(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】二次電池用バインダ(binder)、二次電池用バインダ樹脂組成物、二次電池用電極、および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220405BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F220/06
(21)【出願番号】P 2017254326
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】福地 巌
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149313(JP,A)
【文献】特開2003-268053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08F 220/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有アクリルモノマーと、水溶性アクリル酸誘導体モノマーとの共重合体
と、
スチレンブタジエン共重合体(SBR)と
を含み、
前記水溶性アクリル酸誘導体モノマーの前記共重合体の総質量に対する質量%が10~40質量%であり、且つ
前記共重合体1.0質量%水溶液の25℃におけるせん断粘度が、せん断速度1.0(1/s)において1.0(Pa・s)以上25(Pa・s)以下であることを特徴とするとする、二次電池用バインダ。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2-カルボキシエチルアクリレート、及び2-カルボキシエチルメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用バインダ。
【請求項3】
前記水溶性アクリル酸誘導体モノマーが、エチレングリコール鎖含有アクリルモノマー、及び水酸基含有アクリルモノマーからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、請求項1または2に記載の二次電池用バインダ。
【請求項4】
前記エチレングリコール鎖含有アクリルモノマーが、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であることを特徴とする、請求項3に記載の二次電池用バインダ。
【請求項5】
前記水酸基含有アクリルモノマーが、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であることを特徴とする、請求項3または4に記載の二次電池用バインダ。
【請求項6】
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部が、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池用バインダ。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の二次電池用バインダを含むことを特徴とする、二次電池用バインダ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の二次電池用バインダを含むことを特徴とする、二次電池用電極。
【請求項9】
請求項
8に記載の二次電池用電極を備えることを特徴とする、二次電池。
【請求項10】
前記二次電池用電極は負極であることを特徴とする、請求項
9に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用バインダ、二次電池用バインダ樹脂組成物、二次電池用電極、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているリチウムイオン(lithium ion)二次電池をはじめとする非水電解質二次電池は、ノート型パソコン(note PC)や携帯電話などのポータブル(portable)機器の電源として広く用いられている。近年では、これらの用途に加え、電気自動車やハイブリッド(hybrid)自動車等のxEV向けの需要も近年活発に伸びてきており、更なる需要拡大に大きな期待が寄せられている。
【0003】
xEV向けのリチウムイオン二次電池は、従来のガソリンエンジン(gasoline engine)車と同等の性能を確保するための高容量化や、長期の寿命特性が求められる。また更には、高いレベル(lebel)での安全性やガソリンエンジン車の給油時間と同等の時間内に充電を完了するための急速充電特性も強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-52940号公報
【文献】特開2012-018841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
急速充放電特性について詳細に説明すると、リチウムイオン二次電池を急速充電した場合、高容量化および寿命特性が損なわれる可能性がある。具体的には、リチウムイオン二次電池の充電時には、正極活物質から放出されたリチウムイオンが負極活物質内へ挿入される。しかし、電池の能力以上の高い電流値で充電を行うと、負極活物質内へのリチウムイオンの挿入が間に合わず、金属リチウムとして析出してしまう場合がある。析出した金属リチウムは、一部が電解液と不可逆反応を起こしてリチウム化合物となり、その後充放電に関与しなくなる。その結果、電池の容量が低下し、規格の充電電流の範囲内で利用する場合よりも早く電池の容量が低下することとなる。すなわち、急速充電を行うと、充電にかかる時間を短く出来る反面、電池へダメージ(damage)が与えられ、二次電池としての寿命特性が損なわれることになる。このため、高い急速充放電特性を高めることが強く求められている。
【0006】
リチウムイオン二次電池の急速充電特性を改善するためには、電池の内部抵抗を下げる必要がある。内部抵抗の構成因子は複雑であり、活物質/電解液界面の電荷移動抵抗、活物質中のリチウムイオン拡散抵抗、活物質/活物質界面や活物質/導電助剤界面、活物質/集電体界面などの電子抵抗、電解液中のイオン伝導抵抗など、リチウムイオンが関わる反応や電子が関わる反応が存在するが、これら様々な内部抵抗の構成因子のいずれかを低減することができれば、急速充電特性の改善に繋がると考えられる。
【0007】
電極の厚みを薄くする、または電極密度を下げれば、活物質中のリチウムイオン拡散抵抗を低減し、リチウムイオン二次電池の急速充電特性は改善する。しかしながら、電極単位面積当たりの活物質量が減少するので、電池のエネルギー密度が低下するという本質的な問題が生じる。
【0008】
一方、特許文献2では、活物質/電解液界面の電荷移動抵抗を低減して急速充電特性を改善する取り組みとして、負極バインダのCMC/SBRに対して塩化ナトリウム(sodium)やグリコール酸ナトリウム(Sodium glycolate)を添加する技術が提案されている。特許文献2には、上記技術によってイオン電導性の高いSEI被膜が形成され、急速充電特性が向上することが記載されている。しかしながら、この技術では、アルカリ(alkali)金属塩を添加することによる密着性の低下等が懸念される。
