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特許7056022金属イオンを含有する液中における、次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法
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  • 特許-金属イオンを含有する液中における、次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】金属イオンを含有する液中における、次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20220412BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220412BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N30/02 B
G01N30/88 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017137734
(22)【出願日】2017-07-14
(65)【公開番号】P2018021905
(43)【公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2016145030
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 和也
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-236166(JP,A)
【文献】特開2009-236812(JP,A)
【文献】特開2011-158326(JP,A)
【文献】特開2013-205104(JP,A)
【文献】特開2008-039575(JP,A)
【文献】特開2000-275236(JP,A)
【文献】米国特許第04506543(US,A)
【文献】山崎澄男, 外,塩素イオン,次亜塩素酸イオン,亜塩素酸イオン,塩素酸イオンおよび過塩素酸イオン混合系における各イオンの短絡電流滴定,分析化学,1973年,Vol.22, No.7,p.843-849
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含有する溶液中における、次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度を定量分析する方法であって、
前記溶液へ、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸から選択される1種以上である第1の還元剤を添加する工程と、
前記第1の還元剤を添加した溶液へ、硝酸と硝酸銀と臭化カリウムとを添加して沈澱を生成させ、生成した沈殿を前記溶液から分離する工程と、
前記沈殿へ第2の還元剤の溶液を添加し溶解させて溶解液を得る工程と、
前記溶解液中における塩化物イオン濃度を定量する工程とを有することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法。
【請求項2】
前記第2の還元剤の溶液として、水素化ホウ素ナトリウム溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法。
【請求項3】
金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸濃度を定量する方法であって、
請求項1または2に記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法を用いて、前記金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度を定量する工程と、
前記金属イオンを含有する溶液へ、硝酸と硝酸銀と臭化カリウムとを添加して沈澱を生成させ、生成した沈殿を前記溶液から分離し、前記沈殿へ還元剤として水素化ホウ素ナトリウムの溶液を添加し溶解させて溶解液を得、前記溶解液中における塩化物イオン濃度を定量することで、前記金属イオンを含有する溶液中における塩化物イオン濃度を定量する工程と、
前記定量された次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度から、前記定量された塩化物イオン濃度を減じることで、金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸濃度を定量する工程とを有することを特徴とする次亜塩素酸濃度の定量分析方法。
【請求項4】
請求項1または3に記載の定量分析方法において、
前記溶液へ前記第1の還元剤を添加した後の、前記第1の還元剤の添加濃度を0.01~100g/Lとし、
前記第1の還元剤を添加した溶液へ前記硝酸銀を添加した後の、前記硝酸銀濃度を0.1~100g/Lとし、
