(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、およびその製造方法、並びに、非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220412BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220412BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019526900
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2018024057
(87)【国際公開番号】W WO2019004148
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017125792
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 朋子
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特許第5894388(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 10/0566
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(1):Li
b
Ni
1-a
M1
a
O
2
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5であり、bは、0.85≦b≦1.05である。)
で表されるリチウムニッケル複合酸化物からなり、
比表面積が、0.5m
2
/g~2.05m
2
/gの範囲にあり、および、炭素含有量が、前記リチウムニッケル複合酸化物に対して0.08質量%以下である、
非水電解質二次電池用正極活物質を製造するための方法であって、
(i)主成分としてニッケルを、かつ、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、ニッケル複合水酸化物、ニッケルオキシ複合水酸化物、およびニッケル複合酸化物から選ばれる少なくとも1種のニッケル複合化合物と、リチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650℃~850℃の範囲となる焼成条件で焼成して、
組成式
(2):Li
bNi
1-aM1
aO
2
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5であり、bは、0.95≦b≦1.13である。)
で表されるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する工程と、および、
(ii)前記焼成粉末を水と混合してスラリー化して、得られた焼成粉末スラリーのろ過を行う水洗処理において、ろ液の電気伝導度(導電率)が30mS/cm~60mS/cmの範囲となるまで、10℃~40℃の範囲にある温度の水を用いた掛け水を行い、該水洗処理後の粉末の粒子表面に残存する付着水の水分率が10質量%以下となるまで前記ろ過を行い、その後、ろ過後の粉末の乾燥を行って、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を調製する工程と、
を備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記工程(ii)において、前記焼成粉末スラリーのスラリー濃度を、500g/L~3000g/Lの範囲とする、請求項
1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記工程(ii)において、前記水洗処理後の粉末の乾燥を、炭素を含む化合物成分を含有しないガス雰囲気下または真空雰囲気下で行う、請求項
1または2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル複合水酸化物を、加温した反応槽中に、主成分としてニッケル化合物、および、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際に、反応溶液をアルカリ性に保持することができる量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を滴下することにより、調製する、請求項
1~3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケルオキシ複合水酸化物を、加温した反応槽中に、主成分としてニッケル化合物、および、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際に、反応溶液をアルカリ性に保持することができる量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を滴下し、引き続き、酸化剤をさらに添加することにより、調製する、請求項
1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル複合酸化物を、前記ニッケル複合水酸化物または前記ニッケルオキシ複合水酸化物を焙焼することにより得る、請求項
1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム化合物として、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、およびハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる、請求項
1~6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記工程(i)において、前記ニッケル複合化合物と前記リチウム化合物との混合比を、前記ニッケル複合化合物中のニッケル、ニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素の合計モル量に対して、リチウム化合物中のリチウムのモル量が、モル比で0.95~1.13の範囲となるように、調整する、請求項
1~7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記組成式(1)が、
組成式
(3):Li
bNi
1―x―y―zCo
xAl
yM2
zO
2
(式中、M2は、Mn、Ti、CaおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、bは、0.85≦b≦1.05、xは、0.05≦x≦0.30、yは、0.01≦y≦0.1、zは、0≦z≦0.05である。)
である、請求項1~
8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、およびその製造方法、並びに、この非水電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、非水電解質二次電池の需要が急激に伸びている。非水電解質二次電池に用いられる正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)に代表されるリチウムコバルト複合酸化物、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)に代表されるリチウムニッケル複合酸化物、および、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)に代表されるリチウムマンガン複合酸化物などが存在する。
【0003】
リチウムコバルト複合酸化物には、その主成分として、埋蔵量が少なく、高価かつ供給不安定であり、価格の変動も大きいコバルトを用いていることに問題がある。このため、比較的安価なニッケルまたはマンガンを主成分として含有する、リチウムニッケル複合酸化物あるいはリチウムマンガン複合酸化物がコスト面から注目されている。
【0004】
しかしながら、リチウムマンガン複合酸化物は、熱安定性においてリチウムコバルト複合酸化物に比べて優れているものの、充放電容量が他の材料に比べて非常に小さく、かつ、電池寿命を左右する充放電サイクル特性も非常に劣ることから、二次電池の正極材料として用いるためには、多くの実用上の課題を有する。一方、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも大きな充放電容量を示すことから、安価で、かつ、高いエネルギ密度を有する二次電池の提供を可能とする正極材料として期待されている。
【0005】
ニッケル酸リチウムは、通常、リチウム化合物と、水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルなどのニッケル化合物とを混合し、焼成して製造される。ニッケル酸リチウムは、一次粒子が単分散した粉末、あるいは、一次粒子の凝集体であって空隙を有する二次粒子の粉末からなるが、いずれも充電状態での熱安定性がコバルト酸リチウムに劣るという欠点がある。すなわち、純粋なニッケル酸リチウムでは、熱安定性や充放電サイクル特性などに問題があり、実用的な二次電池の正極材料として使用することができない。これは、結晶中からリチウムが引き抜かれた状態である充電状態における結晶構造の安定性が、コバルト酸リチウムに比べて低いためである。
【0006】
この解決策として、ニッケルの一部をコバルト、マンガン、鉄などの別の遷移金属元素、あるいは、アルミニウム、バナジウム、スズなどの異種元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物を得ることにより、充電でリチウムが引き抜かれた状態における結晶構造の安定化を図って、リチウムニッケル複合酸化物の熱安定性および充放電サイクル特性を改善することが行われている(特開平5-242891号公報、および、「高密度リチウム二次電池」竹原善一郎監修、株式会社テクノシステム、1998年3月、p.61~p.78参照)。
【0007】
しかしながら、このようにニッケルの一部を別の元素で置換する手段では、少量の元素置換では、熱安定性を十分に改善するまでには至らず、その一方で、多量の元素置換では、正極活物質の容量を低下させる要因となるため、リチウムニッケル複合酸化物の正極材料としての優位性を十分に活かすことができないという問題がある。
【0008】
また、リチウムニッケル複合酸化物は、その合成後にそのまま使用すると、粒界などに残存する炭酸リチウムや硫酸リチウムの影響で、充放電に際して本来の電池性能が十分に発揮できないとの理由から、従来、水洗処理を施すことにより、合成後のリチウムニッケル複合酸化物から炭酸リチウムや硫酸リチウムなどの不純物を除去することが行なわれている(特開2003-017054号公報参照)。また、水洗処理によりリチウムニッケル複合酸化物の表面の不純物を洗い落とすことによって、その真の比表面積を得ることができ、この真の比表面積を指標とすることにより、リチウムニッケル複合酸化物の熱安定性や容量を適正に改善することが可能となる。このような観点からも、このような水洗処理は、リチウムニッケル複合酸化物の製造に際して有効な手段とされている(特開2007-273108号公報参照)。
【0009】
しかしながら、これらの場合においても、炭酸リチウムや硫酸リチウムの存在による電池性能に対する影響の真の原因とそのメカニズムが十分に解明されておらず、不純物の除去および比表面積の制御のみでは十分な容量と出力、および優れた熱安定性を確保することができず、リチウムニッケル複合酸化物を正極材料に用いた二次電池の性能を完全に活かしきれないという問題がある。
【0010】
