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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】防音システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20220405BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20220405BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G10K11/16 100
G10K11/172
G10K11/162
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020552986
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037067
(87)【国際公開番号】W WO2020080040
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2018197418
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 美博
(72)【発明者】
【氏名】山添 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】白田 真也
(72)【発明者】
【氏名】大津 暁彦
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-58389(JP,A)
【文献】実開平6-14422(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
G10K 11/172
G10K 11/162
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通風路を有する通気部材内に配置される音源から発生する音を消音する防音システムであって、
前記音源が発生する音は、特定の周波数についての音圧が極大値となる、少なくとも1つの卓越音であり、
前記通風路の流通方向において、音源の±0.25×λ以内の距離に、前記通風路の音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い、高インピーダンス空間の少なくとも一部が存在し、
前記通気部材内に配置される、前記卓越音の周波数を含む周波数帯域の音を消音する消音器を有し、
前記消音器は、前記通風路音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが低い、低インピーダンス空間を形成し、
前記高インピーダンス空間と前記低インピーダンス空間との距離Lは、前記卓越音の中心波長をλとし、mを正の整数とすると、
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たす防音システム。
【請求項2】
前記音源が、前記高インピーダンス空間内に位置する請求項1に記載の防音システム。
【請求項3】
前記高インピーダンス空間と前記低インピーダンス空間との距離Lが、
(0.5×λ-0.2×λ)<L<(0.5×λ+0.2×λ)
を満たす請求項1または2に記載の防音システム。
【請求項4】
前記音源が周波数の異なる2以上の卓越音を発生し、
前記2以上の卓越音をそれぞれ消音する2つ以上の前記消音器を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の防音システム。
【請求項5】
前記音源が、軸流ファンであり、
前記軸流ファンにより前記高インピーダンス空間が形成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の防音システム。
【請求項6】
前記軸流ファンの排気側に整流器が形成されている請求項5に記載の防音システム。
【請求項7】
前記消音器が共鳴器である請求項1~6のいずれか一項に記載の防音システム。
【請求項8】
前記消音器が多孔質吸音材を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の防音システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ(PC)、および、複写機等の情報機器などにおいて、機器内を冷却するために、ファンを用いて機器内の加熱された空気を排気することが行われている。
このような冷却用のファンから発生する騒音のうち、羽根の枚数と回転速度で周波数が決まる騒音は、特定周波数で音圧が高く、純音(トーン)成分が非常に強く、耳障りとなり問題となっている。
【0003】
このような騒音の低減のために、一般的に消音に用いられる多孔質吸音材を用いても広い周波数帯域で一様に音量を下げるため、上記のような特定周波数だけ音圧が高い場合に、その特定周波数の音圧を相対的に下げることは難しい。
また、多孔質吸音材を用いる場合、十分な消音効果を得るためには体積を大きくするが必要であるが、通風路の通気性を確保する必要があるため、多孔質吸音材の大きさには限度があり、高い通気性と防音性能とを両立することが難しいという問題があった。
【0004】
このような特定周波数の騒音を消音するために、共鳴型の消音器を用いることが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、扁平筐体形状を有し、内部に消音処理を行うための通路が形成されるハウジングと、このハウジングに通路と連通するように形成されており、騒音となる音波が導入される孔部とを設けてなり、この孔部をハウジングの外周辺よりに形成し、騒音となる音波がハウジングの面方向に進むように構成した消音器が記載されている。また、この消音器は共鳴吸音を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2004/061817号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようなファンの騒音を低減するためには、冷却性能に関わる通風性を落とさずに、特定の狭帯域な周波数音を、防音することが求められる。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、通気性を確保しつつ消音器を設置した場合には、場所によっては消音性能が悪化する場所があることがわかった。
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、通気性を確保しつつ、特定周波数の消音性能が高い防音システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成によって課題を解決する。
【0010】
[1] 通風路を有する通気部材内に配置される音源から発生する音を消音する防音システムであって、
音源が発生する音は、特定の周波数についての音圧が極大値となる、少なくとも1つの卓越音であり、
通風路の流通方向において、音源の±0.25×λ以内の距離に、流通路の音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い、高インピーダンス空間の少なくとも一部が存在し、
