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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】複合材料成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20220412BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20220412BHJP
   B29C 43/58 20060101ALI20220412BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20220412BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
B29C70/10
B29C70/42
B29C43/58
B29C43/34
B29K105:08
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020199207
(22)【出願日】2020-11-30
(62)【分割の表示】P 2019519775の分割
【原出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2021028178
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018060422
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018128580
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018159083
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018159482
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】篠浦 康隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】宮内 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-202890(JP,A)
【文献】特開平02-219613(JP,A)
【文献】特開2014-019068(JP,A)
【文献】米国特許第08798512(US,B2)
【文献】特開昭59-190828(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108446(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 - 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と炭素繊維とを含む成形材料の成形物を含み、
前記成形物の下記領域Aの下記繊維配向度fの平均値が0.10以上1以下である、複合材料成形品。
領域A:前記成形物の上面と、前記成形物の一方の側面とが形成する角Aから、前記成形物の幅方向の全長Dに対して3.0%までの長さDにおいて、前記成形物を垂直方向に切断した場合に得られる領域。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記領域Aを切り出して試験片Aとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片Aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片Aを回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)、(2)、(3)及び(4)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f。
【数1】
ただし、式(1)中、aは、式(2)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片Aをφ°回転させた際の輝度であり、式(3)を満たす値であり;式(3)中のNは、式(4)で表される値である。
【請求項2】
前記長さDが2~10mmである、請求項1に記載の複合材料成形品。
【請求項3】
下式(AB)で表される一次関数の傾きaが負である、請求項1又は2に記載の複合材料成形品。
y=ax+b ・・・(AB)
式(AB)は、前記領域A内の、前記角A上の一点から幅方向に沿った2点以上の位置における繊維配向度fを測定し、前記角A上の一点から前記位置までの距離をx軸に、前記繊維配向度fをy軸としてグラフを作成し、最少二乗法で線形近似して得られる一次関数である。
【請求項4】
前記複合材料成形品が直方体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
【請求項5】
前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、
前記第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記炭素繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、幅方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【数2】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
【請求項6】
Ey/Exで表される、前記第1領域の、前記幅方向の引張弾性率Exに対する、前記奥行方向の引張弾性率Eyの比は、1.5以上6.0以下である、請求項5に記載の複合材料成形品。
【請求項7】
前記複合材料成形品は、前記第1領域を幅方向から挟む第2領域2a及び第2領域2bを有し、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2aでの下記繊維配向度f2aの平均値よりも大きく、かつ、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2bでの下記繊維配向度f2bの平均値よりも大きい、請求項5又は6に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f2a:X線回折法により測定される、前記第2領域2aを切り出して試験片2aとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2aを回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(9)、(10)、(11)及び(12)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2a
【数3】
ただし、式(9)中、aは、式(10)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2aをφ°回転させた際の輝度であり、式(11)を満たす値であり;式(11)中のNは、式(12)で表される値である。
繊維配向度f2b:X線回折法により測定される、前記第2領域2bを切り出して試験片2bとし、幅方向を90°方向としたときに、前記試験片2bの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2bを回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(13)、(14)、(15)及び(16)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2b
【数4】
ただし、式(13)中、aは、式(14)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2bをφ°回転させた際の輝度であり、式(15)を満たす値であり;式(15)中のNは、式(16)で表される値である。
【請求項8】
樹脂と炭素繊維とを含む成形材料を成形して得られる複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の奥行方向を0°方向、前記複合材料成形品の幅方向を90°方向とした場合において、前記90°方向に沿った複数箇所の各点における、前記0°方向を基準とした繊維配向度fをそれぞれ測定し、前記90°方向における繊維配向度の分布を取得した場合において、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が5mm以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記各点を含む試験片を前記複合材料成形品から切り出し、前記奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片を回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(17)、(18)、(19)及び(20)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【数5】
ただし、式(17)中、aは、式(18)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(19)を満たす値であり;式(19)中のNは、式(20)で表される値である。
【請求項9】
樹脂と炭素繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、
前記第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記炭素繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
かつ、前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上である複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【数6】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
【請求項10】
Ey/Exで表される、前記第1領域の、前記幅方向の引張弾性率Exに対する、前記奥行方向の引張弾性率Eyの比は、1.5以上6.0以下である、請求項9に記載の複合材料成形品。
【請求項11】
前記複合材料成形品は、前記第1領域を幅方向に挟む第2領域2a及び第2領域2bを有し、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2aでの下記繊維配向度f2aの平均値よりも大きく、かつ、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2bでの下記繊維配向度f2bの平均値よりも大きい、請求項9又は10に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f2a:X線回折法により測定される、前記第2領域2aを切り出して試験片2aとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2aの厚み方向に前記試験片2を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(9)、(10)、(11)及び(12)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2a
【数7】
ただし、式(9)中、aは、式(10)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記成形体をφ°回転させた際の輝度であり、式(11)を満たす値であり;式(11)中のNは、式(12)で表される値である。
繊維配向度f2b:X線回折法により測定される、前記第2領域2bを切り出して試験片2bとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2bの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2bの厚み方向に前記試験片2を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(13)、(14)、(15)及び(16)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2b
【数8】
ただし、式(13)中、aは、式(14)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2bをφ°回転させた際の輝度であり、式(15)を満たす値であり;式(15)中のNは、式(16)で表される値である。
【請求項12】
樹脂と炭素繊維とを含む成形材料を成形して得られる複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の奥行方向を0°方向、前記複合材料成形品の幅方向を90°方向とした場合において、前記90°方向に沿った複数箇所の各点における、前記0°方向を基準とした繊維配向度fをそれぞれ測定し、前記90°方向における繊維配向度の分布を取得した場合において、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が5mm以上である、複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記各点を含む試験片を前記複合材料成形品から切り出し、前記奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片を回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(17)、(18)、(19)及び(20)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【数9】
ただし、式(17)中、aは、式(18)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(19)を満たす値であり;式(19)中のNは、式(20)で表される値である。
【請求項13】
表面にウェルドラインが存在し、前記0°方向が前記ウェルドラインに沿った方向である、請求項12に記載の複合材料成形品。
【請求項14】
シートモールディングコンパウンドの硬化物である、請求項1~13のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
【請求項15】
前記炭素繊維は、前記複合材料成形品の総質量に対し、20質量%以上65質量%以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
【請求項16】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、
前記成形材料の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上に配置する、製造方法。
繊維流動長:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から樹脂会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計。
【請求項17】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、
前記成形材料の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上の複数の位置に配置する、製造方法。
繊維流動長:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部又は樹脂会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計。
【請求項18】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、前記成形材料の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上に配置する、製造方法。
移動距離:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置から樹脂会合部まで移動した後の位置P1から、成形終了時までに、さらに前記位置P1から樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2。
【請求項19】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、前記成形材料の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上の複数の位置に配置する、製造方法。
移動距離:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置から前記成形金型の周縁部または樹脂会合部まで移動した後の位置P1から、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2。
【請求項20】
熱硬化性樹脂と炭素繊維とを含む成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、
下記チャージ率が10~50面積%となるように、かつ、前記成形材料の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上に配置する、製造方法。
チャージ率:前記成形金型のキャビティの面積に対する前記成形材料の表面積の割合。
繊維流動長:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各炭素繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計。
【請求項21】
熱硬化性樹脂と炭素繊維とを含む成形材料を成形金型に配置し、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であって、
下記チャージ率が10~50面積%となるように、かつ、前記成形材料の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように、前記成形材料を前記成形金型上に配置する、製造方法。
チャージ率:前記成形金型のキャビティの面積に対する前記成形材料の表面積の割合。
移動距離:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各炭素繊維が、前記チャージされた際の位置から前記成形金型の周縁部まで移動した後の位置P1から、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2。
【請求項22】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型に、下記チャージ率が10~80面積%となるように配置し、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であり、
前記成形金型が平面視で長方形であり、前記成形材料を、前記成形金型上の複数の位置Pmに配置する、複合材料成形品の製造方法。
チャージ率:前記成形金型のキャビティの面積に対する前記成形材料の表面積の割合。
【請求項23】
前記Pmのうち少なくとも1つは前記成形金型の一つの角を含む領域であり、少なくとも1つは前記成形金型の幅方向に位置する他の角を含む領域である、請求項22に記載の複合材料成形品の製造方法。
【請求項24】
樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型に、下記チャージ率が10~80面積%となるように配置し、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法であり、
前記成形材料を前記成形金型上の複数の位置に配置する、製造方法。
チャージ率:前記成形金型のキャビティの面積に対する前記成形材料の表面積の割合。
【請求項25】
樹脂と炭素繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品の製造方法であって、
前記成形材料を含む複数の基材を成形金型内に配置し、複数の前記基材を圧縮成形することで、流動する複数の前記基材の流体の融合により樹脂会合部が形成されるとともに、前記基材は、前記樹脂会合部に沿った方向に流動し、
前記成形体の前記樹脂会合部を含む第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記炭素繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
かつ、前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上である、複合材料成形品の製造方法。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、幅方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基
