(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20220412BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220412BHJP
C04B 7/24 20060101ALI20220412BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20220412BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220412BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20220412BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20220412BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20220412BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220412BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220412BHJP
C02F 1/66 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B09B3/00 302F
B09B3/00 ZAB
C04B7/24
C04B7/38
B01D53/14 200
B01D53/68 120
B01D53/78
B01D53/82
C02F1/44 F
C02F1/28 D
C02F1/28 F
C02F1/66 510L
C02F1/66 521B
(21)【出願番号】P 2021168960
(22)【出願日】2021-10-14
【審査請求日】2021-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 亮丞
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047374(JP,A)
【文献】特開平11-201422(JP,A)
【文献】特開平11-300310(JP,A)
【文献】特開2003-042421(JP,A)
【文献】特開2007-105692(JP,A)
【文献】国際公開第2005/009636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00-3/80
C04B 7/24
C04B 7/38
B01D 53/14
B01D 53/68
B01D 53/78
B01D 53/82
C02F 1/44
C02F 1/28
C02F 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含む混合廃棄物を、
風力選別により比重差を利用して選別する方式、形状差を利用して選別する方式、及び電線に含まれる銅線を検知して電線を選別する方式からなる群より選択される1つ以上の方式により、塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別手段と、
選別された前記塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱手段と、
前記加熱発生ガスを
直接吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる吸収・捕捉手段と、
前記吸収・捕捉手段で使用された前記吸収液から有機成分を
分離膜方式及び吸着方式からなる群より選択される1つ以上の方式で分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放
出する吸収液処理手段と、
前記吸収・捕捉手段から排出された、有機成分を含むガスを
吸着方式により無害化するガス無害化手段と
を含む廃棄物処理装置。
【請求項2】
前記選別手段で得られた前記塩素含有物(B)及び前記加熱手段で得られた前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用する請求項1に記載の廃棄物処理装置。
【請求項3】
前記ガス無害化手段として、セメント焼成炉を使用する請求項1又は2に記載の廃棄物処理装置。
【請求項4】
塩素を含む混合廃棄物を、
風力選別により比重差を利用して選別する方式、形状差を利用して選別する方式、及び電線に含まれる銅線を検知して電線を選別する方式からなる群より選択される1つ以上の方式により、塩素を含む塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別工程と、
選別された塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱工程と、
前記加熱発生ガスを
直接吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる吸収・捕捉工程と、
前記吸収・捕捉工程で使用された前記吸収液から有機成分を
分離膜方式及び吸着方式からなる群より選択される1つ以上の方式で分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放
出する吸収液処理工程と、
前記吸収・捕捉工程から排出された、有機成分を含むガスを
吸着方式により無害化するガス無害化工程と
を含む廃棄物処理方法。
【請求項5】