通気部材内に配置される、卓越音の周波数を含む周波数帯域の音を消音する消音器を有し、
消音器は、流通路のインピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが低い、低インピーダンス空間を形成し、
高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lは、卓越音の中心波長をλとし、mを正の整数とすると、
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たす防音システム。
[2] 音源が、高インピーダンス空間内に位置する[1]に記載の防音システム。
[3] 高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lが、
(0.5×λ-0.2×λ)<L<(0.5×λ+0.2×λ)
を満たす[1]または[2]に記載の防音システム。
[4] 音源が周波数の異なる2以上の卓越音を発生し、
2以上の卓越音をそれぞれ消音する2つ以上の消音器を有する[1]~[3]のいずれかに記載の防音システム。
[5] 音源が、軸流ファンであり、
軸流ファンにより高インピーダンス空間が形成されている[1]~[4]のいずれかに記載の防音システム。
[6] 軸流ファンの排気側に整流器が形成されている[5]に記載の防音システム。
[7] 消音器が共鳴器である[1]~[6]のいずれかに記載の防音システム。
[8] 消音器が多孔質吸音材を有する[1]~[7]のいずれかに記載の防音システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通気性を確保しつつ、特定周波数の消音性能が高い防音システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の防音システムの一例を概念的に示す断面図である。
図2】本発明の防音システムの作用を説明するための模式図である。
図3】本発明の防音システムの作用を説明するための模式図である。
図4】高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lの範囲を説明するための模式図である。
図5】周波数とマイク音圧レベルと関係を表すグラフである。
図6】ファン周辺の音圧を可視化した図である。
図7】本発明の防音システムの一例の模式図である。
図8】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図9】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図10】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図11】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図12】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図13】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図14】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図15】シミュレーションモデルを説明するための図である。
図16】周波数と透過損失との関係を表すグラフである。
図17】距離Lと透過損失との関係を表すグラフである。
図18】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図19】周波数と音圧との関係を表すグラフである。
図20】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図21】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図22】膜振動の振動モードを説明するための模式図である。
図23】膜振動の振動モードを説明するための模式図である。
図24】本発明の防音システムの他の一例の模式図である。
図25】実施例の構成を説明するための模式図である。
図26図25の膜型共鳴器の位置における断面図である。
図27】膜型共鳴器の構成を説明するための模式図である。
図28】周波数と音圧との関係および周波数と吸収率との関係を表すグラフである。
図29】周波数と音圧との関係および周波数と吸収率との関係を表すグラフである。
図30】距離Lと透過損失との関係を表すグラフである。
図31】実施例の構成を説明するための模式図である。
図32図31の膜型共鳴器の位置における断面図である。
図33】膜型共鳴器の構成を説明するための模式図である。
図34】ファンのピーク騒音周波数からの差分と音圧との関係を表すグラフである。
図35】ファンのピーク騒音周波数からの差分と音圧との関係を表すグラフである。
図36】距離Lと透過損失との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「直交」および「平行」とは、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、「直交」および「平行」とは、厳密な直交あるいは平行に対して±10°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な直交あるいは平行に対しての誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0014】
[防音システム]
本発明の防音システムは、
通風路を有する通気部材内に配置される音源から発生する音を消音する防音システムであって、
音源が発生する音は、特定の周波数についての音圧が極大値となる、少なくとも1つの卓越音であり、
通風路の流通方向において、音源から±0.25×λ以内の距離に、流通路の音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い、高インピーダンス空間の少なくとも一部が存在し、通気部材内に配置される、卓越音の周波数を含む周波数帯域の音を消音する消音器を有し、
消音器は、流通路のインピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが低い、低インピーダンス空間を形成し、これにより音波が反射される低インピーダンス界面を形成し、
高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lは、卓越音の中心波長をλとし、mを正の整数とすると、
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たす防音システムである。
【0015】
本発明の防音システムの構成について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の防音システムの好適な実施態様の一例を示す模式的な断面図である。
【0016】
図1に示す防音システム10は、通風路12aを有する通気部材12と、通気部材12の内部に配置されるファン60と、通気部材12の外周部に配置される消音器22とを有する。
【0017】