一方、リチウムニッケル複合酸化物の合成において、水酸化リチウム(LiOH)などのアルカリ金属元素を原料として用いるが、合成の際にアルカリ金属元素と炭酸ガスが反応して、アルカリ金属炭酸塩(たとえば、Li2CO3)が生じ、これが高温時にガスを発生させ、電池を膨張させる問題がある(「高密度リチウム二次電池」参照)。また、リチウムニッケル複合酸化物は、雰囲気感受性が強く、合成後も表面残留の水酸化リチウムが炭酸化を起こし、正極完成までの工程において炭酸リチウムがさらに生じることが懸念される(「第47回電池討論会要旨集」、社団法人電気化学会電池技術委員会、2006年11月、p.326~p.327参照)。上述した水洗処理によるリチウムニッケル複合酸化物の特性の改善においては、表面付着物を除去して比表面積を制御することによるリチウムニッケル複合酸化物の熱安定性の向上については検討されているものの、ガス発生による電池膨張の問題に対しては、何らの考慮もなされていない。
【0011】
このガス発生による電池膨張の問題への対応策としては、正極活物質のガス発生を評価する方法が種々提案されている。たとえば、特開2009-140787号公報には、正極活物質の表面に存在する水溶性アルカリ分と高温時のガス発生量との相関関係に基づいて、水溶性アルカリ分の量を規制することにより、正極活物質の出力特性を向上させつつ、高温時のガス発生を抑制することが開示されている。一方、特開2008-277087号公報には、正極活物質の表面の炭酸リチウム量と二次電池の膨れ率との相関関係に基づいて、正極活物質の炭酸ガスの発生量を所定範囲に抑制することが開示されている。また、特開2009-140909号公報には、リチウムニッケル複合酸化物を不活性ガス中で200℃~1500℃に加熱した時に発生する炭酸ガス量を測定し、該炭酸ガス量に応じてリチウムニッケル複合酸化物を選別することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平5-242891号公報
【文献】特開2003-17054号公報
【文献】特開2007-273108号公報
【文献】特開2009-140787号公報
【文献】特開2008-277087号公報
【文献】特開2009-140909号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】「高密度リチウム二次電池」竹原善一郎監修、株式会社テクノシステム、1998年3月、p.61~p.78
【文献】「第47回電池討論会要旨集」、社団法人電気化学会電池技術委員会、2006年11月、p.326~p.327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特開2009-140787号公報では、表面の水酸化リチウムを示す水溶性アルカリ分のみを特定しているにすぎず、高温ガス発生の要因である炭酸リチウム分の特定がなされていないという問題がある。一方、特開2008-277087号公報および特開2009-140909号公報では、表面の炭酸リチウム分のみを特定しているにすぎず、正極完成までの工程において炭酸リチウムに変化する可能性がある水酸化リチウム分の特定はなされていないという問題がある。
【0015】
したがって、本発明の目的は、このような従来技術における問題を解消して、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質において、電池性能の不良を招く真の原因とそのメカニズムを解明しつつ、高容量と優れた熱安定性を両立させ、さらに高出力が得られる非水電解質二次電池用の正極活物質およびその製造方法、並びに、この正極活物質を正極材料に用いた高容量、高出力で安全性の高い非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために、リチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用の正極活物質およびその製造方法について、鋭意研究を重ねた結果、正極活物質の電池容量および出力特性、並びに、高温時のガス発生のメカニズムは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在する炭酸リチウムの影響を強く受けていること、そして、この炭酸リチウムの量と相関関係を有するリチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)を特定値以下に制御することで、低い内部抵抗と一定の比表面積を有する正極活物質が得られ、この正極活物質を非水電解質二次電池の正極材料に用いることにより、高容量かつ高出力で、さらに、高温時のガス発生が抑制され、熱安定性に優れた非水電解質二次電池が得られることを見出した。
【0017】
また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在する炭酸リチウムの量と相関関係を有するリチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)を特定値以下に制御するためには、焼成粉末を特定の条件で水洗処理することがきわめて重要であり、これにより非水電解質二次電池用の正極活物質として優れた特性を有するリチウムニッケル複合酸化物が得られることを見出した。
【0018】
本発明者らは、このような知見に基づいて、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
すなわち、本発明は、組成式(1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質に関する。
組成式:LibNi1-aM1aO2 ・・・(1)
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5であり、bは、0.85≦b≦1.05である。)
【0020】
特に、本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、その比表面積が0.5m2/g~2.05m2/gであり、その炭素含有量(TC)が、リチウムニッケル複合酸化物の全量に対して0.08質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量(表面リチウム量)が、前記リチウムニッケル複合酸化物の全量に対して、0.10質量%以下であることが好ましい。
【0022】
また、前記リチウムニッケル複合酸化物の粉末の含有水分率は、0.2質量%以下であることが好ましい。
【0023】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、組成式(2)で表される組成を有することが好ましい。
組成式:LibNi1―x―y―zCoxAlyM2zO2 ・・・(2)
(式中、M2は、Mn、Ti、CaおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、bは、0.85≦b≦1.05、xは、0.05≦x≦0.30、yは、0.01≦y≦0.1、zは、0≦z≦0.05である。)
【0024】
前記炭素含有量(TC)は、0.01質量%~0.04質量%であることが好ましい。
【0025】
前記リチウム量(表面リチウム量)は、前記リチウムニッケル複合酸化物を溶液に添加してスラリー化した後、該スラリーのpHを酸で滴定することにより該スラリー中のアルカリ分(リチウム化合物)の量を求め、次いで、該アルカリ分の量からリチウム換算して求めたリチウムのリチウムニッケル複合酸化物に対する質量比であることが好ましい。この場合、前記スラリー中のアルカリ分を、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在する前記リチウム化合物に相当するとみなしている。
【0026】
前記滴定に用いる酸が、塩酸、硫酸、硝酸、および有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。特に、本発明の製造方法は、上記の本発明による非水電解質二次電池用正極活物質を製造するためのものであり、かつ、該製造方法は、
(i)主成分としてニッケルを、かつ、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、ニッケル複合水酸化物、ニッケルオキシ複合水酸化物、およびニッケル複合酸化物から選ばれる少なくとも1種のニッケル複合化合物と、リチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650℃~850℃の範囲となる焼成条件で焼成して、組成式(3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する工程と、
組成式:LibNi1-aM1aO2 ・・・(3)
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5であり、bは、0.95≦b≦1.13である。)
および、
(ii)前記焼成粉末を水と混合してスラリー化して、得られた焼成粉末スラリーのろ過を行う水洗処理において、ろ液の電気伝導度(導電率)が30mS/cm~60mS/cm、好ましくは35mS/cm~55ms/cmの範囲となるまで、10℃~40℃の範囲、好ましくは15℃~30℃の範囲にある温度の水を用いた掛け水を行い、該水洗処理後の粉末の粒子表面に残存する付着水の水分率が10質量%以下、好ましくは1質量%~8質量%の範囲となるまで前記ろ過を行い、その後、ろ過後の粉末の乾燥を行って、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を調製する工程(焼成粉末の水洗および乾燥工程)と、
を備えることを特徴とする。
【0028】
前記工程(ii)において、前記焼成粉末スラリーのスラリー濃度を、500g/L~3000g/Lの範囲とすることが好ましい。また、前記工程(ii)において、前記水洗処理後の粉末の乾燥を、炭素を含む化合物成分を含有しないガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0029】
前記ニッケル複合水酸化物は、加温した反応槽中に、主成分としてニッケル化合物、および、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際に、反応溶液をアルカリ性に保持することができる量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を滴下することにより、調製されることが好ましい。
【0030】
前記ニッケルオキシ複合水酸化物は、加温した反応槽中に、主成分としてニッケル化合物、および、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含む水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際に、反応溶液をアルカリ性に保持することができる量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を適宜滴下し、引き続き、酸化剤をさらに添加することにより、調製されることが好ましい。
【0031】
なお、前記ニッケル複合酸化物は、前記ニッケル複合水酸化物または前記ニッケルオキシ複合水酸化物を焙焼することにより得ることができる。
【0032】
前記リチウム化合物として、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、およびハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0033】
