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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】エアロゲル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
C01B33/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019546469
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036165
(87)【国際公開番号】W WO2019069406
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高安 慧
(72)【発明者】
【氏名】牧野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小暮 海斗
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-060309(JP,A)
【文献】特開2011-093744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/12-33/193
C08G 77/00-77/62
C08L 83/00-83/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランオリゴマーを酸触媒で加水分解して、前記シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを生成するゾル生成工程と、
前記ゾルを塩基触媒でゲル化して、湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、
前記湿潤ゲルを乾燥してエアロゲルを得る乾燥工程と、
を備え、
前記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が50%以上であり、
前記シランオリゴマーの重量平均分子量が200以上10000以下である、エアロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記シランオリゴマーがアルコキシ基を有し、
前記アルコキシ基の含有量が、前記シランオリゴマーの全量基準で、2質量%以上60質量%以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であって、
前記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が50%以上であり、
前記シランオリゴマーの重量平均分子量が200以上10000以下である、エアロゲル。
【請求項4】
前記シランオリゴマーがアルコキシ基を有し、
前記アルコキシ基の含有量が、前記シランオリゴマーの全量基準で2質量%以上60質量%以下である、請求項に記載のエアロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導率が小さく断熱性を有する材料としてシリカエアロゲルが知られている。シリカエアロゲルは、優れた機能性(断熱性等)、特異な光学特性、特異な電気特性などを有する機能素材として有用なものであり、例えば、シリカエアロゲルの超低誘電率特性を利用した電子基板材料、シリカエアロゲルの高断熱性を利用した断熱材料、シリカエアロゲルの超低屈折率を利用した光反射材料等に用いられている。
【0003】
このようなシリカエアロゲルを製造する方法として、アルコキシシランを加水分解し、重合して得られたゲル状化合物(アルコゲル)を、分散媒の超臨界条件下で乾燥する超臨界乾燥法が知られている(例えば特許文献1参照)。超臨界乾燥法は、アルコゲルと分散媒(乾燥に用いる溶媒)とを高圧容器中に導入し、分散媒をその臨界点以上の温度と圧力をかけて超臨界流体とすることにより、アルコゲルに含まれる溶媒を除去する方法である。しかし、超臨界乾燥法は高圧プロセスを要するため、超臨界に耐え得る特殊な装置等への設備投資が必要であり、なおかつ多くの手間と時間が必要である。
【0004】
そこで、アルコゲルを、高圧プロセスを要しない汎用的な方法を用いて乾燥する手法が提案されている。このような方法としては、例えば、ゲル原料として、モノアルキルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを特定の比率で併用することにより、得られるアルコゲルの強度を向上させ、常圧で乾燥させる方法が知られている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、このような常圧乾燥を採用する場合、アルコゲル内部の毛細管力に起因するストレスにより、ゲルが収縮する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第4402927号
【文献】特開2011-93744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の製造プロセスが抱える問題点について様々な観点からの検討が行われている一方で、上記いずれのプロセスを採用したとしても、エアロゲルを所定の形状に成形することが難しいという課題がある。例えば、上記プロセスでは、乾燥時の収縮が大きく、乾燥前の形状を維持したままエアロゲルを形成することが難しい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、乾燥時の体積収縮が少なく、成形性(例えば成膜性)に優れるエアロゲル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定のシランオリゴマーを用いた製造方法によって、エアロゲルを成形性良く形成することができることを見出した。
【0009】
本開示は、シランオリゴマーを加水分解して、上記シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを生成するゾル生成工程と、上記ゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、上記湿潤ゲルを乾燥してエアロゲルを得る乾燥工程と、を備え、上記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が50%以上である、エアロゲルの製造方法を提供する。このような製造方法では、乾燥工程における体積収縮が抑制されるため、乾燥時の湿潤ゲルの形状が十分に維持され、成形性良くエアロゲルを形成することができる。
【0010】
本開示の製造方法において、上記シランオリゴマーの重量平均分子量は、200以上10000以下であってよい。これにより、乾燥工程における体積収縮が一層抑制される。なお、本明細書中、シランオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0011】
本開示の製造方法において、上記シランオリゴマーはアルコキシ基を有していてよく、上記アルコキシ基の含有量は、上記シランオリゴマーの全量基準で2質量%以上60質量%以下であってよい。これにより、乾燥工程における体積収縮が一層抑制される。
【0012】
本開示はまた、シランオリゴマーを含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であって、上記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が50%以上である、エアロゲルを提供する。
【0013】
本開示のエアロゲルにおいて、上記シランオリゴマーの重量平均分子量は、200以上10000以下であってよい。
【0014】
本開示のエアロゲルにおいて、上記シランオリゴマーはアルコキシ基を有していてよく、上記アルコキシ基の含有量は、上記シランオリゴマーの全量基準で2質量%以上60質量%以下であってよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乾燥時の体積収縮が少なく、成形性(例えば成膜性)に優れるエアロゲル及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「A又はB」とは、A及びBのいずれか一方を含んでいればよく、両方を含んでいてもよい。本実施形態で例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
<エアロゲルの製造方法>
