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特許7054763スクランブルエッグ様食品及び卵調理品様食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】スクランブルエッグ様食品及び卵調理品様食品
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20220407BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20220407BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20220407BHJP
【FI】
A23J3/00 508
A23J3/16
A23L29/256
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021559005
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022914
【審査請求日】2021-10-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶 聡美
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正記
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/014967(WO,A1)
【文献】特開平09-266758(JP,A)
【文献】国際公開第2019/209939(WO,A2)
【文献】特開平02-238868(JP,A)
【文献】特開昭60-176548(JP,A)
【文献】特開2017-169488(JP,A)
【文献】特開2002-119260(JP,A)
【文献】特許第6963707(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/00
A23J 3/16
A23L 29/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化物と、流動状組成物と、を含有するスクランブルエッグ様食品であって、
前記ゲル化物は、豆乳、オーツミルク及びアーモンドミルクから選ばれる1種以上の植物性ミルクと、アルギン酸カルシウムと、を含み、かつ、アルギン酸カルシウムによってゲル化されており、
前記流動状組成物は、前記植物性ミルクを含み、
前記流動状組成物の含有量が、10%以上50%以下である
スクランブルエッグ様食品。
【請求項2】
前記ゲル化物におけるアルギン酸カルシウムの含有量が、0.2%以上1.2%以下である
請求項1に記載のスクランブルエッグ様食品。
【請求項3】
前記ゲル化物は、さらに、食物繊維を含む
請求項1又は2に記載のスクランブルエッグ様食品。
【請求項4】
前記ゲル化物は、さらに、食用油脂を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載のスクランブルエッグ様食品。
【請求項5】
前記ゲル化物における、前記植物性ミルク由来のタンパク質の含有量が、0.5%以上5.0%以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載のスクランブルエッグ様食品。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のスクランブルエッグ様食品を含む
卵調理品様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクランブルエッグの代替食品として用いることが可能なスクランブルエッグ様食品及びそれを用いた卵調理品様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵を攪拌しながら加熱凝固させたスクランブルエッグは、卵独特の柔らかくて弾力のある食感等から、好んで食されてきた。特に、半熟状のスクランブルエッグは、半熟部分によって滑らかでより柔らかい食感を楽しむことができ、人気の高い卵調理品の一つであった。一方で、近年は、健康への配慮や、植物性食品への嗜好の高まり等から、卵を使用しない卵調理品風の料理を楽しみたいという要望があった。
例えば、特許文献1には、大豆蛋白素材と水との混合物を焼成して製造された、スクランブルエッグ様食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-38318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、スクランブルエッグ特有の、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を実現することが難しかった。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有するスクランブルエッグを再現することが可能なスクランブルエッグ様食品及びそれを用いた卵調理品様食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、植物性食品を用いたスクランブルエッグ様食品について鋭意研究を重ねた。本発明者らは、豆乳、オーツミルク、アーモンドミルクから選ばれる1種以上の植物性ミルクと、アルギン酸及び/又はその塩と、を含むゲル化物を凝固卵の代替物として用い、かつ、そのゲル化物に植物性ミルクを含む流動状組成物を組み合わせることで、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有する半熟状のスクランブルエッグ様食品が得られることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ゲル化物と、流動状組成物と、を含有するスクランブルエッグ様食品であって、
前記ゲル化物は、豆乳、オーツミルク及びアーモンドミルクから選ばれる1種以上の植物性ミルクと、アルギン酸及び/又はその塩と、を含み、
前記流動状組成物は、前記植物性ミルクを含む
スクランブルエッグ様食品、