準にして前記試験片1の厚み方向に前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【数10】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
【請求項26】
前記成形材料がシートモールディングコンパウンドである、請求項16~25のいずれか一項に記載の複合材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維と樹脂とを含む成形体である複合材料成形品、及びその製造方法に関する。
本願は、2018年3月27日に、日本出願された特願2018-060422号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
本願は、2018年7月5日に、日本出願された特願2018-128580号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
本願は、2018年8月28日に、日本出願された特願2018-159482号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
本願は、2018年8月28日に、日本出願された特願2018-159083号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
繊維等の強化材と樹脂とを含む複合材料成形品は、強度、剛性等の機械物性に優れることから、幅広い分野で利用されている。複合材料成形品の製造方法としては、強化繊維と熱硬化性樹脂とを含む複合材料を圧縮成形する方法がある。このような複合材料としては、プリプレグやシートモールディングコンパウンド(以下、SMCともいう)がある。強化繊維としては、従来、ガラス繊維が使用され、近年では、比強度、比弾性率が高く、複合材料成形品を軽量化できることから、ガラス繊維から炭素繊維への置き換えが進んでいる。
【0003】
SMCは、強化繊維が繊維長の短い短繊維であるため、成形時にSMCを構成する材料が流動して成形金型内を充填する。そのため、連続した強化繊維を引き揃えた強化材を使用するプリプレグでは成形が困難な細かい凹凸を有する複雑な形状を形成できる。一方で、強化繊維の繊維長が短く、SMC中での強化繊維の向きがランダムであるため、プリプレグに比べて、得られる複合材料成形品の機械物性が低くなるという問題があった。
【0004】
この問題に対し、以下のSMCが提案されている。
・単繊維繊度が1.0~2.4dtex、単繊維の繊維軸に垂直な断面の真円度が0.70以上0.90以下である炭素繊維束とマトリックス樹脂組成物とからなるSMC(特許文献1)。
・炭素繊維からなる繊維基材と、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の少なくともいずれかと、特定形状の無機充填材と、ポリイソシアネート化合物とを含む成形材料からなるSMC(特許文献2)。
【0005】
特許文献3には、複合材料成形品の繊維配向度を高精度に算出できる方法として、X線回折法を用いた方法が提案されている。
【0006】
また、上記の複合材料成形品に対しては、その繊維の向きを制御することで、製品の使われ方に応じた機械特性を設計することができる。例えば、繊維の向きを所定の方向に揃えて配置する、或いは、繊維の向きをランダムに配置することで、複合材料成形品の機械特性を異ならせることができる。下記特許文献4には、繊維強化複合材料の繊維束の結晶配向度を算出する方法が記載されている。
【0007】
一方、上記のSMCを用いた複合材料成形品の製造時においては、SMCが成形中に流動するため、SMCが2方向から合流してウェルドライン(ウェルド部ともいわれる。)が形成される場合がある。この場合、ウェルドライン付近では強化繊維がウェルドラインに沿って配向するため、得られる複合材料成形品は、ウェルドラインに垂直方向の機械特性が劣る問題がある。
【0008】
特許文献5には、井戸状部と面状部とを有する複合材料成形品の前記井戸状部に不連続強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化複合材料からなる板状成形材料を、前記面状部に熱可塑性樹脂材料からなる板状成形材料を各々使用し、それらの板状成形材料を所定の条件でコールドプレス成形することで、井戸状部と面状部との境界辺にウェルド部が無い複合材料成形品を製造する方法が開示されている。
特許文献6には、短繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形品におけるウェルド部の補強方法として、所定の連続繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなる強化部材をインサート成形する方法が開示されている。
特許文献7には、SMC用の成形型のキャビティに、軟化したSMCの流動方向が変化する方向と異なる方向に樹脂溜まり部を設けて、ウェルド部等の流れが変化する部分で割れにくい成形品を成形できるようにしたSMC用の成形型及びこれを用いたSMC成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-203773号公報
【文献】国際公開第2016/039326号
【文献】特開2016-90259号公報
【文献】国際公開第2016/208731号
【文献】特開2017-43095号公報
【文献】特開2000-167863号公報
【文献】特開2008-221794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1のSMCは、前記のような大きな単繊維繊度と特定の真円度を持つ炭素繊維が現在一般的には入手が困難であるため、製造が困難である。
特許文献2のSMCは、材料の処方の制約が大きいデメリットがある。
したがって、SMC用途で一般的な材料を用いた場合でも、機械物性に優れた複合材料成形品が得られる技術が求められる。
なお、特許文献3では、SMCを用いた複合材料成形品の機械物性を向上させることは検討されていない。
【0011】
また、SMCの成形体は、成形体同士を連結して一つの製品とする場合があり、連結部などの特定の箇所で反りを抑制する必要がある。しかし、SMCを用いた複合材料成形品の製造時においては、成形の際に樹脂材料の流動に伴い、繊維の配向方向が変化する場合がある。繊維の配向方向が制御できない場合、成形体の機械特性が変動する可能性がある。例えば、上記の繊維束の結晶配向度(以下、繊維配向度ということがある)を高めると、高い機械強度が得られる可能性がある反面、反りが大きくなる可能性がある。
【0012】
さらに、特許文献5に記載の方法は、成形品の形状が限定されており、複雑な形状の部材を成形できるというSMCの特長が活かせない問題がある。
特許文献6に記載の方法は、インサート成形を行うため、プレス成形により短時間で部材に加工可能できるというSMCの特長が活かせない問題がある。また、特許文献6に記載の方法は、連続繊維を含む複合材料を用いるため、複雑な形状には対応できない問題もある。
特許文献7に記載の方法は、特殊な成形型が必要であり、成形型に依存せずにウェルドラインを低減することはできない。また、成形後に、樹脂溜まり部に形成された樹脂部等を除去する必要があり、工程数が多くなる問題もある。
【0013】
本発明は、機械物性に優れた複合材料成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、特定部分における反りが抑制された複合材料成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。この結果、SMCのような成形材料を特定の条件で成形金型にチャージすることが、端部において高い繊維配向度を持つ複合材料成形品や、特定部分における反りが抑制された複合材料成形品や、ウェルドラインが存在していても機械強度に優れた複合材料成形品を得るに効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、以下の態様を包含する。
<1>樹脂と繊維とを含む成形材料の成形物を含み、
前記成形物の下記領域Aの下記繊維配向度fの平均値が0.10以上1以下である、複合材料成形品。
領域A:前記成形物の第1の端部の表面における周縁各部のそれぞれの一点から、その場所の側端面に対して垂直方向に、他方の端部の周縁に向けて成形物の表面に沿って距離を測り、前記それぞれの一点を起点とするその距離の3.0%に相当する各点を前記成形物の前記第1の端部の周縁に沿って結ぶ線と、前記成形物の周縁とで囲まれた領域。
繊維配向度f:前記垂直方向を90°方向、前記垂直方向と直交する方向を0°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)、(2)及び(3)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度。
【0016】
【数1】
【0017】
ただし、式(1)中、aは、式(2)で表される配向係数である。I(φ)は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ)の輝度であり、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。また、式(3)中のNは、測定点数であり、前記測定点数は、測定対象成形物を測定毎に回転させる角度であるステップサイズ(°)で360(°)を除した値である。同式中のdφは、測定対象成形物まわりの回転角の微小領域を表し、ここでは前記ステップサイズの値に等しい。
<2>前記領域Aが、前記成形物の第1の端部の表面における周縁各部のそれぞれの一点から、その場所の側端面に対して垂直方向に2mmとなる各点を前記成形物の前記第1の端部の周縁に沿って結ぶ線と、前記成形物の周縁とで囲まれた領域である、前記<1>の複合材料成形品。
<3>前記成形物の前記領域Aの下記関数の傾きが負の値である、前記<1>又は<2>の複合材料成形品。
関数:前記領域A内の、前記垂直方向に沿った直線上の両端部の2点と前記2点より内側にある2点以上について、前記繊維配向度fを測定し、各点の前記第1の端部の側端面からの距離(mm)をx軸に、繊維配向度fをy軸にとってプロットし、最少二乗法で線形近似して得られる一次関数。
<4>樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、
前記第1領域は、前記樹脂会合部に沿って延在し、前記樹脂会合部と交差する方向において前記繊維の平均繊維長の2倍の長さとなる領域であり、
かつ、前記第1領域における繊維配向度の平均値が0.19以上である複合材料成形品。
<5>前記第1領域の、前記樹脂会合部と交差する第1方向の引張弾性率に対する、前記第1方向と交差する第2方向の引張弾性率の比は、1.5以上6.0以下である、<4>の複合材料成形品。
<6>前記複合材料成形品は、前記第1領域を挟んで、前記樹脂会合部と交差する方向に配置された2つの第2領域を有し、
前記第1領域での繊維配向度の平均値は、前記第2領域での繊維配向度の平均値よりも大きい、<4>又は<5>の複合材料成形品。
<7>樹脂と繊維とを含む成形材料を用いた複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の表面の面内の第2方向を0°方向、前記第2方向と直交する第1方向を90°方向とし、前記第1方向に沿った複数箇所について、X線回折法により0°方向を基準にした繊維配向度を測定して前記第1方向における前記繊維配向度の分布を取得し、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が、5mm以上である、複合材料成形品。
<8>前記表面にウェルドラインが存在し、
前記第2方向が、前記ウェルドラインに沿った方向である、<7>の複合材料成形品。
<9>シートモールディングコンパウンドの硬化物である、<1>~<8>のいずれかの複合材料成形品。
<10>前記繊維は、炭素繊維である、<1>~<9>のいずれかの複合材料成形品。
<11>前記繊維は、前記複合材料成形品の総量に対し、20質量%以上65質量%以下である、<1>~<10>のいずれかの複合材料成形品。
<12>樹脂と繊維とを含む成形材料の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように、成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
繊維流動長:成形金型にチャージされた成形材料の繊維が、加熱加圧成形により、成形品の周縁部又は樹脂会合部における所定の部位まで移動する距離。
<13>樹脂と繊維とを含む成形材料の平均繊維長に対する、成形時における前記繊維の成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿った移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように、成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
<14>樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型に、下記チャージ率が10~80%となるようにチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
チャージ率:前記成形金型の面積に対する前記成形材料の面積の割合。
<15>樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品の製造方法であって、
前記成形材料を含む複数の基材を成形金型内に配置し、複数の前記基材を圧縮成形することで、流動する複数の前記基材の流体の融合により樹脂会合部が形成されるとともに、前記基材は、前記樹脂会合部に沿った方向に流動し、
前記成形体の前記樹脂会合部を含む第1領域は、前記樹脂会合部に沿って延在し、前記樹脂会合部と交差する方向において前記繊維の平均繊維長の2倍の長さとなる領域であり、
かつ、前記第1領域における繊維配向度の平均値が0.19以上である、複合材料成形品の製造方法。
<16>前記成形材料がシートモールディングコンパウンドである、<12>~<15>のいずれかに記載の複合材料成形品の製造方法。
【0018】
本発明は、以下の態様も有する。
<1> 樹脂と繊維とを含む成形材料の成形物を含み、
前記成形物の下記領域Aの下記繊維配向度fの平均値が0.10以上1以下であり、0.10以上0.80以下が好ましく、0.12以上0.70以下がより好ましく、0.15以上0.60以下がさらに好ましく、0.20以上0.50以下が特に好ましい、複合材料成形品。
領域A:前記成形物の上面と、前記成形物の一方の側面とが形成する角Aから、前記成形物の幅方向の全長Dに対して3.0%までの長さDにおいて、前記成形物を垂直方向に切断した場合に得られる領域。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記領域Aを切り出して試験片Aとし、前記奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片Aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片Aを回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)、(2)、(3)及び(4)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f。
【0019】
【数2】
【0020】
ただし、式(1)中、aは、式(2)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片Aをφ°回転させた際の輝度であり、式(3)を満たす値であり;式(3)中のNは、式(4)で表される値である。
<2> 前記長さDが2~10mmである、<1>に記載の複合材料成形品。
<3> 式(AB)で表される一次関数の傾きaが負である、<1>又は<2>に記載の複合材料成形品。
y=ax+b ・・・(AB)
式(AB)は、前記領域A内の、前記角A上の一点から幅方向に沿った2点以上の位置における繊維配向度fを測定し、前記角A上の一点から前記位置までの距離をx軸に、前記繊維配向度fをy軸としてグラフを作成し、最少二乗法で線形近似して得られる一次関数である。
<4> 前記複合材料成形品が直方体である、<1>~<3>のいずれかに記載の複合材料成形品。
<5> 前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、
前記第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上であり、好ましくは0.19以上0.50以下であり、より好ましくは0.20以上0.30以下である、<1>~<4>のいずれか一項に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、幅方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【0021】
【数3】
【0022】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
<6> Ey/Exで表される、前記第1領域の、前記幅方向の引張弾性率Exに対する、前記奥行方向の引張弾性率Eyの比は、1.5以上6.0以下であり、好ましくは1.6以上5.0以下である、<1>~<5>のいずれかに記載の複合材料成形品。
<7> 前記複合材料成形品は、前記第1領域を幅方向から挟む第2領域2a及び第2領域2bを有し、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域での下記繊維配向度f2aの平均値よりも大きく、かつ、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2bでの下記繊維配向度f2bの平均値よりも大きい、<1>~<6>のいずれかに記載の複合材料成形品。
繊維配向度f2a:X線回折法により測定される、前記第2領域2aを切り出して試験片2aとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2aを回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(9)、(10)、(11)及び(12)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2a
【0023】
【数4】
【0024】
ただし、式(9)中、aは、式(10)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2aをφ°回転させた際の輝度であり、式(11)を満たす値であり;式(11)中のNは、式(12)で表される値である。
繊維配向度f2b:X線回折法により測定される、前記第2領域2bを切り出して試験片2bとし、幅方向を90°方向としたときに、前記試験片2bの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2bを回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(13)、(14)、(15)及び(16)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2b
【0025】
【数5】
【0026】
ただし、式(13)中、aは、式(14)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2bをφ°回転させた際の輝度であり、式(15)を満たす値であり;式(15)中のNは、式(16)で表される値である。
<8> 樹脂と繊維とを含む成形材料を成形して得られる複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の奥行方向を0°方向、前記複合体材料成形品の幅方向を90°方向とした場合において、前記90°方向に沿った複数箇所の各点における、前記0°方向を基準とした繊維配向度fをそれぞれ測定し、前記90°方向における繊維配向度の分布を取得した場合において、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が5mm以上であり、5mm以上10000mm未満が好ましく、20mm以上8000mm未満がより好ましく、40mm以上6000mm以下がさらに好ましく、100mm以上4000mm以下がさらに好ましく、200mm以上3000mm以下が特に好ましく、1000mm以上2000mm未満が最も好ましい、<1>~<7>のいずれかに記載の複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記各点を含む試験片を前記複合体材料成形品から切り出し、前記奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片を回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(17)、(18)、(19)及び(20)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【0027】
【数6】
【0028】
ただし、式(17)中、aは、式(18)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(19)を満たす値であり;式(19)中のNは、式(20)で表される値である。
