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特許7053247表面処理液、表面処理方法、及びパターン倒れの抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】表面処理液、表面処理方法、及びパターン倒れの抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220405BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220405BHJP
   C23C 22/02 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C09K3/18 101
C23C22/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017245116
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019114600
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】熊田 信次
(72)【発明者】
【氏名】関 健司
(72)【発明者】
【氏名】並木 拓海
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-238844(JP,A)
【文献】特開平06-264258(JP,A)
【文献】特開2009-209431(JP,A)
【文献】特開2017-063179(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033114(WO,A1)
【文献】特開昭57-002329(JP,A)
【文献】特開2006-022400(JP,A)
【文献】米国特許第3933531(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/02
C09K 3/18
C23C 22/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水化剤(A)を含む表面処理液であって、
前記撥水化剤(A)が、炭素原子、水素原子、及び窒素原子のみからなる含窒素複素環を主骨格として有する含窒素複素環化合物を含み、且つ、シリル化剤を含まず、
前記含窒素複素環が、芳香族環であり、かつ、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基で置換されており、
前記炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されてもよく、
1以上の前記炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である、表面処理液。
【請求項2】
前記撥水化剤(A)として、実質的に、前記含窒素複素環化合物のみを含む、請求項1に記載の表面処理液。
【請求項3】
前記含窒素複素環化合物が、少なくとも1つの炭素原子数3以上の炭化水素基で置換されている、請求項1又は2に記載の表面処理液。
【請求項4】
炭素原子数3以上の前記炭化水素基が、鎖状脂肪族炭化水素基である、請求項3に記載の表面処理液。
【請求項5】
前記含窒素複素環が、含窒素5員環であるか、含窒素5員環を含む縮合環である、請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項6】
前記含窒素複素環が、イミダゾール環であるか、イミダゾール環を含む縮合環である、請求項に記載の表面処理液。
【請求項7】
前記炭化水素基が、前記含窒素複素環を構成する炭素原子上に結合している、請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項8】
前記含窒素複素環化合物が、炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルイミダゾールである、請求項に記載の表面処理液。
【請求項9】
少なくとも一部が、タングステン及び/又は窒化チタンからなる表面の表面処理に用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理液。
【請求項10】
被処理体の表面に、請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理液を暴露させ、前記被処理体の表面を処理する表面処理方法。
【請求項11】
前記表面の少なくとも一部が、タングステン及び/又は窒化チタンからなる、請求項10に記載の表面処理方法。
【請求項12】
有機パターン又は無機パターンをその表面に備える基板において、前記基板の前記表面を洗浄液により洗浄する際の前記有機パターン又は前記無機パターンの倒れを抑制する方法であって、
請求項10に記載の表面処理方法によって、前記表面を表面処理することを含む、方法。
【請求項13】
前記基板の表面処理される前記表面の少なくとも一部がタングステン及び/又は窒化チタンからなる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水化剤を含む表面処理液と、当該表面処理液を用いる表面処理方法と、当該表面処理方法による表面処理を含むパターン倒れの抑制方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化及び微小化の傾向が高まり、基板をエッチングする際のエッチングマスクとなる樹脂パターン及びエッチング処理により作製された無機パターンの微細化及び高アスペクト比化が進んでいる。しかし、その一方で、いわゆるパターン倒れの問題が生じるようになっている。このパターン倒れは、基板上に多数の樹脂パターン又は無機パターンを並列させて形成する際、隣接するパターン同士がもたれ合うように近接し、場合によってはパターンが基部から折損したり、剥離したりする現象のことである。このようなパターン倒れが生じると、製品の歩留まり及び信頼性の低下を引き起こすことになる。
