(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】カテーテル・シミュレーター用臓器モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/34 20060101AFI20220406BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
G09B23/34
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2018547781
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2017038892
(87)【国際公開番号】W WO2018079711
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2016211217
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017126366
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療機器開発推進研究事業「症例別術前シミュレート型心臓カテーテルシミュレーターの開発研究」に係る委託研究開発
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502359183
【氏名又は名称】株式会社JMC
(73)【特許権者】
【識別番号】503466749
【氏名又は名称】フヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】坂田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大知
(72)【発明者】
【氏名】稲田 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗邦
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-064918(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158222(WO,A1)
【文献】特開2011-027795(JP,A)
【文献】特開2011-027794(JP,A)
【文献】特開2008-237304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,23/28-23/34
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性のある材料によって形成された
模擬血管を有するカテーテル・シミュレーター用臓器モデルにおいて、
前記模擬血管の一部が着脱可能であり、
前記着脱可能な模擬血管の一部は、血管パーツであり、
前記血管パーツの両端は開口を備えており、
前記血管パーツの両端が、前記模擬血管の装着部に接続し、
前記模擬血管の装着部は、前記血管パーツとの接続部となる端部を両端に有し、
前記端部間は、血管パーツを外した状態でも、底部、上部、または側部のいずれか、または一部で連続しており、
前記端部間の距離は血管パーツの長さよりも短い
ことを特徴とするカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項2】
弾力性のある材料によって形成された模擬血管を有するカテーテル・シミュレーター用臓器モデルにおいて、
前記模擬血管の一部が着脱可能であり、
前記着脱可能な模擬血管の一部は、血管パーツであり、
前記血管パーツの両端は開口を備えており、
前記血管パーツの両端が、前記模擬血管の装着部に接続し、
前記血管パーツの内側に挿入される管状体である補助パーツをさらに備え、
前記補助パーツには他の領域より径が小さい病変部が形成されており、
前記補助パーツを前記血管パーツの内側に挿入した状態において、前記病変部の外面と前記血管パーツの内面との間には隙間が生じる
ことを特徴とするカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項3】
前記弾力性のある材料はX線透過性を有しており、
前記着脱可能な模擬血管の一部はX線不透過な部分を備えている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項4】
前記血管パーツの両端を前記模擬血管の装着部に接続した際、前記模擬血管における血管パーツ以外の内径と血管パーツの内径が略一致する
ことを特徴とする
請求項1から3のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項5】
前記模擬血管の装着部は、前記血管パーツとの接続部となる端部を両端に有し、
前記端部の内面は、前記血管パーツの端部の外面に弾性的に密着している
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項6】
前記血管パーツの側壁の厚さは、前記模擬血管における血管パーツ以外の側壁の厚さよりも薄い
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項7】
