み0.05mmのフィルムに成形した。
成形したフィルムの外観を目視にてピンホールの有無を評価した。
50cm×50cmの正方形のフィルム片の中にピンホールがないものを「良」、1~3個のものを「可」、4個以上のものを「不可」と判定した。
【0059】
[疲労前後の空気透過係数の比率]
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=220/225/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度4m/minの押出条件で、平均厚み0.05mmのフィルムに成形した。
成形したフィルムを所定の大きさに切り出し、表3に示す配合の未加硫ゴム組成物のシートと張り合わせた後、180℃、10分で加硫接着をさせ、熱可塑性樹脂組成物とゴム組成物の積層体を得た。
積層体を幅5cmに切り出し、定歪試験機で100万回の繰り返し変形を与えた。繰り返し変形を与える前(疲労前)と、繰り返し変形を与えた後(疲労後)について、積層体の空気透過係数を、温度23℃、相対湿度0%で測定し、次式により疲労前後の空気透過係数の比率を求めた。
疲労前後の空気透過係数の比率=疲労後の空気透過係数/疲労後の空気透過係数
疲労前後の空気透過係数の比率が1.5以下で抑制効果があるものと判定した。
【0060】
[疲労前後のタイヤエア漏れの比率]
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、押出温度C1/C2/C3/C4/ダイ=220/225/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度4m/minの押出条件で、平均厚み0.05mmのフィルムに成形した。
成形したフィルムをインナーライナーとして用い、常法によりラジアルタイヤ195/65R15を作製した。作製したタイヤを空気圧250kPa、温度21℃、相対湿度30%および80%雰囲気下で3か月間放置し、タイヤ空気圧変化を測定し、1か月あたりのタイヤ空気圧の減少量を%表示したものを「タイヤエア漏れ」(%/月)と定義する。疲労前後のタイヤエア漏れの比率は次式により定義する。
疲労前後のタイヤエア漏れの比率=疲労後タイヤエア漏れ/疲労前タイヤエア漏れ
ここで、「疲労後タイヤエア漏れ」とは、タイヤを室内でJATMA規格により規定された標準リムにて140kPaの圧力で空気を封入し、外形1700mmのドラム上を用い、38℃の室温にて、荷重300kN、速度80km/hで距離7万km走行させた後に測定したタイヤエア漏れをいう。「疲労前タイヤエア漏れ」とは、走行させる前に測定したタイヤエア漏れをいう。
疲労前後のタイヤエア漏れの比率が1.5以下の場合を合格と判定した。
【0061】
【0062】
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車等の空気入りタイヤのインナーライナーを製造するのに、また空気入りタイヤを製造するのに、好適に利用することができる。