(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】コークスの分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20220412BHJP
C10B 57/00 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
G01N21/65
C10B57/00
(21)【出願番号】P 2018051198
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】南郷 景悟
(72)【発明者】
【氏名】武田 憲洋
(72)【発明者】
【氏名】小川 由貴
(72)【発明者】
【氏名】安楽 太介
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218647(JP,A)
【文献】特開2000-356633(JP,A)
【文献】特開2005-281355(JP,A)
【文献】特開平01-191708(JP,A)
【文献】特開2012-122990(JP,A)
【文献】特開2004-279206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0225539(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
C10B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスの熱間反応後強度を分析する方法であって、下記(1)及び(2)の工程を経ることによりコークスの熱間反応後強度を算出することを特徴とするコークスの分析方法。
(1)コークスのラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(I
G)とDバンドピークの強度(I
D)との比(I
G/I
D)であるR値と、
下記の方法で求められる該コークスの熱間反応後強度の実測値との関係を示す検量線を作成する。
コークスの熱間反応後強度(CSR:Coke Strength after CO
2
reaction)の測定方法:
粒径が20±1mmに整粒されたコークス200gを、二酸化炭素(100%)中、反応温度1100℃、反応時間2時間の条件で反応させた後、I型回転ドラムに入れ、600回転させた後に取り出し、投入した試料質量に対する9.5mm篩上の質量の百分率を求める(ASTM D 5341)。
(2)コークスのR値を測定し、前記検量線を用いることにより該コークスの熱間反応後強度を算出する。
【請求項2】
請求項1において、前記Gバンドピークが波数1500~1700cm
-1の範囲のピークであり、前記Dバンドピークが波数1150~1450cm
-1の範囲のピークであるコークスの分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、コークス炉から押し出された後のコークスに対してラマン分光分析を行うコークスの分析方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、消火設備で冷却された後のコークスに対してラマン分光分析を行うコークスの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金用コークス(以下、単に「コークス」という場合がある。)の熱間反応後強度(以下、「CSR」という場合がある。)を簡易な方法で迅速かつ精度良く算出することができるコークスの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄などに使用されるコークスは、次のような工程を経て製造されている。
(1) 輸入した石炭を銘柄ごとに分類して保管する。
(2) 複数の銘柄の石炭を配合、粉砕した後、コークス炉に装入する。
(3) コークス炉内で石炭を約1200℃で18~20時間程度乾留した後、コークス炉から押出し、消火してコークスを得る。
【0003】
高炉操業では炉頂部から鉄鉱石とコークスを交互に装入し、炉下部の羽口部から吹き込まれる1200℃程度の熱風でコークスを燃焼させ、その発生したガスにより鉄鉱石を還元して溶銑を得る。高炉で使用されるコークスは、乾留後の強度のみならず、高炉内での反応時においても高い強度を有することが要求される。これは、反応時の強度が低いと、高炉内でソリューションロス反応によってコークスの粉化が発生しやすくなり、還元ガスの通気が阻害され、高炉の生産性が著しく悪化するためである。
【0004】
高炉内でのコークス強度を評価する指標として、コークスの熱間反応後強度(CSR:Coke Strength after CO2 reaction)が用いられている。
CSRは、粒径が20±1mmに整粒されたコークス200gを、二酸化炭素(100%)中、反応温度1100℃、反応時間2時間の条件で反応させた後、I型回転ドラムに入れ、600回転させた後に取り出し、投入した試料質量に対する9.5mm篩上の質量の百分率で求められている(ASTM D 5341)。