本実施形態に係るエアロゲルの製造方法は、シランオリゴマーを加水分解して、当該シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを生成するゾル生成工程と、ゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲルを乾燥してエアロゲルを得る乾燥工程と、を備える。この製造方法において、シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合は、50%以上である。
【0018】
このような製造方法では、特定のシランオリゴマーを用いることで乾燥工程における体積収縮が抑制されるため、乾燥時の湿潤ゲルの形状が十分に維持され、成形性良くエアロゲルを形成することができる。このため、上記製造方法によれば、例えば、膜状に成形されたエアロゲルを容易に形成することができる。
【0019】
なお、ゾルとは、ゲル化反応が生じる前の状態であって、本実施形態においては、シランオリゴマーの加水分解生成物を含むケイ素化合物が液体媒体中に溶解又は分散している状態を意味する。また、湿潤ゲルとは、液体媒体を含んでいながらも、流動性を有しない湿潤状態のゲル固形物を意味する。
【0020】
本実施形態に係るエアロゲルの製造方法は、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄(及び、必要に応じて溶媒置換)する洗浄工程を更に備えていてもよい。なお、本実施形態では、ゾル生成工程及び湿潤ゲル生成工程において適切な触媒及び溶媒を用いることで、このような洗浄工程を省略してエアロゲルを製造することができる。洗浄工程の省略により、プロセスの簡略化及びコストの削減が達成できる。
【0021】
(ゾル生成工程)
ゾル生成工程は、シランオリゴマーを加水分解して、シランオリゴマーの加水分解生成物を含むゾルを生成する工程である。
【0022】
シランオリゴマーはシランモノマーの重合体であり、複数のケイ素原子が酸素原子を介して連結された構造を有する。本明細書中、シランオリゴマーは、1分子中のケイ素原子の数が2~100個の重合体を示す。シランオリゴマーは、例えば、後述するシランモノマーの一種又は二種以上の重合体であってよく、アルキルトリアルコキシシランを含むシランモノマーの重合体であることが好ましい。
【0023】
シランオリゴマーに含まれるケイ素原子は、1個の酸素原子と結合したケイ素原子(M単位)、2個の酸素原子と結合したケイ素原子(D単位)、3個の酸素原子と結合したケイ素原子(T単位)及び4個の酸素原子と結合したケイ素原子(Q単位)に区別することができる。M単位、D単位、T単位及びQ単位としては、それぞれ以下の式(M)、(D)、(T)及び(Q)が例示できる。
【0024】
【化1】
【0025】
上記式中、Rはケイ素に結合する酸素原子以外の原子(水素原子等)又は原子団(アルキル基等)を示す。これらの単位の含有量に関する情報は、Si-NMRにより得ることができる。
【0026】
シランオリゴマーにおいて、ケイ素原子の総数に対するT単位の割合は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であり、100%であってもよい。
【0027】
シランオリゴマーは、上述の式(M)、(D)、(T)及び(Q)中のRとして、アルキル基又はアリール基を有していることが好ましい。
【0028】
アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、これらのうちメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0029】
アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0030】
シランオリゴマーは加水分解性の官能基を有しており、ゾル生成工程では、この加水分解性の官能基が加水分解されて、シラノール基が生じると考えられる。加水分解性の官能基としては、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられ、加水分解反応の反応速度の観点から、メチル基、エトキシ基が好ましい。
【0031】
加水分解性の官能基の含有量は、シランオリゴマーの全量基準で、例えば2質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、加水分解性の官能基の含有量は、シランオリゴマーの全量基準で、例えば60質量%以下であってよく、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。このようなシランオリゴマーによれば、乾燥工程における体積収縮を一層抑制でき、成形性に一層優れるエアロゲルが得られる。
【0032】
シランオリゴマーの重量平均分子量は、例えば200以上であってよく、好ましくは400以上、より好ましくは600以上である。また、シランオリゴマーの重量平均分子量は、例えば10000以下であってよく、好ましくは7000以下、より好ましくは5000以下である。このようなシランオリゴマーによれば、乾燥工程における体積収縮を一層抑制でき、成形性に一層優れるエアロゲルが得られる。なお、本明細書中、シランオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0033】
シランオリゴマーとしては市販品を用いてもよく、例えば、XR31-B1410、XC96-B0446(いずれも、モメンティブ社製)、KR-500、KR-515、X-40-9225、KC-89S(いずれも、信越化学工業株式会社製)、SR-2402、AY42-163(いずれも、東レ・ダウコーティング株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
ゾル生成工程では、シランオリゴマー以外の他のケイ素化合物を更に加水分解に供してもよい。他のケイ素化合物としては、例えば、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマーが挙げられる。加水分解性の官能基としては、シランオリゴマーが有する加水分解性の官能基として例示した基と同じ基が例示できる。縮合性の官能基としてはシラノール基が挙げられる。なお、シランモノマーは、シロキサン結合(Si-O-Si)を有さないケイ素化合物ということもできる。
【0035】
加水分解性の官能基を有するシランモノマーとしては、例えば、モノアルキルトリアルコキシシラン、モノアリールトリアルコキシシラン、モノアルキルジアルコキシシラン、モノアリールジアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン、モノアルキルモノアルコキシシラン、モノアリールモノアルコキシシラン、ジアルキルモノアルコキシシラン、ジアリールモノアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシラン、トリアリールモノアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトシシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
縮合性の官能基を有するシランモノマーとしては、例えば、シランテトラオール、メチルシラントリオール、ジメチルシランジオール、フェニルシラントリオール、フェニルメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、n-プロピルシラントリオール、ヘキシルシラントリオール、オクチルシラントリオール、デシルシラントリオール、トリフルオロプロピルシラントリオール等が挙げられる。
【0037】
シランモノマーは、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基をさらに有していてもよい。反応性基としては、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。
【0038】
加水分解性の官能基及び反応性基を有するシランモノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
