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特許7055633アクリル酸含有量がより少ないアミド化合物を産生する手段および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】アクリル酸含有量がより少ないアミド化合物を産生する手段および方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/02 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
C12P13/02 ZNA
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2017516309
(86)(22)【出願日】2015-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-10-12
(86)【国際出願番号】 EP2015072506
(87)【国際公開番号】W WO2016050816
(87)【国際公開日】2016-04-07
【審査請求日】2018-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】14003378.8
(32)【優先日】2014-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ブッデ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ドイヴェル,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】エトマン,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】バルデニウス,カイ-ウヴェ
(72)【発明者】
【氏名】クライナー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】フライアー,シュテファン
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】中島 庸子
【審判官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517777号公報
【文献】米国特許第5827699号明細書
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 1/00- 7/08, 9/00- 9/99, 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C12P 1/00-41/00
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、ニトリル化合物をニトリルヒドラターゼ(NHase)およびアミダーゼ産生微生物と接触させる工程を含み、前記微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理し、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであり、
ニトリル化合物と接触させる前に乾燥によって前処理されていない参照微生物と比較して、前記微生物のNHase活性対アミダーゼ活性の比が増加しており、且つ
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
前記方法。
【請求項2】
前記微生物のNHase活性対アミダーゼ活性の比が、参照微生物と比較して少なくとも1.4倍に増加している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物のアミダーゼ活性対NHase活性の比が、参照微生物と比較して少なくとも0.7倍低下している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、少なくとも400のNHase/アミダーゼ活性比を示す、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、
(a)NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程と、
(b)ニトリル化合物を前記微生物と接触させる工程と
を含み、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであ
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【請求項6】
工程a)が、前記微生物の前記NHase/アミダーゼ活性比を増加させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触工程が、乾燥微生物を用いて行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記接触工程が、再構成された微生物を用いて行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物が、水性組成物に懸濁される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接触工程が、粉末、顆粒、懸濁液、および/またはマトリックス結合微生物の形の微生物を用いて行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウスまたはロドコッカス・ピリジノボランスである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アミド化合物は、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトアミド及びニコチンアミドから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1~11のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ニトリル化合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アセトニトリル及び3-シアノピリジンから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1~12のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ニトリル化合物がアクリロニトリルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アミド化合物がアクリルアミドである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
(a)乾燥工程によって前記NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を前処理する工程と、
(b)工程(a)において得た前記乾燥生体触媒を水溶液と混合して活性化混合物を得る活性化工程であり、前記活性化混合物が緩衝液を含む工程と、
(c)反応混合物中で前記乾燥生体触媒を使用して前記ニトリル化合物を前記アミド化合物に変換する工程であり、前記反応混合物が工程(b)の前記緩衝液を含む工程と
を含み、前記活性化混合物中の前記緩衝液のモル濃度対前記反応混合物中の前記緩衝液のモル濃度の比が、任意で変換の終了前に2:1またはより高い、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
NHase/アミダーゼ活性比を増加させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含み、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであり、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【請求項18】
アミダーゼ活性を低下させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含み、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであり、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【請求項19】
ニトリル化合物からアミド化合物を産生するときにアクリル酸の形成を減少させる方法であって、アクリロニトリルをNHaseおよびアミダーゼ生産微生物と接触させる工程を含み、前記微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理し、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【請求項20】
前記NHaseおよびアミダーゼ産生微生物が、乾燥前に固定化されない、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
アクリルアミドもしくはポリアクリルアミドならびに、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介した乾燥工程によって前処理したNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を含む組成物であって、前記微生物が少なくとも400のNHase/アミダーゼ活性比を示し、および/または参照微生物と比較した場合に、少なくとも1.7倍に増加しているNHase活性対アミダーゼ活性の比を示し、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
組成物。
【請求項22】
ニトリル化合物からアミド化合物を産生するために、請求項1から21のいずれか一項に定義される乾燥工程によって前処理したNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を使用する方法。
【請求項23】
NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のNHase/アミダーゼ活性比を増加させる乾燥方法を使用する方法であって、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであり、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【請求項24】
NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のアミダーゼ活性を低下させる乾燥方法を使用する方法であって、
前記乾燥が、噴霧乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介したものであり、
前記微生物が、ロドコッカス・ロドクラウス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・エクイ、ロドコッカス・ルーバー、又はロドコッカス・オパカスである、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体触媒としてニトリルヒドラターゼ(NHase)およびアミダーゼ産生微生物を使用してニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理する方法、ならびにニトリル化合物からアミド化合物を産生するためにそのような微生物を使用する方法に関する。加えて、本発明は、ニトリルヒドラターゼおよびアミダーゼ生産微生物によってニトリル化合物からアミド化合物を産生する場合にアクリル酸副産物の形成を減少させる方法ならびにそのような微生物のNHase/アミダーゼを増加させるまたはアミダーゼ活性を低下させる乾燥方法を使用する方法を対象とする。本発明の方法によって得られる水性アミド化合物およびアクリルアミドまたはポリアクリルアミドを含む組成物、ならびにニトリル化合物と接触させて前記ニトリル化合物をアミド化合物に変換する際に少なくとも400のNHase/アミダーゼ活性比を示す乾燥微生物も提供される。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドのポリマーおよびコポリマーを形成するには、モノマーとしてアクリルアミドが使用される。これらの重合および共重合反応の場合、生物変換によって製造した水性アクリルアミド溶液を使用することができる。しかしながら、アクリルアミド溶液中の高いアクリル酸含有量が高いと、得られるアクリルアミドポリマーおよびコポリマーの性能が低下することが分かった。より具体的には、アクリル酸の存在はアクリルアミドポリマーおよびコポリマー材料の物理的特性を著しく損なう場合があり、これは水処理、製紙、油回収または採鉱など様々な適用において溶解度ならびに性能の低下を引き起こす。
【0003】
ニトリルヒドラターゼ(NHase)、ニトリルをアミドに加水分解する微生物酵素、の発見以来、アミド化合物の工業生産にはNHase活性を有する微生物が集中的に使用されてきた。アミドの化学的合成と比較してより穏やかな反応条件のため、生体触媒としてのNHase産生微生物の使用は、ますます増加傾向にある。
【0004】
実際に、NHase産生微生物によるニトリル生物変換で最も周知されている商業的な例の1つは、アクリロニトリルからのアクリルアミドの製造である。
【0005】
