(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】液質改変装置
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
A23L2/00 Z
A23L2/00 V
(21)【出願番号】P 2018016579
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】307003168
【氏名又は名称】ダイカテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100101948
【氏名又は名称】柳澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大西 賢治
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 美子
(72)【発明者】
【氏名】高井 靖拡
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-123836(JP,U)
【文献】登録実用新案第3141263(JP,U)
【文献】特開平10-234549(JP,A)
【文献】特開2005-219796(JP,A)
【文献】特開2015-058943(JP,A)
【文献】特開2018-029959(JP,A)
【文献】特開2008-067998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料水、緑茶、コーヒーの液質を改変する液質改変装置であって、
前記飲料水、緑茶、コーヒーが接触する面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする液質改変装置。
【請求項2】
前記所定の凹凸は、
前記飲料水、緑茶、コーヒーの流路に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液質改変装置。
【請求項3】
前記所定の凹凸は、
前記飲料水、緑茶、コーヒーの流路中に設けられた部材に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液質改変装置。
【請求項4】
前記所定の凹凸は、
前記飲料水、緑茶、コーヒーの収容部内面の一部又は全部に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の液質改変装置。
【請求項5】
前記所定の凹凸は、
前記飲料水、緑茶、コーヒーの液中に存在する部材の表面の一部又は全部に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の液質改変装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含む飲料の液質を改変する液質改変装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水をよりおいしく改変する装置は広く開発され、使用されている。おいしい水を使用すれば、その水と混合される様々な飲料もおいしくなるし、料理に使用しても、よりおいしい料理ができあがることが想定される。例えばコーヒーを淹れる際に、どのような水を使用するかによって、できあがったコーヒーにも影響してしまう。
【0003】
水をおいしく改変する装置としては、一般に浄水器が用いられている。多くの場合、フィルタにより濾過したり、活性炭などを用いて物質を吸着することにより水をおいしく改変している。しかし、複雑な構造の装置を使用するものであったり、所定期間ごとに交換が必要になっていた。そのため、設置コストやランニングコストが高価であった。
【0004】
一方、技術分野としては全く異なるが、粉体の付着を防ぐ技術として特許文献1に「F研磨」として記載されている方法がある。従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、特許文献1に記載されている方法を用いると、研磨加工でありながらも所定の凹凸を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、非常に簡単な構成であり、交換等を不要としてランニングコストを低減して、飲料の液質を改変することができる液質改変装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に記載の発明は、飲料水、緑茶、コーヒーの液質を改変する液質改変装置であって、前記飲料水、緑茶、コーヒーが接触する面の一部あるいは全部に所定の凹凸が形成されており、前記所定の凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であることを特徴とする液質改変装置である。
