(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】情報処理装置、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20220412BHJP
A61B 6/04 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
A61B6/00 330Z
A61B6/04 309B
(21)【出願番号】P 2019024728
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】特許業務法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 毅久
(72)【発明者】
【氏名】小林 丈恭
(72)【発明者】
【氏名】小平 俊輔
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-289512(JP,A)
【文献】特開2012-035068(JP,A)
【文献】特開2017-225635(JP,A)
【文献】特開2010-051456(JP,A)
【文献】特開2008-086389(JP,A)
【文献】特開2009-291336(JP,A)
【文献】国際公開第2018/015911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の右側の乳房である右乳房または前記被検者の左側の乳房である左乳房のうちの一方である第1乳房の撮影について計測した前記第1乳房に対する圧迫力及び圧迫後の厚さである圧迫厚を取得する圧迫条件取得部と、
前記右乳房または前記左乳房のうち他方である第2乳房を撮影する場合に、前記第1乳房の圧迫力及び圧迫厚を用いて、前記第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を推定する圧迫条件推定部と、
少なくとも前記第2乳房の撮影において、前記圧迫条件推定部が推定した前記圧迫力及び前記圧迫厚を表示する表示部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記圧迫条件推定部は、圧迫力の範囲及び圧迫厚の範囲をそれぞれ推定する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記圧迫条件推定部は、圧迫力及び圧迫厚の値をそれぞれ推定する請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記圧迫条件推定部は、前記第1乳房の圧迫力と圧迫厚の入力により、前記第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を出力する学習済みモデルを用いて、前記第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を推定する請求項1~3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
被検者の右側の乳房である右乳房または前記被検者の左側の乳房である左乳房のうちの一方である第1乳房の撮影について計測した前記第1乳房に対する圧迫力及び圧迫後の厚さである圧迫厚を取得する圧迫条件取得部と、前記右乳房または前記左乳房のうち他方である第2乳房を撮影する場合に、推定した前記圧迫力及び前記圧迫厚を表示する表示部と、を有する情報処理装置を駆動する
機能と、
前記第1乳房の圧迫力と圧迫厚の入力により、前記右乳房または前記左乳房のうち他方である第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を出力する学習済みモデルを用いて、前記第2乳房の撮影における前記圧迫力及び前記圧迫厚を推定する
機能と、をコンピュータに実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を用いて被写体の乳房を撮影したマンモグラフィ画像を用いる情報処理装置、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野においては、X線等の放射線を用いて被検者の乳房を撮影するマンモグラフィ装置が普及している。マンモグラフィ装置を用いて乳がん等の検診をする場合、通常は、被検者の左右両方の乳房を撮影する。また、マンモグラフィ装置は、通常、乳房を扁平に圧迫して撮影を行う。乳房の固定する、乳腺組織の重なりを防止して乳房全体を撮影する、コントラストを向上する、及び、被曝量を低減する等のためである。なお、従来、圧迫時の圧力及びその分布に異常がある場合に、自動的に撮影を停止する乳房断層画像撮影装置(いわゆるマンモCT(computed tomography)装置)が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳房が適切に圧迫されていないと、乳腺組織の重なりが多くなり、適正な診断ができない不具合が発生する場合がある。この場合、再撮影が必要になる等、被検者等にかかる負担が大きい。
