(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】光学積層フィルムおよび有機エレクトロルミネセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220408BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220408BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220408BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220408BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220408BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220408BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/02
H05B33/14 A
G09F9/30 365
G09F9/00 313
G02F1/1337 520
H01L27/32
(21)【出願番号】P 2019552386
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041561
(87)【国際公開番号】W WO2019093446
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017215825
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018181941
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018182758
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】吉成 伸一
(72)【発明者】
【氏名】村松 彩子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直也
(72)【発明者】
【氏名】渥美 匡広
(72)【発明者】
【氏名】柏木 大助
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-039164(JP,A)
【文献】特開2006-078617(JP,A)
【文献】特開2004-302075(JP,A)
【文献】特開2004-318062(JP,A)
【文献】特開2004-318066(JP,A)
【文献】特開2017-097217(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033468(WO,A1)
【文献】特開2011-186158(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102621617(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも偏光子、位相差層、および、円偏光分離層が、この順に配置され、
前記位相差層の面内レタデーションRe(550)が120~160nmであり、
前記偏光子の透過軸と前記位相差層の遅相軸とが
35°~55°となるように、前記偏光子と前記位相差層とが配置されており、
前記円偏光分離層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であり、前記コレステリック液晶層の面内レタデーションRe(550)が、0.5~3.0nmで
あり、さらに、螺旋の巻き数が1.5~6.5であることを特徴とする光学積層フィルム。
【請求項2】
前記偏光子と前記位相差層とは反射防止フィルムを構成するものであり、さらに、
対角線の長さが7インチ以下の矩形である、請求項1に記載の光学積層フィルム。
【請求項3】
少なくとも偏光子、位相差層、および、円偏光分離層が、この順に配置され、
前記位相差層の面内レタデーションRe(550)が120~160nmであり、
前記偏光子の透過軸と前記位相差層の遅相軸とが
35°~55°となるように、前記偏光子と前記位相差層とが配置されており、
前記円偏光分離層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であり、前記円偏光分離層が、面内に位相差を有し、前記位相差層の遅相軸と前記円偏光分離層の遅相軸とが成す角度が-30°~30°であることを特徴とする光学積層フィルム。
【請求項4】
前記円偏光分離層の螺旋の巻き数が1.5~6.5である、請求項
3に記載の光学積層フィルム。
【請求項5】
前記円偏光分離層が、円盤状液晶化合物を用いて形成される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学積層フィルム。
【請求項6】
前記円偏光分離層の選択反射中心波長が430~480nmの範囲内である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の光学積層フィルム。
【請求項7】
前記円偏光分離層の選択反射中心波長が700~800nmの範囲内である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の光学積層フィルム。
【請求項8】
前記位相差層が逆波長分散性を示す、請求項
1~7のいずれか1項に記載の光学積層フィルム。
【請求項9】
請求項
1~8のいずれか1項に記載の光学積層フィルムと、有機エレクトロルミネセンス発光素子とを有し、
前記位相差層と前記有機エレクトロルミネセンス発光素子とで、前記円偏光分離層を挟むように、前記光学積層フィルムおよび前記有機エレクトロルミネセンス発光素子を配置した、有機エレクトロルミネセンス表示装置。
【請求項10】
前記偏光子と有機エレクトロルミネセンス発光素子との間に配置される部材の厚さ方向のレタデーションRth(550)の合計が-50~50nmである、請求項
9に記載の有機エレクトロルミネセンス表示装置。
【請求項11】
前記偏光子と有機エレクトロルミネセンス発光素子との間に、さらに、Cプレートを有する、請求項
9または10記載の有機エレクトロルミネセンス表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層フィルムおよび有機エレクトロルミネセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代わる表示装置として、有機エレクトロルミネセンス(有機EL(Electro Luminescence)(OLED(Organic Light Emitting Diode))の開発が加速され、例えば、スマートフォンのフラッグシップモデルでも採用が進んでいる。
【0003】
また、有機EL基板は、表面の反射率が高いため、特に明環境では外光を反射してしまい、コントラストを悪化させてしまう。そのため、有機EL表示装置では、偏光子と位相差層(λ/4板)とからなる反射防止フィルムが配置されている。
しかし、この構成では、有機EL基板の反射によるコントラストの悪化は防止できるものの、有機EL素子が発光した光が反射防止フィルムの偏光子で吸収されてしまうため、輝度が低下してしまい、有機EL発光素子等の性能を十分に発揮できていなかった。
【0004】
この問題の改善のため、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を、反射防止フィルムと有機EL発光素子との間に配置することが知られている(特許文献1)。
コレステリック液晶層は、特定の波長域の、特定の円偏光成分を選択的に反射する機能を有することが知られている。そのため、反射防止フィルムと有機EL基板との間に、コレステリック液晶層を配置することで、本来であれば偏光子が吸収してしまう円偏光成分を、コレステリック液晶層で反射して、有機EL基板で、再度、反射することにより、偏光子で吸収されない円偏光成分に変換して、利用できる。その結果、偏光子とλ/4板とからなる反射防止フィルムに起因する輝度低下を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、このようなコレステリック液晶層を有する有機EL表示装置の特性を向上するために、青色の光を選択的に反射するコレステリック液晶層を作製し、上述の構成を有する有機EL表示装置に関して、検討した。
その結果、有機EL表示装置の消光時に正面から観察した際の反射色味が、意図した色味から赤味方向に変化し、かつ、その変化が一定せず色味が安定しないという問題が発生することがわかった。
コレステリック液晶層を設けることで、消光した有機EL表示装置を正面から見た際に、意図した色味からの色味変化を生じることは、予想外の結果である。一方、ディスプレイは、消光時には表示画面の色味は黒に近いことが高級感を感じさせると言われており、消光時における色味は、非常に重要な評価項目である。これに対応して、本発明者らは、この現象をさらに解析し、後述する解決策に至った。
【0007】
本発明は、偏光子、位相差層、および、円偏光分離層を有する光学積層フィルムであって、反射色味に優れた光学積層フィルム、ならびに、この光学積層フィルムを用いる、消光時の反射色味に優れた有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 少なくとも偏光子、位相差層、および、円偏光分離層が、この順に配置され、
位相差層の面内レタデーションRe(550)が120~160nmであり、
偏光子の透過軸と位相差層の遅相軸とが45°±10°となるように、偏光子と位相差層とが配置されており、
円偏光分離層が、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であり、コレステリック液晶層の面内レタデーションRe(550)が、0.5~3.0nmであることを特徴とする光学積層フィルム。
[2] 少なくとも偏光子、位相差層、および、円偏光分離層が、この順に配置され、
位相差層の面内レタデーションRe(550)が120~160nmであり、
偏光子の透過軸と位相差層の遅相軸とが45°±10°となるように、偏光子と位相差層とが配置されており、
円偏光分離層が、液晶性分子を主成分とする、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であり、 円偏光分離層が、面内に位相差を有し、位相差層の遅相軸と円偏光分離層の遅相軸とが成す角度が-30°~30°であることを特徴とする光学積層フィルム。
[3] 円偏光分離層が、円盤状液晶化合物を用いて形成される、[1]または[2]に記載の光学積層フィルム。
[4] 円偏光分離層の選択反射中心波長が430~480nmの範囲内である、[1]~[3]のいずれかに記載の光学積層フィルム。
[5] 円偏光分離層の選択反射中心波長が700~800nmの範囲内である、[1]~[3]のいずれかにに記載の光学積層フィルム。