前記臓器モデルは心臓モデルであり、
前記心臓モデルは心臓本体と、前記心臓本体の表面に沿う冠動脈とを有し、
前記血管パーツは冠動脈パーツである
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項8】
前記心臓モデルは、心臓本体の内部に突出した大動脈と、前記大動脈の先端に位置する大動脈弁を有する
ことを特徴とする請求項7に記載カテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項9】
前記血管パーツの血管壁にあたる部分が二重以上の多重構造を備える
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項10】
前記血管パーツの内側に挿入される管状体である補助パーツをさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項11】
前記補助パーツには他の領域より径が小さい病変部が形成されており、
前記補助パーツを前記血管パーツの内側に挿入した状態において、前記病変部の外面と前記血管パーツの内面との間には隙間が生じる
ことを特徴とする請求項10に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項12】
前記補助パーツまたは前記血管パーツの少なくとも一方は、前記病変部の外面と前記血管パーツの内面との間に生じる隙間に連続する小孔あるいはスリット、もしくはその両方を備える
ことを特徴とする請求項2または11に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【請求項13】
前記補助パーツの端部の一方には、周方向にわたって径方向に突出したフランジが形成されている
ことを特徴とする請求項2または10から12のいずれか1項に記載のカテーテル・シミュレーター用臓器モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル・シミュレーターに用いられる臓器モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場では、心臓等の臓器の検査や治療を行う目的で、腕や足の動脈からカテーテルを挿入し臓器に到達させる方法が用いられている。このカテーテル手技に関しては、操作技術の習得や上達を図るために、種々のシミュレーターが提案されており、コンピュータ・シミュレーターによる訓練に加えて、近年は、実際のカテーテル操作の感触により近い訓練が実現できるシミュレーターが発案されている。
【0003】
本発明者らは、特許文献1において、より実臨床に近い訓練を、より簡便な構成で実現するカテーテル・シミュレーターを提案している。具体的には、冠動脈に生じる不自然な模擬血液(液体)の流れを抑制して、実際の心臓カテーテル操作を行う場合と同じ向きの冠血流(冠動脈内の血流)を再現することによって、より実臨床に近い訓練が可能となる。また、心臓モデルを拍動させるための必要部品(電磁弁、圧力センサ、電磁弁コントローラー等)を極力減らし、X線透視下において実臨床では存在しない異物が写りにくく、かつX線撮像システムを必須としない簡便な構成(目視による訓練も実施可能)を実現している。
【0004】
特許文献1のカテーテル・シミュレーターは、液体が充填される容器と、前記容器の中に液体を満たした状態で設置され、冠動脈及び大動脈が設けられた弾力性のある心臓モデルと、前記心臓モデルの心尖部に接続され前記液体によって心尖部から大動脈に拍動流を生成するポンプとを有する。
【0005】
前記心臓モデルは、弾力性のある材料で形成されており、心尖部側から大動脈へ拍動流が流れ込むと、人体の心臓と同様な鼓動によって冠動脈内に液体が供給される。この際、心臓本体内および冠動脈中に、人体で見られない不自然な流れが生じることはなく、実際の心臓カテーテル操作を行う場合と同じ向きの冠血流(冠動脈内の血流)が再現される特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明によって、より簡便な構成で、より実臨床に近いシミュレーションが実現されるが、前記心臓モデル(心臓と接続する心臓以外の模擬血管も含む)は人工的な継ぎ目を有さず、模擬臓器及び模擬血管が一体的に形成されているため、シミュレーションする際に不都合が生じることがある。
【0008】
具体的には、冠動脈に対するカテーテル手術は、左冠動脈、右冠動脈のいずれも対象であり、患者によって狭窄や閉塞等の発生場所や進行度合いも異なる。実臨床に則したシミュレーションを実施するためには、冠動脈の血管の一部を意図的に狭く形成し狭窄状態を再現する等、症例を模擬した心臓モデルを用いることが好ましいが、種々様々な疾患状態を再現するには、多数のバリエーションの心臓モデルを用意する必要がある。このため、冠動脈の一部のみの設計変更が必要な場合があっても、心臓モデル全体として形成しなおす必要があり、また使用時には、心臓モデル全体を入れ替える作業が求められるため、心臓モデルの製造コスト、保管スペース、作業効率等の多くの点で改良すべき余地があった。
【0009】