<9> 樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、
前記第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
かつ、前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上であり、好ましくは0.19以上0.50以下であり、より好ましくは0.20以上0.30以下である複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【0029】
【数7】
【0030】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
<10> Ey/Exで表される、前記第1領域の、前記幅方向の引張弾性率Exに対する、前記奥行方向の引張弾性率Eyの比は、1.5以上6.0以下であり、好ましくは1.6以上5.0以下である、<9>に記載の複合材料成形品。
<11> 前記複合材料成形品は、前記第1領域を幅方向に挟む第2領域2a及び第2領域2bを有し、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域での下記繊維配向度f2aの平均値よりも大きく、かつ、
前記第1領域での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2bでの下記繊維配向度f2bの平均値よりも大きい、<9>又は<10>に記載の複合材料成形品。
繊維配向度f2a:X線回折法により測定される、前記第2領域2aを切り出して試験片2aとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2aの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2aの厚み方向に前記試験片2を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(9)、(10)、(11)及び(12)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2a
【0031】
【数8】
【0032】
ただし、式(9)中、aは、式(10)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記成形体をφ°回転させた際の輝度であり、式(11)を満たす値であり;式(11)中のNは、式(12)で表される値である。
繊維配向度f2b:X線回折法により測定される、前記第2領域2bを切り出して試験片2bとし、奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片2bの重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片2bの厚み方向に前記試験片2を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(13)、(14)、(15)及び(16)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f2b
【0033】
【数9】
【0034】
ただし、式(13)中、aは、式(14)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片2bをφ°回転させた際の輝度であり、式(15)を満たす値であり;式(15)中のNは、式(16)で表される値である。
<12> 樹脂と繊維とを含む成形材料を成形して得られる複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の奥行方向を0°方向、前記複合体材料成形品の幅方向を90°方向とした場合において、前記90°方向に沿った複数箇所の各点における、前記0°方向を基準とした繊維配向度fをそれぞれ測定し、前記90°方向における繊維配向度の分布を取得した場合において、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が5mm以上であり、5mm以上10000mm未満が好ましく、20mm以上8000mm未満がより好ましく、40mm以上6000mm以下がさらに好ましく、100mm以上4000mm以下がさらに好ましく、200mm以上3000mm以下が特に好ましく、1000mm以上2000mm未満が最も好ましい、複合材料成形品。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記各点を含む試験片を前記複合体材料成形品から切り出し、前記奥行方向を0°方向としたときに、前記試験片の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片を回転させた際の回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(17)、(18)、(19)及び(20)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【0035】
【数10】
【0036】
ただし、式(17)中、aは、式(18)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記成形体をφ°回転させた際の輝度であり、式(19)を満たす値であり;式(19)中のNは、式(20)で表される値である。
<13> 表面にウェルドラインが存在し、前記0°方向が前記ウェルドラインに沿った方向である、<12>に記載の複合材料成形品。
<14> シートモールディングコンパウンドの硬化物である、<1>~<13>のいずれかに記載の複合材料成形品。
<15> 前記繊維が、炭素繊維である、<1>~<14>のいずれかに記載の複合材料成形品。
【0037】
<16> 前記繊維は、前記複合材料成形品の総質量に対し、20質量%以上65質量%以下である、<1>~<15>のいずれかに記載の複合材料成形品。
<17> 樹脂と繊維とを含む成形材料の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0、好ましくは0.3~12.0、より好ましくは0.5~10.0、さらに好ましくは0.8~9.0、特に好ましくは1.0~8.0、の範囲となるように、成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
繊維流動長:成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部又は樹脂会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計。
<18> 樹脂と繊維とを含む成形材料の平均繊維長に対する、下記移動距離の比rが0.2~12.0、好ましくは0.4~10.0、より好ましくは0.8~8.0、さらに好ましくは1.0~6.0、特に好ましくは1.2~4.0の範囲となるように、成形材料を成形金型にチャージし、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
移動距離:前記位置P1から、前記位置P2までの長さL1-2。
<19> 樹脂と繊維とを含む成形材料を成形金型に、下記チャージ率が10~80面積、好ましくは10~70面積%、より好ましくは10~60面積%、さらに好ましくは10~50面積%、特に好ましくは15~40面積%、最も好ましくは20~35面積%、となるように配置し、加熱加圧成形する、複合材料成形品の製造方法。
チャージ率:前記成形金型の表面積に対する前記成形材料の表面積の割合。
<20> 前記成形金型が平面視で長方形であり、前記成形材料を、前記成形金型上の複数の位置Pmに配置する、<19>に記載の複合材料成形品の製造方法。
<21> 前記Pmのうち少なくとも1つは前記成形金型の一つの角を含む領域であり、少なくとも1つは前記成形金型の幅方向に位置する他の角を含む領域である、<19>又は<20>に記載の複合材料成形品の製造方法。
<22> 樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品の製造方法であって、
前記成形材料を含む複数の基材を成形金型内に配置し、複数の前記基材を圧縮成形することで、流動する複数の前記基材の流体の融合により樹脂会合部が形成されるとともに、前記基材は、前記樹脂会合部に沿った方向に流動し、
前記成形体の前記樹脂会合部を含む第1領域の奥行方向は、前記樹脂会合部に沿って延在する方向であり、前記第1領域の幅方向は、前記奥行方向に直交する方向であり、前記第1領域の幅は、前記繊維の平均繊維長の2倍の長さであり、
かつ、前記第1領域における下記繊維配向度fの平均値が0.19以上である、複合材料成形品の製造方法。
繊維配向度f:X線回折法により測定される、前記第1領域を切り出して試験片1とし、幅方向を0°方向としたときに、前記試験片1の重心を通る厚み方向に沿った軸を基準にして前記試験片1の厚み方向に前記試験片1を回転させた際の、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(5)、(6)、(7)及び(8)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度f
【0038】
【数11】
【0039】
ただし、式(5)中、aは、式(6)で表される配向係数であり;I(φ)は、X線回折法において、前記試験片をφ°回転させた際の輝度であり、式(7)を満たす値であり;式(7)中のNは、式(8)で表される値である。
<23> 前記成形材料がシートモールディングコンパウンドである、<17>~<22>のいずれかに記載の複合材料成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、機械物性に優れ、特定部分における反りが抑制された複合材料成形品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施形態に係る複合材料成形品の斜視図である。
図2A】実施形態に係る複合材料成形品の斜視図である。
図2B】実施形態に係る複合材料成形品の平面図である。
図3】SMCの製造装置の構成を示す側面図である。
図4】リブを持つ成形品を示した図である。
図5】湾曲した成形品を示した図である。
図6】ボルト形状の成形品を示した図である。
図7】実施例1におけるSMCのチャージ方法(金型面積に対してチャージ率33%)を説明する模式図である。
図8】比較例1におけるSMCのチャージ方法(金型面積に対してチャージ率96%)を説明する模式図である。
図9】実施例2におけるSMCのチャージ方法(金型面積に対してチャージ率49%)を説明する模式図である。
図10】実施例1~2及び比較例1で得た複合材料成形品について、第1の端部の側端面からの距離と繊維配向度fとの関係を示すグラフである。
図11】実施例1~2及び比較例1の複合材料成形品から耐衝撃性試験のサンプルをサンプリングする際のサンプリング位置を示す図である。
図12】耐衝撃性試験を実施した後のサンプルにおける、衝撃を受けた面E及び隣り合う側面F,G、厚み方向に対して亀裂の垂直方向成分である長さL1,L2を示す模式図である。
図13】実施形態に係る成形体を模式的に示す平面図である。
図14】成形体に含まれる繊維束を模式的に示す平面図である。
図15】成形体に含まれる繊維束の他の例を模式的に示す平面図である。
図16】成形体の第1方向の位置と、繊維配向度との関係を示すグラフである。
図17】成形体の樹脂会合部の断面写真である。
図18】成形体の樹脂会合部を有さない部分の断面写真である。
図19】実施形態に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。
図20】実施形態に係る成形体の製造方法を説明するための説明図である。
図21】樹脂の流動と、繊維の向きの関係を説明するための説明図である。
図22】実施例21に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。
図23】実施例22に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。
図24】比較例21に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。
図25】比較例21に係る成形体の製造方法を説明するための説明図である。
図26】比較例22に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。
図27】実施例及び比較例に係る成形体の、繊維配向度と反りの関係を示すグラフである。
図28】成形体の反り形状の一例を示す、第2方向の位置と、高さとの関係を示すグラフである。
図29A】実施例31において金型のキャビティに対してSMCがチャージした様子を示す平面図である。
図29B】実施例32において金型のキャビティに対してSMCがチャージした様子を示す平面図である。
図29C】実施例33において金型のキャビティに対してSMCがチャージした様子を示す平面図である。
図30】複合材料成形品から引張試験片を切り出す場所を模式的に示す平面図である。
図31】引張試験片の形状を模式的に示す平面図である。
図32A】実施例31の繊維配向度の分布を示すグラフである。
図32B】実施例32の繊維配向度の分布を示すグラフである。
図32C】実施例33の繊維配向度の分布を示すグラフである。
図33A】成形金型周縁部における繊維流動長の一例を示す説明図である。
図33B】樹脂会合部における繊維流動長の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の複合材料成形品及びその製造方法について、図面を用い、実施形態を示して詳細に説明する。なお、図1、2A、2B、3~9、11~12における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0043】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る複合材料成形品1の斜視図であり、図2Aは、複合材料成形品1の斜視図であり、図2Bは、複合材料成形品1の平面図である。
複合材料成形品1は、樹脂と繊維とを含む成形材料としてSMCの成形物10を含む。SMCについては後で詳しく説明する。
【0044】
成形物10は、図1に示すように、平面視矩形の平板状であり、互いに対向する2つの主面11,12と、各主面11,12の周縁同士を連絡する側端面13とを有する。側端面13は、互いに対向する2つの平面部13a,13bと、各平面部13a,13bの両端同士を連絡する2つの平面部13c,13dとを有する。
【0045】
また、成形物10は、図2Aに示すように、平面部13aを含む第1の端部14に、領域Aを有する。
図2Aにおける領域Aは、第1の端部14の表面における周縁各部(第1の端部14の側端面13である平面部13aと主面11とが交わる部分、および平面部13aと主面12とが交わる部分)のそれぞれの一点から、その場所の側端面13(平面部13a)の接線に対して垂直方向に、他方の端部の周縁(前記垂直方向において第1の端部14とは反対側の端部の側端面13である平面部13bと主面11とが交わる部分、および平面部13bと主面12とが交わる部分)に向けて成形物10の表面に沿って距離Dを測り、前記それぞれの一点を起点とするその距離Dの3.0%に相当する各点を成形物10の第1の端部14の周縁(平面部13aの周縁)に沿って結ぶ線と、成形物10の周縁とで囲まれた領域である。つまり、平面部13aに対して垂直方向において、平面部13aからの距離Dが、距離Dに対して3.0%である位置(図2A、2B中の一点鎖線の位置)から、平面部13aまでの領域である。例えば、距離Dが60~400mmである場合、距離Dは1.8~12.0mmである。距離Dが67~333mmである場合には、距離Dが2~10mmが好ましい。
以下、平面部13aに対して垂直方向(平面部13aから平面部13bへの方向、図2A、2B中の左右方向)を第1方向、第1方向と直交する方向(平面部13cから平面1部13dへの方向、図2A、2B中の上下方向)を第2方向ともいう。第1方向及び第2方向はそれぞれ、成形物10の厚さ方向と直交する。
【0046】
一方、本発明の複合材料成形品が、リブを持つような複雑形状である場合は、領域Aを前記成形物の第1の端部の表面における周縁各部のそれぞれの一点から、その場所の側端面に対して垂直方向に2mmとなる各点を前記成形物の前記第1の端部の周縁に沿って結ぶ線と、前記成形物の周縁とで囲まれた領域とすることができる。
【0047】
領域Aは、下記繊維配向度fの平均値が0.10以上1以下である。
繊維配向度f:第1方向を90°方向、第2方向を0°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)、(2)及び(3)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度。
【0048】
【数12】
【0049】
ただし、式(1)中、aは、式(2)で表される配向係数である。I(φ)は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φ)の輝度(回折強度)であり、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。また、式(3)中のNは、測定点数であり、前記測定点数は、測定対象成形物を測定毎に回転させる角度であるステップサイズ(°)で360(°)を除した値である。同式中のdφは、測定対象成形物まわりの回転角の微小領域を表し、ここでは前記ステップサイズの値に等しい。すなわち、Nは下記式(4)で表される。
N=360/dφ ・・・(4)
【0050】
繊維配向度fは、前記した特許文献3に記載されるように、繊維強化樹脂材料にX線を照射することによって生じる回折像(デバイ環)から求められる値であり、具体的には、以下の方法で測定される。
成形物10の第1の端部14から、平面部13aを含む縦1cm×横1cm程度の大きさの試験片を切り出す。次いで、X線装置を用い、前記試験片の領域Aに透過法でX線を照射しながら、前記試験片を、その厚さ方向を軸に回転させ、回折角2θ=25.4°に配置した検出器で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ)における輝度(I(φ))を測定する。ただし、I(φ)は、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。回折X線の取り込み条件は、後述する実施例に記載の条件とする。次いで、測定したI(φ)を用いて、式(2)により配向係数aを求める。さらに、得られた配向係数aを用いて、式(1)により繊維配向度fを算出する。
試験片を切り出す位置は、第1の端部14の第2方向における中心付近(例えば、平面部13c、13dそれぞれから、第2方向における成形物10の長さに対して10%以上離れた位置)とする。
【0051】
従来のSMCの硬化物は一般的に、機械特性が低いとされている。従来のSMCの硬化物の繊維配向度fの平均値は0以上0.10未満である。
領域Aの繊維配向度fの平均値が0.10以上であれば、強化繊維の配向に異方性があるため、従来のSMCの硬化物に比べ、機械物性に優れる。
領域Aの各部分の繊維配向度fの平均値は0.10以上であるのが好ましく、0.12以上であるのがより好ましく、0.15以上であるのがさらに好ましく、0.20以上であるのが特に好ましい。繊維配向度fは、すべての繊維が0°方向を向いているときの値1が上限である。
繊維配向度fが大きいほど複合材料成形品の機械特性に優れる。しかし、繊維配向度fが大きい複合材料成形品は製造が難しく生産性が悪い。
領域Aの各部分の繊維配向度fの平均値は0.80以下であるのが好ましく、0.70以下であるのがより好ましく、0.60以下であるのがさらに好ましく、0.50以下であるのが特に好ましい。
したがって、領域Aの繊維配向度fの平均値は、0.10以上0.80以下が好ましく、0.12以上0.70以下がより好ましく、0.15以上0.60以下がさらに好ましく、0.20以上0.50以下が特に好ましい。繊維配向度fが前記範囲内であれば、複合材料成形品の機械特性及び生産性に優れる。
この繊維配向度fは、領域Aにおける平均値であるが、領域Aの各部分の値が上記範囲内であるのが好ましい。
領域Aの繊維配向度fは、後述する製造方法におけるチャージ率、圧力等によって調整できる。チャージ率が低いほど、成形時の金型内での強化繊維の流動距離が長くなり、領域Aの繊維配向度fが大きくなる傾向がある。
なお、成形物10の第1の端部14以外の端部において、領域Aに対応する領域は、繊維配向度fが0.10以上1.0以下であってもよく、0.10未満であってもよい。
【0052】
領域Aは、下記関数の傾きが負の値であることが好ましい。
関数:前記領域A内の、前記垂直方向(第1方向)に沿った直線上の両端部の2点と前記2点より内側にある2点以上について、前記繊維配向度fを測定し、各点の前記第1の端部の側端面からの距離(mm)をx軸に、繊維配向度fをy軸にとってプロットし、最少二乗法で線形近似して得られる一次関数。
両端部は、領域Aの両端(平面部13aの位置、及び平面部13aからの距離がDである位置)それぞれから1.0mm以内の領域である。
前記関数は、y=ax+bで表される。aは一次関数の傾きを示し、bは一次関数の切片(x=0のときのyの値)を示す。
前記関数の傾きaは、具体的には、以下の手順で求められる。