【0005】
コークスの要求品位に応じて石炭銘柄の配合構成が変更されるが、配合構成が変更されると、コークスのCSRも変動する。
したがって、石炭の配合変更時には予めCSRを予測し、目標とするCSRとなるように石炭配合構成を調整する必要がある。しかしながら、実際に測定されたCSRが予測したCSRよりも低くなり、目標とするCSRを満たすことができないことがある。そのため、CSRを速やかに測定し、配合構成を見直す必要があるが、上述のように、粒度調整したコークスを所定の条件で反応させた後、回転ドラムで粉砕試験を行う従来法では、CSRの測定に長時間を要し、CSRを迅速に把握することはできない。
【0006】
従来、CSRを算出する方法として、コークスの反応率(以下、「CRI」という)を、単味炭コークスのCRIの加重平均値に基づいて算出し、この求めたCRIとコークス表面破壊強度に基づいて製鉄用コークスのCSRを算出する方法(特許文献1)や、更にこの方法の改良法として、この方法で得られた値を操業条件に基づいて補正する方法(特許文献2)が提案されているが、さらなる迅速化と、簡易化、高精度化が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-232350号公報
【文献】特開2013-1895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、コークスの熱間反応後強度(CSR)を簡易な方法で迅速かつ精度良く算出することができるコークスの分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ラマン分光分析により得られるDバンドピークの強度(ID)とDバンドピークの強度(IG)との比(IG/ID)であるR値を求め、求めたR値を予め作成した検量線に当てはめることで、ラマン分光分析という簡易な方法で、迅速かつ精度良くCSRを算出することができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] コークスの熱間反応後強度を分析する方法であって、下記(1)及び(2)の工程を経ることによりコークスの熱間反応後強度を算出することを特徴とするコークスの分析方法。
(1)コークスのラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)であるR値と、該コークスの熱間反応後強度の実測値との関係を示す検量線を作成する。
(2)コークスのR値を測定し、前記検量線を用いることにより該コークスの熱間反応後強度を算出する。
【0011】
[2] [1]において、前記Gバンドピークが波数1500~1700cm-1の範囲のピークであり、前記Dバンドピークが波数1150~1450cm-1の範囲のピークであることを特徴とするコークスの分析方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、コークス炉から押し出された後のコークスに対してラマン分光分析を行うコークスの分析方法。
【0013】
[4] [1]乃至[3]のいずれかにおいて、消火設備で冷却された後のコークスに対してラマン分光分析を行うコークスの分析方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラマン分光分析という簡易な方法で、コークスのCSRを迅速かつ精度良く算出することができ、CSRを分析するための時間と労力を大幅に短縮することができるため、配合構成の早期の見直しが可能となる。
特に、ラマン分光分析によれば、高温のコークスであっても、搬送中のコークスであっても精度良く分析が可能であり、コークス炉から搬出、搬送されるコークスに対して、様々な工程でレーザー照射を行うのみでR値を求めることができ、また、予め作成した検量線のデータをコンピューターに入力しておくことで、自動的にCSRを解析することも可能であり、その工業上の改善効果は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明のコークスの分析方法は、下記(1)及び(2)の工程を経ることによりコークスの熱間反応後強度を算出することを特徴とする。
(1)コークスのラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)であるR値と、該コークスの熱間反応後強度の実測値との関係を示す検量線を作成する。
(2)コークスのR値を測定し、前記検量線を用いることにより該コークスの熱間反応後強度を算出する。
【0018】
コークスのラマン分光分析で得られるスペクトルのうち、Gバンドピークは結晶性の高い高配向なグラファイト結晶のピークを示すものであり、Dバンドピークは結晶性の低い等方性のグラファイト結晶のピークを示すものであり、Vバンドピークはアモルファス炭素のピークを示すものである。本発明者は、これらのピークのうち、Gバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)の比(IG/ID)であるR値が、コークスのCSRと良好な相関関係にあり、数種類のコークスを用意してラマン分光分析を行うとともにCSRを実測し、CSRの実測値とR値との検量線を作成しておき、コークスのラマン分光分析を行って求めたR値をこの検量線に当てはめて求めたCSRの算出値が、実際のCSR実測値とよく一致することを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
