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特許7056774蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/42 20060101AFI20220412BHJP
   B01D 3/00 20060101ALI20220412BHJP
   B01D 3/32 20060101ALI20220412BHJP
   C10G 75/02 20060101ALI20220412BHJP
   C10G 7/10 20060101ALI20220412BHJP
   C10G 7/12 20060101ALI20220412BHJP
   G01N 7/16 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B01D3/42
B01D3/00 A
B01D3/32 Z
C10G75/02
C10G7/10
C10G7/12
G01N7/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021020791
(22)【出願日】2021-02-12
(62)【分割の表示】P 2019225908の分割
【原出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094557
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辛木 景亮
(72)【発明者】
【氏名】江守 建太
(72)【発明者】
【氏名】南 宏明
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0355258(US,A1)
【文献】特開2019-090024(JP,A)
【文献】特開2000-096067(JP,A)
【文献】国際公開第2006/032620(WO,A1)
【文献】米国特許第05387733(US,A)
【文献】米国特許第07585403(US,B1)
【文献】特開平11-043677(JP,A)
【文献】特表2019-521444(JP,A)
【文献】特開2004-211050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0043340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/42
B01D 3/32
B01D 3/14
C10G 7/00- 7/12
C10G 75/00-75/04
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を測定する圧力測定部、前記蒸留塔の塔頂部温度を測定する温度測定部、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を測定する塩素測定部からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定部と、
前記測定部によって測定された測定データを含む運転データを作成する運転データ部と、
前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを作成する分析部と、
前記分析データに基づいて、前記蒸留塔に添加する差圧解消剤に関する制御データを作成する制御部とを備え、
前記測定部が前記圧力測定部である場合、前記運転データ部は、前記圧力測定部によって測定した複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成し、
前記測定部が前記温度測定部である場合、前記運転データ部は、前記温度測定部で測定した前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成し、
前記測定部が前記塩素測定部である場合、前記運転データ部は、前記塩素測定部によって測定した前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する、蒸留塔管理システムであって、
前記測定部は、少なくとも前記塩素測定部を含み、
前記運転データ部は、前記塩素測定部によって測定した前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する、蒸留塔管理システム。
【請求項2】
前記分析部は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析する、請求項1に記載の蒸留塔管理システム。
【請求項3】
前記差圧除去剤は、塩除去剤及び塩分散剤の少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の蒸留塔管理システム。
【請求項4】
蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を圧力測定部で測定する圧力測定工程、前記蒸留塔の塔頂部温度を温度測定部で測定する温度測定工程、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を塩素測定部で測定する塩素測定工程からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定工程と、
前記測定工程によって測定された測定データを含む運転データを運転データ部で作成する運転データ作成工程と、
前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを分析部で作成する分析データ作成工程とを含み、
前記測定工程が前記圧力測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記圧力測定部によって測定された複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成する差圧データ作成工程を含み、
前記測定工程が前記温度測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成する温度差データ作成工程を含み、
前記測定工程が前記塩素測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する塩素量差データ作成工程を含む、蒸留塔状態分析方法であって、
前記測定工程は、少なくとも前記塩素測定工程を含み、
前記運転データ作成は、前記塩素測定工程によって測定した前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する、蒸留塔状態分析方法。
【請求項5】
前記分析データ作成工程は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を前記分析部で分析する、請求項4に記載の蒸留塔状態分析方法。
【請求項6】
蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を圧力測定部で測定する圧力測定工程、前記蒸留塔の塔頂部温度を温度測定部で測定する温度測定工程、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を塩素測定部で測定する塩素測定工程からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定工程と、
前記測定工程によって測定された測定データを含む運転データを運転データ部で作成する運転データ作成工程と、
前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを分析部で作成する分析データ作成工程と、
前記分析データに基づいて、前記蒸留塔に添加する差圧解消剤に関する制御データを制御部で作成する制御データ作成工程とを含み、
前記測定工程が前記圧力測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記圧力測定部によって測定された複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成する差圧データ作成工程を含み、
前記測定工程が前記温度測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成する温度差データ作成工程を含み、
前記測定工程が前記塩素測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する塩素量差データ作成工程を含む、蒸留塔管理方法であって、
前記測定工程は、少なくとも前記塩素測定工程を含み、
前記運転データ作成工程は、前記塩素測定工程によって測定した前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する、蒸留塔管理方法。
【請求項7】
前記分析データ作成工程は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を前記分析部で分析する、請求項6に記載の蒸留塔管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プロセス、石油化学プロセス又は石炭化学プロセス等の蒸留設備の蒸留塔では、塩化アンモニウムに代表される中和塩の析出により、プロセスの流れが妨げられることで設備使用効率の低下が問題となっている。また、析出した塩が吸湿することにより、設備内で激しい局所腐食が発生する問題がある。蒸留塔における塩などによる閉塞は所定の部位における圧力差(以下「差圧」という。)の増大等により確認される。
このような中、塩の析出(塩析)による差圧を解消する方法として、通常、昇華運転法や、塔内への洗浄水適用法が用いられている。
昇華運転法とは、蒸留塔の温度を上昇させることで、析出した塩を昇華させ、蒸留塔頂系へ排出する運転法のことである。昇華運転により、析出した塩を塔頂部より系外へと除去することができる。
洗浄水適用法は、蒸留塔のトップリフラックスライン及びトップポンプアラウンド等へ洗浄水を供給することにより、塩の析出部位に洗浄水を供給し、塩を溶解除去する処理法である。洗浄水の供給により、短時間で差圧の解消が可能である。
例えば、非特許文献1には、蒸留塔の温度を短期的に上昇させることで析出した塩を昇華させ、蒸留塔頂系へ排出する昇華運転法が記載されている。
また、例えば、特許文献1には、炭化水素油の蒸留処理において、蒸留塔に水を導入することで、塔内の水溶性塩類を除去する炭化水素油の蒸留方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許5656152号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】GRACE DAVISION CATALAGRAM,ISSUE,2010年,No.107,p.34-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、昇華運転法及び洗浄水適用法等の塩析による差圧を解消する方法は、蒸留塔の差圧の増大が確認され、その程度が問題ある状況に達していると判断された場合に実施される。つまり、蒸留塔における異常が顕在化した後でなければ対応されることがないため、対応が後手となり、処理量低下による損失や設備腐食の進行等の状況悪化を許してしまうという問題があった。差圧の上昇が確実であると確認されるまでには、場合によっては数日~数か月を要することもあり、この間に進行した腐食により進行した腐食や腐食生成物汚れは昇華運転で対応することができない。また、腐食生成物自体が高い腐食性を有するため、水洗浄時にさらなる設備の腐食を招いてしまう恐れがある。
また、塩除去剤や分散剤等を活用することにより、析出塩による差圧や腐食リスクは低減可能であるが、析出した塩によって腐食が既に進行してしまった場合には対応できない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、蒸留塔における異常が顕在化する前に予知することができ、予防処置を講じることができる蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、蒸留塔の運転情報を入手し、運転情報の変化を分析することで異常の予兆を検知できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
(1)蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を測定する圧力測定部、前記蒸留塔の塔頂部温度を測定する温度測定部、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を測定する塩素測定部からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定部と、前記測定部によって測定された測定データを含む運転データを作成する運転データ部と、前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを作成する分析部と、前記分析データに基づいて、前記蒸留塔に添加する差圧解消剤に関する制御データを作成する制御部とを備え、前記測定部が前記圧力測定部である場合、前記運転データ部は、前記圧力測定部によって測定した複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成し、前記測定部が前記温度測定部である場合、前記運転データ部は、前記温度測定部で測定した前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成し、前記測定部が前記塩素測定部である場合、前記運転データ部は、前記塩素測定部によって測定した前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する、蒸留塔管理システム。