前記選別工程で得られた前記塩素含有物(B)及び前記加熱工程で得られた前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用する請求項4に記載の廃棄物処理方法。
【請求項6】
前記ガス無害化工程において、セメント焼成炉を使用する請求項4又は5に廃棄物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療ごみ、廃プラスチック、建築廃棄物、自動車シュレッダーダスト(ASR)、都市ごみ、等の廃棄物(これらを加工したRPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)なども含む)やこれらが混合された混合廃棄物にポリ塩化ビニル(PVC)等の塩素含有プラスチックが多量に含まれるようになった。このような廃棄物の大部分は単純に焼却されるか、埋立て処理されていた。
しかし、埋立て場不足や数々の法規制を背景にして、単純に焼却処理や埋立て処理するのではなく、廃棄物中に含まれる有効成分を回収し、熱エネルギー、原料等として再利用することが検討されている。
【0003】
例えば、塩素含有合成樹脂と廃木材を混合して250℃~350℃の温度で加熱し、塩素含有合成樹脂を熱分解させて、塩素が除去された可燃性の処理物を得ることを特徴とする塩素含有合成樹脂の脱塩素処理方法(特許文献1参照);プラスチックが熱分解生成物と固体分解残渣とに熱分解する熱分解温度にプラスチックを加熱して熱分解する熱分解工程と、固体分解残渣を熱分解温度より高い温度に加熱する加熱工程とを備えることを特徴とするプラスチックの再資源化方法(特許文献2参照);廃プラスチックを脱塩して塩化水素リッチガスを発生させる脱塩装置と、前記塩化水素リッチガスを無害化処理する脱塩ガス燃焼炉と、脱塩装置と脱塩ガス燃焼炉とを接続して、前記塩化水素リッチガスを脱塩装置から脱塩ガス燃焼炉に送る接続配管と、を備え、前記接続配管は、その内部温度が320℃~360℃の範囲に制御されることを特徴とする廃プラスチック処理装置(特許文献3参照);廃プラスチックを熱分解油化処理して油蒸気を生成させる熱分解装置と、熱分解装置からの油蒸気を導びいて蒸留するとともに生成ガスを生じさせる生成油回収塔と、生成油回収塔からの生成ガスを導びいて燃焼させる加熱装置とを備え、加熱装置と、熱分解装置および生成油回収塔のうち少なくとも一方とを排ガスダクトで接続し、加熱装置の燃焼排ガスを熱分解装置または生成油回収塔に導くことを特徴とする廃プラスチック処理装置(特許文献4参照);廃棄物を密閉容器に入れ、該容器内を脱酸素又は空気遮断状態にして約100℃~200℃に加熱することにより、前記廃棄物から水分等の成分を蒸発させて除去し、次いで約270℃~290℃に加熱して塩素系成分を除去することを特徴とする廃棄物の無害化処理方法(特許文献5参照);塩素含有プラスチック廃棄物を処理するに際し、塩素含有プラスチック廃棄物を熱分解容器に投入し、250~350℃の温度に加熱し、該プラスチックの熱分解により発生する塩化水素及び熱分解ガスを分離し、脱塩素残留物を得ることを特徴とする塩素含有プラスチック廃棄物の前処理方法(特許文献6参照)等が開示されている。
【0004】
また、廃棄物中に含まれる有効成分を、セメント製造のための、熱エネルギー、原料等として再利用することも検討されており、具体的には、例えば、廃棄物と、アルカリ金属又は/及びアルカリ土類金属を含む物質とが投入され、前記廃棄物を熱分解する熱分解炉と、該熱分解炉の排ガスをセメント焼成装置に燃料として供給する第1燃料供給路と、前記熱分解炉から排出される残渣を前記セメント焼成装置に燃料として供給する第2燃料供給路とを備えることを特徴とする廃棄物の処理装置(特許文献7参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-253037号公報
【文献】特開平8-92412号公報
【文献】特開2001-106826号公報
【文献】特開2000-176934号公報
【文献】特開平7-100196号公報
【文献】特開2000-44726号公報
【文献】特開2017-154037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~7に記載される方法では、塩素を含む廃棄物から有機成分と塩素含有物との分離が不十分であり、得られる熱エネルギーが少なかったり、また廃棄物の活用範囲も制限されていた。
本発明は、塩素含有廃棄物から効率よく熱エネルギーを取り出し、燃料負担及び設備負担を軽減することができ、また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の<1>~<6>を提供する。
<1> 塩素を含む混合廃棄物を、塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別手段と、
選別された前記塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱手段と、
前記加熱発生ガスを吸収液に通じ、有機成分及び塩化水素を吸収し、捕捉する吸収・捕捉手段と、
前記吸収・捕捉手段で使用された前記吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する吸収液処理手段と、
前記吸収・捕捉手段から排出された、有機成分を含むガスを無害化するガス無害化手段と
を含む廃棄物処理装置。
【0008】
<2> 前記選別手段で得られた前記塩素含有物(B)及び前記加熱手段で得られた前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用する<1>に記載の廃棄物処理装置。
