(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】自動車用ギヤ油組成物、及び潤滑方法
(51)【国際特許分類】
C10M 141/10 20060101AFI20220412BHJP
C10M 135/04 20060101ALN20220412BHJP
C10M 137/08 20060101ALN20220412BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/06 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220412BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220412BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220412BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220412BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M135/04
C10M137/08
C10M137/02
C10N40:30
C10N40:25
C10N40:22
C10N40:12
C10N40:08
C10N40:06
C10N40:04
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N20:02
(21)【出願番号】P 2017192827
(22)【出願日】2017-10-02
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 猛
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-032195(JP,A)
【文献】特開平06-200274(JP,A)
【文献】特開2007-039480(JP,A)
【文献】特開平11-323371(JP,A)
【文献】特開平10-316987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤を含み、以下の条件(i)及び(ii)を満足する
自動車用ギヤ油組成物であって、
前記(C)リン系極圧剤は、酸性リン酸エステルのアミン塩と亜リン酸水素エステルとを含み、前記(C)リン系極圧剤の組成物全量基準の含有量が、0.5質量%以上3質量%以下である、自動車用ギヤ油組成物。
条件(i)(a)×(b)×(c)が、0.08以下である。
条件(ii)[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000が0.20以下である。
(条件(i)及び(ii)において、
(a)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重196N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、
(b)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重392N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、
(c)ASTM D2714-94(2003)に準拠し、ブロックにH-60、リングにS10を用い、油温120℃、回転数1092rpm、荷重100N、試験時間20分で実施したブロックオンリング摩耗試験における試験後のブロックの摩耗幅(mm)、及び
(d)ASTM D2783-03(2014)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、室温下、回転数1800rpmで実施したシェル四球耐荷重性(EP)試験における融着荷重(N)、である。)
【請求項2】
前記条件(i)及び(ii)を満足し、かつ(a)が0.40以下であり、前記(b)が0.55以下であり、前記(c)が0.45以下である請求項1に記載の自動車用ギヤ油組成物。
【請求項3】
前記条件(i)及び(ii)を満足し、かつ前記(d)が3089以上である請求項1又は2に記載の自動車用ギヤ油組成物。
【請求項4】
100℃における動粘度が、5.0mm
2/s以上13.5mm
2/s以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の自動車用ギヤ油組成物。
【請求項5】
(B)硫黄系極圧剤が、硫化オレフィンである請求項1~4のいずれか1項に記載の自動車用ギヤ油組成物。
【請求項6】
デファレンシャルギヤ用である請求項1~
5のいずれか1項に記載の自動車用ギヤ油組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の自動車用ギヤ油組成物を用いる自動車用ギヤの潤滑方法。
【請求項8】
前記自動車用ギヤが、デファレンシャルギヤである請求項
7に記載の自動車用ギヤの潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ギヤ油組成物、及びこれを用いた潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、その他内燃機関に用いられる内燃機関用、歯車装置(以下、「ギヤ」とも称する。)用等の様々な分野で用いられており、潤滑油組成物には、用途に応じた特有の性能が要求される。ギヤ用の潤滑油組成物(以下、「ギヤ油組成物」とも称する。)は、例えば、自動車その他の高速高荷重歯車、一般機械の比較的軽荷重歯車、一般機械の比較的高荷重歯車等の歯車を有する歯車装置(ギヤ)の用途において、歯車の損傷、焼付を防止するために用いられており、歯車の損傷、焼付の防止には、耐焼付性、耐摩耗性といった性能が要求される。自動車用ギヤの中でも、デファレンシャルギヤ用途では、歯車が受ける負荷が非常に高いため、特に高い耐焼付性と耐摩耗性が求められる。また、デファレンシャルギヤでは、ベアリング(軸受)が内蔵されており、該ベアリング(軸受)の摩耗を防止することが耐久性を確保する上で重要となる。
【0003】
