(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】蛍光体、発光装置、照明装置及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/79 20060101AFI20220412BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20220412BHJP
F21V 9/30 20180101ALI20220412BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220412BHJP
【FI】
C09K11/79
C09K11/08 B
F21V9/30
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2018508106
(86)(22)【出願日】2017-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2017012760
(87)【国際公開番号】W WO2017170609
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2019-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2016066764
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016146734
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】小室 直之
(72)【発明者】
【氏名】堀部 謙太郎
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028124(JP,A)
【文献】特開2009-035673(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123198(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/073598(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/114061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08,11/79
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方晶の結晶相を含む蛍光体であって、
該結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
下記式[I]および[II]を満たし、さらに、
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下であることを特徴とする、蛍光体。
0.10≦x/(w+x)≦0.50 [I]
2.80≦w+x+z≦3.20 [II]
(但し、
M元素は、
Ceを表し、
A元素は、
YおよびGdから選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[I]および[II]中、
wは、Siのモル比を6とした時のLa元素の含有量を表し、
xは、Siのモル比を6とした時のA元素の含有量を表し、
zは、Siのモル比を6とした時のM元素の含有量を表す。)
【請求項2】
前記結晶相が、下記式(1)で表される組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
La
wA
xSi
6N
yM
z (1)
(式(1)中、
M元素は、
Ceを表し、
A元素は、
YおよびGdから選ばれる1種以上の元素を表し、
w、x、y、zは、各々独立に、下記式を満たす値である。
wは、1.50≦w≦2.7
xは、0.2≦x≦1.5
yは、8.0≦y≦14.0
zは、0.05≦z≦1.0)
【請求項3】
300nm以上、460nm以下の波長を有する励起光を照射することにより、546nm以上、570nm以下の範囲に発光ピーク波長を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の1種以上を、
第1の蛍光体として含むことを特徴とする、発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする、照明装置。
【請求項6】
請求項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする、画像表示装置。
【請求項7】
結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下である蛍光体の製造方法であって、
M源、La源、A源、Si源を原料として、各元素の比率が下記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し、焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
0.1≦x2/(w2+x2)≦0.5 [III]
2.85≦w2≦3.2 [IV]
(但し、
M元素は、
Ceを表し、
A元素は、
YおよびGdから選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[III]および[IV]中、
w2は、Siのモル比を6とした時のLa元素の仕込み量を表し、
x2は、Siのモル比を6とした時のA元素の仕込み量を表す。)
【請求項8】
原料中に含まれる金属元素の組成が下記式(2)で表される組成を満たすように仕込み量を調整することを特徴とする、請求項7に記載の蛍光体の製造方法。
La
w2A
x2Si
6N
y2M
z2 (2)
(式(2)中、
M元素は、
Ceを表し、
A元素は、
YおよびGdから選ばれる1種以上の元素を表し、
w2は前記式[IV]を満たす値であり、
x2、y2、z2は、各々独立に、下記式を満たす値である。
x2は、0.2≦x2≦1.5
y2は、8.0≦y2≦14.0
z2は、0.05≦z2≦1.0)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、発光装置、照明装置及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受けてLED(発光装置)を用いた照明またはバックライトの需要が増加している。ここで用いられるLEDは、青または近紫外波長の光を発するLEDチップ上に蛍光体を配置した白色発光LEDである。このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に青色LEDチップからの青色光を励起光として黄色に発光するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体を用いたものが多く用いられている。
【0003】
しかしながら、YAG蛍光体は大出力下で用いられる場合、蛍光体の温度が上昇すると輝度が低下する、いわゆる温度消光が大きいという問題がある。特にピーク波長540nm以上の長波発光の領域ではより顕著に温度特性が落ちてしまう問題がある。
【0004】
さらに、YAG蛍光体の発光色を550nm以上とするにはガドリニウム、テルビウムを添加するなどして母体構成元素を調整する必要があり、それによっても温度特性は著しく低下する場合がある。
【0005】
また、より優れた色再現範囲または演色性とするために、近紫外線(通常、青励起に対する言葉として350~420nm程度の紫を含めた範囲を近紫外線と呼ぶ)で励起した場合、輝度が著しく低下する場合があった。
【0006】
これらの状況を鑑みて、黄色発光する窒化物蛍光体の更なる検討がなされている。その蛍光体として、例えば、特許文献1~3に記載される(La、Y)3Si6N11蛍光体(ランタンまたはイットリウムが他の金属と置き換わった場合などを含め、以下この種の蛍光体を「LYSN蛍光体」と称する場合がある。)などが開発されている。
【0007】
一方、前述のように、LEDは、光スペクトルの特定の領域にピーク波長を有する光を発生させることが可能な半導体発光装置、または半導体光源として、広く知られている。通常LEDは、照明器、標識、車載ヘッドランプおよびディスプレイの光源として使用される。
【0008】
LEDと蛍光体を用いた発光デバイスとして、青色の発光を行うLEDチップと、青色光を黄色に変換するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体と、を組み合わせた白色に発光する発光デバイスが知られている。YAG蛍光体は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂に分散させた波長変換発光層として、LEDチップの周囲に配置される。
【0009】
また、前記樹脂に分散させた波長変換発光層以外に、蛍光体からなるセラミック層、あるいは蛍光体をセラミックに分散させた、無機材料のみからなる波長変換発光層(発光セラミック層)が例示される(特許文献4)。
【0010】
一方、近年、三元系以上の元素から構成される窒化物について、多くの新規物質が製造されており、特に最近では、窒化珪素をベースとした多元系窒化物や酸窒化物において、優れた特性を有する蛍光体材料が開発され、波長変換発光層に用いられている。
【0011】
これらの蛍光体材料は、青色LED又は近紫外LEDによって励起され、黄色ないし赤色の発光を示すことが知られており、酸化物系蛍光体に比べて、高輝度であり、高変換効率であり、更に発光効率の温度依存性が優れている。
【0012】
従来、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの有機バインダに分散させた波長変換発光層では、耐久性、耐熱性、発光強度が十分ではなかった。そのため、より耐久性、耐熱性に優れた波長変換発光層を得るために、特許文献4に例示されるように、無機材料のみからなる波長変換発光層(発光セラミック層)を作製する方法が研究されている。
【0013】
特許文献5では、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム及びフッ化ランタンのうちのいずれか1種からなるか、又は、フッ化カルシウム及びフッ化ストロンチウムからなる無機バインダ中に、YAG:Ce蛍光体粒子を分散させた蛍光体セラミックスが例示されている。
【0014】
特許文献6では、Y3(Al,Ga)5O12:Ce酸化物蛍光体、Lu3Al5O12:Ce(LuAG)酸化物蛍光体とCaSiAlN3:Eu(CASN)窒化物蛍光体の組み合わせを、放電プラズマ焼結法を用いて、200℃以上のガラス転移点を持つガラス粉末を溶融させることで、無機材料のみからなる波長変換発光層を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2008/132954号
【文献】国際公開第2010/114061号
【文献】国際公開第2014/123198号
【文献】日本国特表2008-502131号公報
【文献】国際公開第2009/154193号
【文献】日本国特開2009-91546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1~3に記載のLYSN蛍光体は、温度が上昇しても発光輝度の低下が小さく、かつ近紫外線での励起でも十分な発光が得られるものである。しかしながら、例えば、LYSN蛍光体を用いて照明装置を製造する場合、赤色を補うために赤色蛍光体を使用する必要があるため、より長波長領域(546~570nm)に発光ピークを有するLYSN蛍光体が求められている。これらの蛍光体は、更に高い発光輝度および温度維持率が求められている。
【0017】
また、特許文献4では、発光セラミック層として、アルミニウムガーネット蛍光体を用いている。これは、Y2O3、Al2O3(99.999%)、CeO2からYAG粉末を作製し、YAG粉末のみからなる成型体を得た後、1300℃で焼成することにより得られたYAG焼結蛍光体を発光セラミック層として使用している。該発光セラミック層は、無機バインダを用いておらず、YAG酸化物系蛍光体のみで焼結体を形成している。そのため、高輝度であり、高変換効率であり、更に発光効率の温度依存性に優れた窒化物蛍光体の焼結蛍光体が求められていた。
【0018】
また、特許文献5に例示されているとおり、YAG酸化物蛍光体相とフッ化物マトリックス相とのセラミック複合体は、内部量子効率がいずれも55%以下という低い値であるという問題があった。
【0019】
特許文献6では、YAG酸化物蛍光体又はLuAG酸化物蛍光体とCASN窒化物蛍光体の組み合わせを、ガラス粉末を溶融させることで、ガラス中に分散させて波長変換発光層を作製しているが、無機バインダがガラスであるため、耐熱性はあるものの、熱伝導率は2~3W/mKと低く、更に放熱性が低いために、蛍光体の温度が上昇し輝度が低下(蛍光体の劣化)するという課題がある。
【0020】
本発明は上記を鑑みて、長波長領域(546~570nm)に発光ピークを有するLYSN蛍光体(以下、「長波長LYSN蛍光体」と称する場合がある)を提供する。さらに本発明は、発光輝度が高く、温度維持率が高いLYSN蛍光体を提供する。また本発明は、赤色蛍光体を使用しなくても色温度が低く高品質な発光装置、ならびに高品質な照明装置および画像表示装置を提供する。
【0021】
また本発明は、上記課題を鑑みて、内部量子効率及び透過率が高いLED用焼結蛍光体を提供する。特に、色温度の低い発光の得ることのできる焼結蛍光体を提供する。また、該焼結蛍光体を用いることで、発光効率が高く、高輝度で、かつ、励起光強度及び温度の変化による明るさ変化・色ズレが少なく、赤色成分の多い低色温度の光を発する発光装置、並びに、当該発光装置を用いた照明装置及び車両用灯具・表示灯を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは鋭意検討した結果、長波長側に発光ピーク波長を有し、発光輝度が高いLYSN蛍光体は、従来のLYSN蛍光体よりも結晶格子のサイズが小さくなっていることを見出した。
【0023】
ここで本発明者らは、結晶格子のサイズの指標の一つである格子定数と特定の構成元素の比率とにより発光輝度が高い長波長LYSN蛍光体と規定し得ることを見出して、本発明に到達した。
【0024】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.正方晶の結晶相を含む蛍光体であって、
該結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
下記式[I]および[II]を満たし、さらに、
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下であることを特徴とする、蛍光体。
0.10≦x/(w+x)≦0.50 [I]
2.80≦w+x+z≦3.20 [II]
(但し、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[I]および[II]中、
wは、Siのモル比を6とした時のLa元素の含有量を表し、
xは、Siのモル比を6とした時のA元素の含有量を表し、
zは、Siのモル比を6とした時のM元素の含有量を表す。)
2.正方晶の結晶相を含む蛍光体であり
該結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下である蛍光体であって、
原料に含まれる各元素の比率が下記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し、焼成することによって得られることを特徴とする、蛍光体。
0.1≦x2/(w2+x2)≦0.5 [III]
2.85≦w2≦3.2 [IV]
(但し、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[III]および[IV]中、
w2は、Siのモル比を6とした時のLa元素の仕込み量を表し、
x2は、Siのモル比を6とした時のA元素の仕込み量を表す。)
3.前記結晶相が、下記式(1)で表される組成を有することを特徴とする、前記1または2に記載の蛍光体。
LawAxSi6NyMz (1)
(式(1)中、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
w、x、y、zは、各々独立に、下記式を満たす値である。
wは、1.50≦w≦2.7
xは、0.2≦x≦1.5
yは、8.0≦y≦14.0