<3> 前記ガス無害化手段として、セメント焼成炉を使用する<1>または<2>に記載の廃棄物処理装置。
【0009】
<4> 塩素を含む混合廃棄物を、塩素を含む塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別工程と、
選別された塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱工程と、
前記加熱発生ガスを吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる吸収・捕捉工程と、
前記吸収・捕捉工程で使用された前記吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する吸収液処理工程と、
前記吸収・捕捉工程から排出された、有機成分を含むガスを無害化するガス無害化工程と
を含む廃棄物処理方法。
【0010】
<5> 前記選別工程で得られた前記塩素含有物(B)及び前記加熱工程で得られた前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用する<4>に記載の廃棄物処理方法。
【0011】
<6> 前記ガス無害化工程において、セメント焼成炉を使用する<4>又は<5>に記載の廃棄物処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塩素含有廃棄物から効率よく熱エネルギーを取り出し、燃料負担及び設備負担を軽減することができ、また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0014】
<廃棄物処理装置>
本発明の廃棄物処理装置は、選別手段と、加熱手段と、吸収・捕捉手段と、吸収液処理手段と、ガス無害化手段とを含む。
選別手段は、塩素を含む混合廃棄物を、塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する手段である。以下、塩素含有物(A)を「高塩素含有物」;塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)を「低塩素含有物」と称することがある。
加熱手段は、選別手段で選別された塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る手段である。
吸収・捕捉手段は、加熱手段で得られた加熱発生ガスを吸収液に通じ、有機成分及び塩化水素を吸収し、捕捉する手段である。
吸収液処理手段は、吸収・捕捉手段で使用された吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する手段である。
ガス無害化手段は、吸収・捕捉手段から排出された、有機成分を含むガスを無害化する手段である。
本発明の廃棄物処理装置は、上記の選別手段、加熱手段、吸収・捕捉手段、吸収液処理手段及びガス無害化手段からなってもよいし、更に他の手段を含んでいてもよい。
【0015】
既述のように、従来から行われてきた廃棄物処理の手法では、塩素を含む混合廃棄物の全量を、直接加熱したり、塩素を含む混合廃棄物からの塩素含有物の分離が不十分なまま混合廃棄物が加熱されたため、加熱に必要な加熱原料の量が多い一方で、得られる熱エネルギーが少なかった。また、加熱される廃棄物に塩素を含まないポリエチレンなどの低融点プラスチックが多いと、加熱設備に粘着性のプラスチックが付着し、コーティングトラブルによる設備の安定運転が阻害される恐れがあった。
【0016】
また、塩素を含む混合廃棄物を直接セメント焼成炉等の熱エネルギーとして利用した場合、塩素がセメント原料等に含まれるアルカリ成分(Na、K)と反応し、KCl、NaClなどの低融点物質を生成する。これらがセメント焼成炉前段に設けられた余熱装置(プレヒーター)の炉壁にコーチングとして溶着し、余熱装置を閉塞させ操業停止に至る恐れがある。さらに、特にセメント製造の場合は、セメント中の塩素濃度の上限がJISで定められており、セメント焼成炉に投入される塩素の量を制限する必要があったため、塩素を含む混合廃棄物の使用量を制限せざるを得ず、塩素を含む混合廃棄物の熱エネルギーを有効に利用することが困難であった。
【0017】
これに対し、本発明の廃棄物処理装置は、最初に、選別手段により、混合廃棄物を塩素質量の多い高塩素含有物と塩素質量の少ない低塩素含有物とに選別することで、加熱分解が必要な塩素含有物を選択的に加熱することができる。その結果、加熱分解に必要な燃料、電気等の加熱源の負担を抑制することができ、加熱設備を小さくすることができる。
また、吸収・捕捉手段及び吸収液処理手段を経ることにより、設備劣化を招く塩化水素を効率よく除去し、環境負担を軽減して、セメント焼成等の熱エネルギー源となる有機成分を含むガスを効率的に取り出すことができる。更に、ガス無害化手段により、廃棄物処理の過程で生じたガスを無害化することができるため、環境負担を更に抑制することもできる。
以上の手段を経て得られる加熱残渣及び有機成分(ガス状の有機成分を含む)からは塩素が十分に取り除かれているために、セメント焼成炉等の熱エネルギーとして利用することができ、また、安定した熱量が得られる。
このように、従来に比べ、より多くの熱エネルギーを塩素含有廃棄物から効率よく取り出すことができる。また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる
以下、本発明の廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法について詳細に説明する。
【0018】
〔選別手段〕