【0009】
このように、従来の技術では、急速充放電特性を高めるバインダについて提案はされているものの、密着性の低下といった別の問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、良好な密着性を維持しながら、電極抵抗を低減することが可能な、新規かつ改良された二次電池用バインダ、二次電池用バインダ樹脂組成物、二次電池用電極、および二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、水溶性アクリル酸誘導体モノマーとの共重合体を含み、水溶性アクリル酸誘導体モノマーの共重合体の総質量に対する質量%が10~40質量%であり、且つ共重合体1.0質量%水溶液の25℃におけるせん断粘度が、せん断速度1.0(1/s)において1.0(Pa・s)以上25(Pa・s)以下であることを特徴とするとする、二次電池用バインダが提供される。
【0012】
この観点による二次電池用バインダは、良好な密着性を維持しながら、電極抵抗を低減することが可能となる。
【0013】
ここで、カルボキシル基含有アクリルモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2-カルボキシエチルアクリレート、及び2-カルボキシエチルメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であってもよい。
【0014】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0015】
また、水溶性アクリル酸誘導体モノマーが、エチレングリコール鎖含有アクリルモノマー、及び水酸基含有アクリルモノマーからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であってもよい。
【0016】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0017】
また、エチレングリコール鎖含有アクリルモノマーが、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であってもよい。
【0018】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0019】
また、水酸基含有アクリルモノマーが、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であってもよい。
【0020】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0021】
また、カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部が、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩であってもよい。
【0022】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0023】
また、さらにスチレンブタジエン共重合体(SBR)を含んでいてもよい。
【0024】
この観点によれば、二次電池の特性が更に向上する。
【0025】
本発明の他の観点によれば、上記の二次電池用バインダを含むことを特徴とする、二次電池用バインダ樹脂組成物が提供される。
【0026】
この観点による二次電池用バインダ樹脂組成物は、良好な密着性を維持しながら、電極抵抗を低減することが可能となる。
【0027】
本発明の他の観点によれば、上記の二次電池用バインダを含むことを特徴とする、二次電池用電極が提供される。
【0028】
この観点による二次電池用電極では、二次電池用バインダによって電極の構成要素同士が良好に密着される。さらに、電極抵抗が低減される。
【0029】
本発明の他の観点によれば、上記の二次電池用電極を備えることを特徴とする、二次電池が提供される。
【0030】
この観点による二次電池では、二次電池用バインダによって電極の構成要素同士が良好に密着される。さらに、電極抵抗が低減される。
【0031】
ここで、二次電池用電極は負極であってもよい。
【0032】
この観点による二次電池では、二次電池用バインダによって負極の構成要素同士が良好に密着される。さらに、負極抵抗が低減される。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように本発明によれば、良好な密着性を維持しながら、電極抵抗を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】リチウムイオン二次電池の構成を概略的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
まず、
図1に基づいて、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。
【0037】
リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ40と、非水電解液とを備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.0V(vs.Li/Li+)以上5.0V以下、特に4.2V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、ボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0038】
(1-1.正極20)
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(aluminium)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成される。
【0039】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダとをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiaMnxCoyNizO2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnxCoyNizO2(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5O4となる。
【0040】
導電剤は、例えばケッチェンブラック(Ketjenblack)、アセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0041】