縮合性の官能基及び反応性基を有するシランモノマーとしては、例えば、ビニルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルメチルシランジオール、3-メタクリロキシプロピルシラントリオール、3-メタクリロキシプロピルメチルシランジオール、3-アクリロキシプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルメチルシランジオール、N-フェニル-3-アミノプロピルシラントリオール、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルシランジオール等が挙げられる。
【0040】
また、シランモノマーは2以上のケイ素原子を有していてもよく、このようなシランモノマーとしては、ビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン等が挙げられる。
【0041】
他のケイ素化合物としては、また、加水分解性の反応基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物(但し、T単位の割合が50%未満、又は、ケイ素原子の数が100個を超える)が挙げられる。加水分解性の反応基及び縮合性の官能基としては上記と同じ基が例示できる。
【0042】
上記ポリシロキサン化合物のうち、ヒドロキシアルキル基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、後述する一般式(1)及び式(1a)で表される構造をエアロゲルの骨格中に導入することができる。
【0043】
【化2】
【0044】
式(A)中、R1aはヒドロキシアルキル基を示し、R2aはアルキレン基を示し、R3a及びR4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(A)中、2個のR1aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR2aは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(A)中、2個以上のR3aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR4aは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
式(A)中、R1aとしては炭素数が1~6のヒドロキシアルキル基等が挙げられ、当該ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、式(A)中、R2aとしては炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としてはエチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、式(A)中、R3a及びR4aとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(A)中、nは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0046】
上記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物としては、市販品を用いることができ、X-22-160AS、KF-6001、KF-6002、KF-6003等の化合物(いずれも、信越化学工業株式会社製)、XF42-B0970、Fluid OFOH 702-4%等の化合物(いずれも、モメンティブ社製)などが挙げられる。
【0047】
上記ポリシロキサン化合物のうち、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(B)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、後述する一般式(2)又は(3)で表される橋かけ部を有するラダー型構造をエアロゲルの骨格中に導入することができる。
【0048】
【化3】
【0049】
式(B)中、R1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R2b及びR3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R4b及びR5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(B)中、2個のR1bは各々同一であっても異なっていてもよく、2個のR2bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR3bは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(B)中、mが2以上の整数の場合、2個以上のR4bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR5bも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
式(B)中、R1bとしては炭素数が1~6のアルキル基、炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルキル基又はアルコキシ基としてはメチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R2b及びR3bとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R4b及びR5bとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(B)中、mは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0051】
上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物は、特開2000-26609号公報、特開2012-233110号公報等にて報告される製造方法を適宜参照して得ることができる。
【0052】
また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマー等のシリケートオリゴマーを用いることもできる。このようなシリケートオリゴマーとしては、例えば、メチルシリケート51、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれも、コルコート株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
なお、アルコキシ基は加水分解するため、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物はゾル中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物とその加水分解生成物は混在していてもよい。また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物において、分子中のアルコキシ基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
【0054】
ゾル生成工程で加水分解に供されるケイ素化合物のうち、上述のシランオリゴマーの割合は、例えば5質量%以上であってよく、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0055】
ゾル生成工程において、ケイ素化合物として上述のシランモノマーを更に用いる場合、当該シランモノマーの量は、シランオリゴマー100質量部に対して、2000質量部以下であってよく、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。また、シランモノマーの量は、シランオリゴマー100質量部に対して、例えば1質量部以上であってよく、好ましくは10質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。このような量のシランモノマーを用いることで、エアロゲルの柔軟性及び強靭性が向上し、乾燥工程における体積収縮が一層抑制されやすくなる傾向がある。
【0056】
ゾル生成工程において、ケイ素化合物として上述のポリシロキサン化合物を更に用いる場合、当該ポリシロキサン化合物の量は、シランオリゴマー100質量部に対して、100質量部以下であってよく、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。ポリシロキサン化合物の添加により、エアロゲルの柔軟性及び強靭性が向上する場合がある。
【0057】
