(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】アンモニアの分離方法およびゼオライト
(51)【国際特許分類】
C01C 1/12 20060101AFI20220412BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20220412BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20220412BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220412BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C01C1/12 Z
C01C1/12 B
C01B39/48
B01D53/22
B01D71/02 500
B01D69/12
C01C1/12 A
(21)【出願番号】P 2019525591
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018023042
(87)【国際公開番号】W WO2018230737
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2017117862
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017239295
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018007414
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018007415
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018007416
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「エレクトライドの物質科学と応用展開」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武士
(72)【発明者】
【氏名】青島 敬之
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534896(JP,A)
【文献】特表2009-545511(JP,A)
【文献】特開2014-058433(JP,A)
【文献】国際公開第00/23378(WO,A1)
【文献】CAMUS, Oliver, et al.,Ceramic Membranes for Ammonia Recovery,AIChE JOURNAL,2006年,Vol.52, No.6,PP.2055-2065,ISSN 0001-1541, DOI:10.1002/aic.10800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C 1/12
C01B 39/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体及びその表面にゼオライトを含むゼオライト膜を備えるアンモニア分離用ゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率が±0.25%以内であり、30℃における熱膨張率に対する400℃における熱膨張率の変化率が±0.35%以内である、アンモニア分離用ゼオライト膜複合体。
【請求項2】
前記ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における該熱膨張率の変化率に対する、30℃における熱膨張率に対する400℃における該熱膨張率の変化率が、±120%以内である、請求項
1に記載のアンモニア分離用ゼオライト膜複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜を用いて、アンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを選択的に透過させてアンモニアを分離する方法に関するものである。また、本発明は、高温条件下においてもアンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを効果的に分離するゼオライト膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気体(ガス)の混合物の分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。
高分子膜は、例えば平膜や中空糸膜などへの加工性に優れる特徴を持つ一方で、膨潤しやすく、耐熱性が低いという技術的課題が残されている。また、高分子膜は、反応性薬品に対する耐性も低く、硫化物などの吸着性の成分によっても劣化が起こりやすい技術的課題が残されている。更に、高分子膜は、圧力により変形しやすく、それにより分離性能が低下するため、特に本発明の課題の一つとなる高温条件下でのアンモニアの分離においては、実用的ではない。
【0003】
これに対し、近年、耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性が良好な種々の無機膜が提案されている。その中でも、ゼオライト膜はサブナノメートルの規則的な細孔を有し、分子ふるいとしての機能をもつため、選択的に特定の分子を透過させることができるばかりでなく、高分子膜よりも広い温度範囲での分離、濃縮が可能な高耐久性分離膜として期待されている。このようなゼオライト膜は、通常、無機材料よりなる支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として用いられる。例えば、水熱合成により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する際に、特定の組成の反応混合物を用いると、支持体上に結晶化するゼオライトの結晶配向性が向上し、有機化合物と水の混合物の分離において、実用上十分な処理量と分離性能とが両立した緻密なゼオライト膜を形成できることが見出されている(特許文献1~3)。
【0004】
一般に、ガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO-34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られ、火力発電所や石油化学工業などから排出されるガスの分離、例えば、二酸化炭素と窒素、二酸化炭素とメタン、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンなどの分離に向けて、高い処理量と分離性能を示すガス分離用ゼオライト膜複合体が提案されている(例えば、特許文献4)。
【0005】
一方、本発明のアンモニアガスの水素ガスおよび窒素ガスからの分離に関しても膜分離の適用、例えば、工業的に重要なプロセスの一つであるハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造プロセスへの膜分離の適用が近年期待されている。ハーバー・ボッシュ法のプロセスの特徴としては、このアンモニア生成反応が平衡反応であり、熱力学的には高圧、低温条件下での反応が好ましいとされるが、触媒反応速度を確保するために、一般に高圧、高温の製造条件が強いられる点が挙げられる。また、生成する混合ガス中には未反応の水素ガスと窒素ガスとがアンモニアガスと共存するために、生成物となるアンモニアガスを生成混合ガスから回収する工程では、-20℃~-5℃程度に混合ガスを冷却してアンモニアを凝縮分離する必要がある(非特許文献1、2)。特に、後者に関しては、前記の反応平衡の制約から、生成混合ガス中に含まれるアンモニアガス濃度はどうしても低濃度となってしまうため、生成混合ガスからのアンモニア冷却分離工程では、冷却効率が悪く、多大なエネルギーを消費する特徴がある。また、該プロセスにおいては、生成混合ガスから大量の水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを分離して、原料ガスとして反応器にリサイクルする必要があり、冷却された大量の未反応の混合ガスを、所定の圧力まで昇圧するとともに、反応温度にまで昇温する必要があるため、更に製造時のエネルギー消費が高騰しているのが実情である。
【0006】
このようなエネルギー多消費型のプロセスを回避する為に、精製工程時の冷却凝縮分離法を、無機膜を用いた分離方法に代替して効率的に高濃度のアンモニアガスを回収するプロセスが提案されている(特許文献7、8)。
水素ガス、窒素ガスおよびアンモニアガスの混合ガスから高濃度のアンモニアガスを含有する混合ガスを分離する方法としては、1)分離膜を用いて、該混合ガスから水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる方法、2)分離膜を用いて、該混合ガスからアンモニアガスを選択的に透過させる方法が挙げられる。
前者の水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる方法としては、種々のゼオライトの多結晶性層を用いる方法(特許文献5)やモレキュラーシーブフィルムを用いる方法(特許文献6)が提案されている。また、特許文献7では、水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる方法ならびにアンモニアガスを選択的に透過させる方法が記載され、セラミックス基材にシリカ含有層が積層された分離膜を用いて、水素ガス、窒素ガスおよびアンモニアガスの混合物である生成ガスから水素ガス、窒素ガス及びアンモニアガスの少なくとも1成分を分離する分離方法が提案されている。具体的には、特許文献7では、分離膜をアンモニアの製造に適用した概略フローチャートとして、高温条件下では水素ガスが選択的にシリカ膜を透過する為、分離膜を2段に設置し、1段目の分離膜で水素ガスを透過側に分離し、1段目の分離膜で透過しなかった窒素ガスとアンモニアガスから、2段目の分離膜でアンモニアガスを透過側に分離することが示されている。一方、水素ガスとアンモニアガスの混合ガスからアンモニアガスを分離する条件としては、50℃といった低温条件下にする必要があり、しかも該混合ガス中のアンモニアガス濃度は、60モル%を超えることが必要であることが示されている。
【0007】
一方、後者のアンモニアガスを選択的に透過させる方法としては、特許文献7以外にも、酸素8員環を有する特定のゼオライトを用いてアンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスの混合ガスからアンモニアガスを分離する効率的なアンモニア分離方法が提案されている(特許文献8)。ここでは、特定のゼオライト膜複合体を設計し、ゼオライトの細孔径を利用した分子篩作用によりアンモニアガスを分離する手法が提案されている。一般にアンモニアはゼオライトの酸量を測定する昇温脱離法で酸点に吸着するプローブ分子として使用され、そのピークトップ温度は480℃程度にも達するものの、吸着したアンモニアは昇温により脱離する性質(非特許文献3)を有するが、特許文献8では、ゼオライトのイオン交換によってアンモニアのゼオライトへの吸着能を制御することによりアンモニアガスの透過性能のコントロールが可能であることが開示されている。特許文献8では、このアンモニアガス透過時のアンモニアによるゼオライト細孔の閉塞が課題として挙げられ、それを回避した技術が実施例で開示されている。したがって、特許文献8の分離技術においては、アンモニアの吸着を抑制するようなゼオライトを用いて、アンモニアの細孔内の閉塞を抑制しながら、ゼオライトの細孔径を利用した分子篩作用によりアンモニアガスを透過させる手法が有効であると提案されている。
【0008】
一方、アンモニア合成手法においては、近年、画期的な製造プロセスが開発され、具体的にはルテニウム金属を担持したエレクトライド触媒を用いた低温(340~400℃)条件下でも極めて高い触媒活性を示す製造プロセスが報告されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-121040号公報
【文献】特開2011-121045号公報
【文献】特開2011-121854号公報
【文献】特開2012-066242号公報
【文献】特表平10-506363号公報
【文献】特表2000-507909号公報
【文献】特開2008-247654号公報
【文献】特開2014-058433号公報
【文献】国際公開第2015/129471号
【非特許文献】
【0010】
【文献】日本化学会編、第6版 化学便覧 応用化学編I、丸善株式会社(2003)、p581
【文献】社団法人化学工学協会、化学プロセス集成 第1版、東京化学同人、p153
【文献】片田直伸,丹羽幹、ゼオライト Vol.21 No2、ゼオライト学会(2004)、p45-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとを含有する混合ガスから水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる方法では、分離膜を通して回収されるのは水素ガスおよび/または窒素ガスであり、本手法の本質的な課題は、比較的高濃度のアンモニアガスを含有する該混合ガスから先ず水素ガスおよび/または窒素ガスを分離する手法を採用している点にある。すなわち、この水素ガスおよび/または窒素ガスを分離する工程においては、透過する水素ガスおよび/または窒素ガスに同伴して相当量のアンモニアガスも透過してしまう為、透過する相当量のアンモニアを回収しない限り経済性のあるプロセスは成り立たない課題がある。例えば、特許文献7の技術を採用する場合、経済性のあるプロセスを完成させるためには、1段目の分離膜により透過したアンモニアガスを含有する高濃度の水素混合ガス、ならびに透過しなかった窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスからアンモニアガスを分離する工程が必須となる。すなわち、この方法は、水素ガス、窒素ガスおよびアンモニアガスの混合ガスからアンモニアガスを、少なくとも2段で分離する煩雑なプロセスとなるばかりでなく、経済性のあるプロセスを完成させるためには、更に1段目で透過された混合ガスならびに非透過の混合ガスのいずれからもアンモニアを回収する工程が必要となり、益々煩雑なプロセスとなってしまう。これらの課題を本質的に解決するためには、相対的に高い濃度の水素ガスならびに窒素ガスを含む混合ガスおよび/または相対的に低い濃度のアンモニアガスを含有する混合ガスから水素ガスならびに窒素ガスを分離する必要が生じることになるが、このようなプロセスでは生産的なアンモニア製造プロセスは成り得ず、現実的ではない。
更に、特許文献7で提案されている高温条件下で1段目の膜で透過側に分離した水素ガスをリサイクルするプロセスでは、水素ガスを昇圧するエネルギーを要する課題があり、また2段目の膜の窒素ガスとアンモニアガスの分離ではアンモニアガスの透過度は十分でなく、膜面積が大きくなる恐れもある。さらに、高温条件下で水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスから原料ガスとなる水素ガスを分離する特許文献7の手法では、例えば、本発明の一実施形態である分離膜をアンモニア合成反応器に直接取り付けてアンモニアを合成する際には、原料ガスが透過してしまうため上記の反応平衡の制約から反応が不利となり、高濃度のアンモニアガスを生成させることはできない。以上の観点からすると、このような分離膜を用いて、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスから水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる手法は、製造時のエネルギーコストが高騰し、且つプロセスも煩雑になるばかりで、わざわざアンモニア製造プロセスに分離膜を導入する優位性を見出すことは難しい。
これに対して、分離膜を用いて、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスからアンモニアガスを選択的に透過させる手法は、上記の種々の課題を解決する手法として有効である。しかしながら、公知文献7で提案されているシリカ含有層を積層した分離膜を用いたアンモニアガス分離方法では、60モル%を超えるアンモニアガス濃度の混合ガスを用いて、且つアンモニアによるブロッキング効果を発現させるために該混合ガスを50℃まで冷却する必要があることが示され、しかもアンモニアガス分離能もアンモニアガスが水素ガスより多少透過しやすい程度である。このようなプロセスでは、そもそも60モル%を超えるアンモニアガス濃度の混合ガスをどのように調達するのかといった課題があり、そのような混合ガスが調達できたとしても冷却に多大なエネルギーを有する為、経済性のあるプロセスを完成させることは難しい。
一方、特許文献8で提案されている酸素8員環を有する特定のゼオライトを用いてアンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスの混合ガスからアンモニアガスを分離する手法は、アンモニアガスを透過させる為に上記のような制約はなく、工業プロセスに適用できる有効な手法と成り得る。しかしながら、特許文献8で提案されているゼオライトの細孔径を利用した分子篩作用によるアンモニアの分離方法ではアンモニアガスと窒素ガスのパーミエンス比(理想分離係数)は、高々、14程度が達成されているに過ぎず、その透過性能は十分なものではない。また、特許文献8では、窒素ガスに対する水素ガスならびにアンモニアガスのパーミエンス比を個別に求め、それらの比の値の比較から、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスからは基本的にアンモニアガスが選択的に透過すると提案されているが、特に水素ガスに対するアンモニアガスのパーミエンス比からするとその透過性能は十分なものではなく、上記のゼオライト細孔径を活用した分子篩作用によるアンモニアガス分離の有効性は限定的である。更に、特許文献8では、140℃での窒素とアンモニアガスの混合ガスからのアンモニアガスの分離を行っているが、アンモニアガス透過前後の各種ガスのパーミエンスを比較すると、透過後にはいずれのガスのパーミエンス値が上昇しており、140℃といった比較的低温条件下においてもゼオライト膜の耐久性が損なわれるといった課題が残されている。これらの課題に対して、ゼオライト膜を用いてアンモニアガスを効率的に透過させる為には、アンモニアが本質的にはゼオライトへの吸着能を有するため、供給混合ガスの組成や分離させる際の温度もまた適切に組み合わせる必要がある。しかしながら、特許文献8では、その適正な分離条件についての記載はなく、提案もなされていないばかりか、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスや、水素ガスと、アンモニアガスとの混合ガスからアンモニアを分離する手法は実証されていない。
一方、アンモニア製造プロセスにおいては、特許文献9のように、近年、低温、低圧条件下でも高活性なアンモニア製造触媒プロセスが報告され、製造時の消費エネルギーを低減させるプロセスとして期待されている。しかしながら、この革新的な製造プロセスのみでは、上記のようにアンモニアの生成反応が平衡反応である理由から、反応平衡の制約により平衡組成を超える高濃度のアンモニアガスを含む混合ガスを生成させることはできず、本質的に、上記の生成アンモニアの回収や原料ガスのリサイクル工程を含めた製造時のエネルギー消費量の低減といった課題を解決することはできない。
【0012】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高選択的に、且つ、高い透過度でゼオライト膜を透過させることによりアンモニアを分離でき、しかも高温分離安定性、ならびに長期操業安定性に優れた、アンモニアの分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ゼオライト膜を用いたアンモニアの分離について更に検討を進めたところ、水素ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとの混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上になるとゼオライト膜を透過するアンモニアガスの透過選択性が著しく向上することを見出した。また、本発明の一態様を用いると200℃を超える温度条件下でも安定してアンモニアガス分離性能を維持させることが可能であることを見出した。更に驚くべきことに、同様の効果は、水素分子や窒素分子、アンモニア分子の分子サイズに対して大きな細孔径を有するMFI等のゼオライトにおいても発現することも見出した。すなわち、特許文献8においては、透過するアンモニアガスがゼオライトの細孔径の閉塞要因となる為、その閉塞を回避したアンモニアガス分離透過膜を設計してアンモニアを分離する手法が提案されているのに対して、本発明では、むしろゼオライトへのアンモニアの吸着を積極的に行う手法を用いると顕著にアンモニアガス分離性能が向上し、また分離安定性も向上することを見出し、本発明を完成するに至った。また、特許文献7で提案されているシリカ膜とは異なり、ゼオライト膜を使用すると、50℃、更には200℃を超える高温条件下でもアンモニア分離性能が、安定して維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の第一実施形態(発明A)はこのような知見に基づいて達成されたものであり、下記を提供する。
【0015】
[A1] ゼオライト膜を用いて、少なくとも、アンモニアガスと、水素ガスと、窒素ガスと、を含有する混合ガスからアンモニアガスを選択的に透過させてアンモニアを分離する方法であって、前記混合ガス中のアンモニアガス濃度が1.0体積%以上である、アンモニアの分離方法。
[A2] 前記混合ガス中の水素ガス/窒素ガスの体積比が0.2以上、3以下である、[A1]に記載のアンモニアの分離方法。
[A3] アンモニアを分離する際の温度が、50℃より高く、500℃以下である、[A1]または[A2]に記載のアンモニアの分離方法。
[A4]前記ゼオライト膜を構成するゼオライトが、RHO型ゼオライトまたはMFI型ゼオライトである、[A1]~[A3]のいずれかに記載のアンモニアの分離方法。
[A5]水素ガスと窒素ガスからアンモニアを製造する工程を含み、該製造工程で得られるアンモニアガスを含む混合ガスからアンモニアを[A1]~[A4]のいずれかに記載の分離方法により分離するアンモニアの分離方法。
【0016】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく、ゼオライト膜を用いたアンモニアガスの分離について更に検討を進めたところ、既存のアンモニアガス分離用のゼオライト膜は既存のシリカ膜よりも高選択的に効率よくアンモニアガスを分離できるものの、その分離性能は、アンモニアガスと窒素ガスのパーミエンス比(理想分離係数)が、高々、14程度に過ぎなかったのに対して、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対する窒素原子のモル比が、特定の範囲となる表面を有するゼオライト膜を使用すると顕著にアンモニアガス分離性能が向上することを見出した。また、本発明を用いると高温条件下でも安定してアンモニアガス分離性能を維持させることが可能であることを見出した。すなわち、高温条件下においても、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高選択的に且つ高透過性で分離する為には、種々のゼオライト膜の中でも、Al原子に対して特定のモル比の窒素原子を含有する表面を有するゼオライト膜を使用する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の第二実施形態(発明B)はこのような知見に基づいて達成されたものであり、下記を提供する。
[B1]X線光電子分光法により下記測定条件により求められるAl原子に対する窒素原子のモル比が0.01以上、4以下であることを特徴とするゼオライト膜。
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
[B2]前記ゼオライト膜がアンモニウム塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[B1]に記載のゼオライト膜。
[B3]前記ゼオライト膜が更に硝酸アルミニウムで処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[B2]に記載のゼオライト膜。
[B4]前記ゼオライトが、RHO型ゼオライトである、[B1]~[B3]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[B5]前記ゼオライト膜が、アンモニアガス分離用であることを特徴する[B1]~[B4]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[B6]少なくともアンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む混合ガスから、[B1]~[B5]のいずれかに記載のゼオライト膜を用いてアンモニアガスを透過させて分離する、アンモニアの分離方法。
[B7] 水素ガスと窒素ガスからアンモニアを製造する工程で得られるアンモニアを[B6]に記載の分離方法により分離するアンモニアの分離方法。
【0017】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく、ゼオライト膜を用いたアンモニアガスの分離について更に検討を進めたところ、既存のアンモニアガス分離用のゼオライト膜は既存のシリカ膜よりも高選択的に効率よくアンモニアガスを分離できるものの、その分離性能は、アンモニアガスと窒素ガスのパーミエンス比(理想分離係数)が、高々、14程度に過ぎず、また、140℃といった比較的低温条件下においてさえゼオライト膜の耐久性が損なわれるといった課題があったのに対して、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対するSi原子のモル比が、特定の範囲となる表面を有するゼオライト膜を使用すると顕著なアンモニア分離性能を示すと共に高温条件下での分離安定性が向上することを見出した。すなわち、高温条件下においても、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高選択的に且つ高透過性で分離する為には、種々のゼオライト膜の中でも、Al原子に対して特定のモル比のSi原子を含有する表面を有するゼオライト膜を使用する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の第三実施形態(発明C)はこのような知見に基づいて達成されたものであり、下記を提供する。
[C1]X線光電子分光法を用いて下記測定条件により決定されるAl原子に対するSi原子のモル比が2.0以上、10以下であることを特徴とするゼオライト膜。
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
[C2]前記ゼオライト膜が、X線光電子分光法を用いて下記測定条件により求められる決定されるAl原子に対する窒素原子のモル比が0.01以上、4以下であることを特徴とする、[C1]に記載のゼオライト膜。
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
[C3]前記ゼオライト膜がアルミニウム塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[C1]または[C2]に記載のゼオライト膜。
[C4]前記ゼオライト膜がアンモニウム塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[C1]~[C3]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[C5]前記ゼオライト膜がアンモニウム塩で処理後、アルミニウム塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[C1]~[C4]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[C6]前記ゼオライトが、RHO型ゼオライトである、[C1]~[C5]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[C7]前記ゼオライト膜が、アンモニア分離用であることを特徴する[C1]~[C6]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[C8]少なくともアンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む混合ガスから、[C1]~[C7]のいずれかに記載のゼオライト膜を用いてアンモニアガスを透過させて分離する、アンモニアの分離方法。
[C9]水素ガスと窒素ガスからアンモニアを製造する工程で得られるアンモニアを[C8]に記載の分離方法により分離するアンモニアの分離方法。
【0018】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく、ゼオライト膜を用いたアンモニアガスの分離について更に検討を進めたところ、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比が、特定の範囲となる表面を有するゼオライト膜を使用すると高いアンモニアガス分離選択性を保持したまま、透過性能を向上させることができることを見出した。また、本発明を用いると高温条件下でも安定してアンモニアガス分離性能を維持させることが可能であることを見出した。すなわち、高温条件下においても、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高選択的に且つ高透過性で分離する為には、種々のゼオライト膜の中でも、Al原子に対して特定のモル比のアルカリ金属原子を含有するモル比表面を有するゼオライト膜を使用する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の第四実施形態(発明D)はこのような知見に基づいて達成されたものであり、下記を提供する。
[D1]X線光電子分光法により下記測定条件により決定されるAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比が0.01以上、0.070以下であることを特徴とするゼオライト膜。
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
[D2]前記ゼオライト膜が、X線光電子分光法により下記測定条件で決定されるAl原子に対する窒素原子のモル比が0.01以上、4以下であることを特徴とする、[D1]に記載のゼオライト膜。
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
[D3]前記ゼオライト膜がアルカリ金属塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[D1]または[D2]に記載のゼオライト膜。
[D4]前記ゼオライト膜がアンモニウム塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[D1]~[D3]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[D5]前記ゼオライト膜がアンモニウム塩で処理後、アルカリ金属塩で処理されたゼオライト膜であることを特徴とする、[D1]~[D4]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[D6]前記ゼオライトが、RHO型ゼオライトである、[D1]~[D5]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[D7]前記ゼオライト膜が、アンモニアガス分離用であることを特徴する[D1]~[D6]のいずれかに記載のゼオライト膜。
[D8]少なくともアンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む混合ガスから、[D1]~[D7]のいずれかに記載のゼオライト膜を用いてアンモニアガスを透過させて分離する、アンモニアの分離方法。
[D9]水素ガスと窒素ガスからアンモニアを製造する工程で得られるアンモニアを[D8]に記載の分離方法により分離するアンモニアの分離方法。
【0019】
また、本発明者らは、上記課題を解決すべく、ゼオライト膜複合体を用いたアンモニアガスの分離について更に検討を進めたところ、ゼオライト膜は既存のシリカ膜よりも高選択的に効率よくアンモニアガスを分離できるものの、本発明の参考例E1に記載のように、30℃に対する200℃ならびに300℃の熱収縮率の変化率が、0.13%、0.30%(c軸方向)と単調に変化する、特許文献8で提案されているようなCHA型ゼオライトを成膜化したゼオライト膜複合体を使用した場合、特に200℃を超える温度領域では、アンモニアガスの分離性能が低下し、改善の余地があることを見出した。これは、ゼオライトの熱収縮によりゼオライト粒界に亀裂が発生し、その亀裂を通してガスが透過するためと推察されるが、これに対して、本発明の実施例Eに記載のRHO型ゼオライトのように、30℃に対する200℃の熱収縮率の変化率が1.55%とCHA型ゼオライトに比べて著しく収縮し、温度に対して非線形的な熱膨張/収縮の挙動を示すゼオライトであっても、300℃の熱膨張率の変化率が0.02%程度であれば、200℃を超える高温条件下において、アンモニアを高選択的に効率よく分離出来ることを見出した。
すなわち、本発明の課題の一つである高温条件下で、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる気体混合物からアンモニアガスを高選択的に且つ高透過性で分離する為には、種々のゼオライト膜複合体の中でも、特定の温度領域での熱膨張変化率を示すゼオライトを成膜化したゼオライト膜複合体を適用する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書において、熱膨張率の変化率とは、熱膨張率の変化率が最大となる軸方向についての熱膨張率の変化率である。例えば、CHA型ゼオライトはa軸とc軸方向で異なる熱膨張/収縮率を有するが、その変化率はc軸の方が大きい。従って、CHAの熱膨張率の変化率はc軸方向の熱膨張率の変化率である。同様に、MFI型ゼオライトはa軸、b軸、c軸方向で異なる熱膨張/収縮率を有するが、その変化率はc軸の方が大きい。従って、本明細書でのMFIの熱膨張率の変化率はc軸方向の熱膨張率の変化率となる。一方、RHO型ゼオライトは立方晶系であり、結晶軸は全て等価のため、軸方向に寄らず熱膨張率の変化率は一定である。本発明の第五実施形態(発明E)はこのような知見に基づいて達成されたものであり、下記を提供する。
[E1]ゼオライトを含むアンモニア分離用ゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率が±0.25%以内であり、30℃における熱膨張率に対する400℃における熱膨張率の変化率が±0.35%以内である、アンモニア分離用ゼオライト膜複合体。
[E2]前記ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における該熱膨張率の変化率に対する、30℃における熱膨張率に対する400℃における該熱膨張率の変化率が、±120%以内である、[E1]に記載のアンモニア分離用ゼオライト膜複合体。[E3]前記ゼオライトが、RHO型ゼオライトまたはMFI型ゼオライトである、[E1]または[E2]に記載のアンモニア分離用ゼオライト膜複合体。
[E4]前記ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が6以上500以下である、[E1]~[E3]のいずれかに記載のアンモニア分離用ゼオライト膜複合体。
[E5]少なくともアンモニアガスと、水素ガスおよび/または窒素ガスを含む気体混合物から、[E1]~[E4]のいずれかに記載のアンモニアガス分離用ゼオライト膜複合体を用いてアンモニアを分離する、アンモニアの分離方法。
[E6]水素ガスと窒素ガスからアンモニアを製造する工程で得られるアンモニアを[E5]に記載の分離方法により分離するアンモニアの分離方法。
第二乃至第五の実施形態は、特に、アンモニアの省エネルギー型製造プロセスの完成に貢献するアンモニアガス分離膜に関する技術であり、また、本発明の態様の一つである反応分離型アンモニア製造プロセスへの適用が期待できる技術となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第一実施形態によれば、アンモニアガスと水素ガスおよび窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスから連続してアンモニアガスを高い選択性で効率的に透過側に分離することができる。また、本発明によれば、50℃、更には200℃を超える高温条件下でも安定して使用できるために、アンモニアガスの透過度が高く、その結果、分離に必要な膜面積を小さくすることができ、小規模な設備で、低コストでのアンモニア分離が可能となる。
本発明のゼオライト膜の具体的な適用例としては、ハーバー・ボッシュプロセスに代表されるアンモニア製造プロセス等において、反応器から回収されるアンモニアガスと水素ガスおよび窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを回収する際に、従来の冷却凝縮分離法よりも効率的にアンモニア分離ができるため、アンモニア凝縮のための冷却エネルギーを低減させることができる。