【0005】
このような撮影失敗を防止するためには、乳房を適切に圧迫して撮影をするほかないが、大きさ、厚さ、形状、及び弾力性等において乳房には個体差があるので、乳房の特性に合わせた適切な圧迫条件を見出し、乳房を適正にポジショニングすることは容易ではない。また、特定の被検者に着目しても、左右の乳房で上記のような特性に相違がある場合も多い。このため、適切な圧迫条件による乳房のポジショニングは容易でない。熟練の放射線技師または医師(以下、放射線技師等という)でなければ、困難である。特に、マンモグラフィ装置を操作する放射線技師等の熟練度が低い場合には、乳房の特性に合わせて適切な圧迫条件を見出すことが難しく、乳房のポジショニングミスによる撮影失敗が多くなりがちである。
【0006】
本発明は、乳房のポジショニングの失敗に起因する撮影失敗を低減する支援をする情報処理装置、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の情報処理装置は、被検者の右側の乳房である右乳房または被検者の左側の乳房である左乳房のうちの一方である第1乳房の撮影について計測した第1乳房に対する圧迫力及び圧迫後の厚さである圧迫厚を取得する圧迫条件取得部と、右乳房または左乳房のうち他方である第2乳房を撮影する場合に、第1乳房の圧迫力及び圧迫厚を用いて、第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を推定する圧迫条件推定部と、少なくとも第2乳房の撮影において、圧迫条件推定部が推定した圧迫力及び圧迫厚を表示する表示部と、を備える。
【0008】
圧迫条件推定部は、圧迫力の範囲及び圧迫厚の範囲をそれぞれ推定することが好ましい。
【0009】
圧迫条件推定部は、圧迫力及び圧迫厚の値をそれぞれ推定することが好ましい。
【0010】
圧迫条件推定部は、第1乳房の圧迫力と圧迫厚の入力により、第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を出力する学習済みモデルを用いて、第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を推定することが好ましい。
【0015】
本発明のプログラムは、被検者の右側の乳房である右乳房または被検者の左側の乳房である左乳房のうちの一方である第1乳房の撮影について計測した第1乳房に対する圧迫力及び圧迫後の厚さである圧迫厚を取得する圧迫条件取得部と、右乳房または左乳房のうち他方である第2乳房を撮影する場合に、推定した圧迫力及び圧迫厚を表示する表示部と、を有する情報処理装置を駆動する機能と、第1乳房の圧迫力と圧迫厚の入力により、右乳房または左乳房のうち他方である第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を出力する学習済みモデルを用いて、第2乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚を推定する機能と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の情報処理装置及びプログラムによれば、乳房のポジショニングの失敗に起因する撮影失敗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】マンモグラフィ装置の構成を示す説明図である。
【
図4】マンモグラフィ装置の作用を示すフローチャートである。
【
図6】圧迫条件推定部の学習をする学習装置のブロック図である。
【
図7】第2実施形態のコンソールの構成を示すブロック図である。
【
図9】第2実施形態のマンモグラフィ装置の作用を示すフローチャートである。
【
図11】判定部の学習をする学習装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
図1に示すように、放射線撮影装置の一例であるマンモグラフィ装置10は、放射線であるX線を用いて被検者の乳房を撮影する装置本体11と、装置本体11を制御するコンソール12と、を備える。
【0020】