選別手段においては、塩素を含む混合廃棄物を、塩素含有物(A)(高塩素含有物)と、塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)(低塩素含有物)とに選別する。
ポリ塩化ビニル等の塩素を含有する熱可塑性樹脂(PVC類と称する)を多く含む重量物(高塩素含有物)とPVC類の含有量が小さい軽量物(低塩素含有物)に選別する。軽量物(低塩素含有物)は塩素含有量が小さいため、次の手段(塩素を低減する加熱手段)にて加熱されることなく、そのままセメント焼成用熱エネルギー等に利用することができる。
【0019】
廃棄物処理装置が選別手段を有しないと、混合廃棄物全量を加熱手段にて加熱することとなる。その場合、PVC類に含まれる塩素を塩化水素として脱離させることはできるが、塩素を含まない樹脂に含まれる有機成分も同時に混合廃棄物から脱離するため、加熱残渣の持つ熱量は混合廃棄物に対して低減する。
PVC類の含有量が少ない軽量物(低塩素含有物)を選別手段で選別し、加熱手段での加熱を回避することにより、低塩素含有物のもつ熱エネルギーを低減させることなく、低塩素含有物をセメント焼成用熱エネルギーとして利用することができる。
【0020】
(塩素を含む混合廃棄物)
塩素を含む混合廃棄物とは、塩素を含む熱可塑性樹脂を含有する廃棄物を意味する。塩素を含む混合廃棄物は、具体的には、例えば、ASR(Auto Mobile Shredder Residue)、容器包装プラスチック、容器包装プラスチックの選別残渣、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)用原料プラスチック、建築物解体により排出されるプラスチック等が挙げられる。
【0021】
塩素を含む熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン等が挙げらる。これらは、例えば、ASR中の電線被覆、容器包装プラスチックに含まれる錠剤用パッケージ、建築物解体残渣に含まれる壁紙等として利用されている。
【0022】
塩素を含む混合廃棄物は、塩素を含まない熱可塑性樹脂、塩素を含まない熱硬化性樹脂、可燃物、油分が含浸された有機物、無機物等を含んでもよい。
塩素を含まない熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
塩素を含まない熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、エポキシ樹脂等が挙げられる。
可燃物としては、例えば、繊維くず、紙くず、木くず等の有機物の他、有機性汚泥等が挙げられる。
無機物としては、使用済み活性白土(廃白土)等が挙げられる。
【0023】
(選別方式)
高塩素含有物と低塩素含有物との選別方式は特に制限されず、比重差を利用して選別する方式、形状差を利用して選別する方式、化学組成の違いを利用して選別する方式、電線に含まれる銅線を検知して、電線(被覆樹脂としてPVCが用いられることが多い)を選別する方式等が挙げられる。これらの方式は1つのみ用いてもよいし、2つ以上を掛け合わせて選別を行ってもよい。
【0024】
比重差を利用して選別する方式としては、風力選別、湿式選別、重液選別等があり、例えば、風力選別は、ジグザグエアセパレータ、エアテーブル等の機器を用いて、高塩素含有物と低塩素含有物とを選別することができる。
【0025】
比重差と形状差を利用した揺動式選別方式の機器としては、バリスティックセパレーターが挙げられる。
風力選別と揺動式選別とを組み合わせ、エアバイブ等の機器を用いて、高塩素含有物と低塩素含有物とを選別することもできる。
【0026】
化学組成の違いを利用して選別する方式としては、センサーを用いた選別が挙げられ、例えば、近赤外線センサー付選別機、X線センサー付選別機等が用いられる。
【0027】
電線は、通常、被覆樹脂としてPVC類が用いられる。このPVC類を含む塩素含有物の選別方式として、電線に含まれる銅線を検知して、電線を選別する方式が用いられる。かかる方式では、例えば、金属センサー選別機、渦電流式選別機等が用いられる。
【0028】
以上の中でも、設備負担が小さく、簡便である観点から、比重差を利用した風力選別の方式を用いることが好ましい。また、塩素を含む熱可塑性樹脂は、他の樹脂と比べて比重が大きい観点からも、比重差を利用して選別する方式を好適に用いることができる。
選別手段で得られた塩素含有物(B)は、そのままセメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用することができる。
【0029】
〔加熱手段〕
加熱手段においては、選別された塩素含有物(A)(高塩素含有物)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る。
本手段では、選別手段で得られた高塩素含有物を加熱することにより、塩素を含む熱可塑性樹脂中の塩素を塩化水素ガスとして脱離させ、塩素を含む熱可塑性樹脂中の塩素を低減する。塩素を含む熱可塑性樹脂中の塩素を塩化水素ガスとして脱離させるために、加熱温度は、通常、300~350℃に設定される。
加熱温度が300℃以上であることで、塩素を含む熱可塑性樹脂中の塩素を塩化水素ガスとして脱離させやすく、350℃以下であることで、余計なエネルギーを用いないで済む。
このように、本発明においては、選別手段により加熱対象が最小限に選別されているため、高塩素含有物を加熱するための燃料、電気等の加熱源の負担が少なくて済み、また、加熱設備の負担も抑制することができる。
【0030】
高塩素含有物は、加熱手段を経て、加熱発生ガスと加熱残渣とに分離される。
