(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】乳酸菌、該乳酸菌由来の血糖低下剤、糖尿病治療薬、及び飲食品
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220406BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220406BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220406BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20220406BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20220406BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220406BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220406BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220406BHJP
A61K 35/648 20150101ALN20220406BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23L33/135
C12N9/99
C12P1/04 Z
A61K35/744
A61P3/10
A61P43/00 111
C12N15/09 Z
A61K35/648
(21)【出願番号】P 2018534279
(86)(22)【出願日】2017-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2017022052
(87)【国際公開番号】W WO2018034047
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2016159555
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02309
(73)【特許権者】
【識別番号】501481492
【氏名又は名称】株式会社ゲノム創薬研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関水 和久
(72)【発明者】
【氏名】松本 靖彦
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-007577(JP,A)
【文献】特開2009-058500(JP,A)
【文献】特開2003-116486(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004916(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/011174(WO,A1)
【文献】Scientific Reports,2016年05月19日,Vol. 6: 26354,p. 1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP-02309であるエンテロコッカス
・フェカリス(Enterococcus
faecalis)に属する乳酸
菌であって血糖低下作用を有する乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌であって、α-グリコシダーゼ阻害活性を有することでスクロース摂取による血糖上昇を抑制する用途に用いられる乳酸菌。
【請求項3】
配列表の配列番号1で示される16SrDNA領域の塩基配列を有する請求項1又は請求項2に記載の乳酸菌。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れかの乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とするα-グリコシダーゼ阻害剤であって、
該乳酸菌の処理物は、該乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、
及び、殺菌加工
物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とするα-グリコシダーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れかの乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とする血糖低下剤であって、
該乳酸菌の処理物は、該乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、
及び、殺菌加工
物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする血糖低下剤。
【請求項6】
請求項5に記載の血糖低下剤を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病予防治療薬。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3の何れかの乳酸菌を含有する飲食品。
【請求項8】
請求項5に記載の血糖低下剤を含有する飲食品。
【請求項9】
請求項1ないし請求項3の何れかの乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌、該新規乳酸菌の生菌、死菌若しくは処理物を有効成分とするα-グリコシダーゼ阻害剤及び血糖低下剤、並びに、該血糖低下剤を含有する糖尿病予防治療薬及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、過剰なカロリー摂取による肥満やその後に発症する糖尿病等の生活習慣病の発症が問題となっている。日頃から血糖値が上昇しないように注意することは、生活習慣病の発症を抑制する上で大変重要であるとされている。生活習慣病の予防のためには、食事療法や運動療法が効果的とされている。食事療法においては、食後の血糖値の上昇が起こらないように摂取カロリーが制限される。
しかし、そのような食事療法を継続することは、患者にとって困難である場合が少なくないので、血糖値の上昇を抑制する物質を含む食品の開発が継続的な食事療法を実施する上で有効であると考えられる。
【0003】
スクロースは、様々な食品中に添加される主要な甘味料の1つである。スクロースは、腸管内でα-グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、それらが腸管から吸収され、血糖値の上昇を導く。α-グリコシダーゼの阻害剤であるアカルボースやボグリボースは、食後血糖値の上昇を阻害する効果があり、糖尿病治療薬として利用されている。よって、α-グリコシダーゼの阻害効果を有する物質を含む食品は、スクロースの過剰な摂食による食後血糖の上昇を抑制すると期待される。
【0004】
乳酸菌は、MRS寒天培地で生育し、乳酸を産生するグラム陽性の細菌である。ある種の乳酸菌は、牛乳中で増殖し、ヨーグルトの製造に利用される。α-グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボースは、Actinoplanes sp. SE50/110というグラム陽性細菌が生産する(非特許文献1)。また、乳酸菌の一種であるLactobacillus rhamnosusを、スクロースを摂食させたマウスに投与すると、1時間後における血中のグルコース濃度の上昇が抑えられることが報告されている(非特許文献2)。更に、ある種の乳酸菌の熱処理菌体画分にα-グリコシダーゼ阻害活性があることも報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また、従来、食後高血糖を抑制する乳酸菌の評価には、マウスやラットなどの哺乳動物が用いられてきた。しかし、多数の哺乳動物を実験に供することに対しては、コストばかりでなく動物愛護の観点からの問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Schwientek P et al., BMC Genomics, 2012
【文献】Honda K et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 2012
【文献】Panwar H et al., Eur J Nutr, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高い血糖低下作用を有する新規な乳酸菌を提供することであり、更に、該乳酸菌又は該乳酸菌の死菌若しくは処理物を有効成分とする血糖低下剤や、該乳酸菌又は該乳酸菌に由来する血糖低下剤を含有する飲食品を提供することにある。
また、新規な乳酸菌に由来する物質を有効成分とする糖尿病予防治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カイコを用いてα-グリコシダーゼ阻害活性を有する物質の探索法を見出した。カイコは、マウスなどの哺乳動物に比べ狭いスペースで多数の個体を飼育することが可能であり、倫理的な問題が小さいので、カイコを用いた評価系を用いることにより、スクロース摂食による高血糖を抑制する効果を有する機能性乳酸菌を探索できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、カイコを用いたin vivo評価方法を用いて、スクロースの摂食による高血糖を抑制する乳酸菌を同定した。該乳酸菌株を用いて製造したヨーグルトは、ヒトのスクロース負荷試験において、血糖値の上昇を抑制する効果を示した。また、上記カイコの評価方法を用いて評価した結果、該乳酸菌は食後高血糖を抑制し、糖尿病の発症を低減させる効果を示すことを見出した。
【0010】