前記沈殿へ、請求項1における前記第2の還元剤、または、請求項3における水素化ホウ素ナトリウム溶液を添加した後の、請求項1における前記第2の還元剤、または、請求項3における水素化ホウ素ナトリウム溶液の濃度を1~100g/Lとすることを特徴とする次亜塩素酸濃度の定量分析方法。
【請求項5】
前記溶解液中における塩化物イオン濃度を、イオンクロマトグラフ法を用いて定量することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度、または、次亜塩素酸濃度の定量分析方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを含有する液中における全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属の製錬分野において次亜塩素酸は、高純度金属を製造する工程において工程液中の酸化還元電位を制御する為、等に用いられている。しかしながら、当該次亜塩素酸は、開放系の酸性液において次式1に示すような、塩素ガスと気-液平衡関係にあると考えられる。
2ClO+4H⇔2HClO+2H⇔Cl↑+2HO・・・・・式1
即ち、次亜塩素酸イオン(ClO)は酸性液中で次亜塩素酸(HClO)として存在している。そして、当該酸性液において酸性が高くなる、または、次亜塩素酸濃度が高くなると、当該次亜塩素酸中の塩素は塩素ガス(Cl)として気相へと移行すると考えられる。
【0003】
この為、当該次亜塩素酸が、工程液中より塩素ガスとして系外に放出され、炉材を腐蝕したり次工程において意図しない酸化作用をおよぼして工程に不具合を生じさせたりしてしまう場合がある。
このような事態を回避し所望の酸化還元電位を得る為、工程液中の次亜塩素酸量を制御することが求められるが、その制御の為には工程液中の次亜塩素酸濃度を定量的に把握することが重要である。一方、当該工程液は、塩素ガスを回収後に精製して再利用されることが多いことから、そのバランスを把握する為に、工程液中における全塩素濃度、塩化物イオン(尚、塩化物イオンとは所謂「Cl」のことである。)濃度を定量的に把握することが重要である。
【0004】
ここで、工程液中の全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度を把握する方法として、よう素滴定法などの酸化還元滴定法(非特許文献1)、溶液中の次亜塩素酸を還元剤で還元させてイオンクロマトグラフ法で塩化物イオンとして定量する方法、硝酸銀滴定法(非特許文献2)等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】JIS K 0102 33.3
【文献】JIS K 0102 35.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、工程液中には次亜塩素酸、塩化物イオンの他に、各種金属イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等が高濃度で存在しており、次亜塩素酸、塩化物イオンの定量を困難にしている。
そこで例えば、一般的に用いられるよう素滴定法(非特許文献1参照。)などの酸化還元滴定法では、金属イオン等の酸化性物質が妨害となることに加え、金属溶液色により終点判定が困難である。
一方、溶液中の次亜塩素酸を還元剤で還元して塩化物イオンとし、イオンクロマトグラフ法で当該塩化物イオンを定量する方法では、当該溶液中に高濃度で含まれる硫酸イオン、硝酸イオン等のため、測定装置に負荷がかかる上、測定におけるクロマトピークの重なりなどの影響を受け問題となる。また、当該液中に塩化物イオンが含有される場合、正の誤差要因となってしまう。
他方、硝酸銀滴定法(非特許文献2参照。)では、次亜塩素酸が正確に定量されないことに加え、溶液中に他のハロゲン化物が共存した場合、正の誤差要因となってしまう。
【0007】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、金属イオン等をマトリックスとする金属液中における全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するための本発明者らは研究を行った。
そして、まず、試料中の次亜塩素酸を、第1の還元剤を用いて塩化物イオンとする。次に、当該試料へ硝酸銀を作用させて塩化銀沈澱を生成させ、生成した塩化銀沈澱を試料液から分離する構成に想到した。当該構成によれば、試料中の塩化物イオンを、同じく試料中に存在する各種金属イオン、硫酸イオン、硝酸イオンから、容易且つ確実に分離できる。当該生成し分離された塩化銀沈澱へ、第2の還元剤の溶液を添加して塩化物イオンとすれば、イオンクロマトグラフ法で当該塩化物イオン濃度を正確かつ容易に定量することが出来ることに想到した。
【0009】
そして、上記定量された塩化物イオン濃度として、当初の試料中に含有されていた次亜塩素酸に由来する塩素量と、同じく含有されていた塩化物イオンに由来する塩素量との合計である全塩素量に相当する塩化物イオン濃度(本発明において、[塩化物イオン濃度〈全塩素量由来〉]と記載する場合がある。)の値を得ることが出来る。
【0010】
