(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】細胞培養方法、生産物の製造方法、及び細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20220405BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C12N5/02
C12M3/02
(21)【出願番号】P 2020527292
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020717
(87)【国際公開番号】W WO2020003833
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018122322
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中居 真一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 幸助
(72)【発明者】
【氏名】原口 暢之
(72)【発明者】
【氏名】石原 司
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115855(WO,A1)
【文献】特表2012-517217(JP,A)
【文献】特開2000-106864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/02
C12M 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む細胞懸濁液を収容する培養容器を用い、前記培養容器内に配置されたスパージャーから酸素を30体積%以上含むガスを前記細胞懸濁液に放出して細胞を培養することを含み、
前記スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径が1μm以上300μm以下であり、
前記スパージャーにおけるガス放出部の表面積A m
2と、前記培養容器内の前記細胞懸濁液の量X m
3と、前記スパージャーから放出される前記ガスの流量Q m
3/minとが、下記式1-1、下記式1-2及び下記式1-3を満たす
細胞培養方法。
式1-1: 0.004≦A/X≦0.1
式1-2: X≧0.5
式1-3: 0.001≦Q/X≦0.1
【請求項2】
前記培養容器における前記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、前記培養における前記Q m
3/minと同じ流量の空気ガスを、前記スパージャーから前記測定用溶液に送り、前記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、前記空気の泡の体積平均泡径Dv μmが下記式2-1を満たす、請求項1に記載の細胞培養方法。
式2-1: 50≦Dv≦800
【請求項3】
前記培養容器における前記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、前記培養における前記Q m
3/minと同じ流量の空気ガスを、前記スパージャーから前記測定用溶液に送り、前記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、前記泡径分布において、泡径が20μm以上500μm以下の前記空気の泡の積算体積の割合が、前記泡径分布における泡の全体積の30体積%以上である、請求項1又は請求項2に記載の細胞培養方法。
【請求項4】
前記培養における前記スパージャーによる酸素移動容量係数kLa 1/hrが15以上である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項5】
前記培養容器における前記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、前記培養における前記Q m
3/minと同じ流量の空気ガスを、前記スパージャーから前記測定用溶液に送り、前記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、前記Q m
3/minと、前記A m
2と、前記測定用溶液の密度ρL kg/m
3と、前記空気ガスの密度ρg kg/m
3と、前記測定用溶液の粘度μL kg/m/sと、重力加速度g m/s
2とが、下記式3-1を満たす、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
式3-1: 0.1≦(Q/A/60)/[{3×10
-8×(ρL-ρg)×g}/(18×μL)}]≦5
【請求項6】
前記培養において、前記Q m
3/minと、前記A m
2とが下記式4-1を満たす、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
式4-1: 0.1≦Q/A≦5
【請求項7】
前記培養容器における前記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、前記培養における前記Q m
3/minと同じ流量の空気ガスを、前記スパージャーから前記測定用溶液に送り、前記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、前記培養における前記培養容器の内底面から前記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL mと、前記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mと、前記泡径分布における泡の体積平均泡径Dv μmと、前記測定用溶液の密度ρL kg/m
3と、前記空気ガスの密度ρg kg/m
3と、重力加速度g m/s
2と、前記測定用溶液の粘度μL kg/m/sとが、下記式5-1を満たす、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
式5-1: 2≦(ZL-Zs)/{Dv
2×10
-12×(ρL-ρg)×g/(18×μL)}≦300
【請求項8】
前記X m
3、前記培養容器の内底面から前記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL m、前記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mにおいて、下記式6-1、及び、式6-2を満たす、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
式6-1: Zs/ZL≦0.5
式6-2: 0.5≦ZL/(4×X/ZL/3.14)
0.5≦4
【請求項9】
前記細胞懸濁液内の細胞濃度が4×10
7 cells/mL以上である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項10】
細胞を培養する方法が灌流培養である、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項11】
前記培養容器がシングルユース培養槽である、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項12】
前記スパージャーが金属焼結スパージャーである、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項13】
前記スパージャーのガス放出部の形状が、円型の平面形状、多角形の平面形状、又は、円柱形状である、請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項14】
前記スパージャーとして複数のスパージャーを含む、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項15】
前記スパージャーが、1以上のスパージャーを含むユニットを複数含む構成であり、前記各ユニット毎に前記ガスの流量を調整する、請求項1~請求項13のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項16】
前記細胞が真核細胞である、請求項1~15のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項17】
前記細胞が動物細胞である、請求項1~15のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項18】
前記細胞がCHO細胞である、請求項1~15のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項19】
請求項1~請求項
18のいずれか1項に記載の細胞培養方法により細胞を培養すること、及び、培養された細胞により生産された生産物を得ることを含む
生産物の製造方法。
【請求項20】
前記生産物が抗体である、請求項
19に記載の生産物の製造方法。
【請求項21】
細胞を含む細胞懸濁液を収容し、細胞を培養する培養容器、及び、
前記培養容器内に前記細胞懸濁液中に酸素を30体積%以上含むガスを放出するためのスパージャーを備え、
前記スパージャーの平均孔径が1μm以上300μm以下であり、
前記スパージャーの面積A m
2、前記培養容器内に最大に充填できる前記細胞懸濁液量Xmax m
3が下記式7-1及び式7-2を満たす
細胞培養装置。
式7-1: 0.004≦A/Xmax≦0.1
式7-2: Xmax≧0.5
【請求項22】
前記培養容器の内底面から前記培養容器内に前記細胞懸濁液を最大に充填したときの前記細胞懸濁液の上面までの液面高さZLmax mと、前記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mにおいて、下記式8-1を満たす、請求項
21に記載の細胞培養装置。
式8-1: 2≦(ZLmax-Zs)/0.02≦300
【請求項23】
前記Xmax m
3、前記培養容器の内底面から前記培養容器内に前記細胞懸濁液を最大に充填したときの前記細胞懸濁液の上面までの液面高さZLmax m、前記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mが、下記式9-1及び式9-2を満たす、請求項
21又は請求項
22に記載の細胞培養装置。
式9-1: Zs/ZLmax≦0.5
式9-2:0.5≦ZLmax/{(4×Xmax/ZLmax/3.14)
0.5}≦4
【請求項24】
前記培養容器がシングルユース培養槽である、請求項
21~請求項
23のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項25】
前記スパージャーが金属焼結スパージャーである、請求項
21~請求項
24のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項26】
前記スパージャーのガス放出部の形状が円型の平面形状、多角形の平面形状、又は、円柱形状である、請求項
21~請求項
25のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項27】
前記スパージャーとして複数のスパージャーを含む、請求項
21~請求項
26のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項28】
前記スパージャーが、1以上のスパージャーを含むユニットを複数含む構成であり、前記各ユニット毎に前記ガスの流量を調整可能である、請求項
21~請求項
26のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項29】
灌流細胞培養装置である、請求項
21~請求項
28のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養方法、生産物の製造方法、及び細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の培養は、有用な性質を有する細胞を増加させるため、細胞に生産物を生産させるため等の目的で行われている。
【0003】
従来の細胞培養方法又は細胞培養に用いられる装置としては、特許文献1~3に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、少なくとも一部を培地で満たしたバイオリアクター中の細胞に、気体栄養素をバブル上で供給する方法において、バブルの滞留時間が培地中でのその溶解時間に等しいことを特徴とする方法が記載されている。
