(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ターボ用回転センサ
(51)【国際特許分類】
G01P 3/487 20060101AFI20220407BHJP
F02B 39/16 20060101ALI20220407BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
G01P3/487 D
G01P3/487 C
F02B39/16 H
F02B39/00 G
(21)【出願番号】P 2018165005
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2018100886
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河野 圭
(72)【発明者】
【氏名】鬼本 隆
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄太
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6233455(JP,B1)
【文献】特許第6489032(JP,B2)
【文献】特許第6344590(JP,B2)
【文献】特許第6493821(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0137797(US,A1)
【文献】特許第6452060(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるコンプレッサホイールをコンプレッサハウジングに収容してなるコンプレッサと、を備えたターボチャージャに搭載され、前記コンプレッサホイールの回転速度を検出するターボ用回転センサであって、
前記コンプレッサホイールと一体に回転し、周方向に複数の磁極を有する磁石と、
前記コンプレッサハウジングに取り付けられ、前記磁石による前記コンプレッサホイールの径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子を有するセンサ部と、を備え、
前記第1及び第2の磁気検出素子は、磁界の検出軸が前記コンプレッサホイールの径方向と平行となるように、前記コンプレッサホイールの径方向に並んで配置されて
いるとともに、それぞれの検出軸の方向が同じであり、
前記磁石との距離の違いにより発生する前記第1及び第2の磁気検出素子の検出結果の差分に基づき、前記コンプレッサホイールの回転速度を測定可能である、
ターボ用回転センサ。
【請求項2】
前記センサ部は、前記コンプレッサホイールの径方向に沿って前記コンプレッサハウジングに形成された収容穴に配置されている、
請求項1に記載のターボ用回転センサ。
【請求項3】
前記収容
穴は、前記コンプレッサハウジングの外面に開口すると共に前記コンプレッサハウジングの内面には開口しない止まり穴である、
請求項2に記載のターボ用回転センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ用回転センサ及びターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたターボチャージャの回転速度を検出するターボ用回転センサとして、コンプレッサホイールと一体に回転する磁石を有し、磁石による磁界の変化を磁気検出素子により検出することで、ターボチャージャの回転速度(回転数)を検出するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような磁石と磁気検出素子とを用いたターボ用回転センサでは、磁気検出素子が例えば各種の制御装置に由来する外来の磁界を検出してしまい、この外来の磁界がノイズとなってターボチャージャの回転速度を精度よく検出できない場合がある。よって、外来のノイズの影響を受けにくいターボ用回転センサが望まれる。
【0005】
また、例えば、磁気検出素子を搭載したセンサ部等を吸気通路に突出させると、吸気の妨げとなってターボチャージャの性能が劣化してしまうことや、吸気の圧力がセンサ部に悪影響を及ぼすこと等が考えられるため、センサ部は吸気通路に突出しないように設けられることが望ましいといえる。しかし、この場合、磁気検出素子と磁石との距離が大きくなってしまい、検出精度が低下してしまうおそれがある。よって、センサ部を吸気通路に突出させなくても、ターボチャージャの回転速度を精度よく検出可能なターボ用回転センサが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、外来のノイズの影響を受けにくく、センサ部を吸気通路に突出させなくてもターボチャージャの回転速度を精度よく検出可能なターボ用回転センサ及びターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、回転駆動されるコンプレッサホイールをコンプレッサハウジングに収容してなるコンプレッサと、を備えたターボチャージャに搭載され、前記コンプレッサホイールの回転速度を検出するターボ用回転センサであって、前記コンプレッサホイールと一体に回転し、周方向に複数の磁極を有する磁石と、前記コンプレッサハウジングに取り付けられ、前記磁石による前