また、別の態様としては、本発明のゼオライト膜は高温条件下でも安定してアンモニアガスと水素ガスおよび窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高い透過度で効率的に透過側に分離することができるため、本発明のゼオライト膜を反応器内に設置し、アンモニアガスを生成させながら同時に生成するアンモニアガスを回収する、反応分離型アンモニア製造プロセスが設計できる。
本発明の第二乃至第五の実施形態によれば、高温条件下でも安定して、アンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスから連続してアンモニアガスを高い選択性で効率的に透過側に分離することができる。また、本発明のゼオライト膜は、より高温条件下でも安定して使用できるために、アンモニアガスの透過度が高く、その結果、分離に必要な膜面積を小さくすることができ、小規模な設備で、低コストでのアンモニアガス分離が可能となる。
本発明のゼオライト膜の具体的な適用例としては、ハーバー・ボッシュプロセスに代表されるアンモニア製造プロセス等において、反応器から回収されるアンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを回収する際に、従来の冷却凝縮分離法よりも効率的にアンモニア分離ができるため、アンモニア凝縮のための冷却エネルギーを低減することができる。
また、別の態様としては、本発明のゼオライト膜は高温条件下でも安定してアンモニアガスと水素ガスおよび/または窒素ガスを含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアガスを高い透過度で効率的に透過側に分離することができるため、本発明のゼオライト膜を反応器内に設置し、アンモニアガスを生成させながら同時に生成するアンモニアガスを回収する、反応分離型アンモニア製造プロセスが設計できる。
特に、第一乃至第五の実施形態の反応分離型アンモニア製造プロセスへの適用は、アンモニア製造時の反応圧の低圧化が期待されるだけではなく、原料ガスのアンモニアガスへの転化率が著しく向上し、製造時の回収ガスの反応器へのリサイクル量を低減させることが期待できる。すなわち、本発明のゼオライト膜を採用した反応分離型アンモニア製造プロセスにより、製造時のエネルギー消費量を抑えることが可能となり、経済性にも優れた省エネルギー型のアンモニア製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例において、アンモニアガス分離試験に用いた装置の構成を示す模式図である。
【
図2】実施例E4に係るゼオライトの温度別の熱膨張率の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本明細書におけるゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトである。その構造はX線回折データにより特徴付けられる。また、本明細書において、「ゼオライト膜が多孔質支持体上に形成されてなる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」を、「ゼオライト膜複合体」、または「膜複合体」と称することがある。また、「多孔質支持体」を単に「支持体」と略称し、「アルミノ珪酸塩のゼオライト」を単に「ゼオライト」と略称することがある。更に、本明細書において、「水素ガス」、「窒素ガス」ならびに「アンモニアガス」を、それぞれ、単に「水素」、「窒素」、「アンモニア」と称することがある。一方、本発明でのアンモニア分離とは、アンモニアガスを含有する混合ガスからより高濃度のアンモニアガスを含有する混合ガスを得ることを意味する。
【0023】
本発明のアンモニアの分離方法の第一実施形態(発明A)は、少なくともアンモニアと、水素と、窒素と、を含む複数の成分からなる混合ガスから、ゼオライト膜を用いてアンモニアを高い透過度で高選択的に透過側に安定して連続的に分離を行う方法であって、特定量以上のアンモニアを含有する、水素と窒素との混合ガスからアンモニアを選択的に透過させて分離することを特徴とするものである。
また、本発明のアンモニアの分離方法の他の実施形態は、特定のゼオライト膜に、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスを接触させ、該混合ガスから、アンモニアを選択的に透過させて分離することを特徴とするものである。
以下、詳細について説明する。
【0024】
<アンモニアの製造方法>
本実施形態に係るアンモニアの分離方法は、少なくとも、アンモニアと、水素と、窒素と、を含む混合ガスからアンモニアを効率的に分離する際に効果的に用いることができるために、このような混合ガスが得られるアンモニアの製造方法と組み合わせて使用することが効果的である。すなわち、水素と窒素からアンモニアを製造する第一工程、および第一工程で得られるアンモニアを後述するアンモニアの分離方法により分離する第二工程、を含み、第一工程で得られたアンモニアを第二工程でアンモニアを分離するアンモニア製造方法以外にも、上記第一工程および上記第二工程が一つの反応器内で進行する、アンモニアの製造方法も本発明の好ましい態様の一つである。第一工程および第二工程が一つの反応器内で進行するとは、第一工程および第二工程が同時に進行するということである。つまり、本発明の一実施形態では、容器内で水素ガスと窒素ガスからアンモニアガスを製造し、該容器内において、製造されたアンモニアガスを含む混合ガスからアンモニアを分離しながらアンモニアを効率良く製造することができる。
アンモニアの工業製造方法としては、特段の制限はないが、ハーバー・ボッシュ法が挙げられる。この方法においては、基本的には酸化鉄を触媒とし、300℃~500℃、10~40MPaという高温高圧下で、窒素及び水素ガスを触媒上で反応させてアンモニアを生成させ、反応器出口ガス中に含まれる生成アンモニアを冷却して凝縮分離して製品として回収する一方、未反応の窒素及び水素ガスは分離され原料ガスとしてリサイクルされるプロセスが採用されている。また、ハーバー・ボッシュ法の改良方法として、より低圧条件下でアンモニアが製造可能なRu系担持触媒が1980年代に開発され、上記ハーバー・ボッシュプロセスと組み合わせたプロセスも工業化されているが、その基本製造プロセスは100年に亘り変わっていない。このように、一般にアンモニア製造工業触媒は鉄系触媒とRu系触媒に大別される。アンモニア製造時に用いる原料ガスのモル比は、理論比となる水素/窒素=3が好ましいが、Ru系触媒では水素による触媒被毒が起こりやすい為に、このモル比を下げた製造条件が好ましく用いられる。この点を考慮すると、特に制限はされないが、本発明のアンモニア分離技術と組み合わせるアンモニア製造触媒プロセスとしては、後述するアンモニア分離における供給ガス中に含有される水素ガス/窒素ガスの好ましい体積比に近づくため、Ru系触媒を用いるプロセスが好ましく、この組み合わせにより、生成するアンモニア分離において水素の透過量を低減することができる。
【0025】
<アンモニアの分離方法>
本発明のアンモニアの分離方法の第一実施形態は、ゼオライト膜を用いて、アンモニアと水素および窒素を含む複数の成分からなる混合ガスを該ゼオライト膜に接触させ、該混合ガスからアンモニアを選択的に透過させて分離することを特徴とするものである。
また、本発明のアンモニアの分離方法は、特定のゼオライト膜を用いて、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスを該ゼオライト膜に接触させ、該混合ガスから、アンモニアを選択的に透過させて分離することを特徴とするものである。
なお、上述の通り、本発明によれば、反応器内で水素ガスと窒素ガスからアンモニアガスを製造し、上記反応器内において、ゼオライト膜を用いて製造されたアンモニアガスを透過させながら効率よくアンモニアを製造・回収することができる。
【0026】
本発明におけるゼオライト膜によるアンモニア分離は、主としてゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づく分離となるが、吸着アンモニアやアンモニウムイオン等によるゼオライト膜の細孔径制御により分子篩としての分離も活用する。前者の作用により、ゼオライト膜と親和性の高いアンモニアはゼオライト膜を高選択的に透過することが可能となり、また、後者の作用により、アンモニアが吸着したゼオライト膜の有効細孔径以上の大きさを有する気体分子とそれ以下の気体分子とを効率良く分離する為、より効果的にアンモニアを分離することができる。
【0027】
ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構によりアンモニアの透過選択性が著しく向上する要因は、未だ詳らかではないが、このようなゼオライト膜は、ゼオライト中に含有される吸着アンモニアやアンモニウムイオンによりゼオライト膜内の細孔径を狭めるために、特に分子サイズの小さな水素ガスの透過速度を低減することができる為である。この作用は、水素ガス、窒素ガス、アンモニアガスの分子サイズより細孔径が大きなゼオライトを用いても同様にゼオライト膜の細孔を狭める為、窒素ガスや水素ガスの透過阻害が発現する。一方、ゼオライト細孔内に含まれる吸着アンモニアやアンモニウムイオンにより細孔内でアンモニアの吸着/脱離によるホッピング移動を起こすことができ、この挙動によりアンモニアガスの選択的な分離が発現する。
【0028】
本発明の第一実施形態(発明A)においては、前記のようにアンモニアのゼオライトへの吸着を利用し、ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づくアンモニアの分離を特徴とする為、水ガスと、窒素ガスと、アンモニアガスとを含有する供給ガス中のアンモニアガス濃度は特定量以上に制御する必要がある。その濃度は、供給ガス中のアンモニアガスの濃度として、1.0体積%以上であることが重要である。これは、ゼオライトへの吸着したアンモニアは気相中のアンモニアガスとの吸着平衡の関係にあり、アンモニアのゼオライトへの吸着能は、供給ガス中のアンモニアガス濃度に大きく依存する為である。本発明の比較例に示すように、1.0体積%未満のアンモニアガス濃度においても、若干のアンモニアの透過選択性は発現するが、その効果は顕著ではない。よって、本発明においては、1.0体積%以上のアンモニアガス濃度の供給ガスを使用することが重要であり、そのようなガスを加圧条件下でゼオライト膜に接触させると、ゼオライトへのアンモニアの吸着を効果的に引き起こすことができるため、供給ガスからのアンモニアの分離選択性を向上させることができる。また、1.0体積%以上のアンモニアガス濃度の供給ガスを使用すると、供給ガス中のアンモニアガス濃度が向上する為、透過速度も向上する。なお、混合ガス中のアンモニアガス濃度を1.0体積%以上とする場合、アンモニアを製造する際に得られる混合ガス中のアンモニアガス濃度が1.0体積%以上となるような条件でアンモニアを製造すればよい。上記のなかでも、供給ガス中のアンモニアガス濃度は、好ましくは2.0体積%以上、より好ましくは3.0体積%以上、特に好ましくは5.0体積%以上である。一方、上限は、特に制限されないが、供給ガス中のアンモニアガス濃度が高いほど分離性能は向上する為、通常100体積%未満となるが、アンモニアを分離する必要性の理由から、一般には、80体積%以下、好ましくは、60体積%以下、より好ましくは、40体積%以下である。なお、供給ガス中のアンモニアの濃度は、供給ガスを採取し、その成分を分析し、アンモニアのモル分率をもって体積%と同じであるとみなす。他の気体の体積%も同様にモル分率をもって、体積%とみなす。一方、アンモニア製造プロセスと組み合わせてアンモニアを分離する場合は、該製造プロセス条件で生成するアンモニア平衡濃度以下である。本発明を用いたアンモニアの分離技術は、公知の水素と、窒素と、アンモニアとの混合ガスから水素ガスおよび/または窒素ガスを選択的に透過させる方法に対して、供給ガスからアンモニアを分離するプロセスとなる為、高濃度のアンモニアを含む混合ガスからのアンモニア分離が有利である。また、その後、必要に応じて膜を透過しなかった非透過側の混合ガスから水素ガスを回収する工程を採用する場合でも、アンモニアガス濃度が十分に下がった該混合ガスから水素を回収する設計となる為、公知の供給ガスから水素および/または窒素を分離してアンモニアの濃縮を行うプロセスでの上記の課題は生じにくい特徴がある。また、例えば、特許文献7に対しては、顕著にアンモニアの分離性能が向上し、且つ高温での操業時や長期操業時の分離安定性も高いといった特徴がある。
【0029】
このように、水素、窒素、およびアンモニアの混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上になるとゼオライト膜を透過するアンモニアの透過選択性が著しく向上する要因は、未だ詳らかではないが、該混合ガス中のアンモニアガス濃度を高めると、上記のアンモニアガスとゼオライトとの吸着平衡の理由からゼオライトへの吸着が起こりやすくなり、先ずアンモニアが細孔内に吸着されたゼオライト膜が生成する。このようにして生成したアンモニアが吸着したゼオライト膜は、ゼオライト膜内の細孔径を狭めるために、分子サイズの小さな水素の透過速度を低減することができる。この作用は、水素、窒素、アンモニアの分子サイズより細孔径が大きなゼオライトを用いても同様にゼオライト膜の細孔を狭める為、水素の透過阻害が顕著に発現する。一方、ゼオライト細孔内に吸着されたアンモニアは、膜内外の圧力差により細孔内でアンモニアの吸着/脱離によるホッピング移動を起こすことができ、この挙動によりアンモニアの選択的な分離が発現する。
すなわち、本発明は、先ずゼオライトへのアンモニアの吸着を積極的に行って、ゼオライト膜の細孔径を制御して、アンモニアの分離選択性を高めながら、一方、細孔内ではアンモニアの吸着/脱離によるホッピング移動を用いてアンモニアを選択的に透過させる技術となる。これに対して、特許文献8では、このようなアンモニア吸着ゼオライト膜はアンモニア透過において閉塞の原因となる為、このような吸着を起こらないゼオライトを設計し、ゼオライトの細孔径を利用した分子篩によりアンモニアを分離する技術を提案している点で大きく異なる。一方、特許文献7で提案されているようなシリカ膜では、アンモニアの吸着が起こりにくく、また、アンモニアが吸着されても熱安定性が低い為に、本発明のような効果は発現しない。
一方、ゼオライトへのアンモニアの吸着/脱離が伴う細孔内ホッピング機構を主に活用してアンモニアの分離を行う本発明においては、アンモニア分離の際の温度は、使用するゼオライト膜の長期耐久性、ゼオライト膜のアンモニアの分離性能、ならびに、アンモニア製造設備と組み合わせる際のプロセス全体の製造エネルギー収支に大きく影響を与える為、重要な設計因子の一つとなる。これらの視点からすると、本発明においては、アンモニア合成における生成ガスを分離する場合には、アンモニア分離の際の温度は、通常、アンモニアの合成温度と同じかそれ以下の温度であり、アンモニア分離の際の温度は、アンモニア分離を行う分離器内の温度、すなわち、分離に供する混合ガスの温度、分離されたアンモニアガスの温度である。また、分離膜の温度は分離器内の温度と略同じであるとみなすことができる。アンモニアの製造プロセス設計からは合成温度と同じ温度で分離を行うと反応器にリサイクルする水素、窒素の昇温が不要となるため好ましい。このため、アンモニア分離の際の好ましい温度はアンモニア合成反応における反応温度にもよるが、通常500℃以下、好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。本発明のゼオライト膜を用いてこれらの温度条件下でアンモニアの分離を行うと、該ゼオライト膜は安定性が高いため、長期に亘り連続的な操業が可能となるばかりでなく、高いアンモニアの透過選択性が発現する。一方、その下限は通常50℃を超える温度、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上、その中でも、好ましくは250℃以上、とりわけ好ましくは300℃以上である。これらの温度条件下でアンモニアの分離をおこなうと、ゼオライト細孔内に吸着されたアンモニアの脱離速度が向上し、その結果ゼオライト膜のアンモニア透過速度が向上する。また、アンモニア製造プロセスとして、原料ガスのリサイクルを行う際には、水素、窒素の昇温にかかるエネルギーが低減されるために、より高温条件下でのアンモニア分離が好ましく、その観点からは、その下限は、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上である。
本発明のような細孔内ホッピング移動によるアンモニアの分離方法おいては、ゼオライト細孔内のAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比を飽和量比未満に制御することによりその速度を制御できる為、該モル比の制御は重要であり、本発明の第四実施形態のような該モル比を0.01以上、0.070以下に制御する手法と組み合わせると好ましい場合がある。
供給ガス(混合ガス)中のその他のガス組成は特段の制限はないが、供給ガス中に含有される水素ガス/窒素ガスの体積比は、通常3以下、より好ましくは、2以下である。この体積比に調整することにより、アンモニア分離時の水素の透過量が低減され、アンモニアの分離選択性が向上する。このような理由から、本発明のアンモニア分離プロセスの供給ガスをアンモニア製造プロセスから得る場合には、特に限定はされないが、原料ガス中の水素ガス/窒素ガスの体積比を低くしたRu系アンモニア製造触媒プロセスと組み合わせるのが好ましい。一方、その下限は、少なければ少ないほどアンモニア分離選択性が向上する為、特に限定されないが、通常0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上である。ここで、上限ならびに下限の記載値は有効数字の範囲内で有効とするもので、すなわち、上限3以下とは2.5以上3.5未満を、一方0.2以上とは0.15以上0.25未満を、1.0以上とは0.95以上1.05未満を意味する。
【0030】
本発明において供給ガス(混合ガス)の圧力は、高圧であるほどゼオライト膜の分離性能が向上し、用いるゼオライト膜の面積を低減できるため、好ましい態様であるが、大気圧以上の圧力であれば特段制限はなく、適宜圧力を減圧調整して所望の圧力にして用いてもよい。分離対象のガスが、分離に用いる圧力より低い場合は、圧縮機などで増圧して用いることができる。
【0031】
供給ガスの圧力は、通常大気圧若しくは大気圧より大きく、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上である。また上限値は、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下であって、3MPa以下であってもよい。
【0032】
透過側の圧力は供給側のガスの圧力より低ければ特に限定されないが、通常10MPa以下、好ましくは5MPa以下、より好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下であり、場合によっては大気圧以下の圧力まで低下させてもよい。供給ガス中のアンモニアの濃度が低い値となるまで分離する場合には、透過側は低い圧力であることが好ましく、大気圧以下の圧力まで低下させると、供給ガス中のアンモニアガス濃度がより低い濃度となるまでアンモニアを分離することが可能である。
【0033】
供給側のガスと透過側のガスの差圧は特に制限されないが、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下である。また、通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.02MPa以上である。
【0034】
ここで、差圧とは、当該ガスの供給側の分圧と透過側の分圧の差をいう。また、圧力[Pa]は、特に断りのない限り、絶対圧を指す。
【0035】
供給ガスの流速は、透過するガスの減少を補うことが可能な程度の流速で、また供給ガスにおいて透過性の小さなガスの膜のごく近傍における濃度とガス全体における濃度が一致するように、供給ガスを混合できるだけの流速であればよく、ゼオライト膜複合体の管径、膜の分離性能にもよるが、線速として通常0.001mm/sec以上、好ましくは0.01mm/sec以上、より好ましくは0.1mm/sec以上、その中でも、好ましくは0.5mm/sec以上、より好ましくは1mm/sec以上であり、上限は特に制限なく、通常1m/sec以下、好ましくは0.5m/sec以下である。
【0036】
本発明の混合ガスからのアンモニアの分離方法においては、スイープガスを用いてもよい。スイープガスとは、分離膜により透過されたアンモニアを効率よく回収する為に供給するガスを意味し、分離透過前の供給ガス側に導入するガスではなく、分離膜の透過側に供給するガスである。つまり、スイープガスは、分離透過前の供給ガスとは別個に供給されるガスであって、透過側に供給ガスとは異なる種類のガスを流し、膜を透過したガスを回収するものである。本発明で用いるスイープガスとは、例えば、
図1に示すライン12から供給されるガス9のことを言う。スイープガスの圧力は通常大気圧であるが、特に大気圧に制限されるものではなく、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下であり、下限は、好ましくは0.09MPa以上、より好ましくは、0.1MPa以上である。場合によっては、減圧して用いてもよい。
【0037】
スイープガスの流速は、特に制限はないが、線速として通常0.5mm/sec以上、好ましくは1mm/sec以上であり、上限は特に制限なく、通常1m/sec以下、好ましくは0.5m/sec以下である。
【0038】
ガス分離に用いる装置は、特に限定されないが、通常はゼオライト膜複合体を膜モジュールにして用いる(以下、「ゼオライト膜複合体および/またはゼオライト膜複合体を用いた分離装置」を単に「膜モジュール」と称することがある)。膜モジュールは、例えば、
図1に模式的に示したような装置でもよいし、例えば「ガス分離・精製技術」(株)東レリサーチセンター2007年発行22頁等に例示されている膜モジュールを用いてもよい。
図1の装置における混合ガスの分離操作については、実施例の項において説明する。
【0039】
混合ガスからのアンモニアの膜分離を行う際には膜モジュールを多段にして用いてもよい。この場合、1段目の膜モジュールに分離を行うガスを供給して、膜を透過しなかった非透過側のガスをさらに2段目の膜モジュールに供給してもよいし、透過したガスを2段目の膜モジュールに供給してもよい。前者の方法では、非透過側の透過性の低い成分の濃度をさらに上げることができ、後者の方法では透過したガス中の透過性の高い成分の濃度をさらに上げることができる。また、これらの方法を組み合わせた方法も好適に使用できる。
多段に設けた膜モジュールで分離する場合には、後段の膜モジュールにガスを供給する際に、必要に応じて供給ガスの圧力を昇圧器などで調整してもよい。
【0040】
また、膜モジュールを多段で使用する場合には、各段に性能が異なる膜を設置してもよい。通常、膜の性能として、透過性能が高い膜では分離性能が低く、一方、分離性能が高い膜では透過性能が低い傾向がある。このため、分離あるいは濃縮したいガス成分が所定の濃度になるまで処理する際に、透過性が高い膜では、必要膜面積は小さくなる一方、透過性の低い成分も透過側へ透過しやすく、このため、透過側ガス中の透過性の高い成分の濃度が低くなる傾向がある。逆に、分離性能が高い膜では、透過性の低い成分の透過側への透過は起こりにくく、このため、透過側ガス中の透過性の高い成分の濃度は高いが、必要膜面積が大きくなる傾向がある。1種類の膜による分離では、必要膜面積と濃縮または分離目的ガスの透過、非透過量の関係は制御しにくいが、異なる性能の膜を使用することで、制御が容易になる。膜コストと分離・回収するガスの価格によって、最適な膜面積と濃縮、分離目的ガスの透過、非透過量の関係になるよう膜を設置し、全体としてのメリットを最大化できる。
【0041】
例えば、1段の膜分離で、アンモニアが十分分離できない場合には、非透過側のガスをさらに数段の膜で分離することができる。また1段の膜分離で、膜のアンモニア/水素の分離が十分でなく、透過側にアンモニアと共に水素が多く含まれる場合には、透過ガスをアンモニアと水素の分離性能が高い膜で分離することもできる。
【0042】
本発明で用いるゼオライト膜は、耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性に優れ、かつ、アンモニアの高い透過性能、分離性能を発揮し、耐久性に優れた性能を持つ。
【0043】
ここでいう高い透過性能とは、十分な処理量を示し、例えば、膜を透過する気体成分のパーミエンス(Permeance)[mol/(m2・s・Pa)]が、例えばアンモニアを、温度200℃、差圧0.3MPaで透過させた場合、通常1×10-9以上、好ましくは5×10-9以上、より好ましくは1×10-8以上、さらに好ましくは2×10-8以上、とりわけ好ましくは5×10-8以上、特に好ましくは1×10-7以上、最も好ましくは2×10-7以上である。上限は特に限定されず、通常3×10-4以下である。
【0044】
また、本発明で用いるゼオライト膜複合体のパーミエンス[mol/(m2・s・Pa)]は、例えば窒素を同様の条件で透過させた場合、通常5×10-8以下、好ましくは3×10-8以下、より好ましくは1×10-8以下、とりわけ好ましくは5×10-9以下、最も好ましくは1×10-9以下であり、理想的にはパーミエンスは0であるが、実用上1×10-10~1×10-14程度のオーダーとなる場合がある。
【0045】
ここで、パーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)とは、透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は、[mol/(m2・s・Pa)]であり、実施例の項において述べる方法により算出される値である。
【0046】
また、ゼオライト膜の選択性は理想分離係数、分離係数により表される。理想分離係数、分離係数は膜分離で一般的に用いられる選択性を表す指標であり、理想分離係数は実施例の項において述べる方法により、分離係数は下記の算出される値である。
【0047】
分離係数αを求める場合は下記式により算出する。
α=(Q’1/Q’2)/(P’1/P’2)
〔上記式中、Q’1およびQ’2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol/(m2・s・Pa)]を示し、P’1およびP’2は、それぞれ、供給ガス中の透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの分圧[Pa]を示す。〕
分離係数αは次のように求めることもできる。
α=(C’1/C’2)/(C1/C2)
〔上記式中、C’1およびC’2は、それぞれ、透過ガス中の透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの濃度[体積%]を示し、C1およびC2は、それぞれ、供給ガス中の透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの濃度[体積%]を示す。〕
【0048】
理想分離係数は、例えば、アンモニアと窒素を温度200℃、差圧0.3MPaで透過させた場合、通常15以上、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、最も好ましくは30以上である。またアンモニアと水素を温度200℃、差圧0.3MPaで透過させた場合、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上、とりわけ好ましくは8以上、特に好ましくは10以上、最も好ましくは15以上である。理想分離係数の上限は完全にアンモニアしか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、実用上、分離係数は10万程度以下となる場合がある。
【0049】
本発明で用いられるゼオライト膜の分離係数は、例えば、アンモニアと窒素の体積比1:1の混合ガスを、温度50℃、差圧0.1MPaで透過させた場合、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上である。分離係数の上限は完全にアンモニアしか透過しない場合でありその場合は無限大となるが、実用上、分離係数は10万程度以下となる場合がある。
【0050】
本発明で用いられるゼオライト膜は、上記のとおり、耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性に優れ、かつ高い透過性能、分離性能を発揮し、耐久性に優れるものであり、このようなゼオライト膜を用いる本発明のアンモニアの分離方法は、アンモニア合成の生成物からのアンモニアの分離に適用することができる。また、本発明のアンモニアの分離方法は、アンモニア合成反応器内にゼオライト膜を設け、反応器内で、アンモニアを選択的に透過させて分離することにより反応系内の水素ガスおよび窒素ガスとアンモニアガスとの平衡をずらし、高転化率で効率的にアンモニアを合成する膜反応器としても利用できる。
【0051】
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトはアルミノ珪酸塩である。アルミノ珪酸塩は、SiとAlの酸化物を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の元素が含まれていてもよい。本発明のゼオライト中に含まれるカチオン種としては、ゼオライトのイオン交換サイトに配位しやすいカチオン種が望ましく、例えば、周期律表の第1族、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、及び、第12族の元素群から選ばれるカチオン種、NH4
+、ならびにこれらの二種以上のカチオン種であり、より好ましくは、周期律表の第1族、第2族の元素群から選ばれるカチオン種、NH4
+、ならびにこれらの二種以上のカチオン種である。
【0052】
本発明で使用されるゼオライトは、アルミノ珪酸塩である。アルミノ珪酸塩のSiO2/Al2O3モル比は、特段の制限はないが、通常6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、一方、通常500以下、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは50以下、とりわけ好ましくは45以下、さらに好ましくは30以下、最も好ましくは25以下である。このような特定の領域のSiO2/Al2O3モル比のゼオライトを使用することにより、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができる為に好ましい。また、アンモニアと水素および窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを透過させる分離性能の観点からは、前記のようにAl元素の酸点がアンモニアの吸着サイトになる理由から、より多くのAlを含有するゼオライトを用いることが好ましく、上記のSiO2/Al2O3モル比を示すゼオライトを使用することにより、アンモニアを高い透過度で高選択的に分離することができる。
ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
【0053】
なお、本明細書において、SiO2/Al2O3モル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により決定される数値である。この場合、膜厚数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVとして測定が行われる。
【0054】
本発明で使用するゼオライトの構造としては、International Zeolite Association(IZA)が規定するコードで表すと、例えば、ABW、ACO、AEI、AEN、AFI、AFT、AFX、ANA、ATN、ATT、ATV、AWO、AWW、BIK、CHA、DDR、DFT、EAB、EPI、ERI、ESV、GIS、GOO、ITE、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、OWE、PAU、PHI、RHO、RTE、RWR、SAS、SAT、SAV、SIV、TSC、UFI、VNI、YUG、AEL、AFO、AHT、DAC、FER、HEU、IMF、ITH、MEL、MFS、MWW、OBW、RRO、SFG、STI、SZR、TER、TON、TUN、WEI、MFI、MON、PAU、PHI、MOR、FAU等が挙げられる。
【0055】
その中でもフレームワーク密度が18.0T/nm3以下であるゼオライトが好ましく、より好ましくはAEI、AFX、CHA、DDR、ERI、LEV、RHO、MOR、MFI、FAUであり、さらに好ましくはAEI、CHA、DDR、RHO、MOR、MFI、FAUであり、特に好ましくは、CHA、RHO又はMFIであり、最も好ましくはRHO又はMFIである。フレームワーク密度を低いゼオライトを使用することでアンモニアを含む混合ガス中にアンモニア以外の透過成分が存在する場合、それらの透過成分が透過する際の抵抗を小さくすることができ、アンモニアの透過量を大きくしやすくなる。
また、本発明の第五の実施形態(ゼオライト膜複合体E)では、フレームワーク密度が18.0T/nm3以下であるゼオライトが好ましく、より好ましくはAFX、DDR、ERI、LEV、RHO、MOR、MFI、FAUであり、さらに好ましくはDDR、RHO、MOR、MFI、FAUであり、最も好ましくはRHO、MFIである。
【0056】
ここでフレームワーク密度(単位:T/nm3)とは、ゼオライトの単位体積(1nm3)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なお、フレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係は、ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
【0057】
本発明のアンモニアと水素および窒素との膜分離においてはアンモニアのゼオライトへの吸着を利用し、ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づくアンモニアの分離を特徴とするものの、特に限定はされないが、その中でもアンモニアの分子径に近い細孔径を有するゼオライトの方がアンモニア分離選択性が向上する為好ましい場合があり、この観点からすると、ゼオライトの構造としては酸素8員環細孔を有するものが好ましい。一方、酸素8員環よりも大きなサイズの細孔ではアンモニアの透過度が高くなる点で好ましいが、水素および/または窒素との分離性能が低くなる場合がある。しかしながら、酸素8員環よりも大きなサイズの細孔を有するゼオライトを使用する際にも、前記のSiO2/Al2O3モル比を低下させたゼオライトを使用すると、Alサイトに吸着したアンモニアによりゼオライト膜の細孔径が制御される為に、アンモニアを高い透過度で高選択的に分離することができる。
【0058】
したがって、膜分離に用いるゼオライトの有効細孔径は、アンモニアが吸着したゼオライト膜の細孔径に大きく影響を与えるため、重要な設計因子の一つとなる。ゼオライトの有効細孔径は、ゼオライトに導入する金属種やイオン交換、酸処理、シリル化処理などによっても制御することが可能である。また、その他の手法で有効細孔径を制御することによって、分離性能を向上させることも可能である。
【0059】
例えば、ゼオライト骨格に導入する金属種の原子径によって、ゼオライトの細孔径はわずかに影響を受ける。ケイ素よりも原子径が小さな金属、具体的には、例えばホウ素(B)等を導入した場合には細孔径は小さくなり、ケイ素よりも大きな原子径の金属、具体的には、例えばスズ(Sn)等を導入した場合には細孔径は大きくなる。また、酸処理によって、ゼオライト骨格に導入されている金属を脱離させることによって、細孔径が影響される場合がある。
【0060】
イオン交換により、ゼオライト中のイオンをイオン半径の大きな1価のイオンで交換した場合には、有効細孔径は小さくなり、一方イオン半径の小さな1価のイオンでイオン交換した場合には有効細孔径は、ゼオライト構造がもつ細孔径に近い値となる。
【0061】
シリル化処理によっても、ゼオライトの有効細孔径を小さくすることが可能である。例えば、ゼオライト膜の外表面の末端シラノールをシリル化し、さらに、シリル化層を積層することによって、ゼオライトの外表面に面した細孔の有効細孔径は小さくなる。
【0062】
本発明で用いられるゼオライト膜複合体の分離機能は、特に限定されないが、ゼオライトの表面物性の制御により、気体分子のゼオライト膜への親和性や吸着性を制御することにより発現する。すなわち、ゼオライトの極性を制御することによりアンモニアのゼオライトへの吸着性を制御して、透過させやすくすることができる。
【0063】
例えば、本発明の第二実施形態のように窒素原子を存在させてゼオライトの極性を制御することによりアンモニアのゼオライトへの親和性を制御して、透過させやすくすることもできる。
【0064】
また、ゼオライト骨格のSi原子をAl原子で置換することにより極性を大きくすることが可能であり、これにより、アンモニアのような極性の大きい気体分子を積極的にゼオライト細孔に吸着、透過させることができる。また、Ga、Fe、B、Ti、Zr、Sn、ZnなどのAl原子源以外の他の原子源を水熱合成の水性反応混合物に添加して、得られるゼオライトの極性を制御することも可能である。
【0065】
このほか、イオン交換によって、ゼオライトの細孔径だけでなく、分子の吸着性能を制御して、透過速度をコントロールすることもできる。