正極用バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン(ethylene-propylene-diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(cellulose nitrate)等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。後述する負極用バインダを正極用バインダとしても良い。
【0042】
正極活物質層22は、例えば、以下の製法により作製される。すなわち、まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダを乾式混合することで正極合剤を作製する。ついで、正極合剤を適当な有機溶媒に分散させることで正極合剤スラリー(slurry)を作製し、この正極合剤スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで正極活物質層が作製される。
【0043】
(1-2.負極30)
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極活物質層32は、少なくとも負極活物質および負極用バインダを含む。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素もしくはスズもしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、及びLi4Ti5O12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。負極活物質としては、これらの他に、例えば金属リチウム等が挙げられる。なお、本実施形態では、負極用バインダが以下の構成を有するので、充放電の際に大きく膨張収縮する負極活物質、例えばケイ素系活物質を使用した場合であっても、電極の膨れを抑制することができる。
【0044】
負極用バインダは、カルボキシル基(carboxyl group)含有アクリルモノマー(acrylic monomer)と、水溶性アクリル酸(acrylic acid)誘導体モノマーとの共重合体を含む。ここで、水溶性アクリル酸誘導体モノマーの共重合体の総質量に対する質量%は、10~40質量%となる。さらに、共重合体1.0質量%水溶液の25℃におけるせん断粘度が、せん断速度1.0(1/s)において1.0(Pa・s)以上25(Pa・s)以下となる。
【0045】
負極用バインダは、上記のような特徴を有するので、高いイオン伝導性を有する。このため、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗、具体的には負極抵抗が低減される。さらに、負極用バインダは、少量であっても十分に良好な密着性を有する。したがって、少量であっても負極作製用のスラリーを調整することができ、負極活物質層32内の構成要素同士を安定して結着することができる。この点でも、リチウムイオン二次電池10の内部抵抗、具体的には負極抵抗が低減される。さらに、電極の剥離や構造破壊による電子伝導性の低下が抑制されるので、リチウムイオン二次電池10の寿命が向上する。
【0046】
更には、低せん断速度域での粘度が高いため、負極作製用スラリーの分散安定性が良好となる。具体的には、負極作製用スラリーの粘性を適度に高めることができ、負極作製用スラリーを集電体31上に容易かつ安定して塗布することができる。さらに、負極作製用スラリー内での負極活物質の沈降を抑制することができる。せん断粘度が1.0(Pa・s)未満となる場合、負極作製用スラリーの粘度が低すぎて、集電体31上に十分な量の負極作製用スラリーを保持することが難しくなる。せん断粘度が25(Pa・s)を超える場合、共重合体の粘度が高すぎて、負極作製用スラリーを撹拌することが困難になる。つまり、負極活物質等が均等に分散した負極作製用スラリーを作製することができない。せん断粘度の好ましい上限値は10(Pa・s)以下である。
【0047】
ここで、共重合体1.0質量%水溶液の25℃におけるせん断粘度が、せん断速度1.0(1/s)において1.0(Pa・s)以上25(Pa・s)以下となるには、カルボキシル基含有アクリルモノマーと水溶性アクリル酸誘導体モノマーとを上記質量比で混合し、カルボキシル基含有アクリルモノマーのカルボキシル基を中和せずにこれらのモノマーを共重合させる必要がある。これにより、反応液粘度の過度な上昇を防ぎながら、高分子量の共重合体を合成することができる。具体的には、共重合体の高分子量化(すなわち、共重合反応の進行)に伴って徐々に共重合体が反応液から析出し、白色スラリー状となるため、反応液の粘度が過度に上昇することが無く、反応完了まで撹拌を継続できる。そして、このような共重合体によって、上記のせん断粘度を実現することができる。一方で、一部もしくは全部のカルボキシル基含有アクリルモノマーを中和した状態で上記モノマーを共重合させた場合、共重合体1.0質量%水溶液の25℃におけるせん断粘度が、低下する傾向にあり、せん断速度1.0(1/s)において1.0(Pa・s)未満となってしまう場合がある。
【0048】
ここで、カルボキシル基含有アクリルモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2-カルボキシエチルアクリレート、及び2-カルボキシエチルメタクリレート(Acrylic acid, methacrylic acid, maleic acid, monomethyl maleic acid, 2-carboxyethyl acrylate, and 2-carboxyethyl methacrylate)からなる群のうち、いずれか1種以上であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。
【0049】
水溶性アクリル酸誘導体モノマーは、エチレングリコール(Ethylene glycol)鎖含有アクリルモノマー(acrylic monomer)、及び水酸基含有アクリルモノマーからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。
【0050】
エチレングリコール鎖含有アクリルモノマーは、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチルメタクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(2-methoxyethyl acrylate,2-ethoxyethyl acrylate,2-(2-methoxyethoxy) ethyl acrylate,2-(2-ethoxyethoxy) ethyl acrylate, 2-(2-(2-methoxyethoxy) ethoxy) ethyl acrylate,2-(2-(2-methoxyethoxy) ethoxy) ethyl acrylate,methoxypolyethylene glycol acrylate,2-methoxyethyl methacrylate, 2-ethoxyethyl methacrylate, 2-(2-methoxyethoxy) ethyl methacrylate, 2-(2-ethoxyethoxy) ethyl methacrylate,2-(2-(2-methoxyethoxy) ethoxy) ethyl methacrylate,2-(2-(2-methoxyethoxy) ethoxy) ethyl methacrylate,and methoxypolyethylene glycol methacrylate)からなる群のうち、いずれか1種以上であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。