特許文献2には、栄養分を含む培養液中に酸素または二酸化炭素を溶解させて細胞または微生物の培養を行う培養方法において、多孔質体に酸素または二酸化炭素を含むガスを供給して体積基準の粒度分布における50%径が200μm以下の気泡を培養液中に発生させることにより、上記培養液に酸素または二酸化炭素を溶解させて細胞または微生物の培養を行う工程を含み、上記培養液中には、タンパク質加水分解物と細胞を保護するための細胞保護剤との少なくとも一方が含まれていることを特徴とする細胞または微生物の培養方法が記載されている。
特許文献3には、細胞培養時に用いられる曝気装置として、曝気装置であって、ベース部材と、上記ベース部材にそれぞれ着脱可能に装着される複数の曝気要素とを備え、上記曝気要素のそれぞれは、気体透過性材料と、気体源に接続するように構成された入口とを備え、上記入口は上記気体透過性材料と流体連通している曝気装置が記載されている。
【0004】
特許文献1:特表平5-503848号公報
特許文献2:国際公開第2011/070791号
特許文献3:特表2016-536122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞培養は、細胞を含む細胞懸濁液に対して酸素を含むガスを放出しながら行われる場合がある。上記放出により、細胞懸濁液には酸素が供給されると考えられる。
ここで、細胞培養を行う場合には、可能な限り細胞懸濁液中の細胞濃度を上げたいという要求がある。特に、例えばバイオ医薬品等の製造において、細胞培養により生産物(例えば、抗体など)を生産する場合に、生産物の生産性を向上するためには、細胞懸濁液中の細胞濃度を上げることが重要になる。
そのために細胞懸濁液中に多くの酸素を溶解し、高濃度の細胞に対して十分な量の酸素を供給する必要がある。
【0006】
細胞懸濁液に対して酸素を放出する方法としては、培養容器内にスパージャーを設置する方法が知られている。
細胞に十分な量の酸素放出を行うためには、スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径を極力小さくすることで酸素の溶解性を向上し、かつ、酸素を含むガスの流量を増大させることで細胞懸濁液により多くの酸素を溶解させる技術が一般的であった(例えば、日揮技術ジャーナル Vol.01 No.01(2011) マイクロバブルの培養への適用を参照)。
しかしながら、本発明者らは、生産スケールのような細胞懸濁液量が多量である場合(例えば、細胞懸濁液量が0.5m3以上など)においては、上記のような方法では細胞培養に十分な量の酸素を細胞懸濁液に溶解できず、また、細胞へのダメージも大きくなるため、高濃度の細胞培養は困難であることを見出した。
これは、上記方法では酸素が細胞懸濁液に溶解しにくく、酸素移動容量係数kLa(以下、単に「kLa」という場合がある。)がそれほど高くならないこと、上記スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径が小さいほど、放出される泡による細胞へのダメージが増加すること、及び、多量の酸素を含むガスの放出により細胞へのダメージが増加することが原因であると考えられる。
具体的には、スパージャーから酸素を含むガスを放出すると、泡が細胞に衝突したり破泡したりするときのエネルギーで細胞がダメージを受けるが、スパージャー孔径が小さい、つまり泡径が小さい泡が存在するほど、また酸素を含むガスの流量が大きいほど、上記エネルギーが大きくなり、細胞へのダメージが増加すると推測される。
また、上記kLaは、酸素ガスが細胞懸濁液内に溶解していく速度式の比例係数である。kLaが高いほど酸素は早く細胞懸濁液に溶解し、より多くの酸素を細胞懸濁液に供給できるため、高濃度に細胞を培養できる。kLaは泡径が小さいほど大きくなると考えられる。
【0007】
すなわち、kLaを増大させることと、細胞へのダメージを抑制することは、従来技術においてはトレードオフの関係であり、これらを両立することは困難であった。
【0008】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、細胞懸濁液が多量である場合であっても、高濃度での細胞培養が可能であり、かつ、細胞へのダメージが抑制される細胞培養方法、上記細胞培養方法を含む生産物の製造方法、及び、上記細胞培養方法を可能とする細胞培養装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 細胞を含む細胞懸濁液を収容する培養容器を用い、上記培養容器内に配置されたスパージャーから酸素を30体積%以上含むガスを上記細胞懸濁液に放出して細胞を培養することを含み、
上記スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径が1μm以上300μm以下であり、
上記スパージャーにおけるガス放出部の表面積A m2と、上記培養容器内の上記細胞懸濁液の量X m3と、上記スパージャーから放出される上記ガスの流量Q m3/minとが、下記式1-1、下記式1-2及び下記式1-3を満たす
細胞培養方法。
式1-1: 0.004≦A/X≦0.1
式1-2: X≧0.5
式1-3: 0.001≦Q/X≦0.1
<2> 上記培養容器における上記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、上記培養における上記Q m3/minと同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記空気の泡の体積平均泡径Dv μmが下記式2-1を満たす、上記<1>に記載の細胞培養方法。
式2-1: 50≦Dv≦800
<3> 上記培養容器における上記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、上記培養における上記Q m3/minと同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記泡径分布において、泡径が20μm以上500μm以下の上記空気の泡の積算体積の割合が、上記泡径分布における泡の全体積の30体積%以上である、上記<1>又は<2>に記載の細胞培養方法。
<4> 上記培養における上記スパージャーによる酸素移動容量係数kLa 1/hrが15以上である、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<5> 上記培養容器における上記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、上記培養における上記Q m3/minと同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記Q m3/minと、上記A m2と、上記測定用溶液の密度ρL kg/m3と、上記空気ガスの密度ρg kg/m3と、上記測定用溶液の粘度μL kg/m/sと、重力加速度g m/s2とが、下記式3-1を満たす、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
式3-1: 0.1≦(Q/A/60)/[{3×10-8×(ρL-ρg)×g}/(18×μL)}]≦5
<6> 上記培養において、上記Q m3/minと、上記A m2が下記式4-1を満たす、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
式4-1: 0.1≦Q/A≦5
<7> 上記培養容器における上記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、上記培養における上記Q m3/minと同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記培養における上記培養容器の内底面から上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mと、上記泡径分布における泡の体積平均泡径Dv μmと、上記測定用溶液の密度ρL kg/m3と、上記空気ガスの密度ρg kg/m3と、重力加速度g m/s2と、上記測定用溶液の粘度μL kg/m/sとが、下記式5-1を満たす、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
式5-1: 2≦(ZL-Zs)/{Dv2×10-12×(ρL-ρg)×g/(18×μL)}≦300
<8> 上記X m3、上記培養容器の内底面から上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL m、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mにおいて、下記式6-1、及び、式6-2を満たす、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
式6-1: Zs/ZL≦0.5
式6-2: 0.5≦ZL/(4×X/ZL/3.14)0.5≦4
<9> 上記細胞懸濁液内の細胞濃度が4×107 cells/mL以上である、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<10> 細胞を培養する方法が灌流培養である、上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<11> 上記培養容器がシングルユース培養槽である、上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<12> 上記スパージャーが金属焼結スパージャーである、上記<1>~<11>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<13> 上記スパージャーのガス放出部の形状が、円型の平面形状、多角形の平面形状、又は、円柱形状である、上記<1>~<12>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<14> 上記スパージャーとして複数のスパージャーを含む、上記<1>~<13>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<15> 上記スパージャーが、1以上のスパージャーを含むユニットを複数含む構成であり、上記各ユニット毎に上記ガスの流量を調整する、上記<1>~<13>のいずれか1つに記載の細胞培養方法。
<16> 上記<1>~<15>のいずれか1つに記載の細胞培養方法により細胞を培養すること、及び、培養された細胞により生産された生産物を得ることを含む
生産物の製造方法。
<17> 上記生産物が抗体である、上記<16>に記載の生産物の製造方法。
<18> 細胞を含む細胞懸濁液を収容し、細胞を培養する培養容器、及び、
上記培養容器内に上記細胞懸濁液中に酸素を30体積%以上含むガスを放出するためのスパージャーを備え、
上記スパージャーの平均孔径が1μm以上300μm以下であり、
上記スパージャーの面積A m2、上記培養容器内に最大に充填できる上記細胞懸濁液量Xmax m3が下記式7-1及び式7-2を満たす
細胞培養装置。
式7-1: 0.004≦A/Xmax≦0.1
式7-2: Xmax≧0.5
<19> 上記培養容器の内底面から上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填したときの上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZLmax mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mにおいて、下記式8-1を満たす、上記<18>に記載の細胞培養装置。
式8-1: 2≦(ZLmax-Zs)/0.02≦300
<20> 上記Xmax m3、上記培養容器の内底面から上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填したときの上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZLmax m、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mが、下記式9-1及び式9-2を満たす、上記<18>又は<19>に記載の細胞培養装置。
式9-1: Zs/ZLmax≦0.5
式9-2:0.5≦ZLmax/{(4×Xmax/ZLmax/3.14)0.5}≦4
<21> 上記培養容器がシングルユース培養槽である、上記<18>~<20>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
<22> 上記スパージャーが金属焼結スパージャーである、上記<18>~<21>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
