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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 45/12 20200101AFI20220411BHJP
   F21V 23/00 20150101ALI20220411BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20220411BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20220411BHJP
   G01S 17/42 20060101ALI20220411BHJP
   H05B 47/12 20200101ALI20220411BHJP
   H05B 47/125 20200101ALI20220411BHJP
   H05B 47/13 20200101ALI20220411BHJP
   H05B 47/195 20200101ALI20220411BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20220411BHJP
【FI】
H05B45/12
F21V23/00 115
F21S2/00 311
F21S2/00 355
F21V23/00 140
G02B26/10 104Z
G02B26/10 B
G01S17/42
H05B47/12
H05B47/125
H05B47/13
H05B47/195
F21Y115:30
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017125886
(22)【出願日】2017-06-28
(65)【公開番号】P2019009062
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 クリーンデバイス社会実証推進事業 「クリーンデバイス社会実装推進事業/最先端可視光半導体レーザーデバイス応用に係る基盤整備」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】山本 和久
(72)【発明者】
【氏名】石野 正人
【審査官】坂口 達紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/044204(WO,A1)
【文献】特表2015-519687(JP,A)
【文献】特開2014-135716(JP,A)
【文献】国際公開第2015/176953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 47/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視レーザー光を含む、互いに波長の異なるレーザー光を出射する複数のレーザー光源と、
前記複数のレーザー光源が出射した前記可視レーザー光を走査して照明領域内に照射する光走査器と、
前記光走査器による前記可視レーザー光の走査と同期して、前記照明領域からの前記可視レーザー光の反射光を感知する光感知器とを備え、
前記複数のレーザー光源のそれぞれが、前記光感知器が出力する前記可視レーザー光の反射光の感知の結果に基づいて前記照明領域内で物体検出を行う信号処理部が前記結果に応じて出力する、時間的に変化させる前記可視レーザー光の強度を示す制御信号に従って動作することで、前記照明領域内の照明と前記物体検出との両方が、走査される前記可視レーザー光を用いて実行され
前記信号処理部は、前記可視レーザー光が一部の時間において出射されないことによって発生する反射光のない期間の発生タイミングに基づいて前記物体検出を行う
照明装置。
【請求項2】
可視レーザー光を含む、互いに波長の異なるレーザー光を出射する複数のレーザー光源と、
前記複数のレーザー光源が出射した前記可視レーザー光を走査して照明領域内に照射する光走査器と、
前記光走査器による前記可視レーザー光の走査と同期して、前記照明領域からの前記可視レーザー光の反射光を感知する光感知器とを備え、
前記複数のレーザー光源のそれぞれが、前記光感知器が出力する前記可視レーザー光の反射光の感知の結果に基づいて前記照明領域内で物体検出を行う信号処理部が前記結果に応じて出力する、時間的に変化させる前記可視レーザー光の強度を示す制御信号に従って動作することで、前記照明領域内の照明と前記物体検出との両方が、走査される前記可視レーザー光を用いて実行され、
前記信号処理部は、前記可視レーザー光が一部の時間において出射されない時間に前記物体検出を行う照明装置。
【請求項3】
前記可視レーザー光は所定の周期で繰り返し出射されるパルス光であり、前記パルス光のパルス幅の前記周期に対する割合は50%を超える
請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記複数のレーザー光源は、
前記物体検出のための赤外レーザー光を出射する赤外レーザー光源を含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
前記可視レーザー光は、前記光走査器によって走査されて、前記照明領域の少なくとも一部である表示領域に映像として投影される
請求項1からのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記表示領域の範囲は、前記信号処理部によって前記物体検出の結果に基づいて決定され、
前記制御信号に従って動作する前記複数のレーザー光源は、前記表示領域の範囲に前記映像が投影されるよう前記可視レーザー光を出射する
請求項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記表示領域が前記照明領域の一部の場合、
前記制御信号に従って動作する前記複数のレーザー光源は、前記表示領域には、前記可視レーザー光のうち、前記映像を投影するための可視レーザー光のみが走査されて、前記照明領域を照明するための可視レーザー光は走査されないよう前記可視レーザー光を出射する
請求項5又は6に記載の照明装置。
【請求項8】
前記時間的に変化させられる強度の可視レーザー光は、可視光通信の通信信号を搬送する
請求項1からのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項9】
前記信号処理部による前記物体検出で所定の物体が検出されると、前記制御信号に従う前記複数のレーザー光源は、検出された前記所定の物体が当該所定の物体の周辺よりもより明るく照明されるよう前記可視レーザー光を出射する
請求項1からのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項10】