加熱発生ガスには、塩化水素ガスの他、ガス状の有機成分(有機成分ガス)を含み得る。加熱手段で得られた加熱残渣は、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用することができる。本発明の廃棄物処理装置から生成される加熱残渣は、塩素を含まないか、塩素含有量が小さいため、他の塩素を含む原料、熱エネルギーと合わせ、セメント焼成炉への塩素投入量の調整が容易となる。
なお、本発明の廃棄物処理装置においては、選別手段で得られた塩素含有物(B)及び加熱手段で得られた加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用することができ、塩素含有物(B)と加熱残渣とのどちらか一方のみをセメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用してもよいし、両方をセメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用してもよい。
【0031】
〔吸収・捕捉手段〕
吸収・捕捉手段では、加熱発生ガスを吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる。
加熱発生ガスを吸収液に吹き込むことで、加熱発生ガスに含まれる塩素は、通常、塩化水素として吸収液に吸収され、また、吸収液に捕捉される。また、有機成分ガスが吸収液に溶解する場合は、有機成分も吸収液に吸収され、有機成分ガスが吸収液との接触により液化又は固化する場合は、吸収液の液面に油膜として、又は吸収液中に沈降物等として、吸収液に補足される。
なお、本明細書において、捕捉とは、吸収液中に溶解若しくは固形物として存在するか、あるいは吸収液面に膜を張る等して吸収液に留まることを意味し、そのうち、吸収液中に溶解して留まることを特に吸収と称する。
【0032】
吸収液は、加熱発生ガスに含まれる塩化水素ガスを塩化物イオンとして回収する観点から、水であることが好ましい。塩化水素ガスの吸収力を大きくするために、水は塩基性にしてもよいし、鉄又は鉄化合物を水に添加してもよい。
吸収液の液温は特に限定されず、室温(25℃)でもよいし、有機成分を凝縮させて捕捉するために、冷却(例えば、10℃以下)して用いてもよい。
吸収液には、塩化水素のほか、吸収液により冷却凝縮した有機成分、水溶性の有機成分が共存することとなる。
【0033】
〔吸収液処理手段〕
吸収液処理手段においては、吸収・捕捉手段で使用された吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する。
塩化物イオンと有機成分を含んだ吸収液は、そのままでは、環境基準、下水道排除基準等を満たさないことが多いため、各基準を満たすように吸収液を無害化し、吸収液に取り込まれた塩化水素を下水道に放出するか、塩酸として再利用する。
吸収液の処理は、例えば、以下の手段を用いることができる。
【0034】
(1)系外に放出する手段
吸収液のpHを基準値の範囲内(中和)に調整した後、有機成分を分離し、系外(例えば、下水道)に放出する。pH調整手段は、特に限定されないが、例えば苛性ソーダ等が用いられる。吸収液中の有機成分の濃度及び塩化水素の濃度が、求められている基準値以下となるように減少させる処理をした上で、処理済みの処理液を系外へ放流する手段である。
吸収液から有機成分を分離する手段としては、分離膜を用いて塩化水素と有機成分とを分離する分離膜方式、活性炭等に有機成分を吸着させる吸着方式等が挙げられる。これらの方式は、いずれか1つを用いてもよいし、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。
【0035】
[分離膜方式]
分離膜方式は、更に、クロスフロー方式及び全量ろ過方式に分けることができる。
クロスフロー方式は、膜面に対し、処理液を平行に流すことで、処理液中の懸濁物質、コロイド等が膜面に堆積する現象を抑制しながら有機成分等のろ過を行う方式である。
全量ろ過方式は、処理液の全量をろ過する方式である。膜面に、固形状の有機成分等が堆積した場合は、その都度、分離膜の膜面を洗浄する。
【0036】
[吸着方式]
吸着方式において、有機成分の活性炭への吸着が飽和状態になった場合は、活性炭に吸着した有機成分を過熱蒸気によって脱離し、分解(無害化)することで、活性炭を再利用することができる。有機成分を分解し無害化されたガスは大気中に放出することができる。
なお、有機成分を吸着した活性炭は、セメント焼成用の熱エネルギーに利用することもできる。
【0037】
(2)塩酸として再利用する手段
吸収液を中和したり、吸収液に鉄または鉄化合物を加えない場合は、吸収液を燃焼させ、有機成分を分解した後、燃焼により発生する塩化水素ガスを水に吸収させ塩酸として再利用する。また、吸収液に鉄または鉄化合物を加える場合は、吸収液を焙焼して酸化鉄を回収するとともに、焙焼排ガスから塩化水素を回収し再利用する。
【0038】
なお、吸収液に吸収され、捕捉される成分は、有機成分及び塩化水素に限定されず、吸収液は両者以外の成分を含んでいてもよい。
また、吸収・捕捉手段により、加熱発生ガス中の有機成分の全部、又は塩化水素の全部、あるいは両方が全て吸収液に吸収されることが望ましいが、通常、有機成分の一部は吸収液に吸収、捕捉されずにガスのまま吸収液から放出される。
【0039】
〔ガス無害化手段〕
ガス無害化手段においては、吸収・捕捉手段から排出された、有機成分を含むガスを無害化する。
既述のように、吸収液に吸収又は捕捉されなかった加熱発生ガスは、通常、有機成分を含み、塩化水素、その他の成分を含むことがある。有機成分を含むガスは、悪臭等を伴うことがあり、環境上、このままで大気へ放出することは好ましくないため、本手段により無害化する。