【0066】
(ゼオライト膜)
本発明におけるゼオライト膜とは、ゼオライトにより構成される膜状物のことであり、好ましくは、多孔質支持体の表面にゼオライトを結晶化させて形成されたものである。膜を構成する成分として、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じて含んでいてもよい。
本発明で用いられるゼオライト膜に含まれる好ましいゼオライトは上述の通りであるが、ゼオライト膜に含まれるゼオライトは1種でもよいし、複数種含まれていてもよい。また、ANA、GIS、MERのような混相で生成しやすいゼオライトや、結晶以外にもアモルファス成分などが含有されていてもよい。
【0067】
本発明の他の態様の一つ(ゼオライト膜B)は、ゼオライトを含むゼオライト膜であって、X線光電子分光法により決定されるAl元素に対する窒素元素のモル比が0.01以上、4以下であることを特徴とするゼオライト膜である。ゼオライト膜Bは第一実施形態のアンモニア分離法に特に好ましく用いられる。
ゼオライト膜Bは、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対する窒素原子のモル比が特定の範囲となる表面を有する、ゼオライト膜であることが好ましい。ここで、本明細書におけるゼオライト膜の表面とは、アンモニアを分離する為にアンモニアと水素および/または窒素とを含む複数の成分からなる混合ガスを供給する側のゼオライト膜の表面を意味し、多孔質支持体上に成膜化された形態でゼオライト膜複合体を使用する場合には、多孔質支持体が接触していない面を意味する。尚、本明細書において、ゼオライト膜中に含まれるAl原子に対する窒素原子のモル比とは、以下の測定条件下でのX線光電子分光法(XPS)により決定される数値である。
【0068】
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
【0069】
本発明の第二実施形態において、上記XPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、通常、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.10以上、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.30以上、とりわけ好ましくは0.50以上であり、その上限は、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中の窒素原子を含むカチオン種の構造や必要に応じてゼオライト膜の硝酸塩処理を行う際に残留する硝酸イオン量に依存するために特に制限されないが、通常4以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、1以下である。このような特定の窒素原子/Al原子比の表面組成を有するゼオライトを使用することにより、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができると共に、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高い透過度で、且つ、高選択的に分離することができる。ここで、上限ならびに下限の記載値は有効数字範囲内で有効とするものである。すなわち、上限4以下とは4.5未満を、一方0.01以上とは0.005以上を意味する。
【0070】
本発明の第二実施形態においてゼオライト膜に含まれる窒素原子は、後述するゼオライト中に含まれるアンモニウムイオン(NH4
+)やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ならびにピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種由来の窒素原子、ゼオライト膜を製造する際に窒素原子を含有する有機テンプレート(構造規定剤)を使用した際の有機テンプレート由来の窒素原子、後述する必要に応じて実施するゼオライト膜の硝酸塩処理時に残留する硝酸イオン由来の窒素原子等である。
【0071】
本実施形態においては、未だ詳らかではなく特に限定はされないが、後述するようにアンモニアのゼオライトへの吸着を利用して膜分離に用いるゼオライトの有効細孔径を制御するとともに、ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づいてアンモニアを分離することを特徴とする。このようにゼオライトへのアンモニアの吸着/脱離が伴う細孔内ホッピング機構を主に活用してアンモニアの分離を行う本発明においては、先ずはアンモニアを含む供給混合ガス中のアンモニアとゼオライト膜表面との吸着親和性を、該混合ガス中に含まれるその他の水素や窒素等のガスよりも如何に高めるかが重要な設計因子となる。この視点からすると、上記のような形態の窒素原子をゼオライト膜表面に存在させると、供給ガス中のアンモニアとの水素結合等の相互作用により、アンモニアのゼオライト膜への吸着親和性が高まる為にアンモニア分離性能が向上する傾向がある。
【0072】
また、本発明の他の態様の一つ(ゼオライト膜C)は、ゼオライトを含むゼオライト膜であって、X線光電子分光法により決定されるAl元素に対するSi元素のモル比が2.0以上、10以下であることを特徴とするゼオライト膜である。ゼオライト膜Cは第一実施形態のアンモニア分離法に好ましく用いられる。
本発明で用いられるゼオライト膜Cは、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対するSi原子のモル比が特定の範囲となる表面を有する、ゼオライト膜であることを特徴とする。尚、本明細書において、ゼオライト膜中に含まれるAl原子に対するSi原子のモル比とは、以下の測定条件下でのX線光電子分光法(XPS)により決定される数値である。
【0073】
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
本実施形態においては、上記のXPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれるSi原子含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、2.0以上、好ましくは、2.5以上、より好ましくは、3.0以上であり、その上限は、通常10以下、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下、特に好ましくは6.7以下である。本発明においては、ゼオライト膜中のAl原子に対するSi原子のモル比は、後述するように、ゼオライト膜中のゼオライトのSiO2/Al2O3比を制御する方法、ゼオライト膜をアルミニウム塩で処理する方法等により制御することができる。このような特定のSi原子/Al原子モル比のゼオライト膜を使用することにより、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを分離する際に、本実施例から明らかなように、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができると共に、高い透過選択性ならびに高い透過度を示すと共に高温時の分離熱安定性を向上させることができる。
【0074】
また、本実施形態においては、上記のゼオライト膜表面のSi原子の含有量を制御するとともに、必要に応じて、XPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量を特定の領域に制御すると、ゼオライト膜表面に含まれる複数の成分からなる混合ガスからアンモニア分離する際の分離選択性が著しく向上する傾向がある為、ゼオライト膜表面に窒素原子とを共存させ、それらの含有量を適切に制御するのが好ましい。このようにゼオライト膜表面に、必要に応じて、窒素原子を存在させる場合、その窒素原子の含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、通常、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.10以上であり、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.30以上、とりわけ好ましくは0.50以上であり、その上限は、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中の窒素原子を含むカチオン種の構造や必要に応じてゼオライト膜の硝酸塩処理を行う際に残留する硝酸イオン量に依存するために特に制限されないが、通常4以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、1以下である。このような特定の窒素原子/Al原子比の表面組成を有するゼオライトを使用すると、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができると共に、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高選択的に分離することができる為、好ましい。尚、上記の上限ならびに下限の記載値は有効数字範囲内で有効とするものである。すなわち、上限4以下とは4.5未満を、一方0.01以上とは0.005以上を意味する。
【0075】
本実施形態においてゼオライト膜に窒素原子を含有させる際の窒素原子は、後述するゼオライト中に含まれるアンモニウムイオン(NH4
+)やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、ならびにメチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ならびにピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種由来の窒素原子、ゼオライト膜を製造する際に窒素原子を含有する有機テンプレート(構造規定剤)を使用した際の有機テンプレート由来の窒素原子、後述する必要に応じて実施するゼオライト膜の硝酸塩処理時に残留する硝酸イオン由来の窒素原子等である。
【0076】
本実施形態においては、更に、XPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれるアルカリ金属原子の含有量を特定の範囲に制御すると、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニア分離する際のアンモニア透過度が向上する傾向がある。その為、必要に応じてそれらの含有量を制御するのは好ましい態様の一つである。このようにゼオライト膜表面に、必要に応じて、アルカリ金属原子を存在させる場合のアルカリ金属原子としては、Li、Na、K、Rb、Cs、ならびにこれらの二種以上の金属原子が例示され、これらの中では、Li、Na、Csが好ましく、アンモニアの分離性能が優れ、且つ汎用のアルカリ金属である理由から、Naがより好ましい。尚、これらのアルカリ金属原子は、ゼオライト膜を構成するゼオライト中のAlサイトのイオン対としてカチオンの形態で存在し、通常、後述するように、合成されたゼオライト膜のイオン交換処理によりゼオライト中に導入される。必要に応じて、ゼオライト膜表面にアルカリ金属原子を存在させる場合のアルカリ金属原子の含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、0.01以上、好ましくは、0.02以上、より好ましくは、0.03以上であり、更に好ましくは0.04以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、その上限は、通常0.10モル当量以下、好ましくは0.070モル当量以下、より好ましくは0.065モル当量以下、更に好ましくは、0.060モル当量以下、特に好ましくは、055モル当量以下である。アルカリ金属原子の含有量を、上記の範囲に制御すると、アンモニアの分離選択性を高めたまま、アンモニアの透過度を向上させることができる傾向があり、好ましい。尚、ゼオライト膜中のAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比は、後述するように、ゼオライトのイオン交換処理時のイオンの交換量を調整することにより制御することができる。
本実施形態においては、未だ詳らかではなく特に限定はされないが、後述するようにアンモニアのゼオライトへの吸着を利用して膜分離に用いるゼオライトの有効細孔径を制御するとともに、ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づいてアンモニアを分離することを特徴とする。このようにゼオライトへのアンモニアの吸着/脱離が伴う細孔内ホッピング機構を主に活用してアンモニアの分離を行う本発明においては、先ずはアンモニアを含む供給混合ガス中のアンモニアとゼオライト膜表面との吸着親和性を、該混合ガス中に含まれるその他の水素や窒素等のガスよりも如何に高めるかが重要な設計因子となる。この視点から、Al原子をゼオライト膜表面により多く存在させるとゼオライト膜表面の極性が変化し、供給ガス中のアンモニアとの吸着親和性が高まる為にアンモニア分離性能が向上する。また、本実施形態においては、ゼオライト膜表面のAl原子の含有量は、ゼオライト膜を構成するゼオライトのSiO2/Al2O3比やゼオライト膜形成後のアルミニウム塩処理等により制御されるが、特に後者のアルミニウム塩処理は、ゼオライト膜表面に存在する微細な欠陥を封止する効果もあり、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができると共に、本発明の課題の一つであるゼオライト膜の高温時の分離熱安定性の向上に大きく貢献する。
【0077】
また、本発明の他の態様の一つ(ゼオライト膜D)は、ゼオライトを含むゼオライト膜であって、X線光電子分光法により決定されるAl元素に対するアルカリ金属元素のモル比が0.01以上、0.070以下である。ゼオライト膜Dは第一実施形態のアンモニア分離法に特に好ましく用いられる。
本発明の第四実施形態で用いられるゼオライト膜Dは、X線光電子分光法(XPS)により決定されるAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比が特定の範囲となる表面を有する、ゼオライト膜であることが好ましい。尚、本明細書において、ゼオライト膜中に含まれるAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比とは、以下の測定条件下でのX線光電子分光法(XPS)により決定される数値である。
【0078】
(測定条件)
測定の際のX線源:単色化Al-Kα線、出力16kV-34W
定量計算の際のバックグラウンドの決定法:Shirley法
【0079】
本実施形態において、上記のXPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれるアルカリ金属原子としては、Li、Na、K、Rb、Cs、ならびにこれらの二種以上の金属原子が例示され、これらの中では、Li、Na、Csが好ましく、アンモニアの分離性能が優れ、且つ汎用のアルカリ金属である理由から、Naがより好ましい。尚、これらのアルカリ金属原子は、ゼオライト膜を構成するゼオライト中のAlサイトのイオン対としてカチオンの形態で存在し、通常、後述するように、合成されたゼオライト膜のイオン交換処理によりゼオライト中に導入される。
【0080】
本実施形態においては、上記のXPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれるアルカリ金属原子の含有量を制御することが重要であり、その含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、0.01以上、好ましくは、0.02以上、より好ましくは、0.03以上であり、更に好ましくは0.04以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、その上限は、通常0.10モル当量以下、好ましくは0.070モル当量以下、より好ましくは0.065モル当量以下、更に好ましくは、0.060モル当量以下、特に好ましくは、055モル当量以下である。アルカリ金属元素の含有量を、上記の範囲に制御することにより、本実施例ならびに参考例から明らかなように、アンモニアの分離選択性を高めたまま、アンモニアの透過度を向上させることができる。
【0081】
本実施形態においては、ゼオライト膜中のAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比は、後述するように、ゼオライトのイオン交換処理時のイオンの交換量を調整することにより制御することができる。このような特定のアルカリ金属原子/Al原子比のゼオライト膜を使用することにより、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを分離する際に、高い透過選択性を示しながら、該アルカリ金属原子を含まないゼオライト膜に比べて、アンモニアの透過度を向上させることができる。
また、本実施形態においては、上記のゼオライト膜表面のアルカリ金属原子の含有量を制御するとともに、必要に応じて、XPS測定により決定されるゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量を特定の領域に制御すると、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニア分離する際の分離選択性が著しく向上する傾向がある為、ゼオライト膜表面にアルカリ金属原子と窒素原子とを共存させ、それらの含有量を適切に制御するのが好ましい。このようにゼオライト膜表面に窒素原子を存在させる場合、その窒素原子の含有量は、ゼオライト膜表面のAl原子に対して、モル比で、通常、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.10以上であり、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.30以上、とりわけ好ましくは0.50以上であり、その上限は、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中の窒素原子を含むカチオン種の構造や必要に応じてゼオライト膜の硝酸塩処理を行う際に残留する硝酸イオン量に依存するために特に制限されないが、通常4以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、1以下である。このような特定の窒素原子/Al原子比の表面組成を有するゼオライトを使用すると、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができると共に、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高選択的に分離することができる為、好ましい。尚、上記の上限ならびに下限の記載値は有効数字範囲内で有効とするものである。すなわち、上限4以下とは4.5未満を、一方0.01以上とは0.005以上を意味する。
【0082】
本発明においてゼオライト膜に窒素原子を含有させる際の窒素原子は、後述するゼオライト中に含まれるアンモニウムイオン(NH4
+)やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、ならびにメチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ならびにピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種由来の窒素原子、ゼオライト膜を製造する際に窒素原子を含有する有機テンプレート(構造規定剤)を使用した際の有機テンプレート由来の窒素原子、後述する必要に応じて実施するゼオライト膜の硝酸塩処理時に残留する硝酸イオン由来の窒素原子等である。
【0083】
本実施形態においては、未だ詳らかではなく特に限定はされないが、後述するようにアンモニアのゼオライトへの吸着を利用して膜分離に用いるゼオライトの有効細孔径を制御するとともに、ゼオライト細孔内でのアンモニアのホッピング機構に基づいてアンモニアを分離することを特徴とする。このようにゼオライトへのアンモニアの吸着/脱離が伴う細孔内ホッピング機構を主に活用してアンモニアの分離を行う本発明においては、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからのアンモニア分離選択性は、ゼオライト細孔内のAlサイトへのアンモニアの吸着によるブロッキング効果により向上するものの、一方、アンモニアのAlサイトへの吸着力が高い為に透過性能(透過度)が損なわれる傾向にある。これに対して、本発明のアルカリ金属原子を、ゼオライト膜を構成するゼオライト中のAlサイトのイオン対としてカチオンの形態で特定量存在させると、Alサイトへのアンモニアの吸着量を制御することができ、一方、アルカリ金属カチオンのサイズによりアンモニアの分離選択性を保持することができる。これらの機構により、アンモニア分離選択性を保持したまま、透過性能を高めることができる。すなわち、ゼオライト中のAl原子に対するアルカリ金属原子の含有量を、モル比で、0.01以上、0.070以下に制御することが重要であり、0.01未満であるとアンモニアのAlサイトへの吸着によりアンモニアの透過度が低下する一方、0.20を超える量が含有されるとAlサイトへのアンモニアの吸着によるブロッキング効果が薄れてアンモニアの分離選択性が低下すると考えられる。
【0084】
また、本発明の他の態様の一つ(ゼオライト膜複合体E)は、多孔質支持体及びその表面にゼオライトを含むゼオライト膜を備えるアンモニア分離用ゼオライト膜複合体であって、上記ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃、ならびに400℃における熱膨張率の変化率が特定の範囲内になることを特徴とする。ゼオライト膜複合体Eは第一実施形態のアンモニア分離法に好ましく用いられる。
具体的には、ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率が±0.25%以内であり、30℃における熱膨張率に対する400℃における熱膨張率の変化率が±0.35%以内である。
本実施形態のゼオライトが定義される熱膨張率とは、以下の条件で算出される数値である。尚、本明細書では、熱膨張率の数値は、正数の場合は、ゼオライトが膨張したことを表し、負数の場合はゼオライトが収縮したことを表す。
【0085】
(熱膨張率の変化率の測定方法)
本発明において、ゼオライトの30℃の熱膨張率に対する所定温度における熱膨張率の変化率は、以下の条件下での昇温XRD測定法により30℃及び所定温度で測定した結晶子定数を求め、下記式(1)により求めることができる。
【0086】
(昇温XRD測定装置仕様)
【0087】
【0088】
(測定条件)
【0089】
【表2】
測定雰囲気:大気
昇温条件 :20℃/min
測定方法 :測定温度で5分間保持後にXRD測定を実施する。
測定データには、可変スリットを用いて固定スリット補正を行う。
【0090】
熱膨張率の変化率=(所定温度で測定した結晶格子定数)÷(30℃で測定した結晶格子定数) - 1 ・・・(1)
【0091】
本発明のゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率は、その絶対値として、0.25%以下、好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.15%以下、とりわけ好ましくは0.10%以下、最も好ましくは0.05%以下である。すなわち、ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率は、±0.25%以内であり、好ましくは±0.20%以内、更に好ましくは±0.15%以内、とりわけ好ましくは±0.10%以内、最も好ましくは±0.05%以内である。
一方、ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する400℃の熱膨張率の変化率は、その絶対値として、0.35%以下、好ましくは0.30%以下、更に好ましくは、0.25%以下、とりわけ好ましくは0.20%以下、特に好ましくは0.15%以下、最も好ましくは0.10%以下である。すなわち、ゼオライトの30℃における熱膨張率に対する400℃における熱膨張率の変化率は、±0.35%以内であり、好ましくは±0.30%以内、更に好ましくは±0.25%以内、とりわけ好ましくは±0.20%以内、特に好ましくは±0.15%以内、最も好ましくは±0.10%以内である。このような、低い熱膨張率の変化率を示すゼオライトを多孔質支持体上に成膜したゼオライト膜複合体は、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる気体混合物からアンモニアを透過させる際に、200℃を超える温度条件、特に250℃を超える温度条件、更には300℃を超える温度に該複合体を昇温した際に、ゼオライトの熱膨張(収縮)によるゼオライト粒界の亀裂が発生しにくい為、高温条件下でも安定してアンモニアを高い透過度で効率的に透過側に分離することができる。このような熱膨張率を示すゼオライトを用いたゼオライト膜複合体は、特に本実施例のRHO型ゼオライトに記載されるように、温度に対して非線形的な熱膨張/収縮の挙動を示しても、高温条件下においては、膜として、安定して高い分離性能を発現する。ここで、温度に対して非線形的な熱膨張/収縮の挙動とは、温度に対して単調に熱膨張または収縮しない挙動、つまり、例えば、ある温度領域では熱膨張或いは熱収縮挙動を示すが、それ以外の温度領域では逆の挙動、すなわち前者であれば熱収縮、後者であれば熱膨張する挙動をいう。
【0092】
これは、未だ詳らかではなく特に限定はされないが、昇温過程においてゼオライトが熱収縮や熱膨張してもゼオライトが支持体上で好適に動き、亀裂を生成することなく、高温条件下に適した高い分離性能を発現する緻密なゼオライト膜複合体が形成するためと考えられる。したがって、高温条件下で安定してアンモニアを分離する場合、昇温過程において非線形的な熱膨張/収縮の挙動を示すゼオライトを用いても良い。本発明に用いるゼオライトとして特に制限はないが、例えば、RHO(D.R.Corbin.etaL.J.Am.Chem.Soc,112,4821-4830)、MFI、AFI、DDR(ParkS.H.etaL.Stud.Surf.Sci.Catal.1997,105,1989-1994)等が知られている。
【0093】
また、本実施形態のゼオライトの30℃における熱膨張率に対する300℃の熱膨張率の変化率に対する、30℃の熱膨張率に対する400℃における該熱膨張率の変化率は、その比として、絶対値で、通常120%以下、好ましくは115%以下、更に好ましくは110%以下、とりわけ好ましくは105%以下、最も好ましくは103%以下である。このような特定の温度間の特定の熱膨張率の変化率比を示すゼオライトを用いて多孔質支持体上に成膜したゼオライト膜複合体は、例えば、アンモニア製造を開始するに当たりその反応初期に反応器内で不均質な発熱が起こった際にも、局所的なゼオライトの熱膨張(収縮)による粒界の亀裂の発生を抑制できる為、安定してアンモニアを高い透過度で効率的に透過側に分離することができる。
【0094】
本実施形態のゼオライト膜複合体は、膜を合成する際に熱膨張率の変化率が特定の範囲内にあるゼオライトを多孔質支持体上に種晶として付着させる工程を経て調製されると、高温条件下でも安定して高い選択性でアンモニアを分離することができる場合が多く、好ましい。このようなゼオライト膜複合体の調製に種晶として用いられるゼオライトの熱膨張率の変化率は、30℃の熱膨張率に対する300℃の熱膨張率の変化率の絶対値として、0.25%以下、好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.15%以下、とりわけ好ましくは0.10%以下、最も好ましくは0.05%以下である。一方、30℃の熱膨張率に対する400℃の熱膨張率の変化率は、その絶対値として、通常0.30%以下、好ましくは0.25%以下、更に好ましくは、0.20%以下、とりわけ好ましくは0.15%以下、最も好ましくは0.10%以下である。
【0095】
本実施形態の特徴となるゼオライトの特定の温度での熱膨張率の変化率は、後述するように使用するゼオライトのカチオン種を適切に選択することにより制御することができる。例えば、RHO型ゼオライトのカチオン種と熱膨張率の関係については、Chemical,Communications、2000、2221-2222.に記載されているとおり、ゼオライト中に含まれるカチオン種により熱膨張率が変わることが知られている。そのため、本実施形態の高温条件下でも安定して高い選択性でアンモニアを分離するゼオライト膜複合体を得るためには、RHO型ゼオライトの中でも特定のカチオン種を選定することが特に重要である。一方、本実施形態の実施例に記載のMFIゼオライトの熱膨張率についても、上記RHO型ゼオライトの場合と同様、適切なゼオライト中のカチオン種を選定することにより本実施形態の特性を示すゼオライト膜複合体を製造することができる。
本実施形態のゼオライト中に含まれるカチオン種としては、ゼオライトのイオン交換サイトに配位しやすいカチオン種が望ましく、例えば、周期律表の第1族、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、及び、第12族の元素群から選ばれるカチオン種、NH4
+、ならびにこれらの二種以上のカチオン種であり、より好ましくは、周期律表の第1族、第2族の元素群から選ばれるカチオン種、NH4
+、ならびにこれらの二種以上のカチオン種である。
【0096】
本実施形態で使用されるゼオライトは、アルミノ珪酸塩である。アルミノ珪酸塩のSiO2/Al2O3モル比は特に限定されないが、通常6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、とりわけ好ましくは11以上、特に好ましくは12以上、最も好ましくは13以上である。上限は、通常Alが不純物程度の量であり、SiO2/Al2O3モル比としては、通常500以下、好ましくは100以下、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下、とりわけ好ましくは70以下、さらに好ましくは50以下、最も好ましくは30以下である。このような特定の領域のSiO2/Al2O3モル比のゼオライトを使用することにより、ゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができる。また、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる気体混合物からアンモニアを透過させる分離性能の観点からは、前記のようにAl元素の酸点がアンモニアの吸着サイトになる理由から、特定量のAlを含有するゼオライトを用いることが好ましく、上記のSiO2/Al2O3モル比を示すゼオライトを使用することにより、アンモニアを高い透過度で高選択的に分離することができる。ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
【0097】
本発明において用いられるゼオライト膜の厚さは、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上、特に好ましくは1.5μm以上である。また通常100μm以下であり、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下の範囲である。ゼオライト膜の厚さが上記下限値以上であれば、欠陥が生じにくく、分離性能が良好になる傾向がある。また、ゼオライト膜の厚さが上記上限値以下であれば、透過性能が向上する傾向があり、さらには、高温領域において、昇温によりゼオライト膜に亀裂が発生しにくくなるために高温時の透過選択性の低下を抑制できる傾向がある。
【0098】
ゼオライト膜を形成するゼオライトの平均一次粒子径は特に限定されないが、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、その上限は膜の厚さ以下である。ゼオライトの平均一次粒径が上記下限値以上であれば、ゼオライトの粒界を小さくすることができるために良好な透過選択性を得ることができる。従って、ゼオライトの平均一次粒子径がゼオライト膜の厚さと同じである場合が最も好ましい。この場合、ゼオライトの粒界を最も小さくすることができる。後に述べる水熱合成で得られるゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。
なお、本発明においては、平均一次粒子径は、本発明のゼオライト膜複合体の表面、あるいは破断面を走査型電子顕微鏡による観察において、任意に選択した30個以上の粒子について一次粒子径を測定し、平均値として求められる。
【0099】
ゼオライト膜の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用することができる。また、ゼオライト膜の大きさも特に限定されず、例えば、後述する大きさの多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜複合体として形成される。
【0100】
(多孔質支持体)
本発明において、ゼオライト膜は、好ましくは、多孔質支持体の表面などに形成される。好ましくは、ゼオライトは、多孔質支持体に対して膜状に結晶化される。
【0101】
本発明において用いられる多孔質支持体は、表面にゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性を有することが好ましい。好適な多孔質支持体としては、ポリスルフォン、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、フッ化ビニリデン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどのガス透過性の多孔質高分子;シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体;鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属やメッシュ状の成形体;ガラス、カーボン成型体などの無機多孔質が挙げられる。なかでも、高温領域でのアンモニア分離用の多孔質支持体としては、該支持体の高温時の機械強度、耐変形性、熱安定性、耐反応性が優れる理由から、これらの中でもセラミックス焼結体や金属焼結体、ガラス、カーボン成型体などの無機多孔質支持体が好ましい。無機多孔質支持体は、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものが好ましい。
【0102】
好ましいセラミックス焼結体としては、上述の通り、α-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体が挙げられるが、これらは単独の焼結体であってもよく、複数のものを混合して焼結したものであってもよい。これらセラミックス焼結体は、その表面の一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することがあるため、これにより、多孔質支持体とゼオライト膜との密着性が高くなるため、ゼオライト膜複合体の耐久性を向上させることができる。
特に、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、無機多孔質支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、無機多孔質支持体とゼオライトの結合が強固になり、緻密で分離性能の高いゼオライト膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
本発明において用いられる多孔質支持体は、その表面(以下「多孔質支持体表面」ともいう。)において、多孔質支持体上に形成されるゼオライトを結晶化させる作用を有することが好ましい。
上記多孔質支持体表面は、細孔径が制御されていることが好ましい。多孔質支持体表面付近における多孔質支持体の平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、とりわけ好ましくは0.7μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下特に好ましくは2μm以下である。このような範囲の細孔径を有する多孔質支持体を使用することにより、アンモニアの透過選択性を向上させる緻密なゼオライト膜を形成させることができる。
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。
本発明において用いられる多孔質支持体の、多孔質支持体表面付近以外の部分の細孔径は制限されるものではなく、また特に制御される必要は無いが、その他の部分の気孔率は通常20%以上、より好ましくは30%以上、通常60%以下、好ましくは50%以下である。多孔質支持体表面付近以外の部分の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、上記下限以上であることにより透過物が拡散しやすくなる傾向があり、上記上限値以下では多孔質支持体の強度が低下するのを防ぎやすくなる傾向がある。また透過流量を制御する方法として、気孔率の異なる多孔質体を層状に組み合わせた多孔質支持体を用いてもよい。
本発明において用いられる多孔質支持体の形状は、混合ガスや液体混合物を有効に分離できるものであれば制限されるものではなく、具体的には平板状、管状、円筒状、多数の貫通孔を有するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。また、多孔質支持体の大きさ等は任意であり、所望のゼオライト膜複合体が得られるように適宜選択して調整すればよい。これらの中でも、多孔質支持体の形状は管状であるものが好ましい場合がある。
