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  • 特許-シリコンウェーハのエッチング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】シリコンウェーハのエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
H01L21/306 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020092152
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021190492
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2021-11-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大西 邦明
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-120819(JP,A)
【文献】特開平10-209102(JP,A)
【文献】特開2002-222789(JP,A)
【文献】特開平10-270414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面又は裏面に供給ノズルを通して酸エッチング液を供給しながら、前記シリコンウェーハを回転させることで、前記酸エッチング液の供給範囲を前記シリコンウェーハの表面又は裏面の全面に拡大して酸エッチングを行うスピンエッチング工程を含むシリコンウェーハのエッチング方法であって、
前記シリコンウェーハの回転を開始する前に、前記供給ノズルから供給される前記酸エッチング液が前記供給ノズルの直下で前記シリコンウェーハの表面に衝突する衝突噴流域内に、少なくとも弗酸及び硝酸を含む混酸を滴下して、前記衝突噴流域を前記混酸で覆った後に、前記混酸を供給しない状態で前記シリコンウェーハの回転を開始して前記スピンエッチング工程を行うことを特徴とするシリコンウェーハのエッチング方法。
【請求項2】
前記衝突噴流域は、前記供給ノズルの内径の0.8倍以上、1.6倍以下の直径を有する円形領域であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハのエッチング方法。
【請求項3】
前記シリコンウェーハの回転を開始する前に滴下する混酸の液量を20~50mLとすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンウェーハのエッチング方法。
【請求項4】
前記衝突噴流域内に前記混酸を滴下した後、1秒以上、2秒以下の時間が経過する間に、前記シリコンウェーハの回転を開始して酸エッチングを行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハのエッチング方法。
【請求項5】
前記酸エッチング液として、弗酸及び硝酸を含む混合液、又は、該混合液に酢酸、燐酸、硫酸のいずれか1つ以上を加えた混合液を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハのエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンエッチングによるシリコンウェーハのエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの製造工程において、単結晶インゴットの状態から薄くスライスされたウェーハは、面取り加工と研削加工を経て平坦化を行うのが一般的である。この際、ウェーハの表裏面には、上記加工に起因する大小様々なキズや加工歪みが導入され、これらが後工程で顕在化すると重大な品質上の問題になり得る。
【0003】
そこで、通常はエッチング処理を行って、これらのキズや加工歪を除去する。エッチング方法としては、複数のウェーハの表裏面を同時に処理するバッチ方式や、枚葉でウェーハの表面と裏面を順に処理するスピンエッチング方式が知られている(特許文献1参照)。また、目的に応じて、酸エッチング液で処理する場合とアルカリエッチング液で処理する場合の2通りの手段があり、例えば酸エッチングの場合では、適宜濃度を調節した弗酸と硝酸等を含んだ混酸を用いるのが一般的である。
【0004】
特許文献2には、ウェーハの薄層化のための均一なエッチングと、目的とする均一な粗面化とを同時に達成可能な半導体ウェーハのエッチング方法として、弗酸と硝酸とを主成分とするエッチング液を、水平に保持されたシリコンウェーハ上にその上全面を覆うまで供給した後、該エッチング液の供給を停止し、該シリコンウェーハを静置した状態でエッチング反応を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-53178号公報