一方、当初の試料中へ第1の還元剤を添加すること無く、硝酸銀を作用させて塩化銀沈澱を生成させ、生成した塩化銀沈澱を試料液から分離する。当該生成し分離された塩化銀沈澱を、第2の還元剤を用いて塩化物イオンとし、イオンクロマトグラフ法で当該塩化物イオン濃度を定量する。この結果、当初の試料中に含有されていた塩化物イオンに由来する塩化物イオン濃度(本発明において、[塩化物イオン濃度〈塩化物イオン量由来〉]と記載する場合がある。)の値を得ることが出来る。
【0011】
ここで、[塩化物イオン濃度〈全塩素量由来〉]の値から[塩化物イオン濃度〈塩化物イオン量由来〉]の値を減じれば、当初試料中における正味の次亜塩素酸濃度の値を得る
ことが出来ることに想到し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
金属イオンを含有する溶液中における、次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度を定量分析する方法であって、 前記溶液へ第1の還元剤を添加する工程と、
前記第1の還元剤を添加した溶液へ、硝酸と硝酸銀を添加して沈澱を生成させ、生成した沈殿を前記溶液から分離する工程と、
前記沈殿へ第2の還元剤の溶液を添加し溶解させて溶解液を得る工程と、
前記溶解液中における塩化物イオン濃度を定量する工程とを有することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法である。
第2の発明は、
前記第1の還元剤として、亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸から選択される1種以上を用いることを特徴とする第1の発明に記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法である。
第3の発明は、
金属イオンを含有する溶液中における塩化物イオン濃度を定量する方法であって、
前記金属イオンを含有する溶液へ、硝酸と硝酸銀を添加して沈澱を生成させ、生成した沈殿を前記溶液から分離する工程と、
前記沈殿へ還元剤の溶液を添加し溶解させて溶解液を得る工程と、
前記溶解液中における塩化物イオン濃度を定量する工程とを有することを特徴とする塩化物イオン濃度の定量分析方法である。
第4の発明は、
第1、第2の発明における前記第2の還元剤、または、第3の発明における前記還元剤の溶液として、水素化ホウ素ナトリウム溶液を用いることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度または塩化物イオン濃度の定量分析方法である。
第5の発明は、
金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸濃度を定量する方法であって、
第1、第2、第4の発明のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度の定量分析方法を用いて、前記金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度を定量する工程と、
第3、第4の発明のいずれかに記載の塩化物イオン濃度の定量分析方法を用いて、前記金属イオンを含有する溶液中における塩化物イオン濃度を定量する工程と、
前記定量された次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度から、前記定量された塩化物イオン濃度を減じることで、金属イオンを含有する溶液中における次亜塩素酸濃度を定量する工程とを有することを特徴とする次亜塩素酸濃度の定量分析方法である。
第6の発明は、
第1、第2、第5の発明のいずれかに記載の定量分析方法において、 前記溶液へ前記第1の還元剤を添加した後の、前記第1の還元剤の添加濃度を0.01~100g/Lとし、
前記第1の還元剤を添加した溶液へ前記硝酸銀を添加した後の、前記硝酸銀濃度を0.1~100g/Lとし、
前記沈殿へ、第1、第2の発明における前記第2の還元剤、または、第3の発明における前記還元剤の溶液を添加した後の第1、第2の発明における前記第2の還元剤、または、第3の発明における前記還元剤の濃度を1~100g/Lとすることを特徴とする次亜塩素酸濃度の定量分析方法である。
第7の発明は、
前記溶解液中における塩化物イオン濃度を、イオンクロマトグラフ法を用いて定量することを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウムと塩化物イオンの混合物中の塩素濃度、塩化物イオン濃度または次亜塩素酸濃度の定量分析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属イオン等をマトリックスとする金属液中における全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度を容易に定量することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1を参照しながら、本発明に係る全塩素濃度、塩化物イオン濃度、次亜塩素酸濃度の定量分析方法について説明する。