装置本体11は、支柱31、X線発生部32、X線撮影部を内蔵する撮影台33、圧迫板36、及び、昇降部37等を備える。また、X線発生部32及び撮影台33は一体化されており、装置本体11において被検者に合わせた位置調整をする可動部40を構成する。
【0021】
X線発生部32は、少なくともX線を発生するX線管を含む。このため、マンモグラフィ装置10において、X線発生部32は、放射線(X線)を発生する放射線発生部である。また、X線発生部32は、X線管にX線を発生するための高電圧を供給する高電圧回路を含むことができる。すなわち、X線発生部32は、いわゆるモノタンクにより構成できる。
【0022】
撮影台33は乳房を配置するステージであり、撮影時には圧迫板36を用いて乳房を挟持する。また、撮影台33は、被検者の乳房を、放射線(X線)を用いて撮影する放射線撮影部を構成する。撮影台33は、放射線撮影部として、例えば、放射線を用いて乳房を撮影するFPD(Flat Panel Detector)等と、散乱線を除去するためのグリッド(静止型であるリスホルムブランデあるいは移動型であるブッキーブランデ)と、を含む。なお、マンモグラフィ装置10は、撮影条件に合わせて交換可能な複数種類のグリッドを有しており、かつ、グリッドを使用しない撮影も実行できる。また、撮影台33には、被検者が右手で把持する把持部34aと、被検者が左手で把持する把持部34bと、が取り付けられている。把持部34a及び把持部34bはいわゆるアームレストである。本実施形態においてはX線を使用するので、放射線撮影部は具体的にはX線撮影部である。
【0023】
圧迫板36は、撮影において、撮影台33に載せた被検者の乳房を圧迫し、扁平にする。正常な乳腺の重なりを少なくし、石灰化等の病変の候補を見つけやすくするためである。また、圧迫板36には、圧迫板36が被検者の乳房を圧迫する力(以下、圧迫力という)を検出及び出力する圧迫力センサ38が取り付けられている。このため、撮影を実行してマンモグラフィ画像を得た場合、圧迫力センサ38を用いて、マンモグラフィ装置10はその撮影における圧迫力を得ることができる。また、圧迫板36には、圧迫板36と撮影台33の距離、すなわち圧迫した乳房の厚さ(以下、圧迫厚という)を検出及び出力する圧迫厚センサ39が取り付けられている。このため、撮影を実行してマンモグラフィ画像を得た場合、圧迫厚センサ39を用いて、その撮影における圧迫厚を得ることができる。
【0024】
昇降部37は、圧迫板36を撮影台33に対して昇降する。これにより、昇降部37は、圧迫板36を撮影台33に対してほぼ平行に、かつ、乳房の厚さに応じた特定の距離に支持する。
【0025】
可動部40は、X線発生部32及び撮影台33の相対的な位置及び向きを保ったまま、所定の角度範囲内で回転自在である。このため、装置本体11は、撮影台33を水平に配置して、または、撮影台33を水平から傾斜した配置にして、撮影を行うことができる。具体的には、装置本体11は、撮影台33を水平に配置し、乳房を頭尾方向から撮影するCC撮影(頭尾方向(craniocaudal)撮影)を行うことができる。また、装置本体11は、撮影台33を傾斜して配置し、乳房を内外斜位方向から撮影するMLO撮影(内外斜位方向(mediolateral oblique)撮影)をすることができる。
【0026】
さらに、可動部40のうちX線発生部32は、撮影台33及び圧迫板36の位置を固定したまま、所定の範囲内で回動自在である。これにより、装置本体11は、いわゆるステレオ撮影及びトモシンセシス撮影を行うことができる。ステレオ撮影とは、特定の位置及び向き(例えばCC撮影の位置及び向き)に固定した被検者の乳房を、1または複数の傾斜角度が違う斜め方向から撮影し、傾斜方向からの透視画像(以下、ステレオ画像という)を得る撮影形態である。また、トモシンセシス撮影は、特定の位置及び向きに固定した被検者の乳房に対して、複数の傾斜方向から撮影した画像を用いて、被検者の乳房の断層画像(以下、トモシンセシス画像という)を得る撮影形態である。なお、圧迫力及び圧迫厚は、撮影形態によらず取得可能であり、かつ、撮影毎に取得可能である。
【0027】
コンソール12は、マンモグラフィ装置10を制御する制御装置であり、かつ、各種マンモグラフィ画像を用いて情報処理を行う情報処理装置である。
図2に示すように、コンソール12は、圧迫条件取得部51、圧迫条件推定部52、及び、表示部53を備える。
【0028】