しかしながら、NHase産生微生物を生体触媒として使用する上での困難な問題は、酵素アミダーゼを介する副反応の存在である。NHaseは、ニトリル化合物を対応するアミド化合物に加水分解する一方で、アミダーゼは、アミド化合物を対応するカルボン酸、特にアクリル酸へとさらに変換する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の根底にある技術的な問題は、生体触媒としてNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を使用するニトリル化合物からのアミド化合物の産生において副産物であるアクリル酸の形成により起こる問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的な問題は、特許請求の範囲に反映され、明細書に記載され、以下の実施例および図に例示される実施形態を提供することによって解決される。
【0008】
非常に驚いたことに、ニトリルヒドラターゼ(NHase)およびアミダーゼを産生し、生物変換の生体触媒としての機能を果たす微生物をニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理すると、ニトリル化合物のアミド化合物への生物変換における副産物であるカルボン酸の産生、特にアクリル酸の産生が大いに低下することを本発明者らは見出した。理論に束縛されるものではないが、そのような微生物が供される乾燥工程により、アミダーゼ活性が低下し、それによってNHaseの活性によって産生されるアミドからのアクリル酸の産生を減少させ得るように見える。換言すれば、そのような乾燥微生物は、NHase活性がより高いNHase活性とアミダーゼ活性の間の比を有すると思われ、すなわち、NHase活性対アミダーゼ活性の比は、1.0超、例えば、少なくとも10超、50超、100超、200超、300超または400超である。
【0009】
実際に、添付の実施例に示す通り、後に微生物による生物変換に供されるニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理した微生物が、NHase/アミダーゼ活性について最も高い値を有することは明らかである。設定条件がほぼ等量の生体触媒を含有したという事実(「設定条件におけるNHase活性」に反映される、表1および2を参照のこと)を踏まえると、乾燥工程、すなわちニトリル化合物と接触させる前に生体触媒を乾燥工程に供する工程が、副産物アクリル酸の量に著しく影響することは明らかである。このことは、乾燥工程のため、そのような乾燥微生物は、副産物としてのアクリル酸の含有量がより少ないアミド化合物を産生する程度までアミダーゼ活性が減少することを意味し、これは最も外側の右列から明らかなである。要するに、反応パラメータは、異なる設定条件の間で等しく保たれているので、アクリル酸の量を減少させる改善が、乾燥工程によるものである可能性があることは明らかである。
【0010】
したがって、本発明は、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、ニトリル化合物をニトリルヒドラターゼ(NHase)およびアミダーゼ産生微生物と接触させる工程を含み、前記微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理する方法に関する。
【0011】
本発明はまた、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、(a)NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程と、(b)ニトリル化合物を前記微生物と接触させる工程とを含む、方法を提供する。
【0012】
さらにまた、本発明の驚くべき知見と合致して、アクリロニトリルをNHaseおよびアミダーゼ生産微生物と接触させる工程を含むニトリル化合物からアミド化合物を産生するときにアクリル酸の形成を減少させる方法であって、前記微生物が本明細書に定義されるものである方法が、本明細書において提供される。
【0013】
また、NHase/アミダーゼ活性比を増加させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含む、方法が提供される。
【0014】
同様に、アミダーゼ活性を低下させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含む、方法が、本明細書において提供される。
【0015】
さらにまた、本発明は、ニトリル化合物からアミド化合物を産生するために、本明細書に定義されるNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を使用する方法を提供する。
【0016】
同様に、本発明は、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のNHase/アミダーゼ活性比を増加させる乾燥方法を使用する方法を提供する、または別法においてもしくは加えて、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のアミダーゼ活性を低下させる乾燥方法を使用する方法を提供する。
【0017】
本発明者らの知見と合致して、アミド溶液は、ニトリル化合物のアミド化合物への変換の副産物としてのアクリル酸の含有量がより少ないので、本発明は、本発明の方法によって得られる水性アミド化合物溶液を提供する。
【0018】
さらに本発明者らの知見と合致して、アクリルアミドまたはポリアクリルアミドならびにNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を含む組成物であって、前記微生物が少なくとも400のNHase/アミダーゼ活性比を好ましくは示す組成物が、本明細書において提供される。
【0019】
本発明を、いくつかの典型的な実施形態を参照して以下で詳述する。本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的詳細が述べる。さらに本発明による方法、組成物または使用について単一の特徴を定義し、指定する場合、そのような定義および仕様は、本明細書に記述され、提供されている発明の方法、発明の組成物ならびに発明の使用の全てに適用される。
【0020】
さらにまた、以下に述べる特定の詳細のうちいくつかまたは全てがなくても実施形態を実施できることは、当業者に明らかである。他の例において、本発明を不必要に不明瞭にしないために、周知のプロセス工程については詳述しなかった。
【0021】
本発明の知見と合致して判明したように、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物は、ニトリル化合物をアミド化合物に変換することが可能であるが、他のそのようなNHaseならびにアミダーゼ産生微生物とは対照的に、アミド化合物への生物変換に供されるべきニトリル化合物と接触させる前に前記微生物を乾燥工程によって前処理する場合、産生されるカルボン酸、特にアクリル酸がより少ない。特にアクリル酸は、アミドからポリアクリルアミドへのその後の重合反応において問題の原因になるので、そのような乾燥微生物のこの特性は有利である。したがって、微生物が少量/低濃度のカルボン酸、特にアクリル酸を含むアミド化合物を産生するようにNHase活性は基本的に変わらないが、低いアミダーゼ活性を有する微生物の形で生体触媒を提供することは、本発明者らによる優れた功績である。注目すべきは、本発明者らが、NHaseならびにアミダーゼ産生微生物を遺伝子操作するもしくはそのような微生物を突然変異誘発剤などに供することなく、または(偶然に)天然に存在するそのような微生物のために過度のスクリーニングをすることなく、アミド化合物への生物変換の過程で前記微生物をニトリル化合物と接触させる前にNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥工程に供することを思慮深く観察することによってこの功績に達したことである。
【0022】
したがって、本発明は、ニトリル化合物をニトリルヒドラターゼ(NHase)およびアミダーゼ産生微生物と接触させる工程を含み、前記微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理する方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、(a)NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程と、(b)ニトリル化合物を前記微生物と接触させる工程とを含む、方法を提供する。
【0024】
さらにまた、本発明は、NHaseおよびアミダーゼを産生することが可能な乾燥微生物であって、NHaseとアミダーゼ活性の間の比が、1.0超、例えば、少なくとも10超、50超、100超、200超、300超または400超であり、前記乾燥微生物を、アミド化合物に(生物)変換されるべきニトリル化合物と接触させる前に乾燥されない同じ微生物と比較して、副産物として非常に少ないアクリル酸を含むアミド化合物を産生することができる乾燥微生物を提供する。
【0025】
用語「接触させる前に乾燥工程によって前処理する」は、本発明の方法およびそれを使用する方法のいずれかに適用する前に、微生物が、前記微生物を乾燥させる手段ならびに/または方法によって処理することを意味する。特に、微生物は、前記微生物によって(生物)変換されるべきニトリル化合物と接触させる前に乾燥させる。したがって、本発明の好ましい微生物は、前記乾燥微生物によってアミド化合物に(生物)変換されるべきニトリル化合物と接触させる(または接触させる)前に乾燥させる(乾燥工程に供する)。好ましくは、乾燥工程により、微生物の全質量の最大30、25、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6または5質量パーセンテージ(w/w%)の残留水分含量を有する微生物を得られる。そのため「微生物の全質量」は、微生物それ自身の質量に必ずしも限定されず、したがって(例えば、微生物を乾燥工程の前に水で洗浄した場合に当然考え得るが)その存在が微生物の培養および/または洗浄工程等によるものであり得る成分をさらに含むことができる。以下に述べることは、「微生物の全質量」は、(微生物に加えて)TRIS系緩衝液、食塩水系緩衝液等など、残存量の貯蔵緩衝液構成要素/塩類、および/または残存量の培地、成長培地、栄養液、発酵ブロス、例えば微生物を培養するために使用した発酵ブロス等、安定剤、添加物(例えば乾燥添加物)等をさらに含み得るということである。
【0026】
用語「微生物」は、本明細書に使用される場合、「ニトリルヒドラターゼおよびアミダーゼ産生微生物」あるいは「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」を包含する。本発明の文脈において微生物は、好ましくは細菌、真菌または酵母である。本発明の微生物は、前記微生物によるアミド化合物への生物変換に供されるニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって好ましくは前処理する。本発明の微生物は、乾燥される前に好ましくは固定化されない。本明細書では「固定化される」とは、支持体マトリックスに微生物を結合もしくは吸着させる、支持体マトリックス中に微生物を捕捉または封入することを含むがこれに限定されない当業者に公知の任意の固定技術のことを指す。
【0027】
本発明の中で、「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、ニトリル化合物を対応するアミド化合物に変換する生体触媒として使用される、またはそれ用である。前述の通り、そのような微生物は、アミド化合物への生物変換に供されるニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって好ましくは前処理する。結果として、そのような微生物は、アミド化合物に変換されるべきニトリル化合物と接触させる前に乾燥されない同じ微生物と比較して、副産物としてのアクリル酸の含有量が非常に少ないアミド化合物を産生することができる。
【0028】
「ニトリル化合物」は、本発明の微生物によりNHaseの作用によってアミド化合物に変換される。ニトリル化合物は-C≡N官能基を有する任意の有機化合物である。好ましいニトリル化合物は、アクリロニトリルである。本明細書に開示する方法においてメタクリロニトリル、アセトニトリルまたは3-シアノピリジンを使用することも想定される。
【0029】
「アミド化合物」は、アミダーゼによってアミド化合物に変換される。アミド化合物は、官能基RC(O)NR’を有し、式中RおよびR’とは、Hまたは有機基のことを指す。有機アミドについてn=1、x=1である。アミド化合物の例は、アクリルアミドである。本発明の方法について想定されるアミド化合物のさらなる例は、メタクリルアミド、アセトアミドまたはニコチンアミドである。
【0030】
本発明の中で、「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、酵素NHaseおよびアミダーゼを産生することができる任意の微生物であることができる。これに関して、微生物が、NHaseおよびアミダーゼを天然にコードするかどうか、または前記酵素をコードするように遺伝子組換えされているかどうかは、本発明と関連性がない。さらにまた、生体触媒は、NHaseおよびアミダーゼを天然にコードする、ならびにさらに遺伝子操作されている、例えば、NHaseの産生を増加させる、またはNHaseの安定性および/もしくは輸送を増加させる、あるいはアミダーゼの産生を低下させる、またはアミダーゼの安定性および/もしくは輸送を増加させる、微生物であり得る。