【0003】
このパターン倒れは、パターン形成後の洗浄処理において、洗浄液が乾燥する際、その洗浄液の表面張力により発生することが分かっている。つまり、乾燥過程で洗浄液が除去される際に、パターン間に洗浄液の表面張力に基づく応力が作用し、パターン倒れが生じることになる。
【0004】
そこで、従来、N,N-ジメチルアミノトリメチルシラン(TMSDMA)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシリル化剤と溶剤とを含む表面処理液を用いて、樹脂パターン又は無機パターンの表面を疎水化(シリル化)し、パターン倒れを防止することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-129932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるようなシリル化剤を含む表面処理液では、シリル化剤の加水分解によるシラノール基の生成と、生成したシラノール基と被処理体の表面との反応とによって、被処理体表面の疎水化(シリル化)を行う。
上記の通り、シリル化剤は、水の存在下において容易に加水分解されシラノール基を生成させる。そして、表面処理液中のシリル化剤が加水分解されると、加水分解されたシリル化剤同士が縮合してしまう。
上記のような理由から、シリル化剤を含む表面処理液には、低水分環境下で保管しなければ、継時的な品質低下が生じやすい問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、シリル化剤を含まずとも、被処理体の表面を良好に疎水化できる表面処理液と、当該表面処理液を用いる表面処理方法と、当該表面処理方法による表面処理を含むパターン倒れの抑制方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、表面処理液に、撥水化剤として含窒素複素環化合物を含有させ、当該含窒素複素環化合物として、ハロゲン原子で置換されてもよい1以上の炭化水素基を有し、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である化合物を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、撥水化剤(A)を含む表面処理液であって、
撥水化剤(A)が、炭素原子、水素原子、及び窒素原子のみからなる含窒素複素環を主骨格として有する含窒素複素環化合物を含み、且つ、シリル化剤を含まず、
含窒素複素環が、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基で置換されており、
炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されてもよく、
1以上の前記炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である、表面処理液である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る表面処理液を暴露させ、被処理体の表面を処理する表面処理方法である。
【0011】
本発明の第3の態様は、有機パターン又は無機パターンをその表面に備える基板において、基板の表面を洗浄液により洗浄する際の有機パターン又は無機パターンの倒れを抑制する方法であって、
第2の態様にかかる表面処理方法によって、表面を表面処理することを含む、方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリル化剤を含まずとも、被処理体の表面を良好に疎水化できる表面処理液と、当該表面処理液を用いる表面処理方法と、当該表面処理方法による表面処理を含むパターン倒れの抑制方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪表面処理液≫
表面処理液は、撥水化剤(A)と、溶剤(S)とを含む。表面処理液は、撥水化剤(A)として、炭素原子、水素原子、及び窒素原子のみからなる含窒素複素環を主骨格として有する含窒素複素環化合物を含み、且つ、シリル化剤を含まない。
また、含窒素複素環化合物においては、含窒素複素環が、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基で置換されている。そして、炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されてもよい。
含窒素複素環化合物において、含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である。
表面処理液が、上記の所定の要件を満たす含窒素複素環化合物を有することによって、表面処理液がシリル化剤を含まなくても、表面処理による良好な撥水化の効果を得ることができる。
【0014】
より具体的には、含窒素複素環の化学的、又は物理的性質に基づく、含窒素複素環化合物と、被処理体の表面との相互作用によって、含窒素複素環化合物が、被処理体の表面に付着又は結合できると考えられる。被処理体の表面に付着又は結合した含窒素化合物は、所定の要件を満たす、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基を有する。ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基が、被処理体の表面に撥水性を付与する。
以下、本明細書において、「含窒素複素環化合物」は、特に断りがない限り、上記の所定の要件を満たす含窒素化複素環化合物を意味する。