(2)前記ゲル化物におけるアルギン酸及び/又はその塩の含有量が、0.2%以上1.2%以下である
(1)に記載のスクランブルエッグ様食品、
(3)前記ゲル化物は、さらに、食物繊維を含む
(1)又は(2)に記載のスクランブルエッグ様食品、
(4)前記ゲル化物は、さらに、食用油脂を含む
(1)から(3)のいずれか一つに記載のスクランブルエッグ様食品、
(5)前記ゲル化物における、前記植物性ミルク由来のタンパク質の含有量が、0.5%以上5.0%以下である
(1)から(4)のいずれか一つに記載のスクランブルエッグ様食品、
(6)前記流動状組成物の含有量が、10%以上50%以下である
(1)から(5)のいずれか一つに記載のスクランブルエッグ様食品、
(7)(1)から(6)のいずれか一つに記載のスクランブルエッグ様食品を含む
卵調理品様食品、
である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有するスクランブルエッグを再現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
<スクランブルエッグ様食品>
本発明のスクランブルエッグ様食品は、植物性食品を用いたスクランブルエッグの代替食品であって、ゲル化物と、流動状組成物と、を含有する。本発明のスクランブルエッグ様食品では、ゲル化物の周囲を覆うように流動状組成物が配されているとよく、例えば、ゲル化物と流動状組成物が混ざり合った状態で同一の容器に充填されているとよい。
スクランブルエッグは、卵液を攪拌しながら加熱凝固して調理される食品であって、凝固卵特有の弾力はありつつ、ふんわりとした柔らかい食感を有する。さらに、半熟状に製することで、より柔らかくとろっとした滑らかな食感も楽しむことができる。
本発明のスクランブルエッグ様食品は、卵以外の植物性食品を主に含むにもかかわらず、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ、とろっとした滑らかな食感を有するスクランブルエッグを再現することが可能となる。
本発明のスクランブルエッグ様食品は、卵を含有しない、又は卵を少量含有することが好ましく、卵を含有しないことがより好ましい。「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、上記鳥類の卵由来の原料を、スクランブルエッグ様食品中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
また、本発明のスクランブルエッグ様食品は、0℃以上10℃以下で保存及び流通される冷蔵品でもよいし、-15℃以下で保存及び流通される冷凍品でもよい。
【0011】
<卵調理品様食品>
本発明のスクランブルエッグ様食品は、スクランブルエッグと同様に、そのまま又は料理のトッピングとして用いることもできるし、他の卵調理品様食品の一部として用いることができる。
本発明の卵調理品様食品とは、本発明のスクランブルエッグ様食品を含む調理品であって、卵調理品の代替食品として用いられる食品をいう。卵調理品の例としては、オムレツ、オムライス、親子丼、かつ丼、天津飯、たまご粥、かきたまそば、かきたまうどん、サンドイッチ、ハンバーガー、炒め物等が挙げられる。
本発明の卵調理品様食品は、本発明のスクランブルエッグ様食品を半熟凝固卵部分の代替品として用いて、一般的な卵調理品と同様の調理方法によって製することができる。
【0012】
<ゲル化物>
本発明のゲル化物とは、植物性ミルクと、アルギン酸及び/又はその塩と、を含むゲル状物をいう。本発明のゲル化物は、スクランブルエッグにおける凝固卵の部分に相当する。
本発明のゲル化物の形状は、例えば、膜状、棒状、鱗片状、偏平状、粒状(そぼろ状)等の様々な形状とすることができ、例えば膜状であるとよい。これにより、ゲル化物が厚くて固い食感とならずに、十分にゲル化しつつも柔らかくふんわりとした食感になり得る。また、膜状のゲル化物を適度に重ねて盛り付けることで、本物の半熟状のスクランブルエッグのような、表面にヒダがあって、ふんわりした美味しそうな外観となる。
本発明のスクランブルエッグ様食品は、盛り付けを容易にする等の観点から、一つの容器に、複数のゲル化物を含有するとよい。
【0013】
<ゲル化物における植物性ミルク>
本発明の植物性ミルクとは、植物性素材を原料とする白濁した乳化液をいい、具体的には、豆乳、オーツミルク及びアーモンドミルクから選ばれる1種以上の植物性ミルクをいう。植物性ミルクでは、植物性素材中のタンパク質及び脂質等が乳化されていることで、卵に近いコク深い味わいを得られるとともに、風味が舌に残るような卵と同様の感覚を得ることができる。したがって、植物性ミルクを用いることにより、植物性食品を用いているにもかかわらず、本物のスクランブルエッグと同等又はそれに近い濃厚な風味及び食感を得ることができる。
本発明において、豆乳とは、大豆を原料とする乳化液をいう。すなわち、本発明の豆乳は、日本農林規格(JAS規格)によって分類される「豆乳」、「調製豆乳」及び「豆乳飲料」、並びに、これらに含まれない、大豆を原料として乳化液状に加工した大豆加工品(豆乳加工品等)を含むものとする。
本発明において、オーツミルクとは、オーツ麦を原料とする乳化液をいう。
本発明において、アーモンドミルクとは、アーモンドを原料とする乳化液をいう。
本発明において、植物性ミルクは、原料となる植物性素材を水に浸し、粉砕及び/又は煮た後、固形物と分離することで得ることができる。あるいは、当該植物性ミルクは、飲料又は調理用として一般に流通している市販品を用いることもできる。この場合、植物性ミルクは、主原料となる植物性素材の他、本発明の効果を損なわない範囲で、乳化剤、香料、調味料、油脂等を含んでいてもよい。
本発明の植物性ミルクは、一般に添加物が少なく、流通量が多いことから、豆乳であるとよりよい。
【0014】
<ゲル化物における植物性ミルクの含有量>
本発明において、ゲル化物における植物性ミルクの含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の植物性ミルクの質量の割合をいう。
本発明において、当該植物性ミルクの含有量は、植物性ミルクの上記作用効果を十分に得る観点から、10%以上であるとよく、さらに20%以上であるとよりよい。また、当該植物性ミルクの含有量は、植物性ミルクの含有量を適度に抑えて十分にゲル化させる観点から、50%以下であるとよく、さらに40%以下であるとよりよい。