前記工程(i)において、前記ニッケル複合化合物と前記リチウム化合物との混合比は、該ニッケル複合化合物中のニッケルとニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素との合計モル量に対して、前記リチウム化合物中のリチウムのモル量が、モル比で0.95~1.13の範囲となるように、調整されることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明は、非水電解質二次電池に関する。特に、本発明の非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極を構成する正極材料として、本発明の非水電解質二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、非水電解質二次電池の正極を構成した場合に、高容量で、かつ熱安定性に優れ、さらに高出力であるという優れた電池特性をもたらすことが可能な、リチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。また、本発明によれば、このような優れた電池特性をもたらすことが可能な、非水電解質二次電池用正極活物質を、簡易かつ生産性が高い手段により製造することが可能となる。このため、本発明の工業的価値は、きわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、電池評価に使用した2032型のコイン電池の概略構造を表す縦断面図である。
【
図2】
図2は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の非水電解質二次電池用の正極活物質、その製造方法、並びに、非水電解質二次電池について、順次、詳細に説明する。
【0038】
1.非水電解質二次電池用の正極活物質
1-1)組成
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、次の組成式(1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質であって、比表面積が0.5m2/g~2.05m2/gであり、リチウムニッケル複合酸化物粉末の炭素含有量(TC)が全量に対して0.08質量%以下に調整されていることを特徴とするものである。
組成式:LibNi1-aM1aO2 ・・・(1)
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5であり、bは、0.85≦b≦1.05である。)
【0039】
この正極活物質において、ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、ニッケルの含有量を示す(1-a)の値は、0.5以上0.99以下であり、好ましくは、0.8以上0.97以下、より好ましくは、0.9以上0.95以下である。ニッケルの含有量を示す(1-a)の値が0.5未満では、この正極活物質を用いた二次電池の電池容量を向上させることができない。一方、(1-a)の値が0.99を超えると、他の金属元素の含有量が減少し、その効果を得ることができない。
【0040】
また、リチウム(Li)の含有量を示すbの値は、0.85以上1.05以下であり、好ましくは、0.9以上1.02以下、より好ましくは、0.95以上1.00以下である。bの値を上記範囲内に設定することにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、bの値が0.85未満のときは、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。一方、1.05を超えると、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう。
【0041】
前記リチウムニッケル複合酸化物としては、上記組成式(1)で表される化合物ならば、特に限定されないが、その中でも、次の組成式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが好ましい。
組成式:LibNi1―x―y―zCoxAlyM2zO2 ・・・(2)
(式中、M2は、Mn、Ti、CaおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、bは、0.85≦b≦1.05、xは、0.05≦x≦0.30、yは、0.01≦y≦0.1、zは、0≦z≦0.05である。)
【0042】
以下、組成式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を構成する添加元素およびその添加量について説明する。
【0043】
a)Co
Coは、サイクル特性の向上に寄与する添加元素であるが、添加量を示すxの値が0.05よりも小さいと、十分なサイクル特性を得ることはできず、容量維持率も低下してしまう。また、xの値が0.3を超えると、初期放電容量の低下が大きくなってしまう。リチウムニッケル複合酸化物の特徴である大きな充放電容量を確保しつつ、かつ、十分なサイクル特性を得るためには、xの値を0.10~0.20とすることが好ましい。
【0044】
b)Al
Alは、安全性の改善に効果がある添加元素であり、添加量を示すyの値が0.01よりも小さいと、添加量が少なすぎて効果が低下しすぎてしまう。また、yの値が0.1を超えると、安全性は、添加量に応じて向上するが、充放電容量が低下してしまうため、好ましくない。充放電容量の低下を抑制するためには、yの値を0.01~0.05とすることが好ましい。
【0045】
c)M2
添加元素であるM2は、Mn、Ti、CaまたはMgから選ばれる少なくとも1種の元素であり、サイクル特性や安全性の向上のために添加することができる。添加量を示すzが0.05を超えると、結晶構造の安定化度合いはより向上するが、初期放電容量の低下が大きくなってしまうため、好ましくない。結晶構造の安定化度合いを良好にしつつ、かつ、初期放電容量の低下を防止するためには、zの値を0.01~0.05とすることが好ましい。
【0046】
1-2)正極活物質の炭素含有量
リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質表面に、炭酸リチウムが存在すると、このような正極活物質を正極材料として用いた二次電池において、その使用中であって、かつ、高温状態で保持された場合に、炭酸リチウムの分解によりガスが発生して、二次電池を膨張させてしまい、その安全性が低下してしまう。したがって、正極活物質の表面に存在する炭酸リチウムの量を可能な限り低減させる必要がある。
【0047】
本発明者らは、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)と表面に存在する炭酸リチウムに相関関係があり、前記炭素含有量(TC)を特定値以下に制御することで、二次電池内におけるガス発生を抑制することが可能となるとの知見を得た。特に、リチウムニッケル複合酸化物に適切な水洗処理を施すことにより、このガス発生を抑制する効果が高くなることを確認した。
【0048】
しかしながら、製造時の正極活物質の表面に存在する炭酸リチウムの量を低減させるのみでは、不十分となる場合がある。すなわち、本発明の正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物は、一般に、その表面もしくは結晶の粒界に、炭酸リチウム以外にも、硫酸リチウム、水酸化リチウムなどの余剰のリチウム化合物が残留している。正極活物質の表面に存在する水酸化リチウムは、正極活物質が製造された後、二次電池に組み込まれるまでの間に、工程雰囲気中の炭酸ガスと反応して炭酸リチウムとなることがあり、正極活物質表面の炭酸リチウムは、製造直後よりも増加する可能性がある。したがって、正極活物質の表面に存在する炭酸リチウムの量に加えて、さらに水酸化リチウムの量を抑制することにより、高温時のガス発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0049】
本発明は、正極活物質の製造時から二次電池への組み込み時までの間に炭酸化したリチウム化合物も含めて、表面に存在するリチウム化合物の量を、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)により規制する。なお、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)は、燃焼-赤外線吸収法、好ましくは、高周波燃焼-赤外線吸収法により測定される。
【0050】
本発明においては、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量(TC)を、リチウムニッケル複合酸化物全量に対して、0.08質量%以下に制御することで、高温時のガス発生の抑制を可能としている。前記炭素含有量(TC)が0.08質量%を超えると、二次電池を構成する正極材料に含まれる炭酸リチウムの量が多くなり、高温状態に晒された時の分解ガス発生量が多く、二次電池の膨れが発生する。なお、前記炭素含有量(TC)は、0.06質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以下であることがより好ましい。一方、前記炭素含有量(TC)の下限は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましい。炭素含有量(TC)が0.01質量%未満である場合には、水洗処理されたリチウムニッケル複合酸化物が過剰に洗浄された状態となっている可能性がある。過剰に洗浄されたリチウムニッケル複合酸化物では、表面近傍の結晶中のリチウムが脱離し、粒子表面にLiが抜けたNiOあるいはLiとHが置換されたNiOOHの層が生成するが、これらの層はいずれも電気抵抗が高いことから、正極活物質における粒子表面の抵抗が上昇するといった問題が起こる可能性がある。
【0051】
1-3)正極活物質の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量
本発明における正極活物質の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量(表面リチウム量)とは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在するリチウム化合物中のリチウムが、リチウムニッケル複合酸化物全体に対して占める質量割合を意味する。該リチウム量を0.10質量%以下とすることで、高温時のガス発生をより効果的に抑制することが可能となる。正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面には、水酸化リチウムおよび炭酸リチウム以外にもリチウム化合物が存在するが、通常の条件で製造される場合には、大部分が水酸化リチウムおよび炭酸リチウムであり、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在するリチウムの量を制御することで、高温時のガス発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在するリチウム量が0.10質量%を超えると、二次電池として使用した際の二次電池中に含まれる炭酸リチウムも多くなり、高温状態に晒されると分解してガス発生を起こし、二次電池の膨れが発生することがある。なお、前記リチウム量は、0.07質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
一方、前記リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在するリチウム量の下限は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましい。このリチウム量が0.01質量%未満になると、リチウムニッケル複合酸化物が過剰に洗浄された状態となっている可能性がある。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物の粉末が過剰に洗浄され、その表面に存在するリチウム化合物がほとんど存在しない状態となっている。しかしながら、表面に存在するリチウム化合物がほとんど存在しない状態であっても、リチウムニッケル複合酸化物の内部から微量のリチウムが溶出して、前記リチウム量として0.01質量%未満のリチウムが検出されることがある。過剰に洗浄された場合、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面における抵抗の上昇の問題が生じるおそれがあるばかりでなく、リチウムニッケル複合酸化物中に存在するLiが減少して、二次電池の容量が低下するといった問題が起こる可能性がある。
