(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】マイクロニードルアレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 530
(21)【出願番号】P 2020510052
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012412
(87)【国際公開番号】W WO2019188935
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018068102
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】高野 行央
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112169(JP,A)
【文献】特開2012-200572(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077242(WO,A1)
【文献】特開2008-142183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に針状凹部を有するモールドと薬剤液
の液滴を第1方向に吐出
して前記液滴を飛翔させる薬剤液吐出ノズルとを位置決め調整する位置決め調整工程と、
前記モールドと前記薬剤液吐出ノズルとを相対移動させて、前記第1方向の平面視において前記針状凹部の位置と前記薬剤液吐出ノズルの位置とを一致させる相対移動工程と、
前記薬剤液吐出ノズルから前記針状凹部に向けて薬剤液
の液滴を吐出
して前記液滴を飛翔させる吐出工程と、
前記モールドの裏面を吸引する吸引工程と、
を備え
、
前記吐出工程は、前記吐出した液滴を前記針状凹部に着弾させ、
前記着弾した液滴は、前記針状凹部の壁部の円周の全体に渡って接触して前記針状凹部を閉塞し、
前記吸引工程は、前記針状凹部を閉塞した前記薬剤液を前記針状凹部の先端に充填させるマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項2】
前記針状凹部は、開口径が600μm以上であり、前記モールドの平坦部との成す角度が30.0度以上であり、
1つの前記針状凹部に吐出される薬剤液の吐出量は、30nL以上である請求項1に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項3】
前記針状凹部は、前記開口径が1200μm以下である請求項2に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項4】
前記針状凹部は、前記角度が90.0度以下である請求項2又は3に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項5】
前記吐出量は、150nL以下である請求項2から4のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項6】
前記針状凹部の開口部の第1エッジ部は面取りされており、前記第1エッジ部の面取りの第1曲率半径は30μm以上である請求項2から5のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項7】
前記第1曲率半径は、300μm以下である請求項6に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項8】
前記針状凹部は、
前記モールドの表面に設けられたカップ部と、
前記カップ部と接続し、前記モールドの深さ方向に先細り形状を有する先端凹部と、
を備え、
前記カップ部と前記先端凹部との第2エッジ部は面取りされており、前記第2エッジ部の面取りの第2曲率半径は30μm以上である請求項1から7のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項9】
前記第2曲率半径は、300μm以下である請求項8に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項10】
前記薬剤液吐出ノズルから吐出される前記薬剤液の飛翔速度が0.2m/s以上である請求項2から9のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項11】
前記薬剤液吐出ノズルから吐出される前記薬剤液の飛翔速度が1.0m/s以下である請求項10に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項12】
前記モールドの複数の位置を撮影する撮影工程を備え、
前記位置決め調整工程は、前記撮影した複数の位置に基づいて前記針状凹部の位置を算出し、
前記相対移動工程は、前記算出した結果に基づいて前記針状凹部の位置と前記薬剤液吐出ノズルから吐出される薬剤液の着弾位置とを一致させる請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項13】
前記モールドは複数の前記針状凹部を有し、
前記吸引工程は、前記複数の針状凹部の全ての針状凹部に前記薬剤液が吐出されてから前記モールドの裏面を吸引する請求項1から12のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項14】
前記モールドは気体透過性を有する請求項1から13のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項15】
前記針状凹部に充填された薬剤液を乾燥させる乾燥工程を備える請求項1から14のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【請求項16】
前記薬剤液は、薬剤原液、糖類、添加剤のうち少なくとも1つを含む請求項1から15のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルアレイの製造方法に係り、特に、薬剤液吐出ノズルからモールドの針状凹部に薬剤液を吐出するマイクロニードルアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤を含有する針状凸部(微小針又はマイクロニードルとも称する)の形成されたマイクロニードルアレイ(経皮吸収シート)が、薬剤を皮膚内に送達するために用いられている。一般的には、マイクロニードルアレイを皮膚に押し付けて、針状凸部を皮膚内に挿入することにより、針状凸部の薬剤が皮膚内に送達される。
【0003】
マイクロニードルアレイを製造する方法としては、針状凸部の反転形状である針状凹部(針穴部とも称する)が形成されたモールドを用い、針穴部に薬剤を含む溶液(薬剤液とも称する)を充填し、乾燥させた後、針(ニードルとも称する)原料を含む溶液を塗布し、乾燥させることにより、マイクロニードルを形成する方法が知られている。