【0031】
本発明の文脈において、NHaseを天然にコードしていない「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、NHaseをコードする遺伝子を天然には含有しないが、例えばNHaseをコードするポリヌクレオチドを含有するように操作されている遺伝子操作微生物であることができ(例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コンジュゲーション、または細胞内にポリヌクレオチドを移入もしくは挿入するのに適当な当技術分野において公知の他の方法による;参照Sambrook and Russell 2001年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、CSH Press、Cold Spring Harbor、NY、USA)、したがって微生物は、NHase酵素を産生し、安定して維持することが可能になる。この目的のために、NHase遺伝子またはmRNAそれぞれの転写および翻訳を可能にするのに必要になり得る追加のポリヌクレオチドを挿入することがさらに必要となる場合がある。そのような追加のポリヌクレオチドは、とりわけ、プロモーター配列、または複製開始点もしくは他のプラスミド制御配列を含むことができる。この文脈において、NHaseをコードしている遺伝子を天然に含有しないが、例えばNHaseをコードしているポリヌクレオチドを含有するように操作されているそのような遺伝子操作微生物は、原核または真核微生物であることができる。そのような原核微生物の例には、例えば、種の代表である大腸菌(Escherichia coli)がある。そのような真核微生物の例には、例えば、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)がある。
【0032】
同様に、アミダーゼを天然にコードしていない「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、アミダーゼをコードする遺伝子を天然には含有しないが、例えばアミダーゼをコードするポリヌクレオチドを含有するように操作されている遺伝子操作微生物であることができ(例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コンジュゲーション、または細胞内にポリヌクレオチドを移入もしくは挿入するのに適当な当技術分野において公知の他の方法による;参照Sambrook and Russell 2001年、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、CSH Press、Cold Spring Harbor、NY、USA)、したがって微生物はアミダーゼ酵素を産生し、安定して維持することが可能になる。この目的のために、アミダーゼ遺伝子またはmRNAそれぞれの転写および翻訳を可能にするのに必要になり得る追加のポリヌクレオチドを挿入することがさらに必要となる場合がある。そのような追加のポリヌクレオチドは、とりわけ、プロモーター配列、または複製開始点もしくは他のプラスミド制御配列を含むことができる。この文脈において、アミダーゼをコードしている遺伝子を天然に含有しないが、例えばアミダーゼをコードしているポリヌクレオチドを含有するように操作されているそのような遺伝子操作微生物は、原核または真核微生物であることができる。そのような原核微生物の例には、例えば、種の代表である大腸菌(Escherichia coli)がある。そのような真核微生物の例には、例えば、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)がある。
【0033】
(天然にまたは非天然に)NHaseをコードする「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、一般にNHaseを産生し、安定して維持することもできる。しかしながら、本発明によると、そのような微生物は、乾燥および/またはニトリル化合物と接触させたとき、微生物の培養(または発酵)の間にNHaseだけを産生する(したがってその場合NHaseを含有する)可能性もある。そのような場合、微生物は、本明細書に記述し、提供した方法の間にNHaseをもはや産生しないが、微生物が乾燥前に産生し、乾燥後にまだ含有しているNHaseユニットだけで作用する可能性がある。当業者によって直ちに理解されるように、一部のNHase分子が、微生物を離れ(例えば、微生物の溶解による)、溶液中で生体触媒として自由に作用できる可能性もある。
【0034】
同様に、(天然にまたは非天然に)アミダーゼをコードする「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、一般にアミダーゼを産生し、安定して維持することもできる。しかしながら、本発明によると、そのような微生物は、乾燥および/またはニトリル化合物と接触させたとき、微生物の培養(または発酵)の間にアミダーゼだけを産生する(したがってその場合アミダーゼを含有する)可能性もある。そのような場合、微生物は、本明細書に記述し、提供した方法の間にアミダーゼをもはや産生しないが、微生物が乾燥前に産生し、乾燥後にまだ含有しているアミダーゼユニットだけで作用する可能性がある。
【0035】
本発明の文脈において、NHaseおよびアミダーゼを天然にコードしている「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」には、とりわけ、ロドコッカス属、アスペルギルス属、アシドボラックス属、アグロバクテリウム属、バチルス属、ブラジリゾビウム属、ブレビバクテリウム属、バークホルデリア属、エシェリキア属、ゲオバチルス属、クレブシエラ属、メソリゾビウム属、モラクセラ属、パントエア属、シュードモナス属、根粒菌属、ロードシュードモナス属、セラチア属、アミコラトプシス属、アルトロバクター属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、ミクロコッカス属、ノカルジア属、シュードノカルジア属、トリコデルマ属、ミロテシウム属、アウレオバシジウム属、カンジダ属、クリプトコックス属、デバリオミセス属、ゲオトリクム属、ハンセニアスポラ属、クルイウェロマイセス属、ピキア属、ロドトルラ属、コマモナス属(Comomonas)およびピロコッカス属の細菌がある。本発明の好ましい実施形態において、微生物は、ロドコッカス属、シュードモナス属、エシェリキア属およびゲオバチルス属の細菌から選択される。
【0036】
特に、「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」には、とりわけ、以下の種、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス・ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・ルーバー(Rhodococcus ruber)、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アシドボラックス・アベナエ(Acidovorax avenae)、アシドボラックス・ファシリス(Acidovorax facilis)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・パリダス(Bacillus pallidus)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)、バチルス sp BR449、ブラジリゾビウム・オリゴトロフィクム(Bradyrhizobium oligotrophicum)、ブラジリゾビウム・ジアゾエフィシエンス(Bradyrhizobium diazoefficiens)、ブラジリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum)、バークホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)、バークホルデリア・グラディオリ(Burkholderia gladioli)、大腸菌、ゲオバチルス sp.RAPc8、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、クレブシエラ・バリコラ(Klebsiella variicola)、メソリゾビウム・シセリ(Mesorhizobium ciceri)、メソリゾビウム・オポテュニスタム(Mesorhizobium opportunistum)、メソリゾビウム sp.F28、モラクセラ属、パントエア・エンドピュティカ(Pantoea endophytica)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、リゾビウム属、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、セラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アミコラトプシス属、アルトロバクター属、ブレビバクテリウム sp.CH1、ブレビバクテリウム sp.CH2、ブレビバクテリウム sp.R312、ブレビバクテリウム・インペリアーレ(Brevibacterium imperiale)、コリネバクテリウム・ニトリロフイラス(Corynebacterium nitrilophilus)、コリネバクテリウム・シュードジフテリティカム(Corynebacterium pseudodiphtheriticum)、コリネバクテリウム・グルタニカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・ホフマンニイ(Corynebacterium hoffmanii)、ミクロバクテリウム・インペリアーレ(Microbacterium imperiale)、ミクロバクテリウム・スメグマチス(Microbacterium smegmatis)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、ノカルジア・グロベルラ(Nocardia globerula)、ノカルジア・ロドクラウス(Nocardia rhodochrous)、シュードノカルジア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)、トリコデルマ属、ミロテシウム・バルカリア(Myrothecium verrucaria)、アウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)、カンジダ・ファマタ(Candida famata)、カンジダ・ギリエルモンディ(Candida guilliermondii)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコックス・フラバス(Cryptococcus flavus)、クリプトコックス sp.UFMG-Y28、デバリオミセス・ハンセニイ(Debaryomyces hanseii)、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)、ゲオトリクム sp.JR1、ハンセニアスポラ属、クルイウェロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)、ピキア・クリュイベリ(Pichia kluyveri)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、ピロコッカス・ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)、ブレビバクテリウム・カセイ(Brevibacterium casei)、またはノカルジア sp.163がある。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」は、ロドコッカス・ロドクラウスまたはロドコッカス・ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)種の細菌である。これらの種の好ましい代表例は、ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)、ロドコッカス・ロドクラウス(FERM BP-1478)、ロドコッカス・ロドクラウスM8、およびロドコッカス・ロドクラウスM33である。
【0038】
本発明の文脈において、「ニトリルヒドラターゼ」(「NHase」)とは、ニトリルの対応するアミドへの水和を触媒する微生物酵素のことを指す(IUBMB酵素命名法EC4.2.1.84.)。しかしながら、本明細書では用語「ニトリルヒドラターゼ」および「NHase」は、修飾もしくは強化された酵素も包含し、その酵素は、例えば、ニトリル化合物(例えばアクリロニトリル)をアミド化合物(例えばアクリルアミド)へより速やかに変換することができる、またはより高い収率/時間比で産生することができる、あるいはニトリル化合物(例えばアクリロニトリル)のアミド化合物(例えばアクリルアミド)への変換(すなわち水和)を触媒可能な限りより安定している。
【0039】