【0008】
本願請求項2に記載の発明は、本願請求項1に記載の発明における前記所定の凹凸が、前記飲料水、緑茶、コーヒーの流路に形成されていることを特徴とする液質改変装置である。
【0009】
本願請求項3に記載の発明は、本願請求項1または請求項2に記載の発明における前記所定の凹凸が、前記飲料水、緑茶、コーヒーの流路中に設けられた部材に形成されていることを特徴とする液質改変装置である。
【0010】
本願請求項4に記載の発明は、本願請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発明における前記所定の凹凸が、前記飲料水、緑茶、コーヒーの収容部内面の一部又は全部に形成されていることを特徴とする液質改変装置である。
【0011】
本願請求項5に記載の発明は、本願請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の発明における前記所定の凹凸が、前記飲料水、緑茶、コーヒーの液中に存在する部材の表面の一部又は全部に形成されていることを特徴とする液質改変装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非常に簡単な構成であり、交換等を不要としてランニングコストを低減して、飲料の液質を改変することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の液質改変装置の第1の実施の形態を示す要部概略図である。
【
図2】F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。
【
図3】本発明の液質改変装置の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した官能試験の一例の説明図である。
【
図4】本発明の液質改変装置の第1の実施の形態の変形例を示す要部概略図である。
【
図5】本発明の液質改変装置の第2の実施の形態を示す要部概略図である。
【
図6】本発明の液質改変装置の第2の実施の形態及び鏡面仕上げ品、未加工品を使用した官能試験の一例の説明図である。
【
図7】本発明の液質改変装置の第2の実施の形態の変形例を示す要部概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の液質改変装置の第1の実施の形態を示す要部概略図である。図中、11は樋、12は凹凸面、13は飲料である。
図1に示した例では、飲料13の流路を樋11として形成し、飲料13が触れる内側面に所定の凹凸を形成して凹凸面12としたものである。
【0016】
樋11は、例えばステンレスなどの金属や樹脂で形成されており、上述のようにその内面に所定の凹凸が形成されている。所定の凹凸としては、例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の略均一な凹凸が形成されているとよい。この所定の凹凸の一例については測定結果を用いて後述する。このような所定の凹凸を形成した樋11の凹凸面12に飲料13を流すことによって、後述する実験例でも示しているように、従来に比べて飲料13をおいしく改変することができる。また、メンテナンスとしては洗剤などで清掃すればよく、部材の交換等によるコストの増大を防ぐことができる。
【0017】
形成する所定の凹凸は、飲料13が流れる方向、あるいは飲料13が流れる方向と略直交する方向あるいは斜めに交差する方向など、どのような方向のスジ状の凹凸でもよいし、あるいは、いくつかの方向の凹凸が交差するように形成されていてもよい。もちろん、ランダムに形成される凹凸であってもよい。もちろん、所定の凹凸は樋11の内側面全体に施すほか、飲料13が流れる底部から所定の高さまでとしたり、帯状に設けるなど、内側面の一部に所定の凹凸を施すものであってもよい。
【0018】
金属製の樋11の内面に凹凸を形成する加工法は特定の方法に限られるものではないが、ここでは一例として、上述の特許文献1に「F研磨」として記載されている方法を使用して凹凸面12を形成し、後述する実験例などを行っている。上述のように、このF研磨は金属面への粉体の付着を防止する技術として特許文献1に記載されているが、飲料13の改質については考えられてこなかった。特許文献1に記載されているF研磨は、研磨作業を進めても鋭利さが失われないダイヤモンド等の硬質研磨粒子を紙または布に貼り付けた研磨材を使用して金属表面を研磨処理するものである。研磨粒子の公称精粗度に応じてランク分けしており、表面仕上げの状態が粗い順に「F-2」(#60)、「F-1」(#120)、「F0」(#240)、「F1」(#320)、「F2」(#400)、「F3」(#500)、「F4」(#600)、「F5」(#800)、「F6」(#1000)などと称することとする。