【0015】
<ゲル化物における植物性ミルク由来のタンパク質の含有量>
本発明において、ゲル化物における植物性ミルク由来のタンパク質の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、植物性ミルクに含まれるタンパク質の質量の割合をいう。
本発明において、当該タンパク質の含有量は、タンパク質特有の旨味を十分に感じさせる観点から、0.1%以上であるとよく、さらに1.0%以上であるとよりよい。また、当該タンパク質の含有量は、植物性ミルクの含有量を適度に抑えて十分にゲル化させる観点から、5.0%以下であるとよく、さらに3.0%以下であるとよりよい。
【0016】
<ゲル化物におけるアルギン酸及び/又はその塩>
本発明のゲル化物は、植物性ミルクを含むゲル化物の原料混合液を十分にゲル化させ、本物のスクランブルエッグの凝固卵部分と同等又は近い食感を実現する観点から、アルギン酸及び/又はその塩を含む。
本発明のアルギン酸とは、マンヌロン酸とグルクロン酸という2種類のウロン酸が直鎖状に重合した多糖類をいう。
また、本発明のアルギン酸の塩とは、アルギン酸中のカルボキシル基の水素がイオンによって置換された塩をいう。本発明に用いられるアルギン酸の塩は、例えば、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸マグネシウム、及びアルギン酸アンモニウムから選ばれる1種以上であるとよい。
さらに、本発明のゲル化物は、少量で短時間にゲル化物の原料混合液をゲル化させ、ゲル化物に適度な弾力を付与する観点から、アルギン酸カルシウムを含んでいるとよりよい。アルギン酸カルシウムは、ゲル強度が高く、アルギン酸カルシウム以外のアルギン酸の塩と、カルシウムイオンとの反応により、生成され得る。つまり、詳細を後述するように、アルギン酸カルシウム以外のアルギン酸の塩を含むゲル化物の原料混合液をカルシウムイオンと反応させることで、アルギン酸カルシウムを徐々に生成させることができる。これにより、加熱によって徐々にゲル化する卵と同様に、ゲル化物の原料混合液を徐々にゲル化させ、成形することができる。したがって、卵と同様の、弾力感が高すぎず柔らかな食感を実現できるとともに、上述の膜状のゲル化物をより形成しやすくなる。この結果、本物のスクランブルエッグのような食感及び外観のゲル化物を得ることができる。
【0017】
<アルギン酸及び/又はその塩の含有量>
本発明において、ゲル化物におけるアルギン酸及び/又はその塩の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合のアルギン酸及び/又はその塩の質量をアルギン酸の質量に換算した割合をいう。なお、複数種のアルギン酸及び/又はその塩を用いている場合のアルギン酸及び/又はその塩の質量は、それらの合計の質量をアルギン酸の質量に換算した割合とする。
当該含有量は、ゲル化物に弾力感を付与する観点から、0.2%以上であるとよく、さらに0.3%以上であるとよりよい。また、当該含有量は、ゲル化物に柔らかさを付与する観点から、1.2%以下であるとよく、さらに0.8%以下であるとよりよい。
【0018】
<ゲル化物における食物繊維>
本発明のゲル化物は、ゼリーのような不自然な弾力感を抑制して、歯で柔らかく切れる自然な食感のゲル化物を得る観点から、さらに、食物繊維を含んでいるとよい。
食物繊維は、一般に、不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維に大別され、本発明においては、いずれの食物繊維も用いることができる。また、食物繊維は、食物繊維を含む食品をゲル化物の原料混合液に添加することによって供給されてもよい。
食物繊維としては、例えば、ペクチン、グルコマンナン、難消化性デキストリン、アラビアガム、難消化性オリゴ糖、マルチトール、セルロース、ヘミセルロース、キチン、サイリウム、大豆繊維等が挙げられる。
食物繊維を含む食品としては、動物由来及び植物由来等の食物繊維を含む食品等が挙げられるが、植物性ミルクとの馴染みの良さから、植物由来の食物繊維を含む食品が好ましく、例えば、野菜や果物を用いたジュース、スムージー、ペースト等が挙げられる。また、植物性ミルクが食物繊維を含む場合は、この植物性ミルク中の食物繊維を、本発明の食物繊維として用いることもできる。
これらの食物繊維又は食物繊維を含む食品は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
特に、植物性ミルクを用いたゲル化物と良好に馴染み、滑らかな食感を得やすいことから、本発明のゲル化物は、植物性ミルクに含まれる大豆、オーツ麦又はアーモンド由来の食物繊維を含むとよりよい。例えば、ゲル化物は、植物性ミルクとして豆乳を含んでいる場合には、大豆由来の食物繊維(大豆繊維)を含んでいるとよい。この食物繊維は、植物性ミルクに含まれるものでもよく、植物性ミルクとは別に添加されたものでもよく、あるいはこれらの双方を含むものでもよい。
ゲル化物における食物繊維の含有量は、スクランブルエッグにより近い食感を得る観点から、0.1%以上がよく、0.5%以上がよりよく、また3%以下がよく、2%以下がよりよい。なお、ゲル化物における食物繊維の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、食物繊維の合計の質量の割合をいう。
【0019】
<ゲル化物における食用油脂>
本発明のゲル化物は、スクランブルエッグにより近いコクと卵らしい口残りを得る観点から、食用油脂をさらに含んでいるとよい。なお、本発明における食用油脂は、植物性ミルクの原材料として添加されている食用油脂を除くものとする。植物性ミルクとは別に食用油脂を添加することで、本物のスクランブルエッグのように、油脂を用いて炒めたような風味とコクを得ることができる。
食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。
これらの食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