記コンプレッサホイールの径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子を有するセンサ部と、を備え、第1及び第2の磁気検出素子は、前記コンプレッサホイールの径方向に並んで配置されており、前記磁石との距離の違いにより発生する前記第1及び第2の磁気検出素子の検出結果の差分に基づき、前記コンプレッサホイールの回転速度を測定可能である、ターボ用回転センサを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、回転駆動されるコンプレッサホイールをコンプレッサハウジングに収容してなるコンプレッサと、前記コンプレッサホイールと一体に回転し、周方向に複数の磁極を有する磁石と、前記コンプレッサハウジングに取り付けられ、前記磁石による前記コンプレッサホイールの径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子を有するセンサ部と、を備え、第1及び第2の磁気検出素子は、前記コンプレッサホイールの径方向に並んで配置されており、前記磁石との距離の違いにより発生する前記第1及び第2の磁気検出素子の検出結果の差分に基づき、前記コンプレッサホイールの回転速度を測定可能である、ターボチャージャを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外来のノイズの影響を受けにくく、センサ部を吸気通路に突出させなくてもターボチャージャの回転速度を精度よく検出可能なターボ用回転センサ及びターボチャージャを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るターボ用回転センサを搭載したターボチャージャの概略構成図である。
【
図3】磁石を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【
図4】(a)はセンサ部の斜視図、(b)はセンサモジュールの斜視図である。
【
図5】磁気検出素子と磁石の位置関係を説明する図である。
【
図6】(a)は実施の形態に係るターボ用回転センサの構成を示す概略図であり、(b)は比較例に係るターボ用回転センサの構成を示す概略図である。
【
図7】(a)は実施の形態に係るターボ用回転センサの第1及び第2の磁気検出素子の検出結果ならびにその差分を示すグラフであり、(b)は比較例に係るターボ用回転センサの第1及び第2の磁気検出素子の検出結果ならびにその差分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
(ターボチャージャの説明)
図1は、本実施の形態に係るターボ用回転センサを搭載したターボチャージャの概略構成図である。
【0013】
図1に示すように、ターボチャージャ10は、車両の内燃機関(不図示)の吸気通路13に設けられるコンプレッサ11と、内燃機関の排気通路14に設けられるタービン12と、を備えている。
【0014】
コンプレッサ11は、コンプレッサハウジング15内に、複数のコンプレッサ羽根16を有するコンプレッサホイール17を収容して構成されている。また、タービン12は、タービンハウジング18内に、複数のタービン羽根19を有するタービンホイール20を収容して構成されている。タービン12は、内燃機関からの排気をタービン羽根19で受け、タービンホイール20を回転駆動させるように構成されている。
【0015】
コンプレッサホイール17とタービンホイール20とは、ターボシャフト21により連結されており、コンプレッサホイール17が、タービンホイール20の回転により回転駆動されるように構成されている。これにより、ターボチャージャ10では、内燃機関からの排気により回転駆動させたタービンホイール20の回転に伴ってコンプレッサホイール17が回転駆動され、これにより吸気を圧縮して内燃機関へと送り込むように構成されている。
【0016】
ターボシャフト21は、コンプレッサハウジング15とタービンハウジング18とを連結する軸受ハウジング22に回転可能に支持されている。軸受ハウジング22には、ターボシャフト21の潤滑用および冷却用の潤滑油が供給される油路23が形成されており、油路23に供給される潤滑油による冷却効果により、タービン12側の熱がコンプレッサ11側に伝わることを抑制している。
【0017】
コンプレッサハウジング15は、非磁性であり、かつ導電性を有している。本実施の形態では、コンプレッサハウジング15及びコンプレッサ羽根16を含むコンプレッサホイール17が、アルミニウム(またはアルミニウム合金)により構成されている。なお、コンプレッサホイール17は、樹脂等の非磁性体から構成されていてもよい。
【0018】
図2に示すように、コンプレッサホイール17は、先端側(吸気の流入側、図示上側)から基端側(タービン側、図示下側)にかけて徐々に径が大きくなるように湾曲した側面を有する基体17aの側面に、軸方向に対して傾斜するように複数のコンプレッサ羽根16を一体に形成して構成されている。基体17aの中心部には、ターボシャフト21が挿入され連結される貫通孔17bが形成されている。基体17aは、コンプレッサ羽根16よりも基端側(タービン側)に延出された略円板状の基端部17cを有している。
【0019】
(ターボ用回転センサ1の説明)