ゾル生成工程では、例えば、溶媒中でシランオリゴマーを含むケイ素化合物を加水分解することができる。溶媒はとしては、例えば、水、又は、水及びアルコールを含む混合溶媒を用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、ゲル壁との界面張力を低減させる点で、表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールであるメタノール、エタノール、2-プロパノール等が好適である。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
洗浄工程を省略する観点からは、溶媒としては、水及びアルコールを含む混合溶媒が好ましい。このとき、水とアルコールとの混合比は特に限定されないが、例えば、水に対するアルコールの体積比(アルコール/水)は、1以上であってよく、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、上記体積比は、例えば100以下であってよく、50以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0059】
また、上記の混合溶媒には低表面張力の溶媒を更に添加することもできる。低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下のものが挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2-メチルペンタン(17.4)、3-メチルペンタン(18.1)、2-メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1-ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m-キシレン(28.7)、p-キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1-クロロプロパン(21.8)、2-クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2-ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類などが挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0060】
ゾル生成工程では、加水分解反応を促進させるため、溶媒中にさらに酸触媒を添加してもよい。
【0061】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、得られるエアロゲルの耐水性がより向上する酸触媒としては有機カルボン酸が挙げられる。当該有機カルボン酸としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。また、洗浄工程を省略する観点からは、酸触媒として酢酸、ギ酸等を用いることが好ましい。
【0062】
酸触媒の添加量は特に限定されないが、例えば、ケイ素化合物の総量100質量部に対し、0.001~10質量部とすることができる。
【0063】
ゾル生成工程では、特許第5250900号公報に示されるように、溶媒中に界面活性剤、熱加水分解性化合物等を添加することもできる。但し、洗浄工程を省略する観点からは、界面活性剤及び熱加水分解性化合物は添加しないことが望ましい。
【0064】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0065】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物などを使用できる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。
【0066】
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸等が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
【0067】
これらの界面活性剤は、後述する湿潤ゲル生成工程において、反応系中の溶媒と、成長していくシロキサン重合体との間の化学的親和性の差異を小さくし、相分離を抑制する作用をすると考えられている。なお、本実施形態では、溶媒として水及びアルコールを含む混合溶媒を用いた場合、アルコールが界面活性剤による上記効果と同様の効果を奏すると考えられ、界面活性剤を添加しなくても湿潤ゲルを好適に生成することができる。
【0068】
熱加水分解性化合物は、熱加水分解により塩基触媒を発生して、反応溶液を塩基性とし、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を促進すると考えられている。よって、この熱加水分解性化合物としては、加水分解後に反応溶液を塩基性にできる化合物であれば、特に限定されず、尿素;ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ヘキサメチレンテトラミン等の環状窒素化合物などを挙げることができる。これらの中でも、特に尿素は上記促進効果を得られ易い。
【0069】
ゾル生成工程では、熱線輻射抑制等を目的として、溶媒中にカーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等の成分を添加してもよい。また、ゾル生成工程では、後述するシリカ粒子を溶媒中に添加してもよい。
【0070】
ゾル生成工程の加水分解は、混合液中のケイ素化合物、酸触媒等の種類及び量にも左右されるが、例えば20~80℃の温度環境下で10分~24時間行ってもよく、50~60℃の温度環境下で5分~8時間行ってもよい。これにより、ケイ素化合物中の加水分解性官能基が十分に加水分解され、ケイ素化合物の加水分解生成物をより確実に得ることができる。
【0071】
ただし、溶媒中に熱加水分解性化合物を添加する場合は、ゾル生成工程の温度環境を、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制してゾルのゲル化を抑制する温度に調節してもよい。この時の温度は、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制できる温度であれば、いずれの温度であってもよい。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合は、ゾル生成工程の温度環境は0~40℃とすることができるが、10~30℃であってもよい。
【0072】
ゾル生成工程では、シランオリゴマーを含むケイ素化合物が加水分解されて、ケイ素化合物の加水分解生成物を含むゾルが生成する。当該加水分解生成物は、ケイ素化合物が有する加水分解性の官能基の一部又は全部が加水分解されたものということもできる。
【0073】
(湿潤ゲル生成工程)
湿潤ゲル生成工程は、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る工程である。本工程は、ゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る工程であってもよい。本工程では、ゲル化を促進させるため塩基触媒を用いることができる。
【0074】
塩基触媒としては、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸銅(II)、炭酸鉄(II)、炭酸銀(I)等の炭酸塩類;炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム化合物;メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩;アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類;モルホリン、N-メチルモルホリン、2-メチルモルホリン、ピペラジン及びその誘導体、ピペリジン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体等の含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲル粒子中に残存し難いため耐水性を損ない難いという点、さらには経済性の点で優れている。また、洗浄工程を省略する観点からも、塩基触媒としては水酸化アンモニウム(アンモニア水)が好ましい。上記の塩基触媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0075】