【0004】
特に、薬剤液を充填する工程では、充填量が薬剤投与量に関わるため、極めて微量な薬剤液を、モールドシート毎に精度よく一定量で、確実に充填する必要がある。
【0005】
これまで、薬剤液を充填するために、いくつかの方式が提案されている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/077242号
【文献】特開2010-069253号公報
【文献】特開2013-162982号公報
【文献】特開2016-112169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の充填方法では、モールドの針状凹部へ薬剤液を精度よく充填することができないという問題点があった。
【0008】
また、特許文献3、4では、モールドの針状凹部に液滴を吐出する充填方法を用いているが、生産性を上げるために高速で充填すると、液滴の着弾位置とモールドの針状凹部の位置とがずれてしまうという問題点があった。
【0009】
薬剤液がモールドの針状凹部の中心から外れる、あるいは薬剤液が針状凹部の壁面に付着して針状凹部を塞ぐことができない場合には、薬剤液が針状凹部の先端へ充填できず、マイクロニードルアレイの製造の歩留まりが低下するという問題点がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、針状凹部の先端に薬剤液を確実に充填するマイクロニードルアレイの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためにマイクロニードルアレイの製造方法の一の態様は、表面に針状凹部を有するモールドと薬剤液を第1方向に吐出する薬剤液吐出ノズルとを位置決め調整する位置決め調整工程と、モールドと薬剤液吐出ノズルとを相対移動させて、第1方向の平面視において針状凹部の位置と薬剤液吐出ノズルの位置とを一致させる相対移動工程と、薬剤液吐出ノズルから針状凹部に向けて薬剤液を吐出する吐出工程と、モールドの裏面を吸引する吸引工程と、を備えるマイクロニードルアレイの製造方法である。
【0012】
本態様によれば、吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させ、針状凹部の先端に充填することができる。なお、針状凹部の位置と薬剤液吐出ノズルの位置とを一致させるとは、薬剤液吐出ノズルから針状凹部に向けて吐出した薬剤液が針状凹部に着弾する程度に一致させればよく、厳密に両者の位置が一致している必要はない。
【0013】
針状凹部は、開口径が600μm以上であり、モールドの平坦部との成す角度が30.0度以上であり、1つの針状凹部に吐出される薬剤液の吐出量は、30nL以上であることが好ましい。開口径を600μm以上とすることで吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させやすくなり、モールドの平坦部との成す角度を30.0度以上とすることで着弾した薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、薬剤液の吐出量を30nL以上とすることで針状凹部を閉塞しやすくすることができる。これにより、吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させ、針状凹部の先端に充填することができる。
【0014】
針状凹部は、開口径が1200μm以下であることが好ましい。これにより、吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させることができる。
【0015】
針状凹部は、角度が90.0度以下であることが好ましい。これにより、着弾させた薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができる。
【0016】
吐出量は、150nL以下であることが好ましい。これにより、吐出した薬剤液によって針状凹部を閉塞させることができる。
【0017】
針状凹部の開口部の第1エッジ部は面取りされており、第1エッジ部の面取りの第1曲率半径は30μm以上であることが好ましい。これにより、針状凹部に着弾させた薬剤液が第1エッジ部にピン止めされることを防止し、薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、針状凹部の先端に充填することができる。
【0018】
第1曲率半径は、300μm以下であることが好ましい。これにより、針状凹部に着弾させた薬剤液が第1エッジ部にピン止めされることを防止し、薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、針状凹部の先端に充填することができる。
【0019】
針状凹部は、モールドの表面に設けられたカップ部と、カップ部と接続し、モールドの深さ方向に先細り形状を有する先端凹部と、を備え、カップ部と先端凹部との第2エッジ部は面取りされており、第2エッジ部の面取りの第2曲率半径は30μm以上であることが好ましい。これにより、針状凹部に着弾させた薬剤液が第2エッジ部にピン止めされることを防止し、薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、針状凹部の先端に充填することができる。
【0020】
第2曲率半径は、300μm以下であることが好ましい。これにより、針状凹部に吐出した薬剤液が第2エッジ部にピン止めされることを防止し、薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、針状凹部の先端に充填することができる。
【0021】
薬剤液吐出ノズルから吐出される薬剤液の飛翔速度が0.2m/s以上であることが好ましい。これにより、吐出した薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができる。
【0022】
薬剤液吐出ノズルから吐出される薬剤液の飛翔速度が1.0m/s以下であることが好ましい。これにより、吐出した薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができる。
【0023】
モールドの複数の位置を撮影する撮影工程を備え、位置決め調整工程は、撮影した複数の位置に基づいて針状凹部の位置を算出し、相対移動工程は、算出した結果に基づいて針状凹部の位置と薬剤液吐出ノズルから吐出される薬剤液の着弾位置とを一致させることが好ましい。これにより、吐出した薬剤液を針状凹部に適切に着弾させることができる。
【0024】
モールドは複数の針状凹部を有し、吸引工程は、複数の針状凹部の全ての針状凹部に薬剤液が吐出されてからモールドの裏面を吸引することが好ましい。これにより、針状凹部に着弾させた薬剤液を確実に充填することができる。
【0025】