有機成分を含むガスの無害化は、有機成分を含むガスを活性炭フィルターに通じて、活性炭に有機成分を吸着させる吸着方式、有機成分を含むガスを燃焼する燃焼方式等により行うことができる。これらの方式は1つのみ行ってもよいし、2つ以上を組み合わせもよい。
【0040】
燃焼方式による有機成分を含むガスの燃焼には、セメント焼成炉を使用することができる。有機成分を含むガスをセメント焼成用燃焼空気として利用すれば、燃焼により有機成分の分解が行えるだけでなく、ガス無害化のための装置が不要となるため経済的である。
【0041】
具体的には、例えば、有機成分を含むガスを、セメント焼成炉の800℃以上の高温部に導き、800℃以上の温度域を、2秒以上の時間を経てセメント焼成炉燃焼ガスとともに通過し、その後、調温、調湿、除塵等の無害化処理を施されたのちに煙突から大気に放出される。
セメント焼成炉の800℃以上の高温部へ導く方法としては、吸収・捕捉手段を通過した有機成分を含むガスを直接セメント焼成炉の800℃以上の場所へ投入する方法だけでなく、セメント焼成炉の800℃以上の場所に通ずる、セメント焼成炉に付設された密閉された800℃以下のガスダクトへ投入後、800℃以下のガスダクトを経て、セメント焼成炉の800℃以上の場所に投入してもよい。
【0042】
セメント焼成炉の800℃以上の高温部としては、セメントキルンの窯前、窯尻、仮焼炉ガス入口部、三次空気ダクト(800℃以上のガス温度の場合)などがあり、800℃以上の場所へ通じる密閉された800℃以下のガスダクトとしては、三次空気ダクト(800℃以下のガス温度の場合)、キルンバーナ一次空気ダクト、AQC(エアクエンチングクーラ)吹込空気ダクト、仮焼炉バーナ一次空気ダクトなどがある。
【0043】
<廃棄物処理方法>
本発明の廃棄物処理方法は、塩素を含む混合廃棄物を、塩素を含む塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別工程と、
選別された塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱工程と、
前記加熱発生ガスを吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる吸収・捕捉工程と、
前記吸収・捕捉工程で使用された前記吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する吸収液処理工程と、
前記吸収・捕捉工程から排出された、有機成分を含むガスを無害化するガス無害化工程と
を含む。
本発明の廃棄物処理方法は、上記の選別工程、加熱工程、吸収・捕捉工程、吸収液処理工程及びガス無害化工程からなってもよいし、更に他の工程を含んでいてもよい。
本発明の廃棄物処理方法が上記の選別工程、加熱工程、吸収・捕捉工程、吸収液処理工程及びガス無害化工程を含むことで、塩素含有廃棄物から効率よく熱エネルギーを取り出し、燃料負担及び設備負担を軽減することができ、また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる。
【0044】
選別工程、加熱工程、吸収・捕捉工程、吸収液処理工程及びガス無害化工程における具体的な手法及び好ましい態様は、選別手段、加熱手段、吸収・捕捉手段、吸収液処理手段及びガス無害化手段の説明において記載した具体的な手法及び好ましい態様と同じである。
選別工程で得られた塩素含有物(B)及び加熱工程で得られた加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、セメント原料またはセメント焼成用熱エネルギーとして利用することができ、また、ガス無害化工程において、セメント焼成炉を使用することが好ましい。
【0045】
<セメント製造装置>
本発明のセメント製造装置は、セメント原料を乾燥し、粉砕して粉末原料とする乾燥粉砕手段と、該粉末原料を予熱し仮焼するサスペンションプレヒータと、予熱し仮焼された粉末原料を焼成してセメントクリンカとするロータリーキルンと、焼成されたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラとを有し、
既述の本発明の廃棄物処理装置から得られる前記塩素含有物(B)及び前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、前記粉末原料の予熱若しくは焼成用熱エネルギーとして、あるいは、セメント原料として用いるセメント製造装置である。
本発明の廃棄物処理装置を用いて廃棄物処理された塩素含有物(B)(低塩素含有物)、加熱残渣及び分離された有機成分のいずれか1つ以上をセメント製造における焼成用熱エネルギーとして用いることで、従来よりも多くの熱エネルギーを用いて、また安定した熱量で粉末原料を焼成することができる。また、低塩素含有物と加熱残渣のいずれか一方又は両方をセメント原料として用いることで、JISにより定められたセメント中塩素量基準を満たす、塩素量の少ないセメントを製造することが容易となる。
【0046】
<セメント製造方法>
本発明のセメント製造方法は、セメント原料を乾燥し、粉砕して粉末原料とする乾燥粉砕工程と、該粉末原料を予熱し仮焼する仮焼工程と、予熱し仮焼された粉末原料を焼成してセメントクリンカとする焼成工程と、焼成されたセメントクリンカを冷却する冷却工程とを有し、
既述の本発明の廃棄物処理方法から得られる前記塩素含有物(B)及び前記加熱残渣からなる群より選択される1つ以上を、前記粉末原料の予熱若しくは焼成用熱エネルギーとして、あるいは、セメント原料として用いるセメント製造方法である。