得られた測定点に対して前記の一次関数y=ax+bで近似する際に、各測定点における繊維配向度の実測値yと近似関数から得られる値y(x)の差の平方の和Σ(y-y(x))が最少となるような係数a,bを求め、傾きaを算出する。
【0053】
前記関数の傾きaが負であることは、領域Aにおいて、平面部13aに近いほど繊維配向度fが大きいことを示す。前記関数の傾きaが負であれば、複合材料成形品の機械特性がより優れる。
前記関数の傾きaは、-0.040以上0未満が好ましく、-0.020以上-0.010未満がより好ましい。前記関数の傾きaが前記範囲内であれば、機械強度がより優れる。
領域Aの繊維配向度fは、後述する製造方法におけるチャージ率、繊維流動長、圧力等の条件によって調整できる。チャージ率が低いほど、成形時の金型内での強化繊維の流動距離が長くなり、領域Aの繊維配向度fが大きくなる傾向がある。
なお、成形物10の第1の端部14以外の端部において、領域Aに対応する領域は、前記関数の傾きが負の値でもよく正の値でもよい。
【0054】
(成形材料)
成形材料は、樹脂と繊維とを含むものであり、詳しくは、樹脂としてのマトリックス樹脂を含み、繊維として短繊維の強化繊維とを含むものである。
このマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化型樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂の場合、化学反応を伴うことなく冷却固化して形状を決定するので、短時間成形が可能であり、生産性に優れる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合した物であってもよい。なかでもポリプロピレン樹脂を好ましく使用することができる。
熱硬化型樹脂の場合、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられ、なかでも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂を好ましく使用することができる。これらの樹脂を用いることにより、成形の際に樹脂が良好に流動する。このため、成形物は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。
また、成形物の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラーなどを添加しておくこともできる。
【0055】
上記樹脂は1種以上を適宜選択して用いることができるが、本発明においては、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含み、繊維として短繊維の強化繊維を含むSMC(シートモールディングコンパウンド)が成形材料として好適である。
SMCは、シート状の未硬化の複合材料であり、典型的には、複数の繊維束で形成されたシート状繊維束群に、熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂組成物が含浸されたものである。
繊維束は、複数の短繊維の強化繊維を束ねたものである。
【0056】
成形材料に用いる繊維としては、特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中では、複合材料成形品の強度等の機械物性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。
これら繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
繊維の平均繊維長は、5~100mmが好ましく、10~75mmがより好ましく、20~60mmがさらに好ましい。この平均繊維長が前記下限値以上であれば、複合材料成形品の引張強度、弾性率等の機械物性がより優れ、前記上限値以下であれば、成形時にSMC等の成形材料を構成する材料がより流動しやすくなるため、成形が容易になる。
【0058】
なお、この平均繊維長は、以下の方法で測定する。
即ち、無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、その平均値を求める。
【0059】
繊維束を形成する繊維の本数は、1,000~60,000本が好ましく、1,000~24,000本がより好ましく、1,000~15,000本がさらに好ましい。繊維束を形成する繊維の本数が前記下限値以上であれば、複合材料成形品の引張強度、弾性率等の機械物性がより優れ、前記上限値以下であれば、成形時にSMC等の成形材料を構成する材料がより流動しやすくなるため、成形が容易になる。
【0060】
繊維束の平均厚みは、0.01~0.1mmが好ましく、0.02~0.09mmがより好ましく、0.025~0.07mmがさらに好ましい。繊維束の平均厚みが前記下限値以上であれば、繊維束にマトリックス樹脂組成物を含浸させることが容易になり、前記上限値以下であれば、複合材料成形品の引張強度、弾性率等の機械物性がより優れる。
【0061】
なお、複合材料成形品における繊維束の平均厚みは、以下の方法で測定することができる。
電気炉等で複合材料成形品を加熱してマトリックス樹脂(マトリックス樹脂組成物の成形物)を分解させ、残存した繊維束から無作為に10本の繊維束を選択する。10本の繊維束のそれぞれについて、繊維軸方向の両端部と中央部の3箇所で厚みをノギスにて測定し、それら測定値の全てを平均して平均厚みとする。
【0062】
繊維束の平均幅は、2~50mmが好ましく、3~15mmがより好ましく、3~8mmがさらに好ましい。繊維束の平均幅が下限値以上であれば、成形時にSMC等の成形材料を構成する材料がより流動しやすくなるため、成形が容易になり、前記上限値以下であれば、複合材料成形品の引張強度、弾性率等の機械物性がより優れる。
【0063】
なお、繊維束の平均幅は、以下の方法で測定する。
平均厚みの測定と同様にして得た10本の繊維束のそれぞれについて、繊維軸方向の両端部と中央部の3箇所で幅をノギスにて測定し、それら測定値の全てを平均して平均幅とする。
【0064】
SMCにおけるマトリックス樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
SMCにおけるマトリックス樹脂組成物は、必要に応じて、熱硬化性樹脂以外の成分をさらに含んでいてもよい。
熱硬化性樹脂以外の成分としては、炭酸カルシウム等の充填剤、低収縮化剤、離型剤、硬化開始剤、増粘剤等が挙げられる。
マトリックス樹脂組成物中、熱硬化性樹脂以外の成分の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂100質量部に対し、0~150質量部であってよい。
【0066】
成形材料は、成形物10の第1方向に対応する方向を90°方向、第2方向に対応する方向を0°方向としたときに、X線回折法により回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、前記式(1’)、(2’)、(3’)及び(4’)により求められる、0°方向を基準にした繊維配向度fの平均値と標準偏差の合計値が0.05~0.13であることが好ましい。
【0067】
【数13】
【0068】
例えば、成形材料としてSMCを用いた場合の繊維配向度fは、以下の方法で測定される。
SMCにおける縦300mm×横300mmの範囲内から、縦15mm×横15mmの試験片を等間隔で25個切り出す(N=25)。X線装置を用い、前記試験片に透過法でX線を照射しながら、前記試験片をその厚さ方向を軸に回転させ、回折角2θ=25.4°に配置した検出器で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ)における輝度(I(φ))を測定する。ただし、I(φ)は、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。次いで、測定したI(φ)を用いて、25個の試験片それぞれについて式(2)により配向係数aを求める。さらに、得られた配向係数aを用いて、25個の試験片それぞれについて式(1)により繊維配向度fを求め、それらの平均値と標準偏差を算出する。
【0069】
繊維配向度fの平均値と標準偏差の合計値が0.05以上であれば、繊維束の配向の均一性が高くなりすぎることなく、SMCを成形加工する際の樹脂の流動性が損なわれて成形性が低下することを抑制できる。また、SMCの生産ラインの速度を過度に下げる必要がなく、充分な生産性を確保できる。
繊維配向度fの平均値と標準偏差の合計値は、0.06以上が好ましく、0.08以上がより好ましい。
【0070】
繊維配向度fの平均値と標準偏差の合計値が0.13以下であれば、SMCを成形した複合材料成形品の第1方向及び第2方向の各部位間における物性のバラツキ(CV値)が大きくなりすぎることを抑制できる。
繊維束の結晶配向度fの平均値と標準偏差の合計値は、0.12以下が好ましく、0.11以下がより好ましい。
【0071】
(複合材料成形品の製造方法)
本発明の複合材料成形品は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の繊維が、加熱加圧成形により、成形品の周縁部又は樹脂会合部における所定の部位まで移動する距離であるが、ここでは、チャージされた成形材料の周縁部から成形金型の周縁部までの最短距離と、この繊維が成形時に成形金型の周縁部に沿ってこの所定の部位まで移動する距離との合計値である。
図33Aは繊維流動長を説明するための模式図である。図33Aにおいて、成形材料は、成形金型上の一か所に配置されている。ここで、繊維流動長とは、成形金型の一角にチャージされた成形材料の繊維が、チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了までにさらに位置P1から、成形金型の周縁部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2とを合計した値である。
図33Bは繊維流動長を説明するための模式図である。図33Bにおいて、成形材料は、成形金型上の2か所に配置されている。ここで、繊維流動長とは、成形金型の一角にチャージされた成形材料の繊維が、チャージされた際の位置P0から、受理会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了までにさらに位置P1から、樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2とを合計した値である。
なお、繊維の位置P0、P1、P2は、チャージされた成形材料に含まれる繊維を平面視で見たときに、繊維の中心となる位置を、繊維の位置P0、P1、P2とみなすこととする。
言い換えれば、繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部又は樹脂会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計である。
この繊維流動長は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
【0072】
Rが0.2以上であれば、前記領域Aにおける繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の機械特性が向上する傾向にある。好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは1.0以上である。
一方、Rが15.0以下であれば、前記領域Aにおける複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。好ましくは12.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは9.0以下であり、特に好ましくは8.0以下である。
Rは、0.3~12.0が好ましく、0.5~10.0がより好ましく、0.8~9.0がさらに好ましく、1.0~8.0が特に好ましい。
別の態様では、比Rは、0.2~15.0が好ましく、0.3~12.0がより好ましく、0.5~10.0がさらに好ましく、0.8~9.0が特に好ましく、1.0~8.0が最も好ましい。
【0073】
本発明の複合材料成形品は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
この移動距離は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記位置P1から、前記位置P2までの長さL1-2である。
この移動距離L1-2は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
比rは、0.2~12.0が好ましく、0.4~10.0がより好ましく、0.8~8.0がさらに好ましく、1.0~6.0が特に好ましく、1.2~4.0が最も好ましい。
【0074】
成形時に流動する樹脂から力を受けることで、繊維が回転、並進し、成形中に繊維がこの流動方向に配向する傾向にあるが、本発明においてこの傾向は、繊維が成形時に成形金型の周縁部や樹脂会合部に沿って移動する際に顕著となる。
従って、上記の繊維流動長には、成形金型の周縁部に沿った移動距離を含むのが好ましい。
前記繊維の平均繊維長に対する、この移動距離の比をrとした場合、このrの値は0.2~12.0の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.4~10.0であり、さらに好ましくは0.8~8.0であり、特に好ましくは1.0~6.0であり、最も好ましくは1.2~4.0である。
rが0.2以上であれば、前記領域Aにおける繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の機械特性が向上する傾向にある。より好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは1.0以上であり、最も好ましくは1.2以上である。
一方、rが12.0以下であれば、前記領域Aにおける複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下であり、特に好ましくは6.0以下であり、最も好ましくは4.0以下である。
【0075】
また、上記の複合材料成形品1等は、例えば、SMCのような成形材料を成形金型に、チャージ率が10~80%となるようにチャージし、加熱加圧成形する方法により製造できる。
【0076】
チャージ率は、成形金型の面積に対する成形材料の面積の割合である。
チャージ率が80%以下であれば、成形時に成形材料が大きく流動し、成形金型の端部に向かうにつれて強化繊維の配向方向が揃い、成形物10の第1の端部14における繊維配向度fが高くなる。好ましくは、70%以下であり、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは50%以下であり、特に好ましくは40%以下であり、最も好ましくは35%以下である。
一方、チャージ率が10%以上であれば、成形時に成形材料が金型全体に行き渡りやすい。より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。
チャージ率は、10~70%が好ましく、10~60%がより好ましく、10~50%がさらに好ましく、15~40%が特に好ましく、20~35%が最も好ましい。
【0077】
成形金型は、成形物10に対応した形状のものが用いられる。
成形金型の形状、つまり成形物10の形状は、平面視矩形(正方形、長方形等)が好ましいが、これに限定されるものではなく、任意の形状であってよい。
【0078】
本発明で用いることができるSMCとしては、例えば、後述するSMCの製造方法により製造したものを使用できる。ただし、使用するSMCはこれに限定されるものではなく、他の製造方法により製造したSMCを用いてもよいし、市販のSMCを用いてもよい。
SMCの面積(平面視での大きさ)は、成形時のチャージ率に応じて設定される。
SMCの形状は、典型的には、成形金型の形状と同様である。
成形金型にチャージするSMCは、1枚でもよく複数枚でもよい。
SMCは、SMCの中心と成形金型の中心とを一致させて成形金型に配置してもよく、SMCの中心と成形金型の中心とをずらして成形金型に配置してもよい。成形金型の、平面部13aに対応する面とSMCとの距離が、平面部13bに対応する面とSMCとの距離よりも長くなるようにSMCを配置することが好ましい。これにより、領域Aの繊維配向度fを大きくしやすい。
【0079】
成形条件としては、例えば金型温度140℃、圧力8MPaにて3分間加熱加圧する条件、又はこれと同等の条件(SMCが同程度に流動及び硬化する条件)が挙げられる。
【0080】
(SMCの製造方法)
SMCの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開第2016/208731号に記載されている方法を採用することができる。
図3は、SMCの製造方法に用いるSMCの製造装置101の構成を示す側面図である。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。
【0081】
SMCの製造装置101(以下、単に製造装置101という。)は、図3に示すように、繊維束供給部110と、第1のシート供給部111と、第1の塗工部112と、裁断部113と、第2のシート供給部114と、第2の塗工部115と、含浸部116とを備える。
【0082】
繊維束供給部110は、長尺のカーボン繊維からなる繊維束CFを複数のボビン117から引き出しながら、複数のガイドローラ118を介して1つの繊維束CFとし、この繊維束CFを裁断部113に向けて供給する。
【0083】
第1のシート供給部111は、第1の原反ロールR11から巻き出された長尺の第1のシート(キャリアシート)S11を第1の塗工部112に向けて供給する。製造装置101は、第1のシートS11を所定の方向(+X軸方向)(以下、搬送方向という。)に搬送する第1の搬送部119を備える。
【0084】
第1の搬送部119は、ガイドローラ120と、一対のプーリ121a,121bの間に無端ベルト122を掛け合わせたコンベア123とを備える。ガイドローラ120は、回転しながら第1のシート供給部111から供給された第1のシートS11をコンベア123に向けて案内する。コンベア123は、一対のプーリ121a,121bを同一方向に回転させることによって無端ベルト122を周回させながら、この無端ベルト122の面上において、第1のシートS11を図3中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて搬送する。
【0085】
第1の塗工部112は、ガイドローラ120に近接した一方のプーリ121aの直上に位置し、熱硬化性樹脂を含むペーストM1(マトリックス樹脂組成物)を供給する供給ボックス124を備える。供給ボックス124は、底面に形成されたスリット(図示せず。)からコンベア123により搬送される第1のシートS11の面上にペーストM1を所定の厚みで塗工する。
【0086】
裁断部113は、第1の塗工部112よりも搬送方向の下流側(+X軸側)に位置して、繊維束供給部110から供給される繊維束CFを裁断機113Aで裁断してペーストM1の上に散布する。裁断機113Aは、コンベア123により搬送される第1のシートS11の上方に位置し、ガイドローラ125と、ピンチローラ126と、カッターローラ127とを備える。
【0087】
ガイドローラ125は、回転しながら繊維束供給部110から供給された繊維束CFを下方に向けて案内する。ピンチローラ126は、ガイドローラ125との間で繊維束CFを挟み込みながら、ガイドローラ125とは逆向きに回転することによって、ガイドローラ125と協働しながら、複数のボビン117から繊維束CFを引き出す。カッターローラ127は、回転しながら繊維束CFを所定の長さとなるように裁断する。裁断された繊維束CFは、ガイドローラ125とカッターローラ127との間から落下し、第1のシートS11上に塗工されたペーストM1)の上に散布される。
【0088】
第2のシート供給部114は、第2の原反ロールR12から巻き出された長尺の第2のシート(キャリアシート)S12を第2の塗工部115に向けて供給する。製造装置101は、第2のシートS12を含浸部116に向けて搬送する第2の搬送部128を備える。
【0089】
第2の搬送部128は、コンベア123により搬送される第1のシートS11の上方に位置して、複数のガイドローラ129を備える。第2の搬送部128は、第2のシート供給部114から供給された第2のシートS12を図3中の-X軸方向(水平方向の左側)に向けて搬送した後、回転する複数のガイドローラ129によって第2のシートS12が搬送される方向を下方から図3中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて反転させる。
【0090】
第2の塗工部115は、図3中の-X軸方向(水平方向の左側)に向けて搬送される第2のシートS12の直上に位置して、ペーストM1を供給する供給ボックス130を備える。供給ボックス130は、底面に形成されたスリット(図示せず。)から第2のシートS12の面上にペーストM1を所定の厚みで塗工する。
【0091】
含浸部116は、裁断部113よりも搬送方向の下流側に位置して、貼合機構131と、加圧機構132とを備える。
【0092】
貼合機構131は、コンベア123の他方のプーリ121bの上方に位置して、複数の貼合ローラ133を備える。