(2)前記分析部は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析する、(1)に記載の蒸留塔管理システム。
(3)前記差圧解消剤は、塩除去剤及び塩分散剤の少なくとも1つである、(1)又は(2)に記載の蒸留塔管理システム。
(4)蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を圧力測定部で測定する圧力測定工程、前記蒸留塔の塔頂部温度を温度測定部で測定する温度測定工程、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を塩素測定部で測定する塩素測定工程からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定工程と、前記測定工程によって測定された測定データを含む運転データを運転データ部で作成する運転データ作成工程と、前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを分析部で作成する分析データ作成工程とを含み、前記測定工程が前記圧力測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記圧力測定部によって測定された複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成する差圧データ作成工程を含み、前記測定工程が前記温度測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成する温度差データ作成工程を含み、前記測定工程が前記塩素測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する塩素量差データ作成工程を含む、蒸留塔状態分析方法。
(5)前記分析データ作成工程は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を前記分析部で分析する、(4)に記載の蒸留塔状態分析方法。
(6)蒸留塔の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を圧力測定部で測定する圧力測定工程を含む測定工程、前記蒸留塔の塔頂部温度を温度測定部で測定する温度測定工程、及び、前記蒸留塔に供給される供給塩素量と前記蒸留塔から排出される排出塩素量を塩素測定部で測定する塩素測定工程からなる群から選ばれる少なくとも1つである測定工程と、前記測定工程によって測定された測定データを含む運転データを運転データ部で作成する運転データ作成工程と、前記圧力測定部によって測定された複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを運転データ部で作成する差圧データ作成工程を含む運転データ作成工程と、前記運転データから前記蒸留塔の状態を分析し、前記蒸留塔の状態に関する分析データを分析部で作成する分析データ作成工程と、前記分析データに基づいて、前記蒸留塔に添加する差圧解消剤に関する制御データを制御部で作成する制御データ作成工程とを含み、前記測定工程が前記圧力測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記圧力測定部によって測定された複数箇所の圧力の差圧に関する差圧データを含む運転データを作成する差圧データ作成工程を含み、前記測定工程が前記温度測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データを含む運転データを作成する温度差データ作成工程を含み、前記測定工程が前記塩素測定工程である場合、前記運転データ作成工程は、前記供給塩素量と前記排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データを含む運転データを作成する塩素量差データ作成工程を含む、蒸留塔管理方法。
(7)前記分析データ作成工程は、前記差圧データから得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を前記分析部で分析する、(6)に記載の蒸留塔管理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蒸留塔における異常が顕在化する前に予知することができ、予防処置を講じることができる蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る蒸留塔管理システム及び蒸留塔設備のブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る蒸留塔管理システムにおいて、差圧データを含む運転データを用いて分析して作成した分析データの一例である。
図3】本発明の一実施形態に係る蒸留塔管理システムにおいて、温度差データを含む運転データを用いて分析して作成した分析データの一例である。
図4】本発明の一実施形態に係る蒸留塔管理システムにおいて、塩素量差データを含む運転データを用いて分析して作成した分析データの一例である。
図5】本発明の一実施形態に係る蒸留塔状態分析方法を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る蒸留塔管理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法について具体的に説明する。
【0012】
[蒸留塔管理システム]
本実施形態に係る蒸留塔管理システム1は、図1に示すように、測定部10と、運転データ部20と、分析部30と、制御部40とを備える。
蒸留塔管理システム1の構成要素は、通信ネットワーク50で接続され、通信ネットワーク50を介してデータのやり取りが行われる。通信ネットワーク50は、例えば、有線又は無線のLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、イントラネット及び専用線等である。蒸留塔管理システム1の構成要素が通信ネットワーク50で接続されていることでIoT(Internet of Things)により、遠隔制御、遠隔監視及びデータ送受信等を行うことができ、構成要素を相互に制御することを可能とする。
【0013】
<蒸留設備>
蒸留塔管理システム1は、図1に示すように、蒸留塔設備(常圧蒸留装置)100を管理するシステムであり、特に蒸留塔103の運転状態を管理するシステムである。そこで、まず蒸留塔管理システム1が管理する蒸留塔設備100について説明する。
なお、蒸留塔設備100については、1塔式の一例によるものを示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、1塔式の別の例による常圧蒸留法であっても、2塔式等による常圧蒸留法であってもよい。また、蒸留塔設備100としては、図1に示すように、サイドストリッパーのあるものでもよく、サイドストリッパーのないものであってもよい。また、蒸留塔設備100は、特に制限されることはなく、石油精製プロセス、石油化学プロセス、又は石炭化学プロセス用設備で用いることができる。また、上記一例では、トレイタイプの蒸留塔設備100を示したが、これに限定されるものではなく、充填物を使用した蒸留塔設備であってもよい。