<23> 上記スパージャーのガス放出部の形状が円型の平面形状、多角形の平面形状、又は、円柱形状である、上記<18>~<22>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
<24> 上記スパージャーとして複数のスパージャーを含む、上記<18>~<23>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
<25> 上記スパージャーが、1以上のスパージャーを含むユニットを複数含む構成であり、上記各ユニット毎に上記ガスの流量を調整可能である、上記<18>~<23>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
<26> 灌流細胞培養装置である、上記<18>~<25>のいずれか1つに記載の細胞培養装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、細胞懸濁液が多量である場合であっても、高濃度での細胞培養を可能とし、かつ、細胞へのダメージが抑制される細胞培養方法、上記細胞培養方法を含む生産物の製造方法、及び、上記細胞培養方法を可能とする細胞培養装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示において用いられるスパージャーの一例である金属焼結スパージャーの形成例の概略図である。
【
図2】培養容器が複数のスパージャーを含む態様の一例を示す概略断面斜視図である。
【
図3】本開示に係る生産物の製造方法の実施に適用可能な細胞培養装置の構成の一例を示す概略構成図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る細胞培養方法、細胞培養装置、及び生産物の製造方法について説明する。但し、本開示に係る実施形態は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0013】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、同一の構成要件には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
本開示において、図面は好ましい態様の一例を示すものであり、図面の内容により本開示に係る発明が限定されるものではない。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、工程の所期の目的が達成される限りは、他の工程と明確に区別できない工程をも含む。
【0014】
(細胞培養方法)
本開示に係る細胞培養方法は、細胞を含む細胞懸濁液を収容する培養容器を用い、上記培養容器内に配置されたスパージャーから酸素を30体積%以上含むガスを上記細胞懸濁液に放出して細胞を培養すること(以下、「細胞培養工程」ともいう。)を含み、上記スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径が1μm以上300μm以下であり、上記スパージャーにおけるガス放出部の表面積A m2と、上記培養容器内の上記細胞懸濁液の量X m3と、上記スパージャーから放出される上記ガスの流量Q m3/minとが、下記式1-1、下記式1-2及び下記式1-3を満たす。
式1-1: 0.004≦A/X≦0.1
式1-2: X≧0.5
式1-3: 0.001≦Q/X≦0.1
【0015】
本開示に係る細胞培養方法は、細胞を含む細胞懸濁液を収容する培養容器を用い、上記培養容器内に配置されたスパージャーから酸素を30体積%以上含むガスを上記細胞懸濁液に放出して細胞を培養することを含む。
上記酸素を30体積%以上含むガスを放出することにより、細胞懸濁液に酸素が放出され、高濃度での細胞培養が可能となると考えられる。
また、本開示に係る細胞培養方法において用いられるガス放出部の平均孔径は、1μm以上300μm以下である。上記平均孔径が1μm以上であることにより、酸素を含むガスの泡の泡径が小さくなりすぎず、細胞へのダメージが抑制されると考えられる。また、上記平均孔径が300μm以下であることにより、泡径が大きくなりすぎず、kLaが増大しやすいため、高濃度での細胞培養が可能となると考えられる。
更に、本開示に係る細胞培養方法においては、上記A m2と上記X m3とが式1-1及び式1-2を満たす。
ここで、従来の培養容器の容量を変化させる場合、例えば培養容器の1辺の長さを10倍にする場合には、細胞懸濁液量は10×10×10=1000倍になる。その際には、スパージャーの1辺の長さを10倍とし、スパージャーの面積を10×10=100倍とするのが一般的である(相似則)。
それに対して、本開示における細胞培養方法においては、上記A/Xが特定の範囲内の値となる。これは、例えば細胞懸濁液量Xを1000倍とする場合、スパージャーにおけるガス放出部の表面積Aも1000倍とすることを意味している。
更に、上記Q/Xが0.001以上であれば、細胞培養に必要な酸素が細胞懸濁液中に十分に供給され、細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
また、上記Q/Xが0.1以下であれば、細胞へのダメージが抑制されやすいと考えられる。
すなわち、本開示に係る細胞培養方法は、上記培養容器内の細胞懸濁液の液量X、上記スパージャーにおけるガス放出部の表面積A、上記ガスの流量Q及びスパージャーにおける上記ガス放出部の平均孔径を細胞懸濁液量に応じて調整することにより、上記Xが0.5m3以上と多量である場合であっても、細胞へのダメージを抑制しつつ、かつ、高濃度での細胞培養が可能となるという、新たな知見に基づくものである。
特許文献1~特許文献3のいずれの文献にも、上記A/Xを特定の範囲内の値とし、かつ、スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径を特定の範囲内の値とするという本開示に係る細胞培養方法における技術思想については記載も示唆もなく、上記A/X及び上記平均孔径を特定の値とすることにより、細胞へのダメージを抑制しつつ、かつ、高濃度での細胞培養が可能となるという本開示に係る細胞培養方法における効果についても、記載も示唆もない。
以下、本開示に係る細胞培養方法における各要件について説明する。
【0016】
<細胞培養工程>
本開示に係る細胞培養方法は細胞培養工程を含む。
細胞培養工程においては、細胞を含む細胞懸濁液を収容する培養容器であって、酸素を30体積%以上含むガスを放出するためのスパージャーを備える培養容器が用いられる。
【0017】
〔培養容器〕
培養容器としては、一般的な培養装置(バイオリアクターともいう。)、上記装置において用いられる公知の容器、又はそれ以外の好適な容器を特に制限なく用いることができる。培養装置としては、発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いることができる。
また、培養容器は、培養環境の均質化等の観点からは、シングルユース培養槽であることが好ましい。
【0018】
〔スパージャー〕
培養容器は、酸素を30体積%以上含むガスを放出するスパージャーを備える。
酸素を30体積%以上含むガスとしては、特に限定されないが、酸素を50体積%以上含むガスが好ましく、酸素を70体積%以上含むガスがより好ましく、酸素を90体積%以上含むガスが更に好ましく、純酸素ガスが特に好ましい。
本開示における培養容器は、酸素を30体積%以上含むガスを放出するスパージャー以外に、他のガス(例えば、空気、CO2ガス等)を含むガスを放出するスパージャーを更に備えていてもよい。
本開示において、単に「スパージャー」と記載した場合には、特別な記載がない限りにおいて「ガス放出部の平均孔径が1μm以上300μm以下であり、酸素を30体積%以上含むガスを放出するスパージャー」を意味するものとする。
すなわち、スパージャーにおけるガス放出部の表面積A、上記スパージャーから放出される上記ガスの流量Q m3/min等の計算においては、上記平均孔径が上記範囲から外れるスパージャー、及び、上記他のガスを含むガスを放出するスパージャーは含まれないものとする。
スパージャーとしては、上述の平均孔径及び上述のA/Xを満たすものであれば、特に制限なく公知のスパージャーを用いることが可能であり、例えば、ノズル状であって開口部から泡を放出するノズルスパージャー、孔部を有するリング筒状であって上記孔部から泡を放出するリングスパージャー、気体を透過するシート、不織布状の高分子材料を用いたスパージャー、泡の放出部に金属焼結フィルタを有する金属焼結スパージャー等が挙げられ、上述の平均孔径を満たしやすい観点からは、金属焼結スパージャーが好ましい。
金属焼結スパージャーにおける金属焼結フィルタとしては、例えば、銅、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、白金、炭化タングステン、炭化チタン、ステンレス、又はこれらを含む合金などの微粉末を焼結することにより得られたものが用いられる。
【0019】
図1に、本開示において用いられるスパージャーの一例である金属焼結スパージャーの形成例の概略図を示す。
図1(A)において、金属焼結スパージャー10は、円柱形状の金属焼結フィルタ12と、支持部14と、ガス供給部16とを備える。金属焼結フィルタ12は培養容器中で細胞懸濁液と接しており、ガス供給部16より供給されたガスが、金属焼結フィルタ12を通って細胞懸濁液へと放出される。
図1(B)においては、金属焼結スパージャー10は、金属焼結フィルタ12が円形の平面形状である以外は、
図1(A)における金属焼結スパージャー10と同様の構成である。
図1(C)においては、金属焼結スパージャー10は、金属焼結フィルタ12が多角形(正方形)の平面形状である以外は、
図1(A)における金属焼結スパージャー10と同様の構成である。
ここで、本開示において、スパージャーにおけるガス放出部の表面積Aとは、
図1においては金属焼結スパージャー10における金属焼結フィルタ12におけるガスが放出される部分の表面積(m
2)をいう。具体的には、
図1(A)においては円柱形状の金属焼結フィルタ12の表面積を、
図1(B)においては円形の平面形状の円の面積を、
図1(C)においては多角形の平面形状の多角形の面積を、それぞれいう。
金属焼結フィルタ12を有しない、例えばノズルスパージャー又はリングスパージャーにおいては、スパージャーにおけるガス放出部の表面積Aとは、スパージャーの開口部の面積をいう。
本開示におけるガス放出部とは、金属焼結スパージャー10においては金属焼結フィルタ12をいい、ノズルスパージャー又はリングスパージャーにおいては、開口部をいう。
本開示におけるスパージャーのガス放出部の形状は、円形の平面形状、多角形の平面形状、又は円柱形状であることが好ましい。
これらの中でも、円形の平面形状が、均一に泡が噴出でき、泡の合一も抑制されるため好ましい。
【0020】
また、本開示における好ましい態様の一つは、培養容器が複数のスパージャーを含む態様である。
培養容器が複数のスパージャーを含む場合、それぞれのスパージャーのガス放出部の形状は同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、ガス放出部の形状が、円形の平面形状であるスパージャーと、多角形の平面形状であるスパージャーとを組み合わせて用いてもよい。スパージャーのガス放出部の形状が異なるものを組み合わせて用いる場合、円型の平面形状、多角形の平面形状、及び、円柱形状のもののうち少なくとも2つを組み合わせて用いることが好ましい。
上記態様におけるスパージャーの数は特に限定されないが、2~100であることが好ましく、2~50であることがより好ましく、2~20であることが更に好ましい。
更に、本開示における別の好ましい態様の別の一つは、上記スパージャーが、1以上のスパージャーを含むユニットを複数含む構成であり、上記各ユニット毎に上記ガスの流量を調整する態様である。
上記態様において、各ユニットに含まれるスパージャーの数は、特に限定されないが、1~50であることが好ましく、1~20であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましいい。
また、上記態様において、上記ユニットの数は、特に限定されないが、2~20であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、2~5であることが更に好ましい。
図2は、培養容器が複数のスパージャーを含む態様の一例を示す概略断面斜視図である。
図2は、培養容器の鉛直方向を含む平面による断面図である。
図2において、培養容器100は、細胞懸濁液102を収容している。また、培養容器100の内底面104には、スパージャー10を4つ含むスパージャーユニット110が3つ形成されている。スパージャー10は、