zは、0.05≦z≦1.0)
4.300nm以上、460nm以下の波長を有する励起光を照射することにより、546nm以上、570nm以下の範囲に発光ピーク波長を有することを特徴とする、前記1~3のいずれか1に記載の蛍光体。
5.第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、前記1~4のいずれか1に記載の窒化物蛍光体の1種以上を、第1の蛍光体として含むことを特徴とする、発光装置。
6.前記5に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする、照明装置。
7.前記5に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする、画像表示装置。
8.結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下である蛍光体の製造方法であって、
M源、La源、A源、Si源を原料として、各元素の比率が下記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し、焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
0.1≦x2/(w2+x2)≦0.5 [III]
2.85≦w2≦3.2 [IV]
(但し、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[III]および[IV]中、
w2は、Siのモル比を6とした時のLa元素の仕込み量を表し、
x2は、Siのモル比を6とした時のA元素の仕込み量を表す。)
9.原料中に含まれる金属元素の組成が下記式(2)で表される組成を満たすように仕込み量を調整することを特徴とする、前記8に記載の蛍光体の製造方法。
Law2Ax2Si6Ny2Mz2 (2)
(式(2)中、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
w2は前記式[IV]を満たす値であり、
x2、y2、z2は、各々独立に、下記式を満たす値である。
x2は、0.2≦x2≦1.5
y2は、8.0≦y2≦14.0
z2は、0.05≦z2≦1.0)
【発明の効果】
【0025】
本発明は、長波長領域(546~570nm)に発光ピークを有するLYSN蛍光体を提供することが可能となる。さらに本発明は、発光輝度が高く、温度維持率が高いLYSN蛍光体を提供することが可能となる。また本発明は、赤色蛍光体を使用しなくても演色性が高く高品質な発光装置、ならびに高品質な照明装置および画像表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施例8および比較例1で得られた蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例5並びに比較例4および5のXRDパターンを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施態様に係る半導体発光装置の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施態様に係る半導体発光装置の構成例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例15に使用された蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例16に使用された蛍光体の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例15および実施例16の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例17の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルのシミュレーション結果を表す図である。
【
図9】
図9は、実施例18の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルのシミュレーション結果を表す図である。
【
図10】
図10は、実施例19~22の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルのシミュレーション結果を表す図である。
【
図11】
図11は、実施例23~26の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルのシミュレーション結果を表す図である。
【
図12】
図12は、実施例27、28の焼結蛍光体のLED励起による発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。
【0028】
以下、本発明の蛍光体、発光装置、照明装置及び画像表示装置の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。なお、下記の本発明の蛍光体、発光装置、照明装置及び画像表示装置を「発明1」と呼ぶことがある。
【0029】
{蛍光体}
本発明の蛍光体は、正方晶の結晶相を含み、
該結晶相が、M元素、La、A元素、Si、Nを含み、かつ
下記式[I]および[II]を満たし、さらに、
格子定数aが、10.104Å以上、10.154Å以下であることを特徴とする。
【0030】
0.10≦x/(w+x)≦0.50 [I]
2.80≦w+x+z≦3.20 [II]
(但し、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[I]および[II]中、
wは、Siのモル比を6とした時のLa元素の含有量を表し、
xは、Siのモル比を6とした時のA元素の含有量を表し、
zは、Siのモル比を6とした時のM元素の含有量を表す。)
なお、本明細書において、Siのモル比を6とした時の各元素の含有量はモル比で示される。
【0031】
本発明の蛍光体は、原料に含まれる各元素の比率が下記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し、焼成することによって得られる。
【0032】
0.1≦x2/(w2+x2)≦0.5 [III]
2.85≦w2≦3.2 [IV]
(但し、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。
また、式[III]および[IV]中、
w2は、Siのモル比を6とした時のLa元素の仕込み量を表し、
x2は、Siのモル比を6とした時のA元素の仕込み量を表す。)
なお、本明細書において、Siのモル比を6とした時の各元素の仕込み量、すなわち、原料に含まれる金属元素の組成はモル比で示される。
【0033】
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表す。付活元素としては、例えば、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、プラセオジム(Pr)などが挙げられる。
【0034】
M元素は、1種の元素を単独で用いてもよく、異なる2種以上の元素を含んでいてもよい。中でも、M元素は、Eu又はCeを含むことが好ましく、Ceを全付活元素中80モル%以上含むことがより好ましく、Ceを全付活元素中95モル%以上含むことが更に好ましく、Ceを単独で含むことが最も好ましい。
Laは、ランタンを表す。
【0035】
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表す。A元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)及びイッテルビウム(Yb)などが挙げられる。中でもA元素は、本発明における効果が得られやすい点で、Yを含むことが好ましい。
【0036】
尚、A元素は、1種の元素を単独で用いてもよく、異なる2種以上の元素を含んでいてもよい。
【0037】
Siは、ケイ素を表す。Siは、その他の4価の元素、例えば、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などで一部置換されていてもよい。
【0038】
Nは、窒素元素を表す。Nは、その他の元素、例えば、酸素原子(O)、ハロゲン原子(フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等で一部置換されていてもよい。
【0039】
酸素は、原料金属中の不純物として混入する場合、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられ、本発明の蛍光体においては不可避的に混入するものである。
【0040】
また、ハロゲン原子は、原料金属中の不純物として混入する場合や粉砕工程・窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられ、特に、フラックスとしてハロゲン化物を用いると蛍光体中にハロゲン原子が含まれてしまう場合がある。
【0041】
本発明の蛍光体は、前記式[I]および[II]を満たす。
前記式[I]におけるx/(w+x)は、Siのモル比を6とした時、好ましくは0.11以上0.45以下であり、さらに好ましくは0.12以上0.40以下である。また、前記式[II]におけるw+x+zは、Siのモル比を6とした時、好ましくは2.85以上3.15以下であり、さらに好ましくは2.90以上3.10以下である。
【0042】
本発明の蛍光体は、結晶相が前記式[I]および[II]を満たすことにより、蛍光体の発光ピーク波長が長波長側となる。そのため単独で本発明の蛍光体と青色LEDチップとを組み合わせても、3000~5000K程度の色温度を達成できるため好ましい。また、A元素由来の異相が生成し難く、より結晶性が高い蛍光体となる点で好ましい。
【0043】
本発明の蛍光体は、原料に含まれる各元素の比率が前記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し、焼成することによって得られる。前記式[III]におけるx2/(w2+x2)は、Siのモル比を6とした時、0.1≦x2/(w2+x2)≦0.5を満たす値であり、その下限値は、好ましくは0.105、より好ましくは0.11であり、またその上限値は、好ましくは0.4、より好ましくは0.3である。
【0044】
また前記式[IV]におけるw2は、Siのモル比を6とした時、2.85≦w2≦3.2を満たす値であり、その下限値は、好ましくは2.875、またその上限値は、好ましくは3.15である。
【0045】
[式(1)について]
本発明の蛍光体は下記式(1)で表わされる組成を有する結晶相を含むことが好ましい。
【0046】
LawAxSi6NyMz (1)
(式(1)中、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
w、x、y、zは、各々独立に、下記式を満たす値である。
wは、1.50≦w≦2.7
xは、0.2≦x≦1.5
yは、8.0≦y≦14.0
zは、0.05≦z≦1.0)
【0047】
式(1)におけるM元素およびA元素は、前述に説明した元素と同一範囲であり、その範囲および好ましい態様も同様である。
式(1)におけるwは、Laの含有量を表し、前記式[I]および[II]におけるものと同義である。その範囲および好ましい態様も同様である。
【0048】
式(1)におけるxは、前記式[I]および[II]におけるものと同義でA元素の含有量を表し、その範囲は、通常0.2≦x≦1.5であり、下限値は、好ましくは0.25、より好ましくは0.30、また上限値は、好ましくは1.2、より好ましくは1.0である。
【0049】
式(1)におけるyは、Nの含有量を表し、その範囲は、通常8.0≦y≦14.0であり、下限値は、好ましくは8.5、より好ましくは8.0、また上限値は、好ましくは13.5、より好ましくは13.0である。
【0050】
式(1)におけるzは、M元素の含有量を表し、その範囲は、通常0.05≦z≦1.00であり、下限値は、好ましくは0.10、より好ましくは0.20、また上限値は、好ましくは0.95、より好ましくは0.90である。
なお、上述の各元素の含有量はモル比で示される。
【0051】
[本発明の蛍光体の結晶構造、結晶系、空間群]
本発明の蛍光体は、La3Si6N11の組成式で報告されている正方晶の結晶構造をとり、組成式にてLaの位置にLa及びA元素、M元素が入る。このような元素置換により基本骨格構造は保たれながら格子定数、原子座標が異なる結晶となる。
【0052】
本発明の蛍光体における空間群は、単結晶X線回折にて区別しうる範囲において統計的に考えた平均構造が上記の長さの繰り返し周期を示していれば特に限定されないが、「International Tables for Crystallography(Third,revised edition),Volume A SPACE-GROUP SYMMETRY」に基づくP4bm(100)に属する。
【0053】
(格子定数)
参考文献1[Acta Crystallographica.Section E,vol.70,i23ページ(2014)]によると、La3Si6N11は正方晶で、P4bmの空間群をもつ結晶であり、そのa軸の格子定数(格子定数a)は10.1988Å、c軸の格子定数(格子定数c)は4.84153Åである。
【0054】
本発明の蛍光体は、La3Si6N11をベースとし、Laよりもイオン半径の小さいY、GdなどをLaの代わりに置換したものである。
【0055】
[格子定数]
本発明の蛍光体における格子定数は、下記の通りである。
【0056】
a軸の格子定数(格子定数a)は、10.104Å以上、10.154Å以下を満たす値であり、その下限値は、好ましくは10.109Å、より好ましくは10.114Åであり、またその上限値は、好ましくは10.149Å、より好ましくは10.144Åである。
【0057】
尚、b軸の格子定数(格子定数b)は、格子定数aと同じ値である。
【0058】
c軸の格子定数(格子定数c)は、通常4.820Å以上、4.860Å以下を満たす値であり、その下限値は、好ましくは4.825Åであり、より好ましくは4.830Åであり、またその上限値は、好ましくは4.865Å、より好ましくは4.860Åである。
【0059】
格子定数aが上記の範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる点で好ましい。更に、格子定数cが上記範囲内であると、本発明の効果がより得られやすい点で好ましい。このような蛍光体は、安定的に結晶が生成するため不純物相の生成が抑制されるので、結晶性に優れる。このため本発明の蛍光体は、発光輝度が良好となるため好ましい。
【0060】
[効果を奏する理由]
本発明の構成とすることで、従来のLYSN蛍光体よりも長波長領域に発光ピークを有するLYSN蛍光体が得られるとの効果を奏する理由について下記の通り推測する。
【0061】
本発明におけるA元素は、いずれもLaよりもイオン半径が小さい元素である。そのためLaが特定量のA元素で一部置換されることで、結晶格子内のイオン間距離が短くなる。つまり蛍光体の格子定数が小さくなる。これによって、付活元素の周りの結晶場が強くなるため、蛍光体の発光ピーク波長が長波長化する。
【0062】
ここで、格子定数及び空間群は、常法に従って求めることできる。格子定数はX線回折及び、または、中性子線回折の結果をリートベルト(Rietveld)解析して求めることができ、空間群は電子線回折により求めることができる。
【0063】
{蛍光体の特性について}
[発光色]
本発明の蛍光体の発光色は、化学組成等を調整することにより、波長300nm~460nmといった近紫外領域~青色領域の光で励起され、青緑色、緑色、黄緑色、黄色、橙色、赤色等、所望の発光色とすることができる。
【0064】
[発光スペクトル]
本発明の蛍光体は、波長300nm以上、460nm以下の光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特性を有することが好ましい。本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおけるピーク波長が、通常546nm以上、好ましくは550nm以上、また、通常570nm以下、好ましくは565nm以下である。上記範囲内であると、得られる蛍光体において、良好な緑色ないし黄色を呈する点で好ましい。
【0065】
[発光スペクトルの半値幅]