圧迫条件取得部51は、マンモグラフィ撮影における乳房に対する圧迫力と圧迫後の乳房の厚さである圧迫厚を取得する。このため、圧迫条件取得部51は圧迫力計測部61及び圧迫厚計測部62を備える。圧迫力計測部61は、少なくとも撮影を実行した場合に、圧迫力センサ38が出力する信号を用いて、その撮影における圧迫力をリアルタイムに計測することができる。また、圧迫力計測部61は、マンモグラフィ画像に関連付けて保存された圧迫力センサ38の出力の記録を用いて、撮影後に事後的に圧迫力を計測することができる。圧迫厚計測部62は、少なくとも撮影を実行した場合に、その撮影における圧迫厚をリアルタイムに計測することができる。また、圧迫厚計測部62は、マンモグラフィ画像に関連付けて保存された圧迫厚センサ39の出力の記録を用いて、撮影後に事後的に圧迫圧を計測することができる。本実施形態においては、圧迫力計測部61は、圧迫板36が可動部40に取り付けられている間、継続的に圧迫力を計測する。同様に、本実施形態においては、圧迫厚計測部62は、圧迫板36が可動部40に取り付けられている間、継続的に圧迫厚を計測する。この結果、圧迫条件取得部51は、圧迫力及び圧迫厚の撮影条件をリアルタイムに取得する。
【0029】
本実施形態においては、圧迫条件取得部51は、被検者の右側の乳房である右乳房(以下、単に右乳房という)または被検者の左側の乳房である左乳房(以下、単に左乳房という)のうちの一方である第1乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚を取得する。すなわち、圧迫条件取得部51は、右乳房及び左乳房を同じ撮影態様でそれぞれ撮影をする場合に、先に撮影した乳房(第1乳房)の圧迫条件(圧迫力及び圧迫厚)を取得する。
【0030】
圧迫条件推定部52は、右乳房または左乳房のうち他方である第2乳房を第1乳房と同じ撮影態様で撮影する場合に、第1乳房の圧迫力及び圧迫厚を用いて、第2乳房の撮影における好適な圧迫力及び圧迫厚を推定する。例えば、右乳房のMLO撮影をした後、左乳房のMLO撮影をする場合、圧迫条件推定部52は、右乳房のMLO撮影における圧迫力及び圧迫厚を用いて、左乳房のMLO撮影をする場合に好適であると推定する圧迫力及び圧迫厚を求める。第1乳房は右乳房または左乳房のいずれでもよく、かつ、第1乳房が右乳房であるか左乳房であるかに合わせて、第2乳房は左乳房または右乳房のいずれでもよい。
【0031】
例えば、
図3に示すように、圧迫条件推定部52は、第1乳房の圧迫力である第1圧迫力71と第1乳房の圧迫厚である第1圧迫厚72の入力を受けて、第1乳房と同じ撮影態様で第2乳房を撮影する場合に推奨(あるいは許容)する圧迫力である第2圧迫力81と、第1乳房と同じ撮影態様で第2乳房を撮影する場合に推奨(あるいは許容)する圧迫厚である第2圧迫厚82と、を出力する学習済みモデル(いわゆるAI(artificial intelligence)プログラム)で構成することができる。本実施形態においては、第1圧迫力71及び第1圧迫厚72が特定の数値であるのに対し、圧迫条件推定部52が出力する第2圧迫力81は圧迫力の範囲を示す数値(例えば上限値及び下限値)であり、かつ、圧迫条件推定部52が出力する第2圧迫厚82は圧迫厚の範囲を示す数値(例えば上限値及び下限値)である。
【0032】
表示部53は、少なくとも第2乳房の撮影において、圧迫条件推定部52が推定した圧迫力及び圧迫厚を表示する。すなわち、第1乳房と同じ撮影態様で第2乳房を撮影する場合に、表示部53は第2圧迫力81及び第2圧迫厚82を表示する。これにより、マンモグラフィ装置10は、第2乳房のポジショニングを支援する。「少なくとも第2乳房の撮影において推定した圧迫力及び圧迫厚を表示する」とは、推定した圧迫力及び圧迫厚を参照して第2乳房をポジショニングすることができるタイミング(第2乳房の撮影の前または後のタイミング(特に好ましくは第2乳房のポジショニングをするタイミング))で圧迫力及び圧迫厚を提示することをいう。乳房についてポジショニングとは、乳房のうち診断をする部分(通常は乳房の全体)を撮影範囲に収めつつ、かつ、乳房の圧迫力及び圧迫厚を適正な範囲(診断に使用し得るマンモグラフィ画像が得られる範囲)内に収める調整をすることをいう。
【0033】
なお、表示部53は、圧迫力計測部61が計測した圧迫力、及び/または、圧迫厚計測部62が計測した圧迫厚を表示できる。推奨値(推奨範囲)である第2圧迫力81及び第2圧迫厚82とともに、圧迫力及び圧迫厚をリアルタイムに表示すれば、放射線技師等は推奨値(推奨範囲)に圧迫力及び圧迫厚を合わせやすくなるので、第2乳房の撮影におけるポジショニングを支援する効果が高い。
【0034】
以下、上記のように構成するマンモグラフィ装置10の作用を説明する。
図4に示すように、例えば、被検者の右乳房をMLO撮影すると(ステップS101)、圧迫力計測部61はこの撮影における圧迫力を計測し、かつ、圧迫厚計測部62はこの撮影における圧迫厚を計測する(ステップS102)。これにより、圧迫条件取得部51は、第1乳房である右乳房のMLO撮影における圧迫力及び圧迫厚(第1圧迫力71及び第1圧迫厚72)を取得する。
