IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝マテリアル株式会社の特許一覧

特許7055918極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ
<>
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図1
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図2
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図3
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図4
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図5
  • 特許-極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20220411BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20220411BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220411BHJP
   F25B 9/00 20060101ALI20220411BHJP
   F25B 9/14 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
C04B35/50
C04B35/44
C04B38/00 303Z
C09K5/14 F
F25B9/00 D
F25B9/14 Z
F25B9/14 530Z
F25B9/00 311
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021075189
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2019192426の分割
【原出願日】2015-09-04
(65)【公開番号】P2021120345
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2014195603
(32)【優先日】2014-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】布施 圭一
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-075884(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064923(WO,A1)
【文献】特開2004-123884(JP,A)
【文献】特開2002-249763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
C09K
F25B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの蓄冷容器を備え、
前記少なくとも1つの蓄冷容器に充填された希土類蓄冷材粒子が、ガドリニウム酸硫化物(GdS)、又は、ガドリニウムアルミニウム酸化物(GdAlO)からなり、
前記希土類蓄冷材粒子の平均結晶粒径が0.5~5μmであり、気孔率が10~50vol%であり、気孔の平均径が0.3~3μmであり、気孔の最大径が4μm以下であることを特徴とする、
極低温用冷凍機。
【請求項2】
前記少なくとも1つの冷凍容器に充填された希土類蓄冷材粒子が、ガドリニウムアルミニウム酸化物(GdAlO)からなり、
前記希土類蓄冷材粒子の平均結晶粒径が0.5~5μmであり、気孔率が10~50vol%であり、気孔の平均径が0.3~3μmであることを特徴とする、
極低温用冷凍機。
【請求項3】
前記気孔の最大径が4μm以下であることを特徴とする、
請求項2記載の極低温用冷凍機。
【請求項4】
前記希土類蓄冷材粒子を多数具備した希土類蓄冷材粒子群とし、
前記希土類蓄冷材粒子群に対し、前記希土類蓄冷材粒子が50質量%以上100質量%以下具備されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項5】
前記極低温用冷凍機が、GM型冷凍機であることを特徴とする、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項6】