本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が、通常130nm以下、好ましくは125nm以下、より好ましくは120nm以下、また通常30nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上である。
【0066】
なお、本発明の蛍光体を波長300nm以上、460nm以下の光で励起するには、例えば、キセノンランプを用いることができる。また、400nmの光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。
【0067】
本発明の蛍光体の発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてMCPD7000(大塚電子社製)を用いて測定する。励起光455nmの条件で、380nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定して発光スペクトルを得る。
【0068】
[励起波長]
本発明の蛍光体は、通常350nm以上、好ましくは360nm以上、より好ましくは370nm以上、また、通常480nm以下、好ましくは470nm以下、より好ましくは460nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、近紫外から青色領域の光で励起される。
【0069】
{本発明の蛍光体の製造方法}
本発明の蛍光体の製造方法は、本発明の蛍光体及び効果が得られるものであれば、特に制限はないが、例えば、前記式[III]および[IV]を満たすように原料を調製し焼成する方法が挙げられ、好ましくは、蛍光体の結晶相が前記式(1)の組成を満たすように仕込み量を調整する方法、および原料中に含まれる金属元素の組成が下記式(2)で表される組成を満たすように仕込み量を調整する方法が挙げられる。
【0070】
Law2Ax2Si6Ny2Mz2 (2)
(式(2)中、
M元素は、付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
w2は前記式[IV]を満たす値であり、
x2、y2、z2は、各々独立に、下記式を満たす値である。
x2は、0.2≦x2≦1.5
y2は、8.0≦y2≦14.0
z2は、0.05≦z2≦1.0)
【0071】
式(2)におけるw2は、Laの含有量を表し、前記式[IV]におけるものと同義である。その範囲および好ましい態様も同様である。
【0072】
式(2)におけるx2は、前記式[III]におけるものと同義でA元素の含有量を表し、その範囲は、通常0.2≦x2≦1.5であり、下限値は、好ましくは0.25、より好ましくは0.30、また上限値は、好ましくは1.2、より好ましくは1.0である。
【0073】
式(2)におけるy2は、Nの含有量を表し、その範囲は、通常8.0≦y2≦14.0であり、下限値は、好ましくは8.5、より好ましくは9.0、また上限値は、好ましくは13.5、より好ましくは13.0である。
【0074】
式(2)におけるz2は、M元素の含有量を表し、その範囲は、通常0.05≦z2≦1.00であり、下限値は、好ましくは0.10、より好ましくは0.20、また上限値は、好ましくは0.95、より好ましくは0.90である。
なお、上述の各元素の含有量はモル比で示される。
【0075】
本発明の蛍光体は、化学量論的には(La、A元素):Si:N=3:6:11であるため、本発明の蛍光体の製造方法としては、より具体的には例えば、過不足なくこの通りに仕込みかつ式[III]および[IV]を満たすようにLaおよびA元素を仕込む方法が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[原料]
本発明に用いられる原料(La源、A源、Si源、M源)としては、例えば、蛍光体の母体の構成元素であるLa、A元素、Si、必要に応じ発光波長等の調整のために添加する付活元素M、を含む金属、合金または化合物が挙げられる。
【0077】
La源、A源、Si源、M源の化合物としては、例えば、蛍光体を構成するそれぞれの元素の窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩およびハロゲン化物等が挙げられる。
【0078】
具体的な種類は、これらの金属化合物の中から、目的物への反応性または焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して適宜選択すればよいが、本発明の蛍光体が窒素含有蛍光体である観点から窒化物及び/又は酸窒化物を用いることが好ましい。中でも、窒素源としての役割も果たすため、窒化物を用いることが好ましい。
【0079】
窒化物及び酸窒化物の具体例としては、LaN、Si3N4またはCeN等の蛍光体を構成する元素の窒化物、およびLa3Si6N11またはLaSi3N5等の蛍光体を構成する元素の複合窒化物等が挙げられる。
【0080】
また、蛍光体の母体あるいは蛍光体自体を原料の一部に使用してもよい。蛍光体の母体あるいは蛍光体は、既に蛍光体の母体となる反応を終えているので、結晶成長に寄与するのみであり、蛍光体自体を蛍光体焼成における結晶径や粒子径を制御する効果が期待できるためである。
【0081】
(原料の混合)
蛍光体製造用合金を使用する場合には、含有される金属元素の組成が、前記式(2)で表される組成に一致していれば蛍光体製造用合金のみ、または必要に応じてフラックス(成長補助剤)を混合して焼成すればよい。
【0082】
一方、蛍光体製造用合金を使用しない場合またはその組成が一致していない場合には、別の組成を有する蛍光体製造用合金、金属単体、金属化合物などを蛍光体製造用合金と混合して、原料中に含まれる金属元素の組成が前記式(2)で表される組成に一致するように調製し、焼成すればよい。
【0083】
本発明の蛍光体の場合、(La、A元素)とSiとNの理論上の組成比は3:6:11であることが好ましいため、仕込み組成も上記化学量論比とすることが一般的であるが、原料に含まれる各元素の比率が前記式[III]および[IV]を満たすように原料を仕込むことが好ましい。これは、目的とする本発明の蛍光体の式[I]、[II]の組成範囲よりも比較的多めに原料、特にLa元素を仕込むことにより、La元素、A元素、M元素が適切な量取り込まれた結晶相を得ることができ、不純物相が少なく発光輝度の高い長波長LYSN蛍光体を得ることができる。
【0084】
この場合、LaまたはLaとLaサイトを置換する元素のモル比を、理論組成の1:2から1:1.5程度の範囲で変更してもよい。この組成比の変更は、原料中の酸素の割合が、高い場合に特に好ましい。
【0085】
蛍光体原料の混合は、公知の手法を用いればよい。ポット中に溶媒とともに投入し、ボールで原料を砕きながら混合する方法、乾式で混合し、メッシュパスさせる方法などが使用できる。溶媒中で分散、混合した場合には、当然ながら溶媒を除去し、必要に応じ乾燥凝集をほぐす。これらの操作は、窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0086】
尚、本発明の蛍光体を製造する際には、フラックスを用いてもよい。フラックスとしては、例えば、国際公開第2008/132954号、国際公開第2010/114061号の各公報等に記載されたものが使用できる。
【0087】
[焼成工程]
このようにして得られた原料混合物は、通常は坩堝またはトレイ等の容器に充填し、雰囲気制御が可能な加熱炉に納める。この際、容器の材質としては、金属化合物との反応性が低いものが好ましく、例えば、窒化ホウ素、窒化珪素、炭素、窒化アルミニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
【0088】
本焼成の焼成温度としては、1300℃以上1900℃以下であることが好ましく、より好ましくは1400℃以上1700℃以下である。本焼成は、水素含有窒素ガスを充填した状態或いは流通させた状態で蛍光体原料を加熱することにより行なうが、その際の圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でもよい。ただし、大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とすることが好ましい。
【0089】
本焼成時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、蛍光体原料と窒素との反応に必要な時間でよいが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とすることが好ましい。加熱時間が1分より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない可能性がある。また、加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常50時間以下であり、好ましくは40時間以下、より好ましくは30時間以下である。
【0090】
本焼成では、蛍光体原料混合物を充填した焼成容器を加熱炉に納める。ここで使用する焼成装置としては、本発明の効果が得られる限り任意であるが、装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制御できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、抵抗加熱式真空加圧雰囲気熱処理炉等が好ましい。
【0091】
また、加熱開始前に、焼成装置内に窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換することが好ましい。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通してもよい。
【0092】
焼成の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素元素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。また、窒素含有ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0093】
[後処理工程]
本発明における製造方法においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の焼成工程後、必要に応じて粉砕工程、洗浄工程、分級工程、表面処理工程、乾燥工程などを行なってもよい。
【0094】
(粉砕工程)
粉砕工程には、例えば、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、リボンブレンダー、V型ブレンダー若しくはヘンシェルミキサー等の粉砕機、または乳鉢と乳棒を用いる粉砕などが使用できる。
【0095】
(洗浄工程)
洗浄工程は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤またはアンモニア水等のアルカリ性水溶液などで蛍光体表面を行うことができる。
【0096】
使用されたフラックスを除去する等、蛍光体の表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、王水およびフッ化水素酸と硫酸との混合物などの無機酸;酢酸などの有機酸などを含有する酸性水溶液を使用することもできる。
【0097】
(分級工程)
分級工程は、例えば、水篩または各種の気流分級機または振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、体積平均径10μm程度の分散性に優れた蛍光体を得ることができる。また、ナイロンメッシュによる乾式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、体積メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0098】
(乾燥工程)
前記洗浄を終了した蛍光体を、100℃~200℃程度で乾燥させる。必要に応じて乾燥凝集を防ぐ程度の分散処理(例えばメッシュパスなど)を行ってもよい。
【0099】
(表面処理工程)
本発明の蛍光体を用いて発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で一部被覆する等の表面処理を行ってもよい。
【0100】
{蛍光体含有組成物}
本発明の蛍光体は、液体媒体と混合して用いてもよい。特に、本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、適宜、「本発明に係る蛍光体含有組成物」などと呼ぶものとする。
【0101】
[蛍光体]
本発明に係る蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体の種類に制限は無く、上述したものから任意に選択することができる。また、本発明に係る蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、本発明に係る蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0102】
[液体媒体]
本発明に係る蛍光体含有組成物に使用される液体媒体としては、該蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料及び/又は有機系材料が使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0103】
[液体媒体及び蛍光体の含有率]
本発明に係る蛍光体含有組成物中の蛍光体及び液体媒体の含有率は、本実施態様の効果を著しく損なわない限り任意であるが、液体媒体については、本発明に係る蛍光体含有組成物全体に対して、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。
【0104】
[その他の成分]
なお、本発明に係る蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0105】
{発光装置}
本発明の発光装置は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを含む発光装置であって、該第2の発光体は本発明の蛍光体を含有する。ここで、本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0106】
本発明の蛍光体としては、例えば、励起光源からの光の照射下において、黄緑色ないし黄色領域の蛍光を発する蛍光体を使用する。具体的には、発光装置を構成する場合、本発明の黄緑色ないし黄色蛍光体としては、546nm以上570nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。尚、励起源については、420nm未満の波長範囲に発光ピークを有するものを用いてもよい。
【0107】
以下、本発明の蛍光体が、546nm以上570nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、且つ第一の発光体が350nm以上460nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものを用いる場合の、発光装置の態様について記載するが、本実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0108】
上記の場合、本発明の発光装置は、例えば、次の態様とすることができる。即ち、第1の発光体として、350nm以上460nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものを用い、第2の発光体の第1の蛍光体として、535nm以上600nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(本発明の蛍光体)を用いる態様とすることができる。
【0109】
(黄色蛍光体)
本発明の発光装置は、本発明の蛍光体に加えて、更に546nm以上570nm以下の波長範囲に発光ピークを有する黄色蛍光体を含有していてもよい。
【0110】
その他の蛍光体としては、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)3(Al,Ga)5O12:(Ce,Eu,Nd)、
オルソシリケートとしては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:(Eu,Ce)、