更に、上記の血糖低下作用を有する乳酸菌は、その性状の分析や16S rDNAの塩基配列等の解析結果、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する新規乳酸菌株(以下、「乳酸菌0831-07」又は「乳酸菌#Ef-1」と略記する場合がある)であることも判明し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP-02309であるエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、又は、その自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌であって血糖低下作用を有する乳酸菌を提供するものである。
更に、上記乳酸菌の単離又は精製された乳酸菌を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記乳酸菌であって、α-グリコシダーゼ阻害活性を有することでスクロース摂取による血糖上昇を抑制する用途に用いられる乳酸菌を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とするα-グリコシダーゼ阻害剤であって、
該乳酸菌の処理物は、該乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とするα-グリコシダーゼ阻害剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記の乳酸菌、該乳酸菌の死菌、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする血糖低下剤であって、
上記乳酸菌の処理物は、乳酸菌の培養物;濃縮物;ペースト化物;噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等の乾燥物;液状化物;希釈物;破砕物;殺菌加工物;及び;該培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする血糖低下剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記血糖低下剤を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病予防治療薬を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記の乳酸菌、又は前記の血糖低下剤を含有する飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、極めて高い血糖低下作用を有する新規の乳酸菌を提供することができる。特に、スクロース摂取による血糖上昇を抑制する作用を有する新規の乳酸菌を提供することができる。
また、該新規の乳酸菌、該乳酸菌の死菌、又は、該乳酸菌の処理物を有効成分とする極めて高い血糖低下作用を有する新規の血糖低下剤を提供し、該乳酸菌又は該血糖低下剤を含有する(に由来する)血糖低下作用に優れた飲食品を提供することができる。
【0018】
更に、本発明によれば、前記血糖低下剤を有効成分として含有する糖尿病予防治療薬を提供することができ、該糖尿病予防治療薬は、経口投与で糖尿病を予防又は治療することができる。
【0019】
本発明の乳酸菌は、一般飲食品、健康食品、薬剤、醗酵飲食品、プロバイオティクスの生産等に利用できるばかりでなく、血糖上昇を抑制することによる病気の予防・治療への利用がなされる。醗酵飲食品としては、醗酵乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、漬物、漬物製造用乳酸菌スターター等としての用途に特に好適である。また、酸に強いので、胃で分解されず小腸にまで届くという特徴もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】乳酸菌の添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図2】乳酸菌#Ef-1株の添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図3】乳酸菌#Ef-1株の添加による、スクロース又はグルコース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図4】乳酸菌#Ef-1株の熱処理菌体の添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図5】乳酸菌#Ef-1株で作製したヨーグルトの摂食によるスクロース負荷試験における、ヒトのグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図6】乳酸菌(#Ef-1株)の死菌添加による、スクロース含有餌(a)又はグルコース含有餌(b)の給餌によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図7】(a)in vitroでのカイコ腸管における糖移行評価系の実験スキームを示す図である。(b)アカルボースによる、摘出腸管内から腸管外へのスクロース輸送の阻害効果を示すグラフである。
【
図8】乳酸菌(#Ef-1株)の添加による、摘出腸管内から腸管外へのスクロース輸送の阻害効果を示すグラフである。(a)乳酸菌(#Ef-1株)添加による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。(b)乳酸菌(#Ef-1株)添加量による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。(c)乳酸菌(#Ef-1株)の熱処理菌体の添加による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。(d)乳酸菌(#Ef-1株)の熱処理菌体の添加量による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図9】乳酸菌(#Ef-1株)の生菌添加による、グルコース輸送の阻害効果を示すグラフである。(a)乳酸菌(#Ef-1株)の生菌添加による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。(b)乳酸菌(#Ef-1株)の熱処理菌体の添加による、カイコの腸管外液中のグルコース濃度上昇の阻害効果を示すグラフである。
【
図10】(a)乳酸菌(#Ef-1株)の添加による、カイコ腸管のα-グリコシダーゼ活性阻害効果を示すグラフである。(b)乳酸菌(#Ef-1株)の添加による、ラット腸管のα-グリコシダーゼ活性阻害効果を示すグラフである。
【
図11】(a)乳酸菌(#Ef-1株)の生菌を加えた、Caco-2細胞における蛍光の取り込みを測定した結果を示すグラフである。(b)乳酸菌(#Ef-1株)の生菌と熱処理菌体画分を加えてCaco-2細胞における蛍光の取り込みを測定した結果を示すグラフである。(c)乳酸菌(#Ef-1株)による食後高血糖抑制効果を示す模式図である。
【
図12A】乳酸菌(#Ef-1株)の摂食によるヒトでのショ糖負荷試験のスケジュールを示す模式図である。
【
図12B】生菌懸濁液摂取群、熱処理菌体懸濁液摂取群、非摂取群における血糖値をショ糖負荷後の時間ごとに示したグラフである。
【
図12C】生菌懸濁液摂取群、熱処理菌体懸濁液摂取群、非摂取群におけるショ糖付加試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0022】
<乳酸菌>
本発明は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)における受託番号がNITE BP-02309であるエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、又は、その自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌であって血糖低下作用を有する乳酸菌である。
【0023】
以下、このエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する新規乳酸菌株エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)0831-07(以下、「乳酸菌0831-07」と略記する場合がある)について詳述する。
本発明の乳酸菌0831-07は、ムカデ(Chilopod)を分離源として初めて分離された。
【0024】
グラム染色結果:陽性
菌体の形状:球形
好気/嫌気:嫌気
乳酸生成能:あり
【0025】
生理学的性質:本発明の乳酸菌0831-07の生理学的、化学分類学的性質は以下の通りである。
(1)カタラーゼ:-
(2)酸性フォスファターゼ:+
(3)アルカリフォスファターゼ:+
(4)ナフトール-AS-BI-フォスフォヒドロラーゼ:+
(5)エステラーゼ(C4):+
(6)α-ガラクトシダーゼ:-
(7)エステラーゼリパーゼ(C8):+
(8)β-ガラクトシダーゼ:-
(9)リパーゼ(C14):-
(10)β-グルクロニダーゼ:-
(11)ロイシンアリルアミダーゼ:+
(12)α-グルコシダーゼ:+
(13)バリンアリルアミダーゼ:-
(14)β-グルコシダーゼ:-
(15)シスチンアリルアミダーゼ:-
(16)N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ:-
(17)トリプシン:-
(18)α-マンノシダーゼ:-
(19)α-キモトリプシン:+
(20)α-フコシダーゼ:-
【0026】
(21)下記の糖類等からの酸及びガスの生成能
グリセロール(Glycerol):+
エリトリトール(Erythritol):-
D-アラビノース(D-Arabinose):-
L-アラビノース(L-Arabinose):-
D-リボース(D-Ribose):+
D-キシロース(D-Xylose):-
L-キシロース(L-Xylose):-
D-アドニトール(D-Adonitol):-
β-メチル-D-キシロピラノサイド(β-Methyl-D-xylopyranoside):-
D-ガラクトース(D-Galactose):+
D-グルコース(D-Glucose):+
D-フルクトース(D-Fructose):+
D-マンノース(D-Mannose):+
L-ソルボース(L-Sorbose):-
L-ラムノース(L-Rhamnose):-