図1(A)に記載した、ガス供給部が円柱状のスパージャーを示している。それぞれのスパージャーユニット110には、ガス供給部112が結合しており、それぞれのガス供給部112から供給されたガスが、それぞれのスパージャーユニット110から放出される。この複数のガス供給部112に供給するガス供給量をそれぞれ調製することにより、上記各ユニット毎に上記ガスの流量を調整することが可能となる。
【0021】
培養容器が複数のスパージャーを含む場合、上記表面積Aとは、すべてのスパージャーにおける上記表面積の合計値をいう。
また、本開示において、スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径とは、金属焼結スパージャー10における金属焼結フィルタ12の平均孔径をいう。
金属焼結フィルタ12の平均孔径は、95%分離粒子径により求めることができる。すなわち、標準粒子による濾過試験を行い、阻止率95%となる粒子径(すなわち、粒子透過試験による95%分離粒子径)として算出できる。
金属焼結フィルタ12を有しない、例えばノズルスパージャー又はリングスパージャーにおいては、スパージャーにおけるガス放出部の表面積Aとは、ノズルの開口部の面積の和をいう。またその場合の平均孔径とは、ノズルの開口部の孔径の平均値をいう。
上記開口部の孔径は、上記開口部を適当な倍率で撮影し、画像解析することにより求めることができる。また、上記開口部の形状が円ではない場合、孔径は円相当径として求められる。本開示において、円相当径とは、開口部等の平面の面積と等しい面積を持つ円の直径である。
培養容器が複数のスパージャーを含む場合、少なくとも1つのスパージャーにおけるガス放出部の平均孔径が1μm以上300μm以下であればよいが、上記平均孔径を満たすスパージャーにおけるガス放出部の表面積の合計値が、培養容器に含まれる酸素を30体積%以上含むガスを放出する全てのスパージャーのガス放出部の表面積の合計値に対し、60面積%以上であることが好ましく、80面積%以上であることがより好ましく、90面積%以上であることが更に好ましい。
また、培養容器が平均孔径の異なる金属焼結フィルタを有する2以上のスパージャーを含む場合、各金属焼結フィルタにおける平均孔径を各スパージャーにおける表面積比で重み付けすることにより、培養容器全体におけるスパージャーのガス放出部の平均孔径が算出される。具体的には、ガス放出部の平均孔径が10μmであり、ガス放出部の表面積が0.01m2であるスパージャーと、ガス放出部の平均孔径が100μmであり、ガス放出部の表面積が0.02m2であるスパージャーとを1つずつ含む場合には、表面積Aは0.03m2であり、培養容器全体におけるスパージャーのガス放出部の平均孔径は(10μm×0.01m2+100μm×0.02m2)/(0.01m2+0.02m2)=70μmとして求められる。
【0022】
-ガス放出部の平均孔径-
スパージャーにおけるガス放出部の平均孔径は、細胞のダメージを抑制する観点からは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。
また、上記平均孔径は、kLaを増大させ培養細胞濃度を増加させる観点からは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。
培養容器が複数のスパージャーを含む場合、上記表面積で重み付けされた培養容器全体におけるスパージャーのガス放出部の平均孔径が、上記範囲内に入ることが好ましく、複数のスパージャーのそれぞれの平均孔径の全てが上記範囲内に入ることがより好ましい。
【0023】
またスパージャーの開口率に関しては、スパージャーのガス放出部における泡の合一を抑制し、泡径が大きくなることを抑制し、かつ、kLaを増大させやすい観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。また、スパージャーの開口率は、スパージャーからの泡の不均一な噴出を抑制し、kLaを増大させ、かつ、細胞ダメージを抑制しやすい観点からは、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。スパージャーの開口率は、スパージャーに使用される材料密度と、スパージャー自体の密度を測定することで以下のように算出できる。
スパージャーの開口率(%)=(スパージャーに使用される材料密度-スパージャー自体の密度)/スパージャーに使用される材料密度×100
【0024】
-ガス放出部の表面積Aと細胞懸濁液の量X-
上記スパージャーにおけるガス放出部の表面積A m2と上記培養容器内の上記細胞懸濁液の量X m3とは、下記式1-1及び式1-2を満たす。
式1-1: 0.004≦A/X≦0.1
式1-2: X≧0.5
【0025】
ここで、上記A/Xは、スパージャーのガス放出部における泡の合一を抑制し、泡径が大きくなることを抑制し、kLaを増大させやすい観点から、0.004以上であればよく、0.006以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。
また、上記A/Xは、泡の不均一な噴出を抑制し、kLaを増大させ、かつ、細胞ダメージを抑制しやすい観点からは、0.1以下であればよく、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.025以下であることが更に好ましい。
【0026】
また、上記Xは、培養する細胞種及び培養目的に応じて設定すればよいが、本開示に係る細胞培養方法を生産物の製造方法に用いた場合に得られる生産物の量を増加させやすい観点、又は、大量の細胞が得られやすい観点からは、0.5m2以上であればよく、1.0m2以上であることが好ましく、1.1m2以上であることがより好ましい。
また上記Xの上限は特に限定されないが、例えば10m2以下とすることができる。
【0027】
-ガスの流量と細胞懸濁液の量-
上記培養において、上記スパージャーから放出される上記ガスの流量Q m3/minと、上記培養容器内の上記細胞懸濁液の量X m3は下記式1-3を満たす。
式1-3: 0.001≦Q/X≦0.1
培養容器が複数のスパージャーを含む場合、上記ガスの流量Qとは、すべてのスパージャーにおける上記ガスの流量の合計値をいう。
【0028】
上記Q/Xは、細胞培養に必要な酸素が細胞懸濁液中に十分に供給され、細胞濃度が増加しやすい観点からは、0.001以上であればよく、0.003以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることが更に好ましい。
また、上記Q/Xは、細胞へのダメージが抑制されやすい観点からは、0.1以下であればよく、0.07以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることが更に好ましい。
【0029】
-泡の体積平均泡径Dv-
上記培養容器における上記細胞懸濁液を、1g/Lのポロキサマー188と、7g/Lの塩化ナトリウムと、2g/Lの炭酸水素ナトリウムと、を含む純水である測定用溶液に入れ替え、上記培養におけるスパージャーから放出される酸素を30体積%含むガスの流量と同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記空気の泡の体積平均泡径Dv μmが下記式2-1を満たすことが好ましい。
式2-1: 50≦Dv≦800
また、細胞懸濁液を用いた泡の泡径分布、泡の終末速度等を測定することが困難であるため、本開示においては、上記測定用溶液を用いて測定した値により泡の泡径分布、泡の終末速度等を規定する。
【0030】
上記Dvは、細胞へのダメージを抑制する観点からは、50μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが更に好ましい。
また、上記Dvは、kLaを増大させ、高濃度での細胞培養を可能とする観点からは、
800μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、400μm以下であることが特に好ましい。
【0031】
上記泡径分布(累積体積分布)の詳細な測定方法は下記の通りである。
測定装置としては、メトラートレド社製 FBRM Particle Track G400を使用する。
上記泡径分布は、上記培養容器における上記細胞懸濁液を、上記測定用溶液に入れ替えた培養容器において、スパージャーから培養容器の高さ方向(鉛直方向)に20mm離れた位置に、培養容器の上部から上記FBRMG400の泡径センサーを挿入して測定を行う。
また、上記測定用溶液の量は、上記培養における上記細胞懸濁液の液量と同様にする。
測定条件としては、個数基準の測定モードを使用し、サンプリング間隔10秒間、移動平均20点の設定で測定を行う。また、測定レンズ表面上の固定点の検出を除去するために、Stuck Particle Correctionの機能を有効にした。また、測定レンジは1μm~4000μmとし、データ間隔は対数基準で測定区間を200間隔に分割する。この時、n個目のある区間の測定径D(n)に対し、次の区間の測定径をD(n+1)とすると、下記式Aが成立する。
【0032】
【0033】
この設定条件を用いて、通気流量0条件のBLANKデータ、及び通気時のデータを測定する。通気時の測定データのあるデータ区間D(n)における頻度をf(n)、BLANKデータのあるデータ区間D(n)における頻度をf0(n)としたときに、下記式Bに記載の処理を行うことでBLANK処理データg(n)を得る。
【0034】
【0035】
次に、下記式Cに記載の計算を行うことによって個数基準の測定データを体積基準の測定データV(n)に換算する。
【0036】
【0037】
更に、下記式Dに記載の計算を行うことにより体積平均径Dvを得る。
【0038】
【0039】
また、体積基準の積算分布G(n)は下記Eにより得られる。
【0040】
【0041】
上記計算式を用いて、累積体積分布を作成できる。
【0042】
-泡径分布-
上記泡径分布において、細胞ダメージを抑制する観点からは、泡径が20μm以上500μm以下の上記空気の泡の積算体積の割合が、上記泡径分布における泡の全体積の30体積%以上であることが好ましい。
上記空気の泡の積算体積の割合は、式Eを用いて、泡径が500μm以下の空気の泡の積算体積から泡径が20μm未満の空気の泡の積算体積を減算した値を、泡の全体積で除算することにより求められる。
上記積算体積の割合は、細胞ダメージを抑制する観点からは、30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることが更に好ましく、90体積%以上であることが最も好ましい。
上記積算体積の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば100体積%以下であればよい。
【0043】
-酸素移動容量係数kLa-
上記培養時における酸素移動容量係数kLaは、培養細胞濃度を増加させ、かつ、細胞へのダメージを抑制しやすい観点からは、1/hrが15以上であることが好ましい。
また、上記kLaは、培養細胞濃度を増加させ、かつ、細胞へのダメージを抑制しやすい観点からは、15 1/hr以上であることがより好ましく、20 1/hr以上であることが更に好ましく、25 1/hr以上であることが特に好ましく、30 1/hr以上であることが特に好ましい。
kLaの上限値は、特に限定されないが、例えば100 1/hr以下であればよい。
上記kLaは、下記(1)~(4)に記載した方法により測定することが可能である。
【0044】
<<(1)液の準備>>
上述の泡径分布の測定と同様の方法により、上記培養容器における上記細胞懸濁液を、上記測定用溶液に入れ替えた培養容器を準備する。
【0045】
<<(2)酸素濃度センサの準備>>
酸素濃度センサとしてはメトラートレド社製 Inpro6800/12/220を使用する。センサ内部には、メトラートレド社製 メンブレン O2 Membrane body T-96を挿入し、更にその内部にメトラートレド社製のO2電解液 O2-Electrolyteを封入する。
酸素濃度の表示計はメトラートレド社のM400 Type3を使用する。
メトラートレド社製のZero oxygen tablets for InLab sensors(亜硫酸ナトリウムタブレット)を40mLの純水に溶かし5分待つ。
その液内に酸素濃度センサを入れ20分間放置する。5分後に酸素濃度センサの0点校正を行う。
酸素濃度センサを上記測定用溶液の高さ方向中央部を0%、上記測定用溶液の液面を100%、上記測定用溶液の液底面を-100%として、-100%から0%の高さの位置に挿入する。
上記測定用溶液を37℃に加温保持する。
撹拌しながら、孔径20μmのスパージャーよりAirを0.02vvmで24時間通気する。本開示において「vvm」とは、1分間で、液容量の何倍の通気をするかを示すものである。
(Airで液を飽和できたらスパージャー孔径や流量は問わない)。
通気が完了したらAirを100%として校正する。