(酸)窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Ca,Mg)Si2O2N2:Eu(SION系蛍光体)、(Li,Ca)2(Si,Al)12(O,N)16:(Ce,Eu)(α-サイアロン蛍光体)、(Ca,Sr)AlSi4(O,N)7:(Ce,Eu)(1147蛍光体)、(La,Ca)3(Al,Si)6N11:Ce(LSN蛍光体)
などが挙げられる。
【0111】
尚、上記蛍光体においては、蛍光体の比重が大きく違わないLSN蛍光体が好ましい。
【0112】
(赤色蛍光体)
本発明の発光装置は、更に赤色蛍光体を含有していてもよい。赤色蛍光体としては、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
【0113】
Mn付活フッ化物蛍光体としては、例えば、K2(Si,Ti)F6:Mn、K2Si1-xNaxAlxF6:Mn(0<x<1)(まとめてKSF蛍光体)、
硫化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)S:Eu(CAS蛍光体)、La2O2S:Eu(LOS蛍光体)、
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Lu,Gd,Tb)3Mg2AlSi2O12:Ce、
ナノ粒子としては、例えば、CdSe、
窒化物または酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu(S/CASN蛍光体)、(CaAlSiN3)1-x・(SiO2N2)x:Eu(CASON蛍光体)、(La,Ca)3(Al,Si)6N11:Eu(LSN蛍光体)、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu(258蛍光体)、(Sr,Ca)Al1+xSi4-xOxN7-x:Eu(1147蛍光体)、Mx(Si,Al)12(O,N)16:Eu(Mは、Ca、Srなど)(αサイアロン蛍光体)、Li(Sr,Ba)Al3N4:Eu(上記のxは、いずれも0<x<1)
などが挙げられる。
【0114】
赤色蛍光体としては上記の中でもKSF蛍光体やS/CASN蛍光体であることが好ましい。
【0115】
(緑色蛍光体)
本発明の発光装置は、更に緑色蛍光体を含有していてもよい。本発明における緑色蛍光体は、発光ピーク波長が510~545nmである蛍光体であり、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
【0116】
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)3(Al,Ga)5O12:(Ce,Eu,Nd)、Ca3(Sc,Mg)2Si3O12:(Ce,Eu)(CSMS)、
シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)3SiO10:(Eu,Ce)、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:(Ce,Eu)(BSS蛍光体)、
酸化物蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba,Mg)(Sc,Zn)2O4:(Ce,Eu)(CASO蛍光体)、
(酸)窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)Si2O2N2:(Eu,Ce)、Si6-zAlzOzN8-z:(Eu,Ce)(β-サイアロン蛍光体)(0<z≦1)、(Ba,Sr,Ca,Mg,La)3(Si,Al)6O12N2:(Eu,Ce)(BSON蛍光体)、(La,Ca)3(Al,Si)6N11:Ce(LSN蛍光体)
アルミネート蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)2Al10O17:(Eu,Mn)(GBAM系蛍光体)
などが挙げられる。
【0117】
[発光装置の構成]
本発明の発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも本発明の蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。
【0118】
装置構成及び発光装置の実施形態としては、例えば、日本国特開2007-291352号公報に記載のものが挙げられる。その他、発光装置の形態としては、例えば、砲弾型、カップ型、チップオンボード、リモートフォスファー等が挙げられる。
【0119】
{発光装置の用途}
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0120】
[照明装置]
本発明の照明装置は、本発明の発光装置を光源として備えることを特徴とする照明装置である。
【0121】
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、保持ケースの底面に多数の発光装置を並べた面発光照明装置等を挙げることができる。
【0122】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の発光装置を光源として備える画像表示装置である。本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。
【0123】
例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0124】
次に、本発明における焼結蛍光体、および該焼結蛍光体を用いた発光装置、照明装置、画像表示装置並びに車両用灯具・表示灯について説明する。なお、下記の本発明における焼結蛍光体、および該焼結蛍光体を用いた発光装置、照明装置、画像表示装置並びに車両用灯具・表示灯を「発明2」と呼ぶことがある。
【0125】
従来、酸化物蛍光体とフッ化物無機バインダを焼結させると、一般的には、蛍光体の酸素と無機バインダのフッ素のイオン半径が近いため固溶置換が起こり、酸フッ化物を形成し、内部量子効率の低下を招くと考えられていた。そこで、窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダとを混合し、焼結させたところ、本来の窒化物蛍光体の内部量子効率を維持することが可能となることを、本発明者らは見出した。これは、イオン半径に差のある窒素とフッ素では容易に固溶置換が起こらず、内部量子効率の低下を防ぐことが可能となったためと考えられる。
【0126】
また、フッ化物無機バインダを用いることで、例えばAl2O3を無機バインダとして用いた場合に比べて、焼結温度を下げることができるために、窒化物蛍光体と無機バインダとの反応を抑制させることができる。このようにして、内部量子効率の高い窒化物蛍光体の焼結蛍光体が得られることに、本発明者らは想到した。
【0127】
更に、例えば三方晶系であるAl2O3は複屈折を有するため、焼結体とするとAl2O3が多結晶体となり透光性が不十分であるのに対し、CaF2、BaF2、SrF2等の結晶系が立方晶のフッ化物無機バインダを用いれば、複屈折がなく、透明性の高い焼結蛍光体を製造することが可能である。
【0128】
更に、使用する窒化物蛍光体として特定の物性・性質をもつものを使用することにより、特に低色温度の照明として好適な焼結蛍光体が得られることを見いだした。
【0129】
これにより、本発明者らは、特定の窒化物蛍光体を用いることで、赤色成分の多い低色温度の発色が可能で、内部量子効率および透過率が高いLED用焼結蛍光体を発明するに至った。更に該焼結蛍光体を用い、発光効率が高く、高輝度で、かつ、励起光強度及び温度の変化による明るさ変化・色ズレの少ない、赤色成分の多い低色温度の光を発することが出来る優れた発光装置及び照明装置を発明するに至った。
【0130】
即ち、本発明は、窒化物蛍光体及びフッ化物無機バインダを含む焼結蛍光体であって、該窒化物蛍光体が、下記式[10]で表される結晶相を含む蛍光体であることを特徴とする焼結蛍光体、発光装置、照明装置、画像表示装置および車両用灯具・表示灯にも存し、以下の通りである。
〈1〉窒化物蛍光体及びフッ化物無機バインダを含む焼結蛍光体であって、
該窒化物蛍光体が、下記式[1]で表される結晶相を含む蛍光体であることを特徴とする、焼結蛍光体。
Law10Ax10Si6Ny10Mz10 [10]
(式中のM元素は付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
2.0≦w10≦4.0、
0<x10≦1.5、
8.0≦y10≦14.0、
0.05≦z10≦1.0)
〈2〉455nmの波長を有する励起光を照射することにより得られる前記式[1]で表される結晶相を含む蛍光体の蛍光が、CIE1931XYZ表色系で表した色度座標x、yで以下の式を満たすことを特徴とする、〈1〉に記載の焼結蛍光体。
0.43≦x≦0.50、
0.48≦y≦0.55
〈3〉該窒化物蛍光体の格子定数のaが10.104Å以上、10.185Å以下であることを特徴とする、〈1〉~〈3〉のいずれか1に記載の焼結蛍光体。
〈4〉更にその他の蛍光体を1種又は2種以上含有することを特徴とする〈1〉~〈3〉のいずれか1に記載の焼結蛍光体。
〈5〉〈1〉~〈4〉のいずれか1に記載の焼結蛍光体と、光源としてLED又は半導体レーザーとを備え、
前記焼結蛍光体は、前記光源の光の少なくとも一部を吸収して異なる波長を有する光を発することを特徴とする、発光装置。
〈6〉発光の相関色温度が5000K以下であることを特徴とする、〈5〉に記載の発光装置。
〈7〉〈5〉又は〈6〉に記載の発光装置を備えることを特徴とする、照明装置。
〈8〉〈5〉又は〈6〉に記載の発光装置を備えることを特徴とする、画像表示装置。
〈9〉〈5〉又は〈6〉に記載の発光装置を備えることを特徴とする、車両用灯具・表示灯。
【0131】
本発明により、内部量子効率および透過率が高いLED用焼結蛍光体を提供することができる。特に、色温度の低い発光の得ることのできる焼結蛍光体を提供できる。また、該焼結蛍光体を用いることで、発光効率が高く、高輝度で、かつ、励起光強度及び温度の変化による明るさ変化・色ズレが少なく、赤色成分の多い低色温度の光を発する発光装置、並びに、当該発光装置を用いた照明装置及び車両用灯具・表示灯を提供することができる。
【0132】
{焼結蛍光体}
本発明の実施形態に係る焼結蛍光体は、窒化物蛍光体、及びフッ化物無機バインダを含み、該窒化物蛍光体が前記式[10]で表される結晶相を含む蛍光体(以下、「式[10]蛍光体」と称する場合がある)である。
【0133】
[焼結蛍光体の形態]
本発明における焼結蛍光体は、式[10]蛍光体を含む窒化物蛍光体及びフッ化物無機バインダから構成された複合体であれば特に制限はないが、好ましくは、窒化物蛍光体がフッ化物無機バインダ中に分散された状態であり、窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダが物理的及び/または化学的な結合によって、一体化された複合体である。イオン半径の異なる窒化物とフッ化物を組み合わせることで、焼結時の窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダとの反応を抑制させ、高い内部量子効率を有する焼結蛍光体を得ることが可能である。
【0134】
このような焼結蛍光体の形態は、走査電子顕微鏡による焼結蛍光体の表面観察、焼結蛍光体を切断することで断面を切り出す、あるいはクロスセクションポリッシャーによる焼結蛍光体断面を作製した後、走査電子顕微鏡による焼結蛍光体断面観察、等の観察方法にて、観察が可能である。
【0135】
[窒化物蛍光体]
本発明の実施形態に係る焼結蛍光体において、窒化物蛍光体が存在することを確認するための手法としては、X線回折による窒化物蛍光体相の同定、エネルギー分散型X線分析装置による粒子の元素分析、蛍光X線による元素分析などが挙げられる。
【0136】
本実施形態の焼結蛍光体は、下記式[10]で表される結晶相を含む蛍光体を含有する。
Law10Ax10Si6Ny10Mz10 [10]
(式[10]中のM元素は付活元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
A元素は、Laおよび付活元素以外の希土類元素から選ばれる1種以上の元素を表し、
2.0≦w10≦4.0、
0<x10≦1.5、
8.0≦y10≦14.0、
0.05≦z10≦1.0である。)
【0137】
発明2におけるM元素、Si、Nについての詳細は、前記発明1で説明した通りである。
【0138】
また、発明2におけるA元素についての詳細は、前記発明1と同様であるが、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)が好ましく、YとGdが更に好ましく、Yが特に好ましい。A元素が含まれることで、式[10]蛍光体は、発光波長が長波長にシフトし、各種の発光装置として使用するのに適した発光スペクトルを示すようになる。
【0139】
x10は、A元素の含有量を表し、通常0<x10≦1.5の範囲であり、その下限値は、好ましくは0.1、より好ましくは0.2、更に好ましくは0.3、また上限値は、好ましくは1.0、より好ましくは0.7である。上記範囲内であると、発光強度が低下しにくいため好ましい。
【0140】
w10は、Laの含有量を表し、通常2.0≦w10≦4.0の範囲である。w10とx10とz10の和が3になるのが結晶構造上好ましいが、格子欠陥や格子間元素、不純物元素の存在により3以外の値となることもある。尚、W10の化学量論比である3からの変動幅が2割以内にすると、式[10]蛍光体の結晶構造が保たれやすくなるため好ましい。すなわち、W10を2.4以上にすることが好ましく、3.6以下にすることが好ましい。
【0141】
y10は、Nの含有量を表し、通常8.0≦y10≦14.0の範囲である。y10は、結晶構造上11になることが好ましいが、格子欠陥や格子間元素、不純物元素の存在により11以外の値になることもある。
【0142】
z10は、M元素の含有量を表し、通常0.05≦z10≦1.0であり、下限値は、好ましくは0.10、より好ましくは0.2、また上限値は好ましくは0.95、より好ましくは0.9である。上記範囲内であると、濃度消光がし難く、発光強度が低下しにくい点で好ましい。
なお、上述の各元素の含有量はモル比で示される。
【0143】
また、式[10]蛍光体中の酸素原子の質量割合は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。尚、窒化物蛍光体は、不可避的に酸素を含むためその下限は通常0%より大きい値となる。上記範囲内であると、得られる焼結蛍光体の輝度が良好であるため好ましい。
【0144】
[式[10]蛍光体の結晶構造]
式[10]蛍光体は、La3Si6N11の組成式で報告されている正方晶の結晶構造をとり、組成式にてLaの位置にLa及びA元素、M元素が入る。このような元素置換により基本骨格構造は保たれながら格子定数、原子座標が異なる結晶となる。
【0145】
(格子定数)
参考文献1[Acta Crystallographica.Section E,vol.70,i23ページ(2014)]によると、La3Si6N11は正方晶で、P4bmの空間群をもつ結晶であり、その格子定数a=10.1988Å。c=4.84153Åである。
【0146】
式[10]蛍光体は、La3Si6N11をベースとし、Laよりもイオン半径の小さいY、GdなどをLaの代わりに置換したものであり、その格子定数は下記の通りである、
【0147】
a軸の格子定数(格子定数a)は、好ましくは10.104Å以上、10.185Å以下を満たす値であり、その下限値は、より好ましくは10.109Å、さらに好ましくは10.114Åであり、またその上限値は、より好ましくは10.17Å、さらに好ましくは10.16Åである。
【0148】
尚、b軸の格子定数(格子定数b)は、格子定数aと同じ値である。
【0149】
c軸の格子定数(格子定数c)は、通常4.820Å以上、4.860Å以下を満たす値であり、その下限値は、好ましくは4.825Åであり、より好ましくは4.830Åであり、またその上限値は、好ましくは4.865Å、より好ましくは4.860Åである。
【0150】
格子定数aが上記の範囲内であると、5000Kを下回る低色温度の照明に適した発光スペクトルを示す蛍光体が得られるため、好ましい。格子定数cについても同様である。特に、格子定数aを10.154Å以下とすることで、電球色の照明に適した発光スペクトルを示す蛍光体を得ることができるので特に好ましい。
【0151】