[6] 位相差層が逆波長分散性を示す、[1]~[5]のいずれかに記載の光学積層フィルム。
[7] 円偏光分離層の螺旋の巻き数が1.5~6.5である、[1]~[6]のいずれかに記載の光学積層フィルム。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の光学積層フィルムと、有機エレクトロルミネセンス発光素子とを有し、
位相差層と有機エレクトロルミネセンス発光素子とで、円偏光分離層を挟むように、光学積層フィルムおよび有機エレクトロルミネセンス発光素子を配置した、有機エレクトロルミネセンス表示装置。
[9] 偏光子と有機エレクトロルミネセンス発光素子との間に配置される部材の厚さ方向のレタデーションRth(550)の合計が-50~50nmである、[8]に記載の有機エレクトロルミネセンス表示装置。
[10] 偏光子と有機エレクトロルミネセンス発光素子との間に、さらに、Cプレートを有する、[8]または[9]に記載の有機エレクトロルミネセンス表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反射色味に優れる光学積層フィルム、ならびに、消光時の反射色味に優れる有機EL表示装置を提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の有機EL表示装置の一例を示す概念図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す有機EL表示装置の作用を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、円偏光分離層の膜厚に対して色味が周期的に変化することを示すグラフである。
【
図4】
図4は、円偏光分離層の膜厚に対してReが周期的に変化することを示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図4のReが低い領域を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光学積層フィルムおよび有機エレクトロルミネセンス表示装置(有機EL表示装置)について、詳細に説明する。
【0012】
なお、本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、各々、波長λにおける面内のレタデーション、および、厚さ方向のレタデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、AxoScan(Axometrics社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×d
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScanで算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
本明細書において、屈折率nx、ny、および、nzは、アッベ屈折率(NAR-4T、アタゴ社製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また、波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ社製)にて、干渉フィルタとの組み合わせで測定できる。
また、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、および、各種光学フィルムのカタログの値を使用できる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、および、ポリスチレン(1.59)。
【0013】
本明細書において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長域または780nmを超える波長域の光である。
またこれに限定されるものではないが、可視光のうち、420~490nmの波長域の光は青光であり、495~570nmの波長域の光は緑光であり、620~750nmの波長域の光は赤光である。
【0014】
<有機エレクトロルミネセンス表示装置>
図1に、本発明の有機エレクトロルミネセンス表示装置の一例を概念的に示す。以下の説明では、有機エレクトロルミネセンス表示装置を、有機EL表示装置とも言う。
図1に示す本発明の有機EL表示装置10は、視認側から、偏光子12、位相差層14、円偏光分離層16、および、有機エレクトロルミネセンス発光素子18を、この順番で有する。以下の説明では、有機エレクトロルミネセンス発光素子を、有機EL発光素子とも言う。
偏光子12および位相差層14によって反射防止フィルムが構成され、偏光子12、位相差層14および円偏光分離層16によって、本発明の光学積層フィルムが構成される。
【0015】
本発明の有機EL表示装置10(光学積層フィルム)では、偏光子12および位相差層14に加え、円偏光分離層16を設け、かつ、円偏光分離層16に、コレステリック液晶層を使用する。本発明は、このような構成を有することにより、有機EL表示装置10における表示の輝度を向上し、また、有機EL素子の長寿命化を図り、かつ、外光の反射も抑制できる。
【0016】
円偏光分離層16は、コレステリック液晶層である。コレステリック液晶層とは、具体的には、コレステリック液晶相を固定してなる、コレステリック液晶構造を有する層である。周知のように、コレステリック液晶層は、特定の波長域の特定の円偏光成分を選択的に反射する。
本発明において、円偏光分離層16の選択反射中心波長には、制限はないが、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)は、青光の波長域に選択反射中心波長を有するのが好ましい。すなわち、円偏光分離層16は、青光を選択的に反射するのが好ましい。具体的には、円偏光分離層16は、選択反射中心波長が430~480nmの範囲内であるのが、より好ましい。
コレステリック液晶層である円偏光分離層16は、選択的な反射域以外における光にとって、コレステリック液晶層相のカイラル性が平均化されるため、実質Cプレートとなる。またコレステリック液晶層は、斜め方向から入射した光は反射域が短波長側に変動する、いわゆる短波シフト(ブルーシフト)をするため、正面で青光反射するものは、斜め方向において可視域ではCプレートとして機能する。
【0017】
また、正面方向は青光のみ反射することで、正面方向の反射防止効果低下を可能なかぎり抑制することができる。これは、輝度への影響がすくないためである。
加えて、有機EL発光素子は、各色を発光するために必要なエネルギーに差があり、一般的に、緑光および赤光の発光素子に比べて、青光の発光素子の劣化が早い。そのため、青色の発光素子の寿命を考慮し、各色の発光素子の発光量(出力)を抑えるなどの対策がなされている。これに対して、青光を選択的に反射する円偏光分離層を設けることにより、青光の輝度を向上して、全体の表示輝度を向上できると共に、劣化の速い青光の発光素子の長寿命化を図り、これにより有機EL表示装置を長寿命化できる。
【0018】
つまり、本発明の有機EL表示装置10においては、偏光子12および位相差層14と、有機EL発光素子18(有機EL発光素子基板)との間に、好ましい態様として、青光を選択反射中心波長とするコレステリック液晶層である円偏光分離層16を配置する。
ここで、位相差層14として、Rth(550)が正の値である+AプレートまたはRth(550)が正の値であるBプレートを用い、また、円偏光分離層16のコレステリック液晶層として、円盤状液晶化合物からなるコレステリック液晶層を使用する組み合わせがより好ましい。円盤状液晶化合物からなるコレステリック液晶層は、反射域以外においては、+Cプレートとして機能するためである。さらに、位相差層14(λ/4フィルム)は逆波長分散性を有することが好ましい。
【0019】
もしくは、位相差層14として、Rth(550)が負の値である-AプレートまたはRth(550)が負の値であるBプレートを用い、円偏光分離層16のコレステリック液晶層として、棒状液晶化合物からなるコレステリック液晶層を使用する組み合わせも好ましい。棒状液晶化合物からなるコレステリック液晶層は、反射域以外においては、-Cプレートとして機能するためである。
Aプレート、Bプレート、および、Cプレートに関しては、後に詳述する。
【0020】
[偏光子]
偏光子12は、一方向の透過軸(偏光軸)を有し、自然光を特定の直線偏光に変換する機能を有する直線偏光子(直線偏光板)であればよい。偏光子12としては、例えば、各種の有機EL表示装置において、反射防止層を構成するために用いられている偏光子が、各種、利用可能である。
従って、偏光子12は、例えば、ヨウ素系偏光板、二色性染料を利用した染料系偏光板、および、ポリエン系偏光板の、いずれも用いることができる。ヨウ素系偏光板、および染料系偏光板は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料を吸着させ、延伸することで作製される。
【0021】
偏光子12と後述する位相差層14とは、偏光子12の透過軸(吸収軸)と、位相差層14の遅相軸とが、45°±5°となるように配置される。
ここで、偏光子12は、透過軸の方向が、位相差層14から出射される直線偏光の方向と一致するように、配置される。あるいは、後述する位相差層14は、円偏光分離層16が反射する円偏光の方向に応じて、自身が出射する直線偏光の方向が偏光子12の透過軸と一致するように、遅相軸の方向を調節される。
【0022】
[位相差層]
(レタデーションRe、Rthの範囲)
本発明における位相差層14の面内レタデーション(Re(λ))は、反射防止の観点で、Re(550)の範囲が120~160nmであり、125~155nmが好ましく、130~150nmがより好ましい。
また、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)との組み合わせを考慮すると、斜め方向の反射防止の観点で、位相差層14の厚さ方向のレタデーションであるRth(550)の絶対値は、50~200nmが好ましく、55~180nmがより好ましく、60~160nmがさらに好ましい。
【0023】
位相差層14は、単層であっても、2層以上の積層体であってもよい。位相差層14は、2層以上の積層体であるのが好ましい。
位相差層14が2層以上の積層体である場合には、それらの複数層を一つの層とみなした時の遅相軸が、偏光子12の透過軸と45°±10°をなせばよい。例えば、偏光子、λ/2板、および、λ/4板を、この順に積層した場合でも、上述した偏光子と位相差層との積層体とみなすことができる。この場合には、偏光子の透過軸に対して、λ/2板の遅相軸を12.5°±10°、λ/4板の遅相軸を72.5°±10°になるように配置すればよく、この角度で配置すれば位相差層の遅相軸の角度が偏光子の吸収軸に対して45°±10°になっているとみなすことができる。すなわち、この場合には、偏光子、λ/2板およびλ/4板が組み合わさることにより、全体として円偏光板となっていればよい。