【文献】特開2001-93876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコンウェーハを従来のスピンエッチング方式で酸エッチングしようとすると、供給ノズルから供給される酸エッチング液が供給ノズルの直下でシリコンウェーハの表面に衝突する領域(以下、「衝突噴流域」という)でのエッチング速度が遅くなることで、ウェーハ全体のエッチング取代のPV(Peak to Valley)が悪化し、その結果、エッチング後のウェーハ面内のTTV(Total Thickness Variation)が悪化するという問題があることがわかった。このような問題は、ウェーハ表層に加工残留応力(シリコン表面近傍の歪)がほとんど存在しないポリッシュドウェーハ(以下、「PW」ということもある)などの場合に、加工残留応力が多い研削面などと比べてより顕著である。また、酸エッチング液の処理したシリコンウェーハの枚数が多くなる(ライフが長くなる)につれて顕著となる。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、スピンエッチング方式のエッチングにおいて、衝突噴流域におけるエッチング速度を速くでき、エッチング取代のPVの悪化、エッチング後のウェーハ面内のTTVの悪化を抑制可能なシリコンウェーハのエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコンウェーハの表面又は裏面に供給ノズルを通して酸エッチング液を供給しながら、前記シリコンウェーハを回転させることで、前記酸エッチング液の供給範囲を前記シリコンウェーハの表面又は裏面の全面に拡大して酸エッチングを行うスピンエッチング工程を含むシリコンウェーハのエッチング方法であって、前記シリコンウェーハの回転を開始する前に、前記供給ノズルから供給される前記酸エッチング液が前記供給ノズルの直下で前記シリコンウェーハの表面に衝突する衝突噴流域内に、少なくとも弗酸及び硝酸を含む混酸を滴下して、前記衝突噴流域を前記混酸で覆った後に、前記シリコンウェーハの回転を開始して前記スピンエッチング工程を行うことをシリコンウェーハのエッチング方法を提供する。
【0009】
このようなシリコンウェーハのエッチング方法によれば、衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることが可能となるため、エッチング取代のPVの悪化を抑制でき、その結果、エッチング後のウェーハ面内のTTVの悪化を抑制することができる。
【0010】
このとき、前記衝突噴流域は、前記供給ノズルの内径の0.8倍以上、1.6倍以下の直径を有する円形領域とすることができる。
【0011】
このような衝突噴流域を混酸で覆うことで、より効果的に衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることができる。
【0012】
このとき、前記シリコンウェーハの回転を開始する前に滴下する混酸の液量を20~50mLとすることができる。
【0013】
これにより、より安定して衝突噴流域内だけを混酸で覆うことができ、より効果的に衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることができる。
【0014】
このとき、前記衝突噴流域内に前記混酸を滴下した後、1秒以上、2秒以下の時間が経過する間に、前記シリコンウェーハの回転を開始して酸エッチングを行うことができる。
【0015】
これにより、酸化過程で寄与する亜硝酸イオンの量の発生量をより十分な量とでき、しかも面荒れの懸念もないため、より効果的に衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることができる。
【0016】
このとき、前記酸エッチング液として、弗酸及び硝酸を含む混合液、又は、該混合液に酢酸、燐酸、硫酸のいずれか1つ以上を加えた混合液を用いるシリコンウェーハのエッチング方法とすることができる。
【0017】
これにより、より効率的な酸エッチングを行うことができ、さらに、衝突噴流域におけるエッチング速度をより速くすることができる。また、このような酸エッチング液を用いた場合、酸エッチング液を上記混酸として兼用可能となるため、エッチング装置を簡略化でき好適である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のシリコンウェーハのエッチング方法によれば、ノズル直下の衝突噴流域のエッチング速度を全体的に速くすることができ、エッチング後のウェーハ面内のTTV値を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るエッチング方法で使用可能なエッチング装置の模式図を示す。
図2】実施例における、エッチング後のTTVと酸エッチング液中のSi溶解量の関係を示す。
図3】比較例における、エッチング後のTTVと酸エッチング液中のSi溶解量の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