本発明の廃棄物処理方法を用いて廃棄物処理された塩素含有物(B)(低塩素含有物)、加熱残渣及び分離された有機成分のいずれか1つ以上をセメント製造における焼成用熱エネルギーとして用いることで、従来よりも多くの熱エネルギーを用いて、また安定した熱量で粉末原料を焼成することができる。また、低塩素含有物と加熱残渣のいずれか一方又は両方をセメント原料として用いることで、JISにより定められたセメント中塩素量基準を満たす、塩素量の少ないセメントを製造することが容易となる。
なお、上記「セメント製造装置」と「セメント製造方法」において、塩基含有物(B)等は本発明の廃棄物処理装置(廃棄物処理方法)から供給されるものであるが、本発明のセメント製造装置(セメント製造方法)には、上記本発明の廃棄物処理装置(廃棄物処理方法の各工程)が含まれる。
【0047】
以下、具体的な実施形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施形態は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
〔選別手段(選別工程)〕
塩素を含む混合廃棄物として、自動車シュレッダーダスト(ASR)を用意した。
混合廃棄物中の成分組成を手作業で分類して確認したところ、電線;チューブ;シート;ポリプロピレン;ポリウレタン;金属;ゴム;紙、布及び木;ポリスチレン;並びに分類不可能なものが含まれていた。このうち、電線、チューブ及びシートを、塩素を含有する熱可塑性樹脂(PVC類)として扱った。
以上のように、手選別により抽出したPVC類の質量を測定し、母集団(混合廃棄物)の質量の比として、混合廃棄物中の塩素を含有する熱可塑性樹脂(PVC類)の含有量を計算したところ、2.0質量%であった。
【0049】
選別方式として、比重差を利用した風力選別方式を利用した。風力選別機は、ジグザグエアセパレーターを使用した。その結果、重量物側に混合廃棄物の54質量%が選別され、軽量物側に混合廃棄物の46質量%が選別された。
【0050】
得られた重量物と軽量物の成分組成を手作業で分類して分析した。重量物と軽量物の下記成分の量は、混合廃棄物を100質量部に対する割合である。
重量物(高塩素含有物)には、電線が1.4質量部;チューブが0.2質量部;シートが0.1質量部;ポリプロピレンが23.3質量部;ポリウレタンが2.5質量部;金属が2.9質量部;ゴムが2.5質量部;紙、布及び木が0.4質量部;ポリスチレンが0.0質量部;並びに分類不可能なものが20.7質量部となる組成で、各成分が含まれていた。
【0051】
軽量物(低塩素含有物)には、電線が0.1質量部;チューブが0.0質量部;シートが0.2質量部;ポリプロピレンが2.3質量部;ポリウレタンが30.9質量部;金属が0.0質量部;ゴムが0.2質量部;紙、布及び木が0.1質量部;ポリスチレンが0.3質量部;並びに分類不可能なものが11.9質量部となる組成で、各成分が含まれていた。
【0052】
上記分析結果より、重量物中のPVC類の含有量は、混合廃棄物100質量部に対し、1.7質量部であり、下記計算式より混合廃棄物中85質量%のPVC類を重量物として抽出することができたことを意味する。
(1.4+0.2+0.1)/(1.4+0.2+0.1+0.1+0.2)×100=85質量%
【0053】
すなわち、風力選別方式により、塩素を含む混合廃棄物(ASR、SR)から、54質量%の高塩素含有物(混合廃棄物に含まれる全PVC類のうち85質量%のPVC類を含む)と、46質量%の低塩素含有物とに選別された。
従来であれば、次の加熱手段での加熱対象は、混合廃棄物すべてであったところ、本発明では、上記の選別手段により、次の加熱手段での加熱対象を、従来の54質量%に低減することができた。よって、燃料負担及び設備負担を従来よりも軽減することができる。
【0054】
〔加熱手段(加熱工程)〕
風力選別方式により選別された高塩素含有物のうち、電線をPVC1、チューブをPVC2、シートをPVC3とした。なお、加熱手段の検証において用いた電線はPVC1a、チューブはPVC2a、シートはPVC3aとし(表1)、後述する吸収・捕捉手段の検証において用いた電線はPVC1b、チューブはPVC2b、シートはPVC3bとし(表2)。
PVC1a~PVC3aを、管状電気炉を用いて、表1に示す加熱温度で加熱したところ、300℃以上に加熱すれば、高塩素含有物中の塩素の内、90~99%を塩化水素として脱離させることができた。加熱条件は、空気環境下で、試料約1gに対し、室温(25℃)から10℃/分で昇温し、表1に記載の加熱温度で10分間保持した。
なお、塩素脱離率は、以下のようにして測定される。
【0055】
(塩素脱離率の測定方法)
加熱前試料と、加熱後試料について、下記測定部と燃焼部を有する燃焼イオンクロマトグラフィーを用いて含有塩素量を測定した。
・測定部:イオンクロマトグラフ ICS-1600(DIONEX社製)
・燃焼部:自動試料燃焼装置 AQF-100(三菱ケミカルアナリテック社製)
【0056】
加熱前試料の含有塩素量と、加熱後試料の含有塩素量に基づき、次の計算方法により塩素脱離率を計算した。
加熱前試料は、塩素と有機成分のみで構成されているとし、塩素含有量をXA(質量部)、有機成分含有量をYA(質量部)とする。従って、加熱前試料の質量A(質量部)は、XA+YAとなり、加熱前試料中の塩素含有率は100×(XA/A)(質量%)、加熱前試料中の有機成分の含有率は100×(YA/A)(質量%)となる。
【0057】