ズルシトール(Dulcitol):-
イノシトール(Inositol):+
D-マンニトール(D-Mannitol):+
D-ソルビトール(Sorbitol):+
α-メチル-D-マンノピラノサイド(α-Methyl-D-mannopyranoside):-
α-メチル-D-グルコピラノサイド(α-Methyl-D-glucopyranoside):-
N-アセチルグルコサミン(N-Acetyl glucosamine):+
アミグダリン(Amygdalin):+
アルブチン(Arbutin):+
エスクリンクエン酸第二鉄(Esculin ferric citrate):+
サリシン(Salicin):+
D-セロビオース(D-Cellobiose):+
D-マルトース(D-Maltose):+
D-ラクトース(Lactose):-
D-メリビオース(D-Melibiose):+
D-スクロース(D-Sucrose):+
D-トレハロース(D-Trehalose):+
インスリン(Insulin):-
D-メレジトース(D-Melezitose):+
D-ラフィノース(D-Raffinose):-
スターチ(Starch):-
グリコーゲン(Glycogen):-
キシリトール(Xylitol):-
ゲンチオビオース(Gentiobiose):+
D-ツラノース(D-Turanose):+
D-リキソース(D-Lyxose):-
D-タガトース(D-Tagatose):+
D-フコース(D-Fucose):-
L-フコース(L-Fucose):-
D-アラビトール(D-Arabitol):-
L-アラビトール(L-Arabitol):-
グルコネート(Gluconate):+
2-ケト-グルコネート(2-Keto-gluconate):-
5-ケト-グルコネート(5-Keto-gluconate):-
【0027】
分子生物学的解析結果:分子生物学的な系統分類の指標として用いられている16SrDNAに関する乳酸菌0831-07の解析結果は、添付した配列表の通りである。
すなわち、乳酸菌0831-07のゲノムDNAから、PCRにより、16SrDNA領域の塩基配列を増幅し、シーケンサーによる解析を行った結果、16SrDNAのほぼ全長に当たる塩基配列が見出された。
この塩基配列をNCBIのBLAST解析で相同性検索を行ったところ、乳酸菌0831-07の16SrDNA領域の塩基配列は、エンテロコッカス属であるEnterococcus faecalis V583株の塩基配列(登録番号:NR_074637.1)と相同性99%を示したので、乳酸菌0831-07は、Enterococcus faecalisに属するものである。
しかしながら、16SrDNA領域だけを比較したときですら完全には一致していないので、本発明の乳酸菌0831-07は、上記の株とは異なる乳酸菌株である。
【0028】
前記の乳酸菌0831-07の生理学的・化学分類学的性質を、バージース・マニュアル・オブ・システマティックバクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,vol.3 1989)による分類及びその他の文献の記載内容に照らし合わせ、更に、上記16SrDNA解析の結果を考慮して判断した結果、本発明の「乳酸菌0831-07」は、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する新規の微生物である。
また、乳酸菌0831-07の16SrDNA領域の塩基配列に一致する16SrDNA領域の塩基配列を有する微生物が存在しないこと、エンテロコッカス属に属する既知の株等と比べて高い血糖低下作用を示すこと等を含め総合的に検討した結果、乳酸菌0831-07は単離された新規な微生物株であると判断した。
【0029】
乳酸菌0831-07は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(Natural Institute of Technology and Evaluation;以下、「NITE」と略記する)の特許微生物寄託センター(NPMD)に国内寄託され、受託番号:NITE P-02309(寄託日:2016年7月26日)として受託された微生物である。
乳酸菌0831-07は、その後、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、原寄託申請書を提出して、国内寄託(原寄託日:2016年7月26日)から、ブタペスト条約に基づく寄託への移管申請を行い(移管日(国際寄託日):2017年5月16日)、生存が証明され、ブタペスト条約に基づく寄託(国際寄託)への移管申請が受領された結果、受託番号「NITE BP-02309」を受けているものである。
【0030】
細菌の一般的な性状として、その菌株としての性質は変異し易いため、乳酸菌0831-07は、先に示した生理学的性状の範囲内に留まらない可能性も有している。また、かかる「変異」には、自然的な変異と人工的な変異の両方を含むことは言うまでもない。
【0031】
以下に、乳酸菌0831-07の培養方法について記載する。乳酸菌0831-07の培養方法は、エンテロコッカス属の微生物に対して行われる一般的な培養方法に準じて行えばよい。
培養は嫌気条件下で行うことが好ましい。培地中の炭素源としては、例えば、D-リボース、D-ガラクトース、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-マンニトール、N-アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、D-セロビオース、D-マルトース、シュクロース、D-トレハロース、ゲンチオビオース、糖蜜、水飴、油脂類等の有機炭素化合物が用いられ、窒素源としては、肉エキス、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、胚芽、大豆粉、尿素、アミノ酸、アンモニウム塩等の有機・無機窒素化合物を用いることができる。
また、塩類は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩等の無機塩類を必要に応じて適宜添加する。更に、ビオチン、ビタミンB1、シスチン、オレイン酸メチル、ラード油等の生育促進物質を添加することが、目的物の産生量を増加させる点で好ましい。
また、シリコン油、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。調製済みの培地としては、例えば、MRS培地、GAM培地等を用いることが好ましい。
【0032】
培養条件は、先に記したようにエンテロコッカス属の微生物に対して行われる一般的な培養条件に準じて行えばよい。液体培養法であれば静置培養が望ましい。小規模であれば蓋付きガラス瓶による静置培養法を用いてもよい。
培養温度は、25℃~43℃間に保つことが好ましく、30℃~42℃で行うことがより好ましい。培養pHは7付近で行うことが好ましい。培養期間は、用いた培地組成、培養温度等により変動するファクターであるが、乳酸菌0831-07の場合、好ましくは12~72時間、より好ましくは24~48時間で充分な量の目的物を確保することができる。
培養して得られたコロニーをピックアップし、再度培地上でシングルコロニー形成を行うことも好ましい。
【0033】
本発明の新規乳酸菌0831-07は、α-グリコシダーゼ阻害活性を有することでスクロース摂取による血糖上昇を抑制する用途に用いられる乳酸菌であることが好ましい。
【0034】
<α-グルコシダーゼ阻害剤>
本発明の新規乳酸菌0831-07は、該乳酸菌自身として、また、該乳酸菌の自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌として、α-グルコシダーゼ阻害活性を有する。
【0035】
「乳酸菌0831-07又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌」、「該乳酸菌の死菌」、「該乳酸菌の処理物」は、何れもα-グルコシダーゼ阻害活性を有する。
ここで、「乳酸菌の処理物」としては、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物が挙げられる。ここで、「乾燥物」としては、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等が挙げられる。
本発明の別の態様は、「前記した本発明の乳酸菌(乳酸菌0831-07又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌)、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とするα-グルコシダーゼ阻害剤であって、該乳酸菌の処理物は、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とするα-グルコシダーゼ阻害剤」である。
【0036】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤は、前記の本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を種々の状態で含むことができる。例えば、懸濁液、乳酸菌体、培養上清液、培地成分を含む状態等が挙げられる。
乳酸菌としては、生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。また、殺菌、すなわち、加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、破砕処理等を施した死菌であってもよい。
【0037】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤中の有効成分である、乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の、α-グルコシダーゼ阻害剤全体に対する含有量は、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができるが、血糖低下剤全体を100質量部としたときに、「乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の合計量」として、0.001~100質量部で含有されることが好ましく、より好ましくは0.01~99質量部、特に好ましくは0.1~95質量部、更に好ましくは1~90質量部で含有される。