また、位相差層14は、必要に応じて、ガラス基板および樹脂フィルム等の基板上に形成してもよい。さらに、位相差層14は、必要に応じて、基板の上に形成した配向膜の上に形成してもよい。
【0024】
位相差層14は、λ/4フィルム(λ/4板)であるのが好ましい。特に、λ/4フィルムは、位相差フィルム、ネマチック液晶層またはスメクチック液晶層を形成する液晶モノマーを重合して形成した液晶化合物の少なくともひとつを含む1層以上の位相差フィルムであるのがより好ましい。なお、位相差フィルムは、光学的に略一軸性でも略二軸性でもよい。液晶化合物としては、円盤状液晶および棒状液晶化合物等が例示される。
なかでも、位相差層14は、重合性液晶化合物を用いて形成されたλ/4フィルムであるのがさらに好ましい。
位相差フィルムに関しては、フィルム製造時の搬送方向への延伸または搬送方向と垂直方向への延伸、および、搬送方向に対し45°±10°延伸した位相差フィルムを選択することができる。生産性を考慮すると、いわゆるロール・トゥ・ロールでの光学シート部材作製が可能な環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)などを45°±10°延伸した位相差フィルム、または、透明フィルム上を配向処理し、処理表面に、フィルムの製造時搬送方向に対し、液晶化合物を45°±10°方位に配向させた層を有するフィルムが好ましい。
【0025】
(Aプレート、Bプレート、Cプレート)
本明細書において、Aプレートは以下のように定義される。
Aプレートは、ポジティブAプレート(正のAプレート、+Aプレート)とネガティブAプレート(負のAプレート、-Aプレート)との2種がある。フィルム面内の遅相軸方向(面内での屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnzとしたとき、ポジティブAプレートは式(A1)の関係を満たすものであり、ネガティブAプレートは式(A2)の関係を満たすものである。なお、ポジティブAプレートはRthが正の値を示し、ネガティブAプレートはRthが負の値を示す。
式(A1) nx>ny≒nz
式(A2) ny<nx≒nz
なお、上記「≒」とは、両者が完全に同一である場合だけでなく、両者が実質的に同一である場合も包含する。「実質的に同一」とは、例えば、(ny-nz)×d(ただし、dはフィルムの厚さである)が、-10~10nm、好ましくは-5~5nmの場合も「ny≒nz」に含まれ、(nx-nz)×dが、-10~10nm、好ましくは-5~5nmの場合も「nx≒nz」に含まれる。
【0026】
Bプレートは、nx、ny、nzのいずれも値が異なるものであり、式(B1)の関係を満たす、Rthが負のBプレートと、式(B2)の関係を満たす、Rthが正のBプレートとの2種がある。
式(B1) (nx+ny)/2>nz
式(B2) (nx+ny)/2<nz
【0027】
Cプレートは、ポジティブCプレート(正のCプレート、+Cプレート)とネガティブCプレート(負のCプレート、-Cプレート)との2種がある。ポジティブCプレートは式(C1)の関係を満たすものであり、ネガティブCプレートは式(C2)の関係を満たすものである。なお、ポジティブCプレートはRthが負の値を示し、ネガティブCプレートはRthが正の値を示す。
式(C1) nz>nx≒ny
式(C2) nz<nx≒ny
なお、上記「≒」とは、両者が完全に同一である場合だけでなく、両者が実質的に同一である場合も包含する。「実質的に同一」とは、例えば、(nx-ny)×d(ただし、dはフィルムの厚さである)が、0~10nm、好ましくは0~5nmの場合も「nx≒ny」に含まれる。
【0028】
(逆波長分散性)
反射の色味を低減する観点で、位相差層14は、Reが逆波長分散性であるのが好ましい。逆波長分散性とは、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係のことをいう。
具体的には、Re(450)/Re(550)は0.8~0.9の範囲が好ましく、Re(650)/Re(550)は1.03~1.25の範囲が好ましい。
また、後述するCプレートに関しては、Cプレートが逆波長分散性とは、Rth(450)<Rth(550)<Rth(650)の関係のことをいう。
【0029】
(位相差層の光学的性質)
位相差層14は、光学的に、一軸性でも二軸性でもよい。
二軸性の位相差層14(Bプレート)を用いることにより、Rth(550)の絶対値が大きくなるので、後述する円偏光分離層16におけるコレステリック液晶の螺旋の巻き数を多くして、青光の輝度を高くできる。すなわち、二軸性の位相差層14を用いることにより、青光の照射量を増やせる。
その反面、二軸性の位相差層14を用いると、Rth(550)の絶対値が大きくなることに起因して斜め方向の反射防止機能が低減し、さらに、表示の色バランスが崩れる可能性もある。
従って、位相差層14を一軸性にするか二軸性にするかは、有機EL表示装置10に要求される特性等に応じて、適宜、選択すればよい。本発明者らの検討によれば、青光の輝度、斜め反射防止性、および、表示の色バランスの総合的なバランスの点で、位相差層14は一軸性(Aプレート)であるのが好ましい。
【0030】
[円偏光分離層]
上述のように、円偏光分離層16は、コレステリック液晶層である。コレステリック液晶層とは、コレステリック液晶相を固定してなる、コレステリック液晶構造を有する層である。
なお、円偏光分離層16は、必要に応じて、ガラス基板および樹脂フィルム等の基板上に形成してもよい。さらに、円偏光分離層16は、必要に応じて、基板の上に形成した配向膜の上に形成してもよい。
【0031】
(コレステリック液晶構造)
コレステリック液晶構造は、特定の波長において、選択反射性を示すことが知られている。選択反射中心波長λは、コレステリック液晶構造における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶構造を形成する液晶化合物の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、反射中心波長を調節することができる。コレステリック液晶構造における螺旋構造の1ピッチとは、具体的には、コレステリック液晶構造を形成する液晶化合物のダイレクターの方向が360°回転した際における、コレステリック液晶層の厚さ方向の長さである。
コレステリック液晶構造のピッチは、円偏光分離層16の形成の際に、重合性液晶化合物とともに用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶科学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
本発明の課題は、青光を選択的に反射するコレステリック液晶層を作製して見出された課題であるが、コレステリック液晶層、一般、に生じる課題であり、選択波長によらず本発明が適用できる。
【0032】
(選択反射中心波長)
本発明において、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)の選択反射中心波長(選択反射波長領域の中心波長)と半値幅は、下記のように求めることができる。
分光光度計UV3150(島津製作所製)を用いて円偏光分離層の透過スペクトルを測定すると、選択反射領域に透過率の低下ピークがみられる。この最も大きいピーク高さの1/2の高さの透過率となる2つの波長のうち、短波側の波長の値をλ1(nm)、長波側の波長の値をλ2(nm)とすると、選択反射中心波長と半値幅は下記式で表すことができる。
選択反射中心波長=(λ1+λ2)/2
半値幅=(λ2-λ1)
【0033】
コレステリック液晶構造は、走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))によって観測される円偏光分離層16の形成面に対して垂直な断面画像において、明部と暗部との縞模様を与える。この明部と暗部の繰り返し2回分(明部3つおよび暗部2つ)が螺旋1ピッチ分(螺旋の巻き数1回分)に相当する。このことからコレステリック液晶層の螺旋の巻き数は、SEM断面図から測定することができる。上記縞模様の各線の法線が、コレステリック液晶構造の螺旋軸方向となる。
【0034】
(コレステリック液晶構造の作製方法)
コレステリック液晶構造は、コレステリック液晶相を固定して得ることができる。コレステリック液晶相を固定した構造は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造であればよい。なお、コレステリック液晶相を固定した構造においては、コレステリック液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、液晶化合物はもはや液晶性を示していなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0035】
コレステリック液晶構造の形成に用いる材料としては、液晶化合物を含む液晶組成物などが挙げられる。液晶化合物は重合性液晶化合物であることが好ましい。
【0036】
重合性液晶化合物を含む液晶組成物はさらに、界面活性剤、キラル剤(カイラル剤)、および、重合開始剤などを含む。界面活性剤、キラル剤、および、重合開始剤としては、例えば、特開2016-197219号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0037】
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。上述したように、位相差層14は逆波長分散性であるのが好ましく、逆波長分散性の位相差層14を用いた際に、後述する、偏光子12と有機EL発光素子18との間に配置される部材の厚さ方向の合計レタデーションRth(550)を好適にできる点で、円盤状液晶化合物が好適に利用される。
重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、および、ビニル基等を挙げることができる。重合性液晶化合物を硬化させることにより、液晶化合物の配向を固定することができる。重合性基を有する液晶化合物は、モノマーであるか、重合度が100未満の比較的低分子量な液晶化合物が好ましい。
【0038】
(円盤状液晶化合物)
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報、特開2010-244038号公報、特開2013-195630号公報、特開平10-307208号公報、特開2000-171637号公報に記載のものが挙げられる。一般的には、特開2013-195630号公報では、円盤状液晶化合物はトリフェニレン構造を有する化合物が好ましいと記載がある。一方で、トリフェニレン構造よりも3置換ベンゼン構造を有する円盤状液晶化合物の方が、Δnが高く、選択的な反射波長域を広くすることができるため、必要によって適宜選択することができる。
【0039】
(棒状液晶化合物)
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0040】