近年、自動車用ギヤ用途では、これらの性能に加えて省燃費性の向上も求められている。ギヤ油組成物の粘度を下げることにより粘性抵抗を減らし、省燃費性を向上することができるが、一方、油膜切れが生じやすくなるため、歯車及びベアリングの焼付、摩耗等の新たな問題を発生させる原因となる。このように、耐焼付性、耐摩耗性といったギヤ油組成物に従来から求められてきた性能と、省燃費性の向上とは相反する性能であり、これらの性能を両立することは極めて困難であるため、更なる技術開発が求められている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ギヤ油組成物の粘度を下げることにより粘性抵抗を減らし、省燃費性の向上を図る潤滑油として、例えば、潤滑粘度の油、分散剤、及びリン化合物を含む潤滑剤組成物(特許文献1参照)、また所定の炭化水素系合成油を基油として、極圧剤等の添加剤を配合したギヤ油組成物(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらの組成物について、特にデファレンシャルギヤ用途で求められる厳しい耐焼付性と耐摩耗性について検討されておらず、近年のより厳しい要求性能に対応できているとは言い難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mori,T.,Suemitsu,M.,Umamori,N.,Sato,T.,Ogano,S.,Ueno,K.,Kuno,O.,Hiraga,K.,Yuasa,K.,Shibata,S.,Ishikawa,S.,SAE International Journal of Fuels and Lubricants,Novemver 2016,第9巻,第3号
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-520085号公報
【文献】特開2007-039430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐焼付性及び耐摩耗性とともに、省燃費性に優れる自動車用ギヤ油組成物、これを用いた潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する自動車用ギヤ油組成物、これを用いた潤滑方法を提供するものである。
【0009】
1.少なくとも、(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤を含み、以下の条件(i)及び(ii)を満足する自動車用ギヤ油組成物。
条件(i)(a)×(b)×(c)が、0.08以下である。
条件(ii)[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000が0.20以下である。
(条件(i)及び(ii)において、
(a)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重196N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、
(b)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重392N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、
(c)ASTM D2714-94(2003)に準拠し、ブロックにH-60、リングにS10を用い、油温120℃、回転数1092rpm、荷重100N、試験時間20分で実施したブロックオンリング摩耗試験における試験後のブロックの摩耗幅(mm)、及び
(d)ASTM D2783-03(2014)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、室温下、回転数1800rpmで実施したシェル四球耐荷重性(EP)試験における融着荷重(N)、である。)
2.上記1に記載の自動車用ギヤ油組成物を用いる潤滑方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐焼付性及び耐摩耗性とともに、省燃費性に優れる自動車用ギヤ油組成物、これを用いた潤滑方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することもある)について説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」等に係る数値は任意に組み合わせできる数値である。
【0012】
〔自動車用ギヤ油組成物〕
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、少なくとも、(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤を含み、各種摩耗試験及び耐荷重性試験における測定値(a)~(d)を用いた、以下の二つの条件(i)及び(ii)を満足するものである。
条件(i)(a)×(b)×(c)が、0.08以下である。
条件(ii)[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000が0.20以下である。
【0013】
<条件(i)>
条件(i)は、(a)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重196N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、(b)ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重392N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)、及び(c)ASTM D2714-94(2003)に準拠し、ブロックにH-60、リングにS10を用い、油温120℃、回転数1092rpm、荷重100N、試験時間20分で実施したブロックオンリング摩耗試験における試験後のブロックの摩耗幅(mm)、としたときに、これらの積(a)×(b)×(c)が0.08以下である、という条件である。
デファレンシャルギヤ等の自動車用ギヤは、歯車装置と玉軸受、円錐ころ軸受等の軸受等で構成されており、様々な面圧、すべり速度条件の接触状態にある接触部を有しており、接触状態の相違により性質の異なる潤滑性能が同時に求められることになる。本実施形態においては、上記(a)、(b)及び(c)により、自動車用ギヤに求められる面圧、すべり速度領域での耐摩耗性を指標として加味することで、自動車用ギヤの様々な接触状態にある接触部における耐摩耗性を優れたものとすることができる。
【0014】
本実施形態においては、条件(i)の(a)×(b)×(c)は0.08以下であることを要する。0.08より大きくなると、耐摩耗性が得られない。より優れた耐摩耗性を得る観点から、(a)×(b)×(c)は、好ましくは0.07以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.06以下である。また、(a)×(b)×(c)は小さければ小さいほど好ましいが、下限値としては通常0.01以上である。
【0015】
上記条件(i)中、(a)、(b)及び(c)は、条件(i)及び(ii)を満足しつつ、以下の数値範囲より選定することが好ましい。
(a)は、より優れた耐摩耗性、特に円錐ころ軸受の転動面等の線(又は点)接触部におけるすべり速度、面圧を想定した耐摩耗性を得る観点から、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.39以下、更に好ましくは0.38以下であり、下限値としては小さければ小さいほど好ましいが、通常0.10以上である。(b)は、上記(a)と同様の観点から、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.45以下であり、下限値としては小さければ小さいほど好ましいが、通常0.10以上である。また、(c)は、