前記信号処理部は、前記照明領域内にある物体の位置を取得し、
前記制御信号に従う前記複数のレーザー光源は、取得した前記位置に前記可視レーザー光が届くよう動作する
請求項1からのいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項11】
前記信号処理部による前記物体検出で人物の顔の少なくとも一部が検出されると、前記制御信号に従う前記複数のレーザー光源は、検出された前記人物の、少なくとも目の周囲に前記可視レーザー光が届かないよう、又は前記人物の少なくとも目の周囲に届く可視レーザー光の強度を低下させるよう動作する
請求項1から10のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項12】
前記複数のレーザー光源は、
赤色のレーザー光を出射する赤色レーザー光源と、
緑色のレーザー光を出射する緑色レーザー光源と、
青色のレーザー光を出射する青色レーザー光源とを含む
請求項1から11のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項13】
前記複数のレーザー光源及び前記光走査器を含む走査光出射部を複数備え、
前記複数の走査光出射部は、前記複数の走査光出射部が各々含む前記光走査器の照明領域がタイル状に並ぶように配置される
請求項1から12のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項14】
前記複数のレーザー光源は、互いに波長の異なるレーザー光を出射する複数の面発光レーザー光源であり、
前記複数の面発光レーザー光源は、それぞれが出射するレーザー光の波長のより長い面発光レーザー光源が、レーザー光の出射方向においてより後方に位置するようスタックされる
請求項13に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源を含む照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明装置又は表示装置の光源として、従来の白熱電球及び蛍光灯に取って代わりLED(Light-Emitting Diode)の普及が進んでいる。その一方で、さらに次世代に普及する光源のひとつとしてレーザーが注目されている。
【0003】
特許文献1又は特許文献2に開示される車両の前照灯は、白色光を出すための光源として、黄色光を発する蛍光体を励起する青色光の光源であるLED又はレーザー装置を備える。
【0004】
この青色光は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等のミラー部材によって、蛍光体を含むパネルの表面上に走査されて、白色光として車両前方に向かって投影される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5577138号公報
【文献】特許第5662599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなレーザー光源の使用は、高指向性、高輝度性等のLED光に勝るレーザー光の特徴が十分に活かせていない。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、レーザー光源の特徴をより活かしながらその用途を広げてレーザー光源の普及を促し、省エネルギーな照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために提供される、本発明の一態様に係る照明装置は、可視レーザー光を含む、互いに波長の異なるレーザー光を出射する複数のレーザー光源と、前記複数のレーザー光源が出射した前記可視レーザー光を走査して照明領域内に照射する光走査器と、前記光走査器による前記可視レーザー光の走査と同期して、前記照明領域からの前記可視レーザー光の反射光を感知する光感知器とを備え、前記複数のレーザー光源のそれぞれ、前記光感知器が出力する前記レーザー光の反射光の感知の結果に基づいて前記照明領域内で物体検出を行う信号処理部が前記結果に応じて出力する、時間的に変化させる前記可視レーザー光の強度を示す制御信号に従って動作することで、前記照明領域内の照明と前記物体検出との両方が、走査される前記可視レーザー光を用いて実行され、前記信号処理部は、前記可視レーザー光が一部の時間において出射されないことによって発生する反射光のない期間の発生タイミングに基づいて前記物体検出を行う。
また、上記の目的を達成するために提供される、本発明の一態様に係る照明装置は、可視レーザー光を含む、互いに波長の異なるレーザー光を出射する複数のレーザー光源と、前記複数のレーザー光源が出射した前記可視レーザー光を走査して照明領域内に照射する光走査器と、前記光走査器による前記可視レーザー光の走査と同期して、前記照明領域からの前記可視レーザー光の反射光を感知する光感知器とを備え、前記複数のレーザー光源のそれぞれが、前記光感知器が出力する前記可視レーザー光の反射光の感知の結果に基づいて前記照明領域内で物体検出を行う信号処理部が前記結果に応じて出力する、時間的に変化させる前記可視レーザー光の強度を示す制御信号に従って動作することで、前記照明領域内の照明と前記物体検出との両方が、走査される前記可視レーザー光を用いて実行され、前記信号処理部は、前記可視レーザー光が一部の時間において出射されない時間に前記物体検出を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザー光の特徴を活かして広い用途に適用可能であり、省エネルギーな照明装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る照明装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図2図2は、実施の形態に係る照明装置の構成を説明するブロック図である。
図3図3は、実施の形態に係る照明装置の機能を説明するための模式図である。
図4図4は、実施の形態に係る照明装置がもたらし得る省エネルギー効果を説明するための図である。
図5A図5Aは、周期的なパルス光として繰り返し出射されるレーザー光、照射領域内のある点に到達するこのレーザー光、及びこのレーザー光が当該点で反射されてセンサ受光部に入射する光の強さ及びタイミングの一例を模式的に示す図である。
図5B図5Bは、周期的なパルス光として繰り返し出射されるレーザー光、照射領域内のある点に到達するこのレーザー光、及びこのレーザー光が当該点で反射されてセンサ受光部に入射する光の強さ及びタイミングの他の例を模式的に示す図である。
図6図6は、実施の形態に係る照明装置の機能を説明するための他の模式図である。
図7図7は、実施の形態に係る照明装置の機能を説明するためのさらに他の模式図である。