重合性液晶化合物である棒状液晶化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許4683327号、同5622648号、同5770107号、WO95/22586号、同95/24455号、同97/00600号、同98/23580号、同98/52905号、特開平1-272551号、同6-16616号、同7-110469号、同11-80081号、および特願2001-64627号の各公報などに記載の化合物を用いることができる。更に棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報または特開2007-279688号公報に記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0041】
(円偏光分離層の螺旋の巻き数(螺旋のピッチ数))
コレステリック液晶層である円偏光分離層16において、青光(選択的な反射波長域)の反射率は、螺旋の巻き数に影響される。具体的には、コレステリック液晶層の螺旋の巻き数が多いほど、青光の反射率を高くして、青光の輝度を高くできる。
その反面、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)は、螺旋の巻き数が多くなるほど、円偏光分離層16のRth(550)の絶対値が大きくなる。後述するが、本発明の有機EL表示装置では、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計が-50~50nmが好ましい。
従って、円偏光分離層16における螺旋の巻き数は、要求される青光の輝度、および、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)等に応じて、適宜、設定すればよい。
円偏光分離層16の青光反射率を維持しつつ、円偏光分離層16のRth(550)を最適にする観点において、コレステリック液晶層の螺旋の巻き数は1.5~6.5ピッチ(1.5~6.5回)が好ましい。螺旋の巻き数の制御は円偏光分離層16の膜厚制御により可能である。この点を考慮すると、円偏光分離層16の膜厚は、0.4~1.8μmが好ましく、0.8~1.3μmがより好ましい。
【0042】
(円偏光分離層のRe)
本発明の有機EL表示装置10(光学積層フィルム)において、コレステリック液晶層である円偏光分離層16は、Re(550)を生じ、すなわち面内に位相差を有する。
本発明の有機EL表示装置10(光学積層フィルム)の第1の態様において、円偏光分離層16すなわちコレステリック液晶層は、Re(550)が0.5~3.0nmである。なお、円偏光分離層16のRe(550)は、上述した方法によってAxoScanで測定できる。
また、本発明の有機EL表示装置10においては、円偏光分離層16は、面内に位相差を有するので、面内に遅相軸を有する。本発明の有機EL表示装置10(光学積層フィルム)の第2の態様においては、円偏光分離層16の遅相軸(面内遅相軸)と、位相差層14の遅相軸(面内遅相軸)とが成す角度が、-30°~30°である。
本発明は、このような構成を有することにより、反射色味に優れる光学積層フィルム、および、この光学積層フィルムを用いる、消光時の反射色味に優れる有機EL表示装置10を実現している。加えて、本発明の第1の態様の光学フィルムは、微小なムラを抑制でき、本発明の第1の態様の有機EL表示装置は、消光時の微小なムラを抑制できる。
本発明者らは、偏光子と位相差層とからなる反射防止フィルムを用いた有機EL表示装置において、輝度向上のために円偏光分離層を設けた構成について、品質向上のために検討を重ねた。その結果、有機EL表示装置の消光時に、正面から見た際に、反射色味が、意図した色味の範囲(例えば黒)に対して、変化(変動)してしまうことを見出した。さらに、この色味の変化は、円偏光分離層の膜厚に対応して周期的に変化している、円偏光分離層16のRe(550)の変化が原因であることを見出した。
【0043】
図3に、偏光子、位相差層、円偏光分離層および有機EL発光素子を、この順番で有する有機EL表示装置における、円偏光分離層(コレステリック液晶層)の膜厚と、消光時に正面から観察した際の色味(色度a
*)との関係の一例を示す。なお、
図3の詳細に関しては、後に実施例で示す。
図3に示すように、消光時の有機EL表示装置を正面から観察した場合の色味(a
*)は、円偏光分離層の膜厚の増減と共に、漸次、大きくなり、或る膜厚を頂点として、漸次、小さくなり、或る膜厚を最下点として、漸次、大きくなることを、膜厚に応じて周期的に繰り返す。
この原因は、得偏向分離層の膜厚に応じて、円偏光分離層のRe(550)が周期的に変化することに起因する。
図4に、
図3の有機EL表示装置を構成する円偏光分離層(コレステリック液晶層)における、膜厚と、円偏光分離層のRe(550)との関係の一例を示す。なお、
図4の詳細に関しても、後に実施例で示す。
図4に示すように、円偏光分離層のRe(550)も、膜厚の増減と共に、漸次、大きくなり、或る厚さを頂点として、漸次、低下し、或る厚さを最下点として、再度、漸次、大きくなることを、膜厚に応じて周期的に繰り返す。
【0044】
図3および
図4に示されるように、色味が最大値となる円偏光分離層の厚さと、Re(550)が最大値となる円偏光分離層の厚さとは、一致しており、また、色味が最小値となる円偏光分離層の厚さと、Re(550)が最小値となる円偏光分離層の厚さとも、一致している。すなわち、円偏光分離層の厚さに対する、色味およびRe(550)の変化は、膜厚の変化に応じて、同じ周期で繰り返される。
これは、円偏光分離層の最表面に位置する液晶化合物の遅相軸(ダイレクター)の向きに起因する。なお、円偏光分離層の最表面とは、円偏光分離層となる液晶組成物を塗布する塗布面とは逆側の円偏光分離層の表面である。
【0045】
上述したように、コレステリック液晶層である円偏光分離層では、液晶化合物が螺旋状に旋回している。
円偏光分離層は、最表面において、液晶化合物が360°回転した状態であれば、Re(550)はゼロになる。すなわち、円偏光分離層では、螺旋状に旋回するコレステリック液晶構造において、最下面における液晶化合物の遅相軸の向きと、最表面における液晶化合物の遅相軸の向きとが一致していれば、Re(550)はゼロになる。理想的には、円偏光分離層すなわちコレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層の厚さは、液晶化合物が360°回転した状態の厚さである。
これに対して、液晶化合物が360°回転した状態から、円偏光分離層の膜厚が厚くなると、その上に螺旋状に旋回する液晶化合物が載せられる。円偏光分離層が薄くなると、その逆になる。その結果、円偏光分離層の最表面における液晶化合物の遅相軸の向きは、360°回転した状態からズレた状態になる。この360°回転した状態からの液晶化合物の遅相軸のズレによって、円偏光分離層の面内に光学異方性が生じてしまう。
360°回転した状態からの液晶化合物の遅相軸のズレが大きいほど、円偏光分離層の面内に光学異方性が大きくなり、Re(550)が大きくなる。すなわち、円偏光分離層では、最表面における液晶化合物の遅相軸の向きが、360°回転した状態から90°回転した状態で、Re(550)が最大となる。例えば、
図4に示す例では、最大で約9nmのRe(550)が生じている。
また、円偏光分離層の最表面における液晶化合物が180°回転する毎に、液晶化合物の遅相軸の向きが360°回転した状態と一致するために、面内の光学的な異方性が打ち消されRe(550)もゼロになる。しかしながら、回転が180°未満であるときは、面内の光学的異方性は打ち消しきれないため、Re(550)が発生する。
すなわち、円偏光分離層の膜厚に対するRe(550)の増減の周期は、円偏光分離層(コレステリック液晶層)におけるコレステリック液晶構造の螺旋ピッチの1/2と、ほぼ一致している。
【0046】
偏光子と位相差層とからなる反射防止フィルムに、円偏光分離層を組み合わせた有機EL表示装置では、このように発生した円偏光分離層のRe(550)すなわち位相差が、反射防止層と合わせた光学性能に影響してしまい、有機EL表示装置の消光時における色味が、意図した色味から変化していると考えられる。
すなわち、偏光子、位相差層、円偏光分離層および有機EL発光素子を、この順番で有する有機EL表示装置では、円偏光分離層の厚さに対応するRe(550)の変化が、改良すべき消光時における色味変化に対応している。また、円偏光分離層がReを有することにより、反射防止フィルムに入射する円偏光が、適正な円偏光から変動してしまため、反射防止フィルムの反射防止機能も、低下してしまう。
【0047】
本発明は、このような知見を得ることでなされたものであり、第1の態様は、偏光子12、位相差層14および円偏光分離層16を、この順番で有する光学積層フィルム、ならびに、偏光子12、位相差層14、円偏光分離層16および有機EL発光素子18を、この順番で有する有機EL表示装置10において、円偏光分離層16のRe(550)を0.5~3.0nmとする。
本発明は、このような構成を有することにより、円偏光分離層16のRe(550)に起因する、意図した色味からの色味の変化を抑制し、かつ、微小な色ムラも抑制し、さらに、反射防止フィルムの反射防止性能の低下も抑制して、反射色味および反射防止性能に優れた光学積層フィルム、および、この光学積層フィルムを用いる、消光時の反射色味および反射防止性能に優れた有機EL表示装置10を実現している。
【0048】
本発明の第1の態様において、円偏光分離層16のRe(550)が3.0nmを超えると、消光時における有機EL表示装置の色味が意図した色味に対して大きく変化してしまう等の不都合を生じる可能性がある。
【0049】
本発明の第1の態様において、円偏光分離層16のRe(550)は、0.5nm以上である。
円偏光分離層16が、このようなRe(550)の下限を有する本発明の第1の態様は、スマートフォン等の小型の画像表示装置(ディスプレイ)に好適に用いられるものであり、好ましくは7インチ以下、より好ましくは6インチ以下、さらに好ましくは5.5インチ以下の画像表示装置、特に有機EL表示装置に対応する。
【0050】
大型の画像表示装置とは異なり、小型の画像表示装置では、使用者は、至近距離で画像の観察を行う。
上述したように、円偏光分離層16は、塗布法によって形成する。従って、大型の画像表示装置とは異なり、小型の画像表示装置の場合、膜厚変動が生じても、画面全体における円偏光分離層16の膜厚の変動は小さく、膜厚に起因するRe(550)の変化、すなわち、消光時の色ムラも小さい。また、至近距離で観察を行う小型の画像表示装置の場合には、表示画面全体の緩やかな色ムラは目立たない。
一方、離れた距離で観察を行う大型の画像表示装置では問題にならないが、至近距離で観察を行う小型の画像表示装置の場合には、表示画面内の細かい色ムラは視認され易く、消光時に画面内に細かい色ムラが有ると、非常に目立つ。細かい反射ムラも、細かい色ムラの原因となる。