前記極低温用冷凍機が、スターリング型冷凍機であることを特徴とする、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項7】
前記極低温用冷凍機が、パルス型冷凍機であることを特徴とする、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項8】
前記パルス型冷凍機が、4Kパルス型冷凍機であることを特徴とする、
請求項7に記載の極低温用冷凍機。
【請求項9】
前記少なくとも1つの蓄冷容器内は、金属メッシュが配置されて2つ以上の充填層に分けられ、
前記2つ以上の充填層に前記希土類蓄冷材粒子を多数具備した希土類蓄冷材粒子群が充填されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項10】
前記金属メッシュがCuメッシュであることを特徴とする、
請求項9に記載の極低温用冷凍機。
【請求項11】
前記少なくとも1つの蓄冷容器内が2つの充填層に分けられ、
第一の蓄冷材粒子群としてHoCu粒子群が充填され、第二の蓄冷材粒子群として希土類酸化物または希土類酸硫化物からなる希土類蓄冷材粒子群が充填されたことを特徴とする、
請求項9ないし請求項10のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項12】
前記少なくとも1つの蓄冷容器内が3つの充填層に分けられ、
第一の蓄冷材粒子群として鉛蓄冷材粒子群が充填され、第二の蓄冷材粒子群としてHoCu粒子群が充填され、第三の蓄冷材粒子群として希土類酸化物または希土類酸硫化物からなる希土類蓄冷材粒子群が充填されたことを特徴とする、
請求項9ないし請求項10のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項13】
前記極低温用冷凍機が10K以下の極低温を達成するために使用されることを特徴とする、
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項14】
平均粒径が100~500μmである前記希土類蓄冷材粒子が蓄冷容器に充填されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項15】
冷凍機の冷却ステージ内に充填率が55~70%の範囲で希土類蓄冷材粒子が充填されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項16】
冷凍機の蓄冷容器にアスペクト比が2以下の希土類蓄冷材粒子が充填されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項17】
希土類蓄冷材粒子群を構成する蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をLとし、前記投影像の実面積をAとしたとき、L/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える希土類蓄冷材粒子の比率が5%以下である希土類粒子群が蓄冷容器に充填されたことを特徴とする、
請求項1ないし請求項16のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機。
【請求項18】
第1冷却ステージにCuメッシュ蓄冷材が充填され、第2冷却ステージの第一の蓄冷材粒子群に鉛蓄冷材粒子群が充填され、第二の蓄冷材粒子群にHoCu蓄冷材粒子群が充填され、第三の蓄冷材粒子群にガドリニウム酸硫化物(GdS)、又は、ガドリニウムアルミニウム酸化物(GdAlO)からなり、平均結晶粒径が0.5~5μmであり、気孔率が10~50vol%であり、気孔の平均径が0.3~3μmであり、気孔の最大径が4μm以下である希土類蓄冷材粒子を具備する希土類蓄冷材粒子群が充填されたことを特徴とする、
パルス型冷凍機。
【請求項19】
前記パルス型冷凍機が、4Kパルス型冷凍機であることを特徴とする、
請求項18に記載のパルス型冷凍機。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機を具備することを特徴とする、
超電導磁石。
【請求項21】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機を具備することを特徴とする、
MRI装置。