塩基触媒を用いることで、ゾル中のケイ素化合物の脱水縮合反応又は脱アルコール縮合反応を促進することができ、ゾルのゲル化をより短時間で行うことができる。また、これにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。特に、アンモニアは揮発性が高く、エアロゲル粒子中に残留し難いので、塩基触媒として水酸化アンモニウムを用いることで、より耐水性の優れたエアロゲルを得ることができる。
【0076】
塩基触媒の添加量は、ゾル生成工程で用いたケイ素化合物の総量100質量部に対し、0.1~10質量部とすることができるが、1~4質量部であってもよい。0.1質量部以上とすることにより、ゲル化をより短時間で行うことができ、10質量部以下とすることにより、耐水性の低下をより抑制することができる。
【0077】
湿潤ゲル生成工程におけるゾルのゲル化は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。ゲル化温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。ゲル化温度を30℃以上とすることにより、ゲル化をより短時間に行うことができ、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。また、ゲル化温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0078】
湿潤ゲル生成工程における熟成は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。熟成により、湿潤ゲルを構成する成分の結合が強くなり、その結果、乾燥時の収縮を抑制するのに十分な強度(剛性)の高い湿潤ゲルを得ることができる。熟成温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。熟成温度を30℃以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、熟成温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0079】
なお、ゾルのゲル化終了時点を判別することは困難な場合が多いため、ゾルのゲル化とその後の熟成とは、連続して一連の操作で行ってもよい。
【0080】
ゲル化時間と熟成時間は、ゲル化温度及び熟成温度により適宜設定することができる。ゲル化時間は10~120分間とすることができるが、20~90分間であってもよい。ゲル化時間を10分間以上とすることにより均質な湿潤ゲルを得易くなり、120分間以下とすることにより後述する洗浄工程から乾燥工程の簡略化が可能となる。なお、ゲル化及び熟成の工程全体として、ゲル化時間と熟成時間との合計時間は、4~480時間とすることができるが、6~120時間であってもよい。ゲル化時間と熟成時間の合計を4時間以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、480時間以下にすることにより熟成の効果をより維持し易くなる。
【0081】
得られるエアロゲル粒子の密度を下げたり、平均細孔径を大きくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で高めたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で長くしてもよい。また、得られるエアロゲルの密度を上げたり、平均細孔径を小さくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で低くしたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で短くしてもよい。
【0082】
(洗浄工程)
洗浄工程は、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄する工程である。洗浄工程では、湿潤ゲル中の洗浄液を乾燥条件(後述の乾燥工程)に適した溶媒に置換する溶媒置換を更に行ってもよい。
【0083】
洗浄工程では、湿潤ゲル生成工程により得られた湿潤ゲルを洗浄する。当該洗浄は、例えば水又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0084】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0085】
溶媒置換では、乾燥によるゲルの収縮を抑制するため、低表面張力の溶媒を用いることができる。しかし、低表面張力の溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、溶媒置換において低表面張力の溶媒を用いる場合、洗浄に用いる有機溶媒としては、水及び低表面張力の溶媒の双方に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が挙げられる。なお、洗浄において用いられる親水性有機溶媒は、溶媒置換のための予備置換の役割を果たすことができる。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れている。
【0086】
洗浄に使用される水又は有機溶媒の量としては、湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換し、洗浄できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。
【0087】
洗浄における温度環境は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0088】
溶媒置換では、乾燥工程におけるエアロゲルの収縮を抑制するため、洗浄した湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える。この際、加温することにより置換効率を向上させることができる。置換用溶媒としては、具体的には、乾燥工程において、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥する場合は、後述の低表面張力の溶媒が挙げられる。一方、超臨界乾燥をする場合は、置換用溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジクロロジフルオロメタン、二酸化炭素等、又はこれらを2種以上混合した溶媒が挙げられる。
【0089】
低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下の溶媒が挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2-メチルペンタン(17.4)、3-メチルペンタン(18.1)、2-メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1-ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m-キシレン(28.7)、p-キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1-クロロプロパン(21.8)、2-クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2-ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類などが挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。また、これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン等の親水性有機溶媒を用いることで、洗浄時の有機溶媒と兼用することができる。なお、これらの中でも、さらに後述する乾燥工程における乾燥が容易な点で、常圧での沸点が100℃以下の溶媒を用いてもよい。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0090】
溶媒置換に使用される溶媒の量としては、洗浄後の湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。
【0091】
溶媒置換における温度環境は、置換に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、ヘプタンを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0092】