【0014】
蒸留塔103の内部には、複数のサイドリフラックスが設けられており、例えば、図1に示すように、上から第1サイドリフラックス131、第2サイドリフラックス132及び第3サイドリフラックス133と順に設けられている。
第1サイドリフラックス131の下位側には、ライン111c及びライン116aが設けられている。ライン111cは、熱交換器111Cに接続されており、第1サイドリフラックス131で分留された留分の一部を塔内の上位へ還流する。ライン116aは、サイドストリッパー112bに接続されており、第1サイドリフラックス131で分留された留分の一部を、ライン116aを介してサイドストリッパー112bへ送る。
第2サイドリフラックス132の下位側には、ライン111b及びライン115aが設けられている。ライン111bは、熱交換器111Bに接続されており、第2サイドリフラックス132で分留された留分の一部を塔内の上位へ還流する。ライン115aは、サイドストリッパー112aに接続されており、第2サイドリフラックス132で分留された留分の一部を、ライン115aを介してサイドストリッパー112aへ送る。
第3サイドリフラックス133の下位側には、ライン111a及びライン114が設けられている。ライン111aは、熱交換器111Aに接続されており、第3サイドリフラックス133で分留された留分の一部を塔内の上位へ還流する。ライン114は、蒸留塔103の外部に接続されており、第3サイドリフラックス133で分留された留分の一部を蒸留塔103の外部へ送る。
【0015】
蒸留塔設備100において、原料油はライン102より蒸留塔103に供給され、重質油留分、重質軽油留分、軽油留分、重質ナフサ留分、ナフサ留分及びガス留分等に分留される。原料油が加熱されていない場合には加熱炉(図示せず)及び熱交換器で通常350℃程度の温度まで加熱された後、蒸留塔103に連続的に供給される。
重質油留分は、沸点が概ね350℃以上であり、塔底部で分留されライン113から取り出される。ライン113から取り出された重質油留分の一部は、熱交換器111で加熱された後、蒸留塔103内の第3サイドリフラックス133の下位側へ還流される。
重質軽油留分は、沸点が概ね240~350℃であり、ライン114から取り出される。
軽油留分は、沸点が概ね170~250℃であり、サイドストリッパー112aを介しライン115から取り出される。
重質ナフサまたは灯油留分は、沸点が概ね80~180℃であり、サイドストリッパー112bを介しライン116から取り出される。
ナフサ留分及びガス留分は、沸点が概ね35~80℃であり、蒸留塔103の塔頂部から排出される。蒸留塔103の塔頂部から排出されたナフサ留分及びガス留分は、ライン104を通り、空冷式冷却器105、熱交換器106により凝縮され、ナフサ受槽(オーバーヘッドレシーバの一例)107に集められる。このナフサ受槽107では気液が分離され、ガス留分として燃料ガス又は液化石油ガス等がライン108から取り出され、液体留分としてのナフサ留分がライン109から取り出される。また、ナフサ受槽107の最下部に溜まる水(オーバーヘッドレシーバ水)は、ナフサ受槽107の排水部110から排水される。
なお、図1において、熱交換器111,111A,111B,111Cは、温度管理の観点から、蒸留塔から分留された留分の一部を冷却し、塔内へ還流するために用いられる。
【0016】
<測定部>
測定部10は、蒸留塔103の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を測定する圧力測定部11、蒸留塔103の塔頂部温度を測定する温度測定部12、及び、蒸留塔103に供給される供給塩素量と蒸留塔103から排出される排出塩素量を測定する塩素測定部13からなる群から選ばれる少なくとも1つである。つまり、測定部10によって測定する測定データは、圧力測定部11、温度測定部12及び塩素測定部13からなる群から選ばれる少なくとも1つから得られる。
以下に、圧力測定部11、温度測定部12及び塩素測定部13について詳細に説明する。
【0017】
《圧力測定部》
圧力測定部11は、蒸留塔103の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を測定し、蒸留塔103における各箇所の圧力を取得する。圧力測定部11は、蒸留塔103の任意の箇所で圧力を測定することで、蒸留塔103内の任意の箇所の圧力を取得することができ、例えば、蒸留塔103の塔頂部での圧力、並びに、第1サイドリフラックス131、第2サイドリフラックス132及び第3サイドリフラックス133等の複数備えるサイドリフラックスの少なくともいずれかの上部又は下部圧力を取得することができる。圧力測定部11は、蒸留塔103内の圧力を直接測定する構成であってもよく、塔内圧力と相関する圧力を取得する構成であってもよい。圧力測定部11は、蒸留塔103の圧力を連続的に取得してもよく、断続的に取得してもよい。
圧力測定部11としては、例えば、歪みゲージ式の圧力センサ等を用いることができる。
また、圧力測定部11として取得する圧力は、推定値でもよい。
【0018】
《温度測定部》
温度測定部12は、好ましくは蒸留塔103の塔頂部近傍に設けられ、塔頂部温度を測定する。温度測定部12は、蒸留塔103内の温度を直接測定する構成であってもよく、塔頂部温度と相関する温度(例えば、熱交換器111B,111Cの前後の温度)を取得する構成であってもよい。温度測定部12は、蒸留塔103の塔頂部温度を連続的に取得してもよく、断続的に取得してもよい。
温度測定部12としては、例えば、熱電対等の温度センサを用いることができる。
また、温度測定部12として取得する塔頂部温度は、推定値でもよい。
【0019】
《塩素測定部》
塩素測定部13は、原料油を蒸留塔103に供給するライン102に設けられ、蒸留塔103に供給される供給塩素量を測定する。また、塩素測定部13は、ナフサ留分及びガス留分を蒸留塔103の塔頂部から排出するライン104、及び/又は、ドレン水を排出する排水部110に設けられ、蒸留塔103から排出される排出塩素量を測定する。塩素測定部13は、供給塩素量及び排出塩素量を連続的に取得してもよく、断続的に取得してもよい。
塩素測定部13としては、供給塩素量及び排出塩素量を測定することができるものであればよく、例えば、原料油及びドレン水のそれぞれから塩素量を測定する方法、及び、供給塩素量及び排出塩素量をX線分析等によって測定する方法などが挙げられる。
【0020】
<運転データ部>
運転データ部20は、測定部10によって測定した測定データを含む運転データを作成する。
測定部10が圧力測定部11である場合、運転データ部20は、蒸留塔103の部位間における差圧に関する差圧データ200を含む運転データを作成する。