【請求項22】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機を具備することを特徴とする、
NMR装置。
【請求項23】
請求項1ないし請求項19のいずれか1項に記載の極低温用冷凍機を具備することを特徴とする、
クライオポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、極低温用冷凍機、超電導磁石、MRI装置、NMR装置およびクライオポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導技術の発展は著しく、その応用分野が拡大するに伴って小型で高性能の冷凍機の開発が不可欠になっている。冷凍機には、GM(ギフォード・マクマホン)式、パルス式、スターリング式など様々な方式がある。これら冷凍機を使った製品としては、超電導磁石を始め、MRI、NMR、クライオポンプ、超電導電力貯蔵装置(SMES)、およびシリコンウェハーなどを製造する磁場中単結晶引き上げ装置などが挙げられる。
【0003】
このような冷凍機においては、蓄冷材が充填された蓄冷器内を、圧縮されたHeガスなどの作動媒質が一方向に流れて、その熱エネルギーを蓄冷材に供給し、ここで膨張した作動媒質が反対方向に流れ、蓄冷材から熱エネルギーを受け取る。こうした過程での復熱効果が良好になるに伴い、作動媒質サイクルでの熱効率が向上し、より低い温度を実現することが可能となる。
【0004】
上述したような冷凍機の蓄冷器に充填される蓄冷材としては、従来、CuやPbなどが主に使用されてきた。しかしながら、このような蓄冷材は、20K以下の極低温で比熱が著しく小さくなるため、上述した復熱効果が十分に機能せず、冷凍機での作動に際して極低温下で1サイクル毎に蓄冷材に充分な熱エネルギーを貯蔵することができず、かつ作動媒質が蓄冷材から充分な熱エネルギーを受け取ることができなくなる。
【0005】
その結果、前記蓄冷材を充填した蓄冷器を組み込んだ冷凍機では極低温に到達させることができない問題があった。そこで、最近では前記蓄冷器の極低温での復熱特性を向上させ、より絶対零度に近い冷凍温度を実現するために、特に20K以下の極低温域において体積比熱の極大値を有し、かつその値が大きなErNi,ErNi,HoCuなどのように希土類元素と遷移金属元素とから成る金属間化合物を主体とした希土類蓄冷材が使用されている。このような希土類蓄冷材をGM冷凍機に用いることにより、4Kでの冷凍が実現されている。
【0006】
このような冷凍機を様々なシステムに応用することが検討されるに伴って、より大型の冷却対象物を安定的に冷却する技術的要請から、冷凍機にはより一層の冷凍能力の向上が求められている。その要請に答えるべく最近では、従来の金属系磁性蓄冷材の一部を、GdSなどの希土類元素を含む希土類酸硫化物に置き換えることにより冷凍能力を向上させる試みがなされている。
【0007】
希土類酸硫化物は、その比熱のピークが5K以下であり、金属間化合物を主体とした希土類蓄冷材よりも低い温度にある。そのため、6K以上の温度領域で大きな体積比熱を有する金属間化合物を主体とした希土類蓄冷材と積層して使用することにより冷凍能力の向上が図れる。また、GdAlOなどの希土類酸化物蓄冷材も比熱のピークが低く、希土類酸硫化物蓄冷材と同様の効果が得られる。
【0008】
希土類酸硫化物蓄冷材としては、特許第3642486号公報(特許文献1)、特許第4582994号公報(特許文献2)がある。特許文献1および特許文献2では転動造粒法を使用して相対密度が98%以上の高密度焼結体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3642486号公報
【文献】特許第4582994号公報
【文献】特開2004-75884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
蓄冷材は、一般に蓄冷材は、Heガスなどの作動媒体との熱交換を効率良く実施するため、または冷凍機の蓄冷器への充填効率を高めるために、粒径0.2mm(200μm)程度の球状粒子に加工されて使用されている。また、球状にすることにより、蓄冷材の強度を上げることができる。
【0011】
一方、Heガスなどの作動媒体との熱交換は、作動媒体と蓄冷材とが接している部分で実行される。高密度焼結体から成る希土類蓄冷材では、蓄冷材表面部のみに作動媒体が接することの利点および素材の比熱ピークが低いことの利点を十分に生かしきれていなかった。
【0012】