より優れた耐摩耗性、特に円錐ころ軸受の端面等の面接触部におけるすべり速度、面圧を想定した耐摩耗性を得る観点から、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.43以下、更に好ましくは0.40以下であり、下限値としては小さければ小さいほど好ましいが、通常0.10以上である。
【0016】
<条件(ii)>
条件(ii)は、上記条件(i)における(a)、(b)及び(c)に加えて、(d)ASTM D2783-03(2014)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、室温下、回転数1800rpmで実施したシェル四球耐荷重性(EP)試験における融着荷重(N)としたときに、[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000が0.20以下である、という条件である。
デファレンシャルギヤ等の自動車用ギヤは、多種の部品が組み合わせて用いられており、上記の円錐ころ軸受の転動面のような線(又は点)接触部、円錐ころ軸受の端面のような面接触部の他、ハイポイドギヤの歯車等の噛み合せ部分のような接触部も有している。このような歯車の噛み合せ部分のような接触部においては、耐摩耗性の他、耐焼付性も求められることになる。本実施形態においては、条件(ii)により、上記(a)~(c)の耐摩耗性の指標に加えて、上記(d)によるシェル四球耐荷重性(EP)試験における融着荷重(N)をハイポイドギヤの歯車等の噛み合せ部分のような接触部における耐焼付性の指標として加味することで、線(又は点)接触部、面接触部における耐摩耗性とともに、歯車の噛み合せ部分のような接触部における耐焼付性を優れたものとすることができる。
【0017】
本実施形態においては、条件(ii)の[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000は0.20以下であることを要する。0.20より大きくなると、耐焼付性及び耐摩耗性は得られない。より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、[(a)×(b)×(c)/(d)]×10000は、好ましくは0.197以下、より好ましくは0.195以下である。また、(a)×(b)×(c)は小さければ小さいほど好ましいが、下限値としては通常0.03以上である。
【0018】
上記条件(ii)中、(d)は、(a)、(b)及び(c)とともに、条件(i)及び(ii)を満足しつつ、以下の数値範囲より選定することが好ましい。
(d)は、より優れた耐焼付性、特にハイポイドギヤの歯車等の噛み合せ部分のような接触部における耐焼付性を得る観点から、好ましく3089以上であり、上限値としては特に制限はなく、通常3923以下である。
【0019】
デファレンシャルギヤ等の自動車用ギヤは、多種の部品が組み合わせて用いられており、該部品間の接触状態として、線(又は点)接触部、面接触部、更にはギヤの噛み合せ部等があり、自動車用ギヤ油組成物には、これらの様々な接触状態の接触部に対して、優れた耐焼付性、耐摩耗性といった潤滑性能が求められる。本実施形態に係る自動車用ギヤ油組成物は、これらの様々な接触状態の接触部における耐焼付性、耐摩耗性を加味した条件(i)及び(ii)を満足するという構成を有するにより、様々な接触状態にある接触部における耐焼付性、耐摩耗性等の優れた潤滑性能を発現するものとなっている。本実施形態において、条件(i)及び(ii)は、例えば、(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤の種類、その含有量等を選定することにより、調整することが可能である。これらの各成分の種類、その含有量は、以下に説明する通りである。
【0020】
<(A)基油>
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、(A)基油を含む。(A)基油は、鉱油であってもよく、合成油であってもよい。
鉱油としては、パラフィン基系、ナフテン基系、中間基系の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;該常圧残油を減圧蒸留して得られた留出油;該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した鉱油、例えば、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック、またフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られる鉱油等が挙げられる。
【0021】
また、鉱油としては、API(米国石油協会)の基油カテゴリーにおいて、グループI、II、IIIのいずれに分類されるものでもよいが、スラッジ生成をより抑制することができ、また粘度特性、酸化劣化等に対する安定性を得る観点から、グループII、IIIに分類されるものが好ましい。
【0022】
合成油としては、例えば、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体、α-オレフィン単独重合体又は共重合体等のポリα-オレフィン類;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等の各種エステル油;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリグリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレンなどが挙げられる。
【0023】
(A)基油は、上記の鉱油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよく、上記合成油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。また、鉱油を1種以上と合成油を1種以上とを組み合わせて混合油として用いてもよい。
【0024】
(A)基油の粘度については特に制限はないが、100℃動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは3mm2/s以上、更に好ましくは5mm2/s以上であり、上限として好ましくは20mm2/s以下、より好ましくは17mm2/s以下、更に好ましくは15mm2/s以下である。また、(A)基油の40℃動粘度は、好ましくは5mm2/s以上、より好ましくは10mm2/s以上、更に好ましくは30mm2/s以上であり、上限として好ましくは120mm2/s以下、より好ましくは110mm2/s以下、更に好ましくは100mm2/s以下である。(A)基油の動粘度が上記範囲内であると、省燃費性、耐焼付性、耐摩耗性がより良好となる。