【0054】
なお、リチウムニッケル複合酸化物の粉末表面に存在するリチウム化合物中のリチウムの量(表面リチウム量)は、以下のようにして求めることができる。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物に、リチウムを可溶な溶媒を添加してスラリー化した後、このスラリーのpHを指標とした中和滴定により定量を行い、この中和滴定による定量分析の結果から、前記リチウムニッケル複合酸化物の粉末表面に存在するリチウムのリチウムニッケル複合酸化物全体に対する質量比を求める。表面リチウム量の測定に、中和滴定を用いるのは、リチウムニッケル複合酸化物の粉末の表面に存在するリチウム化合物中のリチウムのみのリチウム量を精度よく測定できるためである。ただし、表面リチウム量に関する定量分析を行うことが可能な他の公知の代替手段を用いることも可能である。
【0055】
前記中和滴定ではスラリー中のアルカリ分を定量することになるが、このアルカリ分は、前記リチウムニッケル複合酸化物の粉末表面の水酸化リチウム、炭酸リチウムや炭酸水素リチウムなどのリチウム化合物中のリチウムと考えられる。したがって、前記中和滴定によって定量されたアルカリ分を粉末表面に存在するリチウム化合物中のリチウムとみなして、該リチウムのリチウムニッケル複合酸化物に対する質量比を前記リチウム量として求めることができる。
【0056】
前記中和滴定に用いる溶媒は、スラリーへの不純物混入を防止するため、純水、たとえば、電気伝導度が1μS/cm以下の水を用いることが好ましく、0.1μS/cm以下の水を用いることがより好ましい。前記スラリー濃度は、リチウムニッケル複合酸化物の粉末表面のリチウム化合物を溶媒中に十分に溶解させ、かつ、滴定での操作が容易となるように、質量比でリチウムニッケル複合酸化物の粉末1に対する溶媒の比率を5~100の範囲とすることが好ましい。
【0057】
また、前記酸も、滴定に通常用いられる酸であればよく、塩酸、硫酸、硝酸、および有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0058】
この溶媒の比率が5未満であると、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面のリチウム化合物を十分溶解しきることができず、中和滴定により粒子表面に存在するリチウムの全量を適切に測定できない可能性がある。一方、この溶媒の比率が100を超えると、粒子表面のリチウム化合物がすべて溶解した時点でのスラリーのpHが低すぎ、表面近傍に存在する結晶中のリチウムとプロトンが交換反応を起こして、結晶中のリチウムまでもが溶媒に溶出してしまう。この場合、中和滴定によって求められるリチウム量は表面に存在していたリチウムの量に加えて、表面近傍の結晶中から溶出したリチウムの量も加わってしまうため、表面に存在したリチウム量を正確に求めることができなくなる。
【0059】
上記滴定の条件は、アルカリ性溶液に対する中和滴定で通常用いられる条件でよく、pHの変極点から当量点を求めることができる。たとえば、水酸化リチウムの当量点はpH8付近であり、炭酸リチウムの当量点はpH4付近となる。
【0060】
1-4)正極活物質の特性
通常、非水系電解質二次電池用正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物の表面もしくは結晶の粒界には、炭酸リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウムなどの余剰の不純物が残留している。したがって、このような正極活物質を用いた非水系電解質二次電池では、二次電池内の内部抵抗が大きく、充放電効率やサイクル性能といった電池容量に対して、その正極材料である正極活物質の有する性能を充分に発揮することができない。これに対し、本発明の正極活物質では、後述するように、適切な水洗処理などを施すことにより、その表面や粒界の不純物成分の除去が適切に行われているため、正極材料として二次電池に用いられた場合、その内部抵抗は低減され、正極活物質が本来有する電池性能を十分に発揮することができるようになる。
【0061】
本発明の正極活物質の比表面積は、0.5m2/g~2.05m2/gの範囲にあり、好ましくは、0.7m2/g~1.7m2/gの範囲、より好ましくは、0.8m2/g~1.5m2/gの範囲にある。正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物の比表面積が2.05m2/gを超えると、異常時の二次電池内での電解液との反応による発熱量が急激に大きくなり、熱安定性の低下を招くことがある。一方、その比表面積が0.5m2/g未満では、このような発熱は抑えられるものの、反応に寄与する面積が小さいため、二次電池の充放電容量および出力特性が低下することがある。本発明の正極活物質の比表面積は、後述する本発明によるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調整する工程、および、本発明による焼成粉末の水洗および乾燥工程を経ることにより、規制することが可能である。
【0062】
また、正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物の粉末の含有水分率は、0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、この粉末の含有水分率が0.2質量%を超えると、粉末中の水分が大気中の炭素、硫黄を含むガス成分、たとえば二酸化炭素や窒素酸化物などを吸収して、表面にこれらのリチウム化合物を生成してしまい、二次電池として用いる際に、高温時のガス発生の原因となるためである。なお、この含有水分率の測定方法としてはカールフィッシャー法による測定が適している。
【0063】
さらに、本発明の正極活物質は、六方晶の層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物単相であることが好ましい。それ以外の異相が存在すると、電池特性が悪化する。
【0064】
本発明の正極活物質は、電池として用いられた場合、175mAh/g以上、より好ましくは180mAh/g以上の高容量が得られるとともに、反応抵抗が低く高出力であり、高温時のガス発生が抑制されて、安全性も高く、非水電解質二次電池用の正極材料として優れた特性を備えた正極活物質である。
【0065】
2.非水電解質二次電池用の正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、下記の工程(i)および工程(ii)を備えることを特徴とする。
【0066】
すなわち、工程(i)は、主成分としてニッケルを、かつ、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、ニッケル水酸化物、ニッケルオキシ水酸化物、およびニッケル酸化物から選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650℃~850℃の範囲にある焼成条件で焼成して、組成式(3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する工程である。
組成式(3):LibNi1-aM1aO2 ・・・(3)
(式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5、bは、0.95≦b≦1.13である。)
【0067】
また、工程(ii)は、前記焼成粉末を水と混合してスラリー化し、該焼成粉末スラリーのろ過を行う水洗処理であって、該焼成粉末を10℃~40℃の温度範囲にある掛け水を、ろ液の電気伝導度(導電率)が30mS/cm~60mS/cmの範囲となるまで行い、該水洗処理した後に、ろ過後の付着水の水分率が10質量%以下になるまでろ過および乾燥して、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を調製する工程である。
【0068】
以下、工程ごとに詳細に説明する。
【0069】
(1)工程(i)<焼成工程>
工程(i)の焼成工程は、主成分としてニッケルを、かつ、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、ニッケル水酸化物、ニッケルオキシ水酸化物、および、ニッケル酸化物から選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650℃~850℃の範囲、好ましくは700℃~800℃の範囲、より好ましくは755℃~780℃の範囲となる焼成条件で焼成して、上記組成式(3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する工程である。
【0070】
この焼成工程で用いられるニッケル化合物としては、主成分としてニッケルを、かつ、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、ニッケル水酸化物、ニッケルオキシ水酸化物、および、ニッケル酸化物からなる群から選ばれる。
【0071】
上記正極活物質を得るためには、種々の方法で得られたリチウムニッケル複合酸化物を用いることができるが、この中で、晶析法によりリチウム以外の金属元素を固溶または分散させたニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合し、それを焼成する方法で得られたものであることが好ましい。
【0072】
すなわち、一般に、リチウムニッケル複合酸化物の代表的な製造方法としては、晶析法によりリチウム以外の金属元素を固溶または分散させたニッケル化合物と、および、リチウム化合物とを原料として、これらを混合し焼成する方法、所望の金属元素を含有する水溶液をすべて混合した液を噴霧熱分解処理する方法、および、ボールミルなど機械粉砕により所望の金属元素の化合物をすべて粉砕混合した後、焼成する方法などが存在する。
【0073】
しかしながら、これらのうちでニッケル原料を晶析法により製造する以外の方法では、得られるリチウムニッケル複合酸化物の比表面積が非常に大きいため、熱安定性の問題が生じるため、効率的な手段ということができない。しかも、晶析法を用いれば、正極活物質として、好適な高い嵩密度を有する球状粒子を形成するニッケル化合物である、水酸化ニッケルあるいはオキシ水酸化ニッケルを製造することができる。したがって、これらの水酸化ニッケルあるいはオキシ水酸化ニッケルを焙焼することにより得られる酸化ニッケルを含めて、その充填性に有利であるということができるため、リチウムニッケル複合酸化物の製造には、晶析法が最も適している。
【0074】
この焼成工程に用いるニッケル水酸化物としては、特に限定されるものではなく、種々の条件による晶析法で得られるものを用いることができる。これらの条件の中では、たとえば、好ましくは40℃~60℃の範囲の温度に加温した反応槽中に、主成分としてニッケル化合物、および、副成分としてニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを滴下し、その際に、反応溶液をアルカリ性に、好ましくはpHが10~14の範囲となるように、保持することができる量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を、必要に応じて適宜滴下することにより、調製されたものであることが好ましい。この方法により製造されたニッケル水酸化物は、高い嵩密度を有する粉末であるので、非水電解質二次電池用の正極活物質に用いるリチウムニッケル複合酸化物の原料として好適である。