【0046】
<<(3)酸素脱気>>
上記測定用溶液を37℃に加温保持する。
培養容器の上記測定用溶液内に孔径20μmのスパージャーよりN2を供給する(例えば0.02vvm)。
酸素濃度が3%以下になるのを待つ。
3%以下になったらN2を停止し、撹拌も停止する。
培養容器の上層の液がない部分の体積をV Lとしたとき、培養容器上層にV/3 L/minの流量で15分間供給し、上層のN2をAirに置換する。(なおVの5倍分をAirで置換できたら、流量と時間は問わない。)
【0047】
<<(4)測定>>
置換が完了したら、所定の撹拌条件、所定のガス通気条件に設定し、酸素濃度測定を行う。ガスとしては、Airを用いる。横軸に時間(h)を、縦軸に下記式KLにより表される値をプロットし、溶液中の酸素濃度が、上記Airを通気した場合の飽和酸素濃度の20%~80%となった部分のグラフの傾きからkLaを算出する。
式KL:ln(C*-C/C*-C0)
上記式中、lnは自然対数を、C*は上記飽和酸素濃度を、C0は測定開始時点における酸素濃度を、Cは酸素濃度の測定値を、それぞれ表す。
また、kLaは「DECHEMA Biotechnologie Recommendations for process engineering characterisation of single-use bioreactors and mixing systems by using experimental methods Publication date: January 2016」に記載の内容を参考に算出してもよい。
【0048】
-ガスの放出速度-
培養工程においては、上記培養におけるスパージャーから放出される酸素を30体積%含むガスの流量Q m3/minと同じ流量の空気ガスを、上記スパージャーから上記測定用溶液に送り、上記スパージャーのガス放出口における泡径分布を測定した場合に、上記Q m3/minと、上記A m2と、上記測定用溶液の密度ρL kg/m3と、上記空気ガスの密度ρg kg/m3と、上記測定用溶液の粘度μL kg/m/sと、重力加速度g m/s2とが、下記式3-1を満たすことが好ましい。
式3-1: 0.1≦(Q/A/60)/[{3×10-8×(ρL-ρg)×g}/(18×μL)}]≦5
【0049】
ここで、式3-1における(Q/A/60)は、ガスの放出速度を表しており、{3×10-8×(ρL-ρg)×g}/(18×μL)}は、体積平均泡径Dvが175μmである場合の測定用溶液中における泡の終末速度を表している。
すなわち、式3-1は、ガスの放出速度と泡の終末速度の比(ガスの放出速度/泡の終末到達速度、「比A」ともいう)が、0.1以上5以下であることを示している。
上記比Aが0.1以上であれば、スパージャーに均一に圧力がかかりやすく、スパージャーのガス放出部から不均一に泡が放出されることが抑制されるため、kLaが増大しやすく、また、細胞へのダメージが抑制されやすいと考えられる。
また、上記比Aが5以下であれば、スパージャーから放出された泡が液中を上昇する前に、次の泡が放出されてしまい、スパージャー出口で泡が凝集、合一することが抑制されると考えられる。そのため、泡径が大きくなる、泡径分布が均一にならない等の事象の発生が抑制され、kLaが増大しやすく、培養細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記比Aは、培養細胞濃度が増加しやすく、かつ、細胞へのダメージが抑制されやすい観点からは、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、0.5以上であることが最も好ましい。
また、上記比Aは、培養細胞濃度が増加しやすい観点からは、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましく、2以下であることが最も好ましい。
【0050】
上記培養時において、上記スパージャーから放出される上記ガスの流量Q m3/minと、上記A m2は、下記式4-1を満たすことが好ましい。
式4-1: 0.1≦Q/A≦5
【0051】
Q/Aは、上述の通りガスの放出速度(m/min)を表す。
上記Q/Aが0.1m/min以上であれば、スパージャーに均一に圧力がかかりやすく、スパージャーのガス放出部から不均一に泡が放出されることが抑制されるため、kLaが増大しやすく、また、細胞へのダメージが抑制されやすいと考えられる。
上記Q/Aが5m/min以下であれば、スパージャー出口で泡が凝集、合一することが抑制されると考えられる。そのため、泡径が大きくなる、泡径分布が均一にならない等の事象の発生が抑制され、kLaが増大しやすく、培養細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記Q/Aは、培養細胞濃度が増加しやすく、かつ、細胞へのダメージが抑制されやすい観点からは、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、0.5以上であることが最も好ましい。い。
また、上記Q/Aは、培養細胞濃度が増加しやすい観点からは、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましく、2以下であることが最も好ましい。
【0052】
-滞留時間-
上記培養における上記培養容器の内底面から上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mと、上記泡径分布における泡の体積平均泡径Dvと、上記測定用溶液の密度ρL kg/m3と、上記空気ガスの密度ρg kg/m3と、重力加速度g m/s2と、上記測定用溶液の粘度μL kg/m/sとは、下記式5-1を満たすことが好ましい。
式5-1: 2≦(ZL-Zs)/{Dv2×10-12×(ρL-ρg)×g/(18×μL)}≦300
また、高さZs mは、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャーのガス供給部における最上部との距離をいう。
【0053】
式5-1において、(ZL-Zs)は、スパージャーから放出された泡が液面まで到達するまでの移動距離を示している。
また、式5-1において、{Dv2×10-12×(ρL-ρg)×g/(18×μL)}は、体積平均泡径Dvの泡の測定用溶液中における終末速度を示している。
すなわち、式5-1は、泡の移動距離を泡の終末速度で割った値であり、泡の測定用溶液中における滞留時間(s)を示している。
上記滞留時間が2秒以上であれば、泡からの酸素の供給量が増加し、kLaが増大しやすく、培養時における培養細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
また、上記滞留時間が300秒以下であれば、細胞へのダメージが抑制されやすいと考えられる。
上記滞留時間は、kLaが増大しやすく、培養時における培養細胞濃度が増加しやすい観点からは、2秒以上であることが好ましく、15秒以上であることがより好ましく、30秒以上であることが更に好ましく、40秒以上であることが特に好ましい。
上記滞留時間は、細胞へのダメージが抑制されやすい観点からは、300秒以下であることが好ましく、200秒以下であることがより好ましく、150秒以下であることが更に好ましく、120秒以下であることが特に好ましい。
【0054】
-培養容器の形状-
上記X m3、上記ZL m、上記Zs mにおいて、下記式6-1及び式6-2よりなる群から選ばれた少なくとも1つを満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
式6-1: Zs/ZL≦0.5
式6-2: 0.5≦ZL/(4×X/ZL/3.14)0.5≦4
【0055】
式6-1におけるZs/ZLは、上記培養容器の内底面から上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mとの比であり、上記比が0.5以下であるとは、培養容器内の高さ方向において、内底面から液面までの高さの中央部以下の位置にスパージャーが設置されていることを示している。
スパージャーの位置が低い方が、スパージャーから放出された泡の滞留時間が長くなるため、kLaが増大しやすく、培養時における細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記Zs/ZLは、培養時における胞濃度が増加しやすい観点からは、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることが更に好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
上記Zs/ZLの下限は特に限定されず、スパージャーが底面に形成されている態様(Zs/ZL=0)であってもよい。
【0056】
式6-2における(4×X/ZL/3.14)0.5は、培養容器の内径が高さ方向の変化により変わらないと仮定した場合の、培養容器の底面と水平な平面における円相当径を示している。
すなわち、式6-2におけるZL/(4×X/ZL/3.14)0.5は、培養容器における細胞懸濁液の液面の高さと、上記円相当径の比(上記液面の高さ/上記円相当径、「比B」ともいう。)の値を示している。
上記比Bが0.5以上であることにより、泡の滞留時間が増加し、kLaが増大しやすく、培養時における培養細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記比Bが4以下であることにより、酸素濃度を培養容器内に均一にしやすく、また必要な面積(上記表面積A)のスパージャーを配置するのに十分な底面積を確保しやすいと考えられる。
上記比Bは、泡の滞留時間が増加し、kLaが増大しやすく、培養時における培養細胞濃度が増加しやすい観点からは、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることが更に好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。
また、上記比Bは、酸素濃度を培養容器内に均一にしやすく、また必要な面積(上記表面積A)のスパージャーを配置するのに十分な底面積を確保しやすい観点からは、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましく、2以下であることが特に好ましい。
【0057】
〔撹拌部材〕
本開示における培養容器は、撹拌部材を更に備えていてもよい。
撹拌部材により、培養容器が撹拌されることにより、スパージャーにより放出される泡も撹拌され、kLaが増大しやすくなり、培養可能な培養細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
撹拌部材としては特に限定されず、公知のスパージャーにおいて用いられる撹拌部材を用いることができるが、例えば、撹拌羽根を有する撹拌機が挙げられる。
上記撹拌羽根を有する撹拌機の位置、撹拌羽根のサイズ等は、特に限定されず、使用する細胞種、細胞懸濁液の量、供給する酸素の量、スパージャーの位置、数、サイズ、等に応じて設計すればよい。またスパージャーから出る泡を素早く撹拌し、泡の合一を抑制させるためには、スパージャーから近い位置に撹拌部材が配置されることが好ましい。
なお撹拌羽根を有する撹拌機以外では、例えば培養容器の振とうや、培養容器内の細胞懸濁液をポンプなどで循環する方法が挙げられる。
【0058】
〔細胞〕
本開示に係る細胞培養方法において培養する細胞は、特に限定されず、例えば、動物細胞、植物細胞、酵母などの真核細胞、及び枯草菌、大腸菌などの原核細胞が挙げられる。細胞は、ES細胞、iPS細胞、各種幹細胞などであってもよい。
本開示に係る細胞培養方法において培養する細胞は、生産物を生産する細胞であってもよい。生産物を生産する細胞を培養すると、細胞により生産物が生産され、これを回収すれば細胞を用いた物質生産を行うことができる。
すなわち、本開示に係る細胞培養方法の好ましい一態様は、本開示に係る細胞培養方法により細胞を培養し、培養された細胞により生産された生産物を得ることを含む生産物の製造方法である。
生産物を生産する細胞として用いられる細胞は、特に限定されず、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母などの真核細胞、及び枯草菌、大腸菌などの原核細胞のいずれであってもよい。CHO細胞、BHK-21細胞、C127細胞、NS0細胞及びSP2/0-Ag14細胞などの動物細胞が好ましく、解析が多数行われ、遺伝子工学的な手法が確立している点でCHO細胞がより好ましい。所望の生産物を細胞が元々生産しない又は生産量が少ない場合であっても、例えば、生産物を生産するのに必要な蛋白質をコードするプラスミドなどの発現ベクターを細胞に導入することで、所望の生産物を効率よく生産させることができる。本開示における細胞によって生産される生産物は、上記の細胞が細胞懸濁液中に生産する物質であれば、特に限定されず、例えば、アルコール、酵素、抗生物質、核酸、組換えタンパク質、抗体などの物質が挙げられる。中でも生産物として、好ましくは、組み換えタンパク質又は抗体であり、より好ましくは抗体である。