モールドは気体透過性を有することが好ましい。これにより、適切に吸引することができるので、針状凹部に着弾させた薬剤液を確実に充填することができる。
【0026】
針状凹部に充填された薬剤液を乾燥させる乾燥工程を備えることが好ましい。これにより、薬剤液を含むマイクロニードルアレイを製造することができる。
【0027】
薬剤液は、薬剤原液、糖類、添加剤のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、用途に応じたマイクロニードルアレイを製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、針状凹部の先端に薬剤液を確実に充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図4】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図5】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図6】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図7】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図8】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図9】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図10】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図11】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図12】射出成形によるモールドの作製方法を示す工程図である。
【
図13】モールドを搭載した搬送治具の斜視図である。
【
図14】経皮吸収シートの製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図15】薬剤液充填工程で使用する薬剤液充填装置の概略構成図である。
【
図16】薬剤液充填装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図17】薬剤液充填工程に含まれる各工程を示すフローチャートである。
【
図18】実施例に係る針状凹部の形状を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面にしたがって本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施形態により説明される。本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施形態以外の他の実施形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0031】
ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ ~ ”を用いて表す場合は、“ ~ ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0032】
<経皮吸収シートの構成>
まず、本実施形態のマイクロニードルアレイの製造方法により製造されるマイクロニードルアレイ(経皮吸収シート)の一例について説明する。
【0033】
図1は、経皮吸収シート100の一例を示す斜視図である。経皮吸収シート100は、表面100A及び裏面100Bを有し、シート状のシート部102及び凸状パターン110から構成される。
【0034】
シート状とは、面積の広い2つの対向する表面100A及び裏面100Bに対して厚みの薄い、全体として平たい形状を意味し、表面100A及び裏面100Bが完全に平坦である必要はない。また、
図1に示すシート部102は平面視で円形であるが、矩形、多角形、楕円形等でもよい。
【0035】
凸状パターン110は、複数の針状凸部112を有している。針状凸部112は、表面100Aに設けられている。針状凸部112は、ニードル部114と、ニードル部114とシート部102とを接続する錐台部116と、から構成される。
【0036】
経皮吸収シート100の表面100Aには、複数個の錐台部116が形成される。錐台部116は、2つの底面を有し、錐体面で囲まれた立体構造を有している。錐台部116の2つの底面のうち面積の広い底面(下底面)がシート部102と接続される。錐台部116の2つの底面のうち面積の狭い底面(上底面)がニードル部114と接続される。つまり、錐台部116の2つの底面のうち、シート部102と離れる方向にある底面の面積が小さくなっている。
【0037】
ニードル部114は、面積の広い底面と、底面から離れた先端が最も狭い面積となる形状を有している。ニードル部114の面積の広い底面が、錐台部116の上底面と接続されているので、ニードル部114は錐台部116と離れる方向に先細り形状となる。したがって、ニードル部114と錐台部116とで構成される針状凸部112は、全体としてシート部102から先端に向けて先細り形状を有している。シート部102の上には4~2500本の複数の針状凸部112が設けられる。但し、この本数に限定されない。
【0038】
図1において、錐台部116は円錐台の形状を有し、ニードル部114は円錐の形状を有している。ニードル部114の皮膚への挿入の程度に応じて、ニードル部114の先端の形状を、0.01μm以上50μm以下の曲率半径の曲面、又は平坦面等に適宜変更することができる。
【0039】
<モールドの構成>
図2は、経皮吸収シート100を製造するためのモールド120(経皮吸収シート製造用のモールド)の一例を示す斜視図である。また、
図3は、
図2の3-3断面の一部拡大図である。モールド120は、表面120A及び裏面120Bを有し、平坦部122及び凹状パターン130から構成されている。
【0040】
平坦部122は、経皮吸収シート100のシート部102に対応する平坦な形状を有している。凹状パターン130は、複数の針状凹部132から構成される。針状凹部132は、経皮吸収シート100の針状凸部112に対応する形状を有しており、ニードル部114に対応する先端凹部134と、錐台部116に対応するカップ部136とから構成される。
【0041】
先端凹部134は、モールド120の深さ方向に先細り形状を有している。先端凹部134は、径を150μm~500μm、高さを150μm~2000μmとすることができる。また、カップ部136は、モールド120の表面120Aに開口が設けられ、モールド120の深さ方向に狭くなる形状を有し、最も狭い部分で先端凹部134と接続されている。カップ部136は、径を500μm~1000μm、高さを100μm~500μmとすることができる。
【0042】