すなわち、大型の画像表示装置と、小型の画像表示装置とでは、消光時に目立つ、品質に影響を与える色ムラが異なり、小型の画像表示装置では、画面内における細かい色ムラおよび反射ムラが、品質上、大きな問題になる。
【0051】
図5に、
図4に示す円偏光分離層16における膜厚とRe(550)との関係において、Re(550)が小さい領域におけるRe(550)の変化を概念的に示す。
図4および
図5に示すように、円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm未満の領域は、膜厚の変化に対するReの変動の割合が、非常に大きい。
すなわち、
図4および
図5に示すように、円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm未満の領域は、膜厚の変化に応じて、Re(550)の変化が急峻に低下し、0nm(0nm近傍)で、上昇に転じ、急激に上昇する。そのため、Re(550)が0.5nm未満の領域では、他の領域に比して、膜厚の変化に対するRe(550)の変動の割合が、非常に大きい。すなわち、円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm未満の領域では、極僅か膜厚が変動しても、Re(550)が0.5nm以上の領域に比して、大きくRe(550)が変化する。
【0052】
円偏光分離層16は、例えば、形成面の微細な凹凸、若干の塗りムラなど、様々な原因で、微細な膜厚ムラが生じる可能性が有る。
円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm以上の領域では、膜厚が、若干、変化しても、膜厚の変化に対するRe(550)の変動が小さいので、このような微細な膜厚ムラは、問題にはならない。しかしながら、上述のように、円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm未満の領域では、若干の膜厚ムラでも、Re(550)が大きく変動するので、このRe(550)の変動によって、有機EL表示装置の消光時における色味が変動して、細かい色ムラとなってしまう。
このような細かい色ムラは、観察距離が遠い大型の画像表示装置では、目立たず、問題にはならない。しかしながら、至近距離で観察を行う小型の画像表示装置では、細かい色ムラは、逆に非常に目立ち、品質的には大きな悪化を招く。
【0053】
消光時における意図した色味からの色味の変化の点では、円偏光分離層16のRe(550)は、小さい方が好ましい。
しかしながら、いかにRe(550)を小さくして、有機EL表示装置の消光時の色味を意図した色味にしても、消光時に細かい色ムラが目立つ場合には、品質としては非常に悪くなる。
これに対して、本発明においては、円偏光分離層16のRe(550)が0.5nm以上の領域を使用することにより、消光時の色味を犠牲に極僅かしても、消光時における画面内の細かい色ムラを無くして、より反射色味に優れた高品質な光学積層フィルム、および、有機EL表示装置を実現している。
【0054】
本発明の第1の態様において、円偏光分離層16のRe(550)は、0.5~3.0nmであるが、円偏光分離層16のRe(550)は、0.5~2.0nmが好ましく、0.5~1.5nmがより好ましい。
【0055】
(円偏光分離層の遅相軸と位相差層の遅相軸とが成す角度)
先に述べたようにコレステリック液晶層である円偏光分離層16ではRe(550)が発生している。従って、円偏光分離層16は、位相差を有し、すなわち面内に遅相軸を有する。上述したように、本発明の第2の態様は、円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度を、-30°~30°とする。
【0056】
本発明の第2の態様も、スマートフォン等の小型の画像表示装置(ディスプレイ)に好適に用いられるものであり、好ましくは7インチ以下、より好ましくは6インチ以下、さらに好ましくは5.5インチ以下の画像表示装置、特に有機EL表示装置に対応する。
このような小型の画像表示装置、特に有機EL表示装置では、消光時における色味が、意図した色味から変動してしまうと、大きな品質低下につながる。
【0057】
ここで、上述のように、コレステリック液晶層である円偏光分離層では面内にRe(550)が発生している。すなわち、円偏光分離層は、面内に位相差を有する。従って、円偏光分離層は、面内に遅相軸を有する。
円偏光分離層がRe(550)を発生することに起因する、消光時における有機EL表示装置の色味の、意図した色味からの変化は、円偏光分離層の遅相軸と、位相差層の遅相軸とが成す角度で、大きく異なる。
具体的には、円偏光分離層の遅相軸と、位相差層の遅相軸とが成す角度が小さいほど、消光時における有機EL表示装置の色味の変化を抑制できる。
【0058】
本発明の第2の態様は、このような知見を得ることでなされたものであり、偏光子12、位相差層14および円偏光分離層16を、この順番で有する光学積層フィルム、ならびに、偏光子12、位相差層14、円偏光分離層16および有機EL発光素子18を、この順番で有する有機EL表示装置10において、円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度を、-30°~30°とする。
本発明の有機EL表示装置10(光学積層フィルム)は、このような構成を有することにより、円偏光分離層16で発生するRe(550)が大きい場合でも、円偏光分離層16がRe(550)を発生することに起因する、意図した色味に対する有機EL表示装置の消光時における色味の変化を許容内に抑えることができる。また、円偏光分離層が有するRe(550)を相殺できるので、反射防止フィルムの反射防止機能の低下も抑制できる。
なお、この円偏光分離層16の遅相軸と位相差層14の遅相軸とが成す角度は、偏光子12、位相差層14および円偏光分離層16を積層した光学積層フィルムを円偏光分離層16の側から見たとき、位相差層14の遅相軸を基準として、円偏光分離層16の遅相軸が時計回りした状態を正の値として示している。
円偏光分離層16すなわちコレステリック液晶層の遅相軸は、上述したAxoScanによって測定できる。
【0059】
円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度が-30°~30°の範囲を超えると、消光時における有機EL表示装置の色味が意図した色味に対して大きく変化してしまう等の不都合を生じる可能性がある。
円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度は、-20°~20°が好ましく、-10°~10°がより好ましい。
なお、上述した本発明の第1の態様においては、円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度には制限はないが、本発明の第1の態様においても、円偏光分離層16の遅相軸と、位相差層14の遅相軸とが成す角度は、この本発明の第2の態様の範囲を満たすのが好ましい。
【0060】
上述したように、本発明においては、円偏光分離層16がRe(550)を有する。
本発明の第2の態様において、円偏光分離層16のRe(550)には、制限はないが、遅相軸の生成等を考慮すると、0.5nm以上であるのが好ましい。また、円偏光分離層16のRe(550)は、円偏光分離層16の選択反射中心波長λと、円偏光分離層16を形成する液晶化合物の平均屈折率nと、円偏光分離層16を形成する液晶化合物の複屈折Δnと、から計算されるReMax[nm]以下であるのが好ましい。
ReMaxは、具体的には、
ReMAX[nm]=k×Δn×λ/n
で算出できる。なお、上記式において、kは、実験等を行うことで算出された比例定数であり、『k=0.213』である。
【0061】
本発明の第2の態様において、円偏光分離層16のRe(550)は、0.5~3.0nmが好ましく、0.5~2.0nmがより好ましく、0.5~1.5nmがさらに好ましい。すなわち、本発明の第2の態様においては、円偏光分離層16のRe(550)は、上述した本発明の第1の態様の範囲を満たすのが好ましい。
なお、上記式に示されるように、円偏光分離層16で発生するRe(550)の最大値(ReMAX)は、円偏光分離層16の形成に用いた液晶化合物のΔnに比例する。本発明においては、液晶化合物のΔnが大きいほうが選択的な反射波長域を広くできるメリットがある。この点を考慮すると、円偏光分離層16は、Δnが0.1~0.2の液晶化合物を用いるのが好ましく、その場合のRe(550)の最大値は6~12nmとなる。
【0062】
(円偏光分離層のReと、円偏光分離層および位相差層の遅相軸の角度との組み合わせ)
上述のように、本発明の課題である、有機EL表示装置10を正面から見たときの消光時の色味は、円偏光分離層16のReのみならず、円偏光分離層16の遅相軸と位相差層14の遅相軸とが成す角度(以下、角度(θ)とも言う)にも影響を受けるため、円偏光分離層のReが3nm以上で、角度(θ)が-30°~30°の範囲外でも、組み合わせによっては、有機EL表示装置10の消光時の色味の意図した色味からの変化を、許容内に抑えることができる。
本発明においては、Re[nm]×θ[°]の絶対値を300以下とするのが好ましく、150以下とするのがより好ましく、50以下とするのがさらに好ましい。
【0063】
(円偏光分離層の選択反射中心波長の他の例)
以上の例は、円偏光分離層16が青光の波長域、好ましくは430~480nmの波長域に選択反射中心波長を有しているが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)の選択反射中心波長は、例えば、有機EL表示装置において輝度向上したい色、および、斜め観察した際の色味の発生を抑制したい色等に応じて、紫外線、緑光、赤光および赤外線などの、各種の光の波長域が利用可能である。
【0064】
一例として、700~800nmの波長域に選択反射中心波長を有する円偏光分離層16が例示される。
【0065】
[位相差層14と円偏光分離層16との好ましい組合せ]
(偏光子と有機EL発光素子との間に設けられる部材のRthの合計)
本発明の有機EL表示装置10では、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計が、-50~50nm(±50nm)であるのが好ましい。言い換えれば、本発明の有機EL表示装置では、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計の絶対値が50nm以下であるのが好ましい。
斜め方向の反射防止機能を高める観点で、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計は、-40~40nmがより好ましく、-20~20nmがさらに好ましく、-10~10nmが特に好ましい。
特に、後述するように、偏光子12と有機EL発光素子18との間にCプレートが配置される場合は、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計は、-20~20nmが好ましく、-10~10nmがより好ましい。