また、省燃費性、耐焼付性、耐摩耗性をより良好にする観点から、(A)基油の粘度指数は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは105以上である。本明細書において、動粘度、及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
【0025】
(A)基油の組成物全量基準の含有量は、通常50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。また、上限として好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下であり、更に好ましくは93質量%以下である。
【0026】
<(B)硫黄系極圧剤>
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、(B)硫黄系極圧剤を含む。(B)硫黄系極圧剤を含まないと、優れた耐焼付性及び耐摩耗性が得られない。
(B)硫黄系極圧剤としては、硫化オレフィン、ヒドロカルビルサルファイド、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル等が好ましく挙げられ、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、硫化オレフィン、ヒドロカルビルサルファイドがより好ましく、硫化オレフィンが更に好ましい。
【0027】
硫化オレフィンは、オレフィン又はその2~4量体を硫化して得られるものであり、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは炭素数2以上20以下のオレフィン又はその2~4量体と、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と、を反応させて得られる化合物、より好ましくは、以下一般式(1)で示される化合物が好ましく挙げられる。
【0028】
【0029】
一般式(1)中、R11は炭素数2以上20以下のアルケニル基、R12は炭素数1以上20以下のアルキル基又はアルケニル基を示し、m1は1以上10以下の整数を示す。
R11及びR12の炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、下限値として好ましくは3以上、また上限値として好ましくは16以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは8以下、特に好ましくは4以下である。また、R11及びR12のアルキル基、アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、入手のしやすさを考慮すると、直鎖状、分岐状が好ましい。
m1は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、上限値として好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。
前記硫化オレフィン中の硫黄含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上であり、上限値として好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下であり、特に好ましくは50質量%以下である。
【0030】
ヒドロカルビルサルファイドとしては、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、例えば以下一般式(2)で示される構造単位を有する化合物が好ましく挙げられる。
【0031】
【0032】
一般式(1)中、R21はアルキレン基、アリーレン基又はアルキルアリーレン基を示し、m2は1以上10以下の整数である。
【0033】
R21としては、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、アルキレン基が好ましい。
R21がアルキレン基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上であり、また上限値として好ましくは40以下、より好ましくは36以下、更に好ましくは30以下である。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0034】
R21がアリーレン基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは6以上であり、上限値としては好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
また、R21がアルキルアリーレン基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは7以上であり、上限値としては好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
【0035】
m2は1以上10以下の整数であり、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、また入手のしやすさ、腐食等を考慮すると、上限値として好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。
【0036】
ヒドロカルビルサルファイドの上記一般式(2)で示される構造単位を有する化合物として、より具体的には、例えば、以下の一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【0038】
一般式(3)中、R21、m2は上記一般式(2)中のR21、m2と同じである。R31は水素原子又は1価の有機基を示し、R32は1価の有機基を示し、m3は10以下の整数を示し、p3は1以上4以下の整数を示す。
【0039】
1価の有機基としては、R21として例示した2価の有機基(アルキレン基、アリーレン基、アリールアルキレン基)に対応する1価の有機基(R21として例示した2価の有機基に1つの水素原子を付加した有機基)、すなわちアルキル基、アリール基、アリールアルキル基が好ましく挙げられる。
【0040】
m3は10以下の整数であり、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、また入手のしやすさ、腐食等を考慮すると、上限値として好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下である。下限としては特に制限はなく、0であってもよい。
また、p3は1以上4以下の整数であり、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、また入手のしやすさ、腐食等を考慮すると、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0041】