【0035】
右乳房のMLO撮影を終え、その後、同一被検者の左乳房をMLO撮影する場合には、圧迫条件推定部52は、上記第1圧迫力71及び第1圧迫厚72を用いて、左乳房のMLO撮影において推奨する圧迫力及び圧迫厚(第2圧迫力81及び第2圧迫厚82)を自動的に推定し(ステップS103)、表示部53はこれらを表示する(ステップS104)。例えば、
図5に示すように、表示部53は、右乳房の撮影時における実際の圧迫力及び圧迫厚と、左乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚の推奨範囲を表90の形式で表示する。
図5においては、右乳房の撮影時における実際の圧迫厚「45mm」であり、かつ、右乳房の撮影時における実際の圧迫力「100N(ニュートン)」である。また、
図5においては、左乳房の撮影における圧迫厚の推奨範囲は「40~50mm」(40mm以上50mm以下)であり、かつ、圧迫力の推奨範囲「80~120N」(80N以上120N以下)である。
【0036】
上記のように、右乳房を撮影した後、左乳房を右乳房と同じ撮影態様(本実施形態においてはMLO撮影)で撮影する場合に、マンモグラフィ装置10は、左乳房の撮影において推奨する圧迫力及び圧迫厚を推定及び表示する。この表示は左乳房のポジショニングにおいて明確な目安となるので、マンモグラフィ装置10を使用する放射線技師等は、上記表示に圧迫力及び圧迫厚が収まるように左乳房をポジショニングすることで、失敗なく左乳房の撮影を行うこととができる。すなわち、マンモグラフィ装置10によれば、ポジショニングの失敗を予防し、その結果として、ポジショニングの失敗に起因した撮影失敗を低減できる。
【0037】
なお、本実施形態においては右乳房及び左乳房のMLO撮影をしているが、マンモグラフィ装置10は、CC撮影等他の撮影態様で同一被検者の右乳房及び左乳房を撮影する場合も同様の推定及び表示ができる。また、本実施形態においては右乳房から撮影しているが、マンモグラフィ装置10は、左乳房を先に撮影する場合も同様の推定及び表示ができる。
【0038】
上記第1実施形態においては、圧迫条件推定部52は、第2乳房の撮影において推奨する圧迫力及び圧迫厚をそれぞれ範囲で推定するが、圧迫条件推定部52は、第2乳房の圧迫力及び圧迫厚をピンポイントな値(圧迫力及び圧迫厚について各1つの数値)で推定することができる。第2乳房の撮影において推奨する圧迫力及び圧迫厚を範囲で推定する場合、放射線技師等は許容し得る圧迫力及び圧迫厚を容易に把握できる点において、乳房のポジショニングがしやすくなるメリットがある。一方、第2乳房の撮影において推奨する圧迫力及び圧迫厚をピンポイントな値で推定する場合、放射線技師等は、第2乳房の撮影において目標とすべき圧迫力及び圧迫厚を容易かつ明確に把握できる点において、乳房のポジショニングがしやすくなるメリットがある。
【0039】
上記第1実施形態においては、圧迫条件推定部52はAIプログラムそのものであるが、圧迫条件推定部52は、AIプログラムそのものではなく、AIプログラムを含む構成とすることができる。例えば、圧迫条件推定部52は、第1乳房の撮影における圧迫力と圧迫厚の入力により、第2乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚を出力する学習済みモデルを用いて、第2乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚を推定することができる。このため、マンモグラフィ装置10は、例えば、圧迫条件推定部52が、コンソール12以外の装置等において動作する上記学習済みモデルを搭載する情報処理装置または解析装置等と通信し、これを用いて第2乳房の圧迫力及び圧迫厚を推定できる。なお、AIプログラムを含んでいることに変わりないので、圧迫条件推定部52がAIプログラムであるケースは、圧迫条件推定部52がAIプログラムを含むケースの一態様である。圧迫条件推定部52がAIプログラムである場合及び圧迫条件推定部52がAIプログラムを含む場合、判定精度が特に高い。
【0040】
なお、AIプログラムである圧迫条件推定部52の学習は、
図6に示す学習装置101を用いて行うことができる。学習装置101は、圧迫条件推定部52を学習(最適化)するための装置であり、学習データ取得部111と評価モデル更新部112を備える。
【0041】