さらに従来技術では、訓練終了後に、シミュレーションによって冠動脈に留置されたステント(金属の筒)等を取り外し、心臓モデルを初期状態(シミュレーション前の状態)に戻す場合にも、心臓モデルと模擬血管が一体的に形成されていることから、ステント等の取り外し作業が困難にならざるを得ないという課題もある。
【0010】
通常、冠動脈の狭窄や閉塞等に対するカテーテル・シミュレーションにおいては、カテーテルを冠動脈に導入して患部に到達させた後、ガイドワイヤを進入させ、それに沿ってステントを留置する処置等が行われる。実際の手術では、留置したステントは手術後も放置されるが、シミュレーションでは、訓練終了後に留置したステントを取り外して、心臓モデルを初期状態に戻し、次の訓練に備える必要がある。冠動脈は細く形状が複雑であり、ステントは、この冠動脈の内面を径方向に押し広げるように、冠動脈の内面に密着して、日常生活にも耐え得るように留置されるため、容易には取り外せないのが実情である。
【0011】
本発明は、上記した課題に着目してなされたものであり、模擬臓器の一部または模擬血管の一部が着脱可能なカテーテル・シミュレーター用臓器モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明のカテーテル・シミュレーター用臓器モデルは、弾力性のある材料によって形成されており、その模擬臓器の一部または模擬血管の一部が着脱可能であることを特徴とする。
【0013】
上記の模擬臓器とは、人体の脳、心臓等の臓器の構造と近似するように、弾性を有する材料によってこれらの臓器を成形(例えば、型による成形)したものが該当する。同様に、模擬血管とは、人体の血管構造と近似するように、血管を成形したものが該当する。
臓器モデルが心臓モデルの場合、例えば冠動脈の一部(以下、冠動脈パーツと称する)のみが着脱可能であれば、心臓モデルに対し、冠動脈の狭窄や閉塞等の度合いが異なる冠動脈パーツを複数用意しておき、これらの冠動脈のパーツをシミュレーションの目的に応じて交換することによって、様々な進行度合い、患者固有の状況を再現したシミュレーションが簡便に可能となる。さらに、冠動脈パーツが交換可能な場所を冠動脈上に複数設けることによって、冠動脈パーツと交換場所の組合せによって、多くのシミュレーション・パターンを実現することができるため、多様な症例に合わせた状況を再現することができる。すなわち、様々な症例、患者固有の状況に応じたシミュレーションを簡便に実現できるようになり、従来技術のように心臓モデル全体を着脱交換する場合に比べて、製造コスト、保管スペース、作業効率等の多くの点で効率化が可能となる。
【0014】
さらに、訓練終了後に、シミュレーションによって冠動脈に留置されたステント等を取り外す際、ステントが留置された冠動脈パーツごと取り外せるようになるため、該冠動脈パーツから手元でステントを容易に取り出すことができるようになり、トレーニング者の操作性を格段に向上できる。
【0015】
同様に、臓器モデルが脳モデルの場合には脳血管の一部を、腹部血管モデルの場合には腹部血管の一部を、下肢血管モデルの場合には下肢血管の一部を着脱可能とすることにより、臓器モデル全体を着脱交換する場合に比べて、製造コスト、保管スペース、作業効率等の多くの点で効率化が可能となり、また、シミュレーションによって血管内に留置されたステント等を取り外す際、トレーニング者の操作性を格段に向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカテーテル・シミュレーター用臓器モデルによれば、模擬臓器の一部または模擬血管の一部が着脱可能となる。これにより、様々な症例、患者固有の状況に応じたシミュレーションをより簡便に実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る心臓モデルの一使用形態を示す、カテーテル・シミュレーターの全体斜視図。
【
図2】
図1のシミュレーターに用いられる本発明に係る心臓モデルを示す図。
【
図3】本発明に係る心臓モデルの一実施形態を示す図であり、(A)は全体斜視図、(B)は冠動脈パーツを着脱する部分の拡大説明図。
【
図4】冠動脈パーツが着脱される冠動脈の装着部付近の長手方向断面図であり、(A)は冠動脈パーツを取り外した状態、(B)は装着した状態を示す。
【
図5】本発明に係る補助パーツの一実施形態を示す長手方向断面図であり、(A)は正常モデルパーツ(通常の血流を実現する冠動脈パーツ)の内側に補助パーツを挿入する前の状態、(B)は挿入した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る臓器モデルの実施形態について、心臓モデルを例に説明する。
図1は、本発明に係る心臓モデルの一使用形態を示すカテーテル・シミュレーターの全体斜視図である。最初に
図1を参照して、カテーテル・シミュレーターおよび心臓モデルの使用形態について説明する。
【0019】
図1に示すカテーテル・シミュレーター100は、液体が充填される容器10と、容器の中に液体を満たした状態で設置される心臓モデル30と、心臓モデル30に液体を流入させると共に、心臓モデル30内を通過して容器10に排出された液体を吸い込む拍動流生成ポンプ60(以下、ポンプ60と称する)を有する。
【0020】