図8図8は、実施の形態の変形例に係る照明装置の構成例を説明するための模式図である。
図9A図9Aは、実施の形態の変形例に係る照明装置の他の構成例を説明するための模式図である。
図9B図9Bは、実施の形態の変形例に係る照明装置が備える面発光可視レーザー光源の配置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0012】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0013】
また、以下の説明で参照される各図は模式図であり、各構成要素の形状や大小関係を正確に示すものではない。また、各図において共通の構成部材については同じ符号で示される。
【0014】
(実施の形態)
[1.構成]
図1及び図2を参照して、実施の形態1に係る照明装置の構成を説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る照明装置の機能構成の一例を示すブロック図である。図2は、本実施の形態に係る照明装置の機械的構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
本実施の形態に係る照明装置100は、機能的構成要素として実空間モニタ部21、内蔵信号処理部131、照明部41、情報伝送部49、給電部43、表示部47及び指示部45を備える。また、本実施の形態に係る照明装置100は、機械的構成要素として、センサ受光部20、制御装置30、レーザー部40、通信部50及び光学系60を備える。
【0017】
実空間モニタ部21は、照明装置100の照明領域にある物体の方向及び距離を検知して物体を検出する(以下、物体検出という)。より具体的には、実空間モニタ部21は、照明領域にある物体の位置及び動体のジェスチャ等を検出することができる。
【0018】
物体検出は、照明装置100からその照明領域に出射された光の反射光を感知することで実行される。
【0019】
照明装置100の出射光の光源は、レーザー部40が備える各レーザー光源であり、図2に示される例では、赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44、青色レーザー光源46、及び赤外レーザー光源48である。
【0020】
これらのレーザー光源が出射したレーザー光は、光学系60が備える光走査部62によって走査されて照明領域内に照射される。
【0021】
光学系60は、例えば複数のレーザー光を集光して同軸にする集光レンズ(図2に図示なし)、波長の異なる複数のレーザー光、本実施の形態の例では赤緑青(以下、RGBとも表記する)のレーザー光を合成する分光カプラーアレイ(図2に図示なし)、及び光走査部62を備える。
【0022】
光走査部62は、例えばLiNbO若しくはLiTaOでチャネルが形成された導波型電気光学変調器、又はMEMSミラーを用いて実現される。光走査部62は、本実施の形態における光走査器の例である。
【0023】
照明領域からのこのレーザー光の反射光が、センサ受光部20が備える可視光センサ22及び赤外センサによって、光走査部62による走査と同期して感知される。可視光センサ22及び赤外センサ24は、それぞれ本実施の形態における光感知器の例である。この感知の結果を示すセンサ受光部20からの信号は、内蔵信号処理部131に入力される。
【0024】
内蔵信号処理部131は、この感知の結果に基づいて、つまりセンサ受光部20からの信号を処理することによって、照明装置100の照明領域内での物体検出を行う。また、内蔵信号処理部131は、上記の物体検出の結果に応じて、照明部41、給電部43、指示部45、表示部47及び情報伝送部49を実現するための制御信号を出力する。制御信号を受信するこれらの各機能的構成要素の詳細については次の「2.動作」の項で後述するが、いずれも物体検出の結果に応じた動作を示す制御信号に従って動作する各レーザー光源によって実現される。
【0025】
また、内蔵信号処理部131は、センサ受光部20からの信号を、通信部50から高速な通信路を介して照明装置100の外部にある集中型信号処理部231に送信し、その処理の全部または一部を担わせてもよい。集中型信号処理部231とは、例えば図2に示されるクラウドコンピューティングによるサーバシステム200、又はスーパーコンピュータ等であり、ビッグデータ解析、AI(artificial intelligence)、又はディープラーニング等の技術を用いてデータを処理する。これにより、より複雑又は高精度な物体検出が実行される。例えば、物体の認識が行われてもよい。または、集中型信号処理部231は、照明装置100のユーザが用いるリモートコントローラ(図示なし)であって、照明装置100と有線又は無線で通信可能に接続されていてもよい。この場合は、上記のサーバシステム200等よりも処理のレベルで劣ることもあるが、内蔵信号処理部131よりは複雑又は高精度な物体検出が実行される。このような内蔵信号処理部131の外部での物体検出の結果は、通信部50を介して内蔵信号処理部131に返される。
【0026】
内蔵信号処理部131は、例えば照明装置100が備えるマイクロコントローラ(図示なし)において、メモリ(図示なし)に記憶されるプログラムがプロセッサによって実行されることで実現される。
【0027】
このような内蔵信号処理部131及び集中型信号処理部231は、それぞれ本実施の形態における信号処理部の例であり、以下では両者を特に区別せずに信号処理部31ともいう。
【0028】
なお、実空間モニタ部21による物体検出は、上記の光の反射光を感知することで実行されるものに限定されない。例えば実空間モニタ部21は、照明装置100の外部機器からその位置を示す位置信号の入力をさらに受けてもよい。このような実空間モニタ部21は、外部から無線通信信号を受信可能な受信器を含む通信部50を用いて実現される。ここでいう外部機器は、無線通信信号を送信可能なものであればとくに限定されない。例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、スマートウォッチなどの情報端末機器でもよいし、いわゆるIoT(Internet of Things)の中で通信可能に接続される物でもよい。また、電化製品ではないものに取り付けられるRFタグであってもよい。無線通信信号は、IrDA、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)等の通信規格に従うものであってもよい。実空間モニタ部21は、入力を受けた位置信号をさらに内蔵信号処理部131に提供する。
【0029】
[2.動作]
上記のような構成の照明装置100は、多機能であって、各機能のための動作が並行して実施可能である。以下、照明装置100の複数の機能、及び各機能を実現するための動作について図を用いて説明する。なお、以下では、照明装置100の各構成要素が実行する動作であっても、便宜的に、照明装置100による動作として説明する場合がある。