コークスのラマン分光分析は、市販の各種のラマン分光分析器を用いて常法に従って行うことができる。ラマン分光分析では、試料となるコークスの温度や水分量、コークスの粒度等に影響されることなく、簡易な操作で分析を行って、分析スペクトルからDバンドピークとGバンドピークの強度比R値を迅速に求めることができる。
【0020】
ラマン分光分析の条件はコークスのラマンスペクトルが得られるものであれば、特に制限されず、レーザー光源、分光器及び検出器を備えたラマン分光装置を用いることができる。また、通常、ラマン分光分析は以下の条件で測定することができる。なお、顕微鏡を備えた顕微ラマン分光装置を使用して測定してもよい。
波長 :400~800nm
レーザー出力 :1~1000mW
レーザービーム径:1~2000μm
露光時間 :0.1~100s
【0021】
本発明は、コークス炉から押し出された後のコークスに対してラマン分光分析を行うことが好ましい。例えば、本発明は、コークス炉から押し出された直後のコークスに対してラマン分光分析を行ってもよく、特に、消火設備(水による湿式消火設備であってもよく、窒素等による乾式消火設備であってもよい。)で冷却された後のコークスに対してラマン分光分析を行うことが好ましい。更にベルトコンベアで出荷されるコークスに対してベルトコンベアの上方にラマン分光分析器を設けて実施することもできる。
更には製鉄工程に搬送されたコークスや、高炉に投入される直前のコークスに対してラマン分光分析を行うことも可能である。
即ち、ラマン分光分析に供するコークスは、コークス炉から押し出され、高炉に投入する前のコークスであればよい。
【0022】
なお、ラマン分光分析スペクトルにおいて、Gバンドピークは、波数1500~1700cm-1の範囲に出現するピークであり、Dバンドピークとは波数1150~1450cm-1の範囲に出現するピークである。
ラマン分光分析スペクトルチャートについて、カーブフィッティングを行った後にR値を求めるようにしてもよい。
【0023】
本発明によれば、コークス炉で製造されたコークス試料を分取し、ラマン分光分析という簡易な方法で、コークスのCSRを迅速かつ精度良く算出し、コークスの配合条件やコークス炉の操業条件等に即時的に反映させることで、所望の品質のコークスを効率的に製造することができるようになる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0025】
[実施例1]
顕微レーザーラマン分光分析装置(Kaiser Optical Systems社製「RamanRXN G3-ID」)を用いて、R値とCSRとの関係を調べる実験を行った。
ラマン分光分析装置による測定条件は以下の通りとした。
<測定条件>
顕微鏡倍率 :50倍
波長 :785nm
レーザー出力 :5mW
レーザービーム径:3μm
露光時間 :10s
コークスは粒径20~10mesh(0.84~2.00mm)に調整し、任意に50点選択して測定に供した。
なお、ここで、粒径を調整したのは、顕微レーザーラマン分光分析装置に適用するためであり、ラマン分光分析自体は、どのような粒径のコークスに対しても適用可能である。
【0026】
前述の従来法(ASTM D 5341)により様々なコークス試料についてCSRを測定すると共に、ラマン分光分析を行い、Gバンドピーク(波数1590cm
-1)の強度(I
G)とDバンドピーク(波数1300cm
-1)の強度(I
D)の比(I
G/I
D)であるR値を求めた。
CSR実測値とI
G/I
D比との関係をグラフ化したものを
図1に示す。
図1より、R値とCSRとがよく一致しており、コークスのラマン分光分析で求めたR値からCSRを迅速かつ精度良く算出できることが分かる。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、R値(I
G/I
D)の代わりに、ラマン分光分析により得られたDバンドピークの強度(I
D)とVバンドピーク(波数1465cm
-1)の強度(I
V)との比(I
D/I
V)とCSRとの関係をグラフ化したものを
図2に示した。
図2より、CSR実測値とI
D/I
V比との相関は低く、ラマン分光分析を行ってI
D/I
V比をとったのでは、CSRを算出することができないことが分かる。
【0028】
[比較例2]
実施例1において、R値(I
G/I
D)の代りに、ラマン分光分析により得られたGバンドピークの強度(I
G)とVバンドピーク(波数1465cm
-1)の強度(I
V)との比(I
G/I
V)とCSRとの関係をグラフ化したものを
図3に示した。
図3より、CSR実測値とI
G/I
V比との相関は低く、ラマン分光分析を行ってもI
G/I
V比をとったのでは、CSRを算出することができないことが分かる。