【0019】
従来、研磨加工は凹凸を減らすあるいはなくすために行われているが、上述のF研磨は、研磨加工でありながら、所定の凹凸を形成する加工方法である。従来から凹凸を残す研磨加工も行われているが、残った凹凸はどのような状態であるかがわからず、再現性は無い。本発明では、樋11の内側面に対して、どのような凹凸であるかが分かっている所定の凹凸を形成して凹凸面12とする。この所定の凹凸を形成するための一つの方法として、上述のF研磨を利用することができる。さらに、上述のF研磨加工を行うと、それまで存在していた凹凸は排除され、研磨による所定の凹凸が形成されることから、安定した状態の所定の凹凸が形成されることになる。
【0020】
上述のF研磨によって凹凸面12に形成された所定の凹凸について、フーリエ変換を用いた波数解析を試みた。この解析によって、凹凸面12の凹凸の特徴を定量化し、具体的に、どのような間隔の凹凸がどのくらい高低差があるのかを数値で表すことができる。F研磨のいくつかのランクのF研磨による鋼板表面の凹凸形状について、次式(1)
X(k)=Σn=0
N-1x(n)・exp(-2πknj/N) …(1)
に従い離散フーリエ変換を行い、凹凸の波長(凹凸ピッチ)成分Lと波高(振幅:凹凸高さ)成分Hの関係を解析した。比較参考のために、鏡面仕上げを行った場合についてもフーリエ解析を行い、F研磨との比較を行った。なお(1)式において、x(n)は、鋼板表面を探針センサで所定の長さ(距離)方向に走査した場合に、所定のサンプリング間隔の点で探針センサにより計測される高さ方向の値(表面の凹凸を表す)、すなわち、総サンプリング数N中のn番目のディジタルサンプリング値である。また、kは、単位長当たりの波数(空間周波数)f[回/μm]に対応する値であり(k=0,1,2,…,N-1)、全計測距離をD[μm]とすると、k=fDで表される。
【0021】
つまり、X(k)は、単位長当たり波数対応値kに対するフーリエ変換後の信号強度を表すベクトルであり、このベクトルの絶対値(長さ)が波の凹凸(振幅)に比例する。従って、値kに対する変換後信号強度X(k)に対して、凹凸形状の波高(振幅)Hは2|X(k)|/Nで表され、波高(振幅)Hと波長Lの比(「波高(振幅)対波長比」、「波高比」あるいは「振幅比」という)H/Lは
H/L=2|X(k)|/NL …(2)
で表される。
【0022】
図2は、F研磨の各ランク及び鏡面仕上げを行った場合における波長に対する波高対波長比の関係の一例を示すグラフである。上述の波高対波長比を波長ごとに示すと、一例として
図2に示すような結果が得られた。
図2には、F研磨のランクがF-2、F-1、F0、F1、F4、F5、F6の場合と、鏡面仕上げを行った場合について、数カ所で測定した結果の平均を示している。
【0023】
図2に示した解析結果を参照すると、波長Lが1μm以下の範囲で各グラフに明確な違いが現れている。この波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べて波高対波長比の値として大きな値を示している。より具体的には、波長Lが1μm以下の範囲における波高対波長比の値は、鏡面仕上げを行った場合には0.0001以下であるのに対して、F研磨を行った場合には、ランクがF6、F5、F4では0.0001から0.0006程度、F1の場合には0.0006から0.001程度、F0の場合には0.001から0.002程度、F-1の場合には0.005から0.008程度、F-2の場合には0.008から0.015程度であった。
【0024】
また、
図2に示した解析結果によれば、例えば波長Lが1μm以下の範囲で見ると、F研磨を行った場合には、鏡面仕上げを行った場合に比べてグラフの振幅が小さい。この振幅は、各波長における平均値から2~3割程度である。従って、F研磨によってほぼ均一な凹凸が安定して形成されていることが分かる。例えば、一般的な研磨技術であるバフ研磨で
図2に示した鏡面仕上げを行った場合、波高対波長比は2桁程度のばらつきが存在しており、凹凸が安定して形成されていないことが分かる。なお、未研磨の面や元の凹凸を残した面においては、測定する箇所によって解析結果が異なっており、またばらつきが大きく,
図2に示すような揃った凹凸が存在していないことが分かった。
【0025】
もちろん、F研磨の場合にも、それぞれの凹凸にはばらつきがあるものの、面として見ると周波数特性が揃った凹凸が形成されており、このような周波数特性の凹凸が安定して再現されている。このことは、樋11の凹凸面12に所定の凹凸が安定して再現されていることを示している。
【0026】