加熱後試料は、塩素と有機成分が脱離して、残存した量であり、残存率は、加熱前試料の塩素(有機成分)のうち、加熱後の試料に残存した塩素(有機成分)の比率として計算される。つまり、塩素の残存量(加熱後試料の含有塩素量)をXB(質量部)、有機成分の残存量をYB(質量部)とすると、塩素残存率は100×(XB/XA)(質量%)、有機成分残存率は100×(YB/YA)(質量%)と計算される。
【0058】
脱離率は、加熱前試料の塩素(有機成分)のうち、加熱により脱離した塩素(有機成分)の比率として計算される。つまり、塩素脱離率は100×(XA-XB)/XA(質量%)、有機成分脱離率は100×(YA-YB)/YA(質量%)と計算される。
【0059】
【0060】
〔吸収・捕捉手段(吸収・捕捉工程)〕
高塩素含有物(PVC1b、PVC2b、及びPVC3b)及び、参考として、市販の硬質ポリ塩化ビニル(PVC101)を300℃で加熱して発生した加熱発生ガスを、水浴中に通気し、塩化水素及び有機成分(TOC;Total Organic Carbon(全有機炭素))の吸収率及び捕捉量を測定した。その結果、表2に示すとおり、95質量%以上の塩化水素を水浴(吸収液)中に吸収することができた。また、脱離した有機成分が吸収液中に捕捉されていることが分かった。
なお、塩化水素の吸収率(塩素吸収率)及び有機成分の捕捉量(TOC測定値)の測定方法は下記のとおりである。
【0061】
塩化水素の吸収率(塩素吸収率)(%)
=吸収液中塩素量(mg)/塩素脱離量(mg)×100
吸収液中の塩素量は、電位差滴定装置を用いて、吸収液中の塩素濃度を測定して求めた。電位差滴定装置として、自動滴定装置 GT-200型(三菱化学アナリティック社製)を用いた。塩素脱離量は加熱手段における塩素含有量XA(質量部)と塩素の残存量XB(質量部)との差分「XA-XB」により算出される。XAとXBの測定方法は、加熱手段における塩素脱離率の測定方法と同様の方法で測定される。
吸収液中のTOC測定値は、全有機体炭素系(TOC測定装置)を用いて、吸収液中のTOC濃度を測定しTOC量をもとめた。TOC測定装置として、全有機体炭素系TOC測定装置 TOC-L CSH(島津製作所社製)を用いた。
【0062】
〔吸収液処理手段(吸収液処理工程)〕
吸収・捕捉手段で得られた吸収液を苛性ソーダで中和した後、活性炭を用いて吸収液中の有機成分を活性炭に吸着させた。吸着後の吸収液について、吸収・捕捉手段で行った方法により、TOC測定値を求めた。結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
〔ガス無害化手段(ガス無害化工程)〕
吸収・捕捉手段を通過した有機成分を含むガスを、吸収・捕捉手段に併設したセメント焼成炉の仮焼炉入口に投入した結果、煙突出口から放出されるガスは、排ガス基準を満足することができた。
【0065】
〔まとめ〕
塩素を含む混合廃棄物について、本実施形態における選別手段により高塩素含有物と低塩素含有物とに選別した後に、既述の本実施形態における加熱手段(加熱温度は300℃)、吸収・捕捉手段、吸収液処理手段及びガス無害化手段を経過した場合(実施例)と;本実施形態における選別手段による選別を行わずに、既述の本実施形態における加熱手段(加熱温度は300℃)、吸収・捕捉手段、吸収液処理手段及びガス無害化手段を経過した場合(比較例)において得られる熱量を算出した。結果を表3に示す。
【0066】
【0067】
表3中、mwはMixed Waste(混合廃棄物)を表し、wt%-mwは混合廃棄物中の該当構成物の質量比率を表し、kJ/g-mwは混合廃棄物1g中の該当構成物の熱量を表す。
熱量減量比率は、加熱することにより、有機成分がガスとして脱離し熱量が失われる加熱前の熱量と加熱後残渣に残存した熱量の比率を表し、下記式により算出される。
熱量減量比率(%)=[加熱後発熱量(kJ/g)×加熱後質量(g)]÷[加熱前発熱量(kJ/g)×加熱前質量(g)]×100
【0068】
表3に示されるように、選別手段を行う実施例においては、軽量物として11kJ/g-mwの熱量を得ることができるが、選別手段を行わない比較例においては軽量物を含めて加熱してしまうため、この熱量を得ることができない。加熱手段を経て得られる熱量は比較例の方が多いものの、全体を通じて得られる量は、実施例が21kJ/g-mw、比較例が14kJ/g-mwであり、実施例は比較例対比、150%の熱エネルギーをセメント焼成炉(キルン)に投入することができることがわかった。
また、選別手段を行わない比較例では、軽量物を含む全ての混合廃棄物を加熱するため、実施例に比べ燃料負担及び設備負担が増した。
このように、本発明に従えば、塩素含有廃棄物から効率よく熱エネルギーを取り出すことができ、燃料負担及び設備負担を軽減することができ、また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる。
【要約】
【課題】塩素含有廃棄物から効率よく熱エネルギーを取り出し、燃料負担及び設備負担を軽減することができ、また塩素含有廃棄物の活用範囲を広げることができる廃棄物処理装置及び廃棄物処理方法を提供する。
【解決手段】塩素を含む混合廃棄物を、塩素含有物(A)と、前記塩素含有物(A)よりも塩素質量が少ない塩素含有物(B)とに選別する選別手段と、選別された前記塩素含有物(A)を加熱し、加熱残渣及び加熱発生ガスを得る加熱手段と、前記加熱発生ガスを吸収液に通じ、該吸収液に有機成分及び塩化水素を吸収させ、捕捉させる吸収・捕捉手段と、前記吸収・捕捉手段で使用された前記吸収液から有機成分を分離し、塩素を含む前記吸収液を系外に放出、または塩酸として再利用する吸収液処理手段と、前記吸収・捕捉手段から排出された、有機成分を含むガスを無害化するガス無害化手段とを含む廃棄物処理装置。
【選択図】なし