管状の多孔質支持体の長さは、特段の制限はないが、通常2cm以上、好ましくは4cm以上、さらに好ましくは5cm以上、特に好ましくは10cm以上であり、とりわけ好ましくは40cm以上であり、最も好ましくは50cm以上であり、一方、通常200cm以下、好ましくは150cm以下、より好ましくは100cm以下である。多孔質支持体の長さが上記下限値以上の場合、1本あたりの混合ガスの分離処理量を多くすることができるために、設備コストを低減することができる。また、上記上限値以下の場合、ゼオライト膜複合体の製造を簡略化でき、さらには、使用時の振動等により折れやすい等の問題が生じるのを防ぐことができる。
管状の多孔質支持体の内径は通常0.1cm以上、好ましく0.2cm以上、より好ましくは0.3cm以上、特に好ましくは0.4cm以上であり、通常2cm以下、好ましくは1.5cm以下、より好ましくは1.2cm以下、特に好ましくは1.0cm以下である。外径は、通常0.2cm以上、好ましくは0.3cm以上、より好ましくは0.6cm以上、特に好ましくは1.0cm以上であり、通常2.5cm以下、好ましくは1.7cm以下、より好ましくは1.3cm以下である。管状の多孔質支持体の肉厚は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上、特に好ましくは1.2mm以上であり、通常4mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。管状の多孔質支持体の内径、外径及び肉厚がそれぞれ、上記下限値以上であれば、支持体の強度を向上させて折れにくくすることができる。また、管状の支持体の内径及び外径がそれぞれ上記上限値以下であれば、アンモニアの分離に伴う設備のサイズを小さくすることができるために、経済的に有利になりうる。また、管状の支持体の肉厚が上記上限値以下であれば、透過性能が向上する傾向がある。
【0103】
第五実施形態で用いられる多孔質支持体の30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率は、その絶対値として、0.25%以下、好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.15%以下、とりわけ好ましくは0.10%以下、最も好ましくは0.05%以下である。すなわち、ゼオライト膜複合体Eの多孔質支持体の30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率は、±0.25%以内であり、好ましくは±0.20%以内、更に好ましくは±0.15%以内、とりわけ好ましくは±0.10%以内、最も好ましくは±0.05%以内である。一方、ゼオライト膜複合体Eの多孔質支持体の30℃の熱膨張率に対する400℃の熱膨張率の変化率は、その絶対値として、通常0.30%以下、好ましくは0.25%以下、更に好ましくは、0.20%以下、とりわけ好ましくは0.15%以下、最も好ましくは0.10%以下である。すなわち、多孔質支持体の30℃の熱膨張率に対する400℃の熱膨張率の変化率は、±0.30%以内、好ましくは±0.25%以内、更に好ましくは、±0.20%以内、とりわけ好ましくは±0.15%以内、最も好ましくは±0.10%以内である。このような低い熱膨張率を示す多孔質支持体上に成膜したゼオライト膜複合体は、例えば、200℃を超える温度条件下で、更には300℃を超える温度条件下でも、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる気体混合物からアンモニアを透過させる目的で該複合体を昇温した際に、多孔質支持体の熱膨張(収縮)に追従してゼオライト膜の亀裂が発生しにくい為、高温条件下でも安定してアンモニアを高い透過度で効率的に透過側に分離することができる。
【0104】
また、第五実施形態で用いられる多孔質支持体の30℃の熱膨張率に対する300℃の熱膨張率の変化率に対する、30℃の熱膨張率に対する400℃における該熱膨張率の変化率は、その比として絶対値で、通常120%以下、好ましくは115%以下、更に好ましくは110%以下、とりわけ好ましくは105%以下、最も好ましくは103%以下である。このような特定の温度間の特定の熱膨張率比を示す多孔質支持体上に成膜したゼオライト膜複合体は、例えば、アンモニア製造において反応器内で不均質な発熱が起こった際にも、局所的な多孔質支持体の熱膨張(収縮)に追従したゼオライト膜の亀裂の発生を抑制できる為、高温条件下でも安定してアンモニアを高い透過度で効率的に透過側に分離することができる。
【0105】
(ゼオライト膜複合体)
本発明においては、ゼオライト膜は、少なくとも、ゼオライトと、支持体と、を含んで構成されるゼオライト膜複合体として使用することが好ましい。
本発明において、ゼオライト膜複合体とは、上記の多孔質支持体の表面などに上記のゼオライトが膜状に、好ましくは結晶化して固着しているものであり、場合によっては、ゼオライトの一部が、支持体の内部にまで固着している状態のものが好ましい。
ゼオライト膜複合体としては、例えば、多孔質支持体の表面などにゼオライトを水熱合成により膜状に結晶化させたものが好ましい。
【0106】
ゼオライト膜の多孔質支持体上の位置は特に限定されず、管状の支持体を用いる場合、外表面にゼオライト膜を形成してもよいし、内表面に形成してもよく、さらに適用する系によっては両面に形成してもよい。また、支持体の表面に積層させて形成してもよいし、支持体の表面層の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密な膜を形成させることが、分離性の向上の面で好ましい。
【0107】
また、ゼオライト膜複合体を構成するゼオライト及び支持体には特段の制限はなく、上述のゼオライト及び支持体を任意で組み合わせて使用することが好ましいが、これらのなかでも、特に好ましいゼオライトと多孔質支持体の組み合わせは、具体的には、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、DDR型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、AFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、CHA型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、AEI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体が挙げられ、好ましくは、CHA型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、より好ましくは、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体である。
本発明のある一実施形態(ゼオライト膜B~E)においては、好ましくは、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、より好ましくは、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体である。
【0108】
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
本発明において、ゼオライト膜複合体の形成方法は、上記したゼオライト膜を多孔質支持体上に形成可能な方法であれば特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、(1)支持体上にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)支持体にゼオライトを無機バインダーあるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを支持体に固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを支持体に含浸させ、場合によっては吸引することによりゼオライトを支持体に固着させる方法、などの何れの方法も用いることができる。
【0109】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
この場合、ゼオライト膜複合体は、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、内部に多孔質支持体を入れたオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉し、一定時間加熱することにより製造することができる。
【0110】
水性反応混合物は、Si原子源、Al原子源、アルカリ源および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を含むものである。
ゼオライト膜複合体の製造方法についてより理解が深まるように、下記に代表例として、RHO型ゼオライト膜複合体ならびにMFI型ゼオライト膜複合体の製造方法について詳細に説明するが、本発明のゼオライト膜及び該製造方法はこれに限定されるものではない。
【0111】
(RHO型ゼオライト膜)
本発明において用いられるRHO型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでRHO構造のものを示す。RHO型ゼオライトは3.6×3.6Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるRHO型ゼオライトのフレームワーク密度は、14.1T/1000Åである。フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å3あたりの酸素以外の骨格を構成する原子の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2007 ELSEVIER に示されている。
【0112】
(MFI型ゼオライト膜)
本発明において用いられるMFI型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでMFI構造のものを示す。MFI型ゼオライトは5.1×5.5Åあるいは5.3×5.6Åの径を有する酸素10員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるMFI型ゼオライトのフレームワーク密度は、17.9T/1000Åである。フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å3あたりの酸素以外の骨格を構成する原子の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2007 ELSEVIER に示されている。
【0113】
<RHO型ゼオライト膜の製造方法>
【0114】
(ケイ素原子源)
水性反応混合物に用いるケイ素(Si)原子源としては特に限定されないが、例えば、アルミノシリケートゼオライト、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、珪酸メチル、珪酸エチル、トリメチルエトキシシラン等のシリコンアルコキシド、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどが挙げられ、好ましくは、アルミノシリケートゼオライト、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、珪酸メチル、珪酸エチル、シリコンアルコキシド、アルミノシリケートゲルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0115】
Si原子源は、Si原子源に対する他の原料の使用量がそれぞれ前述ないしは後述の好適範囲となるように用いられる。
【0116】
(アルミニウム原子源)
多孔質支持体-RHO型ゼオライト膜複合体の製造に用いられるアルミニウム(Al)原子源は、特に限定されないが、アルミノシリケートゼオライト、アモルファスの水酸化アルミニウム、ギブサイト構造を持つ水酸化アルミニウム、バイヤーライト構造を持つ水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルなどが挙げられ、アルミノシリケートゼオライト、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルが好ましく、アルミノシリケートゼオライト、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0117】
アルミノシリケートゼオライトは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。アルミノシリケートゼオライトをAl原子源として用いる場合には、全Al原子源の50質量%以上、特に70~100質量%、とりわけ90~100質量%を上述のアルミノシリケートゼオライトとすることが好ましい。また、アルミノシリケートゼオライトをSi原子源として用いる場合には、全Si原子源の50質量%以上、特に70~100質量%、とりわけ90~100質量%を上述のアルミノシリケートゼオライトとすることが好ましい。アルミノシリケートゼオライトの割合がこの範囲にあるときRHO型ゼオライト膜のSi原子/Al原子モル比が高くなり、耐酸性、耐水性に優れた適用範囲の広いゼオライト膜となる。
【0118】
種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するAl原子源(前述のアルミノシリケートゼオライトおよび、そのほかのAl原子源を含む。)の使用量(Al原子/Si原子比)の好ましい範囲は、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上であり、さらに好ましくは0.06以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下である。この使用量の範囲に制御することによりゼオライト中の窒素原子やアルカリ金属元素の含有量を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなる。また、Al原子/Si原子比率を大きくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を少なくすればよく、一方、当該比率を小さくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を増やせばよい。
【0119】
なお、本発明のある実施形態(例えば、発明B~E)において、Al原子/Si原子比が1.0超であると、得られたRHO型ゼオライト膜の耐水性、耐酸性が低く、ゼオライト膜としての用途が限定されることがある。Al原子/Si原子比が0.01よりも小さいと、RHO型ゼオライト膜が得られにくくなることがある。
【0120】
なお、水性反応混合物には、ケイ素原子源、アルミニウム原子源以外に他の原子源、例えばガリウム(Ga)、鉄(Fe)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)などの原子源を含んでいてもよい。
【0121】
アルカリ源として用いるアルカリの種類は特に限定されずアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
【0122】
これら金属水酸化物の金属種は通常ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、好ましくはNa、K、Csより好ましくはNa、Csである。また、金属酸化物の金属種は2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとCsを併用するのが好ましい。
金属水酸化物としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
【0123】
また、水性反応混合物に用いるアルカリ源として、次に述べる有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオンを用いることができる。
【0124】
なお、本発明に係るゼオライトの結晶化において、有機テンプレート(構造規定剤)は、必ずしも必要とされるものではないが、各構造に応じた種類の有機テンプレートを用いることにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、結晶性が向上することから、有機テンプレートを用いることが好ましい。
【0125】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0126】
反応に適する有機テンプレートの種類は合成するゼオライト構造によって異なり、有機テンプレートは所望のゼオライト構造が得られるものを使用すればよい。具体的には、例えば、RHO構造であれば、18-クラウン-6-エーテル等を使用してもよい。
【0127】
有機テンプレートがカチオンの場合には、ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられ、水酸化物イオンの場合には上記のようにアルカリ源として機能する。
【0128】
水性反応混合物中のSi原子源と有機テンプレートの比は、SiO2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO2比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.08以上、最も好ましくは0.1以上であり、通常1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.35以下、特に好ましくは0.30以下、最も好ましくは0.25以下である。水性反応混合物の有機テンプレート/SiO2比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、耐酸性に優れ、Al原子が脱離しにくいゼオライトが得られる。また、この条件において、特に緻密で耐酸性に優れたRHO型のアルミノ珪酸塩のゼオライトを形成させることができる。
【0129】
アルカリ金属原子源は、その適当量を使用することにより、アルミニウムに後述の有機構造規定剤が好適な状態に配位しやすくなるため、結晶構造を作りやすくできる。アルカリ金属原子源(R)と、種結晶以外の水熱合成用原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)とのモル比(R/Si原子)は、通常0.1以上、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.25以上、とりわけ好ましくは、0.30以上、特に好ましくは0.35以上であり、通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.5以下である。
【0130】
アルカリ金属原子源のケイ素に対するモル比(R/Si原子)が上記上限値よりも大きいと、生成したゼオライトが溶解しやすく、ゼオライトが得られなかったり収率が著しく低くなったりする場合がある。R/Si原子が上記下限値よりも小さいと、原料のAl原子源やSi原子源が十分に溶解せず、均一な水熱合成用原料混合物が得られず、RHO型ゼオライトが生成しにくくなる場合がある。
【0131】
(水の量)
水熱合成用原料混合物中の水の量は、種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するモル比で通常10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常200モル以下、好ましく150以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは80以下、特に好ましくは60以下である。上記上限よりも大きいと、反応混合物が希薄すぎて、欠陥のない緻密な膜ができにくくなることがある。10未満であると、反応混合物が濃いために、自発核が生じやすくなり、支持体からのRHO型ゼオライトの成長を阻害し、緻密な膜ができにくくなることがある。
【0132】
(種結晶)
本発明において、「ゼオライト」製造原料(原料化合物)の一成分として種結晶を用いてもよい。
水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を存在させることで、多孔質支持体上でのゼオライトの結晶化を促進できる。反応系内に種結晶を存在させる方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができるが、本発明では、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能の高いゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0133】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには、形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。例えば、RHO型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜を形成する場合は、RHO型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
【0134】
種晶の粒子径は支持体の細孔径に近いことが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常20nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは0.15μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは0.7μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは、3μm以下、より好ましくは2μm以下、特に好ましくは1.5μm以下である。
支持体の細孔径によっては種晶の粒子径が小さいほうが望ましい場合があり、必要に応じて粉砕して用いても良い。種晶の粒径は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、通常5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0135】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に一端を封止した支持体を浸漬したのちに支持体を他端から吸引することで支持体表面に強固に種結晶を付着させる吸引法や種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良くゼオライト膜を製造するにはディップ法および吸引法が望ましく、種結晶を支持体に密着させる点ではスラリー上の種結晶を塗りこむ方法および吸引法が望ましい。また、種結晶を支持体に密着させる目的および/または過剰な種結晶を取り除く目的で、ディップ法や吸引法に続きラテックス手袋を着用した指などで種結晶が付着した支持体をこすって押し込むことも好適に行われる。
【0136】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水、アルカリ性水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の種類は特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。またこれらのアルカリ種は混合されていてもよい。アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は特に限定されず、通常0.0001mol%以上、好ましくは0.0002mol%以上、より好ましくは0.001mol%以上、さらに好ましくは0.002mol%以上である。また、通常1mol%以下、好ましくは0.8mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.2mol%以下である。
【0137】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全重量に対して、通常0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは3.0質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0138】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。一方で、例えば、ディップ法によって多孔質支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0139】
支持体にディップ法、吸引法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させたのち、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。乾燥温度は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。乾燥時間は十分に乾燥していれば問題ないが通常10分以上、好ましくは30分以上であり、上限は特に指定しないが、経済的な観点から通常5時間以下である。
【0140】
乾燥後の種結晶付着支持体に対し、種結晶を支持体に密着させる目的および/または過剰な種結晶を取り除く目的で、ラテックス手袋を着用した指などで種結晶が付着した支持体をこすって押し込むことも好適に行われる。
【0141】
多孔質支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、多孔質支持体の膜形成面1m2あたりの質量で、通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上、より好ましくは0.5g以上、さらに好ましくは0.80g以上、最も好ましくは1.0g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下、最も好ましくは5g以下である。
【0142】
種結晶の付着量が上記下限未満の場合には、結晶が形成されにくくなり、膜の成長が不十分になったり、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上記上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0143】
水熱合成により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物の攪拌下にゼオライト膜を形成させてもよい。
【0144】
水熱合成は、上記のようにして種結晶を担持した支持体と調製された水熱合成用混合物ないしはこれを熟成して得られる水性ゲルを耐圧容器に入れ、自己発生圧力下、又は結晶化を阻害しない程度の気体加圧下で、撹拌下、又は、容器を回転ないしは揺動させながら、或いは静置状態で、所定温度を保持することにより行われる。静置状態での水熱合成が、支持体上の種結晶からの結晶成長を阻害しないという点で望ましい。
【0145】
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の反応温度は特に限定されず、目的のゼオライト構造の膜を得るために適した温度であればよいが、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上、とりわけ好ましくは130℃以上であり、特に好ましくは140℃以上であり、最も好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは170℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0146】
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の加熱(反応)時間は特に限定されず、目的のゼオライト構造の膜を得るために適した時間であればよいが、通常3時間以上、好ましくは8時間以上、更に好ましくは12時間以上であり、とりわけ好ましくは15時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下、とりわけ好ましくは1.5日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0147】
水熱合成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、上記の温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0148】
水熱合成を複数回繰り返すことでゼオライト膜の緻密性を向上させることも可能である。水熱合成を複数回繰り返す場合には1回目の水熱合成で得られたゼオライト膜複合体を水洗して加熱乾燥したのちに、新たに用意した水性反応混合物に再び浸漬して水熱合成を行えばよい。1回目の水熱合成後得られたゼオライト膜複合体は必ずしも水洗や乾燥を行う必要はないが、水洗し乾燥することで水性反応混合物の組成を意図した組成に保つことができる。複数回合成する場合の合成回数は通常2回以上であり通常10回以下、好ましくは5回以下、より好ましくは3回以下である。水洗は、1回でも複数回繰り返してもよい。
【0149】
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥させ、また、有機テンプレートを使用した場合に該有機テンプレートを焼成して除去することを意味する。
【0150】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度は、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、通常250℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは400℃以上であり、通常800℃以下、好ましくは600℃以下、さらに好ましくは550℃以下、特に好ましくは500℃以下である。
【0151】
有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートの残留割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なくなって、そのためにアンモニアの分離に使用した際の透過量が減少する可能性がある。加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるため、ゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われて分離性能が低くなることがある。
【0152】
加熱処理の時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥され、また有機テンプレートが焼成除去される時間であれば特に限定されず、乾燥を目的とする場合は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、昇温速度や降温速度によっても変動するが、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。加熱時間の上限は特に限定されず、通常200時間以下、好ましくは150時間以下、より好ましくは100時間以下である。
【0153】
テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性ガスや酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0154】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは上記の加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0155】
有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、多孔質支持体とゼオライトの熱膨張率の差に起因してゼオライト膜に亀裂を生じさせることを防止するために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。昇温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
【0156】
また、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理においては、加熱処理後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、降温速度も昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。降温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
<MFI型ゼオライト膜の製造方法>
【0157】
(ケイ素原子源)
水性反応混合物に用いるケイ素(Si)原子源としては、例えば、アルミノシリケートゼオライト、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、珪酸メチル、珪酸エチル、トリメチルエトキシシラン等のシリコンアルコキシド、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどを用いることができる。好ましくは、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル、シリコンアルコキシド、アルミノシリケートゲルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0158】
Si原子源は、Si原子源に対する他の原料の使用量がそれぞれ前述ないしは後述の好適範囲となるように用いられる。
【0159】
(アルミニウム原子源)
多孔質支持体-MFI型ゼオライト膜複合体の製造に用いられるアルミニウム(Al)原子源は、特に限定されないが、アルミノシリケートゼオライト、アモルファスの水酸化アルミニウム、ギブサイト構造を持つ水酸化アルミニウム、バイヤーライト構造を持つ水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルなどが挙げられ、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルが好ましく、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0160】
種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するアルミニウム原子源(前述のアルミノシリケートゼオライトおよび、そのほかのアルミニウム原子源を含む。)の使用量(Al原子/Si原子比)の好ましい範囲は、モル比として、通常0.001以上、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.003以上であり、さらに好ましくは0.004以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下である。この使用量の範囲に制御することによりゼオライト中の窒素原子やアルカリ金属元素の含有量を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなる。Al原子/Si原子比率を大きくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を少なくすればよく、一方、当該比率を小さくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を増やせばよい。
【0161】
なお、水性反応混合物には、Si原子源、Al原子源以外に他の原子源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの原子源を含んでいてもよい。
【0162】
アルカリ源として用いるアルカリの種類は特に限定されずアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
【0163】
金属水酸化物としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
【0164】
また、水性反応混合物に用いるアルカリ源として、次に述べる有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオンを用いることができる。
【0165】
なお、本発明に係るゼオライトの結晶化において、有機テンプレートは、必ずしも必要とされるものではないが、各構造に応じた種類の有機テンプレート(構造規定剤)を用いることにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、結晶性が向上することから、有機テンプレートを用いることが好ましい。
【0166】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0167】
反応に適する有機テンプレートの種類は合成するゼオライト構造によって異なり、有機テンプレートは所望のゼオライト構造が得られるものを使用すればよい。具体的には、例えば、MFI構造であればテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等を使用してもよい。