アクリロニトリルをアクリルアミドへ変換する所与の生体触媒(例えば「NHaseおよびアミダーゼ産生微生物」)の能力を決定する方法は、当技術分野において周知である。例えば、本発明の文脈において、アクリロニトリルをアクリルアミドへ変換することができる所与の生体触媒の活性は、本発明の意味において以下の通りに決定することができる:最初に、細胞懸濁液、細胞溶解物、溶解した酵素粉末または推定されるニトリルヒドラターゼを含有する他の任意の試料100μLを、50mMリン酸カリウム緩衝液875μLおよびアクリロニトリル25μLと1000rpmのエッペンドルフチューブ振盪機で、25℃で、10分間反応させる。反応時間10分後に、サンプルを抽出し、同体積の1.4%塩酸を添加することにより直ちに失活させることができる。サンプルを混合した後、10000rpmで1分間の遠心分離によって細胞を除去することができ、形成されたアクリルアミドの量は、HPLCによって透明な上澄みを分析することによって決定される。本発明の文脈において酵素がニトリルヒドラターゼであることを確認するにはアクリルアミドの濃度を0.25~1.25mmol/Lにするものとし、したがって必要に応じてサンプルは希釈されなければならない、および変換を繰り返さなければならない。その後酵素活性は、HPLC分析から得られるアクリルアミド濃度を反応時間で割り、その時間は10分間であり、この値をHPLCサンプルと元のサンプルの間の希釈係数と掛け算することによってアクリルアミドの濃度から導き出すことができる。5U/mg(乾燥細胞質量)超、好ましくは25U/mg(乾燥細胞質量)超、より好ましくは、50U/mg(乾燥細胞質量)超、最も好ましくは100U/mg(乾燥細胞質量)超の活性は、機能的に発現しているニトリルヒドラターゼの存在を示し、本発明の文脈におけるニトリルヒドラターゼと考えられる。
【0040】
本発明の文脈において、ニトリルヒドラターゼは、配列番号1のヌクレオチド配列(R.ロドクラウスのニトリルヒドラターゼのα-サブユニット:GTGAGCGAGCACGTCAATAAGTACACGGAGTACGAGGCACGTACCAAGGCGATCGAAACCTTGCTGTACGAGCGAGGGCTCATCACGCCCGCCGCGGTCGACCGAGTCGTTTCGTACTACGAGAACGAGATCGGCCCGATGGGCGGTGCCAAGGTCGTGGCCAAGTCCTGGGTGGACCCTGAGTACCGCAAGTGGCTCGAAGAGGACGCGACGGCCGCGATGGCGTCATTGGGCTATGCCGGTGAGCAGGCACACCAAATTTCGGCGGTCTTCAACGACTCCCAAACGCATCACGTGGTGGTGTGCACTCTGTGTTCGTGCTATCCGTGGCCGGTGCTTGGTCTCCCGCCCGCCTGGTACAAGAGCATGGAGTACCGGTCCCGAGTGGTAGCGGACCCTCGTGGAGTGCTCAAGCGCGATTTCGGTTTCGACATCCCCGATGAGGTGGAGGTCAGGGTTTGGGACAGCAGCTCCGAAATCCGCTACATCGTCATCCCGGAACGGCCGGCCGGCACCGACGGTTGGTCCGAGGAGGAGCTGACGAAGCTGGTGAGCCGGGACTCGATGATCGGTGTCAGTAATGCGCTCACACCGCAGGAAGTGATCGTATGA)ならびに/または配列番号3のヌクレオチド配列(R.ロドクラウスのニトリルヒドラターゼのβ-サブユニット:ATGGATGGTATCCACGACACAGGCGGCATGACCGGATACGGACCGGTCCCCTATCAGAAGGACGAGCCCTTCTTCCACTACGAGTGGGAGGGTCGGACCCTGTCAATTCTGACTTGGATGCATCTCAAGGGCATATCGTGGTGGGACAAGTCGCGGTTCTTCCGGGAGTCGATGGGGAACGAAAACTACGTCAACGAGATTCGCAACTCGTACTACACCCACTGGCTGAGTGCGGCAGAACGTATCCTCGTCGCCGACAAGATCATCACCGAAGAAGAGCGAAAGCACCGTGTGCAAGAGATCCTTGAGGGTCGGTACACGGACAGGAAGCCGTCGCGGAAGTTCGATCCGGCCCAGATCGAGAAGGCGATCGAACGGCTTCACGAGCCCCACTCCCTAGCGCTTCCAGGAGCGGAGCCGAGTTTCTCTCTCGGTGACAAGATCAAAGTGAAGAGTATGAACCCGCTGGGACACACACGGTGCCCGAAATATGTGCGGAACAAGATCGGGGAAATCGTCGCCTACCACGGCTGCCAGATCTATCCCGAGAGCAGCTCCGCCGGCCTCGGCGACGATCCTCGCCCGCTCTACACGGTCGCGTTTTCCGCCCAGGAACTGTGGGGCGACGACGGAAACGGGAAAGACGTAGTGTGCGTCGATCTCTGGGAACCGTACCTGATCTCTGCGTGA)と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、および最も好ましくは100%同一であるヌクレオチド配列を含むもしくはそれからなるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドであることができる、ただし、前記ポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが、本明細書に記述され、例証されているアクリロニトリルのアクリルアミドへの水和を触媒することができる(すなわち、ニトリルヒドラターゼ活性を有する)場合に限る。また、本発明の文脈において、ニトリルヒドラターゼは、配列番号2のアミノ酸配列(R.ロドクラウスのニトリルヒドラターゼのα-サブユニット:VSEHVNKYTE YEARTKAIET LLYERGLITP AAVDRVVSYY ENEIGPMGGA KVVAKSWVDP EYRKWLEEDA TAAMASLGYA GEQAHQISAV FNDSQTHHVV VCTLCSCYPW PVLGLPPAWY KSMEYRSRVV ADPRGVLKRD FGFDIPDEVE VRVWDSSSEI RYIVIPERPA GTDGWSEEEL TKLVSRDSMI GVSNALTPQE VIV)ならびに/または配列番号4のアミノ酸配列(R.ロドクラウスのニトリルヒドラターゼのβ-サブユニット:MDGIHDTGGM TGYGPVPYQK DEPFFHYEWE GRTLSILTWM HLKGISWWDK SRFFRESMGN ENYVNEIRNSY YTHWLSAAE RILVADKIIT EEERKHRVQE ILEGRYTDRK PSRKFDPAQI EKAIERLHEP HSLALPGAEP SFSLGDKIKV KSMNPLGHTR CPKYVRNKIG EIVAYHGCQI YPESSSAGLG DDPRPLYTVA FSAQELWGDD GNGKDVVCVD LWEPYLISA)と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%および最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列を含むもしくはそれからなるポリペプチドであることができる、ただし、前記ポリペプチドが、本明細書に記述され、例証されているアクリロニトリルのアクリルアミドへの水和を触媒することができる場合に限る。
【0041】
2個以上の配列(例えば、核酸配列またはアミノ酸配列)の間の同一性のレベルは、当技術分野において公知の方法、例えば、BLAST分析によって容易に決定することができる。一般に、本発明の文脈において、例えば、配列比較によって比較しようとする2個の配列(例えば、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列)が、同一性の点で異なる場合、次に用語「同一性」とは、より短い配列および前記より短い配列に合致するより長い配列の一部のことを指すことができる。したがって、比較される配列が同じ長さでない場合、同一性の程度は、長い方の配列中にあるヌクレオチド残基と同一である短い方の配列中のヌクレオチド残基のパーセンテージまたは短い方の配列中にあるヌクレオチド配列と同一である長い方の配列中のヌクレオチドのパーセンテージのいずれかを好ましくは指すことができる。この文脈において、当業者は、短い方の配列に合致する長い方の配列の一部を容易に決定する状況にある。さらにまた、本明細書では、核酸配列またはアミノ酸配列の同一性レベルとは、それぞれの配列の全長のことを指すことができ、好ましくは評価されたペアワイズであり、各ギャップは、1個のミスマッチとして計算される。配列比較のためのこれらの定義(例えば、「同一性」値の確立)は、本明細書に記述され、開示される全ての配列に適用されることとする。
【0042】
さらに、本明細書では用語「同一性」は、対応する配列間に機能的および/または構造的等価性があることを意味する。本明細書に記述される特定の核酸/アミノ酸配列に対して所与の同一性レベルを有する核酸/アミノ酸配列は、これらの配列の誘導体/バリアントを表すことができ、それら誘導体/バリアントは、好ましくは、同じ生物学的機能を有する。誘導体/バリアントは、天然に存在する変形、例えば他の品種、種等、もしくは突然変異のいずれかに由来する配列であることができ、前記突然変異は、天然に生じた場合があり、または意図的な突然変異誘発によって作製された場合もある。さらにまた、変形は合成的に作製された配列であることができる。バリアントは、天然に存在するバリアントまたは合成的に作製されたバリアントもしくは組換えDNA技術によって作製されたバリアントであることができる。上記の核酸配列からの逸脱は、例えば、欠失、置換、付加、挿入および/または組換えによって作製することができた。用語「付加」とは、所与の配列の末端に少なくとも1個の核酸残基/アミノ酸を追加することを指すが、「挿入」とは、所与の配列の中に少なくとも1個の核酸残基/アミノ酸を差し込むことを指す。用語「欠失」とは、所与の配列において少なくとも1個の核酸残基またはアミノ酸残基を削除もしくは除去することを指す。用語「置換」とは、所与の配列において少なくとも1個の核酸残基/アミノ酸残基を置きかえることを指す。また、ここで使用されるこれらの定義は、必要な修正を加えて本明細書に提供され、記述される全ての配列に適用する。
【0043】
一般に、本明細書では、用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」または「核酸分子」は、同義に解釈される。一般に、核酸分子は、とりわけDNA分子、RNA分子、オリゴヌクレオチドチオリン酸、置換リボオリゴヌクレオチドまたはPNA分子を含むことができる。さらにまた、用語「核酸分子」とは、DNAもしくはRNAまたはそのハイブリッドあるいは当技術分野において公知のその任意の修飾のことを指すことができる(例えば、修飾の例として米国特許第5,525,711号、第4,711,955号、第5,792,608号または欧州特許第302175号を参照のこと)。ポリヌクレオチド配列は、一本鎖もしくは二本鎖、線状もしくは環状、天然または合成であることができ、およびどんなサイズ制限もないことができる。例えば、ポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNA、ミトコンドリアDNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボザイムRNAもしくはそのようなRNAをコードしているDNAまたはキメロプラスト(Gamper、Nucleic Acids Research、2000年、28、4332~4339頁)であることができる。前記ポリヌクレオチド配列は、ベクター、プラスミドまたはウイルスDNAもしくはRNAの形であることができる。また、上記の核酸分子と相補的である核酸分子および本明細書に記述される核酸分子にハイブリダイズすることができる核酸分子について本明細書に記述される。本明細書に記述される核酸分子は、本発明の文脈において核酸分子の断片であることもできる。特に、そのような断片は機能的断片である。そのような機能的断片の例は、プライマーとしての機能を果たすことができる核酸分子である。
【0044】
「アミダーゼ」とは、アミドのそれに対応するカルボン酸への加水分解を触媒する微生物酵素のことを指す(IUBMB酵素命名法EC3.5.1.4.「アミダーゼ」)。本明細書においてアミダーゼとは、NHaseと同時発現され、NHaseによって産生されるアミドを対応するカルボン酸へとさらに変換するアミダーゼのことを好ましくは指す。本明細書では用語「アミダーゼ」は、そのような酵素がアミダーゼ活性をなお有する限り、修飾されたまたは能力が落ちた酵素も包含する。
【0045】
理論に束縛されるものではないが、生体触媒(すなわち微生物)の乾燥は、アミダーゼの活性を低下させるとみられ、その際にNHase活性はより低い程度で低下すると考えられるまたは変化しないままである。実際に、本発明者らは、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を、前記微生物による生物変換(アミド化合物へのニトリル化合物)に供されるべきニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理した場合、NHaseの活性がアミダーゼの活性より高いことを観察した。
【0046】
上述の通り、微生物が、前記微生物によりアミド化合物へと変換されるべきニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理した場合、前記微生物が、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理されなかった同じ微生物と比較して、アクリル酸含有量がより少ないアミド化合物を産生できることが本発明者らによって観察された。