差圧データ200は、圧力測定部11によって測定した蒸留塔103における部位間のそれぞれの圧力の差分を算出することで得られる。例えば、第1サイドリフラックス131における差圧データ200は、蒸留塔103の塔頂部の圧力と第1サイドリフラックス131の下部圧力を取得し、取得したこれら圧力の差分から求めることができる。
差圧データ200は、差圧を求めた個所を通過するプロセス流体量で補正した値である補正差圧であることが好ましい。
差圧データ200における推移は、連続的なデータに基づくものであってもよく、断続的なデータに基づくものであってもよい。
【0021】
測定部10が温度測定部12である場合、運転データ部20は、温度測定部12で測定した塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データ201を含む運転データを作成する。
温度差データ201は、塔頂部温度と塩析温度との差分を算出することで得られる。
なお、塩析温度は、アントワン式より算出して得ることができる。例えば、Calculations estimate process stream depositions (Oil & Gas Journal Jan 3, 1994, P.38 - 41)に準拠して算出してもよい。
【0022】
測定部10が塩素測定部13である場合、運転データ部20は、塩素測定部13で測定した供給塩素量と排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データ202を含む運転データを作成する。
塩素量差データ202は、蒸留塔103に供給される供給塩素量と蒸留塔103から排出される排出塩素量との差分を算出することで得られる。
【0023】
<分析部>
分析部30は、運転データから蒸留塔103の状態を分析し、蒸留塔103の状態に関する分析データ300を作成する。分析部30は、蒸留塔103の状態として、例えば、塩析の有無を分析する。
分析部30は、差圧データ200から得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析することができる。差圧データ200から得られる差圧推移は、単位時間あたりの差圧の変化の値によって把握してもよく、差圧データ200から得られる差圧推移をグラフ化して把握してもよい。分析部30によって、差圧データ200を含む運転データを用いて分析して作成した分析データ300の一例を図2に示す。図2は、横軸が運転日数とし、縦軸が差圧としたグラフである。つまり、図2は、差圧推移を示すグラフである。分析部30は、現在までに得られた差圧推移に基づいて、移動平均、指数平均、直線近似、非直線近似、多変量解析及びその他自由設定値の群からなる少なくとも1つを実施することで、現在までに得られた差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、差圧データ200から得られる差圧推移を示すグラフの傾きから将来の差圧の予測推移を分析する。そして、分析部30は、蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定した上限差圧に、分析して得られた予測推移が達するかについての予測を実施する。
差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析した結果、例えば、上限差圧に達することが予測される期間が運転の目的期間を超える場合、良好である「A評価」とする。「A評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様(差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量等)の変更を推奨しない。一方、差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析した結果、例えば、上限差圧に達することが予測される期間が運転の目的期間より短くなる虞がある場合は要注意である「B評価」とし、目的期間より短くなることが濃厚である場合は要対策である「C評価」とする。「B評価」又は「C評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様の変更を推奨する。
なお、将来の差圧の予測推移は、機械学習またはディープラーニングによって学習して得た結果を利用することでより精度を高めることができる。
【0024】
分析部30は、温度差データ201から得られる塔頂部温度と塩析温度との温度差推移から将来の温度差の予測推移を分析することができる。温度差データ201から得られる温度差推移は、単位時間あたりの温度差の変化の値によって把握してもよく、温度差データ201から得られる温度差推移をグラフ化して把握してもよい。分析部30によって、温度差データ201を含む運転データを用いて分析して作成した分析データ300の一例を図3に示す。図3は、横軸が運転日数とし、縦軸が温度としたグラフである。つまり、図3は、塔頂部温度と塩析温度との温度差推移を示すグラフである。分析部30は、現在までに得られた温度差推移に基づいて、移動平均、指数平均、直線近似、非直線近似、多変量解析及びその他自由設定値の群からなる少なくとも1つを実施することで、現在までに得られた温度差推移から将来の温度差の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、温度差データ201から得られる温度差推移を示すグラフの傾きから将来の温度差の予測推移を分析する。そして、分析部30は、塔頂部温度が塩析温度を下回る場合に蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定し、分析して得られた予測推移において、塔頂部温度が塩析温度を下回るかについての予測を実施する。
温度差推移から将来の温度差の予測推移を分析した結果、例えば、塔頂部温度が塩析温度を下回る予測の場合、良好である「A評価」とする。「A評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様(差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量等)の変更を推奨しない。一方、温度差推移から将来の温度差の予測推移を分析した結果、例えば、塔頂部温度が塩析温度に達する虞がある予測の場合は要注意である「B評価」とし、塔頂部温度が塩析温度に達することが濃厚である予測の場合は要対策である「C評価」とする。「B評価」又は「C評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様の変更を推奨する。
なお、将来の温度差の予測推移は、機械学習またはディープラーニングによって学習して得た結果を利用することでより精度を高めることができる。
【0025】