硫化油脂は、硫黄、硫黄含有化合物と、油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)と、を反応させて得られるものであり、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油等が挙げられる。
硫化脂肪酸としては、硫化オレイン酸等の二硫化脂肪酸、硫化エステルとしては、例えば硫化オレイン酸メチル等の硫化脂肪酸のエステル、硫化米ぬか脂肪酸オクチル等が挙げられる。
【0042】
上記硫化オレフィン以外の(B)硫黄系極圧剤中の硫黄含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、上記硫化オレフィンと同じく、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上であり、上限値として好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下であり、特に好ましくは50質量%以下である。
【0043】
(B)硫黄系極圧剤の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上であり、上限値として好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは6質量%以下、特に好ましくは5.5質量%以下である。
また、同様の観点から、(B)硫黄系極圧剤に由来する硫黄原子の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、上限値として好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0044】
<(C)リン系極圧剤>
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、(C)リン系極圧剤を含む。(C)リン系極圧剤を含まないと、優れた耐焼付性及び耐摩耗性が得られない。
(C)リン系極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステル等のリン酸エステル化合物、及び該リン酸エステル化合物のアミン塩等が好ましく挙げられる。これらのリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステルとしては、より具体的には、各々以下の一般式(4)で示されるリン酸エステル、一般式(5)で示される酸性リン酸エステル、一般式(6)で示される亜リン酸エステル、一般式(7)及び(8)で示される亜リン酸水素エステルが好ましく挙げられる。本実施形態において、(C)リン系極圧剤は、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0045】
【0046】
一般式(4)~(8)中、R41、R51、R61、R71及びR81は、それぞれ独立に、炭素数1以上30以下の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基等が好ましく挙げられ、更に入手のしやすさ等を考慮すると、アルキル基がより好ましい。
【0047】
R41、R51、R61、R71及びR81がアルキル基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上であり、また上限値として好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは20以下である。アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、更に入手のしやすさ等を考慮すると、直鎖状、分岐状が好ましい。
R41、R51、R61、R71及びR81がアルケニル基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上であり、また上限値として好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは20以下である。アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0048】
R41、R51、R61、R71及びR81がアリール基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは6以上であり、上限値としては好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは20以下である。
R41、R51、R61、R71及びR81がアリールアルキル基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは7以上、より好ましくは10以上であり、上限値としては好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは20以下である。
【0049】
複数のR41、R61及びR81は同じでも異なっていてもよく、またR51及びR71が複数ある場合は同じでも異なっていてもよい。
また、一般式(5)中、m5は1又は2を示し、一般式(7)中、m7は1又は2を示す。
【0050】
一般式(4)で示されるリン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート等が挙げられる。
【0051】
一般式(5)で示される酸性リン酸エステルとしては、例えば、モノ(ジ)エチルアシッドホスフェート、モノ(ジ)n-プロピルアシッドホスフェート、モノ(ジ)2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ブチルアシッドホスフェート、モノ(ジ)オレイルアシッドホスフェート、モノ(ジ)イソデシルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ラウリルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ステアリルアシッドホスフェート、モノ(ジ)イソステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0052】
一般式(6)で示される亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトが挙げられる。
【0053】
一般式(7)及び(8)で示される亜リン酸水素エステルとしては、例えば、モノ(ジ)エチルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-n-プロピルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-n-ブチルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-2-エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)ラウリルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)オレイルハイドジェンホスファイト、モノ(ジ)ステアリルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)フェニルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。