ターボチャージャ10には、ターボチャージャ10の回転速度、すなわちコンプレッサホイール17の回転速度を検出するターボ用回転センサ1が搭載されている。
【0020】
ターボ用回転センサ1は、コンプレッサホイール17の吸気側の端部(タービン12と反対側の端部)にコンプレッサホイール17と一体に回転するように設けられた磁石2と、磁石2によるコンプレッサホイール17の径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bを有するセンサ部3と、を備えている。
【0021】
(磁石2の説明)
図3(a)~(c)に示すように、本実施の形態では、磁石2は、ターボシャフト21に螺合され、コンプレッサホイール17をターボシャフト21に固定するためのナットからなる。つまり、本実施の形態における磁石2は、コンプレッサホイール17を固定するためのナットを磁化したものである。
【0022】
磁石2では、コンプレッサホイール17の回転軸を中心とした周方向に2極の異なる磁極(N極及びS極)が着磁されている。磁石2における着磁方向(磁化方向)は、回転軸の軸方向に対して垂直な方向(径方向)となる。これにより、磁石2から径方向により離れた位置まで磁束を到達させることが可能になり、ターボ用回転センサ1の感度を向上させることが可能である。磁石2としては、磁力が大きく、高温時の減磁が少ないものを用いるとよい。本実施の形態では、磁石2としてFe-Cr-Co磁石(鉄クロムコバルト磁石)を用いた。
【0023】
また、本実施の形態では、磁石2は、締結用の工具を係止する工具係止部2aと、工具係止部2aの軸方向における端部に一体に設けられたフランジ状の鍔部2bと、を有している。軸方向に垂直な断面における磁石2の中心部には、磁石2を貫通するネジ穴2cが形成されており、磁石2は全体として環状に形成されている。ターボシャフト21の端部には、外周面にネジ山を形成した雄ネジ部(不図示)が形成されており、この雄ねじ部にネジ穴2cを螺合させることで、磁石2がターボシャフト21及びコンプレッサホイール17に固定されている。
【0024】
ここでは、工具係止部2aが軸方向の一方(吸気側)から見て六角形状に形成されている場合を説明するが、工具係止部2aの形状はこれに限定されるものではない。本実施の形態では、工具係止部2aの最大外径(対向する角部間の距離)d1を8.1mm、軸方向長さL1を2.4mmとした。
【0025】
鍔部2bは、短円柱状(短円筒状)に形成されている。鍔部2bの外径d2は、工具係止部2aの最大外径d1よりも大きい。ここでは、鍔部2bの外径d2を9.0mm、軸方向長さL2を2.0mmとした。磁石2全体の軸方向長さは4.4mmである。
【0026】
(センサ部3の説明)
図1及び
図5に示すように、センサ部3は、コンプレッサハウジング15に形成された収容穴としてのセンサ穴15aに収容されている。なお、
図5では、コンプレッサホイール17の図示を省略している。センサ穴15aは、コンプレッサホイール17の径方向に沿って、コンプレッサハウジング15の磁石2に対応する位置に形成されている。
【0027】
本実施の形態では、センサ穴15aがコンプレッサハウジング15を貫通しないように形成された止まり穴であり、コンプレッサハウジング15の外面に開口すると共にコンプレッサハウジング15の内面には開口していない。これにより、吸気の圧力等によってセンサ部3が損傷してしまうことを抑制可能になり、信頼性が向上する。ここでは、センサ穴15aと吸気通路13との間のコンプレッサハウジング15の底壁151の厚さhを1.0mmとした。なお、センサ部3は、フランジ部が設けられ、このフランジ部をボルト等の固定部材によってコンプレッサハウジング15の外面に固定されてもよい。これにより、コンプレッサハウジング15の底壁151とセンサ部3との間に隙間が形成されるように、センサ部3をセンサ穴15aに収容する場合に位置決めが容易となる。
【0028】
使用環境下におけるセンサ部3とコンプレッサハウジング15を構成する材料の熱膨張差を考慮して、センサ部3の先端部は、コンプレッサハウジング15の底壁151に近接するようにセンサ穴15aに収容されている。センサ部3は、センサ穴15aに収容された状態で、その先端部がコンプレッサホイール17の回転軸を中心とした径方向に磁石2と並ぶように配置されている。なお、センサ部3の先端部は、コンプレッサハウジング15の底壁151に当接されていてもよい。
【0029】
センサ部3の先端部(
図4(a)において符号Aで示される部分)には、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bが収容されている。第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとは、磁界の感度が同じである。また、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、センサ穴15aの深さ方向、すなわちコンプレッサホイール17の径方向に並んで配置されており、第1の磁気検出素子31Aが第2の磁気検出素子31Bよりもセンサ穴15aの底壁151側に配置されている。
【0030】
