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特許7054068光制御素子とそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】光制御素子とそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20220406BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20220406BHJP
   H04B 10/516 20130101ALN20220406BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/12 363
H04B10/516
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020062110
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162641
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-163876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0202312(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0185978(US,A1)
【文献】特開2017-181676(JP,A)
【文献】特開2017-156400(JP,A)
【文献】特開2019-015791(JP,A)
【文献】特開2018-159872(JP,A)
【文献】特開2020-134876(JP,A)
【文献】特開2019-095698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0170782(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0357140(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0039151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極を有する光制御素子において、
該光導波路の入力部と出力部が、該基板の同一辺に形成され、
該光導波路は、一つの光導波路から分岐した2つの分岐導波路と、前記2つの分岐導波路を合波して一つの光導波路を形成するマッハツェンダー型光導波路部分を少なくとも一つ備え、
該分岐導波路は、偶数の折り返し部を有し、
該制御電極は、変調電極とバイアス電極とを備え、該分岐導波路の該折り返し部で区切られる複数の区間に対し、該変調電極と該バイアス電極は異なる区間に設けられており、
さらに、該変調電極は、入力部から作用部までを直線状に形成し、該作用部から出力部までは該バイアス電極から遠ざかる方向に導出し、
該バイアス電極は、少なくとも2つの配線を途中で分岐し、分岐した配線を各々異なる区間に分けて配置すると共に、前記2つの配線が互いに対向して配置される形状を備え、該折り返し部の前後の各区間で該バイアス電極が形成する位相変化の符号が、異なる区間で同じになるように設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光制御素子において、該分岐導波路の光路長は、互いに等しくなるよう設定されていることを特徴とする光制御素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光制御素子において、一つの光導波路から複数の光導波路に分岐させ、各分岐した光導波路に該マッハツェンダー型光導波路部分を設け、該マッハツェンダー型光導波路部分を並列に配置した状態で、該マッハツェンダー型光導波路部分の該分岐導波路は、偶数の折り返し部を有することを特徴とする光制御素子。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかに記載の光制御素子と、該光制御素子を収容する筐体と、該光制御素子に光波を入出力する光ファイバとを有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項5】
請求項に記載の光変調デバイスにおいて、前記光制御素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項6】