【0066】
すなわち、
図1に示す有機EL表示装置10であれば、位相差層14のRth(550)と、円偏光分離層16のRth(550)との合計が、-50~50nmであるのが好ましい。
このような構成を有することにより、良好な斜め方向の反射防止機能を実現できる。
【0067】
従って、位相差層14と円偏光分離層16との好ましい組合せの1つとしては、前述のように、Rth(550)が正の値である逆波長分散性の+AプレートまたはRth(550)が正の値である逆波長分散性のBプレートと、可視光領域で実質的に+Cプレートとして機能する、Rth(550)が負の値である円盤状液晶化合物からなる円偏光分離層16(コレステリック液晶層)と、の組み合わせが例示される。
また、位相差層14と円偏光分離層16との好ましい組合せとしての別の例としては、前述のように、Rth(550)が負の値である順分散性の-AプレートまたはRth(550)が負の値である順分散性の+Bプレートと、可視光領域で実質的に-Cプレートとして機能する、Rth(550)が正の値である棒状液晶化合物からなる円偏光分離層16(コレステリック液晶層)と、の組み合わせが例示される。
【0068】
(必要に応じて追加的に使用するCプレート)
本発明の有機EL表示装置は、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計を-50~50nmとして、反射防止機能、特に斜め方向の反射防止機能を達成するため、必要に応じて、偏光子12と有機EL発光素子18との間に、Cプレートを追加してもよい。
【0069】
上述したように、コレステリック液晶層である円偏光分離層16では、コレステリック液晶層の螺旋の巻き数が多いほど、青光の反射率を高くして、青光の輝度を高くできる。
その反面、円偏光分離層16の螺旋の巻き数が多くなると(例えば、螺旋の巻き数が6以上の場合)、円偏光分離層16のRth(550)の絶対値が大きくなり、位相差層14との組み合わせで、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計を-50~50nmの範囲にすることが困難になる場合も生じる。
これに対して、位相差層14と円偏光分離層16との組み合わせに応じて、Rth(550)が正の値である-Cプレート、または、Rth(550)が負の値である+Cプレートを、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けることにより、位相差層14および円偏光分離層16のRth(550)によらず、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設けられる部材のRth(550)の合計(和)を-50~50nmとすることが可能になる。
【0070】
一例として、前述のように、Rth(550)が正の値である逆波長分散性の+AプレートまたはRth(550)が正の値である逆波長分散性のBプレートからなる位相差層14と、可視光領域で実質的に+Cプレートとして機能する、Rth(550)が負の値である円盤状液晶化合物からなる円偏光分離層16(コレステリック液晶層)と、を用いる場合には、Rth(550)が正の値である-Cプレートを、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設ける。
また、前述のように、Rth(550)が負の値である順分散性の-AプレートまたはRth(550)が負の値である順分散性のBプレートからなる位相差層14と、可視光領域で実質的に-Cプレートとして機能する、Rth(550)が正の値である棒状液晶化合物からなる円偏光分離層16と、を用いる場合には、Rth(550)が負の値である+Cプレートを、偏光子12と有機EL発光素子18との間に設ける。
【0071】
このようなCプレートを用いることにより、偏光子12と有機EL発光素子18との間の部材のRth(550)の合計を、高い自由度で調節できる。
従って、Cプレートを用いることにより、円偏光分離層16の螺旋の巻き数を多くして、円偏光分離層16による青光の反射率を向上して、青光の輝度を十分に高くした上で、偏光子12と有機EL発光素子18との間の部材のRth(550)の合計の絶対値を非常に小さくして、斜め方向の反射防止機能も高くできる。
すなわち、本発明の有機EL表示装置においては、有機EL表示装置の厚さ、偏光子12と有機EL発光素子18との間の層構成の複雑さ、コスト、および、生産性等に問題がなければ、性能の点では、偏光子12と有機EL発光素子18との間にCプレートを有する構成が、最も有利である。
言い換えれば、有機EL表示装置の厚さ、偏光子12と有機EL発光素子18との間の層構成の簡易性、コスト、および、生産性等の点では、
図1に示す有機EL表示装置10のように、偏光子12と有機EL発光素子18との間には、位相差層14および円偏光分離層16のみを有する構成が有利である。
【0072】
Cプレートは、公知のものが、全て、利用可能である。また、市販の光学フィルムをCプレートとして用いてもよい。
Cプレートの配置場所は、位相差層14と円偏光分離層16との間、または、円偏光分離層16と有機EL発光素子18との間が好ましい。CプレートのRth(550)には制限は無いが、位相差による色味付きをおこさないためには、CプレートのRth(550)の絶対値は300nm以下であることが好ましい。
また、Cプレートは、必要に応じて、同じCプレートまたは異なるCプレートを、複数枚、併用してもよい。
【0073】
[有機EL発光素子]
有機EL発光素子18は、有機ELによって画像を表示するものである。
一例として、有機EL発光素子18は、透明電極層(TFT(Thin Film Transistor)、薄膜トランジスタ)、ホール注入層、ホール輸送層、有機EL発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、および、陰極等を有する、有機ELディスプレイおよび有機EL照明装置等の有機EL発光装置(OLED)を構成する、公知の有機EL発光素子である。
また、有機EL発光素子18としては、公知の有機ELディスプレイから、反射防止層(反射防止フィルム)を取り除いた物、反射防止層を有さない有機ELディスプレイ、および、公知の有機ELディスプレイ等も利用可能である。
【0074】
<青光の輝度向上作用>
このような本発明の有機EL表示装置10において、青色の輝度向上効果は、以下の作用による。
図2に、
図1に示す本発明の有機EL表示装置10、および、従来の有機EL表示装置100を分解して概念的に示す。周知のように、従来の有機EL表示装置100も、通常、反射防止フィルムとして、偏光子12と位相差層14(λ/4板)との組み合わせを有する。
【0075】
従来の有機EL表示装置100において、有機EL発光素子18が発光した青光bは、まず、位相差層14に入射、透過して、次いで、偏光子12に入射する。なお、
図2において、青光bの矢印の長さは、光強度(光量)を表す。
偏光子12は、所定方向(x方向とする)の直線偏光しか透過しないので、x方向と直交する方向の直線偏光は、偏光子12で遮断される。従って、偏光子12を透過する青光bは、半分のx方向の青の直線偏光bxのみとなる。
【0076】
これに対し、本発明の有機EL表示装置10において、有機EL発光素子18が発光した青光bは、まず、円偏光分離層16に入射する。一例として、円偏光分離層16(コレステリック液晶層)が青の右円偏光bRのみを反射する層である場合には、青の左円偏光bLは透過し、青の右円偏光bRは反射される。
円偏光分離層16を透過した青の左円偏光bLは、次いで、位相差層14(λ/4板)に入射して、透過することで、x方向の青の直線偏光bxとされる。
青の直線偏光bxは、次いで、偏光子12に入射する。前述のように、偏光子12は、x方向の直線偏光のみを透過する。従って、x方向の直線偏光である青の直線偏光bxは、偏光子12を透過して、出射される。
【0077】
一方、円偏光分離層16で反射された青の右円偏光bRは、有機EL発光素子18(発光素子の基板)に入射して反射されて、円偏光の旋回方向が逆になり、青の左円偏光bLとなる。
有機EL発光素子18で反射された青の左円偏光bLは、次いで、円偏光分離層16に入射するが、前述のように、青の右円偏光bRのみを反射するので、青の左円偏光bLは、円偏光分離層16を透過する。
これ以降は、先と同様に、青の左円偏光bLは、次いで、位相差層14よってx方向の直線偏光である青の直線偏光bxとされ、次いで、x方向の直線偏光のみを透過する偏光子12を透過して、出射される。
【0078】
すなわち、円偏光分離層16を有する本発明の有機EL表示装置10では、位相差層14が出射する直線偏光の方向と、偏光子12の透過軸の方向とが一致するように、円偏光分離層16が反射する円偏光の方向、位相差層14の遅相軸、および、偏光子12の透過軸とを調節することにより、従来の有機EL表示装置の約2倍の青光を出射できる。
従って、本発明の有機EL表示装置10によれば、従来に比して、青光の輝度を約2倍にできるので、青光に合わせて赤光および緑光の輝度を向上することで、高輝度な画像表示が可能になる。逆に、表示輝度が従来の有機EL表示装置と同様でよい場合には、青光光源(青光を出射する有機EL光源)の出力を低減できるので、青光光源を長寿命化して、耐久性の高い有機EL表示装置10を実現できる。
このような効果は、対応する光の色に応じて、円偏光分離層16が赤光の波長域に選択反射中心波長を有する場合でも、円偏光分離層16が緑光の波長域に選択反射中心波長を有する場合でも、同様に得られる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を用いて、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
(仮支持体の作製)
富士フイルム社製の厚さ60μmのトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)を用意した。
一方で、下記の配向膜塗布液を調製し、撹拌しながら85℃で一時間加熱溶解して、0.45μmフィルターでろ過した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・PVA203(クラレ社製ポリビニルアルコール) 2.4質量部
・純水 97.6質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
TACフィルム上に、調製した配向膜塗布液を、乾燥後の膜厚が0.5μmになるように塗布量を調節しながら塗布し、100℃で2分間、乾燥を行った。
乾燥した塗布膜にラビング処理を施して、フィルム状の仮支持体を作製した。ラビング処理の方向は、フィルム長手方向と平行とした。
なお、仮支持体としては、TACフィルム以外に、一般的なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、例えば、東洋紡社製、コスモシャインA4100)を用いることができることを確認した。
【0081】