このような問題に対応するために、特開2004-75884号公報(特許文献3)には、相対密度が60~85%である多孔質体から成る希土類酸硫化物蓄冷材粒子が開示されている。すなわち、特許文献3では、相対密度を所定の範囲に規定することにより、気孔を有する希土類酸硫化物蓄冷材粒子を実現している。このような構成を有することにより、通気性と強度との両立を図っている。しかしながら、希土類酸硫化物蓄冷材粒子の内部の気孔径まで制御していないことから、通気性の改善効果の向上には限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態に係る希土類蓄冷材粒子は、上記課題を解決するためのものであり、希土類酸化物または希土類酸硫化物から成り、この希土類蓄冷材粒子は焼結体から成り、この焼結体の平均結晶粒径が0.5~5μmであり、気孔率が10~50vol%であり、気孔の平均粒径が0.3~3μmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
実施形態に係る希土類蓄冷材によれば、希土類酸化物または希土類酸硫化物からなる希土類蓄冷材において、この希土類蓄冷材は焼結体から成り、この焼結体の平均結晶粒径、気孔率、気孔の平均粒径を制御しているために、気孔内に作動媒体(Heガス)が触れるため、焼結体内部も熱交換部として使用できる。そのため、冷凍能力を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る希土類蓄冷材粒子の一例を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る希土類蓄冷材粒子の任意の断面組織の一例を示す平面図である。
図3】気孔がつながった構造の一例を示す平面図である。
図4】実施形態に係る希土類蓄冷材粒子の一群を示す斜視図である。
図5】実施形態に係る冷凍機の第2冷却ステージの一例を示す断面図である。
図6】実施形態に係る冷凍機の第2冷却ステージの他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態の希土類蓄冷材粒子は、希土類酸化物または希土類酸硫化物から成る希土類蓄冷材粒子において、この希土類蓄冷材粒子は焼結体から成り、この焼結体の平均結晶粒径が0.5~5μmであり、気孔率が10~50vol%であり、気孔の平均径が0.3~3μmであることを特徴とするものである。
【0017】
図1に希土類蓄冷材粒子の一例を示す。図1中、1は希土類蓄冷材粒子である。希土類蓄冷材はアスペクト比が2以下、さらには1.5以下の球体形状であることが好ましい。
【0018】
また、図2に希土類蓄冷材粒子の任意の断面の一例を示す。図2中、2は希土類化合物結晶粒子、3は気孔であり、4は気孔がつながった構造である。希土類化合物結晶粒子は希土類酸化物または希土類酸硫化物である。図4は希土類蓄冷材粒子1の一群を示す斜視図である。
【0019】
上記希土類酸化物としては、希土類アルミニウム酸化物などの複合酸化物が挙げられる。また、ガドリニウムアルミニウム酸化物、特にGdAlOであることが好ましい。また、希土類酸硫化物は、ガドリニウム酸硫化物、特にGdSであることが好ましい。また、必要に応じ、希土類酸化物また希土類酸硫化物に焼結助剤を添加しても良い。
【0020】
また、希土類酸化物または希土類酸硫化物から成る希土類蓄冷材粒子は焼結体で構成される。ここで、焼結体とは原料粉末を成形、加熱して固めたものである。また、原料粉末は、希土類酸化物または希土類酸硫化物から成る主原料粉末、必要に応じ焼結助剤粉末を混合したものになる。希土類酸化物または希土類酸硫化物から成る希土類蓄冷材粒子は、HoCuなどの金属間化合物を主体とする希土類蓄冷材のように原料を溶解して作製することが困難である。そのため、加熱して焼結体とすることが有効である。
【0021】
また、粒子を構成する焼結体において、平均結晶粒径は0.5~5μmである。この平均結晶粒径が0.5μm未満の場合では、結晶粒子が過少であるために、気孔率の制御が困難である。一方、平均結晶粒径が5μmを超えて過大であると、希土類蓄冷材の強度が低下する。
【0022】
また、上記平均結晶粒径の測定方法は、以下の通りである。すなわち、希土類蓄冷材粒子の任意の断面において単位面積10μm×10μmの拡大写真を撮る。拡大写真は倍率が2000倍以上のSEM写真とする。そして、拡大写真に写る希土類酸化物または希土類酸硫化物の結晶粒子の最も長い対角線を長径として測定する。結晶粒子100粒の長径の平均値を平均結晶粒径とする。
【0023】