請求項又はに記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御素子とそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、基板の同じ一辺側に光導波路の入力部と出力部とを備えた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板に光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極とを備えた光制御素子が多用されている。光制御素子の一つである光変調器においては、400Gbps以上の広帯域化や小型化が要求されている。
【0003】
具体的には、高周波信号を光制御素子に入力する際に信号の伝搬損失を抑制するため、高周波信号を発生するドライバ回路と光制御素子とを近接して配置すると共に、信号線路を直線状に構成することが望ましい。このため、光制御素子を収容する筐体の一方の端面側から高周波信号を入力し、対向する反対側の端面側から光波を入出力する光変調器が提案されている。
【0004】
さらに、光制御素子自体の小型化を図る手段として、特許文献1では、光変調器内の光導波路を複数回湾曲させ、素子長を短くすることが提案されている。また、特許文献2では、光変調器の同じ側面側に光入力端部と光出力端部とを配置しながら、光変調器内の光導波路を1回のみ屈曲させることが開示されている。
【0005】
他方、光制御素子に組み込まれる光導波路は、マッハツェンダー型光導波路が使用されており、2つの分岐導波路を伝搬する光波の光路差により光変調が行われている。特許文献2に示すように、マッハツェンダー型光導波路を折り返すと、2つの分岐導波路間で光路差が異なるため、伝搬する光波の波長に依存して、マッハツェンダー型光導波路の動作バイアス点電圧が変化することとなる。このため、波長が変化するたびにバイアス電圧を大きく変えてバイアス点調整を行う必要がある。
【0006】
上述した不具合を解消するため、特許文献3では、2つの分岐導波路の光路長を同じにするため、一方の分岐導波路に遅延導波路部分を設けることが提案されている。この場合には、光導波路の曲げ半径の制約もあり、光導波路の損失の増加を抑制しながら、折り返し部の外側と内側の分岐導波路間の光路差を補償するような遅延導波路を、コンパクトに構成することは難しい。さらに、分岐導波路間で曲げ導波路の構成が異なると、各分岐導波路の光損失に差異が生じ、マッハツェンダー型光導波路のオン/オフ消光比が劣化するという問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2019/039215号
【文献】特開2019-95698号公報
【文献】特表2018-534627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光導波路を形成した基板の同一辺に光導波路の入力部及び出力部を配置すると共に、各分岐導波路の構造の差異を少なくしながら、分岐導波路間の光路差を最小化することが可能な光制御素子を提供することである。また、この光制御素子を用いた光変調デバイス及び光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の光制御素子、光変調デバイス、及び光送信装置は、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極を有する光制御素子において、該光導波路の入力部と出力部が、該基板の同一辺に形成され、該光導波路は、一つの光導波路から分岐した2つの分岐導波路と、前記2つの分岐導波路を合波して一つの光導波路を形成するマッハツェンダー型光導波路部分を少なくとも一つ備え、該分岐導波路は、偶数の折り返し部を有し、該制御電極は、変調電極とバイアス電極とを備え、該分岐導波路の該折り返し部で区切られる複数の区間に対し、該変調電極と該バイアス電極は異なる区間に設けられており、さらに、該変調電極は、入力部から作用部までを直線状に形成し、該作用部から出力部までは該バイアス電極から遠ざかる方向に導出し、該バイアス電極は、少なくとも2つの配線を途中で分岐し、分岐した配線を各々異なる区間に分けて配置すると共に、前記2つの配線が互いに対向して配置される形状を備え、該折り返し部の前後の各区間で該バイアス電極が形成する位相変化の符号が、異なる区間で同じになるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
(2) 上記(1)に記載の光制御素子において、該分岐導波路の光路長は、互いに等しくなるよう設定されていることを特徴とする。
【0011】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光制御素子において、一つの光導波路から複数の光導波路に分岐させ、各分岐した光導波路に該マッハツェンダー型光導波路部分を設け、該マッハツェンダー型光導波路部分を並列に配置した状態で、該マッハツェンダー型光導波路部分の該分岐導波路は、偶数の折り返し部を有することを特徴とする。