【0015】
以下、表面処理液が含む、必須、又は任意の成分について説明する。
【0016】
<撥水化剤(A)>
前述の通り、表面処理液は、撥水化剤(A)として、炭素原子、水素原子、及び窒素原子のみからなる含窒素複素環を主骨格として有する含窒素複素環化合物を含み、且つ、シリル化剤を含まない。
また、含窒素複素環化合物においては、含窒素複素環が、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基で置換されている。そして、炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されてもよい。
含窒素複素環化合物において、含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である。
【0017】
つまり、含窒素複素環化合物において、必ずしも含窒素複素環上にn-プロピル基等の炭素原子数3以上の炭化水素基が結合していなくてもよい。例えば、含窒素複素環化合物において、3つのメチル基が結合していてもよく、メチル基とエチル基とが結合していてもよい。
【0018】
表面処理液は、撥水化剤(A)として、実質的に、前述の含窒素複素環化合物のみを含むのが好ましい。これにより、保管時の安定性に優れ、良好な撥水化効果を示す表面処理剤を得やすい。
含窒素複素環化合物以外の撥水化剤としては、フッ素系撥水化剤、リン系撥水化剤、チタネート系撥水化剤、アルミネート系撥水化剤等が挙げられる。
撥水化剤(A)が実質的に、含窒素複素環化合物のみを含むとは、表面処理液が、所望する効果を阻害する量を超えて、含窒素複素環化合物以外の撥水化剤(A)を含まないことを意味する。
典型的には、撥水化剤(A)の質量に対する含窒素複素環化合物以外の撥水化剤の質量の割合は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらにより好ましく、0.1質量%以下が特に好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0019】
含窒素複素環化合物は、その主骨格である含窒素複素環上に、ハロゲン原子で置換されてもよい、1以上の炭化水素基を有する。以下、本明細書において、「炭化水素基」は、特に断りがない限り、ハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基を意味する。
含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数が3以上である。含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数は、撥水化の効果が良好である点から、4以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上が特に好ましい。
含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数の上限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。含窒素複素環上に結合する、1以上の炭化水素基の炭素原子数の総数の上限は、含窒素複素環化合物の分子量が過度に大きくなく、少量で良好な撥水化効果を得やすい点から、30以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0020】
また、含窒素複素環化合物は、撥水化効果が良好である点から、少なくとも1つの炭素原子数3以上の炭化水素基で置換されているのが好ましい。
含窒素複素環化合物において、含窒素複素環上に、炭素原子数4以上の炭化水素基が結合しているのがより好ましく、炭素原子数6以上の炭化水素基が結合しているのがさらにより好ましく、炭素原子数8以上の炭化水素基が結合しているのが特に好ましい。
含窒素複素環上に結合する各炭化水素基の炭素原子数の上限は特に限定されない。含窒素複素環上に結合する各炭化水素基の炭素原子数は、含窒素複素環化合物の分子量が過度に大きくなく、少量で良好な撥水化効果を得やすい点から、30以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0021】
炭化水素基を置換し得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子としては、良好な撥水化効果を得やすい点からフッ素原子が好ましい。
含窒素複素環化合物の分子量が過度に大きくなく、少量で良好な撥水化効果を得やすい点で、含窒素複素環上に結合する炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていないのが好ましい。
【0022】
含窒素複素環化合物において、含窒素複素環上に結合する炭素原子数3以上の炭化水素基の構造は特に限定されない。炭素原子数3以上の炭化水素基の構造は、鎖状構造であっても、環状構造であっても、鎖状構造と環状構造とを含む構造であってもよい。
鎖状構造は、直鎖状構造であっても、分岐鎖状構造であってもよい。
環状構造は、脂肪族環構造であっても、芳香族環構造であっても、脂肪族環と芳香族環とを含む環上構造であってもよい。
表面処理液により被処理体の表面を処理する場合に、被処理面の面方向についての立体的な障害が少なく、含窒素複素環化合物を被処理体の表面に高密度で付着又は結合させやすいことから、炭素原子数3以上の炭化水素基の構造は、鎖状構造が好ましく、直鎖状構造がより好ましい。
【0023】
含窒素複素環化合物において、含窒素複素環上に結合する炭化水素基は、不飽和結合を有していてもよい。
【0024】