本実施形態では、例えば、酸触媒として酢酸、ギ酸、プロピオン酸からなる群より選択される有機カルボン酸、溶媒として水及びアルコール(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-プロパノール、t-ブタノール等)を含む混合溶媒、塩基触媒として水酸化アンモニウムをそれぞれ選択することで、洗浄工程を省略できる。洗浄工程を省略した場合は、例えば、湿潤ゲル生成工程で得た湿潤ゲル中の溶媒を、乾燥工程で除去することにより、エアロゲルが製造される。
【0093】
(乾燥工程)
乾燥工程では、(必要に応じて洗浄工程を経た)湿潤ゲルを乾燥させることにより、エアロゲルを得ることができる。すなわち、上記ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなるエアロゲルを得ることができる。
【0094】
乾燥の手法としては特に制限されず、公知の常圧乾燥、超臨界乾燥又は凍結乾燥を用いることができる。これらの中で、低密度のエアロゲルを製造し易いという観点からは、凍結乾燥又は超臨界乾燥を用いることができる。また、低コストで生産可能という観点からは、常圧乾燥を用いることができる。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0095】
エアロゲルは、湿潤ゲルを、湿潤ゲル中の溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥することにより得ることができる。乾燥温度は、湿潤ゲル中の溶媒の種類により異なるが、特に高温での乾燥が溶媒の蒸発速度を速め、ゲルに大きな亀裂を生じさせる場合があるという点に鑑み、20~180℃とすることができる。なお、当該乾燥温度は60~120℃であってもよい。また、乾燥時間は、湿潤ゲルの容量及び乾燥温度により異なるが、4~120時間とすることができる。なお、生産性を阻害しない範囲内において臨界点未満の圧力をかけて乾燥を早めることも、常圧乾燥に包含されるものとする。
【0096】
エアロゲルは、また、湿潤ゲルを超臨界乾燥することによっても得ることができる。超臨界乾燥は、公知の手法にて行うことができる。超臨界乾燥する方法としては、例えば、湿潤ゲルに含まれる溶媒の臨界点以上の温度及び圧力にて溶媒を除去する方法が挙げられる。あるいは、超臨界乾燥する方法としては、湿潤ゲルを、液化二酸化炭素中に、例えば、20~25℃、5~20MPa程度の条件で浸漬することで、湿潤ゲルに含まれる溶媒の全部又は一部を当該溶媒より臨界点の低い二酸化炭素に置換した後、二酸化炭素を単独で、又は二酸化炭素及び溶媒の混合物を除去する方法が挙げられる。
【0097】
このような常圧乾燥又は超臨界乾燥により得られたエアロゲルは、さらに常圧下にて、105~200℃で0.5~2時間程度追加乾燥してもよい。これにより、密度が低く、小さな細孔を有するエアロゲルをさらに得易くなる。追加乾燥は、常圧下にて、150~200℃で行ってもよい。
【0098】
本実施形態に係る製造方法では、湿潤ゲルを所望の形状に成形してから、乾燥工程を実施してもよい。例えば、湿潤ゲルをミキサー等で粉砕してから乾燥工程を実施することで、粒状のエアロゲルを得ることができる。本実施形態に係る製造方法では、乾燥工程で得られたエアロゲルを成形する工程を更に備えていてもよい。例えば、乾燥工程で得られたエアロゲルを粉砕することで、粒状のエアロゲルを得ることができる。
【0099】
<エアロゲル>
本実施形態に係るエアロゲルは、シランオリゴマーを含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物である。本実施形態に係るエアロゲルは、例えば、上述の製造方法によって得られたものであってよい。
【0100】
狭義には、湿潤ゲルに対して超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲルをエアロゲル、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲルをキセロゲル、凍結乾燥により得られた乾燥ゲルをクライオゲルと称するが、本実施形態においては、湿潤ゲルのこれらの乾燥手法によらず、得られた低密度の乾燥ゲルを「エアロゲル」と称する。すなわち、本実施形態において、「エアロゲル」とは、広義のエアロゲルである「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas(分散相が気体である微多孔性固体から構成されるゲル)」を意味する。一般的に、エアロゲルの内部は、網目状の微細構造を有しており、2~20nm程度の粒子状のエアロゲル成分が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、エアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造が形成されている。なお、本実施形態に係るエアロゲルは、例えば、シリカを主成分とするシリカエアロゲルである。シリカエアロゲルとしては、例えば、有機基(メチル基等)又は有機鎖を導入した、いわゆる有機-無機ハイブリッド化されたシリカエアロゲルが挙げられる。
【0101】
本実施形態に係るエアロゲルとしては、以下の態様が挙げられる。これらの態様を採用することにより、断熱性、難燃性、耐熱性及び柔軟性に優れるエアロゲルを得ることが容易となる。各々の態様を採用することで、各々の態様に応じた断熱性、難燃性、耐熱性及び柔軟性を有するエアロゲルを得ることができる。
【0102】
(第一の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、下記一般式(1)で表される構造を有することができる。本実施形態に係るエアロゲルは、式(1)で表される構造を含む構造として、下記一般式(1a)で表される構造を有することができる。
【化4】
【化5】
【0103】
式(1)及び式(1a)中、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキレン基を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。なお、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。pは1~50の整数を示す。式(1a)中、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよい。式(1a)中、2個のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個のRは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
上記式(1)又は式(1a)で表される構造をエアロゲル成分としてエアロゲルの骨格中に導入することにより、低熱伝導率かつ柔軟なエアロゲルとなる。このような観点から、式(1)及び式(1a)中、R及びRとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(1a)中、R及びRとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としてはエチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(1a)中、pは2~30とすることができ、5~20であってもよい。
【0105】
(第二の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、かつ橋かけ部が下記一般式(2)で表される構造を有することができる。このようなラダー型構造をエアロゲル成分としてエアロゲルの骨格中に導入することにより、耐熱性と機械的強度を向上させることができる。なお、本実施形態において「ラダー型構造」とは、2本の支柱部(struts)と支柱部同士を連結する橋かけ部(bridges)とを有するもの(いわゆる「梯子」の形態を有するもの)である。本態様において、エアロゲルの骨格がラダー型構造からなっていてもよいが、エアロゲルが部分的にラダー型構造を有していてもよい。
【化6】
【0106】
式(2)中、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(2)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のRも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0107】