【0054】
また、上記リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステル等のリン酸エステル化合物のアミン塩としては、これらのリン酸エステル化合物と、アミンとから形成されるアミン塩が好ましく挙げられる。ここで、アミン塩の形成に用いられるアミンとしては、第1アミン、第2アミン、第3アミン、ポリアルキレンアミン等が挙げられ、第1アミン、第2アミン、第3アミンとしては、以下一般式(9)で示されるアミンが挙げられる。
【0055】
【0056】
一般式(9)中、R91は炭素数1以上30以下の炭化水素基を示し、具体的には、上記R41、R51、R61、R71及びR81として例示したものと同じものが挙げられる。また、R91としては、R41、R51、R61、R71及びR81として例示したアルキル基が有する水素原子のうちの少なくとも1つがヒドロキシ基に置換されたヒドロキシアルキル基も挙げられる。
また、m9は1、2又は3であり、m9が1のときは第1アミン、m9が2のときは第2アミン、m9が3のときは第3アミンとなる。
【0057】
ポリアルキレンアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、テトラプロピレンペンタミン、ヘキサブチレンヘプタミン等が挙げられる。
【0058】
これらの中でも、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸水素エステルが好ましく、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸水素エステルがより好ましく、酸性リン酸エステルのアミン塩と亜リン酸水素エステルとを併用することが更に好ましい。また、亜リン酸水素エステルとしては、上記一般式(7)、(8)のうち、一般式(7)で示されるものが好ましい。
【0059】
(C)リン系極圧剤中のリン含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4.5質量%以上であり、上限値として好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
【0060】
(C)リン系極圧剤の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、上限値として好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
また、同様の観点から、(C)リン系極圧剤に由来するリン原子の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限値として好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0061】
(C)リン系極圧剤として、酸性リン酸エステルのアミン塩と亜リン酸水素エステルとを併用する場合、これらの配合比率は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは30:70~90:10、より好ましくは40:60~80:20、更に好ましくは45:55~75:25である。
酸性リン酸エステルのアミン塩中のリン含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは4.5質量%以上、より好ましくは4.8質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上であり、上限値として好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。
また、亜リン酸水素エステル中のリン含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは4.5質量%以上であり、上限値として好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは6.3質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。
【0062】
また、本実施形態においては、硫黄原子とリン原子とを含む極圧剤(以下、「硫黄-リン系極圧剤」とも称する。)を用いることもできる。硫黄-リン系極圧剤としては、モノチオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、トリチオリン酸エステル、モノチオリン酸エステルのアミン塩基、ジチオリン酸エステルのアミン塩、モノチオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、トリチオ亜リン酸エステルなどが挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。これらの中では、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、ジアルキルジチオリン酸やジアリールジチオリン酸、例えば、ジヘキシルジチオリン酸、ジオクチルジチオリン酸、ジ(オクチルチオエチル)ジチオリン酸、ジシクロヘキシルジチオリン酸、ジオレイルジチオリン酸、ジフェニルジチオリン酸、ジベンジルジチオリン酸等のジチオリン酸エステルが好ましい。
【0063】
硫黄-リン系極圧剤を用いる場合、一般に該極圧剤中の硫黄含有量は小さいことから、その使用量は、上記(C)リン系極圧剤に由来するリン含有量、該(C)リン系極圧剤の含有量に準じるものとする。また、硫黄-リン系極圧剤の使用量を、自動車用ギヤ油組成物中に含まれる全硫黄原子の組成物全量基準の含有量、全リン原子の含有量が、下記の範囲内となるような使用量とすることが好ましいことは言うまでもない。
【0064】
<その他添加剤>