学習データ取得部111は、圧迫条件推定部52の学習に使用するデータを取得する。具体的には、学習データ取得部111は、診断に使用できたマンモグラフィ画像の撮影時の圧迫力及び圧迫厚であって、同一被検者の右乳房及び左乳房を同一の撮影形態で撮影した際の圧迫力及び圧迫厚を取得する。そして、一方の乳房を撮影した際の圧迫力及び圧迫厚を説明変数とし、他方の乳房を撮影した際の圧迫力及び圧迫厚を正解ラベルとして、学習する圧迫条件推定部52に入力する。
【0042】
圧迫条件推定部52は、説明変数である圧迫力及び圧迫厚と、説明変数から目的変数を得る評価モデル(例えば特定の回帰分析モデルで用いる評価関数)を用いて、目的変数の推定値(いわゆる評価値)と、目的変数の推定値と正解ラベルの誤差を出力する。本学習において目的変数は圧迫力及び圧迫厚の範囲である。
【0043】
評価モデル更新部112は、学習中の圧迫条件推定部52が出力する目的変数の推定値と正解ラベルとの誤差を用いて、圧迫条件推定部52が評価モデルにおいて使用するパラメータの値を最適化する。最適化とは、複数の説明変数及び正解ラベルの組に対して、上記誤差を最小化するパラメータを求め、評価モデルで用いるパラメータをそのパラメータに更新することをいう。圧迫条件推定部52は、学習装置101によって上記学習を繰り返すことにより、最適化した評価モデル(学習済みモデル)となる。
【0044】
なお、上記学習装置101は、いわゆる教師あり学習をする装置であるが、教師なし学習または強化学習によって圧迫条件推定部52の学習を行うことができる。また、評価モデル及び最適化の方法も、具体的な学習態様に合わせて変更してよい。また、上記学習装置101と異なる説明変数、目的変数、及び/または、評価モデルを用いる教師あり学習によって圧迫条件推定部52を最適化してもよい。
【0045】
[第2実施形態]
上記第1実施形態及び変形例においては、推奨する圧迫力及び圧迫厚を表示することによって撮影失敗を低減するが、この代わりに、ポジショニングの可否を表示することによって撮影失敗を低減することもできる。
【0046】
この場合、例えば、
図7に示すように、コンソール12に圧迫条件推定部52の代わりに判定部201を設ける。判定部201は、右乳房の撮影について計測した圧迫力及び圧迫厚と、左乳房の撮影について計測した圧迫力及び圧迫厚と、を用いて、ポジショニングの可否を判定する。そして、表示部53は、少なくとも判定部201の判定結果であるポジショニングの可否を表示する。
【0047】
例えば、
図8に示すように、判定部201は、右乳房の圧迫力である第1圧迫力211と、右乳房の圧迫厚である第1圧迫厚212と、左乳房の圧迫力である第2圧迫力221と、左乳房の圧迫厚である第2圧迫厚222の入力を受けて、被検者の乳房(右乳房及び左乳房)の撮影における「ポジショニング可」または「ポジショニング不可」の判定結果230を出力する学習済みモデルで構成することができる。この場合、判定部201は、第1圧迫力211、第1圧迫厚212、第2圧迫力221、及び、第2圧迫厚222の組み合わせを、ポジショニング可またはポジショニング不可に分類する分類器である。
【0048】
上記のように、コンソール12に判定部201を設ける場合、
図9に示すように、例えば、被検者の右乳房をMLO撮影すると(ステップS201)、圧迫力計測部61はこの撮影における圧迫力を計測し、かつ、圧迫厚計測部62はこの撮影における圧迫厚を計測する(ステップS202)。これにより、圧迫条件取得部51は、右乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚(第1圧迫力211及び第1圧迫厚212)を取得する。その後、被検者の左乳房をMLO撮影すると(ステップS203)、圧迫力計測部61はこの撮影における圧迫力を計測し、かつ、圧迫厚計測部62はこの撮影における圧迫厚を計測する(ステップS204)。これにより、圧迫条件取得部51は、先に取得した右乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚に加えて、左乳房の撮影における圧迫力及び圧迫厚(第2圧迫力221及び第2圧迫厚222)を取得する。
【0049】
圧迫条件取得部51が上記のように左右の乳房について圧迫力及び圧迫厚を取得すると、判定部201はこれらを用いてポジショニングの可否を判定し(ステップS205)、表示部53は「ポジショニング可」または「ポジショニング不可」の判定結果を表示する(ステップS206)。例えば、
図10に示すように、表示部53は、右乳房の撮影時における実際の圧迫力及び圧迫厚と、左乳房の撮影時における実際の圧迫力及び圧迫厚と、ポジショニングの可否の判定結果と、を表235の形式で表示する。
図10においては、右乳房の撮影時における実際の圧迫厚「45mm」であり、右乳房の撮影時における実際の圧迫力「100N」であり、左乳房の撮影時における実際の圧迫厚「43mm」であり、かつ、左乳房の撮影時における実際の圧迫力「98N」である。また、