特に、食用油脂は、豆乳等の植物性ミルクを用いたゲル化物の風味をより高める観点から、菜種油又は大豆油を含むとよい。
ゲル化物における食用油脂の含有量は、上記好ましいコクと風味を得る観点から、3%以上がよく、5%以上がよりよい。また、当該食用油脂の含有量は、油っぽい食感を抑制する観点から、30%以下がよく、20%以下がよりよい。
なお、ゲル化物における食用油脂の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、食用油脂の合計の質量の割合をいう。
【0020】
<ゲル化物における脂質>
本発明のゲル化物においては、植物性ミルク等にも脂質が含まれているため、好ましいコクや風味を確実に得る観点から、ゲル化物全体における脂質の含有量を以下のように調整することが好ましい。本発明において、ゲル化物における脂質の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、ゲル化物中の脂質の合計の質量の割合をいう。
ゲル化物における脂質の含有量は、上記好ましいコクと風味を得る観点から、3%以上がよく、5%以上がよりよい。また、当該脂質の含有量は、油っぽい食感を抑制する観点から、30%以下がよく、20%以下がよりよい。
【0021】
<ゲル化物における加工澱粉>
本発明のゲル化物は、卵特有のふわっとした食感を得るため、加工澱粉をさらに含んでいるとよい。なお、本発明における加工澱粉は、植物性ミルクの原材料として添加されている加工澱粉を除くものとする。
加工澱粉としては、ヒドロキシプロピル澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉等が挙げられる。
これらの加工澱粉は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ゲル化物における加工澱粉の含有量は、上記好ましい食感を得る観点から、1%以上がよく、2%以上がよりよい。また、当該加工澱粉の含有量は、べたついた食感を抑制する観点から、10%以下がよく、6%以下がよりよい。なお、ゲル化物における加工澱粉の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、加工澱粉の合計の質量の割合をいう。
【0022】
<ゲル化物における増粘多糖類>
本発明のゲル化物は、アルギン酸及び/又はその塩と協働して凝固卵により近い食感を得るため、増粘多糖類をさらに含むことができる。なお、ここでいう増粘多糖類は、アルギン酸及び/又はその塩と、加工澱粉以外の増粘多糖類をいうものとし、植物性ミルクの原材料として添加されている増粘多糖類を除くものとする。
本発明で用いられる増粘多糖類としては、ガム質、ペクチン、カードラン、プルラン、マンナン、寒天等が挙げられる。ガム質としては、例えば、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、脱アシルジェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、タラガム、グアガム、アラビアガム、タマリンドガム、サイリュームシードガム等が挙げられる。
これらの増粘多糖類は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ゲル化物における増粘多糖類の含有量は、上記好ましい食感を得る観点から、0.05%以上であるとよく、さらに0.2%以上であるとよい。また、当該含有量は、ゲル化物の原料混合液の流動性を高めて成形性を高めるとともに、凝固卵に近い柔らかい食感を得る観点から、5%以下であるとよく、さらに1%以下であるとよい。なお、ゲル化物における増粘多糖類の含有量とは、ゲル化物全体の質量を100%とした場合の、増粘多糖類の合計の質量の割合をいう。
【0023】
<ゲル化物/その他の原料>
本発明のスクランブルエッグ様食品は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、
パプリカ色素、ベニバナ色素、カロテン色素、トウガラシ色素、アナトー色素、マリーゴールド色素、ウコン色素等の着色料、
グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、加工澱粉以外の澱粉類、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノール等の糖類(上記加工澱粉、上記増粘多糖類は除く)、
醤油、食塩、胡椒、アミノ酸等の調味料類、
グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、
有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、
保存料、
酸化防止剤、
香料等が挙げられる。
【0024】
<流動状組成物>
本発明の流動状組成物とは、スクランブルエッグ様食品における、流動性を有する液状又はペースト状の部分をいう。流動状組成物により、凝固卵の周囲にとろっとした半熟部分が形成された、半熟状のスクランブルエッグの滑らかな食感をより忠実に再現することができる。さらに、流動状組成物により、ゲル化物の食感の経時的な変化を抑え、スクランブルエッグ様食品のしっとりとした滑らかな食感を維持させることができる。
【0025】
<流動状組成物の含有量>
本発明の流動状組成物の含有量は、スクランブルエッグ様食品全体の質量に対する流動状組成物の質量の割合をいう。流動状組成物の含有量は、10%以上50%以下であるとよく、20%以上40%以下であるとよりよい。流動状組成物の上記含有量が10%以上であることで、スクランブルエッグの半熟感を効果的に得ることができる。流動状組成物の上記含有量が50%以下であることで、スクランブルエッグ様食品が水っぽい食感になることを抑制でき、自然な半熟状のスクランブルエッグ様食品を得ることができる。
なお、流動状組成物の含有量は、以下の方法で測定した値である。
所定量(100g)のスクランブルエッグ様食品を3mmパンチのザルにあけた後、ゲル化物に付着した流動状組成物を清水で洗い流す。1分間静置して水切りを行った後、ザル上に残った部分をゲル化物として、質量を測定する。一方、流動状組成物の質量は上記所定量(100g)からゲル化物の質量を引いて算出する。測定された質量から、スクランブルエッグ様食品の全量である所定量に対する流動状組成物の質量の割合を算出する。この質量の割合を、流動状組成物の含有量とする。