図1に示す防音システム10において、通気部材12は、両端が解放された筒状の部材であり、内部の空間を通風路12aとして、気体(空気)を一方の開口(以下、給気開口12bという)から取り込み、他方の開口(以下、排気開口12cという)から排気するものである。
【0018】
ファン60は、通気部材12の内部、すなわち、通風路12aに配置され、給気開口12b側から排気開口12c側に気体を送風するものである。
周知のとおり、ファン60は複数の羽を有する羽根車を回転させて気体に運動エネルギーを与えて気体を軸方向に送風する。従って、ファン60は、回転数および羽の数に応じて決まる特定の周波数で音圧が極大値となる音を発生する。すなわち、ファン60は、本発明における音源SSである。以下、特定の周波数で音圧が極大値となる音を卓越音という。
【0019】
消音器22は、通気部材12の外周部に配置され、音源SSが発生する卓越音を含む周波数の音を消音するものである。
図1に示す例では、消音器22は、ヘルムホルツ共鳴器であり、空洞部30と、空洞部30と通気部材12(通風路12a)内とを連通する開口部32とを有する。周知のとおり、ヘルムホルツ共鳴器は、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数を消音したい音(卓越音)の周波数に合わせることで、その周波数の音を消音することができる。
また、開口部32は、通風路12aの流通方向において、ファン60と排気開口12cとの間に形成されている。すなわち、消音器22は、ファン60よりも下流側に配置されてファン60が発生する卓越音を消音する。
【0020】
ここで、図1に示す例において、ファン60が配置された領域は、本発明における高インピーダンス空間VHに相当し、また、消音器22の開口部32が配置された領域は低インピーダンス空間VLに相当する。
本発明において、高インピーダンス空間とは、流通路12aの音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い空間(領域)である。
また、低インピーダンス空間とは、流通路12aの音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが低い空間(領域)である。
【0021】
一般に、管路の音響インピーダンスZ0は、Z0=ρ×c/Sで表される。ここで、ρは空気密度、cは音速、Sは管路断面積である。
ファン60が配置された領域では管路断面積Sが小さくなるため、音響インピーダンスが高くなる。
一方、消音器22の開口部32が配置された領域では、管路中の空気が消音器22内に移動可能となるため、空気密度ρが小さくなるのと同様の作用が生じる。そのため、音響インピーダンスが低くなる。
【0022】
具体的には、通風路の音響インピーダンスの平均値は、ρ×c/(通風路通常部の平均断面積)により求めることができる。
また、高インピーダンス空間VHは、通風路の音響インピーダンスの平均値よりも20%以上高い音響インピーダンスを有する空間である。すなわち、高インピーダンス空間は通風路に対して平均断面積が20%以上狭くなっている。従って、通風路中の開口断面積を求めることで、高インピーダンス空間であるか否かを判別することができる。
【0023】
また、低インピーダンス空間VLは消音器(共鳴体、拡張サイレンサー)を有する空間である。従って、消音器の有無によって低インピーダンス空間か否かを判別することができる。
なお、高インピーダンス空間VHおよび低インピーダンス空間VLと通風路との境界は、音響インピーダンスの20%の変化がλ/20以内に発生している界面とする。
また、通気部材の側面等に貫通孔を有する場合は、貫通孔がない状態とみなして(貫通孔部分の側面を滑らかにつないで)、通風路の音響インピーダンスの平均値を求めればよい。
また、拡張型サイレンサーとは通風路の断面積を拡大したり、その拡大部の少なくとも一部に吸音材を設置したりして消音するものであり、後述の図10に示す構成が該当する。
【0024】
従って、図1に示す消音システム10においては、通風路12aの流通方向(図1中左右方向)において、高インピーダンス空間VHは音源SSの吸気開口12b側に近接して存在し、低インピーダンス空間VLを形成する消音器22が高インピーダンス空間VHおよび音源SSよりも下流側(排気開口12c側)に存在する。
ここで、本発明においては、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの距離Lが、卓越音の中心波長をλとし、mを正の整数とすると、
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たす範囲に存在する。
【0025】
この点について以下、図2および図3を用いて説明する。
図2および図3は通風路12a中における高インピーダンス空間VHと、音源SSと、低インピーダンス空間VLとの位置関係を模式的に表す断面図である。なお、図2および図3において消音器22の図示は省略しているが、通風路12aの流通方向において、消音器22は低インピーダンス空間VLの位置に配置されている。
【0026】
まず、高インピーダンス空間VHが音源SSの近傍に存在すると、音源SSが発生した卓越音は排気開口12c側により強く放射される。そのため、排気開口12cから通風路12aの外部に放射される卓越音を消音するために、音源SSと排気開口12cとの間に消音器22を配置する。
その際、図2に示すように、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの距離Lを、音源が発生する卓越音の中心波長λの1/4の位置に配置した場合には、高インピーダンス空間VHは音圧の自由端、低インピーダンス空間VLは音圧の固定端であることから、λ/4共鳴の共鳴条件が成立し、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの間の空間でλ/4共鳴が生じる。これによって、低インピーダンス空間VLでは音圧の節となり音圧値が小さくなるため、消音器への作用が弱くなり、共鳴器22による消音の効果が十分に得られない。
このような作用はλ/4+m×λ/2の位置で同様に発生する(mは正の整数)。すなわち、低インピーダンス空間VLの位置が、卓越音の節の位置と一致する場合に上記のように高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの間の空間で共鳴が生じて共鳴器位置での音圧が小さくなるため、共鳴器22による消音の効果が十分に得られない。
【0027】
これに対して、図3に示すように、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの距離Lを、音源が発生する卓越音の中心波長λの1/2の位置に配置した場合には、高インピーダンス空間VHは音圧の自由端、低インピーダンス空間VLは音圧の固定端であることから、λ/2共鳴の共鳴条件が成立せず、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの間の空間で共鳴が生じない。従って、低インピーダンス空間VLの位置にある消音器22による反射および吸収により消音の効果が十分に得られる。
また、このような作用はλ/2×mの位置で同様に発生する(mは正の整数)。すなわち、低インピーダンス空間VLの位置が、卓越音の腹の位置と一致する場合に上記のように高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの間の空間で共鳴が生じないため、共鳴器22による消音の効果が十分に得られる。