【0030】
図3は、照明装置100の機能を説明するための模式図である。図3に示される部屋には、説明及び図示の便宜上、照明装置100が2個設置されているが、ひとつの空間に設置される照明装置100の個数は、レーザー光を用いて発揮される以下に述べる各機能が実施可能であれば限定されず、1個でも3個以上でもよい。この部屋の空間全体は、当該部屋の用途に応じたある程度以上の明るさで照明され得る、照明装置100の照明領域である。
【0031】
なお、本願において、照明装置100の照明領域の語は、照明装置100が設置されている空間において、光走査部62が可視レーザー光を走査して到達させることが可能な領域を指して用いられ、ある時点において現に照明されている特定の領域を指すものではない。また、従来の照明器具と異なり、照明装置100の動作時には照明領域の全体に光源からの光が届くとは限られず、走査されて照明領域の一部又は全部に到達する可視レーザー光が、その到達した位置に応じて以下の各機能を果たすものである。
【0032】
[2-1.物体検出]
照明装置100は、上述のとおり照明領域内の物体検出を行い、この部屋の中にある物体の方向及び距離等を検知する。これにより、例えば壁掛時計、照明領域内に居る人物、又は手、顔若しくは目等の人物の特定の部位の位置又は動きが検出される。
【0033】
物体検出には、赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44及び青色レーザー光源46が出射する可視レーザー光、及び赤外レーザー光源48が出射する赤外レーザー光の少なくとも一部が用いられる。
【0034】
[2-2.照明]
内蔵信号処理部131は、このような物体検出の結果に応じて、照明部41を実現させるための制御信号をレーザー部40に送信する。
【0035】
レーザー部40が備える可視レーザー光源は、この制御信号に従って照明領域全体又はその一部を明るくするための光、つまり照明光を出射して照明部41を実現する。
【0036】
図3に示される例では、物体検出によって検出された壁掛時計の位置に応じて、おもに壁掛時計を照らすスポット照明のための光が出射されている。これは、レーザー部40が備える赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44及び青色レーザー光源46の各レーザー光源(以下、集合的に可視レーザー光源ともいう)が、光走査部62によって走査されるレーザー光が当該位置に向かうタイミングで光を出射することで実現される。
【0037】
また、図3に示される例ではさらに、検出された人物の位置に応じた照明光が出射されている。人物の位置に応じた照明光とは、例えば図3中の人物510のように移動する人物に追従してその周囲を照らすスポット照明のための光であってもよいし、人物520のように机に向かっている人物の手元又は机上のおもな範囲を照らすスポット照明のための光であってもよい。また、人物の顔又はその一部、例えば目が検出されている場合には、レーザー光で目を傷めないように顔、又は少なくとも目の周囲は強度が落とされた照明光で照らされてもよいし、又は照明光が届けられなくてもよい。この場合、目の位置は、顔全体の領域若しくは検出された他の部位から推定されてもよい。このように照明光によって照明される対象又は領域の位置及び大きさ(範囲)、及びその強度の設定は、例えばユーザによって照明装置100のユーザインタフェース(図示なし)を用いて決定される。レーザー部40が備える赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44及び青色レーザー光源46の各レーザー光源は、光走査部62によって走査されて各位置に向かうレーザー光の強度がこの設定どおりになるよう、時間的に強度が変化するレーザー光を出射する。
【0038】
このように内蔵信号処理部131からの制御信号は、届く位置に合わせて時間的に変化させるレーザー光の強度を示す。
【0039】
なお、上記の例のような互いに位置の異なる複数のスポット照明は、光走査部62による1回の走査でカバーされる照明領域にこれらの位置が収まる限り、並行して実行される。
【0040】
また、上記の例では、検出された人物又はその一部の位置を基準にレーザー光で照明する範囲が決定されているが、基準は人物等の位置に限定されない。他に、所定の物体、例えば書物、机、テーブル、書見台、作業台、観葉植物又は植物用のポット等、ある程度の明るさで照らされるべき物体又はそれを保持する物体が、信号処理部31による物体認識によって検出される場合には、その位置を基準にレーザー光が照射される範囲が決定されてもよい。そして、内蔵信号処理部131からの制御信号によって、例えば所定の物体がその周辺よりもより明るく照明されるように、可視レーザー光源にレーザー光を出射させてもよい。または、レーザー光が照射される範囲はユーザが決定する設定に従うものであってもよい。
【0041】
また、照明部41を実現するために各レーザー光源に出射させるレーザー光の強度は、基本的には、その合成光が所定の明るさの白色になるよう調整される。所定の明るさとは、例えば照明装置100のユーザが決定した設定の明るさである。また、色温度又は色合いについては、ユーザがする設定に応じて、または照明装置100の仕様として適宜変更されてもよい。本実施の形態における照明装置100では、RGBのレーザー光を合成することができるため、多様な色温度又は色合いの照明が実現可能である。
【0042】
また、スポット照明のための光は、その届けられる位置ごとに明るさ及び色温度又は色合いを変えることができる。つまり、ひとつの照明装置100で、各ユーザ向けにカスタマイズされた照明を実現することができる。
【0043】
このように、照明が必要な箇所に必要な時間のみ照明光を供給することができる照明装置100は、省エネルギーに寄与する。図4は、照明装置100がもたらし得る省エネルギー効果を説明するための図である。ここでは、光源としてLEDを備える照明装置との比較で説明する。
【0044】
表の上行にあるのは、部屋空間での各照明装置の配光の例を示す模式図であり、下行にあるのは、部屋空間での各照明装置の照度分布の例を示す図である。LED光源の照明装置では広範な領域が照明され、床及び壁にわたって照度分布はほぼ一定である。これに対し、照明装置100では、より狭い領域のみを所望の照度で照明することができる。
【0045】
例えば、日本工業規格のJIS Z 9110:2011に規定される照明基準総則によれば、住宅内での読書のために適した明るさは、その外の領域全般の適切な明るさの10倍程度である。しかし、読書のために照明が必要な領域は、その外の領域に対してごく小さい、例えば1%程度であるとすると、この部屋空間での照明装置100の消費電力は、LED光源の照明装置を用いる場合の10分の1以下にまで下げることも不可能ではない。