【0038】
また、前記有効成分は、何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記α-グルコシダーゼ阻害剤中の各々の有効成分の含有比については、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤は、前記乳酸菌、前記乳酸菌の死菌又は前記乳酸菌の処理物を有効成分として含有するが、それら有効成分に加えて、「その他の成分」を含有することができる。
前記α-グルコシダーゼ阻害剤における、上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容され得る担体等が挙げられる。
かかる担体としては、特に制限はなく、例えば、後述する剤型等に応じて適宜選択される。また、α-グルコシダーゼ阻害剤中の「その他の成分」の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
<血糖低下剤>
本発明の新規乳酸菌0831-07は、該乳酸菌自身として、また、該乳酸菌の自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌として、血糖低下作用を有する。
【0041】
「乳酸菌0831-07又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌」、「該乳酸菌の死菌」、「該乳酸菌の処理物」は、何れも血糖低下作用を有する。
ここで、「乳酸菌の処理物」としては、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物が挙げられる。ここで、「乾燥物」としては、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等が挙げられる。
本発明の別の態様は、「前記した本発明の乳酸菌(乳酸菌0831-07又はその自然的若しくは人工的に変異した乳酸菌)、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を有効成分とする血糖低下剤であって、該乳酸菌の処理物は、乳酸菌の、培養物、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状化物、希釈物、破砕物、殺菌加工物、及び、培養物からの抽出物よりなる群から選ばれる少なくとも1つの処理物であることを特徴とする血糖低下剤」である。
【0042】
本発明の血糖低下剤は、前記の本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌又は該乳酸菌の処理物を種々の状態で含むことができる。例えば、懸濁液、乳酸菌体、培養上清液、培地成分を含む状態等が挙げられる。
乳酸菌としては、生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。また、殺菌、すなわち、加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、破砕処理等を施した死菌であってもよい。
【0043】
本発明の血糖低下剤中の有効成分である、乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の、血糖低下剤全体に対する含有量は、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができるが、血糖低下剤全体を100質量部としたときに、「乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物の合計量」として、0.001~100質量部で含有されることが好ましく、より好ましくは0.01~99質量部、特に好ましくは0.1~95質量部、更に好ましくは1~90質量部で含有される。
【0044】
また、前記有効成分は、何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記血糖低下剤中の各々の有効成分の含有比については、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0045】
本発明の血糖低下剤は、前記乳酸菌、前記乳酸菌の死菌又は前記乳酸菌の処理物を有効成分として含有するが、それら有効成分に加えて、「その他の成分」を含有することができる。
前記血糖低下剤における、上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容され得る担体等が挙げられる。
かかる担体としては、特に制限はなく、例えば、後述する剤型等に応じて適宜選択される。また、血糖低下剤中の「その他の成分」の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0046】
<糖尿病予防治療薬>
前記した本発明の乳酸菌、該乳酸菌の死菌、該乳酸菌の処理物は、血糖低下作用を有すると共に又は有するが故に糖尿病予防治療薬として有用であり、特に、経口投与用の糖尿病予防治療薬として有用である。
従って、本発明の他の態様は、前記の血糖低下剤を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病予防治療薬である。
【0047】
<医薬品;飲食品;健康食品等>
本発明の乳酸菌や該乳酸菌に由来する本発明の血糖低下剤は、医薬品、医薬部外品、一般飲食品、健康食品、粉ミルク等の規格を有する飲食品等に配合することが可能であり、それらの形態によらず様々な医薬品、飲食品等に応用できる。
中でも、前記した本発明の乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品、更にその中でも醗酵乳は、乳酸菌の通常の効果や、本発明に特有の前記効果を発揮し易いために好ましい。
【0048】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤、血糖低下剤や糖尿病予防治療薬の剤型としては、特に制限はなく、例えば、後述するような所望の投与方法に応じて適宜選択することができる。
具体的には、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶剤、懸濁剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散布剤等が挙げられる。
【0049】
前記経口固形剤としては、例えば、前記有効成分に、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0050】
該賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。
前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
該崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
該滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
該着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0051】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0052】
該矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0053】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
該pH調節剤及び該緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0054】
前記軟膏剤としては、例えば、前記有効成分に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
該基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0055】
前記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。前記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シート等が挙げられる。
【0056】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤、血糖低下剤や糖尿病予防治療薬は、例えば、血糖低下を必要とする個体、細菌等に対してあたかも獲得免疫を得ようとする個体等に好適に使用できる。
具体的には、例えば、健康維持や疲労回復を必要とする個体;癌や生活習慣病の予防や治療を必要とする個体;細菌、真菌、ウイルス等に感染した個体;等に投与することにより使用することができる。
【0057】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤、血糖低下剤や糖尿病予防治療薬の投与対象動物としては、特に制限はないが、例えば、ヒト;マウス、ラット等の実験動物;サル;ウマ;ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ等の家畜;ネコ、イヌ等のペット;等が挙げられる。
【0058】
また、前記α-グルコシダーゼ阻害剤、血糖低下剤又は前記糖尿病予防治療薬の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記した剤型等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入等が挙げられる。中でも、経口投与が、簡便で前記効果を発揮する点から好ましい。
【0059】
前記α-グルコシダーゼ阻害剤、血糖低下剤又は前記糖尿病予防治療薬の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である個体の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与量は、有効成分の量として、1mg~30gが好ましく、10mg~10gがより好ましく、100mg~3gが特に好ましい。