【0075】
上記温度が60℃を超えるか、あるいは、pHが14を超えると、液中で核生成の優先度が高まり、結晶成長が進まずに、微細な粉末しか得られないこととなる。一方、温度が40℃未満、あるいは、pHが10未満では、液中で核の発生が少なく、粒子の結晶成長が優先的となるため、電極作製時に凹凸が発生するほどの非常に大きい粒子が生成するか、あるいは、反応液中の金属イオンの残存量が高く、反応効率が非常に悪くなるという問題が発生する。
【0076】
この焼成工程に用いられるニッケルオキシ水酸化物は、特に限定されるものではなく、前記ニッケル水酸化物の調整工程に対して、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素水などの酸化剤をさらに添加する工程を追加して、調製することができる。この方法により製造されたニッケルオキシ水酸化物も、高い嵩密度を有する粉末であるので、非水電解質二次電池用の正極活物質に用いるリチウムニッケル複合酸化物の原料として好適である。
【0077】
また、この焼成工程で用いられるニッケル酸化物も、特に限定されるものではなく、前記ニッケル水酸化物または前記ニッケルオキシ水酸化物を焙焼することにより得ることができる。このニッケル水酸化物あるいはニッケルオキシ水酸化物の焙焼条件は、特に限定されるものではなく、たとえば、大気雰囲気下、好ましくは500℃~1100℃の範囲、より好ましくは600℃~1000℃の範囲、さらに好ましくは650℃~745℃の範囲にある温度で行なうことができる。
【0078】
焙焼温度が500℃未満では、これを用いて得られるリチウムニッケル複合酸化物の品位の安定が難しく、合成時に組成の不均一化が起こりやすい。一方、焙焼温度が1100℃を超えると、粒子を構成する一次粒子が急激に粒成長を起こし、後続のリチウムニッケル複合酸化物の調製において、ニッケル化合物側の反応面積が小さくなりすぎることから、リチウムと反応することができずに下層の比重の大きなニッケル化合物と上層の溶融状態のリチウム化合物に比重分離してしまう問題が生ずる。
【0079】
本発明の製造方法では、前記ニッケル水酸化物、前記ニッケルオキシ水酸化物、および前記ニッケル酸化物から選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合した後、酸素雰囲気下、最高温度が650℃~850℃の範囲、好ましくは700℃~800℃の範囲、より好ましくは755℃~780℃の範囲となる焼成条件で、この混合物の焼成を行うことで、組成式(3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末が調製される。
【0080】
前記混合には、Vブレンダなどの乾式混合機、混合造粒装置などが用いられ、また、前記焼成には、酸素雰囲気、除湿および除炭酸処理を施した乾燥空気雰囲気などの酸素濃度20質量%以上のガス雰囲気に調整した、電気炉、キルン、管状炉、プッシャー炉などの焼成炉を用いることができる。
【0081】
前記リチウム化合物としては、特に限定されるものではなく、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、およびハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0082】
この焼成工程において、前記ニッケル化合物とリチウム化合物との混合比としては、特に限定されることはなく、たとえば、前記ニッケル酸化物中のニッケルとニッケル以外の遷移金属元素、2族元素、および13族元素の合計量に対して、リチウム化合物中のリチウム量がモル比で0.95~1.13の範囲にあるように調整することが好ましい。
【0083】
すなわち、前記モル比が0.95未満では、得られる焼成粉末のモル比も0.95未満となり、結晶性が非常に悪く、また、水洗後のリチウムとリチウム以外の金属とのモル比が0.85未満となるため、充放電サイクル時の電池容量の大きな低下を引き起こす要因となる。一方、モル比が1.13を超えると、得られる焼成粉末のモル比も1.13を超え、表面に余剰のリチウム化合物が多量に存在し、これを水洗で除去するのが難しくなる。このため、このような余剰のリチウム化合物が存在するリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いると、二次電池の充電時にガスが多量に発生するばかりでなく、高いpHを示す粉末となるため、電極作製時に使用する有機溶剤などの材料と反応してスラリーがゲル化して不具合を起こす要因となる。また、水洗後のモル比が1.05を超えてしまうため、最終的に得られた正極活物質を用いた二次電池において、正極の内部抵抗が大きくなってしまう。
【0084】
また、焼成温度は、最高温度が650℃~850℃の範囲、好ましくは700℃~800℃の範囲、より好ましくは755℃~780℃の範囲となるように制御される。すなわち、焼成温度が500℃を超えるような温度で熱処理すれば、ニッケル酸リチウムが生成されるが、焼成温度が650℃未満では、その結晶が未発達で構造的に不安定であり、充放電による相転移などにより容易に構造が破壊されてしまう。一方、焼成温度が850℃を超えると、層状構造が崩れ、リチウムイオンの挿入、脱離が困難となったり、さらには、分解により酸化ニッケルなどが生成されたりしてしまう。さらに、リチウム化合物の結晶水などを取り除いた上で、結晶成長が進む温度領域で均一に反応させるためにも、400℃~600℃の温度で1時間以上仮焼した後、続いて650℃~850℃の温度で3時間以上の2段階で焼成することが、特に好ましい。
【0085】
(2)工程(ii)<水洗および乾燥工程>
工程(ii)は、前記焼成粉末をスラリー化し、該焼成粉末スラリーのろ過を行う水洗処理工程と、ろ過後の粉末を乾燥する工程とからなる。
【0086】
本発明における、焼成粉末の水洗処理は、基本的には、該焼成粉末を10℃~40℃、好ましくは15℃~30℃の温度範囲にある水と混合してスラリー化して、焼成粉末スラリーのろ過を行う工程からなる。
【0087】
特に、本発明においては、この水洗処理において、10℃~40℃、好ましくは15℃~30℃の温度範囲にある掛け水を、ろ液の電気伝導度(導電率)をリアルタイムで測定しながら、ろ液の導電率が30mS/cm~60mS/cmの範囲となるまで継続する点に特徴がある。
【0088】
この水洗処理において、ろ液の導電率が30mS/cm~60mS/cmの範囲となるまで継続する掛け水処理を施すことで、より均一にリチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウムを取り除くことが可能となる。ろ液の導電率の終点は、35mS/cm~55mS/cmの範囲となるようにすることが好ましく、40ms/cm~50mS/cmの範囲となるようにすることがより好ましい。
【0089】
また、このような水洗処理を施すとともに、ろ過(スラリーの固液分離)後に、最終的に粒子表面に残存する付着水の水分率を、リチウムニッケル複合酸化物粉末に対して10質量%以下、好ましくは、1質量%~8質量%の範囲に制御することで、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の粉末表面に存在するリチウム量を0.10質量%以下に、含有水分率を0.2質量%以下に、それぞれ制御することができ、高温保持時のガス発生を抑制することができる。また、高容量と高出力を達成することができる正極活物質が得られるとともに高い安全性も両立させることができる。水洗処理後に粒子表面に残存する付着水が多すぎると、付着水中に溶解したリチウムが再析出し、乾燥中にリチウムニッケル複合酸化物粉末の表面に存在するリチウムが炭酸化して炭素含有量が増加することがある。このため、ろ過において、最終的に固液が十分に分離し、このろ過後の付着水の水分率が、リチウムニッケル複合酸化物粉末に対して10質量%以下、好ましくは、1質量%~8質量%の範囲となるように、ろ過条件を設定する。なお、このろ過後の付着水の水分率は、乾燥重量法を用いて測定することが可能である。
【0090】
水洗処理における、焼成粉末スラリーのスラリー温度および掛け水の温度(水洗温度)が10℃未満である場合、あるいは、掛け水処理を含む焼成粉末スラリーのろ過処理が十分でなく、ろ液の導電率の終点が60mS/cmを超えている場合、洗浄不十分のために、前記焼成粉末表面に付着している不純物が除去されずに多く残留する。この不純物には、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムが含まれ、リチウムニッケル複合酸化物粉末中の炭素含有量が0.08質量%を超え、高温保存時のガス発生が起きやすい状態となる。また、不純物が残留することにより表面の抵抗が上がるため、電池の正極として用いた場合の抵抗値が上昇する。さらに、比表面積が小さくなり過ぎてしまう。一方、水洗処理後における付着水の水分率が10質量%を超えると、付着水中に含まれるリチウムが、乾燥後の正極活物質粉末表面に多量に残留することになる。このようなリチウムは、ろ過後の工程内で炭酸化や吸湿により炭酸リチウムおよび水酸化リチウムとなるため、上記のように、高温保持時のガス発生や正極活物質表面の抵抗増加の原因となる。
【0091】
一方、水洗温度が40℃を超えると、前記焼成粉末からのリチウムの溶出量が多くなり、水洗に用いた水などの液中のリチウム濃度が上昇するために、粉末表面に水酸化リチウムとして再付着するリチウムが増加し、水洗後に大気中で水酸化リチウムが炭酸化して炭素含有量が0.08質量%を超えてしまう。また、過洗浄となって水洗処理後の比表面積が大きくなり過ぎるため、これによって電解液との反応による発熱量が大きくなり、熱安定性の低下を招く。加えて、表面層にLiが抜けたNiOあるいはLiとHが置換されたNiOOHが生成し、いずれも電気抵抗が高いことから、粒子表面の抵抗が上昇するとともに、リチウムニッケル複合酸化物中のLiが減少して容量が低下する。
【0092】
また、ろ液の導電率の終点が30mS/cm未満となるまで、焼成粉末スラリーに対する水洗処理を行った場合、同様に過洗浄による問題が生じる。
【0093】
水洗処理によるろ液の電気伝導度は、水洗温度(焼成粉末スラリーのスラリー温度および掛け水の温度)、および、焼成粉末のリチウム含有量、特に粒子表面に存在する余剰リチウム量に影響されるが、焼成粉末スラリーのスラリー濃度によっても影響を受ける。すなわち、焼成粉末スラリーのスラリー濃度を低下させると、そのろ過処理におけるろ液の電気伝導度が低くなり、このスラリー濃度を上げると、そのろ過処理におけるろ液の電気伝導度も高くなる。しかしながら、焼成粉末のリチウム含有量および製造条件を一定にしておけば、同じスラリー温度およびスラリー濃度であれば同程度のろ液の導電率を示すため、焼成粉末スラリーについて、予備試験により最適なろ液の導電率となるようにスラリー化および掛け水の条件を求めることで、掛け水処理を含む、焼成粉末スラリーのろ過による水洗工程における、ろ液の導電率を適切に制御し、かつ、ろ液の導電率の終点まで水洗処理を適切に施すことが可能となる。
【0094】