なお、上記の格子定数は、式[10]蛍光体の粉末X線回折パターンをLa3Si6N11の結晶構造として報告されている空間群P4bmの正方晶の結晶構造から推定される回折パターンに当てはめて、式[10]蛍光体の粉末X線回折の回折角度データとその回折の指数を用いて求める。特定の回折線とその指数を用いて計算することもできるが、通常は、複数の、あるいは測定されたすべての回折線を用いて、パターンフィッテング(たとえばRietveld解析法)で計算される。
【0152】
{式[10]蛍光体の特性}
[発光色]
式[10]蛍光体は、455nmの波長を有する励起光を照射する励起した時の発光が、CIE(国際照明委員会)1931XYZ表色系で表した色度座標x、yで、以下の式を満たすことが好ましい。
0.43≦x≦0.50、
0.48≦y≦0.55
なお、色度座標x、yの算出は、測定されたスペクトルから、蛍光体に吸収されなかった励起光を除いた蛍光体だけのスペクトルを用いて行う。
【0153】
色度座標xの値は、0.43以上が好ましく、0.44以上がより好ましく、0.45以上がさらに好ましく、0.46以上が特に好ましく、また、0.50以下が好ましく、0.495以下がより好ましく、0.49以下がさらに好ましい。このような範囲を取ることにより、ガリウムナイトライド系青色LEDまたはレーザーで励起したときに、3000Kから5000Kの暖色(電球色)の白色発光を得ることができるので好ましい。
【0154】
色度座標yの値については、色度座標xの値として連動して変化する。すなわち、xが大きくなれば、yが小さくなる。yの値は、0.48以上が好ましく、0.49以上がより好ましく、また、0.55以下が好ましく、0.54以下がより好ましい。
【0155】
[発光スペクトル]
式[10]蛍光体は、波長300nm以上、460nm以下の光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特性を有することが好ましい。
【0156】
本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおけるピーク波長が、通常546nm以上、好ましくは550nm以上、また、通常570nm以下、好ましくは565nm以下である。上記範囲内であると、得られる蛍光体において、良好な緑色ないし黄色を呈する点で好ましい。
【0157】
[式[10]蛍光体の粒径]
式[10]蛍光体の体積メジアン径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、また、通常35μm以下、好ましくは25μm以下の範囲である。上記範囲とすることで、輝度の低下が抑制され、また蛍光体粒子の凝集を抑制できるため好ましい。なお、体積メジアン径は、例えばコールターカウンター法で測定でき、代表的な装置としては、精密粒度分布測定装置マルチサイザー(ベックマンコールター社製)が挙げられる。
【0158】
[式[10]蛍光体の体積分率]
焼結蛍光体の全体積に対する式[10]蛍光体の体積分率は、通常1%以上、50%以下である。体積分率は、焼結蛍光体の大きさ、厚み、形状、表面粗さ、発光装置の構造などによって影響されるため、所望の発光色を得るために調整されるべきパラメータであるが、窒化物蛍光体の体積分率が低すぎると、十分な波長変換ができず、体積分率が高すぎると波長変換効率が低下したり、フッ化物無機バインダの含有率が低くなりすぎるために、適切な機械強度の焼結蛍光体を製造するのが難しくなる。
【0159】
例えば、厚さ200ミクロンの焼結蛍光体を用いて白色、あるいは電球色の発光装置を構成する場合、上記体積分率の好ましい範囲は、3%以上、20%以下であり、15%以下であることが更に好ましい。もし厚みを小さくした場合には体積分率を上げ、厚みを大きくした場合は体積分率を下げる。
【0160】
尚、本実施形態の焼結蛍光体が、式[10]蛍光体以外の蛍光体を含む場合、上記体積分率は、その他の蛍光体を含めて上記範囲内となることが好ましい。
【0161】
本実施形態の焼結蛍光体において、含有される式[10]蛍光体は、1種のみであってもよく、異なる2種を含んでいてもよい。異なる2種としては、組成が異なるものや粒径が異なるもの、また色度が異なるものなどが挙げられる。
【0162】
{式[10]蛍光体の製造方法}
式[10]蛍光体の製造方法は、式[10]蛍光体及びその効果が得られるものであれば、特に制限はないが、以下に好ましい製法について説明する。
【0163】
[原料]
式[10]蛍光体の製造方法に用いられる原料(La源、A源、Si源、M源)の詳細は、前記発明1と同様である。
【0164】
(原料の混合)
蛍光体製造用合金を使用する場合には、含有される金属元素の組成が、前記式[10]で表される組成に一致していれば蛍光体製造用合金のみ、または必要に応じてフラックス(成長補助剤)を混合して焼成すればよい。
【0165】
一方、蛍光体製造用合金を使用しない場合またはその組成が一致していない場合には、別の組成を有する蛍光体製造用合金、金属単体、金属化合物などを蛍光体製造用合金と混合して、原料中に含まれる金属元素の組成が前記式[10]で表される組成に一致するように調製し、焼成することができる。ただし、発明1の蛍光体の製造の方法で詳述した通り、目的の蛍光体の組成範囲よりも比較的多めに原料、特にLa元素を仕込むことにより、La元素、A元素、M元素が適切な量取り込まれた結晶相を得ることができ、不純物相が少なく発光輝度の高い式[10]蛍光体を得ることができる。金属元素の仕込みの組成については、発明1に記載方法を参照して、適宜調整し、決定することができる。
【0166】
式[10]蛍光体の場合、(La、A元素)とSiとNの理論上の組成比は3:6:11であることが好ましいため、仕込み組成も上記化学量論比とすることが好ましい。この場合、LaとLaサイトを置換する元素の合計とSiのモル比を、理論組成の1:2から1:1.5程度の範囲で変更してもよい。この組成比の変更は、原料中の酸素の割合が、高い場合に特に好ましい。
【0167】
蛍光体原料の混合は、公知の手法を用いればよい。ポット中に溶媒とともに投入し、ボールで原料を砕きながら混合する方法、乾式で混合し、メッシュパスさせる方法などが使用できる。溶媒中で分散、混合した場合には、当然ながら溶媒を除去し、必要に応じ乾燥凝集をほぐす。これらの操作は、窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0168】
尚、式[10]蛍光体を製造する際には、フラックスを用いてもよい。フラックスとしては、例えば、国際公開第2008/132954号、国際公開第2010/114061号の各公報等に記載されたものが使用できる。
【0169】
[焼成工程および後処理工程]
このようにして得られた原料混合物の焼成工程および後処理工程の詳細は、前記発明1と同様である。
【0170】
{フッ化物無機バインダ}
[フッ化物無機バインダ、およびフッ化物無機バインダ粒子]
本発明の実施形態に係る焼結蛍光体において、フッ化物無機バインダが存在することを確認するための手法としては、X線回折による無機バインダ相の同定、電子顕微鏡による焼結体表面あるいは断面構造の観察および元素分析、蛍光X線による元素分析などが挙げられる。
【0171】
焼結蛍光体の全体積に対する窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダの合計体積分率は、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。合計体積分率が低いと本発明の効果を発揮することができなくなるからである。
【0172】
しかしながら、窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダ以外の成分が、熱伝導性向上や屈折率の調整を目的として添加される成分であれば、上記合計体積分率が上記好ましい範囲より低くなることが許容される。
【0173】
また、窒化物蛍光体とフッ化物無機バインダの全体積に対するフッ化物無機バインダの体積分率は、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、また通常99体積%以下、好ましくは98%以下、より好ましくは97%以下である。
【0174】
本実施形態では、フッ化物無機バインダは窒化物蛍光体を分散させるマトリックスとして用いられる。マトリックスとしては、フッ化物無機バインダ以外を含んでいてもよいが、結晶性の化合物であることが好ましい。当該フッ化物無機バインダは、発光素子から放出された励起光の一部又は窒化物蛍光体から放出された光の少なくとも一部が透過するものが好ましい。また、窒化物蛍光体から放出される光を効率的に取り出すために、フッ化物無機バインダの屈折率が、蛍光体の屈折率に近いことが好ましい。更に、強励起光照射による生じる発熱に耐え、かつ放熱性を有することが好ましい。また、フッ化物無機バインダを用いることで、焼結蛍光体の成型性が良好となる。
【0175】
フッ化物無機バインダとしては、具体的には、CaF2(フッ化カルシウム)、MgF2(フッ化マグネシウム)、BaF2(フッ化バリウム)、SrF2(フッ化ストロンチウム)、LaF3(フッ化ランタン)、YF3(フッ化イットリウム)、AlF3(フッ化アルミニウム)等のアルカリ土類金属、希土類金属のフッ化物や典型金属、及び、これらの複合体からなる群から選ばれる何れか1種以上のものが主成分として使用される。ここで、主成分とは使用するフッ化物無機バインダとして50重量%以上を占めることを意味する。
【0176】
中でも、コストや焼結のしやすさの観点でフッ化物無機バインダとしてCaF2を使用することが好ましい。あるいは、フッ化物無機バインダとして、CaF2を50重量%以上含む複合体を使用することが好ましく、80重量%以上含む複合体を使用することがさらに好ましく、90重量%以上含む複合体を使用することが特に好ましい。さらにフッ化物無機バインダは、5%以下の分量のこれら以外のハロゲン化物・酸化物・窒化物を含んでいてもよい。
【0177】
フッ化物無機バインダは、フッ化物無機バインダと同じ組成からなる粒子が物理的及び/または化学的に結合されて構成される。
【0178】
(フッ化物無機バインダ粒子の物性)
・粒径
フッ化物無機バインダ粒子は、その体積メジアン径が、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは0.05μm以上であり、また、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下、特に好ましくは2μm以下である。
【0179】
フッ化物無機バインダ粒子が上記範囲であることで、焼結温度を低減させることが可能となり、窒化物蛍光体と無機バインダが反応することによる窒化物蛍光体の失活を抑制することができ、焼結蛍光体の内部量子効率の低下を抑制できる。
【0180】
なお、体積メジアン径は、例えば前述のコールターカウンター法で測定でき、その他の代表的な装置としては、レーザー回折粒度分布測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、精密粒度分布測定装置マルチサイザー(ベックマンコールター社製)等を用いて測定する。
【0181】
・純度
フッ化物無機バインダ粒子の純度を確認するための手法としては、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES分析)、蛍光X線による元素定量分析などが挙げられる。
【0182】
フッ化物無機バインダ粒子の純度は、通常99%以上、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.9%以上である。上記範囲内であると、焼結後に異物が発生し難く、透過性や発光効率といった焼結体の特性が良好であるため好ましい。
【0183】
・屈折率
フッ化物無機バインダ粒子の屈折率を確認するための手法としては、フッ化物無機バインダ粒子からなる焼結体を鏡面研磨し、それを用いて最小偏角法、臨界角法、Vブロック法により測定する方法が挙げられる。
【0184】
フッ化物無機バインダ粒子の屈折率nbは、窒化物蛍光体の屈折率npとの比 nb/npが、通常1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下である。屈折率比が1より大きいと、焼結後の光取り出し効率を低下させる傾向がある。このため上記範囲が好ましい。
【0185】
・熱伝導率
フッ化物無機バインダ粒子の熱伝導率を確認するための手法としては、フッ化物無機バインダ粒子からなる焼結体を作製し、それを用いて定常加熱法、レーザーフラッシュ法、周期加熱法により測定する方法が挙げられる。
【0186】
フッ化物無機バインダ粒子の熱伝導率は、通常3.0W/(m・K)以上、好ましくは5.0W/(m・K)以上であり、より好ましくは10W/(m・K)以上である。熱伝導率が3.0W/(m・K)より小さいと、強励起光照射によって焼結蛍光体の温度が上昇する場合があり、蛍光体及び周辺部材を劣化させる傾向がある。このため上記範囲が好ましい。
【0187】
フッ化物無機バインダには、屈折率調整や熱伝導率向上を目的として、蛍光体以外の成分の粒子を添加することが出来る。上記目的の粒子としては、光吸収が少なく、熱伝導性に優れたものが好ましく、窒化硼素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、マグネシアが好ましい。放熱性の観点では、窒化硼素が好ましく、光吸収が少ないという観点ではアルミナ、マグネシア、酸化ケイ素が好ましい。
【0188】
上記粒子の焼結蛍光体中の体積分率は、50%以下が好ましく、30%以下が更に好ましい。多すぎると焼結蛍光体が実用上必要な機械強度とならない恐れがある。また、上記粒子の粒子サイズは、10ミクロン以下が好ましく、5ミクロン以下が更に好ましく、2ミクロン以下が特に好ましい。粒径が小さいほうが、フッ化物無機バインダ中に均等に分散されやすく、焼結蛍光体として均質なものが得られやすくなる。
【0189】
・融点
フッ化物無機バインダ粒子は、その融点が低いことが好ましい。融点が低いフッ化物無機バインダ粒子を用いることで、焼結温度を低減させることが可能となり、窒化物蛍光体と無機バインダが反応することによる窒化物蛍光体の失活を抑制することができ、焼結蛍光体の内部量子効率の低下を抑制できる。具体的には、融点が1500℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。下限温度は特段限定されず、通常500℃以上である。
【0190】
・溶解度
フッ化物無機バインダ粒子は、溶解度が20℃において、水100g当たり、0.05g以下であることが好ましい。
【0191】
[式[10]蛍光体以外のその他の蛍光体]
本実施形態の焼結蛍光体は、本発明の効果を損なわない範囲で、式[10]蛍光体以外のその他の蛍光体を含んでいてもよい。その他の蛍光体としては、(酸)窒化物蛍光体であってもよく酸化物蛍光体であってもよく、またその両方を含んでいてもよい。
【0192】
以下に、その他の蛍光体の具体例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0193】
((酸)窒化物蛍光体)
本実施形態の焼結蛍光体に含まれていてもよい(酸)窒化物蛍光体は、下記のものが挙げられる。
【0194】
ストロンチウム及びケイ素を結晶相に含む窒化物蛍光体(具体的には、SCASN((Ca,Sr,Ba,Mg)AlSiN3:Eu及び/又は(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu))、Sr2Si5N8:Eu)、カルシウム及びケイ素を結晶相に含む窒化物蛍光体(具体的には、SCASN,CASN(CaAlSiN3:Eu)、CASON((CaAlSiN3)1-x(Si2N2O)x:Eu(式中0<x<0.5)))、ストロンチウム、ケイ素、及びアルミニウムを結晶相に含む窒化物蛍光体(具体的には、SCASN、Sr2Si5N8:Eu)、カルシウム、ケイ素、及びアルミニウムを結晶相に含む窒化物蛍光体(具体的には、SCASN、CASN、CASON)が挙げられる。
【0195】
さらに、具体的には、例えば、
次の一般式で表すことができるβサイアロン:Si6-z AlzOz N8-z:Eu(式中0<z<4.2)、αサイアロン、
次の一般式で表されるLSN;LnxSiyNn:Z(式中Lnは付活元素として用いる元素を除いた希土類元素である。Zは付活元素である。2.7≦x≦3.3、5.4≦y≦6.6、10≦n≦12を満たす。)
次の一般式で表されるCASN:CaAlSiN3:Eu、
次の一般式で表すことができるSCASN:(Ca,Sr,Ba,Mg)AlSiN3:Eu及び/又は(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu)、