分析部30は、塩素量差データ202から得られる供給塩素量と排出塩素量との塩素量差推移から将来の塩素差の予測推移を分析することができる。塩素量差データ202から得られる塩素差推移は、単位時間あたりの塩素差の変化の値によって把握してもよく、塩素差データ202から得られる塩素差推移をグラフ化して把握してもよい。分析部30によって、塩素量差データ202を含む運転データを用いて分析して作成した分析データ300の一例を図4に示す。図4は、横軸が運転日数とし、縦軸が塩素量としたグラフである。つまり、図4は、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差推移を示すグラフである。分析部30は、現在までに得られた塩素量差推移に基づいて、移動平均、指数平均、直線近似、非直線近似、多変量解析及びその他自由設定値の群からなる少なくとも1つを実施することで、現在までに得られた塩素量差推移から将来の塩素量差の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、塩素量差データ202から得られる塩素量差推移を示すグラフの傾きから将来の塩素量差の予測推移を分析する。そして、分析部30は、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値以上となる場合に蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定し、分析して得られた予測推移において、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値以上となるかについての予測を実施する。
塩素差推移から将来の温度差の予測推移を分析した結果、例えば、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値を下回る予測の場合、良好である「A評価」とする。「A評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様(差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量等)の変更を推奨しない。一方、塩素差推移から将来の温度差の予測推移を分析した結果、例えば、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値に達する虞がある場合は要注意である「B評価」とし、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値に達することが濃厚である場合は要対策である「C評価」とする。「B評価」又は「C評価」の場合には、蒸留塔103の運転仕様の変更を推奨する。
なお、将来の塩素量差の予測推移は、機械学習またはディープラーニングによって学習して得た結果を利用することでより精度を高めることができる。
【0026】
<制御部>
制御部40は、分析データ300に基づいて、蒸留塔103に添加する差圧解消剤に関する制御データ400を作成する。制御データ400は、蒸留塔103に添加する差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量を含むデータである。
分析データ300において蒸留塔103の運転に支障が出る状態にならないと予測されている場合、制御部40は、蒸留塔103に添加する差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量を維持する制御データ400を作成する。一方、分析データ300において蒸留塔103の運転に支障が出る状態になると予測がある場合、制御部40は、蒸留塔103に添加する差圧解消剤の種類を変更する、及び/又は、差圧解消剤の添加量を増加する制御データ400を作成する。
制御部40は、制御データ400を差圧解消剤タンク120に送信し、制御データ400に基づいて、蒸留塔103に差圧解消剤を添加する。
なお、本発明の蒸留塔管理システム1は、制御データに基づいて蒸留塔103に差圧解消剤を添加する差圧解消剤添加部(図示せず)を備える構成であってもよい。
【0027】
差圧解消剤は、塩除去剤及び塩分散剤の少なくとも1つであることが好ましい。差圧解消剤の対象となる塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、塩化アンモニウム、水硫化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
塩除去剤は、析出した塩を中和塩にする薬剤である。塩除去剤としては、第4級アンモニウム化合物であることが好ましい。第4級アンモニウム化合物は、特に限定されないが、ヒドロキシメチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ヒドロキシメチルトリエチルアンモニウムハイドロオキサイド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、(2-ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムハイドロオキサイド、(3-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の1種又は2種以上であってよい。中でも、(2-ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、「コリンハイドロオキサイド」という。)が好ましく、コリンハイドロオキサイド単独で用いても、コリンハイドロオキサイドと他の有機アミン等のアルカリ性物質とを併用してもよい。
塩分散剤は、塩を流体に懸濁したものとして維持し、沈殿又は付着を防止する薬剤である。塩分散剤としては、例えば、国際公開第2006/032620号、米国特許第7585403号明細書及び米国特許第5387733号明細書に記載の塩分散剤を用いることができる。
【0028】
差圧解消剤を蒸留塔103に添加(注入)する位置は、特に限定されないが、析出した塩を蒸留塔103の系外に短時間に排出する観点から、常圧蒸留装置のトップリフラックスのライン(塔の最も高い位置に塔頂系より還流するプロセス流体)、トップポンプアラウンドの戻りライン(重質ナフサ,ガソリン留分に相当する留分;循環・冷却されるプロセス流体)、又はトップポンプアラウンドの抜出ライン(重質ナフサ,ガソリン留分に相当する留分;循環・冷却されるプロセス流体)に、添加(注入)することが好ましく、トップフラックスのラインがさらに好ましい。また、差圧解消剤の添加(注入)する位置は、いずれかのラインを組み合わせて、複数ラインにしてもよい。
例えば、図1において、差圧解消剤は、以下、差圧解消剤注入ライン121a、121b又は121cのいずれかのラインまたは複数のラインに対し添加(注入)することが好ましい。
差圧解消剤注入ライン121a:トップリフラックスの流体
差圧解消剤注入ライン121b:トップポンプアラウンドの戻りの流体
差圧解消剤注入ライン121c:トップポンプアラウンドの抜出の流体