複数の貼合ローラ133は、ペーストM1が塗工された第2のシートS12の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。また、複数の貼合ローラ133は、第1のシートS11に対して第2のシートS12が徐々に接近するように配置されている。
【0093】
貼合機構131では、第1のシートS11の上に第2のシートS12が重ね合わされる。また、第1のシートS11と第2のシートS12とは、その間に繊維束CF及びペーストM1を挟み込みながら、互いに貼合された状態で加圧機構132側へと搬送される。以下、繊維束CF及びペーストM1を挟み込みながら、互いに貼合された第1のシートS11及び第2のシートS12を貼合シートS13という。
【0094】
加圧機構132は、第1の搬送部119(コンベア123)の下流側に位置して、一対のプーリ134a,134bの間に無端ベルト135aを掛け合わせた下側コンベア136Aと、一対のプーリ134c,134dの間に無端ベルト135bを掛け合わせた上側コンベア136Bとを備える。
【0095】
下側コンベア136Aと上側コンベア136Bとは、互いの無端ベルト135a,135bを突き合わせた状態で、互いに対向して配置されている。加圧機構132は、下側コンベア136Aの一対のプーリ134a,134bを同一方向に回転させることによって無端ベルト135aを周回させる。また、加圧機構132は、上側コンベア136Bの一対のプーリ134c,134dを同一方向に回転させることによって無端ベルト135bを無端ベルト135aと同じ速さで逆向きに周回させる。これにより、無端ベルト135a,135bの間に挟み込まれた貼合シートS13を図3中の+X軸方向(水平方向の右側)に向けて搬送する。
【0096】
下側コンベア136Aには、無端ベルト135aに加わる張力を調整するための一対のテンションプーリ137a,137bが配置されている。同様に、上側コンベア136Bには、無端ベルト135aに加わる張力を調整するための一対のテンションプーリ137c,137dが配置されている。これらのテンションプーリ137a,137b,137c,137dは、無端ベルト135a,135bの突合せ部分とは反対側に設けられている。
【0097】
加圧機構132は、複数の下側ローラ138aと、複数の上側ローラ138bとを備える。複数の下側ローラ138aは、無端ベルト135aの突合せ部分の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。同様に、複数の上側ローラ138bは、無端ベルト135bの突合せ部分の背面に接触した状態で搬送方向に並んで配置されている。また、複数の下側ローラ138aと複数の上側ローラ138bとは、貼合シートS13の搬送方向に沿って互い違いに並んで配置されている。
【0098】
加圧機構132では、無端ベルト135a,135bの間を貼合シートS13が通過する間に、第1のシートS11と第2のシートS12との間に挟み込まれたペーストM1及び繊維束CFを複数の下側ローラ138a及び複数の上側ローラ138bにより加圧する。このとき、ペーストM1は、繊維束CFを挟んだ両側から繊維束CFの間に含浸される。
【0099】
これにより、繊維束CFの間に熱硬化性樹脂を含浸させたSMCの原反R1を得ることができる。SMCの原反R1は、図示しない切断手段によって所定の長さで切断されることによって、最終的にシート状のSMCとして出荷される。なお、第1のシートS11及び第2のシートS12は、SMCの成形前にSMCから剥離される。
【0100】
製造装置101において、含浸部116は、繊維束CFが散布された第1のシートS11の上に、さらに、ペーストM1が塗工された第2のシートS12を重ね合わせた後、第1のシートS11と第2のシートS12との間に挟み込まれたペーストM1及び繊維束群を加圧して、繊維束の間にペーストM1を含浸させる。これにより、ペーストM1が塗工された第2のシートS12を重ね合わせない態様の含浸部に比べて、ペーストM1が充分に含浸され、機械特性に優れた複合材料成形品を得ることができる。
なお、含浸部は、繊維束が散布された第1のシートS11の上に、ペーストM1が塗工された第2のシートS12をさらに重ね合わせることなくペーストM1及び繊維束群を加圧して、繊維束の間にペーストM1を含浸させる含浸部であってもよい。
【0101】
なお、SMCの製造装置は、前記した製造装置101には限定されない。例えば、裁断されて落下する繊維束CFに空気などの気体を吹き付ける気体散布機を備える散布部を設置してもよい。裁断されて落下する繊維束CFに所定の条件で気体を吹き付けることによって、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。
【0102】
次に、製造装置101を用いたSMCの製造方法について具体的に説明する。本例のSMCの製造方法は、下記の塗工ステップ、裁断ステップ及び含浸ステップを有する。
塗工ステップ:第1の搬送部119によって搬送される第1のシートS11の上にペーストM1を塗工する。
裁断ステップ:長尺の繊維束CFを裁断機113Aで裁断する。
含浸ステップ:第1のシートS11上のペーストM1と散布された繊維束群F1を加圧して、繊維束CFの間にペーストM1を含浸させる。
【0103】
<塗工ステップ>
第1のシート供給部111により、第1の原反ロールR11から長尺の第1のS11を巻き出して第1の搬送部119へと供給し、第1の塗工部112によりペーストM1を所定の厚みで塗工する。第1の搬送部119により第1のシートS11を搬送することにより、第1のシートS11上に塗工されたペーストM1を走行させる。第1のシートS11の面上に塗工したペーストM1の厚みは、特に限定されない。
【0104】
<裁断ステップ>
繊維束供給部110により、長尺の繊維束CFを複数のボビン117から引き出して裁断部113へと供給し、裁断機113Aにおいて所定の長さとなるように繊維束CFを連続的に裁断する。
【0105】
<含浸ステップ>
第2のシート供給部114により、第2の原反ロールR12から長尺の第2のシートS12を巻き出して第2の搬送部128へと供給する。第2の塗工部115により、第2のシートS12の上にペーストM1を所定の厚みで塗工する。第2のシートS12の面上に塗工したペーストM1の厚みは、特に限定されない。
【0106】
第2のシートS12を搬送することでその上に塗工したペーストM1を走行させ、含浸部116において、貼合機構131によりシート状の繊維束群F1上に第2のシートS12を貼り合わせる。そして、加圧機構132によりシート状の繊維束群F1及びペーストM1を加圧し、ペーストM1を繊維束群F1の繊維束CFの間に含浸させる。これにより、SMCが第1のシートS11と第2のシートS12で挟持された原反R1が得られる。
【0107】
SMC製造における含浸ステップは、この例のように、繊維束CFが散布された第1のシートS11の上に、ペーストM1が塗工された第2のシートS12を重ね合わせた後、第1のシートS11と第2のシートS12との間に挟み込まれたペーストM1及び繊維束群を加圧して、繊維束の間にペーストM1を含浸させるステップであることが好ましい。これにより、ペーストM1が塗工された第2のシートS12を重ね合わせない態様の含浸ステップに比べて、ペーストM1が充分に含浸され、機械特性に優れた複合材料成形品を得ることができる。
なお、含浸ステップは、繊維束が散布された第1のシートS11の上に、ペーストM1が塗工された第2のシートS12をさらに重ね合わせることなくペーストM1及び繊維束群を加圧して、繊維束の間にペーストM1を含浸させる含浸ステップであってもよい。
【0108】
なお、SMCの製造方法は、製造装置101を用いる方法には限定されない。例えば、裁断されて落下する繊維束に空気などの気体を吹き付けて分散させて散布する散布ステップを有していてもよい。裁断されて落下する繊維束CFに所定の条件で気体を吹き付けることによって、繊維束CFを方向性無く均一に分散させることが可能である。
また、SMCの製造方法は、前記したような長尺のSMCを連続的に製造する方法には限定されず、枚葉のSMCを製造する方法であってもよい。
【0109】
本発明の複合材料成形品は、SMCの硬化物からなるものであってもよく、SMCの硬化物からなる部材と他の部材とが組み合わされたものであってもよい。例えば、SMCと、公知のプリプレグ、不織布等のSMC以外の材料とを組み合わせて用いて作製された複合材料成形品であってもよい。
【0110】
また、本発明の第二の実施態様に係る複合材料成形品は、樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品であって、前記複合材料成形品は、樹脂会合部を含む第1領域を有し、前記第1領域は、前記樹脂会合部に沿って延在し、前記樹脂会合部と交差する方向において前記繊維の平均繊維長の2倍の長さとなる領域であり、かつ、前記第1領域における繊維配向度の平均値が0.19以上であることを特徴とする。
【0111】
これにより、樹脂会合部の近傍の第1領域では、成形の際に、樹脂の流動に伴って樹脂会合部に沿った方向に繊維の向きが揃う。これにより、第1領域で繊維配向度が大きくなる。そして、樹脂会合部で繊維配向度が大きくなると、複合材料成形品の表裏で繊維の回転挙動が同様の挙動となる。このため、複合材料成形品は、表裏で繊維配向度が同等となり、第1領域で樹脂会合部に沿った方向の反りを抑制できる。したがって、複合材料成形品は、少なくとも特定の部分である第1領域の反りを抑制することが可能である。
【0112】
本発明の第二の実施態様に係る複合材料成形品の望ましい態様として、前記第1領域の、前記樹脂会合部と交差する第1方向の引張弾性率に対する、前記第1方向と交差する第2方向の引張弾性率の比は、[第2方向の引張弾性率]/[第1方向の引張弾性率]で表して、1.5以上6.0以下であることを特徴とする。これによれば、樹脂会合部に沿った方向の引張弾性率が、樹脂会合部と交差する方向の引張弾性率よりも大きくなる。このため、複合材料成形品は、樹脂会合部に沿った方向で、成形体の曲げ剛性が高くなり直線性が保たれる。この結果、複合材料成形品は、反りを抑制できる。
【0113】
複合材料成形品の望ましい態様として、前記繊維は、炭素繊維、アラミド繊維及びガラス繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。これらの材料を用いることで、複合材料成形品は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができるが、特に炭素繊維が好ましい。
【0114】
複合材料成形品の望ましい態様として、前記繊維は、前記繊維複合材料の総量に対し、20質量%以上65質量%以下であることを特徴とする。繊維の含有量をこの範囲とすることで、成形の際に樹脂の流動に伴って、繊維の向きが樹脂会合部や成形品の外周方向に沿った方向に良好に揃う傾向にある。このため、複合材料成形品は、繊維配向度や引張弾性率等を制御することができる。
【0115】
前記樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの樹脂を用いることにより、成形の際に樹脂が良好に流動する。このため、複合材料成形品は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。
【0116】
本発明の第二の実施態様に係る複合材料成形品の望ましい態様として、前記複合材料成形品は、前記第1領域を挟んで、前記樹脂会合部と交差する方向に配置された2つの第2領域を有し、前記第1領域での繊維配向度の平均値は、前記第2領域での繊維配向度の平均値よりも大きいことを特徴とする。これによれば、複合材料成形品は、樹脂会合部の近傍の第1領域で繊維配向度を制御することにより、少なくとも第1領域で樹脂会合部に沿った方向の反りを抑制できる。
【0117】
本発明の第二の実施態様に係る複合材料成形品の製造方法は、樹脂と繊維とを含む成形材料の成形体である複合材料成形品の製造方法であって、前記成形材料を含む複数の基材を金型内に配置し、複数の前記基材を圧縮成形することで、流動する複数の前記基材の流体の融合により樹脂会合部が形成されるとともに、前記基材は、前記樹脂会合部に沿った方向に流動し、前記成形体の前記樹脂会合部を含む第1領域は、前記樹脂会合部に沿って延在し、前記樹脂会合部と交差する方向において前記繊維の平均繊維長の2倍の長さとなる領域であり、かつ、前記第1領域における繊維配向度の平均値が0.19以上であることを特徴とする。
【0118】
これにより、成形の際に複数の基材を金型内に配置することで、樹脂会合部に沿って樹脂が流動する。この樹脂の流動により、樹脂会合部に沿った方向に繊維の向きが揃い第1領域で繊維配向度が大きくなる。そして、樹脂会合部で繊維配向度が大きくなると、複合材料成形品の表裏で繊維の回転挙動が同様の挙動となる。このため、複合材料成形品の製造方法は、表裏で繊維配向度が同等となり、第1領域で樹脂会合部に沿った方向の反りを抑制できる。
【0119】
以下、本発明の第二の実施態様につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0120】
(実施形態)
図13は、複合材料成形品の実施形態に係る成形体を模式的に示す平面図である。図14は、成形体に含まれる繊維束を模式的に示す平面図である。図15は、成形体に含まれる繊維束の他の例を模式的に示す平面図である。図16は、成形体の第1方向の位置と、繊維配向度との関係を示すグラフである。図17は、成形体の樹脂会合部の断面写真である。図18は、成形体の樹脂会合部を有さない部分の断面写真である。
【0121】
図13に示すように、成形体201は、樹脂202と複数の繊維束203とを含む成形材料を有する。成形体201は、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)であり、樹脂202の内部に複数の繊維束203が含浸されている。成形体201は、例えばシートモールディングコンパウンド(SMC:Sheet Molding Compound)法により成形される。成形体201は、平板状であり、4つの辺2010a、2010b、2010c、2010dを有する四角形状である。ただし、図13に示す成形体201は、説明を分かりやすくするために模式的に示している。成形体201は、スポーツやレジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等に幅広く用いられ、製品に応じた所望の形状に加工できる。
【0122】
樹脂202は、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化型樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂の場合、化学反応を伴うことなく冷却固化して形状を決定するので、短時間成形が可能であり、生産性に優れる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合した物であってもよい。なかでもポリプロピレン樹脂を好ましく使用することができる。熱硬化型樹脂の場合、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられ、なかでも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂を好ましく使用することができる。これらの樹脂を用いることにより、成形の際に樹脂が良好に流動する。このため、成形体1は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。また、成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラーなどを添加しておくこともできる。
【0123】
図14に示すように、繊維束203は、複数の繊維2031を有する。複数の繊維2031は、長手方向の向きが揃うように束ねられている。繊維束203はテープ状である。繊維束203の長さLfは、例えば25mm程度である。繊維束203の幅Wfは、例えば10mm程度である。繊維束203の厚さは、例えば200μm程度である。図14に示す繊維束203は、長尺の繊維束を裁断することで得られる。繊維束203の形状は、あくまで例示であり、適宜変更できる。本実施形態において、繊維長とは、繊維束203の長さLfであり、平均繊維長とは、成形体201に含まれる複数の繊維束203の、長さLfの平均である。また、配向とは、複数の繊維束203の長さ方向の向き、すなわち、繊維2031の向きが所定の方向に揃って配置されることを示す。
【0124】
繊維2031は、一例として炭素繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維及びガラス繊維が挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維及びガラス繊維から選ばれる少なくとも1種が用いられ、特に好ましくは炭素繊維である。これらの材料を用いることで、成形体201は軽量でかつ強度が高くなる。また、これらの材料を用いることで、成形体201は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。
【0125】
図15に示すように、他の例の繊維束203Aは、複数の繊維2031Aが束ねられてロープ状となっている。繊維2031Aは、例えばガラス繊維である。繊維束203Aの長さLfaは、例えば25mm程度である。繊維束203Aの幅Wfa及び厚さは、例えば100μm程度である。
【0126】
図13に示すように、成形体201は、樹脂会合部204を有する。樹脂会合部204は、ウェルドラインとも呼ばれる。樹脂会合部204は、成形体201の成形の際に、樹脂材料を含む複数の基材205(図19参照)が圧縮成形され、流動する複数の樹脂202の流体の融合により形成される。すなわち、樹脂会合部204は、繊維束203を含まず、樹脂202が線状に形成される部分である。樹脂会合部204は、第2方向Dyに沿って延在し、一方の辺2010aから他方の辺2010bに亘って連続して設けられる。
【0127】
以下の説明では、第1方向Dx及び第2方向Dyを用いて、成形体201を説明する場合がある。第1方向Dxは、成形体201の表面に平行な方向であって、樹脂会合部204と直交する方向である。第2方向Dyは、成形体201の表面に平行な方向であって、第1方向Dxと直交する方向である。
【0128】
図17は、図13のV-V’線に対応する位置での、成形体201の断面写真である。図18は、図13のVI-VI’線に対応する位置での、成形体201の断面写真である。なお、図17及び図18に示す成形体1は、後述する実施形態201、202と同様の製造方法で成形した。断面写真は、成形体201の断面を研磨した後、光学顕微鏡により倍率50倍で観察した。
【0129】
図17に示すように、成形の際に、流動する複数の樹脂202の流体の融合により樹脂会合部204が形成される。樹脂会合部204の近傍では、樹脂202は成形体201の厚み方向にも流動する。このため、樹脂会合部204の近傍の第1領域RS1では、繊維束203は厚み方向に配向する。繊維束203は、成形体201の表面に平行な方向に対して、45°以上傾斜して配向する。樹脂会合部204は、成形体201の表面から裏面に亘って形成され、樹脂202のみを有する樹脂リッチ領域を有する。これに対し、図18に示すように、樹脂会合部204から離れた非樹脂会合部領域(第2領域RS2)では、繊維束203と樹脂202とは、層状に積層されている。繊維束203は、成形体201の表面に平行な方向に配向する。繊維束203は、成形体201の表面に平行な方向に対して30°以下の角度を有して配向する。このように、成形体201は、第2領域RS2では樹脂リッチ領域を有さない。
【0130】
成形体201は、第1領域RS1と、第2領域RS2と、第3領域RS3とを有する。第1領域RS1は、樹脂会合部204を含み、樹脂会合部204に沿った領域である。樹脂会合部204の、第1方向Dxの幅は、繊維束203の平均繊維長の2倍である。第2領域RS2は、2つ設けられている。2つの第2領域RS2は、第1領域RS1を挟んで第1方向Dxに隣り合って設けられる。第3領域RS3は、2つ設けられている。2つの第3領域RS3は、それぞれ成形体201の端部に設けられ、辺2010c、2010dに沿った領域である。言い換えると、第1方向Dxに隣り合う第3領域RS3の間に、2つの第2領域RS2と1つの第1領域RS1が設けられている。
【0131】
第1領域RS1では、繊維束203の長手方向は、樹脂会合部204に沿った方向に揃って向けられている。これは、成形体201の成形の際に、樹脂202の流動に伴って繊維束203の向きが樹脂会合部204に沿った方向に揃うためである。一方、第2領域RS2では、第1領域RS1よりも第2方向Dyに対して傾斜する繊維束203の数が多くなり、繊維束203の向きがランダムに配置される。第3領域RS3では、繊維束203の長手方向は、それぞれ辺2010c、2010dに沿った方向に揃って向けられている。
【0132】
図16に示すグラフは、繊維2031の配向状態を数値化した繊維配向度を示している。繊維配向度は、国際公開第2016/208731号に開示された方法で算出することができる。
【0133】
具体的には、繊維強化樹脂材料にX線を照射して、繊維内部の結晶に起因したX線の回折強度を取り込んで、横軸を角度φとして、縦軸をX線の回折強度I(φ)とした1次元配向プロファイルを得る。得られた1次元配向プロファイルから、式(2”)のように配向係数aを求める。そして、式(1”)のように繊維配向度faを求める。
【0134】
【数14】
【0135】
【数15】
【0136】