【0046】
ここで、物体検出と照明との両方が、走査されるRGBのレーザー光を用いて実行される場合、物体検出の精度は、パルス光として所定の周期(パルス周期)で繰り返し出射するレーザー光のパルス幅の、パルス周期に対する割合(デューティ比)を小さくすることで高めることができる。ただし、このデューティ比が小さいと、照明のための明るさを確保するためにはレーザー光の出力を上げる必要がある。しかしながら高出力のレーザー光は、電力消費が大きいことに加え、ごく短時間で人及び動物の網膜を傷つける危険性がある。
【0047】
このような物体検出の精度と照明の明るさとのトレードオフの問題を解消する方法として、次の3つを例示する。
【0048】
ひとつは、各レーザー光源のデューティ比を、間欠的に、人が感知しにくい程度のごく短い時間のみ下げて、その時間に物体検出を実行する方法である。
【0049】
もうひとつは、照明光のための光源と物体検出のための光源を分ける方法である。例えば物体検出のための光源には、専ら赤外レーザー光源48が用いられてもよい。または、可視光であっても、上記の可視レーザー光源とは異なる波長のレーザー光を出射する光源(図示なし)が用いられてもよい。
【0050】
さらに別のひとつの方法として、パルス周期に対して高いデューティ比でレーザー光を出射し、かつレーザー光が出射されないごく短い時間を設け、反射光のない期間の発生タイミングに基づいて物体検知がなされてもよい。この方法について、低デューティ比で出射されるレーザー光の反射光の戻りのタイミングに基づく物体検知の方法と比較しながら以下に説明する。
【0051】
図5Aは、レーザー部40から周期的なパルス光として低いデューティ比で出射されるレーザー光、照射領域内の点Aに到達するこのレーザー光、及びこのレーザー光が点Aで反射されてセンサ受光部20に入射する光の強さ及びタイミングの例を模式的に示す図である。図5Bは、レーザー部40から周期的なパルス光として高いデューティ比で出射されるレーザー光、照射領域内の点Aに到達するこのレーザー光、及びこのレーザー光が点Aで反射されてセンサ受光部20に入射する光の強さ及びタイミングの例を模式的に示す図である。より具体的には、図5A及び図5Bに共通して、(a)は、出射されるレーザー光、(b)は点Aに到達するレーザー光、(c)はセンサ受光部20に入射する反射光を示し、横軸は時間、曲線の高さは光の強さを示す。
【0052】
また、以下の説明では便宜上、レーザー部40から出射されたレーザー光は、光走査部62による1回の走査で、照射領域内の点A、点B、点C…以下、計100万個の点に向けて走査されること、及びこれらの点はいずれも各レーザー光源から3メートルの位置にあり、各点からセンサ受光部20までも3メートルであることを想定している。したがって、1ナノ秒に30センチメートル進むレーザー光が出射されてから各点に到達するまでに係る時間は10ナノ秒であり、各点で反射された光がセンサ受光部20に到達するまでさらに10ナノ秒かかる。信号処理部31は、センサ受光部20によるこのレーザー光の各点からの反射光の感知の結果に基づいて物体検出を行う。
【0053】
図5Aの例では、(a)に示されるように、レーザー部40が出射するレーザー光のパルスのサイクルは10ナノ秒で、レーザー部40がレーザー光を出射する時間は100ピコ秒である。上記の想定で走査が実施されている場合、点Aは10ミリ秒に1回、100ピコ秒間出射されたレーザー光を受けて反射する。
【0054】
図5Bの例では、(a)に示されるように、レーザー部40が出射するレーザー光のパルスのサイクルは図5Aの例と同じく10ナノ秒である。しかし、図5Aの例と異なり、1サイクルにおいてレーザー部40がレーザー光を出射しない時間が100ピコ秒であり、その余の時間にレーザー光を出射する。上記の想定で走査が実施されている場合、点Aは10ミリ秒に1回、9900ピコ秒のレーザー光を受けて反射する。つまり、同じ時間内に99倍の長さのレーザー光で照射される。したがって、図5Bの例では、図5Aの例よりも照射領域内の各点は、より明るく照明される。そして、図5Aの例のように反射光のある期間の発生タイミングに基づく物体検知と、図5Bの例のように反射光のない期間の発生タイミングに基づく物体検知とは、これらの期間の長さが同じであれば実質的に同等の精度で実施することができる。
【0055】
このように、所定の周期で繰り返される可視レーザー光のパルス光の出射される時間のパルス周期に対する比率をごく高くし、同周期内のごく短い時間にパルス光を出射させないようにすることで、照射領域での物体検知の精度を落とすことなく、より明るい照明を実現することができる。実質的には、パルス周期の50%を超える時間にわたってパルス光が出射されば、照射領域での物体検知の精度と好適な明るさとの両立が可能である。
【0056】
なお、赤外レーザー光源48は、照明領域内であれば、上記のようなスポット照明がされる領域であるか否かに拘わらず、物体検出に常時用いることができる。また、照明領域内であってスポット照明がされる領域の外では、可視レーザー光源が低デューティ比で周期的に出射する可視レーザー光のパルス光を用いて、弱く照明しながら物体検出がなされてもよい。
【0057】
[2-2.給電]
内蔵信号処理部131は、上記のような物体検出の結果から、照明領域内にある外部機器の位置を取得し、給電部43を実現させるための制御信号をレーザー部40に送信する。給電部43による給電の対象である物体とは、光無線給電が可能な機器及び太陽電池を備える機器である。
【0058】
この制御信号は、少なくとも給電の対象である物体の位置を示し、またはさらに当該物体の給電により適した光の強さ又は色を示してもよい。
【0059】
レーザー部40が備える各レーザー光源は、光走査部62によって走査されたレーザー光がこの制御信号が示す位置に届くようにレーザー光を出射して給電部43を実現する。
【0060】
図3の例では、棚に置かれた携帯型の情報端末機器から、位置を示す無線通信信号(一点鎖線)が照明装置100に送信されている。そして照明装置100からこの位置に向けて給電用の光が投下されている。なお、情報端末機器から照明装置100への無線通信信号の送信は必須ではない。代わりに、センサ受光部20が感知した物体検出のために用いられる反射光から得られる情報を、信号処理部31が処理して物体認識を行うことで給電対象の物体を認識し、その位置が取得されてもよい。
【0061】
また、照明装置100では、給電対象の物体の位置を随時取得することができるため、このようにして実現される給電部43は、移動している物体へも継続的に給電することができる。例えばスマートフォンなどの携帯機器に限らず、使用状態にあって随時移動し得るロボット又はドローン等にも、照明領域にある限り給電して、連続運転が可能な時間を長期化することができる。このような給電方式は、ワイヤレス給電と呼ばれるマイクロ波を用いる給電方式よりも、給電対象の物体の場所に関する制約が緩い。