(青光反射円偏光分離層用塗布液Aの調製)
下記組成の円偏光分離層用塗布液Aを調製し、25℃で1時間加熱溶解し、0.45μmフィルターでろ過した。下記の円盤状液晶化合物は、平均屈折率n=1.678、複屈折Δn=0.156の液晶化合物である。
【0082】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
円偏光分離層用塗布液A
――――――――――――――――――――――――――――――――――
・円盤状液晶化合物(化合物101) 80質量部
・円盤状液晶化合物(化合物102) 20質量部
・添加剤1 1.8質量部
・添加剤2 0.16重量部
・添加剤3(DIC社製、F444) 0.5重量部
・光重合開始剤1 3質量部
・キラル剤1 5.18質量部
・メチルエチルケトン 400質量部
・シクロヘキサノン 50質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
(円偏光分離層Aの作製)
仮支持体のラビング処理面に、調製した円偏光分離層用塗布液Aを、ギーサーを用いて塗布(塗布幅1200mm)した。
続いて、塗布膜を100℃、2分間乾燥し、溶媒を気化させた後に、115℃で3分間加熱熟成を行って、均一な配向状態を得た。その後、この塗布膜を45℃に保持し、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて紫外線を照射(300mJ/cm2)して、青の右円偏光を反射する円偏光分離層(コレステリック液晶層)Aを形成した。
形成した円偏光分離層Aを、塗布幅10mm毎のスリットに裁断した。スリット内では、ほぼ均一な厚み(±5nm以内)のサンプルが得られた。
この中で中央のスリットを選んで、円偏光分離層Aの断面をSEM観察した。その結果、膜厚は1.08μm、螺旋の巻き数は4.0ピッチであった。つまり、1ピッチの周期は0.27μmである。
【0089】
一面に粘着剤層を形成したガラス基板を用意した。
このガラス基板の粘着剤層側に、作製した円偏光分離層A側を貼合し、仮支持体を剥離した。
円偏光分離層Aの位相差をAxoScanで測定した結果、Re(550)/Rth(550)=0.6nm/-53nmであった。また、法線方向からの光に対する透過率が最小となる波長(選択反射中心波長)は453nmであり、その透過率は35%であった。(選択反射中心波長)/(平均屈折率)より1ピッチの周期を計算すると、0.27μmとなり、上述したSEM観察と一致することを確認した。
これより、円偏光分離層Aは、青光を反射し、かつ、選択的な反射域以外では+Cプレートになっていることを確認した。
【0090】
(青光反射円偏光分離層用塗布液Bの調製)
下記組成の円偏光分離層用塗布液Bを調製した。下記の棒状液晶化合物は、平均屈折率n=1.678、複屈折Δn=0.160の液晶化合物である。
【0091】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
円偏光分離層用塗布液B
――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記の棒状液晶化合物の混合物 100.0質量部
・光重合開始剤1 3.0質量部
・キラル剤2 6.6質量部
・添加剤4 0.095質量部
・添加剤3(DIC社製、F444) 0.5重量部
・メチルエチルケトン 400質量部
・シクロヘキサノン 50.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
(円偏光分離層Bの作製)
仮支持体のラビング処理面に、調製した円偏光分離層用塗布液Bを、ギーサーを用いて塗布(塗布幅1200mm)した。続いて、塗布膜を95℃、1分間乾燥した後、25℃で、高圧水銀灯を用いて紫外線照射(500mJ/cm2)して、青の右円偏光を反射する円偏光分離層(コレステリック液晶層)Bを形成した。
形成した円偏光分離層Bを、塗布幅10mm毎のスリットに裁断した。スリット間では厚み差があったが、スリット内ではほぼ均一な厚み(±5nm以内)のサンプルが得られた。
この中で中央のスリットを選んで、円偏光分離層Bの断面をSEM観察した。その結果、膜厚は1.09μm、螺旋の巻き数は4ピッチであった。つまり、1ピッチは0.27μmである。
【0096】
一面に粘着剤層を形成したガラス基板を用意した。
このガラス基板の粘着層側に、形成した円偏光分離層B側を貼合して、仮支持体を剥離した。円偏光分離層Bの位相差を、AxoScanで測定した結果、Re(550)/Rth(550)=0.7nm/77nmであった。また、法線方向からの光に対する透過率が最小となる波長(選択反射中心波長)は454nmであり、その透過率は35%であった。(選択反射中心波長)/(平均屈折率)より1ピッチの周期を計算すると、0.27μmとなり、上述したSEM観察と一致することを確認した。
これにより、円偏光分離層Bは、青光を反射し、かつ、選択的な反射域以外では-Cプレートになっていることを確認した。
【0097】
(位相差層の作製)
下記組成の位相差層用塗布液を調製した。
【0098】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
位相差層用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記液晶化合物L-3 43.75質量部
・下記液晶化合物L-4 43.75質量部
・下記重合性化合物A-1 12.50質量部
・下記重合開始剤S-1(オキシム型) 3.00質量部
・レベリング剤G-1 0.20質量部
・ハイソルブMTEM(東邦化学工業社製) 2.00質量部
・NKエステルA-200(新中村化学工業社製) 1.00質量部
・メチルエチルケトン 424.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
なお、下記液晶化合物L-3およびL-4のアクリロイルオキシ基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、下記液晶化合物L-3およびL-4は、メチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
【0099】
【0100】
仮支持体として、一面にラビング処理を施したPETフィルム(富士フイルム社製、厚さ75μm)を用意した。ラビングの方向は、PETフィルムの長手方向に対して45°とした。
仮支持体のラビング処理面に、調製した位相差層用塗布液を塗布した。続いて、塗布膜を90℃、2分間乾燥し、溶媒を気化させた後に60℃で3分間加熱熟成を行って、均一な配向状態を得た。その後、この塗布膜を60℃に保持して、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて紫外線照射(500mJ/cm2)して、膜厚2.0μmの位相差層(光学異方性層)を形成した。
【0101】
一面に粘着剤層を形成したガラス基板を用意した。
このガラス基板の粘着剤層側に、形成した位相差層を貼合して、仮支持体を剥離した。位相差層の位相差を、AxoScanで測定した結果、下記の値であった。測定波長は450nm、550nmおよび650nmを用いた。
【0102】
【0103】
上記の表は、波長450nmにおけるReおよびRthが、それぞれ、119nmおよび60nmであり、波長550nmにおけるReおよびRthが、それぞれ、140nmおよび70nmであり、波長650nmにおけるReおよびRthが、それぞれ、147nmおよび74nmであることを示す。
これより、位相差層は、逆波長分散性を有する+Aプレートのλ/4フィルムであることを確認した。以下、位相差層をλ/4フィルムとも言う。
【0104】
(偏光子の作製)
TACフィルム(富士フイルム社製、フジタックTD80UL)を、1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。中和したTACフィルムを、再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、更に100℃の温風で乾燥した。
【0105】
他方、厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルム(PVAフィルム)を巻回してなるロールを用意した。このロールからPVAフィルムを引き出し、ヨウ素水溶液中で連続して長手方向に5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。
【0106】
ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA-117H)3%水溶液を接着剤として、TACフィルムを偏光子の片側のみに貼合し、片側偏光子を作製した。偏光度は99.97%、単板透過率は43%であった。
ここで、偏光度および単板透過率は、分光光度計(日本分光社製、VAP-7070)を用いて測定した。
【0107】
(積層フィルムの作製)
片側偏光子の偏光子側に、λ/4フィルムを、偏光子の透過軸に対して遅相軸が45°±10°の角度をなすように積層した。
さらに、λ/4フィルムを積層した側に、円偏光分離層Aを、円偏光分離層Aの面とλ/4フィルムとが対向するように積層し、積層後、λ/4フィルムの仮支持体を剥離して、積層フィルムを作製した。この時、円偏光分離層Aを形成した際の配向膜のラビング方向と、λ/4フィルムの遅相軸とが成す角度を45°±10°とした。
また、円偏光分離層Bに関しても、同様に、積層フィルムを作製した。
なお、各層の貼合は、粘着剤(総研化学社製、SK2057)を用いて行った。この点に関しては、以下の積層フィルムも同様である。この粘着剤は、屈折率異方性が無い物質であり、従って、Rthは0nmである。
【0108】
<有機EL表示装置の作製>
GalaxyS4(Samsung社製)を分解し、製品に貼合されている反射防止フィルムの一部を剥がして、有機EL発光素子とした。この有機EL発光素子に、粘着剤(総研化学社製、SK2057)を用いて、作製した積層フィルムを貼合して、有機EL表示装置を作製した。このとき、積層フィルムの円偏光分離層側が有機EL発光素子側となるように貼合した。
【0109】
[消光時における色味変化の解析(作製例1)]
有機EL表示装置について、以下のようにして、消光時に正面から見た際における、円偏光分離層(コレステリック液晶層)に起因する色味変化を確認し、かつ、解析した。
円偏光分離層Aと同様にして、膜厚が異なる円偏光分離層を、種々、形成した。次いで、形成した各円偏光分離層を用いて、上述した積層フィルムと同様に、積層フィルムを、種々、作製した。さらに、作製した各積層フィルムを用いて、上述した有機EL表示装置の作製と同様に、有機EL表示装置を、種々、作製した。
作製した有機EL表示装置に関して、消光時に正面から見た際の色味a
*を測定して、
図3に示すように、円偏光分離層の膜厚と、色味a
*との関係を、グラフにした。
また、円偏光分離層Bについても、同様に、膜厚が異なる円偏光分離層を、種々、形成し、同様に積層フィルムを作製し、有機EL表示装置を作製して、円偏光分離層の膜厚と色味a