なお、針状凹部132の形状はこの例に限定されない。先端凹部134とカップ部136との間に、円柱、四角柱、多角柱等の深さ方向に幅が一定の中間凹部を設けたロケット型としてもよい。また、先細り形状の先端に、裏面120Bに到達してモールド120を貫通する貫通孔を形成してもよい。針状凹部132の配列、ピッチ、数等は、経皮吸収シート100に必要な針状凸部112の配列、ピッチ、数等によって決定すればよい。
【0043】
<モールドの作製方法>
射出成形によるモールドの作製方法について、
図4から
図12の工程図を参照して説明する。
【0044】
図4に示されるように、第1型72と第2型74とを含む型70が準備される。第1型72と第2型74を型締めすることにより、型70の内部にキャビティ76が形成される。キャビティ76とは、樹脂が充填される空間を意味する。
【0045】
また、
図5に示されるように、電鋳金型50が準備される。電鋳金型50の第1面52には、作製したいモールドの反転形状である凸状パターン54が形成されている。凸状パターン54とは、複数の針状凸部56がアレイ状に配列された状態である。針状凸部56は作製したいモールドの形状に応じて作製される。
【0046】
第1型72に電鋳金型50が固定されるので、電鋳金型50を固定する側は平坦面78で構成される。第1型72は、電鋳金型50を固定する装置として、平坦面78に吸着板80を備えている。第1型72は、その内部に吸着板80と気体連通する吸引管82を備えている。吸引管82は不図示の真空ポンプと接続されている。真空ポンプを駆動することにより、吸着板80の表面から空気を吸引することができる。吸着板80は、例えば、多孔質部材で構成される。多孔質部材として、例えば、金属焼結体、樹脂、及びセラミック等を挙げることができる。
【0047】
第2型74のキャビティ76の側に窪み84が形成されている。本実施形態では、第1型72の平坦面78と、後述する第2型74の窪み84(
図8参照)とによりキャビティ76が形成される。第1型72と第2型74とを上記の構成することにより、後述するように、モールドの離型が容易となる。
【0048】
第2型74にはキャビティ76に連通するゲート86が形成されている。ゲート86が型70のキャビティ76への樹脂の注入口になる。ゲート86は、型70に樹脂を供給する射出成形機88と連通される。
【0049】
図5に示されるように、第1型72と第2型74とが型開され、凸状パターン54を有する電鋳金型50が第1型72に載置される。吸引管82を介して真空ポンプにより空気を吸引することにより、電鋳金型50の第2面58が吸着板80に真空吸着される。
【0050】
本実施形態では、真空吸着により電鋳金型50を第1型72に固定する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、吸着板80に代えて、磁石を第1型72に設けることにより、磁力を利用して電鋳金型50を第1型72に固定することもできる。したがって、電鋳金型50を第1型72に真空吸着、及び磁力の少なくとも一方により固定することが好ましい。
【0051】
図6に示されるように、キャビティ76を形成するため、第1型72と第2型74とが型締めされる。型締めする際、第1型72と第2型74とにより電鋳金型50が挟圧される。
【0052】
図7に示されるように、樹脂Rが射出成形機88からゲート86を介してキャビティ76に供給される。樹脂Rは電鋳金型50の凸状パターン54の間を通過しながら、キャビティ76内に充填される。樹脂Rとしては、熱硬化性樹脂、又はシリコーン樹脂を用いることが好ましく、特に、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。樹脂Rが型70のキャビティ76に充填されると、次いで、樹脂Rが加熱され、樹脂Rが硬化される。
【0053】
図8に示されるように、電鋳金型50から硬化された樹脂Rを離型するため、型締めされていた第1型72と第2型74とが型開きされる。型開きでは、第1型72と第2型74とが相対的に離間するように移動される。
図8に示されるように、第2型74は、キャビティ76を形成するための窪み84を有している。硬化された樹脂Rは、離型前の複数の凹状パターン130が形成されたモールド124である。
【0054】
図9に示されるように、第1型72は、第2型74とは分離され、電鋳金型50からモールド124を離型するためのステージへと移動される。本実施形態では、窪み84を有する第2型74がモールド124から分離されるので、モールド124は、第1型72に固定された電鋳金型50と接触する面を除き、露出されることになる。したがって、電鋳金型50からモールド124を離型する際、モールド124の露出面を利用して容易に離型することが可能である。
【0055】
図10に示されるように、モールド124の周縁部を電鋳金型50から最初に離間させる。モールド124の周縁部は、モールド124を平面視した際の対向する2辺を少なくとも含んでいれば良く、また、4辺の全てを含んでいても良い。周縁部とは、モールド124の外周から凹状パターン130までの領域を意味する。
【0056】
図11に示されるように、モールド124の周縁部を徐々に電鋳金型50から離間させる。モールド124がシリコーン樹脂により作製される場合、モールド124は弾性力を有するので、モールド124の周縁部を徐々に離間させると、モールド124が伸ばされた状態(弾性変形)となる。モールド124の周縁部をさらに電鋳金型50から離間させると、弾性変形していたモールド124は元の形状に戻ろうとするため、モールド124は縮む。モールド124の縮む力を利用することにより、モールド124が電鋳金型50から離型される。モールド124が縮もうとする力を離型する力として利用することにより、モールド124と電鋳金型50の凸状パターン54との間に無理な力が加わらないので、離型不良を抑制することが可能となる。
【0057】
図12に示されるように、最終的には、モールド124と電鋳金型50の凸状パターン54とは完全に離型され、凹状パターン130を有するモールド124が作製される。モールド124は、
図2に示したモールド120が複数繋がった状態である。
【0058】
電鋳金型50からモールド124を繰り返して作製する場合、凸状パターン54が徐々に傷むことから、1000回から10000回程度使用すると、新たな電鋳金型50に交換する必要がある。本実施形態では、不図示の真空ポンプの駆動を停止し、吸着板80の吸着力を低減することにより、電鋳金型50を短時間に交換することができる。
【0059】
モールド124の周縁部を電鋳金型50から離間させる方法として、凹状パターン130の形成される面と反対の露出面であって、モールド124の周縁部を吸引手段で吸引し、周縁部を吸引しながら吸引手段を電鋳金型50から離間させる方法を挙げることができる。
【0060】
このように作製したモールド124(モールド120)は、気体透過性が優れていることが望ましい。
【0061】
<経皮吸収シートの製造方法>