第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bとしては、GMR(Giant Magneto-Resistive)センサ、ホール素子(ホールIC)、AMR(Anisotropic Magneto-Resistive)センサ、TMR(Tunneling Magneto-resistive)センサ等を用いることができる。本実施の形態では、第1及び第2の磁気検出素子31A,31BがGMRセンサであり、強磁性薄膜(F層)と非強磁性薄膜(NF層)を重ねた多層膜を磁界検出部として有している。
【0031】
第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、センサモジュール32に内蔵されている。センサモジュール32は、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの磁界の検出結果の差分に応じた電気信号を出力する。センサモジュール32は、モールド樹脂からなるセンサハウジング33に覆われている。本実施の形態では、センサハウジング33が略円柱状に形成されている。また、センサハウジング33には、センサ部3をコンプレッサハウジング15に取り付けるための固定用フランジ331が一体に設けられている。なお、センサハウジング33の形状等は一例であり、図示の例に限定されない。
【0032】
センサハウジング33の基端部からは、センサモジュール32からの電気信号を出力するための信号線34が延出されている。センサモジュール32からは、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの磁界の検出結果の差分に応じた電気信号を出力するリード線35が延出されており、このリード線35と信号線34の芯線(不図示)とがセンサハウジング33内にて抵抗溶接等により電気的に接続されている。なお、信号線34の代わりに、コネクタ接続によって電気信号を出力してもよい。
【0033】
センサ部3から延出された信号線34の先端部は、図示しない車両のECU(電子制御ユニット)に接続されている。このECU内には、センサ部3からの電気信号、すなわち第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの磁界の検出結果の差分に応じた電気信号を基に、コンプレッサホイール17の回転速度、すなわちターボチャージャ10の回転速度を演算する演算部4が搭載されている。演算部4は、例えば所定時間にわたって当該電気信号が所定の閾値電圧以上となる回数をカウントし、その回数を基にターボチャージャ10の回転速度を演算する。
【0034】
なお、ここではECUに演算部4が搭載されている場合を説明したが、演算部4がECUと別体で設けられていてもよく、例えば演算部4がモジュール化されて演算部4で演算したターボチャージャ10の回転速度をECUに出力するようにしてもよい。また、演算部4はセンサ部3に搭載されていてもよい。またさらに、第1の磁気検出素子31Aの検出結果ならびに第2の磁気検出素子31Bの検出結果を示す電気信号がそれぞれ信号線によって演算部4に送られ、演算部4において両検出結果の差分をとってもよい。
【0035】
第1の磁気検出素子31Aの検出軸D1及び第2の磁気検出素子31Bの検出軸D2をそれぞれ矢印で示している。第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、この検出軸D1,D2の方向の磁界を検出し、磁界強度に応じた電圧の信号を出力する。検出軸D1,D2は、
図5に一点鎖線で示すコンプレッサホイール17の径方向と平行である。また、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、検出軸D1,D2が同一直線上となるように配置されている。
【0036】
コンプレッサホイール17の径方向におけるコンプレッサホイール17の回転軸線Oと第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bにおける磁界検出部(第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの中心部)との距離をそれぞれg1,g2とすると、g2はg1よりも長く、g1は例えば17.5mm、g2は例えば19.25mmであり、その差であるΔgは1.75mmであるが、この距離の差Δgをより大きくしてもよい。つまり、g2はg1の1.05倍以上、好ましくは1.1倍以上であるとよい。また、外来ノイズの影響が大きく異ならないように、g2はg1の1.5倍以下であるとよい。
【0037】
この距離の違いにより、第2の磁気検出素子31Bで検出される磁界は第1の磁気検出素子31Aで検出される磁界よりも小さくなる。そして、ターボ用回転センサ1は、磁石2との径方向の距離の違いにより発生する第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの検出結果の差分に基づき、コンプレッサホイール17の回転速度を測定可能である。
【0038】
(実験結果)
図6(a)は、本実施の形態に係るターボ用回転センサ1の構成を示す概略図である。
図6(b)は、比較例に係るターボ用回転センサ1Aの構成を示す概略図である。