【0013】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光制御素子と、該光制御素子を収容する筐体と、該光制御素子に光波を入出力する光ファイバとを有することを特徴とする光変調デバイスである。
【0014】
) 上記()に記載の光変調デバイスにおいて、前記光制御素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0015】
) 上記()又は()に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極を有する光制御素子において、該光導波路の入力部と出力部が、該基板の同一辺に形成され、該光導波路は、一つの光導波路から分岐した2つの分岐導波路と、前記2つの分岐導波路を合波して一つの光導波路を形成するマッハツェンダー型光導波路部分を少なくとも一つ備え、該分岐導波路は、偶数の折り返し部を有するため、光導波路を形成した基板の同一辺に光導波路の入力部及び出力部を配置すると共に、各分岐導波路の構造の差異を少なくしながら、分岐導波路間の光路差を最小化することが可能な光制御素子を提供することが可能となる。その結果、マッハツェンダー型光導波路の動作バイアス点電圧の波長依存性を抑制でき、各分岐導波路における光波の伝搬損失も抑制し、高いオン/オフ消光比を実現することが可能となる。
しかも、該制御電極は、変調電極とバイアス電極とを備え、該分岐導波路の該折り返し部で区切られる複数の区間に対し、該変調電極と該バイアス電極は異なる区間に設けられており、さらに、該バイアス電極は、少なくとも2つの配線を途中で分岐し、分岐した配線を各々異なる区間に分けて配置すると共に、前記2つの配線が互いに対向して配置される形状を備え、該折り返し部の前後の各区間で該バイアス電極が形成する位相変化の符号が、異なる区間で同じになるように設定されているため、バイアス電極は、複数の区間を占有し、光導波路に沿って長いバイアス電極とすることで、バイアス電圧の低下を図ることができ、DCドリフト現象の抑制にも寄与することが可能となる。
さらに、該変調電極は、入力部から作用部までを直線状に形成し、該作用部から出力部までは該バイアス電極から遠ざかる方向に導出することで、変調電極における変調信号の伝搬方向にバイアス電極を配置しないように構成することで、変調電極からの漏洩信号がバイアス電極に結合し、高周波ノイズが付与されて光変調信号が不安定になることも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る光制御素子の第1実施例を示す平面図である。
図2】本発明に係る光制御素子の第2実施例を示す平面図である。
図3】本発明に係る光制御素子の第3実施例を示す平面図である。
図4】本発明に係る光制御素子の第4実施例を示す平面図である。
図5】本発明に係る光制御素子の第5実施例を示す平面図である。
図6】本発明に係る光制御素子の第6実施例を示す平面図である。
図7】本発明に係る光制御素子の第7実施例を示す平面図である。
図8】本発明に係る光制御素子の第8実施例を示す平面図である。
図9】本発明に係る光制御素子の第9実施例を示す平面図である。
図10】本発明に係る光変調デバイスと光送信装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1乃至9に示すように、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極(M,B1~B2等)を有する光制御素子において、該光導波路の入力部(入射光L1)と出力部(出射光L2)が、該基板の同一辺に形成され、該光導波路は、一つの光導波路から分岐した2つの分岐導波路(21,22)と、前記2つの分岐導波路を合波して一つの光導波路を形成するマッハツェンダー型光導波路部分(MZ)を少なくとも一つ備え、該分岐導波路は、偶数の折り返し部(A1,A2)を有することを特徴とする。
【0019】
電気光学効果を有する基板1としては、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜やこれらの材料を異種の基板に接合した複合基板などが利用可能である。
また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路として利用可能である。
【0020】