【0168】
有機テンプレートがカチオンの場合には、ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられ、水酸化物イオンの場合には上記のようにアルカリ源として機能する。
【0169】
水性反応混合物中のSi原子源と有機テンプレートの比は、SiO2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO2比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、とりわけ好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.1以上であり、通常1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、とりわけ好ましくは0.25以下、特に好ましくは0.2以下である。水性反応混合物の有機テンプレート/SiO2比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、耐酸性に優れ、Alが脱離しにくいゼオライトが得られる。また、この条件において、特に緻密で耐酸性に優れたMFI型のアルミノ珪酸塩のゼオライトを形成させることができる。
アルカリ金属原子源は、その適当量を使用することにより、アルミニウムに後述の有機構造規定剤が好適な状態に配位しやすくなるため、結晶構造を作りやすくできる。アルカリ金属原子源(R)と、種結晶以外の水熱合成用原料混合物に含まれるケイ素(Si)とのモル比R/Siは、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上、特に好ましくは0.05以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。
【0170】
アルカリ金属原子源のケイ素に対するモル比(R/Si)が上記上限値よりも大きいと、生成したゼオライトが溶解しやすく、ゼオライトが得られなかったり収率が著しく低くなったりする場合がある。R/Siが上記下限値よりも小さいと、原料のAl原子源やSi原子源が十分に溶解せず、均一な水熱合成用原料混合物が得られず、MFI型ゼオライトが生成しにくくなる場合がある。
【0171】
(水の量)
水熱合成用原料混合物中の水の量は、種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si)に対するモル比で通常10以上、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、特に好ましくは30以上であり、通常500モル以下、好ましく300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、特に好ましくは100以下である。上記上限よりも大きいと、反応混合物が希薄すぎて、欠陥のない緻密な膜ができにくくなることがある。10未満であると、反応混合物が濃いために、自発核が生じやすくなり、支持体からのMFI型ゼオライトの成長を阻害し、緻密な膜ができにくくなることがある。
【0172】
(種結晶)
本発明において、「ゼオライト」製造原料(原料化合物)の一成分として種結晶を用いてもよい。
水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を存在させることで、多孔質支持体上でのゼオライトの結晶化を促進できる。反応系内に種結晶を存在させる方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができるが、本発明では、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能の高いゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0173】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには、形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。例えば、MFI型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜を形成する場合は、MFI型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
【0174】
種結晶の粒子径は支持体の細孔径に近いことが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、とりわけ好ましくは0.7μm以上であり、最も好ましくは1μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは、3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.2μm以下である。
支持体の細孔径によっては種結晶の粒子径が小さいほうが望ましい場合があり、必要に応じて粉砕して用いてもよい。種結晶の粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0175】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に一端を封止した支持体を浸漬したのちに支持体を他端から吸引することで支持体表面に強固に種結晶を付着させる吸引法や種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良くゼオライト膜を製造するにはディップ法および吸引法が望ましく、種結晶を支持体に密着させる点ではスラリー上の種結晶を塗りこむ方法および吸引法が望ましい。また、種結晶を支持体に密着させる目的および/または過剰な種結晶を取り除く目的で、ディップ法や吸引法に続きラテックス手袋を着用した指などで種結晶が付着した支持体をこすって押し込むことも好適に行われる。
【0176】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水、アルカリ性水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の種類は特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。またこれらのアルカリ種は混合されていてもよい。アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は特に限定されず、通常0.0001mol%以上、好ましくは0.0002mol%以上、より好ましくは0.001mol%以上、さらに好ましくは0.002mol%以上である。また、通常1mol%以下、好ましくは0.8mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.2mol%以下である。
【0177】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全重量に対して、通常0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは3質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0178】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。一方で、例えば、ディップ法によって多孔質支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0179】
支持体にディップ法、吸引法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させたのち、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。乾燥温度は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。乾燥時間は十分に乾燥していれば問題ないが通常10分以上、好ましくは30分以上であり、上限は特に指定しないが、経済的な観点から通常5時間以下である。
【0180】
乾燥後の種結晶付着支持体に対し、種結晶を支持体に密着させる目的および/または過剰な種結晶を取り除く目的で、ラテックス手袋を着用した指などで種結晶が付着した支持体をこすって押し込むことも好適に行われる。
【0181】
多孔質支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、多孔質支持体の膜形成面1m2あたりの質量で、通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上、より好ましくは0.5g以上、さらに好ましくは0.80g以上、最も好ましくは1.0g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下、最も好ましくは5g以下である。
【0182】
種結晶の付着量が上記下限未満の場合には、結晶が形成されにくくなり、膜の成長が不十分になったり、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上記上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0183】
水熱合成により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物の攪拌下にゼオライト膜を形成させてもよい。
【0184】
水熱合成は、上記のようにして種結晶を担持した支持体と調製された水熱合成用混合物ないしはこれを熟成して得られる水性ゲルを耐圧容器に入れ、自己発生圧力下、又は結晶化を阻害しない程度の気体加圧下で、撹拌下、又は、容器を回転ないしは揺動させながら、或いは静置状態で、所定温度を保持することにより行われる。静置状態での水熱合成が、支持体上の種結晶からの結晶成長を阻害しないという点で望ましい。
【0185】
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の反応温度は特に限定されず、目的のゼオライト構造の膜を得るために適した温度であればよいが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上、とりわけ好ましくは140℃以上、特に好ましくは150℃以上、最も好ましくは160℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0186】
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の加熱(反応)時間は特に限定されず、目的のゼオライト構造の膜を得るために適した時間であればよいが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下、とりわけ好ましくは1日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0187】
水熱合成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、上記の温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0188】
水熱合成を複数回繰り返すことでゼオライト膜の緻密性を向上させることも可能である。水熱合成を複数回繰り返す場合には1回目の水熱合成で得られたゼオライト膜複合体を水洗して加熱乾燥したのちに、新たに用意した水性反応混合物に再び浸漬して水熱合成を行えばよい。1回目の水熱合成後得られたゼオライト膜複合体は必ずしも水洗や乾燥を行う必要はないが、水洗し乾燥することで水性反応混合物の組成を意図した組成に保つことができる。複数回合成する場合の合成回数は通常2回以上であり通常10回以下、好ましくは5回以下、より好ましくは3回以下である。水洗は一回でも複数回行ってもよい。
【0189】
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥させ、また、有機テンプレートを使用した場合に該有機テンプレートを焼成して除去することを意味する。
【0190】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度は、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは800℃以下、さらに好ましくは700℃以下、特に好ましくは600℃以下である。
【0191】
有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートの残留割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なくなって、そのためにアンモニアの分離に使用した際の透過量が減少する可能性がある。加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるため、ゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われて分離性能が低くなることがある。有機テンプレートとして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドを使用する場合は、この加熱処理温度を調整することにより、ゼオライト中の窒素原子の含有量を制御することができる。
【0192】
加熱処理の時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥され、また有機テンプレートが焼成除去される時間であれば特に限定されず、乾燥を目的とする場合は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、昇温速度や降温速度によっても変動するが、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。加熱時間の上限は特に限定されず、通常200時間以下、好ましくは150時間以下、より好ましくは100時間以下である。
【0193】
テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性ガスや酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0194】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは上記の加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0195】
有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、多孔質支持体とゼオライトの熱膨張率の差に起因してゼオライト膜に亀裂を生じさせることを防止するために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下、最も好ましくは0.3℃/分以下である。昇温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
【0196】
また、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理においては、加熱処理後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、降温速度も昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下、最も好ましくは0.3℃/分以下である。降温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
【0197】
(イオン交換)
合成されたゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。特に、本発明のある実施形態(例えば、発明B、C、D、Eのゼオライト膜)においては、合成されたゼオライト膜は、イオン交換処理を行う。本発明の特徴の一つであるゼオライトの熱膨張特性、アンモニアの分離熱安定性は、ゼオライト中のカチオン種により大きく影響を受ける為、本イオン交換が重要な制御法となる。また、後述するように、用いるカチオン種によりゼオライト膜のアンモニアの透過性能および/または分離性能が向上する場合がある。すなわち、本発明で用いるカチオン種は、上記のゼオライトの熱膨張特性、アンモニアの分離熱安定性を確保しながら、アンモニアの透過性能と分離性能を加味して適宜選定される。
【0198】
(イオン交換)
イオン交換は、有機テンプレートを用いてゼオライト膜を合成した場合は、通常、有機テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、本発明においては、ゼオライト膜表面の窒素含有量を増やすために、NH4
+やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種のいずれかが好ましく、その他、プロトン、Na+、K+、Li+、Rb+、Cs+などのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、ならびにFe、Cu、Zn、Ga、Laなどの遷移金属のイオンなどを共存させてもよい。これらの中では、プロトン、NH4
+、Na+、Li+、Cs+、Feイオン、Gaイオン、Laイオンが好ましい。これらのイオンは、ゼオライト中に複数種混在していてもよく、上記のゼオライトの熱膨張特性とアンモニア透過性能のバランスをとる上で、上記イオンを混在させる手法は好適に採用される。このようにイオン交換するカチオン種ならびにそれらの量を制御する事で、ゼオライトのアンモニア親和性ならびにゼオライト細孔内の有効細孔径を制御することが可能となり、アンモニアの透過選択性を上げ、かつアンモニアの透過速度も向上させることができる。これらの中でアンモニアの透過選択性を上げるイオン種としては、NH4
+やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ならびにピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種が好ましく、その中では、NH4
+や炭素数1~6の有機アミンのような分子サイズの小さなアミンがプロトン化されたカチオン種が上記の理由からより好ましく、その中でも特にNH4
+が好ましい。一方、アンモニアの透過速度を向上させるイオン種としては、プロトン、Na+、Li+、Cs+、Feイオン、Gaイオン、Laイオンが好ましく、Na+、Li+、Cs+イオンが特に好ましく、Na+イオンを共存させるのが最も好ましい。本発明においては、このように窒素原子を含有するイオン種を必須とするイオンの交換量を調整することにより、ゼオライト膜中のAl原子に対する窒素原子のモル比を制御することができる。
【0199】
尚、本発明のゼオライト中にNa+イオンを含有させる場合、その含有量は、ゼオライト中のAl原子に対して、モル比で、通常、0.01以上、好ましくは、0.02以上、より好ましくは、0.03以上であり、更に好ましくは0.04以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、その上限は、特に制限されないが、通常0.10モル当量以下、好ましくは0.070モル当量以下、より好ましくは0.065モル当量以下、更に好ましくは、0.060モル当量以下、特に好ましくは、055モル当量以下である。このような特定の領域のNa+/Al原子比のゼオライトを使用することにより、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高い透過度で分離することができる。
【0200】
イオン交換は、焼成後(有機テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、イオン交換する上記カチオンの硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、有機酸塩、水酸化物ならびにClやBrのハロゲン塩、、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗、あるいは40℃から100℃のお湯で湯洗するする方法などにより行えばよい。イオン交換処理に用いる溶媒は、上記イオン交換する塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、処理する塩の濃度は通常10mol/L以下、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。これらの処理条件は、用いる塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。塩酸などの酸を用いる場合は、酸がゼオライトの結晶構造を破壊するため、通常は処理する酸の濃度を5mol/L以下とし、温度や時間を適宜設定すればよい。また、イオン交換処理は繰り返し処理を行うことによりイオン交換率が高くなるため、イオン交換処理の回数は特に限定されることはなく、目的とする効果が得られるまで処理を繰り返してよい。さらに、イオン交換されたゼオライト膜は、イオン交換処理後にイオン交換処理原料由来の残存物がゼオライト細孔内に存在するとガスの透過性を妨げるため、必要に応じて200~500℃で焼成することにより、イオン交換処理後の残存物を除去してもよい。
【0201】
(硝酸塩処理)
本発明のある実施形態(例えば、発明B、C、D、Eのゼオライト膜)、においては、ゼオライト膜中の窒素原子の含有量を調整する方法として、硝酸塩処理を併用することが好ましいため、以下、硝酸塩処理について説明する。
【0202】
本発明においては、合成されたゼオライト膜は、必要に応じて硝酸塩処理を施しても良い。硝酸塩処理は、有機テンプレートを含む状態でも、焼成により有機テンプレートを除去した後に実施しても構わない。硝酸塩処理は、ゼオライト膜複合体を、例えば硝酸塩を含む溶液に浸漬して行う。これにより、膜表面に存在する微細な欠陥を硝酸塩がふさぐ効果が得られる為に好ましい場合がある。更に、硝酸塩がゼオライト細孔に存在する場合はゼオライト膜のアンモニアとの親和性を向上させる効果があり、アンモニアの透過性を向上させる手法として好適に採用される。硝酸塩処理に用いる溶媒は、塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、用いる硝酸塩に制限はないが、例えば、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸銅、硝酸亜鉛などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、その中でも硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウムがより好ましく、特に硝酸アルミニウムがゼオライト膜表面に存在する微細な欠陥をふさぐ効果が顕著でアンモニアの分離性能が高まる理由から好ましい。
硝酸塩の濃度は通常10mol/L以下であり、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から48時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いる硝酸塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。硝酸塩処理後のゼオライト膜は、水洗を行ってもよく、水洗を繰り返すことによってゼオライト膜の窒素原子含有量を好ましい範囲に調整することができる。
【0203】
(アルミニウム塩処理)
本発明においては、合成されたゼオライト膜は、必要に応じてアルミニウム塩処理を施してもよい。アルミニウム塩処理は、有機テンプレートを含む状態でも、焼成により有機テンプレートを除去した後に実施しても構わない。アルミニウム塩処理は、ゼオライト膜複合体を、例えばアルミ塩を含む溶液に浸漬して行う。これにより、膜表面に存在する微細な欠陥をアルミ塩がふさぐ効果が得られることがある。更に、アルミニウム塩がゼオライト細孔に存在する場合はアンモニアを引き寄せる効果があり、アンモニアの透過性を向上させる手法として好適に採用される。アルミニウム塩処理に用いる溶媒は、塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、用いるアルミ塩に制限はないが、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルミニウム塩の濃度は通常10mol/L以下であり、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から48時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いるアルミニウム塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。アルミニウム塩処理後のゼオライト膜は、水洗を行ってもよく、水洗を繰り返すことによってゼオライト膜のAl原子含有量を調整することができる。本発明のSi原子/Al原子比率を大きくするためには、処理するアルミニウム塩の濃度や処理量を減らしたり、アルミニウム塩処理後の水洗の回数を増やすことが好ましく、一方、当該比率を小さくするためには、処理するアルミニウム塩の濃度や処理量を増やしたり、アルミニウム塩処理後の水洗の回数を減らすことが好ましい。
【0204】
(シリル化処理)
本発明においては、合成されたゼオライト膜は、必要に応じてシリル化処理を施してもよい。シリル化処理は、ゼオライト膜複合体を、例えばSi化合物を含む溶液に浸漬して行う。これにより、ゼオライト膜表面がSi化合物により修飾されて、特定の物理化学的性質を有するものとすることができる。例えば、ゼオライト膜表面にSi-OHを多く含む層を確実に形成することで膜表面の極性が向上し、極性分子の分離性能を向上させることができる。また、ゼオライト膜表面をSi化合物により修飾することで膜表面に存在する微細な欠陥をふさぐ効果が得られることがある。更に、シリル化処理によりゼオライトの細孔径の制御が可能であり、該処理を行うことでアンモニアの透過選択性を向上させる手法も好適に採用される。
【0205】
シリル化処理に用いる溶媒は、水であっても有機溶媒であってもよい。また溶液は酸性、塩基性であってもよく、この場合には酸、塩基によってシリル化反応が触媒される。用いるシリル化剤に制限はないが、アルコキシシランが好ましい。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から30時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いるシリル化剤、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。
【0206】
本発明においては、本発明のゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中の窒素原子を含むカチオン種を選定してゼオライトのAl原子/Si原子比を調整する方法、イオン交換法によるイオン交換量を調整して窒素原子の含有量を調整する方法、必要に応じてゼオライト膜を製造する際に窒素原子を含有する有機テンプレート(構造規定剤)を使用してその添加量や有機テンプレートを焼成除去する際の加熱温度や加熱する時間を調整する方法、ゼオライト膜を硝酸塩で処理する方法、硝酸処理をしたゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
本発明においては、また、本発明のゼオライト膜表面に含まれるAl原子の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中のAl原子/Si原子比を調整する方法、ゼオライト膜をアルミニウム塩で処理する方法、アルミニウム塩処理をしたゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
本発明においては、また、本発明のゼオライト膜表面に含まれるアルカリ金属元素の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中のAl原子/Si原子比を調整する方法、イオン交換法によるイオン交換量を調整してアルカリ金属元素の含有量を調整する方法、ゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
【0207】
このようにして製造されるゼオライト膜複合体は、優れた特性をもつものであり、本発明における混合ガスからのアンモニアの膜分離手段として好適に用いることができる。
【実施例】
【0208】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
なお、以下において、「CHA型珪酸塩のゼオライト」を単に「CHA型ゼオライト」、「RHO型珪酸塩のゼオライト」を単に「RHO型ゼオライト」、「MFI型珪酸塩のゼオライト」を単に「MFI型ゼオライト」と称する。
【0209】
[実施例A]
[分離性能の測定]
以下において、ゼオライト膜複合体の分離性能の測定は次のとおり行った。
【0210】
(1) アンモニア分離試験
図1に模式的に示す装置において、以下のとおりアンモニア分離試験を行った。
図1の装置において、供給ガスとしてアンモニアガス(NH
3)と、窒素ガス(N
2)と、水素(H
2)と、を含む混合ガスを100SCCMの流量で耐圧容器とゼオライト膜複合体との間に供給し、背圧弁により供給側のガスと膜内を透過したガスの圧力差が0.3MPaで一定になるように調整し、配管10から排出される排出ガスをマイクロガスクロマトグラフで分析し、透過ガスの濃度、及び流量を算出した。
【0211】
なお、アンモニア分離試験においては、耐圧容器から、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥及び排気のために、使用する試料ガスによるパージ処理をした後、試料ガス温度及びゼオライト膜複合体の供給ガス側と透過ガス側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定した後に、ゼオライト膜複合体を透過した試料ガス(透過ガス)の流量を測定し、ガスのパーミエンス[mol/(m2・s・Pa)]を算出した。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いた。混合ガスの場合には分圧差を用いた。
また、この測定結果に基づいて、下記式(1)により理想分離係数α’を算出した。
α’=(Q1/Q2)/(P1/P2) (1)
〔式(1)中、Q1およびQ2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m2・s)-1]を示し、P1およびP2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの、供給側と透過側の圧力差[Pa]を示す。〕
これは、各ガスのパーミエンスの比率を示しており、従って、各ガスのパーミエンスを算出し、その比率から求めることができる。
【0212】
[製造例A1:CHA型ゼオライト膜複合体1の製造]
以下の方法により、CHA型ゼオライト膜複合体1を製造した。
【0213】
(水熱合成用原料混合物)
最初に、水熱合成用原料混合物を以下のとおり調製した。
1mol/L-NaOH水溶液1.45g、1mol/L-KOH水溶液5.78g、水114.6gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al2O3-53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.19gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、TMADAOH25質量%水溶液2.43gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製スノーテック-40)10.85gを加えて2時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.018/0.02/0.08/100/0.04、SiO2/Al2O3=58であった。
【0214】
(支持体)
多孔質支持体としては、ノリタケカンパニーリミテド社製のアルミナチューブBN1(外径6mm、内径4mm)を80mmの長さに切断した後、超音波洗浄機で洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。
【0215】
(種結晶分散液)
種結晶として、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/20/0.07のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、濾過、水洗、乾燥して、種結晶であるCHA型ゼオライトを製造した。なお、種結晶の粒径は0.3~3μm程度であった。次に、該種結晶を約1質量%となるように水中に分散させて、種結晶分散液(CHA型種結晶分散液)を製造した。
【0216】
(膜複合体の製造)
上記の多孔質支持体を用意し、上記支持体を上記種結晶分散液に1分間浸した後、100℃で1時間乾燥させて、支持体に種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.001gであった。
【0217】
種結晶を付着させた支持体を、上記水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で72時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体を水熱合成用原料混合物から取り出し、洗浄後、100℃で3時間乾燥させた。
次に、乾燥後の膜複合体を、空気中、電気炉で、450℃にて10時間、500℃で5時間焼成し、ゼオライト中に含まれるテンプレートを除去したCHA型ゼオライト膜複合体1を得た。このときの室温から450度までの昇温速度と降温速度はともに0.5℃/分、450度から500度までの昇温速度と降温速度はともに0.1℃/分とした。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は約0.279~0.289gであった。また、焼成後の膜複合体の空気透過量は2.4~2.9cm3/分であった。
【0218】
[実施例A1]
<膜分離性能の評価>
前処理として、200℃で、供給ガスとして50体積%H2/50体積%N2の混合ガスを、耐圧容器と製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1との間に導入して、圧力を約0.4MPaに保ち、CHA型ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
CHA型ゼオライト膜複合体1を用いて、CHA型ゼオライト膜複合体1の温度を100℃、150℃、200℃及び250℃とした条件下において、上述の方法により、アンモニア分離試験を行った。なお、混合ガスとして、12.0体積%NH3/51.0体積%N2/37.0体積%H2の混合ガスを使用した。得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素(NH3/H2)、アンモニア/窒素(NH3/N2)のパーミエンス比を表3に示した。表3中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。
【0219】
【0220】
[実施例A2]
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1を用いて、温度を100℃とし、混合ガスを3.0体積%NH3/24.0体積%N2/73.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A1と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、4.1体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0221】
[実施例A3]
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1を用いて、温度を100℃とし、混合ガスを2.0体積%NH3/19.0体積%N2/79.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A1と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、2.3体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0222】
[比較例A1]
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1の温度を100℃とし、0.7体積%NH3/80.0体積%N2/19.3体積%H2の混合ガスを用いた以外は実施例A1と同様の手法でアンモニア分離の評価を行った。その結果、透過ガスのアンモニアガス濃度は、0.8体積%であった。
【0223】
[比較例A2]
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1の温度を100℃とし、0.8体積%NH3/20.1体積%N2/79.1体積%H2の混合ガスを用いた以外は実施例A1と同様の手法でアンモニア分離の評価を行った。その結果、透過ガスのアンモニアガス濃度は、0.8体積%であった。
【0224】