上述のように、シリコンウェーハをスピンエッチング方式でエッチングする場合に、衝突噴流域におけるエッチング速度を速くでき、エッチング取代のPVの悪化、エッチング後のウェーハ面内のTTVの悪化を抑制可能なシリコンウェーハのエッチング方法が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、シリコンウェーハの表面又は裏面に供給ノズルを通して酸エッチング液を供給しながら、前記シリコンウェーハを回転させることで、前記酸エッチング液の供給範囲を前記シリコンウェーハの表面又は裏面の全面に拡大して酸エッチングを行うスピンエッチング工程を含むシリコンウェーハのエッチング方法であって、前記シリコンウェーハの回転を開始する前に、前記供給ノズルから供給される前記酸エッチング液が前記供給ノズルの直下で前記シリコンウェーハの表面に衝突する衝突噴流域内に、少なくとも弗酸及び硝酸を含む混酸を滴下して、前記衝突噴流域を前記混酸で覆った後に、前記シリコンウェーハの回転を開始して前記スピンエッチング工程を行うシリコンウェーハのエッチング方法により、衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることができ、その結果、エッチング取代のPVの悪化及びエッチング後のウェーハ面内のTTVの悪化を抑制可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
本発明者は、スピンエッチング方式を用いてシリコンウェーハのエッチングを行う場合に、ウェーハの衝突噴流域でのエッチング速度が遅くなる傾向があること、それにより、エッチング取代のPVが悪化し、エッチング後のウェーハ面内のTTVが悪化することを見出した。このような問題は、スピンエッチングにおける酸エッチングで消費される反応エネルギーに寄与する表面ポテンシャルエネルギーが小さいことと、さらに、ノズル直下ではエッチング液の径方向に対する流速が低流速となることの相乗効果によるものと考えられる。
【0024】
そこで本発明者は、シリコンウェーハの酸エッチングでは、酸化過程で寄与する亜硝酸イオンが多いほどエッチング速度が速くなることに着目し、あらかじめウェーハ表面の特定の位置に亜硝酸イオンを生じせしめ、そこに酸エッチング液を供給することができれば、その特定の位置のエッチング速度の上昇が期待できること、さらに、亜硝酸イオンは、窒素酸化物から自己触媒的に生成されるものを利用するのが、最も簡便かつ効率的であることを見出した。なお、このような現象は、一定値以上の弗酸濃度の混酸を酸エッチング液として使用する場合に、より顕著となる。
【0025】
本発明者は、シリコンウェーハの表面又は裏面に酸エッチング液を供給しながら、シリコンウェーハを回転させて酸エッチングを行う場合に、酸エッチングを開始する直前、シリコンウェーハの回転を始める前に、ノズル直下の衝突噴流域内に少なくとも弗酸及び硝酸を含む混酸を滴下して衝突噴流域を混酸で覆い、混酸とシリコンウェーハのエッチング反応によって生じる窒素酸化物から亜硝酸イオンを生じせしめ、その後にスピン回転開始と共にノズルからエッチング液を連続供給すれば、ノズル直下の衝突噴流域でのエッチング速度が上昇することを見出し、本発明を完成した。
【0026】
以下、本発明に係るシリコンウェーハのエッチング方法の一実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0027】
本発明に係るシリコンウェーハのエッチング方法は、一般的なスピンエッチング方式で用いられるエッチング装置を使用することができる。図1に、本発明に係るエッチング方法で使用可能なエッチング装置の模式図を示す。具体的には、三益半導体工業株式会社製のスピンエッチャーMSE-7000EL-MHを用いることができる。
【0028】
一般的に、エッチング装置100は、エッチング処理を行う処理部に、真空吸着ステージ2と供給ノズル3を具備することができる。また、エッチング液や水などを供給する薬液供給部には、混酸タンク5、酸エッチング液タンク6、給水源7と、混酸タンク5、エッチング液タンク6、給水源7から処理部へ混酸10、酸エッチング液8、水9を送液する図示しない送液ポンプを具備することができる。ここで、混酸10は、少なくとも弗酸及び硝酸を含むものである。また、酸エッチング液8には、通常、シリコンが溶解している。これは、スピンエッチング方式によるシリコンウェーハの酸エッチングでは、使用した酸エッチング液を回収し、再度酸エッチング液として用いるためであり、シリコンウェーハのエッチング枚数に応じて酸エッチング液に含まれるSi溶解量が増加するためである。なお、後述するように、混酸10と酸エッチング液8を同じ薬液とすることもでき、このような場合には、混酸タンク5を設けなくてもよい。
【0029】
シリコンウェーハ1は、表面又は裏面を上にして真空吸着ステージ2の中心に水平に設置され、真空源4に連結した真空吸着ステージ2上に真空吸着で保持することができる。但し、シリコンウェーハの保持は真空吸着以外の方法でもよい。