図6(a)及び(b)に示すように、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、センサモジュール32内において1枚の基板30に搭載されている。それぞれの検出軸D1,D2は、この基板30に平行であり、本実施の形態に係るターボ用回転センサ1では、基板30がコンプレッサホイール17の回転軸線Oに平行な方向に対して垂直に配置される。このターボ回転センサ1において、回転軸線Oと第1の磁気検出素子31Aとの距離g1、及び第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとの間隔Δgは、
図5を参照して説明したものと同じ寸法(g1=17.5mm、Δg=1.75mm、h=1.0mm)である。またコンプレッサハウジング15は、アルミニウム製とした。
【0039】
一方、比較例に係るターボ用回転センサ1Aは、基板30の向きがコンプレッサホイール17の径方向に対して垂直であり、検出軸D1,D2がコンプレッサホイール17の回転軸線Oと平行である。第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、回転軸線Oと平行に並んでいる。このターボ用回転センサ1Aにおいて、回転軸線Oと第1の磁気検出素子31Aとの距離g1、及び第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとの間隔Δgは、
図5を参照して説明したものと同じ寸法(g1=17.5mm、Δg=1.75mm、h=1.0mm)である。またコンプレッサハウジング15は、アルミニウム製とした。
【0040】
図7(a)は、本実施の形態に係るターボ用回転センサ1の第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bのそれぞれの磁界の検出結果(磁束密度)を縦軸に示し、コンプレッサホイール17及び磁石2の基準位置からの回転角度を横軸に示すグラフである。また、
図7(a)では、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bのそれぞれの磁界の検出結果の差分を破線で示している。
図7(b)は、比較例に係るターボ用回転センサ1Aの第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの磁界の検出結果ならびにその差分を
図7(a)と共通の縦軸及び横軸で示すグラフである。
【0041】
図7(a)に示すように、第2の磁気検出素子31Bによって検出される磁束密度は、第1の磁気検出素子31Aによって検出される磁束密度に対して大きく減少している。この減少度合いは、第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとの間隔Δgによって想定される減少度合いよりも大きい。このように磁束密度が大きく減少する原因としては、コンプレッサホイール17及び磁石2が高速回転した際にコンプレッサハウジング15におけるセンサ穴15aの周辺に発生する渦電流が影響していると考えられる。本発明者による検証結果では、コンプレッサホイール17の回転数が20万rpmである場合に、同回転数が数千rpmである場合よりも大きな割合で、第2の磁気検出素子31Bによって検出される磁束密度が第1の磁気検出素子31Aによって検出される磁束密度に対して減少することが確認されている。
図7(a)及び(b)では、コンプレッサホイール17が20万rpmで回転したときの磁界の検出結果を示している。
【0042】
図7(a)及び
図7(b)のグラフに示されるように、本実施の形態に係るターボ用回転センサ1における検出結果の差分は、比較例に係るターボ用回転センサ1Aにおける検出結果の差分よりも振幅が大きくなっている。そのため、外来のノイズの影響を受けたとしても、より正確にコンプレッサホイール17の回転速度を測定可能である。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの検出結果の差分に基づいてコンプレッサホイール17の回転速度を測定可能であるので、例えばタービン12の熱による温度上昇によって第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの感度が変化したとしても、その変化が相殺されてコンプレッサホイール17の回転速度を正確に測定可能である。また、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bは、コンプレッサホイール17の径方向に並んで配置されているので、外来のノイズについても、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの測定結果に与える影響が相殺されてコンプレッサホイール17の回転速度を正確に測定可能である。
【0044】
また、
図7(a)に示すように、コンプレッサホイール17の回転軸線Oと第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bとの距離の差によってこれらの検出結果に十分な差分が表れるので、この差分を所定の閾値電圧と比較することで、コンプレッサホイール17の回転速度を測定可能である。また、第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとの間隔を広げた場合でも、センサ部3の先端部の直径及びセンサ穴15aの内径を大きくする必要がなく、コンプレッサハウジング15の強度の低下を抑えることが可能である。