具体的には、水洗処理時の焼成粉末スラリーのスラリー濃度としては、スラリー中に含まれる水1Lに対する焼成粉末の量(g)が500g/L~3000g/Lであることが好ましく、800g/L~3000g/Lの範囲にあることがより好ましく、1500g/L~2500g/Lの範囲にあることがさらに好ましい。すなわち、粉末量が多いほどスラリー濃度が濃くなり、3000g/Lを超えると、粘度も非常に高いため、攪拌が困難となるばかりか、液中のアルカリが高いため、平衡の関係から付着物の溶解速度が遅くなったり、剥離が起きても粉末からの分離が難しくなったりする。また、水洗が十分でないことから、炭素含有量(TC)および表面のリチウム量が多くなる。一方、スラリー濃度が1000g/L未満、特に500g/L未満では、その後の掛け水処理においてリチウムの溶出量が過剰となってしまい、最終的なろ液の導電率が30mS/cm未満となり、表面のリチウム量は少なくなるが、正極活物質の結晶格子中からのリチウムの脱離も起きるようになり、結晶が崩れやすくなるばかりか、高pHの水溶液が大気中の炭酸ガスを吸収して炭酸リチウムを再析出する可能性がある。なお、工業的な観点から生産性を考慮すると、設備の能力や作業性の点で、スラリー濃度が500g/L~2000g/Lの範囲であることが望ましい。たとえば、特開2004-171961号公報には、正極活物質の評価として、40g/Lという希薄なスラリー濃度で洗浄しているが、このようなスラリー濃度では、水洗処理後のろ液の導電率が低くなりすぎる。
【0095】
なお、水洗処理におけるろ液の導電率は、焼成粉末スラリーの一部を固液分離して得られる液体部、もしくは、掛け水処理を含む水洗工程における、焼成粉末スラリーのろ過による生成した、ろ液について、好ましくはリアルタイムで、電気伝導率計で測定することにより求めることができる。
【0096】
掛け水処理を含む水洗時間としては、特に限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量が全量に対して0.08質量%以下になるに十分な時間であることが必要であり、かつ、水洗温度、ろ液の導電率に応じて、適切に設定することが重要ではあるが、通常、20分~2時間程度の範囲となる。
【0097】
なお、焼成粉末の水洗処理(スラリー化処理および掛け水処理)において使用される水としては、特に限定されるものではなく、導電率が10μS/cm未満である水が好ましく、1μS/cm以下の水がより好ましい。すなわち、導電率が10μS/cm未満の水であれば、正極活物質への不純物の付着による電池性能の低下を防ぐことができる。
【0098】
本発明では、焼成粉末のスラリー化処理、および、掛け水処理を含む、焼成粉末スラリーのろ過による水洗処理を施した後、ろ過後の粉末は乾燥工程に供される。
【0099】
この乾燥工程における乾燥方法は、特に限定されることなく、公知の方法を使用することができるが、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量の上昇や窒素酸化物などの吸収を抑制する面から、炭素および硫黄を含む化合物を含有しないガス雰囲気下、または、真空雰囲気下で行うことが好ましい。また、乾燥温度については、特に限定されないが、粉末が水分を多量に含んだ状態で高温にさらされると、表面の水分の蒸発に伴って正極活物質に、リチウムイオンや電子の移動を阻害する抵抗層が形成され、充放電容量が低下してしまうため、少なくとも乾燥初期においては、100℃以下、好ましくは80℃以上100℃未満、より好ましくは、80℃以上90℃未満とする。乾燥温度が80℃未満の場合、水洗後の正極活物質の乾燥時間が長くなり、効率の悪化や粒子表面と粒子内部とでリチウム濃度の勾配が大きくなる可能性がある。なお、好ましくは、100℃以下の乾燥温度でほとんどの水分を乾燥した後、100℃~700℃の範囲、より好ましくは100℃~550℃の範囲、さらに好ましくは120℃~350℃の範囲で、さらに乾燥させれば、乾燥時間を短縮して、生産性および熱エネルギコストを向上させることができる。なお、正極活物質の表面付近では、化学量論比にきわめて近いか、もしくは若干リチウムが脱離して充電状態に近い状態になっていることが予想されるので、700℃を超える温度では、充電状態に近い粉末の結晶構造が崩れる契機になり、電気特性の低下を招くおそれがある。乾燥温度を高くするタイミングについては、たとえば、乾燥開始から、リチウムニッケル複合酸化物の粉末の含有水分率が1質量%以下となるのに十分な時間経過後とすることができる。
【0100】
3.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、本発明のリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質、特に、本発明の製造方法により得られたリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質を正極材料として用いて、正極を作製し、これを組み込んでなる高容量で安全性の高い非水電解質二次電池である。
【0101】
なお、本発明によれば、正極活物質自体の特性が向上することから、該正極活物質を用いて得られる二次電池の性能は、その形状によっては左右されることはない。すなわち、二次電池の形状としては、コイン電池に限らず、帯状の正極および負極を、セパレータを介して捲回して得られる円筒形電池または角形電池であってもよい。
【0102】
(1)正極
次に、本発明の非水電解質二次電池に用いる正極およびその作製方法について説明するが、本発明は、これに特に限定されるものではない。たとえば、非水電解質二次電池の正極は、正極活物質と結着剤とを含む正極合剤を、帯状の正極芯材(正極集電体)に担持させることにより、作製することができる。なお、正極合剤には、導電助剤などの添加剤を任意成分としてさらに含ませることができる。正極合剤の芯材への担持は、正極合剤を液状成分に分散させてペーストを調製し、ペーストを芯材に塗工し、乾燥させることにより行なわれる。
【0103】
結着剤としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれを用いることもできるが、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0104】
熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン‐テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは、Na+イオンなどによる架橋体であってもよい。
【0105】
導電助剤としては、二次電池内で化学的に安定であれば、任意の電子伝導性材料を用いることができる。たとえば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカ類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料、フッ化カーボンなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
正極合剤に対する導電助剤の添加量としては、特に限定されるものではなく、正極合剤に含まれる正極活物質に対して、0.5質量%~50質量%の範囲とすることが好ましく、0.5質量%~30質量%の範囲とすることがより好ましく、0.5質量%~15質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0107】
正極芯材(正極集電体)としては、二次電池内で化学的に安定であれば、任意の電子伝導体を用いることができる。たとえば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素、導電性樹脂などからなる箔またはシートを用いることができ、特に、アルミニウム箔あるいはアルミニウム合金箔を用いることがより好ましい。ここで、箔またはシートの表面には、カーボンまたはチタンの層を付与したり、酸化物層を形成したりすることもできる。また、箔またはシートの表面に凹凸を付与することもでき、ネット、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体などを用いることもできる。
【0108】
正極芯材の厚さについても、特に限定されるものではなく、たとえば、1μm~500μmの範囲の厚さを有する正極芯材を用いることができる。
【0109】
(2)負極
次いで、本発明の非水電解質二次電池に用いる正極以外の構成要素について説明する。ただし、本発明の非水電解質二次電池は、本発明の正極活物質を用いる点に特徴を有するものであり、その他の構成要素は、特に限定されるものではない。
【0110】
まず、負極としては、リチウムを充放電することができるものが用いられ、たとえば、負極活物質と結着剤を含み、任意成分として導電助剤や増粘剤を含む負極合剤を負極芯材に担持させたものを用いることができる。このような負極は、正極と同様の方法で作製することができる。
【0111】
負極活物質としては、リチウムを電気化学的に充放電し得る材料であればよい。たとえば、黒鉛類、難黒鉛化性炭素材料、リチウム合金などを用いることができる。前記リチウム合金としては、特にケイ素、スズ、アルミニウム、亜鉛、およびマグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む合金であることが好ましい。
【0112】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されるものではなく、たとえば、1μm~30μmの範囲に平均粒径を有する負極活物質を用いることができる。
【0113】
結着剤としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよいが、熱可塑性樹脂をもちいることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは、Na+イオンなどによる架橋体であってもよい。
【0114】
導電助剤としては、二次電池内で化学的に安定であれば、任意の電子伝導性材料を用いることができる。たとえば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケルなどの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
導電助剤の添加量としては、特に限定されるものではなく、負極合剤に含まれる負極活物質に対して、1質量%~30質量%の範囲であることが好ましく、1質量%~10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0116】
負極芯材(負極集電体)としては、二次電池内で化学的に安定であれば、任意の電子伝導体を用いることができる。たとえば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、導電性樹脂などからなる箔またはシートを用いることができ、特に、銅および銅合金の箔またはシートを用いることが好ましい。箔またはシートの表面に、カーボン、チタン、ニッケルなどの層を付与したり、酸化物層を形成したりすることもできる。また、箔またはシートの表面に凹凸を付与することもでき、ネット、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体などを用いることもできる。
【0117】
負極芯材の厚みは、特に限定されるものではなく、たとえば、1μm~500μmの範囲にある厚さを有する負極芯材を用いることができる。
【0118】
(3)非水電解液
本発明の非水電解質二次電池を構成する非水電解液としては、リチウム塩を溶解した非水溶媒を用いることが好ましい。
【0119】
非水溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類;1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンサルトン、アニソール、N-メチル-2-ピロリドンなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよいが、二種以上を混合して用いることが好ましい。なかでも、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒、あるいは、環状カーボネートと鎖状カーボネートと脂肪族カルボン酸エステルとの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0120】