光導波路の形成方法としては、光導波路以外の基板表面をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板の光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型光導波路を利用することが可能である。また、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に高屈折率部分を形成することで光導波路を形成することも可能である。リブ型光導波路部分に高屈折率材料を拡散するなど、複合的な光導波路を形成することも可能である。
【0021】
光導波路を形成した基板の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下に設定される。
また、リブ型光導波路の高さh(リブ型光導波路の両側の溝の底辺からリブ型光導波路凸部の頂辺まで)とリブ型光導波路部の基板厚t(基板の底面からリブ型光導波路凸部の頂辺まで)の比h/tは、0.8以下に設定される。例えば、基板厚tが1μm以下の場合、h/tは、0.6から0.8の範囲に設定される。また、補強基板1の上に気相成長膜を形成し、当該膜を上述のような光導波路の形状に加工することも可能である。
【0022】
光導波路を形成した基板は、機械的強度を高めるため、直接接合又は樹脂等の接着層を介して、補強基板に接着固定される。直接接合する補強基板としては、光導波路や光導波路を形成した基板よりも屈折率が低く、光導波路などと熱膨張率が近い材料、例えば石英等が好適に利用される。また、低屈折率の中間層を介して補強基板に接合する際には、光導波路を形成した基板と同じ材料、例えばLN基板などを補強基板として利用することや、シリコンなどの高屈折率の基板を補強基板として利用することも可能である。
【0023】
本発明の光制御素子の特徴は、図1に示すように、基板1に形成された光導波路2が、少なくとも1つのマッハツェンダー型光導波路部分(MZ)を有することである。そして、マッハツェンダー型光導波路部分(MZ)を構成する分岐部20と合波部23との間にある分岐導波路(21,22)間の光路差を最小化することである。
【0024】
分岐導波路(21,22)間の光路差を最小化するためには、図1に示すように、分岐導波路に係る折り返し部(A1,A2)を偶数個形成することである。また、折り返し部A1とA2における光導波路の形状を同一形状とすることで、分岐導波路の光路長を互いに等しくなるように設定できるだけでなく、光導波路の伝搬損失も同じに設定することが可能となる。その結果、分岐導波路間での損失差が小さくなり、マッハツェンダー型光導波路のオン/オフ消光比の劣化も抑制できる。
【0025】
図2及び図3は、図1の光制御素子と同じ光導波路形状を備え、さらに、制御電極である変調電極Mとバイアス電極(B1,B2)を明示したものである。図2及び図3の共通の技術的特徴は、図1に示す折り返し部(A1,A2)で区切られる分岐導波路(21,22)の複数の区間に対し、変調電極Mとバイアス電極(B1,B2)は異なる区間に設けられていることである。
【0026】
図1では、折り返し部A1の前段の第1の区間(分岐部20から折り返し部A1までの区間)と、折り返し部A1とA2との間の第2の区間(折り返し部A1から折り返し部A2までの区間)、さらには、折り返し部A2の後段の第3の区間(折り返し部A2から合波部23までの区間)の3つに分けられる。図2及び図3では、変調電極Mは第1の区間に、バイアス電極B1は第2の区間に、バイアス電極B2は第3の区間に、各々配置されている。
【0027】
変調電極Mは高周波信号を伝搬するため、電極の曲げを少なくすることが、高周波信号劣化の低減には好ましい。このため、変調信号Mは1つの区間に収まるように配置している。図2では、変調電極Mの作用部(光導波路に電界を作用させる部分)の延在方向(図の左右方向)に対して垂直方向(基板1の上辺側)から変調信号S1を導入しているため、変調電極の導入部(変調信号の入力部から作用部までの間の部分)の一部に曲げ部分が必要となる。この曲げ部分による高周波信号の劣化を抑制するには、図3に示すように、変調電極Mの入力部から作用部までを直線状に形成して変調信号S1を導入することで、変調電極の導入部の曲げも少なくでき、より高周波信号劣化を抑制することが可能となる。
【0028】
変調電極の終端側から変調信号S2が導出されるが、導出された変調信号S2は、終端抵抗などを含む終端器に導入される。変調電極の作用部より後段部分の電極の曲げについては、曲げ損失などの高周波信号の劣化は電気光学変調の周波数帯域に影響を与えないため、設計の自由度が高く設定できる。また、曲げによる信号漏洩や反射等の影響を少なくするために、終端器を基板上に配置する構成にしたり、基板に抵抗膜を製膜するような構成とすることも可能である。
【0029】