また、希土類蓄冷材粒子の気孔率は10~50vol%の範囲に規定される。この気孔率が10vol%未満の場合では気孔を設ける効果が十分でない一方、50vol%を超えて過大になると蓄冷材粒子の強度が低下する。そして、この気孔率を10~50vol%とすることにより、焼結体から成る希土類蓄冷材粒子の内部にも作動媒体(Heガス)が接触するので蓄冷効果が向上する。また、気孔率は20~45vol%であることが好ましい。
【0024】
また、気孔の平均径が0.3~3μmであることが好ましい。気孔の平均径が0.3μm未満と過少な場合には、希土類蓄冷材粒子内部に冷却媒体ガス(Heガス)が入り込み難くなる。また、気孔の平均径が3μmを超えて過大になると蓄冷材粒子の強度が低下する。
【0025】
また、気孔の最大径が4μm以下であることが好ましい。気孔の最大径が4μmを超えて過大になると蓄冷材粒子の強度が低下するおそれがある。そのため、好ましくは気孔の最大径は4μm以下、さらには2μm以下が好ましい。なお、気孔の最大径の最小径は特に限定されるものではないが0.5μm以上であることが好ましい。つまり、気孔の最大径は0.5~4μmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、希土類蓄冷材粒子の任意の断面において、単位面積10μm×10μm当りの気孔の数が20~70個であることが好ましい。気孔の数が20個未満と過少な場合には蓄冷効果が小さい。一方、気孔が70個を越える過多の場合には、蓄冷材粒子の強度が低下するおそれがある。特に、気孔の最大径4μm以下のものを単位面積10μm×10μm当り20~70個に制限することが好ましい。さらには30~60個の範囲内であることが好ましい。
【0027】
また、希土類蓄冷材粒子の任意の断面において、単位面積10μm×10μm当りに存在する気孔の一部は繋がった構造となっていることが好ましい。図2には、気孔が繋がった構造4を例示している。任意の断面において単位面積10μm×10μm当りの微小領域において、気孔が繋がった構造を有することにより、希土類蓄冷材粒子の内部の通気性を向上させることができる。
【0028】
また、図3には、気孔が繋がった構造の一例を示した。図3(a)は気孔が2個つながった構造を示す一方、図3(b)は気孔が3個繋がった構造を例示するものである。実施形態に係る希土類蓄冷材粒子は、このような構造に限らず、気孔が4個以上繋がった構造であってもよい。図3に示したように、気孔が繋がった構造となると、円形(楕円含む)が繋がった形状となる。
【0029】
上記気孔の平均径、気孔の最大径、気孔の個数、気孔が繋がった構造の測定方法は次の通りである。まず、希土類蓄冷材粒子の任意の断面において単位面積10μm×10μmの拡大写真を撮る。拡大写真は、倍率が2000倍以上のSEM写真とする。また、気孔が観察し易いように二次電子像を用いるものとする。SEM写真の二次電子像では気孔は黒色で映し出される。二次電子像で観察される気孔の最も長い対角線を気孔の最大径とする。また、単位面積10μm×10μmに写る気孔の最大径の平均値をとる。また、単位面積10μm×10μmに写る気孔の数を集計する。ここで気孔が繋がった構造を有する部分に関しては、繋がった構造を一つの気孔としてカウントする。この作業を単位面積(10μm×10μm)の5箇所で実施する。この中で最も長い対角線を気孔の最大径とする。また、気孔の平均径および気孔の数は、それぞれ5箇所の平均値として求めるものとする。
【0030】
上記のように平均結晶粒径、気孔の体積割合、気孔の平均粒径、気孔の最大径を制御することにより、焼結体から成る希土類蓄冷材粒子の機械的強度を維持した上で、蓄冷効果を十分に向上させることができる。特に希土類蓄冷材粒子の内部の微小領域(単位面積10μm×10μm)にて気孔の数、サイズなどを制御しているため、蓄冷特性を向上させることができる。
【0031】
また、希土類蓄冷材粒子は、平均粒径が100~500μmであることが好ましい。平均粒径を100~500μmの範囲とすることにより、冷凍機の冷却ステージ内での蓄冷材粒子の充填率を55~70%の範囲に向上させることができる。また、充填率を向上させるためには、粒子の平均粒径を150~300μmに規定することが好ましい。
【0032】