図13は、モールド120を搭載した搬送治具150の斜視図である。経皮吸収シートの製造において、モールド120は搬送治具150に搭載されてハンドリングされる。搬送治具150は、ポリプロピレン等のプラスチックで構成される。搬送治具150は、モールド120の表面120Aを鉛直方向であるZ方向の上方に向けて、モールド120のシート部102を水平面であるXY平面と平行にした状態でモールド120を支持する。
【0062】
図14は、経皮吸収シート100の製造方法の各工程を示すフローチャートである。経皮吸収シート100の製造方法は、モールド120の針状凹部132に薬剤液を充填する薬剤液充填工程(ステップS1)、充填した薬剤液を乾燥させる薬剤液乾燥工程(ステップS2)、針状凹部132に基材液を充填する基材液充填工程(ステップS3)、充填した基材液を乾燥させる基材液乾燥工程(ステップS4)、形成された経皮吸収シート100をモールド120から離型する離型工程(ステップS5)を含む。
【0063】
〔薬剤液充填工程(ステップS1)〕
薬剤液充填工程は、薬剤液吐出ヘッド34のノズル36(
図15参照)から薬剤液の液滴をモールド120の針状凹部132に向けて吐出し、吸引ポンプ22(
図15参照)によってモールド120を吸引する。薬剤液充填工程の詳細については後述する。
【0064】
〔薬剤液乾燥工程(ステップS2)〕
薬剤液乾燥工程では、例えば、針状凹部132に充填された薬剤液に風を吹き付けることにより乾燥させる。モールド120の周囲環境を減圧してもよい。
【0065】
〔基材液充填工程(ステップS3)〕
基材液充填工程では、針状凹部132に基材液を充填する。基材液は、薬剤非含有のポリマー溶液であり、ポリマー溶液を形成する水溶性の高分子物質としてはコンドロイチン硫酸、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン等の水溶性ポリマー物質を用いることが好ましい。
【0066】
基材液を針状凹部132に充填する方法としては、例えばスピンコーターを用いた塗布を挙げることができる。
【0067】
〔基材液乾燥工程(ステップS4)〕
基材液乾燥工程では、薬剤液乾燥工程と同様に、針状凹部132に充填された基材液に風を吹き付けることにより乾燥させる。
【0068】
〔離型工程(ステップS5)〕
離型工程では、薬剤液及び基材液が乾燥して形成されたシート(経皮吸収シート100)をモールド120から離型する。
【0069】
<薬剤液充填装置>
図15は、薬剤液充填工程で使用する薬剤液充填装置1(経皮吸収シートの製造装置の一例)の概略構成図である。薬剤液充填装置1は、XYZステージ10、吸着板20、吸引ポンプ22、カメラ30、及び薬剤液吐出ヘッド34等を備えている。
【0070】
XYZステージ10(位置決め部の一例)は、XY平面に平行な載置面10Aを有している。XYZステージ10は、不図示のモータにより、XY平面に平行な2方向であって、X方向及びX方向に直交するY方向を移動自在に設けられている。また、XYZステージ10は、Z方向、及びZ方向に平行な方向を回転軸とした回転方向であるRθZ方向についても移動可能に設けられている。
【0071】
XYZステージ10の載置面10Aには、吸着板20が固定されている。吸着板20は、XY平面に平行な載置面20Aを有している。また、載置面20Aには、不図示の複数の吸着孔が設けられている。吸着板20は、多孔質部材で構成してもよい。
【0072】
吸着板20は、吸引管24を介して吸引ポンプ22が接続されている。吸引ポンプ22を駆動することにより、吸着板20の載置面20Aの不図示の複数の吸着孔から空気を吸引することができる。
【0073】
吸着板20の載置面20Aには、搬送治具150が載置される。搬送治具150には、載置面150Aにモールド120が搭載される。これにより、モールド120は、XYZステージ10のX方向、Y方向、Z方向、及びRθZ方向の移動に伴って各方向に移動する。
【0074】
また搬送治具150の載置面150Aには、複数の吸着孔152が貫通している。吸引ポンプ22を駆動することにより、吸着板20の載置面20Aの不図示の複数の吸着孔、及び搬送治具150の複数の吸着孔152を介して、モールド120の裏面120Bを吸引する。
【0075】
カメラ30は、撮影レンズ32の他、不図示の撮像素子、アナログデジタル変換部、及び画像処理回路を備えている。
【0076】
撮影レンズ32は、ズームレンズ及びフォーカスレンズ等を備えたレンズ群であり、被写体からの入射光を撮像素子に入射させる。
【0077】
撮像素子は、不図示の撮像面に多数の受光素子が2次元配列されたCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型の撮像素子である。撮像素子は、撮影レンズ32の入射光の光路の後段に配置される。
【0078】
撮影レンズ32は、入射光を撮像素子の撮像面に結像させる。撮像素子は、受光量に応じたアナログの撮影信号を出力する。この撮影信号は、アナログデジタル変換部においてデジタル信号に変換された後、画像処理回路によって画像信号に生成される。
【0079】
カメラ30は、XYZステージ10のZ方向の上方に配置されており、撮影レンズ32はZ方向の下方に向けられている。これにより、カメラ30は、XYZステージ10に載置されたモールド120を撮影することができる。
【0080】
薬剤液吐出ヘッド34は、XYZステージ10のZ方向の上方であって、カメラ30からX方向の距離d
1、Y方向の距離d
2からなるXY平面における距離dだけ離れた位置に配置されている。薬剤液吐出ヘッド34は、薬剤液の液滴を第1方向に吐出するノズル36(薬剤液吐出ノズルの一例)を備えている。ここでは、ノズル36はZ方向下方に向けられており、第1方向はZ方向の下方向である。
図15に示す薬剤液吐出ヘッド34は、1つのノズル36を備えているが、複数のノズル36を備えていてもよい。
【0081】
薬剤液吐出ヘッド34は、例えばソレノイド型インクジェットヘッド、又はピエゾ型インクジェットヘッド等のインクジェットヘッドを用いることができる。ノズル36から吐出する1つの液滴量は、1~150nL程度である。
【0082】
ノズル36から吐出される薬剤液は、Z方向下方に飛翔し、対象物(ここではモールド120)に着弾する。したがって、ノズル36のXY平面の位置と薬剤液の着弾するXY平面の位置とは等しい。
【0083】
薬剤液は、薬剤として薬剤原液、糖類、添加剤等を含んでいる。また、薬剤液は、溶媒として水、又はエタノール等を含んでいる。
【0084】
図16は、薬剤液充填装置1の電気的構成を示すブロック図である。薬剤液充填装置1は、撮影制御部40、移動制御部42、画像検出部44、吐出制御部46、及び吸引制御部48等を備えている。
【0085】
撮影制御部40は、カメラ30に画像を撮影させる。
【0086】
移動制御部42は、XYZステージ10に載置されたモールド120と薬剤液吐出ヘッド34との相対移動を制御する。ここでは、XYZステージ10を駆動することで、モールド120を移動させているが、薬剤液吐出ヘッド34を移動させてもよいし、モールド120と薬剤液吐出ヘッド34との両方を移動させてもよい。