次の一般式で表すことができるCASON:(CaAlSiN3)1-x(Si2N2O)x:Eu(式中0<x<0.5)、
次の一般式で表すことができるCaAlSi4N7:(Sr,Ca,Ba)1-yAl1+xSi4-xOxN7-x:Euy(式中、0≦x<4、0≦y<0.2)、
次の一般式で表すことができるSr2Si5N8:Eu、すなわち、(Sr,Ca,Ba)2AlxSi5-xOxN8-x:Eu(式中0≦x≦2)等の蛍光体が挙げられる。
【0196】
これらの蛍光体の中でも、焼結蛍光体にした時の輝度が良好であるという観点からは、構成元素として酸素を含まない窒化物蛍光体(不可避的に混入する酸素は含む)、即ち、LSN、CASN、SCASN、Sr2Si5N8:Eu、βサイアロン等の窒化物蛍光体を用いることが好ましい。
【0197】
特に、LSN蛍光体と式[10]蛍光体を両方含有する焼結蛍光体は、発光効率と演色性のバランスに優れた発光装置を作ることが出来るので好ましい。この場合のLSN蛍光体は上記式中のLnがすべてLaであることが好ましい。
【0198】
このように蛍光体2種類を含有する焼結蛍光体は、量産製造時に、蛍光体のロット間バラツキの影響を2種類の蛍光体の配合比で調整出来るため製造が容易な点で好ましい。この構成により作製される発光装置の相関色温度は、3000K以上にすることが好ましく、4000K以上が更に好ましく、また、6500K以下が好ましい。相関色温度の高い照明は視感度の高い光を比較的多く含むため、明るく感じられる。
【0199】
また、CASN蛍光体またはSCASN蛍光体と式[10]蛍光体を両方含有する焼結蛍光体は、低色温度の光を発する発光装置に好適に利用でき、発光効率と演色性のバランスに優れた発光装置を作ることが出来るので好ましい。
【0200】
(酸化物系蛍光体)
本実施形態の焼結蛍光体に含まれていてもよい酸化物蛍光体としては、下記のものが挙げられる。
【0201】
Y3Al5O12:Ce、Lu3Al5O12:Ce等のガーネット構造の酸化物蛍光体を利用できる。なお、これらの構成元素を一部置換したものも含まれる。置換の方法としてYをGd、Tb、Luに、AlをGaに、LuをGd、Tb、Yに置換することが出来る。
【0202】
あるいは、Ca3Sc2Si3O12:Ce、Ca3Sc2Si3O12:Ce、Mg、Lu2CaMg2Si3O12:Ce等のシリケート系蛍光体を利用できる。SrAl2O4:Euや、Sr4Al14O25:Eu等のアルミン酸塩蛍光体も利用できる。
【0203】
尚、上記の(酸)窒化物蛍光体および酸化物蛍光体における粒径や体積分率は、式[10]蛍光体の項で記載したものと同様である。好ましい態様も同様である。
【0204】
特に、Y3Al5O12:CeまたはAlでGaを一部置換したY3Al5O12:Ceと、式[10]蛍光体を両方含有する焼結蛍光体は、発光効率と演色性のバランスに優れた発光装置を作ることが出来るので好ましい。この構成により作製される発光装置の相関色温度は、5000K以上にすることが好ましく、6000K以上が更に好ましい。
【0205】
[焼結蛍光体の製造方法]
上述した窒化物蛍光体及びフッ化物無機バインダ粒子、又はガーネット系蛍光体、窒化物蛍光体、及びフッ化物無機バインダ粒子を主たる原料とし、これらの混合物を圧密・焼結することで、上記材料の複合体である焼結蛍光体を製造することができるが、製法についての制限は特にない。より好ましい製造方法を以下に記載する。
【0206】
[焼結蛍光体の製造方法]
上述した窒化物蛍光体及びフッ化物無機バインダ粒子、又はガーネット系蛍光体、窒化物蛍光体、及びフッ化物無機バインダ粒子を主たる原料とし、これらの混合物を圧密・焼結することで、上記材料の複合体である焼結蛍光体を製造することができるが、製法についての制限は特にない。より好ましい製造方法を以下に記載する。
【0207】
具体的には、以下の(工程1)~(工程2)が例示される。
(工程1)窒化物蛍光体(又はガーネット系蛍光体及び窒化物蛍光体)と無機バインダ粒子を撹拌・混合し、加圧プレス成形し、成形体を焼結する工程
(工程2)窒化物蛍光体(又はガーネット系蛍光体及び窒化物蛍光体)と無機バインダ粒子を撹拌・混合し、加圧プレスと同時に焼結する工程
【0208】
(工程1)
・撹拌・混合工程
最初に、窒化物蛍光体(又はガーネット系蛍光体及び窒化物蛍光体)と無機バインダ粒子を混合させ、窒化物蛍光体等と無機バインダ粒子の混合粉を得る。窒化物蛍光体等と無機バインダ粒子からなる焼結体全体を100%とした場合、フッ化物無機バインダの体積分率が、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であり、通常99%以下、好ましくは98%以下、より好ましくは97%以下となるよう、混合させる。
【0209】
これらを撹拌・混合する方法は、例えば、ボールミル、Vブレンダーなどの乾式混合法、あるいは、窒化物蛍光体等と無機バインダに溶媒を加えてスラリー状態にし、ボールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、2軸混練機などを用いた湿式混合法、等が挙げられる。
【0210】
撹拌・混合時間は、通常0.5時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。このように、機械的に撹拌・混合することにより、全体を均一に混合させることが可能である。
【0211】
ここで、加圧プレスによる成形性を上げるために、有機バインダ、分散剤、更に溶媒を加えても構わない。有機バインダ等を加える場合、例えば、焼結体全体を100重量%とした場合、有機バインダを通常0.1重量%以上5重量%以下、分散剤を通常0.01重量%以上3重量%以下、溶媒を通常10重量%以上70重量%以下混合し、スラリーを作製する。
【0212】
この場合、有機バインダには、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルブチラール、メチルセルロース、デンプン等を用いることができる。分散剤には、ステアリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム等を用いることができる。溶媒には、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを用いることができる。これらは単独、あるいは混合して用いても構わない。
【0213】
これらを混合する方法は、例えば、ボールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、2軸混練機などを用いた湿式混合法、等が挙げられる。有機バインダ等を加える場合、撹拌・混合時間は、通常0.5時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。このように、機械的に撹拌・混合することにより、全体を均一に混合させることが可能である。また、有機バインダが被覆された無機バインダ粒子を用いて、蛍光体と混合しても構わない。
【0214】
湿式混合の場合、撹拌・混合工程の次に、溶媒乾燥・造粒工程を行う。溶媒乾燥・造粒工程では、撹拌・混合工程により得られたスラリーを、所定の温度で溶媒を揮発させて、窒化物蛍光体等と無機バインダ粒子と有機バインダの混合粉を得る。あるいは、公知の噴霧乾燥装置(スプレードライヤー装置)を使用することにより、所定の粒径を有する造粒粒子を作製しても構わない。
【0215】
造粒粒子の平均粒径は、通常22μm以上、好ましくは24μm以上、より好ましくは26μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。造粒粒子径が小さいと、嵩密度が小さくなり、粉体ハンドリング性、プレス金型への充填が困難になり、造粒粒子径が大きいと、プレス後の成形体中に気孔が残留し、焼結度の低下につながる。
【0216】
・成形工程
ここでは、一軸金型成形、冷間静水圧成形(CIP)を用いて、撹拌・混合工程で得られた混合粉をプレス成形し、目的の形状のグリーン体を得る。成形時の圧力は、通常1MPa以上、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上であり、通常1000MPa以下である。成形時の圧力が低すぎると、成形体を得ることができず、圧力が高すぎると、蛍光体に機械的ダメージを与え、発光特性を低下させる原因となりえる。
【0217】
・脱脂工程
必要に応じ、有機バインダを用いて成形したグリーン体から、空気中で有機バインダ成分を焼き飛ばす脱脂を実施する。脱脂に使用する炉は所望の温度、圧力を実現できれば特段限定されない。
【0218】
上記要件を満たせば特に制約はないが、例えば、シャトル炉、トンネル炉、リードハンマー炉、オートクレーブ等の反応槽、タンマン炉、アチソン炉、ホットプレス装置、パルス通電加圧焼結装置、熱間静水圧焼結装置、加圧雰囲気炉、加熱方式も、高周波誘導加熱炉、直接式抵抗加熱、間接式抵抗加熱、直接燃焼加熱、輻射熱加熱、通電加熱等を用いることができる。処理時には、必要に応じて攪拌を行なってもよい。
【0219】
脱脂処理の雰囲気は、特に限定されるものではないが、大気中、あるいは大気フロー下において実施することが好ましい。脱脂処理温度は、使用する無機バインダにより適する温度範囲は異なるが、通常300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1200℃以下、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下である。
【0220】
脱脂処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、通常6時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下である。処理温度、時間がこの範囲より小さい場合、十分に有機成分を取り除くことができず、この範囲より大きい場合は、蛍光体の酸化等表面が変質し、発光特性を低下させる原因となる傾向にある。
【0221】
脱脂工程において、熱履歴温度条件、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は、適宜設定できる。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温することもできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも、また一基でも複数基でもよい。
【0222】
・焼結工程
成形工程及び/又は脱脂工程を経て得られた成形体を焼結することにより、焼結蛍光体を得る。焼結に使用する工程は、所望の温度、圧力を実現できれば特段限定されない。例えば、シャトル炉、トンネル炉、リードハンマー炉、オートクレーブ等の反応槽、タンマン炉、アチソン炉、ホットプレス装置、パルス通電加圧焼結装置、熱間静水圧焼結装置、加圧雰囲気炉、加熱方式も、高周波誘導加熱炉、直接式抵抗加熱、間接式抵抗加熱、直接燃焼加熱、輻射熱加熱、通電加熱等を用いることができる。処理時には、必要に応じて攪拌を行なってもよい。
【0223】
焼結処理の雰囲気は、特に限定されるものではないが、N2雰囲気下、Ar雰囲気下、真空下、あるいは大気フロー下、N2フロー下、Arフロー下、大気加圧下、N2加圧下、Ar加圧下、において実施することが好ましい。特に昇温時は真空下で加熱することにより原料由来の脱ガスを促進することができるためボイドが少ない焼結体を得るのに有効である。また、適宜雰囲気ガス中にH2を導入してもよい。
【0224】
焼結処理温度は、使用する無機バインダにより最適温度範囲は異なるが、通常300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1900℃以下、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1300℃以下である。また、焼結温度は、使用するフッ化物無機バインダの融点より、通常50℃以下の温度であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0225】
ここで、フッ化カルシウム(CaF2)の融点は1418℃、フッ化ストロンチウム(SrF2)の融点は1477℃である。焼結処理の雰囲気を加圧下で実施してもよい。また成型工程の後、焼結の前に焼結温度より低い温度で脱ガス工程を行うことも可能である。
【0226】
焼成時の昇温速度は通常10℃/分以下、好ましくは2.5℃分以下、より好ましくは1℃/分以下である。昇温時間が早いと原料からのガスが抜ける前に焼結が進んでしまい、焼結度低下の原因となりうる。昇温速度を制御する代わりに、焼成トップ温度より低い温度で保持後温度を上げて焼成すること、又は脱ガス処理工程として焼成トップ温度より低い温度で予備焼成することも有効である。
【0227】
焼結処理時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、通常6時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下である。この処理温度、時間がこの範囲より小さい場合、十分に有機成分を取り除くことができず、この範囲より大きい場合は、蛍光体の酸化等表面が変質し、発光特性を低下させる原因となる。
【0228】
焼結工程において、熱履歴温度条件、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は、適宜設定する。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温することもできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも、また一基でも複数基でもよい。
【0229】
一度焼結工程において得られた成形体を、更に焼結させることもできる。焼結に使用する工程は、特に制限はないが、熱間静水圧焼結装置などが挙げられる。
【0230】
また、焼結工程において、適宜焼結助剤を用いることができる。焼結工程に使用する焼結助剤として特に制限はないが、例えば、MgO、Y2O3、CaO、Li2O、BaO、La2O3、Sm2O3、Sc2O3,ZrO2、SiO2、MgAl2O4、LiF、NaF、BN、AlN、Si3N4、Mg、Zn、Ni、W、ZrB2、Ti、Mn、などが挙げられ、これらを2種以上混合して用いても構わない。
【0231】
(工程2)
・撹拌・混合工程
工程1の撹拌・混合工程と同様に実施することができる。
【0232】
・加圧プレス焼結工程
撹拌・混合工程により得られた窒化物蛍光体等と無機バインダ粒子との混合粉を、加圧しながら加熱することにより、焼結蛍光体を得る。加圧プレス焼結に使用する炉は、所望の温度、圧力を実現できれば特段限定されない。
【0233】
例えば、ホットプレス装置、パルス通電加圧焼結装置、熱間静水圧焼結装置、加熱方式も、高周波誘導加熱炉、直接式抵抗加熱、間接式抵抗加熱、直接燃焼加熱、輻射熱加熱、通電加熱等を用いることができる。
【0234】
加圧プレス焼結処理の雰囲気は、特に限定されるものではないが、N2雰囲気下、Ar雰囲気下、真空下、あるいは大気フロー下、N2フロー下、Arフロー下、大気加圧下、N2加圧下、Ar加圧下、において実施することが好ましい。また、適宜雰囲気ガス中にH2を導入してもよい。
【0235】
焼結処理温度は、使用する無機バインダにより最適温度範囲は異なるが、通常300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1900℃以下、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1300℃以下、更に好ましくは1000℃以下である。
【0236】
また、焼結温度は、使用するフッ化物無機バインダの融点より、50℃以上低い温度であればよく、好ましくは100℃以上低い温度、より好ましくは150℃以上低い温度である。ここで、フッ化カルシウム(CaF2)の融点は1418℃、フッ化ストロンチウム(SrF2)の融点は1477℃である。
【0237】
焼結処理時間は、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、通常6時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下である。
【0238】
加圧プレス圧力は、通常1MPa以上、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上であり、通常1000MPa以下、好ましくは800MPa以下、より好ましくは600MPa以下である。成形時の圧力が低すぎると、成形体を得ることができず、圧力が高すぎると、蛍光体に機械的ダメージを与え、発光特性を低下させる原因となりえる。