前記ポンプ60は、吸込管61および押出管63を介して、容器10と接続される。前記容器10は、図に示すように、上方が開口した直方体形状(容量は6L程度)に形成されており、その一つの側壁には、排出口11b及び導入口11aが形成されている。排出口11bは液体が通過できるように連通孔が形成されており、前記ポンプ60の吸込管61に接続される。ポンプ60が作動すると、容器10内の液体は、排出口11bから吸込管61を通じてポンプ60に吸い込まれる。
【0021】
図1において、前記導入口11aと前記押出管63との間には、内部が二股に分れた管である二股コック70が接続されている。二股コック70は、容器10の導入口11aと接続する容器側開口72a、押出管63と接続するポンプ側開口71a、カテーテルの導入を許容する一端78を備える。導入口11aには、二股コック70の容器側開口72aと連通すると共に、液体を通過させる連通孔が形成されており、二股コック70のポンプ側開口71aに押出管63を接続する。ポンプ60が作動すると、ポンプ60から押し出された液体(拍動流)が、ポンプ側開口71a、容器側開口72aを通過して、導入口11aに達する。導入口11aには、後述するように、心臓モデル30の心尖部の開口31aが接続され、導入口11aを通過した液体は、容器10内に設置された心臓モデル30に流入する。
【0022】
二股コック70の一端78は、後述するカテーテル導入管として使用することができる。導入口11aに二股コック70を接続することによって、このように一つの開口(導入口11a)から、拍動流の流入とカテーテルの導入が両方実現できるようになる。なお、二股コック70は必ずしも必要でなく、導入口11aを二箇所に近接分離した構成とし、一方を押出管63の接続(拍動流の流入)用、他方をカテーテルの導入用としてもよい。また、導入口11aからのカテーテル導入が不要な場合等は、上述した排出口11bと吸込管61の接続と同様に、二股コック70を省いて、導入口11aと押出管63を直接接続してもよい。なお、
図1において、排出口11b及び導入口11aは、1つの側壁に併設されているが、必ずしも一つの側壁に形成されていなくても良い。
【0023】
容器10の側壁には、トレーニング者によって操作されるカテーテルを容器10の外部から導入する導入管50、52を接続する接続部11g、11eが形成されている。接続部11g、11eは、カテーテルが挿通される連通孔が形成されている。接続部11g、11eの位置は、シュミレーションや心臓モデルに応じて変更可能であり、またその数も二つに限定されない。
【0024】
前記容器10内には、液体が充填された状態で、シミュレーションの対象となる心臓モデル30が設置される。液体は取り扱いが容易であって、可視光透過性、X線透過性を備えるものが望ましいが特に限定されない。水、または溶剤を混同した水等を用いることが一般的である。
【0025】
前記心臓モデル30は、前記導入口11a、前記接続部11gに設けられた保持突起に差し込まれることによって容器10内に設置される。保持突起は容器10の内面に向かって突き出るように、先端が先細状に形成されており(図示せず)、心臓モデル30の端部を保持突起に差し込むことによって、心臓モデル30を容器10に容易に接続できると共に、心臓モデル30を液体中に浮遊した状態で保持できる。心臓モデル30が浮遊状態になることで、トレーニング者がカテーテル操作時に、より実臨床に近い感触が得られるようになる。
【0026】
なお、心臓モデル30の設置方法は、導入口11a、接続部11gに設けられた保持突起に差し込む方法に限定されず、前記容器10内に充填された液体中に心臓モデル30が浮遊状態になるように設置できる構成であれば良い。例えば、上記した接続部11eの保持突起により心臓モデル30を設置したり、容器10内に専用のホルダを設け、前記ホルダによって設置される構成等としても良い。
【0027】
以上のように、液体を充填した容器10、心臓モデル30、ポンプ60、吸込管61、押出管63を接続し、ポンプ60を作動させると、ポンプ60にて生成された拍動流は、押出管63、導入口11aを通過して心臓モデル30に流入し、心臓モデル30内を通過後、心臓モデル30の開口から容器10内に流出し、排出口11b、吸込管61を通じてポンプ60に戻る。トレーニング者は、液体(拍動流)がこのようにカテーテル・シミュレーター100を循環した状態で、前記接続部11g、11e、もしくは二股コック70の一端78からカテーテルを導入し、シミュレーションを実施する。
【0028】
次に、
図2を用いて、
図1のカテーテル・シミュレーターに用いられる本発明に係る心臓モデル30の一実施形態を説明する。前記心臓モデル30は、実際の人体の心臓に近い弾力性を有し、カテーテルを挿入した後、その動向が把握できるように透明な材料であって、X線透過性のある材料を用いることが好ましい。例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせたもの等によって形成することができる。なお、トレーニング者が視認できる材料で作製した場合でも、心臓モデルが目視できないように容器10にカバー等を被せたり、或いは、X線による透視をしてモニタ等に表示すれば、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握することも可能である。
【0029】