図3は、本発明の液質改変装置の第1の実施の形態及び鏡面仕上げ品を使用した官能試験の一例の説明図である。この例では、上述したF研磨のランクがF-2、F2、F5により内側面を研磨して凹凸面12とした樋11と、内側面を鏡面仕上げした樋とを作成した。そして、
図1に示すように樋11を斜めに傾け、上部から飲料13として飲料水250mlを約25秒かけて流し、下部に流れてきた飲料水を紙コップに20mlずつ注ぎ分けて、複数の被験者により評価を行った。評価は、「甘さ」、「苦さ」、「なめらかさ(のどごし)」、「満足さ」の4項目について順位を付けた。そして、「甘さ」、「なめらかさ(のどごし)」、「満足さ」については順位に応じて1番が4点、2番が3点、3番が2点、4番が1点とし、「苦さ」については順位に応じて1番が1点、2番が2点、3番が3点、4番が4点として苦くない順に高得点となるように点数を付けた。複数の被験者による評価結果の平均点数を
図3に示している。なお、被験者による評価の際に同順位を付する場合があるため、各項目の合計は10点にならず、また総合得点の合計も40点にはならない。
【0027】
図3に示した評価結果から分かるように、いずれの項目においても、また総合評価(総合得点)においても、鏡面仕上げした樋に比べてF研磨を施して所定の凹凸を形成した樋11を使用した方が良好な評価が得られている。被験者のコメントでも、鏡面仕上げの樋を用いた場合には、甘さがなく、苦みがあり、ざらついて好ましくないとの評価であったのに対して、所定の凹凸を形成した樋11を用いた場合には、甘くてなめらかであり、苦みがなくて好ましい、との評価を得ている。
【0028】
このように、F研磨により凹凸を形成した樋11に飲料水を流すことによって、飲料水は明らかにおいしく改質されており、その効果は鏡面仕上げした樋よりも、F研磨により凹凸を形成した樋11の方が優れていた。
図2から、F研磨により形成された凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であり、そのブレ幅も各波長における平均値から2~3割程度の略均一な凹凸である。このような所定の凹凸を樋11の凹凸面12に形成し、凹凸面12に飲料13を流すことによって、飲料13をおいしく改質することができることが分かった。
【0029】
なお、未研磨のまま、あるいは多少の研磨を行った状態で、元の凹凸が残っている樋に飲料13を流した場合には、鏡面仕上げを行った樋に飲料13を流した場合よりも評価が低かった。これらの樋では、流路となる面の測定箇所によって解析結果が異なり、またばらつきが大きい。本発明のように、上述のような所定の凹凸を形成することによって、飲料13の液質をおいしく改変することができる。
【0030】
図1に示した第1の実施の形態では、断面が半円形状の樋11を例にして説明した。しかしこれに限らず、例えば底面が平らな断面がコの字状の流路や、例えば管路などでもよく、飲料が流れる面に所定の凹凸が形成されていればよい。また、直線状に限らず、カーブした流路やらせん状の流路など流路の形状は問わない。
【0031】
図4は 本発明の液質改変装置の第1の実施の形態の変形例を示す要部概略図である。図中、14は障害物、15はメッシュである。飲料の流路に所定の凹凸を設ける方法として、例えば
図4(A)に示すように、樋11の飲料の流路中に障害物14を設けておいてもよい。そして、その障害物14の表面の一部または全部に所定の凹凸を形成し、凹凸面12とする。流路に沿って飲料が流れてくると、障害物14に飲料が接触する。障害物14の凹凸面12には上述のような所定の凹凸が形成されており、飲料はその所定の凹凸と接することになる。その際に飲料の液質が改変されることになる。
【0032】
図4(A)に示した例では、飲料13がなるべく障害物14に設けられた所定の凹凸に触れるように、いくつもの障害物14を設けた例を示しているが、もちろん、障害物14の個数などは任意である。また、障害物14の形状や配置などについても任意である。なお、障害物14が流路の底面や側面に固定されている必要は無く、例えば自重により滞留していたり、ネットなどに収容されて流れにより揺らぐような構成であってもよい。もちろん、
図1で示したように流路となる底面や側面にも所定の凹凸を設けてもよいことは言うまでもない。
【0033】
図4(B)に示した例では、樋11の飲料の流路中にメッシュ15を設けている。このメッシュ15の表面には、上述のような所定の凹凸が形成されている。流路に沿って飲料が流れてくると、途中に設けられているメッシュ15を飲料が通過することになる。飲料がメッシュ15を通り抜ける際に、メッシュ15に形成されている所定の凹凸と接する。その際に飲料の液質が改変されることになる。
【0034】