含窒素複素環上に結合する炭化水素基の好ましい例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基等の鎖状脂肪族炭化水素基;フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基、o-フェニルフェニル基、m-フェニルフェニル基、p-フェニルフェニル基等の芳香族炭化水素基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基、イソボルニル基、及びノルボルニル基等の脂肪族環式炭化水素基が挙げられる。
【0025】
含窒素複素環上には、炭化水素基以外の置換基が結合していてもよい。炭化水素基以外の置換基の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。炭化水素基以外の置換基の具体例としては、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、脂肪族アシル基、及びメルカプト基等が挙げられる。
含窒素複素環上の炭化水素基以外の置換基の数は特に限定されない。典型的には、炭化水素基以外の置換基の数は3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1又は0が特に好ましい。
【0026】
含窒素複素環化合物の主骨格を構成する含窒素複素環の種類は、所望する表面処理効果が得られる限り特に限定されない。含窒素複素環は、脂肪族環であってもよく、芳香族環であってもよい。含窒素複素環化合物の、化学的安定性や熱的安定性が良好であることや、撥水化効果が良好であることから、含窒素複素環は芳香族環であるのが好ましい。
【0027】
含窒素複素環は、単環であっても、多環であってもよい。多環は、2以上の単環が縮合した縮合環であっても、2以上の単環又は縮合環が、単結合又は連結基により結合した多環であってもよい。含窒素複素環が多環である場合、当該多環を構成する2以上の単環のうちの少なくとも1つの単環が含窒素複素環であればよい。
連結基としては、例えば、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基、カルボニル基、エステル結合、カーボネート結合、エーテル結合、スルホニル基、スルフィド結合、ジスルフィド結合、及びアミノ基(-NH-)等が挙げられる。
含窒素複素環化合物を安価に入手や合成したりしやすいことから、含窒素複素環は単環であるのが好ましい。
【0028】
含窒素複素環の具体例としては、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、トリアゾリジン環、テトラゾリジン環、ピロリン環、ピラゾリン環、イミダゾリン環、トリアゾリン環、テトリゾリン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、及びテトラゾール環等の含窒素5員環;ピペリジン環、ピペリデイン環、ピペラジン環、トリアジナン環、テトラジナン環、ペンタジナン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、テトラジン環、及びペンタジン環等の含窒素6員環;アゼパン環、ジアゼパン環、トリアゼパン環、テトラゼパン環、アゼピン環、ジアゼピン環、及びトリアゼピン環等の含窒素7員環;インドール環、インドレニン環、インドリン環、イソインドール環、イソインドレニン環、イソインドリン環、ベンゾイミダゾール環、インドリジン環、プリン環、インドリジジン環、ベンゾジアゼピン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジジン環、キノキサリン環、シンノリン環、キナゾリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、及びプテリジン環等の含窒素縮合多環が挙げられる。
【0029】
撥水化の効果が良好である点から、含窒素複素環化合物における含窒素複素環としては、含窒素5員環であるか、含窒素5員環を含む縮合環が好ましい。
含窒素5員環としては、上記の含窒素5員環が挙げられる。
含窒素5員環を含む縮合環については、上記の含窒素5員環と、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環、又はピリジン環との縮合環が好ましい。
撥水化の効果が良好である点から、含窒素5員環としては、イミダゾール環が好ましく、含窒素5員環を含む縮合環としては、イミダゾール環を含む縮合環が好ましく、ベンゾイミダゾール環がより好ましい。
【0030】
含窒素複素環化合物において、前述の炭化水素基は含窒素複素環を構成する炭素原子上に結合するのが好ましい。含窒素複素環化合物の被処理体表面への付着又は結合に、含窒素複素環中の窒素原子が影響を及ぼしていると考えらえるためである。
【0031】
以上説明した含窒素複素環化合物の中では、入手や合成が容易である点、表面処理液の溶解性に優れ、撥水化の効果が良好であることから、炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルイミダゾール、及び炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルベンゾイミダゾールが好ましい。撥水化の効果が特に良好であることからは、炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルイミダゾールがより好ましい。
【0032】
炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルイミダゾールの好適な具体例としては、2-n-プロピルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-n-ブチルイミダゾール、2-イソブチルイミダゾール、2-sec-ブチルイミダゾール、2-tert-ブチルイミダゾール、2-n-ペンチルイミダゾール、2-n-ヘキシルイミダゾール、2-n-ペンチルイミダゾール、2-n-オクチルイミダゾール、2-(2-エチルヘキシル)イミダゾール、2-n-ノニルイミダゾール、2-n-デシルイミダゾール、2-n-ウンデシルイミダゾール、2-n-ドデシルイミダゾール、2-n-トリデシルイミダゾール、2-n-テトラデシルイミダゾール、2-n-ペンタデシルイミダゾール、2-n-ヘキサデシルイミダゾール、2-n-ヘプタデシルイミダゾール、2-n-オクタデシルイミダゾール、2-n-ノナデシルイミダゾール、及び2-n-イコシルイミダゾールが挙げられる。
【0033】
炭素原子数3以上20以下のアルキル基を2位に有する2-アルキルベンゾイミダゾールの好適な具体例としては、2-n-プロピルベンゾイミダゾール、2-イソプロピルベンゾイミダゾール、2-n-ブチルベンゾイミダゾール、2-イソブチルベンゾイミダゾール、2-sec-ブチルベンゾイミダゾール、2-tert-ブチルベンゾイミダゾール、2-n-ペンチルベンゾイミダゾール、2-n-ヘキシルベンゾイミダゾール、2-n-ペンチルベンゾイミダゾール、2-n-オクチルベンゾイミダゾール、2-(2-エチルヘキシル)イミダゾール、2-n-ノニルベンゾイミダゾール、2-n-デシルベンゾイミダゾール、2-n-ウンデシルベンゾイミダゾール、2-n-ドデシルベンゾイミダゾール、2-n-トリデシルベンゾイミダゾール、2-n-テトラデシルベンゾイミダゾール、2-n-ペンタデシルベンゾイミダゾール、2-n-ヘキサデシルベンゾイミダゾール、2-n-ヘプタデシルベンゾイミダゾール、2-n-オクタデシルベンゾイミダゾール、2-n-ノナデシルベンゾイミダゾール、及び2-n-イコシルベンゾイミダゾールが挙げられる。
【0034】
タングステン、及び/又は窒化チタンについては、シリル化剤等の撥水化剤を含む表面処理液による撥水化が困難である場合があった。しかし、以上説明した撥水化剤(A)を含む表面処理液であれば、タングステン、及び/又は窒化チタンからなる表面を良好に撥水化できる。このため、以上説明した撥水化剤(A)と、溶剤(S)とを含む表面処理液は、少なくとも一部が、タングステン及び/又は窒化チタンからなる表面の表面処理に好適に用いられる。
【0035】
表面処理液における撥水化剤(A)の含有量は、所望する撥水化効果が得られる限り特に限定されない。表面処理液における撥水化剤(A)の含有量は、0.1質量%以上30質量以下が好ましく、0.5質量%以上20質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0036】
<溶剤(S)>
表面処理液は、溶剤(S)を含有する。溶剤(S)としては、撥水化剤(A)を溶解でき、且つ、表面処理対象となる被処理体の表面に対するダメージの少ないものであれば、特に限定されずに従来公知の溶剤を使用することができる。
【0037】
溶剤(S)としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、及びジエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールモノエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールジプロピルエーテル等のグリコールジエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールモノアセテート;ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート、3-メトキシペンチルアセテート、4-メトキシペンチルアセテート、2-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-3-メトキシペンチルアセテート、3-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、及び4-メチル-4-メトキシペンチルアセテート等のジオール類のモノエーテルモノアセテート;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチル、メチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-メトキシプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、エチル-3-プロポキシプロピオネート、プロピル-3-メトキシプロピオネート、イソプロピル-3-メトキシプロピオネート、エトキシ酢酸エチル、オキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、炭酸メチル、炭酸エチル、炭酸プロピル、炭酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、ピルビン酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、及びγ-ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クレゾール、及びクロロベンゼン等の芳香族類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、及びシクロヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及びジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。