【0026】
<流動状組成物における植物性ミルク>
本発明の流動状組成物は、ゲル化物に含まれる植物性ミルクと同一の種類の植物性ミルクを含む。このような流動状組成物により、ゲル化物との一体感が感じられ、とろっとした自然な半熟状のスクランブルエッグの食感を再現することができる。
本発明において、流動状組成物における植物性ミルク由来のタンパク質の含有量は、ゲル化物との一体感を十分に得る観点から、0.1%以上であるとよく、さらに1.0%以上であるとよい。また、当該タンパク質の含有量は、流動状組成物における植物性ミルクの含有量を適度に調整する観点から、5.0%以下であるとよく、さらに3.0%以下であるとよい。なお、当該タンパク質の含有量は、ゲル化物における植物性ミルク由来のタンパク質の含有量と同様に算出することができる。
【0027】
<流動状組成物におけるアルギン酸及び/又はその塩>
本発明の流動状組成物は、アルギン酸及び/又はその塩を含むゲル化物との一体感を高め、スクランブルエッグの半熟部分に近い粘性を得る観点から、アルギン酸及び/又はその塩を含むとよい。
本発明の流動状組成物は、流動性を得つつも好ましい粘性を得る観点から、アルギン酸カルシウム以外のアルギン酸の塩を含むとよく、さらに、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸マグネシウム、又はアルギン酸アンモニウムから選ばれる1種以上を含むとよく、例えばアルギン酸ナトリウムを含むとよい。
また、本発明の流動状組成物は、ゲル化物との一体感を高める観点から、ゲル化物の原料混合液に含まれるアルギン酸の塩を含むとよりよい。
流動状組成物におけるアルギン酸及び/又はその塩の含有量は、上記作用効果を得る観点から、アルギン酸換算量で0.2%以上であるとよく、0.3%以上であるとよりよく、また、1.2%以下であるとよく、0.8%以下であるとよりよい。なお、当該アルギン酸及び/又はその塩の含有量は、ゲル化物におけるアルギン酸及び/又はその塩の含有量と同様に算出することができる。
【0028】
<流動状組成物における食用油脂>
本発明の流動状組成物は、スクランブルエッグによりコクと卵らしい口残りとを得るとともに、スクランブルエッグの半熟部分により近づける観点から、食用油脂をさらに含んでいるとよい。この食用油脂は、ゲル化物に用いた食用油脂と同一でもよいし、異なっていてもよいが、ゲル化物との一体感を高める観点からは、同一であるとよい。
流動状組成物における食用油脂の含有量は、上記作用効果を得る観点から、3%以上がよく、5%以上がよりよい。また、当該食用油脂の含有量は、油っぽい食感を抑制する観点から、30%以下がよく、20%以下がよりよい。なお、当該食用油脂の含有量は、ゲル化物における食用油脂の含有量と同様に算出することができる。
【0029】
<流動状組成物における脂質>
本発明の流動状組成物においては、ゲル化物と同様に、植物性ミルク等にも脂質が含まれているため、好ましいコクや風味及び半熟感を確実に得る観点から、流動状組成物全体における脂質の含有量を以下のように調整することが好ましい。本発明において、流動状組成物における脂質の含有量とは、流動状組成物全体の質量を100%とした場合の、流動状組成物中の脂質の合計の質量の割合をいう。
流動状組成物における脂質の含有量は、具体的には、3%以上がよく、5%以上がよりよく、また30%以下がよく、20%以下がよりよい。
【0030】
<流動状組成物のその他の原料>
本発明の流動状組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、
パプリカ色素、ベニバナ色素、カロテン色素、トウガラシ色素、アナトー色素、マリーゴールド色素、ウコン色素等の着色料、
ペクチン、グルコマンナン、難消化性デキストリン、アラビアガム、難消化性オリゴ糖、マルチトール、セルロース、ヘミセルロース、キチン、サイリウム、大豆繊維等の食物繊維、
ヒドロキシプロピル澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉等の加工澱粉、
ガム質、ペクチン、カードラン、プルラン、マンナン、寒天等の増粘多糖類、
グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、加工澱粉以外の澱粉類、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノール等の糖類(増粘多糖類及び食物繊維を除く)、
醤油、食塩、胡椒、アミノ酸等の調味料類、
グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、
有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、
保存料、
酸化防止剤、
香料等が挙げられる。
【0031】
<スクランブルエッグ様食品の他の原料>
本発明のスクランブルエッグ様食品は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ゲル化物、流動状組成物以外に、肉類、野菜等の具材等を適宜配合することができる。
【0032】
<スクランブルエッグ様食品の製造方法>
本発明のスクランブルエッグ様食品の製造方法は、一実施形態において、ゲル化物の原料混合液を調製する工程と、当該原料混合液をゲル化させてゲル化物を調製する工程と、流動状組成物を調製する工程と、ゲル化物と流動状組成物とを組み合わせる工程と、を含む。さらに、当該製造方法は、必要に応じて、組み合わされたゲル化物と流動状組成物とを冷凍処理する工程を含んでいてもよい。
【0033】
<ゲル化物の原料混合液の調製工程>
本工程では、植物性ミルクと、アルギン酸及び/又はその塩と、を混合してゲル化物の原料混合液を調製する。上述のように、ゲル化物の原料混合液は、植物性ミルク及びアルギン酸及び/又はその塩以外の原料を含んでいてもよい。原料の混合は、例えば、ミキサーや撹拌機を用いて行うことができる。なお、本工程における混合は、原料混合液のゲル化性を均質化する観点から、原料混合液が均質になるように混合するとよい。