図4(B)に示した例では、メッシュ15を1つ設けた例を示しているが、複数を設けて、複数のメッシュ15を飲料が通過するように構成してもよい。なお、所定の凹凸を形成できれば、メッシュ15の大きさや目の細かさなどは任意である。また、
図1で示したように流路となる底面や側面にも所定の凹凸を設けてもよい。
【0035】
図1に示した構成や
図4に示した変形例に限らず、このほかにも、飲料13が流れる間に、飲料13が所定の凹凸に接触する構成であれば、どのような構成であってもよいことは言うまでもない。
【0036】
図5は、本発明の液質改変装置の第2の実施の形態を示す要部概略図である。図中、21は容器、22は内側面、23は内底面、24は外面である。この第2の実施の形態では、コップ状に形成した容器の例を示している。容器21は、
図5に示す例では外面24となる板材と内側面22及び内底面23となる板材とからなる二重構造の飲用容器を示している。これに限らず、板材の一方の面が外面24、他方の面が内側面22及び内底面23となる単層構造であっても良い。また、持ち手が付いた構造など、種々の変形が可能であることは言うまでもない。外面24の加工については任意である。なお、容器の形状は任意であり、口広や口細形状でもよいし、枡形などのような断面が円形以外の形状であってもよく、飲料を貯留できる形状であればどのような形状であってもよい。
【0037】
容器21の飲料と接する面、すなわち飲料が収容される容器21の内面となる内側面22または内底面23あるいはその両方には、所定の凹凸が形成されている。この所定の凹凸は、上述の第1の実施の形態と同様であり、例えば、波長が1μm以下の範囲において平均の波長対波高比が0.0001以上の凹凸を形成するとよい。また、この所定の凹凸は、形成されている箇所によらず略均一であって、面として見ると周波数特性が揃った凹凸が形成されているとよい。このような所定の凹凸を形成することによって、飲料の液質をおいしく改変することができる。このような所定の凹凸を形成する加工法の一例としては、容器21が例えば金属製である場合、第1の実施の形態と同様に上述のF研磨を用いることができる。
【0038】
形成する所定の凹凸は、内側面22においては上下方向(開口部と内底面23を結ぶ方向)に延在する凹凸として形成したり、円周方向に延在する凹凸としたり、スパイラル状の凹凸にするなど、どのような方向のスジ状の凹凸でもよい。また、内底面23についても、同心円状の凹凸や、放射状の凹凸など、種々のスジ状の凹凸であってよい。いずれの場合も、スジ状の凹凸に限らず、ランダムに形成される凹凸であってもよい。
【0039】
もちろん、所定の凹凸は内側面22や内底面23の全体に施すほか、内側面22については飲料が触れやすい内底面23から所定の高さまでとしたり、内底面23についても一部のみに設けるなど、一部に所定の凹凸を施すものであってもよい。このように内側面22の一部に凹凸を形成する場合、上述の例のように容器全体として材質を統一するほか、凹凸を形成する領域以外の部分について別の材質に変更してもよい。
【0040】
図6は、本発明の液質改変装置の第2の実施の形態及び鏡面仕上げ品、未加工品を使用した官能試験の一例の説明図である。この例では、上述したF研磨のランクがF-2、F2、F5により内側面22を研磨した容器21と、内側面22を鏡面仕上げした容器を作成して用いるとともに、内側面22を研磨していない容器を用いて試験した。それぞれの容器に飲料水250mlを注ぎ入れ、1分間放置した後に紙コップに20mlずつ注ぎ分けて、複数の被験者により評価を行った。評価項目は、「甘さ」、「苦さ」、「なめらかさ(のどごし)」、「満足さ」の4項目であり、「甘さ」、「なめらかさ(のどごし)」、「満足さ」については順位に応じて1番が5点、2番が4点、3番が3点、4番が2点、5番が1点とし、「苦さ」については順位に応じて1番が1点、2番が2点、3番が3点、4番が4点、5番が5点として苦くない順に高得点となるように点数を付けた。複数の被験者による評価結果の平均点数を
図6に示している。なお、被験者による評価の際に同順位を付する場合があるため、各項目の合計は15点にならず、また総合得点の合計も60点にはならない。
【0041】
図6に示した評価結果から、内面を鏡面仕上げした容器と内側面22にF研磨を施した容器21とを比較すると、項目により優劣はあるものの、総合評価(総合得点)において、内面を鏡面仕上げした容器に比べて内側面22にF研磨を施して所定の凹凸を形成した容器21を使用した方が良好な評価が得られている。また、研磨していない容器と比較すると、いずれの項目においても、また総合評価(総合得点)においても、内側面22にF研磨を施して所定の凹凸を形成した容器21を使用した方が良好な評価が得られている。
【0042】