注入ラインでは、プロセス流体への分散性の観点から、クイルノズルを使用することが好ましい。
【0029】
[蒸留塔状態分析方法]
本実施形態に係る蒸留塔状態分析方法は、図5に示すように、測定工程S1と、運転データ作成工程S2と、分析データ作成工程S3とを含むことを特徴とする。以下に、本実施形態に係る蒸留塔管理方法を図1及び図5を参照して説明する。
【0030】
<測定工程>
測定工程S1において、蒸留塔103の高さ方向における異なる複数箇所の圧力を圧力測定部11で測定する圧力測定工程S10、蒸留塔103の塔頂部温度を温度測定部12で測定する温度測定工程S11、及び、蒸留塔103に供給される供給塩素量と蒸留塔103から排出される排出塩素量を塩素測定部13で測定する塩素測定工程S12からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0031】
《圧力測定工程》
測定工程S1において、圧力測定工程S10を含む場合、具体的には、圧力測定部11によって、蒸留塔103の塔頂部での圧力、並びに、第1サイドリフラックス131、第2サイドリフラックス132及び第3サイドリフラックス133等の複数備えるサイドリフラックスの少なくともいずれかの下部圧力を測定する。圧力測定部11による圧力の測定方法としては、蒸留塔103内の圧力を直接測定する方法であってもよく、塔内圧力と相関する圧力を測定する方法であってもよい。圧力測定部11による圧力の測定は、蒸留塔103の圧力を連続的に測定してもよく、断続的に測定
してもよい。
圧力測定部11は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に測定した圧力を記憶させる。記憶部としては、例えば、ROM、RAM及びハードディスク等の記憶媒体を用いることができる。圧力測定部11が通信ネットワーク50で接続されていることでIoT(Internet of Things)により、遠隔制御、遠隔監視及びデータ送受信等を行うことができ、測定した圧力を利用して、蒸留塔管理システム1の構成要素が相互に情報交換することを可能とする。
【0032】
《温度測定工程》
測定工程S1において、温度測定工程S11を含む場合、具体的には、蒸留塔103の塔頂部に設けられた温度測定部12によって、蒸留塔103の塔頂部温度を測定する。温度測定部12による温度の測定方法としては、蒸留塔103内の温度を直接測定する方法であってもよく、塔頂部温度と相関する温度(例えば、熱交換器111B,111Cの前後の温度)を測定する方法であってもよい。また、温度測定部12によって取得する塔頂部温度は、推定値でもよい。温度測定部12による温度の測定は、蒸留塔103の塔頂部温度を連続的に測定してもよく、断続的に測定してもよい。
温度測定部12は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に測定した温度を記憶させる。
【0033】
《塩素測定工程》
測定工程S1において、塩素測定工程S12を含む場合、具体的には、原料油を蒸留塔103に供給するライン102に設けられた塩素測定部13によって、蒸留塔103に供給される供給塩素量を測定する。また、ナフサ留分及びガス留分を蒸留塔103の塔頂部から排出するライン104、及び/又は、ドレン水を排出する排水部110に設けられた塩素測定部13によって、蒸留塔103から排出される排出塩素量を測定する。塩素測定部13による供給塩素量及び排出塩素量の測定は、連続的に測定してもよく、断続的に測定してもよい。
塩素測定部13は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に測定した供給塩素量及び排出塩素量を記憶させる。
【0034】
<運転データ作成工程>
運転データ作成工程S2において、測定工程S1によって測定された測定データを含む運転データを運転データ部20で作成する。
【0035】
《差圧データ作成工程》
測定工程S1において圧力測定工程S10を含む場合、運転データ作成工程S2は、蒸留塔103の部位間における差圧に関する差圧データ200を含む運転データを運転データ部20で作成する差圧データ作成工程S20を含む。
具体的には、まず、運転データ部20は、記憶部に記憶されている測定工程S1で測定した圧力に関するデータを取得する。
次いで、運転データ部20は、測定工程S1で測定した蒸留塔103における部位間のそれぞれの圧力の差分を算出することで差圧データ200を作成する。このとき、運転データ部20は、差圧データ200を、差圧試算個所を通過するプロセス流体量で補正した補正差圧を差圧データ200とすることが好ましい。運転データ部20は、差圧データ200における推移を作成するに当たり、連続的なデータに基づくものであってもよく、断続的なデータに基づくものであってもよい。
運転データ部20は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した差圧データ200を記憶させる。
【0036】
《温度差データ作成工程》
測定工程S1において温度測定工程S11を含む場合、運転データ作成工程S2は、塔頂部温度と算出して得る塩析温度との温度差に関する温度差データ201を含む運転データを作成する温度差データ作成工程S21を含む。
具体的には、運転データ部20は、記憶部に記憶されている温度測定工程S11で測定した塔頂部温度に関するデータを取得する。
次いで、運転データ部20は、塩析温度を塔頂部圧力、酸(例えば、塩化物)のモル流量、塩基(アンモニア及びアミン類)のモル流量、プロセスのモル流体量及びプロセスの圧力値に基づいて算出する。なお、酸のモル流量及び塩基のモル流量は、固定値を使用してもよく、塔頂ドレン水の分析値、又はセンサ読み取り値から試算してもよい。また、プロセスのモル流体量及びプロセスの圧力値は、実機既設のセンサ読み取り値を使用することができる。
次いで、運転データ部20は、塔頂部温度と塩析温度との差分を算出することで温度差データ201を作成する。
運転データ部20は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した温度差データ201を記憶させる。
【0037】
測定工程S1において塩素測定工程S12を含む場合、運転データ作成工程S2は、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差に関する塩素量差データ202を含む運転データを作成する塩素量差データ作成工程S22を含む。
具体的には、運転データ部20は、記憶部に記憶されている塩素測定工程S12で測定した供給塩素量及び排出塩素量に関するデータを取得する。
次いで、運転データ部20は、蒸留塔103に供給される供給塩素量と蒸留塔103から排出される排出塩素量との差分を算出することで塩素量差データ202を作成する。
運転データ部20は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した塩素量差データ202を記憶させる。