また、この製造方法では、ゲル化の過程で水分量がほぼ変化しないため、本工程における原料混合液の各原料の含有量は、製造後のゲル化物の各成分の含有量と同一となるように設定することができる。
【0034】
<ゲル化物の調製工程>
本工程では、上記原料混合液がゲル化したゲル化物を調製する。
本工程では、例えば、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩を含む上記原料混合液を、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加する。これにより、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが反応してゲル化力の高いアルギン酸カルシウムが生成され、この反応が進むことで原料混合液が徐々にゲル化する。カルシウム溶液中でゲル化したゲル化物は、カルシウム溶液からザルなどによって取り出される。このような方法により、加熱によって徐々にゲル化する卵と似たゲル化の過程を再現することができ、凝固卵の外観及び食感に近いゲル化物を製することができる。
【0035】
<流動状組成物の調製工程>
本工程では、植物性ミルクを含む原料を混合することで、流動状組成物を製する。上述のように、流動状組成物は、植物性ミルク以外の原料を含んでいてもよい。原料の混合は、例えば、ミキサーや撹拌機を用いて行うことができる。なお、本工程における混合は、流動状組成物が均質になるように混合するとよい。
【0036】
<組み合わせ工程>
本工程では、調製したゲル化物と流動状組成物とを組み合わせる。これにより、ゲル化物の周囲を覆う流動状組成物を含むスクランブルエッグ様食品を製することができる。
本工程では、例えば、ゲル化物と流動状組成物とを容器に充填することでこれらを組み合わせることができる。当該容器は、密封可能であるとよく、材質、形状等は特に制限されない。例えば、当該容器としては、プラスチック製等の硬質な容器、並びに、ポリエチレン製及びポリプロピレン製等のパウチ等の軟質な容器等が挙げられる。
容器の充填時には、例えば、ゲル化物と流動状組成物とを混ぜ合わせてから容器に充填してもよい。これにより、サイズが小さい複数のゲル化物が存在する場合でも、ゲル化物と流動状組成物とが容器に充填されやすくなる。あるいは、ゲル化物を容器に充填した後に、流動状組成物を添加してもよいし、流動状組成物を容器に充填した後に、ゲル化物を添加してもよい。
また、組み合わされたゲル化物と流動状組成物に対して、必要に応じて殺菌等の処理を行ってもよい。
【0037】
<冷凍処理工程>
本工程では、組み合わされたゲル化物及び流動状組成物を冷凍処理する。これにより、冷凍品であるスクランブルエッグ様食品が得られる。
本工程の冷凍処理は、例えば、ゲル化物及び流動状組成物を含む容器を、-15℃~-40℃以下の冷凍庫や冷凍室で凍結させることにより行われる。冷凍処理に要する時間は特に限定されない。冷凍処理後のスクランブルエッグ様食品は、例えば-30℃以下の冷凍庫や冷凍室で保存される。
【0038】
<本発明の作用効果>
本発明のスクランブルエッグ様食品は、植物性ミルクとアルギン酸及び/又はその塩とを含むゲル化物を含有する。これにより、植物性ミルクによる濃厚なコクと舌残り感に加えて、アルギン酸及び/又はその塩によって、適度な弾力はありつつもふんわりと柔らかい食感を得ることができる。したがって、上記組成のゲル化物により、スクランブルエッグの凝固卵に近いゲル化物を得ることができる。
さらに、本発明のスクランブルエッグ様食品は、ゲル化物と同種の植物性ミルクを含む流動状組成物を含有する。これにより、流動状組成物がゲル化物と調和して一体化し、作り立ての半熟状のスクランブルエッグのような滑らかな半熟感を得ることができる。さらに、流動状組成物を含むことで、流通及び保管を経ても、ゲル化物のしっとりとした柔らかい食感を維持することができる。
以上より、本発明によれば、植物性食品を用いて、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有するスクランブルエッグを再現することができる。
【0039】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例
【0040】
本発明の各試験例では、異なる組成のスクランブルエッグ様食品のサンプルを製し、各サンプルの食感を評価した。
なお、各表において、「ゲル化物の原料」の欄に記載した「食物繊維(添加)」は、他の原料とは別に添加した食物繊維とする。「ゲル化物中の食物繊維」は、植物性ミルク等の原料に含まれる食物繊維を含む、ゲル化物中の全ての食物繊維の含有量とする。
同様に、各表において、「ゲル化物中の脂質」は、植物性ミルク、食用油脂等の原料に由来する、ゲル化物中の全ての脂質の含有量とする。
【0041】
<試験例1:ゲル化物のアルギン酸及び/又はその塩の含有量についての検討>
[実施例1]
まず、表1に示す組成の原料を攪拌して混合し、ゲル化物の原料混合液を製した。
植物性ミルクとしては、無調製豆乳(大豆固形分8%以上、タンパク質含有量4.2%、脂質含有量3.7%)を用いた。ゲル化物の原料混合液中の当該豆乳由来のタンパク質の含有量は、1.3%であった。アルギン酸及び/又はその塩としては、アルギン酸ナトリウムを用いた。食用油脂としては、大豆油を用いた。増粘多糖類としては、キサンタンガムを用いた。着色料としては、クチナシ色素を用いた。
続いて、3%乳酸カルシウム水溶液中に、上記原料混合液を少量ずつ注入した。これにより、上記原料混合液中のアルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンとを反応させ、ゲル化物を製した。
また、ゲル化物の原料混合液と同一の含有量の原料を攪拌して混合し、無調製豆乳を含む流動状組成物を製した。なお、当該流動状組成物に対しては、乳酸カルシウム水溶液によるゲル化処理を行わなかった。
そして、ゲル化物と流動状組成物とを組み合わせて、実施例1のサンプルを製した。サンプル全体の質量に対する流動状組成物の質量の割合(含有量)は、30%であった。
【0042】
[実施例2~7]