【0030】
真空吸着ステージ2は、ステージ下方にある図示しないθ軸モータ及びθスピンドル等による回転ユニットによって、真空吸着ステージ2の中心を回転軸として図のθ方向に回転することができる。
【0031】
次に、図1に示したエッチング装置100を用いた場合を例に、本発明に係るシリコンウェーハのエッチング方法を説明する。なお、本発明に係るエッチングの対象となるシリコンウェーハは特に限定されない。従来のスピンエッチング方式でエッチングを行った場合の衝突噴流域でのエッチング速度の低下は、加工残留応力が多い研削面を有するシリコンウェーハに比べて、ウェーハ表層に加工残留応力がほとんど存在しないPWなどの場合により顕著であるため、PWの処理に適用することが好ましい。
【0032】
本発明のシリコンウェーハのエッチング方法は、シリコンウェーハの表面又は裏面へ供給ノズル3を通してエッチング液タンク6に保存された酸エッチング液8を供給しながら、シリコンウェーハを回転させて酸エッチング液の供給範囲をシリコンウェーハ1の全面に拡大して、酸エッチングを行うスピンエッチング工程を含む。そして、本発明に係るシリコンウェーハのエッチング方法では、このエッチング工程に先立って、次に述べる処理を行う。
【0033】
スピンエッチング工程でシリコンウェーハの回転を開始する前に、供給ノズル3から供給される酸エッチング液8が供給ノズル3の直下でシリコンウェーハ1の表面に衝突する衝突噴流域20内に、少なくとも弗酸及び硝酸を含む混酸10を滴下して、衝突噴流域20を混酸10で覆う。
【0034】
ここで、衝突噴流域20は、供給ノズル3の内径の0.8倍以上、1.6倍以下の直径を有する円形領域とすることができる。具体的には、例えば供給ノズル3の内径が25mmの場合は、衝突噴流域20を直径が20~40mmの円形領域とすることができる。このような衝突噴流域を混酸で覆うことで、より効果的に衝突噴流域におけるエッチング速度を速くすることができる。なお、供給ノズル3の内径はエッチング対象のシリコンウェーハの径などに応じて適宜選択できるが、例えば、10~50mmとすることができる。
【0035】
ここで、衝突噴流域とは、供給ノズルから噴射されて供給される酸エッチング液が、直接シリコンウェーハの表面に衝突する領域のことを言い、この領域の直径は、供給ノズルの噴射口の形状等により、供給ノズルの内径と同じにも、大きくも、小さくもできる。すなわち、噴射するエッチング液を、噴射方向の径が一定の直流状、徐々に拡大、徐々に縮小となるように供給することができる。
【0036】
また、滴下する混酸の液量は、20~50mLとすることが好ましい。このような量であれば、十分により安定して衝突噴流域20内だけを混酸10で覆うことができるため、スピンエッチング工程の酸エッチングにおける衝突噴流域20でのエッチング速度をより効果的に速くすることができる。
【0037】
次に、スピンエッチング工程が行われるが、衝突噴流域20内に混酸を滴下した後、1秒以上、2秒以下の時間が経過する間に、シリコンウェーハの回転を開始して酸エッチングを行うスピンエッチング工程に入ることが好ましい。シリコンウェーハの回転を開始するまでの時間を1秒以上とすれば、窒素酸化物から自己触媒的に生成される亜硝酸イオンを十分に生成することができ、2秒以下とすれば、生産性を低下させることなく、また、シリコンと混酸の反応が進みすぎることによる面荒れなどもより有効に抑制できる。
【0038】
次に、スピンエッチング工程の例について、詳細に説明する。シリコンウェーハの回転を開始し所定の回転数となったら、真空吸着ステージ2の上方にある供給ノズル3にエッチング液タンク6から酸エッチング液8を供給し、真空吸着ステージ2の上に保持され回転しているシリコンウェーハ1の上に酸エッチング液8を供給する。シリコンウェーハ1の上に供給された酸エッチング液8は、シリコンウェーハ1の回転に倣ってシリコンウェーハ1の上を移動し、シリコンウェーハ1の外周部から液滴11となってウェーハ上から排出される。所定のエッチング取代を満たした後、エッチング加工が終了したらエッチング液タンク6からの酸エッチング液8の供給を停止し、供給ノズル3に給水源7から水9を供給し、真空吸着ステージ2の上に保持され回転しているシリコンウェーハ1の上に水9を供給する。シリコンウェーハ1の上に供給された水9は、シリコンウェーハ1の回転に倣ってシリコンウェーハ1の上を移動し、シリコンウェーハ1の上に残留する酸エッチング液8を水9に置換しながらシリコンウェーハ1の外周部から液滴11となって排出される。シリコンウェーハ1の上の酸エッチング液8の水への置換が終了したら給水源7からの水9の供給を停止し、シリコンウェーハ1を高速回転させることでシリコンウェーハ1上の水をすべて飛散させ、乾燥したシリコンウェーハ1を得る。
【0039】