【0051】
水酸基含有アクリルモノマーは、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート(2-hydroxyethyl acrylate,2-hydroxypropyl acrylate,3-hydroxypropyl acrylate,2-hydroxybutyl acrylate,4-hydroxybutyl acrylate,2-hydroxyethyl methacrylate,2-hydroxypropyl methacrylate,3-hydroxypropyl methacrylate,2-hydroxybutyl methacrylate,4-hydroxybutyl methacrylate)からなる群のうち、いずれか1種以上であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。
【0052】
カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部が、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩であることが好ましい。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。
【0053】
負極用バインダは、共重合体以外のバインダ、例えばスチレンブタジエン共重合体(SBR)をさらに含んでいても良い。この場合、リチウムイオン二次電池10の特性がさらに向上する。スチレンブタジエン共重合体の質量比は特に制限されないが、共重合体に対する質量比が1.0~3.0であることが好ましい。質量比の下限値は1.5以上であることが好ましく、上限値は2.0以下であることがより好ましい。スチレンブタジエン共重合体の形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。この場合、スチレンブタジエン共重合体がバインダとして機能しつつ、共重合体が有する高いイオン伝導性を阻害しにくくなるからである。
【0054】
(1-3.セパレータ)
セパレータ40は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等を挙げることができる。
【0055】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ-ブチロラクトン(butyrolactone)、γ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)またはその誘導体;1,3-ジオキサン(dioxane)、1,4-ジオキサン(dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)またはその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6,LiPF6-x(CnF2n+1)x[但し、1<x<6,n=1or2],LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li2B10Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN(CF3SO2)(C4F9SO2),LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3,(CH3)4NBF4,(CH3)4NBr,(C2H5)4NClO4,(C2H5)4NI,(C3H7)4NBr,(n-C4H9)4NClO4,(n-C4H9)4NI,(C2H5)4N-maleate,(C2H5)4N-benzoate,(C2H5)4N-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.8~1.5mol/L程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することができる。
【0057】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0058】
<2.リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極20は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダを上記の割合で混合したものを、溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体21上に塗布し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極活物質層22を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、正極20が作製される。
【0059】
負極30も、正極20と同様に作製される。まず、負極活物質、及び負極用バインダ(具体的には、負極用バインダを含むバインダ樹脂組成物)を混合したものを、溶媒(例えば水)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体31上に塗布し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。乾燥時の温度は150℃以上が好ましい。次いで、プレス機により負極活物質層32を上記の範囲内の密度となるようにプレスする。これにより、負極30が作製される。
【0060】
ここで、バインダ樹脂組成物は、共重合体を構成するモノマー同士の共重合反応により得られる樹脂組成物を意味するものとする。
【0061】
次いで、セパレータ40を正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ40内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0062】
以上により、本実施形態によれば、負極用バインダとして上述した構成を有する共重合体を使用する。この共重合体は、少量であっても良好な密着性を有し、かつ、内部抵抗を低減することができる。
【実施例】
【0063】
<1.バインダ樹脂組成物合成>