リチウム塩としては、たとえば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド塩などを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、少なくともLiPF6を用いることが好ましい。
【0121】
非水溶媒中のリチウム塩濃度は、特に限定されることはないが、0.2mol/L~2mol/Lの範囲とすることが好ましく、0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲とすることがより好ましい。
【0122】
非水電解液には、電池の充放電特性を改良する目的で、種々の添加剤を添加することができる。添加剤としては、たとえば、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム、ピリジン、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、クラウンエーテル類、第四級アンモニウム塩、エチレングリコールジアルキルエーテルなどを用いることができる。
【0123】
(4)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータが介在される。セパレータとしては、大きなイオン透過度と所定の機械的強度を有し、かつ、絶縁性である微多孔性薄膜を用いることが好ましい。この微多孔性薄膜は、一定温度以上で孔を閉塞し、抵抗を上昇させる機能を有することが好ましい。また、微多孔性薄膜の材質としては、耐有機溶剤性に優れ、疎水性を有するポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましく用いられる。また、ガラス繊維などから作製されたシート、不織布、織布なども用いられる。
【0124】
セパレータの孔径は、たとえば、0.01μm~1μmの範囲とすることができる。セパレータの厚みは、通常、10μm~300μmの範囲にある。セパレータの空孔率は、通常、30%~80%の範囲にある。
【0125】
さらに、非水電解液およびこれを保持するポリマー材料からなるポリマー電解質を、セパレータとして、正極あるいは負極と一体化させて用いることもできる。このようなポリマー材料としては、非水電解液を保持することができるものであれば任意であるが、特に、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を用いることが好ましい。
【実施例】
【0126】
以下に、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されることはない。
【0127】
なお、実施例および比較例で得られたリチウムニッケル複合酸化物については、その組成の分析をICP発光分光分析法により、その炭素含有量(TC)の分析を高周波燃焼-赤外線吸収法により、および、その比表面積の測定を窒素吸着BET法により、それぞれ行った。
【0128】
また、本発明の実施例および比較例において用いた、硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム七水和物、硫酸マンガン五水和物、水酸化リチウム一水和物、アンモニア水、苛性ソーダ水溶液などについては、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[実施例1]
【0129】
以下に示す所定組成のニッケル複合化合物を調製する工程、所定組成の焼成粉末を調製する工程、および、得られた焼成粉末を水洗処理した後、乾燥する工程の一連の工程によって、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質を製造し、さらに、これを正極材料とするコイン電池を作製し、インピーダンスにて評価した。
【0130】
なお、リチウムニッケル複合酸化物を構成する金属成分のモル比が、Ni:Co:Al:Li=0.82:0.15:0.03:1.02となるようにそれぞれの原料を秤量した。
【0131】
(1)ニッケル複合化合物を調製する工程
まず、硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物、および、硫酸アルミニウムを、所望の比となるよう混合し、水溶液を調製した。この水溶液をアンモニア水および苛性ソーダ水溶液と同時に、50℃に保温された水をはった吐出口付きの攪拌反応槽中に滴下した。ここで、pHを11.5に保持し、滞留時間が11時間となるよう制御した反応晶析法により、一次粒子が凝集した二次粒子からなる球状のニッケル複合水酸化物粉末を製造した。
【0132】
(2)焼成粉末を調製する工程
得られたニッケル複合水酸化物粉末に、所望の組成になるように水酸化リチウム一水和物を加えて、Vブレンダを用いて混合した。得られた混合物を、電気炉を用いて酸素濃度30%以上の雰囲気中で、500℃で3時間仮焼した後、760℃で20時間、本焼成した。その後、室温まで炉内で冷却した後、解砕処理を行って、一次粒子が凝集した二次粒子からなる球状の焼成粉末を得た。
【0133】
(3)焼成粉末を水洗および乾燥する工程
得られた焼成粉末に20℃の純水(1.0μS/cm以下)を加えて、スラリー濃度が2000g/Lとなるように焼成粉末をスラリー化し、この焼成粉末スラリーをろ過した。この際に、焼成粉末に対して、20℃の純水を用いて掛け水処理を施した。
【0134】
ろ液の電気伝導度(導電率)を、電気伝導率計(アズワン社製、CM-21P)を用いてリアルタイム測定を行い、ろ液の導電率が45mS/cmとなるまで掛け水処理を継続し、ろ液の導電率が45mS/cmとなったことを確認した後、掛け水処理を停止し、ろ過による固液分離を十分に行った。
【0135】
ろ過後の粒子表面に残存する付着水の水分率は、5質量%であった。なお、付着水の水分率は、ニッケル複合化合物のろ過後、乾燥前の質量と乾燥後の質量とをそれぞれ測定し、乾燥前の質量と乾燥後の質量との差を、乾燥前の質量で除することにより求めることができる。取り出した粉末を150℃に加温した真空乾燥機を用いて10時間静置した。その後、得られたリチウムニッケル複合酸化物粉末の組成を、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9800)を用いたICP発光分光分析法により、炭素含有量(TC)を、炭素・硫黄分析装置(LECO社製、CS600)を用いた高周波燃焼-赤外線吸収法により、比表面積を、自動比表面積測定装置(株式会社島津製作所製、トライスターII 3020)を用いた窒素吸着BET法により、それぞれ測定した。また、該リチウムニッケル複合酸化物粉末の含有水分率について、水分気化装置(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、VA-200)およびカールフィッシャー水分測定装置(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、CA-200)を用いたカールフィッシャー法により測定した。さらに、Cu-Kα線による粉末X線回折で分析したところ、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。その結果を表2に示す。
【0136】
(4)電池の作製と評価
得られたリチウムニッケル複合酸化物を用いて、以下に示す方法で二次電池を作製し、二次電池のインピーダンスにて内部抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0137】
[電池の作製方法]
正極活物質粉末90質量部に、アセチレンブラック5質量部およびポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、n-メチルピロリドンを加えて、ペースト化した。このペーストを20μm厚のアルミニウム箔に乾燥後の正極活物質の質量が0.05g/cm2となるように塗布し、120℃で真空乾燥を行い、その後、これを直径1cmの円板状に打ち抜いて、正極とした。
【0138】
負極としてリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液を用いた。また、ポリエチレンからなるセパレータに電解液を染み込ませ、露点が-80℃に管理されたArガス雰囲気のグローブボックス中で、2032型のコイン電池を作製した。
【0139】
図1に2032型のコイン電池の概略構造を示す。ここで、コイン電池は、正極缶5中の正極(評価用電極)1、負極缶6中のリチウム金属
負極2、電解液含浸の
セパレータ3、およびガスケット4から構成される。
【0140】
[インピーダンスによる評価方法]
作製した電池は、24時間程度放置し、OCVが安定した後、正極に対する初期電流密度0.5mA/cm
2で、電圧4.0VまでCCCV充電を行い、その後、充電状態のコイン電池を用い、電圧10mV条件下で周波数10kHz~0.1Hzまで走査し、インピーダンス測定を行った。このとき使用したインピーダンス装置は、ソーラートロン社製インピーダンスアナライザ1255Bであった。なお、その結果を表2に示すが、表2に記載された内部抵抗値Rctは、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表される、
図2に示すようなナイキストプロットを得て、等価回路を用いてフィッティング計算し、第2円弧から算出したものであり、それぞれの実施例において、実施例1を100とした場合の相対値が記載されている。
【0141】
[表面リチウム量の測定]
リチウムニッケル複合酸化物粉末10gに超純水(0.058μS/cm以下)を100mlまで添加し攪拌した後、1mol/Lの塩酸で滴定し第二中和点まで測定した。塩酸で中和されたアルカリ分をリチウムニッケル複合酸化物の粉末表面のリチウムとして、滴定結果からリチウムニッケル複合酸化物に対するリチウムの質量比を求め、この値を表面リチウム量とした。その結果を表2に示す。
【0142】
[高温時ガス発生量の測定]
ガス発生量の測定は、作製した電池を充電状態において80℃の高温下において24時間放置し、電池外装体の一部をカットし、23℃においてパラフィン中で液上置換して採集したガスの体積を定量して行った。その結果を表2に示す。なお、高温時ガス発生量についても、それぞれの実施例において、実施例1を5とした場合の相対値が記載されている。
【0143】
[実施例2]
実施例1におけるニッケル複合水酸化物の代わりに、ニッケル複合化合物として、ニッケル複合水酸化物に、さらに次亜塩素酸ソーダに添加して、酸化処理を施すことで得られた、ニッケルオキシ複合水酸化物を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0144】
[実施例3]
実施例1におけるニッケル複合水酸化物の代わりに、ニッケル複合化合物として、ニッケル複合水酸化物を740℃で酸化焙焼することにより得られた、ニッケル複合酸化物を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0145】
[実施例4]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、水洗後の粉末を、60℃の窒素雰囲気中で3時間静置して乾燥させたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0146】
[実施例5]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を0℃とし、スラリー濃度を3000g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。掛け水処理の終了時におけるろ液の導電率は60mS/cmであった。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0147】