図10においては、判定部201の判定結果は、ポジショニング可である。
【0050】
上記のように、マンモグラフィ装置10がポジショニングの可否を判定し、その結果を表示することにより、撮影を失敗したまま撮影を終了してしまうことを防止し、結果として、撮影失敗を低減できる。例えば、判定結果がポジショニング不可の場合、放射線技師等は、判定結果の表示を見て、その場で直ちに左乳房及び/または右乳房の撮影をやり直すことができる。その結果、実質的に判定結果がポジショニング可であるマンモグラフィ画像だけが診断に供されることになる。このため、マンモグラフィ画像を診断に使用する段階において、乳房のポジショニングが原因の撮影失敗を低減できる。
【0051】
上記第2実施形態に示すように、表示部53は、右乳房の圧迫力及び圧迫厚と、左乳房の圧迫力及び圧迫厚と、を表示することが好ましい。判定結果がポジショニング不可の場合、その原因を把握しやすいからである。具体的には、左右の乳房の撮影時における圧迫力及び圧迫厚の表示は、放射線技師等が、右乳房の撮影をやり直すべきか、左乳房の撮影をやり直すべきか、あるいは、右乳房及び左乳房の撮影を両方ともやり直すべきかを判断する材料となるので、これらを表示すれば、ポジショニングが不可の場合でも、円滑にかつ被曝量を抑えながら再撮影を実施できる。
【0052】
上記第2実施形態においては、判定部201の判定結果が、ポジショニングが不可であることを示す判定結果である場合、表示部53は再撮影を促す表示(例えばメッセージまたは警告色等の表示)をすることが好ましい。ポジショニングが不可の場合に、より直接的に再撮影を促し、確実に撮影失敗を防ぐためである。
【0053】
上記第2実施形態においては、判定部201はAIプログラムそのものであるが、判定部201は、AIプログラムそのものではなく、AIプログラムを含む構成とすることができる。例えば、判定部201は、右乳房の圧迫力及び圧迫厚と左乳房の圧迫力及び圧迫厚の入力により、ポジショニングの可否を出力する学習済みモデルを用いて、ポジショニングの可否を判定することができる。このため、マンモグラフィ装置10は、例えば、判定部201が、コンソール12以外の装置等において動作する上記学習済みモデルと通信し、これを用いてポジショニングの可否を判定できる。なお、AIプログラムを含んでいることに変わりないので、判定部201がAIプログラムであるケースは、判定部201がAIプログラムを含むケースの一態様である。判定部201がAIプログラムである場合及び判定部201がAIプログラムを含む場合、判定精度が特に高い。
【0054】
なお、AIプログラムである判定部201の学習は、
図11に示す学習装置250を用いて行うことができる。学習装置250は、判定部201を学習(最適化)するための装置であり、学習データ取得部251と評価モデル更新部252を備える。
【0055】
学習データ取得部251は、判定部201の学習に使用するデータを取得する。具体的には、学習データ取得部251は、同一被検者の右乳房及び左乳房を同一の撮影形態で撮影した際の圧迫力及び圧迫厚と、ポジショニングの可否(マンモグラフィ画像を診断に使用できたか否か)と、を取得する。そして、左右の乳房を撮影した際の圧迫力及び圧迫厚を説明変数とし、ポジショニングの可否を正解ラベルとして、学習する判定部201に入力する。
【0056】
判定部201は、説明変数である圧迫力及び圧迫厚と、説明変数から目的変数を得る評価モデル(例えば特定の回帰分析モデルで用いる評価関数)を用いて、目的変数を推定する評価値と、評価値の誤差(許容し得る誤差の範囲)を出力する。本学習において目的変数はポジショニング可またはポジショニング不可の分類である。
【0057】
評価モデル更新部252は、学習中の判定部201が出力する評価値及びその誤差と、正解ラベルを用いて、判定部201が評価モデルにおいて使用するパラメータの値を最適化する。このため、判定部201は、学習装置250によって上記学習を繰り返すことにより、最適化した評価モデル(学習済みモデル)となる。
【0058】
なお、上記学習装置250は、いわゆる教師あり学習をする装置であるが、教師なし学習または強化学習によって判定部201の学習を行うことができる。また、評価モデル及び最適化の方法も、具体的な学習態様に合わせて変更してよい。また、上記学習装置250と異なる説明変数、目的変数、及び/または、評価モデルを用いる教師あり学習によって判定部201を最適化してもよい。
【0059】
なお、上記各実施形態及び変形例等においては、圧迫力を使用しているが、圧迫力の代わりに、あるいは圧迫力に併せて、圧迫板36が乳房を圧迫する圧力(圧迫圧)のデータを使用、推定、及び/または表示できる。