【0087】
画像検出部44は、カメラ30によって撮影したモールド120の画像に基づいて、モールド120の位置を検出する。本実施形態では、モールド120の画像から針状凹部132を認識し、針状凹部132の位置を検出する。
【0088】
吐出制御部46は、薬剤液吐出ヘッド34を制御し、ノズル36から薬剤液を吐出するタイミング、及び吐出する薬剤液の液滴量を制御する。
【0089】
吸引制御部48は、吸引ポンプ22による吸引の有無を制御する。
【0090】
<薬剤液充填工程>
図17は、薬剤液充填工程に含まれる各工程を示すフローチャートである。薬剤液充填工程は、位置決め調整工程(ステップS11)、移動工程(ステップS12)、薬剤液吐出工程(ステップS13)、吐出終了判定工程(ステップS14)、良否判定工程(ステップS15)、吸引工程(ステップS16)を含んでいる。
【0091】
〔位置決め調整工程(ステップS11)〕
位置決め調整工程では、XYZステージ10に載置されたモールド120の針状凹部132の位置と薬剤液吐出ヘッド34のノズル36の位置とが一致するように、位置決め調整する。なお、針状凹部132の位置とノズル36の位置とが一致するとは、ノズル36から針状凹部132に向けて吐出した薬剤液が針状凹部132に着弾する程度に一致すればよく、厳密に両者の位置が一致している必要はない。ここでは、撮影画像から針状凹部132の位置を検出することで、針状凹部132とノズル36とを仮想的に位置決めする。
【0092】
最初に、吸着板20の載置面20Aに、モールド120が搭載された搬送治具150を載置する。
【0093】
移動制御部42は、XYZステージ10を制御し、カメラ30の撮影画像の画角内にモールド120を移動させる。撮影制御部40は、カメラ30を制御し、モールド120の画像を撮影させる(撮影工程の一例)。画像検出部44は、カメラ30によって撮影されたモールド120の画像を解析し、各針状凹部132の位置を算出する。
【0094】
例えば、XYZステージ10によりモールド120の針状凹部132をカメラ30の撮影画像の画角内の中心に移動させ、その際のXYZステージ10のXY平面座標(X,Y)を検出する。これを全ての針状凹部132について行うことで、全ての針状凹部132の位置を検出することができる。
【0095】
なお、カメラ30によって撮影されたモールド120の画像は、平坦部122は輝度が相対的に明るく、針状凹部132は輝度が相対的に暗い。このコントラストを用いることで、針状凹部132をカメラ30の撮影画像の画角内の中心に移動させることができる。
【0096】
全ての針状凹部132についてカメラ30の撮影画像の画角内の中心に移動させるのではなく、3~5個の針状凹部132のXY平面座標(X,Y)のみを検出し、この座標からモールド120のXY平面内の向き(回転)、及びモールド120のXY平面内のズレや伸縮を解析することで、その他の針状凹部132の位置を検出してもよい。
【0097】
また、モールド120に複数のアライメント用マークを設け、アライメント用マークを読み取ることで針状凹部132のXY平面座標(X,Y)を検出してもよい。
【0098】
このように、XYZステージ10のXY平面座標(X,Y)による針状凹部132の位置を検出することで、針状凹部132とノズル36とを仮想的に位置決めする。なお、位置決め調整治具等により機械的な位置決めを行ってもよい。
【0099】
さらに、針状凹部132、又はアライメント用マークとカメラ30との距離を計測し、モールド120のZ方向の位置(高さ)を調整してもよい。ノズル36とモールド120との距離が0.5mm~5mm、好ましくは1mm~2mmとなるように調整することが好ましい。
【0100】
〔相対移動工程(ステップS12)〕
移動制御部42は、画像検出部44の検出結果に基づいて、XYZステージ10を制御してモールド120をX方向及びY方向に移動させて、薬剤液吐出ヘッド34のノズル36のXY平面の位置と針状凹部132のXY平面の位置とを一致させる。即ち、ノズル36の薬剤液の吐出方向と平行な方向(Z方向)からの平面視において、ノズル36の位置と針状凹部132の位置とを一致させる。
【0101】
ステップS11で算出した針状凹部132の座標(X,Y)に、カメラ30と薬剤液吐出ヘッド34のノズル36とのX方向の距離d1、及びY方向の距離d2を加算した座標(X+d1,Y+d2)が、ノズル36の座標である。移動制御部42は、この座標にXYZステージ10を移動させる。
【0102】
〔薬剤液吐出工程(ステップS13)〕
吐出制御部46は、薬剤液吐出ヘッド34を制御し、ノズル36から薬剤液を吐出させる。吐出された薬剤液は、針状凹部132に着弾する。ここでは、1つの針状凹部132に対してノズル36から1滴の薬剤液を吐出して、針状凹部132に着弾させる。なお、1つの針状凹部132に対して複数滴の薬剤液を着弾させてもよい。
【0103】
なお、針状凹部132内に着弾した薬剤液は、針状凹部132を閉塞、即ち針状凹部132の壁部の円周の全体に渡って接触している必要がある。着弾した薬剤液が針状凹部132を閉塞していない場合には、後述する吸引工程において着弾した薬剤液を先端凹部134の先細り形状の先端に充填することができない。したがって、相対移動工程においてノズル36の位置と針状凹部132の位置とを一致させる際には、精密な位置精度が要求される。このため、位置決め調整工程において、精密に位置決め調整する必要がある。
【0104】
〔吐出終了判定工程(ステップS14)〕
吐出制御部46は、モールド120の全ての針状凹部132に薬剤液を吐出して着弾させたか否かを判定する。ここでは、薬剤液吐出工程において薬剤液を吐出した吐出数と位置決め調整工程において位置を検出した針状凹部132の数とを比較して判定する。
【0105】
薬剤液を着弾させていない針状凹部132があると判断した場合は、ステップS12に戻り、同様の処理を行う。即ち、薬剤液を吐出していない針状凹部132のXY平面の位置とノズル36のXY平面の位置とを一致させ(ステップS12)、ノズル36から薬剤液を吐出して針状凹部132に着弾させる(ステップS13)。針状凹部132に薬剤液を吐出する順序については特に限定されないが、XYZステージ10の総移動距離を短くする観点から、モールド120の端に配置された針状凹部132から、順次隣接する針状凹部132に吐出することが好ましい。
【0106】
全ての針状凹部132に薬剤液を着弾させたと判断した場合は、ステップS15に移行する。
【0107】
〔良否判定工程(ステップS15)〕
良否判定工程では、撮影制御部40及びカメラ30は、モールド120の全ての針状凹部132を撮影し、薬剤液によって開口が閉塞されている針状凹部132の数が予め定められた基準数以上であるか否かを確認する。この基準数は、1枚の経皮吸収シート100において必要となる針状凸部112の最低限の数によって決まる。
【0108】