【0239】
加圧プレス焼結工程において、熱履歴温度条件、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は、適宜設定する。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温することもできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも、また一基でも複数基でもよい。
【0240】
また、焼結工程において、適宜焼結助剤を用いることができる。焼結工程に使用する焼結助剤としては特に制限はないが、MgO、Y2O3、CaO、Li2O、BaO、La2O3、Sm2O3、Sc2O3,ZrO2、SiO2、MgAl2O4、LiF、NaF、BN、AlN、Si3N4、Mg、Zn、Ni、W、ZrB2、Ti、Mn、などが挙げられ、これらを2種以上混合して用いても構わない。
【0241】
得られた焼結蛍光体はそのままで用いてもよいが、通常所定の厚みでスライスし、更に研削・研磨により所定の厚みプレート状まで加工することで、板状の焼結蛍光体が得られる。研削・研磨条件は、特に限定されるものではないが、例えば、♯800のダイヤモンド砥石で、砥石回転数80rpm、ワーク回転数80rpm、50g/cm2として研磨を行い、プレート状に加工する。
【0242】
最終的な焼結蛍光体の厚みは、下限が、通常30μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上であり、上限が、通常2000μm以下、好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下、より好ましくは500μm以下である。焼結蛍光体プレートの厚みがこの範囲以下では破損しやすく、一方この範囲を超えると光が透過しにくくなる。
【0243】
さらに表面を適宜研磨した後、適宜ウエットエッチング処理、ドライウェットエッチング処理等により、凹凸加工を施してもよい。
【0244】
{焼結蛍光体の物性}
[焼結蛍光体の特性]
本実施形態の焼結蛍光体は、更に以下のような特性を持つことが好ましい。
・焼結度
本実施形態の焼結蛍光体の焼結度を確認するための手法としては、アルキメデス法による密度ρaを測定し、焼結体の理論密度ρtheoreticalを用いて、ρa/ρtheoretical×100により算出する。
【0245】
ここで、理論密度とは、材料中の原子が理想的に配列しているとした場合の密度である。
【0246】
焼結蛍光体の焼結度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。焼結度が、この範囲であれば、焼結蛍光体内部に存在する空孔(空隙)が少なくなり、光透過率、光取り出し効率(変換効率)が向上する。一方、焼結度が、この範囲以下であると、光散乱が強く光取り出し効率が低下する。このため上記範囲が好ましい。なお、焼結蛍光体の焼結度は、焼結温度及び焼結時間を調整することで、上記範囲とすることができる。
【0247】
・吸収率
本実施形態の焼結蛍光体の吸収率を確認するための手法としては、吸光光度計(UV-Vis)、により測定する方法が挙げられる。
【0248】
焼結蛍光体の500nm以上の可視光に対する吸収率は、通常10%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。吸収率が10%より大きいと、発光効率(内部量子効率)、透過率を低下させ、それにより、光取り出し効率(変換効率)を低下させる傾向がある。このため上記範囲が好ましい。
【0249】
一方、500nm以下の光に対する吸収率は、高いほうが好ましく、40%以上が好ましく、50%以上が更に好ましく、60%以上が特に好ましい。500nm以下の光に対する吸収率が高いと、発光装置のLEDまたはレーザーが発生する光を効率よく吸収することができ、蛍光光量を大きくすることができる。
【0250】
・透過率
本実施形態の焼結蛍光体の透過率を確認するための手法としては、積分球及び分光器により測定する方法が挙げられる。
【0251】
焼結蛍光体の透過率は、波長700nmにおける透過率を測定し、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上である。透過率が20%より小さいと焼結蛍光体を透過する励起光の量が低下し、所望の色度を実現にし難くなり、かつ光取り出し効率(変換効率)を低下させる傾向にある。
【0252】
・相関色温度CCT、色度座標CIE-x,y
本実施形態の焼結蛍光体の相関色温度は、LEDから発せられるピーク波長450nmの青色光を照射して得られる青色光の透過光を含めた発光色から算出する。
【0253】
一般照明装置等に用いられる焼結蛍光体の相関色温度は、波長が450nmの青色光で励起した時、通常1900K以上、5000K以下であり、2700K、3000K、4000K、5000Kの照明装置が一般的に用いられることから、これらの色温度に調整することが好ましい。1900Kのような低い相関色温度の照明装置も、ろうそくの光を模した照明として近年利用されており、この相関色温度に調整することも好ましい。
【0254】
・内部量子効率
本実施形態の焼結蛍光体の内部量子効率(iQE)は、ピーク波長450nmの青色光を照射した際の焼結蛍光体が吸収した光子数nexと吸収した光子を変換した変換光の光子数nemからnem/nexとして算出される。波長が450nmの青色光で励起した時に放出される光の内部量子効率が通常40%以上である高輝度発光装置とするためには、焼結蛍光体の内部量子効率は高ければ高いほど好ましく、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上、よりさらに好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。内部量子効率が低いと、光取り出し効率(変換効率)を低下させる傾向がある。
【0255】
{発光装置}
本発明の別の実施形態は、焼結蛍光体と半導体発光素子を備える発光装置である。本発明の発光装置は、少なくとも青色半導体発光素子(青色発光ダイオード、又は、青色半導体レーザー)と、青色光の波長を変換する波長変換部材である本発明の実施形態に係る焼結蛍光体を含有するものである。青色半導体発光素子と焼結蛍光体とは密着していても、離間していてもよく、その間に透明樹脂を備えていてもよく、空間を有していてもよい。
図3に模式図として示す様に半導体発光素子と焼結蛍光体との間に空間を有する構造であることが好ましい。
【0256】
また、青色半導体発光素子の光を効率よく本実施形態の焼結蛍光体に導入するために、青色半導体発光素子と焼結蛍光体とが密着している実施形態も好ましい実施形態である。この場合、焼結蛍光体と、青色半導体発光素子は、相互の熱伝導を促進するために耐熱性・熱伝導性の高い接着剤で接着させるのが好ましい。
【0257】
耐熱性の高い接着剤としてはシリコーン樹脂系接着剤が好ましい。シリコーン樹脂系接着剤としては、熱伝導率を向上させるためのフィラー(微粒子)を含むものが好ましい。焼結蛍光体と青色半導体発光素子の間の相互の熱伝導を高くするために、接着剤の厚みは出来るだけ薄くすることが好ましく、5ミクロン以下とすることが好ましく、2ミクロン以下とすることが更に好ましい。
【0258】
接着剤を使用せず、別の構造的工夫により焼結蛍光体と青色半導体発光素子を密着させる構成も、発光素子全体の耐熱温度を高くすることが出来るという観点で好ましい。なぜなら、シリコーン樹脂系接着剤を用いると一般的に200℃程度と言われているシリコーン樹脂系接着剤の耐熱温度を超えて使用することが出来ないか、使用できても耐久性が劣るものとなってしまうためである。
【0259】
【0260】
図4は、本発明の具体的実施形態に係る発光装置の模式図である。発光装置10は、その構成部材として、少なくとも青色半導体発光素子1と焼結蛍光体3を有する。青色半導体発光素子1は、焼結蛍光体3に含有される蛍光体を励起するための励起光を発する。
【0261】
青色半導体発光素子1は、通常ピーク波長が425nm~475nmの励起光を発し、好ましくはピーク波長が430nm~470nmの励起光を発する。青色半導体発光素子1の数は、装置が必要とする励起光の強さにより適宜設定することが可能である。
【0262】
一方青色半導体発光素子1の代わりに、紫色半導体発光素子を用いることができる。紫色半導体発光素子は、通常ピーク波長が390nm~425nmの励起光を発し、好ましくはピーク波長が395~415nmの励起光を発する。
【0263】
青色または紫色の半導体発光素子としては、インジウムガリウムナイトライド系発光ダイオード(LED)、または、インジウムガリウムナイトライド系半導体レーザーが好ましい。
【0264】
青色または紫色の半導体発光素子の光出力(放射束)は、発光素子の発光面積1mm2あたり1.0W以上が好ましく、2.0W以上がさらに好ましく、3.0W以上が特に好ましい。このように高出力の半導体発光素子と本願発明の焼結蛍光体を組み合わせることにより、大光量の発光素子、照明装置を構成することができる。一般的に利用されているシリコーン樹脂に蛍光体を混合した色変換部材を用いた場合には、シリコーン樹脂の耐熱性、耐久性が十分でないため、このような高出力の半導体発光素子を使用することができない。
【0265】
青色半導体発光素子1は、配線基板2のチップ実装面2aに実装される。配線基板2には、これら青色半導体発光素子1に電極を供給するための配線パターン(図示せず)が形成され、電気回路を構成する。
図4中、配線基板2に焼結蛍光体3が載っているように表示されているがこの限りではなく、配線基板2と焼結蛍光体3が他の部材を介して配置されていてもよい。
【0266】
例えば
図3では、配線基板2と焼結蛍光体3が、枠体4を介して配置される。枠体4は、光に指向性を持たせるために、テーパ状になっていてもよい。また、枠体4は反射材であってもよい。
【0267】
発光装置10の発光効率を向上させる観点から、配線基板2は、電気絶縁性に優れて良好な放熱性を有し、かつ、反射率が高いことが好ましいが、配線基板2のチップ実装面上で青色半導体発光素子1の存在しない面上、もしくは配線基板2と焼結蛍光体3を接続する他の部材の内面の少なくとも一部に反射率の高い反射板を設ける事もできる。
【0268】
焼結蛍光体3は、青色または紫色の半導体発光素子1が発する入射光の一部を波長変換し、入射光とは異なる波長の出射光を放射する。焼結蛍光体3は、フッ化物無機バインダと窒化物蛍光体を含有する。焼結蛍光体は、さらに、別の窒化物蛍光体、黄色若しくは緑色に発光するガーネット系蛍光体、青色もしくは緑色に発光する酸化物蛍光体、赤色に発光する窒化物蛍光体のひとつまたは複数を含有することができ、その種類は、目的とする発光の色や演色性、スペクトル形状等を勘案して選択することが出来る。
【0269】
本発明の発光装置は、色温度の低い白色光を放射する発光装置であることが好ましい。白色光を放射する発光装置は、発光装置から放射される光が、光色の黒体輻射軌跡からの偏差duv(=DUV/1000)が-0.0200~0.0200であり、かつ色温度が1800K以上、5000K以下であることが好ましい。このように白色光を出射する発光装置は、照明装置に好適に備えられる。
【0270】
{照明装置}
本発明の別の実施形態は、上記焼結蛍光体を有する発光装置を備える照明装置である。上記のように、発光装置からは高い全光束が出射されるため、全光束の高い照明器具を得ることが出来る。照明器具は、消灯時に焼結蛍光体の色が目立たないように、発光装置中の焼結蛍光体を覆う拡散部材を配置することが好ましい。
【0271】
{画像表示装置}
本発明の別の実施形態は、上記焼結蛍光体を有する発光装置を備える画像表示装置である。上記のように、本発明の発光装置からは特に赤色光の割合の高い光が出射されるため、この発光装置をバックライトとして用いることにより色バランスのすぐれた画像表示装置が得られる。
【0272】
特に、大光量を必要とするプロジェクター方式のディスプレイの場合、高効率で赤色光を発することが難しいため、本実施形態の焼結蛍光体を用いた発光装置を使用することで、赤色光の効率が高いすぐれたプロジェクター方式ディスプレイが得られる。
【0273】
{車両用灯具・表示灯}
本発明の別の実施形態は、上記焼結蛍光体を有する発光装置を備える車両用灯具・表示灯である。この発光装置は、高出力の前照灯(ヘッドライト)、車幅灯、ポジションライト、スモールランプ、フォグランプ、デイタイムランニングライト、室内照明などの車両用灯具として利用することができる。また、本実施形態の焼結蛍光体は、赤色光の割合の高い光が出射されるため、適宜フィルターやミラー等を組み合わせて利用することにより、車両用の尾灯(テールランプ)、制動灯(ストップランプ)、方向指示器(ターンランプ)に好適に利用できる。
【実施例】
【0274】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0275】
{測定方法}
[発光特性]
試料を銅製試料ホルダーに詰め、MCPD7000(大塚電子社製)を用いて発光スペクトルを測定した。励起光455nmの条件で、380nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、発光スペクトルを得た。
【0276】
色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの480nm~780nmの波長領域のデータからJIS Z8724(1997年)に準じた方法で、JIS Z8701(1999年)で規定されるXYZ表色系における色度座標値xおよびyとして算出した。
【0277】
なお相対輝度は実施例5を波長455nmで励起したときのXYZ表色系におけるY値を100とした際の相対値で表している。また、発光ピーク波長(以下、「ピーク波長」と称することがある。)と発光ピークの半値幅は、得られた発光スペクトルから読み取った。
【0278】
[粉末X線回折測定]
粉末X線回折(XRD)は、粉末X線回折装置X’Pert PRO MPD(PANalytical社製)にて精密測定した。測定条件は、下記の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=45KV,40mA
測定範囲 2θ=10°~150°
読み込み幅=0.008°
粉末X線回折によって得られた回折パターンのピーク位置とLYSNの空間群(P4bm)から、単位格子の精密化を行い、格子定数を算出した。
【0279】
[温度特性測定(発光強度維持率)]
分光蛍光光度計F-7000(日立ハイテクサイエンス社製)と温度制御ユニットを利用して、25℃、100℃、200℃、300℃の各温度における発光ピーク強度を測定して、その維持率を比較した。
【0280】
{蛍光体の製造}
(実施例1)
La:Si=1:1(モル比)の合金、Si3N4、Y2O3、CeF3をLa:Y:Ce:Si=3.00:0.41:0.24:6.0(モル比)になるように秤量し、混合した。これらの操作は、酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0281】
混合した原料をMo製のるつぼに充填し、電気炉内にセットした。装置内を真空排気した後、炉内温度を120℃まで昇温し、炉内圧力が真空であることを確認後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後、1550℃まで炉内温度を昇温し、1550℃で8時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。焼成物をボールミルで粉砕し、1N塩酸中で1時間以上攪拌した後、水洗した。その後、脱水し、120℃の熱風乾燥機で乾燥して、実施例1の蛍光体を得た。
【0282】
(実施例2~5)
仕込み組成比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~5の蛍光体を得た。
【0283】
【0284】
(比較例1)
実施例1において、原料の調合比をLa:Y:Ce:Si=3.00:0.41:0.20:6.00(モル比)になるように秤量した他は、実施例1と同様にして比較例1の蛍光体を得た。
【0285】
(比較例2)
比較例1において、脱水、乾燥後に135℃、0.33MPaで20時間のオートクレーブでの蒸気処理を施した他は、比較例1と同様にして比較例2の蛍光体を得た。
【0286】
(比較例3)
比較例1において、混合するmol量は変化させずにY2O3をLa2O3に変更した他は、比較例1と同様にして比較例3の蛍光体を得た。
【0287】