また、生産物を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0059】
動物細胞に抗体を生産させる場合、抗体の種類は特に限定されず、例えば、抗IL-6レセプター抗体、抗IL-6抗体、抗グリピカン-3抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗GPIIb/IIIa抗体、抗TNF抗体、抗CD25抗体、抗EGFR抗体、抗Her2/neu抗体、抗RSV抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗IgE抗体、抗CD11a抗体、抗VEGF抗体、抗VLA4抗体などが挙げられる。生産させる抗体の例には、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体など人為的に改変した抗体も含まれる。
【0060】
培養容器に収容された細胞懸濁液中における細胞の濃度は特に限定されず、細胞種等を考慮して決定すればよい。ただし、培養容器に収容された細胞懸濁液中における細胞の濃度が高い方が、細胞数が多くなること、及び細胞が生産物を生産する場合には生産物の生産量が大きくなることからも、細胞の濃度が高いことが好ましい。
これらのことから、培養容器に収容された細胞懸濁液中における細胞の濃度は、4×107cells/mL以上であることが好ましく、5×107cells/mL以上であることがより好ましく、6×107cells/mL以上であることが更に好ましい。
また、細胞濃度の上限は特に限定されないが、例えば細胞の生存率を向上する観点からは、30×107cells/mL以下が好ましい。
【0061】
細胞の培養に用いる培地としては、細胞の培養に通常使用されている液体培地を用いることができる。例えば、OptiCHO(Lifetechnologies社、12681011)培地、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(MEM)、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、F-12K培地、ハムF12培地、イスコブ変法ダルベッコ培地(IMDM)、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、およびEX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences社)、CHO-S-SFMII(Invitrogen社)、CHO-SF(Sigma-Aldrich社)、CD-CHO(Invitrogen社)、 IS CHO-V(Irvine Scientific社)、PF-ACF-CHO (Sigma-Aldrich社)などを使用することができる。
【0062】
培地には牛胎児血清(FCS)等の血清を添加してもよい。あるいは、培地は無血清培地、例えば完全合成培地であってもよい。
培地には、アミノ酸、塩、糖類、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素、植物タンパク質の加水分解物などの追加成分を補充してもよい。
【0063】
培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.0~8.0であり、好ましくはpH6.8~7.6であり、より好ましくはpH7.0~7.4である。
培養温度は、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは32℃~37℃であり、より好ましくは36℃~37℃であり、培養中に培養温度を変更してもよい。
【0064】
培養は、CO2濃度が0体積%~40体積%の雰囲気下で行ってもよく、CO2濃度が2体積%~10体積%の雰囲気下で行うことが好ましい。
培養においては、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加えることができる。
【0065】
〔灌流培養〕
細胞の培養は灌流培養であることが好ましい。灌流培養は、新鮮な培地を添加し、同時に使用済み培地を除去する培養法である。灌流培養によれば、1×108細胞/mLを超える高い細胞濃度を達成することも可能である。典型的な灌流培養は、1日間又は2日間続くバッチ培養スタートアップで始まり、その後、培養物に新鮮な供給培地を連続的、段階的、及び/又は断続的に添加し、使用済み培地を同時に除去する。灌流培養においては、沈降、遠心分離または濾過などの方法を用いて、細胞濃度を維持しながら使用済み培地を除去することができる。灌流は、連続的、段階的、断続的またはこれらの組み合わせの何れの形態でもよい。灌流培養の日数は5日以上150日以下が好ましく、10日以上100日以下がより好ましく、20日以上80日以下が更に好ましい。培養日数を5日以上にすることは、得られる細胞数が多くなること、及び細胞が生産物を生産する場合には生産物の生産量が大きくなることから好ましい。培養日数は150日以下にすることは、灌流培養で使用される濾過膜の目詰まり防止や、コンタミを防止する観点で好ましい。
灌流培養は、例えば、後述する灌流細胞培養装置を用いて行うことが可能である。
【0066】
培養容器からの細胞懸濁液の抜き出しは、通常、ポンプを用いて行うことができるが、利用可能な他の送液手段を用いてもよい。培養容器から抜き出された細胞懸濁液は、例えば、生産物の回収、死細胞の除去等の処理が行われる。培養容器から抜き出された細胞懸濁液は、生産物の回収、死細胞の除去等の処理後に、一部廃却してもよいし、培養容器へと戻してもよい。
上記処理により培地のロスが発生した場合、例えば、培養容器に新鮮培地を供給することにより補うことができる。
【0067】
(生産物の製造方法)
本開示に係る生産物の製造方法は、
本開示に係る細胞培養方法により細胞を培養すること(以下、「細胞培養工程」ともいう。)、及び、
培養された細胞により生産された生産物を得ること(以下、「生産物回収工程」ともいう。)を含む。
本開示に係る生産物の製造方法においては、本開示に係る細胞培養方法を用いて培養を行うため、高濃度で細胞が培養され、かつ、細胞へのダメージが抑制されると考えられる。そのため、生産物の生産量を向上し、かつ、生産物の品質を向上することができると考えられる。
【0068】
<細胞培養工程>
細胞培養工程は、上述の本開示に係る細胞培養方法における細胞培養工程度同様の工程である。
生産物を生産する細胞としては、先に例示した生産物を生産する細胞を用いることができ、また生産物としては先に例示した生産物とすることができる。生産物は抗体であることが好ましい。
【0069】
<生産物回収工程>
生産物回収工程における生産物の回収としては、単に細胞懸濁液を回収してもよいし、例えば、フィルタ又は遠心分離機を用い、細胞懸濁液から細胞の少なくとも一部を除いた液体を回収してもよく、公知の方法が特に制限なく用いられる。生産物の純度を向上したり、溶媒を変更したり、例えば粉末状にするなど形態を変更したい場合には、細胞懸濁液又は上記液体をさらなる処理に供することができる。
また、細胞培養を上述の灌流培養により行う場合には、灌流しながら細胞懸濁液の一部を回収する、又は、灌流しながら灌流中の細胞懸濁液の一部に対してフィルタ又は遠心分離機を用い、細胞懸濁液から細胞の少なくとも一部を除いた液体を回収することも可能である。
【0070】
例えば、生産物は、精製処理により精製することができる。得られた生産物は、高い純度にまで精製することができる。生産物が抗体又はその断片などのポリペプチドである場合、生産物の分離及び精製は通常のポリペプチドで使用されている分離及び精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルタ、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動及び等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、ポリペプチドを分離及び精製することができるが、これらに限定されるものではない。得られたポリペプチドの濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
【0071】
本開示に係る細胞培養装置は、細胞を含む細胞懸濁液を収容し、細胞を培養する培養容器、及び、上記培養容器内に上記細胞懸濁液中に酸素を30体積%以上含むガスを放出するためのスパージャーを備え、上記スパージャーの平均孔径が1μm以上300μm以下であり、上記スパージャーの面積A m2、上記培養容器内に最大に充填できる上記細胞懸濁液量Xmax m3が下記式7-1及び式7-2を満たす。
式7-1: 0.004≦A/Xmax≦0.1
式7-2: Xmax≧0.5
【0072】
本開示に係る細胞培養装置における培養容器、スパージャー等の各構成要件は、上述の本開示に係る細胞培養方法における各構成要件と同義であり、好ましい態様も同様である。
また、本開示に係る細胞培養装置の好ましい態様においては、本開示に係る細胞培養方法におけるXを、後述するXmaxと読み替えるものとする。
以下、本開示に係る細胞培養方法においては説明されていない点について説明する。
【0073】
Xmaxは、例えば、細胞培養装置において通常用いられる細胞懸濁液量の最大値であり、細胞培養装置のカタログ等における細胞懸濁液の使用可能量の最大値として決定される。
また、細胞培養装置において特に細胞懸濁液の使用可能量が決められていない場合、培養容器の容量の80体積%など、実際の実施態様を考慮して決定することができる。
【0074】
ここで、上記A/Xmaxは、スパージャーのガス放出部における泡の合一を抑制し、泡径が大きくなることを抑制し、kLaを増大させやすい観点から、0.004以上であることが好ましく、0.006以上であることがより好ましく、0.008以上であることが更に好ましく、0.01以上であることが特に好ましい。
また、上記A/Xmaxは、泡の不均一な噴出を抑制し、kLaを増大させ、かつ、細胞ダメージを抑制しやすい観点からは、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることが更に好ましく、0.025以下であることが特に好ましい。
【0075】
また、上記Xmaxは、培養する細胞種及び培養目的に応じて設計されるが、本開示に係る細胞培養方法を生産物の製造方法に用いた場合に得られる生産物の量を増加させやすい観点、又は、大量の細胞が得られやすい観点からは、0.5m2以上であることが好ましく、1.0m2以上であることが好ましく、1.1m2以上であることがより好ましい。
また上記Xmaxの上限は特に限定されないが、例えば10m2以下とすることができる。
【0076】
本開示に係る細胞培養装置は、上記培養容器の内底面から上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填したときの上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZLmax mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mにおいて、下記式8-1を満たすことが好ましい。
式8-1: 2≦(ZLmax-Zs)/0.02≦300
【0077】
上記ZLmax-Zsは、上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填したときの上記細胞懸濁液の液面から、スパージャー接地面までの距離を示している。
上記(ZLmax-Zs)/0.02が2以上であれば、スパージャーから放出された泡の滞留時間が長くなるため、kLaが増大しやすく、培養時における細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
また、上記(ZLmax-Zs)/0.02が300以下であれば泡の滞留時間が長くなりすぎず、細胞へのダメージが抑制されやすいと考えられる。
上記(ZLmax-Zs)/0.02は、培養時における細胞濃度が増加しやすい観点から、2以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましく、40以上であることが最も好ましい。
また、上記(ZLmax-Zs)/0.02は、細胞へのダメージが抑制されやすい観点から、300以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましく、150以下であることが更に好ましく、120以下であることが最も好ましい。