【0028】
本発明者らの検討によれば、このように、高インピーダンス空間VHと低インピーダンス空間VLとの間の空間で共鳴が生じず、消音器22による消音効果が十分に得られる範囲は図4に示すように、0.5×λ±0.2×λの範囲であった。
【0029】
前述のとおり、情報機器などにおいて、機器内を冷却するために用いられているファンの騒音を低減するためには、冷却性能に関わる通風性を落とさずに、特定の狭帯域な周波数音を、防音することが求められる。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、通気性を確保しつつ消音器を設置した場合には、上述のとおり、場所によっては消音性能が悪化する場所があることがわかった。
【0030】
これに対して、本発明の防音システムは、通風路の流通方向において、音源の±0.25×λ以内の距離に、流通路の音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い、高インピーダンス空間が存在し、通気部材内に配置される、卓越音を消音する消音器を有し、消音器は、流通路のインピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが低い、低インピーダンス空間を形成し、高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lは、卓越音の中心波長をλとし、mを正の整数とすると、
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たすので、上述のとおり、消音器による消音効果を十分に発揮することができる。従って、本発明の防音システムは、通気性を確保しつつ、特定周波数に対する消音性能を高くすることができる。
【0031】
また、防音システムの小型化等の観点から、高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lは、
(0.5×λ-0.2×λ)<L<(0.5×λ+0.2×λ)
を満たすのがより好ましい。
【0032】
なお、高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lは、高インピーダンス空間は、断面積が変わり始める位置を基準とし、低インピーダンス空間は、開口あるいは振動の中心位置(粒子速度の振動中心位置)を基準として求めればよい。また、低インピーダンス空間を形成する消音器が膜型共鳴器であり、高次振動モードでの振動箇所が複数ある場合には、その振動の中心位置を基準とする。
【0033】
また、図示例において、高インピーダンス空間と音源とが近接して配置される構成としたが、これに限定はされず、高インピーダンス空間と音源との距離が±0.25×λ以内であればよい。高インピーダンス空間と音源との距離が±0.25×λ以内の場合には、音源から発生した直後の音波が高インピーダンス空間に伝搬するが、その際、音波はまだ近接場の状態で平面波になっておらず、高インピーダンス空間による反射の影響が小さい。そのため、音源と高インピーダンス空間との位置関係に依存した干渉効果の影響が小さく、高インピーダンス空間と音源との距離が±0.25×λ以内の場合には、高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との位置関係を考慮することで、消音器の効果を高くすることができる。
すなわち、高インピーダンス空間と音源との距離が±0.25×λ以内の場合に、高インピーダンス空間と低インピーダンス空間との距離Lを上記範囲とすることで、消音器の性能を発揮することができる。
【0034】
なお、音波が近接場の状態とは、以下のようなものである。
ダクト内では、音波はいずれダクトの軸方向に向かって伝播していく。すなわち、音波は方向性をもつ。しかしながら、ダクト断面全域で平面ではない音源から発生した音波の方向性は、音波発生直後は定義されず、ある距離以上、伝播してから平面波的になり方向性が決定される。この音波発生直後の方向性が決まっていない音波を近接場の状態という。
【0035】
また、音源は高インピーダンス空間内に配置される構成としてもよい。例えば、ファンの表面に気流を整流する整流部材が設けられている場合には、ファンおよび整流部材が配置された空間が高インピーダンス空間となり、音源であるファンが高インピーダンス空間内に配置される構成となる。
【0036】
また、本発明において卓越音とは、欧州規格 ECMA-74におけるProminent discrete toneの定義のTNR(tone-to-noise ratio)、または、PR(Prominence ratio)で3dB以上の音である。
【0037】
以下、本発明の防音システムの各構成要素について詳細に説明する。
【0038】
<通気部材>
通気部材12は気体(空気)を所定の方向に流す通風路12aを有するものである。
図1に示す例においては、通気部材12は、両端が解放された筒状の部材としたが、これに限定はされず、筒状の部材の周面の一部に開口(貫通孔)を有していてもよい。
また、図1に示す例においては、通気部材12の通風路12aは直線状としたが、これに限定はされず、折れ曲がり部を有していてもよい。
また、通風路12aの断面形状は円形状、四角形状、三角形状等の種々の形状であってもよい。
【0039】
また、通風路12aの断面形状および断面積は、流通方向において一様としたが、これに限定はされず、通風路12aの断面形状および断面積は、流通方向において変化していてもよい。
通風路12aの断面積および長さは、防音システムが用いられる情報機器の大きさ、必要とされる冷却性能等に応じて設定すればよい。防音システムがファンを有する構成の場合には、通風路12aの断面積はファンの羽がある部分の断面積の0.7~1.5倍が好ましく、0.8~1.4倍が好ましく、1.0~1.2倍がより好ましい。通風路12aの長さは、0.01~1mが好ましく、0.03~0.5mが好ましく、0.05~0.3mがより好ましい。
【0040】
また、通気部材12(通風路12a)は、機器の筐体の一部を用いて形成してもよい。
【0041】
<音源>
音源SSは、通風路12aに存在するものである。
通風路12aに存在する音源SSとしては、上述のファン60の他、通風路12aの側面に開口部および/または突起部が存在する場合に気体(空気)の流れによって風切り音が生じるため、このような開口部および/または突起部も音源SSとなり得る。このような風切り音も特定の周波数についての音圧が極大値となる卓越音である。
【0042】
本発明の防音システムは、情報機器などにおいて、機器内を冷却するために用いられているファンが発生する卓越音に対して適用するのが好ましい。
【0043】
(ファン)
ファン60としては、機器内の冷却ができれば特に限定はなく、軸流ファン、プロペラファン、ブロアファン、シロッコファン、クロスフローファン等の種々のファンを用いることができる。中でもファンの回転軸に平行な方向に送風可能な軸流ファンを用いる場合に好適に適用可能である。
【0044】
〔高インピーダンス空間〕
前述のとおり、高インピーダンス空間VHは、通風路12aの音響インピーダンスの平均値よりも音響インピーダンスが高い空間(領域)である。