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、発明の目的を阻害しない範囲で、上記(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、(C)リン系極圧剤に加えて、例えば、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、消泡剤、金属不活性化剤等のその他添加剤を、適宜選択して配合することができる。これらの添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、上記(A)基油、(B)硫黄系極圧剤及び(C)リン系極圧剤からなってもよいし、また、これらの成分と更にその他添加剤とからなるものであってもよい。その他添加剤の合計含有量は、発明の目的に反しない範囲であれば特に制限はないが、その他添加剤を添加する効果を考慮すると、組成物全量基準で、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。また、上限としては、15質量%以下が好ましく、13質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0065】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類等の無灰系分散剤が挙げられる。分散剤を用いることで、(B)硫黄系極圧剤及び(C)リン系極圧剤の溶解性が向上し、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性が得られやすくなる。
【0066】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
【0067】
これらの粘度指数向上剤の数平均分子量(Mn)としては、その種類に応じて適宜設定されるが、粘度特性の観点から、500以上1,000,000以下が好ましく、より好ましくは5,000以上800,000以下、更に好ましくは10,000以上600,000以下である。
非分散型及び分散型ポリメタクリレートの場合は、5,000以上300,000以下が好ましく、10,000以上150,000以下がより好ましく、20,000以上100,000以下が更に好ましい。
【0068】
粘度指数向上剤の含有量は、粘度特性の観点から、組成物全量基準で、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。また、上限としては、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8質量%以下が更に好ましい。
【0069】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0070】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6以上30以下のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6以上30以下の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、脂肪酸アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、及び脂肪酸エーテル等の無灰摩擦調整剤;モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、及びモリブデン酸のアミン塩等のモリブデン系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0071】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系酸化防止剤、ナフチルアミン系酸化防止剤等のアミン系酸化防止剤;モノフェノール系酸化防止剤、ジフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等のモリブデン系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;その他、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0072】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0073】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる
【0074】
(自動車用ギヤ油組成物の各種物性)
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物の粘度について、100℃動粘度は、好ましくは5mm2/s以上、より好ましくは6mm2/s以上、更に好ましくは7mm2/s以上である。また、上限として好ましくは13.5mm2/s以下、より好ましくは13mm2/s以下、更に好ましくは12.5mm2/s以下である。
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物の40℃動粘度は、10mm2/s以上が好ましく、30mm2/s以上がより好ましく、50mm2/s以上が更に好ましい。また、上限として好ましくは120mm2/s以下、より好ましくは110mm2/s以下、更に好ましくは100mm2/s以下である。本実施形態の自動車用ギヤ油組成物の動粘度が上記範囲内であると、省燃費性が良好となり、耐焼付性、耐摩耗性も良好となる。
また、省燃費性、耐焼付性、耐摩耗性を良好にする観点から、本実施形態の自動車用ギヤ油組成物の粘度指数は、90以上が好ましく、100以上がより好ましく、105以上が更に好ましい。
【0075】
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物中に含まれる全硫黄原子の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、また腐食等を考慮すると、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、上限値として好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2.3質量%以下である。
また、本実施形態の自動車用ギヤ油組成物中に含まれる全リン原子の組成物全量基準の含有量は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限値として好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。
【0076】
(自動車用ギヤ油組成物の製造方法)
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、上記(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤を配合する工程を含む製造方法により得ることができる。なお、本製造方法においては、上記(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤に加えて、その他添加剤成分を配合してもよい。
本製造方法においては、上記(A)基油、(B)硫黄系極圧剤、及び(C)リン系極圧剤、及びその他添加剤の配合量、及びその他の詳細は、上記した含有量、及びその他の詳細と同様であるので、その説明は省略する。
【0077】
