(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、システム、及び潤滑方法
(51)【国際特許分類】
C10M 171/02 20060101AFI20220412BHJP
C10M 107/50 20060101ALI20220412BHJP
C10M 105/06 20060101ALI20220412BHJP
C10M 105/70 20060101ALI20220412BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220412BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M107/50
C10M105/06
C10M105/70
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:14
(21)【出願番号】P 2017072505
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2019-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】原山 貴登
(72)【発明者】
【氏名】田村 和志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕輝
(72)【発明者】
【氏名】宮地 智巳
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-041476(JP,A)
【文献】特開平09-067586(JP,A)
【文献】特開平06-136344(JP,A)
【文献】特開平08-253788(JP,A)
【文献】特開2000-001694(JP,A)
【文献】特許第3020160(JP,B2)
【文献】特開2005-139398(JP,A)
【文献】特開昭58-187492(JP,A)
【文献】特開2004-301029(JP,A)
【文献】特表平06-500379(JP,A)
【文献】特開2015-036412(JP,A)
【文献】特開平07-082582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃で、1kV/mmの電場を印加した際のせん断粘度V
1と、当該電場を印加する前のせん断粘度V
0とのせん断粘度比〔V
1/V
0〕が2.0以上となる基材流体を含む、内燃機関のリング・ライナー間の摩擦を低減するための潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基材流体の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、30質量%以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記基材流体が、ER流体を含む、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いた、システム。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いる、潤滑方法。
【請求項6】
25℃で、1kV/mmの電場を印加した際のせん断粘度V
1と、当該電場を印加する前のせん断粘度V
0とのせん断粘度比〔V
1/V
0〕が2.0以上となる基材流体を含み、
前記基材流体が、式(i)もしくは式(a-5)から式(a-8)で表される、いずれかの化合物である、
内燃機関用の潤滑油組成物。
【化1】
(式中、m、nは、それぞれ独立に、1~100である。)
【化2】
(式(a-5)~(a-8)中、R
A、R
B、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~15の直鎖または分岐鎖のアルキル基、炭素数2~15の直鎖または分岐鎖のアルケニル基、炭素数1~15の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子であり、pは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、qは、それぞれ独立に、0~8の整数であり、rは、それぞれ独立に、0~2の整数である。また、Lは、単結合、炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、-CH=N-、-N=N-、又は-C(=O)-O-である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、並びに、当該潤滑油組成物を用いたシステム及び潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な分野において、摩擦低減効果の高い潤滑油組成物が求められている。例えば、自動車が搭載するエンジンに用いられる潤滑油組成物には、摩擦係数をより低減させ、省燃費性の向上が求められている。