実施例A1、A2、A3及び比較例A1、A2から分かるように、同じゼオライト膜複合体を用いても、混合ガス中のアンモニアガス濃度が低いと、混合ガス中のアンモニア分離が困難であるのに対して、混合ガス中のアンモニアガス濃度が1.0体積%以上となることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0225】
[参考例A1]
実施例A1において作製したCHA型ゼオライト膜複合体1を用いて、CHA型ゼオライト膜複合体1の温度を100℃とし、12体積%NH3/50体積%N2/38体積%H2の混合ガスを100SCCMの流量で流通させた以外は実施例A2と同様の手法でアンモニア分離の評価を行った結果、水素のパーミエンスは7.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、窒素のパーミエンスは2.1×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、アンモニアのパーミエンスは2.4×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であった。これに対して、水素ガス単味を流通させた際の水素のパーミエンスは1.6×10-6[mol/(m2・s・Pa)]であり、窒素ガス単味を流通させた際の窒素のパーミエンスは3.0×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であり、これらの結果から供給ガスにアンモニアガスが含有されると、水素ならびに窒素は、いずれも著しくパーミエンスが低下することが判った。本結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、供給ガス中のアンモニアがゼオライトに吸着し、水素や窒素の透過を阻害する効果を発現したと考えられる。
【0226】
[製造例A2:CHA型ゼオライト膜複合体2の製造]
製造例A1で得られたテンプレート除去後のCHA型ゼオライト膜複合体1を1Mの硝酸アンモニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0227】
所定時間経過後、放冷下後に、該CHA型ゼオライト膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗を3回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、CHA型ゼオライト膜複合体2であるNH4
+型のCHA型ゼオライト膜複合体を得た。
【0228】
[実施例A4]
<膜分離性能の評価>
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜1の代わりに製造例A2に記載のCHA型ゼオライト膜複合体2を用いた以外は、実施例A1と同様の方法により、アンモニアの分離評価を行った。得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表4に示す。表4中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。表4の結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においても効率よくアンモニア分離が可能であることが分かる。
【0229】
【0230】
[製造例A3:RHO型ゼオライト膜複合体1の製造]
(水熱合成用原料混合物)
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0231】
(支持体)
多孔質支持体としてはアルミナチューブ(外径6mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を40mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0232】
(種結晶分散液)
23gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と6gのNaOH(キシダ化学社製)及び5gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を84gの水に溶解させ、得られた溶液を80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。
【0233】
次に、30gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製 CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、更に種結晶としてWO2015020014号パンフレットに従って合成したRHO型ゼオライトを0.6g添加し、室温で2時間撹拌し、混合物を調製した。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.30/0.06/10/0.18であった。
【0234】
この混合物を室温で24時間熟成した後、耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥して、RHO型ゼオライトである結晶を得た。
【0235】
得られたRHO型ゼオライトを、ボールミルで粉砕して種結晶分散液を製造した。具体的には、500mLのポリビンに、上記RHO型ゼオライト10gと3φmmのHDアルミナボール(ニッカトー社製)300g、水90gを入れ、6時間ボールミル粉砕して10質量%のRHO型ゼオライト分散液とした。このゼオライト分散液に、RHO型ゼオライトが3質量%になるように水を添加して種結晶分散液を得た。
【0236】
(膜複合体の製造)
上記の種結晶分散液を支持体に滴下し、ラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0237】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱した。
【0238】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は1.5/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を300度で焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は78g/m2であった。
【0239】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を3Mの硝酸アンモニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、110℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0240】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型ゼオライト膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させることによりNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0241】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体をH+型にするため、このRHO型ゼオライト膜複合体を電気炉で400℃、2時間焼成した。このとき150℃までの昇温速度と降温速度はともに2.5℃/分、150℃から400℃までの昇温速度と降温速度は0.5℃/分とし、RHO型ゼオライト膜複合体1であるH+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0242】
[実施例A5]
<膜分離性能の評価>
製造例A3に記載のRHO型ゼオライト膜複合体1を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の通り、
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして50体積%H
2/50体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHO型ゼオライト膜複合体1との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHO型ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHO型ゼオライト膜複合体1の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。
【0243】
RHO型ゼオライト膜複合体1の温度を150℃、250℃及び300℃に変えて混合ガスを流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を算出した。得られた結果を表5に示す。表5中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。なお、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。表5の結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においてゼオライト粒子間に隙間や欠陥が生じる事が無く、高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。
【0244】
【0245】
[製造例A4:RHOゼオライト膜複合体2の製造]
種結晶を付着させた支持体を、水熱合成用原料混合物2の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱した以外は、製造例A3において、NH4
+型からH+型への変換を行わなかった以外は記載の方法でNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
その後、NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0246】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型ゼオライト膜複合体を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得て、更に、1Mの硝酸ナトリウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0247】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体2であるAl処理後にNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0248】
[実施例A6]
<膜分離性能の評価>
製造例A4に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により、
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガス7として50体積%H
2/50体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHO型ゼオライト膜複合体2の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、ゼオライト膜複合体2の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.3MPaであった。
【0249】
その後、RHO型ゼオライト膜複合体2の温度を100℃と250℃に変えて、流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を算出した。得られた結果を、表6に示す。表6中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。表6の結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においてもRHO型ゼオライト膜複合体は、高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0250】
【0251】
[製造例A5:RHO型ゼオライト膜複合体3、4の製造]
RHO型ゼオライトが1質量%になるように水を添加して種結晶分散液を得る以外は、製造例A4と同様の方法により種結晶及び支持体を用意し、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0252】
次に、種結晶を付着させた支持体を、製造例A4と同様の方法により作製した水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0253】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は62g/m2であった。
【0254】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0255】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0256】
その後、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体3であるNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0257】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体3を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0258】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型ゼオライト複合体膜3を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体4であるAl処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0259】
[実施例A7]
<膜分離性能の評価>
製造例A5に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4を用いて、アンモニア(NH
3)/水素(H
2)/窒素(N
2)の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体4との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体4の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体4の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを3.9SCCM供給した。
【0260】
RHO型ゼオライト膜複合体4の温度を250℃、300℃、及び325℃に変えて混合ガスを流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表7に示した。表7中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。これらの結果からも、高温条件下においてAl処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜は高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。表7の結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においても効率よくアンモニア分離が可能であることが分かる。
【0261】
【0262】
[製造例A6:RHO型ゼオライト膜複合体5の製造]
製造例A5のRHO型ゼオライト膜複合体3と同様の方法により得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸ナトリウム水溶液50gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0263】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした後、100℃で4時間以上乾燥させNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を得た。次に、得られたNa+型のRHO型ゼオライト膜を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0264】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗を3回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体5であるAl処理したNa+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0265】
[実施例A8]
<膜分離性能の評価>
製造例A5に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4の代わりに、製造例A6に記載のRHO型ゼオライト膜複合体5を用いて、スイープガスとしてアルゴンを8.3SCCM供給した以外は、実施例A7と同様の方法で12.0体積%NH3/51.0体積%N2/37.0体積%H2の混合ガスの分離試験を行った。
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表8に示す。表8中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは4.4×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは1.1×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であった。これらの結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においても、高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。
【0266】
【0267】
[実施例A9]
製造例A6に記載のRHO型ゼオライト膜複合体5を用いて、温度を250℃とし、混合ガスを2.0体積%NH3/20.0体積%N2/78.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A8と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、19.9体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0268】
[実施例A10]
製造例A6に記載のRHO型ゼオライト膜複合体5を用いて、温度を250℃とし、混合ガスを3.0体積%NH3/20.0体積%N2/77.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A8と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、27.6体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0269】
[製造例A7:RHO型ゼオライト膜複合体6の製造]
(水熱合成用混用物)
水熱合成のための原料混合物として、以下のものを調製した。
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)と0.2gの水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%、Aldrich社製)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.040/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0270】
(膜複合体の製造)
RHO型ゼオライトが1質量%になるように水を添加して種結晶分散液を得る以外は、製造例A4と同様の方法により種結晶及び支持体を用意し、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0271】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0272】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は56g/m2であった。
【0273】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0274】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0275】
次に、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0276】
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0277】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体6である、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0278】
[実施例A11]
<膜分離性能の評価>
製造例A5に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4の代わりに、製造例A7に記載のRHO型ゼオライト膜複合体6を用いた以外は、実施例A7と同様の方法で、RHO型ゼオライト膜複合体6の温度が250℃と、325℃の条件下において、12体積%NH3/51体積%N2/37体積%H2の混合ガスの分離試験を行った。
【0279】
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表9に示した。表9中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。これらの結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、Al含有量を増やしたゲル組成で製造したRHO膜は、高温条件下において、更に高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.3×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.8×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0280】
【0281】
[製造例A8:MFI型ゼオライト膜複合体1の製造]
(水熱合成用原料混合物)
水熱合成用原料混合物を下記の方法により調製した。
50wt%-NaOH水溶液13.65g、水101gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(Al2O3-62.2質量%含有)0.15gを加えて10分間室温で撹拌した。これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)32.3gを加えて、50度で5時間撹拌し、水熱反応用原料混合物とした。この反応用原料混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/H2O=3.05/0.013/0.193/100、SiO2/Al2O3=239であった。
【0282】
(種結晶分散液)
ZSM5ゼオライト(東ソー製 HSZ-800シリーズ 822H0A)を乳鉢ですりつぶしたものを用意し、この種結晶の濃度が約0.4質量%となるように種結晶を分散させて、種結晶分散液を作製した。
(膜複合体の製造)
上述の種結晶分散液中に製造例A1と同じ処理を行った多孔質支持体を1分間浸した後、70℃で1時間乾燥させ、再度種結晶分散液に1分間浸した後、70℃で1時間乾燥させ、支持体に種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.0016gであった。また、上記方法により種結晶が付着した多孔質支持体を用意した。
【0283】
種結晶を付着させた3つの支持体を、それぞれ上述の水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で30時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で3時間乾燥させて、MFI型ゼオライト膜複合体1を得た。なお、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は0.26~0.28gであった。また、焼成後の膜複合体の空気透過量は0.0~0.1cm3/分であった。
【0284】
[実施例A12]
<膜分離性能の評価>
製造例A1に記載のCHA型ゼオライト膜複合体1の代わりに、製造例A8に記載のMFI型ゼオライト膜複合体1を用いた以外は、実施例A1と同様の方法によりアンモニア分離評価を行った。得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表10に示す。表10中、透過ガスのアンモニアの濃度は小数第一位を四捨五入した値である。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは7.5×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。これらの結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、150℃から250℃に温度を変えても、アンモニアが高い選択性で膜内を透過している事が確認できた。従って、高温条件下においても高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。
【0285】
【0286】
[実施例A13]
温度を250℃とし、混合ガスを2.0体積%NH3/20.0体積%N2/78.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A12と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、7.0体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0287】
[実施例A14]
温度を250℃とし、混合ガスを3.0体積%NH3/20.0体積%N2/77.0体積%H2の混合ガスとした以外は実施例A12と同様の手法によりアンモニア分離の評価を行った結果、透過ガス中のアンモニアガス濃度は、10.7体積%であった。得られた結果から、混合ガスからアンモニアの分離が可能であることが分かる。
【0288】
[参考例A2]
製造例A8において作製したMFI型ゼオライト膜複合体1を用いて、MFI型ゼオライト膜複合体1の温度を250℃とし、12体積%NH3/50体積%N2/38体積%H2の混合ガスを100SCCMの流量で流通させた以外は実施例A12と同様の手法でアンモニア分離の評価を行った結果、水素のパーミエンスは1.6×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、窒素のパーミエンスは3.3×10-9[mol/(m2・s・Pa)]、アンモニアのパーミエンスは7.5×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。これに対して、水素ガス単味を流通させた際の水素のパーミエンスは4.7×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であり、窒素ガス単味を流通させた際の窒素のパーミエンスは3.0×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であり、これらの結果から供給ガスにアンモニアガスが含有されると、水素ならびに窒素は、いずれも著しくパーミエンスが低下することが判った。本結果から、混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、供給ガス中のアンモニアがゼオライトに吸着し、水素や窒素の透過を阻害する効果を発現したと考えられる。
【0289】
表11に、実施例A1~A3、A8~10、A12~14、比較例A1~A2のデータを示した。なお、実施例A1~A3、比較例A1,A2は100℃、実施例A8~10、A12~14は250℃での評価結果を示した。これらの結果からも混合ガス中のアンモニアガス濃度が特定量以上であることにより、水素ならびに窒素に対するアンモニアの濃縮度が高まることが判った。
【0290】
【0291】
[実施例B]
[物性および分離性能の測定]
以下において、ゼオライトあるいはゼオライト膜複合体の物性や分離性能等の測定は次のとおり行った。
【0292】
(1)X線回折(XRD)測定
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
装置名:Bruker社製New D8 ADVANCE
光学系:集中光学系
光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (2.5°)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(Lynx Eye 1D mode)
Ni-filter
Soller Slit (2.5°)
ゴニオメーター半径:280mm
測定条件 X線出力(CuKα):40kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0-70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.01°
計数時間:57.0sec(0.3sec×190ch)
自動可変スリット(Automatic-DS):1mm(照射幅)
測定データには可変→固定スリット補正を行った。
【0293】
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面に平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面に接するラインではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE+9.4(英語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0294】
(2)XPS測定(Na、Si、Al、N)
XPS測定は以下の条件に基づき行った。
機種名:アルバック・ファイ株式会社製Quantum2000
測定の際のX線源:単色化Al-Kα,出力16kV-34W
(X線発生面積170umφ)
帯電中和:電子銃5μA、イオン銃3V
分光系:パスエネルギー
ワイドスペクトル:187.70eV
ナロースペクトル(N1s,O1s,Na1s,Al2p,Si2p,Cs3d5)):58.70eV
※Csが検出される場合はCs3d5とAl2pのピーク位置が重なったため、Al2pの代わりにAl2sのピークを採用した。(Csを含有していないサンプルを用いてAl2pとAl2sのいずれを用いても表面組成の分析値に差がないこと確認した。)
測定領域:300μm角
取り出し角:45°(表面より)
エネルギー補正;Si2p=103.4eV
【0295】
定量はアルバック・ファイ株式会社提供の感度補正係数を用いて行い、定量計算の際のバックグラウンドはShirley法により決定した。
【0296】
(3)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m2・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、N2ガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM-2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0297】
図1において、円筒形のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で、恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、供給ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0298】
円筒形のゼオライト膜複合体1の一端は、断面T字形のエンドピン3で密封されている。ゼオライト膜複合体1の他端は接続部4を介して透過ガス8の排出配管10と接続されており、配管10は、耐圧容器2の外側に延出している。さらに、耐圧容器2からのガス排出配管13には、供給配管12からの供給ガス7の供給圧力を測る圧力計5と供給圧力を調整するための背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0299】
図1の装置において、単成分ガス透過試験を行う場合は、供給ガス(試料ガス)7を一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とし、ゼオライト膜複合体1を透過した透過ガス8を、配管10に接続されている流量計にて測定した。
【0300】
円筒形のゼオライト膜複合体1の一端は、断面T字形のエンドピン3で密封されている。ゼオライト膜複合体1の他端は接続部4を介して透過ガス8の排出配管11と接続されており、配管11は、耐圧容器2の外側に延出している。耐圧容器2への供給ガス(試料ガス)7の供給配管12には、供給ガス7の供給側の圧力を測る圧力計5が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0301】
(4) アンモニア分離試験
図1に模式的に示す装置において、以下のとおりアンモニア分離試験を行った。
図1の装置において、供給ガスとしてアンモニアと、窒素と、水素と、を含む混合ガスを100SCCMの流量で耐圧容器とゼオライト膜複合体との間に供給し、背圧弁により供給側のガスと膜内を透過したガスの圧力差が0.3MPaで一定になるように調整し、配管10から排出される排出ガスにマスフローコントローラーで流量を制御したヘリウムを標準物質として混合し、マイクロガスクロマトグラフで分析し、透過ガスの濃度、及び流量を算出した。
【0302】
なお、アンモニア分離試験においては、耐圧容器から、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥及び排気のために、使用する試料ガスによるパージ処理をした後、試料ガス温度及びゼオライト膜複合体の供給ガス側と透過ガス側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定した後に、ゼオライト膜複合体を透過した試料ガス(透過ガス)の流量を測定し、ガスのパーミエンス[mol/(m2・s・Pa)]を算出した。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いた。混合ガスの場合には分圧差を用いた。
また、この測定結果に基づいて、下記式(1)により理想分離係数α’を算出した。
α’=(Q1/Q2)/(P1/P2) (1)
〔式(1)中、Q1およびQ2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの透過量[mol・(m2・s)-1]を示し、P1およびP2は、それぞれ、透過性の高いガスおよび透過性の低いガスの、供給側と透過側の圧力差[Pa]を示す。〕
これは、各ガスのパーミエンスの比率を示しており、従って、各ガスのパーミエンスを算出し、その比率から求めることができる。
【0303】
[製造例B1:RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体1、2を製造した。RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造に先立ち、下記の通り、水熱合成用原料混合物1、支持体及び種結晶分散液1を用意した。
【0304】
(水熱合成用原料混合物1)
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物1のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0305】
(支持体)
多孔質支持体としてはアルミナチューブ(外径6mm、内径4mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を80mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0306】
(種結晶分散液1)
23gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と6gのNaOH(キシダ化学社製)及び5gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を84gの水に溶解させ、得られた溶液を80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。
【0307】
次に、30gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製 CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、更に種結晶としてWO2015020014号パンフレットに従って合成したRHO型ゼオライトを0.6g添加し、室温で2時間撹拌し、混合物を調製した。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.30/0.06/10/0.18であった。