以上説明してきたように、本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、耐焼付性及び耐摩耗性とともに、省燃費性に優れるものであり、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤ、特にデファレンシャルギヤの潤滑に好適に用いられる。また、本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、その他内燃機関に用いられる内燃機油、油圧機械、タービン、圧縮機、工作機械、切削機械、歯車、流体軸受け、転がり軸受けを備える機械等にも好適に用いられる。
【0078】
〔自動車用ギヤの潤滑方法〕
本実施形態の潤滑方法は、上記の本実施形態の自動車用ギヤ油組成物を用いた自動車用ギヤの潤滑方法である。本実施形態の潤滑方法で用いられる自動車用ギヤ油組成物は、耐焼付性及び耐摩耗性とともに、省燃費性に優れており、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤの潤滑、とりわけ、デファレンシャルギヤの潤滑に好適に用いられる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0080】
実施例1~3、比較例1~17
表1~3に示す配合量(質量%)でギヤ油組成物を調製した。得られたギヤ油組成物について、以下の方法により各種試験を行い、その物性を評価した。評価結果を表1~3に示す。
【0081】
ギヤ油組成物の性状の測定は以下の方法で行った。
(1)動粘度
JIS K 2283:2000に準拠し、40℃、100℃における動粘度を測定した。
(2)粘度指数(VI)
JIS K 2283:2000に準拠して測定した。
(3)硫黄原子、及びリン原子の含有量
JIS-5S-38-92に準拠して測定した。
【0082】
(4)(a)及び(b)の測定
ASTM D4172-94(2010)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、油温75℃、回転数1500rpm、荷重196N、試験時間60分で実施したシェル四球摩耗試験における試験後の固定球の摩耗痕径(mm)を測定し、(a)とした。また、(a)の測定において、荷重を196Nから392Nした以外は同様にしてした試験後の固定球の摩耗痕径(mm)を測定し、(b)とした。
(5)(c)の測定
ASTM D2714-94(2003)に準拠し、ブロックにH-60、リングにS10を用い、油温120℃、回転数1092rpm、荷重100N、試験時間20分で実施したブロックオンリング摩耗試験における試験後のブロックの摩耗幅(mm)を測定し、(c)とした。
(6)(d)の測定
ASTM D2783-03(2014)に準拠し、20等級のSUJ-2製0.5インチ球を用い、室温下、回転数1800rpmで実施したシェル四球耐荷重性(EP)試験における融着荷重(N)を測定し、(d)とした。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
註)表1~3中の*1及び2は以下の通りである。
*1,全硫黄原子の組成物全量基準の含有量である。
*2,全リン原子の組成物全量基準の含有量である。
【0087】
また、本実施例で用いた表1~3に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・(A)基油、鉱油:API基油カテゴリーのグループIIに分類される鉱油、40℃動粘度:91mm2/s、100℃動粘度:11mm2/s、粘度指数:107
・S1:硫黄系極圧剤(市販品、硫化オレフィン、硫黄含有量:42質量%)
・S2:硫黄系極圧剤(市販品、硫化オレフィン、硫黄含有量:48質量%)
・S3:硫黄系極圧剤(市販品、硫化オレフィン、硫黄含有量:30質量%)
・P1:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステルのアミン塩、リン含有量:5.6質量%)
・P2:リン系極圧剤(市販品、亜リン酸水素エステル、リン含有量:5.3質量%)
・P3:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステルのアミン塩、リン含有量:9.1質量%)
・P4:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステル、リン含有量:17質量%)
・P5:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステル、リン含有量:13質量%)
・P6:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステル、リン含有量:13質量%)
・P7:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステル、リン含有量:6.3質量%)
・P8:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステルのアミン塩、リン含有量:4.0質量%)
・P9:リン系極圧剤(市販品、酸性リン酸エステル、リン含有量:8.3質量%)
・P10:リン系極圧剤(市販品、亜リン酸水素エステル、リン含有量:14質量%)
・P11:リン系極圧剤(市販品、亜リン酸水素エステル、リン含有量:10質量%)
・P12:リン系極圧剤(市販品、亜リン酸水素エステル、リン含有量:6.7質量%)
・その他1:分散剤(ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、窒素含有量:1.5質量%、ホウ素含有量:1.3質量%)
・その他2:市販ギヤ油用パッケージ(硫黄含有量:25質量%、リン含有量:1.4質量%)
・その他3:市販ギヤ油用パッケージ(硫黄含有量:31質量%、リン含有量:1.7質量%)
・その他4:市販ギヤ油用パッケージ(硫黄含有量:24質量%、リン含有量:1.4質量%)
【0088】
表1の結果により、実施例1~3の自動車用ギヤ油組成物は、条件(i)及び(ii)を満足しており、また、40℃動粘度が95.0~97.7mm2/s、100℃動粘度が11.6~11.8mm2/s、粘度指数110~111であることから、優れた耐焼付性及び耐摩耗性とともに、優れた省燃費性を有するものとなった。
一方、表2及び3の結果により、比較例1~17の油組成物は、条件(i)、(ii)の少なくとも一方を満たさないため、優れた耐焼付性及び耐摩耗性を有するものとはいえないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、耐焼付性及び耐摩耗性とともに、省燃費性に優れるものである。よって、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用ギヤ油、特に自動車用のデファレンシャルギヤの潤滑に好適に用いられる。また、本実施形態の自動車用ギヤ油組成物は、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、その他内燃機関に用いられる内燃機油、油圧機械、タービン、圧縮機、工作機械、切削機械、歯車(ギヤ)、流体軸受け、転がり軸受けを備える機械等にも好適に用いられる。