酸エッチング液8としては、弗酸及び硝酸を含む混合液を使用することができ、この場合、混合比は質量%で、例えば弗酸が1~80%、硝酸が10~80%の範囲とすることができる。また、弗酸及び硝酸を含む混合液に、酢酸、燐酸、硫酸のいずれか1つ以上を適宜組み合わせて加えた混合液を用いることも可能である。このとき、酢酸を例えば10~30%、硫酸を例えば10~25%、燐酸を例えば10~50%の範囲内で任意の割合で混合しても良い。このような混合液を用いれば、より効率的な酸エッチングを行うことができ、さらに、衝突噴流域におけるエッチング速度をより速くすることができる。
【0040】
また、酸エッチング液8として上述の混合液を用い、シリコンウェーハの回転を開始する前に衝突噴流域内に滴下する混酸として、酸エッチング液8を兼用することも可能である。この場合、混酸と酸エッチング液の供給系統を別個に設ける必要がないため、装置がより簡便なものとなり、より好ましい。
【0041】
本発明に係るエッチング方法によれば、供給ノズル直下の衝突噴流域のエッチング速度を全体的に上昇させることで、ウェーハ面内のエッチング取代のPVを改善することができる。例えば、Si溶解量が20g/Lの酸エッチング液を用いて、取り代を平均10μm狙いとして従来の方法によりPWをスピンエッチングした場合のエッチング取代のPVは、通常2.1μm程度であるが、本発明に係るエッチング方法でエッチングを行うと1.5μm程度であり、大幅に改善することができた。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0043】
(実施例)
スピンエッチング装置を用いて、シリコンウェーハのエッチングを行った。使用した酸エッチング液は弗酸と硝酸の混合液であり、混合比は質量%で、弗酸が10%、硝酸が51%とした。衝突噴流域内に滴下する混酸としても、この酸エッチング液を用いた。なお、供給ノズルは内径が25mmのものである。エッチング装置内の真空吸着ステージ上に、シリコンウェーハとして直径300mmのPWを載置し真空吸着して保持させた。シリコンウェーハの回転を開始する前に、酸エッチング液を供給ノズルから30mL滴下し、供給ノズル直下の直径30mmの範囲を酸エッチング液で覆った。滴下した時から2秒後にシリコンウェーハの回転を開始し、所定の回転数となったときに酸エッチング液を供給してスピンエッチングを行い、純水の供給に切替えて酸エッチング液を除去し、さらに薬液の供給を止めてシリコンウェーハを乾燥させた。エッチングは、平均10μmのエッチング量として行った。
【0044】
なお、前述のように、スピンエッチング方式によるシリコンウェーハの酸エッチングでは、使用した酸エッチング液を回収し、再度酸エッチング液として用いる。このため、シリコンウェーハを酸エッチングすると、エッチング枚数に応じて酸エッチング液に含まれるSi溶解量は増加する。そして、Si溶解量の増加は、酸エッチング液に含まれるエッチング化学種の減少を意味するため、Si溶解量の増加に伴い平均エッチング速度が低下する。このようなSi溶解量の変化がTTVに及ぼす影響も併せて評価するために、酸エッチング液中のSi溶解量を変えて、複数枚のシリコンウェーハに対して上述のエッチングを行った。
【0045】
エッチング後のシリコンウェーハのTTVの評価を、コベルコ科研社製の平坦度・形状測定機SBWを用いて行った。エッチング時の酸エッチング液中のSi溶解量と、エッチング後のシリコンウェーハのTTVの関係を調査した。
【0046】
(比較例)
シリコンウェーハの回転を開始する前の混酸(酸エッチング液)の滴下を行わなかったこと以外は実施例と同じ条件で、シリコンウェーハのスピンエッチング及び評価を行った。
【0047】
図2に、実施例のエッチング方法によるエッチング後のTTVと、酸エッチング液中のSi溶解量の関係を示す。図2からわかるように、酸エッチング液中のSi溶解量が増加するにつれて、すなわち、酸エッチング液で処理したシリコンウェーハの枚数が多くなる(ライフが長くなる)につれて、TTVが大きくなることがわかる。
【0048】
図3に、比較例のエッチング方法によるエッチング後のTTVと、酸エッチング液中のSi溶解量の関係を示す。図3からわかるように、酸エッチング液中のSi溶解量が増加するにつれてTTVが大きくなる傾向は、実施例と同様であった。
【0049】
一方、図2,3において、実施例及び比較例におけるSi溶解量が等しいデータ同士を対比すると、実施例におけるエッチング後のTTVは、比較例より約10%以上小さくなっていることがわかる。このように、本発明の実施例によれば、スピンエッチ方式でシリコンウェーハの酸エッチングを行う場合に、ノズル直下の衝突噴流域のエッチング速度を全体的に速くすることができ、エッチング後のTTVを改善することができることがわかる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1…シリコンウェーハ、 2…真空吸着ステージ、 3…供給ノズル、 4…真空源、
5…混酸タンク、 6…エッチング液タンク、 7…給水源、 8…酸エッチング液、
9…水、 10…混酸、 11…液滴、 20…衝突噴流域、
100…エッチング装置。
図1
図2
図3