上記の構造をエアロゲル成分としてエアロゲルの骨格中に導入することにより、例えば、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有する(すなわち、下記一般式(X)で表される構造を有する)エアロゲルよりも優れた柔軟性を有するエアロゲルとなる。シルセスキオキサンは、組成式:(RSiO1.5を有するポリシロキサンであり、カゴ型、ラダー型、ランダム型等の種々の骨格構造を有することができる。なお、下記一般式(X)にて示すように、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有するエアロゲルでは、橋かけ部の構造が-O-であるが、本実施形態に係るエアロゲルでは、橋かけ部の構造が上記一般式(2)で表される構造(ポリシロキサン構造)である。ただし、本態様のエアロゲルは、一般式(2)で表される構造に加え、さらにシルセスキオキサンに由来する構造を有していてもよい。
【化7】
【0108】
式(X)中、Rはヒドロキシ基、アルキル基又はアリール基を示す。
【0109】
支柱部となる構造及びその鎖長、並びに橋かけ部となる構造の間隔は特に限定されないが、耐熱性と機械的強度とをより向上させるという観点から、ラダー型構造としては、下記一般式(3)で表されるラダー型構造を有していてもよい。
【化8】
【0110】
式(3)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(3)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のRも各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(3)中、aが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよく、同様にcが2以上の整数の場合、2個以上のRは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0111】
なお、より優れた柔軟性を得る観点から、式(2)及び(3)中、R、R、R及びR(ただし、R及びRは式(3)中のみ)としてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(3)中、a及びcは、それぞれ独立に6~2000とすることができるが、10~1000であってもよい。また、式(2)及び(3)中、bは、2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0112】
(第三の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、さらに強靱化する観点並びにさらに優れた断熱性及び柔軟性を達成する観点から、エアロゲル成分に加え、さらにシリカ粒子を含有していてもよい。エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有するエアロゲルを、エアロゲル複合体ということもできる。エアロゲル複合体は、エアロゲル成分とシリカ粒子とが複合化されていながらも、エアロゲルの特徴であるクラスター構造を有しており、三次元的に微細な多孔性の構造を有していると考えられる。
【0113】
エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有するエアロゲルは、上述のシランオリゴマーを含むケイ素化合物の加水分解生成物と、シリカ粒子と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物ということができる。したがって、第一の態様~第二の態様に関する記載は、本態様に係るエアロゲルに対しても適宜準用することができる。
【0114】
シリカ粒子としては、特に制限なく用いることができ、非晶質シリカ粒子等が挙げられる。非晶質シリカ粒子としては、溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子、コロイダルシリカ粒子等が挙げられる。これらのうち、コロイダルシリカ粒子は単分散性が高く、ゾル中での凝集を抑制し易い。なお、シリカ粒子としては、中空構造、多孔質構造等を有するシリカ粒子であってもよい。
【0115】
シリカ粒子の形状は特に制限されず、球状、繭型、会合型等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子として球状の粒子を用いることにより、ゾル中での凝集を抑制し易くなる。シリカ粒子の平均一次粒子径は、適度な強度及び柔軟性をエアロゲルに付与し易く、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルが得易い観点から、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、シリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の平均一次粒子径は、1~500nmであってもよく、5~300nmであってもよく、20~100nmであってもよい。
【0116】
本実施形態において、エアロゲル成分の平均粒子径及びシリカ粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記する。)を用いてエアロゲルを直接観察することにより得ることができる。ここでいう「直径」とは、エアロゲルの断面に露出した粒子の断面を円とみなした場合の直径を意味する。また、「断面を円とみなした場合の直径」とは、断面の面積を同じ面積の真円に置き換えたときの当該真円の直径のことである。なお、平均粒子径の算出に当たっては、100個の粒子について円の直径を求め、その平均を取るものとする。
【0117】
なお、シリカ粒子の平均粒子径は、原料からも測定することができる。例えば、二軸平均一次粒子径は、任意の粒子20個をSEMにより観察した結果から、次のようにして算出される。すなわち、通常固形分濃度が5~40質量%程度で、水中に分散しているコロイダルシリカ粒子を例にすると、コロイダルシリカ粒子の分散液に、パターン配線付きウエハを2cm角に切って得られたチップを約30秒浸した後、当該チップを純水にて約30秒間すすぎ、窒素ブロー乾燥する。その後、チップをSEM観察用の試料台に載せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察し、画像を撮影する。得られた画像から20個のシリカ粒子を任意に選択し、それらの粒子の粒子径の平均を平均粒子径とする。
【0118】
シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、耐収縮性に優れるエアロゲルを得易くなる観点から、10×1018個/g以上であってもよく、50×1018個/g以上であってもよく、100×1018個/g以上であってもよい。シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、均質なエアロゲルが得易くなる観点から、1000×1018個/g以下であってもよく、800×1018個/g以下であってもよく、700×1018個/g以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、10×1018~1000×1018個/gであってもよく、50×1018~800×1018個/gであってもよく、100×1018~700×1018個/gであってもよい。
【0119】
上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、良好な反応性をさらに得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよい。上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、良好な相溶性をさらに得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。これらの観点から、上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、5~50質量部であってもよく、10~30質量部であってもよい。
【0120】
上記ゾルにシリカ粒子が含まれる場合、シリカ粒子の含有量は、適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、1質量部以上であってもよく、4質量部以上であってもよい。シリカ粒子の含有量は、シリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、1~20質量部であってもよく、4~15質量部であってもよい。