【0078】
本開示に係る細胞培養装置は、上記Xmax m3、上記ZLmax m、上記Zs mが、下記式9-1及び式9-2を満たすことが好ましい。
式9-1: Zs/ZLmax≦0.5
式9-2:0.5≦ZLmax/{(4×Xmax/ZLmax/3.14)0.5}≦4
【0079】
上記式9-1におけるZs/ZLmaxは、上記培養容器の内底面から上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填したときの上記細胞懸濁液の上面までの液面高さZL mと、上記培養容器内の培養容器の内底面からスパージャー設置面までの高さZs mとの比であり、上記比が0.5以下であるとは、上記培養容器内に上記細胞懸濁液を最大に充填した場合に、培養容器内の高さ方向において、内底面から液面までの高さの中央部以下の位置にスパージャーが設置されていることを示している。
スパージャーの位置が低い方が、スパージャーから放出された泡の滞留時間が長くなるため、kLaが増大しやすく、培養時における細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記Zs/ZLmaxは、培養時における細胞濃度が増加しやすい観点からは、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが更に好ましい。
上記Zs/ZLの下限は特に限定されず、スパージャーが底面に形成されている態様(Zs/ZLmax=0)であってもよい。
【0080】
式6-2における(4×X/ZLmax/3.14)0.5は、培養容器の内径が高さ方向の変化により変わらないと仮定した場合の、培養容器の底面と水平な平面における円相当径を示している。
すなわち、式6-2におけるZL/(4×X/ZL/3.14)0.5は、培養容器における上記細胞懸濁液を最大に充填した場合の細胞懸濁液の液面の高さと、上記円相当径の比(上記液面の高さ/上記円相当径、「比C」ともいう。)の値を示している。
上記比Cが0.5以上であることにより、泡の滞留時間が増加し、kLaが増大しやすく、培養時における細胞濃度が増加しやすいと考えられる。
上記比Cが4以下であることにより、酸素濃度を培養容器内に均一にしやすく、また必要な面積(上記表面積A)のスパージャーを配置するのに十分な底面積を確保しやすいと考えられる。
上記比Cは、泡の滞留時間が増加し、kLaが増大しやすく、培養時における細胞濃度が増加しやすい観点からは、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。
また、上記比Cは、酸素濃度を培養容器内に均一にしやすく、また必要な面積のスパージャーを配置するのに十分な底面積を確保しやすい観点からは、4以下であることが好ましく、3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。
【0081】
本開示に記載の細胞培養装置は、灌流細胞培養装置であることが好ましい。
灌流細胞培養装置としては、上述の灌流培養を実現することができる装置であれば、特に制限されず、公知の設計とすることができる。
【0082】
本開示に係る細胞培養方法、生産物の製造方法、及び細胞培養装置の一例について、
図3においてまとめて説明する。
図3は、本開示に係る生産物の製造方法の実施に適用可能な細胞培養装置200の構成の一例を示す概略構成図である。
【0083】
図3中、細胞培養装置200は、細胞懸濁液を収容する培養容器100と、培養容器100から抜き出された細胞懸濁液に対して膜分離処理を施すフィルタ膜24を有するフィルタ部20と、フィルタ膜24によって阻止された成分を培養容器100に戻す流路52と、フィルタ膜24を透過した成分が通過する流路53と、流路53に接続された回収タンク40とを有する。
【0084】
培養容器100の内部には、撹拌翼11を有する撹拌装置、及び、スパージャー10が設けられている。撹拌翼11を回転させることで、培養容器100の内部に収容された培地が撹拌され、培地の均質性が保たれる。また、スパージャー10から放出された泡が撹拌されることにより、kLaが増大しやすくなる。
スパージャー10の数、位置等は、上述の本開示に係る細胞培養方法において説明した内容とすることが可能である。
【0085】
流路51は、一端が培養容器100の底部に接続され、他端がフィルタ部20の流入口20aに接続されている。矢印66は、流路51内における細胞懸濁液の流れる方向を示している。流路51の途中には、培養容器100に収容されている細胞懸濁液を抜き出して、フィルタ部20に送るポンプPU1が設けられている。ポンプPU1として、例えば、磁気浮上型のポンプを用いることができる。送液圧力はポンプPU1とフィルタ部20との間に設置された圧力計60によって測定することが可能である。ポンプPU1の送液圧力は、流路52上に設けられたピンチバルブVの開度によって調整することが可能である。また送液流量はポンプPU1の回転数によって調整することが可能である。
またポンプPU1を往復動ポンプを用いることができる。PU1に往復動ポンプを用いた場合、流路51の一端を培養容器100の底部に接続する必要はない。PU1の往復動により、図に対して矢印66、68、70が反転することで、培養容器から細胞懸濁液が抜き出され、矢印66、68、70が図の方向に戻ることで、細胞懸濁液は培養容器内に戻される。
【0086】
フィルタ部20は、容器21と、容器21内の空間を供給側22と透過側23とに隔て、培養容器100から抜き出された細胞懸濁液に対して膜分離処理を施すフィルタ膜24と、を備える。矢印68は、フィルタ部20内における細胞懸濁液の流れる方向を示している。また、フィルタ部20は、供給側22において、細胞懸濁液が流入する流入口20aと細胞懸濁液が流出する流出口20bとを有する。培養容器100から抜き出された細胞懸濁液は、流入口20aから容器21の内部に流入して流出口20bから容器21の外部に流出する間にフィルタ膜24上を通過する。フィルタ部20は、膜分離処理の対象となる液体をフィルタ膜24の膜面に沿って(膜面と平行な方向に)流しながら、サイズの小さい成分を透過側23に送るタンジェンシャルフロー方式による膜分離処理を行う。タンジェンシャルフロー方式による膜分離処理は、培養容器100から抜き出された細胞懸濁液がフィルタ膜24の膜面に沿って平行に一方向に循環する流れを形成するものであってもよいし、細胞懸濁液がフィルタ膜24の膜面に沿って往復する流れを形成するものであってもよい。循環する流れを形成する場合、例えばスペクトラムラボラトリーズ社のKrosFlo灌流培養フローパス装置(KML-100、KPS-200、KPS-600)、Levitronix製のPuraLevシリーズ等を好適に用いることができる。また往復する流れを形成する場合、REPLIGEN社のATFsystemを好適に用いることができる。
【0087】
細胞懸濁液に含まれる細胞は、フィルタ膜24を透過せず、流出口20bから容器21の外部に流出し、流路52を介して培養容器100の内部に戻される。矢印70は、流路52内における細胞懸濁液が流れる方向を示している。一方、細胞懸濁液に含まれる抗体等の生産物は、フィルタ膜24を透過して、透過側23に設けられた排出口20cから容器21の外部に排出される。透過側23には、ポンプPU2が設けられた流路53が接続されており、透過側23に透過した生産物(例えば、抗体)を含む透過液は、流路53を介して回収タンク40に回収される。矢印74は、流路53内における透過液が流れる方向を示している。なお、ポンプPU2は、ペリスタリックポンプであっても、磁気浮上型のポンプであってもよい。
【0088】
フィルタ膜24として、繊維状部材を網目状に織ることにより構成されるメッシュフィルタを用いることが可能である。メッシュフィルタを用いることで、中空糸膜を用いる場合と比較して、細胞の死骸及び細胞の破砕物を含む細胞培養に不要な成分の透過側への排出を促進させることができる。これにより、培養容器100内から細胞培養に不要な成分を効果的に除去することができ、培養容器100内における細胞の増殖性を高めることができる。
【0089】
また、フィルタ膜24として、中空糸膜を用いることができる。中空糸膜を用いることで、メッシュフィルタを用いる場合と比較して、細胞が透過側に透過するリスクを低減できる。また、フィルタ膜24に細胞が入り込むことによる目詰まりの発生のリスクを低減できる。これらにより、細胞のロスを低減できる。
【0090】
フィルタ膜24を透過し、回収タンク40に回収された透過液に含まれる生産物(例えば、抗体)は、流路56を介して、生産物(例えば、抗体)の精製を行う精製処理部(図示せず)に送られる。回収された透過液は一度回収タンク40に溜めてもよいし、タンクに溜めずに直接精製処理部に送ってもよい。回収タンク40に貯めることで、透過液の流量が変動しても、精製処理部への影響を最小限にとどめることができる。
矢印76は、流路56内における透過液の流れる方向を示しており、Cは精製処理に用いられる透過液の移動を示している。
【0091】
細胞培養装置200は、新鮮な培地を培養容器100に供給するための流路54と、流路54の途中に設けられたポンプPU3を有する。Aは新鮮な培地の供給口を示し、矢印62は流路54内における細胞懸濁液の流れる方向を示している。ポンプPU3は、ペリスタリックポンプであっても、磁気浮上型のポンプであってもよい。
【0092】
培養容器100内の細胞の濃度が過度に高くなることを防止するために、培養期間中における適切なタイミングで培養容器100内の細胞の一部を抜き取るセルブリード処理が行われる。セルブリード処理において、培養容器100内の細胞は、流路55を介して培養容器100の外部に排出される。矢印64は流路55内における細胞懸濁液の流れる方向を示しており、Bはセルブリード処理に用いられる細胞懸濁液の移動を示している。
【0093】
なお、
図3に示す細胞培養装置200は、分離処理をフィルタ部20による膜分離処理によって行うものであるが、フィルタ部20を、音波凝集法や遠心分離法等の公知の方法による分離処理を行う処理部に置き換えることも可能である。
【0094】
以上説明したように、本開示によれば、高濃度での細胞培養を可能とし、かつ、細胞へのダメージが抑制される細胞培養方法、上記細胞培養方法を含む生産物の製造方法、及び、上記細胞培養方法を可能とする細胞培養装置を提供することができる。生産物の製造方法の場合、製造された生産物は、例えばバイオ医薬品及び再生医療等において用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。
【0096】
(参考例1:参考例1-1~1-4)
細胞へのダメージが抑制されるスパージャーにおけるガス供給部の平均孔径について調べるため、上記平均孔径を変化させながら1.2Lスケールのフェドバッチ培養を実施した。
細胞ダメージは培養後の細胞数と細胞生存率(バイアビリティ)で評価した。
【0097】
<実験手順>
全容量が3Lの培養容器に、Gln(グルタミン)を8mM(mol/L)の濃度になるように添加した培地(Thermo Fisher Scientific社OptiCHO Medium)を1.2L投入した。
上記投入された培地に、2×105 cells/mLになるようにCHO細胞を播種した。
撹拌回転数 180rpm(revolutions per minute)、上面ガス Air 15mL/min、CO2 0.75mL/minの条件で3日間(72時間)培養した。
上記3日間の培養後、細胞懸濁液中の酸素濃度が50%(100%をAirでの酸素飽和濃度として)に制御されるように、各スパージャーより酸素を放出した。その際、スパージャーからの合計のガス流量が0.03 vvmになるように、酸素に加えて窒素をスパージャーから同様に流した。以降は培養終了まで終始上記条件で制御した。使用したスパージャーは直径6mmの円型の平面形状のスパージャーで、面積は0.000028m2である。
更に、GE社製Cellboost 7a(FeedA)を細胞懸濁液量の2%に相当する液量で、GE社製Cellboost 7b(FeedB)を細胞懸濁液量の0.2%に相当する液量で、上記3日間の培養後から1日1回、毎日の添加を行った。
更に、上記培養は細胞懸濁液中のGlc(グルコース)及びGln(グルタミン)を計測しながら行い、Glcが4.0g/Lを下回ったら450g/L Glc液を細胞懸濁液量の0.75%、Glnが1.5mMを下回った場合200mM Glnを細胞懸濁液量の0.5%の液量で、3日目より毎日1日1回添加した。
計14日間の期間の培養を行い、日々、細胞数、細胞生存率を生死細胞オートアナライザーVi-CELL XR(製品名、ベックマン・コールター(株)製)を用いてトリパンブルー法により評価した。
各スパージャーより酸素を送り始めてから14日間での最高到達細胞密度と、14日目の細胞生存率を評価し細胞ダメージを評価した。評価基準は下記の通りとし、培養条件の詳細、及び、評価結果は下記表1に記載した。