閉塞された針状凹部132の数が基準数未満の場合は、不合格品として本フローチャートの処理を終了する。閉塞された針状凹部132の数が基準数以上の場合は、合格品としてステップS16へ移行する。
【0109】
〔吸引工程(ステップS16)〕
吸引制御部48は、吸引ポンプ22を駆動し、モールド120の裏面120Bを吸引する。この吸引により、針状凹部132に着弾した薬剤液は、先端凹部134の先細り形状の先端にまで充填される。
【0110】
以上により、薬剤液充填工程が終了する。なお、薬剤液吐出工程と吸引工程とは、同時に行ってもよい。即ち、吸引ポンプ22により吸引を行いながらノズル36から薬剤液を吐出してもよい。
【0111】
ここでは、距離d1、距離d2を既知の値として扱ったが、未知の場合は以下のようにして求めることができる。
【0112】
針状凹部132の設けられていないダミーのモールドを搬送治具150に搭載し、吸着板20の載置面20Aに載置する。このダミーのモールドに対してノズル36から薬剤液を吐出し、ダミーのモールドに着弾させる。
【0113】
次に、着弾した薬剤液がカメラ30の撮影画像の画角の中心に来るように、XYZステージ10をX方向及びY方向に移動させる。ここでのXYZステージ10のX方向移動量が距離d1、Y方向移動量が距離d2となる。
【0114】
<実施例>
図18は、実施例に係る針状凹部132の形状を説明するための断面図であり、
図3をさらに拡大した図である。
図18に示すように、先端凹部134の径は300μm、高さ(深さ)は720μmである。カップ部136の開口径(針状凹部132の開口径)をD、モールド120の表面120Aの平坦部122とカップ部136の内側とが成す角度であって、モールド120内部の角度をθとする。なお、カップ部136の高さ(深さ)は、開口径Dと角度θから決まる値である。
【0115】
また、表面120Aの平坦部122とカップ部136との接続部(針状凹部の開口部の第1エッジ部の一例)は面取りされており、面取り円弧の曲率半径(第1曲率半径)をRとする。このように面取りされているため、角度θは、表面120Aの平坦部122の延長線とカップ部136との延長線とが成す角度とする。
【0116】
さらに、カップ部136と先端凹部134との接続部(第2エッジ部の一例)は面取りされており、面取り円弧の曲率半径(第2曲率半径)は、第1曲率半径と同様のRである。
【0117】
開口径D、角度θ、曲率半径R、ノズル36から吐出される薬剤液の吐出量A、及びノズル36から吐出される薬剤液の飛翔速度である吐出速度Vをパラメータとした各水準に対する針状凹部132への薬剤液の吐出(着弾)について評価を行った。
図19は、各水準のパラメータとその評価結果を示す図表である。
図19に示すように、水準1~水準32について評価を行った。
【0118】
評価項目として、薬剤液の開口内への着弾の有無と、薬剤液による開口の閉塞の有無を評価した。薬剤液の開口内への着弾の有無の評価の基準は、吐出した薬剤液の着弾位置が針状凹部132の開口の内側である場合を成功と判断した。また、薬剤液による開口の閉塞の有無の評価の基準は、針状凹部132内に着弾した薬剤液が針状凹部132の壁部の円周の全体に渡って接触している場合を成功と判断した。
【0119】
判定基準は、成功率が100%の場合を「優」、成功率が98%以上100%未満の場合を「良」、成功率が95%以上98%未満の場合を「可」、成功率が95%未満の場合を「不可」とした。
【0120】
水準1~水準4は、開口径Dを500μm、角度θを45.0度又は56.3度、吐出量Aを25nL又は35nL、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとした水準である。水準1~水準4は、開口内着弾が「不可」であり、これに伴い開口閉塞も「不可」であった。
【0121】
水準5~水準8は、開口径Dを600μm、角度θを33.7度又は45.0度、吐出量Aを25nL又は35nL、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとした水準である。
【0122】
水準2と水準8とは、開口径Dの値だけが異なる。水準2は開口内着弾が「不可」、開口閉塞が「不可」であったのに対し、水準8は開口内着弾が「優」、開口閉塞が「可」であった。これにより、開口径Dは500μmよりも大きいことが必要であることがわかる。開口径Dが小さい場合には、相対移動工程におけるノズル36と針状凹部132との位置精度によっては、吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させることが困難になるためと考えられる。
【0123】
また、水準5及び水準7は、ともに吐出量Aが25nLの水準である。水準5と水準6、水準7と水準8とは、吐出量Aの値だけが異なる。水準5及び水準7の開口閉塞が「不可」であったのに対し、水準6及び水準8の開口閉塞は「可」であった。これにより、吐出量は25nLよりも多いことが必要であることがわかる。吐出量Aが少ない場合には、針状凹部132の壁部の一部に薬剤液が付着し、壁部の円周の全体に渡って接触することが困難になるためと考えられる。
【0124】
水準9~水準11は、開口径Dを600μm、吐出量Aを35nL、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとし、角度θをそれぞれ63.4度、71.6度、90.0度とした水準である。なお、水準11は、角度θを90度とした関係上、開口部から一定深さまでを開口径Dの円筒部とし、円筒部の先にカップ部136及び先端凹部134を有する形状とした。カップ部136の角度は45度とした。水準9~水準11は、開口内着弾が「優」であり、開口閉塞が「可」であった。これにより、角度θは少なくとも90.0度まで増加させても問題ないことがわかった。なお、角度θを増加させても開口閉塞の評価が上昇しない理由は、曲率半径Rを30μmとしているために、針状凹部132の壁部の一部に付着した薬剤液が針状凹部132の中心に流し込まれず、壁部の円周の全体に渡って接触することが困難になるためと考えられる。
【0125】
水準12~水準14は、開口径Dを600μm、角度θを45.0度、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとし、吐出量Aをそれぞれ50nL、75nL、150nLとした水準である。水準12~水準14は、開口内着弾が「優」、開口閉塞が「可」であった。これにより、吐出量Aは少なくとも150nLまで増加させても問題ないことがわかった。なお、吐出量Aを増加させても開口閉塞の評価が上昇しない理由は、曲率半径Rを30μmとしているために、針状凹部132の壁部の一部に付着した薬剤液が針状凹部132の中心に流し込まれず、壁部の円周の全体に渡って接触することが困難になるためと考えられる。
【0126】