【0045】
また、本実施の形態によれば、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bを含むセンサ部3の先端部がコンプレッサハウジング15のセンサ穴15aに収容されるので、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bに到達する外来のノイズがコンプレッサハウジング15によって抑制される。さらにまた、センサ部3を収容するセンサ穴15aを、コンプレッサハウジング15を貫通しないように形成することで、吸気の風圧によるセンサ部3のダメージを抑制し、信頼性を向上することができる。
【0046】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0047】
[1]車両の内燃機関の排気通路(14)に設けられて前記内燃機関からの排気により回転駆動されるタービンホイール(20)をタービンハウジング(18)に収容してなるタービン(12)と、前記内燃機関の吸気通路(13)に設けられて前記タービンホイール(20)の回転により回転駆動されるコンプレッサホイール(17)をコンプレッサハウジング(15)に収容してなるコンプレッサ(11)と、を備えたターボチャージャ(10)に搭載され、前記コンプレッサホイール(17)の回転速度を検出するターボ用回転センサ(1)であって、前記コンプレッサホイール(17)と一体に回転し、周方向に複数の磁極を有する磁石(2)と、前記コンプレッサハウジング(15)に取り付けられ、前記磁石(2)による前記コンプレッサホイール(17)の径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)を有するセンサ部(3)と、を備え、第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)は、前記コンプレッサホイール(17)の径方向に並んで配置されており、前記磁石(2)との距離(g1,g2)の違いにより発生する前記第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)の検出結果の差分に基づき、前記コンプレッサホイール(17)の回転速度を測定可能である、ターボ用回転センサ(1)。
【0048】
[2]前記センサ部(3)は、前記コンプレッサホイール(17)の径方向に沿って前記コンプレッサハウジング(15)に形成された収容穴(センサ穴15a)に配置されている、上記[1]に記載のターボ用回転センサ(1)。
【0049】
[3]前記収容孔(センサ穴15a)は、前記コンプレッサハウジング(15)の外面に開口すると共に前記コンプレッサハウジング(15)の内面には開口しない止まり穴である、上記[2]に記載のターボ用回転センサ(1)。
【0050】
[4]車両の内燃機関の排気通路(14)に設けられて前記内燃機関からの排気により回転駆動されるタービンホイール(20)をタービンハウジング(18)に収容してなるタービン(12)と、前記内燃機関の吸気通路(13)に設けられて前記タービンホイール(20)の回転により回転駆動されるコンプレッサホイール(17)をコンプレッサハウジング(15)に収容してなるコンプレッサ(11)と、前記コンプレッサホイール(17)と一体に回転し、周方向に複数の磁極を有する磁石(2)と、前記コンプレッサハウジング(15)に取り付けられ、前記磁石(2)による前記コンプレッサホイール(17)の径方向の磁界を検出可能な第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)を有するセンサ部(3)と、を備え、第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)は、前記コンプレッサホイール(17)の径方向に並んで配置されており、前記磁石(2)との距離の違いにより発生する前記第1及び第2の磁気検出素子(31A,31B)の検出結果の差分に基づき、前記コンプレッサホイール(17)の回転速度を測定可能である、ターボチャージャ(10)。
【0051】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0052】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、第1及び第2の磁気検出素子31A,31Bの検出軸D1,D2が同一直線上となるように両磁気検出素子31A,31B配置されている場合について説明したが、第1の磁気検出素子31Aと第2の磁気検出素子31Bとがセンサモジュール32内で僅かにコンプレッサホイール17の軸方向又は周方向に沿ってずれていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…ターボ用回転センサ
3…センサ部
31A…第1の磁気検出素子
31B…第2の磁気検出素子
11…コンプレッサ
12…タービン
13…吸気通路
14…排気通路
15…コンプレッサハウジング(ハウジング)
15a…センサ穴
17…コンプレッサホイール
20…タービンホイール