また、希土類蓄冷材粒子群を構成する蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をLとし、前記投影像の実面積をAとしたとき、前記希土類蓄冷材粒子群はL/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える希土類蓄冷材粒子の比率が5%以下であることが好ましい。すなわち、各希土類蓄冷材粒子を実質的に球体に近い形状とすることにより、充填率を向上し、希土類蓄冷材粒子同士の隙間に作動媒体ガス(Heガス)の通り道(通路)を形成することができる。
【0033】
実施形態に係る希土類蓄冷材粒子は、冷凍機に有効である。特に10K以下の極低温領域を得るための冷凍機に有効である。希土類蓄冷材粒子を冷凍機の蓄冷容器に充填する。蓄冷容器に充填する際は、実施形態に係る希土類蓄冷材粒子を多数具備した希土類蓄冷材粒子群とする。希土類蓄冷材粒子群は、実施形態に係る希土類蓄冷材粒子を50質量%以上100質量%以下具備するものが好ましい。
【0034】
図5および図6に希土類蓄冷材粒子群を冷凍機の蓄冷容器に充填して使用した一例を示す。図5および図6中、符号1-1は第一の蓄冷材粒子群であり、1-2は第二の蓄冷材粒子群であり、1-3は第三の蓄冷材粒子群であり、5は蓄冷容器であり、6は金属メッシュである。
【0035】
冷凍機としては、GM型冷凍機、スターリング型冷凍機、パルス型冷凍機など様々なタイプがある。いずれの場合も、10K以下、さらには4K以下の極低温を達成することができる。極低温を得るには、第1冷却ステージ、第2冷却ステージと呼ばれる蓄冷容器の中に蓄冷材を充填することが必要である。また、必要に応じ、第3冷却ステージを設けても良い。
【0036】
図5では冷凍容器(蓄冷容器)の第2冷却ステージ内を2つの充填層に分けている。また、図6では第2冷却ステージ内を3つの充填層に分けている。それぞれの領域に蓄冷材粒子群を充填する。また、各蓄冷材粒子群の上下は金属メッシュが配置され、金属メッシュは通気性を維持しながら各蓄冷材粒子群を保持している。蓄冷材粒子群は、第1冷却ステージから第2冷却ステージ、第3冷却ステージに行くに従って、比熱のピークが低い蓄冷材粒子群を使用するものとする。
【0037】
また、金属メッシュ6としては銅(Cu)メッシュが好ましい。銅は比熱のピークが低いことから蓄冷材としての効果もある。また、銅メッシュは複数を重ねて用いても良い。また、メッシュ径は蓄冷材粒子群が通り抜けしないサイズとする。
【0038】
図5は、第2冷却ステージ内を、金属メッシュを介して複数の充填層を形成し、第一の蓄冷材粒子群1-1を充填する充填層と、第二の蓄冷材粒子群1-2を充填する充填層とを設ける2層タイプである。
【0039】
また、図6は、第一の蓄冷材粒子群1-1を充填する充填層と、第二の蓄冷材粒子群1-2を充填する充填層と、第三の蓄冷材粒子群1-3を充填する充填層とを設ける3層タイプである。もちろん、1層タイプや4層タイプなどであってもよい。
【0040】
第2冷却ステージを複数の充填層に分ける場合、少なくとも一つの充填層に実施形態に係る希土類蓄冷材粒子群を用いるものとする。例えば、2層タイプの場合、第一の蓄冷材粒子群にHoCu粒子群、第二の蓄冷材粒子群に実施形態に係る希土類蓄冷材粒子群(例えば、GdS粒子群)を使用する組合せなどが挙げられる。また、3層タイプの場合、第一の蓄冷材粒子群として鉛蓄冷材粒子群を使用し、第二の蓄冷材粒子群としてHoCu粒子群を使用し、第三の蓄冷材粒子群として実施形態に係る希土類蓄冷材粒子群(例えば、GdS粒子群)を使用する組合せなどが挙げられる。蓄冷材の組合せは、比熱のピーク温度が高い方を第一の蓄冷材粒子群とし、比熱のピーク温度が低い方を第二の蓄冷材粒子群とし、比熱のピーク温度が順次低くなるように組み合わせていくものとする。
【0041】
また、金属メッシュで蓄冷容器内を区分けする場合、各充填層に蓄冷材粒子群を充填し、金属メッシュで押圧して、できるだけ金属メッシュと蓄冷材粒子群との隙間が開かないように充填されることが好ましい。金属メッシュと蓄冷材粒子群との隙間が開いていると、冷凍機の稼働時の振動やヘリウムガスの圧力などによって蓄冷材が充填層内で移動し、蓄冷材が破壊してしまうおそれがある。
【0042】
次に、実施形態に係る希土類蓄冷材粒子の製造方法について説明する。実施形態に係る希土類蓄冷材粒子は上記構成を有する限り、その製造方法は特に限定されるものではないが、効率良く得るための方法として次の方法が挙げられる。
【0043】
まず、希土類蓄冷材粒子の原料となる希土類化合物粉末を用意する。例えば、GdAlO蓄冷材を製造する場合は、GdAlO粉末を用意する。また、GdS蓄冷材を製造する場合は、GdS粉末を用意する。
【0044】