次に、本実施形態の実施例について説明する。まず、バインダ樹脂組成物の合成例について説明する。なお、以下で記載するモノマーの配合比は、特に断らない限り質量比(質量%)を表すものとする。
【0064】
(合成例1:ポリアクリル酸リチウム/ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)=80/20の合成例)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計、冷却管を装着した2000mlの5つ口セパラブルフラスコ内に、蒸留水1000g、アクリル酸(80g,1.110mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(20g,0.106mol)、水酸化リチウム1水和物(18.63g,アクリル酸に対して0.4当量)を加え、300rpmで撹拌を開始したのち、ダイヤフラムポンプで内圧を10mmHgに減圧し、窒素で内圧を常圧に戻す操作を3回繰り返した。加熱を開始し、反応液の温度が65℃になった時点で、開始剤の過硫酸アンモニウム(0.278g,0.00122mol)を蒸留水0.3mlに溶解し加えた。加熱温度を80℃に設定し2時間、更に温度を90℃に昇温し、2時間反応させたところ、粘調な溶液として重合体組成物が得られた。
【0065】
室温に冷却後、重合体組成物を10Lの容器に移し、希釈用蒸留水4000mlを加えた。メカニカルスターラーで撹拌しながら、水酸化リチウム1水和物(23.29g,アクリル酸に対して0.5当量)を加え、均一になるまで撹拌した。
【0066】
反応液を5ml程度取り、不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。
【0067】
また、反応液を更に希釈し、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度を測定したところ、せん断速度1.0(1/s)において0.7(Pa・s)であった。合成例1は、アクリルモノマーのカルボキシル基を中和した状態で共重合反応を行った例である。
【0068】
(実施例1:ポリアクリル酸リチウム/ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)=90/10の合成例)
メカニカルスターラー、撹拌棒、温度計、冷却管を装着した2000mlの5つ口セパラブルフラスコ内に、蒸留水1000g、アクリル酸(90g,1.249mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(10g,0.053mol)を加え、300rpmで撹拌を開始したのち、ダイヤフラムポンプで内圧を10mmHgに減圧し、窒素で内圧を常圧に戻す操作を3回繰り返した。加熱を開始し、反応液の温度が65℃になった時点で、開始剤の過硫酸アンモニウム(0.297g,0.00130mol)を蒸留水0.3mlに溶解し加えた。加熱温度を80℃に設定し2時間、更に温度を90℃に昇温し、2時間反応させたところ、白色スラリー状の固形物として重合体組成物が得られた。
【0069】
室温に冷却後、重合体組成物を10Lの容器に移し、希釈用蒸留水4000mlを加えた。メカニカルスターラーで撹拌しながら、水酸化リチウム1水和物(47.17g,アクリル酸に対して0.9当量)を加え、重合体組成物が完全に溶解し、均一になるまで撹拌した。
【0070】
反応液を5ml程度取り、不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。
【0071】
また、反応液を更に希釈し、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度を測定したところ、せん断速度1.0(1/s)において7.6(Pa・s)であった。
【0072】
(実施例2:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル=80/20の合成例)
アクリル酸(80g,1.110mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(20g,0.106mol)、過硫酸アンモニウム(0.278g,0.00122mol)、水酸化リチウム1水和物(41.93g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において7.4(Pa・s)であった。
【0073】
(実施例3:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル=70/30の合成例)
アクリル酸(70g,0.971mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(30g,0.159mol)、過硫酸アンモニウム(0.258g,0.00113mol)、水酸化リチウム1水和物(36.68g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において7.1(Pa・s)であった。
【0074】
(実施例4:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル=60/40の合成例)
アクリル酸(60g,0.833mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(40g,0.213mol)、過硫酸アンモニウム(0.238g,0.00105mol)、水酸化リチウム1水和物(31.44g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.0%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において6.8(Pa・s)であった。
【0075】
(実施例5:ポリアクリル酸リチウム/ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)=80/20の合成例)
蒸留水1200g、アクリル酸(80g,1.110mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(20g,0.106mol)、過硫酸アンモニウム(0.416g,0.00182mol)、水酸化リチウム1水和物(41.93g,アクリル酸に対して0.9当量)、希釈用蒸留水3800mlを用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において2.0(Pa・s)であった。
【0076】
(実施例6:ポリアクリル酸リチウム/ポリアクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート)=80/20の合成例)