【0308】
この混合物を室温で24時間熟成した後、耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥して、RHO型ゼオライトである結晶を得た。
【0309】
得られたRHO型ゼオライトを、ボールミルで粉砕して種結晶分散液を製造した。具体的には、500mLのポリビンに、上記RHO型ゼオライト10gと3φmmのHDアルミナボール(ニッカトー社製)300g、水90gを入れ、6時間ボールミル粉砕して10質量%のRHO型ゼオライト分散液とした。このゼオライト分散液に、RHO型ゼオライトが1質量%になるように水を添加して種結晶分散液1を得た。
【0310】
(ゼオライト膜複合体の製造)
次に、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0311】
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0312】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は62g/m2であった。
【0313】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0314】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0315】
その後、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体1であるNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0316】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体1を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液45gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0317】
所定時間経過後、放冷下後に、上記処理を行ったNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体1を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体2であるAl処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、該ゼオライト膜複合体のゼオライト膜をXPSにより測定した結果、ゼオライト膜の窒素原子/Al原子モル比は0.42であり、Si原子/Al原子モル比は3.01であった。
【0318】
[実施例B1]
<膜分離性能の評価>
製造例B1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2を用いて、アンモニアガス(NH
3)/水素ガス(H
2)/窒素ガス(N
2)の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて、具体的には下記の方法により行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体2との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体2の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、供給ガスとして、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体2の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを3.9SCCM供給した。
【0319】
なお、RHO型ゼオライト膜複合体2の温度を250℃、300℃、及び325℃に変えて混合ガスを流通させた際に得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表12に示した。表12の結果から、XPS測定で窒素原子/Al原子モル比が0.42である、NH4
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においてXPS測定で窒素原子/Al原子モル比が0.42である、本NH4
+型のRHO型ゼオライト膜は高選択的にアンモニアが分離できることを確認した。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0320】
【0321】
[製造例B2:RHO型ゼオライト膜複合体3の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体3を製造した。なお、支持体は製造例B1と同様の支持体を使用し、種結晶分散液は製造例B1の種結晶分散液1と同様のものを使用した。
【0322】
(水熱合成用混用物2)
水熱合成原料混合物2として、以下のものを調製した。
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)と0.2gの水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%、Aldrich社製)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物2のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.040/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0323】
(膜複合体の製造)
内側を真空に引いた支持体を種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0324】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物2の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0325】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は56g/m2であった。
【0326】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0327】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0328】
次に、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0329】
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0330】
所定時間経過後、放冷下後に、上記処理を行ったNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体3である、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜の窒素原子/Al原子モル比は0.76であり、Si原子/Al原子モル比は6.65であった。
【0331】
[実施例B2]
<膜分離性能の評価>
製造例B1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2の代わりに、製造例B2に記載のRHO型ゼオライト膜複合体3を用いて、スイープガスであるアルゴンの供給量を8.3SCCMに変更した以外は、実施例B1と同様の方法で、250℃及び325℃の条件下において、12体積%NH3/51体積%N2/37体積%H2の混合ガスの分離試験を行った。
【0332】
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表13に示した。表13の結果から、XPS測定で窒素原子/Al原子モル比が0.76である、本NH4
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、Al原子含有量を増やしたゲル組成で製造したRHO膜は、高温条件下において、更に高選択的にアンモニアが分離できることを確認した。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.3×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.8×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0333】
【0334】
[製造例B3:RHO型ゼオライト膜複合体4の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体4を製造した。なお、水熱合成用原料混合物及び支持体は、それぞれ製造例B1の水熱合成用原料混合物1及び支持体と同じものを使用した。
【0335】
(種結晶分散液2)
10質量%のRHO型ゼオライト分散液を作製した後に、RHO型ゼオライトが3質量%となるように水を添加した以外は、製造例B1の種結晶分散液1と同様の方法により種結晶分散液2を製造した。
【0336】
(膜複合体の製造)
種結晶分散液2を支持体に滴下し、ラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0337】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物1の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱した。
【0338】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は1.5L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から150℃までを2時間で昇温、150℃から400℃までを20時間で昇温、400℃、5時間焼成した後、150℃までを20時間で降温、150℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は78g/m2であった。
【0339】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を3Mの硝酸アンモニウム水溶液45gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、110℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0340】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0341】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体をH+型にするため、このRHO型ゼオライト膜複合体を電気炉で400℃、2時間焼成した。このとき150℃までの昇温速度と降温速度はともに2.5℃/分、150℃から400℃までの昇温速度と降温速度は0.5℃/分とし、RHO型ゼオライト膜複合体4であるH+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜の窒素原子/Al原子モル比は0.23であり、Si原子/Al原子モル比は2.92であった。
【0342】
[実施例B3]
<膜分離性能の評価>
製造例B3に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を、
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして50体積%H
2/50体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHO型ゼオライト膜複合体4との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHO型ゼオライト膜複合体4の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHO型ゼオライト膜複合体4の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを2.4SCCM供給した。
【0343】
なお、RHO型ゼオライト膜複合体4の温度を150℃、250℃及び300℃に変えて混合ガスを流通させた際に得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を算出し、得られた結果を表14に示した。本結果から、実施例B1ならびに2のNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体の分離結果と比較して、XPS測定で窒素原子/Al原子モル比が0.23である、本H+型のRHO型ゼオライト膜複合体はアンモニアの分離性能が若干低下するものの、その分離性能は、依然高いことが確認された。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0344】
【0345】
[製造例B4:RHO型ゼオライト膜複合体5の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体5を製造した。なお、水熱合成用原料混合物としては、製造例B2の水熱合成原料混合物2と同じものを使用し、支持体及び種結晶分散液は、それぞれ製造例B1の支持体及び種結晶分散液1と同じものを使用した。
【0346】
(膜複合体の製造)
内側を真空に引いた支持体を種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0347】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物2の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0348】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温し焼成し、Cs+型のRHO型ゼオライト膜複合体5を得た。本RHO型ゼオライト膜複合体5は、その調製工程において窒素原子を含有する原料を一切使用おらず、その含有量は、Al原子に対する窒素原子のモル比として、0.01未満である。尚、焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は58g/m2であった。
【0349】
[参考例B1]
<膜分離性能の評価>
製造例B4に記載のRHO型ゼオライト膜複合体5を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体5との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体2の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体5の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを3.9SCCM供給した。
【0350】
なお、RHO型ゼオライト膜複合体5の温度を250℃、及び300℃に変えて混合ガスを流通させた際に得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表15に示した。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.9×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、300℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。表15の結果から、本質的に窒素原子を含有しない本Cs+型のRHO型ゼオライト膜は、X線光電子分光法により決定されるAl原子に対する特定量の窒素原子を含有する、実施例B1~3のいずれのRHO型ゼオライト膜よりもアンモニア分離能が低く、更に温度を上げると分離性能が大幅に低下する傾向を持つことが明らかとなった。したがって、本結果より、X線光電子分光法により決定されるAl原子に対する特定量の窒素原子を含有するゼオライト膜を用いると膜とアンモニアの親和性が高くなり優先的にアンモニアを透過させ、かつ温度に対して高い安定性を持つことができることが明らかになった。
【0351】
【0352】
[実施例C]
[物性および分離性能の測定]
以下において、ゼオライトあるいはゼオライト膜複合体の物性や分離性能等の測定は実施例Bと同様に行った。
【0353】
[製造例C1:RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体1、2を製造した。RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造に先立ち、下記の通り、水熱合成用原料混合物1、支持体及び種結晶分散液1を用意した。
【0354】
(水熱合成用原料混合物1)
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物1のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0355】
(支持体)
多孔質支持体としてはアルミナチューブ(外径6mm、内径4mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を80mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0356】
(種結晶分散液1)
23gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と6gのNaOH(キシダ化学社製)及び5gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を84gの水に溶解させ、得られた溶液を80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。
【0357】
次に、30gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製 CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、更に種結晶としてWO2015020014号パンフレットに従って合成したRHO型ゼオライトを0.6g添加し、室温で2時間撹拌し、混合物を調製した。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.30/0.06/10/0.18であった。
【0358】
この混合物を室温で24時間熟成した後、耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥して、RHO型ゼオライトである結晶を得た。
【0359】
得られたRHO型ゼオライトを、ボールミルで粉砕して種結晶分散液を製造した。具体的には、500mLのポリビンに、上記RHO型ゼオライト10gと3φmmのHDアルミナボール(ニッカトー社製)300g、水90gを入れ、6時間ボールミル粉砕して10質量%のRHO型ゼオライト分散液とした。このゼオライト分散液に、RHO型ゼオライトが1質量%になるように水を添加して種結晶分散液1を得た。
【0360】
(ゼオライト膜複合体の製造)
次に、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0361】
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0362】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は62g/m2であった。
【0363】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0364】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0365】
その後、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体1であるNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0366】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体1を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液45gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0367】
所定時間経過後、放冷下後に、上記処理を行ったNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体1を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体2であるAl処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜の窒素原子/Al原子モル比は0.42であり、Si原子/Al原子モル比は3.01であった。
【0368】
[実施例C1]
<膜分離性能の評価>
製造例C1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて、具体的には下記の方法により行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体2との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体2の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、供給ガスとして、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体2の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを3.9SCCM供給した。
【0369】
なお、RHO型ゼオライト膜複合体2の温度を250℃、300℃、及び325℃に変えて混合ガスを流通させた際に得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表16に示した。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。表16の結果から、XPS測定でSi原子/Al原子モル比が3.01である、NH4
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、250℃と325℃との得られた透過ガスのアンモニアの濃度を比較すると、XPS測定でSi原子/Al原子モル比が3.01である、本NH4
+型のRHO型ゼオライト膜の場合は、その変化率はほぼ0%であり、本ゼオライト膜は分離熱安定性に優れる分離膜であることが判った。
【0370】
【0371】
[製造例C2:RHO型ゼオライト膜複合体3の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体3を製造した。なお、支持体は製造例C1と同様の支持体を使用し、種結晶分散液は製造例C1の種結晶分散液1と同様のものを使用した。
【0372】
(水熱合成用混用物2)
水熱合成のための原料混合物2として、以下のものを調製した。
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)と0.2gの水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%、Aldrich社製)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物2のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.040/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0373】
(膜複合体の製造)
製造例C1と同様の方法により種結晶分散液1及び支持体を用意し、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0374】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0375】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は56g/m2であった。
【0376】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0377】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0378】
次に、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0379】
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0380】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体3である、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜の窒素原子/Al原子モル比は0.76であり、Si原子/Al原子モル比は6.65であった。
【0381】
[実施例C2]
<膜分離性能の評価>
製造例C1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2の代わりに、製造例C2に記載のRHO型ゼオライト膜複合体3を用いて、スイープガスとしてアルゴンを8.3SCCM供給した以外は、実施例C1と同様の方法で、250℃と、325℃の条件下において、12体積%NH3/51体積%N2/37体積%H2の混合ガスの分離試験を行った。
【0382】
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表17に示した。尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.3×10-8[mol/(m2・s・Pa)]、325℃でのアンモニアのパーミエンスは2.8×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。表17の結果から、Si原子/Al原子モル比が6.65である、本NH4
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、250℃と325℃との得られた透過ガスのアンモニアの濃度を比較すると、XPS測定でSi原子/Al原子モル比が6.65である、本NH4
+型のRHO型ゼオライト膜の場合は、その変化率は5%程度であり、本ゼオライト膜は分離熱安定性に優れる分離膜であることが判った。
【0383】
【0384】
[製造例C3:RHO型ゼオライト膜複合体4の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体4を製造した。
【0385】
製造例C1のRHO型ゼオライト膜複合体1と同様の方法により得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸ナトリウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0386】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした後、100℃で4時間以上乾燥させNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を得た。次に、得られたNa+型のRHO型ゼオライト膜を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0387】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体4であるAl処理したNa+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜のNa/Al原子モル比は0.05、N原子/Al原子モル比は1.21、Si原子/Al原子モル比は7.46であった。
【0388】
[実施例C3]
<膜分離性能の評価>
製造例C3に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃の条件下で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体4との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体4の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを8.3SCCM供給した。
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表18に示す。尚、また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは4.4×10
-8[mol/(m
2・s・Pa)]であり、325℃でのアンモニアのパーミエンスは1.1×10
-7[mol/(m
2・s・Pa)]であった。表18の結果から、XPS測定でSi原子/Al原子モル比が7.46である、Na
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、250℃と325℃との得られた透過ガスのアンモニアの濃度を比較すると、XPS測定でSi原子/Al原子モル比が7.46である、本Na
+型のRHO型ゼオライト膜の場合は、その変化率は20%程度であり、本ゼオライト膜は分離熱安定性に若干劣る分離膜であるが、依然として高い分離熱安定性を示すことが判った。
【0389】
【0390】
[製造例C4:RHO型ゼオライト膜複合体5の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体5を製造した。なお、水熱合成用混合物は製造例C1の水熱合成用原料混合物1と同じものを使用し、種結晶分散液は種結晶分散液1と同じものを使用した。
【0391】
(支持体)
多孔質支持体としてアルミナチューブ(外径6mm、内径4mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を40mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
(膜複合体の製造)
内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0392】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物1の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0393】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は52g/m2であった。
【0394】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0395】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0396】
次に、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体5であるNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0397】
[参考例C1]
<膜分離性能の評価>
製造例C4に記載のRHO型ゼオライト膜複合体5を用いて、アンモニア(NH
3)/水素(H
2)/窒素(N
2)の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃の条件下で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体5との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体5の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを3.9SCCM供給した。
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表19に示す。本結果より、Al処理をしてない本NH
4
+型のRHO型ゼオライト膜は、Al処理したNH
4
+型のRHO型ゼオライト膜と比べて分離性能が低くなることが明らかとなった。すなわち、本結果によりNH
4
+型のRHO型ゼオライト膜をAl処理することで、ゼオライト膜のSi原子に対するAl原子を適度に制御することにより、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高選択的に分離するゼオライト膜が設計できることが明らかとなった。
尚、250℃でのアンモニアのパーミエンスは3.0×10
-8[mol/(m
2・s・Pa)]であり、300℃でのアンモニアのパーミエンスは2.9×10
-8[mol/(m
2・s・Pa)]であった。
【0398】
【0399】
[実施例D]
[物性および分離性能の測定]
以下において、ゼオライトあるいはゼオライト膜複合体の物性や分離性能等の測定は実施例Bと同様に行った。
【0400】
[製造例D1:RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体1、2を製造した。RHO型ゼオライト膜複合体1、2の製造に先立ち、下記の通り、水熱合成用原料混合物1、支持体及び種結晶分散液1を用意した。
【0401】
(水熱合成用原料混合物1)
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物1のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0402】
(支持体)
多孔質支持体としてはアルミナチューブ(外径6mm、内径4mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を80mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0403】
(種結晶分散液1)
23gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と6gのNaOH(キシダ化学社製)及び5gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を84gの水に溶解させ、得られた溶液を80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。
【0404】
次に、30gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製 CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、更に種結晶としてWO2015020014号パンフレットに従って合成したRHO型ゼオライトを0.6g添加し、室温で2時間撹拌し、混合物を調製した。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.30/0.06/10/0.18であった。
【0405】
この混合物を室温で24時間熟成した後、耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥して、RHO型ゼオライトである結晶を得た。
【0406】
得られたRHO型ゼオライトを、ボールミルで粉砕して種結晶分散液を製造した。具体的には、500mLのポリビンに、上記RHO型ゼオライト10gと3φmmのHDアルミナボール(ニッカトー社製)300g、水90gを入れ、6時間ボールミル粉砕して10質量%のRHO型ゼオライト分散液とした。このゼオライト分散液に、RHO型ゼオライトが1質量%になるように水を添加して種結晶分散液1を得た。
【0407】
(ゼオライト膜複合体の製造)
次に、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0408】
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0409】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は62g/m2であった。
【0410】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0411】
所定時間経過後、放冷下後に、上記処理を行い、上記処理を行ったRHO型ゼオライト膜複合体を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0412】
その後、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体1であるNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0413】
得られたNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体1を、1Mの硝酸ナトリウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0414】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした後、100℃で4時間以上乾燥させNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を得た。次に、得られたNa+型のRHO型ゼオライト膜を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れ、オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0415】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体2であるAl処理したNa+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定したゼオライト複合体膜のゼオライト膜のアルカリ金属/Al原子モル比は0.05、N原子/Al原子モル比は1.21,Si原子/Al原子モル比は7.46であった。
【0416】
[実施例D1]
<膜分離性能の評価>
製造例D1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて、具体的には下記の方法により行った。
前処理として、250℃の条件下で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体2との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体2の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、供給ガスとして、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。また、供給ガス9からスイープガスとしてアルゴンを8.3SCCM供給した。
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表20に示す。表20の結果から、Na
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、高温条件下においてAl処理したNa
+型のRHO型ゼオライト膜は高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは4.4×10
-8[mol/(m
2・s・Pa)]であり、本参考例D1の同等のN原子/Al原子モル比ならびにSi原子/Al原子モル比を示す、アルカリ金属を含有しないRHO型ゼオライト膜複合体3との比較から、アルカリ金属原子を含有させると、同等の高濃度のアンモニアを高い透過性で回収できることが明らかになった。
【0417】
【0418】
[製造例D2:RHO型ゼオライト膜複合体3の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体3を製造した。なお、支持体は製造例D1と同様の支持体を使用し、種結晶分散液は製造例D1の種結晶分散液1と同様のものを使用した。
【0419】
(水熱合成用混用物2)
水熱合成のための原料混合物2として、以下のものを調製した。
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)と0.2gの水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%、Aldrich社製)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物2のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.040/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0420】
(膜複合体の製造)
製造例D1と同様の方法により種結晶及び支持体を用意し、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0421】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物2の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0422】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。このRHO型ゼオライト膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温した。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は56g/m2であった。
【0423】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を1Mの硝酸アンモニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0424】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、100℃のイオン交換水で1時間の湯洗をした。
【0425】
次に、上記の1Mの硝酸アンモニウム水を用いた処理を5回繰り返した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0426】
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を、1Mの硝酸アルミニウム水溶液50gが入ったテフロン容器(登録商標)製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0427】
所定時間経過後、放冷下後に、上記処理を行ったNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を水溶液から取出し、イオン交換水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、RHO型ゼオライト膜複合体3である、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。また、XPSにより測定した、ゼオライト膜のN原子/Al原子モル比は0.76であり、Si原子/Al原子モル比は6.65であった。アルカリ金属は検出されなかった。
【0428】
[参考例D1]
<膜分離性能の評価>
製造例D1に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2の代わりに、製造例D2に記載のRHO型ゼオライト膜複合体3を用いた以外は、実施例D1と同様の方法で、RHO型ゼオライト膜複合体3の温度が250℃の条件下において、12体積%NH3/51体積%N2/37体積%H2の混合ガスの分離試験を行った。
【0429】
得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表21に示した。表21の結果から、NH4
+型のRHO型ゼオライト膜を用いることにより、効率良くアンモニアの分離が可能であることが分かる。また、Al含有量を増やしたゲル組成で製造したRHO膜は、高温条件下において、更に高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。しかしながら、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.3×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であり、アルカリ金属を含有するRHO型ゼオライト膜複合体2に比べ透過性が低いことが明らかになった。
【0430】
【0431】
[製造例D3:RHO型ゼオライト膜複合体4の製造]
以下の方法により、RHO型ゼオライト膜複合体4を製造した。
【0432】
(水熱合成用混用物2)
水熱合成のための原料混合物として、以下のものを調製した。
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製
CBV720)と0.2gの水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%、Aldrich社製)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物2のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.040/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0433】
(膜複合体の製造)
製造例D1と同様の方法により種結晶分散液1及び支持体を用意し、内側を真空に引いた支持体をこの種結晶分散液1に1分間浸し、その後支持体の内側を真空に引いた状態でラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0434】
次に、種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物2の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、160℃で24時間、自生圧力下で加熱した。
【0435】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、イオン交換水で洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は0.0L/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を室温から100℃までを2時間で昇温、100℃から300℃までを20時間で昇温、300℃、5時間焼成した後、100℃までを20時間で降温、100℃から室温までを2時間で降温し焼成し、Cs+型のRHO型ゼオライト膜複合体4を得た。このように、本Cs+型のRHO型ゼオライト膜複合体4は、ゼオライト膜を形成後、イオン交換処理工程を経ていないため、ゼオライトのAlサイトのイオン対は本質的にアルカリ金属(Cs及びNa)カチオンとなる。本焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は58g/m2であった。また、XPSにより測定したゼオライト複合体膜のゼオライト膜のアルカリ金属/Al原子モル比は0.073であった。
【0436】
[参考例D2]
<膜分離性能の評価>
製造例D3に記載のRHO型ゼオライト膜複合体4を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を上述の方法により
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガスとして10体積%NH
3/20体積%H
2/60体積%N
2の混合ガスを、耐圧容器とRHOゼオライト膜複合体4との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、RHOゼオライト膜複合体4の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12体積%NH
3/51体積%N
2/37体積%H
2の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHOゼオライト膜複合体4の供給ガス側と透過ガス側の差圧は、0.3MPaであった。
【0437】
RHO型ゼオライト膜複合体4の温度を250℃とし、混合ガスを流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表22に示した。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは、1.9×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。ゼオライト膜を形成後にイオン交換処理工程を経ていないためにゼオライトのAlサイトのイオン対は本質的にアルカリ金属カチオンとなる本Cs+型RHO型ゼオライト膜は、これらの結果から、RHO型ゼオライト膜複合体3に比べてアンモニアの透過性は若干向上するものの、RHO型ゼオライト膜複合体2ならびに3よりもアンモニア分離性能が低くなることが明らかとなった。すなわち、本結果により、ゼオライト中のAl原子に対するアルカリ金属原子のモル比を適切に制御することにより、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる混合ガスからアンモニアを高選択的に分離できるばかりでなく、アンモニアの透過性を向上できるゼオライト膜が設計できることが明らかとなった。
【0438】
【表22】
[実施例E]
[物性および分離性能の測定]
以下において、ゼオライトあるいはゼオライト膜複合体の物性の測定の内、XRD測定は実施例Bと同様の条件で行い、分離性能等の測定は実施例Bと同様に行った。
【0439】
(1)熱膨張率の測定
ゼオライトの熱膨張率は、以下の条件下での昇温XRD測定法により決定した。
(昇温XRD測定装置仕様)
【0440】
【0441】
(測定条件)
【0442】
【表24】
測定雰囲気:大気
昇温条件 :20℃/min
測定方法 :測定温度で5分間保持後にXRD測定を実施した。
測定データには、可変スリットを用いて固定スリット補正を行った。
熱膨張率の変化率の算出方法:
熱膨張率の変化率=(所定温度で測定した結晶格子定数)÷(30℃で測定した結晶格子定数) - 1 ・・・(1)
【0443】
[実施例E1]
(RHO型ゼオライトの製造)
RHO型ゼオライトを次の通り合成した。
【0444】
23gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と6gのNaOH(キシダ化学社製)及び5gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を84gの水に溶解させ、得られた溶液を80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。
【0445】
30gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製 CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、更に種結晶としてWO2015020014号パンフレットに従って合成したRHO型ゼオライトを0.6g添加し、室温で2時間撹拌し、水熱合成用原料混合物を調製した。この混合物の組成(モル比)は次の通りである。
SiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.30/0.06/10/0.18
【0446】
この水熱合成用原料混合物を室温で24時間熟成した後、耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した。得られたRHO型ゼオライトについて熱膨張率を測定した結果、30℃に対する200℃の熱膨張率の変化率は-1.55%、30℃に対する300℃の熱膨張率の変化率は0.02%、30℃に対する400℃の熱膨張率の変化率は-0.01%であり、30℃における熱膨張率と比べてほとんど熱膨張あるいは熱収縮が起きてない事が確認された。
【0447】
[実施例E2]
<RHO型ゼオライト膜複合体1の作製>
多孔質支持体上にRHO型ゼオライトを直接水熱合成することにより多孔質支持体-RHO型ゼオライト膜複合体を作製した。なお、多孔質支持体としてはアルミナチューブ(外径6mm、細孔径0.15μm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を40mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0448】
多孔質支持体上には水熱合成に先立ち、実施例E1に記載の方法で合成したRHO型ゼオライトをボールミルで粉砕したものを種結晶として用いた。
ボールミルの粉砕は以下の通り実施した。500mLのポリビンに、上記種結晶用のRHO型ゼオライト10gと3φmmのHDアルミナボール(ニッカトー社製)300g、水90gを入れ、6時間ボールミル粉砕して10質量%のRHO型ゼオライト分散液とした。このゼオライト分散液に、RHO型ゼオライトが3質量%になるように水を添加して種結晶分散液を得た。
この種結晶分散液を支持体に滴下し、ラビング法により種結晶を支持体に付着させた。
【0449】
次に、水熱合成のための原料混合物として、以下のものを調製した。
【0450】
6.8gの18-クラウン-6-エーテル(東京化成社製)と2.1gのNaOH(キシダ化学社製)及び4.2gのCsOH・H2O(三津和化学社製)を125.9gの水に溶解し、80℃で3時間撹拌することにより、クラウンエーテル-アルカリ水溶液を得た。その後、8.9gのY型(FAU)ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製CBV720)に上記クラウンエーテル-アルカリ水溶液を滴下し、水熱合成用原料混合物を調製した。得られた水熱合成用原料混合物のゲル組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/CsOH/H2O/18-クラウン-6-エーテル=1/0.033/0.36/0.18/50/0.18であった。
【0451】
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱した。
【0452】
所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後100℃で5時間以上乾燥させた。乾燥後、as-madeの状態での空気透過量は1.5/(m2・分)であった。次に、テンプレートを除去するために、得られた膜複合体を焼成し、RHO型ゼオライト膜複合体を得た。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したRHO型ゼオライトの重量は78g/m2であった。
【0453】
次に、テンプレート除去後のRHO型ゼオライト膜複合体を3Mの硝酸アンモニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)容器製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、110℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0454】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0455】
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体をH+型にするため、このRHO型ゼオライト膜複合体を電気炉で400℃、2時間焼成した。このとき150℃までの昇温速度と降温速度はともに2.5℃/分、150℃から400℃までの昇温速度と降温速度は0.5℃/分とし、H+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。以下、製造されたRHO型ゼオライト膜複合体を「RHO型ゼオライト膜複合体1」と称す。
【0456】
[実施例E3]
(膜分離性能の評価)
実施例E2に記載のRHO型ゼオライト膜複合体1を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガス7として50%H
2/50%N
2の混合ガスを、耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12%アンモニア/51%窒素/37%窒素の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHO型ゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.3MPaであった。
【0457】
RHO型ゼオライト膜複合体1の温度を150℃~300℃に変えて流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表25に示した。これらの結果からも、高温条件下においてRHO型ゼオライトの熱膨張あるいは収縮が小さい事によりゼオライト粒子間に隙間や欠陥が生じる事が無く、高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは1.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
従って、本発明のゼオライト膜複合体は、熱膨張率の変化率が特定の範囲内に入るゼオライトを種結晶に用いて合成する事により、高温条件下においても安定して高選択的にアンモニアが分離出来る事を示している。
【0458】
【0459】
[実施例E4]
<Na
+型RHOの合成>
Na
+型RHOゼオライトについては、「Microporous and Mesoporous Materials 132 (2010) 352-356)」に記載の方法で水熱合成を実施した。水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した。得られたRHO型ゼオライトについて熱膨張率を測定した結果を
図2に示した。Na
+型RHOの熱膨張率は温度に対して一次直線に近似できることが確認された。本近似式から、30℃に対する300℃の熱膨張率の変化率は0.23%、30℃に対する400℃の熱膨張率の変化率は0.33%と見積もられた。
【0460】
[実施例E5]
<RHOゼオライト膜複合体2の合成>
種結晶を付着させた支持体を水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱する以外は、実施例E2に記載の方法でNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
NH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体について、1Mの硝酸アルミニウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)容器製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0461】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させ、Al処理したNH4
+型のRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0462】
更に、1Mの硝酸ナトリウム水溶液45gが入ったテフロン(登録商標)容器製内筒(65ml)に入れた。オートクレーブを密栓し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。
【0463】
所定時間経過後、放冷下後に、RHO型膜を水溶液から取出し、水で洗浄した後、100℃で4時間以上乾燥させAl処理後にNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を得た。
【0464】
以下、製造されたAl処理後にNa+型にイオン交換したRHO型ゼオライト膜複合体を「RHO型ゼオライト膜複合体2」と称す。
【0465】
[実施例E6]
<膜分離性能の評価>
実施例E5に記載のRHO型ゼオライト膜複合体2を用いて、アンモニア/水素/窒素の混合ガスからのアンモニア分離試験を
図1の装置を用いて行った。
前処理として、250℃で、供給ガス7として50%H
2/50%N
2の混合ガスを、耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との間に導入して、圧力を約0.3MPaに保ち、ゼオライト膜複合体の円筒の内側を0.098MPa(大気圧)として、約120分間乾燥した。
その後、12%アンモニア/51%窒素/37%窒素の混合ガスを100SCCMで流通させ、背圧を0.4MPaに設定した。この時、RHO型ゼオライト膜複合体2の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧は、0.3MPaであった。
【0466】
RHO型ゼオライト膜複合体2の温度を50℃と250℃に変えて流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表26に示した。これらの結果からも、高温条件下においてRHO型ゼオライトの熱膨張あるいは収縮が小さい事によりゼオライト粒子間に隙間や欠陥が生じる事が無く、高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できた。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは2.0×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
従って、ゼオライト膜複合体を構成するゼオライトの熱膨張率の変化率が特定の範囲にある事により、RHO型膜複合体は高温条件下で安定してアンモニアを分離する事を確認した。
【0467】
【0468】
[実施例E7]
<MFI型ゼオライトの製造>
MFI型ゼオライトを次の通り合成した。
50wt%-NaOH水溶液13.65g、水101gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(Al2O3-62.2質量%含有)0.15gを加えて10分間室温で撹拌した。これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)32.3gを加えて、50度で5時間撹拌し、水熱反応用原料混合物とした。この反応用原料混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/H2O=3.05/0.013/0.193/100、SiO2/Al2O3=239である。
【0469】
この水熱合成用原料混合物を耐圧容器に入れ、180℃のオーブン中に、15rpmで撹拌しながら30時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した。得られたMFI型ゼオライトについてc軸方向の熱膨張率を測定した結果、30℃に対する200℃の熱膨張率の変化率は0.13%、30℃に対する300℃の熱膨張率の変化率は0.15%、30℃に対する400℃の熱膨張率の変化率は0.13%(いれもc軸方向)であり、30℃と比べてゼオライトが膨張している事が確認された。
【0470】
[実施例E8]
<MFI型ゼオライト膜複合体の作製>
最初に、水熱合成用原料混合物を下記の方法により調製した。
50wt%-NaOH水溶液13.65g、水101gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(Al2O3-62.2質量%含有)0.15gを加えて10分間室温で撹拌した。これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)32.3gを加えて、50度で5時間撹拌し、水熱反応用原料混合物とした。この反応用原料混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/H2O=3.05/0.013/0.193/100、SiO2/Al2O3=239である。
【0471】
種結晶として、ZSM5ゼオライト(東ソー製 HSZ-800シリーズ 822H0A)を乳鉢ですりつぶしたものを用意し、この種結晶の濃度が約0.4質量%となる水溶液中(ZSM5種結晶水溶液)に、多孔質支持体を1分間浸した後、70℃で1時間乾燥させ、再度ZSM5種結晶溶液に1分間浸した後、70℃で1時間乾燥させ、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.0016gであった。なお、多孔質支持体として、ノリタケカンパニーリミテド社製のアルミナチューブBN1(外径6mm、内径4mm)を80mmの長さに切断した後、超音波洗浄機で洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。また、上記方法により種結晶が付着した多孔質支持体を3つ用意した。
【0472】
種結晶を付着させた3つの支持体を、それぞれ上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で30時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で3時間乾燥させてMFI型ゼオライト膜複合体2を得た。支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は0.26~0.28gであった。また、焼成後の膜複合体の空気透過量は0.0~0.1cm3/分であった。
【0473】
[実施例E9]
<膜分離性能の評価>
実施例E8に記載のMFI型ゼオライト膜複合体2の温度を100℃~250℃に変えて12%アンモニア/51%窒素/37%窒素の混合ガスを100SCCMの流量で流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表27に示した。150℃から250℃に温度を変えても、アンモニアが高い選択性で膜内を透過している事が確認できた。従って、高温条件下においてもゼオライト粒子間に隙間や欠陥が生じる事が無く高選択的にアンモニアが分離出来ている事が確認できたことから、ゼオライトの熱膨張率はRHO型ゼオライト膜複合体と同程度であると考えられる。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは7.5×10-8[mol/(m2・s・Pa)]であった。
【0474】
【0475】
[参考例E1]
<CHA型ゼオライトの製造>
CHA型ゼオライトを次の通り合成した。
0.6gのNaOH(キシダ化学社製)及び1.1gのKOH(キシダ化学社製)、水10gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al2O3-53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.5gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)25質量%水溶液を5.4gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製スノーテック-40)12gを加えて2時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.2/0.2/15/0.08、SiO2/Al2O3は30である。
【0476】
この水熱合成用原料混合物を耐圧容器に入れ、190℃のオーブン中に、15rpmで撹拌しながら15時間水熱合成を行った。この水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した。得られたCHA型ゼオライトについて熱膨張率を測定した結果、30℃に対する200℃の熱膨張率の変化率は-0.13%、30℃に対する300℃の熱膨張率の変化率は-0.30%、30℃に対する400℃の熱膨張率の変化率は-0.40%(いれもc軸方向)であり、30℃と比べてゼオライトが収縮している事が確認された。
【0477】
[参考例E2]
<CHA型ゼオライト膜複合体の作製>
最初に、水熱合成用原料混合物を以下のとおり調製した。
1mol/L-NaOH水溶液1.45g、1mol/L-KOH水溶液5.78g、水114.6gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al2O3-53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.19gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、TMADAOH25質量%水溶液を2.43g加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテック-40)10.85gを加えて2時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/N
aOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.018/0.02/0.08/100/0.04、SiO2/Al2O3=58である。
【0478】
多孔質支持体としては、ノリタケカンパニーリミテド社製のアルミナチューブBN1(外径6mm、内径4mm)を80mmの長さに切断した後、超音波洗浄機で洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。
【0479】
種結晶として、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/20/0.07のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、濾過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。種結晶の粒径は0.3~3μm程度であった。
【0480】
この種結晶を約1質量%の濃度に水中に分散させたもの(CHA種結晶水溶液)に、上記支持体を1分間浸した後、100℃で1時間乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.001gであった。
【0481】
種結晶を付着させた支持体3本を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で72時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で3時間乾燥させた。
乾燥後の膜複合体を、空気中、電気炉で、450℃にて10時間、500℃で5時間焼成した。このときの室温から450度までの昇温速度と降温速度はともに0.5℃/分、450度から500度までの昇温速度と降温速度はともに0.1℃/分とした。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は約0.279~0.289gであった。また、焼成後の膜複合体の空気透過量は2.4~2.9cm3/分であった。
【0482】
以下、製造されたCHA型ゼオライト膜複合体を「CHA型ゼオライト膜複合体3」と称す。
【0483】
[参考例E3]
<膜分離性能の評価>
参考例E2に記載のCHA型ゼオライト膜複合体3の温度を100℃~250℃に変えて12%アンモニア/51%窒素/37%窒素の混合ガスを100SCCMの流量で流通させて、得られた透過ガスのアンモニアの濃度とアンモニア/水素、アンモニア/窒素のパーミエンス比を表28に示した。150℃から250℃に温度を変えると、温度が高くなるほど膜内を透過したガス中のアンモニアガス濃度が低下する事が分かった。また、250℃でのアンモニアのパーミエンスは7.2×10-7[mol/(m2・s・Pa)]であった。これはRHO型およびMFI型ゼオライト膜複合体よりも高いパーミエンスであるが、アンモニア/窒素あるいはアンモニア/水素のパーミエンス比が小さい事から、アンモニアの透過選択性が低く、ゼオライト粒子間の隙間や欠陥からガスが透過していると考えられた。
【0484】
【0485】
以上の結果から、実施例E2及びE5により得られた本発明のゼオライト膜複合体は、200℃を超えるような高温温度条件下でも、安定してアンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる気体混合物から高選択的にアンモニアを高い透過度で効率的に透過側に分離することができる事が分かった。一方、参考例E2により得られたゼオライト膜複合体の場合、200℃を超える温度において、ゼオライトが熱収縮する事によりゼオライト粒子間に隙間や欠陥が生じアンモニアの透過選択性が低下したと考えられる。すなわち、参考例E2により得られたCHA型ゼオライトの30℃における熱収縮率に対する300℃における熱膨張率の変化率が-0.30%と熱膨張率が大きいために、200℃を超えるような高温温度領域で当該ゼオライトの熱収縮によりゼオライト粒界に亀裂が発生し、その亀裂を通してガスが透過するためアンモニアの分離性能が低下したと考えられる。すなわち、200℃を超える温度領域でゼオライト膜複合体が高い緻密性を維持し、アンモニアと水素および/または窒素を含む複数の成分からなる気体混合物からアンモニアを高選択的に且つ高透過性で分離する為には、30℃における熱膨張率に対する300℃の熱膨張率の変化率がわずか0.30%の変化で膜性能が低下することが明らかになった。これに対し、実施例E2に記載のゼオライトのように30℃における熱膨張率に対する300℃における熱収縮率の変化率が0.02%の場合は、200℃の熱収縮率の変化率が1.55%と著しい熱収縮が起こるにも拘らず、驚くべきことに、200℃を超える温度領域でアンモニアを高選択的に透過することが明らかになった。また、実施例E5やE8に記載のゼオライトのように、30℃における熱膨張率に対する300℃における熱膨張率の変化率の絶対値が0.25%以内であると200℃を超える温度領域でアンモニアを高選択的に透過することが明らかになった。
【符号の説明】
【0486】
1 ゼオライト膜複合体
2 耐圧容器
3 支持体先端の封止部
4 ゼオライト膜複合体と透過ガス回収管との接合部
5 圧力計
6 背圧弁
7 供給ガス(試料ガス)
8 透過ガス
9 スィープガス
10 非透過ガス
11 透過ガス回収管
12 スィープガス供給管