図3のように、変調電極Mにおける変調信号S1の伝搬方向にバイアス電極(B1,B2)を配置しないように構成することで、変調電極からの漏洩信号がバイアス電極に結合し、高周波ノイズが付与されて光変調信号が不安定になることが抑制できる。
【0030】
バイアス電極(B1,B2)は、変調電極が配置されていない区間を有効利用することができる。バイアス電極はB1又はB2のいずれか1つのみでも機能するが、図2及び図3に示すように複数の区間を占有し、光導波路に沿って長いバイアス電極とすることで、バイアス電圧の低下を図ることができ、DCドリフト現象の抑制にも寄与する。それ以外にも電気光学効率は劣るものの、光導波路からバイアス電極を遠ざけることでバイアス電極による光の損失を低減させることもできる。
【0031】
図2及び図3では、基板1は光導波路間に信号電極が配置される基板(例えばXカットのLN基板;以下、X板)を使用する例を示している。当然、光導波路上に信号電極が配置される基板(例えばZカットのLN基板;以下、Z板)を使用するような例に対しても本発明が適用できることは言うまでもない。また、半導体などLN以外の材料であっても上述のような光導波路・電極配置関係になるものであれば本発明が適用できる。なお、図2及び図3では、図面の簡略化のため、接地電極の記載は省略している。
さらに、バイアス電極を異なる2区間に形成する場合、バイアス電極は、折り返し部の前後での位相変化の符号が同じとなるように、例えば図2又は図3(a)のように配置される。
【0032】
図3(b)及び(c)は、Z板を用いた例を示しており、特に、バイアス電極(B1,B2)の配置パターンの具体例を示している。図3(c)では、点線で囲まれた領域PRは、分極反転領域を示している。
【0033】
また、光導波路上に電極が配置される場合には、マッハツェンダー型光導波路部分の変調機能においては、ゼロチャープとなるように、2つの分岐導波路の各々に電極を配置する2電極型の変調器構成を採用したり、分極反転を用いて一つの変調電極を2つの分岐導波路で入れ替えるように配置する構成を採用することができる。
【0034】
図4は、主となるメイン・マッハツェンダー型光導波路の各分岐導波路に、副となるサブ・マッハツェンダー型光導波路(MZ1,MZ2)を入れ子状に配置した、所謂、ネスト型光導波路を用いた例を示したものである。このような構成においては変調電極の駆動電圧を下げるため、変調電極を複数の区間(ここでは2つの区間)に配置することも可能である。この場合、折り返し部の前後での光波の位相変化の符号が同じになるように、点線で囲まれた部分(一つの区間)に分極反転領域が設けられる。
【0035】
本発明の光制御素子は、図4以降に示すように、一つの光導波路から複数の光導波路に分岐させ、各分岐した光導波路にマッハツェンダー型光導波路部分(MZ1,MZ2)を設けるものにも適用可能である。光導波路の分岐は1回に限らず複数段に渡って分岐させても良い。また、1回で分岐する分岐導波路の数も2つに限らず3つやそれ以上であっても良い。分岐した光導波路に設けたマッハツェンダー型光導波路部分は、並列に配置した状態で、各マッハツェンダー型光導波路部分の分岐導波路を並べ、当該分岐導波路に対し、偶数の折り返し部を設けることで、容易に実施することができる。
【0036】
各折り返し部における光導波路の形状についても、同一形状とすることが好ましく。具体的には、並列して配置される複数の分岐導波路の各曲率半径を、内側からR、R+r、R+2r、・・・R+nr(R、rは定数、nは自然数)に設定する。また、曲率半径Rを大きくとるために、折り返す曲げの角度を180度(隣接する区間が平行となる)よりも大きく設定することも可能である。ただし、異なる折り返し部における形状が同じになるように設定することが必要であることは、言うまでもない。
【0037】
図4では、サブ・マッハツェンダー型光導波路(MZ1,MZ2)に対し、2つの変調電極(M1,M2)を配置し、2つの変調信号(S11,S12)を入力している。また、バイアス電極についても、メイン・マッハツェンダー型光導波路に対し、バイアス電極BMを配置し、サブ・マッハツェンダー型光導波路に対し、バイアス電極BS1とBS2を配置している。各バイアス電極(BM,BS1,BS2)に対して十分な空間を確保できるため、バイアス電圧を低減することが可能となる。
【0038】
図4のメイン・マッハツェンダー型光導波路に配置したバイアス電極BMや、サブ・マッハツェンダー型光導波路に配置したバイアス電極(BS1,BS2)のように、別途、バイアス電極を設ける代わりに、変調電極に印加する変調信号にDCバイアスを重畳して印加することも可能である。
【0039】