【0098】
〔評価基準〕
A:細胞濃度2×107cells/mL以上かつ、細胞生存率80%以上である。
B:Aに該当せず、細胞濃度1×107cells/mL以上、かつ、細胞生存率50%以上である。
C:AにもBにも該当しない。
【0099】
【0100】
(参考例2:参考例2-1~2-6)
細胞へのダメージが抑制される培養容積あたりの酸素流量vvmについて調べるため、ガス通気流量違いで1.2Lスケールの培養を実施した。細胞ダメージは培養後の細胞数とバイアビリティで評価した。
【0101】
<実験手順>
全容量が3Lの培養容器に、Glnを8mMの濃度になるようにGlnを添加した培地(Thermo Fisher Scientific社OptiCHO Medium)を1.2L投入した。
上記培地に、2×105 cells/mLになるようにCHO細胞を播種した。
撹拌回転数 180rpm、上面ガス Air 15mL/min、CO2 0.75mL/minの条件で3日間(72時間)培養した。
3日目(72時間後)より、細胞懸濁液中の酸素濃度が50%(100%をAirでの酸素飽和濃度として)に制御されるように、ガス供給部の平均孔径が20μmのスパージャーより酸素を放出した。その際、スパージャーからの合計のガス流量が表に記載の値になるように、酸素に加えて窒素をスパージャーから同様に流した。以降は培養終了まで終始上記条件で制御した。使用したスパージャーは直径6mmの円型の平面形状のスパージャーで、面積は0.000028m2である。
更に、GE社Cellboost 7a(FeedA)を細胞懸濁液量の2%に相当する液量で、GE社Cellboost 7b(FeedB)を細胞懸濁液量の0.2%に相当する液量で、3日目より毎日1日1回添加した。
更に、上記培養は細胞懸濁液中のGlc及びGlnを計測しながら行い、Glcが4.0g/Lを下回った場合には450g/L Glc液を細胞懸濁液量の0.75%、Glnが1.5mMを下回った場合には200mM Glnを細胞懸濁液量の0.5%の液量で、3日目より毎日1日1回添加した。
計14日間の期間の培養を行い、日々、細胞数、細胞生存率を生死細胞オートアナライザーVi-CELL XR(製品名、ベックマン・コールター(株)製)を用いてトリパンブルー法により評価した。
各スパージャーより酸素を送り始めてから14日間での最高到達細胞密度と、14日目の細胞生存率を評価し細胞ダメージを評価した。評価基準は下記の通りとし、培養条件の詳細、及び、評価結果は下記表2に記載した。
〔評価基準〕
A:細胞濃度2×107cells/mL以上かつ、細胞生存率80%以上である。
B:Aに該当せず、細胞濃度2×107cells/mL以上、かつ、細胞生存率60%以上である。
C:Aに該当せず、細胞濃度1×107cells/mL以上、かつ、細胞生存率50%以上である。
D:A、B、及び、Cにも該当しない。
【0102】
【0103】
(参考例1及び参考例2について)
参考例1及び参考例2は、培養における細胞懸濁液量を1.2L(=0.0012m3)とした例である。
ここで、例えば参考例1又は参考例2において、細胞懸濁液量を0.5m3へとスケールアップ(417倍)した場合、上述の相似則から、スパージャー面積Aは={(417)1/3}2=55.8倍とするのが通常である。
その場合、A/Xの値は(55.8/417)倍となるため、現在の0.024から、0.0032となる。
例えば後述する比較例3-7に示すように、A/Xが0.004未満である場合には酸素供給能力が低いことが示されている。
すなわち、例えば参考例1又は参考例2に記載の例を、従来の技術思想の元に単純にスケールアップしても、酸素供給能力が低い系となってしまい、本開示に係る細胞培養方法には想到できないことがわかる。
【0104】
(実施例3-1~3-15及び比較例3-1~3-8)
培養容器のサイズ及び形状、スパージャーの平均孔径、表面積、設置位置等を下記表3に記載のように変更した培養容器を用い、表3又は表4に記載の各パラメータの計測又は計算を行った。
培養容器としては、実施例3-1~実施例3-5、実施例3-7~実施例3-15、及び、比較例3-1~比較例3-6においては、シングルユース培養容器として、Reactor1を、実施例3-6及び比較例3-7~比較例3-8においてはシングルユース培養容器としてReactor2をベースとした装置をそれぞれ使用した。
・Reactor1
培養槽バッグ直径:1.22m、培養槽バッグ全高:2.3m、培養槽内に最大に充填できる液量:2000L、培養槽バッグ液面高さ(2000L):1.83m、撹拌羽根:4枚羽根(羽根の角度40°)、撹拌直径419mm、スパージャー種類:焼結金属、スパージャー形状:平面型ディスク形状、スパージャー孔径:20μm、スパージャーサイズ:φ25mmのディスクを8個、スパージャー設置位置:撹拌羽根の直下
・Reactor2
培養槽バッグ直径:0.96m、培養槽バッグ全高:1.8m、培養槽内に最大に充填できる液量:1000L、培養槽バッグ液面高さ(1000L):1.45m、撹拌羽根:3枚羽根(羽根の角度40°)、撹拌直径318mm、スパージャー種類:焼結金属、スパージャー形状:平面型ディスク形状、スパージャー孔径:20μm、スパージャーサイズ:φ25mmのディスクを8個、スパージャー設置位置:撹拌羽根の直下
【0105】
泡径分布及びkLaについては上述の方法により測定した。
また、各実施例及び比較例において、スパージャーが複数のユニットにより構成されている場合、各ユニット毎にガスの流量を調整可能な構成とした。
また表3中、「撹拌回転」の欄の記載は撹拌羽根の回転数を表し、撹拌P/Vの欄の記載は、撹拌トルク(単位液量あたりの撹拌所要動力 (W/m3))を表す。
表3中、「孔径」の欄の記載は上述のスパージャーにおけるガス放出部の平均孔径を表す。
表3中、「種類」の欄の「金属焼結」の記載は、スパージャーがガス放出部に金属焼結フィルタ(SMC社焼結金属エレメント、ステンレス製)を有することを、「ポリエステルメッシュ」の記載は、スパージャーがガス放出部にポリエステルメッシュ(PETEX、07-350/34、Sefar Filtraiton Inc製)を有することを、「気体透過性フィルム」の記載は、スパージャーがガス放出部に気体透過性フィルム(Tyvek 1059B)を有することを、それぞれ示している。
表3中、「形状」の記載は、スパージャーにおけるガス供給部の形状を表し、「円筒」の記載は、スパージャーにおけるガス供給部が円柱形状であることを、「円形平面」の記載は、スパージャーのガス放出部の形状が円型の平面形状であることを、正方形平面の記載は、スパージャーのガス放出部の形状が正方形型の平面形状であることを、それぞれ示している。
表3中、「スパージャー1個の表面積」の欄の記載は、スパージャー1個当たりの表面積の平均値を示している。
表3中、「ユニット数」の欄の記載は、用いたスパージャーユニットの数を示している。
表3中、「ユニット毎スパージャー数」の欄の記載は、各スパージャーユニットに含まれるスパージャーの数を示している。
表3中、「スパージャー合計個数」の欄の記載は、培養容器に含まれる全てのスパージャーの数を示している。
表3中、「ユニット毎空気流量」の欄の記載は、各スパージャーユニットに供給される空気ガスの流量を示している。
表3中、X、ZL、D、A、Zs、Qと記載された欄の記載は、それぞれ上述の通りである。
【0106】
<細胞ダメージ評価>
細胞へのダメージについては、下記評価基準に従って推定し、評価結果を下記表に記載した。上記参考例1及び参考例2の結果から、下記評価基準により細胞ダメージが推定できると考えられる。評価基準A、B又はCであることが好ましい。
【0107】
〔評価基準〕
A:スパージャー径が10μm以上、かつ、酸素流量0.03vvm以下である。
B:Aには該当せず、スパージャー径が2μm以上、かつ、酸素流量0.05vvm以下である。
C:A及びBには該当せず、スパージャー径が1μm以上、かつ、酸素流量0.1vvm以下である。
D:A、B、及び、Cのいずれにも該当しない。
【0108】
<酸素供給能力評価>
酸素供給能力については、下記評価基準に従って推定し、評価結果を下記表に記載した。kLaが高いほど、高い細胞濃度での培養が可能であると推測される。評価基準A、B又はCであることが好ましい。
【0109】
〔評価基準〕
A:kLaが25以上(細胞数約8×107cells/mL以上に相当)である。
B:kLaが20以上25未満(細胞数約6×107cells/mL~8×107cells/mLに相当)である。
C:kLa15が以上20未満(細胞数約4×107cells/mL~6×107cells/mLに相当)である。
D:kLaが15未満である。
【0110】
<培養バッグ耐性>
培養バッグの耐性を下記(1)~(5)に記載の方法により評価した。
培養バッグとしては、上述のReactor1又はReactor2に記載した直径及び全高の培養槽バッグをそれぞれ使用した。ポリエチレン系のフィルムを2重にして使用し、具体的には、ASI PL-01026(厚み約150μm)が接液面に、ASI PL-01029(厚み約150μm)が外側の面になるようにバッグを製作した。
スパージャー面積が大きすぎると、スパージャーの質量が増加する、又は、スパージャーとバッグの接合面が増加する影響により、培養バッグに負荷がかかり破損しやすくなると考えられる。
(1)培養バッグを培養槽本体に設置する。
(2)培養バッグにバッグの最大充てん量の上記測定用溶液を送る。
(3)培養バッグから液を抜く。
(4)培養バッグを培養槽から取り外す。
(5)(1)~(4)を培養バッグが破損するまで(穴があく及び/又は液が漏れる)繰り返す。
評価は、下記評価基準に従って行った。評価基準A、B又はCであることが好ましい。
【0111】
〔評価基準〕
A:培養バッグを3回培養槽から取り付け及び取り外ししても破損は認められない。
B:培養バッグを2回培養槽から取り付け及び取り外ししても破損は認められないが、3回培養槽から取り付け及び取り外しした際に破損が認められる。
C:培養バッグを1回培養槽から取り付け及び取り外ししても破損は認められないが、2回培養槽から取り付け及び取り外しした際に破損が認められる。
D:1回目の取り付け及び取り外し後に培養バッグに破損が認められる。
【0112】
【0113】
【0114】
表4中、「培養容器直径」の欄の記載は、式(4×X/ZL/3.14)0.5により算出した培養容器の円相当径を示している。
表4中、「ZL/D」の欄の記載は、上述の式6-2におけるZL/(4×X/ZL/3.14)0.5の値を示している。
また表4中、「式3-1」の欄の記載は、上述の式3-1における(Q/A/60)/[{3×10-8×(ρL-ρg)×g}/(18×μL)}]の値を示している。
表4中、「式5-1」の欄の記載は、上述の式5-1における(ZL-Zs)/{Dv2×10-12×(ρL-ρg)×g/(18×μL)}の値を示している
表4中、計算には、重力加速度g=9.8m/s2、測定用溶液の密度ρL kg/m3=1000kg/m3、上記空気ガスの密度ρg=1.293 kg/m3、測定用溶液の粘度μL=8.9×10-4kg/m/s、とした値をそれぞれ用いている。
表4中、「泡径20μm~500μm積算体積率」の欄の記載は、泡径分布における泡の全体積に対する、泡径が20μm以上500μm以下の上記空気の泡の積算体積の割合を示している。
表4中、「対応する細胞濃度」の欄の記載は、上述の参考例1及び参考例2の内容及び測定されたkLaの値から推測される細胞濃度を示している。
表4中、A/X、Q/A、Q/X、Zs/ZL、Dv、kLaと記載された欄の記載は、それぞれ対応する上述のパラメータの値を示している。
【0115】
表3及び表4に記載された結果から、本開示に係る細胞培養方法によれば、細胞懸濁液が多量である場合であっても、高濃度での細胞培養が可能であり、かつ、細胞へのダメージが抑制されることがわかる。
【0116】
2018年6月27日に出願された日本国特許出願第2018-122322号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0117】
10 スパージャー(金属焼結スパージャー)
11 撹拌翼
12 金属焼結フィルタ
14 支持部
16 ガス供給部
20 フィルタ部
20a 流入口
20b 流出口
20c 排出口
21 容器
22 供給側
23 透過側
24 フィルタ膜
40 回収タンク
51~56 流路
60 圧力計
62、64、66、68、70、74、76 矢印
100 培養容器
102 細胞懸濁液
104 内底面
110 スパージャーユニット
112 ガス供給部
200 細胞培養装置
PU1~PU3 ポンプ
A 新鮮な培地の供給口
B セルブリード処理に用いられる細胞懸濁液の移動
C 精製処理に用いられる透過液の移動
V ピンチバルブ