蒸留水1200g、アクリル酸(80g,1.110mol)、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル(20g,0.106mol)、過硫酸アンモニウム(0.555g,0.00243mol)、水酸化リチウム1水和物(41.93g,アクリル酸に対して0.9当量)、希釈用蒸留水3800mlを用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において1.3(Pa・s)であった。
【0077】
(実施例7:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4-ヒドロキシブチルアクリレート)=90/10の合成例)
アクリル酸(90g,1.249mol)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(10g,0.069mol)、過硫酸アンモニウム(0.285g,0.00125mol)、水酸化リチウム1水和物(47.17g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において8.1(Pa・s)であった。
【0078】
(実施例8:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸4-ヒドロキシブチル=80/20の合成例)
蒸留水920g、アクリル酸(80g,1.110mol)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(20g,0.139mol)、過硫酸アンモニウム(0.253g,0.00111mol)、水酸化リチウム1水和物(41.39g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において7.9(Pa・s)であった。
【0079】
(実施例9:ポリアクリル酸リチウム/ ポリアクリル酸4-ヒドロキシブチル=70/30の合成例)
蒸留水917g、アクリル酸(70g,0.971mol)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(30g,0.208mol)、過硫酸アンモニウム(0.222g,0.00097mol)、水酸化リチウム1水和物(36.68g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において7.6(Pa・s)であった。
【0080】
(実施例10:ポリアクリル酸リチウム/ アクリル酸4-ヒドロキシブチル=60/40の合成例)
蒸留水915g、アクリル酸(60g,0.833mol)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(40g,0.277mol)、過硫酸アンモニウム(0.190g,0.00083mol)、水酸化リチウム1水和物(31.44g,アクリル酸に対して0.9当量)を用いた以外は、全て実施例1と同様にして合成した。反応液の不揮発分(NV)を測定したところ2.0%(理論値2.1%)であった。また、不揮発分(NV)1%とした溶液の25℃におけるせん断粘度は、せん断速度1.0(1/s)において7.2(Pa・s)であった。
【0081】
<2.負極作製>
(比較例1)
黒鉛シリコン複合負極(シリコン含有量60%)5.5%、人造黒鉛91.5質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)2.0質量%の混合比で水系負極合剤スラリーを作製した。なお、負極合剤スラリー中の不揮発分はスラリー総質量に対して50質量%であった。
【0082】
(負極の作製)
次いで、乾燥後の合剤塗工量(面密度)が11.5mg/cm2になるようにバーコータのギャップを調整し、このバーコータにより負極合剤スラリーを銅箔(集電体、厚さ10μm)へ均一に塗工した。次いで、負極合剤スラリーを80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥した。ついで、乾燥後の負極合剤をロールプレス機により合剤密度が1.6g/cm3となるようにプレスした。ついで、負極合剤を150℃で6時間真空乾燥することで、負極を作製した。
【0083】
(比較例2)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに合成例1で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0084】
(実施例11)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例1で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0085】
(実施例12)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例2で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0086】
(実施例13)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例3で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0087】
(実施例14)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例4で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0088】
(実施例15)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例5で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0089】
(実施例16)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例6で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0090】
(実施例17)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例7で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0091】
(実施例18)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例8で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0092】
(実施例19)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例9で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0093】