また、投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、予防的に投与されてもよいし、治療的に投与されてもよい。
【0060】
本発明の前記乳酸菌、該乳酸菌の死菌若しくは処理物、又は血糖低下剤を含有する飲食品(以下、「本発明の飲食品」と略記する場合がある)中の、乳酸菌、血糖低下剤又は糖尿病予防治療薬の含有量は、特に制限がなく、目的や飲食品の態様(種類)に応じて、適宜選択することができるが、飲食品全体を100質量部としたときに、上記の合計量で、0.001~100質量部で含有することが好ましく、より好ましくは0.01~100質量部、特に好ましくは0.1~100質量部の含量である。
【0061】
また、上記の何れか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記飲食品中の各々の物質の含有量比には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0062】
本発明の飲食品は、血糖低下作用を有する。
本発明の飲食品は、前記した本発明の乳酸菌や血糖低下剤に加えて、更に、「その他の成分」を含有することができる。
【0063】
上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種食品原料等が挙げられる。また、「その他の成分」の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0064】
本発明の飲食品には、ヒトが摂取する飲み物や食品が含まれる。また、本発明の飲食品には、家畜、家禽類、ペット等が摂取するための飲料も含まれる。
【0065】
本発明の乳酸菌は、一般飲食品、健康食品、薬剤、醗酵飲食品、プロバイオティクスの生産等に利用できる。醗酵飲食品としては、醗酵乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、漬物、漬物製造用乳酸菌スターター等としての用途に特に好適である。
【0066】
前記飲食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット、グミ等の菓子類;緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料;醗酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ラクトアイス等の乳製品;野菜飲料、果実飲料、ジャム類等の野菜・果実加工品;スープ等の液体食品;パン類、麺類等の穀物加工品;各種調味料;等が挙げられる。中でも、ヨーグルト、醗酵乳等の乳製品が好ましい。
これらの飲食品の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、通常の各種飲食品の製造方法に応じて、適宜製造することができる。
【0067】
また、前記飲食品は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口固形剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口液剤として製造されたものであってもよい。前記経口固形剤、経口液剤の製造方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記した薬剤の経口固形剤、経口液剤の製造方法にならい、製造することができる。
【0068】
本発明の飲食品は、血糖低下機構の活性化や糖尿病の予防等を目的とした、機能性食品、健康食品等として、特に有用である。
本発明の乳酸菌、該死菌若しくは処理物等を飲食品の製造に使用する場合、製造方法は当業者に周知の方法によって行うことができる。当業者であれば、本発明の乳酸菌の(死)菌体又は処理物を他の成分と混合する工程、成形工程、殺菌工程、醗酵工程、焼成工程、乾燥工程、冷却工程、造粒工程、包装工程等を適宜組み合わせ、目的の飲食品を作ることが可能である。
【0069】
また、本発明の乳酸菌を各種醗酵乳の製造に使用する場合、当業者に周知の方法を用いて製造することができる。例えば、本発明の乳酸菌を醗酵乳に死菌として所要量添加する工程を用いて製造された飲食品や、乳酸菌スターターとして本発明の乳酸菌を用いて醗酵する工程を用いて製造された飲食品が挙げられる。
乳酸菌スターターとして本発明の乳酸菌を用いて醗酵を行う場合、本発明の乳酸菌の培養条件と同様の条件等で行うことができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。「%」は、特に断りのない限り「質量%」を示す。
【0071】
<材料と方法>
<<寄託>>
上述のとおり、実施例において使用する「乳酸菌0831-07」はムカデ(Chilopod)から分離されたものである。
エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)に属する乳酸菌0831-07は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されている(受託番号:NITE P-02309、寄託日2016年7月26日)。
乳酸菌0831-07は、その後、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(NPMD)に、原寄託申請書を提出して、国内寄託(原寄託日:2016年7月26日)から、ブタペスト条約に基づく寄託への移管申請を行い(移管日(国際寄託日):2017年5月16日)、生存が証明され、ブタペスト条約に基づく寄託(国際寄託)への移管申請が受領された結果、受託番号「NITE BP-02309」を受けているものである。
【0072】
<<カイコの種類、飼育条件及び注射条件>>
カイコの受精卵(交雑種ふ・よう×つくば・ね)は愛媛養蚕株式会社から購入した。孵化した幼虫は室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社)を与えて5齢幼虫まで育てた。飼育容器は卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD 大深、中央化学株式会社)を用いた。飼育温度は27℃とした。特に記載しない限り、実験には4齢眠以後絶食させた5齢1日目の幼虫を用いた。
【0073】
<<乳酸菌の培養>>
乳酸菌は、0.5%の炭酸カルシウムを含むMRS寒天培地で、嫌気条件下で培養した。MRS寒天培培地上のコロニーの周辺に透明帯を形成し、グラム陽性の菌を乳酸菌と判定した。分離された乳酸菌に対して、rRNAをコードする遺伝子のシークエンスにより種の同定を行った。乳酸菌の液体培地での増殖は、1~3日間、30℃にて静置条件で行った。
【0074】
<<乳酸菌の糖代謝能試験>>
乳酸菌0831-07株の糖代謝能は、Api 50 CHキット(シスメックス社)を用いて測定した。乳酸菌0831-07株のコロニーをサスペンジョンメディウム(シスメックス社)で懸濁し、マクファーランド濁度2になるように調製した。Apiプレート(シスメックス社)に調整した菌液サンプルを150μL加え、30℃で48時間培養した。培養後に各種糖に対する代謝能を、反応した色を観察して判定した。
【0075】
<<血糖値の定量法>>
カイコの体液は第一腹肢をはさみで切り、採取した。カイコ血液中のグルコース濃度はグルコメーター(Accu-Chek, Roche)により定量した。
【0076】
<<ヨーグルトの製造>>
MRS寒天培地上で増殖させた、乳酸菌0831-07株の菌体0.1gをエーゼでかき取り、5mLの0.9%NaClに懸濁した。菌の懸濁液5mLを、牛乳(明治おいしい牛乳、カートンボックス)1Lに加え、攪拌した。43℃にて、20時間培養した。ゲル化を確認後、4℃で保存した。保存期間は3週間以内とした。
【0077】
<<ヒトを用いた臨床試験>>
被験者に非摂取時とヨーグルト摂取時で、50%(w/v)ショ糖水溶液を用いた糖負荷試験を行い、それぞれの血糖値の推移データを収集した。被験者10名を2群に分け、無作為に非盲検2群2期クロスオーバー法で実施した。被験者を選んだ基準等は以下の通りである。
【0078】
<<<ヒト臨床試験における健常人の選択基準>>>
以下の基準をすべて満たす者を対象とした。
(1)同意取得時の年齢が20歳以上60歳未満の者
(2)健康な成人男女
(3)試験の参加に先立ち、試験製品および試験に関して十分な説明を受け、被験者本人の自由意志による文書同意が得られた者
【0079】
<<<除外基準>>>
以下に抵触する者は、試験に組み入れないこととした。
(1)糖尿病と医師から診断され、現在治療中である者
(2)乳製品に対してアレルギーを有する者
(3)血糖に影響を及ぼす可能性がある医薬品や健康食品を服用している者
(4)慢性疾患を有し、医薬品を常用している者
(5)胃や腸を切除されている者
(6)その他、試験責任(分担)者が当該試験の被験者として不適当と判断した者
【0080】
<<<制限事項>>>
(1)検査前日の夕食は19~23時に済ませ、以降は検査終了まで絶食とする。飲水(水のみ)は可。
(2)検査前日の過剰なアルコールの摂取は禁止とする。
(3)糖負荷1時間前から検査終了までは飲水禁止とする。
(4)検査当日は、起床~検査終了までの間、禁煙とする。
(5)検査中は運動禁止とする。デイルームまたはベッド上にて安静にして過ごす。
【0081】
ヨーグルト有無のショ糖負荷試験を2日間以上の間を空けて実施した。各被験者でのショ糖負荷の実施時刻は、同―となるようにした。被験者の手の指先より、穿刺器具を用いて採取した。ショ糖負荷15分前に、被験者の血糖値を測定した。ヨーグルトの摂取は、ショ糖負荷10分前に行った。200mLを2分以内に摂取させた。その後、50%(w/v)ショ糖水溶液150mLを飲用させた(1分以内に全量を摂取させた)。ショ糖負荷後の15、30、45、60、90、120分において、血糖値を測定した。血糖値は、簡易血糖測定器(アキュチェックアビバ(Roche))を用いて測定した。本臨床試験の実施にあたっては、大崎病院東京ハートセンターの倫理審査委員会による承認を受けた。
【0082】