【0062】
[2-3.指示]
各構成要素の動作としては上記の給電と類似し、物体の位置を示す目的で当該物体がレーザー光で照明されてもよい。これにより照明領域内にある物体を指示する指示部45が実現される。
【0063】
図3の例では、床にあるキーケースが備えるRFタグから、位置を示す無線通信信号(一点鎖線)が照明装置100に送信されている。そして照明装置100からこの位置に向けて給電用の光が投下されている。なお、RFタグから照明装置100への無線通信信号の送信は必須ではない。代わりに、センサ受光部20が感知した物体検出のために用いられる反射光から得られる情報を、信号処理部31が処理して物体認識を行うことで指示対象の物体を認識し、その位置が取得されてもよい。
【0064】
このような場合には、ユーザがスポット照明又は給電のためのレーザー光と区別しやすい態様のレーザー光が用いられてもよい。例えば、特定の色のレーザー光又は明滅するレーザー光等で当該物体が照明されてもよい。このような態様のレーザー光での物体の照明も、届く位置に合わせて時間的に変化させるレーザー光の強度を示す制御信号で各可視レーザー光源を制御することで実現される。
【0065】
[2-4.表示]
内蔵信号処理部131は、上記のような物体検出の結果に応じて、表示部47を実現させるための制御信号をレーザー部40に送信する。
【0066】
レーザー部40が備える可視レーザー光源は、この制御信号に従って照明領域内の少なくとも一部に映像を投影するための可視レーザー光を出射して表示部47を実現する。照明領域内の少なくとも一部とは、例えば照明装置100を備える部屋の壁面のように、照明装置100にある物体の表面である。
【0067】
図3に示される例では、サイズ自在ディスプレイがこの表示の機能によって提供されている。これは、レーザー部40が備える可視レーザー光源が、光走査部62によって走査されるレーザー光が所定の表示領域、この例では壁面の一部に向かうタイミングで、表示される映像に応じた明るさおよび色の光を出射することで実現される。所定の表示領域とは、例えば照明装置100のユーザが決定した位置又は大きさ(範囲)等の設定に基づく領域である。また、表示領域の範囲又は表示の内容は、実空間モニタ部21による物体検出の結果に基づいて決定され、その結果の変化に応じて変化してもよい。
【0068】
図6は、照明装置100の機能を説明するための他の模式図である。図6に示されるのは、学校の教室などの様子である。例えば壁面に投影される映像であるサイズ自在ディスプレイの端を引っ張るような人物530の手ぶりが実空間モニタ部21によって検出されると、その手ぶりに応じてサイズ自在ディスプレイの大きさが変更されてもよい。また、人物530の右には、アルファベットのカードの像を含む映像が壁面に投影されている。各カードの像は、例えば人物530による移動させるような手ぶりに応じて平行移動又は回転移動させられてもよい。
【0069】
また、図6においては、ユーザ540A、540B及び540Cは、壁面に映像として投影されている資料と共通の資料を各ユーザの手元にあるスクリーンでも見ている。これらのスクリーンに映る映像は、表示部47によって投影されている。ただし、手元のスクリーンでは、各ユーザの操作に応じて異なる映像が表示されている。説明の便宜上、図6では、各スクリーンに表示される映像を吹き出しに入れて示している。
【0070】
より詳細に見れば、各スクリーンには、資料のうち各ユーザが選択した部分のみが表示され、また、各ユーザが入力した矢印等のオブジェクトが追加で表示されている。このような表示のカスタマイズは、実空間モニタ部21によって各ユーザのジェスチャが検出され、この検出の結果に応じて各スクリーンに投影される映像が変わるよう、各可視レーザー光源が制御されることで実現される。また図6の例では、各スクリーンに追加で表示されているオブジェクトが、壁面に投影されている、資料全体を示す映像に集約的に反映されている。
【0071】
物体検出の結果に応じた表示領域の変化はこのようなインタラクティブなものに限定されない。例えば壁面への映像の投射の際に、壁面でほぼ平坦な部分が物体検出の結果を用いて信号処理部31によって認識され、その部分を最大限有効に利用する表示領域に映像が投影されてもよい。
【0072】
図7は、照明装置100の機能を説明するためのさらに他の模式図である。図7に示されるのは、病院の病室等の様子である。例えば病気の症状等によっては、ユーザは窓のない部屋で過ごす必要がある場合もある。そのような部屋の壁面には、表示部47によってバーチャルウインドウ700を投影することができる。そしてバーチャルウインドウ700に映し出される映像は、実空間モニタ部21によって検出される患者の位置に合わせて、視点の移動に伴う実際の景色の見え方の変化を再現するように変化してもよい。
【0073】
また、図7はさらに、現在のバイタルサインが表示部47によって部屋の壁面に表示される様子を示す。この表示のためのデータは、室内の計測器から照明装置100に送信される。
【0074】
また、照明装置100は外部の機器、例えばデータサーバ等から通信線を介してデータを取得してもよい。例えば図6の資料のデータは、照明装置100の外部のサーバ等から取得され得るものである。また、図7の例では、照明装置100が外部のデータサーバ等から取得した過去の検査の結果(例えばレントゲン写真)を壁面に表示する。これにより、患者の診察室への移動の手間の削減、又は回診する医師が持参する資料の削減が可能になる。
【0075】
このように、照明装置100は壁面の表示媒体としての自在な利用を可能にし、室内の機器及び機器に伴う配線を不要にする。したがって、部屋をより広く使うことができる。
【0076】
また、このように実現される表示部47は、位置的には表示領域が照明領域の一部であっても、この表示領域には、映像を投影するための可視レーザー光のみが走査されて、照明領域を照明するための可視レーザー光は走査されないよう、可視レーザー光を出射することができる。別の表現をすると、制御信号に従って動作する各可視レーザー光源は、光走査部62によって走査されたレーザー光のうち、映像を投影するための光と照明するための光とが重畳しないように可視レーザー光を出射することができる。あるいは、各可視レーザー光源にこのような動作をさせる制御信号における、各可視レーザー光源に映像表示のための光を出射させる部分は映像信号であるともいえる。
【0077】
従来、同一の空間における照明光と映像表示のための光とは、個別の光源、例えばそれぞれ照明器具の光源とプロジェクタの光源から出射される。このような照明光は、映像の投影される領域で映像表示のための光に重畳する。この場合、高コントラストの映像を得るためには、照明光を消すか弱める必要がある。