本発明に係る臓器モデルは、少なくとも模擬臓器または模擬血管を有する。本実施形態の心臓モデル30は、
図2に示すように、人体の心臓を模した模擬臓器である心臓本体30A、および、心臓本体の表面に沿う冠動脈33、心臓と接続する大動脈32、心臓周辺の血管(右鎖骨下動脈34、総頸動脈35、36、および、左鎖骨下動脈37)の各模擬血管を有する。さらに、人体には存在しないがポンプ60から送られてくる液体を流入させるための流入管31が心臓モデル30に設けられている。
人体の心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室を備えているが、前記本体30Aはこのような内部構造は備えておらず、内部は空洞となっている。シミュレーションの種類、目的等によっては、人体の心臓の内部構造の全部または一部を備えたものであってもよい。例えば、内部に大動脈および大動脈弁を備えた構造とすると、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)等のカテーテル・シミュレーションを行うことができる。
【0030】
前記本体30Aの頭側には、人体の心臓と同様、大動脈32が設けられている。また、本体30Aの尾側に形成された心尖部には流入管(端部)31が設けられている。前記流入管31は人体には存在しないが、本実施形態においては、ポンプ60から送られてくる液体(拍動流)を本体30A内に流入させる経路となる。前記流入管31から本体30A内に流入した液体は、一定の方向性をもって空洞内部を通過し、そのままの流れで前記大動脈32に到達する。
【0031】
前記本体30Aの表面には、人体の心臓と同様、細く複雑な形状をもつ多数の冠動脈33が形成されている。前記冠動脈33は、前記大動脈32の根元から分岐しており、本体30Aの表面に沿うように設けられている。なお、本実施形態では、前記冠動脈33の先端領域に排出口33aが形成されており、前記冠動脈33に流入した液体は前記排出口33aから心臓モデル30の外部に排出される。
【0032】
上記した大動脈32の経路上には、人体において大動脈と接続する血管の模擬体が設けられていることが好ましい。これにより、トレーニング者は、より実臨床に近い状況下でシミュレーションを実施できるようになる。本実施形態においては、
図2に示すような模擬血管、具体的には、人体と同様な、右鎖骨下動脈34、総頸動脈35、36、および、左鎖骨下動脈37が設けられている。
【0033】
上記した構成の心臓モデル30を
図1のように設置し、ポンプ60を作動させると、ポンプ60から押し出された液体(拍動流)は開口31aを通過して心臓モデル30の本体30A内(内部空洞)に流入する。流入した液体は、一部が大動脈32の根元から冠動脈33に流入し、残りの部分は大動脈32に沿って流れる。
【0034】
前記冠動脈33に流入した液体は、冠動脈33の先端に設けられた排出口33aから、心臓モデル30の外部に排出され、容器10に充填された液体に合流する。一方、大動脈32に沿って流れる液体は、大動脈32の経路上に設けられた血管である総頸動脈35、36、左鎖骨下動脈37を介して、容器10中に排出され、前記容器10に充填された液体に合流する。冠動脈33、総頸動脈35、36、左鎖骨下動脈37の各先端開口部から容器10に排出された液体は、前記排出口11bから流出し、ポンプ60に循環する。
【0035】
次に、本発明について、
図3および
図4を参照し、本発明の一例である心臓モデル30と冠動脈パーツ40を用いて説明する。
図3は、本発明に係る心臓モデル30の一実施形態を示す図であり、(A)は心臓の頭側から見た全体斜視図、(B)は冠動脈パーツを着脱する部分の拡大説明図である。
【0036】
図3(A)のように、心臓モデル30の冠動脈33は、人体同様、右冠動脈33R、左冠動脈33Lからなり、これらの一部が着脱可能となっている。この着脱可能な冠動脈の一部が冠動脈パーツ40である。なお、冠動脈に限らず、模擬血管の着脱可能な一部を血管パーツと称する。
【0037】
図3(B)に示すように、前記冠動脈パーツ40が着脱される部分の冠動脈33は、二つの端部33bを有し、この二つの端部33bに別体として形成された冠動脈パーツ40を差し込むことによって、冠動脈パーツ40を装着した状態で固定できる。二つの端部33bは、冠動脈33上の任意の位置に1箇所以上設けることができ、それに応じた(長手方向の)長さL40、太さの冠動脈パーツ40を任意に設計できる。実臨床の冠動脈の狭窄や閉塞等は、大動脈32と接続する根元側に近い場所で重要となることが多いため、本実施形態では、
図3(A)に示すように、右冠動脈33Rと左冠動脈33Lの根元に近い位置に形成している。また、患者によっては、複数個所に病変がある場合があるため、
図3(A)の二箇所に限らず、より多くの箇所において冠動脈パーツ40を着脱可能としてもよい。
【0038】
図4は、冠動脈パーツ40および同パーツが着脱される冠動脈33の装着部33e付近の長手方向の断面図である。心臓モデル本体30Aの側壁の上に、冠動脈33が形成されており、
図4(A)は冠動脈パーツ40を取り外した状態を、
図4(B)は装着した状態を示す。冠動脈パーツ40は、冠動脈33と同様な弾力性のある素材によって形成されており、両端に開口40aを有する。これによって、