図1に示す例では、ファン60が配置された領域で管路断面積が小さくなることで高インピーダンス空間VHが形成されているがこれに限定はされない。例えば、通風路12aの断面積が流通方向の途中で狭くなる領域を有していることで高インピーダンス空間VHを形成してもよい。
【0045】
音源SSがファン60の場合には、ファン60の位置に高インピーダンス空間VHが形成されるため、別途、高インピーダンス空間を形成する必要はない。
一方、音源SSが風切り音を発生する開口部および/または突起部の場合には、上述のように、通風路12aの断面積が流通方向の途中で狭くなる領域を有する構成として高インピーダンス空間VHを形成すればよい。このような場合には、流通方向における音源SSの位置と高インピーダンス空間VHの位置とを離間した構成とすることもできる。
【0046】
ここで、音源SSと高インピーダンス空間VHにより音源SSから発生する音に方向性が生じる点について、図5および図6を用いて説明する。
図5は、実験に用いたファンの周波数と測定した音圧レベルとの関係を示すグラフである。図5に示すように、ファンは1300Hz、2600Hz、3900Hzで音圧が極大値を示している。すなわち、1300Hz、2600Hz、3900Hzの音がファンが発生する卓越音である。
【0047】
図6はファンの周辺の空間における音圧分布を可視化した図である。音圧分布を求める周波数は1300Hzとした。また、図6に矢印で示すように、ファンは図6中、左から右に送風するように配置されている。
図6に示すように、周波数1300Hzの音圧は、ファンの右側の空間、すなわち、排気側の空間で高くなっていることがわかる。これは、ファンを配置した位置が高インピーダンス空間VHとなるため、音源SSであるファンから発生した音は高インピーダンス空間VHとは反対側の方向に放射されるためである。
このように、音源SSの一方の側に高インピーダンス空間が存在すると、音は高インピーダンス空間とは反対側の方向に強く放射される。
【0048】
<消音器>
消音器22は、通気部材12の外周部に配置され、音源SSが発生する卓越音を含む周波数の音を消音するものである。また、消音器22は、低インピーダンス空間VLを形成する。
消音器22としては、卓越音を含む周波数の音を消音することができ、また、低インピーダンス空間VLを形成することができれば特に限定はない。低インピーダンス空間を形成可能な消音器としては、ヘルムホルツ共鳴器、気柱共鳴器、膜型共鳴器、および、非共鳴型の消音器が挙げられる。
【0049】
(ヘルムホルツ共鳴器)
図7は、消音器としてヘルムホルツ共鳴器22aを通気部材12の外周部に配置した防音システムの例である。
ヘルムホルツ共鳴は、開口部32で外部と連通している空洞部30にある空気がバネとしての役割を果たし、共鳴する現象である。ヘルムホルツ共鳴器22aは、開口部32の空気が質量(マス)として、空洞部30にある空気がばねとしての役割を果たし、マスバネの共鳴をし、開口部32の壁近傍部での熱粘性摩擦により吸音する構造である。
【0050】
図7に示すようにヘルムホルツ共鳴器22aの開口部32は通気部材12の内部(通風路12a)と連通するように設けられており、通気部材12内の音源SSが発生した卓越音に対して、共鳴現象を利用して、吸音および反射の少なくとも一方の機能を発現し、卓越音を選択的に消音する。
【0051】
消音器22としてヘルムホルツ共鳴器を用いる場合には、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数を、音源SSが発生する卓越音を消音するように適宜設定すればよい。ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数は、空洞部30の内容積および開口部32の面積等によって決まる。従って、ヘルムホルツ共鳴器22aの空洞部30の内容積および開口部32の面積等を調整することで、共鳴する音の周波数を適宜設定することができる。
【0052】
(気柱共鳴器)
図8は、消音器として気柱共鳴器22bを通気部材12の外周部に配置した防音システムの例である。
気柱共鳴は、閉管である共鳴管内(空洞部30)に定在波が生じることで共鳴が起こる。
【0053】
図8に示すように気柱共鳴器22bの開口部32は通気部材12の内部(通風路12a)と連通するように設けられており、通気部材12内の音源SSが発生した卓越音に対して、共鳴現象を利用して、吸音および反射の少なくとも一方の機能を発現し、卓越音を選択的に消音する。
【0054】
消音器22として気柱共鳴器を用いる場合には、気柱共鳴の共鳴周波数を、音源SSが発生する卓越音を消音するように適宜設定すればよい。気柱共鳴の共鳴周波数は、共鳴管の長さ(空洞部30の開口部32からの深さ)等によって決まる。従って、空洞部30の深さ、開口部32の大きさ等を調整することで、共鳴する音の周波数を適宜設定することができる。
【0055】
なお、開口部32と空洞部30を有する消音器22において、気柱共鳴が生じる共鳴構造となるか、ヘルムホルツ共鳴が生じる共鳴構造となるかは、開口部の大きさ、位置、空洞部30の大きさ等によって決まる。従って、これらを適宜調整することで、気柱共鳴とヘルムホルツ共鳴のいずれの共鳴構造とするかを選択できる。
気柱共鳴の場合は、開口部が狭いと音波が開口部で反射して空洞部内に音波が侵入し難くなるため、開口部がある程度広いことが好ましい。具体的には、開口部が長方形状の場合には、短辺の長さが1mm以上であるのが好ましく、3mm以上であるのがより好ましく、5mm以上であるのがさらに好ましい。開口部が円形状の場合には、直径が上記範囲であるのが好ましい。
一方、ヘルムホルツ共鳴の場合は、開口部において熱粘性摩擦を生じる必要があるため、ある程度狭いことが好ましい。具体的には、開口部が長方形状の場合には、短辺の長さが0.5mm以上20mmが好ましく、1mm以上15mm以下がより好ましく、2mm以上10mm以下がさらに好ましい。開口部が円形状の場合には、直径が上記範囲であるのが好ましい。
【0056】
(膜型共鳴器)
図9は、消音器として膜型共鳴器22cを通気部材12の外周部に配置した防音システムの例である。
膜型共鳴器22cは、振動可能に支持された膜36が膜振動することで共鳴が起こる。
【0057】
図9に示すように膜型共鳴器22cの膜36は通気部材12の内部(通風路12a)に面して設けられており、通気部材12内の音源SSが発生した卓越音に対して、共鳴現象を利用して、吸音および反射の少なくとも一方の機能を発現し、卓越音を選択的に消音する。
【0058】
膜振動を利用する膜型共鳴器22cにおいては、膜振動の共鳴周波数を、音源SSが発生する卓越音を消音するように適宜設定すればよい。膜振動の共鳴周波数は、膜36の大きさ(振動面の大きさ)、厚み、硬さ等によって決まる。従って、膜36の大きさ、厚み、硬さ等を調整することで、共鳴する音の周波数を適宜設定することができる。
【0059】
また、図9に示すように、膜型共鳴器22cは、膜36の背面側(通風路12aとは反対側)に空洞部30(以下、背面空間ともいう)を有する。空洞部30は閉じられているため、膜振動と背面空間との相互作用によって吸音が生じる。