【0038】
<分析データ作成工程>
分析データ作成工程S3において、運転データから蒸留塔103の状態を分析し、蒸留塔103の状態に関する分析データ300を分析部30で作成する。分析データ作成工程S3において、蒸留塔103の状態として、例えば、塩析の有無を分析部30で分析した分析データ300を作成する。
分析データ作成工程S3において、差圧データ200を含む運転データを用いて分析する場合について説明する。
まず、分析部30は、記憶部に記憶されている運転データ作成工程S2で作成された差圧データ200を含む運転データを取得する。
次いで、分析部30は、差圧データ200を含む運転データに基づいて、差圧データ200から得られる差圧推移から将来の差圧の予測推移を分析する。分析部30は、例えば、差圧データ200を含む運転データに基づいて、図2に示すような、差圧推移を示すグラフを作成し、差圧推移を示すグラフから将来の差圧の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、差圧データ200から得られる差圧推移を示すグラフの傾きから将来の差圧の予測推移を分析する。そして、分析部30は、蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定した上限差圧に、分析して得られた予測推移が達するか否かを判断し、判断結果を含んだ分析データ300を作成する。
分析部30は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した分析データ300を記憶させる。
【0039】
分析データ作成工程S3において、温度差データ201を含む運転データを用いて分析する場合について説明する。
まず、分析部30は、記憶部に記憶されている運転データ作成工程S2で作成された温度差データ201を含む運転データを取得する。
次いで、分析部30は、温度差データ201を含む運転データに基づいて、温度差データ201から得られる温度差推移から将来の温度差の予測推移を分析する。分析部30は、例えば、温度差データ201を含む運転データに基づいて、図3に示すような、温度差推移を示すグラフを作成し、温度差推移を示すグラフから将来の温度差の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、温度差データ201から得られる温度差推移を示すグラフの傾きから将来の温度差の予測推移を分析する。そして、分析部30は、塔頂部温度が塩析温度を下回る場合に蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定し、分析して得られた予測推移において、塔頂部温度が塩析温度を下回るか否かを判断し、判断結果を含んだ分析データ300を作成する。
分析部30は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した分析データ300を記憶させる。
【0040】
分析データ作成工程S3において、塩素量差データ202を含む運転データを用いて分析する場合について説明する。
まず、分析部30は、記憶部に記憶されている運転データ作成工程S2で作成された塩素量差データ202を含む運転データを取得する。
次いで、分析部30は、塩素量差データ202を含む運転データに基づいて、塩素量差データ202から得られる塩素量差推移から将来の温度差の予測推移を分析する。分析部30は、例えば、塩素量差データ202を含む運転データに基づいて、図4に示すような、塩素量差推移を示すグラフを作成し、塩素量差推移を示すグラフから将来の温度差の予測推移を分析する。具体的には、分析部30は、塩素量差データ202から得られる塩素量差推移を示すグラフの傾きから将来の塩素量差の予測推移を分析する。そして、分析部30は、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値以上となる場合に蒸留塔103の運転に支障が出る状態であると設定し、分析して得られた予測推移において、供給塩素量と排出塩素量との塩素量差が一定値以上となるか否かを判断し、判断結果を含んだ分析データ300を作成する。
分析部30は、ネットワーク50を介して記憶部(図示せず)に作成した分析データ300を記憶させる。
【0041】
[蒸留塔管理方法]
本実施形態に係る蒸留塔管理方法は、図6に示すように、測定工程S1と、運転データ作成工程S2と、分析データ作成工程S3と、制御データ作成工程S4とを含むことを特徴とする。以下に、本実施形態に係る蒸留塔管理方法を図1及び図6を参照して説明する。
なお、測定工程S1、運転データ作成工程S2及び分析データ作成工程S3は、上述した蒸留塔状態分析方法と同様であるため、記載を省略する。
【0042】
<制御データ作成工程>
制御データ作成工程S4において、分析データ300に基づいて、蒸留塔103に添加する差圧解消剤に関する制御データ400を制御部40で作成する。
具体的には、まず、制御部40は、記憶部に記憶されている分析データ作成工程S3で作成された分析データ300を取得する。
次いで、制御部40は、分析データ300において蒸留塔103の運転に支障が出る状態にならないと予測されているか否かを判断する。そして、制御部40は、分析データ300において蒸留塔103の運転に支障が出る状態にならないと予測されている場合、蒸留塔103に添加する差圧解消剤の種類及び差圧解消剤の添加量を維持する制御データ400を作成する。また、制御部40は、分析データ300において蒸留塔103の運転に支障が出る状態になると予測がある場合、蒸留塔103に添加する差圧解消剤の種類を変更する、及び/又は、差圧解消剤の添加量を増加する制御データ400を作成する。
次いで、制御部40は、制御データ400を差圧解消剤タンク120に送信し、制御データ400に基づいて、蒸留塔103に差圧解消剤を添加する。差圧解消剤は、塩除去剤及び塩分散剤の少なくとも1つであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の蒸留塔管理システム、蒸留塔状態分析方法及び蒸留塔管理方法によれば、蒸留塔における異常が顕在化する前に予知することができ、予防処置を講じることができるため、設備使用効率の向上、また、設備の長寿命化が実現できる。
【符号の説明】
【0044】
1:蒸留塔管理システム
10:測定部
11:圧力測定部
12:温度測定部
13:塩素測定部
20:運転データ部
30:分析部
40:制御部
50:通信ネットワーク
100:蒸留塔設備
102,104,108,109:ライン
103:蒸留塔
105:空冷式冷却器
106:熱交換器
107:ナフサ受槽
110:排水部
111,111A,111B,111C:熱交換器
112a,112b:サイドストリッパー
113,114,115a,116a:ライン
120:差圧解消剤タンク
121a,121b,121c:差圧解消剤注入ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6