図4(B)のように装着した際、冠動脈パーツ40の内部が、冠動脈33の内部と連通し、模擬血流となる液体が通過できるようになる。
【0039】
図4(A)に示すように、装着部33eは、冠動脈パーツ40との接続部となる端部33bを両端に有し、端部33bの間は、冠動脈33の上部および上部側の側部の一部が開口33cとなっている。
図4において、開口33cは、心臓モデル本体30Aとの間に冠動脈33の側部33dを残すように形成され、端部33b間は側部33dによって連続しており、これによって冠動脈パーツ40を接続した際に、冠動脈パーツ40を安定して固定、保持することができる。なお、この端部33b間を連続させる部分は、必ずしも側部33dにある必要はなく、底部、上部等、冠動脈33の外壁の一部分であればよい。さらに、二つの端部33bのみによって冠動脈パーツ40が安定して固定、保持できる場合には、端部33b間を連続させる部分は必ずしも必要とされない。
【0040】
図4に示すように、前記端部33bの内面の径(内径)R33bは、端部と繋がる冠動脈33の内径R33より大きい。これによって、
図4(B)のように冠動脈パーツ40を装着した際に、冠動脈パーツ40の内径R40と、前記R33を略一致させることができ、開口40a付近で段差の発生を抑制することができる。内部を液体が通過する場合に、開口40a付近で、液体の不自然な流れが生じたり、抵抗によって液体の流れが悪くなったり、あるいは、ガイドワイヤ、ステント、バルーンカテーテルなどといったカテーテル関連デバイスの通過に支障をきたすことを防ぐことができる(このような通常の血流を実現する冠動脈パーツ40を以下、「正常モデルパーツ」と称する)。
【0041】
冠動脈パーツ40の長さL40が、前記開口33cの長さ(前記端部33b間の距離)L33cより小さい場合、冠動脈パーツ40の両端と装着部33eとの間に隙間が生じてしまい、液体が漏出してしまう。また、前記長さL40が、装着部33eの長さL33eより大きい場合、接続部となる端部33bの外側まで冠動脈パーツ40が達してしまうので、うまく装着できない問題が発生する。このため、前記長さL40が、前記長さL33e以下、前記開口33cの長さL33c以上となるように形成することが好ましい。
【0042】
また、冠動脈パーツ40の外径は、
図4(A)のように取り外した状態において、前記装着部33e端部の内径R33bと同一または僅かに大きく形成されている。これによって、
図4(B)のように、前記装着部33eに冠動脈パーツ40を装着した際、装着部33eの端部33bの内面が、冠動脈パーツ40の外面と弾性的に密着する。
【0043】
以上のように構成することによって、冠動脈パーツ40と装着部33eを弾性的に密着するように装着することができ、連通した冠動脈パーツ40と装着部33eの内部を液体が通過した場合に、液体が漏出することなく、さらに冠動脈パーツ40の開口40a付近で、通過する液体に不自然な流れが生じたり、液体の流れが悪くなったりすることを防ぐことができる。すなわち、液体の流れ(血流)を実臨床に近い状態に維持しつつ、冠動脈の部分を着脱可能とすることができる。
【0044】
一方で、冠動脈33に狭窄や閉塞等がある場合を再現する際には、冠動脈パーツ40の内径R40を部分的に小さくしたり(狭窄を再現)、大きくしたり(瘤化を再現)、内面に傾斜をつけたり、内面の一部に血栓を模した凸部を形成したりする。また、冠動脈パーツ40の側壁(血管壁にあたる部分)を二重以上の多重構造とし、血管壁にあえて隙間を設けると、冠動脈の解離を再現することができる。これによって、通過する液体に、正常状態とは異なる流れをつくり出すことができ、液体の流れ(血流)を実臨床の患者に近い状態に再現しつつ、冠動脈の部分を着脱可能とすることができる(このような正常状態とは異なる血流を実現する冠動脈パーツ40を以下、「病変モデルパーツ」と称する)。
【0045】
また、心臓モデル30、冠動脈パーツ40がX線透過性のある素材で形成されている場合、X線透視下においてもシミュレーションを実施することができるが、この場合、例えば冠動脈パーツ40の内面にX線不透過の素材を塗布、積層すると、X線透視下において前記塗布、積層部分に陰影が生じ、冠動脈の一部が石灰化した状況を再現することができる(このような石灰化を再現する冠動脈パーツ40を以下、「石灰化モデルパーツ」と称する)。
【0046】
さらに、冠動脈パーツ40の内部にステントを留置するシミュレーションを行う場合、ステントの種類、素材等に応じて、冠動脈パーツ40の側壁の厚さD40を冠動脈33の側壁の厚さD33より薄くしてもよい。ステントは、形状記憶合金で形成され、体温に近い温度(30℃~40℃近辺)で拡張し、冠動脈の内径を広げるように留置されるシステムを採用しているもの等があるが、冠動脈33の硬度が高すぎることにより、うまく拡張できなかったり、ステントの形状が湾曲して歪んでしまうことがある。これを解決するために、冠動脈33の側壁の厚さD33を薄くして硬度を低くすると、冠動脈33の形状そのものが維持されないという問題が発生してしまう。このような問題を解決するため、冠動脈パーツ40の厚さD40のみを薄くすると、冠動脈33の形状を保ちつつ、冠動脈パーツ40内部においてステントを支障なく拡張させることができる。
【0047】