[実施例6]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、スラリー濃度を500g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。掛け水処理の終了時におけるろ液の導電率は25mS/cmであった。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0148】
[実施例7]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、スラリー濃度を800g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。掛け水処理の終了時におけるろ液の導電率は30mS/cmであった。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0149】
[実施例8]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、スラリー濃度を3000g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。掛け水処理の終了時におけるろ液の導電率は55mS/cmであった。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0150】
[実施例9]
焼成後にリチウムニッケル複合酸化物の金属成分のモル比が、Ni:Co:Al:Mg:Li=0.804:0.148:0.036:0.012:1.02となるように、原料を秤量し、硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物、硫酸アルミニウム、および硫酸マグネシウム七水和物を混合して、原料水溶液を調製したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0151】
[実施例10]
焼成後にリチウムニッケル複合酸化物の金属成分のモル比が、Ni:Co:Al:Mn:Li=0.786:0.151:0.035:0.028:1.02となるように、原料を秤量し、硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物、硫酸アルミニウム、および硫酸マンガン五水和物を混合して、原料水溶液を調製したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0152】
[実施例11]
実施例1における水酸化リチウム一水和物の代わりに、酸化リチウムを用いたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0153】
[実施例12]
本焼成の温度を700℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0154】
[実施例13]
本焼成の温度を800℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0155】
[実施例14]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を15℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0156】
[実施例15]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を30℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0157】
[実施例16]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を35℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0158】
[実施例17]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を12℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0159】
[実施例18]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を38℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0160】
[実施例19]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を10℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0161】
[実施例20]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を40℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0162】
[実施例21]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ液の導電率が60mS/cmとなった段階で掛け水を停止したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0163】
[実施例22]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ液の導電率が30mS/cmとなるまで掛け水を継続したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0164】
[実施例23]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ過後の粒子表面に残存する付着水の水分率が1質量%となるように調整したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0165】
[実施例24]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ過後の粒子表面に残存する付着水の水分率が8質量%となるように調整したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0166】
[比較例1]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を0℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0167】
[比較例2]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において焼成粉末のスラリー化および掛け水に用いた純水の温度を50℃としたこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0168】
[比較例3]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、掛け水を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0169】
[比較例4]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ液の導電率が70mS/cmとなった段階で掛け水を停止したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0170】
[比較例5]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ液の導電率が20mS/cmとなるまで掛け水を継続したこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0171】
[比較例6]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、ろ過後の付着水の水分率が12質量%なるように最終的なろ過を行ったこと以外は、実施例3と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0172】
[比較例7]
焼成粉末を水洗および乾燥する工程において、スラリー濃度を3500g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様の工程により、リチウムニッケル複合酸化物を製造した。掛け水処理の終了時におけるろ液の導電率は65mS/cmであった。なお、得られたリチウムニッケル複合酸化物は、Cu-Kα線による粉末X線回折により、リチウムニッケル複合酸化物の単相からなることが確認された。
【0173】
【0174】
【0175】
[評価]
表1および表2より、本発明の要件をすべて満たす実施例1~24では、得られた正極活物質の内部抵抗は低く、高容量であり、高温ガス発生量が少ないことが理解される。
【0176】
これに対して、比較例1では、水洗温度が低いため、水洗が十分でなく、炭素含有量(TC)が多く、かつ、表面リチウム量も多くなっている。このため、内部抵抗が大幅に上昇するとともに、高温ガス発生量も多くなっている。比較例2では、水洗温度が高いため、水洗時のリチウムの溶出が多くなり、初期放電容量が低下するとともに、結果的に炭素含有量(TC)が多く、正極活物質粒子表面に高抵抗層が形成され、電池の内部抵抗が高くなっている。比較例3では、水洗が十分でなく、炭素含有量(TC)が多く、かつ、表面リチウム量も多くなっている。このため、内部抵抗が大幅に上昇するとともに、高温ガス発生量も多くなっている。比較例4では、ろ液の導電率が高すぎて、水洗が十分でないため、炭素含有量が多く、かつ、表面リチウム量も多くなっている。このため、内部抵抗が高くなるとともに、高温ガス発生量も多くなっている。比較例5では、ろ液の導電率が低すぎて、過洗浄となっているため、水洗時のリチウムの溶出が多くなり、比表面積が本発明の範囲から外れている。このため、初期放電容量が低下するとともに、内部抵抗が高くなっている。比較例6では、ろ過後の付着水分率が高すぎるため、正極活物質の含有水分率が本発明の範囲から外れており、結果的に比表面積も本発明の範囲から外れている。このため、初期放電容量が低下するとともに、電池内部に混入する水分が多いため充放電状態での電解液の分解が起こりやすく、高温ガス発生量が多くなっている。さらに、比較例7では、水洗時のスラリー濃度が高すぎたため、水洗が十分でなく、炭素含有量(TC)が多く、かつ、表面リチウム量も多くなっている。このため、高温ガス発生量が多くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0177】
以上より明らかなように、本発明の非水電解質二次電池用の正極活物質は、内部抵抗が小さく、熱安定性に優れたリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用の正極活物質である。本発明の正極活物質を正極材料に用いることにより、高容量で安全性の高い非水電解質二次電池が得られる。本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、特に、小型電子機器分野で利用される充放電可能な二次電池として好適であるため、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0178】
1 正極(評価用電極)
2 リチウム金属負極
3 セパレータ(電解液含浸)
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