具体的には、膜振動には、膜の条件(厚み、硬さ、大きさ、固定方法等)によって決定される基本振動モードと高次振動モードの周波数帯があり、どのモードによる周波数が強く励起されて吸音に寄与するかが背面空間の厚み等によって決定される。背面空間の厚みが薄いと、定性的には背面空間が固くなる効果などが生じるため、膜振動の高次振動モードを励起しやすくなる。
【0060】
ここで、通気部材12の外周部に配置した膜型共鳴器22cの膜36が膜振動することで、通風路12a内の空気の密度ρが小さくなるのと同様の作用が生じる。そのため、膜型共鳴器22cを配置した領域の音響インピーダンスが低くなる。
【0061】
(非共鳴型消音器)
図10は、消音器として共鳴を用いない非共鳴型の消音器22dを通気部材12の外周部に配置した防音システムの例である。
図10に示す非共鳴型消音器22dは、空洞部30と、通風路12aに連通する開口部32と、空洞部30内に配置される多孔質吸音材24とを有する。
非共鳴型消音器22dは多孔質吸音材24によって音エネルギーを熱エネルギーに変換することで消音する。
【0062】
多孔質吸音材24としては特に限定はなく、公知の多孔質吸音材を適宜利用することが可能である。例えば、発泡ウレタン、軟質ウレタンフォーム、木材、セラミックス粒子焼結材、フェノールフォーム等の発泡材料及び微小な空気を含む材料;グラスウール、ロックウール、マイクロファイバー(3M社製シンサレートなど)、フロアマット、絨毯、メルトブローン不織布、金属不織布、ポリエステル不織布、金属ウール、フェルト、インシュレーションボード並びにガラス不織布等のファイバー及び不織布類材料、木毛セメント板、シリカナノファイバーなどのナノファイバー系材料、石膏ボードなど、種々の公知の多孔質吸音材が利用可能である。
【0063】
また、多孔質吸音材の流れ抵抗には特に限定はないが、1000~100000(Pa・s/m2)が好ましく、5000~80000(Pa・s/m2)がより好ましく、10000~50000(Pa・s/m2)がさらに好ましい。
多孔質吸音材の流れ抵抗は、1cm厚の多孔質吸音材の垂直入射吸音率を測定し、Mikiモデル(J. Acoust. Soc. Jpn., 11(1) pp.19-24 (1990))でフィッティングすることで評価することができる。または「ISO 9053」に従って評価してもよい。
また、異なる流れ抵抗の多孔質吸音材が複数積層されていてもよい。
【0064】
なお、音源SSが発生する卓越音を選択的に消音する観点から、消音器22としては、共鳴型の消音器、すなわち、ヘルムホルツ共鳴器、気柱共鳴器、膜型共鳴器を用いることが好ましい。卓越音を選択的に消音して、他の波長域との音圧差を小さくすることができる。
【0065】
なお、本発明の防音システムにおいて、消音器22を1つ有する構成であってもよいし、複数有する構成であってもよい。また、複数の消音器22を有する場合には、種類の異なる消音器22を有する構成としてもよい。例えば、ヘルムホルツ共鳴器22aと気柱共鳴器22bとを有する構成であってもよい。
【0066】
また、音源SSが2以上の卓越音を発生する場合には、各卓越音の周波数帯域を消音する2つ以上の消音器22を有する構成としてもよい。
その場合、各卓越音の中心波長に対して、それぞれの消音器22が
(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)
を満たす位置に配置されればよい(図18図26参照)。
【0067】
また、図7図10に示す例では、消音器22を通気部材12の外周部に配置する構成としたが、これに限定はされず、消音器22を通気部材12内(通風路12a)に配置してもよい。消音器22を通気部材12内(通風路12a)に配置する構成の場合には、消音器は、共鳴型の消音器(ヘルムホルツ共鳴器、気柱共鳴器、膜型共鳴器)、あるいは、拡張型サイレンサーであることが好ましい。
【0068】
図11図14に本発明の防音システムの他の一例の模式図を示す。図11図14は、それぞれ、消音器22の配置位置における流通方向に垂直な断面図である。
【0069】
図11に示す例は、通風路12aに1つの消音器22が配置されている。図11に示すように、消音器22は通風路12aの断面を全面的に塞がないように配置される。
【0070】
このように通風路12aに消音器22を配置する場合には、この領域の音響インピーダンスは、消音器22の作用によって音響インピーダンスが低くなる方向に変化するが、一方で、通風路12aの断面積が小さくなることによって、音響インピーダンスが高くなる方向に変化する。
従って、通風路12aに消音器22を配置する場合には、通風路12aの断面積、消音器22の断面積、および、共鳴器の場合にはその共鳴の強さや周波数、拡張サイレンサーの場合はその断面積、幅、内部に配置する多孔質吸音材の種類等を適宜設定して消音器22を配置した領域の音響インピーダンスが低くなるようにする必要がある。
一方で、通風路12aに消音器22を配置する構成の場合には、既存の通気部材12内に、通気部材12を再設計したり加工したりすることなく、消音器22を配置することができるため、容易に消音効果を得ることができる。
【0071】
また、通風路12aに消音器22を配置する場合においても、2以上の消音器22を有する構成としてもよい。
例えば、図12に示す例は、通風路12aに4つの消音器22が、通風路12aの中心に対して回転対称に配置されている。
【0072】
また、図13に示すように、消音器22を通気部材12の外周部、および、内部(通風路12a)に配置する構成としてもよい。
【0073】
また、図14に示すように、通気部材12の側面を貫通する孔を有していてもよい。側面に孔を有することで、この孔から消音器22を通風路12aに挿入して配置することができる。
【0074】
<シミュレーション>
以下、本発明の防音システムの作用について、シミュレーションを用いて説明する。
シミュレーションは、有限要素法計算ソフトCOMSOL ver5.3(COMSOL社)の音響モジュールを用いた。図15に示すように、シミュレーションを行う防音システムのモデルは、通気部材12の内部に高インピーダンス空間VHおよび音源SS(点音源が8つ)が隣接して配置され、さらに、通気部材12の外周部に消音器22が配置される構成とした。なお、音源SSは8つの点音源とし、8つの点音源が高インピーダンス空間VHの界面上に配列されるものとした。
このようなシミュレーションモデルにおいて、高インピーダンス空間VHと消音器22(すなわち、低インピーダンス空間)との間の距離を種々、変更してシミュレーションにより透過損失を求めた。
【0075】
シミュレーションモデルにおいて、通気部材12の形状は円筒形とし、長さは25cmとし、通風路12aの半径5cm、断面積は78.5cm2とした。また、空気密度ρ=1.29kg/m3、音速c=340m/sとした。
高インピーダンス空間VHは、通気部材12の給気開口12b側から0cmの位置に存在し、厚み5mmとし、断面積を78.5cm2とした。また、空気密度を51.6kg/m3とすることで高インピーダンス空間とした。
音源SSは、高インピーダンス空間VHの排気開口12c側に位置するものとし、発生する音(卓越音)の周波数は2150Hzとした。このときの中心波長λは158mmである。
消音器22は、通風路の周方向に延在する(すなわち円環形状の)空洞部を有し、通気部材12の半径方向に音波の振動を発生させる気柱共鳴器とし、高インピーダンス空間VHと排気開口12cとの間に配置した。気柱共鳴器の半径方向の深さは32mm、開口部の幅は5mm、開口面積は15.7cm2とした。この気柱共鳴器は、2150Hzで共鳴する。