【0060】
また、圧迫条件推定部52は、圧迫力及び/または圧迫厚に代えて、あるいは圧迫力及び/または圧迫厚とともに、乳房の大きさ、形状、及び/または硬さ(弾力性)等の乳房に係る情報の入力を得て、推奨する圧迫条件を出力することができる。同様に、判定部201は、圧迫力及び/または圧迫厚に代えて、あるいは圧迫力及び/または圧迫厚とともに、乳房の大きさ、形状、及び/または硬さ(弾力性)等の乳房に係る情報の入力を得て、ポジショニングの可否を判定できる。このように、乳房に係る情報を考慮すれば、推定及び判定の精度が向上する。
【0061】
また、圧迫条件推定部52は、乳房の圧迫力及び/または圧迫厚に代えて、あるいは乳房の圧迫力及び/または圧迫厚に加えて、生体情報の入力を得て、推奨する圧迫条件を出力することができる。生体情報とは、例えば、被検者の身長、体重、年齢、または、乳房の特性を変化させる要因になる病気もしくは処置の有無等である。また、生体情報には、人種、または、被検者の居住等している地域(国、県、州、もしくは地方等)の情報を含むことができる。人種等によって乳房の特性が異なる場合があるので、上記のように生体情報を考慮することで推定精度が向上する。同様に、判定部201は、乳房の圧迫力及び/または圧迫厚に代えて、あるいは乳房の圧迫力及び/または圧迫厚に加えて、上記生体情報の入力を得て、ポジショニングの可否を判定できる。このように生体情報を考慮することで、判定部201の判定精度が向上する。
【0062】
なお、上記各実施形態及び変形例等においては、コンソール12が情報処理装置として機能するが、コンソール12と連携する別の情報処理装置(解析装置として機能するコンピュータ等)が上記コンソール12の情報処理装置としての機能を有していてもよい。また、上記各実施形態及び変形例等におけるコンソール12の情報処理装置としての機能は、装置本体11が有していてもよい。上記各実施形態及び変形例等におけるコンソール12の情報処理装置としての機能が、コンソール12または装置本体11にある場合、マンモグラフィ装置10の全体が情報処理装置として機能する。この他、上記各実施形態及び変形例等におけるコンソール12の情報処理装置としての機能は複数の装置(複数のコンピュータ等)に分散して実装することができる。
【0063】
上記実施形態等において、圧迫条件取得部51、圧迫力計測部61、圧迫厚計測部62、圧迫条件推定部52、学習データ取得部111、評価モデル更新部112、判定部201、学習データ取得部251、及び、評価モデル更新部252といった各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウエア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)、FPGA (Field Programmable Gate Array) などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、各種の処理を実行するために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0064】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合せ(例えば、複数のFPGA、CPUとFPGAの組み合わせ、またはCPUとGPUの組み合わせ等)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウエアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0065】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた形態の電気回路(circuitry)である。
【符号の説明】
【0066】
10 マンモグラフィ装置
11 装置本体
12 コンソール
31 支柱
32 X線発生部
33 撮影台
34a 把持部
34b 把持部
36 圧迫板
37 昇降部
38 圧迫力センサ
39 圧迫厚センサ
40 可動部
51 圧迫条件取得部
52 圧迫条件推定部
53 表示部
61 圧迫力計測部
62 圧迫厚計測部
71 第1圧迫力
72 第1圧迫厚
81 第2圧迫力
82 第2圧迫厚
90 表
101 学習装置
111 学習データ取得部
112 評価モデル更新部
201 判定部
211 第1圧迫力
212 第1圧迫厚
221 第2圧迫力
222 第2圧迫厚
230 判定結果
235 表
250 学習装置
251 学習データ取得部
252 評価モデル更新部
S101~S206 動作ステップ