<<統計学的解析>>
数値データは、平均±標準誤差(mean ± standard error of the mean(SEM))で表示した。有意差はスチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて評価した。
【0083】
実施例1
<スクロース摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇を抑制する乳酸菌の同定>
これまでの研究により、カイコにおいて、α-グリコシダーゼ阻害活性を有する乳酸菌が、ショ糖摂取による体液中のグルコース濃度上昇を抑えることがわかっている(国際出願番号PCT/JP2016/079218、Matsumoto Y et al., Sci Rep., 2016)。
そこで、発明者らが保有する乳酸菌ライブラリー(表1)の中からスクロースの摂食によるカイコの体液中グルコース濃度の上昇を著しく阻害する乳酸菌を探索した。
【0084】
【0085】
5齢1日目のカイコに、10%スクロース餌に表1の各種乳酸菌(餌全体に対して25%)を加えた餌を1時間与えた。その後カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定し、スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図1に示す。
図1中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「Control」は、乳酸菌を含有しない、10%スクロース餌をカイコに与えたときの結果を示す。* はP<0.05であり、 エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0086】
図1の結果、Enterococcus faecalis 0831-07 (Enterococcus faecalis #Ef-1)株が、10%スクロース餌の摂食によるカイコの血糖値の上昇を顕著に抑制した。
本明細書や図面等においては、Enterococcus faecalis 0831-07を、「乳酸菌0831-07」又は「乳酸菌#Ef-1」と略記する場合がある。
【0087】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に乳酸菌0831-07株(餌全体に対して0~50質量%)を加えた餌を1時間与えた。その後カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。結果を
図2に示す。
図2中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)、横軸は乳酸菌0831-07株の含有量(質量%)を示す。**はP<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=5で行った。
【0088】
図2の結果、乳酸菌0831-07株による血糖上昇の抑制効果は、餌に加える菌体量依存的であった。
【0089】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌、又は、「10質量%グルコース餌に乳酸菌0831-07株(餌全体に対して25質量%)を加えた餌」を1時間与えた。カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図3に示す。
図3中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「+Sucrose」は10質量%スクロース餌、「+Glucose」は10質量%グルコース餌を示す。***はP<0.001であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=7で行った。
【0090】
図3の結果、乳酸菌0831-07(乳酸菌#Ef-1)株は、「10質量%スクロース餌の摂食によるカイコの血糖値の上昇」を顕著に抑制した。
なお、グルコースを摂食させた場合の体液中のグルコース濃度の上昇に対しても、乳酸菌0831-07株による抑制効果が認められた。
また、乳酸菌0831-07株は、グルコース又はフルクトースが入った培地で増殖可能であった。
【0091】
次に、5齢1日目のカイコに、10質量%スクロース餌に、「乳酸菌0831-07株(餌全体に対して25質量%)」又は「オートクレーブ処理により熱処理された乳酸菌0831-07株(餌全体に対して25質量%)」を加えた餌を1時間与えた。その後、カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図4に示す。
図4中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「Control」は、乳酸菌を含有しない、10質量%スクロース餌をカイコに与えたときの結果を示す。「-」は、熱処理を行っていない乳酸菌0831-07(#Ef-1)株、「Heat-killed」は、オートクレーブ処理により熱処理された乳酸菌0831-07株を示す。
【0092】
図4の結果、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分は、未処理の生菌の場合と同様に、スクロース餌の摂食によるカイコの体液中のグルコース濃度の上昇を抑制した(
図4)。
よって、乳酸菌0831-07株のスクロース摂食餌による血糖上昇の抑制効果は、乳酸菌0831-07株による熱処理耐性成分によるカイコ腸管のα-グリコシダーゼの阻害によることを示唆した。
【0093】
実施例2
<ヒトのスクロース摂食による血糖値の上昇に対する乳酸菌0831-07株の阻害効果>
次に、乳酸菌0831-07株がヒトにおける食後高血糖を抑制するかを検証するため、乳酸菌0831-07株を用いて牛乳からヨーグルトを製造した。
被験者に対して該ヨーグルト非摂取時とヨーグルト摂取時でのクロスオーバー法で、スクロース(ショ糖)負荷試験を実施した。
ヨーグルト摂取群の被験者は、ショ糖負荷10分前に、ヨーグルト200mLを摂取した。その後、ヨーグルト非摂取群とヨーグルト摂取群の被験者共、50%(w/v)ショ糖水溶液150mLを飲用した。ショ糖負荷後、15、30、45、60、90、120分において血糖値を測定した。血糖値は、指先から微量の血液を採取し、簡易血糖測定器を用いて測定した。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて有意差検定を行った。結果を
図5に示す。
図5中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸は、スクロース摂取(負荷)後の経過時間(分)を示す。* はP<0.05であり、 エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=10で行った。
【0094】
図5の結果、乳酸菌0831-07株を用いて製造したヨーグルトを摂食した被験者は、非摂食群と比較して、スクロース負荷後45分における血糖値が低かった(
図5)。
よって、乳酸菌0831-07株の菌体成分がヒトにおけるスクロース(ショ糖)摂取による血糖値の上昇を抑制する効果を有することを示唆した。
【0095】
実施例3
<血糖低下剤及び糖尿病予防治療薬の製造>
<<錠剤>>
培養した乳酸菌0831-07を、121℃、20分で滅菌処理後、濃縮した。該濃縮させた乳酸菌0831-07の培養液20.0mg、ラクトース40mg、デンプン20mg、及び、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5mgを均一に混合した後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8質量%水溶液を結合剤として湿式造粒法で打錠用顆粒を製造した。これに、滑沢性を与えるのに必要なステアリン酸マグネシウムを0.5mg~1mg加えてから打錠機を用いて打錠し錠剤とした。
【0096】
<<液剤>>
上記濃縮させた乳酸菌0831-07の培養液10.0mgを、2質量%の2-ヒドロキシプロピル-β-サイクロデキストリン水溶液10mLに溶解し注射用液剤とした。
【0097】
実施例4
<乳酸菌死菌添加による、スクロース含有餌の給餌によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇の阻害効果>
10質量%スクロース含有餌に、乳酸菌0831-07(#Ef-1)株又はオートクレーブ処理された乳酸菌0831-07(#Ef-1)株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を餌全体に対して6.3、12.5、25質量%になるように加えた餌を、5齢1日目のカイコに1時間与えた。該カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定した。結果を
図6aに示す。
【0098】
図6a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831-07(#Ef-1)株を含有しない、10質量%スクロース含有餌(Sucrose diet)をカイコに与えたときの結果を示す。「Viable #Ef-1 content」は熱処理を行っていない乳酸菌0831-07株の含有量、「Heat-killed #Ef-1 content」は熱処理された乳酸菌0831-07株の含有量を示す。
***はP<0.001、**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=11~14で行った。
【0099】
図6aの結果、乳酸菌0831-07株による血糖上昇の抑制効果は、餌に加える菌体量に依存して増強することが分かった。また、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分も用量依存的に、スクロース含有餌の摂食によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制した。
【0100】