【0078】
しかし、照明装置100では、照明光と映像表示のための光とは光源が共通であり、かつ、いずれの光もレーザー光であるために指向性が高い。したがって照明装置100では、光走査部62による走査によるレーザー光の到達先が表示領域内であるか否かに合わせて照明光と映像表示のための光を随時切り替えるように可視光を出射することで、照明領域内における表示領域とそれ以外の領域との間で区別的、分離的な光照射が可能である。
【0079】
このような照明装置100の動作は、内蔵信号処理部131がする制御信号を用いた制御で常時実行可能であるし、実空間モニタ部21による物体検出の結果検出されるユーザのジェスチャに応じて実行されてもよい。
【0080】
このような表示部47は、高コントラストの映像を表示させるために従来されていた、部屋全体の照明を落とすためのユーザの操作の手間を削減することができる。また、レーザー光による映像の投影はフォーカスフリーでの実行が技術的に容易であり、表示領域の位置の自由度が高い照明装置100の提供を可能にする。
【0081】
[2-5.情報伝送]
内蔵信号処理部131は、このような物体検出の結果に応じて、情報伝送部49を実現させるための制御信号をレーザー部40に送信する。
【0082】
レーザー部40が備える各可視レーザー光源の少なくとも一部は、この制御信号に従って、外部機器との可視光通信のために高速デジタル変調させたレーザー光を出射することで情報伝送部49を実現する。このレーザー光によって、可視光通信の通信信号が照明装置100から各ユーザの使う、可視光通信ための受光素子を備える端末装置(図示なし)まで搬送される。照明装置100では、互いに異なる通信信号を搬送する可視光を、照射領域内の複数の場所に局所的に照射することができるため、特定の個人に向けた秘匿性のある情報の送信が可能である。図6の例では、ユーザ540A、540B及び540Cに、各自の小テストの結果の情報が送信されている。
【0083】
[2-6.その他]
照明装置100は、その照明領域において、上記の物体検出以外の各機能も平行して発揮することができる。つまり、光走査部62によるレーザー光の1回の走査が行われる間に、走査された光が到達する場所に合わせてレーザー光の出力を時間的に変化させるよう、信号処理部63が各レーザー光源を制御する。また、この制御において、信号処理部63は、レーザー光での照射が必要ない場所には、光レーザー光が光走査部62によって走査されて届かないように各レーザー光源からのレーザー光の出力を停止させる。
【0084】
また、照明装置100は、照明領域のセンシングのための外部のセンサ類とさらに接続してもよい。ここでの外部のセンサ類の例としては、イメージセンサ(カメラ)、マイク、温度センサ、湿度センサが挙げられる。
【0085】
例えば図3では、温湿度センサ310及びカメラ320が照明装置100と通信する。信号処理装置31は、これらのセンサ類から受信する、センシングの結果を示す信号に基づいて照明領域内の状況を認識し、この状況に基づいてレーザー部40に送信する制御信号で示す制御の内容を決定してもよい。
【0086】
または、照明装置100は、これらのセンサ類から提供されるセンシングの結果を用いないが、当該センシングの結果を示す信号を中継し、さらに別の外部の機器又は施設、例えばスマートハウスのコントロールシステム又は警備会社等に送信してもよい。また、照明装置100は、これらのセンサ類に給電してもよい。このように機能する照明装置100は、建物内の送電又は通信のための物理的な配線を削減し、簡素化することができる。
【0087】
図7にも照明装置100と外部のセンサ類とを接続しての動作例が示される。例えば、患者が発した言葉が室内のマイクで収集され、このマイクからの音声信号が信号処理部31によって解析されて言語認識が行われてもよい。そして、認識された言語の内容に応じて、例えば薬袋の位置が指示部45によって示されたり、表示部47が表示するバーチャルウインドウ700の景色が変更されたりしてもよい。
【0088】
また、照明装置100で行われた物体検知の結果が外部に出力されてもよい。例えば図7において、実空間モニタ部21による物体検出の結果である、患者の位置、動き又は姿勢がデータサーバ又はナースステーションに送信されてもよい。
【0089】
このように照明装置100は、レーザー光の走査による照明、給電、物体の指示、映像の表示および情報の伝送の各機能の少なくとも1つと、当該レーザー光の反射光を感知することによる物体検知の機能とを組み合わせて、照明空間内の光の多様化と及び局所化によるパーソナライゼーションを実現する。また、このような従来は複数の装置で実現されていた多様な機能を、ひとつの照明装置100がその照明領域内で並行して提供可能であることから、空間の有効利用を促し、さらに省資源及び低コストにつながる。
【0090】
また、レーザー光を照明に用いる場合には、その高いパワーゆえの安全性が懸念されるが、レーザー光を高速に走査することで実質的なパワー密度が抑えられている。さらに、照明領域では物体検知を常時実行することが可能であるため、万一パワー密度の高い光源の近傍に人又は動物が近づいても、出力を速やかに低下させて事故を回避することができる。
【0091】
照明装置100はまた、照明領域内で照明が不要な箇所には弱い光を照射するか、又は全く照射しないこともできるため、省エネルギーに寄与するとともに、世界的な問題である光害の解決にも貢献し得る。
【0092】
(実施の形態の変形例)
上述のとおり、実施の形態における照明装置100は、レーザー光のパワー密度が高速な走査によって抑えることで安全性の配慮がなされている。しかしながら、より高い安全性を確保するために、又は関係法規による規制に従って照明装置100の光源として利用される各レーザー光源の出力が、所望の大きさの照明領域全体で一定以上の明るさを確保するには不足な場合がある。
【0093】
このような場合に、所望の大きさの照明領域全体で一定以上の明るさを確保するには、例えば照明装置の構成を、レーザー部及び光走査器の組(以下、走査光出射部という)を複数備え、この複数の走査光出射部は、各々が含む光走査器によってレーザー光が走査される照明領域がタイル状に並ぶように配置されるものとしてもよい。図を用いて以下に説明する。図8は、本変形例に係る照明装置100の構成例を説明するための模式図である。
【0094】
図8において、赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44及び青色レーザー光源46(可視レーザー光源)は、1つのレーザー部40が備える可視レーザー光源である。各レーザー光源の出射側には集光レンズがある。集光レンズ、分光カプラー及び光走査部62は、照明装置100の光学系60に含まれる。
【0095】