【0047】
したがって、本発明の微生物は、少なくとも400ユニットのNHase/アミダーゼ活性比を好ましくは有する。NHase活性は、本明細書で上に記載の通り好ましくは決定される。
【0048】
また、本発明の知見によると、本発明の方法に記載の接触工程は、乾燥微生物を用いて行われる。一実施形態によると、本発明の方法に記載の接触工程は、再構成された微生物を用いて行われる。再構成された微生物は、懸濁された、すなわちスラリー中に存在する、または水もしくは生理的pHを有する緩衝溶液などの水溶液、もしくは水性組成物に溶解された乾燥微生物である。後者は、グルコースなど1種類以上のさらなる成分を含有することができる。本明細書において再構成とは、微生物がニトリル化合物と接触させる前に乾燥微生物に水性組成物を添加することを指す。したがって、本明細書に記述される方法のいずれか1法において、接触工程は、水性組成物に懸濁した乾燥微生物を用いて行うことができる。そのような水性組成物には、水(例えば脱イオン水)および緩衝液(例えばリン酸緩衝液)があるが、これに限定されない。
【0049】
上記から判断して、本発明の方法に記載の接触工程は、粉末、顆粒および/または懸濁液の形の微生物を用いて行われることが好ましい。接触工程を行うのにマトリックス結合微生物を使用することも可能である。
【0050】
上で説明した通り、本明細書に記述される方法および使用にも適用される本発明の微生物のNHase活性対アミダーゼ活性の比は、参照微生物と比較して増加している。
【0051】
実際に、添付の実施例に示すように、後に前記微生物による生物変換に供されるニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理した微生物が、乾燥工程によって前処理されなかった微生物と比較して最も低いアクリル酸値を有することは明らかである。この知見は、非乾燥微生物が副産物としてより多くのアクリル酸を産生し、アクリル酸はアミド化合物のアクリル酸への変換から生じるので、乾燥微生物のアミダーゼ活性が減少しているまたは能力が落ちていると思われることを意味する。その結果、NHase活性は、(低下した)アミダーゼ活性と比較して増加している。実際に、乾燥工程により、そのような乾燥微生物は、副産物としてのアクリル酸の含有量がより少ないアミド化合物を産生する程度までアミダーゼ活性が減少し、これは表1および2の最も外側の右列から明らかである。要するに、実施例1および2に適用される反応パラメータは異なる設定条件間で等しく保たれているので、アクリル酸の量を減少させる改善が、乾燥工程によるものである可能性があることは明らかである。
【0052】
本明細書において言及される場合、「参照微生物」として非乾燥生体触媒(すなわち微生物)を使用することができる。したがって、参照微生物とは、ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理された本発明の微生物によってアミド化合物へと変換されるべき前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理されなかったものである。例えば、適当な「参照微生物」は、本発明の方法において生体触媒として使用される微生物と同じ株の非乾燥微生物である。さらにまた、「参照微生物」は、乾燥前の、本発明の方法に使用される生体触媒(すなわち微生物)に対応することができる。この場合、本方法の乾燥工程a)の前後に生体触媒として使用される微生物のNHase/アミダーゼ活性を決定し、両方のNHase/アミダーゼ活性を比較して、乾燥が微生物のNHase/アミダーゼ活性を増加させるかどうか決定することができる。さらに、ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)を「参照微生物」として使用することができる。工程a)において実施される乾燥方法が、使用される微生物のNHase/アミダーゼ活性比を増加させるかどうか決定するために、ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)を、工程a)において実施される乾燥方法に追加的にまたは代わりに供することができる。ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)のNHase/アミダーゼ活性比が、工程a)において実施される乾燥によって増加する場合、本発明の方法において生体触媒として使用される微生物のNHase/アミダーゼ活性比は、工程a)において実施される乾燥によって同様に低下すると仮定されなければならない。
【0053】
本発明の中で、微生物は、微生物を乾燥させる工程と乾燥微生物をニトリル化合物と接触させる工程との間で好ましくは培養されない。
【0054】
本明細書では、「培養する」は、微生物が培地に懸濁され、微生物が成長できる条件に保たれることを意味する。
【0055】
微生物を乾燥させる工程と乾燥微生物をニトリル化合物と接触させる工程との間で、微生物は、微生物が乾燥前のNHase/アミダーゼ活性比を回復することを阻害する条件に好ましくは保たれる。
【0056】
NHase活性対アミダーゼ活性の比(NHase活性[ユニット]/アミダーゼ活性[ユニット])の増加は、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4もしくは2.5またはそれ以上など、好ましくは少なくとも1.4倍もしくはより大きい。
【0057】
同様に、アミダーゼ活性対NHase活性の比(アミダーゼ活性[ユニット]/NHase活性[ユニット])の低下は、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2もしくは0.1またはより小さいなど、好ましくは少なくとも0.7倍もしくはより小さい。
【0058】
本発明の知見によると、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、(a)NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程と、(b)ニトリル化合物を前記微生物と接触させる工程とを含む、方法が提供される。
【0059】
工程(a)は、理論に束縛されるものではないが、NHase活性対アミダーゼ活性の比(NHase活性[ユニット]/アミダーゼ活性[ユニット])を増加させると仮定される。
【0060】
NHase活性は、例えば本明細書で上に記載した当業者の一般知識にしたがって測定され、決定される。
【0061】
同様に、アミダーゼ活性は、当業者の一般知識にしたがって測定され、決定され、例えばアミダーゼ活性は、アクリルアミド分解から遊離するアンモニアを630nmで測定することによって室温でアッセイすることができる。
【0062】
したがって、本明細書に記載の通り、生体触媒として利用される微生物の乾燥は、前記微生物のNHase/アミダーゼ活性比を増加させる。好ましくは、乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、熱乾燥、風乾、真空乾燥、流動床乾燥および/または噴霧造粒を介する。これに関して、一般に噴霧または凍結乾燥に供した生体触媒を使用することにより、他の方法を使用して乾燥された微生物を利用するのと比較して、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する間のアクリル酸形成の一層の減少が実現されるので、噴霧乾燥および凍結乾燥が好ましい。本明細書に記述される方法のいずれか1つにおいて、微生物の乾燥は、乾燥微生物をニトリル化合物と接触させる直前に実施することができる。別法として、微生物は、乾燥される工程と乾燥微生物をニトリル化合物と接触させる工程の間で貯蔵することができる。乾燥と接触工程の間で微生物を貯蔵する場合、乾燥微生物は、乾燥状態に保つことができ(すなわち、微生物は再構成されない)、凍結することができ、熱から保護することができ、水分から保護することができ、および/または培養しないことができる。
【0063】
乾燥微生物をニトリル化合物と接触させる時に、乾燥微生物の形に特段の制限はない。乾燥微生物は、乾燥および/または噴霧乾燥もしくは凍結乾燥など本明細書に記述される乾燥方法のいずれかにより実現可能な乾燥産物の形であることができる。したがって、本明細書に記述される方法およびさらなる実施形態のいずれか1つにおいて、接触工程は、微生物の全質量の最大30、25、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6または5質量パーセンテージ(w/w%)の残留水分含量を有する微生物を用いて行うことができる。残留水分含量を決定する方法は、当業者によく知られている。例えば、本発明の文脈において、乾燥微生物のサンプルの残留水分含量は、熱重量分析によって決定することができる。熱重量分析の開始時に、サンプルの初期質量が決定される。サンプルは、次いで加熱され、水を気化させる。サンプル質量が一定になるまで加熱は続けられる。分析の終了時の一定質量と初期質量との差異は分析中に気化した水の量を表し、それによりサンプルの残留水分含量の算出が可能になる。熱重量分析によって残留水分含量を決定する場合、微生物のサンプルは、例えば、サンプル質量が一定になるまで、130℃で少なくとも30秒間動作される「Mettler Toledo HB43-Sハロゲン水分分析器」により分析することができる。そのため「微生物の全質量」は、微生物それ自身の質量に必ずしも限定されず、したがって(例えば、微生物を乾燥工程の前に水で洗浄した場合に当然考え得るが)その存在が微生物の培養および/または洗浄工程等によるものであり得る成分をさらに含むことができる。以下に述べることは、「微生物の全質量」は、(微生物に加えて)TRIS系緩衝液、食塩水系緩衝液等など、残存量の貯蔵緩衝液構成要素/塩類、および/または残存量の培地、成長培地、栄養液、発酵ブロス、例えば微生物を培養するために使用した発酵ブロス等、安定剤、添加物(例えば乾燥添加物)等をさらに含み得るということである。
【0064】
本発明は、本発明者らの知見と合致して、アミダーゼ活性を低下させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含む、方法、並びにNHase/アミダーゼ活性比を増加させた微生物を産生する方法であって、NHaseおよびアミダーゼ産生微生物を乾燥させる工程を含む、方法をさらに提供する。
【0065】
上で説明した通り、アクリル酸は、アミド化合物のその後の重合における困難の原因になることが公知なので、本発明によって実現される主な目的は、副産物としてのアクリル酸の含有量がより少ないまたは減少している生物変換アミド化合物(ニトリル化合物から生物変換される)である。したがって、この功績は、ニトリル化合物からアミド化合物を産生する際にアクリル酸の形成を減少させる方法であって、アクリロニトリルをNHaseおよびアミダーゼ生産微生物と接触させる工程を含み、前記微生物を、前記ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理する、方法を提供することに反映される。特に、本発明者らは、本明細書に記載されたニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理された微生物を使用することにより、アクリル酸の形成を、参照方法と比較して少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも30%、なおより好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%減少させ得ることを見出した。
【0066】
本発明者らは、生物変換反応は、特に産業規模において、かなり簡単な方法で好ましくは行われるべきであるとさらに考えた。特に、本発明の生体触媒を含むNHaseを使用するニトリル化合物のアミド化合物への生物変換に関して、本発明者らは、反応混合物中の緩衝液のモル濃度を比較的低く、好ましくはできるだけ低く保つことが、生物変換方法にとっていくつかの利点を有すると考えた。例えば、比較的多量の緩衝液が反応混合物中に存在する場合、それは結果的に比較的多量に廃液中に存在することになる。これは、緩衝液を廃液から再び除去しなければならないことになり、追加の技術的な労力および費用が生じることになることを意味する。加えて、産物、すなわちアミド溶液中の比較的大量の緩衝液の存在は、その後の反応工程、例えば、重合または共重合反応などに悪影響を与える場合がある。それゆえ、比較的大量の緩衝液が生物変換の反応混合物に添加される場合、緩衝液はさらなる反応工程の前にアミド溶液から分離されなければならなくなり、それが追加の技術的な労力および費用を伴うことになるか、または緩衝液が産物の品質の低下をもたらし得るかいずれかになる。結果的に、ニトリル化合物のアミド化合物への生物変換は、比較的少量の緩衝液の存在下で、水溶液中で好ましくは行われる。
【0067】
ニトリル化合物のアミド化合物への生物変換のために反応混合物を調製する場合、本発明の方法、例えば、噴霧乾燥または凍結乾燥によって得られた乾燥生体触媒は、水に一般に懸濁することができ、次いで生体触媒を含有する前記水性混合物を、生物変換が実施される反応器へ移すことができ、そこで生体触媒は、水性混合物および対応するアミドへと変換されるべきニトリル化合物と接触させる。しかしながら、本発明者らは、本発明の乾燥生体触媒が非緩衝水溶液と混合されると、生体触媒を含有する水性混合物のpHが、わずかに酸性の範囲(例えばpH5~6.5)になることを驚くべきことに見出した。乾燥、例えば噴霧乾燥または凍結乾燥の前に、湿った生体触媒は、中性のpH(例えばpH6.7~7.5)を通常有する培地中にあるので、これは驚くべきである。さらに、生物変換の間の反応混合物は、むしろわずかに塩基性である。理論に束縛されるものではないが、生物変換の前に水溶液と混合した場合、乾燥工程の間にアンモニア(NH)が培地から揮散し、それが乾燥生体触媒のわずかに酸性のpHをもたらすと考えられる。