ゲル化物の原料混合液におけるアルギン酸ナトリウムの含有量を表1に示す量とした以外は、実施例1と同様に実施例2~7のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、各サンプルのゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0043】
[比較例1]
ゲル化物の原料混合液にアルギン酸ナトリウムを含有させずに、増粘多糖類を0.8%配合することによって、スクランブルエッグ様食品を製した。増粘多糖類としては、ジェランガムを用いた。また、ゲル化物の製造方法としては、ジェランガムを含むスラリーを90℃以上に加熱後、スラリーを容器に薄膜状に広げて冷却し、薄膜状のゲルを調製した。流動状組成物は、ゲル化物と同一の組成とした。
【0044】
【表1】
【0045】
[食感の評価]
各サンプルの一部を3人のパネラーが食し、それぞれのパネラーが以下の基準に基づいて0点~3点で食感を評価した。そして、3人のパネラーの評価点の平均点に基づいて、各サンプルの食感をA~Dで評価した。その結果を、表1に示す。
以下、評価基準を示す。
(各パネラーの評価基準)
3点:柔らかさと弾力のバランスが大変良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を十分有しており、半熟状のスクランブルエッグと同等で大変好ましい
2点:柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有しており、半熟状のスクランブルエッグにかなり近く、好ましい
1点:柔らかさと弾力のバランス、又は半熟感のある滑らかな食感の少なくとも一方がやや劣っているが、半熟状のスクランブルエッグに近く、問題のない程度である
0点:柔らかさと弾力のバランス、又は半熟感のある滑らかな食感の少なくとも一方を有しておらず、半熟状のスクランブルエッグとは全く異なっており、好ましくない
(食感の評価基準)
A:全パネラーの評価点の平均点が3点である
B:全パネラーの評価点の平均点が2点以上3点未満である
C:全パネラーの評価点の平均点が1点以上2点未満である
D:全パネラーの評価点の平均点が1点未満である
【0046】
[評価結果]
実施例1~7は、いずれもC評価以上であり、柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有していた。
実施例1~7のサンプルは、アルギン酸ナトリウムの含有量が低いほど柔らかく、高いほど固くて弾力がある傾向を有していた。アルギン酸ナトリウムの含有量が0.25%以上1.0%以下である実施例1~5のサンプルは、柔らかさと弾力(固さ)とのバランスが良く、滑らかさも十分で好ましかった。特に、アルギン酸ナトリウムの含有量が0.38%以上0.75%以下である実施例2~4のサンプルは、本物の半熟状のスクランブルエッグと同等の食感を有しており、大変好ましかった。
一方、アルギン酸及び/又はその塩以外でゲル化させた比較例1は、べたつきがあり、半熟状のスクランブルエッグとは全く異なる食感であり、D評価であった。外観も半熟状のスクランブルエッグとは全く異なる塊状であり、好ましくなかった。
【0047】
<試験例2:ゲル化物の植物性ミルクについての検討>
続いて、ゲル化物の植物性ミルクの種類を変更し、あるいは植物性ミルク以外の素材を用いることで、ゲル化物の植物性ミルクについて検討した。
【0048】
[実施例8]
実施例1のゲル化物の原料混合液における豆乳を、オーツミルク(タンパク質含有量0.7%、脂質含有量1.9%)に変更して、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に実施例8のサンプルを製した。流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0049】
[実施例9]
実施例1のゲル化物の原料混合液における豆乳を、アーモンドミルク(タンパク質含有量2.7%、脂質含有量5.4%)に変更して、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に実施例9のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0050】
[実施例10及び11]
実施例1のゲル化物の原料混合液における豆乳を、大豆繊維を含む豆乳加工品(タンパク質含有量6.9%、脂質含有量8.2%)に変更して、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に実施例10及び11のサンプルを製した。なお、原料中の「食物繊維」は、豆乳加工品に含まれている食物繊維(大豆繊維)であった。
【0051】
[比較例2]
実施例1のゲル化物の原料混合液における豆乳を、牛乳(タンパク質含有量3.4%、脂質含有量3.9%)に変更して、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に比較例2のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0052】
[比較例3]
ゲル化物の原料混合液に植物性ミルクを添加せず、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に比較例3のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0053】
[比較例4]
植物性ミルクとして、乳化されていない大豆タンパク質粉末を水に混合して、1.0%の大豆タンパク質粉末を含む分散液を製した。そして、実施例1のゲル化物の原料混合液における豆乳を、上記分散液に変更して、表2に示すような組成とした以外は、実施例1と同様に比較例4のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0054】
【表2】
【0055】
[食感の評価及びその結果]
実施例8~11及び比較例2~4の各サンプルを、試験例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
豆乳、オーツミルク又はアーモンドミルクを含む実施例8~11は、いずれも、本物の半熟状のスクランブルエッグと同等の大変好ましい食感を有しており、A評価であった。