水準15~水準18は、開口径Dを800μm、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとした水準である。水準15及び水準16は、角度θを21.8度とした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。角度θが小さい場合は、着弾位置が開口の中心からずれた場合に、針状凹部132の壁部の一部に付着した薬剤液が針状凹部132の中心に流し込まれず、壁部の円周の全体に渡って接触することが困難になるためと考えられる。
【0127】
水準15及び水準17は、吐出量Aを25nLとした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。吐出量Aが少ない場合には、針状凹部132の壁部の一部に薬剤液が付着し、壁部の円周の全体に渡って接触することが困難になるためと考えられる。
【0128】
これに対し、角度θを31.0度、吐出量Aを35nLとした水準18は、開口閉塞が「可」であった。これにより、開口径Dが800μmの場合は、角度θが21.8度より大きく、かつ吐出量Aが25nLより多いことが必要であることがわかった。
【0129】
水準19~水準22は、開口径Dを1000μm、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとした水準である。水準19及び水準20は、角度θを29.7度とした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。水準19及び水準21は、吐出量Aを25nLとした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。これに対し、角度θを35.5度、吐出量Aを35nLとした水準22は、開口閉塞が「可」であった。これにより、開口径Dが1000μmの場合は、角度θが29.7度より大きく、かつ吐出量Aが25nLより多いことが必要であることがわかった。
【0130】
水準23~水準26は、開口径Dを1200μm、曲率半径Rを30μm、吐出速度Vを0.2m/sとした水準である。水準23及び水準24は、角度θを29.1度とした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。水準23及び水準25は、吐出量Aを25nLとした水準であり、開口閉塞が「不可」であった。これに対し、角度θを33.7度、吐出量Aを35nLとした水準26は、開口閉塞が「可」であった。これにより、開口径Dが1200μmの場合は、角度θが29.1度より大きく、かつ吐出量Aが25nLより多いことが必要であることがわかった。
【0131】
水準27~水準29は、開口径Dを600μm、角度θを45.0度、吐出量Aを35nL、吐出速度Vを0.2m/sとした水準であり、曲率半径Rをそれぞれ50μm、100μmL、300μmとした水準である。水準27~水準29は、開口内着弾が「優」、開口閉塞が「良」であった。曲率半径Rが大きく滑らかであると、針状凹部132の内部に着弾した薬剤液の着弾位置が開口の中心に対してずれていても、針状凹部132の内壁を滑りやすくなり、薬剤液が針状凹部132の円周全体に接触しやすいと考えられる。水準27~水準29の結果から、曲率半径Rの値は50μm~300μmの範囲で良好であることがわかった。なお、水準6等の結果から、曲率半径Rの値は30μmであっても問題ないことがわかっている。
【0132】
水準30~水準32は、開口径Dを600μm、角度θを45.0度、吐出量Aを35nL、曲率半径Rを100μmとした水準であり、吐出速度Vをそれぞれ0.3m/s、0.5m/s、1.0m/sとした水準である。水準30~水準32は、開口内着弾が「優」、開口閉塞が「優」であった。吐出速度Vが速いと、吐出した薬剤液を針状凹部132の中心に集めやすく又は流し込むことができると考えられる。水準30~水準32の結果から、吐出速度Vの値は0.3m/s~1.0m/sの範囲で良好であることがわかった。なお、水準6等の結果から、吐出速度Vの値は0.2m/sであっても問題ないことがわかっている。
【0133】
以上により、開口径Dは600μm以上、角度θは30.0度以上、吐出量Aは30nL以上の範囲とすることができる。開口径を600μm以上とすることで、吐出した薬剤液を針状凹部に着弾させやすくすることができる。また、モールドの平坦部との成す角度を30.0度以上とすることで、着弾した薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができる。さらに、薬剤液の吐出量を30nL以上とすることで、針状凹部を閉塞しやすくすることができる。開口径Dは1200μm以下、角度θは90.0度以下、吐出量Aは150nL以下の範囲であることが好ましい。
【0134】
また、曲率半径Rは30μm以上、吐出速度Vは0.2m/s以上の範囲とすることができる。曲率半径Rを30μm以上とすることで、針状凹部に吐出した薬剤液が第1エッジ部及び第2エッジ部にピン止めされることを防止し、薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができ、針状凹部の先端に充填することができる。また、吐出速度Vを0.2m/s以上とすることで、吐出した薬剤液を針状凹部の中心に集めやすく又は流し込むことができる。曲率半径Rは300μm以下、吐出速度Vは1.0m/sの範囲であることが好ましい。
【0135】
<その他>
本発明の技術的範囲は、上記の実施形態に記載の範囲には限定されない。各実施形態における構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各実施形態間で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0136】
1 :薬剤液充填装置
10 :XYZステージ
10A :載置面
20 :吸着板
20A :載置面
21 :水準
22 :吸引ポンプ
24 :吸引管
30 :カメラ
32 :撮影レンズ
34 :薬剤液吐出ヘッド
36 :ノズル
40 :撮影制御部
42 :移動制御部
44 :画像検出部
46 :吐出制御部
48 :吸引制御部
50 :電鋳金型
52 :第1面
54 :凸状パターン
56 :針状凸部
58 :第2面
70 :型
72 :第1型
74 :第2型
76 :キャビティ
78 :平坦面
80 :吸着板
82 :吸引管
84 :窪み
86 :ゲート
88 :射出成形機
100 :経皮吸収シート
100A :表面
100B :裏面
102 :シート部
110 :凸状パターン
112 :針状凸部
114 :ニードル部
116 :錐台部
120 :モールド
120A :表面
120B :裏面
122 :平坦部
124 :モールド
130 :凹状パターン
132 :針状凹部
134 :先端凹部
136 :カップ部
150 :搬送治具
150A :載置面
152 :吸着孔
S1~S5 経皮吸収シートの製造方法の各工程
S11~S16 薬剤液充填工程に含まれる各工程