【0076】
このようなシミュレーションモデルを用いて、音源SSから音波を出射し、排気開口12cに到達する音波の単位体積あたりの振幅を求めた。入射させる音波は単位体積あたりの振幅を1とした。音源SSが出射する音波の振幅と、排気開口12cに到達する音波の振幅の比から、透過損失を求めた。
【0077】
図16に、高インピーダンス空間VHと消音器22との間の距離Lを0.25×λとした場合(計算比較例1)、および、高インピーダンス空間VHと消音器22との間の距離Lを0.5×λとした場合(計算実施例1)の周波数と透過損失との関係を表すグラフを示す。
また、図17には、高インピーダンス空間VHと消音器22との間の距離Lと、周波数2150Hzにおける透過損失との関係を表すグラフを示す。
【0078】
図16から、距離Lを0.5×λとした計算実施例1は、距離Lを0.25×λとした計算比較例1に比べて透過損失が大幅に高くなっており卓越音に対して消音効果が高いことがわかる。
また、図17から、距離Lが、(0.5×λ-0.2×λ)<L<(0.5×λ+0.2×λ)の範囲で透過損失が高くなり、卓越音に対して消音効果が高いことがわかる。
【0079】
ここで、前述のとおり、音源SSが卓越音を複数発生する場合には、各卓越音の周波数帯域を消音する2つ以上の消音器22を有する構成としてもよい。この点について、図18図24を用いて説明する。
図19は、後述する実施例で用いるファンの回転騒音を測定した結果を周波数と音圧との関係で示すグラフである。図19からわかるように、ファンは、音圧が極大値となる卓越音を複数の周波数で発生している。また、これらの卓越音の周波数は等間隔に発生することがわかる。
【0080】
このように音源SSが複数の卓越音を発生する場合には、消音器をそれぞれの卓越音に合わせて配置すればよい。
例えば、図18に示す例は、図18のf1、f2およびf3の周波数の卓越音の周波数帯域をそれぞれ消音する膜型共鳴器22c1~22c3を通気部材の外周部に配置している。
膜型共鳴器22c1は、周波数f1の音を消音する消音器である。周波数f1の時の波長は、v/f1で表されるため、膜型共鳴器22c1は、高インピーダンス空間VHから0.5×v/f1の位置に配置される。なお、vは音速である。
膜型共鳴器22c1が配置された領域には低インピーダンス空間VL1が形成される。
【0081】
膜型共鳴器22c2は、周波数f2の音を消音する消音器である。周波数f2の時の波長は、v/f2で表されるため、膜型共鳴器22c2は、高インピーダンス空間VHから0.5×v/f2の位置に配置される。
膜型共鳴器22c2が配置された領域には低インピーダンス空間VL2が形成される。
【0082】
膜型共鳴器22c3は、周波数f3の音を消音する消音器である。周波数f3の時の波長は、v/f3で表されるため、膜型共鳴器22c3は、高インピーダンス空間VHから0.5×v/f3の位置に配置される。
膜型共鳴器22c2が配置された領域には低インピーダンス空間VL3が形成される。
【0083】
このように、複数の卓越音に対して、各卓越音を消音する消音器を、高インピーダンス空間からの距離Lが、(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)の関係を満たす範囲に配置することで、各卓越音を好適に消音することができる。
【0084】
また、図18に示す例では、1つの卓越音に対して対応する1つの消音器を配置する構成としたが、これに限定はされず、1つの消音器で複数の卓越音を消音する構成としてもよい。
前述のとおり、ファンは発生する卓越音の周波数は等間隔の関係であり、卓越音の周波数は最低次の卓越音の周波数の整数倍となる。そこで、複数の卓越音に対して、(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)の関係を満たす位置に消音器を配置する構成としてもよい。
【0085】
例えば、図20に示す例は、消音器として気柱共鳴器22bを用いるものである。この気柱共鳴器22bの深さは、周波数f1の卓越音に対して、1/2波長の関係で共鳴し、また、周波数f3の卓越音に対して、3/4波長の関係で共鳴する。
この気柱共鳴器22bは、高インピーダンス空間からの距離Lが0.5×v/f1の位置に配置されている。この位置は、3×0.5×v/f3の関係も満たす。
従って、気柱共鳴器22bが複数の周波数で共鳴を行って、各周波数の卓越音を好適に消音することができる。
【0086】
また、図21に示す例は、消音器として膜型共鳴器22cを用いるものである。
図22および図23は膜型共鳴器22cを膜36側から見た図である。この膜型共鳴器22cは、最低次の共鳴モードでは、図22に示すように、膜36の中央(図22中振動点)で最大の振幅を示す振動モードで振動する。このときの膜振動の周波数を卓越音の周波数f1に合わせることで周波数f1の音を消音する。
一方、2次の共鳴モードでは、図23に示すように、膜36の2点(図23中2つの振動点)で最大の振幅を示す振動モードで振動する。このときの膜振動の周波数を卓越音の周波数f2に合わせることで周波数f2の音を消音する。
【0087】
ここで、図21に示すとおり、膜型共鳴器22cの、高インピーダンス空間VHからの距離Lは、L=0.5×v/f1を満たし、かつ、L=2×0.5×v/f2を満たす。そのため、周波数f1およびf2の卓越音を好適に消音することができる。
【0088】
このように膜型共鳴器22cを用いる場合にも、1つの膜型共鳴器22cで複数の卓越音に対して、(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)の関係を満たす位置に消音器を配置して卓越音を消音することができる。
【0089】
さらに、本発明の防音システムは、複数の消音器を有し、かつ、少なくとも1つの消音器が2以上の卓越音を消音する構成としてもよい。
例えば、図24示す例は、消音器として2つの気柱共鳴器22b1および22b2を有する。
気柱共鳴器22b1は、周波数f1およびf3の卓越音に対して共鳴する深さを有し、かつ、高インピーダンス空間VHからの距離Lが、L=0.5×v/f1を満たし、かつ、L=3×0.5×v/f3を満たす位置に配置されている。
また、気柱共鳴器22b2は、周波数f2およびf4の卓越音に対して共鳴する深さを有し、かつ、高インピーダンス空間VHからの距離Lが、L=0.5×v/f2を満たし、かつ、L=3×0.5×v/f4を満たす位置に配置されている。
【0090】
このように気柱共鳴器22bを複数有し、各気柱共鳴器22bが複数の卓越音を消音するものであり、各卓越音に対して、(0.5×λ×m-0.2×λ)<L<(0.5×λ×m+0.2×λ)の関係を満たす位置に配置した構成とすることで、複数の卓越音を好適に消音することができる。
【実施例
【0091】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0092】
[実施例2および比較例2]
図25に模式的に示す防音システムを作製した。
通気部材12は、60mm×60mmの開口を有する、厚み10mmのアクリル板を複数積層して形成した。図25に示すように、ファン(山洋電気株式会社製 SanAce60、厚み38mm、型番9GA0612P1J03)を挟むようにしてファンの両側にアクリル板を積層して通気部材12を形成した。通気部材12の長さは145mmとした。