*との関係を検出し、
図3のグラフに併記した。
図3においては、黒丸(分離層A)が、円偏光分離層Aに対応する、円盤状液晶化合物で形成した円偏光分離層を用いた有機EL表示装置であり、白抜き丸(分離層B)が、円偏光分離層Bに対応する、棒状液晶化合物で形成した円偏光分離層を用いた有機EL表示装置である。
なお、色味は、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM-2022)を用いて、D65、視野角10°、SCIの条件で測定した。
図3に示されるように、本発明の課題である正面から見たときの色味変化は、円偏光分離層の膜厚の変化に対応して生じ、かつ、膜厚に応じて周期的に変化しており、この周期が円偏光分離層の螺旋ピッチの半分0.135μmとほぼ合っていることが確認された。
これより、円偏光分離層の螺旋ピッチが180°回転するたびに、液晶化合物分子により生じた面内の光学的な異方性が打ち消されReもゼロになるが、液晶化合物分子の回転が180°未満であるときは、面内の光学的異方性は打ち消しきれないため、Reが発生し、円偏光分離層で発生したReが、偏光子と位相差層とからなる反射防止層と合わせた光学性能に影響して、色味を変化させていると推定できる。
また、有機EL表示装置に用いた各円偏光分離層のRe(550)をAxoScanで測定し、
図4に示すように、円偏光分離層の膜厚と、Re(550)との関係を、グラフにした。その結果、円偏光分離層の膜厚に応じて、円偏光分離層のRe(550)が周期的に変化し、かつ、その周期的な変化は、膜厚に対する色味の変化と一致してることが確認できた。また、本例では、Re(550)の変化が、最大9nm程度も生じていることが分かった。
なお、
図4においても、黒丸(分離層A)が、円偏光分離層Aに対応する、円盤状液晶化合物で形成した円偏光分離層であり、白抜き丸(分離層B)が、円偏光分離層Bに対応する、棒状液晶化合物で形成した円偏光分離層である。
【0110】
以上より、膜厚の変化により、円偏光分離層のRe(550)が膜厚に応じて周期的に変化し、消光時の有機EL表示装置を正面から見た時の色味変化と対応している関係が定量的に把握できた。上記知見により、ある程度の厚み分布が存在しても、その中に所望のRe(550)を有する領域がどの辺りに存在するかを予測でき、以前より比較的容易に所望のRe(550)を有するサンプルを得ることができる。
また、
図4および
図5に示されるように、円偏光分離層のRe(550)が0.5未満の領域は、膜厚の変化に対するRe(550)の変動の割合が非常に大きく、微細な膜厚ムラでもRe(550)が大きく変動して、細かい色ムラを生じてしまう。これに対して、円偏光分離層のRe(550)が0.5以上の領域は、膜厚の変化に対するRe(550)の変動が緩やかになる。そのため、円偏光分離層のRe(550)が0.5以上の領域は、微細な膜厚の変化では、Re(550)が大きく変動することは無い。すなわち、
図4および
図5に示されるように、円偏光分離層のRe(550)を0.5以上とすることにより、膜厚の変化に起因するRe(550)の変動を抑制して、細かい色ムラの発生を抑制できる。
なお、円偏光分離層におけるマクロなRe(550)の変化が、円偏光分離層の最表面における液晶化合物のダイレクターの向きと相関していると考えて、色味が均一な40mm×40mmのサンプル(Re(550)7.1nm、軸角度64°)から等間隔に9点を選んで、液晶化合物のダイレクターの向きを、和周波発生分光法(SFG分光法)にて測定した。しかしながら、予想とは異なり、液晶化合物のダイレクターの向きは様々(ラビング方向に対して0°、38°、28°、40°、32°、22°、39°、25°および40°)で、少なくとも微視的なダイレクターの向きの一致は見られなかった。
【0111】
<作製例2~26>
円偏光分離層Aと同様にして、膜厚が1.1μm周辺で膜厚すなわちRe(550)が異なるサンプルA1~A5の5つの円偏光分離層のサンプルを作製した。また、円偏光分離層Bと同様にして、膜厚が1.1μm周辺で膜厚すなわちRe(550)が異なるサンプルB1~B3の3つの円偏光分離層のサンプルを作成した。ただし、サンプルA5(作製例26)のみ、円偏光分離層Aを形成した円偏光分離層用塗布液Aにおいて、キラル剤1の含有量を5.18質量部から3.03質量部に変更した。サンプルA5の円偏光分離層は、これ以外は、膜厚を除いて、基本的にサンプルA1と同様である。
すなわち、サンプルA1~A5の円偏光分離層は、円盤状液晶化合物(DLC)を用いた円偏光分離層であり、サンプルB1~B3の円偏光分離層は、棒状液晶化合物(CLC)を用いた円偏光分離層である。
各サンプルに対して、円偏光分離層の膜厚、Re(550)、遅相軸(面内遅相軸)の向き、および、選択反射中心波長を測定した。円偏光分離層の膜厚、Re(550)および選択反射中心波長は、上述のように測定した。また、遅相軸の向きは、AxoScanで測定した。
これらの円偏光分離層を用いて、上述の例と同様にして積層フィルムを作製した。積層フィルムは、λ/4フィルム(位相差層)の遅相軸と円偏光編分離層の遅相軸とが成す角度θを変えた積層フィルムを作成した。なお、角度θは、偏光子、位相差層および円偏光分離層を積層した積層フィルムを円偏光分離層の側から見た際に、λ/4フィルムの遅相軸を基準として、時計回りを正の値とした。
作製した積層フィルムを用いて、上述したように有機EL表示装置を作製した。
【0112】
なお、作製例25のみ、円偏光分離層と有機EL素子との間に、+Cプレート(ポジティブCプレート)を積層した。+Cプレートは(総研化学社製、SK粘着剤)用いて貼合した。作製例25は、+Cプレートを有する以外は、作製例20と同様である。
+Cプレートは、以下のように作製した。
【0113】
(+Cプレートの作製)
PVA配向膜を有する仮支持体を用意し、PVA配向膜をラビング処理した。その後、下記の組成のCプレート用塗布液を塗布した。なお、この仮支持体(配向膜を含む)は、上述した+Cプレートの積層時に剥離した。
塗布後、60℃で60秒間乾燥させた後で空気下において70mW/cm2(i線)の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィック社製)を用いて1000mJ/cm2(i線)の紫外線を照射し、その配向状態を固定化することにより、重合性の棒状液晶化合物を垂直配向させ、+Cプレートを作製した。
作製した+CプレートのRth(550)は、-115nmであった。+CプレートのRth(550)は、先と同様に測定した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Cプレート用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・棒状液晶化合物C1 80質量部
・棒状液晶化合物C2 20質量部
・垂直配向剤(S01) 1質量部
・垂直配向剤(S02) 0.5質量部
・エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(大阪有機化学社製、V#360) 8質量部
・イルガキュア907(BASF社製) 3質量部
・カヤキュアーDETX(日本化薬社製) 1質量部
・化合物B01 0.4質量部
・メチルエチルケトン 170質量部
・シクロヘキサノン 30質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
作製した各有機EL表示装置について、消光時に正面から観察した際の反射色味、および、輝度向上率を評価した。
【0120】
(反射色味の評価)
有機EL表示装置を消光した状態で、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM-2022)を用いて、D65、視野角10°、SCIの条件で測定を行った。測定は、正面方向(法線方向(極角0°))から行った。なお、作製例3、7、16、20および25に関しては、正面のみならず、斜め方向(極角60°の方向)からの反射色味も評価した。
評価基準は、以下のとおりである。
AA: 色味が黒であり、最も優れている。
A: 色味が黒で特に優れている。
B: 色味が黒に近く優れている。
C+: 色味がやや黒からずれているが許容内。
C-: 色味がやや多く黒からずれているため許容できない。
D: 色味が明らかに黒からずれており許容できない。
【0121】
(輝度向上率)
輝度向上率の評価として、有機EL表示装置を青表示にした時の波長430~480nmの領域の最大光量を、有機EL表示装置の法線方向から測定した(青光量)。また、有機EL表示装置を赤表示にした時の波長700~800nmの領域の最大光量を、有機EL表示装置の法線方向から測定した(赤光量)。
評価は、製品としてのGalaxyS4の最大光量を100%とした相対値で行った。
【0122】
層構成と評価結果の詳細を下記の表に示した。
【0123】
【表2】
積層フィルムのλ/4フィルム(位相差層)は、逆分散性で、Rth(550)は70nmである。
角度θは、λ/4フィルムの遅相軸を基準とした、時計回りを正とする、λ/4フィルムの遅相軸と円偏光編分離層の遅相軸とが成す角度である。
また、合計Rthとは、偏光子と有機EL発光素子との間の部材のRth(550)を合計した値である。
【0124】
上記表に示されるように、円偏光分離層のRe(550)の範囲が0.5~3.0nmである本発明の第1の態様の光学積層フィルム、および、λ/4フィルムの遅相軸と円偏光分離層の遅相軸とが成す角度が-30°~30°である本発明の第2の態様の光学積層フィルムを用いることにより、有機EL表示装置において、消光時の正面からの反射色味が良好であることが確認できた。この効果は、棒状液晶化合物(CLC)でも円盤状液晶化合物(DLC)でも同様に確認できた。
さらに、作製例3、7、20、25および26に示されるように、本発明の光学積層フィルムにおいて、円偏光分離層のRe(550)が本発明の第1の態様の条件を満たし、かつ、λ/4フィルムの遅相軸と円偏光分離層の遅相軸とが成す角度が本発明の第2の態様の条件を満たすことにより、より色味を良好にでき、最も色味が黒に近く良好な結果が得られた。
また、作製例20と作製例25とは、Cプレートを有さない以外は、同じ構成であるが、作製例25に示されるように、Cプレートを入れて、偏光子と有機EL発光素子との間のRthを調節することで、斜め方向から観察した際の反射色味を向上できる。
さらに、作製例26に示されるように、円偏光分離層の選択反射中心波長を700~800nmとすることにより、反射色味が良好でありながら、赤光(700~800nm付近)の輝度を向上できている。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
表示装置としての各種の用途に利用可能である。
【符号の説明】
【0126】
10 有機EL表示装置
12 偏光子
14 位相差層
16 円偏光分離層
18 有機EL発光素子
b 青光
bx 青の直線偏光
bL 青の左円偏光
bR 青の右円偏光