一般的に、摩擦低減効果の高い潤滑油組成物とするために、モリブデン系化合物等の摩擦調整剤が使用される場合が多い。
例えば、特許文献1には、潤滑油基油に、ポリメタクレート系粘度指数向上剤及びサリシレート系清浄剤と共に、有機モリブデン化合物を所定量含有した潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的な潤滑油組成物は、粘度を低くすることにより、ストライベック曲線で表されるように、流体潤滑領域では摩擦係数は低くなる一方で、粘度を低くし過ぎると境界潤滑領域に移行して、固体接触することで摩擦係数が増加することが知られている。
これまで、潤滑油組成物の低粘度化によって、流体潤滑領域での摩擦係数の低減が図られてきた。しかしながら、潤滑油組成物を低粘度化し過ぎると、摺動速度の低速時や高面圧の条件では油膜が薄くなり、境界潤滑領域へ移行し、摩擦係数が増加して、油膜が維持できず摩耗の問題が生じる恐れがある。
【0005】
このような問題を防止するために、特許文献1に開示されたように、モリブデン系化合物等の添加剤を配合し、境界潤滑領域へ移行しても金属表面に平滑な反応被膜が形成されることで、摩擦係数を低減し、耐摩耗性を調整することが行われている。
ただし、モリブデン系化合物等の添加剤を配合せずとも、潤滑油組成物の粘度を状況に応じて適宜変化させることができれば、境界潤滑領域への移行を阻止して、流体潤滑領域内で最適な粘度で摺動できるため、前記添加剤を配合した際と同程度の摩擦低減効果が得られることが期待される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、摺動条件に対して最適な粘度に適宜変化させ、境界潤滑領域への移行を阻止し、流体潤滑領域に留めることにより、優れた摩擦低減効果を継続的に発現し得る潤滑油組成物、並びに、当該潤滑油組成物を用いたシステム及び潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、1kV/mmの電場を印加した前後でのせん断粘度比が所定値以上となる基材流体を含む潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見い出した。
すなわち本発明は、下記[1]~[3]を提供する。
[1]25℃で、1kV/mmの電場を印加した際のせん断粘度V1と、当該電場を印加する前のせん断粘度V0とのせん断粘度比〔V1/V0〕が2.0以上となる基材流体を含む、潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いた、システム。
[3]上記[1]に記載の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いる、潤滑方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、摺動条件に対して最適な粘度に適宜変化させ、境界潤滑領域への移行を阻止し、流体潤滑領域に留めることにより、優れた摩擦低減効果を継続的に発現させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、25℃で、1kV/mmの電場を印加した際のせん断粘度V1と、当該電場を印加する前のせん断粘度V0とのせん断粘度比〔V1/V0〕が2.0以上となる基材流体を含む。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0010】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、前記基材流体の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0011】
<基材流体>
本発明の潤滑油組成物に含まれる基材流体は、25℃で、1kV/mmの電場を印加した際のせん断粘度V1と、当該電場を印加する前のせん断粘度V0とのせん断粘度比〔V1/V0〕が2.0以上となる。
本発明で用いる基材流体は、1kV/mmの電場を印加することでせん断粘度が増加する流体である。
【0012】
例えば、ピストン・リングライナー間の摩擦を低減するためには、まず、ピストンが動く中間領域の粘度を低くすればよい。このような中間領域では、潤滑油組成物の粘度を低くしても摩耗による心配が少ない。一方で、上下運動をするピストンの上下限となる死点付近では、ピストンの速度が低下するため、潤滑油組成物の粘度を低くし過ぎると、油膜が保持できず、摩耗の恐れがある。
それに対して、本発明の潤滑油組成物は、電場の印加の有無によって粘度が変化する基材流体を含むため、ピストンが動く中間領域では粘度を低くして摩擦を低減し、一方で、死点付近では、電場を印加することで粘度を高くし、油膜を保持させ、耐摩耗性の低下を抑えることができる。
【0013】
そして、本発明者らの検討によれば、前記せん断粘度比〔V1/V0〕が2.0以上となる基材流体を用いた潤滑油組成物であれば、電場を印加することで、摺動条件に対して最適な粘度に適宜変化させ、境界潤滑領域への移行を阻止し、流体潤滑領域に留めるように調整することができることが分かった。