(1A)試料分取
本発明に係る次亜塩素酸濃度、塩化物イオン濃度および全塩素濃度の定量分析対象である、金属の製錬工程における工程液等から測定用試料を分取する。
当該試料分取の際は、当該試料中の金属分を1g/L程度に調製するのに適した液量とすることが好ましい。
分取した試料を適宜、希釈して当該試料中の金属分を1g/L程度に調製し、分析試料溶液とする。
当該分析試料溶液へ第1の還元剤(11)を添加する。
当該第1の還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、等を挙げることが出来る。当該第1の還元剤は、分析試料溶液に含有される次亜塩素酸を塩化物イオンに還元するものである。
当該反応を次式2~4に示す。
HClO+2Na+SO 2-⇒H+Cl+2Na+SO 2-・・・・式2
HClO+Na+NO ⇒H+Cl+Na+NO ・・・・・式3
2HClO+ASA⇒2H+2Cl+DHA・・・・・式4
但し、ASA:アスコルビン酸、DHA:デヒドロアスコルビン酸、である。
【0016】
式2~4を用いて示した次亜塩素酸と第1の還元剤(亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸(ASA))との反応において、第1の還元剤の妥当と考えられる添加量について検討した。
まず、工程中に含まれる次亜塩素酸濃度は0.01~0.09g/Lと考えられる。そこで、分析時の試料分取量を、例えば50mLとした場合、第1の還元剤の添加濃度を0.01~100g/Lとすることから、第1の還元剤の添加量は0.1~50mLとする。好ましくは、濃度10g/Lの第1の還元剤5mL程度(試料分取量に対し、1/10量程度)を添加する。
【0017】
(2A)撹拌
第1の還元剤(11)を添加した分析試料溶液を十分に撹拌して、含有される次亜塩素酸を塩化物イオンに還元する。
当該撹拌の際、分析試料溶液へ臭化カリウム(22)、硝酸(24)を添加し、さらに硝酸銀溶液(23)を添加する。
【0018】
臭化カリウム(22)添加の目的は、分析試料溶液中における臭化物イオン濃度を増加させることで、後述する塩化物イオンと銀イオンとの反応による塩化銀の生成を進める方向へ、化学平衡をもっていくためである。
硝酸(24)添加の目的は、分析試料溶液中における不溶物を溶解させ、溶液の性質を安定化するためである。
硝酸銀溶液(23)添加の目的は、分析試料溶液中における塩化物イオンと反応させて、塩化銀の沈殿を生成させる為である。
【0019】
分析試料溶液へ、臭化カリウム(22)、硝酸(24)および硝酸銀溶液(23)を添加したら、さらに撹拌を継続して終了する。
【0020】
(3A)静置
臭化カリウム(22)、硝酸(24)および硝酸銀溶液(23)を添加し、撹拌した分析試料溶液を、30分間程度暗所にて静置し、感光性を有する塩化銀の沈殿を熟成させる。
当該反応を次式5に示す。
Cl+2Ag+2NO +H+Me+Br+K⇔AgCl↓+AgBr↓+Me+2NO +K+H・・・・・式5
但し、Me:金属陽イオン、である。
【0021】
式5は、分析試料溶液中における塩化物イオンを塩化銀で沈殿させることにより、妨害成分(金属イオン:〈Me〉、硫酸イオン、硝酸イオン等)から、固液分離させる反応である。一方、臭化カリウムは共沈剤としての目的で添加している。
ここで、硝酸銀溶液、臭化カリウム溶液、硝酸について、好ましい濃度と添加量について検討した。
その結果、硝酸銀濃度を0.1~100g/Lとするのが良いことが判明した。好ましくは、濃度10g/Lの硝酸銀溶液を10mL程度添加する。また、臭化カリウムの添加量は、ターゲットである塩化物イオンの10倍量程度あれば良い。
【0022】
(4A)ろ過
塩化銀の沈殿が熟成した分析試料溶液をろ過し、生成した塩化銀の沈殿を採取する。
【0023】
(5A)洗浄
採取した塩化銀の沈殿を洗浄する。
【0024】
(6A)還元・溶解
洗浄した塩化銀の沈殿へ、純水(41)と第2の還元剤の溶液(42)とを加えて、塩化銀沈殿を溶解し、塩化物イオンと、銀イオンとの溶解液を得る。このときの第2の還元剤の溶液(42)としては水素化ホウ素ナトリウム溶液を用いることが好ましい。
塩化銀の還元を進めて溶解液を得るため、超音波による撹拌を行うことが好ましい。
当該反応を次式6に示す。
AgCl+AgBr+(BH+Na+4HO⇒2Ag+Cl+Br+4H+2H↑+Na+B(OH) ・・・・・式6
【0025】
式6を用いて示した塩化銀と水素化ホウ素ナトリウム溶液との反応から、生成した塩化銀への、第2の還元剤の好ましい添加方法について検討した。
その結果、第2の還元剤の溶液濃度は1~100g/Lで、添加量は0.1~100mlとするのが良いことが判明した。好ましくは、濃度10g/Lの水素化ホウ素ナトリウム溶液1mL程度を添加する。
【0026】
(7A)ろ過
得られた溶解液をろ過し、不溶成分を除去する。
【0027】
(8A)測定
不溶成分を除去した溶解液をイオンクロマトグラフ法により定量し、当該溶解液中における塩化物イオンの量を定量し、[塩化物イオン濃度〈全塩素量由来〉]を算定する。
【0028】
(1B)試料分取~(7B)ろ過