【0068】
これに関連して、本発明者らは、乾燥生体触媒の水性混合物の酸性pHにより、NHaseの活性が減弱され、この減弱が不可逆的であり得ることを驚くべきことに発見し、これは生物変換が中性またはわずかに塩基性のpHを有する反応混合物中で行われたとしても、NHase活性が減弱したままになることを意味する。
【0069】
本発明者らは様々な実験を行い、乾燥生体触媒が、生物変換の前に緩衝水溶液に懸濁することによって活性化されると、溶液は中性またはわずかに塩基性のpH(例えばpH6.6~9)を有し、生体触媒のNHase活性は実質的に増加することになることを見出した。活性化混合物(すなわち、生体触媒を含む緩衝水性混合物)を非緩衝水溶液へ移して、反応混合物を得たとしても、この高いNHase活性は維持される。この増加したNHase活性により、生物変換の全反応時間は、同量の生体触媒を噴霧乾燥後に緩衝液を含まない水に懸濁した生物変換の反応時間と比較して大きく短縮される。さらに、反応混合物に緩衝液を単純に添加しても、乾燥生体触媒が、反応混合物に添加される前に活性化として緩衝液に再懸濁された場合と同じ効果は得られない。本発明者らによってさらに行われた実験によると、発酵後に緩衝液を細胞懸濁液へ添加し、生体触媒を緩衝液と共に乾燥し、その後水または緩衝液に再懸濁した場合も、生体触媒のNHase活性は実質的に増加した。
【0070】
上で述べた通り、生体触媒の活性化は、緩衝液を含有する水溶液に乾燥生体触媒を懸濁することによって実行することができる。そのような活性化は、小規模、すなわち活性化に必要とされる反応体積が比較的小さい、で実行することができる。一方、ニトリル化合物のアミド化合物への生物変換が実行される反応混合物は、一般に比較的大きい体積を有する。反応混合物の体積と比較して小さい活性化混合物の体積のため、活性化混合物が、ニトリル化合物のアミド化合物への生物変換用の反応器へ移されると、緩衝液成分は反応混合物中で希釈される。しかし、活性化の間の緩衝液の有益な効果は、生物変換において保存される。前に述べた通り、NHase活性を向上させた結果として、生体触媒を使用するニトリル化合物のアミド化合物への生物変換は、同量の生体触媒を利用する場合より高い反応速度を示す。さらに、生体触媒の量は減少させることができ、それでも活性化工程を受けていない生体触媒、すなわち乾燥後に単に水に再懸濁した生体触媒を、量を減らさずに使用した場合の反応速度よりさらに高い反応速度を実現する。
【0071】
したがって、本発明はまた、水性混合物中でニトリル化合物からアミド化合物を産生する方法であって、(a)乾燥工程によって生体触媒を前処理する工程と、(b)本発明の乾燥生体触媒を水溶液と混合して活性化混合物を得る活性化工程であり、活性化混合物が緩衝液を含む活性化工程と;(c)反応混合物中で本発明の生体触媒を使用してニトリル化合物をアミド化合物に変換する工程であり、反応混合物が工程(b)の前記緩衝液を含む工程とを含み、活性化混合物中の緩衝液のモル濃度対反応混合物中の前記緩衝液のモル濃度の比が、約2:1またはより高い、方法に関する。特に、変換の終了前に活性化混合物中の緩衝液のモル濃度対反応混合物中の前記緩衝液のモル濃度の比は、約2:1またはより高い。本明細書に開示される方法のいずれか1つにおいて、変換の間に比が一定に維持される必要はない。比が約2:1またはより高い限り、比は、変換の間にむしろ変化することができる。例えば、比は、変換の間に増加することができる。これは、変換の間に反応物が反応混合物に添加される場合、反応物は反応混合物を希釈し、それにより反応混合物中の緩衝液濃度を低下させる事例であり得る。例えば、ニトリル化合物および/または水は、変換の間に反応物として反応混合物へ供給され得る。これは反応混合物の体積を増加させ、したがって、反応混合物中の緩衝液のモル濃度を低下させる。反応混合物中の緩衝液のモル濃度の低下の結果、活性化混合物中の緩衝液のモル濃度対反応混合物中の緩衝液のモル濃度の比は、増加する。したがって、この例から分かるように、モル比は、変換反応の過程で変化し得る。
【0072】
活性化混合物中の緩衝液のモル濃度対反応混合物中の前記緩衝液のモル濃度の比は、約3:1またはより高く、好ましくは約4:1またはより高く、より好ましくは約5:1またはより高く、よりいっそう好ましくは約7:1またはより高く、なおより好ましくは約10:1またはより高く、なおより好ましくは約20:1またはより高く、なおより好ましくは約50:1またはより高く、最も好ましくは約100:1またはより高くなり得ることがさらに想定される。特に、これらの比は、変換の終了前に存在する。活性化混合物中の緩衝液のモル濃度および反応混合物中の緩衝液のモル濃度に関して、これらの濃度は、mol/L(1リットル当たりのモル数)で、両方とも表示される。活性化混合物中の緩衝液のモル濃度と反応混合物中の緩衝液のモル濃度の比を算出する場合、活性化混合物中の緩衝液のモル濃度および反応混合物中の緩衝液のモル濃度の両方を、mol/Lで得なければならない。活性化工程の後および生体触媒をニトリル化合物と接触させる前に、活性化混合物の緩衝液を少なくとも部分的に除去できることも本発明によって企図する。実例として、これは、活性化混合物の遠心分離に続けて上澄みを捨てることによって、任意に、それに続けて生体触媒を別の水溶液と接触させることによって、または別の実例として、濾過によって行うことができる。そのような事例において、生体触媒をニトリル化合物と接触させる際に、生体触媒(懸濁液)は、残留緩衝液を通常はなお含有することになる。生体触媒中に存在する残留緩衝液がより少ないほど、活性化混合物中の緩衝液のモル濃度対反応混合物中の前記緩衝液のモル濃度の比が、通常一層高くなり得ることは、当業者に理解されよう。
【0073】
本明細書では乾燥生体触媒の文脈において用語「活性化」とは、乾燥生体触媒を水溶液と混合して、生体触媒および緩衝液を含む水性混合物を得ることを一般に指す。前記混合物は、本明細書において「活性化混合物」とも称される。本明細書に記述される方法のいずれか1つによると、活性化混合物は、緩衝液を水溶液と混合して緩衝水溶液を得て、その後緩衝水溶液に乾燥生体触媒を溶解または懸濁することによって調製できる。活性化混合物は、乾燥生体触媒を緩衝液成分、特に乾燥緩衝液成分と混合し、その後混合物に水を添加するまたは水に混合物を添加し、緩衝液成分を溶解させ、乾燥生体触媒を溶解もしくは再懸濁させることによって調製することもできる。
【0074】
本明細書では用語「反応混合物」とは、生体触媒およびニトリル化合物ならびに/またはアミド化合物を含む水性混合物のことを指す。いくつかの実施形態において、本明細書に開示する方法のいずれか1つによる反応混合物は、活性化工程を受けた生体触媒、水溶液、およびニトリル化合物を組み合わせることによって作ることができる。通常、生体触媒は、反応混合物中でニトリル化合物のアミド化合物への変換を触媒する。したがって、用語「反応混合物」とは、反応の開始時、すなわち水溶液中で生体触媒をニトリル化合物に初めて接触させるとき、ならびに水溶液、生体触媒およびアミドもしくはニトリル化合物が混合物中にまだ存在するが変換が停止または終了された後、を含めた変換プロセスの任意の時点において水、生体触媒、およびニトリルおよび/もしくはアミド化合物を含む混合物のことを通常は指す。
【0075】
本明細書では用語「変換の終了前」とは、反応混合物におけるニトリルのアミドへの変換がまだ進行中である任意の時点のことを指す。通常、それは、反応混合物が存在し、変換がまだ終了または停止していない任意の時点のことを指す。
【0076】
本明細書に開示する方法において、生体触媒が本発明の乾燥工程に供されて乾燥生体触媒を得る前に、緩衝液を生体触媒懸濁液または溶液に添加できることも考えられる。緩衝液が添加される前に、生体触媒を洗浄することもできる。乾燥工程の前に緩衝液を添加することによって、乾燥生体触媒は、乾燥工程の前に添加された乾燥緩衝液成分を含む。したがって、緩衝液を含む乾燥生体触媒を水溶液と接触させた場合、緩衝液成分は溶解し、生体触媒と共に活性化混合物を与える。さらに、本明細書に開示する方法において、生体触媒を乾燥工程に供して乾燥生体触媒を得る前に生体触媒を緩衝液で処理し、その後その乾燥生体触媒を緩衝溶液に溶解または再懸濁して活性化混合物を得ることができることも考えられる。
【0077】
本明細書に開示する方法にしたがって生体触媒が緩衝液で活性化される場合、前記活性化は、長い期間を必要としない。好ましくは、生体触媒の前記活性化は、約1分間またはより長く、より好ましくは約5分間またはより長く、さらにより好ましくは約10分間~約10時間、なおより好ましくは約20分間~約5時間、最も好ましくは約30分間~約2時間実施される。乾燥生体触媒を緩衝水溶液で処理して、活性化混合物を得る場合、前記活性化混合物は、生物変換に通常直接使用される、すなわち、水溶液およびニトリル化合物と直接混合して反応混合物を得る。一方、乾燥工程の前に生体触媒を緩衝溶液または緩衝塩で活性化する場合、前記活性された生体触媒を水溶液と合わせて活性化混合物を得て、前記活性化混合物を水溶液およびニトリル化合物とさらに混合し、それにより反応混合物を得る前に、乾燥生体触媒をその後数カ月間貯蔵することができる。本発明者らに見出された通り、前記生体触媒は、貯蔵期間中に活性を著しく失わない。これは、前記活性化バリアントのさらなる長所と見ることができる。
【0078】
本明細書に開示する方法によって、活性化混合物に含まれる緩衝液が、約6~約9の範囲、好ましくは約6.5~約8のpKaを有することも考えられる。ここで、緩衝液は、1種類の成分を含むことができ、または2種類以上の緩衝液成分の混合物であることもできる。単一の成分が、2個以上のpKa値を有し得ることも理解されよう。緩衝液が、約6~約9の範囲のpKaを有する緩衝液成分を含む場合、緩衝液は約6~約9の範囲のpKaを通常は有する。例えば、リン酸は、3種類のpKa値、2.1、7.2および12.7を有する。リン酸のpKa値の1種類が、約6~約9の範囲にあるので、リン酸を含む緩衝液は、約6~約9の範囲のpKaを有する緩衝液であると理解され得る。
【0079】
活性化混合物が、約6.6~約9、好ましくは約6.6~約8.8、より好ましくは約6.7~約8.6、さらにより好ましくは約6.8~約8.4、なおより好ましくは約6.9~約8.2、最も好ましくは約7~約8のpH値を有することも想定される。
【0080】
本発明によってさらに考えられることは、異なる緩衝液が、本明細書に開示される方法における使用、すなわち生体触媒のNHase活性を増加させるのによく適していることである。緩衝液は、無機緩衝液または有機緩衝液を含むことが想定される。緩衝液が、非スルホン酸緩衝液またはカルボン酸緩衝液を含み得ることがさらに想定される。本発明において使用できる適当な緩衝液は、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、2-[(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)アミノ]エタンスルホン酸(TES)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)からなる群から選択される化合物ならびにその任意の組合せを含むことができる。特に、緩衝液は、リン酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液またはその組合せを含む。好ましくは、緩衝液はリン酸緩衝液である。
【0081】
緩衝液は、活性化混合物中で約10mM~約1M、好ましくは約20mM~約500mM、より好ましくは約50mM~約200mM、さらにより好ましくは約70mM~約130mM、最も好ましくは約80mM~約120mMの濃度であることがさらに想定される。
【0082】
反応混合物中の緩衝液濃度は、約100mMまたはより低い、好ましくは約50mMまたはより低い、より好ましくは約20mMまたはより低い、さらにより好ましくは約10mMまたはより低い、なおより好ましくは約5mM~約1pM、なおより好ましくは約4mM~約1pM、なおより好ましくは約3mM~約1pM、なおより好ましくは約2mM~約1pM、なおより好ましくは約1mM~約1pM、なおより好ましくは約0.8mM~約1pM、なおより好ましくは約0.5mM~約1pM、なおより好ましくは約0.4mM~約1pM、なおより好ましくは約0.3mM~約1pM、なおより好ましくは約0.2mM~約1pM、最も好ましくは約0.1mM~約1pMであることがさらに想定される。
【0083】
活性化の温度は、約0℃~約50℃、好ましくは約10℃~約40℃、より好ましくは約20℃~約37℃の範囲であることも想定される。
【0084】
しかしながら、本発明は、方法を包含するだけでなく、以下の使用も包含する。
【0085】
ニトリル化合物からアミド化合物を産生するために、本明細書に記載されるNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を使用する方法。
【0086】
NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のNHase/アミダーゼ活性比を増加させる乾燥方法を使用する方法。