その結果、本発明の潤滑油組成物を用いることで、油膜厚さを一定以上に保持し、流体潤滑領域内に留まるような最適な粘度で摺動することができるため、優れた摩擦低減効果を継続的に発現させることができる。
【0014】
なお、前記せん断粘度比〔V1/V0〕が2.0未満の基材流体を用いた潤滑油組成物は、電場の印加前後の粘度変化が小さいため、境界潤滑領域への移行を阻止することが難しく、摩擦低減効果が低い。
本発明で用いる基材流体のせん断粘度比〔V1/V0〕は、2.0以上であるが、上記観点から、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.3以上、更に好ましくは3.0以上、より更に好ましくは4.0以上、特に好ましくは4.3以上である。
また、せん断安定性を良好とする観点から、本発明で用いる基材流体のせん断粘度比〔V1/V0〕は、好ましくは15.0以下、より好ましくは12.0以下、更に好ましくは10.0以下、より更に好ましくは8.0以下である。
【0015】
本発明の一態様において、電場を印加する前の25℃での基材流体のせん断粘度V0としては、好ましくは0.005~8.00mPa・s、より好ましくは0.010~6.00mPa・s、更に好ましくは0.015~5.00mPa・s、より更に好ましくは0.020~4.00mPa・sである。
【0016】
本発明の一態様において、1kV/mmの電場を印加した際の25℃での基材流体のせん断粘度V1としては、好ましくは0.01~15.00mPa・s、より好ましくは0.02~12.00mPa・s、更に好ましくは0.03~10.00mPa・s、より更に好ましくは0.05~8.00mPa・sである。
【0017】
本発明の一態様で用いる基材流体としては、前記せん断粘度比〔V1/V0〕の調整の観点から、ER流体(電気粘性流体)を含むことが好ましい。
前記ER流体の含有量としては、前記基材流体の全量(100質量%)基準で、好ましくは30~100質量%、より好ましくは40~100質量%、更に好ましくは50~100質量%、より更に好ましくは60~100質量%である。
【0018】
本発明の一態様で用いるER流体としては、分散型ER流体であってもよく、均一型ER流体であってもよい。
分散型ER流体としては、微粒子を電気絶縁性液体に分散させた流体が挙げられる。
当該微粒子としては、例えば、シリカ、イオン交換樹脂、ポリアクリル酸の金属塩等の含水微粒子、アルミニウム、炭素質粉末等の導電性微粒子、ポリアニリン、ポリアセンキノリン等の有機半導体微粒子、ゼオライト等が挙げられる。
本発明で用いるER流体は、電場の印加によりその粘性が可逆的に変化する流体を指し、例えば、イオン交換樹脂粒子、ゼオライト粒子、有機半導体粒子、表面を絶縁化した導電体粒子、液晶ポリマー粒子等を電気絶縁性液体に分散させた粒子系電気粘性流体や、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の極性液体、強誘電性ポリマー溶液等を電気絶縁性液体に含有させた液体が挙げられる。
【0019】
均一型ER流体としては、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の極性液体、液晶性化合物、強誘電性ポリマー溶液等を電気絶縁性液体に含有させた流体が挙げられ、液晶性化合物が好ましい。
液晶性化合物としては、液晶性を有する化合物であり、液晶分子の配向によりネマティック相、スメクティック相、コレステリック相、ディスコティック相等に分類される化合物である。
【0020】
具体的な液晶性化合物としては、例えば、ビフェニル系化合物、フェニルシクロヘキサン系化合物、ビフェニルシクロヘキサン系化合物、ピリミジン系化合物、フェニルビシクロヘキサン系化合物、フェニルエステル系化合物、安息香酸フェニルエステル系化合物、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル系化合物、フェニルピリミジン系化合物、フェニルジオキサン系化合物、アルケニル系化合物、トラン系化合物、シクロヘキセン系化合物、アジン系化合物、ジアルケニルアジン系化合物、デカヒドロナフタレン系化合物、テトラヒドロナフタレン系化合物、ナフタレン系化合物、縮合環系化合物等が挙げられる。
【0021】
本発明の一態様で用いるER流体としては、前記せん断粘度比〔V1/V0〕の調整の観点から、下記一般式(a-1)~(a-8)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0022】
【0023】
上記一般式(a-1)~(a-8)中、RA、RB、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シアノ基、又はハロゲン原子である。