次に、10質量%グルコース餌に乳酸菌0831-07(#Ef-1)株又はオートクレーブ処理された乳酸菌0831-07(#Ef-1)株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を餌全体に対して25質量%になるように加えた餌を、5齢1日目のカイコに1時間与えた。該カイコの体液を回収し、体液中のグルコース濃度を測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図6bに示す。
【0101】
図6b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831-07(#Ef-1)株を含有しない、10質量%グルコース餌(Glucose diet)をカイコに与えたときの結果を示す。「Viable」は熱処理を行っていない乳酸菌0831-07株を加えた10質量%グルコース餌、「Heat-killed」は熱処理された乳酸菌0831-07株を加えた10質量%グルコース餌をカイコに与えたときの結果を示す。
*はP<0.05、**はP<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=6~7で行った。
【0102】
図6bの結果、熱処理を行っていない乳酸菌0831-07株は、グルコース含有餌の摂食によるカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制した。一方、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体には、グルコース摂食後のカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制する活性は見出されなかった。
【0103】
以上の結果は、乳酸菌0831-07(#Ef-1)株の生菌が、スクロース及びグルコース摂取後のカイコ体液中のグルコース濃度上昇を抑制すること、並びに乳酸菌0831-07(#Ef-1)株の熱処理菌体には、スクロース摂取後のカイコの体液中のグルコース濃度の上昇を抑制する活性が残っていることが示唆された。
【0104】
実施例5
<in vitroでのカイコの腸管における糖移行評価系の実験スキームの構築>
【0105】
次に、乳酸菌0831-07株がスクロース摂食後のカイコの血糖上昇を抑制する機構について、解明を試みた。哺乳動物においてスクロースは、腸管内でα-グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、腸管から吸収されることが知られている。まず、カイコの腸管内のスクロースがα-グリコシダーゼにより分解されてグルコースが腸管外に移行する過程を解析するための実験系の構築を行った。
5齢1日目のカイコの腸管を摘出し、糸で縛って溶液を入れられる状態にした。該カイコの腸管内にスクロース溶液を加えてその溶液が漏れないように糸で縛った。そして、PBS中でインキュベーションし、腸管外に輸送されたグルコースを定量した。
「in vitroでのカイコの腸管における糖移行評価系の実験スキーム」を
図7aに示す。
【0106】
上記実験スキームを用いて、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にアカルボース(40mg/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図7bに示す。
図7b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0107】
図7bの結果、腸管外液中のグルコース濃度は、時間依存に上昇することがわかった(
図7b中、黒丸)。また、該腸管外液中のグルコース濃度の上昇は、α-グリコシダーゼ阻害剤であるアカルボースを加えることにより抑制された(
図7b中、白丸)。この結果から、カイコの腸管内において、スクロースがα-グリコシダーゼによりグルコースとフルクトースに分解され、さらに腸管外に輸送されることが示唆された。
【0108】
実施例6
<乳酸菌0831-07株による、スクロース摂食後の食後高血糖抑制のメカニズム解析>
実施例5で構築した実験スキームを用いて、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液に乳酸菌0831-07株(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図8aに示す。
図8a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0109】
また、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液に乳酸菌0831-07株(31mg、63mg、125mg、250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、60分後の腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図8bに示す。
図8b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸は乳酸菌0831-07(#Ef-1)株の量(mg/mL)を示す。*はP<0.05、**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3~5で行った。
【0110】
図8a及びbの結果、カイコの腸管内のスクロース溶液中に乳酸菌0831-07株の生菌を添加すると、腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制された。また、該抑制効果は、菌体量に依存して増強することが分かった(
図8b)。
【0111】
次に、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図8cに示す。
図8c中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0112】
また、カイコの腸管内にスクロース溶液、又はスクロース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(31mg、63mg、125mg、250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、60分後の腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図8dに示す。
図8d中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はオートクレーブ処理した乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。**はp<0.01であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3~5で行った。
【0113】
図8c及びdの結果、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分を添加しても腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制された。また、該抑制効果は、菌体量に依存して増強することが分かった(
図8d)。
これらの結果から、乳酸菌0831-07株の熱耐性因子は、カイコの腸管内のスクロースが分解されて得られた分子(グルコース)が腸管外に移行する過程を阻害することが示唆された。
【0114】
次に、カイコの腸管内にグルコース溶液、又はグルコース溶液に乳酸菌0831-07株(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図9aに示す。
図9a中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸はインキュベート時間(分)を示す。
【0115】
図9aの結果、カイコの腸管内にグルコース溶液を封入した場合にも時間経過に伴うグルコースの腸管外への透過が見られた。
【0116】
また、カイコの腸管内にグルコース溶液、又はグルコース溶液にオートクレーブ処理した乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)(250mg(湿重量)/mL)を加えたサンプルをカイコの腸管に入れ、27℃でインキュベーションし、経時的に腸管外液のグルコース濃度を測定した。結果を
図9bに示す。
図9b中、縦軸はグルコース濃度(mg/dL)を示す。横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831-07(#Ef-1)株を含有しない、グルコース溶液の結果を示す。「Viable」は熱処理を行っていない乳酸菌0831-07株を加えたグルコース溶液、「Heat-killed」は熱処理された乳酸菌0831-07株を加えたグルコース溶液の結果を示す。*はp<0.05であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3~4で行った。
【0117】
乳酸菌0831-07株の生菌を腸管内に添加すると、腸管外液中のグルコース濃度の上昇が抑制されることが分かった(
図9a及びb)。一方、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分を添加した場合には、腸管外液中のグルコース濃度の上昇は抑制されなかった(
図9b)。
これらの結果から、乳酸菌0831-07株の熱感受性因子が、カイコの腸管内から腸管外へのグルコース輸送を阻害することが示唆された。
【0118】
実施例7
<乳酸菌0831-07株による、カイコ又はラットの腸管のα-グリコシダーゼ活性の阻害>
次に、乳酸菌0831-07株の熱処理画分がカイコ腸管のα-グリコシダーゼ活性を阻害するかを検討した。α-グリコシダーゼの測定は実施例2と同様に行った。
5齢1日目のカイコに通常餌を1日与えた。該カイコの腸管を超音波処理により破砕された細胞破砕画分と乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を加えてα-グリコシダーゼ活性を測定した。結果を
図10aに示す。