(実施例20)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例10で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0094】
(実施例21)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例2で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用い、スチレンブタジエン共重合体(SBR)1.7質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0095】
(実施例22)
カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量%の代わりに実施例2で合成したバインダ樹脂組成成物1.0質量%を用い、スチレンブタジエン共重合体(SBR)1.5質量%を用いた以外は、全て比較例1と同様にして負極を作製した。
【0096】
<3.正極作製>
(正極合剤スラリーの作製)
固溶体酸化物Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.15O2 97.4質量%、ケッチェンブラック1.3質量%、ポリフッ化ビニリデン1.3質量%をN-メチル-2-ピロリドンに分散させることで、正極合剤スラリーを形成した。なお、正極合剤スラリー中の不揮発分はスラリー総質量に対して50質量%であった。
【0097】
(正極の作製)
次いで、乾燥後の合剤塗工量(面密度)が21.6mg/cm2になるようにバーコータのギャップを調整し、このバーコータにより正極合剤スラリーを集電体であるアルミニウム集電箔上に塗工した。ついで、正極合剤スラリーを80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥した。ついで、乾燥後の正極合剤をロールプレス機により合剤密度が3.7g/cm3となるようにプレスした。ついで、正極合剤を80℃で6時間真空乾燥することで、正極集電体と正極活物質層とからなるシート状の正極を作製した。
【0098】
<4.二次電池の作製>
(比較例3)
比較例1で示した負極と正極作成例で示した正極をTabの付いた3cm×5cmの長方形にトムソン刃を用いて各々カットした。カットした電極のTab部に負極はニッケル、正極はアルミのタブリードを各々溶接した。次いで、セパレータ(厚み25ミクロンのポリエチレン製微多孔膜)を3.5cm×5.5cmの長方形にムソン刃を用いてカットした。セパレータを介して正極と負極を対向させ、ラミネートフィルムで包装し、Tab部を熱圧着により固定した。次いで、電解液(1.4MのLiPF6 エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート=10/70/20混合溶液(体積比))を160μL加え、真空ラミネートすることで完全に封じ、ラミネート型二次電池を作製した。同じ二次電池を合計2つ作製した。
【0099】
作製した2つのラミネート型二次電池を充放電装置に取り付け、25℃で8時間放置後、0.2Cで1回充放電した。電池の容量を確認後、0.2Cで充電率(SOC)50%まで充電を行い停止した。ドライルーム内で電池を解体し、SOC50%の負極2枚を取り出した。得られた負極2枚を用いて、先に作製したラミネート型二次電池と同様の構造を持つ、ラミネート型対称セルを作製した。
【0100】
(比較例4)
比較例2で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0101】
(実施例23)
実施例11で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0102】
(実施例24)
実施例12で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0103】
(実施例25)
実施例13で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0104】
(実施例26)
実施例14で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0105】
(実施例27)
実施例15で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0106】
(実施例28)
実施例16で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0107】
(実施例29)
実施例17で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0108】
(実施例30)
実施例18で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0109】
(実施例31)
実施例19で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0110】
(実施例32)
実施例20で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0111】
(実施例33)
実施例21で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0112】
(実施例34)
実施例22で作製した負極を用いた以外は全て比較例3と同様にして係る二次電池および対称セルを作製した。
【0113】
<5.負極抵抗の評価>
各実施例及び比較例に係る対称セルを25℃で、ソーラトロン社の電気化学測定システムを用いて交流インピーダンス測定を行い、負極抵抗を求めた。評価結果をまとめて表1に示す。
【0114】
<6.密着性の評価>
実施例11~22及び比較例1~2で作製した負極を幅25mm、長さ100mmの短冊状に切り出した。ついで、両面テープを用いてステンレス板に活物質面を被着面として張り合わせ、ピール強度試験用サンプルとした。剥離試験機((株)島津製作所社製SHIMAZU EZ-S)にピール強度試験用サンプルを装着し、180度ピール強度を測定した。
【0115】
<7.スラリー安定性の評価>
実施例11~22及び比較例1~2で作製した負極合剤スラリー5.0gを10mlのスクリュー管瓶に秤量し、12時間室温で放置したのち、目視で活物質の沈降を目視にて確認した。活物質の沈降が見られない場合をOK,見られる場合をNGとして評価した。
【0116】
【0117】
表1によれば、本実施例に係る二次電池では、負極抵抗が低く、更にピール強度が高いことから密着性に優れることが分かる。また、バインダのせん断粘度が1.0(Pa・s)以上であればスラリー安定性が良好になることが分かる。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0119】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
30 負極
40 セパレータ