RA、RB、Rとして選択し得る、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基は、それぞれ独立に、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。
また、アルキル基、アルケニル基、及びアルコキシ基の炭素数としては、それぞれ独立に、好ましくは1~15、より好ましくは1~12、更に好ましくは1~8、より更に好ましくは1~6である。
pは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0~1の整数である。
qは、それぞれ独立に、0~8の整数であり、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0~1の整数である。
rは、それぞれ独立に、0~2の整数である。
【0024】
Lは、単結合、アルキレン基、-CH=N-、-N=N-、又は-C(=O)-O-である。
なお、Lとして選択し得る、アルキレン基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。
また、Lとして選択し得る、アルキレン基の炭素数としては、好ましくは1~12、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~4、より更に好ましくは1~2である。
【0025】
本発明の一態様で用いるER流体としては、前記せん断粘度比〔V1/V0〕の調整の観点から、下記一般式(b-1)で表される化合物も好ましい。
【0026】
【0027】
上記一般式(b-1)中、RA、R、L、及びpは、上記一般式(a-1)と同じであり、好適な官能基や数値範囲も同じである。
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基(-CH2CH2O-)であることが好ましい。
xは0以上の整数であり、好ましくは0~10の整数、より好ましくは1~3の整数である。
m、nは、それぞれ独立に、1以上の数であり、好ましくは1~100、より好ましくは1~60、更に好ましくは1~40である。なお、m、nが異なる化合物の混合物である場合には、m、nの平均値が当該範囲に属していればよい。
【0028】
なお、ER流体と共に、シリコーン系オイル、塩化パラフィン等のハロゲン化パラフィン、塩化ジフェニル、セバシン酸ブチル、トランスオイル等の電気絶縁性液体を加えてもよい。
これらの電気絶縁性液体の中でも、シリコーン系オイルが好ましい。
特に、ER流体として、前記一般式(b-1)で表される化合物を含有する場合には、前記一般式(b-1)中のnが0となるシリコーン系化合物からなるシリコーン系オイルも含有することが好ましい。
【0029】
前記電気絶縁性液体の含有量としては、前記基材流体の全量(100質量%)基準で、好ましくは0~70質量%、より好ましくは0~60質量%、更に好ましくは0~50質量%、より更に好ましくは0~40質量%である。
【0030】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、用途に応じて適宜選択されるが、例えば、酸化防止剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらの潤滑油用添加剤の各含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~8質量%である。
【0032】
〔潤滑油組成物の性状、用途〕
本発明の潤滑油組成物は、摺動速度が増減したり、面圧が増減するような環境下で使用しても、摺動条件に対して最適な粘度に適宜調整可能であり、境界潤滑領域への移行を阻止し、流体潤滑領域に留めることにより、優れた摩擦低減効果を継続的に発現させ得る。
そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、継続的に摩擦低減効果が求められる用途に好適であり、特に、自動車、電車、航空機等の車両等に使用される内燃機関用潤滑油組成物(内燃機関用エンジンオイル)に適している。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物は、他にも、パワーステアリングオイル、自動変速機油(ATF)、無段変速機油(CVTF)、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受け油、転がり軸受け油等としての用途にも適用し得る。
【0033】
また、本発明は、下記[1]に示すシステム及び下記[2]に示す潤滑方法も提供する。
[1]本発明の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いた、システム。
[2]本発明の潤滑油組成物を、電場を印加可能な摺動部分に用いる、潤滑方法。
上記[1]に記載のシステム、及び上記[2]に記載の潤滑方法において、印加する電場としては、好ましくは0.5~10kV/mm、より好ましくは0.75~7.5kV/mm、更に好ましくは1~5kV/mmである。
【0034】