一方、植物性ミルクを用いていない比較例2~4のサンプルは、いずれも、ゲル化物と流動状組成物との一体感が感じられず、半熟状のスクランブルエッグとは異なる不自然な食感であり、D評価であった。また、比較例2では、スクランブルエッグとは異なる牛乳特有の風味が感じられ、違和感があった。比較例3及び4では、スクランブルエッグのような濃厚なコクが感じられず、その点も好ましくなかった。
【0056】
<試験例3:流動状組成物についての検討>
続いて、流動状組成物の含有量を変更し、あるいは流動状組成物の組成を変更することにより、流動状組成物について検討した。
【0057】
[実施例12~16]
植物性ミルクとして、実施例10と同一の豆乳加工品を準備した。そして、この豆乳加工品を用いて、表3に示す原料を攪拌して混合し、ゲル化物の原料混合液を製した。このゲル化物の原料混合液を、実施例1と同様にゲル化させ、ゲル化物を製した。
また、ゲル化物の原料混合液と同一の組成の原料を攪拌して混合し、豆乳加工品を含む流動状組成物を製した。
そして、それぞれ表3に示す含有量の流動状組成物とゲル化物とを組み合わせて、実施例12~16のサンプルを製した。
【0058】
[比較例5]
流動状組成物を含まず、実施例12と同一の組成のゲル化物のみのサンプルを製し、比較例5とした。
【0059】
[比較例6]
実施例12と同一の組成のゲル化物と、植物性ミルクを含まない流動状組成物と、を製した。この流動状組成物の組成は、植物性ミルク以外はゲル化物の原料混合液と同一とし、残余は水で調整した。
そして、30%の流動状組成物と70%のゲル化物とを組み合わせて、比較例6のサンプルを製した。
【0060】
【表3】
【0061】
[食感の評価及びその結果]
実施例12~16及び比較例5~6の各サンプルを、試験例1と同様に評価した。その結果を表3に示す。
植物性ミルクを含む流動状組成物を用いた実施例12~16のサンプルは、いずれも半熟状のスクランブルエッグと同等又はかなり近い食感を有しており、A又はB評価であった。
特に、流動状組成物の含有量が20%以上40%以下の実施例13~15は、半熟感のあって滑らかな食感が特に際立っており、A評価であった。
一方、流動状組成物を含まない比較例5は、ぼそぼそして滑らかさがなく、半熟感が全く感じられなかったため、D評価であった。
また、植物性ミルクを含まない流動状組成物を用いた比較例6のサンプルは、ゲル化物と流動状組成物との一体感を有さず、ざらついた食感であり、D評価であった。
【0062】
<試験例4:ゲル化物のその他の原料についての検討>
続いて、食用油脂、増粘多糖類、食物繊維等の原料について検討した。
【0063】
[実施例17]
食用油脂及び着色料を用いずに、表4に示す組成とした以外は、実施例1と同様に実施例17のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0064】
[実施例18]
食用油脂、増粘多糖類、トレハロース及び着色料を用いずに、表4に示す組成とした以外は、実施例1と同様に実施例18のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0065】
[実施例19]
他の原料とは別に添加した食物繊維としてサイリウムを用いて、食用油脂、増粘多糖類、トレハロース及び着色料を用いずに、表4に示す組成とした以外は、実施例1と同様に実施例19のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0066】
[実施例20]
他の原料とは別に添加した食物繊維として大豆繊維を用いて、表4に示す組成とした以外は、実施例1と同様に実施例20のサンプルを製した。なお、流動状組成物は、ゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0067】
【表4】
【0068】
[食感の評価及びその結果]
実施例17~20の各サンプルを、試験例1と同様に評価した。その結果を表4に示す。
実施例17~20のサンプルは、いずれも、半熟状のスクランブルエッグと同等又は近い食感を有していた。
食用油脂及び着色料を用いていない実施例17のサンプルは、やや滑らかさに欠けていたが、問題ない範囲であった。
食用油脂、増粘多糖類、トレハロース及び着色料を用いていない実施例18のサンプルは、加工澱粉を添加したためか、実施例17よりも若干滑らかさが改善していた。
食物繊維としてサイリウムを用いた実施例19のサンプルは、ゼリーのような不自然な弾力感はなく、適度な柔らかさで好ましい食感を有していた。
食物繊維として大豆繊維を用いた実施例20のサンプルは、不自然な弾力感がないことに加えて、柔らかく、さらにゲル化物と流動状組成物との一体感が感じられて滑らかな食感を有しており、大変好ましかった。
【0069】
<試験例5:脂質についての検討>
ゲル化物の脂質の含有量を変更することで、脂質について検討した。
【0070】
[実施例21~24]
実施例10と同一の豆乳加工品を用い、食用油脂の量を変更して脂質を表5に示す含有量に調整した以外は、実施例1と同様に実施例21~24のサンプルを製した。なお、各サンプルの流動状組成物は、各サンプルのゲル化物の原料混合液と同一の組成とした。
【0071】
【表5】
【0072】
[食感の評価及びその結果]
実施例21~24の各サンプルを、試験例1と同様に評価した。その結果を表5に示す。
脂質の含有量が3.0%以上30.0%以下の実施例21~24のサンプルは、いずれも、本物の半熟状のスクランブルエッグと同等又はかなり近い好ましい食感を有しており、A又はB評価であった。
特に、脂質の含有量が7.0%以上30%以下の実施例22~24のサンプルは、いずれも、本物の半熟状のスクランブルエッグと同等の、濃厚で滑らかな食感を有しており、A評価であった。
【要約】
柔らかさと弾力のバランスが良く、かつ半熟感のある滑らかな食感を有するスクランブルエッグを再現することが可能なスクランブルエッグ様食品及びそれを用いた卵調理品様食品を提供する。本発明のスクランブルエッグ様食品は、ゲル化物と、流動状組成物と、を含有する。前記ゲル化物は、豆乳、オーツミルク及びアーモンドミルクから選ばれる1種以上の植物性ミルクと、アルギン酸及び/又はその塩と、を含む。前記流動状組成物は、前記植物性ミルクを含む。