また、通気部材12の給気開口12b側の内側面には、ウレタンスポンジ(イノアックコーポレーション社製 吸音材カームフレックス F-2)38を張り付けた。これにより、吸気開口12bから放射される音を低減して、排気開口12cから放射される音をより正確に測定できるようにした。
【0093】
消音器としては膜型消音器22cを作製した。膜型消音器22cは、図27に示すように、6cm×3cm×1cmの立方体形状で、6cm×3cmの大きさの一面に楕円形状(長軸5.6cm×単軸2.6cm)の開口部を有し、この開口部に膜36を振動可能に固定されているものとした。膜型消音器22cのフレームは厚み2mmのアクリル板を組み合わせて作製した。膜36は厚み125μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとした。
【0094】
作製した膜型消音器22cを、通気部材12を構成するアクリル板の一部と入れ替えることで、通気部材12の外周部の3面に膜型消音器22cを、膜36の面が通風路12a向きになるようにして配置した(図26)。入れ替えるアクリル板の位置を変えることで、膜型消音器22cの位置を変更することができる。
【0095】
膜型消音器22c単体での周波数と吸収率との関係を、音響管を用いた4マイクロホン法によって測定した。この吸音率の測定法はJIS A 1405-2に従ったもので、同様の測定は日本音響エンジニアリング製WinZacMTXを用いることができる。膜型消音器22cの周波数と吸収率との関係を図28および図29に示す。図28からわかるように、膜型消音器22cは、卓越音の周波数(約1150Hz)に対して高い吸収率を示すものである。
【0096】
ファンに電気を供給して回転させた後、マイクロフォンMPで音圧を測定した。マイクロフォンMPは、通気部材12の排気開口12cから、流通方向に平行な方向に20cm、直交する方向に14cmずれた位置に配置した。また、ファンには1.1Aの電流を流し、これによって発生する卓越音の周波数の一つは、1150Hzである。
この防音システムにおいて、ファンは音源SSであり、ファンが配置される領域が高インピーダンス空間VHである。
【0097】
膜型消音器22cをファン(高インピーダンス空間)から0.5×λの位置に配置した場合(実施例2)の周波数と音圧との関係を図28に示す。なお、図28には、リファレンスとして膜型消音器22cを配置しない場合の周波数と音圧との関係も示す。
【0098】
また、膜型消音器22cをファン(高インピーダンス空間)から0.25×λの位置に配置した場合(比較例2)の周波数と音圧との関係を図29に示す。なお、図29にも、リファレンスの周波数と音圧との関係も示す。
【0099】
図28および図29から、膜型消音器22cをファンから0.5×λの位置に配置した場合(実施例2)には、膜型消音器22cをファンから0.25×λの位置に配置した場合(比較例2)に比べて、リファレンスからの音圧の低下量が大きく消音効果が高いことがわかる。
【0100】
さらに、膜型消音器22cの位置(高インピーダンス空間からの距離L)を種々変更して排気開口12cから放射される音の音圧を測定した。図30に、周波数1150Hzの音について、膜型消音器22cの位置と透過損失との関係を表すグラフを示す。
図30から、膜型消音器22cを、高インピーダンス空間からの距離Lが0.5×λとなる位置の近傍に配置することで、透過損失が高くなることがわかる。
【0101】
[実施例3および比較例3]
図31および図32に示すように、膜型共鳴器22cの形状を変更し、膜型共鳴器を通気部材12の内部に配置する構成とした以外は、実施例2と同様の構成の防音システムを作製した。図32は、膜型共鳴器22cの位置における通気部材12の模式的な断面図である。
図32に示すように、4つの膜型共鳴器22cを通風路12aの中心に回転対象に配置する構成とした。また、図32に示すように、膜型共鳴器22cの膜面は流通方向に平行になるように配置した。
【0102】
実施例3および比較例3における膜型共鳴器22cの形状を図33に示す。
膜型消音器22cは、3.4cm×2.5cm×1cmの立方体形状で、3.4cm×2.5cmの大きさの一面に長方形状(3.0cm×2.1cm)で角部にR(0.5cm)を付けた形状の開口部を有し、この開口部に膜36が振動可能に固定されているものとした。膜型消音器22cのフレームは厚み2mmのアクリル板を組み合わせて作製した。膜36は厚み125μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとした。
【0103】
先と同様に、ファンに電気を供給して回転させた後、マイクロフォンMPで音圧を測定した。ファンには1.5Aの電流を流し、これによって発生する卓越音の周波数の一つは、1376Hzである。
膜型消音器22cをファン(高インピーダンス空間)から0.5×λの位置に配置した場合(実施例3)の周波数(ファンのピーク騒音周波数からの差分)と音圧との関係を図34に示す。なお、図34には、リファレンスとして膜型消音器22cを配置しない場合の周波数と音圧との関係も示す。
なお、実施例3では、ダクト内部に消音器を挿入しているので、その空気抵抗でファンの回転が遅くなり、騒音ピークがリファレンスに対してシフトする。そこで、図33および図34では、実施例3(比較例3)とリファレンスとを、それぞれ騒音ピークとなる周波数(ファンのピーク騒音周波数)を基準として、騒音ピークとなる周波数からの差分を横軸として音圧をプロットした。
【0104】
また、膜型消音器22cをファン(高インピーダンス空間)から0.25×λの位置に配置した場合(比較例3)の周波数(ファンのピーク騒音周波数からの差分)と音圧との関係を図35に示す。なお、図35にも、リファレンスの周波数と音圧との関係も示す。
【0105】
図34および図35から、膜型消音器22cをファンから0.5×λの位置に配置した場合(実施例3)には、膜型消音器22cをファンから0.25×λの位置に配置した場合(比較例3)に比べて、リファレンスからの音圧の低下量が大きく消音効果が高いことがわかる。
【0106】
さらに、膜型消音器22cの位置(高インピーダンス空間からの距離L)を種々変更して排気開口12cから放射される音の音圧を測定した。図36に、周波数1376Hzの音について、膜型消音器22cの位置と透過損失との関係を表すグラフを示す。
図36から、膜型消音器22cを、高インピーダンス空間からの距離Lが0.5×λとなる位置の近傍に配置することで、透過損失が高くなることがわかる。
以上の結果より本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0107】
10 防音システム
12 通気部材
12a 通風路
12b 給気開口
12c 排気開口
22 消音器
22a ヘルムホルツ共鳴器
22b、22b1、22b2 気柱共鳴器
22c、22c1~22c3 膜型共鳴器
22d 非共鳴型消音器
24 多孔質吸音材
30 空洞部
32 開口部
36 膜
38 ウレタン
60 ファン
VH 高インピーダンス空間
VL 低インピーダンス空間
SS 音源
図1
図2
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