なお、図8以下では、レーザー部40がさらに備え得る赤外レーザー光源48は図示を省略する。また、図8では、レーザー部40及び集光レンズは、分光カプラーのアレイの最上行4つに対応するもののみを示し、他は図示を省略する。また、図示の構成要素のうち、後述の他の構成例では、集光レンズ及び分光カプラーが不要であるため、レーザー部40と光走査部62とを以て走査光出射部としているが、このような構成は本発明を限定するものはない。
【0096】
各可視レーザー光源が制御信号に従って出射する可視レーザー光は、集光レンズによって同軸になるよう集光されて、対応するひとつの分光カプラーに入射する。分光カプラーに入射した可視レーザー光は合成されてから、光走査部62によって照明領域に走査される。図8では、光走査部62のアレイのうち、最上行左端の光走査部62が、ひとつの照明領域でレーザー光を左上を起点として走査している様子が模式的に示されている。この照明領域は、出力の小さいレーザー光源からのレーザー光を走査しても必要な明るさが確保できる程度の大きさである。
【0097】
このような一連の動作が、図8の例では、全部で12組の走査光出射部で実行され、各々が互いに異なる12個の照明領域でレーザー光が走査されている。これらの照明領域は、図示のようにタイル状に並ぶ。本変形例に係る照明装置100では、走査光出射部がこのように配置されることで、複数の照明領域の集合全体でひとつのより大きな、かつ必要な明るさが確保されている照明領域を実現している。
【0098】
図9Aは、本変形例に係る照明装置100の他の構成例を説明するための模式図である。この構成例では、各可視レーザー光源として、面発光レーザー光源(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER、垂直共振器面発光レーザーの意)が用いられている点が図8に示される構成例と異なる。以下、図8に示される構成例との相違点を中心に説明する。
【0099】
図9Aにおいて、各可視レーザー光源は、それぞれが出射するレーザー光の波長の長いものが、レーザー光の出射方向においてより後方に位置するようスタックされる。図9Bは、照明装置100が備える面発光可視レーザー光源の配置を説明するための模式図である。
【0100】
図9Bにおいて、各面発光可視レーザー光源は、矢印が示すレーザー光の出射方向が揃えられている。そして各面発光可視レーザー光源は、この出射方向において後方から、赤色レーザー光源42、緑色レーザー光源44、青色レーザー光源46の順に並べられている。すなわち、出射するレーザー光の波長の長い面発光可視レーザー光源が、レーザー光の出射方向においてより後方に位置している。より後方にある面発光可視レーザー光源の出射光は、より前方にある面発光可視レーザー光源を透過して、青色レーザー光源46の出光面からは3色の光の合成光が出射される。
【0101】
なお、図9Bでは見やすさのためにこれらの面発光可視レーザー光源の間に隙間があるが、実際は隙間なくスタックされる。
【0102】
このように構成されるレーザー部40から出射される光は、集光レンズで同軸にする必要がなく、また、分光カプラーによる合成も不要である。このようなレーザー部40は、図9Aに示されるように、極力無駄なく出射光を入れるために、光走査部62の入射面に沿うよう取り付けられる。
【0103】
光走査部62による走査の動作、複数の照明領域がタイル状に並ぶように走査光出射部が配置される点は、図8に示される構成と共通である。
【0104】
このように構成される照明装置100は、図8に示される照明装置100に比べて、より小型で軽量である。
【0105】
以上が本変形例に係る照明装置100の構成例である。
【0106】
なお、本変形例に係る照明装置100の各構成は、レーザー光源の出力に対する規制の有無に拘わらず、例えば展示場、コンサートホール等の大きな空間にて照明装置100を用いる際に利用されてもよい。
【0107】
以上、本発明の実施の形態又はその変形例に係る照明装置100について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されない。以下、さらに細かな変形例を例示する。
【0108】
例えば、レーザー部40は、RGB以外の色の可視光を出射するレーザー光源をさらに備えてもよい。より具体的には、黄色レーザー光源を備えてもよい。これにより、照明装置100の照明部41は、より高い演色性を発揮することができる。つまりRGBの3色では平均演色評価数Raは60以下であるが、黄色を加えた4色の光源を用いることでRaは90程度まで向上する。また、情報伝送部49等、一部の機能的構成要素でのみ用いられる、その他の色の可視光を出射するレーザー光源が備えられてもよい。
【0109】
また、照明される空間の用途等によっては、本発明に係る照明装置は、RGBの3色より少ない色数のレーザー光を出力するよう構成されてもよい。また、各レーザー光源の出射光の色の組み合わせはRGBに限定されない。
【0110】
また、光源の一部にLED又は所望の光色の変換光を出射する蛍光体も含んでも良い。
【0111】
また、上記の照明領域または表示領域において、例えばユーザの指先の軌跡、又はペン状の道具の先端に埋め込まれたRFタグの軌跡に、色又は強度の異なる可視光レーザーが照射されるように可視レーザー光源を制御することで、壁面その他のレーザー光が照射される物体の面を、いわゆる電子黒板のように利用することができる。また、この面は立体面でもよく、平面の電子黒板より表現力の高い表示媒体として、例えば体験型展示又は芸術活動等にも利用可能である。
【0112】
上述の実施の形態及びその変形例は、本発明の技術内容を説明することを目的とする例示として記載されたものであり、本願に係る発明の技術的範囲をこの記載の内容に限定する趣旨ではない。本願に係る発明の技術的範囲は、明細書、図面及び特許請求の範囲又はこれに均等の範囲において当業者が想到可能な限り、変更、置き換え、付加、省略されたものも含む。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、住居、オフィス、学校、病院、工場等、照明が必要な場所で利用可能であり、特に、空間内の位置又は空間内に居る人によって必要な光の質又は量が異なる場合に有用である。
【符号の説明】
【0114】
100 照明装置
131 内蔵信号処理部
20 センサ受光部
22 可視光センサ
24 赤外センサ
21 実空間モニタ部
200 サーバシステム
231 集中型信号処理部
30 制御装置
40 レーザー部
42 赤色レーザー光源
44 緑色レーザー光源
46 青色レーザー光源
48 赤外レーザー光源
41 照明部
43 給電部
45 指示部
47 表示部
49 情報伝送部
50 通信部
60 光学系
62 光走査部(光走査器)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B