原料となる希土類化合物粉末は平均粒径が0.3~5μmであることが好ましい。平均粒径が0.3μm未満または5μmを超えると、焼結体の平均結晶粒径を0.5~5μmに制御し難い。また、必要に応じ、焼結助剤粉末を添加しても良い。焼結助剤粉末は希土類化合物粉末100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下とするものとする。また、焼結助剤粉末の平均粒径をA(μm)、希土類化合物粉末の平均粒径をB(μm)としたとき、B/Aが0.7~1.3の範囲になるように調整することが好ましい。希土類化合物粉末と焼結助剤粉末との平均粒径に差が過大であると焼結体中の気孔の平均径の制御が困難になる。
【0045】
次に、成型工程を実施する。成型工程は、特許文献2[0055]段落に記載があるような転動造粒工程を使用する方法が好ましい。転動造粒工程を実施するにあたり、樹脂バインダを添加する。この樹脂バインダの添加量は、希土類化合物粉末と樹脂バインダとの合計量を100vol%としたときに、樹脂バインダの添加量を10~50vol%になるように添加するものとする。また、焼結助剤粉末を添加する場合は、希土類化合物粉末と、焼結助剤粉末と樹脂バインダとの合計量を100vol%としたとき、樹脂バインダの添加量を10~50vol%になるように添加するものとする。
【0046】
また、樹脂バインダは焼結工程にて消失させるものとする。樹脂バインダの添加量を10~50vol%にすることにより、焼結工程で消失した樹脂バインダが気孔となる。希土類化合物粉末と樹脂バインダとを所定の体積比で混合した後に、十分に攪拌する。希土類化合物粉末と樹脂バインダとを均一に混合した原料ペーストを調製した後に、成型工程を実施する。
【0047】
成型工程は、転動造粒、金型成型などの方法が挙げられる。また、これらの方法を組合せてもよい。成型工程により、球状成形体を得る。球状成形体の平均粒径は100~500μmの範囲であることが好ましい。
【0048】
次に、焼結工程を実施する。焼結工程は、温度1200℃以上2000℃以下で熱処理することが好ましい。焼結工程により、樹脂バインダを消失させる。また、希土類化合物粉末同士を結合させることができる。希土類化合物粉末同士の結合力を上げるには焼結温度を1500℃以上とすることが好ましい。また、焼結時間は1時間以上48時間以下が好ましい。また、焼結工程の雰囲気を加圧雰囲気としても良い。
【0049】
上記焼結温度が2000℃を超えたり、48時間以上と長時間熱処理したりすると、希土類化合物(希土類酸化物または希土類酸硫化物)の結晶粒子が粒成長し過ぎて目的とする平均結晶粒径の範囲が得られないおそれがある。
【0050】
焼結工程により、球状焼結体が得られる。また、得られた球状焼結体に対し、必要に応じ、表面研磨加工を実施する。
【0051】
また、希土類酸化物焼結体から成る希土類蓄冷材粒子の場合、酸素雰囲気中で熱処理を実施することが好ましい。また、希土類酸硫化物焼結体から成る希土類蓄冷材粒子の場合、SOなどの硫黄酸化物を含有する硫黄雰囲気中で熱処理を実施することが好ましい。焼結工程または表面研磨加工により、酸素または硫黄が欠落した部分の回復を行うことができる。その結果、特許文献2にあるように、波長400nm~600nmの光線を照射したときの蓄冷材粒子表面部における反射率を30%以上95%以下にすることができる。特許文献2には、熱処理温度は900~1200℃が好ましいと記載されている。
【0052】
また、本実施形態において、表面研磨加工と熱処理工程は、組合せて実施しても良い。また、必要に応じて、球状焼結体を形状分級するものとする。形状分級はアスペクト比2以下、さらには1.5以下のものを選別して採用することが好ましい。また、形状分級として希土類蓄冷材粒子群を構成する蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をLとし、前記投影像の実面積をAとしたとき、前記希土類蓄冷材粒子群はL/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える希土類蓄冷材粒子の比率が5%以下することも有効である。
【0053】
以上の製造方法であれば、実施形態に係る希土類蓄冷材粒子を効率よく得ることができる。
【0054】
(実施例1)
(実施例1~6および比較例1~4)
希土類酸化物として平均粒径が2μmのガドリニウムアルミニウム酸化物(GdAlO)粉末を用意した。また、希土類酸硫化物として平均粒径が2μmのガドリニウム酸硫化物(GdS)粉末を用意した。それぞれ表1に示す条件で樹脂バインダと混合した。