前記冠動脈パーツ40は、上記したように狭窄状態等の病変部をそれ単体で形成しても良いが、複数部材を組み合わせることで、以下のように容易に病変部を形成することもできる。この複数部材の組合せの実施形態について、
図5を参照し、冠動脈パーツ40に挿入して使用する補助パーツ44を一例に説明する。
図5(A)は、前記正常モデルパーツ(通常の血流を実現する冠動脈パーツ40)の内側に、補助パーツ44を挿入する様子を示す長手方向断面図、
図5(B)は挿入した状態を示す長手方向断面図である。
【0048】
図示するように、前記補助パーツ44は両端に開口44aを有する管状体であって、管状体の長手方向中央領域に、それ以外の領域より径を小さく絞った病変部44bが形成されている。また、補助パーツ44は、弾力性のある素材によって、その最大外径が冠動脈パーツ40の内径と略同一または僅かに大きく形成されている。このような補助パーツ44を、
図5(A)で示すように冠動脈パーツ40の開口40aから挿入すると、
図5(B)に示すように補助パーツ44の病変部44b以外の外面と冠動脈パーツ40の内面は弾性的に密着し、病変部44bの外面と冠動脈パーツ40の内面には隙間Gが生じる。なお、補助パーツ44はステントが容易に拡張できるよう、冠動脈パーツ40と比べて十分薄い素材で構成されることが好ましい。また、補助パーツ44の形成素材として、冠動脈パーツ40の形成素材より硬質な材料を用いると、薄い形状であっても補助パーツ44の挿入作業が容易に行えるようになる。
【0049】
前記補助パーツ44を冠動脈パーツ40に挿入し、その冠動脈パーツ40を心臓モデル30に装着して、心臓モデル30に模擬血流となる液体を流入させると、冠動脈パーツ40を通過する液体は、その内側の補助パーツ44を通過するようになる。すなわち、冠動脈パーツ40(正常モデルパーツ)に補助パーツ44の病変部44bを組み合せ多重構造にすることによって、冠動脈パーツ40そのものが病変部を有する前記病変モデルパーツと同様に、正常状態とは異なる状況をつくり出すことができる。本例ではパーツを組み合わせた二重構造を挙げたが、たとえばこれらを一体形成してもよく、また三重以上の多重構造であっても良い。
【0050】
上記したように補助パーツ44を正常モデルパーツに挿入して病変部44bを再現すると、例えば、ステントを留置するシミュレーションを行う場合、ステントの拡張がより容易になる利点がある。
図5(B)に示すように、冠動脈パーツ40の内面と病変部44bとの間には隙間Gが生じるが、この隙間Gには、心臓モデル30に流入する液体が流れ込み貯留する。従って、補助パーツ44の病変部44bにステントを留置する際、病変部44bの外側には隙間Gに充填された液体があるため、ステントを拡張すると、前記液体が加圧され、この加圧された液体は補助パーツ44の外面と冠動脈パーツ40の内面との間から冠動脈パーツ40の外部に流出する。これによってステントが容易に拡張し、補助パーツ44の病変部44bにおける内径が拡大するため、実際の手術におけるステント留置に伴う血管の拡張が再現される。なお、隙間Gには空気や伸縮性の素材が充填されていてもよい。
【0051】
また、ステントやバルーン・カテーテルなどのデバイス通過の際、冠動脈パーツ40と補助パーツ44がずれないよう、これらの一部もしくは全体を接着してもよい。この際、隙間Gの液体が抜けにくくなるため、冠動脈パーツ40または補助パーツ44に小孔あるいはスリットを施してもよい(図示せず)。なお、小孔あるいはスリットの設置は、冠動脈パーツ40と補助パーツの接着の有無によらない。
【0052】
なお、上記実施形態において、補助パーツ44の病変部44bは、管状体の長手方向中央領域に形成されているが、その形成場所は中央領域に限られない。また、補助パーツ44の病変部44bは径が小さく絞られた狭窄に限られず、狭窄以外の病状を再現したものでも良い。例えば、冠動脈パーツ40と補助パーツにあえて隙間を設けておくことで、冠動脈の解離を再現することができる。
【0053】
さらに、補助パーツ44を挿入する冠動脈パーツ40は上記した正常モデルパーツに限られない。例えば前記石灰化モデルパーツに、狭窄を再現した補助パーツ44を挿入すると、石灰化と狭窄の両方が生じている病状を容易に再現できるようになる。
【0054】
本実施形態に係る補助パーツ44は、
図5に示すように、その端部の一方に周方向にわたって外側(径方向)に突出したフランジ44cが形成されている。補助パーツ44が冠動脈パーツ40の端部の開口40aから挿入される際、フランジ44cが前記端部に接触すると、挿入の進行が停止されて、補助パーツ44を所定の位置に留めることができる。また、補助パーツ44を冠動脈パーツ40から取り外す際には、フランジ44cを掴んで引き抜くことが可能となる。このように、フランジ44cによって、冠動脈パーツ40に対する補助パーツ44の長手方向の位置合わせ及び着脱が容易になるが、フランジ44cは必ずしも必要とされない。
【0055】
本実施形態に係る補助パーツ44は、長手方向の長さにおいて冠動脈パーツ40と必ずしも一致させる必要はない。例えば、補助パーツ44の一端または両端を冠動脈パーツ40よりも長くすることで、冠動脈33との隙間が小さくなり、液体の漏出を防ぐほか、冠動脈パーツ40装着時の安定性を向上させることができる。
【0056】