一般的にfaは結晶配向度とよばれるが、炭素繊維中では黒鉛結晶は繊維軸方向に配向しているため、複合材料内部の黒鉛結晶の配向は繊維の配向と見なせる。そこで、ここではfaを繊維配向度と定義する。
【0137】
図16に示すグラフでは、横軸は、成形体1の第1方向Dxの位置を示す。縦軸は、繊維配向度を示す。図16では、繊維配向度が正の値において大きいほど、繊維束203が第2方向Dyに揃って配置されていることを示す。一方、繊維配向度が0に近い場合には、DxとDyの方向に配向する繊維量が等しい状態、例えば繊維束203の向きがランダムに配置されることを示す。
【0138】
図16に示すように、第1領域RS1での繊維配向度は、0.16、0.34、0.22である。第1領域RS1での繊維配向度の平均値は、0.24である。第2領域RS2での繊維配向度は、いずれも第1領域RS1での繊維配向度の平均値よりも小さい。第1領域RS1での繊維配向度の平均値は、第2領域RS2での繊維配向度の平均値よりも大きい。また、第3領域RS3での繊維配向度は、第2領域RS2での繊維配向度の平均値よりも大きい。
【0139】
具体的には、複合材料成形品は、第1領域を幅方向から挟む第2領域2a及び第2領域2bを有し、第1領域RS1での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域での下記繊維配向度f2aの平均値よりも大きく、かつ、第1領域RS1での繊維配向度fの平均値は、前記第2領域2bでの下記繊維配向度f2bの平均値よりも大きいことが好ましい。
【0140】
本実施形態の成形体201は、樹脂会合部204の近傍の第1領域RS1で繊維配向度が大きい。繊維配向度が大きい部分では、成形の際に、繊維束203の回転挙動が成形体1の表裏で同様の挙動となる。このため、成形体201は、表裏で繊維配向度が同等となり、第1領域RS1で樹脂会合部204に沿った方向の反りを抑制できる。
【0141】
また、第1領域RS1において、第1方向Dxの引張弾性率をExとする。また、第1領域RS1において、第2方向Dyの引張弾性率をEyとする。つまり、引張弾性率Eyは、繊維束203の配向が揃った方向での引張弾性率である。繊維2031として炭素繊維を用いた場合に、引張弾性率Exは、例えば10GPa程度であり、引張弾性率Eyは50GPa程度である。この場合、第1領域RS1の引張弾性率の比Ey/Exは、5.0である。引張弾性率Ex、Eyは、JIS K 7164に基づいて測定される。ここで、歪の値については試験片の長手方向中央に歪ゲージを貼り、引張試験を行った際の試験片が引っ張られる方向の歪の値を用いて算出した。
【0142】
また、繊維2031としてガラス繊維を用いた場合に、引張弾性率Exは、例えば8GPa程度であり、引張弾性率Eyは13GPa程度である。この場合、第1領域RS1の引張弾性率の比Ey/Exは、1.625である。
【0143】
比較例として、一方向プリプレグ材を用いた場合、繊維の向きは成形体の全体で一方向に揃う。このため、比較例では、繊維の配向が高い向きでの引張弾性率Eyは、200GPa程度である。一方、繊維の配向が高い向きと直交する方向での引張弾性率Exは、10GPa程度である。この場合、比較例における引張弾性率の比Ey/Exは、20である。
【0144】
繊維を有さない等方性の樹脂基板では、引張弾性率Ex及び引張弾性率Eyはいずれも3GPa程度である。この場合、等方性の樹脂基板における引張弾性率の比Ey/Exは、1である。
【0145】
以上のように、本実施形態の成形体201は、繊維配向度が大きい第1領域RS1において、樹脂会合部204に沿った方向の繊維配向度fの平均値は、0.19以上が好ましく、0.19以上0.50以下がより好ましく、0.20以上0.30以下がさらに好ましい。
なお、この繊維配向度fは、第1領域RS1における平均値であるが、第1領域RS1の各部分の値が上記範囲内であるのが好ましい。
また、本実施形態の成形体201は、繊維配向度が大きい第1領域RS1において、樹脂会合部204に沿った方向の引張弾性率Eyが、樹脂会合部204と交差する方向の引張弾性率Exよりも大きくなる。引張弾性率の比Ey/Exは、1.5以上6.0以下である。より好ましくは、引張弾性率の比Ey/Exは、1.6以上5.0以下である。
【0146】
これにより、成形体201は、樹脂会合部204に沿った方向で、成形体201の曲げ剛性が高くなり直線性が保たれる。このため、成形体201は、少なくとも第1領域RS1で、樹脂会合部204に沿った方向の反りを抑制できる。
【0147】
また、繊維束203は、成形体201の総量に対し、20質量%以上65質量%以下である。より好ましくは、繊維束203は、成形体201の総量に対し、30質量%以上60質量%以下である。例えば、繊維束203は、成形体201の総量に対し、50質量%程度である。
【0148】
繊維2031の含有量をこの範囲とすることで、成形の際に、樹脂202の流動に伴って繊維束203の向きが樹脂会合部204に沿った方向に良好に揃う。このため、成形体201は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。繊維束203の含有量が20質量%よりも小さい場合、成形体201の強度が低下する可能性がある。繊維束3の含有量が65質量%よりも大きい場合、成形の際に、流動させる材料の粘度が高くなり成形性が低下する可能性がある。
【0149】
(成形体の製造方法)
図19は、実施形態に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。図20は、実施形態に係る成形体の製造方法を説明するための説明図である。図21は、樹脂の流動と、繊維の向きの関係を説明するための説明図である。
【0150】
図19及び図20に示すように、複数の基材205は、金型20100内に離隔して配置される(ステップST1)。基材205は、SMC成形材料であり、樹脂202及び繊維束203を含む。基材205の製造方法は、例えば、まずシート状のポリエステル樹脂を用意する。シート状のポリエステル樹脂は、無水マレイン酸とグリコールの縮合反応によって得られたポリエステル樹脂に、スチレンと、ラジカル開始材であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN:azobisisobutyronitrile)を添加することによって得られる。そして、シート状のポリエステル樹脂に、繊維束203をランダムな角度になるように自然落下させた後に含浸させる。これにより、基材205が得られる。基材205が金型20100内に配置された状態で、繊維束203はランダムな向きで樹脂202に含浸されている。
【0151】
なお、基材205は、このような製造方法や配合に限定されない。基材205は、金型20100の内部で流動が可能であり、金型20100からの熱伝達によって架橋反応が始まり硬化する材料であればよい。
【0152】
図20に示すように、金型20100は、下型20101と上型20102とを有する。下型20101は、底部20101aと壁部20101bとを有する。底部20101aと壁部20101bとで凹部20101cが形成される。上型20102は、基部20102aと凸部20102bとを有する。凸部20102bは、下型20101の凹部20101cに挿入される。金型20100は、凸部20102b、底部20101a及び壁部20101bで囲まれた空間内で、基材205を圧縮成形できる。
【0153】
図19に示すように、2つの基材205は、下型20101の底部20101aに配置される。底部20101aの一辺の長さは、例えば30cmである。基材205は、三角形状であり、第1方向Dxに隣り合って配置される。基材205は、それぞれ下型20101の隅部に配置され、壁部20101bと接する。底部20101aの第1方向Dxでの中点を通り、第2方向Dyに延びる仮想線を対称軸としたときに、2つの基材205は、線対称に配置される。なお、基材205の形状や配置は、図19に示す例に限定されない。基材205は、円形状であってもよく、四角形状を含む多角形状等、他の形状であってもよい。3つ以上の基材205が、1つの金型20100に配置されていてもよい。
【0154】
次に、制御装置(図示しない)は、金型20100の温度を例えば145℃に設定し、金型20100の温度が上昇する。金型20100の温度は、例えばボイラから供給される蒸気や、電気ヒータ等により制御できる。また、制御装置は、圧縮成形の際に、熱電対等の温度センサにより金型20100の温度、又は、基材205の温度を検出することが好ましい。制御装置は、実測された温度と、蒸気や電気ヒータの設定温度とを比較することで、温度管理することが好ましい。
【0155】
制御装置は、上型20102を下型20101に向けて移動することで、基材205が圧縮成形される(図20、ステップST2)。基材205は、底部20101aと壁部20101bと凸部20102bとで囲まれた空間内を流動する。
【0156】
図21は、樹脂の流動と繊維配向度の関係をシミュレーションにより解析した結果を示す。図21では、1つの繊維束203を例示して、樹脂の流動に伴う繊維束203の向きの変化を模式的に示している。
【0157】
図21に示すように、基材205がプレスされていない状態(ステップST11)では、基材205はそれぞれ三角形状を有する。基材205に含まれる複数の繊維束203は、上述したようにランダムな向きで配置されているが、ステップST11では、繊維束203として、第1方向Dxに沿って配向されたものを例示している。基材205がプレスされると、2つの基材205は互いに近づくように圧縮変形し、端部同士が接触して樹脂会合部204が形成される(ステップST12)。同時に2つの基材205は矢印A1に示す方向に流動する。
【0158】
さらに基材205がプレスされると(ステップST13、ステップST14)、2つの基材5は矢印A1に示す方向に流動し、流動する複数の基材205の流体の融合により樹脂会合部204が第2方向Dyに沿って長くなる。このとき、樹脂会合部204の近傍での基材205の流動速度は、樹脂会合部204から離れた位置での流動速度よりも大きい。このため、繊維束203は、基材205の流動に伴って樹脂会合部204に沿うように回動する。そして、基材205は、金型20100の内部に充填される(ステップST15)。これにより、ステップST14、ステップST15に示すように、樹脂会合部4の近傍で繊維配向度が大きくなる。また、基材205の外周のうち、第2方向Dyに延びる辺の近傍では、壁部20101b(図19図20参照)に沿って基材5が流動する。このため、繊維束203は、基材205の流動に伴って壁部20101bに沿うように回動する。これにより、基材205の外周のうち、第2方向Dyに延びる辺の近傍で、繊維配向度が大きくなる。
【0159】
その後、基材205は、金型20100の内部で数分間保持される。これにより、基材205は、金型20100の形状が転写された状態で、架橋反応が進行し硬化する。その後、金型20100を開放する。これにより、硬化した成形体201が得られる。
【0160】
以上のような成形体201の製造方法により、成形の際に複数の基材205を金型20100内に離隔して配置することで、樹脂会合部204に沿って基材205が流動し、基材205の流動長さが長くなる。これにより、樹脂の流動に伴って、樹脂会合部204に沿った方向に繊維2031(繊維束203)の向きが揃う。このため、第1領域RS1(図13参照)で繊維配向度が大きくなる。そして、樹脂会合部204の近傍で繊維配向度が大きくなると、繊維2031の回転挙動は、成形体201の表裏で同様の挙動となる。このため、成形体201の製造方法は、表裏で繊維配向度が同等となり、第1領域RS1で、樹脂会合部204に沿った方向の反りを抑制できる。
【0161】
本発明の第二の実施態様に係る成形体201は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の繊維が、加熱加圧成形により、成形品の周縁部又は樹脂会合部における所定の部位まで移動する距離であるが、ここでは、チャージされた成形材料の周縁部から樹脂会合相当部までの最短距離と、この繊維が成形時に樹脂会合相当部に沿ってこの所定の部位まで移動する距離との合計値である。
言い換えれば、繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部又は樹脂会合部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計である。
この繊維流動長は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
【0162】
Rが0.2以上であれば、前記第1領域における繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の反りが低減されるともに機械特性が向上する傾向にある。好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは0.8以上である、特に好ましくは1.0以上である。
一方、Rが15.0以下であれば、前記第1領域における複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。好ましくは12.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは9.0以下であり、特に好ましくは8.0以下である。
Rは、0.3~12.0が好ましく、0.5~10.0がより好ましく、0.8~9.0がさらに好ましく、1.0~8.0が特に好ましい。
別の態様では、比Rは、0.2~15.0が好ましく、0.3~12.0がより好ましく、0.5~10.0がさらに好ましく、0.8~9.0が特に好ましく、1.0~8.0が最も好ましい。
【0163】
本発明の複合材料成形品は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
移動距離は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記位置P1から、前記位置P2までの長さL1-2である。
この移動距離L1-2は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
比rは、0.2~12.0が好ましく、0.4~10.0がより好ましく、0.8~8.0がさらに好ましく、1.0~6.0が特に好ましく、1.2~4.0が最も好ましい。
【0164】
成形時に流動する樹脂から力を受けることで、繊維が回転、並進し、成形中に繊維がこの流動方向に配向する傾向にあるが、本発明においてこの傾向は、繊維が成形時に成形金型の周縁部や樹脂会合部に沿って移動する際に顕著となる。
従って、上記の繊維流動長には、樹脂会合部に沿った移動距離を含むのが好ましい。
前記繊維の平均繊維長に対する、この移動距離の比をrとした場合、このrの値は0.2~12.0の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.4~10.0であり、さらに好ましくは0.8~8.0であり、特に好ましくは1.0~6.0であり、最も好ましくは1.2~4.0である。
rが0.2以上であれば、前記第1領域における繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の機械特性が向上する傾向にある。より好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは1.0以上であり、最も好ましくは1.2以上である。
一方、rが12.0以下であれば、前記第1領域における複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下であり、特に好ましくは6.0以下であり、最も好ましくは4.0以下である。
【0165】
また、本発明の第二の実施態様に係る成形体201は、例えば、SMC等の成形材料を成形金型に、チャージ率が10~80%となるようにチャージし、加熱加圧成形する方法により製造できる。
チャージ率は、成形金型の面積に対する成形材料の面積の割合である。
チャージ率が80%以下であれば、成形時に成形材料が大きく流動し、樹脂会合部に向かうにつれて強化繊維の配向方向が揃い、成形体201の第1領域RS1における繊維配向度fが高くなる。好ましくは、70%以下であり、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは50%以下であり、特に好ましくは40%以下であり、最も好ましくは35%以下である。
一方、チャージ率が10%以上であれば、成形時に成形材料が金型全体に行き渡りやすい。より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。
チャージ率は、10~70%が好ましく、10~60%がより好ましく、10~50%がさらに好ましく、15~40%が特に好ましく、20~35%が最も好ましい。
【0166】
また、本発明の第三の実施態様に係る複合材料成形品は、SMCのような樹脂と繊維とを含む成形材料を用いた複合材料成形品であって、
前記複合材料成形品の表面の面内の第2方向を0°方向、前記第2方向と直交する第1方向を90°方向とし、前記第1方向に沿った複数箇所について、X線回折法により0°方向を基準にした繊維配向度を測定して前記第1方向における前記繊維配向度fの分布を取得し、前記繊維配向度の分布を正規分布で近似したときの半値全幅が、5mm以上である、複合材料成形品である。
また、前記複合材料成形品の表面にウェルドラインが存在し、前記第2方向が、前記ウェルドラインに沿った方向である、複合材料成形品である。なお、本明細書において、ウェルドラインに沿った方向とは、ウェルドラインが直線の場合は、これと平行な方向であり、ウェルドラインが曲線の場合は、ウェルドラインの接線方向である。
さらに、SMCのような樹脂と繊維とを含む成形材料を、下記チャージ率が10~80%となるように金型のキャビティにチャージし、加熱加圧して前記キャビティの中で少なくとも2方向から合流するように流動させ、複合材料成形品を成形する、複合材料成形品の製造方法である。
チャージ率:前記金型のキャビティの面積に対する前記成形材料の面積の割合。
【0167】
(成形材料)
成形材料は、樹脂と繊維とを含むものであり、詳しくは、樹脂としてのマトリックス樹脂を含み、繊維として短繊維の強化繊維とを含むものである。
このマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化型樹脂を用いることができる。
【0168】
熱可塑性樹脂の場合、化学反応を伴うことなく冷却固化して形状を決定するので、短時間成形が可能であり、生産性に優れる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合した物であってもよい。なかでもポリプロピレン樹脂を好ましく使用することができる。
熱硬化型樹脂の場合、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられ、なかでも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂を好ましく使用することができる。これらの樹脂を用いることにより、成形の際に樹脂が良好に流動する。このため、成形物は、繊維配向度や引張弾性率を制御することができる。
また、成形物の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラーなどを添加しておくこともできる。
【0169】
上記樹脂は1種以上を適宜選択して用いることができるが、本発明においては、マトリックス樹脂として未硬化の熱硬化性樹脂を含み、繊維として短繊維の強化繊維を含むSMC(シートモールディングコンパウンド)が成形材料として好適である。
一方、予めマトリックス樹脂が含浸した強化繊維束をマトリックス樹脂シートに分散させて成形材料を製造する場合、マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0170】
上記の繊維として使用できる強化繊維としては、特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維等を挙げることができる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられる。ハイブリッド構成の強化繊維としては、金属を被覆した炭素繊維が挙げられる。強化繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、複合材料成形品の強度等の機械物性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。
また、成形材料に用いる繊維の平均繊維長は、5~100mmが好ましく、10~75mmがより好ましく、20~60mmがさらに好ましい。この平均繊維長が前記下限値以上であれば、引張強度、弾性率等の機械物性に優れた複合材料成形品が得られ、前記上限値以下であれば、成形時に成形材料がより流動しやすくなるため、成形が容易になる。
【0171】
この繊維は、典型的には、複数の強化繊維を束ねた強化繊維束の形態で用いられる。強化繊維束は、典型的には、連続する強化繊維からなる強化繊維束を所定の長さで切断して得られる。強化繊維束のフィラメント数は、例えば炭素繊維束を用いる場合には、通常1000~60000程度である。
【0172】
SMC等の成形材料中の強化繊維の含有量は、成形材料の流動性、複合材料成形品の要求性能等にあわせて適宜選定できる。強化繊維の含有量が多いほど、強化繊維による補強効果が充分に発揮され、複合材料成形品の機械強度が優れる傾向がある。また、強化繊維の含有量が少ないほど、成形材料の成形時の流動性が優れる傾向がある。