図5は、ネスト型光導波路を2つ並列して配置したものである。並列されるマッハツェンダー型光導波路(MZ1~MZ4)は4つとなり、各マッハツェンダー型光導波路に対し、変調電極(M1~M4)、バイアス電極(BS1~BS4)が配置されている。また、各ネスト型光導波路のメイン・マッハツェンダー型光導波路に対応して、バイアス電極(BM1,BM2)も設けられている。
【0040】
図5は偏波合成機能を備えた光制御素子を示している。入射光L1は、光学ブロック3に設けられたレンズ30で基板1内の光導波路に入射される。入射光は途中で2つに分けられ、各ネスト型光導波路で変調され、2つの変調信号光を出力する。基板1から出射した2つの光波は、レンズ(31,32,36)を経て光ファイバFに入射する。その際に、一方の光波は、1/2波長板33で偏波面を回転し、反射手段34及び偏波合波手段35を経て他の光波と合わさり、1つの出力光に偏波合成される。図5では、空間光学で合成する場合を模式図で示したが、導波路型素子で偏波合成を行うことも可能である。
【0041】
図5では、入力側の光導波路を2つに分岐してから各ネスト型光導波路に入射させるまでの各光導波路の光路長が異なっている。このため、変調信号(S11,S12,S13,S14)が変調電極の作用部(M1,M2,M3,M4)で光導波路に印加されるタイミングを精確に調整することが不可欠となる。これを実現するため、変調信号は、デジタル信号プロセッサー(DSP;不図示)を用いて、位相差を調整して出力し、その信号をドライバ回路(不図示)で増幅し、光制御素子に変調信号として印加している。
【0042】
図6は、図5と同じ偏波合成機能を備えた光制御素子である。図6では、入射光が入射する入力導波路に対し、光導波路を2つに分岐した後に配置される2つのネスト型光導波路を当該入力導波路の左右に配置している。この配置は、図5の実施例と比較し、図面の出力レンズ30、32間の距離が大きくなり偏波合成の実装時のアライメントが難しくなる欠点があるが、変調電極の作用部(M1~M4)を互いに離して配置することができるため、変調信号間のクロストークを抑制することが可能となる。
【0043】
図7は、図6の実施例の変形例であり、入射光L1の位置と出射光(L21,L22)の位置とを離して配置したものである。これに伴い、入力導波路の近傍に変調電極(M1~M4)を配置している。
この構成では図6の構成と比較して互いの変調電極が近い位置に配置されるため、変調電極に入力するまで変調信号の伝送損失を抑制することができる。
なお、図7は偏波合成機能は図示していないが設けてもよい。さらに、図7以降では、変調電極やバイアス電極の作用部の位置のみを示し、各電極の導入部などは省略している。
【0044】
図8は、図7の実施例の変形例であり、入射光L1の入射位置を基板1の上方部分に配置し、ネスト型光導波路を積み重ねるように配置し、一つの出射光L21を基板1の中央付近部分に、もう一つの出射光L22を基板1の下方部分に配置している。
【0045】
図9は、図8までの実施例と異なり、光波の入射方向(図面の左右方向)に対して垂直な方向に変調電極やバイアス電極の作用部を配置したものである。このように、本発明の光制御素子は、光導波路の設計自由度が高く、種々の形態を採用することが可能である。
【0046】
図10に示すように、本発明の光制御素子1を金属等の筐体4内に収容し、筐体の外部と光制御素子1とを光ファイバFで接続することで、コンパクトな光変調デバイスMDを提供することができる。当然、基板1の光導波路の入射部又は出射部に光ファイバを直接接続するだけでなく、空間光学系を介して光学的に接続することも可能である。
【0047】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光制御素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体4の外部に配置することも可能であるが、筐体4内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明によれば、光導波路を形成した基板の同一辺に光導波路の入力部及び出力部を配置すると共に、各分岐導波路の構造の差異を少なくしながら、分岐導波路間の光路差を最小化することが可能な光制御素子を提供することが可能となる。また、この光制御素子を用いた光変調デバイス及び光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 基板
2 光導波路
21,22 分岐導波路
A1,A2 折り返し部
B1,B2 バイアス電極(作用部)
M 変調電極(作用部)
MD 光変調デバイス
MZ マッハツェンダー型光導波路
OTA 光送信装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10