図10a中、縦軸は「Produced pNP」の濃度(nmol)を示す。「Produced pNP」の濃度(nmol)が高い程、α-グリコシダーゼ活性が高いことを示す。横軸は、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。
【0119】
図10aの結果、カイコ腸管の細胞破砕画分には、α-グリコシダーゼ活性が認められ、乳酸菌0831-07株の熱処理画分は、この活性を用量依存的に阻害することがわかった。
【0120】
次に、ラット腸管アセトン抽出画分と乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)を加えてα-グリコシダーゼ活性を測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図10bに示す。
図10b中、縦軸は「Produced pNP」の濃度(nmol)を示す。「Produced pNP」の濃度(nmol)が高い程、α-グリコシダーゼ活性が高いことを示す。横軸は、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体画分(Heat-killed #Ef-1)の量(mg/mL)を示す。***はp<0.001であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0121】
図10bの結果、乳酸菌0831-07株の熱処理画分は、ラットの腸管破砕液中のα-グリコシダーゼ活性も用量依存的に阻害した。したがって、乳酸菌0831-07株の熱処理画分が、カイコ及び哺乳動物の腸管内のα-グリコシダーゼ活性を阻害し、腸管内のスクロースがグルコースとフルクトースに分解され、それらが腸管外に移行する過程を阻害されることが示唆された。
【0122】
実施例8
<乳酸菌0831-07株によるグルコース取り込みに対する阻害効果>
Caco-2細胞は、ヒトの腸管由来の培養細胞であり、この細胞のグルコース取り込みを定量する方法が確立されている(Yamabe N., et al., Am J Physiol. Endocrinol. Metab., 2015)。該方法を用いて、乳酸菌0831-07株によるCaco-2細胞のグルコース取り込みに対する阻害効果を検証した。
まず、Caco-2細胞における2-NBDG(2-deoxy-2-[(7-nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)amino]-D-glucose)の取り込み系において、乳酸菌0831-07株の生菌を加えて、Caco-2細胞における傾向の取り込みを測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図11Aに示す。
図11A中、縦軸はグルコース取り込み量を示し、対照(乳酸菌0831-07株の量が0%)を100%としたときの割合を示す。横軸は乳酸菌0831-07株の量(mg/ml)を示す。***はp<0.001であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0123】
図11Aの結果、乳酸菌0831-07株は、Caco-2細胞のグルコース取り込みを阻害していることが分かった。
【0124】
次に、Caco-2細胞における2-NBDG(2-deoxy-2-[(7-nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)amino]-D-glucose)の取り込み系において、乳酸菌0831-07株の生菌と熱処理(Heat-treated)菌体画分を加えて、Caco-2細胞における傾向の取り込みを測定し、スチューデントのt検定を用いて有意差検定を行った。結果を
図11Bに示す。
図11B中、横軸の「No bacteria」は乳酸菌0831-07(#Ef-1)株を含有しないときの結果を示す。「Viable」は熱処理を行っていない乳酸菌0831-07株、「Heat-treated」は熱処理された乳酸菌0831-07株の結果を示す。*はP<0.05であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=3で行った。
【0125】
図11Bの結果、乳酸菌0831-07株におけるCaco-2細胞のグルコース取り込み阻害活性は、菌体の熱処理により低下することが分かった。
【0126】
以上の結果から、乳酸菌0831-07株由来の熱感受性成分は、Caco-2細胞のグルコース取り込みを阻害することが示唆された。乳酸菌0831-07株による食後高血糖抑制効果を示す模式図を
図11Cに示す。
図11C中、"Lumen"は「内腔」、"Degradation"は「分解」、"Transport"は「輸送」、"Outside of intestine"は「腸管外」、"Sucrose"は「スクロース」、"Glucose"は「グルコース」、"Fructose"は「フルクトース」、"E. faecalis (#Ef-1)"は「乳酸菌0831-07」を示す。
【0127】
実施例9
<乳酸菌0831-07株による、ヒトのショ糖摂取による血糖値の上昇に対する抑制効果>
乳酸菌0831-07株がヒトでのショ糖摂取後の血糖値の上昇を抑制する効果があるかを検討した。健常人14人に対して、生菌懸濁液摂取群、熱処理菌体懸濁液摂取群、非摂取群において、ショ糖負荷試験を実施した。被験者は、ショ糖負荷15分前に、生理食塩水で懸濁したサンプル50mLを摂取した。その後、被験者は、50%(w/v)ショ糖水溶液150mLを飲用した。
ショ糖負荷後、0、15、30、45、60、90、120分における被験者の血糖値を各群間で比較した。血糖値は、指先から微量の血液を採取し、簡易血糖測定器を用いて測定した。
図12Aは本実施例の実験スケジュールを示す。まず、熱処理菌体懸濁液摂取群におけるショ糖負荷試験を実施した。その7日後に非摂取群におけるショ糖負荷試験を実施した。更にその7日後に生菌懸濁液摂取群におけるショ糖負荷試験を実施した。
【0128】
図12Bは、被験者個々についての、生菌懸濁液摂取群(Viable #Ef-1)、熱処理菌体懸濁液摂取群(Heat-treated #Ef-1)、非摂取群(Control)における血糖値をショ糖負荷後の時間ごとに示したグラフである。縦軸は血糖値(mg/dL)を示す。*はp<0.05であり、1群当たりn=14である。
図12Cは、生菌懸濁液摂取群(Viable #Ef-1)、熱処理菌体懸濁液摂取群(Heat-treated #Ef-1)、非摂取群(Control)におけるショ糖負荷試験の結果を示す。縦軸は血糖値、横軸はスクロース摂取後の時間(分)を示す。*はp<0.05であり、エラーバーは標準誤差(SEM)を示す。1群当たりn=14で行った。
【0129】
図12B及びCの結果、ショ糖負荷後45、60分において乳酸菌0831-07株の生菌懸濁液摂取群の方が非摂食群と比べて血糖値が低いという結果を得た。一方、熱処理菌体懸濁液摂取群と非摂食群におけるショ糖負荷後の血糖値に差はなかった。
以上の結果から、乳酸菌0831-07株がヒトにおけるショ糖摂取後の血糖値の上昇に対して抑制作用を有すること、並びに血糖上昇抑制因子が熱感受性であることが示された。
【0130】
<実施例のまとめ>
上記実施例より、カイコの評価系を用いて乳酸菌0831-07(乳酸菌#Ef-1)株から作成したヨーグルトが、ヒトのスクロースの摂食による食後高血糖を抑制することを示した。したがって、本実施例で得られた乳酸菌0831-07株は、スクロース(ショ糖)摂取による血糖値の上昇を抑制する機能性乳酸菌である。該乳酸菌を用いて作製されたヨーグルトは、肥満や糖尿病患者やそれらの予備軍のヒトの食事療法をより効果的にすると期待される。
【0131】
食品の有効性の評価をするためには、動物個体を用いた評価が必要である。従来、実験動物として用いられてきたマウスやラット等の哺乳動物は、多数の個体を用いるスクリーニングの実施に高いコストがかかる。これに対してカイコは、大きな飼育スペースを必要とせず、多数の個体を低いコストで飼育可能である。更に動物愛護の観点から、哺乳動物を用いた実験は、国際原則である3R、すなわちReplacement(代替法の開発)、Reduction(動物数の削減)、Refinement(動物の苦痛の削減)に従って実験を行わなければならない(Russell et al., 1959)。
カイコを代替動物として利用することは、3Rの中のRelative Replacementの考えと合致する。カイコを機能性食品の探索段階で使用すれば、犠牲にする哺乳動物の数を減少させ、コストや動物愛護の観点からの問題を解決できると考えられる。
【0132】
また、乳酸菌0831-07株には、カイコ腸管のα-グリコシダーゼを阻害する活性、及び腸管内から腸管外へのグルコースの輸送を阻害する活性が見出された。該菌が有するこれらの活性が、スクロースを摂食したカイコの血糖値の上昇の抑制をもたらすと示唆された。
【0133】
また、乳酸菌0831-07株の熱処理菌体は、カイコのスクロース摂食による食後高血糖を抑制する活性を保持していた。この画分はカイコ腸管のスクロースを分解する酵素であるα-グリコシダーゼ活性を阻害したが、腸管のグルコース輸送は阻害しなかった。したがって、乳酸菌0831-07株の、スクロースを摂取したカイコの血糖上昇を抑える効果は、α-グリコシダーゼ活性の阻害が主な要因であると示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の新規乳酸菌や該処理物は、スクロースの摂食による食後高血糖を抑制する作用を有し、更には、糖尿病予防治療効果もある。よって、本発明の乳酸菌を利用した、血糖低下剤を含有する薬剤や飲食品を提供することができ、医薬品業界、食品業界等で広く利用可能である。
【0135】
本願は、2016年8月16日に出願した日本の特許出願である特願2016-159555に基づくものであり、それらの出願の全ての内容はここに引用し、本願発明の明細書の開示として取り込まれるものである。
【受託番号】
【0136】
NITE BP-02309
【配列表フリーテキスト】
【0137】
配列番号1は、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する未知の菌株の、16S rDNAのほぼ全長にあたる塩基配列である。
【配列表】