強化繊維が炭素繊維である場合、炭素繊維の含有量は、成形材料の総質量に対し、例えば20~60質量%であってよい。
【0173】
(複合材料成形品)
本発明の複合材料成形品は、SMC等の成形材料を用いた成形品である。
本発明の複合材料成形品は、典型的には、SMCのプレス成形品である。
本発明の複合材料成形品の形状は、特に限定されず、例えばシート状、部分的に肉厚の異なる形状、リブやボスを有する形状等であってよい。
【0174】
本発明の複合材料成形品の表面には、典型的には、ウェルドラインが存在する。
ウェルドラインは、成形時に金型のキャビティの中で流動するSMC等の成形材料が2方向から合流することにより形成されたライン状に観察される合流部である。
ウェルドラインは、例えば、プレス成形において、金型のキャビティにチャージした成形材料を、加熱加圧してキャビティの中で少なくとも2方向から合流するように流動させた場合に形成される。
ウェルドラインの場所は、目視でわかる場合もあれば、キャビティに対する成形材料のチャージパターンから数学的に、又はシミュレーション等を用いて類推することができる。
【0175】
本発明の複合材料成形品は、下記の半値全幅が5mm以上である。
半値全幅:複合材料成形品の表面内の第2方向を0°方向とし、前記第2方向と直交する第1方向を90°方向とし、この第1方向に沿った複数箇所について、X線回折法により0°方向を基準にした繊維配向度(以下、繊維配向度fともいう。)を測定し、前記第1方向における繊維配向度fの分布を取得し、繊維配向度fの分布を正規分布で近似したときの半値全幅。
【0176】
複合材料成形品の表面にウェルドラインが存在する場合、ウェルドラインに沿った方向が第2方向である。
従来、SMC等を用いた複合材料成形品のウェルドライン付近は、強化繊維がウェルドラインに沿って配向するため、ウェルドラインに沿った方向(第2方向)に比べ、ウェルドラインと直交する方向(第1方向)の機械強度が低下する問題があった。また、ウェルドラインによる外観不良の問題もあった。
【0177】
本発明においては、前記半値全幅が5mm以上であるため、ウェルドラインが存在していても、ウェルドラインと直交する方向の機械強度が充分に優れる。また、ウェルドラインが目立たず、外観が優れる。
SMCを用いた複合材料成形品のウェルドラインは、実際には「線」として観測されず、ある程度の幅をもって観測される。その幅が機械特性や外観不良に大きく影響する。
前記半値全幅は、ウェルドラインと直交する方向において繊維配向度が比較的高い領域の幅の指標であり、ウェルドラインの幅の指標といえる。
本発明者らの検討によれば、前記半値全幅が広いほど、ウェルドラインと直交する方向における機械強度の低下が抑制されており、結果として、複合材料成形品の機械強度が、ウェルドラインに沿った方向及びウェルドラインと直交する方向のいずれにおいても優れる。また、前記半値全幅が大きいほど、ウェルドラインの幅が広く、ウェルドラインが目立ちにくくなり、外観が良好となる。
一方、前記半値全幅が5mm未満であると、強化繊維がウェルドラインに沿った方向に大きく配向し、かつその領域が狭いことから、ウェルドラインと直交する方向の引張強度を測定する際に、ウェルドラインが応力集中点となって破壊の起点となる。
【0178】
前記半値全幅は5mm以上が好ましく、20mm以上がより好ましく、40mm以上がさらに好ましく、100mm以上がさらに好ましく、200mm以上が特に好ましく、1000mm以上が最も好ましい。
また、前記半値全幅は10000mm未満が好ましく、8000mm未満がより好ましく、6000mm未満がさらに好ましく、4000mm未満がさらに好ましく、3000mm未満が特に好ましく、2000mm未満が最も好ましい。
具体的には、5mm以上10000mm未満であるのが良く、20mm以上8000mm未満が好ましく、40mm以上6000mm以下がより好ましく、100mm以上4000mm以下がさらに好ましく、200mm以上3000mm以下が特に好ましく、1000mm以上2000mm未満が最も好ましい。
ここで、ウェルドラインが存在しない複合材料成形品において、任意の場所を中心に直線で50mmの範囲で繊維配向度fの分布を取得して前記半値全幅を算出すると、前記半値全幅は1000mm以上となる。つまり、前記半値全幅が1000mm以上となると、ウェルドラインの存在は無視できる程度になる。
一方、前記半値全幅が10000mm以上の複合材料成形品を得るには、SMC等の成形材料の段階で強化繊維を高度に均一分散させる技術や、流動シミュレーションにもとづいて金型を精密に設計する技術の開発が新たに必要となり、開発コストの増加につながる問題がある。開発コストを抑制できる点では、前記半値全幅は、10000mm未満であるのが良く、2000mm未満が好ましい。
前記半値全幅は、後述する製造方法におけるチャージ率、チャージパターン等によって調整できる。SMCが2方向から合流する場合、その合流部の角度である会合角が小さいほど前記半値全幅が大きくなる傾向がある。
【0179】
繊維配向度fは、国際公開2016/208731号に記載されるように、複合材料成形品にX線を照射することによって生じる回折像(デバイ環)から求められる値であり、回折角2θが25.4°の回折X線を検出し、下式(1)、(2)及び(3)により求められる。
【0180】
【数16】
【0181】
ただし、式(1)中、aは、式(2)で表される配向係数である。I(φi)は、X線回折測定におけるi番目の回転角度(φi)の輝度(回折強度)であり、式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものである。また、式(3)中のNは、測定点数であり、前記測定点数は、測定対象硬化物を測定毎に回転させる角度であるステップサイズ(°)で360(°)を除した値である。同式中のdφは、測定対象硬化物まわりの回転角の微小領域を表し、ここでは前記ステップサイズの値に等しい。
【0182】
第1方向における繊維配向度fの分布は、具体的には、以下の方法で測定される。
複合材料成形品から、第1方向に沿って試験片を切り出し、得られた試験片を、第1方向にn等分にカットしてn個の評価サンプルを作製する。nは、5以上の整数である。次いで、各評価サンプルについて、以下の手順で繊維配向度fを求める。
X線装置を用い、前記評価サンプルに透過法でX線を照射しながら、前記評価サンプルを、その厚さ方向を軸に回転させ、回折角2θ=25.4°に配置した検出器で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φi)における輝度(I(φi))を測定する。ただし、I(φi)は、前記式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。また、φ=0°は第2方向であり、φ=90°は第1方向である。回折X線の取り込み条件は、後述する実施例に記載の条件とする。次いで、測定したI(φi)を用いて、前記式(2)により配向係数aを求める。さらに、得られた配向係数aを用いて、前記式(1)により繊維配向度fを算出する。
前記試験片の第1方向の一端の位置を0mmとしたときの各評価サンプルの第1方向中心位置(mm)を横軸に、各評価サンプルの繊維配向度fを縦軸にプロットして、第1方向における繊維配向度fの分布を得る。
得られた繊維配向度fの分布を正規分布で近似し、得られた正規分布の半値全幅、つまり最大値の1/2の繊維配向度fにおける幅(mm)を算出する。正規分布の近似と半値全幅の算出は、フィッティングソフトを用いて実施できる。
第2方向における切り出し位置を変更して切り出した4個の試験片について上記と同様に半値全幅を算出し、それらの平均値を、複合材料成形品の半値全幅とする。
【0183】
試験片の幅(第2方向における長さ)は、例えば10mm程度である。
試験片の長さ(第1方向における長さ)は、50mm以上が好ましい。
nの値、つまり第1方向における測定点数は、繊維配向度の分布を正規分布で近似するため、5点以上が好ましい。nの値は、第1方向における評価サンプルの長さ、つまり隣り合う測定点間の距離が、5~10mmとなるように設定されることが好ましい。
複合材料成形品の表面にウェルドラインが存在する場合、試験片は、ウェルドラインの位置が試験片の第1方向中心部になるように切り出されることが好ましい。
【0184】
繊維配向度fと引張強度の対応付けを行う場合は、引張試験に用いた試験片から繊維配向度f測定用の試験片を切り出してよい。この場合、繊維配向度fの測定を予定していた箇所が破断し形状が乱れて測定ができない場合は、その近傍の繊維配向度fを代用することも可能である。
【0185】
繊維配向度f>0であれば、強化繊維が第2方向に配向していることを示し、繊維配向度f=0であれば、強化繊維が等方的に分散していることを示し、繊維配向度f<0であれば、強化繊維が第1方向に配向していることを示す。
複合材料成形品の繊維配向度fの分布において、第2方向の機械特性を得たい場合は、第2方向における各部分の繊維配向度fが、0.1~0.6の範囲内であることが好ましく、0.2~0.4の範囲内であることがより好ましいが、第2方向における繊維配向度fの平均値が、この範囲内であれば良い。
【0186】
(複合材料成形品の製造方法)
本発明の第三の実施態様に係る複合材料成形品は、例えば、SMCを金型のキャビティに、チャージ率が10~80%となるようにチャージし、加熱加圧して前記キャビティの中で少なくとも2方向から合流するように流動させ、複合材料成形品を成形する方法により製造できる。
【0187】
チャージ率は、金型のキャビティの面積に対するSMCの面積の割合である。
チャージ率が80%以下であれば、SMCの流動性を活かした部材の成形が可能である。これよりも高いチャージ率は、金型キャビティにSMCを精密に配置する作業負荷が生じる。より好ましくは、75%以下であり、さらに好ましくは70%以下である。
一方、チャージ率が10%以上であれば、成形時にSMCがキャビティ全体に行き渡りやすい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。特に好ましくは25%以上である。
チャージ率は、10~80%が好ましく、15~75%がより好ましく、20~75%がさらに好ましく、25~70%が特に好ましい。
【0188】
また本発明の第三の実施態様に係る複合材料成形品は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記繊維流動長の比Rが0.2~15.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の繊維が、加熱加圧成形により、成形品の周縁部又は樹脂会合部における所定の部位まで移動する距離であるが、ここでは、チャージされた成形材料の周縁部から樹脂合流(ウェルドライン)相当部までの最短距離と、この繊維が成形時に樹脂会合相当部に沿ってこの所定の部位まで移動する距離との合計値である。
言い換えれば、繊維流動長は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記チャージされた際の位置P0から、成形金型の周縁部又は樹脂会合相当部まで移動した後の位置P1までの長さL0-1と、成形終了時までに、さらに前記位置P1から成形金型の周縁部又は樹脂会合相当部に沿って移動した後の位置P2までの長さL1-2との合計である。
この繊維流動長は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
【0189】
Rが0.2以上であれば、前記第1方向やウェルドライン、及びこの近傍を含む領域における繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の機械強度が向上する傾向にある。好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは1.0以上である。
一方、Rが15.0以下であれば、前記領域における複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。好ましくは12.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは9.0以下であり、特に好ましくは8.0以下である。
Rは、0.3~12.0が好ましく、0.5~10.0がより好ましく、0.8~9.0がさらに好ましく、1.0~8.0が特に好ましい。
別の態様では、比Rは、0.2~15.0が好ましく、0.3~12.0がより好ましく、0.5~10.0がさらに好ましく、0.8~9.0が特に好ましく、1.0~8.0が最も好ましい。
【0190】
本発明の複合材料成形品は、例えば、樹脂と繊維とを含むSMC等の成形材料を前記繊維の平均繊維長に対する下記移動距離の比rが0.2~12.0の範囲となるように成形金型にチャージし、加熱加圧成形することにより製造できる。
移動距離は、成形金型にチャージされた成形材料の端部の各繊維が、前記位置P1から、前記位置P2までの長さL1-2である。
この移動距離L1-2は、事前の試験成形や樹脂流動シミュレーションにより求めることができる。
【0191】
成形時に流動する樹脂から力を受けることで、繊維が回転、並進し、成形中に繊維がこの流動方向に配向する傾向にあるが、本発明においてこの傾向は、繊維が成形時に成形金型の周縁部や樹脂合流(ウェルドライン)相当部に沿って移動する際に顕著となる。
従って、上記の繊維流動長には、樹脂合流(ウェルドライン)相当部に沿った移動距離を含むのが好ましい。
前記繊維の平均繊維長に対する、この移動距離の比をrとした場合、このrの値は0.2~12.0の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.4~10.0であり、さらに好ましくは0.8~8.0であり、特に好ましくは1.0~6.0であり、最も好ましくは1.2~4.0である。
rが0.2以上であれば、前記領域における繊維配向度fを充分に高めることができ、複合材料成形品の機械特性が向上する傾向にある。より好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは1.0以上であり、最も好ましくは1.2以上である。る。
一方、rが12.0以下であれば、前記領域における複合材料成形品の中の繊維の分布ムラを低減させることができ、欠陥部分の発生を抑えることができる傾向にある。より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下であり、特に好ましくは6.0以下であり、最も好ましくは4.0以下である。
【0192】
金型は、複合材料成形品に対応した形状のキャビティを有するものが用いられる。
キャビティの形状、つまり複合材料成形品の形状は、平面視矩形(正方形、長方形等)が好ましいが、これに限定されるものではなく、任意の形状であってよい。
【0193】
SMC等の成形材料は、公知の製造方法により製造したものでもよく、市販のものでもよい。
SMCの製造方法は広く知られており、例えば国際公開第2016/208731号を参考に製造することが可能である。
SMCの面積(平面視での大きさ)は、成形時のチャージ率に応じて設定される。
キャビティにチャージするSMCは、1枚でもよく複数枚でもよい。
【0194】
SMCを、キャビティの中で少なくとも2方向から合流するように流動させる方法としては、例えば、キャビティの複数箇所にSMCをチャージする方法、平面視で外縁に切り欠き等の内側に凹んだ屈曲部を有する形状(略L字状、略V字状等)でSMCをキャビティにチャージする方法、キャビティ内部にピンが設けられている金型を用いる方法が挙げられる。
キャビティ内部にピンがあると、流動するSMCがピンで分岐し、ピンを通り越したところで合流する。キャビティ内部にピンがある場合、得られる複合材料成形品は、ピンに対応した形状の孔を有する。
【0195】
キャビティの複数箇所にSMCをチャージする場合、又は平面視で外縁に前記屈曲部を有する形状でSMCをキャビティにチャージする場合、そのチャージパターンは、成形時にSMCが2方向から合流する際の合流角度である会合角が0°より大きくなる(例えば40~70°になる)ように設定されることが好ましい。これにより半値全幅がより広くなる。このようなチャージパターンとしては、例えば、図29B図29Cに示すように、2方向のSMCの流動方向それぞれの先端側の辺同士のなす角度が0°より大きいパターンが挙げられる。
ただし、本発明におけるチャージパターンはこれに限定されるものではない。本発明のポイントは、その会合角が0°であっても機械強度に優れた複合材料成形品が得られることにある。
【0196】
成形条件としては、例えば金型温度140℃、圧力8MPaにて3分間加熱加圧する条件、又はこれと同等の条件が挙げられる。
【0197】
以上説明した本発明の複合材料成形品にあっては、半値全幅が5mm以上であるため、ウェルドラインが存在していても機械強度に優れる。また、ウェルドラインが存在していても外観が良好である。
【0198】
複合材料成形品の機械強度(引張強度、曲げ強度等)を取得するには、複合材料成形品から湿式カッター等を用いて試験片を切り出して、万能試験機を用いて評価すればよい。
ウェルドラインが機械強度に与える影響を調べるには、半値全幅を求める際に、試験片の中央部にウェルドラインが入るように切り出せばよい。さらに、試験片の機械強度を、ウェルドラインが存在しない場合の機械強度で除することで機械特性の保持率を求めることができる。ウェルドラインが存在しない場合の機械強度としては、SMCを金型のキャビティに対して隙間なくチャージする(チャージ率100%)以外は同じ成形条件で成形した複合材料成形品の機械強度を用いることができる。
ウェルドラインが外観に与える影響を調べるには目視でSMCを用いた成形品の表面を観察して判断することができる。
【0199】
本発明によれば、複合材料成形品にウェルドラインが存在する場合に、機械強度が弱いとされる、ウェルドラインと直交する方向の引張強度の保持率を40%以上、さらには60%以上にすることが可能である。
【実施例
【0200】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、複合材料成形品の製造に使用する金型の形状や成形温度や圧力等は、実施例で使用するものに限定されない。例えば、複合材料成形品の形状は平面視で正方形及び長方形のものに限定されるものではなく、任意の形状の複合材料成形品に対して有効である。複合材料成形品の製造に使用する金型の形状についても同様である。例えば、次のような成形品が得られるような金型が使用できる。図4に示したようなリブを持つ成形品、図5に示した湾曲した形状を持つ成形品、図6に示したボルト形状の成形品等。その他、種々の形状が可能である。なかでも、図1に示すような平板状の成形品が好ましい。
【0201】
<SMC>
成形材料A:製品名「STR120N131-KA6N」(三菱ケミカル(株)製)。
【0202】
<SMCを用いた複合材料成形品の作製>
縦296mm×横296mm×厚さ2mmの金型を用意した。
製造例1では、前記成形材料A(SMC)を、チャージ率が33%になる大きさ(縦171mm×横171mm)にカットし、図7に示すように、カットしたSMCの3枚(合計236g)を積層し、金型100の一隅に、金型との間に数mm程度の隙間が空くように寄せて配置し、以下の成形条件で成形し、複合材料成形品を得た。
製造例2では、前記成形材料A(SMC)を、チャージ率が96%になる大きさにカットし、図8に示すように、カットしたSMCの1枚(236g)を、金型100の中央に配置し、以下の成形条件で成形し、複合材料成形品を得た。
製造例3では、前記成形材料A(SMC)を、チャージ率が49%になる大きさにカットし、図9に示すように、カットしたSMCの2枚(合計236g)を積層した以外は製造例1と同様にして、複合材料成形品を得た。
【0203】
(成形条件)
金型温度:140℃
圧力:8MPa
加圧時間:3分間
【0204】
<繊維配向度の測定>
得られた複合材料成形品の端部のうち、図7~9中に符号4a~4cで示した位置に対応する部分を、金属カッターで縦1cm×横1cm程度に切り出し、繊維配向度fの測定のための試験片とした。得られた試験片の、側端面からの距離が異なる4箇所について、以下の測定装置を用い、以下の手順で繊維配向度fを測定した。前記4箇所は、前記側端面に対して垂直な垂線に沿った直線上にある。
試験片の所定の測定範囲に透過法でX線を照射しながら、試験片を、その厚さ方向を軸に回転させ、以下の測定条件で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φ)における輝度(I(φ))を測定した。ただし、I(φ)は、前記式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。次いで、測定したI(φ)を用いて、前記式(2)により配向係数aを求めた。さらに、得られた配向係数aを用いて、前記式(1)により繊維配向度fを算出した。
【0205】
(測定装置)
X線回折装置:Empyrean(PANalytical社製)
【0206】
(測定条件)
スキャンレンジ(°):0.00-359.60
ステップサイズ(°):0.40
積算時間/1ステップ(s):4.00
2θ(°):25.4
電圧(kV):45
電流(mA):40
(フィルター)
Beta-filter Nickel
材質:Ni
厚さ(mm):0.02
マイクロゲージ絞り(mm):0.5
【0207】