【0087】
NHaseおよびアミダーゼ産生微生物のアミダーゼ活性を低下させる乾燥方法を使用する方法。
【0088】
本発明の方法の文脈において本明細書に記述される実施形態および定義は、必要な修正を加えて本発明の使用に等しく適用可能である。
【0089】
別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる水性アミド化合物溶液を提供する。そのような水性アミド化合物溶液は、同じ生物、しかしながら、ニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理されなかった生物から得られる水性アミド化合物溶液と比較して減少したアクリル酸含有量によって好ましくは特徴づけられる。特に、そのような水性アミド化合物溶液のアクリル酸の濃度は、1500ppmまたはより低い、好ましくは1200ppmまたはより低い、より好ましくは1000ppmまたはより低い、さらに好ましくは750ppmまたはより低い、さらにより好ましくは500ppmまたはより低い、なおより好ましくは300ppmまたはより低い、なおより好ましくは200ppmまたはより低い、最も好ましくは100ppmまたはより低く、ppmの表示は、それぞれ質量部分に関し、水性アミド化合物溶液の全質量をそれぞれ意味する。
【0090】
さらにまた、本発明は、アクリルアミドもしくはポリアクリルアミドならびにNHaseおよびアミダーゼ産生微生物を含み、前記微生物が少なくとも400ユニットのNHase/アミダーゼ活性比および/または参照微生物と比較した場合に、少なくとも1.7倍に増加しているNHase活性対アミダーゼ活性の比を示す組成物を提供する。
【0091】
文脈によって別段に必要とされない限り、単数の用語は複数を含むものとし、複数の用語は単数を含むものとする。本明細書ならびに添付の請求項において、文脈が別途明らかに指示しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「試薬」への言及は、1種類以上のそのような異なる試薬を含み、「方法」への言及は、当業者に公知の、本明細書に記述した方法を修飾または置換することができる同等の工程および方法への言及を含む。
【0092】
本明細書では、複数の列挙した要素間の接続用語「および/または」は、個々および組み合わせた選択の両方を包含すると理解される。例えば、「および/または」によって2個の要素が結合される場合、第1の選択とは、第2を含まない第1の要素の適用性のことを指す。第2の選択とは、第1を含まない第2の要素の適用性のことを指す。第3の選択とは、第1および第2の要素同時の適用性のことを指す。これら選択のうちいずれか1個がその意味に該当し、したがって本明細書における用語「および/または」の要求を満たすと理解される。2個以上の選択の並列の適用性もその意味に該当し、したがって本明細書では用語「および/または」の要求を満たすと理解される。
【0093】
別段に明記しない限り、一連の要素の前にある用語「少なくとも」は、その組におけるあらゆる要素のことを指すと理解されよう。当業者であれば、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を、通常の実験法だけを使用して認識または確認し得るであろう。そのような等価物は、本発明に包含されるものとする。
【0094】
この明細書および続く請求項の全体を通じて、文脈上別途必要とされない限り、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、記載された整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を含むが、他の任意の整数もしくは工程あるいは整数もしくは工程の群を除外しないことを意味すると理解されよう。本明細書において使用される場合、用語「含む(comprising)」は、用語「含有する(containing)」、または本明細書において使用される場合、時には用語「有する(having)」と置換することができる。
【0095】
本明細書に記載の通り、「好ましい実施形態」もしくは「好ましい態様」は、「本発明の好ましい実施形態」または「本発明の好ましい態様」を意味する。同様に、本明細書に記載の通り、「実施形態」、「別の実施形態」、「態様」、「別の態様」は、それぞれ「本発明の実施形態」、「本発明の別の実施形態」、「本発明の態様」および「本発明の別の態様」を意味する。
【0096】
本明細書において別段の規定がない限り、本発明に関連して使用される科学的および技術的な用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。本発明の方法および技術は、当業者に周知の従来の方法により一般に実行される。当業者であれば、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を、通常の実験法だけを使用して認識または確認し得るであろう。そのような等価物は、本発明に包含されるものとする。
【0097】
いくつかの文書が、本明細書の文の全体を通じて引用される。本明細書に引用される文書のそれぞれ(特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、指示等の全てを含む)は、前後を問わず、その全体を参照により本明細書に組み込む。本明細書における何ものも、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利を持たないということの容認として解釈されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を、噴霧乾燥後に水に再懸濁した。全量3.36gの乾燥生体触媒(バッチCh10)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して116kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒2.4gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.96gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、13.78時間であった。
図2】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。噴霧乾燥後に乾燥生体触媒を100mMリン酸緩衝液(pH7.0)33mLに再懸濁した。これは本明細書に開示する活性化工程に対応する。活性化工程は、1.0時間行った。全量3.36gの乾燥生体触媒(バッチCh10)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して116kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒2.4gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.96gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、2.31時間であった。
図3】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を、噴霧乾燥後に水に再懸濁した。全量3.36gの乾燥生体触媒(バッチCh10)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して116kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。生体触媒添加の直前に、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)33mLを反応器に添加した。これは図2に表した実験の活性化工程に使用した緩衝液の量に対応する。反応の開始時に、乾燥生体触媒2.4gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.96gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、11.98時間であった。
図4】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を100mMリン酸緩衝液(pH7.0)30mLに再懸濁した。これは本明細書に開示する活性化工程に対応する。活性化工程は、0.5時間行った。乾燥生体触媒(バッチCh10)1.8gを利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して116kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、23℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒1.8gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、反応器にACNを供給することにより生物変換開始後のACN濃度を1w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、7.13時間であった。
図5】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を、水に再懸濁した。全量1.29gの乾燥生体触媒(バッチV3)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して172kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒0.92gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.37gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。20時間後に完全な変換(残留ACN 100ppm未満)に達しなかった。
図6】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を100mMリン酸緩衝液(pH8.0)30mLに再懸濁した。これは活性化工程に対応する。活性化工程は、0.5時間行った。全量1.29gの乾燥生体触媒(バッチV3)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して172kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒0.92gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.37gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、4.4時間であった。
図7】生体触媒として噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を適用するアクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換におけるアクリルアミド(ACM、濃い灰色で表す)[%]およびアクリロニトリル(ACN、淡い灰色で表す)[%]濃度のw/w%での時間的経過。乾燥生体触媒を100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)30mLに再懸濁した。これは活性化工程に対応する。活性化工程は、0.5時間行った。全量1.29gの乾燥生体触媒(バッチV3)を利用し、その乾燥生体触媒は、生物変換の開始前に測定して172kU/gのNHase活性を有した。反応は、4L規模(L=リットル)で、26℃で行った。反応の開始時に、乾燥生体触媒0.92gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。反応器にACNを供給することにより生物変換開始後0時間~1時間のACN濃度を、2w/w%に維持した。生物変換の開始1時間後に、乾燥生体触媒0.37gに相当する再懸濁した生体触媒を、反応器に添加した。生物変換の開始後の1時間後に、アクリロニトリル1553gの全量を反応器に添加するまで、ACN濃度を0.8w/w%に維持した。完全な変換(残留ACN 100ppm未満)までの全反応時間は、7.25時間であった。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0099】
以下の実施例は、本発明をここで定義されるどんな仕様または実施形態にも限定することなく本明細書に提供される本発明についてさらに記述し、例証する。
【0100】
ニトリル化合物からのアミド化合物の産生に関して3件の実験を行った。産生用の接種原は、生体触媒を含有する発酵ブロス、前記生体触媒の濃縮物、噴霧乾燥生体触媒または凍結乾燥生体触媒のいずれかであった。濃縮物は、アミド化合物へと変換されるべき前記ニトリル化合物と接触させる前の乾燥工程による前処理の前の生体触媒の形である。濃縮は、例えば遠心分離によって液体発酵ブロスを減少させることにより発酵ブロスが濃縮されることを意味する。したがって、この実施例において使用される発酵ブロス、濃縮物および乾燥粉末は、同じ生体触媒を含有する。NHaseとアミダーゼとの活性比およびNHase活性を、一般に公知の手法に沿って決定した。ほぼ同一のNHase活性に反映されるように、設定条件におけるNHase活性は、全ての設定条件が同量の生体触媒を含有することを意味している。それ故、条件は、発酵ブロス、濃縮物および乾燥粉末について同一であった。加えて、アクリル酸の濃度を決定した。これらのデータを、表1、以下および生物変換反応の終了に要約する。