また、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、メチルオクタン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等の脂肪族炭化水素等の炭化水素系溶剤であってもよく、p-メンタン、o-メンタン、m-メンタン等のメンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン等のテルピネン;ボルナン、ノルボルナン、ピナン、α-ピネン、β-ピネン等のピネン;カラン、ロンギホレン等のモノテルペン類;アビエタン等のジテルペン類等のテルペン系溶剤であってもよい。
【0038】
これらの中でも、表面処理効果及び洗浄液との置換性の点等から、グリコールモノエーテル、ジオール類のモノエーテルモノアセテート、脂肪族アルコール類及びエステル類が好ましい。これらの溶剤は、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
<その他の成分>
表面処理液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、撥水化剤(A)、溶剤(S)とともに種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
【0040】
以上説明した撥水化剤(A)と、溶剤(S)と、必要に応じてその他の成分とを、均一に混合して溶解させることで、表面処理液が調製される。
【0041】
≪表面処理方法≫
以下、表面処理方法について説明する。
表面処理方法は、被処理体表面に前述の表面処理液を暴露させ、被処理体の表面を処理する表面処理方法である。
前述の通り、前述の表面処理液を用いる処理によれば、被処理体の表面が撥水化される。
被処理体としては、前述の表面処理液により撥水化されるものであれば特に限定されない。被処理体の形状やサイズについて特に限定されない。また、表面処理液により処理される面の材質も特に限定されない。表面処理液により処理される面の材質は、無機材料であっても、樹脂等の有機材料であってもよい。
【0042】
被処理体の典型例としては基板が挙げられる。基板としては、表面の少なくとも一部が、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、窒化チタン及びタングステンからなる群より選択される1種以上の材質からなる基板が好ましい。これら材質の中では、シリル化剤等の撥水化剤を含む表面処理液による撥水化が困難であって、本発明の効果がより良好に発揮されることから、タングステン、及び/又は窒化チタンがより好ましい。
【0043】
表面処理液を基板等の被処理体の表面に暴露させる方法としては、従来公知の方法を特に制限なく使用することができる。例えば、表面処理液を、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等により被処理体の表面に接触させる方法等が挙げられる。
表面処理液を基板等の被処理体の表面に暴露させる処理時間は、1秒以上60秒以下が好ましい。また、この表面処理後には、表面における水の接触角が40度以上120度以下となることが好ましく、60度以上100度以下となることがより好ましい。
【0044】
表面処理時の表面処理液の温度は、所望する撥水化の効果が得られる限り特に限定されない。撥水化剤(A)や溶剤(S)の揮発や分解等による表面処理液の組成変化が生じにくく、所望する撥水化の効果を安定して得やすいことから、表面処理時の表面処理液の温度は、例えば、0℃以上40以下、好ましくは5℃以上35℃以下、より好ましくは10℃以上30℃以下の室温付近の温度が好ましい。
【0045】
被処理体の表面に表面処理液を暴露させた後、表面処理液に含有されていた有機溶剤等が被処理体の表面に残存する場合には、かかる残存物を除去することが好ましい。残存物を除去する方法は特に限定されず、例えば、被処理体の表面に、窒素や、乾燥空気等の気体を吹き付ける方法や、除去される溶剤の沸点に応じて、基板を適当な温度に加熱する方法、洗浄処理に用いられていた従来公知の洗浄液(例えば水やイソプロピルアルコールや活性剤リンス、SPMやAPM等)で洗浄する方法等が挙げられる。
なお、スループットの点からは、表面処理と残存物を除去する洗浄処理等とが連続した処理であることが好ましい。このため、表面処理液としては、洗浄液との置換性に優れたものを選択することが好ましい。
【0046】
なお、被処理体の用途によっては、表面処理による撥水化を行った後に、被処理体の表面の撥水性(又は親水性)を表面処理前の水準に近づけることが望まれる場合がある。
ここで、前述の表面処理液を用いて表面処理を行う場合、例えば、80℃以上250℃程度、好ましくは100℃以上200℃以下程度の比較的低い温度で、1分以上1時間以下程度の時間、表面処理された被処理体を加熱することによって、被処理体の表面の撥水性(又は親水性)を、表面処理前の撥水性(又は親水性)に近づけることができる。かかる方法によれば、高いスループットで被処理体の表面の撥水性(又は親水性)を、表面処理前の撥水性(又は親水性)に近づける処理を行うこと出来る。また加熱温度が低いことにより、加熱に要するエネルギー量が少なく、低コストで上記処理を行うことができる。
上記の被処理体の加熱処理は、空気中で行われてもよく、窒素等の不活性気体雰囲気下で行われてもよい。被処理体の表面を酸化させにくいことから、上記の加熱処理は、窒素等の不活性気体雰囲気下で行われるのが好ましい。
【0047】
≪パターン倒れの抑制方法≫
パターン倒れの抑制方法は、有機パターン又は無機パターンをその表面に備える基板において、基板の表面を洗浄液により洗浄する際の有機パターン又は無機パターンの倒れを抑制する方法である。
かかるパターン倒れの抑制方法は、前述の表面処理方法によって、基板の表面を表面処理することを含む。
以下、パターン倒れについて説明する。
【0048】