【0055】
また、樹脂バインダの添加量は、希土類化合物粉末と樹脂バインダ量との合計を100vol%としたときの割合とした。
【0056】
【表1】
【0057】
希土類化合物粉末と樹脂バインダとを混合した原料ペーストを調製した後、転動造粒法により成型工程を実施した。得られた球状成形体を1850℃×2時間の焼結工程を実施した。その後、アスペクト比が1.5以下の球状焼結体を形状分級した。さらに希土類蓄冷材粒子群を構成する蓄冷材粒子個々の投影像の周囲長をLとし、前記投影像の実面積をAとしたとき、前記希土類蓄冷材粒子群はL/4πAで表される形状因子Rが1.5を超える希土類蓄冷材粒子の比率が5%以下となるように形状分級した。
【0058】
これらの工程により実施例および比較例に係る希土類蓄冷材粒子を製造した。なお、それぞれの希土類蓄冷材粒子の平均粒径は250μmとした。
【0059】
実施例および比較例に係る希土類蓄冷材粒子に対して、平均結晶粒径、気孔率、気孔の平均径、気孔の最大径、単位面積10μm×10μm当りの気孔の数を測定した。それぞれの測定は以下のように実施した。任意の断面をSEMにより拡大写真(倍率3000倍)を得る。単位面積10μm×10μmに写る希土類化合物結晶粒子の長径を求める。希土類結晶粒子100個分の長径の平均値を平均結晶粒径とする。また、気孔率、気孔の最大径、気孔の数に関しては、拡大写真の単位面積10μm×10μmに写る気孔の面積率(%)、最も大きい気孔サイズ、気孔の数を求める。この作業を任意の単位面積(10μm×10μm)5箇所について行う。気孔の面積率(%)の5箇所の平均値を気孔率(vol%)とする。また、単位面積(10μm×10μm)5箇所の中で最も大きな気孔サイズを気孔の最大径とする。また、単位面積5箇所の気孔の平均値を気孔の平均径とする。また、単位面積5箇所の気孔の数の平均値を気孔の数とした。それらの測定結果を下記表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
各実施例に係る希土類蓄冷材粒子は、それぞれのパラメータが望ましい範囲であった。それに対し、比較例1は気孔率が低かった。また、比較例2は気孔率が高かった。
【0062】
次に冷凍機を用いて冷凍能力を測定した。冷凍機は4Kパルス型冷凍機とした。冷凍機は、第1冷却ステージにCuメッシュ蓄冷材を充填し、第2冷却ステージの第一の蓄冷材粒子群に鉛蓄冷材粒子群、第二の蓄冷材粒子群にHoCu蓄冷材粒子群、第三の蓄冷材粒子群に実施例または比較例に係る希土類蓄冷材粒子群を充填した。また、第2冷却ステージにおいては、金属メッシュとしてのCuメッシュを使用して充填空間を区分けした。
【0063】
また、第2冷却ステージに蓄冷材を充填する際は、振動を加えながら充填し、蓄冷材粒子同士の隙間が不要に拡大しないようにした。また、第2冷却ステージのCuメッシュは、応力4MPaで押し込んで固定した。この充填固定作業後に冷凍機を運転し、1000時間後、20000時間後、30000時間後における冷凍能力を調査した。その調査結果を下記表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
上記表3に示す結果から明らかなように、本実施例に係る冷凍機は冷凍能力の低下が効果的に抑制されていることが判明した。また、3万時間運転後の冷凍機から、それぞれ希土類蓄冷材粒子を取り出し粒子形状の変化を確認したところ、実施例に係る希土類蓄冷材粒子群では破壊された粒子は確認されなかった。
【0066】
一方、比較例2や比較例4のように、気孔率が50vol%を超えた希土類蓄冷材粒子は強度が低く破壊された粒子が確認された。また、比較例1や比較例3のように気孔率が低い蓄冷材粒子は粒子内にHeガスが入り込んでいかないため、冷凍能力が低下した。
【0067】
このため実施例に係る冷凍機は長期信頼性が大幅に向上されていることが判明した。このため、その冷凍機を搭載した超電導磁石、検査装置、クライオポンプなどの各種装置の長期信頼性を大幅に向上させることができる。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…希土類蓄冷材粒子
2…希土類化合物(希土類酸化物または希土類酸硫化物)結晶粒子
3…気孔
4…気孔がつながった構造
5…蓄冷容器
6…金属メッシュ
1-1…第一の蓄冷材粒子群
1-2…第二の蓄冷材粒子群
1-3…第三の蓄冷材粒子群
図1
図2
図3
図4
図5
図6