上述した(1A)と(2A)との間において行った第1の還元剤(11)の添加を行わない以外は、(1A)~(7A)と同様の操作を行う。
【0029】
(8B)測定
不溶成分を除去した溶解液をイオンクロマトグラフ法により定量し、当該溶解液中における塩化物イオンの量を定量し、[塩化物イオン濃度〈塩化物イオン量由来〉]を算定する。
【0030】
(9A)算定
上述した[塩化物イオン濃度〈全塩素量由来〉]より、当初の測定用試料における全塩素濃度を算定する。
上述した[塩化物イオン濃度〈塩化物イオン量由来〉]より、当初の測定用試料における塩化物イオン量を算定する。
算定された全塩素濃度から算定された塩化物イオン濃度を減じ、当初の測定用試料における次亜塩素酸濃度を算定する。
【実施例
【0031】
以下、実施例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
ニッケル1g/L硫酸溶液へ所定量の次亜塩素酸ナトリウムを添加し、実施例1に係る測定用試料とした。
上述した図1に示した(1A)~(8A)、(1B)~(8B)、9Aの操作を行って、当初の測定用試料における次亜塩素酸量を算定した。そして、当初のニッケル硫酸溶液へ添加した次亜塩素酸ナトリウムの添加量と次亜塩素酸量とを比較した。すると、添加した次亜塩素酸ナトリウムの添加量のうち96%が定量されていることが判明した。この結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
実施例1に記載した測定用試料に対し、非特許文献2に記載の硝酸銀滴定法により、次亜塩素酸量を算定した。
当該滴定結果から、当初の測定用試料における次亜塩素酸量を算定した。そして、当初のニッケル硫酸溶液へ添加した次亜塩素酸ナトリウムの添加量と次亜塩素酸量とを比較した。すると、添加した次亜塩素酸ナトリウムの添加量のうち45%が定量されていることが判明した。この結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
(まとめ)
表1に示す結果より、本発明によれば、当初の測定用試料における次亜塩素酸量を、容易且つ高い精度で定量出来ることが判明した。
これに対し、非特許文献2に記載の硝酸銀滴定法では、添加回収率が低値を示しており、次亜塩素酸の一部のみしか定量していないことが判明した。即ち、各種のハロゲン化物イオンを含まない測定用試料であっても、従来の技術に係る硝酸銀滴定法では次亜塩素酸濃度の正確な定量が出来ないことが判明した。
【0035】
(実施例2)
ニッケル1g/L硫酸溶液(但し、Ni2+:1000mg/L、SO 2-:1600mg/L、Cl:2.4mg/L含有)へ、4種類の添加量にて次亜塩素酸ナトリウムを添加し、実施例2に係る測定用試料1~4を調製した。当該測定用試料1~4のpH、酸化還元電位、電気伝導度を表2に示す。
【0036】
上記図1を用いて説明した(1A)~(8A)、(1B)~(8B)、9Aの操作を行って、当初の測定用試料1~4における全塩素濃度、塩化物イオン濃度を定量し、次亜塩素酸量を算定した。この結果を表3に示す。
【0037】
(比較例2)
実施例2に係る測定用試料1~4を用い、非特許文献1に記載のよう素滴定法により、次亜塩素酸量の定量を試みた。しかしながら、液が着色しているために終点が判定できず、当該よう素滴定法では定量が出来なかった。この結果を表3に示す。
【0038】
【表2】
【表3】
【0039】
(実施例3)
ニッケル1g/L硫酸溶液(但し、Ni2+:1000mg/L、SO 2-:1600mg/L、Cl:2.4mg/L含有)へ、4種類の添加量にて次亜塩素酸ナトリウムを添加し、実施例2に係る測定用試料5~8を調製し、さらに測定用試料5へはBr:20mg/L、測定用試料6へはBr:20mg/L、測定用試料7へはBr:80mg/L、測定用試料8へはBr:120mg/Lを添加した。
【0040】
上記図1を用いて説明した(1A)~(8A)、(1B)~(8B)、9Aの操作を行って、当初の測定用試料1~4における全塩素濃度、塩化物イオン濃度を定量し、次亜塩素酸量を算定した。この結果を表4に示す。
【0041】
(比較例3)
実施例3に係る測定用試料5~8を用い、非特許文献2に記載の硝酸銀滴定法により、次亜塩素酸量の定量を行った。この結果を表4に示す。
【0042】
(比較例4)
実施例3に係る測定用試料5~8を用い、上述した図1に示した(1A)の操作のみを行って、(8A)のイオンクロマトグラフ法による当初の測定用試料1~4における次亜塩素酸量の定量を試みた。しかしながら、SO 2-イオンが多量に含まれていたため、測定においてベースラインが下がらず、塩化物イオンのピークを検出できなかった。この結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
(まとめ)
表4に示す結果より、本発明によれば、当初の測定用試料における次亜塩素酸量を、容易、且つ高い精度で定量出来ることが判明した。
これに対し、比較例3に係る硝酸銀滴定法では、測定用試料に臭化物イオンが含まれるため、高濃度側にシフトした値が示されることが判明した。
図1