【0101】
実験1
水およびACN 20gを反応器に入れた。水+生体触媒の全量が2447gになるように、水の量を調整した。生体触媒の異なる3種類の形を、独立したランに使用した:
(i)ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を含有する発酵ブロス。水分含量:88.2%(w/w)。
(ii)(i)の発酵ブロスが遠心分離によって濃縮された濃縮物。水分含量:83.5%(w/w)。
(iii)(ii)の濃縮物の噴霧乾燥によって得られる乾燥粉末。乾燥粉末の残留水分含量:8.05%(w/w)。噴霧乾燥は、ガス吸気温度115℃およびガス排気温度65℃で操作した。
【0102】
生体触媒を反応器に添加し、それにより反応を開始した。終了時に全体の反応バッチサイズが4000gであるように、反応の間に、追加のアクリロニトリル1533gを添加した。反応の間、温度を26℃で一定に保った。オンラインFTIRによってACN濃度を測定し、全てのACNが反応に添加されるまで反応混合物中のACN濃度が0.8±0.1%(w/w)で一定に保たれるように、ACNの添加の速度を調整した。変換によりACN濃度が、100ppm未満に低下した後に反応を停止させた。反応の終了時に、どのランにおいてもアクリルアミド(ACM)濃度は、51%(w/w)以上であった。
【0103】
実験2
水およびACN 60gを反応器に入れた。水+生体触媒の全量が2447gになるように、水の量を調整した。生体触媒の異なる3種類の形を、独立したランに使用した:
(i)ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を含有する発酵ブロス。水分含量:91.8%(w/w)。
(ii)(i)の発酵ブロスが遠心分離によって濃縮された濃縮物。水分含量:85.3%(w/w)。
(iii)(ii)の濃縮物の噴霧乾燥によって得られる乾燥粉末。乾燥粉末の残留水分含量:6.8%(w/w)。噴霧乾燥は、ガス吸気温度115℃およびガス排気温度60℃で操作した。
【0104】
生体触媒を反応器に添加し、それにより反応を開始した。終了時に全体の反応バッチサイズが4000gであるように、反応の間に、追加のアクリロニトリル1493gを添加した。反応の間、温度を26°Cで一定に保った。オンラインFTIRによってACN濃度を測定し、反応混合物中のACN濃度を制御するように、ACNの添加の速度を調整した。反応の最初の1時間の間、ACN濃度を、2.0%±0.15%(w/w)で一定に保ち、その後、全てのACNを反応に添加するまで0.8%±0.15%(w/w)に一定に保った。変換によりACN濃度が、100ppm未満に低下した後に反応を停止させた。反応の終了時に、どのランにおいてもACM濃度は、50%(w/w)以上であった。
【0105】
実験3
水およびACN 60gを反応器に入れた。水+生体触媒の全量が2447gになるように、水の量を調整した。生体触媒の異なる2種類の形を、独立したランに使用した:
(i)ロドコッカス・ロドクラウスNCIMB41164を含有する発酵ブロスが遠心分離によって濃縮された濃縮物。水分含量:81%(w/w)。
(ii)(i)の濃縮物の凍結乾燥によって得られる乾燥粉末。乾燥粉末の残留水分含量:6.8%(w/w)。
【0106】
生体触媒を反応器に添加し、それにより反応を開始した。終了時に全体の反応バッチサイズが4000gであるように、反応の間に、追加のアクリロニトリル1493gを添加した。反応の間、温度を26℃で一定に保った。オンラインFTIRによってACN濃度を測定し、反応混合物中のACN濃度を制御するように、ACNの添加の速度を調整した。反応の最初の1時間の間、ACN濃度を、2.0%±0.15%(w/w)で一定に保ち、その後、全てのACNを反応に添加するまで0.8%±0.15%(w/w)に一定に保った。変換によりACN濃度が、100ppm未満に低下した後に反応を停止させた。反応の終了時に、どのランにおいてもACM濃度は、50%(w/w)以上であった。
【0107】
【表1】
【0108】
後に前記微生物による生物変換に供されるニトリル化合物と接触させる前に乾燥工程によって前処理された微生物が、NHase/アミダーゼ活性について最も高い値を有することは明らかである。各反応(設定条件)においてほとんど同量の生体触媒を使用した(利用した生体触媒形、すなわち、発酵/濃縮/噴霧乾燥/凍結乾燥の各NHase活性により決定した)という事実を踏まえると、乾燥工程、すなわちニトリル化合物と接触させる前に生体触媒を乾燥工程に供する工程が、副産物であるアクリル酸の量に著しく影響することは明らかである。このことは、乾燥工程のため、そのような乾燥微生物が、副産物としてのアクリル酸の含有量がより少ないアミド化合物を産生する程度までアミダーゼ活性が減少することを意味し、これは最も外側の右列から明らかである。要するに、反応パラメータは異なる設定条件間で等しく保たれているので、アクリル酸の量を減少させる改善が、乾燥工程によるものである可能性があることは明らかである。
【0109】
実験4
凍結乾燥粉末を、Christ Alpha 2-4 LSCplus実験室凍結乾燥器中での濃縮発酵ブロスの凍結乾燥によって得た。濃縮物は、最初に-20℃で終夜凍結させ、その後乾燥させた。乾燥の間、棚温度は-25℃であり、凝縮器温度は-82℃であり、容器圧は0.25mbarであった。
【0110】
水およびACN 18gを反応器に入れた。水+生体触媒の全量が1835gになるように、水の量を調整した。生体触媒の異なる2種類の形を、独立したランに使用した:
(i)ロドコッカス・ロドクラウスJ1を含有する発酵ブロス。水分含量:96.1%(w/w)。
(ii)水分含量83.6%(w/w)になるまでの遠心分離および濃縮物の凍結乾燥による(i)の濃縮によって得た乾燥粉末。
【0111】
生体触媒を反応器に添加し、それにより反応を開始した。終了時に全体の反応バッチサイズが3000gであるように、反応の間に、追加のアクリロニトリル1147gを添加した。反応の間、温度を23℃で一定に保った。オンラインFTIRによってACN濃度を測定し、全てのACNが反応に添加されるまで反応混合物中のACN濃度が1.0±0.1%(w/w)で一定に保たれるように、ACNの添加の速度を調整した。変換によりACN濃度が、100ppm未満に低下した後に、反応を停止させた。反応の終了時に、どのランにおいてもACM濃度は、51%(w/w)以上であった。
【0112】
実験5
反応の間、反応混合物中のACN濃度を0.3±0.1%(w/w)に制御した以外は、上記の実験4のように実験を実行した。実験4~5の結果を、下記表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
実験6
噴霧乾燥生体触媒の活性化
噴霧乾燥生体触媒を遠心管(ファルコン[登録商標])中で計量し、本明細書に開示する活性化工程の緩衝液30mLに懸濁した。別途明記しない限り、前記緩衝液は、100mMリン酸緩衝液、pH7.0であった。生体触媒を、室温で0.5時間緩衝液処理した。次いで、バイオマス(生体触媒)懸濁液を反応器へ移し、さらに1時間インキュベートした。反応器へバイオマス懸濁液を添加した後に、遠心管を水ですすぎ、溶媒を反応器に同様に移した。水のこの量は、反応器中に計量する水を考慮した。
【0115】
実験7
生物変換の一般的手順
アクリロニトリルの水和は、冷却用外部循環ループを備えた撹拌槽型反応器(rpm=250、体積V=4L)で一般に実施される。この目的のために、水2.4Lを、反応器および生体触媒に満たした。水に事前に懸濁したバイオマスを、ロドコッカス・ロドクラウスの噴霧乾燥細胞として添加した。本明細書に記載の通り、噴霧乾燥細胞は、本明細書に開示する活性化工程にしたがって緩衝液に直接懸濁することもできる。反応を開始するために、プロセス制御系を利用してアクリロニトリルを撹拌槽型反応器に投入した。一定濃度0.5~5w/w%のアクリロニトリルを、プロセス制御装置(Labview)と直接通信するオンラインフーリエ変換赤外線分析(FTIR)を使用して調整した。反応温度は、常に20~29℃に保った。アクリロニトリル1553gを添加した後にアクリロニトリルの投入を停止した。残留アクリロニトリルの完全な変換後、すなわち残留ACN濃度が、100ppm未満に達し、52w/w%アクリルアミドが得られたら、反応を終えた。
【0116】
実験8
HPLCによる、得られた水性アクリルアミド溶液中のアクリル酸、アクリルアミド、アクリル酸およびアクリロニトリルの濃度の決定
以下の条件を適用して、アクリルアミド、アクリル酸およびアクリロニトリルの含有量を決定した:
カラム: Aqua C18、250*4.6mm(Phenomenex)
ガードカラム: C18 Aqua
温度: 40℃
流速: 1.00mL/分
注入体積: 1.0μL
検出: 紫外線検出器、波長210nm
ストップタイム: 8.0分
ポストタイム: 0.0分
最大圧力: 250bar
溶離液A: 10mM KHPO、pH2.5
溶離液B: アセトニトリル
【0117】
【表3】
【0118】
マトリックス: 発酵ブロス、生物変換混合物
サンプルは、0.22μmで濾過された
分析物:
【0119】
【表4】
【0120】
実験9
アクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換反応にバッチCh10の噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)を使用した。生物変換反応は、実験7の手順にしたがって実施した。
【0121】
ラン1(図1に表す)において、水に再懸濁した生体触媒3.36gを使用した(生体触媒2.4gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.96gを1時間後に添加した)。ラン2(図2に表す)において、本発明にしたがって100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で活性化した生体触媒3.36gを使用した(生体触媒2.4gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.96gを1時間後に添加した)。活性化は、実験6にしたがって行った。ラン3(図3に表す)において、水に再懸濁した生体触媒3.36gを使用した(生体触媒2.4gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.96gを1時間後に添加した)が、ラン2の活性化工程において使用したのと同量のリン酸緩衝液を生体触媒の添加より前に反応器に直接添加した。ラン4(図4に表す)において、実験6にしたがって100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で緩衝液処理した生体触媒1.8gを使用した(生体触媒1.8gを生物変換の開始時に添加した)。結果を、以下の表に概説する。
【0122】
【表5】
【0123】
ラン2(図2)から分かるように、リン酸緩衝液を使用する乾燥生体触媒の活性化は、全反応時間を13.78時間(ラン1、図1)から2.31時間へ減少させる。ラン3(図3)は、乾燥生体触媒を活性化していない反応混合物へのリン酸緩衝液の添加は、ラン1と比較して反応時間に対してほとんど影響がないことを示す。ラン4(図4)は、乾燥生体触媒がリン酸緩衝液を使用して活性化された場合、生体触媒の量を3.36gから1.8gへ減少させることができ、それでもなお全反応時間は、ラン1において非緩衝液処理生体触媒3.36gを使用するよりなお短いことを実証する。
【0124】
実験10
アクリロニトリルのアクリルアミドへの生物変換反応にバッチV3の噴霧乾燥ロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)を使用した。生物変換反応は、実験7の手順にしたがって実施した。
【0125】
ラン5(図5に表す)において、水に再懸濁した生体触媒1.29gを使用した(生体触媒0.92gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.37gを1時間後に添加した)。ラン6(図6に表す)において、本発明に開示されている通り100mMリン酸緩衝液(pH8.0)で活性化した生体触媒1.29gを使用した(生体触媒0.92gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.37gを1時間後に添加した)。活性化は、実験6にしたがって行った。ラン7(図7に表す)において、100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で活性化した生体触媒1.29gを使用した(生体触媒0.92gを生物変換の開始時に添加し、生体触媒0.37gを1時間後に添加した)。結果を、以下の表に概説する。
【0126】
【表6】
【0127】
ラン6ならびに7(図6および7)から分かるように、リン酸緩衝液(100mM、pH8.0)およびクエン酸緩衝液(100mM、pH7.0)によるバッチV3のロドコッカス・ロドクラウス(NCIMB41164)の活性化工程は両方とも、20時間後における不完全な変換からそれぞれ4.39時間および7.25時間後での完全な変換へと全反応時間を劇的に減少させた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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