近年、半導体デバイスの高集積化、微細化の傾向が高まり、シリコンパターン等の無機パターンや、レジストパターン等の有機パターンの微細化・高アスペクト比化が進んでいる。しかしながらその一方で、いわゆるパターン倒れの問題が生じるようになっている。このパターン倒れは、基板上に多数のパターンを並列して形成させる際、隣接するパターン同士がもたれ合うように近接し、場合によってはパターンが基部から折損したりするという現象のことである。このようなパターン倒れが生じると、所望の製品が得られないため、製品の歩留まりや信頼性の低下を引き起こすことになる。
【0049】
このパターン倒れは、パターン形成後のリンス処理において、リンス液が乾燥する際、そのリンス液の表面張力により発生することが分かっている。つまり、乾燥過程でリンス液が除去される際に、パターン間にリンス液の表面張力に基づく応力が働き、パターン倒れが生じることになる。
【0050】
ここで、リンス後の乾燥過程で無機パターンのパターン間に働く力Fは、以下の式(I)のように表される。ただし、γはリンス液の表面張力を表し、θはリンス液の接触角を表し、Aは無機パターンのアスペクト比を表し、Dは無機パターン側壁間の距離を表す。
F=2γ・cosθ・A/D・・・(I)
【0051】
従って、有機パターン又は無機パターンの表面を撥水化し、リンス液の接触角を高める(cosθを小さくする)ことができれば、リンス後の乾燥過程でパターン間に働く力を低減することができ、パターン倒れを防止することができる。
よって、有機パターン又は無機パターンをその表面に備える基板の表面を、前述の表面処理方法によって表面処理して、撥水化することによって、有機パターン又は無機パターンのパターン倒れが効果的に抑制される。
【0052】
前述の表面処理方法によれば、タングステン及び/窒化チタンからなる表面が良好に撥水化される。このため、有機パターン又は無機パターンをその表面に備える基板の表面の少なくとも一部が、タングステン及び/窒化チタンであるのが好ましい。
タングステンや窒化チタンからなるパターンを表面に備える基板においては、シリル化剤等を用いる方法によりパターン倒れを抑制しにくい場合があった。しかし、以上説明したパターン倒れの抑制方法によれば、タングステンや窒化チタンからなるパターンを表面に備える基板においても、基板の表面が良好に撥水化され、それによりパターン倒れが良好に抑制される。
【実施例
【0053】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
2-n-ウンデシルイミダゾールを、濃度が3質量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解させて、実施例1の表面処理液を得た。
【0055】
〔比較例1〕
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(シリル化剤)の濃度が10質量%となり、イミダゾールの濃度が4.2質量%となるように、両者をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて、比較例1の表面処理液を得た。
【0056】
実施例1及び比較例1の表面処理液を用いて、以下の方法に従って、タングステン基板、及び窒化チタン基板についての表面処理を行った。
【0057】
まず、各基板を、濃度1質量%のHF水溶液に25℃で1分間浸漬して、各基板の表面の自然酸化膜を除去した。浸漬後、イオン交換蒸留水による洗浄と、基板への窒素ブローとを行い、乾燥した基板を得た。
【0058】
次いで、各基板の表面の接触角を、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。具体的には、基板の表面に純水液滴(1.8μL)を滴下して、滴下10秒後における接触角を測定した。表面処理前の各基板の水の接触角を表1に記す。
【0059】
乾燥した基板を、実施例1の表面処理液、又は比較例1の表面処理液中に25℃で40秒間浸漬した後、基板をイソプロピルアルコール中に1分間浸漬して洗浄した。洗浄後の基板に窒素をブローして、表面処理された基板を得た。得られた各基板について、水の接触角を測定した。表面処理後の各基板の水の接触角を表1に記す。
【0060】
【表1】
実施例1から、所定の構造の含窒素複素環化合物を撥水剤として含む表面処理液を用いることによって、種々の材質からなる基板の表面を良好に撥水化できることが分かる。
また、実施例1と、比較例1との比較から、所定の構造の含窒素複素環化合物を撥水剤として含む表面処理液を用いることによって、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンのようなシリル化剤では撥水化しにくい、タングステン基板や窒化チタン基板の表面を良好に撥水化できることが分かる。
【0061】
〔実施例2、実施例3、比較例2、及び比較例3〕
2-n-ウンデシルイミダゾールを表2に記載の種類の撥水化剤に変更することの他は、実施例1と同様にして、実施例2、実施例3、比較例2、及び比較例3の表面処理液を得た。
得られた実施例2の表面処理液を用いて、実施例1と同様にして、タングステン基板、及び窒化ケイ素基板に対する表面処理を行った。
また、得られた実施例3、比較例2、及び比較例3の表面処理液を用いて、実施例1と同様にして、窒化ケイ素基板に対する表面処理を行った。
表面処理後の各基板の表面について、実施例1と同様に水の接触角を測定した。測定された水の接触角を表2に記す。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例1~3によれば、表面処理液が、炭化水素基で置換された所定の構造の含窒素複素環化合物を含む場合、表面処理液がシリル化剤の様な撥水化剤を含んでいなくても、被処理体である基板の表面を良好に撥水化できることが分かる。
他方、比較例2及び3によれば、表面処理液が含窒素複素環化合物を含んでいても、含窒素複素環化合物が炭化水素基により置換されていなかったり、置換基としての炭化水素基の炭素原子数が1であったりする場合、被処理体である基板の表面を撥水化しにくいことが分かる。