本発明の潤滑油組成物は、1kV/mmの電場を印加した前後で、せん断粘度比〔V1/V0〕が2.0以上となる基材流体を含む。そのため、本発明の当該潤滑油組成物を用いたシステム及び潤滑方法では、摺動部分での油膜が薄くなったとしても、摺動部分に電場を印加することで、油膜厚さを保持することができ、摩耗抑制することが可能となる。また、摩耗し難い摺動速度においては、電場を印加せずに粘度を低下させることにより、摩擦を低減することが可能となる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
下記に示す3種の化合物を以下の配合量で配合した基材流体を試料油(I)とした。
・下記一般式(i)中のm=20、n=11となるER流体、試料油(I)の全量(100質量%)基準での配合量=45質量%。
・下記一般式(i)中のm=29、n=16.3となるER流体、試料油(I)の全量(100質量%)基準での配合量=22質量%。
・下記一般式(i)中のm=25、n=0となるシリコーン系オイル、試料油(I)の全量(100質量%)基準での配合量=33質量%。
【0037】
【0038】
実施例2
下記一般式(ii)で表される化合物からなる基材流体を試料油(II)とした。
【化4】
【0039】
比較例1
API基油カテゴリーのグループ3に分類され、40℃動粘度が18.4mm2/s、粘度指数232であるパラフィン系鉱油を試料油(III)とした。
【0040】
比較例2
比較例1で使用したパラフィン系鉱油に、モリブデン系摩擦調整剤(MoDTC)をMo原子換算の含有量が組成物全量基準で700ppmになるように配合し、さらに、組成物全量基準で下記の配合量となるように、下記の添加剤を配合し、試料油(IV)を調製した。
・流動点降下剤:0.2質量%
・分散剤:2.2質量%
・耐摩耗剤:0.3質量%
・酸化防止剤:0.4質量%
・抗乳化剤:0.2質量%
・消泡剤:0.1質量%
・JASO DH2規格に適合する添加剤パッケージ:12.0質量%
【0041】
上記の試料油(I)~(IV)について、以下の物性値を測定又は算出した。これらの結果を表1に示す。
(1)せん断粘度
各試料油(I)~(IV)について、せん断粘度V0は下記の条件で測定した。
・装置:MCRレオメーター(Anton Paar社製、製品名「MCR 302」)に電気粘性流体測定セル(Anton Paar社製)を組み合わせたもの。
・治具:試料油(I)に対しては、直径25mmのパラレルプレートを使用。試料油(II)~(IV)に対しては、直径50mmのパラレルプレートを使用。
・温度:25℃
・せん断速度:1000s-1
・ギャップ:0.2mm
・電場:0kV
そして、各試料油(I)~(IV)に1kV/mmの電場を印加した以外は、上記と同じ条件にて、せん断粘度V1(mPa・s)も測定し、せん断粘度比〔V1/V0〕を算出した。
なお、電場を印加した状態でのせん断粘度V1は、上記のMCRレオメータに電気粘性流体測定セルを組み合わせた装置を用いることで測定することができる。
【0042】
(2)リング・ライナー間の摩擦損失比、摩擦損失の低減率
試料油(I)、(II)及び(III)については、SAE International 2013-01-2567(2013/10/14)に記載されている式(11)「E=0.84×η0.30×ν0.19(E:摩擦エネルギー、η:せん断粘度(単位mPa・s)、ν:回転数(単位rps))」を用いて、上述の方法で測定したせん断粘度とせん断速度から、電場を印加する前後での摩擦エネルギーを算出した。
また、試料油(IV)については、浮動ライナー試験機を用いて温度60℃、回転数1200rpmのときの摩擦力を算出し、SAE International 2013-01-2567(2013/10/14)に記載されている方法にて、電場を印加する前後での摩擦エネルギーを算出した。
【0043】
ここで算出された電場を印加しない状態での摩擦エネルギーをE0、電場を印加した状態での摩擦エネルギーをE1としたとき、リング・ライナー間の摩擦損失比は下記式で表せる。
[摩擦損失比]=E0/E1
そして、得られた摩擦損失比から、電場の印加に因る摩擦損失の低減率を算出した。
[摩擦損失の低減率(%)]=(1-[摩擦損失比])×100
【0044】
(3)摩擦係数
HFRR試験機(PCS Instruments社製)を用い、下記の条件にて、25℃及び80℃における、各試料油(I)~(IV)の摩擦係数を測定した。
・テストピース:(A)ボール=HFRR標準テストピース(AISI 52100材)、(B)ディスク=HFRR標準テストピース(AISI 52100材)
・振幅:1.0mm
・周波数:50Hz(速度:0.16m/s)
・荷重:200g
・温度:25℃又は80℃
【0045】
【0046】
表1より、実施例1及び2の試料油(I)及び(II)は、比較例1のパラフィン系鉱油のみからなる試料油(III)に比べて、摩擦低減効果が高く、比較例2のモリブデン系摩擦を加えた試料油(IV)と同等以上の摩擦低減効果を有することがわかる。