(実施例6)
焼成時のトップ温度保持時間を8時間から16時間へと変更した他は、実施例5と同様にして実施例6の蛍光体を得た。
【0288】
(実施例7)
実施例5において、原料種をLa:Si=1:1(モル比)の合金、Si3N4、Y2O3、YF3、CeF3とし、YF3:Y2O3=1.00:3.62(モル比)とし、仕込み元素比をLa:Y:Ce:Si=2.90:0.45:0.35:6.00(モル比)とした他は、実施例5と同様にして実施例7の蛍光体を得た。
【0289】
(実施例8)
実施例8において、原料種をLa:Si=1:1(モル比)の合金、Si3N4、Y2O3、YF3、CeF3とし、YF3:Y2O3=1.00:1.81(モル比)とし、仕込み元素比をLa:Y:Ce:Si=2.90:0.50:0.66:6.00(モル比)とした他は、実施例5と同様にして実施例8の蛍光体を得た。
【0290】
(比較例4)
比較例1において、原料の調合比をLa:Y:Ce:Si=2.64:0.36:0.45:6.00(モル比)になるように秤量し、焼成時のトップ温度保持時間を8時間から23時間と変更した以外は、比較例1と同様にして比較例4の蛍光体を得た。
【0291】
(比較例5)
比較例4において、原料の調合比をLa:Y:Ce:Si=2.53:0.34:0.43:6.00(モル比)になるように秤量した他は、比較例4と同様にして比較例5の蛍光体を得た。
【0292】
{発光特性など}
実施例1~8ならびに比較例1~5の蛍光体について、XRD測定の結果から算出した格子定数及び発光特性(色度座標値x、y、発光ピーク波長)を表2に示す。
【0293】
【0294】
表2に示すが如く、本発明のLYSN蛍光体は、従来のLYSN蛍光体よりも長波長領域に発光ピークを有する。そのため本発明の蛍光体を含む発光装置は、赤色蛍光体を使用してなくても色温度が低いものとなる。
【0295】
図1に実施例8と比較例1の蛍光体の発光スペクトル図を示す。また、表3に、発光色度の近い、実施例5及び6、比較例4及び5の蛍光体の発光輝度を測定した結果を示す。尚、発光輝度は、実施例5の蛍光体における発光輝度を100とした相対値で表す。
【0296】
【0297】
表3に示すが如く、実施例5および6の蛍光体は、w値が範囲外である比較例4および5の蛍光体よりも発光輝度が8ポイント以上も向上していることが判る。これは、本発明の蛍光体は、LaSi3N5といったSiリッチな異相が生成しにくく、異相による発光阻害が少ないためと推測される。
【0298】
表4に、実施例6以外のサンプルのICP-OES分析での組成分析結果を示す。
【0299】
【0300】
表4に示すが如く、輝度の低い比較例4、5はSiの含有量が実施例5よりも多く、その結果、La、Ce、Yの合計量の化学量論比である3.00から下回っていることが分かる。このことから、Laの仕込み量の少ない比較例4、5にはLa3Si6N11とは異なるSiリッチの成分が含まれていることが推察される。
【0301】
実施例5及び比較例4、5のXRDパターンを
図2に示す。
図2に示すが如く、比較例4および5はLaSi
3N
5が多く確認され、これにより化学量論比より大きく外れた組成となってしまい、粉体輝度が低下していると考えられる。
【0302】
また、蛍光体の温度に対しての発光ピーク強度の維持率を確認するために、実施例2、5および8の蛍光体について室温での発光色度座標(x、y)および温度特性測定を行った結果を表5に示す。
【0303】
参考例1として、YAG蛍光体BY-102/J(三菱化学社製)、参考例2としてBY-102/Q(三菱化学社製)も同様に測定した結果を表5に示す。尚、表5中、25℃での発光ピーク強度を100%としたときの100℃、200℃、300℃での相対発光ピーク強度を示す。
【0304】
【0305】
表5に示すが如く、実施例2は参考例1よりも、実施例5、8は参考例2に対して高温での発光ピーク強度維持率が良く、同色もしくはより長波発光なYAGと比較しても発光ピークを維持していることが判る。
【0306】
即ち、本発明のLYSN蛍光体は、LEDに広く用いられるYAG蛍光体と比較しても、本発明で実現できるどの発光色度範囲でも優位に発光ピーク強度を維持しており、温度消光が小さい。
【0307】
そのため、本発明の蛍光体は、高温にさらされる高出力のLEDでも高いパフォーマンスを維持することが可能となる。つまり、本発明の蛍光体を含む発光装置は、色ズレなどが生じにくく高品質である。
【0308】
{発光装置の製造と評価}
比較例1および実施例1、3、5~8の蛍光体を用いて発光装置を作製してその色温度を確認した。
【0309】
発光装置での白色評価を行うために、実施例1、3、5~8の蛍光体ならびに比較例1の蛍光体とシリコーン樹脂を撹拌脱泡装置にて混合して分散させて樹脂ペーストを作製し、発光波長445~455nmの青色LEDチップと組み合わせてy=0.352となるように樹脂ペーストの量を調整して発光装置を作製した。
【0310】
その際の作製された発光装置の色度座標値xとyと再現される色温度を表6に示す。
【0311】
【0312】
表6に示すが如く、本発明の蛍光体を含む発光装置は、他の赤および緑色蛍光体を用いなくても、5000K以下である低い色温度を実現することが判る。
【0313】
なお、以下の実施例において、焼結度、蛍光体の発光特性、蛍光体の格子定数、光学特性、透過率の測定は次記により行った。
【0314】
(焼結度)
焼結度は、焼結蛍光体のアルキメデス法により測定した密度ρaを、理論密度ρtheoreticalで除することで算出した。
焼結度(%)=(ρa/ρtheoretical)×100
【0315】
[蛍光体の発光特性]
前記発明1と同様に測定した。
【0316】
[蛍光体の格子定数測定(粉末X線回折測定)]
粉末X線回折(XRD)は、粉末X線回折装置X’Pert PRO MPD(PANalytical社製)にて精密測定した。測定条件は、下記の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=45KV,40mA
走査範囲 2θ=10°~150°
読み込み幅=0.008°
【0317】
得られた回折パターンを用いて、パターンフィッティングにより格子定数aおよびcを求めた。なお、パターンフィッティングは、La3Si6N11の結晶構造(空間群P4bm)に基づいて行った。
【0318】
(光学特性)
LEDチップ(ピーク波長454nm)から発光させた青色光を照射することで焼結蛍光体の発光を得ることができる発光装置を作製した。その装置から出射される発光スペクトルを40inch積分球(LabSphere社製)および分光器MCPD9000(大塚電子社製)を用いて観測し、放射束0.26Wの光でパルス励起した際の色温度色度座標、光束(lumen)を計測した。さらに、光束(lumen)とLEDチップの放射束(W)から変換効率(lm/W)を各強度で算出した。
【0319】
次に、光源としてキセノン分光光源を用い、励起波長を700nmとし、焼結蛍光体へ照射した際の反射および透過スペクトルから、焼結蛍光体の励起波長700nmにおける透過率を測定した。
【0320】
続いて、励起波長450nmに変更し、焼結蛍光体へ照射した際の反射および透過スペクトルから、焼結蛍光体の励起波長450nmにおける内部量子効率、及び、吸収率を測定した。
【0321】
分光光源はスペクトラコープ社製を用い、20inch積分球LMS-200(LabSphere社製)及び分光器Solid LambdaUV-Vis(Carl Zeiss社製)によって反射および透過スペクトルを観測した。
【0322】
(実施例15)
[LYSN蛍光体の製造]
実施例8と同様にしてLYSN蛍光体1を得た。この蛍光体のメジアン粒径は30μmであった。
【0323】
この蛍光体の粉末X線回折パターンを
図5に示す。このデータを元に格子定数aおよびcを計算した結果を表7に示す。また発光特性の測定結果についても表7に示す。
【0324】
[焼結蛍光体の作製]
焼結蛍光体のフッ化物無機バインダ材料として、CaF2粉末(白辰化学研究所、1μm以下の微粒子)を2.0g用い、上記のLYSN蛍光体1((La,Y)3Si6N11:Ce)を焼結体中の蛍光体濃度が8体積%となるように0.27gをそれぞれ秤量し、乳鉢による混合を実施した。これらの粉末をボール無のボールミル架台上での回転によって2時間乾式混合し、焼結用原料に供した。
【0325】
この原料2.0gを上部パンチ、下部パンチと円柱状ダイからなる一軸プレス用ダイ(ステンレス製、Φ20mm)にセット後、10トンのプレス加圧をかけ、5分間保持後、圧力を開放して、Φ20mm、厚さ3mmのペレットを得た。
【0326】
得られたペレットを真空ラミネートパックし、冷間静水圧成形(CIP)装置(日機装 ラバープレス)に導入し、300MPa、1分間加圧した。この後、焼成炉(管状炉)(入江製作所 管状炉IRH)に導入し、10℃/minで1200℃まで昇温し、60min保持後、炉冷し、Φ18mm、厚さ3mmの焼結体を得た。この焼結体の焼結密度を前記方法により測定した。
【0327】
(研削加工及び評価)
得られた焼結蛍光体Φ18mm、厚さ3mmの焼結蛍光体から、ダイヤモンドカッターで厚み0.5mm程度に切断し、さらにグラインダー研削を用いて、Φ18mm、厚み0.2mmの焼結蛍光体を作製した。
【0328】
当該焼結蛍光体を用いて波長700nmの透過率、内部量子効率、450nmの吸収率を測定した。さらに前記方法により発光装置を作製し、全光束、変換効率、色度座標、相関色温度、偏差D
UV(=d
uv×1000)を測定した。また、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)を調べた。得られた結果を表8~10に示す。また、LED励起による発光スペクトルを
図7に示す。
【0329】
(実施例16)
実施例2と同様にして、LYSN蛍光体2を得た。この蛍光体のメジアン粒径は20μmであった。この蛍光体の粉末X線回折パターンを
図6に示す。このデータを元に格子定数aおよびcを計算した結果を表7に示す。また発光特性の測定結果についても表7に示す。
【0330】
この蛍光体を用いて、実施例15の[焼結蛍光体の作製]手順により焼結蛍光体を得た。ただし、蛍光体の添加量は、CaF2 2.0gに対して、蛍光体が6体積%になるよう、0.2gとした。
【0331】
この焼結蛍光体に追加の熱処理として、熱間等方圧加圧装置(HIP)によりAr雰囲気で1100℃まで昇温し100MPa下で1時間保持を行った。これによりΦ18mm、厚さ3mmの実施例16の焼結蛍光体を得た。
【0332】
これ以降の加工及び評価は実施例15と同様に行い、同様に評価結果を得た。また、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)を調べた。得られた結果を表8~10に示すまた、LED励起による発光スペクトルを
図7に示す。
【0333】
【0334】
【0335】
表8に示すが如く、本実施形態の焼結蛍光体は、焼結密度や透過率が高い。更に、本発明の焼結体は、量子収率と励起光(450nm)の吸収率が高い。
【0336】
【0337】
【0338】
表9および表10に示すが如く、本実施形態の焼結蛍光体を用いた発光装置は、発光効率が高く、高輝度で、かつ、赤色成分の多い低色温度域で発光することが可能である。
【0339】
(実施例17)
ピーク波長454nmの青色LEDと、上記LYSN蛍光体2とLSN蛍光体(La
3Si
6N
11:Ce)BY-201/F(三菱化学社製)を用いて作製した相関色温度6500Kの発光装置の発光スペクトルをシミュレーションにより算出し、
図8に示す。発光装置の色度座標x、および、y、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)、相関色温度、偏差D
UVを表11に示す。
【0340】
(実施例18)
実施例17において、LSN蛍光体BY-201/Fの代わりにYAG蛍光体(Y
3Al
5O
12:Ce)BY-102/H(三菱化学社製)を用いた他は、実施例17と同様にシミュレーションを行って相関色温度6500Kの発光装置のスペクトルを得た。この結果を
図9に示す。発光装置の色度座標x、および、y、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)、相関色温度、偏差D
UVを表11に示す。
【0341】
【0342】
表11に示すが如く、本発明の発光装置は、相関色温度6500Kの高効率の白色発光装置である。本実施例の構成においては、蛍光体2種類を含有する焼結蛍光体を用いているため、量産製造時に、蛍光体のロット間バラツキの影響を2種類の蛍光体の配合比調整で相殺することが出来るという点で製造が容易な発光装置である。
【0343】
(実施例19)
ピーク波長454nmの青色LEDと、上記LYSN蛍光体2と窒化物赤色蛍光体としてSCASN蛍光体((Sr,Ca)AlSiN
3:Eu)BR-102/L(三菱化学社製)を用いて作製した相関色温度3000Kの発光装置の発光スペクトルをシミュレーションにより算出し、
図10に示す。発光装置の色度座標x、および、y、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)、相関色温度、偏差D
UVを表12に示す。
【0344】
(実施例20~22)
実施例19において、窒化物赤色蛍光体をBR-102/Lの代わりに表12に示す窒化物蛍光体を用いた他は、実施例19と同様にシミュレーションをして発光装置の発光スペクトルを得た。得られた発光スペクトルを
図10に示す。発光装置の色度座標x、および、y、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)、相関色温度、偏差D
UVを表12に示す。
【0345】
(実施例23~26)
発光装置の相関色温度を4000Kとしたことを除いて実施例19と同様にシミュレーションをして発光装置の発光スペクトルを得た。得られた発光スペクトルを
図11に示す。発光装置の色度座標x、および、y、演色性評価数(Ra、および、R1~R15)、相関色温度、偏差D
UVを表13に示す。
【0346】
【0347】
表12に示すが如く、本発明の発光装置は、相関色温度3000Kという低色温度の発光を放射する発光装置である。熱伝導率の高いフッ化物無機バインダを使用しているため、焼結蛍光体を励起する青色LEDの出力を高めても発光効率が低下しにくいことが期待される。また、窒化物赤色蛍光体の品種を変えることで演色性を調整することができ、演色性を低く抑えることで変換効率を向上させることが出来るので、所望の変換効率、光束、演色性を示す発光装置を得ることができる。
【0348】
【0349】
表13に示すが如く、本発明の発光装置は、相関色温度4000Kという低色温度の発光を放射する発光装置である。熱伝導率の高いフッ化物無機バインダを使用しているため、焼結蛍光体を励起する青色LEDの出力を高めても発光効率が低下しにくいことが期待される。また、窒化物赤色蛍光体の品種を変えることで演色性を調整することができ、演色性を低く抑えることで変換効率を向上させることが出来るので、所望の変換効率、光束、演色性を示す発光装置を得ることができる。
【0350】
(実施例27)
実施例16のLYSN蛍光体2とLSN蛍光体(La
3Si
6N
11:Ce)BY-201/G(三菱化学社製)の体積比92:8の混合粉用いて、実施例16と同様の手順により焼結蛍光体を得た。加工時の厚みを0.24mmとする以外これ以降加工及び評価は実施例15と同様に行い、同様に評価結果を得た。得られた結果を
図12および表14に示す。
【0351】
(実施例28)
実施例16のLYSN蛍光体2とYAG蛍光体BY-102/H(三菱化学社製)の体積比90:10の混合粉用いて、実施例16と同様の手順により焼結蛍光体を得た。加工時の厚みを0.24mmとする以外これ以降加工及び評価は実施例15と同様に行い、同様に評価結果を得た。得られた結果を
図12および表14に示す。
【0352】
【0353】
表14に示すが如く、本実施例27、28の構成においては、蛍光体2種類を含有する焼結蛍光体を用いているため、量産製造時に、蛍光体のロット間バラツキの影響を2種類の蛍光体の配合比調整で相殺することが出来るという点で製造が容易な発光装置である。
【0354】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2016年3月29日付けで出願された日本特許出願(特願2016-066764)および2016年7月26日付けで出願された日本特許出願(特願2016-146734)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。