測定結果を表1に、試験片の4箇所の測定位置(mm)、各測定位置の測定範囲(側端面からの距離(mm))、各測定箇所の繊維配向度fとその平均値を示す。ここで、測定位置の定義はX線照射領域のうち、第1の端部の側端面から最も近い点である。なお、実施例1、及び比較例1においては、測定位置0mm及び7mmを、前記垂線に沿った直線上の両端部とみなすことができ、測定位置0mmから7mmまでの領域が領域Aに該当する。実施例2においては、測定位置0mm及び6mmを、前記垂線に沿った直線上の両端部とみなすことができ、測定位置0mmから6mmまでの領域が領域Aに該当する。実施例3と実施例4においては、測定位置0mmから8mmまでの領域が領域Aに該当する。比較例2においては、測定位置0mmから7.5mmまでの領域が領域Aに該当する。
また、図10に、実施例1~2及び比較例1における測定位置(mm)を横軸(x軸)に、繊維配向度fを縦軸(y軸)にとってプロットしたグラフを示す。このグラフから線形近似により得た一次関数を図10中に併記した。Rは決定係数を示す。
【0208】
<Rとrの算出方法>
Rの算出に用いる繊維流動長は、金型にチャージした成形材料(SMC)の繊維が、加熱加圧成形により、成形品の周縁部又は樹脂会合部における所定の部位まで移動する距離であるが、ここでは、チャージされた成形材料の周縁部から成形金型の周縁部までの最短距離と、この繊維が成形時に成形金型の周縁部に沿ってこの所定の部位まで移動する距離との合計値とした。
rの算出にも必要となる、繊維が成形時に成形金型の周縁部に沿って所定の部位まで移動する距離は、樹脂流動シミュレーションソフトである3DTIMON(東レエンジニアリング製)を用いて、実際の成形材料の成形時のような金型の下型と上型の間に存在する空間をオイラーメッシュと呼ばれる要素で表現し、その中に成形材料が配置され、上下型が閉じた時の形状まで圧縮成形された時の流動挙動を予測することで算出した。
【0209】
<機械物性(耐衝撃性)の評価>
複合材料成形品の機械物性として耐衝撃性を以下の手順で評価した。結果を表2に示す。
耐衝撃性試験:表2に示す各場所から縦1.5cm×横1.5cm×厚さ2mmの複合材料成形品のサンプルを切り出した。各サンプルを、図12に示すように、複合材料成形品の側端面の面Eが上になるように床に固定し、各サンプルの面Eの真上69.5cmの位置から508gの鉄球を自由落下させて面Eに当てた。
評価方法:図12に示すように、各サンプルの面E(衝撃を受けた面)の長手方向両側それぞれにおいて面Eと隣り合う側面F,Gそれぞれに亀裂が発生しているかどうかを目視で観察した。また、側面F,Gそれぞれにおける、面Eに対して垂直方向の亀裂の長さの値L1,L2(mm)を読み取り、それらの和(L1+L2)を求め、耐衝撃性の指標とした。L1+L2が0(mm)であることは、亀裂が発生しなかったことを示す。
各サンプルそれぞれの(L1+L2)の値を表2に示す。また、これらの結果から、以下の基準で耐衝撃性を評価した。
A:L1+L2が20以下。
B:L1+L2が20より大きい。
【0210】
【表1】
【0211】
【表2】
【0212】
上記結果に示すとおり、Rを0.2~15.0、rを0.2~12.0とし、チャージ率を10~80%とした実施例では、領域Aの繊維配向度fが0.10以上1.0以下であり、同領域で前記関数の傾きが負の値である複合材料成形品が得られた。また、これらの複合材料成形品は、比較例の複合材料成形品に比べて、機械物性(耐衝撃性)に優れていた。
【0213】
以下、第二の実施態様に係る複合材料成形品に関する実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0214】
(実施例)
図22は、実施例21に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。図23は、実施例22に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。図24は、比較例21に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。図25は、比較例21に係る成形体の製造方法を説明するための説明図である。図26は、比較例22に係る成形体の製造方法を示す、金型内での基材の配置例を示す説明図である。図27は、実施例及び比較例に係る成形体の、繊維配向度と反りの関係を示すグラフである。図28は、成形体の反り形状の一例を示す、第2方向の位置と、高さとの関係を示すグラフである。
【0215】
図22から図26に示す、実施例21、22及び比較例21、22に用いた基材205A、205B、205C、205Dは、いずれも同じ材料、配合で形成される。基材205A、205B、205C、205Dは、製品名「STR120N131-KA6N」(三菱ケミカル(株)製)を使用した。実施例21、22及び比較例21、22において、成形条件は同じである。すなわち、金型温度は140℃、荷重は72トン、型締速度1mm/min、型閉じ後の成形時間3分で成形を行った。
【0216】
図27及び図28に示す、成形体の反りは、図13に示す成形体201の樹脂会合部204に沿って測定した結果を示す。なお、比較例22は、樹脂会合部204が形成されないが、成形体201の樹脂会合部204に相当する位置で測定を行った。つまり、実施例及び比較例ともに、成形体の第1方向Dxの中央部分で、第2方向Dyに沿った方向の反りを測定した。
【0217】
反りは、各基材205A、205B、205C、205Dの圧縮成形後、得られた成形体を23℃の温度で1日以上静置した後に行った。反りの測定は3次元測定器を用いた。3次元測定器は、測定器の定盤の上に配置された成形体の表面に、レーザ光を走査することで、非接触で成形体の形状を測定できる。3次元測定器は、定盤面内をXY軸、高さ方向をZ軸として、成形体の表面のZ軸方向の値(高さ)をXY面内で測定することによって、成形体の反り形状を測定できる。
【0218】
図28は、図13に示す成形体201について反り形状の一例を説明するためのグラフである。図28は、成形体201の一方の辺2010aの中央から、他方の辺2010bの中央まで、樹脂会合部204に沿って反り形状を測定した結果の一例である。図28に示すように、辺2010aの高さと、他方の辺2010bの高さとを結ぶ線を仮想線C1とする。仮に成形体201に反りが発生していない場合、成形体201の反り形状は仮想線C1と一致する。本実施例及び比較例において、樹脂会合部204に沿った高さと、仮想線C1との差分ΔTを算出し、複数箇所の差分ΔTの絶対値の平均値を成形体201の反りとした。実施例及び比較例の成形体201は、同一の方法で反りを測定している。
【0219】
実施例21、22及び比較例22において、金型20100は、図20に示す金型を用いた。実施例21、22及び比較例22の成形体は、図19の成形体201と同様に、一辺が30cmの四角形状であり、板厚はいずれも2mmである。また、比較例21では、図25に示す金型20100Aを用いた。図25は、金型20100Aを、幅方向と厚さ方向に沿うように切断したときの断面図である。図25に示すように、金型20100Aの下型20101Aは、基部20101Aaと凸部20101Abとを有する。上型20102Aは、上部20102Aaと壁部20102Abとを有する。上部20102Aaと壁部20102Abとで凹部20102Acが形成される。金型20100Aが締結された状態で、凸部20101Abは凹部20102Ac内に配置され、凸部20101Abの側面は、壁部20102Abと離隔する。これにより、比較例21の成形体は箱型となる。
【0220】
図22に示すように、実施例21の基材205Aは、それぞれ略長方形状である。基材205Aの幅Wsaは80mm、長さLsaは130mm、厚さは6mmである。2つの基材205Aは、第2方向Dyにおいて、底部20101aの第2方向Dyの中点と重なる位置に配置される。また2つの基材205Aは、第1方向Dxに離隔して配置される。この場合、2つの基材205Aが金型20100の内部で圧縮されると、基材205Aの流動により、底部20101aの中央部分で基材205Aの接触が開始する。基材205Aは、接触位置から、図22の上下方向に流動して圧縮変形する。これにより樹脂会合部204が形成される。基材205Aの、樹脂会合部204に沿った最大流動長は150mmである。また、基材のチャージ率は23%であり、繊維流動長は84mmであり、Rは3.3、rは2.4であった。
【0221】
図23に示すように、実施例22の基材205Bは、それぞれ三角形状である。基材205Bの底辺の長さBaは150mm、高さHaは150mm、厚さは8mmである。2つの基材205Bは、図19と同様に、第1方向Dxに隣り合って配置される。2つの基材5Bの底辺は、底部101aの同じ辺に設けられている。また、図19に示す例とは異なり、実施例22の基材205Bは三角形状の頂点が接して配置される。この場合であっても、2つの基材205Bが金型20100の内部で圧縮されると、基材205Bの流動により、底部20101aの一辺の近傍で基材205Bの接触が開始する。基材205Bの、樹脂会合部204に沿った最大流動長は300mmである。また、基材のチャージ率は25%であり、繊維流動長は206mmであり、Rは8.1、rは8.1であった。
【0222】
図24に示すように、比較例21の基材205Cは、それぞれ三角形状である。基材205Cの底辺の長さBbは280mm、高さHbは140mm、厚さは32mmである。2つの基材205Cは、第1方向Dxに隣り合って配置される。2つの基材205Cは、凸部20101Abの上に、頂点どうしが向かい合って配置される。本実施例では、図25に示す金型20100Aが用いられる。2つの基材205Cが金型20100Aの内部で圧縮されると、基材205Cの流動により、凸部20101Abの中央部で基材205Cの接触が開始する。基材205Cは、図25に示す凸部20101Abと上部20102Aaとの間を流動し、さらに、凸部20101Abの側面と壁部20102Abとの間を流動する。これにより、比較例21の成形体は箱形に形成される。基材205Cの、樹脂会合部204に沿った最大流動長は220mmである。また、基材のチャージ率は44%であり、繊維流動長は120mmであり、Rは4.7、rは4.3であった。
【0223】
図26に示すように、比較例22の基材205Dは四角形状である。基材205Dは、底部20101aに1つ配置されている。基材205Dの幅Wsbは168mm、長さLsbは168mm、厚さは6mmである。比較例22では、1つの基材205Dのみであり、チャージ率は33%であったが、樹脂会合部204は形成されない。基材205Dが金型20100の内部で圧縮されると、第1方向Dx及び第2方向Dyに流動する。このため、特定の領域で繊維配向度を制御することは困難である。
【0224】
図27に示すように、実施例21の成形体の反りは、0.79mmである。また、実施例21の成形体の第1領域RS1での繊維配向度の平均値は、0.22である。実施例22の成形体の反りは、0.82mmである。また、実施例22の成形体の第1領域RS1での繊維配向度の平均値は、0.21である。
【0225】
比較例21の成形体の反りは、1.70mmである。また、比較例21の成形体の第1領域RS1での繊維配向度の平均値は、0.18である。比較例22の成形体の反りは、0.75mmである。また、比較例22の成形体は樹脂会合部204を有さないが、繊維配向度の平均値は、0.075である。
【0226】
以上の結果から、基材205A、205Bを金型20100内の複数箇所に配置することで、成形の際に基材205A、205Bが樹脂会合部204に沿って流動する。これにより、樹脂会合部204の近傍の第1領域RS1で繊維配向度の平均値を大きくすることができる。そして、第1領域RS1での繊維配向度の平均値を0.19以上とすることにより、樹脂会合部204に沿った第1領域RS1での反りを抑制できることが示された。
【0227】
なお、各実施例はあくまで一例であり、基材205A、205Bの形状、配置等は適宜変更できる。例えば、基材205A、205Bの配置、数を変更することで、成形体201は、樹脂会合部204を任意の場所に形成できる。例えば、成形体201と別部材と連結する場合など、成形体201の別部材との連結部分に直線性が要求される。成形体201の連結部分に樹脂会合部204を形成することで、成形体201は、少なくとも連結部分の反りを抑制して直線性を確保できる。
【0228】
また、比較例21に示した基材205Cの配置であっても、基材205Cの、樹脂会合部204に沿った流動長さを長くすることで、繊維配向度の平均値を0.19以上にして反りを抑制できる可能性がある。
【0229】
以下、第三の実施態様に係る複合材料成形品に関する実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、例えば、使用する金型の形状や成形温度や圧力などは、これらの例に限定されるものではない。
【0230】
(SMC)
本実施例において、SMCとしては、下記のものを使用した。
製品名「STR120N131-KA6N」(三菱ケミカル(株)製)。
【0231】
(実施例31)
<SMCを用いたサンプル(複合材料成形品)の作製>
図29Aに示すように、30mm(縦)×200mm(横)の長方形状にカットしたSMCを2枚積層した積層物3011を、金型のキャビティ3020(120mm(縦)×200mm(横)×2mm(厚さ))に、キャビティ3020の縦方向の両端の位置にチャージした。次いで、以下の成形条件で成形し、120mm(縦)×200mm(横)×2mm(厚さ)の複合材料成形品を得た。
なお、このようにチャージした場合、複合材料成形品の縦方向(第1方向)の中央部分にウェルドラインが生じることが容易に類推できる。後述する実施例32~33においても同様である。したがって、実施例31~33においては、複合材料成形品の横方向を第2方向、縦方向を第1方向とした。実際、実施例31~33で得られた複合材料成形品の縦方向の中央部分の表面には、横方向に延びるウェルドラインが存在していた。
【0232】
「成形条件」
金型温度:140℃
圧力:8MPa
加圧時間:3分間
【0233】
<引張試験>
図30に示すように、得られた複合材料成形品3010から4つの引張試験片D1、D2、D3、D4を切り出した。D1、D2、D3、D4はそれぞれ、図31に示すように、標線間距離l1が40mm、標線間部分の幅wが10mm、チャック間距離l2が70mm、全長l3が120mmのダンベル形状の試験片である。D1、D2、D3、D4は、複合材料成形品3010の横方向(第2方向)の一端(図30中の左端)から、各引張試験片の幅w方向の中心までの距離L1、L2、L3、L4がそれぞれ47.5mm、82.5mm、117.5mm、152.5mmとなる位置から切り出した。
D1~D4について、引張速度2mm/minで引張試験を行い、引張強度を求めた。
【0234】
<繊維配向度の測定>
引張試験後の引張試験片を、長さ方向(第1方向)に7等分し、評価サンプルとした。ここで評価サンプルの大きさは幅(第2方向)10mmで長さ(第2方向)が約16mmである。なお、7等分にした評価サンプルのうち1つは引張試験時の破断によってサンプルがさらに分割された状態にある。この場合はより大きいものを評価サンプルとした。また引張試験時の破断によって評価に供することができない程度に損傷したものについては、これは評価サンプルとはせず、当初予定していた評価サンプルの位置から第2方向に沿って両端からそれぞれ幅15mmで長さが約16mmに切り出したものを評価サンプルとした。
得られた7個または8個評価サンプルについて、以下の測定装置を用い、以下の手順で繊維配向度fを測定した。
評価サンプルに透過法でX線を照射しながら、評価サンプルを、その厚さ方向を軸に回転させ、以下の測定条件で回折X線を取り込み、i番目の回転角度(φi)における輝度(I(φi))を測定した。ただし、I(φi)は、前記式(3)で表される、積分強度が10000になるように規格化されたものとする。次いで、測定したI(φi)を用いて、前記式(2)により配向係数aを求めた。さらに、得られた配向係数aを用いて、前記式(1)により繊維配向度fを算出した。なお、前述のように引張試験時の破断によって評価に供することができない程度に損傷したものについては、両端から切り出した2つの評価サンプルについてそれぞれfを算出して、その平均値を採用することとした。
【0235】
「測定装置」
X線回折装置:Empyrean(PANalytical社製)。
【0236】
「測定条件」
スキャンレンジ(°):0.0-359.6
ステップサイズ(°):0.4
積算時間/1ステップ(s):4.0
2θ(°):25.4
電圧(kV):45
電流(mA):40
「フィルター」
Beta-filter Nickel
材質:Ni
厚み(mm):0.02
マイクロゲージ絞り(mm):2.0
【0237】
(半値全幅の算出)
7点の評価位置、つまり複合材料成形品の縦方向の一端(図30中の上端)からの距離(mm)を横軸に、繊維配向度fを縦軸にプロットし、繊維配向度fの分布を得た。得られた繊維配向度fの分布を図32Aに示す。図32Aより、評価サンプルの中央付近で繊維配向度fが高いことが分かる。
得られた繊維配向度fの分布を正規分布で近似して半値全幅を求めた。また、D1~D4の半値全幅及び引張強度それぞれについて、平均値及び標準偏差を算出した。結果を表3に示す。
【0238】
(強度保持率)
下記式により、強度保持率を算出した。結果を表3に示す。
強度保持率=(実施例31の引張強度の平均値(MPa)/金型のキャビティに対してSMCを隙間なくチャージした場合の引張強度(MPa))×100
【0239】
金型のキャビティ3020(120mm(縦)×200mm(横)×2mm(厚さ))と同じ形状のSMCを1枚配置して複合材料成形品を得て、前記と同様に引張試験を行ったところ、引張強度は約89MPaであった。この値を、金型のキャビティに対してSMCを隙間なくチャージした場合の引張強度とした。
【0240】
(外観)
得られた複合材料成形品の外観を目視で確認し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A(良好):SMCの合流部は特定できない。
B(可):SMCの合流部は特定できるが、第1方向に対して合流部の幅が目視では算出できない。
C(不可):SMCの合流部は特定でき、第1方向に対して合流部の幅が目視で算出できる。
【0241】
(実施例32)
図32Bに示すように、直角をはさむ2辺の長さが60mm(縦)×200mm(横)の直角三角形状にカットしたSMCを2枚積層した積層物3012を、金型のキャビティ3020の2か所に、直角の頂点の位置をキャビティ3020の隅に合わせてチャージしたこと以外は実施例31と同様の操作を行った。
実施例32における繊維配向度fの分布を図32Bに示す。図32A図32Bとの対比から、実施例32では、実施例31に比べて繊維配向度fの分布がブロードであることが分かる。
D1~D4の半値全幅及び引張強度、それぞれの平均値及び標準偏差、強度保持率、外観の評価結果を表3に示す。
【0242】
(実施例33)
図29Cに示すように、直角をはさむ2辺の長さが60mm(縦)×100mm(横)の直角三角形状にカットしたSMCを4枚積層した積層物3013を、金型のキャビティ3020の2か所に、直角の頂点の位置をキャビティ3020の隅に合わせてチャージしたこと以外は実施例31と同様の操作を行った。
実施例33における繊維配向度fの分布を図32Cに示す。図32B図32Cとの対比から、実施例33では、実施例32に比べてさらに繊維配向度fの分布がブロードであることが分かる。
D1~D4の半値全幅及び引張強度、それぞれの平均値及び標準偏差、強度保持率、外観の評価結果を表3に示す。
【0243】
【表3】
【0244】
実施例31~33における強度保持率は25%以上であった。
また、実施例31~33の複合材料成形品の外観は問題無いものであった。各複合材料成形品に充填不良部等は存在せず、金型のキャビティ端部までSMCが流動して硬化していた。
【産業上の利用可能性】
【0245】
本発明によれば、複合材料成形品の端部や樹脂会合部において高い繊維配向度が得られる。これにより、従来の繊維配向がランダムであるSMC成形品と比較して、良好な機械特性を持ち、反りが抑制された成形品が得ることが可能になる。
【0246】
本発明の複合材料成形品は、高い強度や耐衝撃性や軽量化を要する航空機用部材や自動車用部材等の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0247】
1 複合材料成形品
2,3,5,6,7,8 カットしたSMC
10 成形物
13 側端面
13a,13b,13c,13d 平面部
14 第1の端部
100 金型(成形金型)
【0248】
201 成形体
202 樹脂
203、203A 繊維束
2031、2031A 繊維
204 樹脂会合部
205、205A、205B、205C、205D 基材
2010a、2010b、2010c、2010d 辺
20100、20100A 金型
20101、20101A 下型
20101a 底部
20101b 壁部
20101c 凹部
20101Aa 基部
20101Ab 凸部
20102、20102A 上型
20102a 基部
20102b 凸部
20102Aa 上部
20102Ab 壁部
20102Ac 凹部
Lf、Lfa、Lsa、Lsb 長さ
Wf、Wfa、Wsa、Wsb 幅
RS1 第1領域
RS2 第2領域
RS3 第3領域
【0249】
3010 複合材料成形品
3011,3012,3013 カットしたSMCを積層した積層物
3020 金型のキャビティ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29A
図29B
図29C
図30
図31
図32A
図32B
図32C
図33A
図33B