また、冠動脈パーツ40に対する補助パーツ44の周方向の位置合わせを目的として、冠動脈パーツ40の端部の一部に切欠部(図示せず)を形成し、その切欠部と係合する突起部(図示せず)を補助パーツ44の外面の一部に形成しても良く、また組み合わせた形状を最初から一体形成しても良い。
【0057】
このように種々様々な冠動脈パーツ40を形成し用意しておくことによって、一つの心臓モデル30を用いながら、様々なシミュレーションを実施できる。例えば、
図3(A)において、左冠動脈33Lの冠動脈パーツ40には前記正常モデルパーツを、右冠動脈33Rの冠動脈パーツ40には前記病変モデルパーツを用いてシミュレーションを行い、次に、左冠動脈33Lの冠動脈パーツ40を石灰化モデルパーツに入れ替えてシミュレーションを行うことができ、冠動脈パーツ40の種類と、装着部33eの位置の組合せによって、複数通りのシミュレーションが簡単に実現できる。ここで、冠動脈パーツ40は、上記したようにそれ単体で病変部を形成しても、補助パーツ44等と組み合わせて複数部材として病変部を形成しても良く、また組み合わせた形状を最初から一体形成しても良い。
【0058】
次に、上記した冠動脈パーツ40を有する心臓モデル30を用いて行うカテーテル・シミュレーションの流れについて説明する。
図1において説明したように、カテーテル・シミュレーター100を設置して、液体を循環させ、
図2において説明したように心臓モデル30内の血流を発生させた状態で、カテーテルの操作訓練を開始する。
【0059】
本実施形態では、カテーテルを腕の動脈から挿入する場合と、鼠径部の動脈から挿入する場合の二通りのシミュレーションが実施できる。トレーニング者が腕の動脈からのカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管52を介して、右鎖骨下動脈34を経由し、大動脈32に到達する。その後、カテーテルを更に挿入して行くと、カテーテルは、前記大動脈32内を通り、本体30Aとの接続部付近で分岐する冠動脈33の導入口(冠動脈入口部に相当)に位置する。この際、トレーニング者は、左右の冠動脈のうち、挿入対象(治療対象)となる冠動脈33を目視しながら入口部を把握し、対象となる冠動脈入口部にカテーテルが係合するように操作を行なう。X線透視下では実臨床の手技に則し、造影剤などを駆使して、冠動脈入口部を探しながらカテーテルを係合させる。続いて治療に要するガイドワイヤを目的の部位、すなわち、治療が必要となる部位(冠動脈パーツ40)の遠位部まで進め、そのガイドワイヤに沿わせてバルーンカテーテルによる血管拡張や、ステントを留置するなどの実際のカテーテル検査・手術(冠動脈造影検査・冠動脈形成術)に則した訓練を行う。
【0060】
一方、トレーニング者が、鼠径部の動脈からのカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管50を介して、大動脈32の尾側先端(鼠径部に相当する部分)から導入される。カテーテルは、前記大動脈32内を通り、前記大動脈32と本体30Aとの接続部付近に設けられた冠動脈33の導入口に到達する。この場合、カテーテルの導入路は大動脈32の経路上のみであるが、その経路上に、総頸動脈35、36および左鎖骨下動脈37との分岐点が存在するため、カテーテルを操作するに際して、各模擬血管との位置関係等を確認しながら冠動脈入口部に相当する前記導入口に到達させる訓練ができる。トレーニング者は、上記腕の血管で行う場合と同様に、治療が必要となる冠動脈パーツ40までカテーテルを進め、カテーテル検査・手術のトレーニングが行える。
【0061】
シミュレーション終了後は、冠動脈パーツ40を心臓モデル30の装着部33eから取り外し、ステントが留置されている場合には、手元で冠動脈パーツ40からステントを取り外すことができる。その後、装着部33eに冠動脈パーツ40を取り付ければ、次のシミュレーションをすぐに実施することができる。
【0062】
以上のように、上述した冠動脈パーツ40によれば、複数パターンの心臓カテーテル手技を、より簡便に、連続的に訓練可能となる。また、上述した心臓モデル30、冠動脈パーツ40は、実際の患者のCT画像に基づいて、或いは、個々の症例に基づいて作製することができるため、症例ごとの術前シミュレーションを行うことができる。
【0063】
以上、本発明に係るカテーテル・シミュレーター用臓器モデルの実施形態について、心臓モデルの場合の一例を示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、ポンプ60は、本発明の使用に際して必ずしも必要なく、容器10の側壁に形成した液体の連通孔を塞ぎ、単に、液体を充填した容器10に心臓モデル30を設置した状態でカテーテルを導入して、より手軽なシミュレーションを行うこともできる。また臓器モデルについては、脳血管、胸腹部の血管、四肢の血管などに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 カテーテル・シミュレーター用容器
11a 導入口
11b 排出口
11e、11g 接続部
30 心臓モデル(臓器モデル)
30A 心臓本体(模擬臓器)
31 流入管
33 冠動脈(模擬血管)
40 冠動脈パーツ(血管パーツ)
40a 冠動脈パーツの開口
44 補助パーツ
44b 病変部
44c フランジ
60 拍動流生成ポンプ
100 カテーテル・シミュレーター