このように、F研磨により凹凸を形成した容器21に飲料水を入れることによって、飲料水は明らかにおいしく改質されており、その効果は鏡面仕上げした容器よりも、また研磨していない容器よりも、F研磨により凹凸を形成した容器21の方が優れていた。
図2から、F研磨により形成された凹凸は、波長が1μm以下の範囲において平均の波高対波長比が0.0001以上の凹凸であり、そのブレ幅も各波長における平均値から2~3割程度の略均一な凹凸である。このような所定の凹凸を内側面22や内底面23に形成した容器21に飲料を入れることによって、飲料をおいしく改質することができることが分かった。
【0043】
図7は、本発明の液質改変装置の第2の実施の形態の変形例を示す要部概略図である。図中、25は羽根である。容器21内に飲料を収容し、その飲料内に別の部材を挿入する場合には、その部材に上述のような所定の凹凸を形成してもよい。
図7に示した変形例では、容器21内の飲料13を攪拌するための羽根25が設けられており、この羽根25の表面の一部又は全部に上述した所定の凹凸を形成し、凹凸面12とした例を示している。容器21に飲料13を入れ、羽根25を飲料13中に沈めると、飲料13は羽根25の凹凸面12に触れることになる。これによって飲料13の液質は改変されることになる。さらに攪拌のために羽根25を回動させると、飲料13はさらに羽根25の凹凸面12に触れることになり、さらに飲料13の液質は改変されることになる。
【0044】
図7に示した例では、容器21の上部開口部から羽根25を飲料13中に挿入する構成として図示しているが、例えば容器21の底部に羽根25が設けられたり、底部から突出する回転軸に羽根25が設けられている構成など、種々の構成であってよい。また、ここでは飲料13を攪拌する羽根25に凹凸面12を形成する例を示したが、これに限らず、飲料13内に挿入する様々な部材や、容器21に設けられていて飲料を注ぎ込むことで飲料の液中に存在することになる様々な部材について、少なくとも飲料と接触する部分に所定の凹凸を形成し、飲料13の液質を改変してもよい。また、所定の凹凸を設けた、飲料13の液質を改変するための部材を作成し、飲料13中に挿入あるいは予め設置する構成であってもよい。例えば、棒状あるいは板状の部材の表面に所定の凹凸を設け、その部材を飲料13中に挿入あるいは予め設置したり、球体や立方体状の部材の表面に所定の凹凸を設けて飲料13中に沈めたり浮遊させたり浮かせたりしてもよい。もちろん、
図5で示したように容器21の底面や側面にも所定の凹凸を設けてもよい。
【0045】
上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態及びこれらの変形例から分かるように、本発明によれば、飲料が接する面に上述のような所定の凹凸を形成することによって、その面に接する飲料の液質を改変することができる。なお、上述の官能試験では、飲料として飲料水を用いて行ったが、このほかの飲料であっても改質されることを確認している。例えば、ある緑茶ではまろやかな味わいになったり、あるコーヒーでは苦みが増してビターな味わいとなるなど、様々な点での改質が図られている。また、アルコール飲料でも、例えば焼酎では甘みが出てまろやかになるなどの改質が確認されている。もちろん、このほかの飲料についても液質を改変することもできる。
【0046】
なお、第1の実施の形態で示した流路に所定の凹凸を設ける構成と、第2の実施の形態で示した貯留部あるいは貯留部に挿入される部材に所定の凹凸を設ける構成とを組み合わせてもよいことは言うまでもない。例えば飲料が収容される貯留槽とそれに続く管路とに所定の凹凸を設ける構成であってもよい。
【0047】
上述した第1,第2の実施の形態及びこれらの変形例において、所定の凹凸を形成する方法としてF研磨を用いる例を示した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばレーザー加工や精密機械加工、ヘアライン加工、ブラスト加工、エッチング加工など、他の加工方法を用いて、上述した特性を有する所定の凹凸を形成できる加工方法であれば適用することができる。さらに、所定の凹凸を形成する部材の材質についても、一般的に用いられるステンレスのほか、チタンや銅、スズなど、種々の金属や合金、あるいはガラスや樹脂、陶器など、所定の凹凸を設ける加工が施せる材質であれば、種々の材質の部材を用いてよい。さらには、例えば型に所定の凹凸を形成しておき、その型を用いて樹脂などにより成形したり、型を用いて後加工を施してもよく、成形後の面に所定の凹凸が形成されていれば本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
11…樋、12…凹凸面、13…飲料、14…障害物、15…メッシュ、21…容器、22…内側面、23…内底面、24…外面、25…羽根。