【0121】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0122】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0123】
(実施例1)
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を50質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を100質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.1質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を80質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後、得られた湿潤ゲルを、常圧下にて、25℃で72時間乾燥し、その後150℃で2時間乾燥することで、エアロゲルを得た。
【0124】
(実施例2)
シランオリゴマーとして「SR-2402」(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0125】
(実施例3)
シランオリゴマーとして「AY42-163」(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0126】
(実施例4)
シランオリゴマーとして「KC-89S」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、2-プロパノールを200質量部、及び、水を50質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.15質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を60質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0127】
(実施例5)
シランオリゴマーとして「KR-500」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を100質量部、2-プロパノールを250質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.15質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を90質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0128】
(実施例6)
シランオリゴマーとして「KR-515」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を20質量部、ジメチルジエトキシシラン「KBE-22」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「DMDES」と略記)を20質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.12質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を90質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0129】
(実施例7)
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、ジメチルジエトキシシラン「KBE-22」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「DMDES」と略記)を70質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.1質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を80質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0130】
(実施例8)
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「MTMS」と略記)を200質量部、テトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を50質量部、2-プロパノールを800質量部、及び、水を200質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.5質量部加え、25℃で4時間反応させてゾルを得た。得られたゾルに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を200質量部加え、60℃で1時間ゲル化した後、60℃で48時間熟成して湿潤ゲルを得た。その後は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0131】
(比較例1)
シランオリゴマーに代えて、シランモノマーであるメチルトリメトキシシラン「KBM-13」(信越化学工業株式会社製、製品名:以下「MTMS」と略記)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0132】
(比較例2)
シランオリゴマーに代えて、「メチルシリケート51」(T単位を有さず、Q単位のみで構成されたシランオリゴマー、コルコート株式会社製、製品名)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを作製した。
【0133】
[各種評価]
各実施例及び比較例で得られたエアロゲルについて、以下の条件に従って外観観察、体積収縮率測定、密度測定及び熱伝導率測定を行い、評価した。評価結果を表1に示す。
【0134】
(1)外観の評価
得られたエアロゲルにおいて、湿潤ゲルと同様の形状を保っているものを「A」とし、クラック等で形状が保たれていないものを「C」とした。
【0135】
(2)体積収縮率
得られたエアロゲルにおいて、下記の式により体積収縮率を算出した。体積収縮率が20%未満のものを「A」、20%以上のものを「C」とした。
体積収縮率[%]=[(乾燥ゲルの体積)/(湿潤ゲルの体積)]×100
【0136】
(3)密度
水中置換法に従い、電子比重計(アルファミラージュ株式会社製、製品名SD-200L)を用いてエアロゲルの密度を測定した。
【0137】
(4)熱伝導率測定
刃角約20~25度の刃を用いて、エアロゲルを150×150×100mmのサイズに加工し、測定サンプルとした。次に、面の平行を確保するために、必要に応じて#1500以上の紙やすりで整形した。得られた測定サンプルを、熱伝導率測定前に、定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用いて、大気圧下、100℃で30分間乾燥した。次いで測定サンプルをデシケータ中に移し、25℃まで冷却した。
【0138】
熱伝導率の測定は、定常法熱伝導率測定装置「HFM436Lambda」(NETZSCH社製、製品名)を用いて行った。測定条件は、大気圧下、平均温度25℃とした。上記の通り得られた測定サンプルを0.3MPaの荷重にて上部及び下部ヒーター間に挟み、温度差ΔTを20℃とし、ガードヒーターによって一次元の熱流になるように調整しながら、測定サンプルの上面温度、下面温度等を測定した。そして、測定サンプルの熱抵抗RSを次式より求めた。
=N((T-T)/Q)-R
式中、Tは測定サンプル上面温度を示し、Tは測定サンプル下面温度を示し、Rは上下界面の接触熱抵抗を示し、Qは熱流束計出力を示す。なお、Nは比例係数であり、較正試料を用いて予め求めておいた。
【0139】
得られた熱抵抗Rより、測定サンプルの熱伝導率λを次式より求めた。
λ=d/R
式中、dは測定サンプルの厚さを示す。
【0140】
【表1】
【0141】
比較例1及び2では、乾燥時における湿潤ゲルの体積収縮が大きく、乾燥前の湿潤ゲルの形状が崩れ、クラック等が生じた。これに対して実施例では、乾燥時における湿潤ゲルの体積収縮が十分に抑制され、乾燥前の湿潤ゲルの形状に基づく良好な外観のエアロゲルが得られた。また、実施例のエアロゲルは密度が低く、熱伝導率が低く、断熱性に優れることが確認された。